JP2004169233A - 透湿防水性コーティング布帛とその製造方法 - Google Patents

透湿防水性コーティング布帛とその製造方法 Download PDF

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由明 來島
Kiyoshi Nakagawa
清 中川
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Abstract

【課題】コーティング布帛でありながら、ラミネート布帛に近似した風合いと引裂強度を有し、かつ樹脂膜の見栄え感に優れ、さらにコーティング布帛が本来有する剥離強度と優れた透湿防水性能を有する透湿防水コーティング布帛とその製造方法を提供する。
【解決手段】繊維布帛の片面に、ポリウレタン樹脂を主体とする10〜150μm厚の有孔の透湿防水膜を有しており、前記透湿防水膜と繊維布帛の接着面とは、接着界面に微少な空隙を有しながら、5〜80%の面積比で部分的に接着している透湿防水性コーティング布帛。前記有孔の透湿防水膜上に、ポリウレタン樹脂を主体とする1〜15μm厚の無孔の透湿防水膜を設けてもよい。さらに、前記有孔の透湿防水膜中に、平均粒径が1μm以下で、かつN,N−ジメチルホルムアミドの吸着量が200ミリリットル/100g以上である無機微粉末を1〜30質量%含有させてもよい。
【選択図】 なし

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、アウトドア衣料、スポーツ衣料等の各種衣料用として用いられる透湿防水性能と風合い及びコーティング膜の視覚効果に優れた透湿防水性コーティング布帛とその製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
透湿性と防水性を併せ持つ透湿防水布帛は、身体からの発汗による水蒸気を衣服外へ放出する機能と、雨が衣服内に浸入するのを防ぐ機能を有しており、これらの機能を付与するために、糸を高密度に織り込んだ高密度織物や、ポリウレタン系樹脂、ポリアミノ酸系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリテトラフルオロエチレン樹脂等を布帛にコーティング又はラミネートしたものがよく知られている。これらは、運動に伴う発汗量の比較的多いスポーツやアウトドア衣料分野に多く用いられており、スキー、アスレチック、登山分野では必要不可欠な素材となっている。
【0003】
高密度織物タイプは、その構成上透湿性能の面では有利であるが防水性能の面では不利であり、コーティングタイプとラミネートタイプは、樹脂層が有孔のものは優れた透湿性能は得やすいが、十分な防水性能を得難く、また樹脂層が無孔のものは反対に優れた防水性能は得やすいが十分な透湿性能を得難い等、各々利点と欠点を有している。
【0004】
またラミネートタイプは、広範囲な素材に対応可能な利点を持っており、極端な透湿性能の低下を防ぐために通常は接着占有面積を50%以下にして接着しているので、ソフトな風合いを得やすい。反対にコーティングタイプは、素材に樹脂をダイレクトに塗布するために適用素材の制限はあるものの、加工コスト面で有利であり、かつ優れた樹脂膜の接着強度と耐摩耗性を得やすい利点を有している。
【0005】
近年、素材の薄地軽量化、コストダウン等の背景から、これらの透湿防水布を裏地なしで縫製するいわゆる一枚物として使用のニーズが強くあるが、ラミネートタイプは樹脂膜の接着強度や摩耗等の耐久性に劣り、コーティングタイプは布帛としての引裂強度が劣るという各々の大きな問題点を有し、さらに一枚物として使う場合、裏面である樹脂膜に視覚的な見栄え感が要求されるようになっている。
【0006】
