JP2004305048A - ペストリー練り込み用油脂組成物 - Google Patents
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Abstract
【課題】ペストリー製造時の作業性が良く、且つソフトで歯切れの良いペストリーを提供することができるペストリー練り込み用油脂組成物を提供すること。さらに、可塑性範囲が広く、経日的にも硬さが変化せず安定であるペストリー練り込み用油脂組成物を提供すること。
【解決手段】S1MS2(S1及びS2は飽和脂肪酸、Mはモノ不飽和脂肪酸を表す)で表されるトリグリセリドとMS3M(S3は飽和脂肪酸、Mはモノ不飽和脂肪酸を表す)で表されるトリグリセリドとからなるコンパウンド結晶を含有することを特徴とするペストリー練り込み用油脂組成物。
【選択図】 なし
【解決手段】S1MS2(S1及びS2は飽和脂肪酸、Mはモノ不飽和脂肪酸を表す)で表されるトリグリセリドとMS3M(S3は飽和脂肪酸、Mはモノ不飽和脂肪酸を表す)で表されるトリグリセリドとからなるコンパウンド結晶を含有することを特徴とするペストリー練り込み用油脂組成物。
【選択図】 なし
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、パイ生地やデニッシュ生地、シナモンロール生地等、ペストリー生地を圧延する際の伸展性や作業性が良く、且つ歯切れがよくヒキのないペストリー製品を提供することができるペストリー練り込み用油脂組成物に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、マーガリン、ショートニング等の可塑性油脂に使用される油脂は『マーガリン ショートニング ラード』(非特許文献1)に記載の『マーガリン、ショートニングは常温で結晶性脂肪をもつ可塑性物質と定義されるが、そのためその物理性は主に稠度、可塑性及び結晶構造に関連する。物理的にその結晶状態はAlfaは蝋状(アセトグリセリドの如き)、Betaは粗結晶、そしてBeta−primeは微粒状である。融点ではAlfa、Beta−prime、Betaの順に高くなる。マーガリン、ショートニング組成の望ましい結晶状態はBeta−primeといわれている。』の通り、その結晶状態はβプライム型のものが良好とされ、用いられてきた。
【0003】
βプライム型の油脂結晶は微細結晶をとり乳化安定性に寄与し、良好な稠度を示す。反面このβプライム型結晶はエネルギー的には準安定形であるため、保存条件等が適切でない場合等には、更にエネルギー的に安定なβ型結晶へと転移現象を引き起こすという欠点があった。このβ型結晶は最安定形であるため、これ以上の転移現象を起こすことはないが、一般に結晶サイズが大きく、グレイニングやブルームと呼ばれる粗大結晶粒を形成し、ザラつきや触感の悪さを呈し、製品価値の全くないものになってしまう。
【0004】
βプライム型を経由するβ型結晶であっても、結晶サイズの比較的小さなものも知られている。例えば、カカオ脂のV型結晶がこれに相当し、実質はSOS、POS等の対称型トリグリセリドのβ2型結晶である。しかしながら、これらの結晶サイズの比較的小さなβ型結晶を得るには、テンパリングと呼ばれる特殊な熱処理工程を経る必要があったり、所定温度まで冷却した後、結晶核となる特定成分を加える等、極めて煩雑な工程を要するものであった。結果として通常のペストリー練り込み用油脂組成物を製造するような急冷可塑化工程では、当該結晶は得られないのが実状である。また、カカオ脂のV型結晶は可塑性に乏しいものである。
【0005】
一方、βプライム型で最安定形の油脂でさえ経日的に硬くなる傾向があり、結晶の析出方法や保存方法等を細かく管理しなければならなかった。
【0006】
上記のような問題点を解決するため、エネルギー的にも安定で且つ微細な結晶を得る目的で、これ迄にも種々の発明がなされてきた。例えば、特定のトリグリセリド比率とすることにより、β型結晶を得る方法(例えば特許文献1参照)、また、エステル交換反応により油脂のグレイニングを抑制する方法(例えば特許文献2参照)、そして高融点油脂を配合することにより微細な結晶を維持させる方法(例えば特許文献3参照)、さらに、構成脂肪酸として炭素数16〜22の飽和脂肪酸をグリセリンの2位に、炭素数16〜18で一つの不飽和結合を有する不飽和脂肪酸をグリセリンの1、3位に結合した混酸型トリグリセリドを含有する方法(例えば特許文献4参照)が開示されている。
【0007】
しかし、(特許文献1)の方法ではβ型結晶を得るのにテンパリング操作が必要とされ、(特許文献2)及び(特許文献3)の方法では、得られた組成物は経日的に硬くなる傾向があり、ペストリー練り込み用油脂組成物として安定性の点で十分に満足の得られるものではなかった。また、(特許文献4)の方法はカカオ代用脂及びこれを含有する油脂性菓子用途に限定されたものであった。
【0008】
ペストリー生地製造の際には、いったん生地を作成し、それを圧延する操作がある。その後、パイやデニッシュ・クロワッサン等では折りたたみ操作を加え多層生地を作成する。この際、生地は圧延の際の圧力により、加工硬化をおこす。これは小麦粉に含まれるグルテンの性質によるものである。そのため、とくに、複数回の折りたたみ操作を加える多層生地作成の際には、加工硬化で延展性が低下した生地を冷蔵庫等で冷却し、生地を弛緩させることが必要となる。しかし、この際に生地に使用した練り込み油脂の加工軟化度が高く、また、結晶性の悪い油脂であると、この冷却によって、生地は弛緩しても、練り込み油脂が軟らかいままで、延展性は良好でもコシのない生地となってしまい、ロールイン操作時に生地の縮みが大きく、その後の成型操作時においても、生地重量がばらつき、形の均整性が損なわれたペストリー製品となってしまう。また、そのようなペストリー製品は、浮きも悪く、さらに、食感も劣ったものとなってしまう。
【0009】
延展性や作業性改良のために例えば、水分を増やす方法があるが、この方法だと、生地が軟らかすぎてべたつき、扱いにくく延展性が悪く上に、多層生地の場合、ロールイン油脂をロールインした際に生地が軟らかすぎ、ロールイン油脂との伸展性がマッチせず、きれいな内相の層状食品得ることは不可能である。このため、乳化剤やプロテアーゼを用いて生地の延展性を改良することや、またさらに生地の作業性を向上し、物性変化を抑制するため、グルコースオキシダーゼにグルテン、ステアロイル乳酸塩、プロテアーゼおよび酸化剤を組み合わせた生地改良剤も開示されている。(たとえば特許文献5参照)
しかし、この公報に記載の生地改良剤は酵素のもつ生地軟化性を酸化剤や乳化剤で抑制し、バランスをとるものであり、ペストリー製品毎に異なる最適生地物性に設定する配合比を求めることが難しく、多種のペストリー製品に適用するのは困難であった。
【0010】
【非特許文献1】
マーガリン ショートニング ラード“ (P324中澤君敏著:株式会社光琳発行、発行年月日1979年8月3日)
【特許文献1】
特公昭51−9763号公報
【特許文献2】
特公昭58−13128号公報
【特許文献3】
特開平10−295271号公報
【特許文献4】
特開平4−135453号公報
【特許文献5】
特開2000−270757号公報
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
従って、本発明の目的は、生地圧延時の伸展性や作業性が良く、且つ歯切れが良くヒキのないペストリー製品を提供することができるペストリー練り込み用油脂組成物を提供することにある。さらに、可塑性範囲が広く、経日的にも硬さが変化せず安定であるペストリー練り込み用油脂組成物を提供することにある。
【0012】
【課題を解決するための手段】
本発明は、S1MS2(S1及びS2は飽和脂肪酸、Mはモノ不飽和脂肪酸を表す)で表されるトリグリセリドとMS3M(S3は飽和脂肪酸、Mはモノ不飽和脂肪酸を表す)で表されるトリグリセリドとからなるコンパウンド結晶を含有することを特徴とするペストリー練り込み用油脂組成物により、上記の目的を達成したものである。
【0013】
【発明の実施の形態】
以下、本発明のペストリー練り込み用油脂組成物について詳細に説明する。
本発明のペストリー練り込み用油脂組成物は、S1MS2(S1及びS2は飽和脂肪酸、Mはモノ不飽和脂肪酸を表す)で表されるトリグリセリド(以下とS1MS2とする)と、MS3M(S3は飽和脂肪酸、Mはモノ不飽和脂肪酸を表す)で表されるトリグリセリド(以下とMS3Mとする)とからなるコンパウンド結晶を含有する。
【0014】
上記のS1 MS2 のS1 とS2 及びMS3MのS3は、好ましくは炭素数16以上の飽和脂肪酸とし、さらに好ましくは、パルミチン酸、 ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘニン酸とする。また、本発明において、上記のS1 、S2 及びS3 が、同じ飽和脂肪酸であるのが最も好ましい。
【0015】
上記のS1 MS2 のM及びMS3 MのMは、好ましくは炭素数16以上のモノ不飽和脂肪酸、さらに好ましくは炭素数18以上のモノ不飽和脂肪酸、最も好ましくはオレイン酸である。
【0016】
本発明において、S1 MS2 とMS3 Mとからなるコンパウンド結晶とは、構造の異なるS1 MS2 1分子とMS3 M1分子とが混合された際、あたかも単一のトリグリセリド分子であるかの如き結晶化挙動を示すものである。コンパウンド結晶は分子間化合物とも呼ばれる。このコンパウンド結晶は、トリグリセリド分子のパッキング状態が2鎖長構造をとることが知られている。
【0017】
また、上記のコンパウンド結晶は、熱エネルギー的に不安定なα型結晶から、準安定形のβプライム型結晶を経由せず、最安定形のβ型結晶に直接転移したものである。つまり、上記のコンパウンド結晶は、S1MS2とMS3Mを混合溶解した後、冷却し、結晶化することにより、最安定形のβ型結晶で、且つトリグリセリド分子のパッキング状態が2鎖長構造を示す結晶として析出する。この際、上記の結晶化条件は如何なる結晶化条件であってもよく、テンパリング等の特殊な熱処理を必要としない。
【0018】
上記のコンパウンド結晶は、以下のようにして得られる油脂結晶についてX線回析で結晶型を測定した結果、該油脂結晶がβ型の2鎖長構造をとるものであるのが好ましい。
【0019】
即ち、ペストリー練り込み用油脂組成物の油相を70℃で完全融解した後、0℃で30分間保持し、好ましくは5℃で7日間保持した際に得られる油脂結晶、さらに好ましくは5℃で4日間保持した際に得られる油脂結晶、一層好ましくは5℃で1日間保持した際に得られる油脂結晶、最も好ましくは5℃で30分間保持した際に得られる油脂結晶が、X線回析で結晶型を測定した結果、β型の2鎖長構造をとるものであるのが好ましい。
【0020】
上記の油脂結晶が2鎖長構造のβ型結晶であることを確認する方法としては、例えばX線回折測定による方法が挙げられる。
【0021】
X線回折測定においては、上記の油脂結晶について、短面間隔を2θ:17〜26度の範囲で測定し、4.5〜4.7オングストロームの面間隔に対応する強い回折ピークを示した場合に、該油脂結晶はβ型結晶であると判断する。一方、上記の油脂結晶について、長面間隔を2θ:0〜8度の範囲で測定し、40〜50オングストロームに相当する回折ピークを示した場合に、2鎖長構造をとっていると判断する。
【0022】
X線回折測定において、以下のようにして短面間隔を測定すると、油脂結晶がβ型結晶であるかどうかの判断がさらに高い精度で可能となる。
【0023】
