JP2004299196A - ポリスルホン系樹脂溶液組成物を用いた積層体 - Google Patents
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Abstract
【課題】ポリスルホン系樹脂溶液組成物を基材表面に塗布したときに、表面平滑性に優れた塗膜層を形成し、かつ有害な成分を発生させることがない積層体を提供する。
【解決手段】基材(A)の少なくとも一方の面に、ポリスルホン系樹脂溶液組成物を塗布、乾燥させてポリスルホン系樹脂塗膜層(B)を形成してなる積層体であって、
1)ポリスルホン系樹脂塗膜層(B)の表面平滑性は、ノマルスキー型微分干渉顕微鏡法で観測した際に、視野1mm2に直径50μm以上の円状凹凸が1個以下であり、
2)ポリスルホン系樹脂溶液組成物は、ポリスルホン系樹脂の溶解度パラメータ(δp)と、少なくとも3種の混合溶媒の溶解度パラメータ(δs)との差が4(MJ/m3)1/2以下であり、及び
3)基材(A)とポリスルホン系樹脂塗膜層(B)との密着強度が、5N/m以上であることを特徴とする積層体などを提供した。
【選択図】 なし
【解決手段】基材(A)の少なくとも一方の面に、ポリスルホン系樹脂溶液組成物を塗布、乾燥させてポリスルホン系樹脂塗膜層(B)を形成してなる積層体であって、
1)ポリスルホン系樹脂塗膜層(B)の表面平滑性は、ノマルスキー型微分干渉顕微鏡法で観測した際に、視野1mm2に直径50μm以上の円状凹凸が1個以下であり、
2)ポリスルホン系樹脂溶液組成物は、ポリスルホン系樹脂の溶解度パラメータ(δp)と、少なくとも3種の混合溶媒の溶解度パラメータ(δs)との差が4(MJ/m3)1/2以下であり、及び
3)基材(A)とポリスルホン系樹脂塗膜層(B)との密着強度が、5N/m以上であることを特徴とする積層体などを提供した。
【選択図】 なし
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、ポリスルホン系樹脂溶液組成物を用いた積層体に関し、更に詳しくは、ポリスルホン系樹脂溶液組成物を基材表面に塗布したときに、表面平滑性に優れた塗膜層を形成し、かつ有害な成分を発生させることがない積層体に関する。そして、得られた積層体は、光学特性や表面特性に優れているので耐熱性光学用フィルム等として利用される。
【0002】
【従来の技術】
ポリエーテルスルホン樹脂などのポリスルホン系樹脂は、耐熱性、寸法安定性、機械的特性、耐クリープ性、難燃性、人体安全性、耐酸性、耐アルカリ性等において優れ、かつ溶解度パラメータ(SP値)も非常に高く特異の性質を有するので、プリントサーキットボード、コネクター、コイルボビン、ブッシング、コンデンサーフィルム、アルカリ電池ケース等の電気・電子部品、バッテリーキャップ、ヒューズ、センサー、イグニション部品等の自動車部品、限外濾過モジュール、ケミカルポンプ、メッキ用ロール等の工業用品、等の成形品として広く用いられている。
【0003】
また、ポリスルホン系樹脂は、上記のような優れた特性を生かし、被覆材、塗料、接着剤及びフィルムとしても利用されるが、それらを製造するときには、通常はポリスルホン系樹脂を溶剤(溶媒)に溶かし溶液組成物を準備し、これをそのまま、又は基材表面に塗布、乾燥して製品としている。
代表的な製品としては、液晶表示素子用透明電極基板を作るために用いられる耐熱性光学用フィルムがある。
【0004】
その液晶表示素子用透明電極基板としては、従来、光学特性に優れ、研磨により極めて表面平滑性に優れているガラス基板が採用されてきたが、ガラスは比重が大きく割れ易いので、ガラス基板自体を厚くしなければならず、液晶表示素子を小型化、軽量化、耐衝撃性にすることが困難であり、ガラス基板の有する欠点を改善する方法として、プラスチックフィルムを用いることが知られている(例えば、特許文献1、2参照。)。
【0005】
特許文献1、2には、ガラス基板の代わりに導電性酸化金属物質を蒸着した長尺のポリエステルフィルムなどを用いて液晶表示素子を連続して製造することが示されているが、ガラス基板のような表面平滑性に優れたポリエステルフィルムなどは得られていない。特に、高精密な表示を得るためにSTN型液晶表示素子とした場合には、間隔を0.1μm単位で制御された基板間の液晶の複屈折性を利用して表示を行うために、プラスチックフィルムの表面平滑性が極めて重要な課題となる。
【0006】
また、上記のポリエステルフィルムなどの表面平滑性の問題点を改善するものとして、ポリエーテルスルホンなどのプラスチックシートに、そのプラスチックシート組成の樹脂を溶解した溶液を塗布した後、乾燥処理した平滑性を有する光学プラスチックシートが提案されている(例えば、特許文献3参照。)。
しかしながら、特許文献3に開示されている光学シートは、プラスチックシートとして透明性、耐熱性、耐衝撃性に優れたポリエーテルスルホンなどのポリスルホン系樹脂を採用した点では従来技術より改善されているものの、用いられている溶剤は、プラスチック組成の樹脂を溶解するものであれば特に限定されずに、例えば、ポリエーテルスルホンであれば1−メチル−2−ピロリドンなどの溶剤であり、溶液の粘度を4000(ポイズ@30℃)以下に規定し低粘度にしているものの、このような方法で得られた光学シートの表面平滑性は、未だ不十分である。
【0007】
また、ポリエーテルスルホンなどのポリスルホン系樹脂を使用する際には、ポリスルホン系樹脂の溶液組成物が用いられ、その溶剤(溶媒)として、強極性の不活性液体[DMSO(ジメチルスルホオキシド)、DMF(ジメチルホルムアミド)]を主体とし、環式脂肪族ケトンと高揮発性脂肪族ケトンを併用した混合溶媒を用いることが提案されている(例えば、特許文献4参照。)。
しかしながら、この溶液組成物では、コーティング(塗膜層)表面の平滑性に劣り、さらに、塗布、乾燥したとき蒸発し、廃棄のため燃焼されたときに、残留溶剤成分により、SOXやNOX等の有害成分を発生する問題がある。
また、ポリスルホン系樹脂の溶液組成物においては、ポリスルホンの二量体などが結晶化し溶液に濁りが生じ、その濁りの生じたポリスルホン系樹脂溶液を製膜しフィルム化すると、ヘイズが高く、しかも表面の荒れの大きいフィルムとなり、光学フィルムとしては使用できない。そこで、製膜工程に先立ち、フィルターによるろ過や80℃以上の加熱処理が行われている(例えば、特許文献5〜7参照。)。
しかしながら、ろ過工程は生産性を低下させ、また、加熱処理では、高沸点溶媒を使う必要があって、乾燥工程が高温或いは長時間になり、生産性に問題がある。そして、それらの対処方法では未だ十分な表面平滑性が得られていない。
【0008】
【特許文献1】
特開昭53−68099号公報(第1−2頁)
【特許文献2】
特開昭54−126559号公報(特許請求の範囲など)
【特許文献3】
特開2001−328213号公報(特許請求の範囲など)
【特許文献4】
特開昭49−110725号公報(特許請求の範囲など)
【特許文献5】
特開平5−329857号公報(特許請求の範囲など)
【特許文献6】
特開平7−233265号公報(特許請求の範囲など)
【特許文献7】
特開平7−268104号公報(特許請求の範囲など)
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、上記の従来技術の問題点に鑑み、ポリスルホン系樹脂溶液組成物を基材表面に塗布したときに、表面平滑性に優れた塗膜層を形成し、かつ有害な成分を発生させることがない積層体を提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明者等は、上記の課題に鑑み、基材上のポリスルホン系樹脂塗膜層の表面平滑性を優れたものにするために、各種の溶剤からなる混合溶媒を準備し、これにポリスルホン系樹脂を溶解した溶液組成物を調製し、基材フィルムに塗布、乾燥し、積層体を作製し、耐熱性光学用フィルムとしての評価を行ったところ、例えば、ある特定の組み合わせの混合溶媒を用いた場合に、塗膜層の表面平滑性が非常に優れたものになることを見出した。本発明は、この知見に基いて完成するに至ったものである。
【0011】
すなわち、本発明の第1の発明によれば、基材(A)の少なくとも一方の面に、ポリスルホン系樹脂溶液組成物を塗布、乾燥させてポリスルホン系樹脂塗膜層(B)を形成してなる積層体であって、
1)ポリスルホン系樹脂塗膜層(B)の表面平滑性は、ノマルスキー型微分干渉顕微鏡法で観測した際に、視野1mm2に直径50μm以上の円状凹凸が1個以下であり、
2)ポリスルホン系樹脂溶液組成物は、ポリスルホン系樹脂の溶解度パラメータ(δp)と、下記式(1)による少なくとも3種の混合溶媒の溶解度パラメータ(δs)との差が4(MJ/m3)1/2以下であり、及び
3)基材(A)とポリスルホン系樹脂塗膜層(B)との密着強度が、5N/m以上であることを特徴とする積層体が提供される。
式(1): δs=(Va×δa/100)+(Vb×δb/100)+(Vc×δc/100)+(Vd×δd/100)
[式中、Vaはラクトン類の体積分率(%)を、Vbは芳香族ケトン類の体積分率(%)を、Vcは環状ケトン類の体積分率(%)を、Vdは脂肪族ケトン類の体積分率(%)を、δaはラクトン類の溶解度パラメータを、δbは芳香族ケトン類の溶解度パラメータを、δcは環状ケトン類の溶解度パラメータを、及びδdは脂肪族ケトン類の溶解度パラメータを表す。]
また、本発明の第2の発明によれば、第1の発明において、ポリスルホン系樹脂溶液組成物は、ラクトン類(a)又は芳香族ケトン類(b)の少なくとも1種と環状ケトン類(c)と沸点が150℃以下の脂肪族ケトン(d)とからなる混合溶媒に、少なくとも1種のポリスルホン系樹脂を溶解させてなることを特徴とする積層体が提供される。
【0012】
また、本発明の第3の発明によれば、第2の発明において、混合溶媒(100容量部)中におけるラクトン類(a)、芳香族ケトン類(b)、環状ケトン類(c)、及び脂肪族ケトン(d)の配合割合(容量部)は、下記の式(1)〜(4)を同時に満足することを特徴とする積層体が提供される。
60≧(a+b)≧15 (1)
65≧c≧10 (2)
45≧d≧10 (3)
a+b+c+d=100 (4)
さらに、本発明の第4の発明によれば、第1の発明において、ポリスルホン系樹脂溶液組成物は、混合溶媒100重量部に対して、ポリスルホン系樹脂の配合量が1〜30重量部であることを特徴とする積層体が提供される。
【0013】
本発明は、上記した如く、基材(A)の少なくとも一方の面に、ポリスルホン系樹脂溶液組成物を塗布、乾燥させてポリスルホン系樹脂塗膜層(B)を形成してなる積層体であって、ポリスルホン系樹脂塗膜層(B)の表面平滑性が、特定範囲であることなどを特徴とする積層体等に係るものであるが、その好ましい態様として、次のものが包含される。
【0014】
(1)第1の発明において、基材(A)は、ポリエチレンテレフタレートフィルムであることを特徴とする積層体。
(2)第1の発明において、ポリスルホン系樹脂は、ポリスルホン樹脂(PSF)、ポリエーテルスルホン樹脂(PES)、又はポリフェニルスルホン樹脂(PPSU)のいずれかであることを特徴とする積層体。
(3)ポリスルホン系樹脂溶液組成物の塗布は、ワイヤーバーコーティングにより、行われることを特徴とする第1〜4のいずれかの発明の積層体の製造方法。
【0015】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の表面平滑性に優れた積層体について、各項目毎に詳細に説明する。
