JP2004167519A - 鋼構造物の遅れ破壊防止方法および鋼構造物の製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】鋼構造物の応力集中部に発生する遅れ破壊を防止することができる鋼構造物の遅れ破壊防止方法および鋼構造物の製造方法を提供する。
【解決手段】引張強度が600N/mm2以上の鋼材および/または該鋼材の溶接継手からなる鋼構造物の遅れ破壊防止方法であって、前記鋼構造物の応力集中部の表面に、先端部の直径が1〜5mmの超音波振動端子で打撃する超音波衝撃処理を施すことを特徴とする鋼構造物の遅れ破壊防止方法およびそれを用いた鋼構造物の製造方法。
【選択図】 図4
【解決手段】引張強度が600N/mm2以上の鋼材および/または該鋼材の溶接継手からなる鋼構造物の遅れ破壊防止方法であって、前記鋼構造物の応力集中部の表面に、先端部の直径が1〜5mmの超音波振動端子で打撃する超音波衝撃処理を施すことを特徴とする鋼構造物の遅れ破壊防止方法およびそれを用いた鋼構造物の製造方法。
【選択図】 図4
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、引張強度が600N/mm2以上の鋼材および/または該鋼材の溶接継手からなる鋼構造物の遅れ破壊防止方法およびそれを用いた鋼構造物の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
高張力ボルト、クランクシャフト等の部品や、船舶、橋梁、建築物などの構造物等の鋼構造物に内在する水素は、鋼構造物の靭性を低下させる。
特に、曲げ応力や、引張り応力が働いて、応力集中が発生し易い箇所は、この鋼構造物に内在する水素が遅れ破壊の原因となるため、従来から、鋼板の脱水素方法が提案されている。
鋼中水素濃度の低減方法としては、溶鋼の脱ガス処理や、鋳込み後スラブの保温が実施され、さらに圧延後鋼板の加熱保温も行われる。連続鋳造の場合、不純物除去や成分調整の目的もあって、溶鋼の多くが脱ガス処理されるが、これには主としてRH脱ガス法が採用されている。溶鋼中の水素は、この脱ガス処理の時間を長くすることにより十分な低減が可能であるが、処理時間が長くなると処理コストが増し、連続鋳造のサイクルによる時間の制約もあるため、限界がある。より十分な水素濃度低下は、鋳込み終了直後のスラブを間隔をあけて積み重ね、カバーで覆うなどして保温し、高温にある時間を長くしてスラブ中の水素を表面まで拡散させて排除することによって行うことができる。この場合、厚いスラブでは水素の拡散に時間がかかるので数日以上の放置を要し、しかも、スラブの温度が低下してしまう。
【0003】
近年、エネルギーの効率的利用および製造工程短縮の観点から、鋳込み直後の高温のスラブを、冷却することなく直ちに所要温度に調整して、製品寸法にまで圧延してしまうホットチャージないしは直接圧延の製造方法が多く採用されるようになってきた。この場合、鋳造過程で鋼中に残存した水素は、十分除去されないまま圧延され厚鋼板形状となるので、圧延後の冷却過程において温度の高い間に水素を放出させ低下させなければ、水素起因の靭性低下や遅れ破壊が発生する危険性が増してくる。このため、圧延後の鋼板を積み重ねて徐冷のための場所、加熱保温設備、さらにはそれらによる所要時間の増大など、工程上の問題は避けられない(例えば、特許文献1参照。)。
なお、例えば、特許文献2に、溶接継手部に超音波振動を与えることによって、疲労強度を向上させる方法が開示されているが、超音波振動を鋼構造物の遅れ破壊防止に利用することは全く開示されていない。
【0004】
【特許文献1】特許第3298519号掲載公報
【特許文献2】米国特許第6,171,415号明細書