これらの要望に応えるために、特許文献1では、繊維布帛の片面に水溶性物質を塗布し、その反対面にポリウレタン樹脂溶液を湿式製膜し、水溶性物質を溶出、除去することでソフトな風合いの透湿防水布帛を得る方法が、また特許文献2では、繊維布帛上に水溶性物質を塗布し、この塗布面にポリウレタン樹脂溶液を湿式製膜し、水溶性物質を溶出、除去することで上記と同様のソフトな風合いの透湿防水布帛を得る方法が提案されている。しかし、これらの方法における実施態様は、いずれも水溶性物質を乾燥固化することなく、ポリウレタン樹脂溶液を湿式製膜し、単に前記樹脂溶液の布帛への浸透を抑えて風合いをソフトにする手法であり、得られる布帛は一枚物として使用する上で大きな問題点を有しており、また水含有の水溶性物質が繊維布帛中に含浸状態で存在するとき、湿式用のポリウレタン樹脂を整然と製膜することは困難である。
【0007】
さらに、特許文献3では、繊維布帛上に水溶性物質を含有するポリウレタン樹脂主体の合成重合体溶液を乾式製膜後、前記水溶性物質を溶出、除去して、透湿防水布帛を得る方法が提案されており、特許文献4では、繊維布帛上に第一工程として水溶性物質を含有するポリウレタン樹脂主体の合成重合体溶液を乾式製膜あるいは湿式製膜後、前記樹脂膜上に第二工程として、平均粒径が1μm以下で、かつN,N−ジメチルホルムアミドの吸着量が200ミリリットル/100g以上である無機微粉末を含有したポリウレタン樹脂主体の合成重合体溶液を湿式製膜する透湿防水布帛の製造方法が提案されている。しかし、これらの方法における実施態様は、水溶性物質含有樹脂から水溶性物質を溶出、除去して、風合いを向上させる手法であり、風合い以外の特性の向上は認められず、ラミネート布帛に近似した樹脂膜外観と風合いを得ることは困難であった。
【0008】
【特許文献1】
特開平7−216752号公報
【特許文献2】
特開平7−258976号公報
【特許文献3】
特開平3−137272号公報
【特許文献4】
特開平7−229070号公報
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、このような現状に鑑みて行われたもので、コーティング布帛でありながら、ラミネート布帛に近似した風合いと引裂強度を有し、かつ樹脂膜の見栄え感に優れ、さらにコーティング布帛が本来有する剥離強度と優れた透湿防水性能を有する透湿防水コーティング布帛とその製造方法を提供することを技術的な課題とするものである。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意検討した結果、本発明に到達した。すなわち、本発明は次の構成を要旨とするものである。
(1)繊維布帛の片面に、ポリウレタン樹脂を主体とする10〜150μm厚の有孔の透湿防水膜を有しており、前記透湿防水膜と繊維布帛の接着面とは、接着界面に微少な空隙を有しながら、5〜80%の面積比で部分的に接着していることを特徴とする透湿防水性コーティング布帛。
(2)前記有孔の透湿防水膜上に、ポリウレタン樹脂を主体とする1〜15μm厚の無孔の透湿防水膜を有していることを特徴とする上記(1)記載の透湿防水性コーティング布帛。
(3)前記有孔の透湿防水膜中に、平均粒径が1μm以下で、かつN,N−ジメチルホルムアミドの吸着量が200ミリリットル/100g以上である無機微粉末を1〜30質量%含有していることを特徴とする上記(1)又は(2)記載の透湿防水性コーティング布帛。
(4)繊維布帛の片面に、第一工程として、水溶性高分子を5〜80%の面積比で非全面状に、繊維布帛内部及び/又は繊維布帛面からの乾燥膜厚が50μm以下になるよう塗布,乾燥後、第二工程として、前記塗布面にポリウレタン樹脂主体の合成重合体溶液を湿式コーティング法にて製膜を行うに際し、第二工程の凝固及び湯洗時に第一工程で塗布した水溶性物質を溶出、除去しながら、10〜150μmの透湿防水膜を形成することを特徴とする透湿防水性コーティング布帛の製造方法。
(5)前記第二工程で形成した透湿防水膜上に、第三工程として、ポリウレタン樹脂主体の合成重合体溶液を乾式コーティング法により、1〜15μm厚の無孔の透湿防水膜を形成することを特徴とする上記(4)記載の透湿防水性コーティング布帛の製造方法。
(6)湿式コーティング法にて製膜を行うポリウレタン樹脂主体の合成重合体中に、平均粒径が1μm以下で、かつN,N−ジメチルホルムアミドの吸着量が200ミリリットル/100g以上である無機微粉末を1〜30質量%含有させることを特徴とする上記(4)又は(5)記載の透湿防水性コーティング布帛の製造方法。