本発明の積層体は、基材(A)の少なくとも一方の面に、ポリスルホン系樹脂溶液組成物を塗布、乾燥させてポリスルホン系樹脂塗膜層(B)を形成してなる積層体であって、
1)ポリスルホン系樹脂塗膜層(B)の表面平滑性は、ノマルスキー型微分干渉顕微鏡法で観測した際に、視野1mm2に直径50μm以上の円状凹凸が1個以下であり、
2)ポリスルホン系樹脂溶液組成物は、ポリスルホン系樹脂の溶解度パラメータ(δp)と、下記式(1)による少なくとも3種の混合溶媒の溶解度パラメータ(δs)との差が4(MJ/m3)1/2以下であり、及び
3)基材(A)とポリスルホン系樹脂塗膜層(B)との密着強度が、5N/m以上であることを特徴とするものである。
式(1): δs=(Va×δa/100)+(Vb×δb/100)+(Vc×δc/100)+(Vd×δd/100)
[式中、Vaはラクトン類の体積分率(%)を、Vbは芳香族ケトン類の体積分率(%)を、Vcは環状ケトン類の体積分率(%)を、Vdは脂肪族ケトン類の体積分率(%)を、δaはラクトン類の溶解度パラメータを、δbは芳香族ケトン類の溶解度パラメータを、δcは環状ケトン類の溶解度パラメータを、及びδdは脂肪族ケトン類の溶解度パラメータを表す。]
【0016】
1.基材(A)
本発明において、基材(A)とは、フィルム、シート、板、棒、パイプ、コイル、ワイヤー、織布、不織布、紙等であり、本発明の積層体の機械的強度を担い、その少なくとも一方の面に、ポリスルホン系樹脂塗膜層(B)を積層させる。
【0017】
基材の原料としては、(i)ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリカーボネート、高密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ4メチルペンテン1、ポリスチレン、ポリスルホン(PSF)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリフェニルスルホン(PPSU)、ポリフェニレンスルフィド、ポリ−p−フェニレンテレフタラミド、ポリアミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアクリレート、ポリアリレート、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンオキサイド、ポリアセタール、ポリメタクリル酸メチル、ポリアクリロニトリル、ポリ塩化三フッ化エチレン、ポリ四フッ化エチレン、ポリパラキシレン、ポリエーテルイミド、ポリイミド、ポリ塩化ビニル、ポリウレタン、エポキシ樹脂、キシレン樹脂、グアナミン樹脂、ジアリルフタレート樹脂、ビニルエステル樹脂、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、フラン樹脂、ポリウレタン、メラミン樹脂、ユリア樹脂等のプラスチックス;(ii)鉄、アルミニウム、銅、チタン、スズ、亜鉛等の金属;(iii)ガラス、セラミックス、コンクリート、岩石等の無機物;(iv)木材、竹等が例示される。これらの基材の原料は、一種であっても、二種以上を混合してもよい。
【0018】
基材がフィルムの場合、これらの基材フィルムの中では、ポリエチレンテレフタレートフィルムがコストやフィッシュアイや厚薄ムラの問題がなく、腰があるので取扱性に優れ、さらにポリスルホン系樹脂塗膜層(B)との接着性に優れ、強い密着強度で積層されることが可能であるために、最も好ましい基材フィルムである。
【0019】
基材が樹脂フィルムの場合、樹脂フィルムの厚みは、例えば1〜200μm、好ましくは3〜150μm、更に好ましくは12〜100μm、特に好ましくは20〜80μmである。厚みが1μm未満であると、フィルムの腰がなく取扱性が悪く、一方、200μmを超えると、腰が強すぎロール巻きが困難となり、また材料費がかさみ、過剰品質となりコストアップとなり好ましくない。
【0020】
基材フィルムには、必要に応じて、酸化防止剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、難燃剤、染料、顔料、滑剤、防カビ剤、防錆剤等を添加してもよい。
また、ポリスルホン系樹脂塗膜層(B)との界面の接着性を向上させるために、コロナ放電処理やアンダーコート処理等を行ってもよい。
【0021】
2.ポリスルホン系樹脂塗膜層(B)
本発明の積層体は、ポリスルホン系樹脂塗膜層(B)の表面平滑性が、ノマルスキー型微分干渉顕微鏡法で観測した際に、視野1mm2に直径50μm以上の円状凹凸が1個以下であり、ポリスルホン系樹脂塗膜層の表面平滑性に優れることを最大の特徴とするものである。
本発明においては、ポリスルホン系樹脂塗膜層が表面平滑性に優れるために、特にその方法を限定するものではないが、次の方法が好適である。
【0022】
その方法としては、ポリスルホン系樹脂塗膜層が表面平滑性に優れるために、ポリスルホン系樹脂の溶解度パラメータ(δp)と、下記式(1)による少なくとも3種の混合溶媒の溶解度パラメータ(δs)との差が4(MJ/m3)1/2以下とすることにより、ポリスルホン系樹脂の未溶解物やゲル状物質が発生しなくなるポリスルホン系樹脂溶液組成物を用い、これを前記の基材(A)に塗布し、乾燥させるものである。
式(1): δs=(Va×δa/100)+(Vb×δb/100)+(Vc×δc/100)+(Vd×δd/100)
[式中、Vaはラクトン類の体積分率(%)を、Vbは芳香族ケトン類の体積分率(%)を、Vcは環状ケトン類の体積分率(%)を、Vdは脂肪族ケトン類の体積分率(%)を、δaはラクトン類の溶解度パラメータを、δbは芳香族ケトン類の溶解度パラメータを、δcは環状ケトン類の溶解度パラメータを、及びδdは脂肪族ケトン類の溶解度パラメータを表す。]
【0023】
一般に、ポリエーテルスルホン樹脂などのポリスルホン系樹脂は、前述したように、被覆材、塗料、接着剤などとして利用されるが、それらを製造するときには、通常はポリスルホン系樹脂を溶剤(溶媒)に溶かし、溶液組成物を準備し、これをそのまま、又は基材表面に塗布、乾燥して製品としている。
そこで、ポリスルホン系樹脂塗膜層が表面平滑性に優れるために、本発明の実施態様として、例えば、基材の少なくとも一方の面に、ポリスルホン系樹脂と少なくとも3種の混合溶媒との溶解度パラメータの差が±4(MJ/m3)1/2以下であるポリスルホン系樹脂溶液組成物を塗布、乾燥させてポリスルホン系樹脂塗膜層を形成する際に、好ましくは、ポリスルホン系樹脂溶液組成物は、ラクトン類(a)又は芳香族ケトン類(b)の少なくとも1種と環状ケトン類(c)と沸点が150℃以下の脂肪族ケトン(d)とからなる混合溶媒に、少なくとも1種のポリスルホン系樹脂を溶解させたものであり、このようなポリスルホン系樹脂との溶解度パラメータの差が±4(MJ/m3)1/2以下となる混合溶媒を用いることを特徴とするものである。
この混合溶媒を用いることによって、ポリスルホン系樹脂が、ポリスルホン系樹脂溶液組成物中に均一に溶解する。その結果、ポリスルホン系樹脂溶液組成物を塗布、乾燥させてポリスルホン系樹脂塗膜層を形成した際に、そのポリスルホン系樹脂塗膜層が表面平滑性に優れたものとなる。
【0024】
(1)混合溶媒
本発明に係る混合溶媒は、ポリスルホン系樹脂を溶解し、ポリスルホン系樹脂溶解液を作製することができる混合された有機溶剤であり、上記したように、ポリスルホン系樹脂との溶解度パラメータの差が±4(MJ/m3)1/2以下となる下記式(1)で示される混合溶媒の溶解度パラメータ(δs)を有する少なくとも3種の混合溶媒である。
式(1): δs=(Va×δa/100)+(Vb×δb/100)+(Vc×δc/100)+(Vd×δd/100)
[式中、Vaはラクトン類の体積分率(%)を、Vbは芳香族ケトン類の体積分率(%)を、Vcは環状ケトン類の体積分率(%)を、Vdは脂肪族ケトン類の体積分率(%)を、δaはラクトン類の溶解度パラメータを、δbは芳香族ケトン類の溶解度パラメータを、δcは環状ケトン類の溶解度パラメータを、及びδdは脂肪族ケトン類の溶解度パラメータを表す。]
【0025】
混合溶媒は、好ましくは、ラクトン類(a)又は芳香族ケトン類(b)の少なくとも1種と、環状ケトン類(c)と、沸点が150℃以下の脂肪族ケトン(d)とから構成されるものである。
混合溶媒の溶解度パラメータとしては、例えば、ラクトン類であるGBL(γ−ブチロラクトン)(δa)が31.3(MJ/m3)1/2であり、芳香族ケトン類であるアセトフェノン(δb)が24.7(MJ/m3)1/2であり、環状ケトン類であるアノン(δc)が23.2(MJ/m3)1/2であり、脂肪族ケトンであるMEK(メチルエチルケトン)(δd)が21.0(MJ/m3)1/2である。ちなみに、ポリスルホン系樹脂であるポリエーテルスルホンの溶解度パラメータ(δp)は、25.8(MJ/m3)1/2である。
その混合溶媒(100容量部)中におけるそれらの混合割合(容量部)は、好ましくは、下記の式(1)〜(4)を同時に満足するものである。言いかえると、これらの式を同時の満足する混合溶媒は、ポリスルホン系樹脂との溶解度パラメータの差が±4(MJ/m3)1/2以下となる範囲である。
60≧(a+b)≧15 (1)
65≧c≧10 (2)
45≧d≧10 (3)
a+b+c+d=100 (4)
【0026】
上記の式(1)〜(4)を同時に満足する範囲を図1の3成分相図に示す。
これらの特定範囲外の混合溶媒では、ポリスルホン系樹脂を溶解できないか、又はポリスルホン系樹脂を膨潤しゲル化させるだけで好ましくない。
また、ラクトン類(a)又は芳香族ケトン類(b)の少なくとも1種と、環状ケトン類(c)と、沸点が150℃以下の脂肪族ケトン(d)との3種又は4種の中から2種を選んだ2成分系混合溶媒では、本発明の目的、すなわち優れた表面平滑性を達成することはできず、さらに、例え3成分系混合溶媒であっても、上記の式(1)〜(4)を満足しない範囲のものは、すなわち、ポリスルホン系樹脂との溶解度パラメータの差が±4(MJ/m3)1/2超となる範囲のものは、同様に本発明の目的を達成することはできず、好ましくない。
この理由については定かではないが、特定比率の3成分系混合溶媒の場合は、ポリスルホン系樹脂の溶解度が相乗効果によって増加し、膨潤しただけのポリスルホン系樹脂を貧溶媒である沸点が150℃以下の脂肪族ケトン(d)中に分散させ、また、沸点が150℃以下の脂肪族ケトン(d)は、低粘度であるので、溶解液の粘度を低下させ、塗布する際には、低粘度であるから表面が平滑になると推定される。
【0027】
(2)ラクトン類(a)又は芳香族ケトン類(b)
本発明において、ラクトン類(a)又は芳香族ケトン類(b)は、下記に詳細に述べる溶剤群から1種又は2種以上を用いてもよい。
【0028】
ラクトン類(a)は、環内にエステル基(−CO−O−)をもつ環状化合物であり、例えば、β−プロピオラクトン(沸点:100〜102℃)、γ−ブチロラクトン(沸点:206℃)、γ−バレロラクトン(沸点:206〜207℃)、δ−バレロラクトン(沸点:218〜220℃)、ε−カプロラクトン(沸点:235.3℃)、エチレンカーボネート(沸点:238℃)、プロピレンカーボネート(沸点:90℃、@5mmHg)、ヒノキチオール(沸点:140〜141℃、@10mmHg)、ジケテン(沸点:127.4℃)等が例示される。ただし、カッコ内の数値は、測定圧力を記載したもの以外は、103.3kPa(=760mmHg)における沸点であり、これらより1種又は2種以上を用いてもよい。
代表的なラクトン類として、γ−ブチロラクトンの化学式(1)を以下に示す。
【0029】
【化1】
【0030】
