JP2005013273A - 血糖値測定装置 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】温度測定方式による無侵襲血糖値測定値を血中酸素飽和度と血流量で補正し、さらに血中酸素飽和度を妨害物質の影響を考慮することにより測定データの安定化を図る。
【選択図】 図3
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、採血せずに生体中のグルコース濃度を測定する無侵襲血糖値測定方法及び装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
Hilsonらは、糖尿病患者にグルコースを静脈注射すると、その後に顔面及び舌下温度が変化することを報告している(非特許文献1)。Scottらは、糖尿病患者と体温調節の問題を論じている(非特許文献2)。これらの研究知見に基づき、Choらは、採血を伴わずに、温度測定によって血中グルコース濃度を求める方法及び装置を提案している(特許文献1,2)。
【0003】
また、採血を伴わないグルコース濃度の算出に関してはさらに様々な試みがなされている。例えば、測定部位へ3つの波長の近赤外光を照射して透過光強度を検出するとともに生体温度を検出し、吸光度の2次微分値の代表値を求め、予め定めた基準温度からの生体温度のずれに対応して上記代表値を補正し、補正された代表値に相当する血糖濃度を求める方法が提案されている(特許文献3)。また、測定部位において生体温度をモニタしながら加熱もしくは冷却を行い、温度が変化する瞬間に光照射に基づく減光度を測定して、減光度の温度依存性の原因となっているグルコース濃度を測定する装置が提供されている(特許文献4)。また、参照光と試料に照射した後の透過光との出力比を取り、出力比の対数と生体の温度との1次式からグルコース濃度を算出する装置が報告されている(特許文献5)。
【0004】
また、補正を加え精度良くグルコース濃度を求める方法として、複数の異なる現象、例えば赤外吸収、散乱、ポラリメトリーなどの検出結果を利用して、グルコース濃度を求める方法が提案されている(特許文献6)。また、光学測定系において、グルコース以外の他成分物質の影響を取り除き、補正を加え測定する方法が提案されている(特許文献7)。他成分物質の影響除去はグルコースだけでなく様々な物質を測定する場合でも考案され、例えば人体の酸素消費量や酸素含有量を測定するときの他成分物質の影響除去方法が提案されている(特許文献8)。
【0005】
【非特許文献1】
Diabete & Metabolisme, ”Facial and sublingual temperature changes following intravenous glucose injection in diabetics” by R.M. Hilson and T.D.R. Hockaday, 1982, 8, 15−19
【非特許文献2】
Can. J. Physiol. Pharmacol., ”Diabetes mellitus and thermoregulation”, by A.R. Scott, T. Bennett, I.A. MacDonald, 1987, 65, 1365−1376
【特許文献1】
米国特許第5,924,996号公報
【特許文献2】
米国特許第5,795,305号公報
【特許文献3】
特開2000−258343号公報
【特許文献4】
特開平10−33512号公報
【特許文献5】
特開平10−108857号公報
【特許文献6】
特表2001−524342号公報
【特許文献7】
特開平10−325794号公報
【特許文献8】
特表2003−517342号公報
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
血液中のグルコース(血糖)は細胞内でグルコース酸化反応に使われ、生体の維持に必要なエネルギーを産生する。特に基礎代謝の状態においては、産生されたエネルギーの大部分は体温を維持するための熱エネルギーとなるのであるから、血中グルコース濃度と体温との間には何らかの関係があることは予想されるところではある。しかし、病気による発熱を考えれば明らかなように、体温は血中グルコース濃度以外の要因によっても変動する。従来、採血を伴わずに温度測定によって血中グルコース濃度を求める方法が提案されてはいたが、十分な精度を有するものとは言い難かった。
【0007】
また、近赤外線などの透過光強度からグルコース濃度を求める方法も考案されているが、近赤外線の吸収ピークの帰属が明確でないため、正確な分析を行うことが難しい。この問題を解決するために、光学測定系においては妨害物質の除去を目的とした補正手法が提案されているが、十分な精度を有し実用に耐えるものとは言い難かった。
【0008】
本発明は、被験者の温度データをもとに採血を伴わずに高精度で血中グルコース濃度を求める方法及び装置を提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
血糖は、血管系、特に毛細血管によって全身の細胞に供給されている。ヒトの体内には複雑な代謝経路が存在するが、グルコース酸化は、根源的には血糖と酸素が反応し、水と二酸化酸素とエネルギーを産生する反応である。ここでいう酸素とは血液から細胞へ供給される酸素であり、酸素供給量は血液中のヘモグロビン濃度と、ヘモグロビン酸素飽和度と、血流量によって決まる。一方、グルコース酸化によって体内で産生した熱は、対流、熱輻射、伝導等の形で体から奪われる。我々は、体温は体内でのグルコース燃焼によるエネルギー産生量、すなわち熱産生とこれら熱放散のバランスによって決まると考え、次のようなモデルを考えた。
(1) 熱産生量と熱放散量とは同等視される。
(2) 熱産生量は、血中グルコース濃度と酸素供給量の関数である。
(3) 酸素供給量は、血中ヘモグロビン濃度と、血中ヘモグロビン酸素飽和度と、毛細血管内の血流量によって決まる。
(4) 熱放散量は、主に熱対流と熱輻射とによって決まる。
【0010】
