JP2004266196A - 酸化物磁性材料系永久磁石の製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】少量添加で十分な成型性が得られる新規な成型助剤を用い、配向性および焼結体密度を向上させて磁気特性に優れた酸化物磁性材料系永久磁石を得る。
【解決手段】酸化物磁性材料を含む原料粉末に、バインダおよび成型助剤を加えて混合するバインダ添加工程と、原料粉末とバインダと成型助剤を含む成型用混合物中の水分を調整する水分調整工程と、水分調整された前記成型用混合物を、金型に入れて印加磁界中でプレスして酸化物磁性材料粉末の容易磁化方向を揃える磁場中乾式成型工程と、成型された成型体を焼成する焼成工程とを、含む酸化物磁性材料系永久磁石の製造方法であって、前記バインダ添加工程において使用するバインダは、脂肪酸エステル系ワックスであり、前記バインダ添加工程において使用する成型助剤はステアリン酸塩であり、前記バインダである脂肪酸エステル系ワックスとの関係で90℃以下の温度で溶解する特性(90℃溶解特性)を有してなるように構成される。
【選択図】 なし
【解決手段】酸化物磁性材料を含む原料粉末に、バインダおよび成型助剤を加えて混合するバインダ添加工程と、原料粉末とバインダと成型助剤を含む成型用混合物中の水分を調整する水分調整工程と、水分調整された前記成型用混合物を、金型に入れて印加磁界中でプレスして酸化物磁性材料粉末の容易磁化方向を揃える磁場中乾式成型工程と、成型された成型体を焼成する焼成工程とを、含む酸化物磁性材料系永久磁石の製造方法であって、前記バインダ添加工程において使用するバインダは、脂肪酸エステル系ワックスであり、前記バインダ添加工程において使用する成型助剤はステアリン酸塩であり、前記バインダである脂肪酸エステル系ワックスとの関係で90℃以下の温度で溶解する特性(90℃溶解特性)を有してなるように構成される。
【選択図】 なし
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、酸化物磁性材料系永久磁石の製造方法に関し、特に、いわゆる乾式成型法を用いて成型された酸化物磁性材料系永久磁石の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
【特許文献1】特公昭47−21197号公報
【特許文献2】特公昭62−176102号公報
【0003】
SrフェライトやBaフェライト等のマグネトプランバイトの異方性酸化物永久磁石は、磁場中で成型された後、焼結して製造される。磁場中における成型は、その方法により、乾式成型法と湿式成型法とに大別される。湿式成型法では、永久磁石材料粒子が回転しやすいために磁性材料の配向性が良好となり、良好な磁性特性が得られる。しかしながら、加圧成型中に分散媒を成型空間の外(金型のキャビティの外)に排出する必要があるために、生産性は悪くなってしまう。さらに金型構造が大掛かりになり、設備コストも高くなってしまう。
【0004】
この一方で、乾式成型法は、乾燥状態の永久磁石材料を成型空間(キャビティ)内に充填し、磁場中で成型する方法である。従って、湿式成型法に比べて磁性材料の配向性は良くないが、生産性は高く、装置コストが安価であるという極めて優れたメリットを備えている。
【0005】
乾式成型法において、金型に充填される永久磁石材料の中にはバインダが含有されている。バインダに要求される理想特性としては、材料粒子の接着作用に優れ、かつ材料粒子が磁気的に磁化容易軸方向に整列することを阻害しないこと等が挙げられる。配向性が悪くなる理由として、(1)材料粒子の磁気的阻害、すなわち、材料粒子とバインダとの接着作用があまりにも強いために、粒子が磁気的に磁化容易軸方向に整列することが阻害される、(2)成型時の摩擦、すなわち粒子同士の接触摩擦によるもの、また、粒子と金型との間にも摩擦が働くために加圧による圧力伝達が不十分となり成型性も低くなる、等が挙げられる。このような配向性の悪化を改善するために、乾式成型法においては、低摩擦で磁気的阻害をしないバインダを選定して永久磁石材料の中に添加する試みがなされている。
【0006】
すなわち、乾式成型法による成型に際し、磁石材料に含有されるバインダとしては、パラフィンワックス、ステアリン酸、樟脳などが用いられている。
【0007】
しかしながら、パラフィンワックスおよびステアリン酸は、接着作用に優れているものの、あまりに接着作用が強いために、材料粒子が磁気的に磁化容易軸方向に整列することを阻害してしまう傾向がある。また、樟脳は、磁場印加における成型中の接着剤として有効であるが、昇華するためにフェライト粉末との混合比率が時間の経過とともに変化してしまう。そのため、成型作業に支障をきたしたり、あるいは成型体の強度低下をもたらすという欠点を有している。
【0008】
このような問題点を解決するために、乾式磁場成型用フェライト磁石粉末のバインダとして、ステアリン酸の金属塩(金属Mとして、M=Ca,Ba,Sr,Pb)を用いるもの(特公昭47−21197号公報)、ステアリン酸マグネシウムを用いるもの(特公昭62−176102号公報)等の提案がなされている。
【0009】
しかしながら、このようなステアリン酸の金属塩のバインダは、粒子個々の表面に均一に被着させることが難しいために、バインダの添加量を多くせざるを得ない。そのため、焼結後の磁石中の炭素量が多くなり、磁気特性の低下を招いたり、保型力が弱く焼成後の焼成体中にクラック発生の原因となってしまう。
【0010】
また、バインダの混合方法として、粒子の表面に、加熱あるいは減圧により気相状のバインダをコーティングする方法が挙げられている。しかしながら、この方法では、設備が大掛かりとなるとともに、作業工数も多くなり、低コスト化が図れないという問題がある。
【0011】
さらに、成型性の向上、流動性の向上、型抜き時の摩擦の低減等のために、通常バインダ中に成型助剤の添加が行なわれる。
【0012】
このような成型助剤は、焼結時に炭化物を生成させる源となり、焼結密度を低下させ、磁気特性(Br)を劣化させる原因となるものであるから、その添加量は極力抑えるようにすることが望まれている。
