ポリゴンミラーは一般に、それの回転軸線と同軸な一円周に沿って複数の反射面が並び、互いに隣接した2つの反射面がシャープな陵角において不連続的に交わるように構成される。
このように構成されたポリゴンミラーを用いて光束を走査する場合には、ポリゴンミラーが一方向に回転させられる間、それに入射した光束が各反射面を通過することによって各回の偏向すなわち走査が行われる。すなわち、各回の偏向においては、ポリゴンミラーの回転に伴って、それから出射した光束の偏向角度が偏向開始角度から偏向終了角度まで変化させられるのである。
そして、ポリゴンミラーがさらに回転した結果、次の反射面に光束が入射すると、その瞬間に、ポリゴンミラーから出射した光束の偏向角度が偏向開始角度に復元し、次回の偏向が開始される。
ポリゴンミラーを使用する場合には、前回の偏向終了時から今回の偏向開始時までの回帰期間において、ポリゴンミラーに入射した光束が、前回の反射面と今回の反射面との交わりを通過することになるが、その交わりは上述のようにシャープな稜角として形成される。稜角は、実際には製造上の過程により、0.5mm幅程度の散乱面となるがわずかな幅である。
したがって、その回帰期間においては、ポリゴンミラーに入射した光束がそれのシャープな稜角において拡散的に反射し、その結果、その反射した光束は、最終的に画像表示面上に到達するにしてもその光量が微少であるため、観察者によって観察され難い。
これに対し、光束を走査するためにガルバノミラーを使用する場合には、ガルバノミラーの一方向回転によって1回の偏向が行われ、これが終了すると、ガルバノミラーの逆方向回転によって次回の偏向開始位置に復帰する。このように、ガルバノミラーを使用する場合には、それの逆方向回転により、前回の偏向終了時から今回の偏向開始時までの回帰が行われる。
この回帰期間においては、ガルバノミラーは、それに入射した光束を同じ反射面を用いて反射する。そのため、ガルバノミラーを使用する場合には、回帰期間においては、光束の入射光量が完全に0に減少しない限り、ガルバノミラーから出射した光束が非拡散的に画像表示面上に照射されてしまい、ガルバノミラーがポリゴンミラーほどには高速で回転することができないこととも相俟って、その出射した光束が画像表示面上において観察者によって観察され易い。
そのため、前述の従来の画像表示装置においては、副走査がガルバノミラーを用いて行われるため、画像の前回のフレームから今回のフレームに移行する回帰期間において、表示すべき画像とは無関係な画像(例えば、暗い画面に対して斜めのライン画像)が画像表示面上に表示されてしまい、画像にノイズが発生してしまう可能性があった。
このような事情を背景として、本発明は、光束を互いに交差する主走査方向と副走査方向とに2次元的に走査することにより、画像表示面上に画像を表示する画像表示装置において、副走査方向における光束の回帰期間において画像にノイズが発生する可能性を低減することを課題としてなされたものである。
本発明によって下記の各態様が得られる。各態様は、項に区分し、各項には番号を付し、必要に応じて他の項の番号を引用する形式で記載する。これは、本発明が採用し得る技術的特徴の一部およびそれの組合せの理解を容易にするためであり、本発明が採用し得る技術的特徴およびそれの組合せが以下の態様に限定されると解釈されるべきではない。すなわち、下記の態様には記載されていないが本明細書には記載されている技術的特徴を本発明の技術的特徴として適宜抽出して採用することは妨げられないと解釈すべきである。
さらに、各項を他の項の番号を引用する形式で記載することが必ずしも、各項に記載の技術的特徴を他の項に記載の技術的特徴から分離させて独立させることを妨げることを意味するわけではなく、各項に記載の技術的特徴をその性質に応じて適宜独立させることが可能であると解釈されるべきである。
(1) 表示すべき画像を光束の走査によって画像表示面上に表示する画像表示装置であって、
光束を出射する光源手段と、
その光源手段から出射した光束を互いに交差する主走査方向と副走査方向とに2次元的に走査する走査手段であって、
(a)入射した光束を主走査方向に走査する主走査部と、
(b)光束が入射する回転式ミラーの一方向回転により、その入射した光束を副走査方向に走査する副走査部とを有するものと
を含む画像表示装置。
この画像表示装置においては、副走査部が回転式ミラーの一方向回転により、光束を走査する。
したがって、この画像表示装置によれば、前述の、回転式ミラーの一例であるポリゴンミラーの回帰期間における光反射特性から明らかなように、副走査のための光束の回帰期間において、表示すべき画像とは無関係な画像が画像表示面上に表示されずに済み、よって、画像ノイズの発生が回避される。
本項における「主走査部」と「副走査部」とのレイアウトについては、光束の光路上において主走査部が副走査部より上流側に配置される場合と、逆に、副走査部が主走査部より上流側に配置される場合とがある。前者の場合には、副走査部が、主走査部によって走査された光束を副走査方向に走査するものとされるのに対し、後者の場合には、主走査部が、副走査部によって走査された光束を主走査方向に走査するものとされる。