具体的には、短面間隔を2θ:17〜26度の範囲で測定し、4.5〜4.7オングストロームの面間隔に対応する範囲に最大値を有するピーク強度(ピーク強度1)と、4.2〜4.3オングストロームの面間隔に対応する範囲に最大値を有するピーク強度(ピーク強度2)とをとり、ピーク強度1/ピーク強度2の比が、1.3以上、好ましくは1.7以上、より好ましくは2.2以上、最も好ましくは2.5以上となった場合にβ型結晶であると判断する。
【0024】
従って、ペストリー練り込み用油脂組成物が上記のコンパウンド結晶を含有するかどうか確認をする一例としては、該ペストリー練り込み用油脂組成物を70℃で完全溶解した後、0℃で30分間保持し、そして5℃で30分間保持して得られた油脂結晶について、上述した方法によりX線回折で結晶型を測定した結果、β型の2鎖長構造をとるものは、上記のコンパウンド結晶を含有していると言える。
【0025】
本発明のペストリー練り込み用油脂組成物では、S1 MS2 とMS3 Mとからなるコンパウンド結晶を含有することが必要であり、S1 MS2 とMS3 Mとからなるコンパウンド結晶を含有しないと、ペストリー練り込み用油脂組成物としてペストリー製品に用いた場合、ペストリー製品が圧延時の伸展性が悪く、また食感も歯切れが悪くなったり、ヒキがでやすいので好ましくない。
【0026】
さらに、本発明では、S1 MS2 とMS3 Mとからなるコンパウンド結晶が実質的に微細結晶であることが好ましい。
【0027】
上記の微細結晶とは、コンパウンド結晶が微細であることであり、口にしたり、触った際にもザラつきを感ずることのない結晶であることを意味し、好ましくは20μm以下、さらに好ましくは10μm、最も好ましくは3μm以下のサイズの油脂結晶を指す。上記サイズとは、結晶の最大部位の長さを示すものである。結晶のサイズが20μmを超えた油脂結晶を用いた場合、口にしたり、触った際にザラつきを感じやすく、またペストリー練り込み用油脂組成物としてペストリー製品に用いた場合、ペストリー生地成形時にグルテンを傷めやすく、良好な浮きのペストリーが得られにくい。
【0028】
本発明では、上述のように、S1 MS2 とMS3 Mとからなるコンパウンド結晶が実質的に微細結晶であることが好ましい。この「実質的に」とは、全てのS1 MS2 とMS3 Mとからなるコンパウンド結晶のうち、微細結晶を好ましくは90重量%以上、さらに好ましくは95重量%以上、最も好ましくは99重量%以上含有することを指す。
【0029】
本発明で用いるS1 MS2 とMS3 Mとからなるコンパウンド結晶は、S1 MS2 で表されるトリグリセリドやS1 MS2を含有する油脂と、MS3 Mで表されるトリグリセリドやMS3 Mを含有する油脂を用いて製造できる。
【0030】
上記のS1 MS2 やMS3 Mとしては、天然に存在するS1 MS2 やMS3 Mでも構わないし、又は分別により純度を上げたものでも構わない。さらに、トリ飽和トリグリセリド(SSS)とトリ不飽和トリグリセリド(MMM)、又はトリ不飽和トリグリセリド(MMM)と飽和脂肪酸とをエステル交換し(酵素による選択的エステル交換が好ましい)、さらに蒸留や分別によりS1 MS2 とMS3 Mの純度を上げたもの等、どのような方法によって得られたものでも構わない。
【0031】
上記のS1MS2を含有する油脂としては、例えばパーム油、カカオバター、シア脂、マンゴー核油、サル脂、イリッペ脂、コクム脂、デュパー脂、モーラー脂、フルクラ脂、チャイニーズタロー等の各種植物油脂、これらの各種植物油脂を分別した加工油脂、並びに下記に記載するエステル交換油、該エステル交換油を分別した加工油脂を用いることができる。本発明では、上記の中から選ばれた1種又は2種以上を用いる。
【0032】
上記のエステル交換油としては、パーム油、パーム核油、ヤシ油、コーン油、オリーブ油、綿実油、大豆油、ナタネ油、米油、ヒマワリ油、サフラワー油、牛脂、乳脂、豚脂、カカオバター、シア脂、マンゴー核油、サル脂、イリッペ脂、魚油、鯨油等の各種動植物油脂、これらの各種動植物油脂を必要に応じて水素添加及び/又は分別した後に得られる加工油脂、脂肪酸、脂肪酸低級アルコールエステルを用いて製造したエステル交換油が挙げられる。
【0033】
上記のMS3Mで表されるトリグリセリドを含有する油脂としては、例えば豚脂、豚脂分別油、エステル交換油を用いることができ、本発明ではこれらの中から選ばれた1種又は2種以上を用いる。
【0034】
上記のエステル交換油としては、パーム油、パーム核油、ヤシ油、コーン油、オリーブ油、綿実油、大豆油、ナタネ油、米油、ヒマワリ油、サフラワー油、牛脂、乳脂、豚脂、カカオバター、シア脂、マンゴー核油、サル脂、イリッペ脂、魚油、鯨油等の各種動植物油脂、これらの各種動植物油脂を必要に応じて水素添加、分別した後に得られる加工油脂、脂肪酸、脂肪酸低級アルコールエステルを用いて製造したエステル交換油が挙げられる。
【0035】
本発明のペストリー練り込み用油脂組成物は、上記のS1 MS2 とMS3 Mとからなるコンパウンド結晶を必須成分とするものである。そして、上記のコンパウンド結晶の含有量は、ペストリー練り込み用油脂組成物中、好ましくは5重量%以上、さらに好ましくは20重量%以上、最も好ましくは40重量%以上である。
【0036】
上記のS1 MS2 を含有する油脂は、本発明のペストリー練り込み用油脂組成物の全油脂分中、好ましくは2.5重量%以上、さらに好ましくは10重量%以上、最も好ましく20〜50重量%とする。上記のMS3 Mを含有する油脂は、本発明のペストリー練り込み用油脂組成物の全油脂分中、好ましくは2.5重量%以上、さらに好ましくは10重量%以上、最も好ましくは20〜50重量%とする。
【0037】
さらに、本発明のペストリー練り込み用油脂組成物は、MS3Mで表されるトリグリセリドのモル数/S1MS2で表されるトリグリセリドのモル数が、好ましくは0.4〜2.5、さらに好ましくは0.6〜1.5、最も好ましくは0.8〜1.2となるように配合する。
【0038】
また、本発明のペストリー練り込み用油脂組成物では、S1 MS2 及びMS3 M以外のトリグリセリドや、S1 MS2 及びMS3 Mを含有しない油脂を添加しても良い。S1 MS2 及びMS3 M以外のトリグリセリドや、S1 MS2 及びMS3 Mを含有しない油脂を添加する場合、これらの添加量は、ペストリー練り込み用油脂組成物の全油脂分中、好ましくは95重量%以下、さらに好ましくは80重量%以下、最も好ましくは60重量%以下とする。
【0039】
本発明のペストリー練り込み用油脂組成物は、さらに高融点油脂を含有することが好ましい。高融点油脂を配合することにより、本発明のペストリー練り込み用油脂組成物の耐熱保型性を向上させ、ペストリー製造において、縮みを防止する効果を向上させ、窯伸びをも向上させる。
【0040】
上記の高融点油脂の融点は、好ましくは40℃以上、さらに好ましくは50℃以上、最も好ましくは55℃以上80℃以下である。融点が40℃未満の油脂では、縮みを防止する効果が充分に得られにくい。
【0041】
また、上記の高融点油脂は、ペストリー練り込み用油脂組成物の全油脂分中、好ましくは30重量%以下、さらに好ましくは10重量%以下、最も好ましくは5重量%以下とする。上記の高融点油脂のペストリー練り込み用油脂組成物の全油脂分中の含有量が、30重量%を越えると口溶けが悪化しやすい。
【0042】
上記の高融点油脂の具体例としては、例えばパーム油、カカオバター、或いはパーム核油、ヤシ油、コーン油、オリーブ油、綿実油、大豆油、ナタネ油、米油、ヒマワリ油、サフラワー油、牛脂、乳脂、豚脂、シア脂、マンゴー核油、サル脂、イリッペ脂、魚油、鯨油等の各種動植物油脂を水素添加、分別並びにエステル交換から選択される1又は2以上の処理を施した加工油脂、脂肪酸、脂肪酸低級アルコールエステルを用いて製造したエステル交換油が挙げられる。
【0043】
ただし、本発明のペストリー練り込み用油脂組成物において、上記の高融点油脂が必要でなければ、上記の高融点油脂を用いなくてもよい。
【0044】
本発明のペストリー練り込み用油脂組成物は、配合油のSFCが好ましくは10℃で20〜60%、20℃で10〜40%、さらに好ましくは10℃で20〜50%、20℃で10〜20%となるように調整するのがよい。SFCが10℃で20%未満、又は20℃で10%未満であると、ペストリー練り込み用油脂組成物が軟らかいため、ペストリー練り込み用油脂組成物として良好な生地伸展性が得られにくい。一方、SFCが10℃で60%を超える、又は20℃で40%を超えると、ペストリー練り込み用油脂組成物が練り込み用として硬すぎて使用しにくい。
【0045】
上記のSFCは、次のようにして測定する。即ち、配合油を60℃に30分保持し、油脂を完全に融解し、そして0℃に30分保持して固化させる。さらに25℃に30分保持し、テンパリングを行い、その後、0℃に30分保持する。これをSFCの各測定温度に30分保持後、SFCを測定する。
【0046】
本発明のペストリー練り込み用油脂組成物は、さらに酵素を含有することにより、十分な生地物性を保ちながら、生地縮みの防止効果を向上させることが出来る。また、浮きが良好で、歯切れの向上効果やソフト性の向上も図ることが可能となる。
【0047】
また、上記酵素の配合量は、特に制限はないが、本発明のペストリー練り込み用油脂組成物中、好ましくは0.05〜3重量%、さらに好ましくは0.1〜1重量%である。上記の酵素のペストリー練り込み用油脂組成物中の含有量が、3重量%を越えると生地がべとつき、ハンドリングが悪化し、さらに、浮きが悪化したり、さらにはペストリーを食べた時に口の中で団子状態になり、口溶けが悪化する等の問題が生じるおそれが生じる。
【0048】
上記の酵素の具体例としては、アミラーゼ、プロテアーゼ、アミログルコシダーゼ、プルラナーゼ、ペントサナーゼ、セルラーゼ、リパーゼ、ホスフォリパーゼ、カタラーゼ、リポキシゲナーゼ、リポキシナーゼ、アスコルビン酸オキシダーゼ、スルフィドリルオキシダーゼ、ヘキソースオキシダーゼ、グルコースオキシダーゼ等が挙げられ、これらの中から選ばれた1種又は2種以上を用いることができる。
【0049】
本発明のペストリー練り込み用油脂組成物に含有させることができるその他の成分としては、例えば、水、乳化剤、増粘安定剤、食塩や塩化カリウム等の塩味剤、酢酸、乳酸、グルコン酸等の酸味料、糖類や糖アルコール類、ステビア、アスパルテーム等の甘味料、β−カロチン、カラメル、紅麹色素等の着色料、アスコルビン酸、臭素酸カリウム等の酸化剤、トコフェロール、茶抽出物等の酸化防止剤、小麦蛋白や大豆蛋白といった植物蛋白、卵及び各種卵加工品、着香料、乳製品、調味料、pH調整剤、食品保存料、日持ち向上剤、果実、果汁、コーヒー、ナッツペースト、香辛料、カカオマス、ココアパウダー、穀類、豆類、野菜類、肉類、魚介類等の食品素材や食品添加物が挙げられる。
【0050】
上記乳化剤としては、グリセリン脂肪酸エステル、蔗糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、グリセリン有機酸脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、ステアロイル乳酸カルシウム、ステアロイル乳酸ナトリウム、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、レシチン、サポニン類等が挙げられ、これらの中から選ばれた1種又は2種以上を用いることができる。上記乳化剤の配合量は、特に制限はないが、本発明のペストリー練り込み用油脂組成物中、好ましくは0〜3重量%、さらに好ましくは0〜1重量%である。
【0051】
