JP5052918B2 - 耐き裂発生伝播特性に優れた溶接継手、溶接構造体及び耐き裂発生伝播特性の向上方法 - Google Patents

耐き裂発生伝播特性に優れた溶接継手、溶接構造体及び耐き裂発生伝播特性の向上方法 Download PDF

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Description

本発明は、溶接構造体の突合せ溶接継手における疲労き裂の発生を抑制し、疲労き裂や脆性き裂が発生した場合でもその伝播を妨げて、大型の船舶や建築物などの溶接構造体の安全性を向上させ得る技術に関する。
船舶、タンク、建築物など大型の鋼構造物は多数の鋼板を突合せ溶接して製作されている。このような構造物では、繰り返し荷重を受けて疲労き裂が発生したり、地震や事故などで脆性き裂が発生する場合があり、き裂の発生を抑制する性能及びき裂が発生した場合でも構造物全体が崩壊する前にき裂を停止できる性能、すなわち、耐き裂発生伝播特性が求められている。
疲労き裂については、溶接ビードの母材との境界部(溶接止端部)にノッチ状の形状不連続部やアンダーカットなどの溶接欠陥があると、そこに応力が集中して発生する場合が多いので、そのような形状不連続部や溶接欠陥をグラインダーで除去するとともに、止端部の半径を大きく仕上げることにより応力の集中部をなくして発生そのものを抑制する処理がとられている。
しかし、このグラインダーを用いた方法は、削る作業に多大な労力を要するとともに、削り過ぎによって板厚やのど厚が減退し、それによる疲労強度の低下がかえって生じるなどの問題がある。
また、き裂が万一発生した場合でも、き裂の伝播を防止できるようにするために、要所に疲労き裂や脆性き裂の伝播停止特性(アレスト性)が高い鋼板を採用するような工夫が取られている。この場合、通常は、溶接部にそのようなき裂が発生しても、き裂は溶接残留応力によって母材側へ逸れるのが一般的であり、母材側のき裂伝播停止特性が十分に高い場合には、母材でのき裂の伝播停止が期待できる。
しかし、工期の短縮や溶接効率の向上のために、大入熱溶接法が用いられる場合も多いが、大入熱溶接法で形成された溶接継手では、溶接部の破壊靭性が著しく低下する場合や溶接熱影響部が軟化する場合があるため、熱影響を受けていない母材部が十分なき裂伝播に対する停止特性を持っていたとしても、き裂が母材側に逸れず、溶接ビードに沿って溶接熱影響部付近を伝播する危険性が高くなっている。
また、構造上の制約から、主応力方向に対して直角に近い方向に沿って溶接部を形成さる場合もあり、この場合も同様にき裂が伝播する危険性が高い。
そのような場合、従来は、ニッケル含有量の高い溶接材料を用い、溶接継手部そのものの靭性を向上させて、き裂の発生や伝播を抑制する手段がとられていたが、高価な高ニッケル含有溶接材料を多量に使用するためコストの点で問題があった。
このため、通常の溶接材料を用いて溶接された溶接継手部において、たとえ脆性き裂が発生したとしても、脆性き裂の伝播方向を、脆性き裂伝播停止特性の低い溶接ビードに沿う溶接熱影響部から速やかに母材側に逸らして、脆性き裂伝播停止特性の高い部位へ誘導することにより、溶接継手部での脆性き裂の伝播を阻止する手段の開発が望まれている。
以上のような問題を解決するために、本出願人によって特許文献1〜3に示す手段が提案されている。