(2) 前記主走査部が、第1のポリゴンミラーの一方向回転により、その第1のポリゴンミラーに入射した光束を主走査方向に走査するものであり、
前記副走査部が、前記回転式ミラーとしての第2のポリゴンミラーの一方向回転により、それに入射した光束を副走査方向に走査するものであり、
それら第1および第2のポリゴンミラーが、いずれも、回転軸線と同軸な一円周に沿って並んだ複数の反射面を有するものであり、かつ、前記第2のポリゴンミラーにおける反射面の数が、前記第1のポリゴンミラーにおける反射面の数より少ない(1)項に記載の画像表示装置。
一般に、ポリゴンミラーによって光束を走査すべき速度が遅いほど、ポリゴンミラーにおける反射面の数を少なくすることが容易である。
また、ポリゴンミラーにおける反射面の数が少ないほど、ポリゴンミラーの直径を小さくすることが容易となるため、ポリゴンミラーの小形軽量化も容易となる。
一方、ポリゴンミラーによって光束を走査すべき速度に関し、主走査と副走査とを互いに比較すれば、1フレーム毎の走査である副走査の方が1ライン毎の走査である主走査より遅いのが通常である。
このような知見に基づき、本項に係る画像表示装置においては、副走査のためのポリゴンミラーにおける反射面の数が、主走査のためのポリゴンミラーにおける反射面の数より少ないものとされている。
(3) さらに、前記光束の前記主走査方向および前記副走査方向における位置に基づき、光束が前記画像を主走査方向に表示することを開始する主走査開始タイミングと、副走査方向に表示することを開始する副走査開始タイミングとを互いに同期させる同期制御を行う同期制御装置を含む(1)または(2)項に記載の画像表示装置。
副走査を一方向回転式ミラーを用いて行う場合には、揺動式ミラー(例えば、ガルバノミラー)を用いて行う場合より厳密に、主走査と副走査との同期を確保することが大切である。その同期が十分に確保されないと、画像を主走査方向に表示することを開始する主走査開始タイミングに対して、副走査方向に表示することを開始する副走査開始タイミングが遅れたり早められたりする。
その結果、主走査と副走査との同期が十分に確保されないと、画像表示面上における画像の表示位置が副走査方向に揺れてしまう可能性がある。すなわち、画像の前回のフレームの位置に対して今回のフレームの位置が副走査方向にずれてしまう可能性があるのである。
一方、主走査開始タイミングは、光束の主走査方向における位置に基づいて決定できるし、副走査開始タイミングは、光束の副走査方向における位置に基づいて決定できる。
このような知見に基づき、本項に係る画像表示装置においては、光束の主走査方向および副走査方向における位置に基づき、光束が画像を主走査方向に表示することを開始する主走査開始タイミングと、副走査方向に表示することを開始する副走査開始タイミングとを互いに同期させる同期制御が行われる。
(4) 前記同期制御装置が、前記主走査方向に走査された光束を検出する第1のビームディテクタを含み、かつ、その第1のビームディテクタによる検出結果と前記回転式ミラーを駆動するための駆動信号とに基づいて前記同期制御を行う(3)項に記載の画像表示装置。
回転式ミラーを回転させるべき速度に関し、主走査と副走査とを互いに比較すれば、一般に、1フレーム毎の走査である副走査の方が1ライン毎の走査である主走査より遅くて済む。このことは、走査された光束の位置を検出することが要求される精度に関し、副走査の方が主走査より低くて済む。
一方、回転式ミラーによって走査された光束の位置をそれほど高い精度で検出することが要求されない場合には、その光束の位置を、回転式ミラーを回転させるための駆動信号(例えば、回転式ミラーを回転させるためにモータまたはそれのドライバに供給される駆動信号)に基づいて推定することが可能である。すなわち、光束の位置を検出するためにビームディテクタという部品を追加することが不可欠ではない場合もあるのである。
このような知見に基づき、本項に係る画像表示装置においては、第1のビームディテクタにより、光束の主走査方向における位置が検出され、その第1のビームディテクタによる検出結果と、副走査のための回転式ミラーを駆動するための駆動信号とに基づき、主走査開始タイミングと副走査開始タイミングとの同期制御が行われる。
(5) 前記同期制御装置が、
前記主走査方向に走査された光束を検出する第1のビームディテクタと、
前記副走査方向に走査された光束を検出する第2のビームディテクタと
を含み、かつ、それら第1および第2のビームディテクタの検出結果に基づいて前記同期制御を行う(3)項に記載の画像表示装置。
この画像表示装置においては、主走査方向に走査される光束のみならず副走査方向に走査される光束もビームディテクタによって検出されるため、主走査方向に走査される光束はビームディテクタによって検出されるが副走査方向に走査される光束はビームディテクタによって検出されない場合より、副走査方向に走査される光束の検出精度を向上させて同期の精度を向上させることが容易となる。