このモデルに従い、体表を熱測定し、同時に血液中の酸素濃度に関するパラメータ及び血流量に関するパラメータを測定し、これらの測定結果を用いて血糖値を高精度に求めることができることを見出し、本発明を完成した。一例として、上記パラメータを求めるための測定は、ヒトの体の一部、例えば指先を測定対象として行うことができる。対流と輻射に関するパラメータは指先を熱測定することにより求めることができる。血中ヘモグロビン濃度および血中ヘモグロビン酸素飽和度に関するパラメータは、基本的には血液中のヘモグロビンを分光学的に測定し、酸素と結合しているヘモグロビンと結合していないヘモグロビンの比率により求めることができるが、分光測定には妨害物質の影響が出るため、この妨害物質を補正することが必要である。ヒトの体の一部を分光測定する場合の、主要な妨害物質である血液中のビリルビン、濁り及び表皮のメラニン色素、皮膚の厚さ、皮膚の表面粗さを測定し、これらの影響を補正することができる。血流量に関するパラメータは、皮膚からの熱移動量を測定することにより求めることができる。
【0011】
本発明による血糖値測定装置は、一例として、(1)体表面に由来する複数の温度を測定し、体表面からの熱放散に関する対流伝熱量と輻射伝熱量との算出に用いる情報を得る熱量測定部と、(2)血流量に関する情報を得る血流量測定部と、(3)少なくとも3つの異なる波長の光を発生する光源と、光源からの出射光を体表面に照射するための光学系と、体表面へ照射した後の光を検出する少なくとも3つの異なる光検出器とを有し、血中のヘモグロビン濃度・ヘモグロビン酸素飽和度を得るための光学測定部と、(4)前記複数の温度、血流量、血中のヘモグロビン濃度及びヘモグロビン酸素飽和度に各々対応するパラメータと血糖値との関係を記憶した記憶部と、(5)熱量測定部、血流量測定部及び光学測定部から入力される複数の測定値を前記パラメータへ各々変換し、そのパラメータを記憶部に記憶した関係に適用して血糖値を演算する演算部と、(6)演算部によって算出された血糖値を表示する表示部とを備える。光検出器としては、体表面からの反射光を検出する第1の光検出器と、体表面による散乱光を検出する第2の光検出器と、体表面から皮膚内部に侵入し再び体表面から出射する光を検出する第3の光検出器とを備える。光学測定部では、3波長以上、好ましくは5波長を用いて、ビリルビン、血液の濁り、メラニン色素、皮膚表面粗さ、皮膚厚さの影響を補償して、血中のヘモグロビン濃度及びヘモグロビン酸素飽和度を測定する。
【0012】
本発明による血糖値測定装置は、他の例として、環境温度を測定する環境温度検出器と、体表面が接触する体表面接触部と、体表面からの輻射熱を測定する輻射温度検出器と、体表面接触部に隣接する隣接温度検出器と、体表面接触部から離れた位置の温度を検出する間接温度検出器と、体表面接触部と間接温度検出器とをつなげる熱伝導部材と、810nm、950nmと第3の波長との、少なくとも3つの異なる波長の光を発生する光源と、光源からの出射光を体表面に照射するための光学系と、体表面へ照射した後の光を検出する少なくとも3つの異なる光検出器と、環境温度検出器と、輻射温度検出器と、隣接温度検出器と、間接温度検出器及び前記少なくとも3つの異なる光検出器との各々の出力と血糖値との関係を記憶した記憶部と、前記各々の出力を用いて、記憶部に記憶された関係に適用して血糖値を算出する演算部と、演算部によって算出された血糖値を表示する表示部とを有する。
本発明によると、無侵襲測定でありながら従来の侵襲法と変わらない精度で血糖値を求めることが可能になる。
【0013】
【発明の実施の形態】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
最初に、前記モデルの具体化について説明する。熱放散量について考えると、その主要な要因である対流熱伝達は、環境温度(室温)と体表温の間の温度差が関係し、他の主要な要因である輻射による熱放散量はシュテファン・ボルツマンの法則より体表温の4乗に比例する。従って、人体からの熱放散量には、室温と体表温が関係していることが分かる。一方、熱産生量に関係するもう一つの要因である酸素供給量は、ヘモグロビン濃度と、ヘモグロビン酸素飽和度と、血流量の積として表される。
【0014】
ここで、ヘモグロビン濃度は、酸素結合型ヘモグロビンと還元(脱酸素)型ヘモグロビンのモル吸光係数が等しくなる波長(等吸光波長)の吸光度より基本的には測定できる。ヘモグロビン酸素飽和度は、上記の等吸光波長の吸光度と、酸素結合型ヘモグロビンと還元(脱酸素)型ヘモグロビンのモル吸光係数の比が既知の最低限他の1波長の吸光度を測定し、連立方程式を解くことにより基本的には測定できる。しかし、正確にヘモグロビン濃度とヘモグロビン酸化飽和度を吸光度から求めるためには、妨害成分の影響を補正しなければならない。ここで吸光度に影響を与える妨害成分は、皮膚表面の粗さと、皮膚(表皮)の厚さと、皮膚の色と、血液中に含まれる妨害成分である。これら妨害成分の測定は、種々の方法で測定することが可能であるが、その測定方法の一例を以下に示す。
【0015】
まず、皮膚表面の粗さは、皮膚表面の反射光(鏡面反射光)と散乱光を比較する方法がある。皮膚表面が鏡面のように滑らかであった場合は反射光が強くなり、散乱光はほとんど観測されない。逆に皮膚表面粗さが大きい場合は、反射光と散乱光の差が小さくなる。検出された反射光と散乱光の比を取ることによって、皮膚表面粗さを推定することができる。
【0016】
次に、皮膚の厚さは、皮膚に光を当てた箇所から、ある距離dだけ離れた箇所まで皮膚内部を伝達した光だけの強度を測定する方法がある。図1は、皮膚表面に連続光を照射した場合の光のふるまいを示したものである。ある波長、強度の光を照射したとき、照射された光は皮膚表面で反射・散乱する。一部の光は皮膚内部に入り、散乱・拡散を繰り返す。このような光のふるまいの中で、ある距離dへ伝達される光の侵入深さは波長に応じてほぼ一定となる。皮膚は血液を含まないので流動性が低く、そのため吸光度が小さくなり、真皮は血液を含むため流動性が高くなり、吸光度が大きくなる。よって、皮膚の厚さが薄いときは、より深く真皮に光が侵入するため吸光度が大きくなり、逆に皮膚の厚さが厚いときは、真皮を通る距離が短くなるため吸光度が小さくなる。ある距離dを伝達した光だけを検出した強度と、厚さが既知の標準物質につき同様に伝達した光を検出した際の強度との比を取ることによって、皮膚厚さを推定することができる。