また、芳香族ケトン類(b)は、芳香環基をもつケトン類であり、例えば、アセトフェノン(沸点:202℃)、p−メチルアセトフェノン(沸点:228℃)、プロピオフェノン(沸点:218℃)、1−フェニル−1−ブタノン(沸点:218〜221℃)、イソプロピルフェニルケトン(沸点:217℃)、ベンズアルデヒド(沸点:179℃)、o−ヒドロキシベンズアルデヒド(沸点:196〜197℃)、m−ヒドロキシベンズアルデヒド(沸点:191℃、@50mmHg)、p−ヒドロキシベンズアルデヒド(沸点:116〜117℃)、ベンジルメチルケトン(沸点:216℃)等が例示される。ただし、カッコ内の数値は、測定圧力を記載したもの以外は、103.3kPa(=760mmHg)における沸点であり、これらより1種又は2種以上を用いてもよい。
代表的な芳香族ケトン類として、アセトフェノンの化学式(2)を以下に示す。
【0031】
【化2】
【0032】
(3)環状ケトン類(c)
環状ケトン類(c)は、環内にケトン基(−CO−)をもつ環状化合物であり、例えば、シクロブタノン(沸点:100〜102℃)、シクロペンタノン(沸点:130℃)、シクロヘキサノン(沸点:156.7℃)、ヘプタノン(沸点:179〜181℃)、メチルシクロヘキサノン(沸点:165〜166℃)、シクロオクタノン(沸点:74℃、@1.6kPa)、シクロノナノン(沸点:93〜95℃、@1.6kPa)、シクロデカノン(沸点:107℃、@1.7kPa)、シクロウンデカノン(沸点:108℃、@1.6kPa)、シクロドデカノン(沸点:125℃、@1.6kPa)、シクロトリデカノン(沸点:138℃、@1.6kPa)等が例示される。ただし、カッコ内の数値は、測定圧力を記載したもの以外は、103.3kPa(=760mmHg)における沸点であり、これらより1種又は2種以上を用いてもよい。
代表的な環状ケトン類として、シクロヘキサノンの化学式(3)を以下に示す。
【0033】
【化3】
【0034】
(4)脂肪族ケトン(d)
本発明において、脂肪族ケトン(d)とは、沸点が150℃以下の脂肪族ケトンであり、例えば、アセトン(沸点:100〜102℃)、メチルエチルケトン(沸点:100〜102℃)、メチルプロピルケトン(沸点:100〜102℃)、メチルイソブチルケトン(沸点:100〜102℃)、メチルn−ブチルケトン(沸点:100〜102℃))、メチルsec−ブチルケトン(沸点:100〜102℃)、ジイソブチルケトン(沸点:100〜102℃)、ピナコロン(沸点:106.4℃)、メチルイソアミルケトン(沸点:144.9℃)、ジエチルケトン(沸点:101.8℃)、ジイソプロピルケトン(沸点:125.0℃)、エチル−プロピルケトン(沸点:123.2℃)、ブチル−エチルケトン(沸点:147.3℃)等が例示される。ただし、カッコ内の数値は、103.3kPa(=760mmHg)における沸点であり、これらより1種又は2種以上を用いてもよい。
代表的な脂肪族ケトン(d)として、メチルエチルケトンの化学式(4)を以下に示す。
【0035】
【化4】
【0036】
(5)ポリスルホン系樹脂
本発明において、ポリスルホン系樹脂とは、主鎖に芳香環基とその結合基としてスルホン基を有する熱可塑性樹脂であり、ポリスルホン樹脂と、ポリエーテルスルホン樹脂と、ポリフェニルスルホン樹脂に大別される。
ポリスルホン樹脂(PSFと称することもある。)は、代表的には下記の化学式(5)で表されるような構造をもつポリマーであり、1965年に米国ユニオンカーバイド社から発表されたものである。
【0037】
【化5】
【0038】
上記の化学式(5)で表されるポリマーは、原料として、ビスフェノールAのアルカリ金属塩(Na塩)と、ビスフェノールSの塩素化化合物(4,4’−ジクロロジフェニルスルホン)を使用し、脱塩化ナトリウム反応で得られるが、ビスフェノールAを、4,4’−ジヒドロキシ−ジフェニル−オキシド、4,4’−ジヒドロキシ−ジフェニル−スルファイド、4,4’−ジヒドロキシ−ジフェニル−メタン、4,4’−ジヒドロキシ−ジフェニル−フェニルエタン、4,4’−ジヒドロキシ−ジフェニル−パーフロロプロパン、ハイドロキノン、4,4’−ジヒドロキシベンゾフェノン、4,4’−ジヒドロキシ−ジフェニル等で置換することにより、下記の化学式(6)〜(13)で表されるポリマーが得られ、本発明において使用することができる。
【0039】
【化6】
【0040】
【化7】
【0041】
【化8】
【0042】
【化9】
【0043】
【化10】
【0044】
【化11】
【0045】
【化12】
【0046】
【化13】
【0047】
PSFとしては、ユーデル[登録商標、米国アモコ社が製造し、テイジンアモコエンジニアリング(株)が輸入販売]、及びユーデルP−3500[登録商標、日産化学工業(株)の製造販売]などが、市販品として利用できる。
【0048】
また、ポリエーテルスルホン樹脂(PESと称することもある。)は、代表的には下記の化学式(14)で表されるような構造をもつポリマーである。
【0049】
【化14】
【0050】
PESは、ジフェニルエーテルクロロスルホンのフリーデルクラフツ反応により得られる。
PESとしては、ウルトラゾーンE[登録商標、ドイツBASF社が製造し、三井化学(株)が輸入販売]、レーデル(登録商標)A[米国アモコ社が製造し、テイジンアモコエンジニアリング(株)が輸入販売]、及びスミカエクセル[登録商標、住友化学(株)の製造販売]などが、市販品として利用できる。
【0051】
また、ポリフェニルスルホン樹脂(PPSUと称することもある。)は、代表的には下記の化学式(15)で表されるような構造をもつポリマーである。
【0052】
【化15】
【0053】
PPSUとしては、レーデル(Radel)(登録商標)Rシリーズ(R−5000、R−5500、R−5800など)[米国アモコ社が製造し、テイジンアモコエンジニアリング(株)が輸入販売]などが、市販品として利用できる。
【0054】
本発明において、ポリスルホン系樹脂溶液組成物とは、例えば、ラクトン類(a)又は芳香族ケトン類(b)の少なくとも1種と環状ケトン類(c)と沸点が150℃以下の脂肪族ケトン(d)とからなる混合溶媒に、上記の少なくとも1種のポリスルホン系樹脂を溶解したものであり、基材(A)の少なくとも一方の面に、塗布、乾燥させてポリスルホン系樹脂塗膜層(B)と基材(B)とからなる積層体を製造するために利用する。
ポリスルホン系樹脂溶液組成物中のポリスルホン系樹脂の配合量は、混合溶媒100重量部に対して、1〜30重量部、好ましくは5〜20重量部である。配合量が、1重量部未満であると、粘度は低くなり塗布しやすくなり、溶液組成物の寿命は長くなるものの、ポリスルホン系樹脂塗膜層の厚さが0.1μm未満となり、好ましくなく、一方、30重量部を超えると、粘度が高くなり均一な厚さのポリスルホン系樹脂塗膜層が得られず、また溶液組成物の寿命が短くなり、望ましくない。
また、ポリスルホン系樹脂溶液組成物には、酸化防止剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、難燃剤、染料、顔料、滑剤、防カビ剤、防錆剤、レベリング剤等を必要に応じて添加することができる。尚、レベリング剤の例としては、パーフルオロアルキルスルホン酸カルシウム塩、パーフルオロアルキルスルホン酸カリウム塩、パーフルオロアルキルスルホン酸アンモニウム塩、パーフルオロアルキルエチレノキシド、パーフルオロアルキルトリメチルアンモニウム塩、フッ素化アルキルエステル等を挙げることができる。
【0055】
さらに、本発明に係るポリスルホン系樹脂溶液組成物は、基材(A)である鉄、アルミニウム、銅、亜鉛、チタニウム等の金属板、ガラス板、金属棒、金属部品、コイル等に、コーテイグ(塗布、乾燥)し、ポリスルホン系樹脂塗膜層(B)を作製して、耐熱性、耐薬品性、耐衝撃性、耐引掻性等に優れた製品とすることもでき、それらは、一般産業機械器具部品、電気・電子部品、自動車部品、事務機器部品、厨房器具類、化学・薬品プラントの配管・貯槽等として利用される。また、金属線の表面に被覆し耐熱性・耐薬品性のワイヤーとしても、利用できる。また、塗料としても利用できる。
【0056】
ポリスルホン系樹脂塗膜層(B)は、ドープ、すなわち例えば、ラクトン類(a)又は芳香族ケトン類(b)の少なくとも1種と環状ケトン類(c)と沸点が150℃以下の脂肪族ケトン(d)とからなる混合溶媒に少なくとも1種のポリスルホン系樹脂を溶解させてなるポリスルホン系樹脂溶液、から容易に溶剤キャスト法で0.1〜100μmの薄膜として、基材(A)、好ましくはポリエチレンテレフタレートフィルム上に積層でき、低コストに高品位の積層体を提供することができる。特に、ポリスルホン系樹脂塗膜層(B)の表面平滑性が、ノマルスキー型微分干渉顕微鏡法で観測した際に、視野1mm2に直径50μm以上の円状凹凸が1個以下であり、ポリスルホン系樹脂塗膜層自体の表面平滑性を優れたものにすることができる。
本発明において、ポリスルホン系樹脂塗膜層(B)の表面平滑性を評価するために、ノマルスキー型微分干渉顕微鏡法による計測を用いた理由は、本発明に係る塗膜が透明である場合、一般的な光学顕微鏡法では観察が困難であり、そのため、特殊なプリズムを用いるノマルスキー型微分干渉顕微鏡法においては、光線を二分化することで干渉縞を発生させ、明暗のコントラストが明確に出る結果、微小な凹凸の観察に適しているからである。そして、視野1mm2に直径50μm以上の円状凹凸が1個以下と規定する意味は、本発明の積層体が種々の用途に用いられた際に、表面が平滑性に優れ、十分な光沢を有すると、又は高い透明性を有すると判断でき、さらに、異種材料と積層する際に、本発明の積層体は、表面が平滑であるため、気泡を巻き込む等の問題は生じない。一方、円状凹凸が1個超であれば、塗膜層の表面平滑性に劣り、光沢不良、透明性が低いなどの問題がある。また、異種材料と積層する際に、凹凸部に気泡を巻き込み、良好な積層体の作製が困難となる。
【0057】
3.積層体及びその製法
本発明の積層体は、基材(A)の少なくとも一方の面に、ポリスルホン系樹脂塗膜層(B)を有するものである。
本発明の積層体は、例えば、厚さが1〜200μmである基材フィルムの少なくとも一方の面に、ポリスルホン系樹脂のドープを塗布・乾燥し、厚さが0.1〜100μm、好ましくは0.5〜75μm、さらに好ましくは1〜50μmのポリスルホン系樹脂塗膜層を積層させることによって製造される。
そして、基材フィルムとしては、好ましくはポリエチレンテレフタレートフィルムであり、該基材フィルムとポリスルホン系樹脂塗膜層が、好ましくは5N/m以上の密着強度で積層されており、両者間は剥離することがない。
本発明の積層体は、例えば、液晶表示素子用透明電極のベースフィルム等に用いられる表面平滑性および外観の優れた耐熱性光学フィルム等として用いることができる。
【0058】
本発明の積層体は、例えば、基材フィルム上にポリスルホン系樹脂溶液組成物を塗布した後、乾燥処理を行うことにより、製造することができる。
塗布方法としては、ロールコーティング、スプレーコーティング、ダイコーティング、ナイフコーティング、エアーナイフコーティング、ワイヤーバーコーティング等が利用できる。特に、ワイヤーバーコーティングによる塗布方法が塗布される溶液組成物の量を正確にコントロールでき、塗布膜の表面平滑度を向上させることができ、その結果、表面平滑性の優れた積層体を得ることができるため、好ましい。
基材フィルム上にポリスルホン系樹脂溶液組成物を塗布する時の溶液温度は、生産コスト上20〜50℃が好ましい。
また、乾燥方法としては、50〜150℃で0.1〜5分乾燥させることが好ましい。
【0059】
【実施例】
