JP2004307659A - 光学素子および光学素子形成用の有機無機複合材料 - Google Patents
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Abstract
【課題】光散乱性も含めた光学特性および成形性に優れた光学素子およびそのような光学素子を形成するための有機無機複合材料を提供する。
【解決手段】光学素子形成用の有機無機複合材料は、下記化学式(1),(2)および(3)
R1 aSi(OR2)4−a ・・・(1)
(式中、R1およびR2は同一あるいは異なるアルキル基、R1の炭素数が1から6、R2の炭素数が1から6、aは0または1)
R3Si(OR4)3 ・・・(2)
(式中、R3はフェニル基含有有機基、R4は炭素数1から6のアルキル基)
R5 cR6 dSi(OR7)4−c−d ・・・(3)
(R5およびR6は同一あるいは異なる重合基、R7は炭素数1から6のアルキル基、cおよびdは0から2の整数でかつc+dは1から2の整数)で表される有機ケイ素化合物を含む。
【選択図】 なし
【解決手段】光学素子形成用の有機無機複合材料は、下記化学式(1),(2)および(3)
R1 aSi(OR2)4−a ・・・(1)
(式中、R1およびR2は同一あるいは異なるアルキル基、R1の炭素数が1から6、R2の炭素数が1から6、aは0または1)
R3Si(OR4)3 ・・・(2)
(式中、R3はフェニル基含有有機基、R4は炭素数1から6のアルキル基)
R5 cR6 dSi(OR7)4−c−d ・・・(3)
(R5およびR6は同一あるいは異なる重合基、R7は炭素数1から6のアルキル基、cおよびdは0から2の整数でかつc+dは1から2の整数)で表される有機ケイ素化合物を含む。
【選択図】 なし
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、例えばカメラ等の撮像光学系、表示デバイス等の投影光学系、画像表示装置等の観察光学系、光磁気ディスクドライブ等のレーザ光学系、導波路などに用いる光学素子、およびそのような光学素子を形成するに適した有機無機複合材料に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
光学素子には、最も重要な基本性能として、用いられる光学系の使用波長域において高い光透過性を有することが要求される。さらに光学系の種類、光学性能、形状などの要件によって、光学素子には高屈折率性、低複屈折性、耐熱性、耐環境性、耐溶剤性、高硬度、成形性などが要求されてくる。
【0003】
従来、これらの光学素子としては、いわゆる光学ガラスを研削、研磨加工したあるいは低融点ガラスを高温で圧縮成形したガラス製の光学素子、熱可塑性樹脂を射出成形した、あるいはエネルギー硬化型樹脂を成形しつつ熱や光で重合した樹脂製の光学素子が一般的に用いられてきた。
【0004】
また近年、光学素子用の材料として無機化合物と有機化合物を用いた有機無機複合材料からなる光学素子が提案されてきた。このような光学素子用の有機無機複合材料としては、例えば特許文献1に示されるように、樹脂中にナノサイズの微粒子を均一に分散させた超微粒子分散型光学材料が挙げられる。この超微粒子分散型光学材料は、粒子径5〜100nmの金属粉末あるいは金属酸化物粉末を有機樹脂中に分散させることにより、透明で屈折率制御が可能な光学素子となる。
【0005】
また、特許文献2に示すような、有機成分としてウレタン結合を含有する樹脂を、無機成分であるSiO2系3次元微細構造体中に分散させたレンズ用無機有機複合材料が挙げられる。このレンズ用無機有機複合材料は、ウレタン結合を含有するポリマーを、SiO2系3次元微細構造体中に均一に分散させることで、透明で優れた光学特性および優れた耐水性、耐薬品性を有する光学素子となる。
【0006】
また、有機成分としてのフロロ炭化水素基を有するポリシロキサン樹脂と無機成分としてのコロイダルシリカを含むポリシロキサン樹脂組成物を含む、無機有機複合材料が、特許文献3には挙げられている。この無機有機複合材料は、低屈折率を与えるフロロ炭化水素基を可能な限り凝集構造を発現させることなくポリシロキサン樹脂中に均一に分布させることで、低屈折率で、低い屈折率分散性を有する。この無機有機複合材料を乾燥させて溶媒を除去して、付形し、加熱硬化して光学素子となる。
【0007】
【特許文献1】
特開2000−44811
【特許文献2】
特開平7−97511
【特許文献3】
特開2001−40215
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
光学ガラスを研削、研磨加工したガラス製の光学素子においては、その素子の光学有効面を収差補正性能の優れる非球面形状に加工することが難しい、あるいは加工に時間がかかるので量産にはむかないという欠点がある。また低融点ガラスを高温で押圧成形したガラス製の光学素子においては、その素子の光学有効面を非球面形状に加工するのが容易であり低複屈折で耐環境性などに優れる利点はあるものの、大口径あるいは大偏肉形状の成形が難しい、あるいは成形機および金型が高価であるなど成形性等に欠点がある。
【0009】
また、熱可塑性樹脂あるいはエネルギー硬化型樹脂からなる樹脂製の光学素子においては、大口径あるいは複雑形状に成形できる成形性や量産性に優れる利点があるものの、温度や湿度によって形状や光学特性が大きく変化してしまうので、耐環境性や、耐熱性あるいは耐溶剤性などに問題がある。
【0010】
近年、提案されてきた各特許文献に記載の有機無機複合材料からなる光学素子は、複雑形状に成形できる成形性、透明性、耐水性、耐薬品性などに優れ、比較的簡単に量産できる利点はあるものの、得られた光学素子は、光学性能の1つである光散乱性が劣るという問題点がある。
【0011】
光散乱性とは、光学素子内部における光の散乱の強度を評価するものである。光散乱性が悪い、つまり散乱光の強度が大きい光学素子では、仮にその光学素子の収差がゼロであっても、光学素子を透過した光による像がぼやけてしまい、優れた光学素子とはいえない。光散乱性は、光学素子を構成する材料自身に起因するもので、光学素子内部が光学的(すなわち、屈折率、透過率)に均一でない場合に光が散乱してしまうことによる。
【0012】
従来、光学系の使用波長により小さい粒子等の不均一成分を含んだ光学素子の場合、小さい不均一成分は光学性能に影響を与えないと考えられており、およそ400〜800nmが使用波長域である白色光学系の光学素子として、100nm、あるいは30nm程度の不均一成分であるナノ粒子を無機化合物として含む有機無機複合材料からなる光学素子が提案されてきた。
【0013】
そのため、特許文献3にあるように、フッ素変性ポリシロキサン樹脂に平均粒径が0.1ミクロン以下、より好ましくは平均粒径が10〜40nmの範囲のコロイダルシリカを含む無機有機複合材料が光学材料として提案され、光学素子が製造されている。
しかし、このように光学系の使用波長より小さい不均一成分が多量に光学素子内部に存在すると、プリズムあるいは導波路など光学素子単体内での光路長が長い光学素子、あるいは顕微鏡や高画素デジタルカメラなど光学素子自身に高性能な光学性能が要求される光学系の光学素子においては、散乱光の大きさが問題になってしまう。
【0014】
本発明は、前記のような問題点を解決し、光散乱性も含めた光学特性および成形性に優れた光学素子およびそのような光学素子を形成するための有機無機複合材料を提供することを課題とする。
【0015】
【課題を解決するための手段】
前記課題を解決するため、本発明の光学素子形成用の有機無機複合材料は、下記化学式(1),(2)および(3)
R1 aSi(OR2)4−a ・・・(1)
(式中、R1およびR2は同一あるいは異なるアルキル基、R1の炭素数が1から6、R2の炭素数が1から6、aは0または1)
R3Si(OR4)3 ・・・(2)
(式中、R3はフェニル基含有有機基、R4は炭素数1から6のアルキル基)
R5 cR6 dSi(OR7)4−c−d ・・・(3)
(R5およびR6は同一あるいは異なるアルキル基、ビニル基、アリル基、アクリロイル基、メタクロイル基、アミノ基またはエポキシ基含有有機基、R7は炭素数1から6のアルキル基、cおよびdは0から2の整数でかつc+dは1から2の整数)で表される有機ケイ素化合物あるいはその加水分解物の3種類を無機成分として含むことを特徴とする。