特許文献1は、溶接止端部の近傍を、超音波振動をしながら打撃して止端部を塑性変形させることにより溶接部の疲労強度を向上させるものであり、特許文献2は、突合せ溶接継手の一部をガウジングなどにより除去した後、除去した部分を補修溶接することにより、突合せ溶接部に比べて高い靭性を有する補修溶接部を形成するものであり、さらに、特許文献3は、き裂の初期伝播方向に沿った溶接ビード沿いに、圧縮予ひずみ部を溶接ビードの両側のほぼ線対称位置に一対以上配設して、溶接部近傍の内部応力の分布を調整するものである。
特許文献1の手段は、作業者の熟練を必要としない簡単な手段で、かつ、高速に処理できる手段により、溶接部の疲労強度を向上させるものであるが、疲労き裂が発生した場合その伝播を防止する性能を向上させるものではない。
特許文献2、3の手段は、通常の溶接施工方法で溶接された溶接継手部に対し、後処理により脆性き裂の伝播を阻止する性能を向上させるものであり、上記問題を解決するものであるが、特許文献1の技術では、ガウジング及び補修溶接の2工程が必要であり、各工程も作業者の熟練を必要とし、かつ処理時間が長い問題がある。また、特許文献2の技術では、き裂が母材側に逸れる際の起点が溶接ビードに形成できないため、負荷の大きさによっては、母材側に逸れない場合が生じるなどの問題がある。
特開2006−175512号公報 特開2005−131708号公報 特開2005−329461号公報 米国特許第6467321号明細書
そこで、本発明は、作業者の熟練を必要としない簡単な手段で、かつ、高速に処理できる手段により、溶接継手部における疲労き裂の発生を抑制し、かつ、溶接継手部で脆性き裂などが発生しても、それを確実に母材側へ逸らして脆性き裂伝播停止特性の高い部位へ誘導することができるようにすることを課題とする。
そして、そのような課題を達成できる溶接継手や溶接構造体を提供すること、及び、そのような溶接継手を得るための耐き裂発生伝播特性の向上方法を提供することを目的とする。
本発明者らは、前記特許文献1に記載されているような、超音波振動端子による打撃処理(超音波打撃処理)を用いてき裂の伝播を停止する手段について検討した。その結果、溶接止端部及びその近傍を、所定の間隔を置いて超音波振動端子による打撃処理すれば、疲労き裂や脆性き裂が発生した場合でも、それを確実に母材側へ逸らすことができることを知見した。本発明は、そのような知見を基になされたもので、その要旨は次のとおりである。
(1) 鋼板の突合せ溶接継手において、溶接ビードの両側に、超音波打撃処理による長さHの溝状の凹部が、溶接ビードに沿って、溶接ビードに沿った間隔Lを置いてそれぞれ複数形成されており、該凹部は、0.2mm以上1mm以下の深さと、溶接止端部及びそれに隣接する溶接熱影響部を含む幅で形成されているとともに、鋼板の板厚以上の長さHと、600mm以下の間隔Lで形成されていることを特徴とする耐き裂発生伝播特性に優れた溶接継手。
(2) 鋼板を突合せ溶接した溶接継手部を有する溶接構造体であって、前記溶接継手部の少なくともき裂が発生し伝播する可能性のある溶接継手部を、上記(1)に記載の溶接継手としたことを特徴とする耐き裂発生伝播特性に優れた溶接構造体。
(3) 前記鋼板の脆性き裂伝播停止性能がKca値で4000N/mm1.5以上であり、板厚が50mm以下であることを特徴とする上記(2)に記載の溶接構造体。
(4)前記鋼板の脆性き裂伝播停止性能がKca値で5000N/mm1.5以上であり、板厚が50mm超であることを特徴とする上記(2)に記載の溶接構造体。
(5)鋼板の突合せ溶接継手に対し、溶接ビードの両側に、溶接ビードに沿ってそれぞれ超音波打撃処理を施し、該超音波打撃処理によって、溶接止端部及びそれに隣接する溶接熱影響部を含む幅と鋼板の板厚以上の長さHを有し、0.2mm以上1mm以下の深さを有する溝状の凹部を、600mm以下の溶接ビードに沿った間隔Lを置いて、溶接ビードに沿って形成することを特徴とする突合せ溶接継手における耐き裂発生伝播特性の向上方法。