以下に、本発明の積層体を実施例に基づいて詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
先ず、本発明の実施例と比較例で作製の積層体(フィルム)の評価を行うために、基材(A)とポリスルホン系樹脂塗膜層(B)との密着強度、ポリスルホン系樹脂塗膜層(B)の表面平滑性、残留溶剤(残留溶剤に起因する硫黄及び窒素の合計)量、及びポリエーテルスルホン樹脂溶液組成物の溶液状態と積層体(フィルム)の外観を測定、評価したが、これらの測定、評価方法を以下に示す。
【0060】
[基材(A)とポリスルホン系樹脂塗膜層(B)との密着強度]
積層体(フィルム)の表面にセロテープ(登録商標)を貼り、2.5cmW×15cmLの短冊状に切り出し、引張り試験機を使用して速度1000mm/minで180°剥離を行ったときの平均応力を密着強度とした。密着強度が5N/m以上を合格(○)とした。
【0061】
[ポリスルホン系樹脂塗膜層(B)の表面平滑性]
積層体のポリスルホン系樹脂塗膜層(B)の表面平滑性は、ノマルスキー型微分干渉顕微鏡法で観測した際に、視野1mm2に直径50μm以上の円状凹凸が何個存在するかで評価し、その個数が1個以下の場合を合格(○)とした。
【0062】
[ポリスルホン系樹脂塗膜層(B)の残留溶剤(硫黄及び窒素)量]
500mlのガラスサンプル瓶中に積層体(フィルム)(5cm×5cm)を入れ、100℃オーブン中に60分間保管した後に、ガラスサンプル瓶中のガス濃度をガスクロにより測定した。NOx、SOxの検出有無を評価した。
【0063】
[ポリエーテルスルホン樹脂溶液組成物の溶液状態と積層体の外観]
ポリエーテルスルホン樹脂溶液組成物の溶液状態と積層体(フィルム)外観は、目視評価し、その基準は次のとおり。
▲1▼溶液状態;
溶解○:未溶解物がなく、溶解後10時間密封し、液に変化のないもの。
不溶×:未溶解物が残るもの。
ゲル化×:溶解後10時間の放置で白化・増粘が見られるもの。
▲2▼フィルム外観;
良好○:乾燥後、膜が平滑なもの。
凹凸×:乾燥後、膜が波打って平滑性に欠けるもの。
【0064】
[実施例1]
γ−ブチロラクトン(GBL)20体積%、シクロヘキサノン40体積%及びメチルエチルケトン(MEK)40体積%からなる混合溶媒100重量部に、ポリエーテルスルホン樹脂(PES)[住友化学工業(株)製、スミカエクセル(登録商標)PES5003P]10重量部を添加し、24時間攪拌してポリエーテルスルホン樹脂溶液組成物を調製した。
次いで、ポリエチレンテレフタレートフィルム(PETフィルム)[帝人デュポン(株)製、テトロン(登録商標)S(厚さ100μm)]を基材フィルムとし、上記のポリエーテルスルホン樹脂溶液組成物を、図2に示すワイヤーバーを有する塗布装置[図3(A)に示す。]で、乾燥塗膜の厚みが2μmになるようにコーティングを行った。
コーティング後、オーブン中で150℃、5分間乾燥させ、塗膜にべたつきがないことを確認し、乾燥終了とした。
ポリエーテルスルホン樹脂溶液組成物の組成や積層体の性能評価結果などを表1に示す。
【0065】
[実施例2]
γ−ブチロラクトン(GBL)30体積%、シクロヘキサノン40体積%及びメチルエチルケトン(MEK)30体積%からなる混合溶媒100重量部に、ポリエーテルスルホン樹脂(PES)[住友化学工業(株)製、スミカエクセル(登録商標)PES5003P]5重量部を添加し、24時間攪拌してポリエーテルスルホン樹脂溶液組成物を調製した。
次いで、ポリエチレンテレフタレートフィルム(PETフィルム)[帝人デュポン(株)製、テトロン(登録商標)S(厚さ100μm)]を基材フィルムとし、上記のポリエーテルスルホン樹脂溶液組成物を、図2に示すワイヤーバーを有する塗布装置[図3(A)に示す。]で、乾燥塗膜の厚みが2μmになるようにコーティングを行った。
コーティング後、オーブン中で150℃、5分間乾燥させ、塗膜にべたつきがないことを確認し、乾燥終了とした。
ポリエーテルスルホン樹脂溶液組成物の組成や積層体の性能評価結果などを表1に示す。
【0066】
[実施例3]
アセトフェノン20体積%、シクロヘキサノン50体積%及びメチルエチルケトン(MEK)30体積%からなる混合溶媒100重量部に、ポリスルホン樹脂(PSF)[日産化学工業(株)製、ユーデル(登録商標)P−3500]を5重量部添加し、24時間攪拌してポリスルホン樹脂溶液組成物を調製した。
次いで、ポリエチレンテレフタレートフィルム(PETフィルム)[帝人デュポン(株)製、テトロン(登録商標)S(厚さ100μm)]を基材フィルムとし、上記のポリスルホン樹脂溶液組成物を、図2に示すワイヤーバーを有する塗布装置[図3(A)に示す。]で、乾燥塗膜の厚みが2μmになるようにコーティングを行った。
コーティング後、オーブン中で150℃、5分間乾燥させ、塗膜にべたつきがないことを確認し、乾燥終了とした。
ポリエーテルスルホン樹脂溶液組成物の組成や積層体の性能評価結果などを表1に示す。
【0067】
[比較例1]
γ−ブチロラクトン(GBL)20体積%及びメチルエチルケトン(MEK)80体積%からなる混合溶媒100重量部に、ポリエーテルスルホン樹脂(PES)[住友化学工業(株)製、スミカエクセル(登録商標)PES5003P]を10重量部添加し、24時間攪拌してポリエーテルスルホン樹脂溶液組成物を製造した。ポリエーテルスルホン樹脂の未溶解物が残ったので、コーティングは行わなかった。
ポリエーテルスルホン樹脂溶液組成物の組成などを表1に示す。
【0068】
[比較例2]
シクロヘキサノン80体積%及びメチルエチルケトン(MEK)20体積%からなる混合溶媒に、ポリエーテルスルホン樹脂(PES)[住友化学工業(株)製、スミカエクセル(登録商標)PES5003P]を10重量部添加し、24時間攪拌してポリエーテルスルホン樹脂溶液組成物を製造した。溶解後10時間の放置で白化・増粘が観察されたので、コーティングは行わなかった。
ポリエーテルスルホン樹脂溶液組成物の組成などを表1に示す。
【0069】
[比較例3]
ジメチルホルムアミド(DMF)20体積%、シクロヘキサノン40体積%及びメチルエチルケトン(MEK)40体積%からなる混合溶媒100重量部に、ポリエーテルスルホン樹脂(PES)[住友化学工業(株)製、スミカエクセル(登録商標)PES5003P]を10重量部添加し、24時間攪拌してポリエーテルスルホン樹脂溶液組成物を製造した。
次いで、ポリエチレンテレフタレートフィルム(PETフィルム)[帝人デュポン(株)製、テトロン(登録商標)S(厚さ100μm)]を基材フィルムとし、上記のポリエーテルスルホン樹脂溶液組成物を、図2に示すワイヤーバーを有する塗布装置[図3(A)に示す。]で、乾燥塗膜の厚みが2μmになるようにコーティングを行った。
コーティング後、オーブン中で150℃、5分間乾燥させ、塗膜にべたつきがないことを確認し、乾燥終了とした。
ポリエーテルスルホン樹脂溶液組成物の組成や積層体の性能評価結果などを表1に示す。
【0070】
[比較例4]
溶剤として1−メチル−2−ピロリドン(N−メチルピロリドン)(NMP)100重量部に、ポリエーテルスルホン樹脂(PES)[住友化学工業(株)製、スミカエクセル(登録商標)PES5003P]を10重量部添加し、24時間攪拌してポリエーテルスルホン樹脂溶液組成物を製造した。
次いで、ポリエチレンテレフタレートフィルム(PETフィルム)[帝人デュポン(株)製、テトロン(登録商標)S(厚さ100μm)]を基材フィルムとし、上記のポリエーテルスルホン樹脂溶液組成物を、図2に示すワイヤーバーを有する塗布装置[図3(A)に示す。]で、乾燥塗膜の厚みが2μmになるようにコーティングを行った。
コーティング後、オーブン中で150℃、5分間乾燥させ、塗膜にべたつきがないことを確認し、乾燥終了とした。
ポリエーテルスルホン樹脂溶液組成物の組成や積層体の性能評価結果などを表1に示す。
【0071】
【表1】
【0072】
表1の評価結果から、明らかに、実施例1〜3では、溶液組成物が安定し、コーティング後の表面平滑性、接着性も良好である。一方、比較例1では、溶液組成物中に未溶解分が残り、塗布できなく、比較例2では、溶液組成物が白化増粘して、塗布できない。また、比較例3では、溶液組成物の溶存状態とフィルム外観は、良好なものの、コーティング後の表面平滑性は、視野1mm2に直径50μm以上の円状凹凸が4個存在し、また、残留溶剤(硫黄及び窒素)量の評価として、NOxを検出した。比較例4では、比較例3と同様に、溶液組成物の溶存状態とフィルム外観は、良好なものの、コーティング後の表面平滑性は、視野1mm2に直径50μm以上の円状凹凸が6個存在し、また、残留溶剤(硫黄及び窒素)量の評価として、NOxを検出した。
【0073】
[実施例4]
実施例1で製造した積層体を使用し、その用途である液晶表示素子を下記の工程で作製した。
実施例1で製造した積層体上に、DCマグネトロン法により、初期真空度3×10−4Paの状態から酸素/アルゴンガス9%の混合ガスを導入して3×10−1Paの条件下においてスパッタリングを行い500Å厚のSiO2を得た。
続いて、透明導電膜として、同じくDCマグネトロン法により初期真空度3×10−4Paの状態から酸素/アルゴンガス4%の混合ガスを導入して1×10−1Paの条件下においてスパッタリングを行いIn/In+Snの原子比が0.98である酸化インジウム錫(ITO)からなる透明導電膜を得た。測定の結果、膜厚は1600Å、非抵抗は4×10−4Ωcmであった。ITOを成膜後、レジストを塗布して現像し、エッチング液として10vol%HCL、液温40℃中でパターンエッチングし、対角長さ3インチ、L/S=150/50μmの表示パターンを形成した。パターン形成後、STN用配向膜を塗布し、150℃2hrの焼成処理を行った後、240度ツイストの配向となるようラビング処理を行った。ラビング処理後、スペーサーを散布し、シール剤を塗布し、130℃でシール硬化させてセル化し、STN用液晶組成物を注入した。偏光板をコントラストの最大となる位置に貼り合わせて液晶表示素子を作製した。
【0074】
評価結果:この液晶表示素子を駆動電圧0Vから±5Vで点灯試験を行ったところ、液晶のセルギャップ異常による表示ムラは見られず良好な表示を示した。
【0075】
【発明の効果】
本発明の積層体は、特に、表面平滑性に優れ、光学的な特性に優れている。また、廃棄する際には、NOxなどの有害な成分を発生させることがない効果もある。そのため、耐熱性光学用フィルムとして好適に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る混合溶媒を構成する3成分相図である。
【図2】ワイヤーバーの概念図であり、図(A)は断面図であり、図(B)は側面図の一部を示す。
【図3】ワイヤーバーを有する塗布装置の概念図であり、図(A)は小径のワイヤーバーを有する塗布装置の概念図であり、図(B)は大径のワイヤーバーを有する塗布装置の概念図平面図である。
【符号の説明】
1 ワイヤーバー(断面図)
1’ ワイヤーバー(側面図)
2 ワイヤー
3 ロッド(バー)
4 基材フィルム
4a 基材フィルムの溶液組成物塗布面
5 ワイヤーの頂点を結んだ線とワイヤー間にできる空間
6 基材フィルムの送りロール
7 ドクターブレイド
8 バックアップロール
9 ポリスルホン系樹脂溶液組成物
10 溶液組成物導入管
11 溶液組成物排出管
12 貯槽
13 凹面架台
14 攪拌機
15 小径のワイヤーバーを有する塗布装置
16 大径のワイヤーバーを有する塗布装置
【発明の属する技術分野】