化学式(1)で示す有機ケイ素化合物あるいはその加水分解物の具体例は、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラブトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリブトキシシランあるいはそれらの加水分解物などを挙げることができる。
化学式(2)で示すフェニル基含有有機ケイ素化合物あるいはその加水分解物の具体例は、フェニルメトキシシラン、フェニルエトキシシラン、フェニルブトキシシランあるいはそれらの加水分解物などを挙げることができる。
化学式(3)で示す重合基含有有機ケイ素化合物あるいはその加水分解物の具体例は、ビニルエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)トリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシランあるいはそれらの加水分解物などを挙げることができる。
【0016】
本発明の光学素子形成用の有機無機複合材料は、無機成分としてさらに下記化学式(4)
R8 eM(OR9)f ・・・(4)
(MはAl、Be、Cu、Ge、Hf、La、Mg、Sc、Ta、Th、Ti、V、Y、Zn、Zrからなる群から選ばれる少なくても1種の金属元素、R8はアルキル基、ビニル基、アリル基、アクリロイル基、メタクロイル基、アミノ基またはエポキシ基含有有機基、R9は炭素数1から6のアルキル基、eは0または1、fは正の整数)で表される金属アルコキシドあるいはその加水分解物を含んでいてもよい。
化学式(4)で示す金属アルコキシドあるいはその加水分解物の具体例は、アルミニウムイソプロポキシド、ペンタエトキシタンタル、チタニウムイソプロポキシド、チタニウムメタクリレートトリイソプロポキシド、ジルコニウムメタクリルオキシエチルアセトアセテートトリノルマルプロポキシド、ジルコニウムノルマルプロポキシドあるいはそれらの加水分解物などを挙げることができる。
【0017】
これらの金属アルコキシドあるいはその加水分解物は、主に屈折率あるいは透過率など光学特性の調整のために添加されもので、金属元素Mの選択によって、化学式(1)、(2)、(3)の無機成分を混合して屈折率を調整するよりも、容易に光学素子または有機無機複合材料の屈折率を調整できる。
【0018】
光学素子形成用の有機無機複合材料は、前記無機成分と、その無機成分と相容する樹脂のモノマーもしくはオリゴマーの有機成分とからなることで好適に実施できる。
【0019】
有機成分は、無機成分と完全に相溶すれば特に限定されるものではない。例えば熱可塑性樹脂では、非晶性ポリオレフィン系樹脂、ノルボルネン系樹脂、ポリカーボネート、アクリル樹脂、ポリスチレン、ABS樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂などおよびこれらの共重合体を挙げることができる。また熱硬化性樹脂では、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、フッ素樹脂、アリレート樹脂、シリコーン樹脂などを挙げることができる。
【0020】
無機成分中、化学式(1)の無機成分が5〜94モル%、化学式(2)の無機成分が5〜94モル%、化学式(3)の無機成分が1〜80モル%であることが好ましい。
【0021】
化学式(1)で示す無機成分の有機ケイ素化合物あるいはその加水分解物は、全ての無機成分の10モル%以上80モル%以下であることがより好ましい。
【0022】
化学式(2)で示す無機成分のフェニル基含有有機ケイ素化合物あるいはその加水分解物は、全ての無機成分の10モル%以上80モル%以下であることがより好ましい。この含有量が多すぎると複屈折性が悪化し、少なすぎると無機成分と有機成分の相溶性が悪化し無機成分が凝集し屈折率あるいは透過率が均一でない部分が生成し光散乱性が悪化してしまう。
【0023】
化学式(3)で示す無機成分の重合基含有有機ケイ素化合物あるいはその加水分解物は、全ての無機成分の5モル%以上60モル%以下であることがより好ましい。この含有量が多すぎると無機成分と有機成分の相互作用が大きくなって硬化時にクラックや割れが生じやすくなり成形性が悪化し、少なすぎると無機成分と有機成分の相互作用が小さくなり光散乱性、耐環境性、耐熱性が悪化してしまう。
【0024】
無機成分中、化学式(4)の無機成分が1〜60モル%であることが好ましい。より好ましくは1〜60モル%である。この添加量は、光学素子が求められる光学特性によって、種類で異なる。
有機成分100重量部に対する前記無機成分の含有量は、30〜1000重量部である。より好ましくは60〜400重量部である。
また、前記課題を解決するための本発明の光学素子は、前記有機無機複合材料で形成されている。
【0025】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の好ましい実施の形態を詳細に説明する。
本発明の光学素子を構成する有機無機複合材料は、有機成分と無機成分とが分子レベルもしくはナノスケールレベルで混合されて複合化されたものである。その形態は有機骨格からなる高分子マトリックスと無機骨格からなるマトリックスが相互に絡み合い、互いのマトリックスへ貫入した構造のもの(IPN構造)、あるいは有機骨格からなるモノマーもしくはオリゴマーと無機元素を持つモノマーもしくはオリゴマーとが共重合した構造のもの(共重合構造)、および両者の構造の複合構造を有するものである。
【0026】
上記各形態の有機無機複合材料では、有機成分と無機成分との間には水素結合や分散力、クーロン力などの分子間力や、共有結合、イオン結合、π電子雲の相互作用による引力など何らかの相互作用が働いており、ナノ分子のような屈折率あるいは透過率が均一でない成分を含んでいない。このような有機無機複合材料を成形して得られた光学素子は、白色光学系に用いるときに障害となりうる平均粒径10〜100nmのコロイダルシリカのナノ粒子というような不均一成分を含んでいない。
【0027】
本発明の有機無機複合材料からなる光学素子の製造方法としては、例えば以下の方法がある。有機成分の熱硬化性樹脂のモノマーあるいはオリゴマーと、無機成分の有機ケイ素化合物あるいはその加水分解物、フェニル基含有有機ケイ素化合物あるいはその加水分解物、および重合基含有有機ケイ素化合物あるいはその加水分解物と、さらに必要に応じて水、溶剤、触媒、硬化剤を混合し、樹脂モノマーの重合反応と無機成分のゾル−ゲル反応を同時に進行させる。それによって有機成分と無機成分が相互にネットワーク構造を持った有機無機複合材料の溶液となる。その溶液を硬化させる際に光学素子に対応した形状に形成すれば、所望形状の光学素子が得られる。
【0028】
また、本発明の有機無機複合材料からなる光学素子の製造方法の別な例としては、先ず、有機ケイ素化合物あるいはその加水分解物、フェニル基含有有機ケイ素化合物あるいはその加水分解物、および重合基含有有機ケイ素化合物あるいはその加水分解物からなる無機成分のみを混合してゾル−ゲル反応を比較的ゆっくり行わせる。ゾル−ゲル反応を比較的ゆっくり行わせることは、無機成分のみからなる重合体、例えば有機ケイ素化合物とフェニル基含有有機ケイ素化合物のみ、あるいは有機ケイ素化合物のみの重合体の生成を抑制できる点で重要である。たとえ重合体が生成したとしても少量であって、その大きさを10nm未満に抑えることができて、屈折率あるいは透過率が均一でない部分を生成しない。
【0029】
前記ゾル−ゲル反応をゆっくり行わせるため、ゾル−ゲル反応の反応速度が速い4官能の有機ケイ素化合物と、3あるいは2官能のフェニル基含有有機ケイ素化合物および重合基含有有機ケイ素化合物を混合した後の無機成分によるゾル−ゲル反応の反応条件(例えば温度、時間)、あるいは希釈溶剤の添加による無機成分の濃度を調整し、この調整後に得られる無機成分反応溶液と有機成分とを混合する。あるいは別の方法としては有機ケイ素化合物、フェニル基含有有機ケイ素化合物および重合基含有有機ケイ素化合物のそれぞれをあらかじめ別々に加水分解反応を起こさせた後、それぞれの加水分解生成物を混合して得た無機成分を無機成分反応溶液として、有機成分と混合する。得られた有機無機複合材料溶液を硬化させる際に光学素子に対応した形状に形成すれば、所望形状の光学素子が得られる。
