以上説明した従来の画像表示装置によれば、走査部による光束の走査が正常に行われない状態となった場合には、観察者の瞳孔に光束が入射しないため、観察者に眩しさやちらつきなどの不快感を与えてしまうことが防止される。
しかし、この従来の画像表示装置においては、走査部による光束の走査が正常に行われない状態となった場合には、瞳孔への光束の入射を阻止する処理が単に行われるにすぎない。すなわち、観察者にとっては、これまで視認していた虚像が突然、何らの情報も与えられることなく、消失してしまうことになるのであり、そのため、観察者に不安感を与えてしまう可能性があった。
このような事情を背景として、本発明の目的は、虚像の表示態様を自動的に変更する場合に、その表示態様の変更を観察者に不安感を与えることなく行い得る画像表示装置を提供することにある。
本発明によって下記の各態様が得られる。各態様は、項に区分し、各項には番号を付し、必要に応じて他の項の番号を引用する形式で記載する。これは、本発明が採用し得る技術的特徴の一部およびそれの組合せの理解を容易にするためであり、本発明が採用し得る技術的特徴およびそれの組合せが以下の態様に限定されると解釈されるべきではない。すなわち、下記の態様には記載されていないが本明細書には記載されている技術的特徴を本発明の技術的特徴として適宜抽出して採用することは妨げられないと解釈すべきである。
さらに、各項を他の項の番号を引用する形式で記載することが必ずしも、各項に記載の技術的特徴を他の項に記載の技術的特徴から分離させて独立させることを妨げることを意味するわけではなく、各項に記載の技術的特徴をその性質に応じて適宜独立させることが可能であると解釈されるべきである。
(1) 光束の走査によって観察者の網膜上に画像を投影することにより、画像を表示する画像表示装置であって、
前記画像を表す映像信号が入力され、その入力された映像信号に基づき、前記光束を出射する出射部と、
その出射部から出射した光束を走査する走査部と、
前記画像の表示中に、観察者の操作に依存することなく設定条件が成立した場合に、前記出射部から光束が、通常出力レベルよりは低いが0よりは大きいように予め設定された低出力レベルで出射するように前記出射部を制御する制御部と
を含む画像表示装置。
この画像表示装置においては、画像の表示中に、観察者の操作に依存することなく設定条件が成立した場合に、画像の表示態様が自動的に変更される。この変更により、画像を表示するために出射部から出射する光束の出力レベルが通常出力レベルより低い低出力レベルに低下させられる。しかし、その低出力レベルは、0ではないため、低出力レベルの光束によって表示される画像は、通常出力レベルより輝度が低いものの、映像信号の内容に反して観察者から消失してしまうことはない。
したがって、この画像表示装置によれば、画像の表示態様が自動的に変更される場合に、画像が消失することがないため、表示態様の変更に起因した不安感を観察者に与えずに済むかないしは不安感を与えるにしてもそれを緩和することが可能となる。
本項および下記の各項における「出力レベル」は、例えば、出射部から出射する光束の強度を意味するように定義することが可能である。さらに、消費電力によって発光量が変化するデバイス、例えばレーザダイオードを出射部に用いる場合には、光束を出射するために出射部に供給される電力(例えば、デバイスに供給する最大電力、平均電力、実効電力)を意味するように定義することが可能である。
(2) 前記設定条件は、前記走査部に異常が発生した場合に成立する異常時成立条件を含む(1)項に記載の画像表示装置。
この画像表示装置によれば、走査部に異常が発生した場合に、光束の出力レベルが自動的に、観察者に不安感を与えない範囲内で低下させられる。
(3) 前記走査部は、
前記光束を反射する少なくとも1個の反射面と、
その反射面の、その反射面に入射する光束に対する角度である反射面角度が周期的に変化するように前記反射面を駆動する駆動部と
を含み、
前記異常時成立条件は、前記反射面角度が変化する実際の周期が設定範囲から逸脱した場合に成立する(2)項に記載の画像表示装置。
この画像表示装置によれば、走査部の反射面角度が変化する実際の周期に異常が発生した場合に、光束の出力レベルが自動的に、観察者に不安感を与えない範囲内で低下させられる。
(4) 前記異常時成立条件は、
前記走査部のうち異常が発生した部位が前記反射面と前記駆動部との少なくとも一方である場合に、異常が発生した部位の如何を問わず、成立する第1条件と、
少なくとも前記反射面に異常が発生した場合に成立する第2条件と、
少なくとも前記駆動部に異常が発生した場合に成立する第3条件と
を含む(3)項に記載の画像表示装置。
この画像表示装置によれば、走査部に発生する異常を、その異常が、その走査部のうちの反射面に関する異常と、駆動部(例えば、モータ、アクチュエータ、運動伝達部等)に関する異常とのいずれであるかを問わず、発見することが可能となる。さらに、走査部に発生する異常を、反射面に関する異常と駆動部に関する異常とのいずれかとして特定することが可能となる。
(5) 前記走査部は、前記反射面が複数個、回転軸線と同軸の円周に沿って並んで配置された回転体であって、前記駆動部によって前記回転軸線まわりに回転させられるものを含み、
前記制御部は、前記複数個の反射面について個別に前記反射面角度を検出し、
前記第1条件は、前記複数個の反射面についてそれぞれ検出された複数個の反射面角度の中に、第1設定範囲を逸脱する反射面角度が存在する場合に成立し、
前記第2条件は、前記第1条件が成立した場合であって、前記複数個の反射面角度の中に、それら複数個の反射面角度の平均値に対する偏差が第2設定範囲を超える反射面角度が存在する場合に成立し、
前記第3条件は、前記第1条件が成立した場合であって、前記複数個の反射面角度の中に、前記偏差が前記第2設定範囲を超える反射面角度が存在しない場合に成立する(4)項に記載の画像表示装置。
前記(4)項に係る画像表示装置は、走査部が、複数個の反射面と、それら複数個の反射面が回転軸線と同軸の円周に沿って並んで配置された回転体と、その回転体を回転軸線まわりに回転させる駆動部とを含む態様で実施することが可能である。
この態様においては、複数個の反射面についてそれぞれ検出された複数個の反射面角度の中に異常な反射面角度が存在する場合には、走査部に、反射面に関するか駆動部に関するかを問わず、異常があると判定することが可能である。
さらに、この態様においては、走査部に何らかの異常があると判定された場合であって、複数個の反射面角度の中に、それら複数個の反射面角度の平均値に対する偏差が異常である反射面角度が存在する場合には、一部の反射面に異常があると判定することが可能である。
さらに、この態様においては、走査部に何らかの異常があると判定された場合であって、複数個の反射面角度の中に、上記偏差が異常である反射面角度が存在しない場合には、全部の反射面にそれぞれ同じ異常があると判定するよりはむしろ、全部の反射面に対して同じ影響を及ぼし得る駆動部自体に異常があると判定することが妥当である。
以上説明した知見に基づき、本項に係る画像表示装置によれば、走査部に発生した異常を、一部の反射面に関する異常であるのか、駆動部に関する異常であるのかを判別することが可能となる。
(6) さらに、前記走査部によって走査された光束が設定位置に入射したことを検出するビームディテクタを含み、前記制御部は、そのビームディテクタの出力信号に基づいて前記周期を検出し、その検出された周期に基づき、前記異常時成立条件が成立したか否かを判定する(2)ないし(5)項のいずれかに記載の画像表示装置。
一般に、画像表示装置は、走査部による光束の走査の同期を行うために、走査部の反射面の角度をその反射面からの反射光を利用して検出するビームディテクタを含むように構成される。
このビームディテクタは、各反射面ごとに、光束の1回の走査に要した走査時間を検出することが可能であり、よって、各反射面ごとに、反射面角度が変化する実際の周期を検出することが可能である。
したがって、このビームディテクタは、走査の同期と、反射面角度の変化周期の検出との双方に利用することが可能である。
よって、本項に係る画像表示装置によれば、ビームディテクタを用いて反射面角度の変化周期が検出されるため、例えば、部品点数の増加を抑制すべく、同じビームディテクタを用いることにより、走査の同期と、反射面角度の変化周期の検出との双方を行うことが可能となる。
(7) 前記設定条件は、当該画像表示装置による連続的な表示時間が設定時間を超えた場合に成立する長時間表示時成立条件を含む(1)ないし(6)項のいずれかに記載の画像表示装置。
一般に、画像表示装置による連続的な表示時間が長いほど、観察者が画像を観察し続ける時間が長くなり、ひいては、観察者が眼に感ずる疲労感が強い。一方、観察者が同じ時間画像を観察するにしても、その画像の輝度が暗いほど、観察者が眼に感ずる疲労感が弱くて済むと考えられる。
このような知見に基づき、本項に係る画像表示装置においては、当該画像表示装置による連続的な表示時間が設定時間を超えた場合に、光束の出力レベルが自動的に、観察者に不安感を与えない範囲内で低下させられる。
