JP2004231992A - 耐水素脆化に優れた高強度薄鋼板及びその製造方法 - Google Patents
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Abstract
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、特に高強度薄鋼板において問題となる、水素脆化、置き割れや遅れ破壊を抑制した高強度薄鋼板及びその製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、ボルト、PC鋼線やラインパイプといった用途には高強度鋼が多く使われており、980MPa以上の引張強度になると、鋼中への水素の侵入により遅れ破壊が発生することが知られている。これに対し、薄鋼板は板厚が薄いため水素が侵入しても短時間で放出されることから、いわゆる遅れ破壊に対する問題意識は低かったと言える。
【0003】
しかし、最近では自動車の軽量化や衝突安全性の向上の必要性から、980MPa以上の超高強度鋼板にプレス成形、パイプ成形、曲げ加工、端面加工、穴拡げ加工などを施して、バンパーやインパクトビーム等の補強材やシートレール等に使用に供する場合が急速に増えてきている。したがって、耐遅れ破壊性を備えた超高強度薄鋼板の開発が急務である。
【0004】
これまで、耐遅れ破壊を向上させる技術は、ほとんどがボルトや条鋼、厚板といった、製品のままでかつ耐力または降伏応力以下で使用されることの多い鋼材に対して開発されてきた。
例えば条鋼・ボルト用鋼においては、焼き戻しマルテンサイトを中心に開発が行われ、下記非特許文献1に、Cr,MoやVといった焼き戻し軟化抵抗性を示す添加元素が耐遅れ破壊性向上に有効であることが報告されている。これは、合金炭化物を析出させて、これを水素のトラップサイトに活用することで遅れ破壊形態を粒界から粒内破壊へと移行させる技術である。しかし、これらの鋼はC量0.4%以上で合金元素も多く含むことから、薄鋼板で要求される加工性や溶接性が劣悪で、さらに、合金炭化物析出には数時間以上という析出熱処理が必要なため、製造性にも問題がある。
【0005】
また、下記特許文献1では、Ti,Mgを主体とする酸化物が水素性欠陥を防ぐことに効果があるとされている。しかし、これは対象が厚鋼板であり、特に大入熱の溶接後の遅れ破壊については考慮されている。しかしながら、薄鋼板の自動車に部品における使用環境を十分考慮したものは無い。
【0006】
一方、薄鋼板の遅れ破壊に関しては、例えば下記非特許文献2に、残留オーステナイト量の加工誘起変態に起因した遅れ破壊の助長について報告されている。これは、薄鋼板の成型加工を考慮したものであるが、耐遅れ破壊性を劣化させない残留オーステナイト量の規制について述べられている。すなわち、特定の組織を持つ高強度薄鋼板に関するものであり、根本的な耐遅れ破壊向上対策とは言えない。
【0007】
【非特許文献1】
「遅れ破壊解明の新展開」(日本鉄鋼協会、1997年1月発行)、111〜120頁。
【特許文献1】
特開平11―293383号公報
【非特許文献2】
CAMP−ISIJ、Vol.5、1992年10月、日本鉄鋼協会発行、山崎ら、1839〜1842頁。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
上記のように、特に自動車用薄鋼板の使用環境を十分考慮して水素脆化型の遅れ破壊に対する対策を講じた開発事例はほとんどない。
本発明は、薄鋼板において、水素性欠陥を防止し、耐遅れ破壊性に優れた鋼板とその製造方法について提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