【0013】
しかしながら、成型物と金型との抜き圧を低減させ、良好な成型性を確保するためには、成型助剤の添加量はある程度多くせざるを得ないのが現状である。
【0014】
【発明が解決しようとする課題】
このような実状のもとに本発明は創案されたものであり、その目的は、乾式成型を利用して酸化物磁性材料系永久磁石を製造するに際し、少量添加で十分な成型性が得られ低コスト化に繋がる新規な成型助剤を用い、配向性および焼結体密度を向上させて磁気特性に優れた酸化物磁性材料系永久磁石を得ることにある。
【0015】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するために、本発明は、酸化物磁性材料を含む原料粉末に、バインダおよび成型助剤を加えて混合するバインダ添加工程と、原料粉末とバインダと成型助剤を含む成型用混合物中の水分を調整する水分調整工程と、水分調整された前記成型用混合物を、金型に入れて印加磁界中でプレスして酸化物磁性材料粉末の容易磁化方向を揃える磁場中乾式成型工程と、成型された成型体を焼成する焼成工程とを、含む酸化物磁性材料系永久磁石の製造方法であって、前記バインダ添加工程において使用するバインダは、脂肪酸エステル系ワックスであり、前記バインダ添加工程において使用する成型助剤はステアリン酸塩であり、前記バインダである脂肪酸エステル系ワックスとの関係で90℃以下の温度で溶解する特性(90℃溶解特性)を有してなるように構成される。
【0016】
また、本発明の好ましい態様として、前記ステアリン酸塩は、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸マグネシウムおよびステアリン酸アルミニウムの中から選ばれた少なくとも一つである。
【0017】
また、本発明の好ましい態様として、前記ステアリン酸塩の添加量は、0.1〜0.45wt%の範囲となるように構成される。
【0018】
また、本発明の好ましい態様として、前記脂肪酸エステル系ワックスは、植物ロウとして構成される。
【0019】
また、本発明の好ましい態様として、成型用混合物中のバインダ含有量が0.2〜1.5wt%となるように構成される。
【0020】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の酸化物磁性材料系永久磁石の製造方法について詳細に説明する。
本発明の酸化物磁性材料系永久磁石の製造方法は、主工程として、酸化物磁性材料を含む原料粉末に、バインダを加えて混合するバインダ添加工程と、上記原料粉末とバインダを含む成型用混合物に水分を加えて、混合物の水分を調整する水分調整工程と、水分調整された上記成型用混合物を、金型に入れて印加磁界中でプレスして酸化物磁性材料粉末の容易磁化方向を揃える磁場中乾式成型工程と、成型された成型体を焼成する焼成工程とを、含んで構成される。
【0021】
前記バインダ添加工程前に準備される酸化物磁性材料の原料粉末は、通常、以下の要領で作製される。
【0022】
原料粉末の作製
例えば、バリウムフェライトでは、一般に酸化鉄(Fe2O3)と炭酸バリウム(BaCO3)の粉末を主原料とし、また、ストロンチウムフェライトでは、一般に酸化鉄(Fe2O3)と炭酸ストロンチウム(SrCO3)の粉末を主原料とし、それらを所定成分となるように秤量し、さらに所定の添加剤を加えて配合し、ボールミル等で混合する。
【0023】
添加剤としては、例えば、Bi,As,B,Si,Ge,Na,Al,Cr,Ti,W,Moなどの酸化物、塩化物等が用いられる。このような添加物は、焼結を促進させたり、結晶粒の過大な成長を防止するために用いられる。このような混合物は、1000℃前後の温度で仮焼きされる。この仮焼きにより、炭酸ガス分は、分解、発散し、酸化バリウムと酸化鉄、あるいは酸化ストロンチウムと酸化鉄との化合が進行する。
【0024】
このようにして仮焼きされた材料は、ボールミルなどで、十分に粉砕される。粉砕後、必要に応じて添加物をさらに添加してもよい。
【0025】
バインダ添加工程
上記の要領で準備された酸化物磁性材料を含む原料粉末に、バインダを加えて混合する。添加するバインダとしては、脂肪酸エステル系ワックス、特に分子量300〜800の脂肪酸エステル系ワックスをエマルジョン化して用いるのがよい。本発明においては、バインダとしてこのような脂肪酸エステル系ワックスが用いられるとともに、さらに後述する所定物性のステアリン酸からなる塩成型助剤が添加される。
【0026】
脂肪酸エステル系ワックスの中でも、特に、植物ロウ(カルナバロウ、キャンデリラ、木ロウ、オリキュリー等)がよい。
【0027】
バインダ添加量は、0.2〜1.5wt%、特に、0.25〜1.2wt%、さらには、0.3〜0.9wt%が好ましい。添加量が少なすぎると、バインダとしての効果は発現せず、保型力が弱くなってしまう。また、添加量が多すぎると焼結時の有機物の炭化により焼結体の密度低下が生じ、Br等の磁気特性が劣化してしまう。
【0028】
さらに、このバインダ添加工程においては、本願所定の成型助剤が添加される。すなわち、本発明のバインダ添加工程において、成型助剤としてステアリン酸塩が用いられ、しかもこのステアリン酸塩は、前記バインダである脂肪酸エステル系ワックスとの関係で90℃以下の温度で溶解する特性(以下、単に、「90℃溶解特性」と称す)を有することが必須の要件とされる。
【0029】
この90℃溶解特性は、その特性の有無が検証可能なように、以下の測定要領で定義される。すなわち、エマルジョン化された脂肪酸エステル系ワックスであるベースエマルジョン溶液(商品名:セロゾール524(中京油脂株社製))10mlを加熱して90℃の溶液とし、この溶液中にステアリン酸塩1.5gを投入した後(溶液温度は90℃に保持しておく)、通常の手動攪拌を行い90℃で溶解するか否かで判定する。90℃で溶解すれば90℃溶解特性を有するステアリン酸塩と判定される。溶解状態になっているか否かの判断は目視にて十分判断可能である。溶解すればほぼ均一の溶液となり、未溶解であればフロック状にステアリン酸塩の粉末が残ってしまう。溶液の粘度測定によっても溶解状態の判定は可能である。溶解すれば、粘度は格段と低下する(例えば、Shear Rate 8/secで1〜20程度)。