【0030】
また、溶剤の種類と添加量によって、有機無機複合材料からなる光学素子形成時における該材料溶液の流動性の調整が可能である。さらに硬化剤の種類と添加量を変えることによって有機無機複合材料からなる光学素子の成形時における該材料液の熱やエネルギー線照射等による硬化方法や硬化条件の調整が可能である。
【0031】
このように製造した有機無機複合材料からなる光学素子は、コロイダルシリカのナノ粒子のような不均一成分を含んでいないため、光学的に均一であり光散乱性、光透過率に優れるばかりでなく、有機成分と無機成分が相互作用により、有機成分のみからなる樹脂製光学素子に対して耐熱性の向上、熱膨張率の低下など熱的特性の向上が図られる。
【0032】
無機成分としてさらに金属アルコキシドあるいはその加水分解物を添加した有機無機複合材料からなる光学素子は、上記特性以外にも、金属元素Mの作用によって高屈折率あるいは波長選択性などを有するレンズ、プリズムあるいはフィルター等の各光学素子を得ることができる。
【0033】
本発明による光学素子の成形方法の一例を、図面を参照して説明する。
図1は、両面凸形状の光学素子の成形に用いる金型の一例を示す図である。
この金型は、金属製下型1、紫外線透過ガラス製上型2、リング状の金属製胴型3からなっている。金属製下型1と紫外線透過ガラス製上型2の各外周面は、金属製胴型3の内周面と摺動可能に嵌合している。ガラス製上型2にはフランジ部2aを備え、金属製胴型3の上面に当接して係止する。下型1は、胴型3内を上下動するように、図示しない駆動源に繋がる駆動ロッド1aに取り付けられている。下型1と上型2との対向する各面と、胴型3の内周面とで光学素子成形用のキャビティ4が形成されている。金属製胴型3の胴体に、有機無機複合材料の溶液をキャビティ4内に注入するための注入口5と、注入された有機無機複合材料が、光学素子の容量よりも余分になってあふれ出てくる排出口6が設けてある。金属製下型1と紫外線透過ガラス製上型2には、成形した光学素子の光学有効面を形成するための相手面7a、7bが設けてある。
【0034】
この金型を使用して光学素子を成形するときには以下の手順で行う。金属製下型1と紫外線透過ガラス製上型2を金属製胴型3に嵌合し、下型1を第一段階の所定高さまで上昇させてキャビティ4が形成される。有機成分と無機成分を含む有機無機複合材料溶液を注入口5より注入してキャビティ4内に充填していく。このときキャビティ4内を負圧にしておくと、有機無機複合材料溶液の注入時における気泡の巻き込みや、キャビティ内の空気残りを防ぐことができる。排出口6から、光学素子の成形に必要な量を超えた余分量の有機無機複合材料溶液があふれ出てきた時点で有機無機複合材料溶液の注入をとめる。そして金属製下型1を上方に移動させ、注入口5および排出口6を塞ぎ下型1を第二段階の高さにする。次に紫外線透過ガラス製上型2の上方より紫外線を照射し有機無機複合材料溶液を硬化させる。このとき有機無機複合材料溶液の硬化にともなう収縮にあわせて金属製下型1を上方にゆっくりと移動させる。収縮に連動させて下型を上昇させることで、硬化後の光学素子の内部応力を低減できる。有機無機複合材料溶液が十分に硬化した後、金属製下型1と紫外線透過ガラス製上型2をそれぞれ光学素子から離型し移動させて金型を開いて、有機無機複合材料からなる光学素子を取り出す。
【0035】
有機無機複合材料が紫外線によって硬化しないタイプである場合は、上記の方法のキャビティ4内に有機無機複合材料溶液を充填し、注入口5および排出口6をシールし、下型1をさらに上動させて光学有効面を形成するための各型の相手面7a、7bを複合材料に転写する。その後、この複合材料に対し下型1側から加圧をしつつ、金型ごと加熱器に投入するか、あるいはガラス製上型2の上方よりハロゲンランプの光を照射するなどして熱エネルギーを供給して有機無機複合材料溶液を硬化させて光学素子を得ることができる。
【0036】
【実施例】
以下、本発明を適用して光学素子を試作した実施例、本発明を適用せずに光学素子を試作した比較例につきその評価を行った。詳細を以下に説明する。
光学素子の評価方法は以下のとおりである。
(成形性)φ30mmで厚さ3mmの平行平面を有する光学素子を、金型を用いて成形した時の、光学有効面の外観および形状を肉眼にて評価した。外観にハガレ、シワ、クラックがなく、金型の成形用光学有効面の転写性が高いものを合格、それ以外を不合格とした。
【0037】
(光透過性)成形性の評価に用いた平行平面を有する光学素子について、日立製作所製分光光度計U−4100を用いて400nm〜800nmの範囲の分光透過率を測定した。このうち500nmと700nmの透過率について評価した。表面反射を含んでいるので波長が短いほど透過率は低下する傾向にあるが、85%以上あれば通常の撮像光学系、表示デバイスの投影光学系や画像表示装置の観察光学系に用いる光学素子として合格レベルである。
【0038】
(光散乱性)成形性の評価に用いた平行平面を有する光学素子について、上記光透過率の評価に用いた分光光度計を用いて、透過光の光軸以外の方向に散乱されている散乱光を、積分球を用いて集光して散乱光の強度を測定した。単位光路長あたりの各波長の透過率を100としたときの相散乱光の相対強度を求めた。このうち500nmと700nmの散乱光の強度を評価した。散乱光は波長が短いほど増加する傾向にあるが、500nmでは30×10−4以下、700nmでは20×10−4以下あれば光散乱強度が低いといえ、光散乱性に優れるレベルである。
【0039】
(実施例1)
無機成分である有機ケイ素化合物としてメチルトリメトキシシラン6.6g、フェニル基含有有機ケイ素化合物としてフェニルトリメトキシシラン1.6g、重合基含有有機ケイ素化合物として3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン6.0g、および純水4.4gからなる溶液を25℃にて48時間撹拌し無機成分のみをゾル−ゲル反応させた。この溶液から副生成物である水、メタノールを除去した無機成分反応溶液を得た。無機成分反応溶液に有機成分であるメチル(メタ)アクリレート10.0gと、紫外線硬化剤である長瀬産業社のイルガキュアー500(登録商標)0.1gを添加し有機無機複合材料溶液を得た。
【0040】
この有機無機複合材料溶液をφ30mm厚さ3mmの平行平面板を得るための金型に充填して、1mw/cm2の紫外線を24時間照射して有機無機複合材料溶液を硬化させ、この際、一方の型を複合材料の硬化収縮に対応させつつ移動して、有機無機複合材料からなる平行平面板の光学素子を得た。
【0041】
金型としては、図2に要部の断面図を示す金型を用いた。金型10は、SUS製下型11、上方にフランジ部12aを備え紫外線を透過するガラス製上型12、リング状のSUS製胴型13から構成されている。下型11と上型12の各対向する光学有効面の相手面11a、12bは、平行平面板の光学有効面を成形するよう高い表面精度(Rmax0.02μm以下)で研磨加工され、各型の各外周面は、胴型13の内周面13aに嵌合して摺動自在に形成されている。この下型11と上型12の各光学有効面の相手面11a、12bと胴型13の内周面13aとで形成される空間によって、光学素子を成形するキャビティ14が形成される。下型11の下面には駆動ロッド11cが取り付けられて油圧シリンダやパルスモータ等の駆動源(不図示)に接続され、下型11が胴型13内で上下動の位置制御がされるようになっている。胴型13の外周には、有機無機複合材料溶液をキャビティ14内に注入するための注入口15と、所望の平行平面板を得る際の余分量を排出するための排出口16が形成されている。
【0042】
