JP2004292190A - 二酸化ケイ素薄膜とその製造法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】透明でかつ、内部に多数の微細空隙を含む非晶質二酸化ケイ素薄膜であって、屈折率(λ=500nmの光の屈折率)が1.01乃至1.40の範囲にあり、微細空隙全体の80体積%以上を占める微細空隙の直径が5nm以下である非晶質二酸化ケイ素薄膜。
【選択図】 なし
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、光学製品に付設する光学的薄膜として有用な、低屈折率を示す透明非晶質金属酸化物薄膜に関する。
【0002】
【従来の技術】
低屈折率を示す二酸化ケイ素の薄膜および高屈折率を示す二酸化チタンや酸化アルミニウムなどの金属酸化物の薄膜は、各種光学製品の多層反射膜、反射防止膜、フォトニック液晶などの用途に利用されている。
【0003】
透明金属酸化物薄膜は従来、蒸着法あるいはスパッタリング法に代表される気相堆積法を利用して製造されていた。しかし、気相堆積法による透明金属酸化物薄膜の製造方法は、製造装置が複雑なこと、そして製造のための操作には細かい調整が必要で、また比較的長い操作時間が必要であるところから、工業的に有利な製法とはいえない。
【0004】
このため、気相堆積法に代わる薄膜の製造方法として、ゾル−ゲル法が開発された。ゾル−ゲル法は、溶媒中に溶解させた金属アルコキシドを加水分解し、次いで縮合重合させることからなる金属酸化物の製造方法であって、簡易な製造設備で比較的短時間の製造工程にて高品質の金属酸化物薄膜が得られることから、特に光学製品の表面に形成する光学的薄膜の製造法として多用されるようになっている。
【0005】
非特許文献1には、無反射コーティング膜を、二酸化チタン(TiO2)の薄膜と二酸化ケイ素(SiO2)の薄膜とを交互にゾル−ゲル法を用いて積層させることにより、反射率を顕著に減少させる反射防止膜が得られることの記載がある。
【0006】
非特許文献2には、アンチモン含有酸化スズ、スズ含有酸化インジウムなどのナノメートルサイズの微粒子、いわゆる超微粒子を薄膜として用いて形成した反射防止膜が記載されている。
【0007】
非特許文献3には、有機エレクトロルミネッセンス(EL)からの外部への光の取り出し効率を高めるためにシリカエアロゲル薄膜を利用することの説明がある。このシリカエアロゲル薄膜では、用いるシリカエアロゲルの密度を変えることにより、その屈折率を1.10〜1.01の範囲で調節できると記載されている。
【0008】
非特許文献4には、高濃度のアルコキシドから生成させた二酸化チタンゲルの中にモールドを浸漬させ、乾燥と焼成を行なう方法を利用してフォトニック結晶を製造する技術が紹介されている。
【0009】
【非特許文献1】
「ゾル−ゲル法の応用」作花済夫著、アグネ承風社1997年発行
【非特許文献2】
「超微粒子を用いた反射防止膜」、O plus E、第24巻、11号、1231〜1235(2002年11月)
【非特許文献3】
「エアロゲルを用いた発光の取り出し効率の向上」、(社)応用物理学会、有機分子・バイオエレクトロニクス分科会第9回講習会(2001)「次世代有機ELへの挑戦:高効率化,長寿命化,フルカラー化と駆動方式」のテキスト
【非特許文献4】
Jpn.J.Appl.Phys.,Vol.41(2002),pp.L291−L293.