発明者らは、以上のような背景から、薄鋼板における使用環境を十分に考慮して、根本的に耐遅れ破壊性を向上させる方法を見出すに至った。すなわち、鋼板中のトラップサイト制御に加えて環境から侵入し得る水素量を低減することで、水素起因の耐遅れ破壊性を向上させることが可能なことを見出した。
【0010】
本発明は上記知見に基づくものであり、その要旨は以下の通りである。
(1) 質量%にて、
C :0.05%〜0.3%、 Si:0.01〜3.0%、
Mn:0.01〜4.0%、 P :0.0001〜0.020%、
S :0.0001〜0.020%、Al:0.01〜3.0%、
N :0.0001〜0.01%を含有し、更に
Ni:0.001〜5.5%、 Cu:0.001〜3.0%、
Cr:0.001〜5.0%、 Mo:0.005〜5%
のうち1種以上を含有し、下記式(1)を満たし、残部が鉄および不可避的不純物からなることを特徴とする耐水素脆化に優れた高強度薄鋼板。
0≦0.8×{2Cu+20Mo+3Ni+Cr}−{0.1−3.5×107 ×(TS)−3.1} ………(1)
ここで、TS:引張強さ(MPa)
【0011】
(2) 質量%にて、
C :0.05%〜0.3%、 Si:0.01〜3.0%、
Mn:0.01〜4.0%、 P :0.0001〜0.020%、
S :0.0001〜0.020%、Al:0.01〜3.0%、
N :0.0001〜0.01%を含有すると共に、
Ni:0.001〜5.5%、 Cu:0.001〜3.0%、
Cr:0.001〜5.0%、 Mo:0.005〜5%
のうちの1種以上を含有し、更に、
V :0.005〜1%
を含有し、下記式(2)を満たし、残部が鉄および不可避的不純物からなることを特徴とする耐水素脆化に優れた高強度薄鋼板。
0≦0.8×{2Cu+20Mo+3Ni+Cr+20V}−{0.1−V/5−3.5×107 ×(TS)−3.1}………(2)
ここで、TS:引張強さ(MPa)
【0012】
(3) 更に、質量%にて、
Se:0.0002〜0.05%、 As:0.0002〜0.05%、
Sb:0.0002〜0.05%、 Sn:0.0002〜0.05%、
Pb:0.0002〜0.05%、 Bi:0.0002〜0.05%、
の1種または2種以上を含有し,かつ,それらの合計が0.05%以下を満たすことを特徴とする前記(1)又は(2)に記載の耐水素脆化に優れた高強度薄鋼板。
【0013】
(4) 更に、質量%にて、
REM:0.0002〜0.10%、Ca:0.0002〜0.10%、
Mg :0.0002〜0.10%の1種または2種以上を含むことを特徴とする前記(1)〜(3)の何れか1項に記載の耐水素脆化に優れた高強度薄鋼板。
【0014】
(5) 更に、質量%にて、
Ti:0.002〜1%、 Nb:0.002〜1%、
Zr:0.005〜1%、 Hf:0.005〜1%、
Ta:0.005〜1%
の1種または2種以上を含有することを特徴とする前記(1)〜(4)の何れか1項に記載の耐水素脆化に優れた高強度薄鋼板。
【0015】
(6) 更に、質量%にて、
W :0.005〜5%、 Co:0.005〜2.0%
の1種または2種を含有することを特徴とする前記(1)〜(5)の何れか1項に記載の耐水素脆化に優れた高強度薄鋼板。
【0016】
(7) 更に、質量%にて、B:0.0002〜0.1%を含有することを特徴とする前記(1)〜(6)の何れか1項に記載の耐水素脆化に優れた高強度薄鋼板。
【0017】
(8) 更に、質量%にて、Y:0.0005〜0.1%を含有することを特徴とする前記(1)〜(7)の何れか1項に記載の耐水素脆化特性に優れた高強度薄鋼板。
【0018】