したがって、この画像表示装置によれば、観察者の眼の疲労感を、観察者に不快感を与えることなく、自動的に軽減することが可能となる。
(8) 前記制御部は、前記走査部の動作開始時からの経過時間に基づき、前記連続的な表示時間を検出し、その検出された連続的な表示時間に基づき、前記長時間表示時成立条件が成立したか否かを判定する(7)項に記載の画像表示装置。
(9) 前記制御部は、前記設定条件が成立したために前記出射部から出射する光束の出力レベルが前記低出力レベルに低下させられている状態において、その状態にあることを観察者が理解できるように予め定められたメッセージ画像が網膜上に投影されるように前記出射部を制御する(1)ないし(8)項のいずれかに記載の画像表示装置。
この画像表示装置によれば、光束の出力レベルが自動的に低下させられた場合に、観察者は、その現象が予定されたものであることを、メッセージ画像を媒介として知ることができ、このことによっても、光束の出力レベルの自動的低下に起因した不安感を観察者に与えずに済む。
(10) 前記メッセージ画像は、文字と記号と図形との少なくとも一つによって表現される(9)項に記載の画像表示装置。
この画像表示装置によれば、光束の出力レベルが予定通りに低下させられたという意味を、観察者が視認する画像の実際の輝度の低下によってではなく、言語そのものまたは言語と同等な意思伝達機能を果たす形象を媒介として、観察者に確実に伝達することが可能となる。
(11) 前記制御部は、前記設定条件が成立しない場合には、前記出射部が光束を前記通常出力レベルで出射するノーマルモードで前記出射部を制御する一方、前記設定条件が成立した場合には、前記出射部が光束を前記低出力レベルで出射する低出力モードで前記出射部を制御する(1)ないし(10)項のいずれかに記載の画像表示装置。
(12) 前記低出力レベルは、観察者が前記画像を視認可能な光束出力レベルであって、網膜上の同じ位置に照射し続けられても観察者に不快感を与えない光束出力レベルである(1)ないし(11)項のいずれかに記載の画像表示装置。
この画像表示装置においては、光束の低出力レベルが、網膜上への連続照射によって観察者に与え得る不快感を回避するかもしくは軽減する観点から設定される。
(13) 光束の走査によって観察者の網膜上に画像を投影することにより、画像を表示する画像表示装置であって、
前記画像を表す映像信号が入力され、その入力された映像信号に基づき、前記光束を出射する出射部と、
その出射部から出射した光束を走査するために、(a)その出射した光束を反射する少なくとも1個の反射面と、(b)その反射面の、その反射面に入射する光束に対する角度である反射面角度が周期的に変化するように前記反射面を駆動する駆動部とを有する走査部と、
前記反射面角度が変化する実際の周期を光学的に検出し、その検出された周期が設定範囲から逸脱した場合に、前記出射部から光束が、通常出力レベルよりは低いが0よりは大きいように予め設定された低出力レベルで出射するように前記出射部を制御する制御部であって、前記出射部から出射する光束の出力レベルが前記低出力レベルに低下させられている状態において、その状態にあることを観察者が理解できるように予め定められたメッセージ画像が網膜上に投影されるように前記出射部を制御するものと
を含む画像表示装置。
この画像表示装置によれば、走査部の反射面角度が変化する実際の周期に異常が発生した場合に、光束の出力レベルが自動的に、観察者に不安感を与えない範囲内で低下させられる。
さらに、この画像表示装置によれば、光束の出力レベルが自動的に低下させられた場合に、観察者は、その現象が予定されたものであることを、メッセージ画像を媒介として知ることができ、このことによっても、光束の出力レベルの自動的低下に起因した不安感を観察者に与えずに済む。
(14) 光束の走査によって観察者の網膜上に画像を投影することにより、画像を表示する画像表示装置であって、
前記画像に対応した光束を生成し、その生成された光束を出射する出射部と、
その出射部から出射した光束を反射する反射面を有し、その反射面の向きを所定の角度範囲内で周期的に変化させることにより、前記反射面により反射される光束を走査する走査部と、
その走査部により走査された光束を観察者の瞳孔に誘導して入射させる誘導部と、
前記走査部により走査された光束が到達する領域に配置され、その領域に到達した光束を受光することにより、前記走査部が反射面の向きを変化させる周期を検出する周期検出部と、
その周期検出部により検出された周期が所定の範囲から逸脱した場合に、前記出射部に対して、その出射部の動作モードを、第1レベルで前記光束を出射するノーマルモードから、前記第1レベルより低く、かつ、観察者が視認可能なレベルである第2レベルで前記光束を出射する低出力モードに切り替えることを指令する切替指令手段と
を含む画像表示装置。
この画像表示装置によれば、周期検出部により検出された反射面角度の変化周期が所定の範囲から逸脱した場合に、出射部に対して、その動作モードの低出力モードへの切り替えが切替指令手段により指令される。
周期検出部は、走査部が反射面の向き(光束に対する反射面の角度)を変化させる際の繰り返し周期を検出する。したがって、切替指令手段が動作モードの切り替えを指令する際に参照する「所定の範囲」として、走査部により光束が正常に走査されているときの繰り返し周期がとり得る範囲を設定しておけば、光束が正常には走査されなくなった場合に、出射部に対して動作モードの低出力モードへの切り替えが指令されるようになる。
この指令を受けて出射部の動作モードが低出力モードに切り替えられると、出射部は、ノーマルモードにおいて光束を出射する第1レベルより低く、かつ、観察者が視認可能な出力レベルである第2レベルで光束を出射することになる。
このように、低出力モードにおいては、観察者の瞳孔に入射する光束の出力レベルが、観察者が視認可能な範囲内であって、ノーマルモードより低い第2レベルである。
したがって、本項に係る画像表示装置においては、走査部による光束の走査が正常に行われない状態となった場合に、これまで表示されていた虚像が突然消失してしまうことがなく、虚像の表示(観察者が虚像を視認できる状態)が維持される。
よって、本項に係る画像表示装置によれば、走査部による光束の走査が正常に行われない状態となった場合に、虚像が突然消失してしまうことに起因する不安感を観察者に与えずに済む。
(15) 前記走査部は、
前記光束を反射する第1反射面の、その光束に対する角度を所定の角度範囲内で周期的に変化させることにより、その第1反射面から反射する光束を第1の方向に走査する第1走査手段と、
前記光束を反射する第2反射面の、その光束に対する角度を所定の角度範囲内で周期的に変化させることにより、その第2反射面から反射する光束を、前記第1の方向と交差する第2の方向に走査する第2走査手段と、
それら第1走査手段および第2走査手段間で光束を中継するリレー光学系と
を含む(14)項に記載の画像表示装置。
(16) 前記走査部は、前記光束を主走査方向に走査する主走査と、その主走査方向と交差する副走査方向に走査する副走査とを、それらに共通の反射面を用いて行う(14)項に記載の画像表示装置。
(17) 前記誘導部は、前記走査部により走査された光束を観察者の瞳孔へ導くリレー光学系を含む(14)ないし(16)項のいずれかに記載の画像表示装置。
(18) 前記誘導部は、前記走査部により走査された光束を、光学素子を経ることなく直接に観察者の瞳孔に誘導する(14)ないし(17)項のいずれかに記載の画像表示装置。
(19) 前記切替指令手段は、前記周期検出部により検出された周期が、前記所定の範囲を超えた状態からその範囲内に戻った場合に、前記出射部に対して、その出射部の動作モードを低出力モードからノーマルモードに切り替えることを指令する(14)ないし(18)項のいずれかに記載の画像表示装置。
(20) 前記低出力モードは、前記出射部から出射する光束の出力レベルを前記第1レベルから直ちに前記第2レベルに変化させる動作モードである(14)ないし(19)項のいずれかに記載の画像表示装置。
(21) 前記低出力モードは、前記出射部から出射する光束の出力レベルを前記第1レベルから漸減的に前記第2レベルに変化させる動作モードである(14)ないし(19)項のいずれかに記載の画像表示装置。
本項において「出力レベルを漸減的に変化させる」態様の一例は、段階的に変化させる態様であり、別の態様は、連続的に変化させる態様である。
(22) さらに、前記出射部の動作モードが前記低出力モードに切り替えられた場合に、その低出力モードに切り替えられたことを観察者に告知するための告知画像に対応する光束の出射を前記出射部に対して指令する告知指令手段を含み、
前記出射部は、前記周期検出部により検出された周期に基づいて前記告知画像に対応する光束を生成し、その生成された光束を出射する(14)ないし(21)項のいずれかに記載の画像表示装置。
この画像表示装置によれば、出射部の動作モードが低出力モードに切り替えられた場合に、告知指令手段の指令を受けた出射部から、告知画像を形成するための光束が出射する。その告知画像は、動作モードが低出力モードに切り替えられたことを観察者に告知するための画像であり、その告知画像は虚像として観察者によって認識される。