(6) 前記光束の光路上において前記主走査部が前記副走査部より上流側に配置されており、前記第1のビームディテクタが、前記回転式ミラーから出射した光束を前記主走査方向において検出する(4)または(5)項に記載の画像表示装置。
副走査のために回転式ミラーを使用する場合には、回転式ミラーに面倒れが発生する可能性を考慮することが大切である。ここに、面倒れという現象は、回転式ミラーの反射面が、それの回転軸線に対して傾斜する現象であるため、副走査のための回転式ミラーに面倒れが発生すると、その回転式ミラーから出射する光束の位置が、副走査方向と交差する方向すなわち主走査方向にずれることになる。このずれは、当該画像表示装置においては、画像表示面上において画像の位置が主走査方向にずれる原因となる。
ところで、主走査部が副走査部より上流側に配置されている画像表示装置において、主走査部によって走査された光束を検出する第1のビームディテクタを、副走査のための回転式ミラーから出射した光束を検出する形式とすれば、光束の主走査方向における位置を、副走査のための回転式ミラーの面倒れの影響を受けた状態で検出することが可能となる。
このような知見に基づき、本項に係る画像表示装置においては、光束の光路上において主走査部が副走査部より上流側に配置されており、第1のビームディテクタが、回転式ミラーから出射した光束を主走査方向において検出するものとされている。
(7) さらに、
副走査方向に延び、前記回転式ミラーから出射した光束を、主走査方向において予め定められた位置において通過させるスリットを有するスリット部材と、
そのスリット部材のスリットを通過した光束を集光させて前記第1のビームディテクタに入射させる集光部と
を含む(6)項に記載の画像表示装置。
この装置によれば、第1のビームディテクタが狭い領域でしか光束を受光できない場合であっても、回転式ミラーから出射した光束が、副走査方向に延びる姿勢で位置決めされた帯状領域内のいずれかの位置に照射されたことを検出することが可能となる。その結果、画像の1フレームにおける複数本のラインのすべてにつき、主走査開始タイミングを第1のビームディテクタを用いて決定することが可能となる。
本項における「集光部」の一例は、反射と集光とを行うものであり、この例の一形式は、反射を行う平面鏡と集光を行うレンズとの組合せであり、別の形式は、反射と集光との双方を行う凹面鏡である。
(8) 前記画像表示面が眼の網膜の結像面である網膜走査型ディスプレイである(1)ないし(7)項のいずれかに記載の画像表示装置。
(9) 前記画像表示面がスクリーンである投影型ディスプレイである(1)ないし(7)項のいずれかに記載の画像表示装置。
(10) 前記光束の光路上において前記主走査部が前記副走査部より上流側に配置されており、前記第2のビームディテクタが、前記回転式ミラーから出射した光束を前記副走査方向において検出する(6)項に記載の画像表示装置。
(11) さらに、前記光源手段と前記走査手段との間に配置され、その光源手段から出射した光束の波面を、前記画像表示面上に表示すべき画像に応じて変調する波面変調光学系を含む(1)ないし(10)項のいずれかに記載の画像表示装置。
以下、本発明のさらに具体的な実施の形態のいくつかを図面に基づいて詳細に説明する。
図1には、本発明の第1実施形態に従う網膜走査型ディスプレイ装置が系統的に表されている。この網膜走査型ディスプレイ装置(以下、「RSD」と略称する。)は、レーザビームを、それの波面および強度を適宜変調しつつ、観察者の眼10の瞳孔12を経て網膜14の結像面上に入射させ、その結像面上においてレーザビームを2次元的に走査することにより、その網膜14上に画像を直接に投影する装置である。
すなわち、本実施形態においては、RSDが前記(1)項に係る「画像表示装置」の一例であり、レーザビームが同項における「光束」の一例であり、網膜14の結像面が同項における「画像表示面」の一例なのである。
このRSDは、光源ユニット20を備え、その光源ユニット20と観察者の眼10との間において波面変調光学系22と走査装置24とをそれらの順に並んで備えている。
光源ユニット20は、3原色(RGB)を有する3つのレーザ光を1つのレーザ光に集束して任意色のレーザ光を生成するために、赤色のレーザ光を発するRレーザ30と、緑色のレーザ光を発するGレーザ32と、青色のレーザ光を発するBレーザ34とを備えている。各レーザ30,32,34は、例えば、半導体レーザとして構成することが可能である。
各レーザ30,32,34から出射したレーザ光は、それらを合成するために、各コリメート光学系40,42,44によって平行光化された後に、波長依存性を有する各ダイクロイックミラー50,52,54に入射させられ、それにより、各レーザ光が波長に関して選択的に反射・透過させられる。