(9) 前記(1)〜(8)のいずれか1項に記載の組成からなる鋳片を1100℃以上に加熱し、Ar3 点以上の仕上温度で熱間圧延を施し、400〜800℃で捲取り、次いで酸洗の後、圧下率を10〜80%として冷間圧延してから、600〜950℃にて再結晶焼鈍を施し、次いで調質圧延を施すことを特徴とする耐水素脆化に優れた高強度薄鋼板の製造方法。
【0019】
【発明の実施の形態】
これまでの高強度鋼材である焼き戻しマルテンサイト鋼では、水素起因の遅れ破壊は旧オーステナイト粒界等に水素が集積することにより、ボイド等が形成して、その部分が起点となって破壊を生じると考えられている。そこで、水素のトラップサイトを均等かつ微細に分散させて、その部分に水素をトラップさせると、拡散性水素濃度が下がり、遅れ破壊の感受性が下がる。
【0020】
前出の特許文献1にあるように、MgおよびTiを複合添加した厚鋼板における酸化物の分散形態制御で、水素起因の耐遅れ破壊性が向上することが分かっている。しかし、環境から来る水素量が局部的にでも大量である場合を考えると、いくら鋼材内に水素のトラップサイトを分散させても必然的に水素起因の遅れ破壊は発生してしまう。このため、まず▲1▼鋼材内にトラップサイトを分散させて鋼材自体の許容水素量を高めておくことに加えて、▲2▼置かれた環境から侵入し得る水素量を低減することが重要である。
【0021】
本発明者らは、上述の背景を踏まえて、薄鋼板の使用環境において、耐遅れ
壊性を確保・向上させるため、種々の晶出物、析出物のトラップサイトの分散や鋼板の強度の影響に加えて、環境から入り得る水素量の低減について検討した。その結果、薄鋼板の使用環境下(例えばプレス加工後の設計応力相当付加下)で、水素起因の耐遅れ破壊性を向上・確保するための技術を見出した。
【0022】
すなわち、
▲1▼鋼板の強度と成分による析出物制御。
▲2▼鋼板の成分による耐侵入水素特性の制御。
をそれぞれ行うことで、自動車用薄鋼板の使用環境下での耐水素脆化を向上させることができる。これを満たすための条件として、前記式(1)および(2)を規定した。この式を満たすことで、高強度薄鋼板の対遅れ破壊性が確保できる。
【0023】
次に、▲2▼鋼材の成分による水素侵入特性の制御、について述べる。
水素侵入の過程は、腐食や酸洗などによって、水分子(中性またはアルカリ性環境の場合)または水素イオン(酸性環境の場合)の還元反応が鋼板表面で生じると、鋼板表面に水素原子が生成、吸着する。この吸着水素原子は、再結合して水素分子としてガス化するか、鋼板内部に侵入する。
本発明者らはこれらの過程を鋭意研究した結果、水素侵入速度を低減するには、耐食性を向上させるほかに、1)腐食反応の進行に伴う環境のpH(水素イオン濃度)低下を極力抑えて、表面の吸着水素原子濃度を低くする、2)再結合反応(水素発生反応)を加速することが有効であることを見出した。
【0024】
1)については、鋼中へのREM,Ca,Mg添加が有効であることを見出した。ここでREMは「Rare Earth Metal」の略で、Laから始まるランタノイド系元素の総称である。工業的な添加としてはミッシュメタルの形で添加する場合が多く、この場合にはLaやCeの添加量が多くなる。腐食反応でREM,Ca,Mgが溶出すると、水酸化物の平衡反応により雰囲気をアルカリ化、すなわち腐食反応によるpHの低下を抑制する。
【0025】
2)については、二つの方法が見出された。第一の方法は、水素イオンまたは水の還元反応の交換電流密度を上昇させる方法である。Cu,Ni,Cr,Moが有効であり、0.1≦2Cu+20Mo+3Ni+Cr+20Vを満足した場合、水素透過速度は著しく抑制される。第二の方法は、上記の交換電流密度を低下させるか、または水素発生過電圧を著しく上昇させる不純物元素を制限する方法である。該当する不純物元素として、Se,As,Sb,Pb,Biを制限すれば、水素透過速度の増加を抑制できる。
【0026】