したがって、この画像表示装置によれば、観察者は、虚像である告知画像を媒介として、出射部の動作モードが低出力モードに切り替えられたことを知ることができる。
この画像表示装置においては、告知画像を形成するための光束が、出射部により、周期検出部により検出された繰り返し周期に基づいて生成される。したがって、この画像表示装置によれば、その繰り返し周期が正常でなくても、告知画像ができる限り正常に近い状態で表示される。すなわち、その繰り返し周期が異常であることから派生する画像の変形が抑制された状態で告知画像が表示されるのである。
本項における「告知画像」は、出射部の動作モードが低出力モードに切り替えられたことを観察者に告知するための画像であり、具体例を列挙すれば、低出力モードに切り替えられたことを直接に表現するメッセージ、周期検出部により検出された繰り返し周期が所定の範囲を超えたことを表わすメッセージ、走査部に何らかのトラブルが発生したことを表わすメッセージなどが表示された画像である。
(23) さらに、前記走査部が動作を開始したときからの経過時間を検出する時間検出部を含み、
前記切替指令手段は、前記時間検出部により検出された経過時間が所定の範囲を超えた場合に、前記出射部に対して、前記動作モードの前記低出力モードへの切り替えを指令する(14)ないし(22)項のいずれかに記載の画像表示装置。
この画像表示装置においては、走査部が動作を開始したときからの経過時間が所定の範囲を超えた場合に、出射部の動作モードが低出力モードに切り替えられる。
この画像表示装置は、上述の「所定時間」の長さが、例えば、観察者が虚像を観察し続けても観察者に大きな疲労感を与えないことが予想される時間の長さに設定された態様で実施することが可能である。この態様においては、走査部が動作を開始したときからの経過時間が所定の範囲を超えた場合に、観察者の瞳孔に入射する光束の出力レベルが前述の第2レベルに低下させられるため、虚像が表示される状態を維持しつつ、観察者の眼に与える疲労感を抑えることができる。
(24) 前記第2レベルは、観察者が視認可能な出力レベルであって、前記走査部による光束の走査停止時に瞳孔に入射し続けても観察者に不快感を与えないように決められた出力レベルである(14)ないし(23)項のいずれかに記載の画像表示装置。
この画像表示装置においては、低出力モードにおいては、観察者の瞳孔に入射される光束の出力レベルが、走査部による光束の走査停止時に瞳孔に入射し続けても観察者に不快感を与えないように決められた出力レベルまで低下する。
したがって、この画像表示装置によれば、虚像が表示される状態を維持しつつ、観察者に眩しさやちらつきなどの不快感を与えないようにすることができる。
本項において「走査部による光束の走査停止時に瞳孔に入射し続けても観察者に不快感を与えないように決められた出力レベル」としては、例えば、観察者におって十分に視認可能な出力レベルである10nW以上で、かつ、JIS規格(JIS C6802)において、瞳孔を通して網膜上の一点に入射し続けても全く問題がないレベルであると定められている10nW以上390nW以下の光束などが考えられる。
(25) 光束の走査によって観察者の網膜上に画像を投影することにより、画像を表示する画像表示装置であって、
前記画像に対応した光束である画像光を生成し、その生成された光束を出射する出射部と、
その出射部から出射した光束を反射する反射面を有し、その反射面の向きを所定の角度範囲内で変化させる動作を繰り返し行うことにより、前記反射面により反射される光束を走査する走査部と、
その走査部の反射面により反射された光束を観察者の瞳孔に誘導して入射させる誘導部と、
前記走査部により走査される光束が到達する領域に配設され、その領域に到達する光束を受光することにより、前記走査部が反射面の向きを変化させる際の繰り返し周期を検出する周期検出部と
を含む画像表示装置を制御するためにコンピュータによって実行される画像表示プログラムであって、
前記周期検出部により検出された繰り返し周期が所定の範囲を超えた場合に、前記出射部に対して、その出射部の動作モードを、所定の出力レベルである第1レベルで前記光束を出射するノーマルモードから、前記第1レベルより低く、かつ、観察者が視認可能なレベルである第2レベルで前記光束を出射する低出力モードに切り替えることを指令する切替指令工程を含む画像表示プログラム。
本項に係る画像表示プログラムがコンピュータによって実行されれば、前記(14)項に係る装置と共通する作用効果を実現することが可能である。
(26) さらに、前記出射部の動作モードが前記低出力モードに切り替えられた場合に、その低出力モードに切り替えられたことを告知するための告知画像に対応する光束の出射を前記出射部に対して指令する告知指令手段を含み、
前記出射部は、前記周期検出部により検出された周期に基づいて前記告知画像に対応する光束を生成し、その生成された光束を出射する(25)項に記載の画像表示プログラム。
本項に係る画像表示プログラムがコンピュータによって実行されれば、前記(22)項に係る装置と共通する作用効果を実現することが可能である。
(27) さらに、前記走査部が動作を開始したときからの経過時間を検出する時間検出部を含み、
前記切替指令手段は、前記時間検出部により検出された経過時間が所定の範囲を超えた場合に、前記動作モードの前記低出力モードへの切り替えを指令する(25)または(26)項に記載の画像表示プログラム。
本項に係る画像表示プログラムがコンピュータによって実行されれば、前記(23)項に係る装置と共通する作用効果を実現することが可能である。
なお、上述のいくつかの画像表示プログラムは、例えば、FD,CD−ROM,メモリーカードなどの記録媒体やインターネットなどの通信回線網を介して、画像表示装置に直接にまたは別の装置を経て間接に提供することが可能である。
また、これら画像表示プログラムを実行するコンピュータとしては、例えば、画像表示装置に内蔵されたコンピュータ,画像表示装置に無線または有線の通信路を介してデータ通信可能に接続されたコンピュータなどがある。
以下、本発明のさらに具体的な実施の形態のいくつかを図面に基づいて詳細に説明する。
図1には、本発明の第1実施形態に従う画像表示装置1が系統的に示されている。この画像表示装置1は、光束を観察者(すなわち、画像表示装置1の利用者)の瞳孔Eに入射し、その入射した光束によって観察者の網膜上に画像を投影し、それにより、瞳孔Eの前方に虚像が表示されていることを観察者に認識させる装置である。これは、いわゆる網膜走査ディスプレイである。
図1に示すように、この画像表示装置1は、画像に対応した光束である画像光を生成して出射する出射部10を備えている。出射部10は、画像光を強度に関して適宜変調して生成する。すなわち、出射部10は、画像表示装置1において画像光を発生させる部分なのである。
画像表示装置1は、さらに、出射部10から出射した画像光を伝送する光ファイバー20と、その光ファイバ20から出射する画像光を平行な光束(平行光)に変換するコリメート光学系30とを備えている。
画像表示装置1は、さらに、コリメート光学系30により平行光とされた画像光を画像として投影可能な状態に走査する走査部50と、その走査部50により走査された画像光を観察者の瞳孔Eに誘導して入射させる誘導部70とを備えている。
画像表示装置1は、さらに、走査部50が画像光を走査する際の繰り返し周期を検出する周期検出部100と、画像表示装置1全体の動作を制御する制御部110とを備えている。制御装置110は、コンピュータ112を主体として構成されており、コンピュータ112は、プロセッサ114とメモリ116とを含むように構成されている。
上述の出射部10は、青色の光束を発生させるために、Bレーザ11とそのBレーザ11を駆動するBレーザドライバ12とを備えており、緑色の光束を発生させるために、Gレーザ13とそのGレーザ13を駆動するGレーザドライバ14とを備えており、さらに、赤色の光束を発生させるために、Rレーザ15とそのRレーザ15を駆動するRレーザドライバ16とを備えている。
この出射部10は、さらに、3個のレーザ11,13,15からそれぞれ発生した3本の光束を1本の画像光に結合するダイクロイックミラー17と、そのダイクロイックミラー17により結合された1本の画像光を光ファイバー20へ導く結合光学系18とを備えている。
この出射部10は、制御部110から出力される色信号に基づき、各レーザドライバ12,14,16により各レーザ11,13,15を駆動することにより、観察者に表示すべき画像に対応する画像光を、必要な強度変調を伴って生成して光ファイバー20へ出射する。
この出射部10は、制御部110からの指令を受けて、出射部10自身の動作モードを、出射部10から出射する光束の出力レベルに関して互いに異なるノーマルモードと低出力モードとに切り替えるように設計されている。本実施形態においては、「出力レベル」という用語が、出射部10から出射する光束の強度を意味するように定義されている。