上記増粘安定剤としては、グアーガム、ローカストビーンガム、カラギーナン、アラビアガム、アルギン酸類、ペクチン、キサンタンガム、プルラン、タマリンドシードガム、サイリウムシードガム、結晶セルロース、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、寒天、グルコマンナン、ゼラチン、澱粉、化工澱粉等が挙げられ、これらの中から選ばれた1種又は2種以上を用いることができる。上記増粘安定剤の配合量は、特に制限はないが、本発明のペストリー練り込み用油脂組成物中、好ましくは0〜10重量%、さらに好ましくは0〜5重量%である。
【0052】
次に、本発明のペストリー練り込み用油脂組成物の製造方法を説明する。
本発明のペストリー練り込み用油脂組成物は、S1MS2を含有する油脂とMS3M含有する油脂を混合溶解した後、冷却し、結晶化させることにより製造される。
【0053】
詳しくは、本発明のペストリー練り込み用油脂組成物の製造方法においては、S1MS2を含有する油脂とMS3Mを含有する油脂を混合溶解した油相に、必要により水相を混合乳化する。そして、次に殺菌処理するのが望ましい。殺菌方法は、タンクでのバッチ式でも、プレート型熱交換機や掻き取り式熱交換機を用いた連続式でも構わない。次に、冷却し、必要により可塑化する。本発明において、冷却条件は好ましくは−0.5℃/分以上、さらに好ましくは−5℃/分以上とする。この際、徐冷却より急速冷却の方が好ましいが、本発明では徐冷却であっても、微細なβ型結晶をとり、可塑性範囲が広く、経日的にも硬さが変化せず安定したペストリー練り込み用油脂組成物を得ることができる。冷却する機器としては、密閉型連続式チューブ冷却機、例えばボテーター、コンビネーター、パーフェクター等のマーガリン製造機やプレート型熱交換機等が挙げられ、また、開放型のダイアクーラーとコンプレクターの組み合わせ等が挙げられる。
【0054】
また、本発明のペストリー練り込み用油脂組成物を製造する際のいずれかの製造工程で、窒素、空気等を含気させても、させなくても構わない。
【0055】
得られた本発明のペストリー練り込み用油脂組成物は、マーガリンタイプでもショートニングタイプでもどちらでもよく、またその乳化形態は、油中水型、水中油型、及び二重乳化型のいずれでも構わない。
【0056】
このような本発明のペストリー練り込み用油脂組成物は、菓子パイ、中華パイ、タルト、デニッシュ、イーストパイ、クロワッサン、デニッシュドーナツ、デニッシュブレッド、フライドパイ、シナモンロール等のペストリー生地に用いることができ、得られたペストリー生地はもちろん冷凍保存することも可能であり、冷凍解凍後においても生地の縮みの少ない良好な物性を示す。
【0057】
本発明のペストリー生地が多層生地の場合、ロールイン油脂としては、従来のロールイン油脂を問題なく使用することができ、ロールイン油脂の形状は、シート状、ブロック状、円柱状、あるいはスプレッド状のいずれの形状でも可能である。各々の形状についての好ましいサイズは、シート状:縦50〜1000mm、横:50〜1000mm、厚さ:1〜50mm、ブロック状:縦50〜1000mm、横50〜1000mm、厚さ50〜500mm、円柱状:直径1〜25mm、長さ5〜100mmである。スプレッド状の場合、常温で硬かったり軟らかかったりして、スプレッド不能なものについても、スプレッド可能な温度に調温することにより、使用可能となる。
【0058】
また、ペストリー生地が多層生地の場合、本発明のペストリー練り込み用油脂組成物を練り込んだ生地に対し、さらに、S1MS2(S1及びS2は飽和脂肪酸、Mはモノ不飽和脂肪酸を表す)で表されるトリグリセリドとMS3M(S3は飽和脂肪酸、Mはモノ不飽和脂肪酸を表す)で表されるトリグリセリドとからなるコンパウンド結晶を含有するロールイン油脂をロールインすることにより、さらに、生地伸展性、リタード時の生地安定性等の生地作業性が良好で、且つ、ペストリー製品の浮きも良好な結果が得られる。
【0059】
また、ペストリー生地が多層生地の場合、本発明のペストリー練り込み用油脂組成物を練り込んだ生地100重量部に対する、ロールイン油脂の配合量は、多層生地の種類によっても異なるが、好ましくは5重量部〜150重量部、さらに好ましくは、10重量部〜100重量部、最も好ましくは、10重量部〜80重量部である。5重量部未満であると、層状を有する多層状ペストリー製品が得られず、150重量部を超えると、ロールイン時に油脂が生地からはみ出したり、油性感が高く良好な食感が得られない可能性がある。
【0060】
また、本発明のペストリー練り込み用油脂組成物は、従来のペストリー練り込み用油脂組成物と同様にして用いられ、その使用量はペストリーの種類によっても異なるが、ペストリー生地中、通常2〜25重量%、好ましくは4〜20重量%である。
【0061】
また、本発明のペストリー製品は、上記ペストリー生地を焼成することにより得られるものである。
【0062】
【実施例】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例により何等制限されるものではない。また、St:ステアリン酸、O:オレイン酸、P:パルミチン酸、S:飽和脂肪酸、M:モノ不飽和脂肪酸を示す。
【0063】
(実施例1)
大豆極度硬化油とオレイン酸エチルを、重量比2:3の割合で混合、溶解し、1,3位置選択的酵素を用いてエステル交換反応を行った。反応物から分子蒸留により脂肪酸を取り除き、得られた油脂を分別、精製することによりOStO含量60重量%の油脂を得た。このOStO含有油脂50重量%及びマンゴー核分別中部油50重量%を混合し、60℃で溶解した後、0℃に冷却し、結晶化させ、混合油(a)を得た。混合油(a)はStOStを30重量%、OStOを30重量%含有し、DSCにより結晶転移の有無を確認したところ、βプライム型をとらずにβ型結晶であった。
【0064】
確認のため、上記混合油(a)を70℃で完全溶解し、0℃で30分保持し、そして5℃で30分間保持し結晶析出させたものを2θ:17〜26度の範囲でX線回折測定を実施したところ、4.6オングストロームの面間隔に対応する強い回折線が得られ、この油脂結晶はβ型をとることが確認された。また、光学顕微鏡でこの油脂結晶のサイズを確認したところ、3μm以下の微細な結晶であった。更に、2θ:0〜8度の範囲でX線回折測定を実施し、トリグリセリドのパッキング状態が2鎖長構造であることも確認され、コンパウンド結晶の形成が示された。
【0065】
上記混合油(a)80重量%と大豆油20重量%とを混合し、60℃で溶解させ配合油を得た。この配合油80.4重量%に乳化剤としてステアリン酸モノグリセリド0.5重量%及びレシチン0.1重量%を混合溶解した油相81重量%と水16重量%、食塩1重量%、脱脂粉乳2重量%とを常法により、油中水型の乳化物(b)とし、急冷可塑化工程(冷却速度−20℃/分以上)にかけ、本発明のペストリー練り込み用油脂組成物であるマーガリンを得た。得られたマーガリンは、光学顕微鏡下で3μm以下の微細結晶であり、マーガリンの油相を上記と同条件でX線回折測定を行ったところ、2鎖長構造のβ型をとり、コンパウンド結晶を形成することを確認した。そして、マーガリンの全油脂分中のコンパウンド結晶の含有量は48重量%であり、マーガリンの配合油のSFCは10℃で37%、20℃で22%であった。
【0066】
また、得られたマーガリンは、5℃のレオメーター値が900g/cm2、20℃のレオメーター値が340g/cm2と低温でも軟らかく且つ可塑性範囲が広いペストリー練り込み用油脂組成物であった。
【0067】
(比較例1)
魚油を原料とし、ニッケル触媒を用いて水素添加を行い、融点30℃の魚油硬化油、融点36℃の魚油硬化油及び融点45℃の魚油硬化油を得た。これらの融点30℃の魚油硬化油、融点36℃の魚油硬化油及び融点45℃の魚油硬化油をそれぞれ60℃で溶解し、0℃に冷却し、結晶化させ、DSCにより結晶転移の有無を確認したところ、いずれもβプライム型をとる油脂であった。また、これらの融点30℃の魚油硬化油、融点36℃の魚油硬化油及び融点45℃の魚油硬化油は、いずれもSMS及びMSMを含有しない油脂であった。
【0068】
確認のため、これらの融点30℃の魚油硬化油、融点36℃の魚油硬化油及び融点45℃の魚油硬化油をそれぞれ70℃で完全溶解した後、0℃で30分保持し、そして5℃で30分間保持し結晶析出させたものを2θ:17〜26度の範囲でX線回折測定を実施したところ、4.2オングストロームの面間隔に対応する強い回折線が得られ、これらの油脂結晶はいずれもβプライム型をとることが確認された。更に、2θ:0〜8度の範囲でX線回折測定を実施し、トリグリセリドのパッキング状態が3鎖長構造であることを確認し、コンパウンド結晶の形成は認められなかった。
【0069】
これらの融点30℃の魚油硬化油75重量%、融点36℃の魚油硬化油15重量%及び融点45℃の魚油硬化油10重量%を混合し、60℃で溶解し、乳化剤無添加で常法により急冷可塑化工程(冷却速度−20℃/分以上)にかけ、比較例のペストリー練り込み用油脂組成物であるショートニングを得た。得られたショートニングを実施例1と同条件でX線回折測定を行ったところ、3鎖長構造のβプライム型をとり、コンパウンド結晶を含有しないことを確認した。このショートニングの配合油のSFCは、10℃で38%、20℃で22%であった。
【0070】
このショートニングは、5℃のレオメーター値が6900g/cm2、20℃のレオメーター値が600g/cm2と低温で硬く、可塑性範囲が狭い、ペストリー練り込み用油脂組成物であった。
【0071】
次いで上記本発明のペストリー練り込み用油脂組成物、または、比較例のペストリー練り込み用油脂組成物と、下記のロールイン油脂A〜Cを用いてデニッシュ、パイ、練パイ、シナモンロールをそれぞれ製造し、その作業性の比較、および、得られたペストリー製品の比較を行った。
【0072】
(ロールイン油脂A)
豚脂分別軟部油75重量%とパーム分別中部油25重量%を混合し、SMSを16重量%、MSMを16重量%含有した混合油(b)を得た。この混合油(b)を60℃で溶解した後、0℃に冷却し、結晶化させ、DSCにより結晶転移の有無を確認したところ、βプライム型をとらずにβ型結晶であった。
【0073】
確認のため、上記混合油(a)を70℃で完全溶解した後、0℃で30分保持し、そして5℃で30分間保持し結晶析出させたものを2θ:17〜26度の範囲でX線回折測定を実施したところ、4.6オングストロームの面間隔に対応する強い回折線が得られ、この油脂結晶はβ型をとることが確認された。また、光学顕微鏡でこの油脂結晶のサイズを確認したところ、3μm以下の微細な結晶であった。さらに、2θ:0〜8度の範囲でX線回折測定を実施し、トリグリセリドのパッキング状態が2鎖長構造であることも確認され、コンパウンド結晶の形成が示された。
【0074】
上記混合油中のSMSは16重量%、MSMは16重量%であり、MSMのモル数/SMSのモル数は1.0であった。この混合油(b)80.4重量%を溶解させ、乳化剤としてステアリン酸モノグリセリド0.5重量%とレシチン0.1重量%を混合溶解した油相81重量%と水16重量%、食塩1重量%、脱脂粉乳2重量%とを常法により、油中水型の乳化物(c)とし、急冷可塑化工程(冷却速度−20℃/分以上)にかけ、マーガリンタイプのロールイン用油脂組成物を得た。得られたロールイン用油脂組成物は、光学顕微鏡下で3μm以下の微細結晶であり、ロールイン用油脂組成物の油相を上記と同条件でX線回折測定を行ったところ、2鎖長構造のβ型をとり、コンパウンド結晶を形成することを確認した。そして、ロールイン用油脂組成物の全油脂分中のコンパウンド結晶の含有量は32重量%であり、ロールイン用油脂組成物の配合油のSFCは10℃で50%、20℃で16%であった。ロールイン用油脂組成物の形状は縦210mm、横285mm、厚さ9mmのシート状とした。