【0030】
ステアリン塩酸としては、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸アルミニウムなどが好適例として例示できるが、これらはいずれも、上記の90℃溶解特性を満たしていることが必要である。
【0031】
ステアリン酸塩の製法には、一般に、(1)湿式複分解法と呼ばれる製法と、(2)乾式直接法と呼ばれる製法がある。90℃溶解特性を備えるためには、製法上さまざまなノウハウが存在するが、前者(1)の製法の方が90℃溶解特性を備えるものを得るには適した製法であると言える。
【0032】
なお、従来より本願の技術分野で使用されているステアリン酸塩の一般的なグレードは、120℃近傍に融点を有するものであり(本願でいう90℃溶解特性を備えていない)、これらのものはバインダ溶液を120℃程度に上昇させれば、ほとんど溶解する特性を備えている。
【0033】
本願発明における90℃溶解特性を有するステアリン塩酸は、その添加量が従来提案されたことがない程度に少量の添加で十分な効果を発揮する。すなわち、本発明において、90℃溶解特性を有するステアリン塩酸は、0.1〜0.45wt%、好ましくは0.1〜0.4wt%、より好ましくは0.15〜0.30とされる。添加量が少なくなり過ぎると、成型性の向上、流動性の向上、摩擦の低減等の効果が現れず、逆に多すぎると、焼結時の有機物質の炭化により焼結体の密度が低下し、磁気特性Brが劣化してしまうという不都合が生じる。
【0034】
バインダ添加工程において、磁性粉末を含む原料粉末とバインダを混合する際、液体状あるいは固体状で混合する方法がとられる。液体状のバインダを用いた場合には、凝集が生じやすく磁性粉末の配向度が低下する傾向にある。また、固体状のバインダを用いた場合には、均一に混合しがたいという問題点が見られる。混合の際には、ヘンシェルミキサー、ブレンダー等の混合機を用いてバインダを十分に攪拌する。
【0035】
このバインダ添加工程における、上記所定物性を備える成型助剤の添加の仕方および手順は、以下のようにすることが望ましい。すなわち、バインダと磁性粉末を混合した後に成型助剤を添加することが望ましい。バインダと磁性粉末の混合粉のまわりに成型助剤が存在することにより成型助剤の役割である摩擦の低減、流動性の向上、成型性の向上の効果が大きいからである。また、バインダ添加前、あるいはバインダと同時に添加を行なっても同様の効果は得られる。
【0036】
水分調整工程
この水分調整工程では、上記原料粉末とバインダと成型助剤を含む成型用混合物に水分を加えたり、あるいは減じたりして混合物の水分が調整される。
【0037】
混合後の成型用混合物の水分量は、成型性、磁気特性に大きな影響を及ぼす。水分量は、0.20〜0.80wt%、特に0.25〜0.35wt%が好ましい。水分量が0.20wt%未満となると、次工程の成型の際、所望の形態を保つことが困難となる。水分量が0.80wt%を超えると、磁性粉末の凝集が起こり、磁性粉末粒子が磁気的に容易軸方向に整列することが阻害されて、磁気特性(Br)が低下してしまう。また、焼結密度の低下や、クラック、ピンホールが発生する傾向が生じてしまう。
【0038】
水分調整は、温度と湿度を管理することで、任意の水分量にすることができる。室温放置することによる水分調整、または、恒温恒湿槽やネブライザー等の細かい水蒸気(数ミクロンから数十ミクロン程度)によって、水分の添加を行うことが望ましい。例えば、霧吹き等で水粒子が大きくなるようなものを使用すると、凝集が発生しやすくなり、成型時における配向性を乱してしまう傾向が生じる。
【0039】
このような水分調整工程の後には、成型用混合物中の凝集物を粉砕するための解砕工程を設けることが望ましい。解砕工程を設けることにより、例えば、乾燥によってできた凝集物を取り除くことができる(粉砕して微細粒子とする)。凝集物が存在すると、後述する磁場中乾式成型工程において磁界を加えた際、配向が困難であり、磁気特性の低下の原因となる。なお、この解砕工程を上記水分調整工程の後に付加する場合には、解砕工程が完了した時点での混合物中の水分量を、0.20〜0.80wt%としておくことが望ましい。その理由は、上記の水分調整工程で述べた理由と同じである。
【0040】
磁場中乾式成型工程
水分調整された上記成型用混合物は、金型に入れられ、印加磁界中でプレスされる。これにより、原料粉末(磁性粉末粒子)の容易磁化方向を揃え、磁気特性を向上させることができる。
【0041】
本発明において、磁場中乾式成型工程の金型に投入される成型用混合物(投入原料)は、当該成型用混合物中に存在する500μm以上の凝集物の存在割合が0.01〜0.80wt%、好ましくは0.01〜0.78wt%とされることが望ましい。この値が、0.80wt%を超えると、磁場中乾式成型工程において磁界を加えた際、配向が困難となり、磁気特性の低下の原因となってしまう傾向がある。下限値は零でも良いが、現行技術的レベルでは、0.01wt%が適切であると思われる。
【0042】
500μm以上の凝集物の存在割合は、例えば、以下の要領で求めればよい。すなわち、成型用混合物を自動ふるい機にかけて、3分間振動を与えた後、500μm以上の凝集物の割合を測定し、その測定値から、500μm以上の凝集物の存在割合を算出すればよい。
【0043】
磁場中乾式成型工程における、配向磁場は、3〜12kOe(239〜955kA/m)程度、成型圧力は、0.1〜5ton/cm2程度とされる。
このように形成された成型物は通常、次工程の焼成工程により焼成される。
【0044】
焼成工程
上記磁場中乾式成型工程において形成された成型物は、この工程により焼成される。焼成温度は、1200〜1260℃の範囲が好ましい。焼成温度が1200℃未満となると、十分な焼結密度を得ることが困難になる。この一方で、焼成温度が1260℃を超えると、異常粒成長を起こしやすくiHc値が低下する傾向になる。焼成のための安定時間は、0.5〜4.0時間程度とされる。焼成雰囲気は、大気中としてよいが、酸素分圧を制御しながら焼成することにより、さらに高密度で磁気特性の高い磁石が得られる。