ここに、「ノーマルモード」とは、出射部10が、各レーザ11,13,15からの出力レベルの各瞬間における総和が1μW以下である光束を画像光として生成して出射する動作モードである。本実施形態においては、ノーマルモードにおいて出射部10が光束を出射する出力レベルが、例えば、0から1μWまでの範囲内で設定される。
これに対し、「低出力モード」とは、出射部10が、各レーザ11,13,15からの出力レベルの各瞬間における総和が200nWを超えない光束を画像光として生成して出射する動作モードである。
低出力モードにおいて出射部10から出射する光束の出力レベルは、JIS規格(JISC6802)により、瞳孔を通して網膜上の一点に入射し続けても全く問題がないレベルであるとして定められている数値である390nW以下である。ただし、低出力モードにおいて出射部10から出射する光束の出力レベルは、観察者にとって視認可能な出力レベルである10nW以上である。
本実施形態においては、低出力モードにおいて出射部10が光束を出射する出力レベルが、例えば、0から200nWまでの範囲内で設定される。
前述の走査部50は、コリメート光学系30から入射した画像光を画像として投影可能な状態に走査する。走査部50は、その画像光を水平方向(主走査方向または第1の方向)に走査する水平走査と、水平走査された画像光を垂直方向(副走査方向または第2の方向)に走査する垂直走査とを行う。
水平走査の実現のために、走査部50は、図1に示すように、コリメート光学系30から入射した画像光を水平方向に走査するポリゴンミラー51と、そのポリゴンミラー51を回転駆動する水平走査用モータ52と、制御部110からの指令(水平同期信号)を受けて水平走査用モータ52を駆動する水平走査用駆動回路53とを備えている。
走査部50は、さらに、図1に示すように、垂直走査の実現のために、ポリゴンミラー51により走査された光束を垂直方向に走査して出力するガルバノミラー54と、そのガルバノミラー54を駆動する垂直走査用アクチュエータ55と、制御部110からの指令(垂直同期信号)を受けて垂直走査用アクチュエータ55を駆動する垂直走査用駆動回路56とを備えている。
走査部50は、さらに、図1に示すように、ポリゴンミラー51とガルバノミラー54との間で光束を中継する第1リレー光学系57を備えている。
第1リレー光学系57は、ポリゴンミラー51においてコリメート光学系30から入射した光束が入射する位置と、ガルバノミラー54の反射面における中心位置とが光学的に所定の位置関係となるように配置された光学系である。
図1に示すように、ポリゴンミラー51は、複数個の反射面51aが回転軸線と同軸の円周に沿って並んで配置された回転体51bを有している。回転体51bが水平走査用モータ52によって回転軸線まわりに回転させられることにより、各反射面51aから反射する光束が回転軸線と交差する平面上において所定の角度範囲内で周期的に走査される。
以上説明した走査部50においては、コリメート光学系30から走査部50に入射した光束が、ポリゴンミラー51によって水平方向に走査され、続いてガルバノミラー54によって垂直方向に走査された後、誘導部70へ向かう。
誘導部70は、走査部50から誘導部70に入射した光束を観察者の瞳孔Eに誘導するリレー光学系である。誘導部70は、ガルバノミラー54の反射面54aの中心位置と、観察者における瞳孔Eの位置(瞳孔Eに対応する位置)とが光学的に所定の位置関係となるように配置されている。
前述の周期検出部100は、ポリゴンミラー51における複数個の反射面51aのうち画像光が入射している1個の反射面51a(以下、「選択反射面51a」という。)から画像光が反射する角度領域、すなわち、ポリゴンミラー51によって画像光が走査される領域に配置されている。周期検出部100は、入射した光に応じて信号を出力する受光素子の一例である。具体的には、周期検出部100は、本実施形態においては、ポリゴンミラー51によって走査された画像光である光束を特定の位置において検出するビームディテクタとして構成されている。
周期検出部100すなわちビームディテクタは、ポリゴンミラー51における選択反射面51aの向き(光束に対する選択反射面51aの角度)が周期的に変化する毎に、その選択反射面51aから反射した画像光を受光する。
ビームディテクタとして構成されている周期検出部100は、画像光を受光すると、受光したことを表わす信号を制御部110に供給する。そして、制御部110は、その信号に基づき、水平走査に関し、出射部10が画像光を出射するタイミング(すなわち、画像が表示される矩形領域における各水平走査線の開始タイミング)を決定する。以下、その信号を、ビームディテクタの出力信号であることに着目し、BD( Beam Detector )信号という。
制御部110は、さらに、ポリゴンミラー51による実際の走査周期(すなわち、例えば、ある選択反射面51aを用いた水平走査の開始時期と、次の選択反射面51aを用いた水平走査の開始時期との間の時間間隔)を検出する機能も果たす。具体的には、この制御部110は、画像光を受光する間隔を検出することにより、ポリゴンミラー51が選択射面51aの向き(画像光に対する選択反射面51aの角度)を変化させる際の繰り返し周期を検出する。
制御部110のコンピュータ112のメモリ116には画像表示プログラムが記憶されている。この画像表示プログラムはプロセッサ114によって実行され、それにより、画像表示装置1の全体の動作が制御されて画像表示処理が実行される。
図2には、その画像表示プログラムの内容がフローチャートで概念的に表されている。この画像表示プログラムは、電源ONによって画像表示装置1が起動された後、電源OFFによって画像表示装置1が停止させられるまで、繰り返し実行される。
この画像表示プログラムの各回の実行時には、まず、ステップS110において、外部からの映像信号の入力が開始されることが待たれる。映像信号の入力が開始されたならば、ステップS110の判定がYESとなり、ステップS120に移行する。
このステップS120においては、ポリゴンミラー51およびガルバノミラー54の動作が開始させられる。具体的には、このステップS120においては、水平走査用駆動回路53に水平同期信号の供給が開始されること、すなわち、水平同期信号が制御部110から水平走査用駆動回路53に繰り返し出力されることにより、水平走査用モータ52によってポリゴンミラー51の動作が開始させられる。
この水平走査と並行して、垂直走査用駆動回路56に垂直同期信号の供給が開始されること、すなわち、垂直同期信号が制御部110から垂直走査用駆動回路56に繰り返し出力されることにより、垂直走査用アクチュエータ55によってガルバノミラー54の動作が開始させられる。
その結果、ポリゴンミラー51は、画像光に対する各反射面51aの角度を所定の角度範囲内で周期的に変化させ、それにより、ポリゴンミラー51の各反射面51aにより反射される光束を水平方向に走査する状態が実現される。これに対し、ガルバノミラー54は、画像光に対する反射面54aの角度を所定の角度範囲内で周期的に変化させることにより、反射面54aにより反射される光束を垂直方向に走査する状態が実現される。
以上説明したステップS120の実行が終了した後、ステップS130において、ステップS110において入力が開始された映像信号により表わされる画像を形成するための色信号を赤色、緑色および青色のレーザ光束のそれぞれについて生成することが開始される。さらに、生成された各種色信号の出射部10への出力が開始される。
このステップS130においては、周期検出部100からBD信号が入力される毎に、画像における水平走査1回分(水平走査線1本分)の各種色信号が生成されて出力される。各種色信号が入力された出射部10においては、各種色信号に基づいて各レーザドライバ12,14,16が各レーザ11,13,15を駆動し、これにより、各レーザ11,13,15から各色の光束が発生する。
図1に示すように、そのようにして発生した3色の光束は、ダイクロイックミラー17により1本の画像光に結合された後、結合光学系18を経て光ファイバー20へ向かう。
このステップS130の今回の実行は、画像表示装置1の起動後に最初に行われる実行であるため、出射部10は、ノーマルモードにより動作を開始する。
その後、出射部10から出射した画像光が、走査部50により画像として投影可能な状態に走査され、その走査された画像光は、誘導部70を経て観察者の瞳孔Eに入射する。このようして瞳孔Eに入射した画像光が画像として網膜上に投影され、それにより、観察者の瞳孔Eの前方に虚像が表示されていることを観察者が認識することができるようになる。
以上説明したステップS130の実行が終了した後、ステップS140において、ステップS110において開始された映像信号の入力が継続しているか否かが判定される。
今回は、映像信号の入力が継続していないと仮定すれば、ステップS140の判定がNOとなり、ステップS150において、ステップS120の実行によって開始されたポリゴンミラー51およびガルバノミラー54の動作が停止させられる。