成形にあたっては、上型12を胴型13に嵌合させて固定した後、下型11を胴型13の内周面13aに沿って上昇させ、光学有効面の相手面11a、12bの間が第一段階の高さに達した時点でその上昇を停止させた。次いで注入口15からキャビティ14内に有機無機複合材料溶液を注入した。この時、金型10の周囲を密閉して負圧雰囲気状態にし、そして駆動ロッド11cで押して下型11をさらに上昇させた。このとき下型11の外周面で注入口15および排出口16を閉じた。そして、下型11が第二段階の高さに達した時点で上昇を停止させた。その後、上型12の上方から上記強度の紫外線UVを所定時間照射すると共に、下型11には駆動ロッド11cを介してキャビティ14側の向きに押圧力が作用するように制御し、有機無機複合材料溶液を硬化させるとともに、硬化収縮に対応しつつ下型11を下方から押圧して移動させた。材料溶液の硬化収縮が停止する時点での前記下型11と上型12の各光学有効面の相手面11a、12bの間隔が3mmとなるように設定した成形を行った。金型10の周囲の密閉を解除し、下型11を下降するとともに上型12を胴型13から取り外して、平行平面板からなる実施例1の光学素子を得た。
【0043】
前記の評価方法にしたがって、実施例1の光学素子につき評価をおこなった。外観にハガレ、シワ、クラックがなく、金型の転写性は良好で成形性は合格であった。500nmの透過率は91%、700nmの透過率は92%であり、光透過性は良好であった。500nmの散乱光の相対強度は11×10−4、700nmの散乱光の強度は8×10−4であり、光散乱性は良好であった。これらの結果を表1にまとめてある。
【0044】
(実施例2)
無機成分である有機ケイ素化合物としてメチルトリメトキシシラン1.0g、フェニル基含有有機ケイ素化合物としてフェニルトリメトキシシラン8.8g、重合基含有有機ケイ素化合物として3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン3.7g、および純水4.4gからなる溶液を25℃にて8時間撹拌した後、さらにテトラメトキシシラン1.2gを添加して25℃にて48時間撹拌し無機成分のみをゾル−ゲル反応させた。この溶液から副生成物である水、メタノールを除去した無機成分反応溶液を得た。無機成分反応溶液に有機成分であるトリメチルプロパントリアセテート3gとジメチロールトリシクロデカンジアクリレート3g、紫外線硬化剤である長瀬産業社のイルガキュアー500(登録商標)0.06gを添加し有機無機複合材料溶液を得た。
この有機無機複合材料溶液を実施例1と同様の金型を用いて有機無機複合材料からなる実施例2の光学素子を得た。実施例2の光学素子を実施例1と同様に評価した。これらの結果を表1にまとめた。成形性は合格であり、光透過性、光散乱性ともに良好であった。
【0045】
(実施例3)
無機成分であるフェニル基含有有機ケイ素化合物としてフェニルトリメトキシシラン3.1g、重合基含有有機ケイ素化合物として3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン3.9g、および触媒として0.02Nの塩酸4.9gからなる溶液を25℃にて4時間撹拌した。さらに無機成分である有機ケイ素化合物としてテトラメトキシシラン4.8gおよびメタノール15.0gを添加して25℃にて12時間撹拌し無機成分をゾル−ゲル反応させた。さらにこの溶液に希釈溶剤としてメチルイソブチルケトン20.0gと、触媒として0.3Nアンモニアのメタノール溶液5.0gを添加して25℃にて12時間撹拌し無機成分をゾル−ゲル反応させた。この無機成分溶液に有機成分であるテトラエチレンネオペンチルグリコールジアクリレート4.0gとトリメチルプロパントリアセテート2g、熱硬化剤であるアゾビスイソブチルニトリル0.06gを添加した。この溶液から副生成物である水、メタノールおよび希釈溶剤のメチルイソブチルケトンを除去し有機無機複合材料溶液を得た。
この有機無機複合材料溶液を実施例1と同様の金型を用いて有機無機複合材料からなる実施例3の光学素子を得た。実施例3の光学素子を実施例1と同様に評価した。これらの結果を表1にまとめた。成形性は合格であり、光透過性、光散乱性ともに良好であった。
【0046】
(実施例4)
無機成分である有機ケイ素化合物としてメチルトリメトキシシラン9.53g、フェニル基含有有機ケイ素化合物としてフェニルトリメトキシシラン13.9g、重合基含有有機ケイ素化合物として3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン17.4g、および純水21.4gからなる溶液を25℃にて48時間撹拌しゾル−ゲル反応させた。さらに金属アルコキシドとしてチタニウムイソブトキシド47.7gと、希釈溶剤としてノルマルブタノール143gからなる混合液を添加して、25℃にて24時間撹拌しゾル−ゲル反応を進行させた。次に副生成物である水、メタノールおよび希釈溶剤であるノルマルブタノールを除去した無機成分反応溶液を得た。無機成分反応溶液に有機成分であるトリメチルプロパントリアセテート12gとフェノキシアクリレート4g、紫外線硬化剤である長瀬産業社のイルガキュアー500(登録商標)0.16gを添加し有機無機複合材料溶液を得た。
この有機無機複合材料溶液を実施例1と同様の金型を用いて有機無機複合材料からなる実施例4の光学素子を得た。実施例4の光学素子を実施例1と同様に評価した。これらの結果を表1にまとめた。成形性は合格であり、光透過性、光散乱性ともに良好であった。
【0047】
(比較例1)
無機成分としてフェニル基含有有機ケイ素化合物を含まず、有機ケイ素化合物としてメチルトリメトキシシラン9.5g、重合基含有有機ケイ素化合物として3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン4.3g、および純水4.7gからなる溶液を25℃にて48時間撹拌し無機成分のみをゾル−ゲル反応させた。溶液から副生成物である水、メタノールを除去した無機成分反応溶液を得た。前記無機成分反応溶液に有機成分であるメチル(メタ)アクリルレート10.0gと、紫外線硬化剤である長瀬産業社のイルガキュアー500(登録商標)0.1gを添加し有機無機複合材料溶液を得た。
この有機無機複合材料溶液を実施例1と同様の金型を用いて有機無機複合材料からなる比較例1の光学素子を得た。比較例1の光学素子を実施例1と同様に評価した。外観にハガレ、シワ、クラックがなく、金型の転写性は良好で成形性は合格であった。また500nmの透過率は91%、700nmの透過率は92%であり、光透過性は良好であった。しかし500nmの散乱光の相対強度は35×10−4、700nmの散乱光の強度は20×10−4であり、光散乱性は悪かった。これらの結果を表1にまとめた。
【0048】
(比較例2)
無機成分として平均粒径10〜20nmのシリカナノ粒子を30重量%含有しているメチルエチルケトン溶液である日産化学社製のスノーテックMEK−ST(登録商標)20.0gに、有機成分であるトリメチルプロパントリアセテート3gとジメチロールトリシクロデカンジアクリレート3g、紫外線硬化剤である長瀬産業社のイルガキュアー500(登録商標)0.06gを添加した後、前記溶液からメチルエチルケトンを除去した有機無機複合材料溶液を得た。
この有機無機複合材料溶液を実施例1と同様の金型を用いて有機無機複合材料からなる比較例2の光学素子を得た。比較例2の光学素子を実施例1と同様に評価した。これらの結果を表1にまとめた。成形性および光透過性は合格であったが、光散乱性は悪かった。
【0049】
以上の実施例1〜4および比較例1,2の評価は、光学素子として使用できる程度を○、使用できない程度を×、として示すと、表1のようになる。
【表1】
【0050】
【発明の効果】
以上のように、本発明の光学素子形成用の有機無機複合材料を成形し硬化して得られた本発明の光学素子は、屈折率、透過率等の光学的特性に不均一な部分がない。したがって、本発明によれば光散乱性も含めた光学特性および成形性に優れた光学素子を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の光学素子を成形するための金型の一例を示す断面図である。
【図2】本発明の光学素子を成形するための金型の別な例を示す断面図である。
【符号の説明】
1、11 金属製下型
2、12 紫外線透過ガラス製上型
3、13 金属製胴型
4、14 キャビティ
5、15 注入口
6、16 排出口
7a、7b 光学有効面を形成する相手面
【発明の属する技術分野】
本発明は、例えばカメラ等の撮像光学系、表示デバイス等の投影光学系、画像表示装置等の観察光学系、光磁気ディスクドライブ等のレーザ光学系、導波路などに用いる光学素子、およびそのような光学素子を形成するに適した有機無機複合材料に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