次に、皮膚の色は、メラニン色素の吸収スペクトルから得ることができる。
【0017】
最後に、血液に含まれる妨害成分は、大きく2つがあり、一つは黄疸症状の原因物質であるビリルビンであり、もう一つは高脂血症の原因物質である濁りである。これらの濃度もビリルビンと濁りの吸収スペクトルから得ることができる。
【0018】
すなわち、ヘモグロビン濃度とヘモグロビン酸素飽和度は、酸素結合型ヘモグロビン濃度と還元型ヘモグロビンとのモル吸光係数の比が等しいかもしくは既知の少なくとも2つの波長と、メラニン色素と、ビリルビンと、濁りとのモル吸光度が既知の3つの波長との組合せによる吸光度測定を行うことにより得ることができる。測定は、反射光を主に検出する反射光検出器と、散乱光を主に検出する散乱光検出器と、伝達光を検出する伝達光検出器との少なくとも3つの検出器によって行う。
【0019】
なお、反射光検出器は、体表面で反射される反射光を主に検出するとともに、体の内部を伝達して体表面から再度出射する散乱光の一部を検出し得る。これにより、検出された反射光と散乱光の比を取り、皮膚表面粗さを推定することができる。また、散乱光検出器は、体の内部を伝達して体表面から再度出射する散乱光を主に検出するとともに、体表面で反射される反射光の一部を検出し得る。これによりヘモグロビン濃度とヘモグロビン酸素飽和度と、メラニン色素、ビリルビン、及び濁りのうち任意のものに関する適切な吸光度測定を行うことができる。さらに、伝達光検出器については、伝達光以外の光、すなわち反射光と散乱光に由来する光の検出を防ぐため、伝達光検出器までの伝達光の通路を遮光する。これにより、伝達光のみを検出し、皮膚厚さを推定することができる。検出にあたって、反射光検出器と、散乱光検出器と、伝達光検出器とを各々少なくとも1つずつ、合計で少なくとも3つの検出器を用いる。ここで、波長の種類に応じた高い検出感度を有し、かつ同様の機能を有する検出器をさらに加えて用いてもよい。また、必要に応じ、検出部位を透過した光の検出を行う透過光検出器を加えてもよい。その場合、血液の脈動を捉えることにより、測定精度を高めることができる。
【0020】
また、本明細書に記載した波長の値は、モル吸光係数が等しくなる波長での吸光度を得る場合や、吸光度のピークを得る場合等、各々目的とする吸光度を得るために最も適当な値を記載したものである。従って、本明細書に記載した波長の他、その周辺の波長等を使用しても、同様の計測が可能である。
残るのは血液の流量である。血流量は種々の方法で測定することが可能であるが、その測定方法の一例について以下に説明する。
【0021】
図2は、ある程度の熱容量を有する固体ブロックを体表面に一定時間接触してから離したときの、体表面からブロックへの熱移動を説明するモデル図である。ブロックの材質はプラスチック等の樹脂、例えば塩化ビニルとすることができる。ここでは、ブロックの体表面と接触した部分の温度T1の時間変化と、ブロック上の体表面から離れた位置における温度T2の時間変化に着目する。血流量は主に温度T2(ブロック上の空間的に離れた点の温度)の時間変化を追跡することで推定することができる。以下に詳細を説明する。
【0022】
ブロックが体表面と接触する前には、ブロックの2点の温度T1,T2は室温Trに等しい。体表温Tsが室温Trより高い場合、ブロックが体表面と接触すると、温度T1は皮膚からの熱移動によって速やかに上昇し、体表面温度Tsに近づく。一方、温度T2は、ブロック内を伝導してきた熱がブロック表面から放熱されるため、T1よりも減衰され、かつ穏やかに上昇する。温度T1,T2の時間変化は、体表面からブロックへの熱移動量に依存する。体表面からブロックへの熱移動量は、皮膚下を流れる毛細血管中の血流量に依存する。毛細血管を熱交換器とみなせば、毛細血管から周囲の細胞組織への熱伝達係数は、血流量の関数として与えられる。従って、温度T1,T2の時間変化を追跡することによって、体表面からブロックへの熱移動量を測定すれば、毛細血管から細胞組織への熱伝達量を推定でき、これから血流量を推定することが出来る。従って、T1,T2の温度変化を時間的に追跡することによって、体表面からブロックへの熱移動量を測定すれば、毛細血管から細胞組織への熱伝達量を推定でき、これから血流量を推定することが出来る。
【0023】
図3は、ブロックにおける体表面と接触した部分の温度T1、および体表面接触位置から離れたブロック上の位置の温度T2の測定値の時間変化を示す図である。ブロックを体表面に接触させるとT1測定値は速やかに立ち上がり、離すと緩やかに立ち下がる。
【0024】
図4には輻射温度検出器によって測定した温度T3の測定値の時間変化を示す。温度T3としては体表面からの輻射による温度を測定するので、他のセンサよりも温度変化に対して敏感に反応する。輻射熱は電磁波として伝播するものであるから、瞬時に温度変化を伝えることができるものである。そこで、例えば、後述する図8に示すように、輻射温度検出器を体表面からの輻射熱を検出するべくブロックと体表面接触位置の近傍に設定すれば、温度T3の変化からブロックと体表面との接触開始時刻tstartおよび接触終了時刻tendを検出することができる。例えば、図4に示すように温度しきい値を設定し、温度しきい値を超えたときを接触開始時刻tstart、温度しきい値から下がったときを接触終了時刻tendとする。温度しきい値は、例えば32℃等の温度に設定する。
【0025】
つづいて、時刻tstartと時刻tendの間のT1測定値をS字曲線、例えばロジスティック曲線で近似する。ロジスティック曲線は温度をT、時刻をtとして、下記の式で表される。
【0026】
【数1】
【0027】
非線形最小二乗法により係数a,b,c,dを求めることで測定値を近似することができる。求めた近似式に対して、Tを時刻tstartから時刻tendで積分した値をS1とする。