具体的には、Rレーザ30から出射した赤色レーザ光は、コリメート光学系40によって平行光化された後に、ダイクロイックミラー50に入射させられる。Gレーザ32から出射した緑色レーザ光は、コリメート光学系42を経てダイクロイックミラー52に入射させられる。Bレーザ34から出射した青色レーザ光は、コリメート光学系44を経てダイクロイックミラー54に入射させられる。
それら3つのダイクロイックミラー50,52,54にそれぞれ入射した3原色のレーザ光は、それら3つのダイクロイックミラー50,52,54を代表する1つのダイクロイックミラー54に最終的に入射して集束され、その後、結合光学系80によって集光される。
以上、光源ユニット20のうち光学的な部分を説明したが、以下、電気的な部分を説明する。
光源ユニット20は、コンピュータを主体とする信号処理回路60を備えている。信号処理回路60は、外部から供給された映像信号に基づき、各レーザ30,32,34を駆動するための信号処理と、後述の、レーザビームの波面を変調させるための信号処理と、後述の、レーザビームの走査を行うための信号処理とを行うように設計されている。
各レーザ30,32,34を駆動するため、信号処理回路60は、外部から供給された映像信号に基づき、網膜14上に投影すべき画像上の各画素ごとに、レーザ光にとって必要な色と強度とを実現するために必要な駆動信号を、各レーザドライバ70,72,74を介して各レーザ30,32,34に供給する。
以上の説明から明らかなように、本実施形態においては、光源ユニット20が前記(1)項における「光源手段」の一例を構成しているのである。
以上説明した光源ユニット20は、結合光学系80においてレーザビームを出射させる。そこから出射したレーザビームは、光伝送媒体としての光ファイバ82と、その光ファイバ82の後端から放射させられるレーザビームを平行光化するコリメート光学系84とをそれらの順に経て波面変調光学系22に入射する。
この波面変調光学系22は、光源ユニット20から出射したレーザビームの波面(波面曲率)を、網膜14上に投影すべき画像上の各画素に応じて変調させる光学系である。
具体的には、この波面変調光学系22は、集光レンズとそれの光軸上において変位可能な可動ミラーとの組合せを主体として構成されている。さらに具体的には、波面変調光学系22は、コリメート光学系84から出射したレーザビームが入射するハーフミラー90と、そこで反射して出射したレーザビームを集光する集光レンズ92とを備え、さらに、その集光レンズ92から出射したレーザビームを平面ミラーで反射する可動ミラー94と、その可動ミラー94の位置を光軸上において変化させるアクチュエータ96とを備えている。アクチュエータ96の一例は、圧電素子を利用する形式である。この波面変調光学系22においては、可動ミラー94において反射したレーザビームが集光レンズ92およびハーフミラー90を透過して前述の走査装置24に入射する。
なお付言するに、この波面変調光学系22においてレーザビームの波面を変調させる方式として別のものを採用することが可能である。例えば、アクチュエータによって焦点距離が変化させられる可変焦点ミラーを用い、入射したレーザビームを反射する反射面の曲率を変化させてそのレーザビームの波面を変調するという方式を採用することが可能である。
ところで、前述の信号処理回路60は、外部から供給された映像信号に基づき、レーザビームの波面を変調させるためにアクチュエータ96に供給することが必要な波面変調信号を生成し、それをアクチュエータ96に供給するように設計されている。これが前述の、レーザビームの波面を変調させるための信号処理である。アクチュエータ96は、それに供給された波面変調信号に基づき、波面変調光学系22を出射するレーザビームの波面を変調させる。
以上のように構成された波面変調光学系22を出射したレーザビームは、前述の走査装置24に入射する。この走査装置24は、水平走査系100と垂直走査系102とを備えている。
水平走査系100は、表示すべき画像の1フレームごとに、レーザビームを水平な複数の走査線に沿って水平にラスタ走査する水平走査(これが主走査の一例である。)を行う光学系である。これに対し、垂直走査系102は、表示すべき画像の1フレームごとに、レーザビームを最初の走査線から最後の走査線に向かって垂直に走査する垂直走査(これが副走査の一例である。)を行う光学系である。
すなわち、本実施形態においては、水平走査系100が前記(1)項における「主走査部」の一例を構成し、垂直走査系102が同項における「副走査部」の一例を構成しているのである。
具体的に説明するに、水平走査系100は、本実施形態においては、機械的偏向を行う一方向回転ミラーとしてのポリゴンミラー104と、そのポリゴンミラー104を回転させるモータ106と、そのモータ106の回転を制御する水平走査系ドライバ108とを備えている。