【0075】
また、得られたロールイン用油脂組成物は、5℃のレオメーター値が2100g/cm2、20℃のレオメーター値が250g/cm2と低温でも軟らかくて可塑性範囲が広く、伸展性に優れ、且つ製造から1ヶ月経過後での5℃のレオメーター値も2100g/cm2と経日的にも硬さが変化せず安定したロールイン用油脂組成物であった。
【0076】
(ロールイン油脂B)
ナタネ硬化油(融点45℃)55重量%、大豆油43重量%、大豆極度硬化油脂(融点68℃)に乳化剤としてステアリン酸モノグリセリド0.5重量%とレシチン0.1重量%を添加し、70℃で溶解混合した油相81重量%と、水16重量%、食塩1重量%、脱脂粉乳2重量%とを常法により、油中水型の乳化物とし、急冷可塑化工程(−20℃/分以上)にかけ、マーガリンタイプのロールイン用油脂組成物を得た。ロールイン用油脂組成物の形状は縦210mm、横285mm、厚さ9mmのシート状とした。
【0077】
(ロールイン油脂C)
ナタネ硬化油(融点45℃)55重量%、大豆油43重量%、大豆極度硬化油脂(融点68℃)に乳化剤としてステアリン酸モノグリセリド0.5重量%とレシチン0.1重量%を添加し、70℃で溶解混合した油相81重量%と、水16重量%、食塩1重量%、脱脂粉乳2重量%とを常法により、油中水型の乳化物とし、急冷可塑化工程(−20℃/分以上)にかけ、マーガリンタイプのロールイン用油脂組成物を得た。ロールイン用油脂組成物の形状は直径5mm、長さ40mmの円柱状とした。
【0078】
(実施例2)実施例1で得られたペストリー練り込み用油脂組成物、およびロールイン用油脂Aを用い、下記の配合と製法にて、デニッシュを得た。
【0079】
(実施例3)実施例1で得られたペストリー練り込み用油脂組成物、およびロールイン用油脂Bを用い、下記の配合と製法にて、デニッシュを得た。
【0080】
(比較例2)比較例1で得られたペストリー練り込み用油脂組成物、およびロールイン用油脂Bを用い、下記の配合と製法にて、デニッシュを得た。
【0081】
<配合>
強 力 粉 70 重量部
薄 力 粉 30 重量部
イーストフード 0.1重量部
イースト 4 重量部
食 塩 1.6重量部
砂 糖 6 重量部
脱脂粉乳 3 重量部
練り込み油脂 5 重量部
水 54 重量部
ロールイン用油脂組成物 54 重量部
<製法>
ロールイン用油脂組成物以外の原料を、縦型ミキサーにて低速3分及び中速5分ミキシングした生地(捏ね上げ温度=24℃)を2℃の冷蔵庫内で一晩リタードした。この生地にロールイン用油脂組成物をのせ、常法によりロールインし、36層(4×3×3)に折り畳み、厚さ30mmのペストリー生地を得た。この生地を2℃の冷蔵庫内で30分レストを取った後、厚さ3mmに圧延し、直径100mmの型で生地を打ち抜き展板に載せ、32℃、相対湿度85%、60分のホイロを取った後、210℃の固定窯で11分焼成した。
【0082】
なお、作業性、生地縮み率、浮き倍率及び食感は、下記評価基準で評価し、結果を表1に記載した。
【0083】
評価方法及び評価基準
・生地伸展性:油脂をロールインした生地を厚さ6mmまで圧延した際に伸展方向に何倍に伸展したかを測定し、これを生地伸展性とした。
◎:3.75以上、○:3.74〜3.5、△:3.49〜3.25、×:3.24以下
・生地縮み率:焼成したペストリーの短径と長径を測定し、短径÷長径を算出し、この値を生地縮み率とした。
◎:9.0以上、○:8.9〜8.0、△:7.9〜7.0、×:6.0以下
・浮き倍率:10個の焼成したペストリーの平均標高を測定し、その平均値(単位:mm)÷3の数値を浮き倍率とした。
◎:9.0以上、○:8.9〜7.0、△:6.9〜5.0、×:4.9以下
・食感(翌日):焼成したペストリーをパネラー10人にて歯切れとヒキをそれぞれ良好な順に3点2点1点の順に3段階評価をおこない、その歯切れの評価点とヒキの評価点を乗じた点数を算出し、食感評価とした。
◎:9点、○:6点、△:3〜4点、×:1〜2点
【0084】
【表1】
【0085】
(実施例4)実施例1で得られたペストリー練り込み用油脂組成物、およびロールイン用油脂Aを用い、下記の配合と製法にて、パイを得た。
【0086】
(実施例5)実施例1で得られたペストリー練り込み用油脂組成物、およびロールイン用油脂Bを用い、下記の配合と製法にて、パイを得た。
【0087】
(比較例3)比較例1で得られたペストリー練り込み用油脂組成物、およびロールイン用油脂Bを用い、下記の配合と製法にて、パイを得た。
【0088】
<配合>
強 力 粉 70 重量部
薄 力 粉 30 重量部
食 塩 1.3重量部
砂 糖 2 重量部
脱脂粉乳 3 重量部
練り込み油脂 5 重量部
水 54 重量部
ロールイン用油脂組成物 80 重量部
<製法>
ロールイン用油脂組成物以外の原料を、縦型ミキサーにて低速3分及び中速4分でミキシングした後、2℃の冷蔵庫内で生地を一晩リタードした。この生地にロールイン用油脂組成物をのせ、常法によりロールイン(4つ折り4回)し、成型(縦100mm×横100mm×厚さ3mm)、210℃の固定窯で11分焼成した。
【0089】
なお、作業性、浮き倍率及び食感は、下記評価基準で評価し、結果を表2に記載した。
【0090】
評価方法及び評価基準
・作業性(生地の伸展性と縮み)
◎:伸展性良好で縮みもなく、非常に良好、 ○:伸展性は良好だが、若干の縮みがある。 △:伸展性やや悪く縮みがある、×:伸展性悪く、縮みも大きい
・浮き倍率:10個の焼成したペストリーの平均標高を測定し、その平均値(単位:mm)÷3の数値を浮き倍率とした。
◎:9.0以上、○:8.9〜7.0、△:6.9〜5.0、×:4.9以下
・食感(翌日):焼成したペストリーをパネラー10人にて歯切れとヒキをそれぞれ良好な順に3点2点1点の順に3段階評価をおこない、その歯切れの評価点とヒキの評価点を乗じた点数を算出し、食感評価とした。
◎:9点、○:6点、△:3〜4点、×:1〜2点
【0091】
【表2】
【0092】
(実施例6)実施例1で得られたペストリー練り込み用油脂組成物、およびロールイン用油脂Cを用い、下記の配合と製法にて、練パイを得た。
【0093】
(比較例4)比較例1で得られたペストリー練り込み用油脂組成物、およびロールイン用油脂Cを用い、下記の配合と製法にて、練パイを得た。
【0094】
<配合>
強 力 粉 70 重量部
薄 力 粉 30 重量部
食 塩 1.3重量部
砂 糖 2 重量部
脱脂粉乳 3 重量部
練り込み油脂 5 重量部
水 54 重量部
ロールイン用油脂組成物 80 重量部
<製法>
ロールイン用油脂組成物以外の原料を、縦型ミキサーにて低速及び中速でミキシングした後、ロールイン用油脂組成物を添加、低速1分混合した生地を冷蔵庫内でリタードした。この生地を常法によりロールイン(4つ折り4回)し、成型(縦100mm×横100mm×厚さ3mm)、固定窯にて焼成した。
【0095】
なお、作業性、浮き倍率及び食感は、下記評価基準で評価し、結果を表3に記載した。
【0096】
評価方法及び評価基準
・作業性(生地の伸展性と縮み)
◎:伸展性良好で縮みもなく、非常に良好、 ○:伸展性は良好だが、若干の縮みがある。 △:伸展性やや悪く縮みがある、×:伸展性悪く、縮みも大きい・浮き倍率:10個の焼成したペストリーの平均標高を測定し、その平均値(単位:mm)÷3の数値を浮き倍率とした。
◎:9.0以上、○:8.9〜7.0、△:6.9〜5.0、×:4.9以下・食感(翌日):焼成したペストリーをパネラー10人にて歯切れとヒキをそれぞれ良好な順に3点2点1点の順に3段階評価をおこない、その歯切れの評価点とヒキの評価点を乗じた点数を算出し、食感評価とした。
◎:9点、○:6点、△:3〜4点、×:1〜2点
【0097】
【表3】
【0098】
(実施例7)実施例1で得られたペストリー練り込み用油脂組成物を用い、下記の配合と製法にて、シナモンロールを得た。
【0099】
(比較例5)比較例1で得られたペストリー練り込み用油脂組成物を用い、下記の配合と製法にて、シナモンロールを得た。
【0100】
<配合>
フランス粉 100 重量部
イースト 7 重量部
食 塩 1.3重量部
砂 糖 20 重量部
脱脂粉乳 5 重量部
全卵(正味) 20 重量部
練り込み用油脂組成物 20 重量部
水 40 重量部
シナモンシュガー 10 重量部
<製法>
練り込み用油脂組成物、シナモンシュガー以外の原料を、縦型ミキサー(カント―ミキサー)に投入し、低速2分中速8分混合した。ここに練り込み用油脂組成物を二回にわけて投入、混合し、均一な生地とした。フロアタイムを40分とったのち、冷蔵庫で生地中心が2℃になるまで16時間冷却した。ここで、空折りとして三つ折り1回後、生地厚さ5mm、幅32cm、長さ38cmの帯状にした。ここにシナモンシュガーを散布した。この生地をストーリング後、幅3cmにカット、(約100g)展板に直径10cmのグラシンを敷き、生地を断面を上にして置き、38℃50分ホイロを取った後、固定窯にて190℃15分焼成した。
【0101】
なお、作業性及び食感は、下記評価基準で評価し、結果を表4に記載した。
【0102】
評価方法及び評価基準
・作業性(生地の伸展性と縮み)
◎:伸展性良好で縮みもなく、非常に良好、 ○:伸展性は良好だが、若干の縮みがある。 △:伸展性やや悪く縮みがある、×:伸展性悪く、縮みも大きい
・食感(翌日):焼成したペストリーをパネラー10人にて歯切れとヒキをそれぞれ良好な順に3点2点1点の順に3段階評価をおこない、その歯切れの評価点とヒキの評価点を乗じた点数を算出し、食感評価とした。
◎:9点、○:6点、△:3〜4点、×:1〜2点
【0103】
【表4】
【0104】
これらの結果から明らかなように、SMSとMSMとからなるコンパウンド結晶を含有しないβプライム型結晶である比較例1のペストリー練り込み用油脂組成物は可塑性範囲が狭く、またこのペストリー練り込み用油脂組成物を用いて比較例2〜5のペストリーを製造すると、ペストリー製造時の作業性、得られたペストリーの歯切れ、口溶け、ウェット感及びソフト感の全てが非常に良好であるペストリーは得られなかった。
【0105】
これに対し、SMS及びMSMを含有し、SMSとMSMとからなるコンパウンド結晶を形成し得る配合油を用いた実施例1では、可塑性範囲が広いペストリー練り込み用油脂組成物が得られた。またこのペストリー練り込み用油脂組成物を用いて実施例2〜7のペストリーを製造すると、ペストリー製造時の作業性、得られたペストリーは歯切れが良好で、ヒキのない食感を保持していた。
【0106】
【発明の効果】
本発明のペストリー練り込み用油脂組成物は、可塑性範囲が広く、経日的にも硬さが変化せず安定であるペストリー練り込み用油脂組成物である。
また、本発明のペストリー練り込み用油脂組成物をペストリーに用いたとき、作業性が良好であり、かつ、食感がペストリーを提供することができる。
【発明の属する技術分野】
本発明は、パイ生地やデニッシュ生地、シナモンロール生地等、ペストリー生地を圧延する際の伸展性や作業性が良く、且つ歯切れがよくヒキのないペストリー製品を提供することができるペストリー練り込み用油脂組成物に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、マーガリン、ショートニング等の可塑性油脂に使用される油脂は『マーガリン ショートニング ラード』(非特許文献1)に記載の『マーガリン、ショートニングは常温で結晶性脂肪をもつ可塑性物質と定義されるが、そのためその物理性は主に稠度、可塑性及び結晶構造に関連する。物理的にその結晶状態はAlfaは蝋状(アセトグリセリドの如き)、Betaは粗結晶、そしてBeta−primeは微粒状である。融点ではAlfa、Beta−prime、Betaの順に高くなる。マーガリン、ショートニング組成の望ましい結晶状態はBeta−primeといわれている。』の通り、その結晶状態はβプライム型のものが良好とされ、用いられてきた。