【0028】
同様にして、T2測定値から積分値S2を算出する。このとき、(S1−S2)が小さいほど、指表面からT2の位置への熱移動量が大きいことを意味する。また、(S1−S2)は指接触時間tCONT(=tend−tstart)が長いほど大きくなる。そこで、a5を比例係数として、e5/(tCONT×(S1−S2))を血流量を示唆するパラメータx5とする。
【0029】
以上の説明から、前記モデルによって血中グルコース濃度を求めるために必要な測定量は、室温(環境温度)、体表面温度、体表面に接触されるブロックの温度変化、体表面からの輻射による温度及び最低限3波長についての反射光又は散乱光の吸光度と、伝達光の強度であることが分かる。
【0030】
図5は、各種センサによる測定値と、それから導出されるパラメータとの関係を図示した説明図である。体表面と接触するブロックを用意し、その2箇所に設置した2個の温度センサよって2種類の温度T1とT2の時間変化を測定する。別途、体表面の輻射温度T3と室温T4を測定する。また、ヘモグロビンの吸収に関係する少なくとも2種類の波長で散乱光の吸光度A1,A2を測定し、ビリルビン、濁り、メラニンの吸収に関係する少なくとも3種類の波長で反射光の吸光度A3,A4,A5を測定する。別途最低1種類の波長で反射光の吸光度A6を測定する。この反射光の吸光度は、前記5種類の波長で計測し、例えばその平均値やメディアン値等を使用しても良い。最低1種類の波長で伝達光の強度I1を測定する。この強度も、前記5種類の波長で計測し、例えばその平均値やメディアン値等を使用しても良い。温度T1,T2,T3,T4から血流量に関するパラメータが得られる。温度T3から輻射伝熱量に関するパラメータが得られ、温度T3と温度T4から対流伝熱量に関するパラメータが得られる。また吸光度A1〜A6と強度I1からヘモグロビン濃度に関するパラメータとヘモグロビン酸素飽和度に関するパラメータが得られる。
次に、本発明の原理に従って無侵襲血糖値測定を実現する具体的な装置構成について説明する。
【0031】
図6は、本発明による無侵襲血糖値測定装置の上面図である。この装置では、体表面として指先の腹の皮膚を使うが、他の体表面を使うことも可能である。
装置上面には、操作部11、測定対象となる指が置かれる測定部12、測定結果の表示、装置の状態や測定値などを表示する表示部13が設けられている。操作部11には、装置の操作を行うための4個の押しボタン11a〜11dが配置されている。測定部12にはカバー14が設けられ、カバー14を開けると(図はカバーを開けた状態を示す)、楕円型の周縁を持つ指置き部15がある。指置き部15の中には、輻射温度センサ部の開口端 16と接触温度センサ部17と光学センサ部18がある。
【0032】
図7に、装置の操作手順を示す。操作部のボタンを押し装置の電源を入れると、液晶表示部に「ウォーミングアップ」が表示され、装置内の電子回路がウォーミングアップされる。同時に、チェックプログラムが作動し、電子回路を自動的にチェックする。「ウォーミングアップ」が終了すると、液晶表示部に「指を置いてください」と表示される。指置き部に指を置くと、液晶表示部にカウントダウンが表示される。カウントダウンが終了すると、液晶表示部に「指を離してください」と表示される。指置き部から指を離すと、液晶表示部に「データ処理中」が表示される。その後、液晶表示部に血糖値が表示される。この時点で、表示された血糖値は、日時・時間とともにICカードに記憶される。表示された血糖値を読み取ったら、操作部のボタンを押す。装置は、約1分後に次の測定を待つ「指を置いてください」が液晶表示部に表示された状態になる。
【0033】
図8は測定部の詳細を示す図であり、(a)は上面図、(b)はそのXX断面図、(c)はそのYY断面図、(d)はそのZZ断面図である。
最初に、本発明の無侵襲血糖値測定装置による温度測定について説明する。被検部(指の腹)が接触する部分には熱伝導率の高い材料、例えば金でできた薄いプレート21が配置され、そのプレート21に熱的に接続されたプレート21より熱伝導率の低い材料、例えばポリ塩化ビニルからなる棒状の熱伝導部材22が装置内部に伸びている。温度センサとしては、プレート21の温度を測定し、被検部に対して隣接的な温度検出器であるサーミスタ23と、プレート21から一定距離だけ離れた熱伝導部材の部分の温度を測定し、被検部に対して間接的な温度検出器であるサーミスタ24とが設けられている。指置き部15に置かれた被検部(指の腹)を見通せる装置内部の位置に赤外線レンズ25が配され、赤外線レンズ25の下方に赤外線透過窓26を介して焦電検出器27が配置されている。また、焦電検出器27に近接して別のサーミスタ28が設置されている。
【0034】
このように測定部の温度センサ部は4個の温度センサを有し、次の4種類の温度を測定する。
(1) 指表面の温度(サーミスタ23):T1
(2) 熱伝導部材の温度(サーミスタ24):T2
(3) 指の輻射温度(焦電検出器27):T3
(4) 室温(サーミスタ28):T4
【0035】
次に、光学センサ部18について説明する。光学センサ部は、酸素供給量を求めるために必要なヘモグロビン濃度とヘモグロビン酸素飽和度を測定するためのものである。ヘモグロビン濃度とヘモグロビン酸素飽和度を精度よく測定するには最低5波長での散乱光の吸光度測定、最低1波長での反射光の吸光度測定、最低1波長での伝達光の強度測定が必要である。反射光の吸光度は、可能であれば複数波長で取得し平均値を使用した方が精度が向上するため、本実施例では、5波長の反射光の吸光度測定を行う。伝達光の強度も、可能であれば複数波長で取得し平均値を使用した方が精度が向上するため、本実施例では、近赤外線波長域の2波長の伝達光の強度の測定を行う。図8は、5個の光源35a〜35eと3個の検出器36〜38によって測定を行うための構成例を示している。
【0036】