自動車用薄鋼板の使用において、水素侵入は次の過程で生じる。第一に、プレス加工などの加工工程、第二に、酸洗、脱脂、水洗、塗装などの防食被覆工程、第三に使用環境での腐食である。いずれの環境でも、上記に述べた鋼材の成分による水素侵入特性の制御は有効である。自動車用鋼板の裸耐食性を向上させて水素侵入を抑制するには、高価な元素を大量に添加する必要があるが、これらの1)および2)の方法では、いずれも微量添加で顕著な効果が得られるという利点がある。
【0027】
以下に本発明を更に詳細に説明する。まず、本発明における鋼の化学成分(質量%)の限定理由について説明する。
Cは、鋼板の強度を上昇できる元素である。特にマルテンサイトやオーステナイトなどの硬質相を生成し高強度化には必須の元素であり、980MPa以上の強度を得るためには0.05%以上が必要であるが、逆に多く含有すると、脆性破壊の起点となるセメンタイトを増加させるため、水素脆性を生じ易くする。従って上限を0.3%とした。
【0028】
Siは、材質を大きく硬質化する置換型固溶体強化元素であり、0.01%以上含有することにより鋼板の強度を上昇させることに有効なうえ、セメンタイト析出を抑制する元素であるが、3.0%を超えると熱間圧延でのスケール形成が顕著になることと、キズの除去にコストがかかり経済的に不利なため、3.0%を上限とする。
【0029】
Mnは、鋼板の強度上昇に有効な元素である。しかし0.01%未満ではこの効果が得られないので、下限値を0.01%とした。逆に多いと偏析が顕著となり、加工性が劣化する場合があるため4.0%を上限値とする。
【0030】
Pは、粒界偏析による粒界破壊の助長をする元素であり、低い方が望ましいが、極低下は製造コスト上好ましくないため、下限を0.0001%ととした。また耐食性を劣化させる元素であるため、上限を0.020%とする。
【0031】
Sは、腐食環境下での水素吸収を助長する元素であり、低い方が望ましため、上限を0.020%とする。一方、極低下は製造コスト上好ましくないため、下限を0.0001%とした。
【0032】
Alは、脱酸のために0.01%以上を添加するが、添加量が増加するとアルミナ等の介在物が増加し、加工性が劣化するため3.0%を上限とする。
【0033】
Nは、加工性劣化や溶接時のブローホール発生にも寄与するため少ない方が良い。0.01%を超えると加工性が劣化してくるので、0.01%を上限とする。また極低下は経済的に不利なため、下限を0.0001%とする。
【0034】
Niは、水素侵入を抑制し遅れ破壊特性を向上させる効果や、鋼板の焼入れ性を高めることにより鋼板の強度を確保する効果がある。しかし、0.001%未満ではこれらの効果が得られないため、下限値を0.001%とした。逆に5.5%超では加工性が悪くなるため、上限値を5.5%とした。
【0035】
Cuは、水素侵入を抑制し遅れ破壊特性を向上させる効果や、強化に有効である上、自身の微細析出は遅れ破壊の向上にも寄与するため、0.001%以上の添加とした。また過剰添加は加工性の劣化を招くことから、上限を3.0%とした。
【0036】
Crは、水素侵入を抑制し遅れ破壊特性を向上させる効果や、鋼板の強度上昇に有効な元素である。しかし0.001%未満ではこれらの効果が得られないため、下限値を0.001%とした。逆に5%超含有すると加工性低下が生じるため、上限値を5%とした。
【0037】
Moは、水素侵入を抑制し遅れ破壊特性を向上させる効果や、鋼板の焼入れ性を高め連続焼鈍設備で安定してマルテンサイトを得るために有効な元素であるだけでなく、粒界を強化して水素脆性の発生を抑制する効果がある。しかし、0.005%未満ではこれらの効果が得られないため、下限値を0.005%とした。また、5%超ではこれらの効果が飽和するため、上限値を5%とした。