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、前述のような従来技術の問題点を解決し、鋼構造物の応力集中部に発生する遅れ破壊を防止することができる鋼構造物の遅れ破壊防止方法および鋼構造物の製造方法を提供することを課題とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明は前述の課題を解決するために鋭意検討の結果なされたもので、鋼構造物の応力集中部の表面に、超音波振動端子で打撃する超音波衝撃処理を施すことによって、鋼構造物の応力集中部に発生する遅れ破壊を防止することができる鋼構造物の遅れ破壊防止方法および鋼構造物の製造方法を提供するものであり、その要旨とするところは特許請求の範囲に記載した通りの下記内容である。
【0007】
(1)引張強度が600N/mm2以上の鋼材および/または該鋼材の溶接継手からなる鋼構造物の遅れ破壊防止方法であって、前記鋼構造物の応力集中部の表面に、先端部の直径が1〜5mmの超音波振動端子で打撃する超音波衝撃処理を施すことを特徴とする鋼構造物の遅れ破壊防止方法。
(2)前記鋼構造物の応力集中部が、高張力ボルトにおける頭部の付け根であることを特徴とする(1)に記載の鋼構造物の遅れ破壊防止方法。
(3)前記鋼構造物の応力集中部が、引張応力を受ける鋼板に設けられた開孔の縁部であることを特徴とする(1)に記載の鋼構造物の遅れ破壊防止方法。
(4)前記鋼構造物の応力集中部が、複数の溶接線の交差部であることを特徴とする(1)に記載の鋼構造物の遅れ破壊防止方法。
(5)(1)乃至(4)のいずれか1項に記載の遅れ破壊防止方法を用いることを特徴とする鋼構造物の製造方法。
【0008】
【発明の実施の形態】
本発明の実施の形態について、図1乃至図4を用いて詳細に説明する。
【0009】
<第1の実施形態>
図1は、本発明の遅れ破壊防止方法を高張力ボルトに適用した実施形態を示す図である。
例えば1000N/mm2級の高張力ボルトでは、繰り返し荷重が作用すると、疲労破壊が発生する。
この疲労破壊の起点は、介在物の周辺に存在する内部応力により鋼材中に存在する水素が介在物周辺に集まり、局所的な破壊特性を劣化させ、小さな繰り返し応力下でも割れが生じたフィッシュアイと呼ばれる領域が発生する。この現象は、一般に、800N/mm2以上の高強度鋼材にみられる現象であるが、水素を多く含む溶接継手では600N/mm2級の強度レベルでも問題となる場合がある。
【0010】
鋼材中には、多数の介在物が存在しているが、フィッシュアイの起点となる介在物と、起点とならない介在物とがある。
本発明者らは、この原因を究明したところ、フィッシュアイの起点となるかどうかは、鋼材と介在物との整合性と相関があり、結晶格子等の不整合が大きい介在物にフィッシュアイの起点となるものが多いことを見出した。
また、X線解析で内部応力を測定したところ、フィッシュアイの起点となる介在物の周辺は、内部応力が局所的に高いことが判明した。
そこで、図1に格子模様で示す、高張力ボルトの応力集中部である頭部の付け根を、先端部の直径が1〜5mmの超音波振動端子で打撃する超音波衝撃処理を施すことによって、鋼材の表面より3mm程度の深さに存在している内部応力が高かったTiN析出物の周辺でさえ、内部応力が消滅しており、フィッシュアイの起点とならないようにすることができる。
【0011】
ここに、超音波振動端子の先端部の直径を1〜5mmとするのは、1mm未満では、鋼材の表面から1mmまでの深さの介在物にしか内部応力の低減効果が認められないからであり、また5mm超では大きすぎて応力集中部を的確に打撃できないからである。
【0012】
<第2の実施形態>
図2は、本発明の遅れ破壊防止方法を引張応力が働く鋼板に適用した実施形態を示す図である。
例えば、引張応力が働く800N/mm2級の鋼板に、図1に示すような開孔が設けられている場合に、図1に格子模様で示す開孔の縁部に応力集中が生じて、前述の第1の実施形態と同様に、この応力集中部に存在する介在物に水素が集まり、局所的な破壊特性を劣化させ、小さな繰り返し応力下でも割れが生じたフィッシュアイが発生する。