本発明は、ポリスルホン系樹脂溶液組成物を用いた積層体に関し、更に詳しくは、ポリスルホン系樹脂溶液組成物を基材表面に塗布したときに、表面平滑性に優れた塗膜層を形成し、かつ有害な成分を発生させることがない積層体に関する。そして、得られた積層体は、光学特性や表面特性に優れているので耐熱性光学用フィルム等として利用される。
【0002】
【従来の技術】
ポリエーテルスルホン樹脂などのポリスルホン系樹脂は、耐熱性、寸法安定性、機械的特性、耐クリープ性、難燃性、人体安全性、耐酸性、耐アルカリ性等において優れ、かつ溶解度パラメータ(SP値)も非常に高く特異の性質を有するので、プリントサーキットボード、コネクター、コイルボビン、ブッシング、コンデンサーフィルム、アルカリ電池ケース等の電気・電子部品、バッテリーキャップ、ヒューズ、センサー、イグニション部品等の自動車部品、限外濾過モジュール、ケミカルポンプ、メッキ用ロール等の工業用品、等の成形品として広く用いられている。
【0003】
また、ポリスルホン系樹脂は、上記のような優れた特性を生かし、被覆材、塗料、接着剤及びフィルムとしても利用されるが、それらを製造するときには、通常はポリスルホン系樹脂を溶剤(溶媒)に溶かし溶液組成物を準備し、これをそのまま、又は基材表面に塗布、乾燥して製品としている。
代表的な製品としては、液晶表示素子用透明電極基板を作るために用いられる耐熱性光学用フィルムがある。
【0004】
その液晶表示素子用透明電極基板としては、従来、光学特性に優れ、研磨により極めて表面平滑性に優れているガラス基板が採用されてきたが、ガラスは比重が大きく割れ易いので、ガラス基板自体を厚くしなければならず、液晶表示素子を小型化、軽量化、耐衝撃性にすることが困難であり、ガラス基板の有する欠点を改善する方法として、プラスチックフィルムを用いることが知られている(例えば、特許文献1、2参照。)。
【0005】
特許文献1、2には、ガラス基板の代わりに導電性酸化金属物質を蒸着した長尺のポリエステルフィルムなどを用いて液晶表示素子を連続して製造することが示されているが、ガラス基板のような表面平滑性に優れたポリエステルフィルムなどは得られていない。特に、高精密な表示を得るためにSTN型液晶表示素子とした場合には、間隔を0.1μm単位で制御された基板間の液晶の複屈折性を利用して表示を行うために、プラスチックフィルムの表面平滑性が極めて重要な課題となる。
【0006】
また、上記のポリエステルフィルムなどの表面平滑性の問題点を改善するものとして、ポリエーテルスルホンなどのプラスチックシートに、そのプラスチックシート組成の樹脂を溶解した溶液を塗布した後、乾燥処理した平滑性を有する光学プラスチックシートが提案されている(例えば、特許文献3参照。)。
しかしながら、特許文献3に開示されている光学シートは、プラスチックシートとして透明性、耐熱性、耐衝撃性に優れたポリエーテルスルホンなどのポリスルホン系樹脂を採用した点では従来技術より改善されているものの、用いられている溶剤は、プラスチック組成の樹脂を溶解するものであれば特に限定されずに、例えば、ポリエーテルスルホンであれば1−メチル−2−ピロリドンなどの溶剤であり、溶液の粘度を4000(ポイズ@30℃)以下に規定し低粘度にしているものの、このような方法で得られた光学シートの表面平滑性は、未だ不十分である。
【0007】
また、ポリエーテルスルホンなどのポリスルホン系樹脂を使用する際には、ポリスルホン系樹脂の溶液組成物が用いられ、その溶剤(溶媒)として、強極性の不活性液体[DMSO(ジメチルスルホオキシド)、DMF(ジメチルホルムアミド)]を主体とし、環式脂肪族ケトンと高揮発性脂肪族ケトンを併用した混合溶媒を用いることが提案されている(例えば、特許文献4参照。)。
しかしながら、この溶液組成物では、コーティング(塗膜層)表面の平滑性に劣り、さらに、塗布、乾燥したとき蒸発し、廃棄のため燃焼されたときに、残留溶剤成分により、SOXやNOX等の有害成分を発生する問題がある。
また、ポリスルホン系樹脂の溶液組成物においては、ポリスルホンの二量体などが結晶化し溶液に濁りが生じ、その濁りの生じたポリスルホン系樹脂溶液を製膜しフィルム化すると、ヘイズが高く、しかも表面の荒れの大きいフィルムとなり、光学フィルムとしては使用できない。そこで、製膜工程に先立ち、フィルターによるろ過や80℃以上の加熱処理が行われている(例えば、特許文献5〜7参照。)。
しかしながら、ろ過工程は生産性を低下させ、また、加熱処理では、高沸点溶媒を使う必要があって、乾燥工程が高温或いは長時間になり、生産性に問題がある。そして、それらの対処方法では未だ十分な表面平滑性が得られていない。
【0008】
【特許文献1】
特開昭53−68099号公報(第1−2頁)
【特許文献2】
特開昭54−126559号公報(特許請求の範囲など)
【特許文献3】
特開2001−328213号公報(特許請求の範囲など)
【特許文献4】
特開昭49−110725号公報(特許請求の範囲など)
【特許文献5】
特開平5−329857号公報(特許請求の範囲など)
【特許文献6】
特開平7−233265号公報(特許請求の範囲など)
【特許文献7】
特開平7−268104号公報(特許請求の範囲など)
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、上記の従来技術の問題点に鑑み、ポリスルホン系樹脂溶液組成物を基材表面に塗布したときに、表面平滑性に優れた塗膜層を形成し、かつ有害な成分を発生させることがない積層体を提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明者等は、上記の課題に鑑み、基材上のポリスルホン系樹脂塗膜層の表面平滑性を優れたものにするために、各種の溶剤からなる混合溶媒を準備し、これにポリスルホン系樹脂を溶解した溶液組成物を調製し、基材フィルムに塗布、乾燥し、積層体を作製し、耐熱性光学用フィルムとしての評価を行ったところ、例えば、ある特定の組み合わせの混合溶媒を用いた場合に、塗膜層の表面平滑性が非常に優れたものになることを見出した。本発明は、この知見に基いて完成するに至ったものである。
【0011】
すなわち、本発明の第1の発明によれば、基材(A)の少なくとも一方の面に、ポリスルホン系樹脂溶液組成物を塗布、乾燥させてポリスルホン系樹脂塗膜層(B)を形成してなる積層体であって、
1)ポリスルホン系樹脂塗膜層(B)の表面平滑性は、ノマルスキー型微分干渉顕微鏡法で観測した際に、視野1mm2に直径50μm以上の円状凹凸が1個以下であり、
2)ポリスルホン系樹脂溶液組成物は、ポリスルホン系樹脂の溶解度パラメータ(δp)と、下記式(1)による少なくとも3種の混合溶媒の溶解度パラメータ(δs)との差が4(MJ/m3)1/2以下であり、及び
3)基材(A)とポリスルホン系樹脂塗膜層(B)との密着強度が、5N/m以上であることを特徴とする積層体が提供される。
式(1): δs=(Va×δa/100)+(Vb×δb/100)+(Vc×δc/100)+(Vd×δd/100)
[式中、Vaはラクトン類の体積分率(%)を、Vbは芳香族ケトン類の体積分率(%)を、Vcは環状ケトン類の体積分率(%)を、Vdは脂肪族ケトン類の体積分率(%)を、δaはラクトン類の溶解度パラメータを、δbは芳香族ケトン類の溶解度パラメータを、δcは環状ケトン類の溶解度パラメータを、及びδdは脂肪族ケトン類の溶解度パラメータを表す。]
また、本発明の第2の発明によれば、第1の発明において、ポリスルホン系樹脂溶液組成物は、ラクトン類(a)又は芳香族ケトン類(b)の少なくとも1種と環状ケトン類(c)と沸点が150℃以下の脂肪族ケトン(d)とからなる混合溶媒に、少なくとも1種のポリスルホン系樹脂を溶解させてなることを特徴とする積層体が提供される。
【0012】
また、本発明の第3の発明によれば、第2の発明において、混合溶媒(100容量部)中におけるラクトン類(a)、芳香族ケトン類(b)、環状ケトン類(c)、及び脂肪族ケトン(d)の配合割合(容量部)は、下記の式(1)〜(4)を同時に満足することを特徴とする積層体が提供される。
60≧(a+b)≧15 (1)
65≧c≧10 (2)
45≧d≧10 (3)
a+b+c+d=100 (4)
さらに、本発明の第4の発明によれば、第1の発明において、ポリスルホン系樹脂溶液組成物は、混合溶媒100重量部に対して、ポリスルホン系樹脂の配合量が1〜30重量部であることを特徴とする積層体が提供される。
【0013】
本発明は、上記した如く、基材(A)の少なくとも一方の面に、ポリスルホン系樹脂溶液組成物を塗布、乾燥させてポリスルホン系樹脂塗膜層(B)を形成してなる積層体であって、ポリスルホン系樹脂塗膜層(B)の表面平滑性が、特定範囲であることなどを特徴とする積層体等に係るものであるが、その好ましい態様として、次のものが包含される。
【0014】
(1)第1の発明において、基材(A)は、ポリエチレンテレフタレートフィルムであることを特徴とする積層体。
(2)第1の発明において、ポリスルホン系樹脂は、ポリスルホン樹脂(PSF)、ポリエーテルスルホン樹脂(PES)、又はポリフェニルスルホン樹脂(PPSU)のいずれかであることを特徴とする積層体。
(3)ポリスルホン系樹脂溶液組成物の塗布は、ワイヤーバーコーティングにより、行われることを特徴とする第1〜4のいずれかの発明の積層体の製造方法。
【0015】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の表面平滑性に優れた積層体について、各項目毎に詳細に説明する。
本発明の積層体は、基材(A)の少なくとも一方の面に、ポリスルホン系樹脂溶液組成物を塗布、乾燥させてポリスルホン系樹脂塗膜層(B)を形成してなる積層体であって、
1)ポリスルホン系樹脂塗膜層(B)の表面平滑性は、ノマルスキー型微分干渉顕微鏡法で観測した際に、視野1mm2に直径50μm以上の円状凹凸が1個以下であり、
2)ポリスルホン系樹脂溶液組成物は、ポリスルホン系樹脂の溶解度パラメータ(δp)と、下記式(1)による少なくとも3種の混合溶媒の溶解度パラメータ(δs)との差が4(MJ/m3)1/2以下であり、及び
3)基材(A)とポリスルホン系樹脂塗膜層(B)との密着強度が、5N/m以上であることを特徴とするものである。
式(1): δs=(Va×δa/100)+(Vb×δb/100)+(Vc×δc/100)+(Vd×δd/100)
[式中、Vaはラクトン類の体積分率(%)を、Vbは芳香族ケトン類の体積分率(%)を、Vcは環状ケトン類の体積分率(%)を、Vdは脂肪族ケトン類の体積分率(%)を、δaはラクトン類の溶解度パラメータを、δbは芳香族ケトン類の溶解度パラメータを、δcは環状ケトン類の溶解度パラメータを、及びδdは脂肪族ケトン類の溶解度パラメータを表す。]
【0016】
1.基材(A)
本発明において、基材(A)とは、フィルム、シート、板、棒、パイプ、コイル、ワイヤー、織布、不織布、紙等であり、本発明の積層体の機械的強度を担い、その少なくとも一方の面に、ポリスルホン系樹脂塗膜層(B)を積層させる。
【0017】