光学センサ部18には、4個の光ファイバ31〜34の端部が位置する。光ファイバ31は光照射用の光ファイバであり、光ファイバ32〜34は受光用の光ファイバである。図8(c)に示すように、光ファイバ31は支線となるファイバ31a〜31eにつながり、それらの末端には5つの波長の発光ダイオード35a〜35eが配されている。受光用光ファイバ32の末端にはフォトダイオード36が、受光用光ファイバ33の末端にはフォトダイオード37が、受光用光ファイバ34の末端にはフォトダイオード38がそれぞれ配されている。発光ダイオード35aは波長810nmの光を出射し、発光ダイオード35bは波長950nmの光を出射する。波長810nmは、酸素結合型ヘモグロビンと還元型(脱酸素)型ヘモグロビンのモル吸光係数が等しくなる等吸光波長であり、波長950nmは酸素結合型ヘモグロビンと還元型ヘモグロビンのモル吸光係数の差が大きい波長である。発光ダイオード35cは波長520nmの光を出射する。波長520nmは、メラニンのモル吸光係数が大きい波長である。発光ダイオード35dは波長450nmの光を出射する。波長450nmはビリルビンのモル吸光係数が大きい波長である。発光ダイオード35eは波長660nmの光を出射する。波長660nmは濁りのモル吸光係数が大きい波長である。
【0037】
5個の発光ダイオード35a〜35eは時分割的に発光し、発光ダイオード35a〜35eから発生された光は光照射用光ファイバ31から被検者の指に照射される。指に照射された光は、指の皮膚で反射し、反射光は受光用光ファイバ32に入射してフォトダイオード36によって検出され、散乱光は受光用光ファイバ33に入射してフォトダイオード37によって検出され、伝達光は受光用光ファイバ34に入射してフォトダイオード38によって検出される。この受光用ファイバは、反射光や散乱光が直接入射しないよう、遮光された構造となっている。
【0038】
指に照射された光が指の皮膚で反射されるとき、一部の光は皮膚の表面の粗さによって全方向へ散乱される。そのうち反射光がフォトダイオード36によって測定され、散乱光の一部がフォトダイオード37で測定される。また、指に照射された光が指の皮膚で反射または散乱されるとき、一部の光は皮膚を通して組織内部に侵入し、表皮に含まれるメラニン色素及び毛細血管を流れる血液中のヘモグロビン及び妨害物質であるビリルビン、濁りによる吸収を受ける。フォトダイオード36及び37による測定データは反射率Rであり、吸光度は近似的にlog(1/R)で計算される。波長450nmと波長520nmと波長660nmと波長810nmと波長950nmの光について各々照射を行い、各々につきRを測定し、かつlog(1/R)を求めることにより、波長450nmの吸光度AD11と吸光度AD21、波長520nmの吸光度AD12と吸光度AD22と、波長660nmの吸光度AD13と吸光度AD23と、波長810nmの吸光度AD14と吸光度AD24と、波長950nmの吸光度AD15と吸光度AD25が測定される(フォトダイオード36によって検出された波長λiの反射光吸光度をAD1i、フォトダイオード37によって検出された散乱光吸光度をAD2i、フォトダイオード38によって検出された伝達光強度をID3iのように表記する)。
また、一部の光は表皮から指内部へ侵入し、指内部で散乱を繰り返しながら、一定距離dだけ伝達される。その伝達光はフォトダイオード38で測定される。
【0039】
還元型ヘモグロビン濃度を[Hb]、酸素結合型ヘモグロビン濃度を[HbO2]、ビリルビン濃度を[Bi]、濁り濃度を[Tur]、メラニン色素濃度を[Me]とすると、波長λiの散乱光吸光度AD2iは次式で表される。
【0040】
【数2】
【0041】
ここで、AHb(λi)と、AHbO2(λi)と、ABi(λi)と、ATur(λi)と、AMe(λi)はそれぞれ還元型ヘモグロビン、酸素結合型ヘモグロビン、ビリルビン、濁り、メラニンのモル吸光係数であり各波長で既知である。a、b、cは比例係数である。AD1iは波長λiの反射光吸光度であり、ID3iは波長λiの伝達光強度である。上式から、皮膚表面粗さのパラメータaRough及び皮膚厚さのパラメータDは定数として求めることができ、AD2iの式に代入することができる。皮膚の厚さのパラメータは伝達光検出器の測定値から求めることができ、これにより皮膚の厚さによる影響を補正することができる。ここでi=5波長であり、AD2iの式が5つできる。求めたい変数は[Hb]、[HbO2]、[Bi]、[Tur]、[Me]の5つでありこれらの連立方程式を解くことにより、求めたい変数をそれぞれ求めることができる。ヘモグロビン濃度[Hb]+[HbO2]、ヘモグロビン酸素飽和度[HbO2]/([Hb]+[HbO2])は上式から求めた[Hb]、[HbO2]から求めることができる。
【0042】
なお、ここでは5波長による吸光度測定によってヘモグロビン濃度とヘモグロビン酸素飽和度を測定する例について説明したが、酸素結合型ヘモグロビンと還元型ヘモグロビンのモル吸光係数の差が大きい波長を1波長以上追加して吸光度を測定することによって、より測定精度を高めることも可能である。例えば880nmの波長を追加し、上式の酸素結合型ヘモグロビンと還元型ヘモグロビン濃度の項を950nmと810nmで計算したヘモグロビン濃度及びヘモグロビン酸素飽和度と、880nmと810nmで計算したヘモグロビン濃度及びヘモグロビン酸素飽和度の平均を取るとより精度が向上する。
以上の波長の組み合わせを、表1にまとめて示す。
【0043】
【表1】
【0044】
表1に示すように、使用する波長を3〜6波長組み合わせて、装置構成を目的とする精度に応じて変更することができる。450nmの波長は、ビリルビンの吸光度に関係する波長であり、測定精度がビリルビンに対して大きく影響を受けないことが予想される測定対象者の場合は、この波長を使用しなくとも良い。また、520nmの波長は、メラニンの吸光度に関係する波長であり、また660nmは血液中の濁り、主にコレステロールや中性脂肪等の高脂血症の原因物質の吸光度に関係する波長であり、測定精度がこれらの物質の影響を受けないことが予想される測定対象者の場合は、これらのうちいずれかの波長を使用しなくとも良い。
【0045】