【0045】
【実施例】
以下、具体的実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明する。
【0046】
100重量部のSrフェライト仮焼き粉と、0.5重量部のSiO2と、1重量部のCaCO3とを、仮焼き粉の比表面積が、7.0m2/gとなるように水を用いて湿式微粉砕した。次いで、スラリーを乾燥させ、実験用の原料粉末とした。
【0047】
このようにして得られた原料粉末に、下記表1に示されるようなバインダを添加した後、ヘンシェルミキサーを用い90℃で20分、混合を行った。混合後、表1に示されるような成型助剤を添加し、さらに3分、混合を行なった。
【0048】
成型助剤に関する詳細は以下の通り。
・試料1…基本成分は、ステアリン酸カルシウムであり、90℃溶解特性を備えている(表中○で表示)。90℃のベースエマルジョン溶液に、約3分で溶解した。
【0049】
・試料2…基本成分は、ステアリン酸カルシウムであり、90℃溶解特性を備えている(表中○で表示)。90℃のベースエマルジョン溶液に、約3分で溶解した。
【0050】
・試料3…基本成分は、ステアリン酸カルシウムであり、90℃溶解特性を備えている(表中○で表示)。90℃のベースエマルジョン溶液に、約4分で溶解した。
【0051】
・試料4…基本成分は、ステアリン酸亜鉛であり、90℃溶解特性を備えている(表中○で表示)。90℃のベースエマルジョン溶液に、約5分で溶解した。
【0052】
・試料5…基本成分は、ステアリン酸マグネシウムであり、90℃溶解特性を備えている(表中○で表示)。90℃のベースエマルジョン溶液に、約3分で溶解した。
【0053】
・試料6…基本成分は、ステアリン酸アルミニウムであり、90℃溶解特性を備えている(表中○で表示)。90℃のベースエマルジョン溶液に、約6分で溶解した。
【0054】
・比較試料1…基本成分は、ステアリン酸カルシウムであり、90℃溶解特性を備えていない(表中×で表示)。90℃のベースエマルジョン溶液に、溶解せず、フロック状の粉末が残り、溶液の粘度も次第に増大する。約120℃までベースエマルジョン溶液の温度を上げることによって、ようやく溶解する。
【0055】
・比較試料2…基本成分は、ステアリン酸カルシウムであり、90℃溶解特性を備えていない(表中×で表示)。90℃のベースエマルジョン溶液に、溶解せず、フロック状の粉末が残り、溶液の粘度も次第に増大する。約110℃までベースエマルジョン溶液の温度を上げることによって、ようやく溶解する。
【0056】
次に、上記手順で配合した混合粉末の水分量を恒温恒湿槽を用いて水分量が0.30wt%となるように調整した。
その後、この混合粉末をアトマイザーを使って解砕し、永久磁石材料とした。
【0057】
次いで、この永久磁石材料を約7.5kOeの磁場中で乾式成型した。成型圧力は、1ton/cm2とした。得られた成型体を大気中、1240℃で1時間焼成し、直径約26mm、高さ10mmの磁石サンプルを得た。
【0058】
このようにして得られた磁石サンプルについて、B−Hトレーサ(東英工業(株):直流磁化特性測定装置TRF−5BH)を用いて、Br,iHcの磁気特性の評価を行った。
【0059】
また、成型体の密度(dp)および焼結体の密度(df)を下記の要領で測定した。
成型体の密度(d p )
成型体の実際の寸法より、体積Vを求めるとともに重さWを実測し、重さを体積で割ることにより算出した。dp=W/V
【0060】
焼結体(d f )の密度
焼結体の密度(df)は、アルキメデス法を利用して得られた数値に基いて算出した。
【0061】
さらに、成型物を金型から抜き出す際の抜き圧、および成型物を金型から抜き出す際に生じることのあるクラック発生率を下記の基準に基いて評価した。一般に、抜き圧が高くなれば、クラック発生率は高くなる傾向にある。
【0062】
抜き圧(Kg/cm 2 )
抜き圧試験用の金型(φ15.4mm×5mm)を用いて成型を行い(成型圧力は、1ton/cm2)、しかる後、成型物を金型から抜き出す際の抜き圧を強度試験機(インストロン MODEL−4550)を用いて測定した。抜き出しスピードは、100mm/minとした。
【0063】
クラック発生率
成型物を金型から抜き出す際に生じ得るクラックが発生しているか否かを目視にて確認した。クラック発生は、通常、成型物の底部分で確認され、底部周縁から内部にかけて傘状のクラックが生じる。成型物の底部分は、最後に金型から抜け出る部分であり、抜け出る際、瞬時に応力が緩和され急激な体積膨張するためにクラックが最も発生しやすい箇所である。
測定サンプル数は50個とした。
【0064】
結果を下記表1に示した。
なお、表1における本発明の各測定項目のクリアすべき基準は、抜き圧が0.120(Kg/cm2)以下であり、クラック発生率が0/50であり、成型体の密度(dp)が2.880(Mg/m3)以上であり、焼結体(df)の密度が4.910(Mg/m3)以上であり、焼結体強度が16.0(Kgf/mm2)以上であり、Brが3800(G)以上であり、iHcが3000(Oe)以上である。
【0065】
【表1】
【0066】
【発明の効果】
上記の結果より本発明の効果は明らかである。すなわち、本発明は、酸化物磁性材料を含む原料粉末に、バインダおよび成型助剤を加えて混合するバインダ添加工程と、原料粉末とバインダと成型助剤を含む成型用混合物中の水分を調整する水分調整工程と、水分調整された前記成型用混合物を、金型に入れて印加磁界中でプレスして酸化物磁性材料粉末の容易磁化方向を揃える磁場中乾式成型工程と、成型された成型体を焼成する焼成工程とを、含む酸化物磁性材料系永久磁石の製造方法であって、前記バインダ添加工程において使用するバインダは、脂肪酸エステル系ワックスであり、前記バインダ添加工程において使用する成型助剤はステアリン酸塩であり、前記バインダである脂肪酸エステル系ワックスとの関係で90℃以下の温度で溶解する特性(90℃溶解特性)を有してなるように構成されているので、低コストを図りつつ、配向性および焼結体密度を向上させて磁気特性に優れた酸化物磁性材料系永久磁石を得ることができる。