具体的には、このステップS150においては、水平走査用駆動回路53への水平同期信号の供給が停止させられることにより、水平走査用モータ52によるポリゴンミラー51の動作が停止させられる。さらに、垂直走査用駆動回路56への垂直同期信号の供給が停止させられることにより、垂直走査用アクチュエータ55によるガルバノミラー54の動作が停止させられる。
以上で、この画像表示プログラムの一回の実行が終了する。
これに対し、今回は、映像信号の入力が継続していると仮定すれば、ステップS140の判定がYESとなり、ステップS160において、初期化が行われる。
本実施形態においては、ポリゴンミラー51における反射面51aの数nと同数、変数Tが用意されている。各変数Tは、各反射面51aに関して周期検出部100から出力されるBD信号に基づいて制御部110によって検出された周期を一時的に保存するために用意されている。
それら複数個の変数Tの各値tは、それら変数Tにそれぞれ関連付けてメモリ116に格納されるようになっている。ただし、複数個の変数Tと複数個の反射面51aとの間に固定された対応関係は存在せず、後述のように、周期検出部100のBD信号を用いて制御部110によって逐次検出される複数個の周期のうちの最新の、反射面51aの数nと同数の周期が、検出された順序と同じ順序で、各変数Tに関連付けてメモリ116に逐次格納されるようになっている。
以上説明した変数Tに対する初期化がステップS160において行われ、具体的には、複数個の変数T[1]ないしT[n](n:反射面51aの数)がすべて0にセットされる。以下、説明の便宜上、各変数T[i]に与えられた値を値t[i]で表記することとする。
ステップS160の実行が終了すれば、ステップS170において、ポリゴンミラー51から周期検出部100に画像光が繰返し入射することに応答して周期検出部100からBD信号が繰返し出力される時間間隔として、各反射面51aの向きが変化する周期が制御部110によって検出される。すなわち、周期検出部100から繰返し出力される複数個のBD信号のうち互いに隣接した2個のBD信号間の時間間隔として、各反射面51aの向きの変化周期が検出されるのである。
このステップS170においては、さらに、i番目の周期Tが検出されると、その検出値と等しくなるようにi番目の変数T[i]がセットされ、(i+1)番目の周期Tが検出されると、その検出値と等しくなるように(i+1)番目の変数T[i+1]がセットされる。このようにして一連のn個の周期Tすなわち1組の周期Tの検出が終了すると、次の1組の周期Tの各検出値がそれぞれ、各周期Tの検出順序と同じ順序でn個の変数T[1]ないしT[n]に順次格納される。これにより、n個の変数T[1]ないしT[n]の各値t[i]が、最新のn個の周期Tの検出値と等しくなるように更新されてメモリ116に記憶されることとなる。
ステップS170の実行が終了すれば、ステップS180において、n個の変数[1]ないしT[n]の中に、値t[i]と基準値t0との比Rが設定範囲から逸脱した変数Tが存在するか否かが判定される。比Rが設定範囲を上回るかまたは下回る変数Tが存在するか否かが判定されるのである。ここに、「基準値t0」は、ポリゴンミラー51により画像光が水平方向に正常に走査されている正常状態において、ポリゴンミラー51の1個の反射面51a当たりの平均的な走査時間として予め定められた時間を表わす値である。
本実施形態においては、比Rが、基準値t0を値t[i]で割り算した値、すなわち、t0/tとして定義されている。すなわち、
R=t0/t
なる式によって表現されるように定義されているのである。さらに、上記設定範囲が、例えば、0.95から1.05までの範囲として定義されている。
今回は、比Rが設定範囲を逸脱している変数Tが存在しないと仮定すれば、ステップS180の判定がNOとなり、ステップS140に戻る。これに対し、今回は、比Rが設定範囲を逸脱している変数Tが存在すると仮定すれば、ステップS180の判定がYESとなり、ステップS190に移行する。
このステップS190においては、出射部10に対して、動作モードを低出力モードに切り替えることが指令される。その指令を受けた出射部10は、出射部10自身の動作モードをノーマルモードから低出力モードに切り替え、その結果、各レーザ11,13,15から発生する光束の出力レベルの総和の最大値が200nW以下であるように予め定められた低出力レベルで光束を生成して出射するようになる。
ここに、「低出力レベル」は、例えば、ノーマルモードにおける通常出力レベルに1より小さい固定係数を掛け算することによって取得することが可能である。具体的には、映像信号に基づき、画像を構成する各画素ごとに、かつ、各色ごとに決まる通常出力レベルに上述の固定係数を掛け算することによって取得することが可能である。したがって、低出力モードにおいても、ノーマルモードと同様に、各レーザ11,13,15から発生する光束の出力レベルは、映像信号に応じ、画像を構成する各画素ごとに異ならせることが可能である。
このようにしてステップS190が実行された後、ステップS200において、n個の変数T[1]ないしT[n]の平均値taveが算出される。平均値taveは、
tave=(t[1]+t[2]+・・・+t[n])/n
なる式により算出される。
その後、ステップS210において、n個の変数T[1]ないしT[n]の中に、ステップS200において算出された平均値taveとの偏差Δtがしきい値ΔtTH以上である変数Tが存在するか否かが判定される。
本実施形態においては、各変数T[i]の偏差Δtが、各変数T[i]の値t[i]から平均値taveを差し引いた値として定義されている。したがって、偏差Δtは、
Δt=t−tave
なる式で表わすことができる。よって、偏差Δtは、値t[i]が平均値taveから増加するにつれて増加する。さらに、本実施形態においては、しきい値ΔtTHが、例えば、0.3×taveと等しくなるように設定されている。
前述のように、各変数Tの値tは、画像光を水平方向に走査した場合の走査時間の検出値と等しくなるようにセットされており、偏差Δtがしきい値ΔtTHより大きい変数Tの値tが存在することは、ポリゴンミラー51における複数の反射面51aの全体についてではなく一部について走査時間が異常に長いことを表わすことになる。
このように、ポリゴンミラー51における複数の反射面51aの一部について局所的に走査時間が異常に長くなってしまう原因を考察するに、その一例としては、それら複数の反射面51aの一部に、ひび割れなどの損傷が発生していることや、ほこりなどの汚れが付着していることが考えられる。それらの原因が存在すると、ポリゴンミラー51は一部の反射面51aにおいて局所的に画像光を正常な向きに反射できなくなり、そのため、例えば、互いに隣接した2個の反射面51aからの画像光が同時に周期検出部100に入射してしまう。その結果、周期検出部100の出力信号に基づく周期Tの検出値が、反射面51aの2個分の走査時間を表わしてしまう可能性がある。
したがって、偏差Δtがしきい値ΔtTHより大きい変数Tが存在している場合には、ポリゴンミラー51が一部の反射面51aにおいて局所的に画像光を正常に走査できなくなっている可能性がある。
これに対し、偏差Δtがしきい値ΔtTHより大きい変数Tが存在しない場合には、n個の変数Tの全体において偏差Δtがほぼ一様に分布するため、ポリゴンミラー51における複数の反射面51aのすべてについて走査時間が異常に長いかまたは短いことになる。このことは、それら複数の反射面51aの全体に異常が発生していることを意味する。その異常の原因を考察すれば、ポリゴンミラー51の回転体51bを回転駆動する駆動部、すなわち、水平走査用モータ52および水平駆動回路53のうちの少なくとも一部が故障したために、ポリゴンミラー51aが複数の反射面51aのすべてにおいて画像光を正常に走査することができなくなったことが合理的に推論される。
今回は、偏差Δtがしきい値ΔtTHより大きい変数Tが存在すると仮定すれば、ステップS210の判定がYESとなり、ステップS220において、ポリゴンミラー51の反射面51aに異常が発生したことを観察者に告知するためのメッセージ画面である反射面異常告知画像を表示するための画像データがメモリ116から読み出される。
その画像データはメモリ116に予め記憶されている。その画像データにより表される反射面異常告知画像は、本実施形態においては、画像の1フレームのうち、ポリゴンミラー51の1回転中に走査される光束によって描かれる画像表示領域内において、本来の画像に重畳されて表示される。
本実施形態においては、ポリゴンミラー51の一部の反射面51aに局所的に異常が発生する場合には、n個の反射面51aのうち互いに隣接した2個の反射面51aより成る複数個の組合せのうちのいずれか1組のみにおいて異常が発生すると仮定されている。したがって、反射面異常告知画像は、互いに隣接した(n−2)個の反射面51aによって水平走査される(n−2)本の水平走査線によって描画されることとなる。