【0011】
【発明の実施の形態】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の透湿防水性コーティング布帛は、繊維布帛の片面に、ポリウレタン樹脂を主体とする10〜150μm厚の有孔の透湿防水膜を有し、透湿防水膜と繊維布帛の接着面とは、接着界面に微少な空隙を有しながら、5〜80%の面積比で部分的に接着している布帛と、前記有孔の透湿防水膜上に、ポリウレタン樹脂を主体とする1〜15μm厚の無孔の透湿防水膜を有している布帛を含むものである。
本発明で用いられる繊維布帛としては、例えばナイロン6やナイロン66で代表されるポリアミド系合成繊維、ポリエチレンテレフタレートで代表されるポリエステル系合成繊維、ポリアクリルニトリル系合成繊維、ポリビニルアルコール系合成繊維、トリアセテート等の半合成繊維あるいはナイロン6/木綿、ポリエチレンテレフタレート/木綿等の混合繊維からなる織物、編物、不織布などを挙げることができる。
【0012】
本発明では、上記の繊維布帛に撥水剤処理を施したものを用いてもよい。これは、透湿防水布の製造時に樹脂溶液の布帛内部への浸透を防ぐための一手段である。この場合の撥水剤としては、例えばパラフィン系撥水剤やポリシロキサン系撥水剤、フッ素系撥水剤などの公知のものを使用すればよく、その処理も、一般に行われているパディング法、スプレー法など、公知の方法で行えばよい。特に良好な撥水性を必要とする場合にはフッ素系撥水剤を使用し、例えば、アサヒガード730(旭硝子株式会社製、フッ素系撥水剤エマルジョン)を5質量%の水分散液でパディング(絞り率35%)した後、160℃で1分の熱処理を行う方法などによって行えばよい。
【0013】
本発明の製造方法では、第一工程として、上記の繊維布帛の片面に水溶性高分子溶液を塗布,乾燥する。本発明でいう水溶性高分子としては、例えば澱粉,デキストリン,アルギン酸ソーダ等の多糖類、酪酸セルロース,酢酸酪酸セルロース等のセルロースエステル類、メチルセルロース,エチルセルロース,カルボキシメチルセルロース,ヒドロキシエチルセルロース等のセルロースエーテル類、ゼラチン,アルブミン,グロブリン等の水溶性蛋白質高分子化合物、ポリビニルアルコール,ポリビニルピロリドン,ポリアクリルアミド等の合成水溶性高分子化合物又はそれらの誘導体等を挙げることができる。これらの化合物は、単独又は混合で水溶液としてあるいは加工性,液粘性等を考慮して、乳化剤でエマルジョン化したものを用いてもよい。
【0014】
本発明においては、水溶性高分子は上記物質に何ら限定されるものではないが、後述のスクリーン、グラビア加工機を用いたときの樹脂の通過性,転写性等の加工性、作業性及び安全性等から鑑みて、カルボキシメチルセルロース系糊剤が好適に挙げられる。
【0015】
水溶性物質は、繊維布帛に対し塗布面積率が5〜80%、好ましくは10〜60%の範囲で非全面状になるよう塗布する。本発明でいう非全面状というのは、全面状あるいは全面状に近似した部分がない状態のことであり、例えば塗布する柄がドット状,格子状,線状,斜線型,ピラミッド型,亀甲柄等の均一柄あるいはそれに近似した柄や、不均一でも部分的に点在している柄であれば何れでもよいが、後述の第二工程の加工性等から鑑みて、ドット状のような微細でかつ不連続柄が好適に挙げられる。
【0016】
塗布面積率が5%未満では、上述の繊維布帛と後述の有孔膜の接着界面での微少な空隙が少なくなり、その結果本発明で得られる布帛のラミネート調の風合い,引裂強度及び樹脂膜の見栄え感が劣り、また80%を超えると、第二工程での凝固,湯洗工程で水溶性物質が完全に溶出し難くなり、完全に溶出しようとする場合加工速度が極端に遅くなるので加工コストが高くなり、かつ繊維布帛に対する第二工程の樹脂膜の接着強度が不十分となりやすく、コーティング加工時に樹脂剥離を生じたり、あるいはコーティング加工ができたとしても着用時の摩耗剥離等を生じやすいので好ましくない。
【0017】