そこで、図2に格子模様で示す、開孔の縁部を、先端部の直径が1〜5mmの超音波振動端子で打撃する超音波衝撃処理を施すことによって、鋼材の表面より3mm程度の深さに存在している内部応力が高かったTiN析出物の周辺でさえ、内部応力が消滅しており、フィッシュアイの起点とならないようにすることができる。
【0013】
ここに、超音波振動端子の先端部の直径を1〜5mmとするのは、1mm未満では、鋼材の表面から1mmまでの深さの介在物にしか内部応力の低減効果が認められないからであり、また5mm超では大きすぎて応力集中部を的確に打撃できないからである。
【0014】
<第3の実施形態>
図3は、本発明の遅れ破壊防止方法を複数の溶接線の交差部に適用した実施形態を示す図である。
例えば、船体などの溶接構造物においては、図3に示すように、例えば、AとA´の複数の溶接線が交差する箇所が生じる。
この複数の溶接線の交差部は、溶接の入熱が重畳されるため、最も溶接残留応力が高い場所となり、応力集中が著しい。
この応力集中部に引張応力が作用する場合には、この周辺の介在物に水素が集まり、前述の第1および第2の実施形態と同様に、局所的な破壊特性を劣化させ、小さな繰り返し応力下でも割れが生じたフィッシュアイが発生する。
【0015】
図4は、図3における溶接線の交差部の詳細図である。
図3に格子模様で示す、溶接線の交差部から例えば5mm以内の範囲を、先端部の直径が1〜5mmの超音波振動端子で打撃する超音波衝撃処理を施すことによって、鋼材の表面より3mm程度の深さに存在している内部応力が高かったTiN析出物の周辺でさえ、内部応力が消滅しており、フィッシュアイの起点とならないようにすることができる。
ここに、超音波振動端子の先端部の直径を1〜5mmとするのは、1mm未満では、鋼材の表面から1mmまでの深さの介在物にしか内部応力の低減効果が認められないからであり、また5mm超では大きすぎて応力集中部を的確に打撃できないからである。
【0016】
<第1〜第3に共通の実施形態>
本発明に使用する超音波発生装置は問わないが、200W〜3kWの電源を用いて、トランスデューサによって19kHz〜60kHzの超音波振動を発生させ、ウェーブガイドにて増幅させることにより、φ1mm〜5mmのピンからなる超音波振動端子を20〜60μmの振幅で振動させる装置が好ましい。
前述の第1〜第3の実施形態に示す鋼構造物の遅れ破壊防止方法を用いて、高張力ボルト、クランクシャフト等の部品や、船舶、橋梁、建築物などの構造物等の鋼構造物を製造することによって、応力集中を緩和し、介在物がフィッシュアイの起点とならない鋼構造物を製造することができる。
【0017】
【実施例】
前述の第1〜第3の実施形態に示す、1000N/mm2級の高張力ボルト、開孔を有する800N/mm2級の鋼板、および複数の溶接線の交差部に、先端部の直径が3mmの超音波振動端子で打撃する超音波衝撃処理を施したところ、500N/mm2、4Hzの繰り返し荷重を、100万回負荷させても遅れ破壊を起点とする疲労き裂は発生しなかった。
一方、本発明の超音波衝撃処理を行わなかった場合には、500N/mm2、4Hzの繰り返し荷重を負荷させたところ、いずれも10万回以内に遅れ破壊を起点とする疲労き裂が発生した。
【0018】
【発明の効果】
本発明によれば、鋼構造物の応力集中部に発生する遅れ破壊を防止することができる鋼構造物の遅れ破壊防止方法および鋼構造物の製造方法を提供することができ、産業上有用な著しい効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の遅れ破壊防止方法を高張力ボルトに適用した実施形態を示す図である。
【図2】本発明の遅れ破壊防止方法を引張応力が働く鋼板に適用した実施形態を示す図である。
【図3】本発明の遅れ破壊防止方法を複数の溶接線の交差部に適用した実施形態を示す図である。
【図4】図3における複数の溶接線の交差部の詳細図である。
【符号の説明】
A,A´:溶接線
【発明の属する技術分野】