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
気相堆積法に代わる工業的に有利な薄膜製造法として開発されたゾル−ゲル法を利用することにより、比較的簡易な製造装置と製造工程により、高品質な光学薄膜として利用可能な金属酸化物薄膜が得られるようになっている。しかしながら、これまでに知られているゾル−ゲル法に従う方法では、二酸化ケイ素薄膜であっても、屈折率が充分に低い光学用薄膜が得られていない。
【0011】
なお、二酸化ケイ素薄膜は、エアロゲル法を利用することにより、所望の低屈折率を示す光学用の薄膜として製造できるようになったと報告されているが、このエアロゲル法による薄膜の製造法は工業的に利用できる製造法としては、未だ充分な検討がされていない。
【0012】
上記のように、これまでに知られているゾル−ゲル法による光学薄膜の製造、そしてエアロゲル法による光学薄膜の製造は、工業的な製造の面において充分満足できるレベルに到達していない。さらに、これらの方法で製造された光学薄膜については、充分な物理的強度と表面硬度が得られないという問題がある。すなわち、エレクトロルミネッセンス(EL)素子、特に有機エレクトロルミネッセンス素子、光学レンズ、CRTなどのディスプレィなどの光学製品の表面に形成される反射防止膜は、人間の手や外部機材と接触することが多いことから、高い耐傷性が必要とされている。しかし、内部に多数の気泡を存在させることにより屈折率を調整する方法である、ゾル−ゲル法やエアロゲル法により得られる光学薄膜は、その気泡の存在により充分高い耐傷性を持ちにくいという問題がある。また、同じ理由から、薄膜の耐屈曲性などの機械的強度や耐熱性が低いという問題もある。
【0013】
従って、本発明は、低屈折率と高い耐傷性、物理的強度、そして耐熱性を示す二酸化ケイ素透明薄膜を提供することを、その目的とする。
【0014】
【課題を解決するための手段】
本発明は、透明でかつ、内部に多数の微細空隙を含む非晶質二酸化ケイ素薄膜であって、屈折率(λ=500nmの光の屈折率)が1.01乃至1.40の範囲にあり、微細空隙全体の80体積%以上を占める微細空隙の直径が5nm以下である非晶質二酸化ケイ素薄膜にある。
【0015】
本発明の非晶質二酸化ケイ素薄膜の好ましい態様を次に記載する。
(1)空隙率が50%以上である。
(2)微細空隙全体の80体積%以上を占める微細空隙の直径が2nm以下である。
(3)微細空隙全体の90体積%以上を占める微細空隙の直径が2nm以下である。
(4)ゾル−ゲル法で形成された薄膜の焼成物である。
【0016】
(5)シリコンアルコキシドをアルコール溶媒中で、ヒドロキシアルデヒド誘導体、ヒドロキシカルボン誘導体、アリルアルコール誘導体およびヒドロキシニトリル誘導体からなる群から選ばれる少なくとも一つの化合物と水との存在下にて加水分解させ、縮合重合させてゾルを得る工程、該ゾルの薄膜を形成する工程、そして該ゾル薄膜を加熱焼成する工程からなる製法で製造する。
(6)上記(5)の製法であって、シリコンアルコキシドの加水分解と縮合重合とに際してさらに、弱酸と弱塩基との塩、ヒドラジン誘導体の塩、ヒドロキシルアミン誘導体の塩及びアミジン誘導体の塩からなる群から選ばれる少なくとも一つの塩触媒を存在させることを特徴とする製法。
(7)薄膜の膜厚が10nm乃至20μmの範囲にある。
【0017】
本発明の二酸化ケイ素薄膜において、微細空隙全体の体積、及び特定の直径の微細空隙の割合(体積%)は、下記の方法によって測定した値を意味する。
まず、窒素吸着装置により、特定の直径当りの質量当りの細孔容積を求める。これに、密度測定装置により求めた密度を乗じると、特定の直径当りの体積当りの細孔容積が求められる。これを百分率表示としたものが、特定の直径当りの微細空隙の割合になる。
【0018】
【発明の実施の形態】
次に、本発明の非晶質二酸化ケイ素薄膜とその製法について説明する。
【0019】
[非晶質二酸化ケイ素薄膜]
本発明の二酸化ケイ素薄膜は、従来知られているゾル−ゲル法によって得られる二酸化ケイ素薄膜に比べると、内部に多数含まれている空隙(気泡)がナノメートルレベルのサイズであって、顕著に小さい空隙であることを主な特徴としている。すなわち、本発明の二酸化ケイ素薄膜には、薄膜中に多数の空隙が非常に微細な空隙として存在しているため、本発明の二酸化ケイ素薄膜は、高い透明性を示すのみではなく、所望の低い屈折率と高い機械的強度(特に、高い耐傷性および高い耐屈曲性)、そして耐熱性(耐熱変形性)を示すようになる。