ポリゴンミラー104は、それの回転軸線のまわりに並んだ複数の反射面109を備えており、入射レーザビームを1つの反射面109が通過するごとに1回偏向が行われる。その偏向されたレーザビームは、リレー光学系110によって垂直走査系102に伝送される。本実施形態においては、リレー光学系110が光路上において複数個の光学素子112,114を並んで備えている。
ポリゴンミラー104は、モータ106により、そのポリゴンミラー104に入射したレーザビームの光軸と交差する回転軸線まわりに高速で回転させられる。このポリゴンミラー104の回転速度を制御するために、信号処理回路60から供給される水平走査駆動信号に基づいて水平走査系ドライバ108がモータ106を駆動する。
すなわち、本実施形態においては、ポリゴンミラー104が前記(2)項における「第1のポリゴンミラー」の一例を構成しているのである。
このRSDは、ビームディテクタ120を定位置に備えている。ビームディテクタ120は、ポリゴンミラー104によって偏向されたレーザビーム(すなわち、主走査方向において走査されたレーザビーム)を検出することにより、それの主走査方向における位置を検出するために設けられている。ビームディテクタ120の一例は、ホトダイオードである。
すなわち、本実施形態においては、ビームディテクタ120が前記(4)または(5)項における「第1のビームディテクタ」の一例を構成しているのである。
本実施形態においては、図2に示すように、レーザビームによって2次元的に走査される全領域であるレーザ走査領域(画像表示面上の全領域)が、画像表示領域(観察者の眼10の瞳孔12に入射する領域)より広く設定されており、結局、その画像表示領域の外側に、画像が表示されない非画像表示領域が存在している。
主走査に関して説明するに、ポリゴンミラー104から出射するレーザビームの全偏向角のうちそのレーザビームが画像表示領域に入射する領域は、全偏向角のうちの中央領域であり、非画像表示領域に入射する領域は、その中央領域より外側の領域である。
本実施形態においては、ビームディテクタ120が、レーザビームを上記中央領域の外側において検出するように設計されている。具体的には、本実施形態においては、図2に示すように、ポリゴンミラー104から出射したレーザビームの位置が、ポリゴンミラー104のうちの1つの反射面109によってレーザビームの偏向が開始された位置から、そのレーザビームが画像表示領域に入射することが開始される位置(画像表示開始位置)までの間に設定された検出領域内に位置するときに、ビームディテクタ120にレーザビームが入射するように設計されている。
レーザビームの光量は、それの偏向角に応じて信号処理回路60によって制御される。具体的には、図2に示すように、ビームディテクタ120による検出が行われる検出領域とそれに先行する領域とを含むレーザ発光領域においては通常光量とされ、その検出領域から画像表示開始位置までの非画像表示領域においては最少光量に減少させられ、画像表示開始位置に後続する画像表示領域においては通常光量(ただし、画素ごとに映像信号(画像データ)に対応した光量となる。)に復元される。
以上、主走査に関し、レーザ走査領域と画像表示領域との関係とレーザビームの光量制御とを説明したが、このことは後述の副走査についても同様である。
ビームディテクタ120は、レーザビームの入射光量に応じた信号をBD信号として出力し、その出力されたBD信号は信号処理回路60に供給される。このビームディテクタ120から出力されたBD信号に応答し、信号処理回路60は、ビームディテクタ120がレーザビームを検出した時期から設定時間が経過したタイミングを主走査開始タイミングとして決定する。
以上、水平走査系100を説明したが、垂直走査系102は、機械的偏向を行う一方向回転ミラーとしてのポリゴンミラー130と、それを回転させるモータ132と、それの回転を制御する垂直走査系ドライバ134とを備えている。
すなわち、本実施形態においては、ポリゴンミラー130が前記(1)項における「回転式ミラー」の一例を構成し、前記(2)項における「第2のポリゴンミラー」の一例を構成しているのである。
ポリゴンミラー130には、水平走査系100から出射したレーザビームがリレー光学系110によって集光されて入射するようになっている。ポリゴンミラー130は、回転軸線と同軸な一円周に沿って並んだ複数の反射面138を備えている。反射面138の数は、水平走査のためのポリゴンミラー104より少なく設定され、それに伴い、ポリゴンミラー130の直径もポリゴンミラー104より小さく設定されている。
このポリゴンミラー130は、モータ132により、そのポリゴンミラー130に入射したレーザビームの光軸と交差する回転軸線まわりに回転させられる。
このポリゴンミラー130の回転速度を制御するために、信号処理回路60から供給される垂直走査駆動信号に基づいて垂直走査系ドライバ134がモータ132を駆動する。