上記水溶性物質を塗布する方法としては、一般的なフラットスクリーン、ロータリースクリーン等の各種プリント機あるいはグラビア加工機を用いて、所望のパターンに塗布,乾燥により行えばよく、繊維布帛内部及び/又は繊維布帛面からの乾燥膜厚が50μm以下になるよう塗布する。本発明で塗布する際、水溶性物質を繊維布帛内部又は繊維布帛上の一方又は双方のどちらでもよいが、繊維布帛上の塗布厚は繊維布帛の凸面から50μm以下であることが好ましい。塗布厚が50μmを超えると、上述と同様に第二工程での水溶性物質の溶出性に問題が生じやすく、さらに第二工程で膜厚50μmを超える透湿防水膜を形成したとしても、外層表面はピンホールが生じやすくなって耐水圧低下の原因となりやすいので好ましくない。塗布厚が50μm以下であれば耐水圧への影響が少なく、また、水溶性物質は主として塗布面とは反対側から溶出するので、水溶性物質の塗布が繊維布帛内部のみであれば、第二工程での溶出除去が容易となりやすい。
【0018】
本発明の製造方法では、第二工程として、第一工程での水溶性物質の塗布面に、ポリウレタン樹脂主体の合成重合体溶液を湿式コーティング法にて製膜を行う。製膜する際、前記樹脂溶液を塗布して10〜40℃の水中に導入して30秒間〜2分間樹脂分を凝固させた後に、完全に脱溶媒するために40〜80℃の温度で5〜15分間湯洗し、乾燥することにより樹脂膜を形成する一般的な湿式コーティング法を採用すればよく、この樹脂分の凝固及び湯洗工程時に、第一工程で塗布し,乾燥させた水溶性物質を完全に溶出除去する。
【0019】
ポリウレタン樹脂主体の合成重合体溶液を塗布する方法としては、例えばコンマコータ、ナイフコータ、リバースコータ等が挙げられ、塗布厚が10〜150μm、好ましくは30〜100μmになるように塗布量を調節して行えばよい。塗布厚が10μm未満では、用いる繊維布帛にも依存するが耐水圧に乏しく、また150μmを超えると、風合いが硬く透湿性能も劣ってくるので好ましくない。
【0020】
本発明で言うポリウレタン樹脂主体の合成重合体とは、ポリウレタン樹脂のみからなるものやポリウレタン成分を50質量%以上含むものをいい、ポリウレタン樹脂以外の合成重合体を含む場合の合成重合体としては、例えばポリアクリル酸、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリブタジエン、ポリアミノ酸等やこれらの共重合体等が挙げられ、勿論、フッ素やシリコン等で変性した化合物も使用することができる。
【0021】
ポリウレタン樹脂自体は、ポリイソシアネートとポリオールを反応せしめて得られる共重合体であり、イソシアネート成分として芳香族ジイソシアネート、脂肪族ジイソシアネート及び脂環族ジイソシアネートの単独又はこれらの混合物を用い、例えば、トリレン2,4−ジイソシアネート、4,4’―ジフエニルメタンジイソシアネート、1,6−ヘキサンジイソシアネート、1,4−シクロヘキサンジイソシアネート等を主成分として用い、必要に応じ3官能以上のイソシアネートを使用してもよい。また、ポリオール成分としては、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオールを用い、ポリエーテルポリオールとしては、例えばポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等を用い、ポリエステルポリオールとしては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール等のジオールとアジピン酸、セバチン酸などの2塩基酸との反応生成物やカプロラクトン等の開環重合物を用いる。
【0022】
本発明では、樹脂層と繊維布帛間の耐剥離性能を向上させる目的で、第二工程において樹脂及び繊維布帛との親和性の高い化合物を併用することが望ましく、その化合物としてイソシアネート化合物が好適に使用できる。イソシアネート化合物としては、トリレン2,4−ジイソシアネート、ジフエニルメタンジイソシアネート、イソフオロンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、又はこれらのジイソシアネート類3モルと、活性水素を含有する化合物(例えば、トリメチロールプロパン、グリセリン等)1モルとの付加反応によって得られるトリイソシアネート類が使用できる。上記のイソシアネート類は、イソシアネート基が遊離した形のものであっても、あるいはフェノール、ラクタム、メチルケトンなどで付加ブロック体を形成させ、熱処理によって解離させる形のものであってもよく、作業性や用途などにより適宜使い分ければよい。