【発明の属する技術分野】
本発明は、酸化物磁性材料系永久磁石の製造方法に関し、特に、いわゆる乾式成型法を用いて成型された酸化物磁性材料系永久磁石の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
【特許文献1】特公昭47−21197号公報
【特許文献2】特公昭62−176102号公報
【0003】
SrフェライトやBaフェライト等のマグネトプランバイトの異方性酸化物永久磁石は、磁場中で成型された後、焼結して製造される。磁場中における成型は、その方法により、乾式成型法と湿式成型法とに大別される。湿式成型法では、永久磁石材料粒子が回転しやすいために磁性材料の配向性が良好となり、良好な磁性特性が得られる。しかしながら、加圧成型中に分散媒を成型空間の外(金型のキャビティの外)に排出する必要があるために、生産性は悪くなってしまう。さらに金型構造が大掛かりになり、設備コストも高くなってしまう。
【0004】
この一方で、乾式成型法は、乾燥状態の永久磁石材料を成型空間(キャビティ)内に充填し、磁場中で成型する方法である。従って、湿式成型法に比べて磁性材料の配向性は良くないが、生産性は高く、装置コストが安価であるという極めて優れたメリットを備えている。
【0005】
乾式成型法において、金型に充填される永久磁石材料の中にはバインダが含有されている。バインダに要求される理想特性としては、材料粒子の接着作用に優れ、かつ材料粒子が磁気的に磁化容易軸方向に整列することを阻害しないこと等が挙げられる。配向性が悪くなる理由として、(1)材料粒子の磁気的阻害、すなわち、材料粒子とバインダとの接着作用があまりにも強いために、粒子が磁気的に磁化容易軸方向に整列することが阻害される、(2)成型時の摩擦、すなわち粒子同士の接触摩擦によるもの、また、粒子と金型との間にも摩擦が働くために加圧による圧力伝達が不十分となり成型性も低くなる、等が挙げられる。このような配向性の悪化を改善するために、乾式成型法においては、低摩擦で磁気的阻害をしないバインダを選定して永久磁石材料の中に添加する試みがなされている。
【0006】
すなわち、乾式成型法による成型に際し、磁石材料に含有されるバインダとしては、パラフィンワックス、ステアリン酸、樟脳などが用いられている。
【0007】
しかしながら、パラフィンワックスおよびステアリン酸は、接着作用に優れているものの、あまりに接着作用が強いために、材料粒子が磁気的に磁化容易軸方向に整列することを阻害してしまう傾向がある。また、樟脳は、磁場印加における成型中の接着剤として有効であるが、昇華するためにフェライト粉末との混合比率が時間の経過とともに変化してしまう。そのため、成型作業に支障をきたしたり、あるいは成型体の強度低下をもたらすという欠点を有している。
【0008】
このような問題点を解決するために、乾式磁場成型用フェライト磁石粉末のバインダとして、ステアリン酸の金属塩(金属Mとして、M=Ca,Ba,Sr,Pb)を用いるもの(特公昭47−21197号公報)、ステアリン酸マグネシウムを用いるもの(特公昭62−176102号公報)等の提案がなされている。
【0009】
しかしながら、このようなステアリン酸の金属塩のバインダは、粒子個々の表面に均一に被着させることが難しいために、バインダの添加量を多くせざるを得ない。そのため、焼結後の磁石中の炭素量が多くなり、磁気特性の低下を招いたり、保型力が弱く焼成後の焼成体中にクラック発生の原因となってしまう。
【0010】
また、バインダの混合方法として、粒子の表面に、加熱あるいは減圧により気相状のバインダをコーティングする方法が挙げられている。しかしながら、この方法では、設備が大掛かりとなるとともに、作業工数も多くなり、低コスト化が図れないという問題がある。
【0011】
さらに、成型性の向上、流動性の向上、型抜き時の摩擦の低減等のために、通常バインダ中に成型助剤の添加が行なわれる。
【0012】
このような成型助剤は、焼結時に炭化物を生成させる源となり、焼結密度を低下させ、磁気特性(Br)を劣化させる原因となるものであるから、その添加量は極力抑えるようにすることが望まれている。
【0013】
しかしながら、成型物と金型との抜き圧を低減させ、良好な成型性を確保するためには、成型助剤の添加量はある程度多くせざるを得ないのが現状である。
【0014】
【発明が解決しようとする課題】
このような実状のもとに本発明は創案されたものであり、その目的は、乾式成型を利用して酸化物磁性材料系永久磁石を製造するに際し、少量添加で十分な成型性が得られ低コスト化に繋がる新規な成型助剤を用い、配向性および焼結体密度を向上させて磁気特性に優れた酸化物磁性材料系永久磁石を得ることにある。
【0015】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するために、本発明は、酸化物磁性材料を含む原料粉末に、バインダおよび成型助剤を加えて混合するバインダ添加工程と、原料粉末とバインダと成型助剤を含む成型用混合物中の水分を調整する水分調整工程と、水分調整された前記成型用混合物を、金型に入れて印加磁界中でプレスして酸化物磁性材料粉末の容易磁化方向を揃える磁場中乾式成型工程と、成型された成型体を焼成する焼成工程とを、含む酸化物磁性材料系永久磁石の製造方法であって、前記バインダ添加工程において使用するバインダは、脂肪酸エステル系ワックスであり、前記バインダ添加工程において使用する成型助剤はステアリン酸塩であり、前記バインダである脂肪酸エステル系ワックスとの関係で90℃以下の温度で溶解する特性(90℃溶解特性)を有してなるように構成される。
【0016】
また、本発明の好ましい態様として、前記ステアリン酸塩は、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸マグネシウムおよびステアリン酸アルミニウムの中から選ばれた少なくとも一つである。
【0017】
また、本発明の好ましい態様として、前記ステアリン酸塩の添加量は、0.1〜0.45wt%の範囲となるように構成される。
【0018】