光学素子には、最も重要な基本性能として、用いられる光学系の使用波長域において高い光透過性を有することが要求される。さらに光学系の種類、光学性能、形状などの要件によって、光学素子には高屈折率性、低複屈折性、耐熱性、耐環境性、耐溶剤性、高硬度、成形性などが要求されてくる。
【0003】
従来、これらの光学素子としては、いわゆる光学ガラスを研削、研磨加工したあるいは低融点ガラスを高温で圧縮成形したガラス製の光学素子、熱可塑性樹脂を射出成形した、あるいはエネルギー硬化型樹脂を成形しつつ熱や光で重合した樹脂製の光学素子が一般的に用いられてきた。
【0004】
また近年、光学素子用の材料として無機化合物と有機化合物を用いた有機無機複合材料からなる光学素子が提案されてきた。このような光学素子用の有機無機複合材料としては、例えば特許文献1に示されるように、樹脂中にナノサイズの微粒子を均一に分散させた超微粒子分散型光学材料が挙げられる。この超微粒子分散型光学材料は、粒子径5〜100nmの金属粉末あるいは金属酸化物粉末を有機樹脂中に分散させることにより、透明で屈折率制御が可能な光学素子となる。
【0005】
また、特許文献2に示すような、有機成分としてウレタン結合を含有する樹脂を、無機成分であるSiO2系3次元微細構造体中に分散させたレンズ用無機有機複合材料が挙げられる。このレンズ用無機有機複合材料は、ウレタン結合を含有するポリマーを、SiO2系3次元微細構造体中に均一に分散させることで、透明で優れた光学特性および優れた耐水性、耐薬品性を有する光学素子となる。
【0006】
また、有機成分としてのフロロ炭化水素基を有するポリシロキサン樹脂と無機成分としてのコロイダルシリカを含むポリシロキサン樹脂組成物を含む、無機有機複合材料が、特許文献3には挙げられている。この無機有機複合材料は、低屈折率を与えるフロロ炭化水素基を可能な限り凝集構造を発現させることなくポリシロキサン樹脂中に均一に分布させることで、低屈折率で、低い屈折率分散性を有する。この無機有機複合材料を乾燥させて溶媒を除去して、付形し、加熱硬化して光学素子となる。
【0007】
【特許文献1】
特開2000−44811
【特許文献2】
特開平7−97511
【特許文献3】
特開2001−40215
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
光学ガラスを研削、研磨加工したガラス製の光学素子においては、その素子の光学有効面を収差補正性能の優れる非球面形状に加工することが難しい、あるいは加工に時間がかかるので量産にはむかないという欠点がある。また低融点ガラスを高温で押圧成形したガラス製の光学素子においては、その素子の光学有効面を非球面形状に加工するのが容易であり低複屈折で耐環境性などに優れる利点はあるものの、大口径あるいは大偏肉形状の成形が難しい、あるいは成形機および金型が高価であるなど成形性等に欠点がある。
【0009】
また、熱可塑性樹脂あるいはエネルギー硬化型樹脂からなる樹脂製の光学素子においては、大口径あるいは複雑形状に成形できる成形性や量産性に優れる利点があるものの、温度や湿度によって形状や光学特性が大きく変化してしまうので、耐環境性や、耐熱性あるいは耐溶剤性などに問題がある。
【0010】
近年、提案されてきた各特許文献に記載の有機無機複合材料からなる光学素子は、複雑形状に成形できる成形性、透明性、耐水性、耐薬品性などに優れ、比較的簡単に量産できる利点はあるものの、得られた光学素子は、光学性能の1つである光散乱性が劣るという問題点がある。
【0011】
光散乱性とは、光学素子内部における光の散乱の強度を評価するものである。光散乱性が悪い、つまり散乱光の強度が大きい光学素子では、仮にその光学素子の収差がゼロであっても、光学素子を透過した光による像がぼやけてしまい、優れた光学素子とはいえない。光散乱性は、光学素子を構成する材料自身に起因するもので、光学素子内部が光学的(すなわち、屈折率、透過率)に均一でない場合に光が散乱してしまうことによる。
【0012】
従来、光学系の使用波長により小さい粒子等の不均一成分を含んだ光学素子の場合、小さい不均一成分は光学性能に影響を与えないと考えられており、およそ400〜800nmが使用波長域である白色光学系の光学素子として、100nm、あるいは30nm程度の不均一成分であるナノ粒子を無機化合物として含む有機無機複合材料からなる光学素子が提案されてきた。
【0013】
そのため、特許文献3にあるように、フッ素変性ポリシロキサン樹脂に平均粒径が0.1ミクロン以下、より好ましくは平均粒径が10〜40nmの範囲のコロイダルシリカを含む無機有機複合材料が光学材料として提案され、光学素子が製造されている。
しかし、このように光学系の使用波長より小さい不均一成分が多量に光学素子内部に存在すると、プリズムあるいは導波路など光学素子単体内での光路長が長い光学素子、あるいは顕微鏡や高画素デジタルカメラなど光学素子自身に高性能な光学性能が要求される光学系の光学素子においては、散乱光の大きさが問題になってしまう。
【0014】
本発明は、前記のような問題点を解決し、光散乱性も含めた光学特性および成形性に優れた光学素子およびそのような光学素子を形成するための有機無機複合材料を提供することを課題とする。
【0015】
【課題を解決するための手段】
前記課題を解決するため、本発明の光学素子形成用の有機無機複合材料は、下記化学式(1),(2)および(3)
R1 aSi(OR2)4−a ・・・(1)
(式中、R1およびR2は同一あるいは異なるアルキル基、R1の炭素数が1から6、R2の炭素数が1から6、aは0または1)
R3Si(OR4)3 ・・・(2)
(式中、R3はフェニル基含有有機基、R4は炭素数1から6のアルキル基)
R5 cR6 dSi(OR7)4−c−d ・・・(3)
(R5およびR6は同一あるいは異なるアルキル基、ビニル基、アリル基、アクリロイル基、メタクロイル基、アミノ基またはエポキシ基含有有機基、R7は炭素数1から6のアルキル基、cおよびdは0から2の整数でかつc+dは1から2の整数)で表される有機ケイ素化合物あるいはその加水分解物の3種類を無機成分として含むことを特徴とする。
化学式(1)で示す有機ケイ素化合物あるいはその加水分解物の具体例は、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラブトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリブトキシシランあるいはそれらの加水分解物などを挙げることができる。
化学式(2)で示すフェニル基含有有機ケイ素化合物あるいはその加水分解物の具体例は、フェニルメトキシシラン、フェニルエトキシシラン、フェニルブトキシシランあるいはそれらの加水分解物などを挙げることができる。
化学式(3)で示す重合基含有有機ケイ素化合物あるいはその加水分解物の具体例は、ビニルエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)トリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシランあるいはそれらの加水分解物などを挙げることができる。
【0016】
本発明の光学素子形成用の有機無機複合材料は、無機成分としてさらに下記化学式(4)
R8 eM(OR9)f ・・・(4)
(MはAl、Be、Cu、Ge、Hf、La、Mg、Sc、Ta、Th、Ti、V、Y、Zn、Zrからなる群から選ばれる少なくても1種の金属元素、R8はアルキル基、ビニル基、アリル基、アクリロイル基、メタクロイル基、アミノ基またはエポキシ基含有有機基、R9は炭素数1から6のアルキル基、eは0または1、fは正の整数)で表される金属アルコキシドあるいはその加水分解物を含んでいてもよい。
化学式(4)で示す金属アルコキシドあるいはその加水分解物の具体例は、アルミニウムイソプロポキシド、ペンタエトキシタンタル、チタニウムイソプロポキシド、チタニウムメタクリレートトリイソプロポキシド、ジルコニウムメタクリルオキシエチルアセトアセテートトリノルマルプロポキシド、ジルコニウムノルマルプロポキシドあるいはそれらの加水分解物などを挙げることができる。
【0017】