また、ヘモグロビン測定のための波長950nmと、波長810nmに加えて、3つの目の波長としてビリルビンのための波長450nmか、メラニン用のための波長520nmか、血液中の濁りのための波長660nmのいずれか1つを加えた3つの波長で測定しても良い。3つの目の波長の選択として一般的に最適なものは、血液の濁りの波長660nmであるが、測定対象者の集合体の特徴により他の波長が有効な場合もある。
【0046】
更に、ヘモグロビン測定のための波長950nmと、波長810nmに加えて、ビリルビンのための波長450nmか、メラニン用のための波長520nmか、血液中の濁りのための波長660nmのいずれか2つを加えた4つの波長で測定しても良い。加える2つの波長の選択として一般的に最適なものは、ビリルビンの波長450nmと、濁りの波長660nmであるが、測定対象者の集合体の特徴により他の波長が有効な場合もある。
【0047】
最後に、ヘモグロビン測定のための波長950nmと、波長810nmと、ビリルビンのための波長450nmと、メラニン用のための波長520nmと、血液中の濁りのための波長660nmとの5つの波長で測定することもできる。
【0048】
3つの波長、4つの波長、及び5つの波長の各々の場合において、ヘモグロビン測定のための波長880nmを更に用いて、上記説明の各々の数の波長の組合せにより求めた酸素結合型ヘモグロビン濃度と還元型ヘモグロビン濃度と、波長950nmの代わりに880nmを用いて求めた酸素結合型ヘモグロビン濃度と還元型ヘモグロビン濃度の平均値を取っても良い。
以降に示す実施例では、表1のケース13について説明をする。
【0049】
図9は、装置内におけるデータ処理の流れを示す概念図である。本例の装置には、サーミスタ23、サーミスタ24、焦電検出器27、サーミスタ28、フォトダイオード36〜38からなる3個の光検出器がある。フォトダイオード36〜37では、波長810nm、波長950nm、波長660nm、波長520nm、波長450nmの吸光度をそれぞれ測定し、フォトダイオード38では、波長810nmと波長950nmの強度を測定するため、装置には温度、熱、光測定データを合わせて、16種類の測定値が入力されることになる。また、精度向上のため波長880nmの波長を追加した場合は、19種類の測定値が入力されることになる。
【0050】
7種類のアナログ信号は、それぞれ増幅器A1〜A7を経由して、アナログ・デジタル変換器AD1〜AD7によってデジタル変換される。デジタル変換された値からパラメータxi(i=1,2,3,4,5)が計算される。xiを具体的に表記すると以下のとおりとなる。(e1〜e5は比例係数)
【0051】
【数3】
【0052】
つづいて、実際の多数の健常者および糖尿病患者のデータから得られたパラメータxiの平均値と標準偏差から正規化パラメータを算出する。各パラメータxiから正規化パラメータXi(i=1,2,3,4,5)を次の式で計算する。
【0053】
【数4】
【0054】
前述の5つの正規化パラメータをもって、最終的な表示を行うためのグルコース濃度への変換計算が行われる。処理計算に必要なプログラムは、装置に組み込まれたマイクロプロセッサに内蔵されたROMに記憶されている。また、処理計算に必要なメモリー領域は、同様に装置に組み込まれているRAMに確保される。計算処理された結果は、液晶表示部に表示される。
【0055】
ROMには処理計算に必要なプログラム構成要素として、特にグルコース濃度Cを求めるための関数が入っている。この関数は以下のように定められたものである。まず、Cは以下の式(1)で表現される。ai(i=0,1,2,3,4,5)は、複数の測定データから前もって決定されている。aiを求める手順は以下のとおり。
(1)正規化パラメータとグルコース濃度Cの関係を示す重回帰式を作成する。
(2)最小二乗法によって得られた式から正規化パラメータに関する正規方程式(連立方程式)を求める。
(3)正規方程式から係数ai(i=0,1,2,3,4,5)の値を求め、重回帰式に代入する。
初めに、グルコース濃度Cと正規化パラメータX1,X2,X3,X4,X5の関係を示す次の回帰式(1)を作る。
【0056】
【数5】
【0057】
つづいて、酵素電極法によるグルコース濃度測定値Ciとの誤差が最小になるような重回帰式を求めるため、最小二乗法を用いる。残差の二乗和をDとすると、Dは次式(2)で表される。
【0058】
【数6】
残差の二乗和Dが最小になるのは、式(2)をa0,a2,…,a5で偏微分してゼロとなるときなので、次式が得られる。
【0059】
【数7】
C、X1〜X5の平均値をCmean、X1mean〜X5meanとするとXimean=0(i=1〜5)であるので、式(1)から式(4)が得られる。
【0060】
【数8】
また、正規化パラメータ間の変動・共変動は、式(5)で表され、正規化パラメータXi(i=1〜5)とCとの共変動は式(6)で表される。
【0061】
【数9】
式(4)(5)(6)を式(3)に代入して整理すると、連立方程式(正規方程式)(7)が得られ、これを解くことでa1〜a5が求まる。
【0062】
【数10】
【0063】
定数項a0は、式(4)を用いて求める。以上で求めた ai(i=0,1,2,3,4,5)は装置製造時にROMに格納されている。装置による実際の測定では、測定値から求めた正規化パラメータX1〜X5を回帰式(1)に代入することで、グルコース濃度Cが算出される。
【0064】
以下にパラメータXiの算出過程の具体例を示す。具体例として健常者の測定値の一例を示す。予め測定された温度データ、光測定データからパラメータ算出式の係数が決められており、マイクロプロセッサのROMには下記のパラメータの算出式が格納されている。
【0065】
【数11】
【0066】
測定値の一例としてT3=36.5℃を上記の式に代入するとx1=1.74×103となる。次にT4=19.7℃を上記の式に代入するとx2=2.08×10となる。次にx3を求める前に、[Hb]と[HbO2]を求める必要がある。予め測定したそれぞれの物質の散乱光吸光係数より、濃度算出式の係数が決められている。その式を使用すると5波長測定の場合、以下の連立方程式を解くことにより[Hb]と[HbO2]を求めることができる。
【0067】
【数12】