また、本発明の好ましい態様として、前記脂肪酸エステル系ワックスは、植物ロウとして構成される。
【0019】
また、本発明の好ましい態様として、成型用混合物中のバインダ含有量が0.2〜1.5wt%となるように構成される。
【0020】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の酸化物磁性材料系永久磁石の製造方法について詳細に説明する。
本発明の酸化物磁性材料系永久磁石の製造方法は、主工程として、酸化物磁性材料を含む原料粉末に、バインダを加えて混合するバインダ添加工程と、上記原料粉末とバインダを含む成型用混合物に水分を加えて、混合物の水分を調整する水分調整工程と、水分調整された上記成型用混合物を、金型に入れて印加磁界中でプレスして酸化物磁性材料粉末の容易磁化方向を揃える磁場中乾式成型工程と、成型された成型体を焼成する焼成工程とを、含んで構成される。
【0021】
前記バインダ添加工程前に準備される酸化物磁性材料の原料粉末は、通常、以下の要領で作製される。
【0022】
原料粉末の作製
例えば、バリウムフェライトでは、一般に酸化鉄(Fe2O3)と炭酸バリウム(BaCO3)の粉末を主原料とし、また、ストロンチウムフェライトでは、一般に酸化鉄(Fe2O3)と炭酸ストロンチウム(SrCO3)の粉末を主原料とし、それらを所定成分となるように秤量し、さらに所定の添加剤を加えて配合し、ボールミル等で混合する。
【0023】
添加剤としては、例えば、Bi,As,B,Si,Ge,Na,Al,Cr,Ti,W,Moなどの酸化物、塩化物等が用いられる。このような添加物は、焼結を促進させたり、結晶粒の過大な成長を防止するために用いられる。このような混合物は、1000℃前後の温度で仮焼きされる。この仮焼きにより、炭酸ガス分は、分解、発散し、酸化バリウムと酸化鉄、あるいは酸化ストロンチウムと酸化鉄との化合が進行する。
【0024】
このようにして仮焼きされた材料は、ボールミルなどで、十分に粉砕される。粉砕後、必要に応じて添加物をさらに添加してもよい。
【0025】
バインダ添加工程
上記の要領で準備された酸化物磁性材料を含む原料粉末に、バインダを加えて混合する。添加するバインダとしては、脂肪酸エステル系ワックス、特に分子量300〜800の脂肪酸エステル系ワックスをエマルジョン化して用いるのがよい。本発明においては、バインダとしてこのような脂肪酸エステル系ワックスが用いられるとともに、さらに後述する所定物性のステアリン酸からなる塩成型助剤が添加される。
【0026】
脂肪酸エステル系ワックスの中でも、特に、植物ロウ(カルナバロウ、キャンデリラ、木ロウ、オリキュリー等)がよい。
【0027】
バインダ添加量は、0.2〜1.5wt%、特に、0.25〜1.2wt%、さらには、0.3〜0.9wt%が好ましい。添加量が少なすぎると、バインダとしての効果は発現せず、保型力が弱くなってしまう。また、添加量が多すぎると焼結時の有機物の炭化により焼結体の密度低下が生じ、Br等の磁気特性が劣化してしまう。
【0028】
さらに、このバインダ添加工程においては、本願所定の成型助剤が添加される。すなわち、本発明のバインダ添加工程において、成型助剤としてステアリン酸塩が用いられ、しかもこのステアリン酸塩は、前記バインダである脂肪酸エステル系ワックスとの関係で90℃以下の温度で溶解する特性(以下、単に、「90℃溶解特性」と称す)を有することが必須の要件とされる。
【0029】
この90℃溶解特性は、その特性の有無が検証可能なように、以下の測定要領で定義される。すなわち、エマルジョン化された脂肪酸エステル系ワックスであるベースエマルジョン溶液(商品名:セロゾール524(中京油脂株社製))10mlを加熱して90℃の溶液とし、この溶液中にステアリン酸塩1.5gを投入した後(溶液温度は90℃に保持しておく)、通常の手動攪拌を行い90℃で溶解するか否かで判定する。90℃で溶解すれば90℃溶解特性を有するステアリン酸塩と判定される。溶解状態になっているか否かの判断は目視にて十分判断可能である。溶解すればほぼ均一の溶液となり、未溶解であればフロック状にステアリン酸塩の粉末が残ってしまう。溶液の粘度測定によっても溶解状態の判定は可能である。溶解すれば、粘度は格段と低下する(例えば、Shear Rate 8/secで1〜20程度)。
【0030】
ステアリン塩酸としては、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸アルミニウムなどが好適例として例示できるが、これらはいずれも、上記の90℃溶解特性を満たしていることが必要である。
【0031】
ステアリン酸塩の製法には、一般に、(1)湿式複分解法と呼ばれる製法と、(2)乾式直接法と呼ばれる製法がある。90℃溶解特性を備えるためには、製法上さまざまなノウハウが存在するが、前者(1)の製法の方が90℃溶解特性を備えるものを得るには適した製法であると言える。
【0032】
なお、従来より本願の技術分野で使用されているステアリン酸塩の一般的なグレードは、120℃近傍に融点を有するものであり(本願でいう90℃溶解特性を備えていない)、これらのものはバインダ溶液を120℃程度に上昇させれば、ほとんど溶解する特性を備えている。
【0033】
本願発明における90℃溶解特性を有するステアリン塩酸は、その添加量が従来提案されたことがない程度に少量の添加で十分な効果を発揮する。すなわち、本発明において、90℃溶解特性を有するステアリン塩酸は、0.1〜0.45wt%、好ましくは0.1〜0.4wt%、より好ましくは0.15〜0.30とされる。添加量が少なくなり過ぎると、成型性の向上、流動性の向上、摩擦の低減等の効果が現れず、逆に多すぎると、焼結時の有機物質の炭化により焼結体の密度が低下し、磁気特性Brが劣化してしまうという不都合が生じる。
【0034】
バインダ添加工程において、磁性粉末を含む原料粉末とバインダを混合する際、液体状あるいは固体状で混合する方法がとられる。液体状のバインダを用いた場合には、凝集が生じやすく磁性粉末の配向度が低下する傾向にある。また、固体状のバインダを用いた場合には、均一に混合しがたいという問題点が見られる。混合の際には、ヘンシェルミキサー、ブレンダー等の混合機を用いてバインダを十分に攪拌する。