ステップS220の実行が終了すると、ステップS230において、ステップS220において読み出された反射面異常告知画像を表わす画像データに基づき、その画像を表示するための各種色信号(赤色、緑色および青色の光束)の生成が開始され、その生成された色信号の出射部10への出力が開始される。
具体的には、このステップS230においては、まず、周期検出部100から時期的に隣接して入力される最新の2個のBD信号間の時間間隔(すなわち、ポリゴンミラー51の選択反射面51aによる光束の走査時間)が、n個の変数Tのうち、ステップS210において偏差Δtがしきい値ΔtTH以上であると判定された変数Tの値t(以下、「異常値tab」という。)と等しくなるのが待たれる。すなわち、n個の反射面51aのうち、互いに隣接した2個の反射面51aであって異常が発生しているものからの反射光が周期検出部100であるビームディテクタに入射することになるのが待たれるのである。
このステップS230においては、BD信号間の時間間隔が異常値tabに等しくなると、その後、周期検出部100からBD信号が入力されるごとに、映像信号で示される本来の画像に反射面異常告知画像が重畳された複合画像を表示するため、すなわち、ポリゴンミラー51の1回転中に瞳孔Eに投影される複合画像を形成するための各種色信号が生成されて各レーザドライバ12,14,16に出力される。
その後、複合画像を形成するための画像光が出射部10から出射し、その出射した画像光は、走査部50および誘導部70を順に経て観察者の瞳孔Eに入射する。その入射した画像光は、網膜上に画像を投影し、それにより、観察者は、瞳孔Eの前方に反射面異常告知画像が虚像として表示されていることを認識することができることとなる。
図3には、反射面異常告知画像の一例が示されている。この例によれば、「走査面に異常が発生しました。」という、文字により表現されたメッセージ画像が、ポリゴンミラー51におけるn個の反射面51aのうち正常である(n−2)個の反射面51aを利用して表示される。その結果、反射面異常告知画像は、図3に示すように、画像の1フレームが表示される画像表示領域において、n個の反射面51aのうち画像光を正常に走査できない2個の反射面51aに対応する水平走査線Hを避けた位置に表示される。
なお付言すれば、図3に示す例においては、画像の1フレーム当たり反射面異常告知画像が1回のみ表示されるが、ポリゴンミラー51が1回転するごとに反射面異常告知画像が表示されるようにして本発明を実施することが可能である。
以上、n個の変数Tの中に、Δt偏差がしきい値ΔtTH以上である変数Tが存在する場合を説明したが、存在しない場合には、図2におけるステップS210の判定がNOとなり、ステップS240に移行する。
このステップS240においては、ポリゴンミラー51の前述の駆動部に異常が発生したことを観察者に告知するための駆動部異常告知画像を表わす画像データがメモリ116から読み出される。その駆動部異常告知画像を表わす画像データのメモリ116に予め記憶されている。
本実施形態においては、駆動部異常告知画像を表わす画像データが、平均値taveと前記基準値t0との比rに応じて複数種類、メモリ116に記憶されており、このステップS240においては、その比rの今回値に応じた駆動部異常告知画像の画像データが選択されて読み出される。本実施形態においては、その比rが、基準値t0を平均値taveで割り算した値、すなわち、t0/taveとして定義されている。すなわち、
r=t0/tave
なる式によって表現されるように定義されているのである。
以下、駆動部異常告知画像の画像データを複数種類用意した理由を図4および図5を参照して詳細に説明する。ただし、図4(a)および(b)には、4個の真円が正方形の4個の頂点にそれぞれ位置するように並んだ画像が正常表示状態と異常表示状態とでそれぞれ示されている。図5(a)ないし(c)には、3種類の駆動部異常告知画像の画像データがそれぞれ示されている。
ポリゴンミラー51の駆動部に異常が発生した場合には、ガルバノミラー54による垂直走査の速度(動作速度)が変化しない限り、走査部50により走査された画像光により形成される画像は、ポリゴンミラー51による1回の水平走査にかかる時間すなわち周期Tが長い場合、すなわち、水平走査速度が遅い場合(図4(b)に示す場合)には、駆動部が正常である場合(図4(a)に示す場合)より、水平走査線間のピッチdが長い。
そのため、ポリゴンミラー51の駆動部に異常が発生した場合には、走査部50により走査された画像光により形成される画像は、図4(b)に示すように、1画面あたりの水平走査線の数が正常時より少ない画像となってしまう(図4(b)参照)。
水平走査線間のピッチdが長いために水平走査線の数が正常時より少ない画像は、正常時における画像に対し、垂直方向(図4における上下方向)に伸長された状態で表示される。
また、出射部10から光束が出射されるタイミング(例えば、画像光の色、強度等が変調されるタイミング)は変わらないため、水平走査速度が遅くなると、画像は、図4(b)に示すように、正常時における画像に対し、水平方向に圧縮された状態で表示される。
このように変形された画像を表示したのでは、画像すなわち虚像によって表わされる内容を観察者に正確に伝えることができない可能性、すなわち、画像の情報伝達量が不足してしまう可能性がある。さらに、画像が垂直方向に伸長されて表示されると、その画像における下部の領域(図4(b)において四角形の枠から下方にはみ出した領域)が表示されなくなってしまう可能性もある。
ところで、観察者が視認する画像は、走査部50の水平走査速度が遅いために水平走査線の数が少ないほど、垂直方向に伸長される。しかし、実際の水平走査速度が遅い場合であっても、走査部50に入射する画像光の時間的変化を実際の水平走査速度に同期させれば、観察者が視認する画像が変化せずに済む。具体的には、水平走査速度が遅いほど、画像光の時間的変化を、水平方向に遅くすれば、観察者が観察する画像が、水平走査速度の低下による水平走査線の数の減少にもかかわらず、維持され、ひいては、画像の情報伝達量も維持される。
このような理由から、本実施形態においては、図5(a)ないし(c)に示すように、水平走査速度に応じて選択されるべき3種類の駆動部異常告知画像の画像データが用意されている。ただし、それら3種類の駆動部異常告知画像の画像データは、駆動部が異常である場合に観察者が実際に観察する画像と同じ画像として示されているのではなく、レーザドライバ12,14,16に供給される駆動信号に対応する画像データとして示されている。すなわち、図5においては、画像データが、観察者にとっての時間軸に沿って示されているのではなく、レーザドライバ12,14,16にとっての時間軸に沿って示されているのである。
したがって、それら3種類の駆動部異常告知画像は、実際に表示される場合には、対応する水平走査速度に応じて、図5に示す各文字が垂直方向には伸長される一方、水平方向には圧縮されて表示される。
具体的には、図5(a)には、水平走査速度が正常時よりやや遅いために比rが1よりわずかに小さい第1範囲内にある場合に選択されるべきパターンAの駆動部異常告知画像の画像データが示されている。この画像データは、もとの画像データ(駆動部が正常である状態で同じ画像を観察者に表示する状況を想定した場合に、その表示に必要な画像データ)との間に、そのもとの画像データを駆動部が異常である状態において再生した場合の画像を水平方向に伸長する関係にあるように定義されている。
このように定義された画像データが、駆動部が異常であるポリゴンミラー51を含む走査部50を用いて再生されれば、観察者には、図5(a)に示す各文字が垂直方向には伸長される一方、水平方向には圧縮された駆動部異常告知画像として観察される。その観察される駆動部異常告知画像においては、各文字の大きさが垂直方向にも水平方向にも同じ大きさを有するように表示される。本実施形態においては、第1範囲が、
0.75<=r<1
なる不等式で定義されている。
また、図5(b)には、水平走査速度が正常時より少し遅いために比rが第1範囲よりわずかに小さい第2範囲内にある場合に選択されるべきパターンBの駆動部異常告知画像の画像データが示されている。この画像データは、もとの画像データとの間に、上記の場合と同じ関係が成立するように定義されている。このように定義された画像データが再生されれば、観察者には、図5(b)に示す各文字が垂直方向には伸長される一方、水平方向には圧縮された駆動部異常告知画像として観察される。本実施形態においては、第2範囲が、
0.5<=r<0.75
なる不等式で定義されている。
さらに、図5(c)には、水平走査速度が正常時よりかなり遅いために比rが第2範囲よりわずかに小さい第3範囲内にある場合に選択されるべきパターンCの駆動部異常告知画像の画像データが示されている。この画像データは、もとの画像データとの間に、上記の場合と同じ関係が成立するように定義されている。このように定義された画像データが再生されれば、観察者には、図5(c)に示す各文字が垂直方向には伸長される一方、水平方向には圧縮された駆動部異常告知画像として観察される。本実施形態においては、第3範囲が、
0.25<=r<0.5
なる不等式で定義されている。