【0023】
イソシアネート化合物を使用する際の使用量としては、上記ポリウレタン樹脂主体の合成重合体溶液に対して0.1〜10質量%の割合で使用することが望ましく、使用量が0.1質量%未満であれば、布帛に対する樹脂層の接着力があまり向上せず、また10質量%を超えると、風合いが硬化する傾向が認められるようになるので好ましくない。
【0024】
また、上述のポリウレタン樹脂主体の合成重合体溶液に、平均粒径が1μm以下で、かつN,N−ジメチルホルムアミドの吸着量が200ミリリットル/100g以上である無機微粉末を1〜30質量%、好ましくは3〜25質量%含有させると、より一層優れた透湿性能及び樹脂膜のマット感,剥離強度を得ることができる。ここでいうN,N−ジメチルホルムアミドの吸着量とは、JIS・K−5101の煮アマニ油の代わりにN,N−ジメチルホルムアミドを用い、無機微粉末5gをガラス平板状物の上に置き、N,N−ジメチルホルムアミドを1滴滴下するごとにステンレス製のへらを用いて練り合わせる作業を繰り返し、N,N−ジメチルホルムアミドの1滴で急激に柔らかくなる直前までに要したN,N−ジメチルホルムアミドの体積〔単位:ミリリットル〕を無機微粉末100g当たりに換算した数値である。
【0025】
このような無機微粉末としては、例えば通常の湿式粉砕法やボールミル粉砕法で微粉化された無機微粉末や、ハロゲン化金属の気相酸化法、燃焼加水分解法、電弧法等の乾式法によって得られる金属酸化物微粉末を挙げることができ、中でもこれらの方法により製造される二酸化ケイ素微粉末を代表として挙げることができる。無機微粉末の使用量としては、ポリウレタン樹脂主体の合成重合体に対し1〜30質量%、好ましくしくは3〜20質量%以上用いる。無機微粉末の配合量が1質量%未満では、得られるコーティング樹脂膜の微細空洞部の孔数が少なく、高透湿性能が得にくくなり、30質量%を超えて用いても、より一層の透湿向上に乏しく、風合いも硬くなるので好ましくない。また、無機微粉末は必ずしも高純度の必要はなく、他の無機物質などを含んでいてもよい。
【0026】
本発明において、防水性を向上させたいときは、第二工程の樹脂膜の上に、第三工程として、ポリウレタン樹脂主体の合成重合体溶液を乾式法によって製膜し、無孔の樹脂膜を形成する。
ここで用いるポリウレタン樹脂は、前述の第二工程で用いるものと同様のものでよいが、重合体溶液はN,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン等の極性有機溶媒に溶解されている樹脂溶液ではなく、例えばトルエン、メチルエチルケトン、酢酸エチル等のようなあまり極性のない溶剤を主体とした溶液である。極性有機溶剤を多く使用すると、湿式法にて製膜した微多孔質膜表面が極性有機溶剤により溶解し、透湿性を低下させるので好ましくない。
【0027】
ここでいうポリウレタン樹脂主体の合成重合体溶液とは、前述と同様ポリウレタン樹脂が50質量%以上であればよく、その他に充填剤、顔料、樹脂膜のマット感付与と耐摩耗性向上のための一般的なシリカ粉末等を併用してもよい。この塗布方法としては、前述と同様のナイフコータ等により行えばよく、樹脂塗布厚は、1〜15μm、好ましくは2〜10μmであればよく、1μm未満の無孔膜では透湿性の向上に乏しく、15μmを超えると透湿性の低下が大きく、風合いが硬くなるので好ましくない。
【0028】
本発明において、防水性、撥水性の耐久性を向上させる目的で、湿式コーティング後あるいは乾式コーティング後に撥水処理を行ってもよい。撥水処理に際しては、前述のような一般に実施されている公知の撥水処理法を採用すればよい。
【0029】
【作用】