【0035】
このバインダ添加工程における、上記所定物性を備える成型助剤の添加の仕方および手順は、以下のようにすることが望ましい。すなわち、バインダと磁性粉末を混合した後に成型助剤を添加することが望ましい。バインダと磁性粉末の混合粉のまわりに成型助剤が存在することにより成型助剤の役割である摩擦の低減、流動性の向上、成型性の向上の効果が大きいからである。また、バインダ添加前、あるいはバインダと同時に添加を行なっても同様の効果は得られる。
【0036】
水分調整工程
この水分調整工程では、上記原料粉末とバインダと成型助剤を含む成型用混合物に水分を加えたり、あるいは減じたりして混合物の水分が調整される。
【0037】
混合後の成型用混合物の水分量は、成型性、磁気特性に大きな影響を及ぼす。水分量は、0.20〜0.80wt%、特に0.25〜0.35wt%が好ましい。水分量が0.20wt%未満となると、次工程の成型の際、所望の形態を保つことが困難となる。水分量が0.80wt%を超えると、磁性粉末の凝集が起こり、磁性粉末粒子が磁気的に容易軸方向に整列することが阻害されて、磁気特性(Br)が低下してしまう。また、焼結密度の低下や、クラック、ピンホールが発生する傾向が生じてしまう。
【0038】
水分調整は、温度と湿度を管理することで、任意の水分量にすることができる。室温放置することによる水分調整、または、恒温恒湿槽やネブライザー等の細かい水蒸気(数ミクロンから数十ミクロン程度)によって、水分の添加を行うことが望ましい。例えば、霧吹き等で水粒子が大きくなるようなものを使用すると、凝集が発生しやすくなり、成型時における配向性を乱してしまう傾向が生じる。
【0039】
このような水分調整工程の後には、成型用混合物中の凝集物を粉砕するための解砕工程を設けることが望ましい。解砕工程を設けることにより、例えば、乾燥によってできた凝集物を取り除くことができる(粉砕して微細粒子とする)。凝集物が存在すると、後述する磁場中乾式成型工程において磁界を加えた際、配向が困難であり、磁気特性の低下の原因となる。なお、この解砕工程を上記水分調整工程の後に付加する場合には、解砕工程が完了した時点での混合物中の水分量を、0.20〜0.80wt%としておくことが望ましい。その理由は、上記の水分調整工程で述べた理由と同じである。
【0040】
磁場中乾式成型工程
水分調整された上記成型用混合物は、金型に入れられ、印加磁界中でプレスされる。これにより、原料粉末(磁性粉末粒子)の容易磁化方向を揃え、磁気特性を向上させることができる。
【0041】
本発明において、磁場中乾式成型工程の金型に投入される成型用混合物(投入原料)は、当該成型用混合物中に存在する500μm以上の凝集物の存在割合が0.01〜0.80wt%、好ましくは0.01〜0.78wt%とされることが望ましい。この値が、0.80wt%を超えると、磁場中乾式成型工程において磁界を加えた際、配向が困難となり、磁気特性の低下の原因となってしまう傾向がある。下限値は零でも良いが、現行技術的レベルでは、0.01wt%が適切であると思われる。
【0042】
500μm以上の凝集物の存在割合は、例えば、以下の要領で求めればよい。すなわち、成型用混合物を自動ふるい機にかけて、3分間振動を与えた後、500μm以上の凝集物の割合を測定し、その測定値から、500μm以上の凝集物の存在割合を算出すればよい。
【0043】
磁場中乾式成型工程における、配向磁場は、3〜12kOe(239〜955kA/m)程度、成型圧力は、0.1〜5ton/cm2程度とされる。
このように形成された成型物は通常、次工程の焼成工程により焼成される。
【0044】
焼成工程
上記磁場中乾式成型工程において形成された成型物は、この工程により焼成される。焼成温度は、1200〜1260℃の範囲が好ましい。焼成温度が1200℃未満となると、十分な焼結密度を得ることが困難になる。この一方で、焼成温度が1260℃を超えると、異常粒成長を起こしやすくiHc値が低下する傾向になる。焼成のための安定時間は、0.5〜4.0時間程度とされる。焼成雰囲気は、大気中としてよいが、酸素分圧を制御しながら焼成することにより、さらに高密度で磁気特性の高い磁石が得られる。
【0045】
【実施例】
以下、具体的実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明する。
【0046】
100重量部のSrフェライト仮焼き粉と、0.5重量部のSiO2と、1重量部のCaCO3とを、仮焼き粉の比表面積が、7.0m2/gとなるように水を用いて湿式微粉砕した。次いで、スラリーを乾燥させ、実験用の原料粉末とした。
【0047】
このようにして得られた原料粉末に、下記表1に示されるようなバインダを添加した後、ヘンシェルミキサーを用い90℃で20分、混合を行った。混合後、表1に示されるような成型助剤を添加し、さらに3分、混合を行なった。
【0048】
成型助剤に関する詳細は以下の通り。
・試料1…基本成分は、ステアリン酸カルシウムであり、90℃溶解特性を備えている(表中○で表示)。90℃のベースエマルジョン溶液に、約3分で溶解した。
【0049】
・試料2…基本成分は、ステアリン酸カルシウムであり、90℃溶解特性を備えている(表中○で表示)。90℃のベースエマルジョン溶液に、約3分で溶解した。
【0050】
・試料3…基本成分は、ステアリン酸カルシウムであり、90℃溶解特性を備えている(表中○で表示)。90℃のベースエマルジョン溶液に、約4分で溶解した。
【0051】
・試料4…基本成分は、ステアリン酸亜鉛であり、90℃溶解特性を備えている(表中○で表示)。90℃のベースエマルジョン溶液に、約5分で溶解した。
【0052】
・試料5…基本成分は、ステアリン酸マグネシウムであり、90℃溶解特性を備えている(表中○で表示)。90℃のベースエマルジョン溶液に、約3分で溶解した。
【0053】
・試料6…基本成分は、ステアリン酸アルミニウムであり、90℃溶解特性を備えている(表中○で表示)。90℃のベースエマルジョン溶液に、約6分で溶解した。