これらの金属アルコキシドあるいはその加水分解物は、主に屈折率あるいは透過率など光学特性の調整のために添加されもので、金属元素Mの選択によって、化学式(1)、(2)、(3)の無機成分を混合して屈折率を調整するよりも、容易に光学素子または有機無機複合材料の屈折率を調整できる。
【0018】
光学素子形成用の有機無機複合材料は、前記無機成分と、その無機成分と相容する樹脂のモノマーもしくはオリゴマーの有機成分とからなることで好適に実施できる。
【0019】
有機成分は、無機成分と完全に相溶すれば特に限定されるものではない。例えば熱可塑性樹脂では、非晶性ポリオレフィン系樹脂、ノルボルネン系樹脂、ポリカーボネート、アクリル樹脂、ポリスチレン、ABS樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂などおよびこれらの共重合体を挙げることができる。また熱硬化性樹脂では、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、フッ素樹脂、アリレート樹脂、シリコーン樹脂などを挙げることができる。
【0020】
無機成分中、化学式(1)の無機成分が5〜94モル%、化学式(2)の無機成分が5〜94モル%、化学式(3)の無機成分が1〜80モル%であることが好ましい。
【0021】
化学式(1)で示す無機成分の有機ケイ素化合物あるいはその加水分解物は、全ての無機成分の10モル%以上80モル%以下であることがより好ましい。
【0022】
化学式(2)で示す無機成分のフェニル基含有有機ケイ素化合物あるいはその加水分解物は、全ての無機成分の10モル%以上80モル%以下であることがより好ましい。この含有量が多すぎると複屈折性が悪化し、少なすぎると無機成分と有機成分の相溶性が悪化し無機成分が凝集し屈折率あるいは透過率が均一でない部分が生成し光散乱性が悪化してしまう。
【0023】
化学式(3)で示す無機成分の重合基含有有機ケイ素化合物あるいはその加水分解物は、全ての無機成分の5モル%以上60モル%以下であることがより好ましい。この含有量が多すぎると無機成分と有機成分の相互作用が大きくなって硬化時にクラックや割れが生じやすくなり成形性が悪化し、少なすぎると無機成分と有機成分の相互作用が小さくなり光散乱性、耐環境性、耐熱性が悪化してしまう。
【0024】
無機成分中、化学式(4)の無機成分が1〜60モル%であることが好ましい。より好ましくは1〜60モル%である。この添加量は、光学素子が求められる光学特性によって、種類で異なる。
有機成分100重量部に対する前記無機成分の含有量は、30〜1000重量部である。より好ましくは60〜400重量部である。
また、前記課題を解決するための本発明の光学素子は、前記有機無機複合材料で形成されている。
【0025】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の好ましい実施の形態を詳細に説明する。
本発明の光学素子を構成する有機無機複合材料は、有機成分と無機成分とが分子レベルもしくはナノスケールレベルで混合されて複合化されたものである。その形態は有機骨格からなる高分子マトリックスと無機骨格からなるマトリックスが相互に絡み合い、互いのマトリックスへ貫入した構造のもの(IPN構造)、あるいは有機骨格からなるモノマーもしくはオリゴマーと無機元素を持つモノマーもしくはオリゴマーとが共重合した構造のもの(共重合構造)、および両者の構造の複合構造を有するものである。
【0026】
上記各形態の有機無機複合材料では、有機成分と無機成分との間には水素結合や分散力、クーロン力などの分子間力や、共有結合、イオン結合、π電子雲の相互作用による引力など何らかの相互作用が働いており、ナノ分子のような屈折率あるいは透過率が均一でない成分を含んでいない。このような有機無機複合材料を成形して得られた光学素子は、白色光学系に用いるときに障害となりうる平均粒径10〜100nmのコロイダルシリカのナノ粒子というような不均一成分を含んでいない。
【0027】
本発明の有機無機複合材料からなる光学素子の製造方法としては、例えば以下の方法がある。有機成分の熱硬化性樹脂のモノマーあるいはオリゴマーと、無機成分の有機ケイ素化合物あるいはその加水分解物、フェニル基含有有機ケイ素化合物あるいはその加水分解物、および重合基含有有機ケイ素化合物あるいはその加水分解物と、さらに必要に応じて水、溶剤、触媒、硬化剤を混合し、樹脂モノマーの重合反応と無機成分のゾル−ゲル反応を同時に進行させる。それによって有機成分と無機成分が相互にネットワーク構造を持った有機無機複合材料の溶液となる。その溶液を硬化させる際に光学素子に対応した形状に形成すれば、所望形状の光学素子が得られる。
【0028】
また、本発明の有機無機複合材料からなる光学素子の製造方法の別な例としては、先ず、有機ケイ素化合物あるいはその加水分解物、フェニル基含有有機ケイ素化合物あるいはその加水分解物、および重合基含有有機ケイ素化合物あるいはその加水分解物からなる無機成分のみを混合してゾル−ゲル反応を比較的ゆっくり行わせる。ゾル−ゲル反応を比較的ゆっくり行わせることは、無機成分のみからなる重合体、例えば有機ケイ素化合物とフェニル基含有有機ケイ素化合物のみ、あるいは有機ケイ素化合物のみの重合体の生成を抑制できる点で重要である。たとえ重合体が生成したとしても少量であって、その大きさを10nm未満に抑えることができて、屈折率あるいは透過率が均一でない部分を生成しない。
【0029】
前記ゾル−ゲル反応をゆっくり行わせるため、ゾル−ゲル反応の反応速度が速い4官能の有機ケイ素化合物と、3あるいは2官能のフェニル基含有有機ケイ素化合物および重合基含有有機ケイ素化合物を混合した後の無機成分によるゾル−ゲル反応の反応条件(例えば温度、時間)、あるいは希釈溶剤の添加による無機成分の濃度を調整し、この調整後に得られる無機成分反応溶液と有機成分とを混合する。あるいは別の方法としては有機ケイ素化合物、フェニル基含有有機ケイ素化合物および重合基含有有機ケイ素化合物のそれぞれをあらかじめ別々に加水分解反応を起こさせた後、それぞれの加水分解生成物を混合して得た無機成分を無機成分反応溶液として、有機成分と混合する。得られた有機無機複合材料溶液を硬化させる際に光学素子に対応した形状に形成すれば、所望形状の光学素子が得られる。
【0030】
また、溶剤の種類と添加量によって、有機無機複合材料からなる光学素子形成時における該材料溶液の流動性の調整が可能である。さらに硬化剤の種類と添加量を変えることによって有機無機複合材料からなる光学素子の成形時における該材料液の熱やエネルギー線照射等による硬化方法や硬化条件の調整が可能である。
【0031】
このように製造した有機無機複合材料からなる光学素子は、コロイダルシリカのナノ粒子のような不均一成分を含んでいないため、光学的に均一であり光散乱性、光透過率に優れるばかりでなく、有機成分と無機成分が相互作用により、有機成分のみからなる樹脂製光学素子に対して耐熱性の向上、熱膨張率の低下など熱的特性の向上が図られる。
【0032】
無機成分としてさらに金属アルコキシドあるいはその加水分解物を添加した有機無機複合材料からなる光学素子は、上記特性以外にも、金属元素Mの作用によって高屈折率あるいは波長選択性などを有するレンズ、プリズムあるいはフィルター等の各光学素子を得ることができる。
【0033】
本発明による光学素子の成形方法の一例を、図面を参照して説明する。
図1は、両面凸形状の光学素子の成形に用いる金型の一例を示す図である。
この金型は、金属製下型1、紫外線透過ガラス製上型2、リング状の金属製胴型3からなっている。金属製下型1と紫外線透過ガラス製上型2の各外周面は、金属製胴型3の内周面と摺動可能に嵌合している。ガラス製上型2にはフランジ部2aを備え、金属製胴型3の上面に当接して係止する。下型1は、胴型3内を上下動するように、図示しない駆動源に繋がる駆動ロッド1aに取り付けられている。下型1と上型2との対向する各面と、胴型3の内周面とで光学素子成形用のキャビティ4が形成されている。金属製胴型3の胴体に、有機無機複合材料の溶液をキャビティ4内に注入するための注入口5と、注入された有機無機複合材料が、光学素子の容量よりも余分になってあふれ出てくる排出口6が設けてある。金属製下型1と紫外線透過ガラス製上型2には、成形した光学素子の光学有効面を形成するための相手面7a、7bが設けてある。