【0038】
Vは、水素侵入を抑制し遅れ破壊特性を向上させる効果や鋼板の強度上昇及び粒径の微細化に加えて、炭窒化物の形態制御により水素のトラップサイトととして活用可能であることからも、耐水素脆化向上のための重要な添加元素である。しかし、0.005%未満ではこの効果が得られないため、下限値を0.005%とした。逆に1%超含有すると炭窒化物の析出が顕著になり、延性低下が著しくなる。このため上限値を1%とした。
【0039】
Se,As,Sb,Sn,Pb,Biは、単独で0.05%を超えて含有または合計で0.05%を超えて含有すると、耐遅れ破壊特性を著しく阻害するため、各々の元素について上限を0.05%とし、かつ元素の合計について上限を0.05%とした。一方で、極低化はリサイクル上の制限を狭める理由から、0.0002%を下限とした。
【0040】
REM,Ca,Mgは、鋼板表面の腐食に伴う界面雰囲気の水素イオン濃度の上昇を抑制する、すなわちpHの低下を抑制するのに有効な元素である。しかし、それぞれ0.0002%未満ではこれらの効果が得られないため、下限値を0.0002%とした。逆にそれぞれ0.1%超含有すると加工性が劣化するため、上限値を0.1%とした。
【0041】
Tiは、析出物や介在物を生成するために必要な元素である。しかし、0.002%未満では析出物を活用できないため、下限値を0.002%とした。逆に1%超では粗大析出または昇出物が生成するために加工性および耐遅れ破壊性が低下する。このため上限値を1%とした。
【0042】
Nbは、鋼板の強度上昇及び細粒化に有効な元素である。しかし、0.002%未満ではこれらの効果が得られないため、下限値を0.002%とした。逆に1%超含有すると、炭窒化物の析出が多くなり加工性および耐遅れ破壊性低下が生じるため、上限値を1%とした。
【0043】
Zrは、鋼板の強度上昇及び細粒化に有効な元素である。しかし、0.005%未満ではこれらの効果が得られないため、下限値を0.005%とした。逆に1%超含有すると、炭窒化物の析出が多くなり加工性および耐遅れ破壊性低下が生じるため、上限値を1%とした。
【0044】
Hfは、鋼板の強度上昇及び細粒化に有効な元素である。しかし、0.005%未満ではこれらの効果が得られないため、下限値を0.005%とした。逆に1%超含有すると、炭窒化物の析出が多くなり加工性および耐遅れ破壊性低下が生じるため、上限値を1%とした。
【0045】
Taは、鋼板の強度上昇及び細粒化に有効な元素である。しかし、0.005%未満ではこれらの効果が得られないため、下限値を0.005%とした。逆に1%超含有すると、炭窒化物の析出が多くなり加工性および耐遅れ破壊性低下が生じるため、上限値を1%とした。
【0046】
Wは、鋼板の強度上昇に有効な元素である。しかし、0.005%未満ではこれらの効果が得られないため、下限値を0.005%とした。逆に5%超含有すると加工性低下が生じるため、上限値を5%とした。
【0047】
Coは、強化に有効であるため、0.005%以上の添加とした。また、過剰添加は加工性の劣化を招くことから、上限を2.0%とした。
【0048】
Bは、鋼板の強度上昇に有効な元素である。しかし、0.0002%未満ではこれらの効果が得られないため、下限値を0.0002%とした。逆に0.1%超含有すると熱間加工性が劣化するため、上限値を0.1%とした。
【0049】
Yは、介在物の形態制御に有効で、耐遅れ破壊性に寄与することから、0.0005%以上の添加とした。一方、過剰添加は熱間加工性を劣化させるため、0.1%以下の添加とした。
【0050】
次に製造方法について説明する。
特に製品板での表面状態を確保するために、製造工程における酸化スケールの形成およびデスケを十分に行う観点から下記のような製造方法とするのが望ましい。