本実施形態においては、信号処理回路60により、ポリゴンミラー130によって偏向されたレーザビームの副走査方向(垂直方向)における位置が、モータ132を駆動するために垂直走査系ドライバ134に供給される垂直走査駆動信号(これは、モータ132に供給される駆動信号に相当する。)に基づいて推定される。ポリゴンミラー130にあっては、回転速度がポリゴンミラー104より遅いため、ポリゴンミラー130の回転位置を垂直走査駆動信号に基づいて精度よく推定することが容易である。
信号処理回路60は、垂直走査駆動信号に基づき、ポリゴンミラー130によって偏向されたレーザビームの副走査方向における位置が、図2に二点鎖線で示す基準位置に到達したか否かを判定する。到達したと判定すると、信号処理回路60は、その到達時期から設定時間が経過したタイミングを副走査開始タイミングとして決定する。
さらに、信号処理回路60は、主走査開始タイミングと副走査開始タイミングとが実質的に一緒に到来したときに、必要なレーザ駆動信号を各レーザドライバ70,72,74に供給する。これにより、各走査線ごとに、主走査開始タイミングで画像表示が開始され、各フレームごとに、副走査開始タイミングで画像表示が開始される。その結果、主走査開始タイミングと副走査開始タイミングとの同期が、レーザ走査領域内に画像を表示すべき位置との関係において最適化される。
以上、主走査開始タイミングと副走査開始タイミングとの同期制御を概念的に説明したが、以下、具体的に説明する。
図3には、その同期制御を実施するために信号処理回路60のコンピュータによって実行される同期制御プログラムの内容が概念的にフローチャートで表されている。
この同期制御プログラムはコンピュータによって繰返し実行される。各回の実行時には、まず、ステップS1(以下、単に「S1」で表す。他のステップについても同じとする。)において、信号処理回路60が垂直走査系ドライバ134に供給する垂直走査駆動信号と同じものが入力される。
次に、S2において、その入力された垂直走査駆動信号に基づき、ポリゴンミラー130によって偏向されたレーザビームが、図2に示す基準位置に達するのが待たれる。達したならば、判定がYESとなり、その後、所定時間後、S3において、副走査開始タイミングが到来する。
すると、S4において、ビームディテクタ120から入力されるBD信号に基づき、ポリゴンミラー104によって偏向されたレーザビームがビームディテクタ120によって検出されるのが待たれる。検出されたならば、判定がYESとなり、その後、所定時間後、S5において、主走査開始タイミングが到来する。
続いて、S6において、表示すべき画像のうち今回のフレームについて画像表示を開始すべき時期が到来したとして、レーザ駆動信号が各レーザドライバ70,72,74に供給されることが開始され、画像のうち今回のフレームについて画像の表示が開始される。
以上で、この同期制御プログラムの一回の実行が終了する。
したがって、本実施形態によれば、副走査のためにポリゴンミラー130を使用するにもかからわず、副走査開始タイミングと主走査開始タイミングとの関係が、設定位置に精度よく画像を表示する目的との関係において適正なものとなり、これにより、主走査開始タイミングと副走査開始タイミングとの同期が適正に実現されることとなる。
以上説明した水平走査系100と垂直走査系102との共働により、レーザビームが2次元的に走査され、その走査されたレーザビームによって表現される画像が、リレー光学系140を経て観察者の眼10に照射される。本実施形態においては、リレー光学系140が光路上において複数個の光学素子142,144を並んで備えている。
以上の説明から明らかなように、本実施形態においては、信号処理回路60のうち図3の同期制御プログラムを実行する部分が前記(3)または(4)項における「同期制御装置」の一例を構成しているのである。
このRSDにおいては、眼10のレンズも光学系として機能するため、眼10の光学的特性も考慮することが重要である。
すなわち、眼10においては、瞳孔12上でのビーム径が大きいほど、網膜14上でのレーザビームの集光領域の面積(ビームウェストの幅)が狭くなる。網膜14上でのビームウェストの幅が狭いほど、網膜14による解像度が向上する。
一方、このRSDを、ポリゴンミラー130およびそれより上流側の光学系に関連する条件として、(a)ポリゴンミラー130上でのビーム径が瞳孔12上でのビーム径より小さいという条件と、(b)ポリゴンミラー130による偏向角が、瞳孔12に入射するレーザビームの画角より大きいという条件とが成立するように設計し、かつ、ポリゴンミラー130より下流側の光学系に関連する条件として、(c)瞳孔12上でのビーム径がポリゴンミラー130上でのビーム径より大きいという条件と、(d)瞳孔12に入射するレーザビームの画角がポリゴンミラー130による偏向角より小さいという条件とが成立するように設計することは、理論的にも実用的にも可能である。
したがって、副走査のためにポリゴンミラー130を用いるて、その反射面138の数をできる限り少なくしてそれの偏向角をできる限り大きくすれば、ポリゴンミラー130の小形軽量化のみならず、網膜14による解像度を確保することも可能となる。