【0054】
・比較試料1…基本成分は、ステアリン酸カルシウムであり、90℃溶解特性を備えていない(表中×で表示)。90℃のベースエマルジョン溶液に、溶解せず、フロック状の粉末が残り、溶液の粘度も次第に増大する。約120℃までベースエマルジョン溶液の温度を上げることによって、ようやく溶解する。
【0055】
・比較試料2…基本成分は、ステアリン酸カルシウムであり、90℃溶解特性を備えていない(表中×で表示)。90℃のベースエマルジョン溶液に、溶解せず、フロック状の粉末が残り、溶液の粘度も次第に増大する。約110℃までベースエマルジョン溶液の温度を上げることによって、ようやく溶解する。
【0056】
次に、上記手順で配合した混合粉末の水分量を恒温恒湿槽を用いて水分量が0.30wt%となるように調整した。
その後、この混合粉末をアトマイザーを使って解砕し、永久磁石材料とした。
【0057】
次いで、この永久磁石材料を約7.5kOeの磁場中で乾式成型した。成型圧力は、1ton/cm2とした。得られた成型体を大気中、1240℃で1時間焼成し、直径約26mm、高さ10mmの磁石サンプルを得た。
【0058】
このようにして得られた磁石サンプルについて、B−Hトレーサ(東英工業(株):直流磁化特性測定装置TRF−5BH)を用いて、Br,iHcの磁気特性の評価を行った。
【0059】
また、成型体の密度(dp)および焼結体の密度(df)を下記の要領で測定した。
成型体の密度(d p )
成型体の実際の寸法より、体積Vを求めるとともに重さWを実測し、重さを体積で割ることにより算出した。dp=W/V
【0060】
焼結体(d f )の密度
焼結体の密度(df)は、アルキメデス法を利用して得られた数値に基いて算出した。
【0061】
さらに、成型物を金型から抜き出す際の抜き圧、および成型物を金型から抜き出す際に生じることのあるクラック発生率を下記の基準に基いて評価した。一般に、抜き圧が高くなれば、クラック発生率は高くなる傾向にある。
【0062】
抜き圧(Kg/cm 2 )
抜き圧試験用の金型(φ15.4mm×5mm)を用いて成型を行い(成型圧力は、1ton/cm2)、しかる後、成型物を金型から抜き出す際の抜き圧を強度試験機(インストロン MODEL−4550)を用いて測定した。抜き出しスピードは、100mm/minとした。
【0063】
クラック発生率
成型物を金型から抜き出す際に生じ得るクラックが発生しているか否かを目視にて確認した。クラック発生は、通常、成型物の底部分で確認され、底部周縁から内部にかけて傘状のクラックが生じる。成型物の底部分は、最後に金型から抜け出る部分であり、抜け出る際、瞬時に応力が緩和され急激な体積膨張するためにクラックが最も発生しやすい箇所である。
測定サンプル数は50個とした。
【0064】
結果を下記表1に示した。
なお、表1における本発明の各測定項目のクリアすべき基準は、抜き圧が0.120(Kg/cm2)以下であり、クラック発生率が0/50であり、成型体の密度(dp)が2.880(Mg/m3)以上であり、焼結体(df)の密度が4.910(Mg/m3)以上であり、焼結体強度が16.0(Kgf/mm2)以上であり、Brが3800(G)以上であり、iHcが3000(Oe)以上である。
【0065】
【表1】
【0066】
【発明の効果】
上記の結果より本発明の効果は明らかである。すなわち、本発明は、酸化物磁性材料を含む原料粉末に、バインダおよび成型助剤を加えて混合するバインダ添加工程と、原料粉末とバインダと成型助剤を含む成型用混合物中の水分を調整する水分調整工程と、水分調整された前記成型用混合物を、金型に入れて印加磁界中でプレスして酸化物磁性材料粉末の容易磁化方向を揃える磁場中乾式成型工程と、成型された成型体を焼成する焼成工程とを、含む酸化物磁性材料系永久磁石の製造方法であって、前記バインダ添加工程において使用するバインダは、脂肪酸エステル系ワックスであり、前記バインダ添加工程において使用する成型助剤はステアリン酸塩であり、前記バインダである脂肪酸エステル系ワックスとの関係で90℃以下の温度で溶解する特性(90℃溶解特性)を有してなるように構成されているので、低コストを図りつつ、配向性および焼結体密度を向上させて磁気特性に優れた酸化物磁性材料系永久磁石を得ることができる。
Claims (5)
- 酸化物磁性材料を含む原料粉末に、バインダおよび成型助剤を加えて混合するバインダ添加工程と、
原料粉末とバインダと成型助剤を含む成型用混合物中の水分を調整する水分調整工程と、
水分調整された前記成型用混合物を、金型に入れて印加磁界中でプレスして酸化物磁性材料粉末の容易磁化方向を揃える磁場中乾式成型工程と、
成型された成型体を焼成する焼成工程とを、含む酸化物磁性材料系永久磁石の製造方法であって、
前記バインダ添加工程において使用するバインダは、脂肪酸エステル系ワックスであり、
前記バインダ添加工程において使用する成型助剤はステアリン酸塩であり、前記バインダである脂肪酸エステル系ワックスとの関係で90℃以下の温度で溶解する特性(90℃溶解特性)を有してなることを特徴とする酸化物磁性材料系永久磁石の製造方法。 - 前記ステアリン酸塩は、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸マグネシウムおよびステアリン酸アルミニウムの中から選ばれた少なくとも一つである請求項1に記載の酸化物磁性材料系永久磁石の製造方法。
- 前記ステアリン酸塩の添加量は、0.1〜0.45wt%である請求項1に記載の酸化物磁性材料系永久磁石の製造方法。
- 前記脂肪酸エステル系ワックスは、植物ロウである請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の酸化物磁性材料系永久磁石の製造方法。
- 成型用混合物中のバインダ含有量が0.2〜1.5wt%である請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の酸化物磁性材料系永久磁石の製造方法。
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