まず、熱延時の加熱温度は変形抵抗の観点から1100℃以上とした、また、高温すぎると粒粗大化やスケール形成の増大などの問題があるため、1300℃以下とすることが望ましい。
【0051】
熱間圧延ではフェライト粒にひずみが過度に加わり加工性が低下するのを防ぐために熱間圧延をAr3 以上で行い、また高温すぎても焼鈍後の再結晶粒径が必要以上に粗大化するため、仕上温度は940℃以下が望ましい。
巻き取り温度については、高温にすれば再結晶や粒成長が促進され、加工性の向上が望まれるが、熱間圧延時に発生するスケール生成も促進され酸洗性が低下するので、800℃以下とする。一方で低温になりすぎると硬化するため、冷間圧延時での負荷が高くなる。このため400℃以上とする。
ここで、トラップサイトである微細析出物を巻き取り時に積極的に析出させるためには、400〜800℃、好ましくは550〜650℃の巻き取り処理が望ましい。
【0052】
酸洗後の冷間圧延は、圧下率が低いと鋼板の形状矯正が難しくなるため下限値を10%とする。また、80%を超える圧下率で圧延すると、鋼板のエッジ部における割れの発生及び形状の乱れの原因になるため、上限値を80%とする。
【0053】
焼鈍温度は低すぎると未再結晶の状態になり硬質化し、逆に高すぎると粒が粗大化しプレス時に肌荒れを起こす場合があるという問題点があるので、600〜950℃とした。また、焼鈍中のスケール形成および焼鈍後のデスケの観点からすると、還元雰囲気で780〜880℃の温度域で焼鈍することが望ましい。
【0054】
【実施例】
次に本発明を実施例に基づいて説明する。
表1(表1−1),表2(表1−2)に示す成分の鋼を溶製し、常法に従い連続鋳造でスラブとした。符号A〜Tが本発明に従った成分の鋼で、符号CA〜CIは成分が逸脱する比較鋼である。これらの鋼を加熱炉中で1160〜1250℃の温度で加熱し、870〜900℃の仕上げ温度で熱間圧延を行い、650〜750℃にて巻き取った。これに続いて酸洗後、圧下率30〜80%の冷間圧延を行い、次いで800〜900℃で再結晶焼鈍を行い、その後0.4%の調質圧延をして冷延鋼板となした。表1(表1−1),表2(表1−2)に各鋼板の材質特性を併せて示す。
【0055】
表3(表2)に、鋼板の耐遅れ破壊性の評価結果と各鋼の前記式(1)または(2)の値を示した。評価方法の詳細は以下の通りである。
▲1▼調質圧延後、プレス時の歪を模擬する目的で2%歪を鋼板に与える。
▲2▼鋼板より応力集中率3.2の切欠き板状引張り試験片を採取する。
▲3▼33%NaCl−3g/lNa4 SCN水溶液中で0.01〜0.025mA/cm2 で定電流陰極チャージを施す。
▲4▼Cdめっきを行う。
▲5▼引張り強度の0.8倍の一定荷重を付加する。
▲6▼100hまで試験を行い、破断か未破断を判断する。
【0056】
表2(表2)に示すように、本発明例で請求項に示した式(1)または(2)を満たすものは、遅れ破壊試験で未破断である。一方比較鋼では、強度レベルが同等あるは低いにもかかわらず前述の遅れ破壊試験で破断した。図1に鋼板強度と式の値の関係図上に破断/未破断の結果を示す。
【0057】
【表1】
【0058】
【表2】
【0059】
【表3】
【0060】
【発明の効果】
以上に説明した通り、本発明による薄鋼板は水素起因の耐遅れ破壊性を向上確保するために、鋼板の強度と成分による析出物制御と鋼板の成分による耐侵入水素特性の制御をそれぞれ行うことで、自動車用薄鋼板の使用環境下での耐水素脆化を向上させることができる。また、自動車のバンパーやドアインパクトビームなどの補強部材として最適な強度を有し、また加工した後での耐遅れ破壊性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】鋼板強度と式(1)および(2)の値とTS(>1200MPa)の関係と遅れ破壊特性(破断/未破断の結果)を示す。