本発明の製造方法において、第一工程で水溶性高分子を塗布,乾燥により塗布面を形成した後、この塗布面上に、第二工程のポリウレタン樹脂を主体とした樹脂溶液をコーティング直後、水浴に浸漬した際、先ず第二工程のポリウレタン樹脂溶媒と水との置換が先に起こることにより、ポリウレタン樹脂膜の概容がほぼ形成され、次にその残留樹脂溶媒が完全に脱溶媒されながら、第一工程で塗布した水溶性高分子が溶解,溶出していくので、その結果、繊維布帛と樹脂膜の接着界面では部分的に微少な空隙を生ずることになるものと推定している。
【0030】
しかも、この微少な空隙は、水溶性物質の塗布パターンの中でのみ、部分的かつ全体的に形成されるので、繊維布帛に対する樹脂膜の接着強度は通常の点状ラミネート布帛と比して不利とならずに、通常のコーティング布帛に比して引裂強度と風合いが著しく向上し、かつ前記空隙は繊維布帛と樹脂膜間にあるため、有孔膜又は有孔膜上に無孔膜を形成した樹脂層を水蒸気があらゆる方向から透過しやすくなるので、優れた透湿性を有するものとなる。
【0031】
また、第一工程で塗布した水溶性物質の存在の有無により、第二工程の有孔タイプの樹脂溶液の凝固性、すなわち微多孔性が異なってくるので、外層表面から水溶性物質の塗布パターンがはっきりと確認でき、無着色でも通常のコーティング膜では得られない見栄え感に優れた視覚効果のある樹脂膜を得ることが可能となる。
本発明では、これらの効果が通常の湿式コーティング法により得られるので、加工コスト上有利である。
【0032】
また、本発明において高度な透湿防水性能を要するときは、上記樹脂溶液に平均粒径1μm以下で、かつN,N−ジメチルホルムアミドの吸着量が200ミリリットル/100g以上の無機微粉末を均一に分散させて湿式凝固を行う。この無機微粉末が均一に分散していると、微粉末の表面は他の部分に比べて樹脂溶液中におけるN,N−ジメチルホルムアミドの濃度が高く、いいかえれば、ポリウレタン樹脂主体の合成重合体のN,N−ジメチルホルムアミドの濃度が低い状態にあり、このため、湿式凝固過程において、凝固液である水がまず微粉末表面のN,N−ジメチルホルムアミドと置き換わり、その周囲で速やかに凝固が始まり、無数に1μm以下の微細孔が発現することで、非常にポーラスな形態となるので、防水性能を高く保持しながら透湿性能を向上させることができる。
【0033】
【実施例】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、実施例における布帛の性能の測定、評価は、次の方法で行った。
(1)耐水圧 :JIS L−1092,高水圧法
(2)透湿度 :JIS L−1099,A−1法
(3)引裂強度:JIS L− 1096 D法(ペンジュラム法)
(4)剥離強度:JIS L− 1089法に準じ、樹脂膜の経方向の剥離強度を評価。
(5)風合い :ハンドリングにより、下記のごとくの3段階評価を行った。
○:非常にソフト △:普通 ×:硬い
【0034】
実施例1
経糸、緯糸の双方のナイロンマルチフィラメント78デシテックス/48フィラメントを用いて、経糸密度110本/2.5cm、緯糸密度90本/2.5cmのタフタを製織し、通常の方法により精練及び染色(日本化薬株式会社製,Kyanol Navy Blue R 3% omf)を行った後、エマルジョンタイプのフッ素系撥水剤のアサヒガードAG−925(旭硝子株式会社製)3質量%水分散液でパディング(絞り率40%)し、乾燥後、170℃で30秒間の熱処理を行った。
次に、鏡面ロールを持つカレンダー加工機を用いて、温度160℃、圧力200kPa、速度40m/分の条件でカレンダー加工を行い、コーティング用の基布を得た。
【0035】
ここで、下記処方1に示す組成で、固形分濃度7質量%,粘度3000mPa・s(25℃)の糊剤溶液を片面に、第一工程として、円形ドット状(ドットの幅1mm)で25メッシュ,深度が300μm,ドット占有面積比率が40%のグラビアロールを用いて、塗布量110g/m(基布表面凸部からの塗布厚は15μm)にて塗布後、100℃で2分間の乾燥を行った。
<処方1>
DKSファインガムHE 7質量部
(第一工業製薬株式会社製、カルボキシメチルセルロース)
水 80質量部
イソプロピルアルコール 13質量部