【0068】
この連立方程式を解くと、[Hb]=0.09mmol/L、[HbO2]=2.21mmol/Lが得られる。これらよりx3=3.13、x4=2.57を得ることができる。次にS1=1.76×102、S2=1.89×10、tCONT=22secを代入するとx5=4.40×102を求めることができる。
【0069】
同様にして同時刻に4波長として波長950nmと、810nmと、660nmと、450nmを使用した場合の連立方程式は以下となる。各式の吸光係数は5波長のものと異なる。これは、メラニンの波長が無いため、メラニンによる影響を他の物質の影響として数式上は置き換えることとなるためである。
【0070】
【数13】
【0071】
この連立方程式を解くと[Hb]=0.10mmol/L、[HbO2]=2.21mmol/Lが得られる。
また同様にして同時刻に3波長として波長950nmと、810nmと、660nmを使用した場合の連立方程式は以下となり、この連立方程式を解くと[Hb]=0.12mmol/L、[HbO2]=2.22mmol/Lが得られる。
【0072】
【数14】
【0073】
同時刻における上記の5波長、4波長、3波長の各々による検出結果につき、ヘモグロビン濃度([Hb]+[HbO2])を計算すると、各々2.30m mol/L、2.31 m mol/L、2.34 m mol/Lとなる。一方、同時刻にヘモグロビン濃度の計測を侵襲法、すなわち血液採血により行ったところ、ヘモグロビン濃度は2.28 m mol/Lであった。以上より、3波長での計算結果より、4波長での計算結果の方が、また、4波長での計算結果より5波長での計算結果の方が、血液採血によるヘモグロビン濃度計測の値に近くなることが確認された。これより、波長数が多いほど測定はより高精度であることが示せた。
【0074】
次にX1〜X5を求める。X1〜X5は上記で求めたパラメータx1〜x5を正規化したものである。パラメータの分布が正規分布であると仮定すると、正規化パラメータの95%は−2から+2の間の値をとる。表1のケース13についての一例の場合、正規化パラメータは以下の式で求めることができる。
【0075】
【数15】
【0076】
上記の式より正規化パラメータはX1=−0.06、X2=+0.04、X3=+0.05、X4=−0.12、X5=+0.10 となる。
以下にグルコース濃度の算出過程の具体例を示す。予め健常者および糖尿病患者に対して測定した多数のデータから回帰式(1)の係数が決められており、マイクロプロセッサのROMには下記のグルコース濃度の算出式が格納されている。
【0077】
【数16】
【0078】
X1〜X5を上記の式に代入するとC=96mg/dlとなる。また、糖尿病患者の測定値の1例として求めることができる、正規化パラメータX1=+1.15、X2=−1.02、X3=−0.83、X4=−0.91、X5=−1.24 を上記の式に代入するとC=213mg/dlとなる。
【0079】
従来の測定方法である、採血によって得た血液を試薬と反応させ、この反応によって発生した電子量を測定して血糖値を測定する酵素電極法による測定結果と本発明の1実施例による測定結果について以下に述べる。健常者の測定値の1例として、酵素電極法によるグルコース濃度が89mg/dlのとき、同時刻に本法による測定から得た正規化パラメータX1=−0.06、X2=+0.04、X3=+0.07、X4=−0.10、X5=+0.10 を上記の式に代入するとC=95mg/dlとなる。また、糖尿病患者の測定値の例として、酵素電極法によるグルコース濃度が238mg/dlのとき、同時刻に本法による測定から得た正規化パラメータX1=+1.15、X2=−1.02、X3=−0.95、X4=−1.05、X5=−1.24 を上記の式に代入するとC=218mg/dlとなる。上記の結果より、本発明による方法によって、高精度でグルコース濃度を求められることが確認された。
【0080】
図10は、縦軸を本法によるグルコース濃度の算出値、横軸を酵素電極法によるグルコース濃度の測定値として、複数の患者に対してそれぞれの測定値をプロットした図である。本法の様に酸素供給量・血流量を測定することで良好な相関が得られる(相関係数=0.9434)。
【0081】
【発明の効果】
本発明によれば、高精度な無侵襲血糖値測定装置及び測定方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】皮膚表面に連続光を照射した場合の光伝達を示したモデル図。
【図2】体表面からブロックへの熱移動を説明するモデル図。
【図3】温度T1および温度T2の測定値の時間変化を示す図。
【図4】温度T3の時間変化の測定例。
【図5】各種センサによる測定値と、それから導出されるパラメータとの関係を図示した説明図。
【図6】本発明による無侵襲血糖値測定装置の上面図。
【図7】装置の操作手順を示す図。
【図8】測定部の詳細図。
【図9】装置内におけるデータ処理の流れを示す概念図。
【図10】本発明によるグルコース濃度算出値および酵素電極法によるグルコース濃度測定値のプロット図。
【符号の説明】
11…操作部、12…測定部、13…表示部、15…指置き部、16…輻射温度センサ部の開口端、17…接触温度センサ部、18…光学センサ部、21…プレート、22…熱伝導部材、23…サーミスタ、24…サーミスタ、25…赤外線レンズ、26…赤外線透過窓、27…焦電検出器、28…サーミスタ、31,32,33,34…光ファイバ、35…光源、36,37,38…フォトダイオード
Claims (20)
- (1) 体表面に由来する複数の温度を測定し、体表面からの熱放散に関する対流伝熱量と輻射伝熱量との算出に用いる情報を得る熱量測定部と、
(2) 血流量に関する情報を得る血流量測定部と、
(3) 少なくとも3つの異なる波長の光を発生する光源と、前記光源からの出射光を体表面に照射するための光学系と、体表面へ照射した後の光を検出する少なくとも3つの異なる光検出器とを有し、血中のヘモグロビン濃度・ヘモグロビン酸素飽和度を得るための光学測定部と、