さらに、本実施形態においては、水平走査速度が正常時より非常に遅いために比rが第3範囲よりわずかに小さい第4範囲内にある場合には、パターンDの駆動部異常告知画像が選択される。本実施形態においては、第4範囲が、
0<=r<0.25
なる不等式で定義されている。
本実施形態においては、比rが第4範囲内にある場合には、後述のように、映像信号に基づく画像の表示が中止されるようになっており、そのため、このパターンDは、観察者に何ら情報を表示しないように設定されている。
よって、そのパターンDのための画像データはメモリ116に記憶されていない。このパターンDが選択された場合には、コンピュータ112は、駆動部異常告知画像のためにメモリ116から画像データを読み出すことはできない。
ステップS240の実行が終了すると、ステップS250において、ステップS240においていずれかの種類の駆動部異常告知画像の画像データが読み出されたか否かが判定される。具体的には、パターンAないしCのいずれかの駆動部異常告知画像の画像データが読み出されたために、駆動部異常告知画像を表示するための後述のステップを実行することが必要であるか否かが判定される。
今回は、ステップS240において画像データが読み出されなかった、すなわち、今回はパターンDの駆動部異常告知画像が選択されたと仮定すれば、ステップS250の判定がNOとなる。
この場合には、映像信号に基づく画像の表示を中止させるために、その後、ステップS260において、映像信号に基づく各種色信号の生成および出力であってステップS130において開始されたものが停止させられる。続いて、ステップS270において、ポリゴンミラー51およびガルバノミラー54の動作であってステップS120において開始させられたものが停止させられる。
以上で、この画像表示プログラムの一連の実行が終了し、コンピュータ112は、観察者からの再度の画像表示指令を待つ。
これに対し、今回は、ステップS240において画像データが読み出された、すなわち、今回はパターンAないしCのいずれかの駆動部異常告知画像が選択されたと仮定すれば、ステップS250の判定がYESとなる。
この場合には、その後、ステップS280において、ステップS240において読み出された駆動部異常告知画像の画像データに基づく各種色信号(赤色、緑色および青色の光束)が生成され、その生成された各種色信号の出射部10への出力が開始される。このステップS280においては、周期検出部100から正常なBD信号が入力されるごとに、映像信号で表わされる本来の画像に駆動部異常告知画像が重畳された複合画像を形成するために、ポリゴンミラー51の1回転について各種色信号が生成されて出力される。
その後、複合画像を形成するための画像光が出射部10から出射し、その出射した画像光は、走査部50および誘導部70を順に経て観察者の瞳孔Eに入射する。その入射した画像光は、網膜上に画像を投影し、それにより、観察者は、瞳孔Eの前方に駆動部異常告知画像が虚像として表示されていることを認識することができることとなる。
ステップS280の実行が終了した場合には、前述のステップS230の実行が終了した場合と同様に、ステップS290ないしS310において、前述のステップS160ないしS180と同様にして、ポリゴンミラー51についての次回の異常判定が行われる。
具体的には、ステップS290においては、ステップS160と同様にして、n個の変数Tが初期化される。その結果、複数個の変数T[1]ないしT[n]がすべて0にセットされる。
その後、ステップS300において、ステップS170と同様にして、周期検出部100を用いた周期Tの逐次検出と、各検出値の各変数T[i]に関連付けた保存とが行われる。具体的には、周期検出部100からのBD信号の入力間隔が周期Tとして各変数T[i]に関連付けてメモリ116に保存される。
続いて、ステップS310において、ステップS180と同様にして、n個の変数[1]ないしT[n]の中に、前述の比Rが前述の設定範囲から逸脱した変数Tが存在するか否かが判定される。
今回は、比Rが設定範囲を逸脱した変数Tが存在すると仮定すれば、ステップS310の判定がYESとなり、ステップS200に戻り、前述の場合と同様にして、ポリゴンミラー51の異常が、一部の反射面51aの異常に起因するものであるか、ポリゴンミラー51の駆動部の異常に起因するものであるかが究明される。
これに対し、今回は、比Rが設定範囲を逸脱した変数Tが存在しないと仮定すれば、ステップS310の判定がNOとなり、ステップS330に移行する。このステップS330においては、出射部10に対して、動作モードをノーマルモードに切り替えることが指令される。この指令を受けた出射部10は、出射部10自身の動作モードを低出力モードからノーマルモードに切り替え、その結果、各各レーザ11,13,15から発生する光束の出力レベルの総和が1μW以下であるように予め定められた通常出力レベルで光束を画像光として生成して出射するようになる。
その後、ステップS340において、反射面異常告知画像と駆動部異常告知画像とのうち今回選択されたものに対応する各種色信号の生成・出力が停止させられる。その結果、ステップS130において開始された処理であって映像信号に基づく各種色信号の生成・出力のみが継続される。続いて、ステップS140に戻る。
以上のように構成された画像表示装置1においては、図2におけるステップS180の実行時に、各変数Tの値tと基準値t0との比R(=t0/t)が設定範囲(0.95から1.05まで)外となる変数Tが存在する場合に、出射部10に対して、動作モードを低出力モードに切り替えることが指令される。
ここに、基準値t0は、前述のように、ポリゴンミラー51により画像光の走査が正常に行われている状態における1個の反射面51a当たりの平均的な走査時間を表わしており、一方、変数Tは、ポリゴンミラー51が反射面51aの向きを周期的に変化させる際の周期にセットされる。
したがって、ステップS180においては、反射面51aの向きが変化する周期(すなわち、1個の反射面51aによる1回の水平走査時間)に関し、上述の比Rが設定範囲を逸脱した場合、すなわち、ポリゴンミラー51により画像光が正常に走査されない場合に、出射部10に対して低出力モードへの切り替えが指令される。
この指令を受けて動作モードを低出力モードに切り替えた出射部10は、ノーマルモードにおいて出射する画像光の出力レベルより低い出力レベル、すなわち、200nWを超えず、かつ、観察者が視認可能な出力レベルである10nW以上であるように設定された出力レベルで画像光を出射する。
このように、低出力モードにおいては、観察者の瞳孔Eに入射する画像光の出力レベルが、視認可能な範囲内にありながら、ノーマルモードより低い出力レベルである。したがって、走査部50による光束の走査が正常に行われない状態となった場合には、画像光が観察者に与える不快感を抑えつつ、虚像が観察者に視認できる状態を維持することができる。
すなわち、走査部50の異常に起因して虚像が突然消失するように画像表示装置を設計した場合には、そのことに起因する不安感を観察者に与えてしまう可能性があるが、本実施形態によれば、そのような可能性を生じさせることなく、走査部50の異常発生に起因する不快感を観察者に与えずに済むのである。
さらに、本実施形態においては、出射部10が、図2におけるステップS190の実行によって切替指令を受けることに応答して、動作モードを低出力モードに切り替えると、その後、ステップS230またはS290の実行により、メモリ116から読み出された画像データに基づき、反射面異常告知画像および駆動部異常告知画像に対応する画像光が生成されて出射される。
それら告知画像は、ポリゴンミラー51の一部の反射面51aまたは駆動部に異常が発生したことが原因で出射部10の動作モードが低出力モードに切り替えられたことを観察者に告知するための画像である。したがって、観察者は、それら告知画像を視認することにより、ポリゴンミラー51に何らかの異常が発生したことと、出射部10の動作モードが低出力モードに切り替えられたこととを知ることができる。
特に、ステップS230においては、反射面異常告知画像を形成するための各種色信号が、ステップS210において偏差Δtがしきい値ΔtTH以上である変数Tが存在すると判定された後に出射部10に入力されるため、反射面異常告知画像が、画像表示領域に、画像光を正常に走査することができない反射面51aに対応する水平走査線Hを避けた位置に正確に表示される。したがって、観察者は、反射面異常告知画像によって観察者に伝えるべき内容を正確に理解することができる。
さらに、本実施形態においては、図2におけるステップS190の実行により、出射部10の動作モードが低出力モードに切り替えられた後、瞳孔Eに入射する画像光の出力レベルが、瞳孔Eを通して網膜上の一点に入射し続けても全く問題がないレベルであるとして決められたレベルである200nWを超えないように低下させられる。したがって、本実施形態によれば、走査部50の異常発生後に、観察者が虚像を視認できる状態を維持しつつ、異常な画像光によって眩しさやちらつきなどの不快感を観察者に与えないようにすることができる。