本発明は、引張強度が600N/mm2以上の鋼材および/または該鋼材の溶接継手からなる鋼構造物の遅れ破壊防止方法およびそれを用いた鋼構造物の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
高張力ボルト、クランクシャフト等の部品や、船舶、橋梁、建築物などの構造物等の鋼構造物に内在する水素は、鋼構造物の靭性を低下させる。
特に、曲げ応力や、引張り応力が働いて、応力集中が発生し易い箇所は、この鋼構造物に内在する水素が遅れ破壊の原因となるため、従来から、鋼板の脱水素方法が提案されている。
鋼中水素濃度の低減方法としては、溶鋼の脱ガス処理や、鋳込み後スラブの保温が実施され、さらに圧延後鋼板の加熱保温も行われる。連続鋳造の場合、不純物除去や成分調整の目的もあって、溶鋼の多くが脱ガス処理されるが、これには主としてRH脱ガス法が採用されている。溶鋼中の水素は、この脱ガス処理の時間を長くすることにより十分な低減が可能であるが、処理時間が長くなると処理コストが増し、連続鋳造のサイクルによる時間の制約もあるため、限界がある。より十分な水素濃度低下は、鋳込み終了直後のスラブを間隔をあけて積み重ね、カバーで覆うなどして保温し、高温にある時間を長くしてスラブ中の水素を表面まで拡散させて排除することによって行うことができる。この場合、厚いスラブでは水素の拡散に時間がかかるので数日以上の放置を要し、しかも、スラブの温度が低下してしまう。
【0003】
近年、エネルギーの効率的利用および製造工程短縮の観点から、鋳込み直後の高温のスラブを、冷却することなく直ちに所要温度に調整して、製品寸法にまで圧延してしまうホットチャージないしは直接圧延の製造方法が多く採用されるようになってきた。この場合、鋳造過程で鋼中に残存した水素は、十分除去されないまま圧延され厚鋼板形状となるので、圧延後の冷却過程において温度の高い間に水素を放出させ低下させなければ、水素起因の靭性低下や遅れ破壊が発生する危険性が増してくる。このため、圧延後の鋼板を積み重ねて徐冷のための場所、加熱保温設備、さらにはそれらによる所要時間の増大など、工程上の問題は避けられない(例えば、特許文献1参照。)。
なお、例えば、特許文献2に、溶接継手部に超音波振動を与えることによって、疲労強度を向上させる方法が開示されているが、超音波振動を鋼構造物の遅れ破壊防止に利用することは全く開示されていない。
【0004】
【特許文献1】特許第3298519号掲載公報
【特許文献2】米国特許第6,171,415号明細書
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、前述のような従来技術の問題点を解決し、鋼構造物の応力集中部に発生する遅れ破壊を防止することができる鋼構造物の遅れ破壊防止方法および鋼構造物の製造方法を提供することを課題とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明は前述の課題を解決するために鋭意検討の結果なされたもので、鋼構造物の応力集中部の表面に、超音波振動端子で打撃する超音波衝撃処理を施すことによって、鋼構造物の応力集中部に発生する遅れ破壊を防止することができる鋼構造物の遅れ破壊防止方法および鋼構造物の製造方法を提供するものであり、その要旨とするところは特許請求の範囲に記載した通りの下記内容である。
【0007】
(1)引張強度が600N/mm2以上の鋼材および/または該鋼材の溶接継手からなる鋼構造物の遅れ破壊防止方法であって、前記鋼構造物の応力集中部の表面に、先端部の直径が1〜5mmの超音波振動端子で打撃する超音波衝撃処理を施すことを特徴とする鋼構造物の遅れ破壊防止方法。
(2)前記鋼構造物の応力集中部が、高張力ボルトにおける頭部の付け根であることを特徴とする(1)に記載の鋼構造物の遅れ破壊防止方法。
(3)前記鋼構造物の応力集中部が、引張応力を受ける鋼板に設けられた開孔の縁部であることを特徴とする(1)に記載の鋼構造物の遅れ破壊防止方法。
(4)前記鋼構造物の応力集中部が、複数の溶接線の交差部であることを特徴とする(1)に記載の鋼構造物の遅れ破壊防止方法。