Claims (9)
- 質量%にて、
C :0.05%〜0.3%、
Si:0.01〜3.0%、
Mn:0.01〜4.0%、
P :0.0001〜0.020%、
S :0.0001〜0.020%、
Al:0.01〜3.0%、
N :0.0001〜0.01%
を含有し、更に
Ni:0.001〜5.5%、
Cu:0.001〜3.0%、
Cr:0.001〜5.0%、
Mo:0.005〜5%
のうち1種以上を含有し、下記式(1)を満たし、残部が鉄および不可避的不純物からなることを特徴とする耐水素脆化に優れた高強度薄鋼板。
0≦0.8×{2Cu+20Mo+3Ni+Cr}−{0.1−3.5×107 ×(TS)−3.1} ………(1)
ここで、TS:引張強さ(MPa) - 質量%にて、
C :0.05%〜0.3%、
Si:0.01〜3.0%、
Mn:0.01〜4.0%、
P :0.0001〜0.020%、
S :0.0001〜0.020%、
Al:0.01〜3.0%、
N :0.0001〜0.01%
を含有すると共に、
Ni:0.001〜5.5%、
Cu:0.001〜3.0%、
Cr:0.001〜5.0%、
Mo:0.005〜5%
のうち1種以上を含有し、更に、
V :0.005〜1%
を含有し、下記式(2)を満たし、残部が鉄および不可避的不純物からなることを特徴とする耐水素脆化に優れた高強度薄鋼板。
0≦0.8×{2Cu+20Mo+3Ni+Cr+20V}−{0.1−V/5−3.5×107 ×(TS)−3.1}………(2)
ここで、TS:引張強さ(MPa) - 更に、質量%にて、
Se:0.0002〜0.05%、
As:0.0002〜0.05%、
Sb:0.0002〜0.05%、
Sn:0.0002〜0.05%、
Pb:0.0002〜0.05%、
Bi:0.0002〜0.05%
の1種または2種以上を含有し、かつ、それらの合計が0.05%以下を満たすことを特徴とする請求項1又は2記載の耐水素脆化に優れた高強度薄鋼板。 - 更に、質量%にて、
REM:0.0002〜0.10%、
Ca :0.0002〜0.10%、
Mg :0.0002〜0.10%
の1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の耐水素脆化に優れた高強度薄鋼板。 - 更に、質量%にて、
Ti:0.002〜1%、
Nb:0.002〜1%、
Zr:0.005〜1%、
Hf:0.005〜1%、
Ta:0.005〜1%
の1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の耐水素脆化に優れた高強度薄鋼板。 - 更に、質量%にて、
W :0.005〜5%、
Co:0.005〜2.0%
の1種または2種を含有することを特徴とする請求項1〜5の何れか1項に記載の耐水素脆化に優れた高強度薄鋼板。 - 更に、質量%にて、
B :0.0002〜0.1%
を含有することを特徴とする請求項1〜6の何れか1項に記載の耐水素脆化に優れた高強度薄鋼板。 - 更に、質量%にて、
Y :0.0005〜0.1%
を含有することを特徴とする請求項1〜7の何れか1項に記載の耐水素脆化特性に優れた高強度薄鋼板。 - 請求項1〜8の何れか1項に記載の組成からなる鋳片を1100℃以上に加熱し、Ar3 点以上の仕上温度で熱間圧延を施し、400〜800℃で捲取り、次いで酸洗の後、圧下率を10〜80%として冷間圧延してから、600〜950℃にて再結晶焼鈍を施し、次いで調質圧延を施すことを特徴とする耐水素脆化に優れた高強度薄鋼板の製造方法。
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