【0003】
βプライム型の油脂結晶は微細結晶をとり乳化安定性に寄与し、良好な稠度を示す。反面このβプライム型結晶はエネルギー的には準安定形であるため、保存条件等が適切でない場合等には、更にエネルギー的に安定なβ型結晶へと転移現象を引き起こすという欠点があった。このβ型結晶は最安定形であるため、これ以上の転移現象を起こすことはないが、一般に結晶サイズが大きく、グレイニングやブルームと呼ばれる粗大結晶粒を形成し、ザラつきや触感の悪さを呈し、製品価値の全くないものになってしまう。
【0004】
βプライム型を経由するβ型結晶であっても、結晶サイズの比較的小さなものも知られている。例えば、カカオ脂のV型結晶がこれに相当し、実質はSOS、POS等の対称型トリグリセリドのβ2型結晶である。しかしながら、これらの結晶サイズの比較的小さなβ型結晶を得るには、テンパリングと呼ばれる特殊な熱処理工程を経る必要があったり、所定温度まで冷却した後、結晶核となる特定成分を加える等、極めて煩雑な工程を要するものであった。結果として通常のペストリー練り込み用油脂組成物を製造するような急冷可塑化工程では、当該結晶は得られないのが実状である。また、カカオ脂のV型結晶は可塑性に乏しいものである。
【0005】
一方、βプライム型で最安定形の油脂でさえ経日的に硬くなる傾向があり、結晶の析出方法や保存方法等を細かく管理しなければならなかった。
【0006】
上記のような問題点を解決するため、エネルギー的にも安定で且つ微細な結晶を得る目的で、これ迄にも種々の発明がなされてきた。例えば、特定のトリグリセリド比率とすることにより、β型結晶を得る方法(例えば特許文献1参照)、また、エステル交換反応により油脂のグレイニングを抑制する方法(例えば特許文献2参照)、そして高融点油脂を配合することにより微細な結晶を維持させる方法(例えば特許文献3参照)、さらに、構成脂肪酸として炭素数16〜22の飽和脂肪酸をグリセリンの2位に、炭素数16〜18で一つの不飽和結合を有する不飽和脂肪酸をグリセリンの1、3位に結合した混酸型トリグリセリドを含有する方法(例えば特許文献4参照)が開示されている。
【0007】
しかし、(特許文献1)の方法ではβ型結晶を得るのにテンパリング操作が必要とされ、(特許文献2)及び(特許文献3)の方法では、得られた組成物は経日的に硬くなる傾向があり、ペストリー練り込み用油脂組成物として安定性の点で十分に満足の得られるものではなかった。また、(特許文献4)の方法はカカオ代用脂及びこれを含有する油脂性菓子用途に限定されたものであった。
【0008】
ペストリー生地製造の際には、いったん生地を作成し、それを圧延する操作がある。その後、パイやデニッシュ・クロワッサン等では折りたたみ操作を加え多層生地を作成する。この際、生地は圧延の際の圧力により、加工硬化をおこす。これは小麦粉に含まれるグルテンの性質によるものである。そのため、とくに、複数回の折りたたみ操作を加える多層生地作成の際には、加工硬化で延展性が低下した生地を冷蔵庫等で冷却し、生地を弛緩させることが必要となる。しかし、この際に生地に使用した練り込み油脂の加工軟化度が高く、また、結晶性の悪い油脂であると、この冷却によって、生地は弛緩しても、練り込み油脂が軟らかいままで、延展性は良好でもコシのない生地となってしまい、ロールイン操作時に生地の縮みが大きく、その後の成型操作時においても、生地重量がばらつき、形の均整性が損なわれたペストリー製品となってしまう。また、そのようなペストリー製品は、浮きも悪く、さらに、食感も劣ったものとなってしまう。
【0009】
延展性や作業性改良のために例えば、水分を増やす方法があるが、この方法だと、生地が軟らかすぎてべたつき、扱いにくく延展性が悪く上に、多層生地の場合、ロールイン油脂をロールインした際に生地が軟らかすぎ、ロールイン油脂との伸展性がマッチせず、きれいな内相の層状食品得ることは不可能である。このため、乳化剤やプロテアーゼを用いて生地の延展性を改良することや、またさらに生地の作業性を向上し、物性変化を抑制するため、グルコースオキシダーゼにグルテン、ステアロイル乳酸塩、プロテアーゼおよび酸化剤を組み合わせた生地改良剤も開示されている。(たとえば特許文献5参照)
しかし、この公報に記載の生地改良剤は酵素のもつ生地軟化性を酸化剤や乳化剤で抑制し、バランスをとるものであり、ペストリー製品毎に異なる最適生地物性に設定する配合比を求めることが難しく、多種のペストリー製品に適用するのは困難であった。
【0010】
【非特許文献1】
マーガリン ショートニング ラード“ (P324中澤君敏著:株式会社光琳発行、発行年月日1979年8月3日)
【特許文献1】
特公昭51−9763号公報
【特許文献2】
特公昭58−13128号公報
【特許文献3】
特開平10−295271号公報
【特許文献4】
特開平4−135453号公報
【特許文献5】
特開2000−270757号公報
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
従って、本発明の目的は、生地圧延時の伸展性や作業性が良く、且つ歯切れが良くヒキのないペストリー製品を提供することができるペストリー練り込み用油脂組成物を提供することにある。さらに、可塑性範囲が広く、経日的にも硬さが変化せず安定であるペストリー練り込み用油脂組成物を提供することにある。
【0012】
【課題を解決するための手段】
本発明は、S1MS2(S1及びS2は飽和脂肪酸、Mはモノ不飽和脂肪酸を表す)で表されるトリグリセリドとMS3M(S3は飽和脂肪酸、Mはモノ不飽和脂肪酸を表す)で表されるトリグリセリドとからなるコンパウンド結晶を含有することを特徴とするペストリー練り込み用油脂組成物により、上記の目的を達成したものである。
【0013】
【発明の実施の形態】
以下、本発明のペストリー練り込み用油脂組成物について詳細に説明する。
本発明のペストリー練り込み用油脂組成物は、S1MS2(S1及びS2は飽和脂肪酸、Mはモノ不飽和脂肪酸を表す)で表されるトリグリセリド(以下とS1MS2とする)と、MS3M(S3は飽和脂肪酸、Mはモノ不飽和脂肪酸を表す)で表されるトリグリセリド(以下とMS3Mとする)とからなるコンパウンド結晶を含有する。
【0014】
上記のS1 MS2 のS1 とS2 及びMS3MのS3は、好ましくは炭素数16以上の飽和脂肪酸とし、さらに好ましくは、パルミチン酸、 ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘニン酸とする。また、本発明において、上記のS1 、S2 及びS3 が、同じ飽和脂肪酸であるのが最も好ましい。
【0015】
上記のS1 MS2 のM及びMS3 MのMは、好ましくは炭素数16以上のモノ不飽和脂肪酸、さらに好ましくは炭素数18以上のモノ不飽和脂肪酸、最も好ましくはオレイン酸である。
【0016】
本発明において、S1 MS2 とMS3 Mとからなるコンパウンド結晶とは、構造の異なるS1 MS2 1分子とMS3 M1分子とが混合された際、あたかも単一のトリグリセリド分子であるかの如き結晶化挙動を示すものである。コンパウンド結晶は分子間化合物とも呼ばれる。このコンパウンド結晶は、トリグリセリド分子のパッキング状態が2鎖長構造をとることが知られている。
【0017】
また、上記のコンパウンド結晶は、熱エネルギー的に不安定なα型結晶から、準安定形のβプライム型結晶を経由せず、最安定形のβ型結晶に直接転移したものである。つまり、上記のコンパウンド結晶は、S1MS2とMS3Mを混合溶解した後、冷却し、結晶化することにより、最安定形のβ型結晶で、且つトリグリセリド分子のパッキング状態が2鎖長構造を示す結晶として析出する。この際、上記の結晶化条件は如何なる結晶化条件であってもよく、テンパリング等の特殊な熱処理を必要としない。
【0018】
上記のコンパウンド結晶は、以下のようにして得られる油脂結晶についてX線回析で結晶型を測定した結果、該油脂結晶がβ型の2鎖長構造をとるものであるのが好ましい。
【0019】
即ち、ペストリー練り込み用油脂組成物の油相を70℃で完全融解した後、0℃で30分間保持し、好ましくは5℃で7日間保持した際に得られる油脂結晶、さらに好ましくは5℃で4日間保持した際に得られる油脂結晶、一層好ましくは5℃で1日間保持した際に得られる油脂結晶、最も好ましくは5℃で30分間保持した際に得られる油脂結晶が、X線回析で結晶型を測定した結果、β型の2鎖長構造をとるものであるのが好ましい。
【0020】
上記の油脂結晶が2鎖長構造のβ型結晶であることを確認する方法としては、例えばX線回折測定による方法が挙げられる。
【0021】
X線回折測定においては、上記の油脂結晶について、短面間隔を2θ:17〜26度の範囲で測定し、4.5〜4.7オングストロームの面間隔に対応する強い回折ピークを示した場合に、該油脂結晶はβ型結晶であると判断する。一方、上記の油脂結晶について、長面間隔を2θ:0〜8度の範囲で測定し、40〜50オングストロームに相当する回折ピークを示した場合に、2鎖長構造をとっていると判断する。
【0022】
X線回折測定において、以下のようにして短面間隔を測定すると、油脂結晶がβ型結晶であるかどうかの判断がさらに高い精度で可能となる。
【0023】
具体的には、短面間隔を2θ:17〜26度の範囲で測定し、4.5〜4.7オングストロームの面間隔に対応する範囲に最大値を有するピーク強度(ピーク強度1)と、4.2〜4.3オングストロームの面間隔に対応する範囲に最大値を有するピーク強度(ピーク強度2)とをとり、ピーク強度1/ピーク強度2の比が、1.3以上、好ましくは1.7以上、より好ましくは2.2以上、最も好ましくは2.5以上となった場合にβ型結晶であると判断する。
【0024】
従って、ペストリー練り込み用油脂組成物が上記のコンパウンド結晶を含有するかどうか確認をする一例としては、該ペストリー練り込み用油脂組成物を70℃で完全溶解した後、0℃で30分間保持し、そして5℃で30分間保持して得られた油脂結晶について、上述した方法によりX線回折で結晶型を測定した結果、β型の2鎖長構造をとるものは、上記のコンパウンド結晶を含有していると言える。
【0025】
本発明のペストリー練り込み用油脂組成物では、S1 MS2 とMS3 Mとからなるコンパウンド結晶を含有することが必要であり、S1 MS2 とMS3 Mとからなるコンパウンド結晶を含有しないと、ペストリー練り込み用油脂組成物としてペストリー製品に用いた場合、ペストリー製品が圧延時の伸展性が悪く、また食感も歯切れが悪くなったり、ヒキがでやすいので好ましくない。
【0026】
さらに、本発明では、S1 MS2 とMS3 Mとからなるコンパウンド結晶が実質的に微細結晶であることが好ましい。
【0027】
上記の微細結晶とは、コンパウンド結晶が微細であることであり、口にしたり、触った際にもザラつきを感ずることのない結晶であることを意味し、好ましくは20μm以下、さらに好ましくは10μm、最も好ましくは3μm以下のサイズの油脂結晶を指す。上記サイズとは、結晶の最大部位の長さを示すものである。結晶のサイズが20μmを超えた油脂結晶を用いた場合、口にしたり、触った際にザラつきを感じやすく、またペストリー練り込み用油脂組成物としてペストリー製品に用いた場合、ペストリー生地成形時にグルテンを傷めやすく、良好な浮きのペストリーが得られにくい。