【0036】
続いて、第二工程として、第一工程の塗布面に、下記処方2に示す組成で、固形分濃度22質量%,粘度8000mPa・s(25℃)のポリウレタン樹脂溶液をコンマコータにて塗布量120g/mにて塗布し、直ちに30℃の水中にて1分間浸漬して樹脂凝固後、50℃で10分間の湯洗後乾燥することにより、微多孔膜厚が50μmの透湿防水性コーティング布帛を得た。
<処方2>
レザミンCU4555 100質量部
(大日精化工業株式会社製、湿式用ポリウレタン樹脂)
レザミンX 1質量部
(大日精化工業株式会社製、イソシアネート化合物)
N,N−ジメチルホルムアミド 40質量部
【0037】
本発明との比較のため、下記に示す比較用の透湿防水性コーティング布帛を得た。
比較例1
実施例1の第一工程を省いて行う以外は実施例1と同一の方法により、比較用の透湿防水性コーティング布帛を得た。
【0038】
比較例2
実施例1の第一工程の塗布後の乾燥工程を省いて行う以外は、実施例1と同一の方法により比較用の透湿防水性コーティング布帛を得ようとしたが、第二工程の湿式コーティング直後にコーティング筋が多発し、明らかな耐水圧不良と断定できる不均一な湿式製膜しか得ることができなかった(評価中止)。
【0039】
比較例3
実施例1の第一工程で用いた円形ドット状(ドットの幅1mm)で深度300μmのグラビアロールを8メッシュに代えて、ドット占有面積比率を4%にする以外は実施例1と同一の方法により、比較用の透湿防水性コーティング布帛を得た。
【0040】
比較例4
実施例1の第一工程で行ったグラビア加工をナイフコータに代えて、塗布量100g/m(基布表面凸部からの塗布厚は8μm)にて全面にコーティングする以外は実施例1と同一の方法により、比較用の透湿防水性コーティング布帛を得た。
【0041】
比較例5
実施例1の第二工程のポリウレタン樹脂溶液の塗布量を30g/mに変更して塗布し、微多孔膜厚が7μmとする以外は実施例1と同一の方法により、比較用の透湿防水性コーティング布帛を得た。
【0042】
比較例6
実施例1の第二工程のポリウレタン樹脂溶液の塗布量を350g/mに変更して塗布し、微多孔膜厚が160μmとする以外は実施例1と同一の方法により、比較用の透湿防水性コーティング布帛を得た。
実施例1と比較例1〜6で得られた透湿防水コーティング布帛の性能を測定し、その結果を併せて表1に示す。
【0043】
【表1】
Figure 2004169233
【0044】
表1から明らかなように、実施例1で得られた透湿防水コーティング布帛は、優れた透湿防水性能と引裂強度を有すると共に剥離強度にも優れ、かつソフトな風合いを有するものであった。また、実施例1の布帛のコーティング膜外観は、第一工程のグラビアドット状部〔布帛の空隙部分〕がドット状外部〔布帛の非空隙部分:接着部分〕より優れた白度を呈しているため、グラビアパターンのドット状外観を呈し、見栄え感にも優れていた。
【0045】
実施例2
実施例1の処方2にAEROSIL R−974(日本アエロジル株式会社製,平均粒径が約0.012μm,N,N−ジメチルホルムアミド吸着量が350ミリリットル/100gの二酸化珪素微末)2質量部を均一分散させて(樹脂固形分は23質量%)、第二工程の膜厚が60μmの微多孔膜を形成させる以外は実施例1と同一の方法により、透湿防水コーティング布帛を得た。
【0046】
比較例7
比較用として、実施例2の第一工程を省いて行う以外は実施例2と同一の方法により、比較用の透湿防水性コーティング布帛を得た。
実施例2及び比較例7で得られた透湿防水コーティング布帛の性能を測定し、その結果を併せて表2に示す。
【0047】
【表2】
Figure 2004169233
【0048】
表2から明らかなように、実施例2で得られた透湿防水コーティング布帛は、非常に優れた透湿防水性能を有すると共に引裂強度と剥離強度にも優れ、かつソフトな風合いを有しているものであった。また、実施例2の布帛のコーティング膜外観は、実施例1より全体的に樹脂膜白度は増しているが、第一工程のグラビアドット状有無(布帛の接着部分と空隙部分)による白度差を有しているため、グラビアパターンのドット状外観を呈し、見栄え感にも優れていた。