【0020】
本発明の二酸化ケイ素薄膜は、シリコンアルコキシドをアルコール溶媒中で、ヒドロキシアルデヒド誘導体、ヒドロキシ酢酸誘導体およびヒドロキシニトリル誘導体からなる群から選ばれる少なくとも一つの化合物と、水との存在下にて加水分解させ、縮合重合させてゾル(低粘度液状混合物)を得る工程、該ゾルを薄膜状に形成する工程、そして該ゾル薄膜を加熱焼成する工程からなる工業的に容易に実施可能な方法を利用して製造することができる。なお、シリコンアルコキシドの加水分解と縮合重合とに際してさらにヒドラジン誘導体の塩、アミジン誘導体の塩およびヒドロキシルアミン誘導体の塩からなる群から選ばれる少なくとも一つの塩触媒を存在させることが好ましい。
【0021】
シリコンアルコキシドをアルコール溶媒中で加水分解させ、縮合重合させてゾルを得たのち、このゾルを薄膜状に形成し、次いで該ゾル薄膜を加熱焼成する工程からなる二酸化ケイ素薄膜の製法は、ゾル−ゲル法による二酸化ケイ素薄膜の製法として既に知られ、実用化されている。
【0022】
ゾル−ゲル法による二酸化ケイ素薄膜の一般的な製造法では、テトラメトキシケイ素、テトラエトキシケイ素、テトラ−n−プロポキシケイ素、テトライソプロポキシケイ素、テトラ−n−ブトキシケイ素、テトライソブトキシケイ素、テトラ−t−ブトキシケイ素などのテトラアルコキシケイ素、或はその誘導体を、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノールなどの低級脂肪族アルコール溶媒に溶解させ、これに水を加えて、室温にて、あるいは所望により加温しながら、攪拌混合することにより、テトラアルコキシケイ素あるいはその誘導体の少なくとも一部が加水分解し、ついでその加水分解物間の縮合重合反応が生起し、縮合重合物が生成する。そして、その縮合重合の進展が充分でない状態である低粘度のゾルの状態にて、これを薄膜状に成形する。
【0023】
本発明の非晶質二酸化ケイ素薄膜の製造に際しては、シリコンアルコキシドの加水分解と縮合重合に際して、ヒドロキシアルデヒド誘導体(あるいはヒドロキシケトン誘導体)、ヒドロキシカルボン酸誘導体、アルルアルコール誘導体、およびヒドロキシニトリル誘導体からなる群から選ばれる少なくとも一つの化合物(加水分解促進剤)を存在させる。ヒドロキシアルデヒド誘導体(あるいはヒドロキシケトン誘導体)の例としては、ヒドロキシアセトン、アセトイン、3−ヒドロキシ−3−メチル−2−ブタノン、及びフルクトースが挙げられ、ヒドロキシカルボン酸誘導体の例としては、グリコール酸、乳酸、ヒドロキシイソ酪酸、チオグリコール酸、グリコール酸エステル、乳酸エステル、2−ヒドロキシ−イソ酪酸エステル、チオグリコール酸エステル、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、リンゴ酸エステル、酒石酸エステル、およびクエン酸エステルが挙げられ、アリルアルコール誘導体の例としては、1−ブテン−3−オール、2−メチル−3−ブテン−2−オール、1−ペンテン−3−オール、1−ヘキセン−3−オール、クロチルアルコール、3−メチル−2−ブテン−1−オール、及びチナミルアルコールが挙げられ、ヒドロキシニトリル誘導体の例としてはアセトンシアノヒドリンが挙げられる。
【0024】
また、前述のように、シリコンアルコキシドの加水分解と縮合重合とに際してさらに弱酸と弱塩基との塩、ヒドラジン誘導体の塩、アミジン誘導体の塩およびヒドロキシルアミン誘導体の塩からなる群から選ばれる少なくとも一つの化合物(塩触媒)を存在させることが好ましい。弱酸と弱塩基との塩の例としては、カルボン酸アンモニウム(例、酢酸アンモニウム、ギ酸アンモニウム)、炭酸アンモニウム、及び炭酸水素アンモニウムを挙げることができる。また、ヒドラジン誘導体の塩、アミジン誘導体の塩およびヒドロキシルアミン誘導体の塩からなる群から選ばれる少なくとも一つの塩触媒の例、および機能については、特開2000−26849号公報に、フォトクロミック性を有する酸化チタンゲルおよびガラス製品の製造に際して用いる塩触媒として記載がある。
【0025】