【0028】
本発明では、上述のように、S1 MS2 とMS3 Mとからなるコンパウンド結晶が実質的に微細結晶であることが好ましい。この「実質的に」とは、全てのS1 MS2 とMS3 Mとからなるコンパウンド結晶のうち、微細結晶を好ましくは90重量%以上、さらに好ましくは95重量%以上、最も好ましくは99重量%以上含有することを指す。
【0029】
本発明で用いるS1 MS2 とMS3 Mとからなるコンパウンド結晶は、S1 MS2 で表されるトリグリセリドやS1 MS2を含有する油脂と、MS3 Mで表されるトリグリセリドやMS3 Mを含有する油脂を用いて製造できる。
【0030】
上記のS1 MS2 やMS3 Mとしては、天然に存在するS1 MS2 やMS3 Mでも構わないし、又は分別により純度を上げたものでも構わない。さらに、トリ飽和トリグリセリド(SSS)とトリ不飽和トリグリセリド(MMM)、又はトリ不飽和トリグリセリド(MMM)と飽和脂肪酸とをエステル交換し(酵素による選択的エステル交換が好ましい)、さらに蒸留や分別によりS1 MS2 とMS3 Mの純度を上げたもの等、どのような方法によって得られたものでも構わない。
【0031】
上記のS1MS2を含有する油脂としては、例えばパーム油、カカオバター、シア脂、マンゴー核油、サル脂、イリッペ脂、コクム脂、デュパー脂、モーラー脂、フルクラ脂、チャイニーズタロー等の各種植物油脂、これらの各種植物油脂を分別した加工油脂、並びに下記に記載するエステル交換油、該エステル交換油を分別した加工油脂を用いることができる。本発明では、上記の中から選ばれた1種又は2種以上を用いる。
【0032】
上記のエステル交換油としては、パーム油、パーム核油、ヤシ油、コーン油、オリーブ油、綿実油、大豆油、ナタネ油、米油、ヒマワリ油、サフラワー油、牛脂、乳脂、豚脂、カカオバター、シア脂、マンゴー核油、サル脂、イリッペ脂、魚油、鯨油等の各種動植物油脂、これらの各種動植物油脂を必要に応じて水素添加及び/又は分別した後に得られる加工油脂、脂肪酸、脂肪酸低級アルコールエステルを用いて製造したエステル交換油が挙げられる。
【0033】
上記のMS3Mで表されるトリグリセリドを含有する油脂としては、例えば豚脂、豚脂分別油、エステル交換油を用いることができ、本発明ではこれらの中から選ばれた1種又は2種以上を用いる。
【0034】
上記のエステル交換油としては、パーム油、パーム核油、ヤシ油、コーン油、オリーブ油、綿実油、大豆油、ナタネ油、米油、ヒマワリ油、サフラワー油、牛脂、乳脂、豚脂、カカオバター、シア脂、マンゴー核油、サル脂、イリッペ脂、魚油、鯨油等の各種動植物油脂、これらの各種動植物油脂を必要に応じて水素添加、分別した後に得られる加工油脂、脂肪酸、脂肪酸低級アルコールエステルを用いて製造したエステル交換油が挙げられる。
【0035】
本発明のペストリー練り込み用油脂組成物は、上記のS1 MS2 とMS3 Mとからなるコンパウンド結晶を必須成分とするものである。そして、上記のコンパウンド結晶の含有量は、ペストリー練り込み用油脂組成物中、好ましくは5重量%以上、さらに好ましくは20重量%以上、最も好ましくは40重量%以上である。
【0036】
上記のS1 MS2 を含有する油脂は、本発明のペストリー練り込み用油脂組成物の全油脂分中、好ましくは2.5重量%以上、さらに好ましくは10重量%以上、最も好ましく20〜50重量%とする。上記のMS3 Mを含有する油脂は、本発明のペストリー練り込み用油脂組成物の全油脂分中、好ましくは2.5重量%以上、さらに好ましくは10重量%以上、最も好ましくは20〜50重量%とする。
【0037】
さらに、本発明のペストリー練り込み用油脂組成物は、MS3Mで表されるトリグリセリドのモル数/S1MS2で表されるトリグリセリドのモル数が、好ましくは0.4〜2.5、さらに好ましくは0.6〜1.5、最も好ましくは0.8〜1.2となるように配合する。
【0038】
また、本発明のペストリー練り込み用油脂組成物では、S1 MS2 及びMS3 M以外のトリグリセリドや、S1 MS2 及びMS3 Mを含有しない油脂を添加しても良い。S1 MS2 及びMS3 M以外のトリグリセリドや、S1 MS2 及びMS3 Mを含有しない油脂を添加する場合、これらの添加量は、ペストリー練り込み用油脂組成物の全油脂分中、好ましくは95重量%以下、さらに好ましくは80重量%以下、最も好ましくは60重量%以下とする。
【0039】
本発明のペストリー練り込み用油脂組成物は、さらに高融点油脂を含有することが好ましい。高融点油脂を配合することにより、本発明のペストリー練り込み用油脂組成物の耐熱保型性を向上させ、ペストリー製造において、縮みを防止する効果を向上させ、窯伸びをも向上させる。
【0040】
上記の高融点油脂の融点は、好ましくは40℃以上、さらに好ましくは50℃以上、最も好ましくは55℃以上80℃以下である。融点が40℃未満の油脂では、縮みを防止する効果が充分に得られにくい。
【0041】
また、上記の高融点油脂は、ペストリー練り込み用油脂組成物の全油脂分中、好ましくは30重量%以下、さらに好ましくは10重量%以下、最も好ましくは5重量%以下とする。上記の高融点油脂のペストリー練り込み用油脂組成物の全油脂分中の含有量が、30重量%を越えると口溶けが悪化しやすい。
【0042】
上記の高融点油脂の具体例としては、例えばパーム油、カカオバター、或いはパーム核油、ヤシ油、コーン油、オリーブ油、綿実油、大豆油、ナタネ油、米油、ヒマワリ油、サフラワー油、牛脂、乳脂、豚脂、シア脂、マンゴー核油、サル脂、イリッペ脂、魚油、鯨油等の各種動植物油脂を水素添加、分別並びにエステル交換から選択される1又は2以上の処理を施した加工油脂、脂肪酸、脂肪酸低級アルコールエステルを用いて製造したエステル交換油が挙げられる。
【0043】
ただし、本発明のペストリー練り込み用油脂組成物において、上記の高融点油脂が必要でなければ、上記の高融点油脂を用いなくてもよい。
【0044】
本発明のペストリー練り込み用油脂組成物は、配合油のSFCが好ましくは10℃で20〜60%、20℃で10〜40%、さらに好ましくは10℃で20〜50%、20℃で10〜20%となるように調整するのがよい。SFCが10℃で20%未満、又は20℃で10%未満であると、ペストリー練り込み用油脂組成物が軟らかいため、ペストリー練り込み用油脂組成物として良好な生地伸展性が得られにくい。一方、SFCが10℃で60%を超える、又は20℃で40%を超えると、ペストリー練り込み用油脂組成物が練り込み用として硬すぎて使用しにくい。
【0045】
上記のSFCは、次のようにして測定する。即ち、配合油を60℃に30分保持し、油脂を完全に融解し、そして0℃に30分保持して固化させる。さらに25℃に30分保持し、テンパリングを行い、その後、0℃に30分保持する。これをSFCの各測定温度に30分保持後、SFCを測定する。
【0046】
本発明のペストリー練り込み用油脂組成物は、さらに酵素を含有することにより、十分な生地物性を保ちながら、生地縮みの防止効果を向上させることが出来る。また、浮きが良好で、歯切れの向上効果やソフト性の向上も図ることが可能となる。
【0047】
また、上記酵素の配合量は、特に制限はないが、本発明のペストリー練り込み用油脂組成物中、好ましくは0.05〜3重量%、さらに好ましくは0.1〜1重量%である。上記の酵素のペストリー練り込み用油脂組成物中の含有量が、3重量%を越えると生地がべとつき、ハンドリングが悪化し、さらに、浮きが悪化したり、さらにはペストリーを食べた時に口の中で団子状態になり、口溶けが悪化する等の問題が生じるおそれが生じる。
【0048】
上記の酵素の具体例としては、アミラーゼ、プロテアーゼ、アミログルコシダーゼ、プルラナーゼ、ペントサナーゼ、セルラーゼ、リパーゼ、ホスフォリパーゼ、カタラーゼ、リポキシゲナーゼ、リポキシナーゼ、アスコルビン酸オキシダーゼ、スルフィドリルオキシダーゼ、ヘキソースオキシダーゼ、グルコースオキシダーゼ等が挙げられ、これらの中から選ばれた1種又は2種以上を用いることができる。
【0049】
本発明のペストリー練り込み用油脂組成物に含有させることができるその他の成分としては、例えば、水、乳化剤、増粘安定剤、食塩や塩化カリウム等の塩味剤、酢酸、乳酸、グルコン酸等の酸味料、糖類や糖アルコール類、ステビア、アスパルテーム等の甘味料、β−カロチン、カラメル、紅麹色素等の着色料、アスコルビン酸、臭素酸カリウム等の酸化剤、トコフェロール、茶抽出物等の酸化防止剤、小麦蛋白や大豆蛋白といった植物蛋白、卵及び各種卵加工品、着香料、乳製品、調味料、pH調整剤、食品保存料、日持ち向上剤、果実、果汁、コーヒー、ナッツペースト、香辛料、カカオマス、ココアパウダー、穀類、豆類、野菜類、肉類、魚介類等の食品素材や食品添加物が挙げられる。
【0050】
上記乳化剤としては、グリセリン脂肪酸エステル、蔗糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、グリセリン有機酸脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、ステアロイル乳酸カルシウム、ステアロイル乳酸ナトリウム、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、レシチン、サポニン類等が挙げられ、これらの中から選ばれた1種又は2種以上を用いることができる。上記乳化剤の配合量は、特に制限はないが、本発明のペストリー練り込み用油脂組成物中、好ましくは0〜3重量%、さらに好ましくは0〜1重量%である。
【0051】
上記増粘安定剤としては、グアーガム、ローカストビーンガム、カラギーナン、アラビアガム、アルギン酸類、ペクチン、キサンタンガム、プルラン、タマリンドシードガム、サイリウムシードガム、結晶セルロース、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、寒天、グルコマンナン、ゼラチン、澱粉、化工澱粉等が挙げられ、これらの中から選ばれた1種又は2種以上を用いることができる。上記増粘安定剤の配合量は、特に制限はないが、本発明のペストリー練り込み用油脂組成物中、好ましくは0〜10重量%、さらに好ましくは0〜5重量%である。
【0052】
次に、本発明のペストリー練り込み用油脂組成物の製造方法を説明する。
本発明のペストリー練り込み用油脂組成物は、S1MS2を含有する油脂とMS3M含有する油脂を混合溶解した後、冷却し、結晶化させることにより製造される。
【0053】
詳しくは、本発明のペストリー練り込み用油脂組成物の製造方法においては、S1MS2を含有する油脂とMS3Mを含有する油脂を混合溶解した油相に、必要により水相を混合乳化する。そして、次に殺菌処理するのが望ましい。殺菌方法は、タンクでのバッチ式でも、プレート型熱交換機や掻き取り式熱交換機を用いた連続式でも構わない。次に、冷却し、必要により可塑化する。本発明において、冷却条件は好ましくは−0.5℃/分以上、さらに好ましくは−5℃/分以上とする。この際、徐冷却より急速冷却の方が好ましいが、本発明では徐冷却であっても、微細なβ型結晶をとり、可塑性範囲が広く、経日的にも硬さが変化せず安定したペストリー練り込み用油脂組成物を得ることができる。冷却する機器としては、密閉型連続式チューブ冷却機、例えばボテーター、コンビネーター、パーフェクター等のマーガリン製造機やプレート型熱交換機等が挙げられ、また、開放型のダイアクーラーとコンプレクターの組み合わせ等が挙げられる。