基材の原料としては、(i)ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリカーボネート、高密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ4メチルペンテン1、ポリスチレン、ポリスルホン(PSF)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリフェニルスルホン(PPSU)、ポリフェニレンスルフィド、ポリ−p−フェニレンテレフタラミド、ポリアミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアクリレート、ポリアリレート、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンオキサイド、ポリアセタール、ポリメタクリル酸メチル、ポリアクリロニトリル、ポリ塩化三フッ化エチレン、ポリ四フッ化エチレン、ポリパラキシレン、ポリエーテルイミド、ポリイミド、ポリ塩化ビニル、ポリウレタン、エポキシ樹脂、キシレン樹脂、グアナミン樹脂、ジアリルフタレート樹脂、ビニルエステル樹脂、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、フラン樹脂、ポリウレタン、メラミン樹脂、ユリア樹脂等のプラスチックス;(ii)鉄、アルミニウム、銅、チタン、スズ、亜鉛等の金属;(iii)ガラス、セラミックス、コンクリート、岩石等の無機物;(iv)木材、竹等が例示される。これらの基材の原料は、一種であっても、二種以上を混合してもよい。
【0018】
基材がフィルムの場合、これらの基材フィルムの中では、ポリエチレンテレフタレートフィルムがコストやフィッシュアイや厚薄ムラの問題がなく、腰があるので取扱性に優れ、さらにポリスルホン系樹脂塗膜層(B)との接着性に優れ、強い密着強度で積層されることが可能であるために、最も好ましい基材フィルムである。
【0019】
基材が樹脂フィルムの場合、樹脂フィルムの厚みは、例えば1〜200μm、好ましくは3〜150μm、更に好ましくは12〜100μm、特に好ましくは20〜80μmである。厚みが1μm未満であると、フィルムの腰がなく取扱性が悪く、一方、200μmを超えると、腰が強すぎロール巻きが困難となり、また材料費がかさみ、過剰品質となりコストアップとなり好ましくない。
【0020】
基材フィルムには、必要に応じて、酸化防止剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、難燃剤、染料、顔料、滑剤、防カビ剤、防錆剤等を添加してもよい。
また、ポリスルホン系樹脂塗膜層(B)との界面の接着性を向上させるために、コロナ放電処理やアンダーコート処理等を行ってもよい。
【0021】
2.ポリスルホン系樹脂塗膜層(B)
本発明の積層体は、ポリスルホン系樹脂塗膜層(B)の表面平滑性が、ノマルスキー型微分干渉顕微鏡法で観測した際に、視野1mm2に直径50μm以上の円状凹凸が1個以下であり、ポリスルホン系樹脂塗膜層の表面平滑性に優れることを最大の特徴とするものである。
本発明においては、ポリスルホン系樹脂塗膜層が表面平滑性に優れるために、特にその方法を限定するものではないが、次の方法が好適である。
【0022】
その方法としては、ポリスルホン系樹脂塗膜層が表面平滑性に優れるために、ポリスルホン系樹脂の溶解度パラメータ(δp)と、下記式(1)による少なくとも3種の混合溶媒の溶解度パラメータ(δs)との差が4(MJ/m3)1/2以下とすることにより、ポリスルホン系樹脂の未溶解物やゲル状物質が発生しなくなるポリスルホン系樹脂溶液組成物を用い、これを前記の基材(A)に塗布し、乾燥させるものである。
式(1): δs=(Va×δa/100)+(Vb×δb/100)+(Vc×δc/100)+(Vd×δd/100)
[式中、Vaはラクトン類の体積分率(%)を、Vbは芳香族ケトン類の体積分率(%)を、Vcは環状ケトン類の体積分率(%)を、Vdは脂肪族ケトン類の体積分率(%)を、δaはラクトン類の溶解度パラメータを、δbは芳香族ケトン類の溶解度パラメータを、δcは環状ケトン類の溶解度パラメータを、及びδdは脂肪族ケトン類の溶解度パラメータを表す。]
【0023】
一般に、ポリエーテルスルホン樹脂などのポリスルホン系樹脂は、前述したように、被覆材、塗料、接着剤などとして利用されるが、それらを製造するときには、通常はポリスルホン系樹脂を溶剤(溶媒)に溶かし、溶液組成物を準備し、これをそのまま、又は基材表面に塗布、乾燥して製品としている。
そこで、ポリスルホン系樹脂塗膜層が表面平滑性に優れるために、本発明の実施態様として、例えば、基材の少なくとも一方の面に、ポリスルホン系樹脂と少なくとも3種の混合溶媒との溶解度パラメータの差が±4(MJ/m3)1/2以下であるポリスルホン系樹脂溶液組成物を塗布、乾燥させてポリスルホン系樹脂塗膜層を形成する際に、好ましくは、ポリスルホン系樹脂溶液組成物は、ラクトン類(a)又は芳香族ケトン類(b)の少なくとも1種と環状ケトン類(c)と沸点が150℃以下の脂肪族ケトン(d)とからなる混合溶媒に、少なくとも1種のポリスルホン系樹脂を溶解させたものであり、このようなポリスルホン系樹脂との溶解度パラメータの差が±4(MJ/m3)1/2以下となる混合溶媒を用いることを特徴とするものである。
この混合溶媒を用いることによって、ポリスルホン系樹脂が、ポリスルホン系樹脂溶液組成物中に均一に溶解する。その結果、ポリスルホン系樹脂溶液組成物を塗布、乾燥させてポリスルホン系樹脂塗膜層を形成した際に、そのポリスルホン系樹脂塗膜層が表面平滑性に優れたものとなる。
【0024】
(1)混合溶媒
本発明に係る混合溶媒は、ポリスルホン系樹脂を溶解し、ポリスルホン系樹脂溶解液を作製することができる混合された有機溶剤であり、上記したように、ポリスルホン系樹脂との溶解度パラメータの差が±4(MJ/m3)1/2以下となる下記式(1)で示される混合溶媒の溶解度パラメータ(δs)を有する少なくとも3種の混合溶媒である。
式(1): δs=(Va×δa/100)+(Vb×δb/100)+(Vc×δc/100)+(Vd×δd/100)
[式中、Vaはラクトン類の体積分率(%)を、Vbは芳香族ケトン類の体積分率(%)を、Vcは環状ケトン類の体積分率(%)を、Vdは脂肪族ケトン類の体積分率(%)を、δaはラクトン類の溶解度パラメータを、δbは芳香族ケトン類の溶解度パラメータを、δcは環状ケトン類の溶解度パラメータを、及びδdは脂肪族ケトン類の溶解度パラメータを表す。]
【0025】
混合溶媒は、好ましくは、ラクトン類(a)又は芳香族ケトン類(b)の少なくとも1種と、環状ケトン類(c)と、沸点が150℃以下の脂肪族ケトン(d)とから構成されるものである。
混合溶媒の溶解度パラメータとしては、例えば、ラクトン類であるGBL(γ−ブチロラクトン)(δa)が31.3(MJ/m3)1/2であり、芳香族ケトン類であるアセトフェノン(δb)が24.7(MJ/m3)1/2であり、環状ケトン類であるアノン(δc)が23.2(MJ/m3)1/2であり、脂肪族ケトンであるMEK(メチルエチルケトン)(δd)が21.0(MJ/m3)1/2である。ちなみに、ポリスルホン系樹脂であるポリエーテルスルホンの溶解度パラメータ(δp)は、25.8(MJ/m3)1/2である。
その混合溶媒(100容量部)中におけるそれらの混合割合(容量部)は、好ましくは、下記の式(1)〜(4)を同時に満足するものである。言いかえると、これらの式を同時の満足する混合溶媒は、ポリスルホン系樹脂との溶解度パラメータの差が±4(MJ/m3)1/2以下となる範囲である。
60≧(a+b)≧15 (1)
65≧c≧10 (2)
45≧d≧10 (3)
a+b+c+d=100 (4)
【0026】
上記の式(1)〜(4)を同時に満足する範囲を図1の3成分相図に示す。
これらの特定範囲外の混合溶媒では、ポリスルホン系樹脂を溶解できないか、又はポリスルホン系樹脂を膨潤しゲル化させるだけで好ましくない。
また、ラクトン類(a)又は芳香族ケトン類(b)の少なくとも1種と、環状ケトン類(c)と、沸点が150℃以下の脂肪族ケトン(d)との3種又は4種の中から2種を選んだ2成分系混合溶媒では、本発明の目的、すなわち優れた表面平滑性を達成することはできず、さらに、例え3成分系混合溶媒であっても、上記の式(1)〜(4)を満足しない範囲のものは、すなわち、ポリスルホン系樹脂との溶解度パラメータの差が±4(MJ/m3)1/2超となる範囲のものは、同様に本発明の目的を達成することはできず、好ましくない。
この理由については定かではないが、特定比率の3成分系混合溶媒の場合は、ポリスルホン系樹脂の溶解度が相乗効果によって増加し、膨潤しただけのポリスルホン系樹脂を貧溶媒である沸点が150℃以下の脂肪族ケトン(d)中に分散させ、また、沸点が150℃以下の脂肪族ケトン(d)は、低粘度であるので、溶解液の粘度を低下させ、塗布する際には、低粘度であるから表面が平滑になると推定される。
【0027】
(2)ラクトン類(a)又は芳香族ケトン類(b)
本発明において、ラクトン類(a)又は芳香族ケトン類(b)は、下記に詳細に述べる溶剤群から1種又は2種以上を用いてもよい。
【0028】
ラクトン類(a)は、環内にエステル基(−CO−O−)をもつ環状化合物であり、例えば、β−プロピオラクトン(沸点:100〜102℃)、γ−ブチロラクトン(沸点:206℃)、γ−バレロラクトン(沸点:206〜207℃)、δ−バレロラクトン(沸点:218〜220℃)、ε−カプロラクトン(沸点:235.3℃)、エチレンカーボネート(沸点:238℃)、プロピレンカーボネート(沸点:90℃、@5mmHg)、ヒノキチオール(沸点:140〜141℃、@10mmHg)、ジケテン(沸点:127.4℃)等が例示される。ただし、カッコ内の数値は、測定圧力を記載したもの以外は、103.3kPa(=760mmHg)における沸点であり、これらより1種又は2種以上を用いてもよい。
代表的なラクトン類として、γ−ブチロラクトンの化学式(1)を以下に示す。
【0029】
【化1】
【0030】
また、芳香族ケトン類(b)は、芳香環基をもつケトン類であり、例えば、アセトフェノン(沸点:202℃)、p−メチルアセトフェノン(沸点:228℃)、プロピオフェノン(沸点:218℃)、1−フェニル−1−ブタノン(沸点:218〜221℃)、イソプロピルフェニルケトン(沸点:217℃)、ベンズアルデヒド(沸点:179℃)、o−ヒドロキシベンズアルデヒド(沸点:196〜197℃)、m−ヒドロキシベンズアルデヒド(沸点:191℃、@50mmHg)、p−ヒドロキシベンズアルデヒド(沸点:116〜117℃)、ベンジルメチルケトン(沸点:216℃)等が例示される。ただし、カッコ内の数値は、測定圧力を記載したもの以外は、103.3kPa(=760mmHg)における沸点であり、これらより1種又は2種以上を用いてもよい。
代表的な芳香族ケトン類として、アセトフェノンの化学式(2)を以下に示す。
【0031】
【化2】
【0032】
(3)環状ケトン類(c)
環状ケトン類(c)は、環内にケトン基(−CO−)をもつ環状化合物であり、例えば、シクロブタノン(沸点:100〜102℃)、シクロペンタノン(沸点:130℃)、シクロヘキサノン(沸点:156.7℃)、ヘプタノン(沸点:179〜181℃)、メチルシクロヘキサノン(沸点:165〜166℃)、シクロオクタノン(沸点:74℃、@1.6kPa)、シクロノナノン(沸点:93〜95℃、@1.6kPa)、シクロデカノン(沸点:107℃、@1.7kPa)、シクロウンデカノン(沸点:108℃、@1.6kPa)、シクロドデカノン(沸点:125℃、@1.6kPa)、シクロトリデカノン(沸点:138℃、@1.6kPa)等が例示される。ただし、カッコ内の数値は、測定圧力を記載したもの以外は、103.3kPa(=760mmHg)における沸点であり、これらより1種又は2種以上を用いてもよい。
代表的な環状ケトン類として、シクロヘキサノンの化学式(3)を以下に示す。
【0033】
【化3】
【0034】
(4)脂肪族ケトン(d)