【0034】
この金型を使用して光学素子を成形するときには以下の手順で行う。金属製下型1と紫外線透過ガラス製上型2を金属製胴型3に嵌合し、下型1を第一段階の所定高さまで上昇させてキャビティ4が形成される。有機成分と無機成分を含む有機無機複合材料溶液を注入口5より注入してキャビティ4内に充填していく。このときキャビティ4内を負圧にしておくと、有機無機複合材料溶液の注入時における気泡の巻き込みや、キャビティ内の空気残りを防ぐことができる。排出口6から、光学素子の成形に必要な量を超えた余分量の有機無機複合材料溶液があふれ出てきた時点で有機無機複合材料溶液の注入をとめる。そして金属製下型1を上方に移動させ、注入口5および排出口6を塞ぎ下型1を第二段階の高さにする。次に紫外線透過ガラス製上型2の上方より紫外線を照射し有機無機複合材料溶液を硬化させる。このとき有機無機複合材料溶液の硬化にともなう収縮にあわせて金属製下型1を上方にゆっくりと移動させる。収縮に連動させて下型を上昇させることで、硬化後の光学素子の内部応力を低減できる。有機無機複合材料溶液が十分に硬化した後、金属製下型1と紫外線透過ガラス製上型2をそれぞれ光学素子から離型し移動させて金型を開いて、有機無機複合材料からなる光学素子を取り出す。
【0035】
有機無機複合材料が紫外線によって硬化しないタイプである場合は、上記の方法のキャビティ4内に有機無機複合材料溶液を充填し、注入口5および排出口6をシールし、下型1をさらに上動させて光学有効面を形成するための各型の相手面7a、7bを複合材料に転写する。その後、この複合材料に対し下型1側から加圧をしつつ、金型ごと加熱器に投入するか、あるいはガラス製上型2の上方よりハロゲンランプの光を照射するなどして熱エネルギーを供給して有機無機複合材料溶液を硬化させて光学素子を得ることができる。
【0036】
【実施例】
以下、本発明を適用して光学素子を試作した実施例、本発明を適用せずに光学素子を試作した比較例につきその評価を行った。詳細を以下に説明する。
光学素子の評価方法は以下のとおりである。
(成形性)φ30mmで厚さ3mmの平行平面を有する光学素子を、金型を用いて成形した時の、光学有効面の外観および形状を肉眼にて評価した。外観にハガレ、シワ、クラックがなく、金型の成形用光学有効面の転写性が高いものを合格、それ以外を不合格とした。
【0037】
(光透過性)成形性の評価に用いた平行平面を有する光学素子について、日立製作所製分光光度計U−4100を用いて400nm〜800nmの範囲の分光透過率を測定した。このうち500nmと700nmの透過率について評価した。表面反射を含んでいるので波長が短いほど透過率は低下する傾向にあるが、85%以上あれば通常の撮像光学系、表示デバイスの投影光学系や画像表示装置の観察光学系に用いる光学素子として合格レベルである。
【0038】
(光散乱性)成形性の評価に用いた平行平面を有する光学素子について、上記光透過率の評価に用いた分光光度計を用いて、透過光の光軸以外の方向に散乱されている散乱光を、積分球を用いて集光して散乱光の強度を測定した。単位光路長あたりの各波長の透過率を100としたときの相散乱光の相対強度を求めた。このうち500nmと700nmの散乱光の強度を評価した。散乱光は波長が短いほど増加する傾向にあるが、500nmでは30×10−4以下、700nmでは20×10−4以下あれば光散乱強度が低いといえ、光散乱性に優れるレベルである。
【0039】
(実施例1)
無機成分である有機ケイ素化合物としてメチルトリメトキシシラン6.6g、フェニル基含有有機ケイ素化合物としてフェニルトリメトキシシラン1.6g、重合基含有有機ケイ素化合物として3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン6.0g、および純水4.4gからなる溶液を25℃にて48時間撹拌し無機成分のみをゾル−ゲル反応させた。この溶液から副生成物である水、メタノールを除去した無機成分反応溶液を得た。無機成分反応溶液に有機成分であるメチル(メタ)アクリレート10.0gと、紫外線硬化剤である長瀬産業社のイルガキュアー500(登録商標)0.1gを添加し有機無機複合材料溶液を得た。
【0040】
この有機無機複合材料溶液をφ30mm厚さ3mmの平行平面板を得るための金型に充填して、1mw/cm2の紫外線を24時間照射して有機無機複合材料溶液を硬化させ、この際、一方の型を複合材料の硬化収縮に対応させつつ移動して、有機無機複合材料からなる平行平面板の光学素子を得た。
【0041】
金型としては、図2に要部の断面図を示す金型を用いた。金型10は、SUS製下型11、上方にフランジ部12aを備え紫外線を透過するガラス製上型12、リング状のSUS製胴型13から構成されている。下型11と上型12の各対向する光学有効面の相手面11a、12bは、平行平面板の光学有効面を成形するよう高い表面精度(Rmax0.02μm以下)で研磨加工され、各型の各外周面は、胴型13の内周面13aに嵌合して摺動自在に形成されている。この下型11と上型12の各光学有効面の相手面11a、12bと胴型13の内周面13aとで形成される空間によって、光学素子を成形するキャビティ14が形成される。下型11の下面には駆動ロッド11cが取り付けられて油圧シリンダやパルスモータ等の駆動源(不図示)に接続され、下型11が胴型13内で上下動の位置制御がされるようになっている。胴型13の外周には、有機無機複合材料溶液をキャビティ14内に注入するための注入口15と、所望の平行平面板を得る際の余分量を排出するための排出口16が形成されている。
【0042】
成形にあたっては、上型12を胴型13に嵌合させて固定した後、下型11を胴型13の内周面13aに沿って上昇させ、光学有効面の相手面11a、12bの間が第一段階の高さに達した時点でその上昇を停止させた。次いで注入口15からキャビティ14内に有機無機複合材料溶液を注入した。この時、金型10の周囲を密閉して負圧雰囲気状態にし、そして駆動ロッド11cで押して下型11をさらに上昇させた。このとき下型11の外周面で注入口15および排出口16を閉じた。そして、下型11が第二段階の高さに達した時点で上昇を停止させた。その後、上型12の上方から上記強度の紫外線UVを所定時間照射すると共に、下型11には駆動ロッド11cを介してキャビティ14側の向きに押圧力が作用するように制御し、有機無機複合材料溶液を硬化させるとともに、硬化収縮に対応しつつ下型11を下方から押圧して移動させた。材料溶液の硬化収縮が停止する時点での前記下型11と上型12の各光学有効面の相手面11a、12bの間隔が3mmとなるように設定した成形を行った。金型10の周囲の密閉を解除し、下型11を下降するとともに上型12を胴型13から取り外して、平行平面板からなる実施例1の光学素子を得た。
【0043】
前記の評価方法にしたがって、実施例1の光学素子につき評価をおこなった。外観にハガレ、シワ、クラックがなく、金型の転写性は良好で成形性は合格であった。500nmの透過率は91%、700nmの透過率は92%であり、光透過性は良好であった。500nmの散乱光の相対強度は11×10−4、700nmの散乱光の強度は8×10−4であり、光散乱性は良好であった。これらの結果を表1にまとめてある。
【0044】
(実施例2)
無機成分である有機ケイ素化合物としてメチルトリメトキシシラン1.0g、フェニル基含有有機ケイ素化合物としてフェニルトリメトキシシラン8.8g、重合基含有有機ケイ素化合物として3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン3.7g、および純水4.4gからなる溶液を25℃にて8時間撹拌した後、さらにテトラメトキシシラン1.2gを添加して25℃にて48時間撹拌し無機成分のみをゾル−ゲル反応させた。この溶液から副生成物である水、メタノールを除去した無機成分反応溶液を得た。無機成分反応溶液に有機成分であるトリメチルプロパントリアセテート3gとジメチロールトリシクロデカンジアクリレート3g、紫外線硬化剤である長瀬産業社のイルガキュアー500(登録商標)0.06gを添加し有機無機複合材料溶液を得た。