【0054】
また、本発明のペストリー練り込み用油脂組成物を製造する際のいずれかの製造工程で、窒素、空気等を含気させても、させなくても構わない。
【0055】
得られた本発明のペストリー練り込み用油脂組成物は、マーガリンタイプでもショートニングタイプでもどちらでもよく、またその乳化形態は、油中水型、水中油型、及び二重乳化型のいずれでも構わない。
【0056】
このような本発明のペストリー練り込み用油脂組成物は、菓子パイ、中華パイ、タルト、デニッシュ、イーストパイ、クロワッサン、デニッシュドーナツ、デニッシュブレッド、フライドパイ、シナモンロール等のペストリー生地に用いることができ、得られたペストリー生地はもちろん冷凍保存することも可能であり、冷凍解凍後においても生地の縮みの少ない良好な物性を示す。
【0057】
本発明のペストリー生地が多層生地の場合、ロールイン油脂としては、従来のロールイン油脂を問題なく使用することができ、ロールイン油脂の形状は、シート状、ブロック状、円柱状、あるいはスプレッド状のいずれの形状でも可能である。各々の形状についての好ましいサイズは、シート状:縦50〜1000mm、横:50〜1000mm、厚さ:1〜50mm、ブロック状:縦50〜1000mm、横50〜1000mm、厚さ50〜500mm、円柱状:直径1〜25mm、長さ5〜100mmである。スプレッド状の場合、常温で硬かったり軟らかかったりして、スプレッド不能なものについても、スプレッド可能な温度に調温することにより、使用可能となる。
【0058】
また、ペストリー生地が多層生地の場合、本発明のペストリー練り込み用油脂組成物を練り込んだ生地に対し、さらに、S1MS2(S1及びS2は飽和脂肪酸、Mはモノ不飽和脂肪酸を表す)で表されるトリグリセリドとMS3M(S3は飽和脂肪酸、Mはモノ不飽和脂肪酸を表す)で表されるトリグリセリドとからなるコンパウンド結晶を含有するロールイン油脂をロールインすることにより、さらに、生地伸展性、リタード時の生地安定性等の生地作業性が良好で、且つ、ペストリー製品の浮きも良好な結果が得られる。
【0059】
また、ペストリー生地が多層生地の場合、本発明のペストリー練り込み用油脂組成物を練り込んだ生地100重量部に対する、ロールイン油脂の配合量は、多層生地の種類によっても異なるが、好ましくは5重量部〜150重量部、さらに好ましくは、10重量部〜100重量部、最も好ましくは、10重量部〜80重量部である。5重量部未満であると、層状を有する多層状ペストリー製品が得られず、150重量部を超えると、ロールイン時に油脂が生地からはみ出したり、油性感が高く良好な食感が得られない可能性がある。
【0060】
また、本発明のペストリー練り込み用油脂組成物は、従来のペストリー練り込み用油脂組成物と同様にして用いられ、その使用量はペストリーの種類によっても異なるが、ペストリー生地中、通常2〜25重量%、好ましくは4〜20重量%である。
【0061】
また、本発明のペストリー製品は、上記ペストリー生地を焼成することにより得られるものである。
【0062】
【実施例】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例により何等制限されるものではない。また、St:ステアリン酸、O:オレイン酸、P:パルミチン酸、S:飽和脂肪酸、M:モノ不飽和脂肪酸を示す。
【0063】
(実施例1)
大豆極度硬化油とオレイン酸エチルを、重量比2:3の割合で混合、溶解し、1,3位置選択的酵素を用いてエステル交換反応を行った。反応物から分子蒸留により脂肪酸を取り除き、得られた油脂を分別、精製することによりOStO含量60重量%の油脂を得た。このOStO含有油脂50重量%及びマンゴー核分別中部油50重量%を混合し、60℃で溶解した後、0℃に冷却し、結晶化させ、混合油(a)を得た。混合油(a)はStOStを30重量%、OStOを30重量%含有し、DSCにより結晶転移の有無を確認したところ、βプライム型をとらずにβ型結晶であった。
【0064】
確認のため、上記混合油(a)を70℃で完全溶解し、0℃で30分保持し、そして5℃で30分間保持し結晶析出させたものを2θ:17〜26度の範囲でX線回折測定を実施したところ、4.6オングストロームの面間隔に対応する強い回折線が得られ、この油脂結晶はβ型をとることが確認された。また、光学顕微鏡でこの油脂結晶のサイズを確認したところ、3μm以下の微細な結晶であった。更に、2θ:0〜8度の範囲でX線回折測定を実施し、トリグリセリドのパッキング状態が2鎖長構造であることも確認され、コンパウンド結晶の形成が示された。
【0065】
上記混合油(a)80重量%と大豆油20重量%とを混合し、60℃で溶解させ配合油を得た。この配合油80.4重量%に乳化剤としてステアリン酸モノグリセリド0.5重量%及びレシチン0.1重量%を混合溶解した油相81重量%と水16重量%、食塩1重量%、脱脂粉乳2重量%とを常法により、油中水型の乳化物(b)とし、急冷可塑化工程(冷却速度−20℃/分以上)にかけ、本発明のペストリー練り込み用油脂組成物であるマーガリンを得た。得られたマーガリンは、光学顕微鏡下で3μm以下の微細結晶であり、マーガリンの油相を上記と同条件でX線回折測定を行ったところ、2鎖長構造のβ型をとり、コンパウンド結晶を形成することを確認した。そして、マーガリンの全油脂分中のコンパウンド結晶の含有量は48重量%であり、マーガリンの配合油のSFCは10℃で37%、20℃で22%であった。
【0066】
また、得られたマーガリンは、5℃のレオメーター値が900g/cm2、20℃のレオメーター値が340g/cm2と低温でも軟らかく且つ可塑性範囲が広いペストリー練り込み用油脂組成物であった。
【0067】
(比較例1)
魚油を原料とし、ニッケル触媒を用いて水素添加を行い、融点30℃の魚油硬化油、融点36℃の魚油硬化油及び融点45℃の魚油硬化油を得た。これらの融点30℃の魚油硬化油、融点36℃の魚油硬化油及び融点45℃の魚油硬化油をそれぞれ60℃で溶解し、0℃に冷却し、結晶化させ、DSCにより結晶転移の有無を確認したところ、いずれもβプライム型をとる油脂であった。また、これらの融点30℃の魚油硬化油、融点36℃の魚油硬化油及び融点45℃の魚油硬化油は、いずれもSMS及びMSMを含有しない油脂であった。
【0068】
確認のため、これらの融点30℃の魚油硬化油、融点36℃の魚油硬化油及び融点45℃の魚油硬化油をそれぞれ70℃で完全溶解した後、0℃で30分保持し、そして5℃で30分間保持し結晶析出させたものを2θ:17〜26度の範囲でX線回折測定を実施したところ、4.2オングストロームの面間隔に対応する強い回折線が得られ、これらの油脂結晶はいずれもβプライム型をとることが確認された。更に、2θ:0〜8度の範囲でX線回折測定を実施し、トリグリセリドのパッキング状態が3鎖長構造であることを確認し、コンパウンド結晶の形成は認められなかった。
【0069】
これらの融点30℃の魚油硬化油75重量%、融点36℃の魚油硬化油15重量%及び融点45℃の魚油硬化油10重量%を混合し、60℃で溶解し、乳化剤無添加で常法により急冷可塑化工程(冷却速度−20℃/分以上)にかけ、比較例のペストリー練り込み用油脂組成物であるショートニングを得た。得られたショートニングを実施例1と同条件でX線回折測定を行ったところ、3鎖長構造のβプライム型をとり、コンパウンド結晶を含有しないことを確認した。このショートニングの配合油のSFCは、10℃で38%、20℃で22%であった。
【0070】
このショートニングは、5℃のレオメーター値が6900g/cm2、20℃のレオメーター値が600g/cm2と低温で硬く、可塑性範囲が狭い、ペストリー練り込み用油脂組成物であった。
【0071】
次いで上記本発明のペストリー練り込み用油脂組成物、または、比較例のペストリー練り込み用油脂組成物と、下記のロールイン油脂A〜Cを用いてデニッシュ、パイ、練パイ、シナモンロールをそれぞれ製造し、その作業性の比較、および、得られたペストリー製品の比較を行った。
【0072】
(ロールイン油脂A)
豚脂分別軟部油75重量%とパーム分別中部油25重量%を混合し、SMSを16重量%、MSMを16重量%含有した混合油(b)を得た。この混合油(b)を60℃で溶解した後、0℃に冷却し、結晶化させ、DSCにより結晶転移の有無を確認したところ、βプライム型をとらずにβ型結晶であった。
【0073】
確認のため、上記混合油(a)を70℃で完全溶解した後、0℃で30分保持し、そして5℃で30分間保持し結晶析出させたものを2θ:17〜26度の範囲でX線回折測定を実施したところ、4.6オングストロームの面間隔に対応する強い回折線が得られ、この油脂結晶はβ型をとることが確認された。また、光学顕微鏡でこの油脂結晶のサイズを確認したところ、3μm以下の微細な結晶であった。さらに、2θ:0〜8度の範囲でX線回折測定を実施し、トリグリセリドのパッキング状態が2鎖長構造であることも確認され、コンパウンド結晶の形成が示された。
【0074】
上記混合油中のSMSは16重量%、MSMは16重量%であり、MSMのモル数/SMSのモル数は1.0であった。この混合油(b)80.4重量%を溶解させ、乳化剤としてステアリン酸モノグリセリド0.5重量%とレシチン0.1重量%を混合溶解した油相81重量%と水16重量%、食塩1重量%、脱脂粉乳2重量%とを常法により、油中水型の乳化物(c)とし、急冷可塑化工程(冷却速度−20℃/分以上)にかけ、マーガリンタイプのロールイン用油脂組成物を得た。得られたロールイン用油脂組成物は、光学顕微鏡下で3μm以下の微細結晶であり、ロールイン用油脂組成物の油相を上記と同条件でX線回折測定を行ったところ、2鎖長構造のβ型をとり、コンパウンド結晶を形成することを確認した。そして、ロールイン用油脂組成物の全油脂分中のコンパウンド結晶の含有量は32重量%であり、ロールイン用油脂組成物の配合油のSFCは10℃で50%、20℃で16%であった。ロールイン用油脂組成物の形状は縦210mm、横285mm、厚さ9mmのシート状とした。
【0075】
また、得られたロールイン用油脂組成物は、5℃のレオメーター値が2100g/cm2、20℃のレオメーター値が250g/cm2と低温でも軟らかくて可塑性範囲が広く、伸展性に優れ、且つ製造から1ヶ月経過後での5℃のレオメーター値も2100g/cm2と経日的にも硬さが変化せず安定したロールイン用油脂組成物であった。
【0076】
(ロールイン油脂B)
ナタネ硬化油(融点45℃)55重量%、大豆油43重量%、大豆極度硬化油脂(融点68℃)に乳化剤としてステアリン酸モノグリセリド0.5重量%とレシチン0.1重量%を添加し、70℃で溶解混合した油相81重量%と、水16重量%、食塩1重量%、脱脂粉乳2重量%とを常法により、油中水型の乳化物とし、急冷可塑化工程(−20℃/分以上)にかけ、マーガリンタイプのロールイン用油脂組成物を得た。ロールイン用油脂組成物の形状は縦210mm、横285mm、厚さ9mmのシート状とした。
【0077】
(ロールイン油脂C)
ナタネ硬化油(融点45℃)55重量%、大豆油43重量%、大豆極度硬化油脂(融点68℃)に乳化剤としてステアリン酸モノグリセリド0.5重量%とレシチン0.1重量%を添加し、70℃で溶解混合した油相81重量%と、水16重量%、食塩1重量%、脱脂粉乳2重量%とを常法により、油中水型の乳化物とし、急冷可塑化工程(−20℃/分以上)にかけ、マーガリンタイプのロールイン用油脂組成物を得た。ロールイン用油脂組成物の形状は直径5mm、長さ40mmの円柱状とした。
【0078】
(実施例2)実施例1で得られたペストリー練り込み用油脂組成物、およびロールイン用油脂Aを用い、下記の配合と製法にて、デニッシュを得た。