なお付言すれば、本実施形態に種々の変形、改良等を施した形態で本発明を実施することが可能である。
例えば、本実施形態においては、図2に示す画像表示プログラムが、画像表示装置1に内蔵されたコンピュータ112によって実行される。これに対し、その画像表示プログラムを構成する複数のステップの全部または一部が、画像表示装置1に無線または有線の通信路を介してデータ通信可能に接続された外部のコンピュータによって実行される形態で本発明を実施することが可能である。
さらに、本実施形態においては、制御部110のメモリ116が制御部110に対してアンリムーバブルである記憶素子(例えば、ROM,RAM)として構成されたうえで、そのようなメモリ116に図2に示す画像表示プログラムが記憶されている。これに対し、制御部110を、FD,CD−ROM,メモリーカードなどの記録媒体(制御部110に対してリムーバブルである記録媒体を含む)に対してデータ入出力可能に設計したうえで、そのような記録媒体に上記画像表示プログラムが記憶される形態で本発明を実施することが可能である。
さらに、本実施形態においては、走査部50が、ポリゴンミラー51、ガルバノミラー54および第1リレー光学系57により構成され、水平走査と垂直走査とが互いに独立した反射面51a,54aを用いて行われるようになっている。これに対し、走査部50が、コリメート光学系30から出射した光束に対して、同じ反射面を用いて水平走査と垂直走査との双方が行われる形態で本発明を実施することが可能である。この形態を採用すれば、画像表示装置1の部品点数の削減が容易となり、ひいては、画像表示装置1の小型化が容易となる。
さらに、本実施形態においては、走査部50により走査された画像光が、誘導部70を経て瞳孔Eに入射するようになっている。これに対し、走査部50により走査された画像光が瞳孔Eに直接入射する形態で本発明を実施することが可能である。
さらに、本実施形態においては、動作モードの切替指令を受けた出射部10が、画像光の出力レベルを1μW以下から200nW以下に、または、200nW以下から1μW以下に不連続的に変化させるように構成されている。これに対し、動作モードの切替指令を受けた出射部10が、画像光の出力レベルの変化を段階的または連続的に行う形態で本発明を実施することが可能である。
次に、本発明の第2実施形態を説明する。ただし、本実施形態は、第1実施形態と共通する要素があるため、共通する要素については、同一の符号または名称を使用して引用することにより、詳細な説明を省略し、異なる要素についてのみ詳細に説明する。
本実施形態に従う画像表示装置2においては、第1実施形態とは異なり、画像表示装置2によって画像が連続的に表示される時間が設定時間を超えると、長時間表示告知画像が表示されることにより、表示が連続的に長時間行われていることが観察者に告知される。
図6には、本実施形態に従う画像表示装置2のコンピュータ112によって実行される画像表示プログラムの内容がフローチャートで概念的に表わされている。以下、この画像表示プログラムを説明するが、第1実施形態における画像表示プログラムと共通するステップについては、説明に支障を来たさない範囲で図示を省略するか、または同一の符号または名称を使用して引用することにより、冗長的な説明を省略する。
図6に示すように、本実施形態における画像表示プログラムは、第1実施形態における画像表示プログラムに対して、ステップS510ないしS570が追加されている。
図6に示すように、この画像表示プログラムにおいては、ステップS130においてポリゴンミラー51およびガルバノミラー54の動作が開始された後、ステップS510において、タイマによる計時が開始される。このタイマは、ポリゴンミラー51の動作開始時からの経過時間を計測するために設けられている。その経過時間は、本実施形態においては、ポリゴンミラー51の連続的な動作時間の長さを意味しており、時間の経過につれて1ずつインクリメントするカウント値に反映される。
続いて、ステップS140において、映像信号の入力が継続しているか否かが判定される。今回は、映像信号の入力が継続していないと仮定すれば、ステップS140の判定がNOとなり、ステップS520において、タイマによる計時がストップさせられ、さらに、カウンタ値が0にリセットされる。その後、ステップS150において、ポリゴンミラー51およびガルバノミラー54の動作が停止させられる。以上で、この画像表示プログラムの一回の実行が終了する。
これに対し、今回は、映像信号の入力が継続していると仮定すれば、ステップS140の判定がYESとなり、ステップS530に移行する。このステップS530においては、カウント値の現在値が所定値以上であるか否かが判定される。画像表示装置1による連続的な表示時間が許容時間以上であるか否かが判定されるのであり、本実施形態においては、その所定値が、2時間に相当する値に予め設定されている。今回は、カウント値の現在値が所定値以上ではないと仮定すれば、ステップS530の判定がNOとなり、ステップS160に移行し、以後、カウント値が所定値以上に増加しない限り、ステップS160,S170,S140およびS530からなるループの実行が繰り返される。
そのループの実行が繰り返されるうちに、カウント値が所定値以上になったと仮定すれば、ステップS530の判定がYESとなり、ステップS540に移行する。このステップS540においては、ステップS520と同様にして、タイマがストップさせられ、さらに、カウント値が0にリセットされる。
その後、ステップS550において、出射部10に対して、動作モードをノーマルモードから低出力モードに切り替えることが指令される。続いて、ステップS560において、画像表示装置2による連続的な表示時間、すなわち、ポリゴンミラー51が動作を開始したときからの経過時間が許容時間以上となったことを観察者に告知するための長時間表示告知画像を表わす画像データがメモリ116から読み出される。
その長時間表示告知画像は、例えば、「画像の表示が長時間続いています。低出力モードに切り替えました。」という文字によるメッセージ画像として構成することが可能である。
続いて、ステップS570において、ステップS560において読み出され画像データに基づき、長時間表示告知画像を表示するための各種色信号(赤色、緑色および青色の光束)が生成され、その生成された各種色信号の出射部10への出力が開始される。
このステップS570においては、周期検出部100からBD信号が入力されるごとに、映像信号によって表わされる本来の画像に上述の長時間表示告知画像が重畳された複合画像を表示するために、ポリゴンミラー51の1回転分に対応する各種色信号が生成されて出力される。
その後、複合画像を形成するための画像光が出射部10から出射し、その出射した画像光は、走査部50および誘導部70を順に経て観察者の瞳孔Eに入射する。その入射した画像光は、網膜上に画像を投影し、それにより、観察者は、瞳孔Eの前方に長時間表示告知画像が虚像として表示されていることを認識することができることとなる。続いて、ステップS160に移行する。
以上の説明から明らかなように、本実施形態においては、ポリゴンミラー51の動作開始時からの経過時間が許容時間(本実施形態においては2時間)を超えた場合には、出射部10の動作モードが低出力モードに切り替えられる。
ここに、前述の所定値、すなわち、上述の許容時間に、例えば、観察者が虚像を連続的に視認しても観察者に大きな疲労感を与えないと予想される値を与えておけば、視認をさらに継続すると疲労感が増すであろうと予想される時点からは、瞳孔Eに入射する光束の出力レベルが、観察者による視認が可能である範囲において低い方のレベルである200nW以下に低下させられる。
したがって、本実施形態によれば、観察者が虚像を観察する状態を維持しつつ、観察者に与える疲労感を抑えることができる。
以上の説明から明らかなように、本実施形態においては、走査部50が前記(1)項における「走査部」の一例を構成し、コンピュータ112のうち図2におけるステップS190,S320および、図6におけるステップS550を実行する部分が前記(14)項における「切替指令手段」の一例を構成しているのである。
さらに、本実施形態においては、コンピュータ112のうち図2におけるステップS230,S280および図6におけるステップS570を実行する部分が前記(22)項における「告知指令手段」の一例を構成しているのである。
さらに、本実施形態においては、コンピュータ112のうち図6におけるステップS510において計時を行うために観念させられるタイマが前記(23)項における「時間検出部」の一例を構成しているのである。
さらに、本実施形態においては、1μW以下の出力レベルが前記(1)項における「通常出力レベル」の一例であり、10nW以上で200nW以下の出力レベルが同項における「低出力レベル」の一例である。
以上、本発明の実施形態のいくつかを図面に基づいて詳細に説明したが、これらは例示であり、前記[発明の開示]の欄に記載の態様を始めとして、当業者の知識に基づいて種々の変形、改良を施した他の形態で本発明を実施することが可能である。