本発明において、脂肪族ケトン(d)とは、沸点が150℃以下の脂肪族ケトンであり、例えば、アセトン(沸点:100〜102℃)、メチルエチルケトン(沸点:100〜102℃)、メチルプロピルケトン(沸点:100〜102℃)、メチルイソブチルケトン(沸点:100〜102℃)、メチルn−ブチルケトン(沸点:100〜102℃))、メチルsec−ブチルケトン(沸点:100〜102℃)、ジイソブチルケトン(沸点:100〜102℃)、ピナコロン(沸点:106.4℃)、メチルイソアミルケトン(沸点:144.9℃)、ジエチルケトン(沸点:101.8℃)、ジイソプロピルケトン(沸点:125.0℃)、エチル−プロピルケトン(沸点:123.2℃)、ブチル−エチルケトン(沸点:147.3℃)等が例示される。ただし、カッコ内の数値は、103.3kPa(=760mmHg)における沸点であり、これらより1種又は2種以上を用いてもよい。
代表的な脂肪族ケトン(d)として、メチルエチルケトンの化学式(4)を以下に示す。
【0035】
【化4】
【0036】
(5)ポリスルホン系樹脂
本発明において、ポリスルホン系樹脂とは、主鎖に芳香環基とその結合基としてスルホン基を有する熱可塑性樹脂であり、ポリスルホン樹脂と、ポリエーテルスルホン樹脂と、ポリフェニルスルホン樹脂に大別される。
ポリスルホン樹脂(PSFと称することもある。)は、代表的には下記の化学式(5)で表されるような構造をもつポリマーであり、1965年に米国ユニオンカーバイド社から発表されたものである。
【0037】
【化5】
【0038】
上記の化学式(5)で表されるポリマーは、原料として、ビスフェノールAのアルカリ金属塩(Na塩)と、ビスフェノールSの塩素化化合物(4,4’−ジクロロジフェニルスルホン)を使用し、脱塩化ナトリウム反応で得られるが、ビスフェノールAを、4,4’−ジヒドロキシ−ジフェニル−オキシド、4,4’−ジヒドロキシ−ジフェニル−スルファイド、4,4’−ジヒドロキシ−ジフェニル−メタン、4,4’−ジヒドロキシ−ジフェニル−フェニルエタン、4,4’−ジヒドロキシ−ジフェニル−パーフロロプロパン、ハイドロキノン、4,4’−ジヒドロキシベンゾフェノン、4,4’−ジヒドロキシ−ジフェニル等で置換することにより、下記の化学式(6)〜(13)で表されるポリマーが得られ、本発明において使用することができる。
【0039】
【化6】
【0040】
【化7】
【0041】
【化8】
【0042】
【化9】
【0043】
【化10】
【0044】
【化11】
【0045】
【化12】
【0046】
【化13】
【0047】
PSFとしては、ユーデル[登録商標、米国アモコ社が製造し、テイジンアモコエンジニアリング(株)が輸入販売]、及びユーデルP−3500[登録商標、日産化学工業(株)の製造販売]などが、市販品として利用できる。
【0048】
また、ポリエーテルスルホン樹脂(PESと称することもある。)は、代表的には下記の化学式(14)で表されるような構造をもつポリマーである。
【0049】
【化14】
【0050】
PESは、ジフェニルエーテルクロロスルホンのフリーデルクラフツ反応により得られる。
PESとしては、ウルトラゾーンE[登録商標、ドイツBASF社が製造し、三井化学(株)が輸入販売]、レーデル(登録商標)A[米国アモコ社が製造し、テイジンアモコエンジニアリング(株)が輸入販売]、及びスミカエクセル[登録商標、住友化学(株)の製造販売]などが、市販品として利用できる。
【0051】
また、ポリフェニルスルホン樹脂(PPSUと称することもある。)は、代表的には下記の化学式(15)で表されるような構造をもつポリマーである。
【0052】
【化15】
【0053】
PPSUとしては、レーデル(Radel)(登録商標)Rシリーズ(R−5000、R−5500、R−5800など)[米国アモコ社が製造し、テイジンアモコエンジニアリング(株)が輸入販売]などが、市販品として利用できる。
【0054】
本発明において、ポリスルホン系樹脂溶液組成物とは、例えば、ラクトン類(a)又は芳香族ケトン類(b)の少なくとも1種と環状ケトン類(c)と沸点が150℃以下の脂肪族ケトン(d)とからなる混合溶媒に、上記の少なくとも1種のポリスルホン系樹脂を溶解したものであり、基材(A)の少なくとも一方の面に、塗布、乾燥させてポリスルホン系樹脂塗膜層(B)と基材(B)とからなる積層体を製造するために利用する。
ポリスルホン系樹脂溶液組成物中のポリスルホン系樹脂の配合量は、混合溶媒100重量部に対して、1〜30重量部、好ましくは5〜20重量部である。配合量が、1重量部未満であると、粘度は低くなり塗布しやすくなり、溶液組成物の寿命は長くなるものの、ポリスルホン系樹脂塗膜層の厚さが0.1μm未満となり、好ましくなく、一方、30重量部を超えると、粘度が高くなり均一な厚さのポリスルホン系樹脂塗膜層が得られず、また溶液組成物の寿命が短くなり、望ましくない。
また、ポリスルホン系樹脂溶液組成物には、酸化防止剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、難燃剤、染料、顔料、滑剤、防カビ剤、防錆剤、レベリング剤等を必要に応じて添加することができる。尚、レベリング剤の例としては、パーフルオロアルキルスルホン酸カルシウム塩、パーフルオロアルキルスルホン酸カリウム塩、パーフルオロアルキルスルホン酸アンモニウム塩、パーフルオロアルキルエチレノキシド、パーフルオロアルキルトリメチルアンモニウム塩、フッ素化アルキルエステル等を挙げることができる。
【0055】
さらに、本発明に係るポリスルホン系樹脂溶液組成物は、基材(A)である鉄、アルミニウム、銅、亜鉛、チタニウム等の金属板、ガラス板、金属棒、金属部品、コイル等に、コーテイグ(塗布、乾燥)し、ポリスルホン系樹脂塗膜層(B)を作製して、耐熱性、耐薬品性、耐衝撃性、耐引掻性等に優れた製品とすることもでき、それらは、一般産業機械器具部品、電気・電子部品、自動車部品、事務機器部品、厨房器具類、化学・薬品プラントの配管・貯槽等として利用される。また、金属線の表面に被覆し耐熱性・耐薬品性のワイヤーとしても、利用できる。また、塗料としても利用できる。
【0056】
ポリスルホン系樹脂塗膜層(B)は、ドープ、すなわち例えば、ラクトン類(a)又は芳香族ケトン類(b)の少なくとも1種と環状ケトン類(c)と沸点が150℃以下の脂肪族ケトン(d)とからなる混合溶媒に少なくとも1種のポリスルホン系樹脂を溶解させてなるポリスルホン系樹脂溶液、から容易に溶剤キャスト法で0.1〜100μmの薄膜として、基材(A)、好ましくはポリエチレンテレフタレートフィルム上に積層でき、低コストに高品位の積層体を提供することができる。特に、ポリスルホン系樹脂塗膜層(B)の表面平滑性が、ノマルスキー型微分干渉顕微鏡法で観測した際に、視野1mm2に直径50μm以上の円状凹凸が1個以下であり、ポリスルホン系樹脂塗膜層自体の表面平滑性を優れたものにすることができる。
本発明において、ポリスルホン系樹脂塗膜層(B)の表面平滑性を評価するために、ノマルスキー型微分干渉顕微鏡法による計測を用いた理由は、本発明に係る塗膜が透明である場合、一般的な光学顕微鏡法では観察が困難であり、そのため、特殊なプリズムを用いるノマルスキー型微分干渉顕微鏡法においては、光線を二分化することで干渉縞を発生させ、明暗のコントラストが明確に出る結果、微小な凹凸の観察に適しているからである。そして、視野1mm2に直径50μm以上の円状凹凸が1個以下と規定する意味は、本発明の積層体が種々の用途に用いられた際に、表面が平滑性に優れ、十分な光沢を有すると、又は高い透明性を有すると判断でき、さらに、異種材料と積層する際に、本発明の積層体は、表面が平滑であるため、気泡を巻き込む等の問題は生じない。一方、円状凹凸が1個超であれば、塗膜層の表面平滑性に劣り、光沢不良、透明性が低いなどの問題がある。また、異種材料と積層する際に、凹凸部に気泡を巻き込み、良好な積層体の作製が困難となる。
【0057】
3.積層体及びその製法
本発明の積層体は、基材(A)の少なくとも一方の面に、ポリスルホン系樹脂塗膜層(B)を有するものである。
本発明の積層体は、例えば、厚さが1〜200μmである基材フィルムの少なくとも一方の面に、ポリスルホン系樹脂のドープを塗布・乾燥し、厚さが0.1〜100μm、好ましくは0.5〜75μm、さらに好ましくは1〜50μmのポリスルホン系樹脂塗膜層を積層させることによって製造される。
そして、基材フィルムとしては、好ましくはポリエチレンテレフタレートフィルムであり、該基材フィルムとポリスルホン系樹脂塗膜層が、好ましくは5N/m以上の密着強度で積層されており、両者間は剥離することがない。
本発明の積層体は、例えば、液晶表示素子用透明電極のベースフィルム等に用いられる表面平滑性および外観の優れた耐熱性光学フィルム等として用いることができる。
【0058】
本発明の積層体は、例えば、基材フィルム上にポリスルホン系樹脂溶液組成物を塗布した後、乾燥処理を行うことにより、製造することができる。
塗布方法としては、ロールコーティング、スプレーコーティング、ダイコーティング、ナイフコーティング、エアーナイフコーティング、ワイヤーバーコーティング等が利用できる。特に、ワイヤーバーコーティングによる塗布方法が塗布される溶液組成物の量を正確にコントロールでき、塗布膜の表面平滑度を向上させることができ、その結果、表面平滑性の優れた積層体を得ることができるため、好ましい。
基材フィルム上にポリスルホン系樹脂溶液組成物を塗布する時の溶液温度は、生産コスト上20〜50℃が好ましい。
また、乾燥方法としては、50〜150℃で0.1〜5分乾燥させることが好ましい。
【0059】
【実施例】
以下に、本発明の積層体を実施例に基づいて詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
先ず、本発明の実施例と比較例で作製の積層体(フィルム)の評価を行うために、基材(A)とポリスルホン系樹脂塗膜層(B)との密着強度、ポリスルホン系樹脂塗膜層(B)の表面平滑性、残留溶剤(残留溶剤に起因する硫黄及び窒素の合計)量、及びポリエーテルスルホン樹脂溶液組成物の溶液状態と積層体(フィルム)の外観を測定、評価したが、これらの測定、評価方法を以下に示す。
【0060】
[基材(A)とポリスルホン系樹脂塗膜層(B)との密着強度]
積層体(フィルム)の表面にセロテープ(登録商標)を貼り、2.5cmW×15cmLの短冊状に切り出し、引張り試験機を使用して速度1000mm/minで180°剥離を行ったときの平均応力を密着強度とした。密着強度が5N/m以上を合格(○)とした。
【0061】
[ポリスルホン系樹脂塗膜層(B)の表面平滑性]
積層体のポリスルホン系樹脂塗膜層(B)の表面平滑性は、ノマルスキー型微分干渉顕微鏡法で観測した際に、視野1mm2に直径50μm以上の円状凹凸が何個存在するかで評価し、その個数が1個以下の場合を合格(○)とした。
【0062】
[ポリスルホン系樹脂塗膜層(B)の残留溶剤(硫黄及び窒素)量]
500mlのガラスサンプル瓶中に積層体(フィルム)(5cm×5cm)を入れ、100℃オーブン中に60分間保管した後に、ガラスサンプル瓶中のガス濃度をガスクロにより測定した。NOx、SOxの検出有無を評価した。
【0063】
[ポリエーテルスルホン樹脂溶液組成物の溶液状態と積層体の外観]
ポリエーテルスルホン樹脂溶液組成物の溶液状態と積層体(フィルム)外観は、目視評価し、その基準は次のとおり。
▲1▼溶液状態;
溶解○:未溶解物がなく、溶解後10時間密封し、液に変化のないもの。
不溶×:未溶解物が残るもの。
ゲル化×:溶解後10時間の放置で白化・増粘が見られるもの。
▲2▼フィルム外観;
良好○:乾燥後、膜が平滑なもの。
凹凸×:乾燥後、膜が波打って平滑性に欠けるもの。