このような知見に基づき、本実施形態においては、副走査のためのポリゴンミラー130における反射面138の数が、主走査のためのポリゴンミラー104における反射面109の数より少ないものとされている。
次に、本発明の第2実施形態を説明する。ただし、本実施形態は、第1実施形態と共通する要素が多く、異なる要素は、走査されたレーザビームの検出に関連する要素に関するもののみであるため、異なる要素についてのみ詳細に説明し、共通する要素については同一の符号または名称を使用して引用することにより、詳細な説明を省略する。
第1実施形態においては、副走査のためのポリゴンミラー130によって偏向されたレーザビームの位置、すなわち、ポリゴンミラー130の回転位置が垂直走査駆動信号に基づいて推定されるようになっている。
これに対し、本実施形態においては、図4に示すように、副走査のためのポリゴンミラー130によって偏向されたレーザビームが、主走査のためのポリゴンミラー104と同様に、ビームディテクタ200を用いて検出される。
図4に示すように、ビームディテクタ200は、反射面202を利用することにより、ポリゴンミラー130によって偏向されるレーザビームのうち、画像表示領域210(図5参照)の外側に位置する非画像表示領域212に入射するものを検出するように配置されている。
具体的には、ビームディテクタ200および反射面202は、ポリゴンミラー130によって偏向されるレーザビームのうち、非画像表示領域212における副走査開始側に位置する部分に入射するものを検出するように配置されている。
したがって、本実施形態によれば、ポリゴンミラー130によって偏向されたレーザビームの副走査方向における位置を、第1実施形態において垂直走査駆動信号を用いて推定する場合より、正確に検出することが容易となる。
次に、本発明の第3実施形態を説明する。ただし、本実施形態は、第2実施形態と共通する要素が多く、異なる要素は、走査されたレーザビームの検出に関連する要素に関するもののみであるため、異なる要素についてのみ詳細に説明し、共通する要素については同一の符号または名称を使用して引用することにより、詳細な説明を省略する。
第2実施形態においては、主走査のためのポリゴンミラー104によって偏向されたレーザビームを検出するために、ビームディテクタ120が、ポリゴンミラー130より上流側においてレーザビームを受光するように配置されている。
これに対し、本実施形態においては、図6に示すように、ポリゴンミラー104によって偏向されたレーザビームの位置を、ポリゴンミラー130の面倒れの影響を受けた状態で検出するために、ビームディテクタ230が、ポリゴンミラー130より下流側においてレーザビームを受光するように配置されている。
第2実施形態においては、ポリゴンミラー104によってレーザビームが、主走査方向に平行に固定された一偏向面上において往復偏向させられる状況において、ビームディテクタ120が、そのように往復偏向させられるレーザビームの主走査方向における位置が基準位置であることを、ポリゴンミラー104の各反射面109ごとに検出する。その基準位置は、走査線の位置変化とは無関係に一定である。
したがって、第2実施形態においては、ビームディテクタ120がレーザビームを検出しなければならない領域は、レーザビームを同じ位置において受光できる領域で足りる。
これに対し、本実施形態においては、ポリゴンミラー104から出射したレーザビームがポリゴンミラー130により、主走査方向と交差する方向に固定された一偏向面上において往復偏向させられる状況において、ビームディテクタ230が、そのように往復偏向させられるレーザビームの主走査方向における位置が基準位置であることを、ポリゴンミラー104の各反射面109ごとに検出する。その基準位置は、走査線の位置変化に伴って変化し、具体的には、主走査の進行につれて副走査方向において開始側から終了側に向かって移動する。
したがって、本実施形態においては、ビームディテクタ230がレーザビームを検出しなければならない領域は、副走査方向に延びる領域であることが必要である。
そのため、本実施形態においては、図6に示すように、ポリゴンミラー130から出射したレーザビームの主走査方向における位置が基準位置にあるときにそのレーザビームを選択的に受光してビームディテクタ230に投光する機構234が設けられる。
その機構234の一例は、レーザビームの主走査方向における位置が基準位置にあるときにそのレーザビームを選択的に通過させるスリットと、そのスリットを通過したレーザビームを反射するミラーと、そのミラーから出射するレーザビームを集光してビームディテクタ230に入射させる集光手段とを含むように構成される。
機構234のこの一例は、図10に示すように、上記スリット240と、上記ミラーとしての凹面鏡242とを含み、かつ、その凹面鏡242からの反射光がビームディテクタ230に集光されて入射する構成とすることが可能である。