(5)(1)乃至(4)のいずれか1項に記載の遅れ破壊防止方法を用いることを特徴とする鋼構造物の製造方法。
【0008】
【発明の実施の形態】
本発明の実施の形態について、図1乃至図4を用いて詳細に説明する。
【0009】
<第1の実施形態>
図1は、本発明の遅れ破壊防止方法を高張力ボルトに適用した実施形態を示す図である。
例えば1000N/mm2級の高張力ボルトでは、繰り返し荷重が作用すると、疲労破壊が発生する。
この疲労破壊の起点は、介在物の周辺に存在する内部応力により鋼材中に存在する水素が介在物周辺に集まり、局所的な破壊特性を劣化させ、小さな繰り返し応力下でも割れが生じたフィッシュアイと呼ばれる領域が発生する。この現象は、一般に、800N/mm2以上の高強度鋼材にみられる現象であるが、水素を多く含む溶接継手では600N/mm2級の強度レベルでも問題となる場合がある。
【0010】
鋼材中には、多数の介在物が存在しているが、フィッシュアイの起点となる介在物と、起点とならない介在物とがある。
本発明者らは、この原因を究明したところ、フィッシュアイの起点となるかどうかは、鋼材と介在物との整合性と相関があり、結晶格子等の不整合が大きい介在物にフィッシュアイの起点となるものが多いことを見出した。
また、X線解析で内部応力を測定したところ、フィッシュアイの起点となる介在物の周辺は、内部応力が局所的に高いことが判明した。
そこで、図1に格子模様で示す、高張力ボルトの応力集中部である頭部の付け根を、先端部の直径が1〜5mmの超音波振動端子で打撃する超音波衝撃処理を施すことによって、鋼材の表面より3mm程度の深さに存在している内部応力が高かったTiN析出物の周辺でさえ、内部応力が消滅しており、フィッシュアイの起点とならないようにすることができる。
【0011】
ここに、超音波振動端子の先端部の直径を1〜5mmとするのは、1mm未満では、鋼材の表面から1mmまでの深さの介在物にしか内部応力の低減効果が認められないからであり、また5mm超では大きすぎて応力集中部を的確に打撃できないからである。
【0012】
<第2の実施形態>
図2は、本発明の遅れ破壊防止方法を引張応力が働く鋼板に適用した実施形態を示す図である。
例えば、引張応力が働く800N/mm2級の鋼板に、図1に示すような開孔が設けられている場合に、図1に格子模様で示す開孔の縁部に応力集中が生じて、前述の第1の実施形態と同様に、この応力集中部に存在する介在物に水素が集まり、局所的な破壊特性を劣化させ、小さな繰り返し応力下でも割れが生じたフィッシュアイが発生する。
そこで、図2に格子模様で示す、開孔の縁部を、先端部の直径が1〜5mmの超音波振動端子で打撃する超音波衝撃処理を施すことによって、鋼材の表面より3mm程度の深さに存在している内部応力が高かったTiN析出物の周辺でさえ、内部応力が消滅しており、フィッシュアイの起点とならないようにすることができる。
【0013】
ここに、超音波振動端子の先端部の直径を1〜5mmとするのは、1mm未満では、鋼材の表面から1mmまでの深さの介在物にしか内部応力の低減効果が認められないからであり、また5mm超では大きすぎて応力集中部を的確に打撃できないからである。
【0014】
<第3の実施形態>
図3は、本発明の遅れ破壊防止方法を複数の溶接線の交差部に適用した実施形態を示す図である。
例えば、船体などの溶接構造物においては、図3に示すように、例えば、AとA´の複数の溶接線が交差する箇所が生じる。
この複数の溶接線の交差部は、溶接の入熱が重畳されるため、最も溶接残留応力が高い場所となり、応力集中が著しい。
この応力集中部に引張応力が作用する場合には、この周辺の介在物に水素が集まり、前述の第1および第2の実施形態と同様に、局所的な破壊特性を劣化させ、小さな繰り返し応力下でも割れが生じたフィッシュアイが発生する。
【0015】
図4は、図3における溶接線の交差部の詳細図である。