【0079】
(実施例3)実施例1で得られたペストリー練り込み用油脂組成物、およびロールイン用油脂Bを用い、下記の配合と製法にて、デニッシュを得た。
【0080】
(比較例2)比較例1で得られたペストリー練り込み用油脂組成物、およびロールイン用油脂Bを用い、下記の配合と製法にて、デニッシュを得た。
【0081】
<配合>
強 力 粉 70 重量部
薄 力 粉 30 重量部
イーストフード 0.1重量部
イースト 4 重量部
食 塩 1.6重量部
砂 糖 6 重量部
脱脂粉乳 3 重量部
練り込み油脂 5 重量部
水 54 重量部
ロールイン用油脂組成物 54 重量部
<製法>
ロールイン用油脂組成物以外の原料を、縦型ミキサーにて低速3分及び中速5分ミキシングした生地(捏ね上げ温度=24℃)を2℃の冷蔵庫内で一晩リタードした。この生地にロールイン用油脂組成物をのせ、常法によりロールインし、36層(4×3×3)に折り畳み、厚さ30mmのペストリー生地を得た。この生地を2℃の冷蔵庫内で30分レストを取った後、厚さ3mmに圧延し、直径100mmの型で生地を打ち抜き展板に載せ、32℃、相対湿度85%、60分のホイロを取った後、210℃の固定窯で11分焼成した。
【0082】
なお、作業性、生地縮み率、浮き倍率及び食感は、下記評価基準で評価し、結果を表1に記載した。
【0083】
評価方法及び評価基準
・生地伸展性:油脂をロールインした生地を厚さ6mmまで圧延した際に伸展方向に何倍に伸展したかを測定し、これを生地伸展性とした。
◎:3.75以上、○:3.74〜3.5、△:3.49〜3.25、×:3.24以下
・生地縮み率:焼成したペストリーの短径と長径を測定し、短径÷長径を算出し、この値を生地縮み率とした。
◎:9.0以上、○:8.9〜8.0、△:7.9〜7.0、×:6.0以下
・浮き倍率:10個の焼成したペストリーの平均標高を測定し、その平均値(単位:mm)÷3の数値を浮き倍率とした。
◎:9.0以上、○:8.9〜7.0、△:6.9〜5.0、×:4.9以下
・食感(翌日):焼成したペストリーをパネラー10人にて歯切れとヒキをそれぞれ良好な順に3点2点1点の順に3段階評価をおこない、その歯切れの評価点とヒキの評価点を乗じた点数を算出し、食感評価とした。
◎:9点、○:6点、△:3〜4点、×:1〜2点
【0084】
【表1】
【0085】
(実施例4)実施例1で得られたペストリー練り込み用油脂組成物、およびロールイン用油脂Aを用い、下記の配合と製法にて、パイを得た。
【0086】
(実施例5)実施例1で得られたペストリー練り込み用油脂組成物、およびロールイン用油脂Bを用い、下記の配合と製法にて、パイを得た。
【0087】
(比較例3)比較例1で得られたペストリー練り込み用油脂組成物、およびロールイン用油脂Bを用い、下記の配合と製法にて、パイを得た。
【0088】
<配合>
強 力 粉 70 重量部
薄 力 粉 30 重量部
食 塩 1.3重量部
砂 糖 2 重量部
脱脂粉乳 3 重量部
練り込み油脂 5 重量部
水 54 重量部
ロールイン用油脂組成物 80 重量部
<製法>
ロールイン用油脂組成物以外の原料を、縦型ミキサーにて低速3分及び中速4分でミキシングした後、2℃の冷蔵庫内で生地を一晩リタードした。この生地にロールイン用油脂組成物をのせ、常法によりロールイン(4つ折り4回)し、成型(縦100mm×横100mm×厚さ3mm)、210℃の固定窯で11分焼成した。
【0089】
なお、作業性、浮き倍率及び食感は、下記評価基準で評価し、結果を表2に記載した。
【0090】
評価方法及び評価基準
・作業性(生地の伸展性と縮み)
◎:伸展性良好で縮みもなく、非常に良好、 ○:伸展性は良好だが、若干の縮みがある。 △:伸展性やや悪く縮みがある、×:伸展性悪く、縮みも大きい
・浮き倍率:10個の焼成したペストリーの平均標高を測定し、その平均値(単位:mm)÷3の数値を浮き倍率とした。
◎:9.0以上、○:8.9〜7.0、△:6.9〜5.0、×:4.9以下
・食感(翌日):焼成したペストリーをパネラー10人にて歯切れとヒキをそれぞれ良好な順に3点2点1点の順に3段階評価をおこない、その歯切れの評価点とヒキの評価点を乗じた点数を算出し、食感評価とした。
◎:9点、○:6点、△:3〜4点、×:1〜2点
【0091】
【表2】
【0092】
(実施例6)実施例1で得られたペストリー練り込み用油脂組成物、およびロールイン用油脂Cを用い、下記の配合と製法にて、練パイを得た。
【0093】
(比較例4)比較例1で得られたペストリー練り込み用油脂組成物、およびロールイン用油脂Cを用い、下記の配合と製法にて、練パイを得た。
【0094】
<配合>
強 力 粉 70 重量部
薄 力 粉 30 重量部
食 塩 1.3重量部
砂 糖 2 重量部
脱脂粉乳 3 重量部
練り込み油脂 5 重量部
水 54 重量部
ロールイン用油脂組成物 80 重量部
<製法>
ロールイン用油脂組成物以外の原料を、縦型ミキサーにて低速及び中速でミキシングした後、ロールイン用油脂組成物を添加、低速1分混合した生地を冷蔵庫内でリタードした。この生地を常法によりロールイン(4つ折り4回)し、成型(縦100mm×横100mm×厚さ3mm)、固定窯にて焼成した。
【0095】
なお、作業性、浮き倍率及び食感は、下記評価基準で評価し、結果を表3に記載した。
【0096】
評価方法及び評価基準
・作業性(生地の伸展性と縮み)
◎:伸展性良好で縮みもなく、非常に良好、 ○:伸展性は良好だが、若干の縮みがある。 △:伸展性やや悪く縮みがある、×:伸展性悪く、縮みも大きい・浮き倍率:10個の焼成したペストリーの平均標高を測定し、その平均値(単位:mm)÷3の数値を浮き倍率とした。
◎:9.0以上、○:8.9〜7.0、△:6.9〜5.0、×:4.9以下・食感(翌日):焼成したペストリーをパネラー10人にて歯切れとヒキをそれぞれ良好な順に3点2点1点の順に3段階評価をおこない、その歯切れの評価点とヒキの評価点を乗じた点数を算出し、食感評価とした。
◎:9点、○:6点、△:3〜4点、×:1〜2点
【0097】
【表3】
【0098】
(実施例7)実施例1で得られたペストリー練り込み用油脂組成物を用い、下記の配合と製法にて、シナモンロールを得た。
【0099】
(比較例5)比較例1で得られたペストリー練り込み用油脂組成物を用い、下記の配合と製法にて、シナモンロールを得た。
【0100】
<配合>
フランス粉 100 重量部
イースト 7 重量部
食 塩 1.3重量部
砂 糖 20 重量部
脱脂粉乳 5 重量部
全卵(正味) 20 重量部
練り込み用油脂組成物 20 重量部
水 40 重量部
シナモンシュガー 10 重量部
<製法>
練り込み用油脂組成物、シナモンシュガー以外の原料を、縦型ミキサー(カント―ミキサー)に投入し、低速2分中速8分混合した。ここに練り込み用油脂組成物を二回にわけて投入、混合し、均一な生地とした。フロアタイムを40分とったのち、冷蔵庫で生地中心が2℃になるまで16時間冷却した。ここで、空折りとして三つ折り1回後、生地厚さ5mm、幅32cm、長さ38cmの帯状にした。ここにシナモンシュガーを散布した。この生地をストーリング後、幅3cmにカット、(約100g)展板に直径10cmのグラシンを敷き、生地を断面を上にして置き、38℃50分ホイロを取った後、固定窯にて190℃15分焼成した。
【0101】
なお、作業性及び食感は、下記評価基準で評価し、結果を表4に記載した。
【0102】
評価方法及び評価基準
・作業性(生地の伸展性と縮み)
◎:伸展性良好で縮みもなく、非常に良好、 ○:伸展性は良好だが、若干の縮みがある。 △:伸展性やや悪く縮みがある、×:伸展性悪く、縮みも大きい
・食感(翌日):焼成したペストリーをパネラー10人にて歯切れとヒキをそれぞれ良好な順に3点2点1点の順に3段階評価をおこない、その歯切れの評価点とヒキの評価点を乗じた点数を算出し、食感評価とした。
◎:9点、○:6点、△:3〜4点、×:1〜2点
【0103】
【表4】
【0104】
これらの結果から明らかなように、SMSとMSMとからなるコンパウンド結晶を含有しないβプライム型結晶である比較例1のペストリー練り込み用油脂組成物は可塑性範囲が狭く、またこのペストリー練り込み用油脂組成物を用いて比較例2〜5のペストリーを製造すると、ペストリー製造時の作業性、得られたペストリーの歯切れ、口溶け、ウェット感及びソフト感の全てが非常に良好であるペストリーは得られなかった。
【0105】
これに対し、SMS及びMSMを含有し、SMSとMSMとからなるコンパウンド結晶を形成し得る配合油を用いた実施例1では、可塑性範囲が広いペストリー練り込み用油脂組成物が得られた。またこのペストリー練り込み用油脂組成物を用いて実施例2〜7のペストリーを製造すると、ペストリー製造時の作業性、得られたペストリーは歯切れが良好で、ヒキのない食感を保持していた。
【0106】
【発明の効果】
本発明のペストリー練り込み用油脂組成物は、可塑性範囲が広く、経日的にも硬さが変化せず安定であるペストリー練り込み用油脂組成物である。
また、本発明のペストリー練り込み用油脂組成物をペストリーに用いたとき、作業性が良好であり、かつ、食感がペストリーを提供することができる。
Claims (10)
- S1MS2(S1及びS2は飽和脂肪酸、Mはモノ不飽和脂肪酸を表す)で表されるトリグリセリドとMS3M(S3は飽和脂肪酸、Mはモノ不飽和脂肪酸を表す)で表されるトリグリセリドとからなるコンパウンド結晶を含有することを特徴とするペストリー練り込み用油脂組成物。
- 上記S1、S2及びS3が炭素数16以上の飽和脂肪酸である請求項1記載のペストリー練り込み用油脂組成物。
- 上記のコンパウンド結晶が実質的に微細結晶である請求項1又は2に記載のペストリー練り込み用油脂組成物。
- さらに高融点油脂を含有する請求項1〜3の何れかに記載のペストリー練り込み用油脂組成物。
- さらに酵素を含有する請求項1〜4のいずれかに記載のペストリー練り込み用油脂組成物。
- 配合油のSFC(固体脂含量)が10℃で20〜60%、20℃で10〜40%である請求項1〜5の何れかに記載のペストリー練り込み用油脂組成物。
- S1MS2(S1及びS2は飽和脂肪酸、Mはモノ不飽和脂肪酸を表す)で表されるトリグリセリドとMS3M(S3は飽和脂肪酸、Mはモノ不飽和脂肪酸を表す)で表されるトリグリセリドとを混合溶解した後、冷却し、結晶化させることを特徴とするペストリー練り込み用油脂組成物。
- S1MS2(S1及びS2は飽和脂肪酸、Mはモノ不飽和脂肪酸を表す)で表されるトリグリセリドとMS3M(S3は飽和脂肪酸、Mはモノ不飽和脂肪酸を表す)で表されるトリグリセリドとからなるコンパウンド結晶を含有するペストリー練り込み用油脂組成物を練り込んだことを特徴とするペストリー生地。
- S1MS2(S1及びS2は飽和脂肪酸、Mはモノ不飽和脂肪酸を表す)で表されるトリグリセリドとMS3M(S3は飽和脂肪酸、Mはモノ不飽和脂肪酸を表す)で表されるトリグリセリドとからなるコンパウンド結晶を含有するロールイン油脂をロールインしたことを特徴とする請求項8記載のペストリー生地。
- 請求項8または9記載のペストリー生地を焼成したペストリー製品。
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-
2003
- 2003-04-03 JP JP2003100655A patent/JP2004305048A/ja active Pending
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