本発明の非晶質二酸化ケイ素薄膜の製造において、シリコンアルコキシドの加水分解と縮合重合に際して加水分解促進剤を存在させることにより、シリコンアルコキシドの加水分解が促進され、各シリコンアルコキシドの複数のアルコキシド基がほぼ同時に加水分解され、それぞれが活性なヒドロキシル基に変換されるため、一次元方向に高分子鎖が伸びて長鎖の重合体が生成するよりも、三次元方向に高分子鎖が伸びるマトリックス構造が優先的に生成しやすくなるものと考えられる。そして、この三次元方向に高分子鎖が優先的に伸びるマトリックス構造の形成により、生成する縮合重合物中に形成される空隙が分子オーダーの微細な空隙となるものと推定される。
【0026】
シリコンアルコキシドの加水分解と縮合重合により得られたゾルは、次いで薄膜状に成形される。ゾルの薄膜の成形は、たとえば、ゾルを基板上に、スピンコートなどの方法で均一に塗布するか、あるいはゾル中に基板を浸漬した後、引き上げるディップコート法などの公知の方法を利用して行なうことができる。用いる基板は、酸素ガス存在下のプラズマ処理などの表面処理を施しておくことが望ましい。
【0027】
ゾル薄膜は次いで、加熱焼成されて、本発明の目的物である非晶質二酸化ケイ素薄膜とされる。加熱焼成は、通常、100〜1100℃の範囲の温度で行なわれる。なお、先のゾル形成時の攪拌混合の温度と攪拌時間などの条件を変えることにより、あるいは加熱焼成の温度を選択することにより、生成する非晶質二酸化ケイ素薄膜の空隙率を調整することができ、また同時に屈折率も調整できる。
【0028】
【実施例】
[実施例1]−低屈折率二酸化ケイ素非晶質薄膜の製造
窒素気流下で、テトラメトキシケイ素(12.5ミリモル)とヒドロキシアセトン(加水分解促進剤、12.5ミリモル)とを、溶媒(62.5ミリモルのイオン交換水を含むメタノール、16.15mL)に添加して、混合した。これと並行して、酢酸アンモニウム(1.25ミリモル)を、溶媒(メタノール、5mL)に添加して、混合した。次に、これらの二種類の混合溶液を合わせ、25℃で24時間混合して、混合物ゾルを得た。
【0029】
この混合物ゾルをスピンコータを用いてシリコン基板上に塗布して、均一な塗膜を形成した。次いで、この混合ゾル塗膜を300℃で2時間、加熱焼成して、膜厚が130nmの二酸化ケイ素非晶質薄膜を得た。この二酸化チタン薄膜の屈折率(500nm)は、1.16であった。また、この二酸化ケイ素薄膜は、多数の微細空隙を含んでおり、空隙率は、80%であり、その微細空隙全体の90体積%以上を占める微細空隙の直径が2nm以下であった。そして、この二酸化ケイ素薄膜の表面は高い耐傷性を示した。
【0030】
【発明の効果】
本発明の非晶質二酸化ケイ素薄膜は、低い屈折率と高い物理的強度(例、耐傷性)、そして高い耐熱性を示すため、各種用途に用いる光学製品の光学薄膜として有利に使用できる。
Claims (7)
- 透明でかつ、内部に多数の微細空隙を含む非晶質二酸化ケイ素薄膜であって、屈折率(λ=500nmの光の屈折率)が1.01乃至1.40の範囲にあり、微細空隙全体の80体積%以上を占める微細空隙の直径が5nm以下である非晶質二酸化ケイ素薄膜。
- 空隙率が50%以上である請求項1に記載の非晶質二酸化ケイ素薄膜。
- 微細空隙全体の80体積%以上を占める微細空隙の直径が2nm以下である請求項1もしくは2に記載の非晶質二酸化ケイ素薄膜。
- 微細空隙全体の90体積%以上を占める微細空隙の直径が2nm以下である請求項1もしくは2に記載の非晶質二酸化ケイ素薄膜。
- ゾル−ゲル法で形成された薄膜の焼成物である請求項1乃至4のうちのいずれかの項に記載の非晶質二酸化ケイ素薄膜。
- シリコンアルコキシドをアルコール溶媒中で、ヒドロキシアルデヒド誘導体、ヒドロキシカルボン誘導体、アリルアルコール誘導体およびヒドロキシニトリル誘導体からなる群から選ばれる少なくとも一つの化合物と水との存在下にて加水分解させ、縮合重合させてゾルを得る工程、該ゾルの薄膜を形成する工程、そして該ゾル薄膜を加熱焼成する工程からなる請求項1乃至4のうちのいずれかの項に記載の非晶質二酸化ケイ素薄膜の製造方法。
- シリコンアルコキシドの加水分解と縮合重合とに際してさらに、弱酸と弱塩基との塩、ヒドラジン誘導体の塩、ヒドロキシルアミン誘導体の塩及びアミジン誘導体の塩からなる群から選ばれる少なくとも一つの塩触媒を存在させることを特徴とする請求項6に記載の製造方法。
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