この有機無機複合材料溶液を実施例1と同様の金型を用いて有機無機複合材料からなる実施例2の光学素子を得た。実施例2の光学素子を実施例1と同様に評価した。これらの結果を表1にまとめた。成形性は合格であり、光透過性、光散乱性ともに良好であった。
【0045】
(実施例3)
無機成分であるフェニル基含有有機ケイ素化合物としてフェニルトリメトキシシラン3.1g、重合基含有有機ケイ素化合物として3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン3.9g、および触媒として0.02Nの塩酸4.9gからなる溶液を25℃にて4時間撹拌した。さらに無機成分である有機ケイ素化合物としてテトラメトキシシラン4.8gおよびメタノール15.0gを添加して25℃にて12時間撹拌し無機成分をゾル−ゲル反応させた。さらにこの溶液に希釈溶剤としてメチルイソブチルケトン20.0gと、触媒として0.3Nアンモニアのメタノール溶液5.0gを添加して25℃にて12時間撹拌し無機成分をゾル−ゲル反応させた。この無機成分溶液に有機成分であるテトラエチレンネオペンチルグリコールジアクリレート4.0gとトリメチルプロパントリアセテート2g、熱硬化剤であるアゾビスイソブチルニトリル0.06gを添加した。この溶液から副生成物である水、メタノールおよび希釈溶剤のメチルイソブチルケトンを除去し有機無機複合材料溶液を得た。
この有機無機複合材料溶液を実施例1と同様の金型を用いて有機無機複合材料からなる実施例3の光学素子を得た。実施例3の光学素子を実施例1と同様に評価した。これらの結果を表1にまとめた。成形性は合格であり、光透過性、光散乱性ともに良好であった。
【0046】
(実施例4)
無機成分である有機ケイ素化合物としてメチルトリメトキシシラン9.53g、フェニル基含有有機ケイ素化合物としてフェニルトリメトキシシラン13.9g、重合基含有有機ケイ素化合物として3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン17.4g、および純水21.4gからなる溶液を25℃にて48時間撹拌しゾル−ゲル反応させた。さらに金属アルコキシドとしてチタニウムイソブトキシド47.7gと、希釈溶剤としてノルマルブタノール143gからなる混合液を添加して、25℃にて24時間撹拌しゾル−ゲル反応を進行させた。次に副生成物である水、メタノールおよび希釈溶剤であるノルマルブタノールを除去した無機成分反応溶液を得た。無機成分反応溶液に有機成分であるトリメチルプロパントリアセテート12gとフェノキシアクリレート4g、紫外線硬化剤である長瀬産業社のイルガキュアー500(登録商標)0.16gを添加し有機無機複合材料溶液を得た。
この有機無機複合材料溶液を実施例1と同様の金型を用いて有機無機複合材料からなる実施例4の光学素子を得た。実施例4の光学素子を実施例1と同様に評価した。これらの結果を表1にまとめた。成形性は合格であり、光透過性、光散乱性ともに良好であった。
【0047】
(比較例1)
無機成分としてフェニル基含有有機ケイ素化合物を含まず、有機ケイ素化合物としてメチルトリメトキシシラン9.5g、重合基含有有機ケイ素化合物として3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン4.3g、および純水4.7gからなる溶液を25℃にて48時間撹拌し無機成分のみをゾル−ゲル反応させた。溶液から副生成物である水、メタノールを除去した無機成分反応溶液を得た。前記無機成分反応溶液に有機成分であるメチル(メタ)アクリルレート10.0gと、紫外線硬化剤である長瀬産業社のイルガキュアー500(登録商標)0.1gを添加し有機無機複合材料溶液を得た。
この有機無機複合材料溶液を実施例1と同様の金型を用いて有機無機複合材料からなる比較例1の光学素子を得た。比較例1の光学素子を実施例1と同様に評価した。外観にハガレ、シワ、クラックがなく、金型の転写性は良好で成形性は合格であった。また500nmの透過率は91%、700nmの透過率は92%であり、光透過性は良好であった。しかし500nmの散乱光の相対強度は35×10−4、700nmの散乱光の強度は20×10−4であり、光散乱性は悪かった。これらの結果を表1にまとめた。
【0048】
(比較例2)
無機成分として平均粒径10〜20nmのシリカナノ粒子を30重量%含有しているメチルエチルケトン溶液である日産化学社製のスノーテックMEK−ST(登録商標)20.0gに、有機成分であるトリメチルプロパントリアセテート3gとジメチロールトリシクロデカンジアクリレート3g、紫外線硬化剤である長瀬産業社のイルガキュアー500(登録商標)0.06gを添加した後、前記溶液からメチルエチルケトンを除去した有機無機複合材料溶液を得た。
この有機無機複合材料溶液を実施例1と同様の金型を用いて有機無機複合材料からなる比較例2の光学素子を得た。比較例2の光学素子を実施例1と同様に評価した。これらの結果を表1にまとめた。成形性および光透過性は合格であったが、光散乱性は悪かった。
【0049】
以上の実施例1〜4および比較例1,2の評価は、光学素子として使用できる程度を○、使用できない程度を×、として示すと、表1のようになる。
【表1】
【0050】
【発明の効果】
以上のように、本発明の光学素子形成用の有機無機複合材料を成形し硬化して得られた本発明の光学素子は、屈折率、透過率等の光学的特性に不均一な部分がない。したがって、本発明によれば光散乱性も含めた光学特性および成形性に優れた光学素子を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の光学素子を成形するための金型の一例を示す断面図である。
【図2】本発明の光学素子を成形するための金型の別な例を示す断面図である。
【符号の説明】
1、11 金属製下型
2、12 紫外線透過ガラス製上型
3、13 金属製胴型
4、14 キャビティ
5、15 注入口
6、16 排出口
7a、7b 光学有効面を形成する相手面
Claims (7)
- 下記化学式(1),(2)および(3)
R1 aSi(OR2)4−a ・・・(1)
(式中、R1およびR2は同一あるいは異なるアルキル基、R1の炭素数が1から6、R2の炭素数が1から6、aは0または1)
R3Si(OR4)3 ・・・(2)
(式中、R3はフェニル基含有有機基、R4は炭素数1から6のアルキル基)
R5 cR6 dSi(OR7)4−c−d ・・(3)
(R5およびR6は同一あるいは異なるアルキル基、ビニル基、アリル基、アクリロイル基、メタクロイル基、アミノ基またはエポキシ基含有有機基、R7は炭素数1から6のアルキル基、cおよびdは0から2の整数でかつc+dは1から2の整数)
で表される有機ケイ素化合物あるいはその加水分解物の3種類を無機成分として含むことを特徴とする光学素子形成用の有機無機複合材料。 - 請求項1記載の無機成分に、さらに下記化学式(4)
R8 eM(OR9)f ・・・(4)
(MはAl、Be、Cu、Ge、Hf、La、Mg、Sc、Ta、Th、Ti、V、Y、Zn、Zrからなる群から選ばれる少なくても1種の金属元素、R8はアルキル基、ビニル基、アリル基、アクリロイル基、メタクロイル基、アミノ基またはエポキシ基含有有機基、R9は炭素数1から6のアルキル基、eは0または1、fは正の整数)
で表される金属アルコキシドあるいはその加水分解物からなる無機成分を含むことを特徴とする光学素子形成用の有機無機複合材料。 - 前記無機成分と、その無機成分と相容する樹脂のモノマーもしくはオリゴマーの有機成分とからなることを特徴とする請求項1または2記載の光学素子形成用の有機無機複合材料。
- 前記無機成分中、前記化学式(1)の無機成分が5〜94モル%、前記化学式(2)の無機成分が5〜94モル%、前記化学式(3)の無機成分が1〜80モル%であることを特徴とする請求項1記載の光学素子形成用の有機無機複合材料。
- 前記無機成分中、前記化学式(4)の無機成分が1〜60モル%であることを特徴とする請求項2記載の光学素子形成用の有機無機複合材料。
- 前記有機成分100重量部に対する前記無機成分の含有量が、30〜1000重量部であることを特徴とする請求項3記載の光学素子形成用の有機無機複合材料。
- 請求項1から6記載のいずれかの有機無機複合材料で形成されたことを特徴とする光学素子。
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