(4) 前記複数の温度、血流量、血中のヘモグロビン濃度及びヘモグロビン酸素飽和度に各々対応するパラメータと血糖値との関係を記憶した記憶部と、
(5) 前記熱量測定部、血流量測定部及び光学測定部から入力される複数の測定値を前記パラメータへ各々変換し、前記パラメータを前記記憶部に記憶した前記関係に適用して前記血糖値を演算する演算部と、
(6) 前記演算部によって算出された血糖値を表示する表示部とを備えることを特徴とする血糖値測定装置。 - 請求項1記載の血糖値測定装置において、前記光検出器として、体表面からの反射光を検出する第1の光検出器と、体表面による散乱光を検出する第2の光検出器と、体表面から皮膚内部に侵入し再び体表面から出射する光を検出する第3の光検出器とを備えることを特徴とする血糖値測定装置。
- 請求項2記載の血糖値測定装置において、前記光源としてそれぞれ異なる波長の光を放出する複数の発光ダイオードを備え、前記光学系は前記複数の発光ダイオードからの光を体表面に向けて照射する光照射部に伝達する第1の光ファイバを備え、体表面へ照射した後の光は第2の光ファイバを介して前記第1、第2及び第3の光検出器に伝達されることを特徴とする血糖値測定装置。
- 請求項3記載の血糖値測定装置において、前記第3の光検出器に光を伝達する光ファイバの先端は体表面と接触する位置に設けられていることを特徴とする血糖値測定装置。
- 請求項2記載の血糖値測定装置において、前記光源は、酸素結合型ヘモグロビンと還元型ヘモグロビンのモル吸光係数が等しい波長の光、酸素結合型ヘモグロビンと還元型ヘモグロビンの吸光度の差を検出するための第1の波長の光、及びビリルビンにより吸収される波長の光を発生することを特徴とする血糖値測定装置。
- 請求項5記載の血糖値測定装置において、更に血液の濁りにより吸収される波長の光、もしくはメラニン色素により吸収される波長の光を発生することを特徴とする血糖値測定装置。
- 請求項5記載の血糖値測定装置において、更に血液の濁りにより吸収される波長の光、及びメラニン色素により吸収される波長の光を発生することを特徴とする血糖値測定装置。
- 請求項5、6、7のいずれか1項記載の血糖値測定装置において、更に酸素結合型ヘモグロビンと還元型ヘモグロビンの吸光度の差を検出するための第2の波長の光を発生することを特徴とする血糖値測定装置。
- 請求項5記載の血糖値測定装置において、体表面へ照射した後の前記各波長の光は前記第2の光検出器によって検出されることを特徴とする血糖値測定装置。
- 請求項9記載の血糖値測定装置において、前記第1の光検出器によって測定された吸光度と前記第2の光検出器によって測定された吸光度との比を用いて、体表面の表面粗さに起因する測定誤差を補正することを特徴とする血糖値測定装置。
- 請求項9記載の血糖値測定装置において、前記第3の検出器によって測定された光強度を用いて皮膚の厚さに起因する測定誤差を補正することを特徴とする血糖値測定装置。
- 請求項11記載の血糖値測定装置において、厚さが既知の標準物質につき予め求めた、標準物質表面から標準物質内部に侵入し再び標準物質表面から出射する光の前記第3の検出器によって測定された吸光度と、前記第3の検出器によって測定された吸光度との比を取り、前記補正を行うことを特徴とする血糖値測定装置。
- 請求項1記載の血糖値測定装置において、前記血流量測定部は、体表面接触部と、前記体表面接触部に隣接する隣接温度検出器と前記体表面接触部から離れた位置の温度を検出する間接温度検出器と、前記体表面接触部と前記間接温度検出器とをつなげる熱伝導部材とを有することを特徴とする血糖値測定装置。
- 請求項1記載の血糖値測定装置において、前記熱量測定部は、環境温度を測定する環境温度検出器と体表面からの輻射熱を測定する輻射温度検出器とを有することを特徴とする血糖値測定装置。
- 請求項2記載の血糖値測定装置において、前記体表面から皮膚内部に侵入し再び体表面から出射する光は、周囲を遮光された光路を通じて、出射部位から前記第3の光検出器へ伝達されることを特徴とする血糖値測定装置。
- 環境温度を測定する環境温度検出器と、
体表面が接触する体表面接触部と、
前記体表面からの輻射熱を測定する輻射温度検出器と、
前記体表面接触部に隣接する隣接温度検出器と、
前記体表面接触部から離れた位置の温度を検出する間接温度検出器と、
前記体表面接触部と前記間接温度検出器とをつなげる熱伝導部材と、
810nm、950nmと第3の波長との、少なくとも3つの異なる波長の光を発生する光源と、
前記光源からの出射光を体表面に照射するための光学系と、
体表面へ照射した後の光を検出する少なくとも3つの異なる光検出器と、
前記環境温度検出器と、前記輻射温度検出器と、前記隣接温度検出器と、前記間接温度検出器及び前記少なくとも3つの異なる光検出器との各々の出力と血糖値との関係を記憶した記憶部と、
前記各々の出力を用いて、前記記憶部に記憶された前記関係に適用して前記血糖値を算出する演算部と、
前記演算部によって算出された血糖値を表示する表示部とを有することを特徴とする血糖値測定装置。 - 請求項16記載の血糖値測定装置において、前記第3の波長は450nm、660nm、520nmもしくは880nmであることを特徴とする血糖値測定装置。
- 請求項16記載の血糖値測定装置において、前記光源はさらに第4の波長の光を発生し、前記第3の波長と前記第4の波長の組合せは、450nm、660nm、520nmもしくは880nmのうちの2つの波長の組合せであることを特徴とする血糖値測定装置。
- 請求項16記載の血糖値測定装置において、前記光源はさらに第4の波長と第5の波長の光を発生し、前記第3の波長と前記第4の波長と前記第5の波長の組合せは、450nm、660nm、520nmもしくは880nmのうちの3つの波長の組合せであることを特徴とする血糖値測定装置。
- 請求項16記載の血糖値測定装置において、前記光検出器の少なくとも1つは、前記体表面から皮膚内部に侵入し再び体表面から出射し、かつ周囲を遮光された光路を通じて出射部位から伝達される光を検出することを特徴とする血糖値測定装置。
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