【0049】
実施例3
実施例2の第二工程の有孔膜上に、第三工程として下記処方4に示す組成で、固形分濃度17質量%で粘度3000mPa・s(25℃)のポリウレタン樹脂溶液を、ナイフコータを用いて塗布量30g/mにて塗布後、80℃で3分間の乾燥により塗布厚5μmの無孔膜を形成し、透湿防水性コーティング布帛を得た。
<処方4>
ラックスキンU2524 50質量部
(セイコー化成株式会社製、溶剤型ポリウレタン樹脂)
ラックスキンU2525M 50質量部
(セイコー化成株式会社製、ラックスキンU2524用ポリウレタン系マット剤)
イソプロピルアルコール 10質量部
トルエン 15質量部
【0050】
参考例1
参考用として、実施例3の第三工程の処方4の塗布量を3g/mに変更して0.5μmの無孔膜を形成する以外は実施例3と全く同一の方法により、透湿防水性コーティング布帛を得た。
【0051】
参考例2
更に参考用として、実施例3の第三工程の処方4の塗布量を100g/mに変更して18μmの無孔膜を形成する以外は実施例3と同一の方法により、透湿防水性コーティング布帛を得た。
実施例3と参考例1、2で得られた透湿防水コーティング布帛の性能を測定し、その結果を併せて表3に示す。
【0052】
【表3】
Figure 2004169233
【0053】
表3から明らかなように、実施例3で得られた透湿防水コーティング布帛は、参考例1,2の布帛に比して透湿防水性能が高度にバランスしていると共に引裂強度と剥離強度にも優れ、かつソフトな風合いを有しているものであった。また、実施例3の布帛のコーティング膜外観は、第三工程で無孔膜を形成しても、第一工程のグラビアパターンのドット状(布帛の接着部分と空隙部分による)外観を呈し、見栄え感にも優れていた。
【0054】
【発明の効果】
本発明によれば、コーティング布帛の優れた透湿防水性能を保持したまま、点状ラミネートに近似した風合いと引裂強度を有し、かつ樹脂膜の剥離強度と視覚効果にも優れた透湿防水性コーティング布帛とその製造方法が提供される。

Claims (6)

  1. 繊維布帛の片面に、ポリウレタン樹脂を主体とする10〜150μm厚の有孔の透湿防水膜を有しており、前記透湿防水膜と繊維布帛の接着面とは、接着界面に微少な空隙を有しながら、5〜80%の面積比で部分的に接着していることを特徴とする透湿防水性コーティング布帛。
  2. 前記有孔の透湿防水膜上に、ポリウレタン樹脂を主体とする1〜15μm厚の無孔の透湿防水膜を有していることを特徴とする請求項1記載の透湿防水性コーティング布帛。
  3. 前記有孔の透湿防水膜中に、平均粒径が1μm以下で、かつN,N−ジメチルホルムアミドの吸着量が200ミリリットル/100g以上である無機微粉末を1〜30質量%含有していることを特徴とする請求項1又は2記載の透湿防水性コーティング布帛。
  4. 繊維布帛の片面に、第一工程として、水溶性高分子を5〜80%の面積比で非全面状に、繊維布帛内部及び/又は繊維布帛面からの乾燥膜厚が50μm以下になるよう塗布,乾燥後、第二工程として、前記塗布面にポリウレタン樹脂主体の合成重合体溶液を湿式コーティング法にて製膜を行うに際し、第二工程の凝固及び湯洗時に第一工程で塗布した水溶性物質を溶出、除去しながら、10〜150μmの透湿防水膜を形成することを特徴とする透湿防水性コーティング布帛の製造方法。
  5. 前記第二工程で形成した透湿防水膜上に、第三工程として、ポリウレタン樹脂主体の合成重合体溶液を乾式コーティング法により、1〜15μm厚の無孔の透湿防水膜を形成することを特徴とする請求項4記載の透湿防水性コーティング布帛の製造方法。
  6. 湿式コーティング法にて製膜を行うポリウレタン樹脂主体の合成重合体中に、平均粒径が1μm以下で、かつN,N−ジメチルホルムアミドの吸着量が200ミリリットル/100g以上である無機微粉末を1〜30質量%含有させることを特徴とする請求項4又は5に記載の透湿防水性コーティング布帛の製造方法。
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