【0064】
[実施例1]
γ−ブチロラクトン(GBL)20体積%、シクロヘキサノン40体積%及びメチルエチルケトン(MEK)40体積%からなる混合溶媒100重量部に、ポリエーテルスルホン樹脂(PES)[住友化学工業(株)製、スミカエクセル(登録商標)PES5003P]10重量部を添加し、24時間攪拌してポリエーテルスルホン樹脂溶液組成物を調製した。
次いで、ポリエチレンテレフタレートフィルム(PETフィルム)[帝人デュポン(株)製、テトロン(登録商標)S(厚さ100μm)]を基材フィルムとし、上記のポリエーテルスルホン樹脂溶液組成物を、図2に示すワイヤーバーを有する塗布装置[図3(A)に示す。]で、乾燥塗膜の厚みが2μmになるようにコーティングを行った。
コーティング後、オーブン中で150℃、5分間乾燥させ、塗膜にべたつきがないことを確認し、乾燥終了とした。
ポリエーテルスルホン樹脂溶液組成物の組成や積層体の性能評価結果などを表1に示す。
【0065】
[実施例2]
γ−ブチロラクトン(GBL)30体積%、シクロヘキサノン40体積%及びメチルエチルケトン(MEK)30体積%からなる混合溶媒100重量部に、ポリエーテルスルホン樹脂(PES)[住友化学工業(株)製、スミカエクセル(登録商標)PES5003P]5重量部を添加し、24時間攪拌してポリエーテルスルホン樹脂溶液組成物を調製した。
次いで、ポリエチレンテレフタレートフィルム(PETフィルム)[帝人デュポン(株)製、テトロン(登録商標)S(厚さ100μm)]を基材フィルムとし、上記のポリエーテルスルホン樹脂溶液組成物を、図2に示すワイヤーバーを有する塗布装置[図3(A)に示す。]で、乾燥塗膜の厚みが2μmになるようにコーティングを行った。
コーティング後、オーブン中で150℃、5分間乾燥させ、塗膜にべたつきがないことを確認し、乾燥終了とした。
ポリエーテルスルホン樹脂溶液組成物の組成や積層体の性能評価結果などを表1に示す。
【0066】
[実施例3]
アセトフェノン20体積%、シクロヘキサノン50体積%及びメチルエチルケトン(MEK)30体積%からなる混合溶媒100重量部に、ポリスルホン樹脂(PSF)[日産化学工業(株)製、ユーデル(登録商標)P−3500]を5重量部添加し、24時間攪拌してポリスルホン樹脂溶液組成物を調製した。
次いで、ポリエチレンテレフタレートフィルム(PETフィルム)[帝人デュポン(株)製、テトロン(登録商標)S(厚さ100μm)]を基材フィルムとし、上記のポリスルホン樹脂溶液組成物を、図2に示すワイヤーバーを有する塗布装置[図3(A)に示す。]で、乾燥塗膜の厚みが2μmになるようにコーティングを行った。
コーティング後、オーブン中で150℃、5分間乾燥させ、塗膜にべたつきがないことを確認し、乾燥終了とした。
ポリエーテルスルホン樹脂溶液組成物の組成や積層体の性能評価結果などを表1に示す。
【0067】
[比較例1]
γ−ブチロラクトン(GBL)20体積%及びメチルエチルケトン(MEK)80体積%からなる混合溶媒100重量部に、ポリエーテルスルホン樹脂(PES)[住友化学工業(株)製、スミカエクセル(登録商標)PES5003P]を10重量部添加し、24時間攪拌してポリエーテルスルホン樹脂溶液組成物を製造した。ポリエーテルスルホン樹脂の未溶解物が残ったので、コーティングは行わなかった。
ポリエーテルスルホン樹脂溶液組成物の組成などを表1に示す。
【0068】
[比較例2]
シクロヘキサノン80体積%及びメチルエチルケトン(MEK)20体積%からなる混合溶媒に、ポリエーテルスルホン樹脂(PES)[住友化学工業(株)製、スミカエクセル(登録商標)PES5003P]を10重量部添加し、24時間攪拌してポリエーテルスルホン樹脂溶液組成物を製造した。溶解後10時間の放置で白化・増粘が観察されたので、コーティングは行わなかった。
ポリエーテルスルホン樹脂溶液組成物の組成などを表1に示す。
【0069】
[比較例3]
ジメチルホルムアミド(DMF)20体積%、シクロヘキサノン40体積%及びメチルエチルケトン(MEK)40体積%からなる混合溶媒100重量部に、ポリエーテルスルホン樹脂(PES)[住友化学工業(株)製、スミカエクセル(登録商標)PES5003P]を10重量部添加し、24時間攪拌してポリエーテルスルホン樹脂溶液組成物を製造した。
次いで、ポリエチレンテレフタレートフィルム(PETフィルム)[帝人デュポン(株)製、テトロン(登録商標)S(厚さ100μm)]を基材フィルムとし、上記のポリエーテルスルホン樹脂溶液組成物を、図2に示すワイヤーバーを有する塗布装置[図3(A)に示す。]で、乾燥塗膜の厚みが2μmになるようにコーティングを行った。
コーティング後、オーブン中で150℃、5分間乾燥させ、塗膜にべたつきがないことを確認し、乾燥終了とした。
ポリエーテルスルホン樹脂溶液組成物の組成や積層体の性能評価結果などを表1に示す。
【0070】
[比較例4]
溶剤として1−メチル−2−ピロリドン(N−メチルピロリドン)(NMP)100重量部に、ポリエーテルスルホン樹脂(PES)[住友化学工業(株)製、スミカエクセル(登録商標)PES5003P]を10重量部添加し、24時間攪拌してポリエーテルスルホン樹脂溶液組成物を製造した。
次いで、ポリエチレンテレフタレートフィルム(PETフィルム)[帝人デュポン(株)製、テトロン(登録商標)S(厚さ100μm)]を基材フィルムとし、上記のポリエーテルスルホン樹脂溶液組成物を、図2に示すワイヤーバーを有する塗布装置[図3(A)に示す。]で、乾燥塗膜の厚みが2μmになるようにコーティングを行った。
コーティング後、オーブン中で150℃、5分間乾燥させ、塗膜にべたつきがないことを確認し、乾燥終了とした。
ポリエーテルスルホン樹脂溶液組成物の組成や積層体の性能評価結果などを表1に示す。
【0071】
【表1】
【0072】
表1の評価結果から、明らかに、実施例1〜3では、溶液組成物が安定し、コーティング後の表面平滑性、接着性も良好である。一方、比較例1では、溶液組成物中に未溶解分が残り、塗布できなく、比較例2では、溶液組成物が白化増粘して、塗布できない。また、比較例3では、溶液組成物の溶存状態とフィルム外観は、良好なものの、コーティング後の表面平滑性は、視野1mm2に直径50μm以上の円状凹凸が4個存在し、また、残留溶剤(硫黄及び窒素)量の評価として、NOxを検出した。比較例4では、比較例3と同様に、溶液組成物の溶存状態とフィルム外観は、良好なものの、コーティング後の表面平滑性は、視野1mm2に直径50μm以上の円状凹凸が6個存在し、また、残留溶剤(硫黄及び窒素)量の評価として、NOxを検出した。
【0073】
[実施例4]
実施例1で製造した積層体を使用し、その用途である液晶表示素子を下記の工程で作製した。
実施例1で製造した積層体上に、DCマグネトロン法により、初期真空度3×10−4Paの状態から酸素/アルゴンガス9%の混合ガスを導入して3×10−1Paの条件下においてスパッタリングを行い500Å厚のSiO2を得た。
続いて、透明導電膜として、同じくDCマグネトロン法により初期真空度3×10−4Paの状態から酸素/アルゴンガス4%の混合ガスを導入して1×10−1Paの条件下においてスパッタリングを行いIn/In+Snの原子比が0.98である酸化インジウム錫(ITO)からなる透明導電膜を得た。測定の結果、膜厚は1600Å、非抵抗は4×10−4Ωcmであった。ITOを成膜後、レジストを塗布して現像し、エッチング液として10vol%HCL、液温40℃中でパターンエッチングし、対角長さ3インチ、L/S=150/50μmの表示パターンを形成した。パターン形成後、STN用配向膜を塗布し、150℃2hrの焼成処理を行った後、240度ツイストの配向となるようラビング処理を行った。ラビング処理後、スペーサーを散布し、シール剤を塗布し、130℃でシール硬化させてセル化し、STN用液晶組成物を注入した。偏光板をコントラストの最大となる位置に貼り合わせて液晶表示素子を作製した。
【0074】
評価結果:この液晶表示素子を駆動電圧0Vから±5Vで点灯試験を行ったところ、液晶のセルギャップ異常による表示ムラは見られず良好な表示を示した。
【0075】
【発明の効果】
本発明の積層体は、特に、表面平滑性に優れ、光学的な特性に優れている。また、廃棄する際には、NOxなどの有害な成分を発生させることがない効果もある。そのため、耐熱性光学用フィルムとして好適に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る混合溶媒を構成する3成分相図である。
【図2】ワイヤーバーの概念図であり、図(A)は断面図であり、図(B)は側面図の一部を示す。
【図3】ワイヤーバーを有する塗布装置の概念図であり、図(A)は小径のワイヤーバーを有する塗布装置の概念図であり、図(B)は大径のワイヤーバーを有する塗布装置の概念図平面図である。
【符号の説明】
1 ワイヤーバー(断面図)
1’ ワイヤーバー(側面図)
2 ワイヤー
3 ロッド(バー)
4 基材フィルム
4a 基材フィルムの溶液組成物塗布面
5 ワイヤーの頂点を結んだ線とワイヤー間にできる空間
6 基材フィルムの送りロール
7 ドクターブレイド
8 バックアップロール
9 ポリスルホン系樹脂溶液組成物
10 溶液組成物導入管
11 溶液組成物排出管
12 貯槽
13 凹面架台
14 攪拌機
15 小径のワイヤーバーを有する塗布装置
16 大径のワイヤーバーを有する塗布装置
Claims (4)
- 基材(A)の少なくとも一方の面に、ポリスルホン系樹脂溶液組成物を塗布、乾燥させてポリスルホン系樹脂塗膜層(B)を形成してなる積層体であって、
1)ポリスルホン系樹脂塗膜層(B)の表面平滑性は、ノマルスキー型微分干渉顕微鏡法で観測した際に、視野1mm2に直径50μm以上の円状凹凸が1個以下であり、
2)ポリスルホン系樹脂溶液組成物は、ポリスルホン系樹脂の溶解度パラメータ(δp)と、下記式(1)による少なくとも3種の混合溶媒の溶解度パラメータ(δs)との差が4(MJ/m3)1/2以下であり、及び
3)基材(A)とポリスルホン系樹脂塗膜層(B)との密着強度が、5N/m以上であることを特徴とする積層体。
式(1): δs=(Va×δa/100)+(Vb×δb/100)+(Vc×δc/100)+(Vd×δd/100)
[式中、Vaはラクトン類の体積分率(%)を、Vbは芳香族ケトン類の体積分率(%)を、Vcは環状ケトン類の体積分率(%)を、Vdは脂肪族ケトン類の体積分率(%)を、δaはラクトン類の溶解度パラメータを、δbは芳香族ケトン類の溶解度パラメータを、δcは環状ケトン類の溶解度パラメータを、及びδdは脂肪族ケトン類の溶解度パラメータを表す。] - ポリスルホン系樹脂溶液組成物は、ラクトン類(a)又は芳香族ケトン類(b)の少なくとも1種と環状ケトン類(c)と沸点が150℃以下の脂肪族ケトン(d)とからなる混合溶媒に、少なくとも1種のポリスルホン系樹脂を溶解させてなることを特徴とする請求項1に記載の積層体。
- 混合溶媒(100容量部)中におけるラクトン類(a)、芳香族ケトン類(b)、環状ケトン類(c)、及び脂肪族ケトン(d)の配合割合(容量部)は、下記の式(1)〜(4)を同時に満足することを特徴とする請求項2に記載の積層体。
60≧(a+b)≧15 (1)
65≧c≧10 (2)
45≧d≧10 (3)
a+b+c+d=100 (4) - ポリスルホン系樹脂溶液組成物は、混合溶媒100重量部に対して、ポリスルホン系樹脂の配合量が1〜30重量部であることを特徴とする請求項1に記載の積層体。
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