図3に格子模様で示す、溶接線の交差部から例えば5mm以内の範囲を、先端部の直径が1〜5mmの超音波振動端子で打撃する超音波衝撃処理を施すことによって、鋼材の表面より3mm程度の深さに存在している内部応力が高かったTiN析出物の周辺でさえ、内部応力が消滅しており、フィッシュアイの起点とならないようにすることができる。
ここに、超音波振動端子の先端部の直径を1〜5mmとするのは、1mm未満では、鋼材の表面から1mmまでの深さの介在物にしか内部応力の低減効果が認められないからであり、また5mm超では大きすぎて応力集中部を的確に打撃できないからである。
【0016】
<第1〜第3に共通の実施形態>
本発明に使用する超音波発生装置は問わないが、200W〜3kWの電源を用いて、トランスデューサによって19kHz〜60kHzの超音波振動を発生させ、ウェーブガイドにて増幅させることにより、φ1mm〜5mmのピンからなる超音波振動端子を20〜60μmの振幅で振動させる装置が好ましい。
前述の第1〜第3の実施形態に示す鋼構造物の遅れ破壊防止方法を用いて、高張力ボルト、クランクシャフト等の部品や、船舶、橋梁、建築物などの構造物等の鋼構造物を製造することによって、応力集中を緩和し、介在物がフィッシュアイの起点とならない鋼構造物を製造することができる。
【0017】
【実施例】
前述の第1〜第3の実施形態に示す、1000N/mm2級の高張力ボルト、開孔を有する800N/mm2級の鋼板、および複数の溶接線の交差部に、先端部の直径が3mmの超音波振動端子で打撃する超音波衝撃処理を施したところ、500N/mm2、4Hzの繰り返し荷重を、100万回負荷させても遅れ破壊を起点とする疲労き裂は発生しなかった。
一方、本発明の超音波衝撃処理を行わなかった場合には、500N/mm2、4Hzの繰り返し荷重を負荷させたところ、いずれも10万回以内に遅れ破壊を起点とする疲労き裂が発生した。
【0018】
【発明の効果】
本発明によれば、鋼構造物の応力集中部に発生する遅れ破壊を防止することができる鋼構造物の遅れ破壊防止方法および鋼構造物の製造方法を提供することができ、産業上有用な著しい効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の遅れ破壊防止方法を高張力ボルトに適用した実施形態を示す図である。
【図2】本発明の遅れ破壊防止方法を引張応力が働く鋼板に適用した実施形態を示す図である。
【図3】本発明の遅れ破壊防止方法を複数の溶接線の交差部に適用した実施形態を示す図である。
【図4】図3における複数の溶接線の交差部の詳細図である。
【符号の説明】
A,A´:溶接線
Claims (5)
- 引張強度が600N/mm2以上の鋼材および/または該鋼材の溶接継手からなる鋼構造物の遅れ破壊防止方法であって、前記鋼構造物の応力集中部の表面に、先端部の直径が1〜5mmの超音波振動端子で打撃する超音波衝撃処理を施すことを特徴とする鋼構造物の遅れ破壊防止方法。
- 前記鋼構造物の応力集中部が、高張力ボルトにおける頭部の付け根であることを特徴とする請求項1に記載の鋼構造物の遅れ破壊防止方法。
- 前記鋼構造物の応力集中部が、引張応力を受ける鋼板に設けられた開孔の縁部であることを特徴とする請求項1に記載の鋼構造物の遅れ破壊防止方法。
- 前記鋼構造物の応力集中部が、複数の溶接線の交差部であることを特徴とする請求項1に記載の鋼構造物の遅れ破壊防止方法。
- 請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の遅れ破壊防止方法を用いることを特徴とする鋼構造物の製造方法。
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PCT/JP2003/014334 WO2004046392A1 (ja) | 2002-11-19 | 2003-11-11 | 鋼構造物の遅れ破壊防止方法および鋼構造物の製造方法 |
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