図7には、ビームディテクタ200がレーザビームを検出する領域が第1検出領域として示される一方、ビームディテクタ230がレーザビームを検出する領域が第2検出領域として示されている。
図8には、レーザビームが発光されるタイミングがタイミングチャートで表されている。このタイミングチャートにおいては、ビームディテクタ200から出力される第1BD信号と、ビームディテクタ230から出力される第2BD信号と、レーザ30,32,34の出力とについて経時的な変化が示されている。
なお、このタイミングチャートの定義によれば、各ビームディテクタ200,230の出力信号は、レーザビームを検出している検出状態または電源が投入されていない状態においてはローレベルLにあり、電源が投入されており、かつ、レーザビームを検出していない非検出状態においてはハイレベルHにある。レーザ30,32,34の出力信号は、レーザビームを発光しない非発光状態においてはローレベルLにあり、発光している発光状態においてはハイレベルHにある。
まず、初期設定において、レーザ30,32,34が非発光状態から発光状態に切り換わると、いずれのビームディテクタ200,230も、出力信号がローレベルからハイレベルに切り換わる。この時点では、いずれのビームディテクタ200,230も、レーザビームを受光していない。
レーザビームの走査が開始されると、信号処理回路60のコンピュータにより、図9にフローチャートで概念的に表されている同期制御プログラムが実行される。以下、この同期制御プログラムの内容を図8のタイミングチャートを参照しつつ説明する。
この同期制御プログラムにおいては、まず、S31において、レーザビームがビームディテクタ200によって検出されためにそれの第1BD信号がハイレベルからローレベルに変化するのが待たれる。変化したならば、判定がYESとなり、S32において、各レーザ30,32,34からのレーザビームの発光が停止される。
続いて、S33において、時間t1が経過するのが待たれる。この時間t1の長さは、レーザ走査領域を表す外側矩形と画像表示領域を表す内側矩形との間の領域のうち副走査開始側の部分矩形領域の副走査方向寸法に応じて予め設定される。
時間t1が経過すると、S33の判定がYESとなり、副走査開始タイミングが到来したと判定される。その後、S34において、各レーザ30,32,34からレーザビームが発光される。
続いて、S35において、レーザビームがビームディテクタ230によって検出されためにそれの第2BD信号がハイレベルからローレベルに変化するのが待たれる。変化したならば、判定がYESとなり、S36において、各レーザ30,32,34からのレーザビームの発光が停止される。
続いて、S37において、時間t2が経過するのが待たれる。この時間t2の長さは、レーザ走査領域を表す外側矩形と画像表示領域を表す内側矩形との間の領域のうち主走査開始側の部分矩形領域の主走査方向寸法に応じて予め設定される。
時間t2が経過すると、S37の判定がYESとなり、主走査開始タイミングが到来したと判定される。その後、S38において、表示すべき画像の1フレーム中の1ライン分を表示するための画像信号が各レーザドライバ70,72,74に供給される。これにより、各レーザ30,32,34からのレーザビームの発光が画像表示のために開始される。
その後、1ライン分の画像信号の供給が終了したならば、S39において、レーザビームの発光が停止される。続いて、S40において、時間t3が経過するのが待たれる。この時間t3の長さは、レーザ走査領域を表す外側矩形と画像表示領域を表す内側矩形との間の領域のうち主走査終了側の部分矩形領域の主走査方向寸法に応じて予め設定される。
時間t3が経過すると、S40の判定がYESとなり、S41において、1フレーム分の画像信号の供給が終了したか否かが判定される。今回は、未だ終了してはいないと仮定すれば、判定がNOとなり、S34に戻るが、今回は、終了したと仮定すれば、S41の判定がYESとなり、S42において、時間t4が経過するのが待たれる。この時間t4の長さは、レーザ走査領域を表す外側矩形と画像表示領域を表す内側矩形との間の領域のうち副走査終了側の部分矩形領域の副走査方向寸法に応じて予め設定される。
時間t4が経過すると、S42の判定がYESとなり、S43において、レーザビームの発光が、レーザビームの位置検出すなわちポリゴンミラー104,130の回転位置検出を目的として行われる。
以上で、この同期制御プログラムの一回の実行が終了する。
以上の説明から明らかなように、本実施形態においては、信号処理回路60のうち図9の同期制御プログラムを実行する部分が前記(3)または(5)項における「同期制御装置」の一例を構成しているのである。
以上、本発明の実施の形態のいくつかを図面に基づいて詳細に説明したが、これらは例示であり、前記[課題を解決するための手段]の欄に記載の態様を始めとして、当業者の知識に基づいて種々の変形、改良を施した他の形態で本発明を実施することが可能である。