本発明によれば、溶接継手部における疲労き裂の発生を抑制し、かつ、溶接継手部に脆性き裂が発生した場合であっても、より確実に母材側へ逸らし脆性き裂伝播停止特性の高い部位へ誘導することがきる性能、すなわち、耐き裂発生伝播特性を有する溶接継手、そのような溶接継手を有する溶接構造体、及び、溶接継手にそのような性能を付与する方法を提供することができる。
以下、本発明の実施の形態を、図を用いて詳細に説明する。
本発明では、疲労き裂が発生し、脆性き裂が伝播する可能性のある突合せ溶接継手において、脆性き裂を停止させる領域近傍の溶接継手部に対し、その両面あるいは片面に超音波打撃処理を施す。
図1に溶接ビード3に施す超音波打撃処理の付与の一例を示し、図2に超音波打撃処理の概要を示す。
突合せ溶接された鋼板2の溶接継手部1に対し、その溶接止端部及びそれに隣接する溶接熱影響部表面を、超音波振動端子5で連続的に打撃する。超音波振動端子5によって打撃された領域には打撃痕となる溝状の凹部(超音波打撃処理部)4が形成される。超音波打撃処理部4は、溶接止端部を含む溶接ビード部3及び溶接止端部に隣接する熱影響部を含むような幅で、溶接ビード3に沿って、その両側に所定の長さHにわたって、間に所定の間隔Lを置いて形成される。
この超音波打撃処理により、溶接金属部及び熱影響部に板厚方向に塑性変形が加えられ、その塑性変形により、(1)応力集中部の解消、(2)圧縮残留応力の導入、(3)熱影響部表層の組織の改質などの作用が生じる。
すなわち、超音波打撃処理により、疲労き裂の起点となる微小な溶接欠陥は、塑性変形に伴う組成流動によって消滅する。また、塑性変形によって溶接止端部における形状が改善され、形状不連続部や溶接欠陥が解消される。
このため、溶接継手部が繰り返し荷重を受けても、溶接継手からの疲労き裂の発生を遅らせることができる。
さらに、超音波打撃処理によって塑性流動した部分が周囲の金属により拘束され、処理領域の鋼板表層部に圧縮残留応力が導入される。このため、疲労き裂や脆性き裂が発生し、さらに成長した場合でも、これらのき裂は埋没状態となり、その先端の応力状態(応力拡大係数)は低減された状態になるため、き裂の成長速度は小さくなり、き裂は大きく成長しにくい状態となる。
また、超音波打撃処理によって、熱影響部表層の組織は細粒化された加工組織となり、また、局所的に温度が上昇し、変態や再結晶が促進される結果、溶接熱影響部の破壊靱性の谷深さが解消されるので、より母材側へき裂が逸れやすくなる。
通常、溶接継手部で発生したき裂は、破壊靭性値の低い溶接熱影響部を溶接止端部に沿って伝播するが、本発明のように超音波打撃処理部を形成した場合には、以上のように溶融溶接線から溶接熱影響部にわたる靭性が向上しているから、万一、疲労き裂が大きく成長したような場合や、脆性き裂が発生した場合でも、それらのき裂が溶接熱影響部に沿って伝播するのを抑制することができ、さらにき裂の伝播が進行した場合でも、前述のように圧縮残留応力が導入され、溶接熱影響部の破壊靱性の谷深さが解消されているので、超音波処理部から母材側にき裂をそらすことができる。
以上のような超音波処理部4に沿って脆性き裂が逸れるメカニズムについて,図3を用いてさらに説明する。
表裏の鋼板あるいは溶接部の表面に超音波打撃処理を実施することにより、図3(a)に示すように、該処理による塑性変形を受けて超音波打撃処理部4及びその近傍に隣接する表層に、板厚方向での深さが数ミリにおよぶ圧縮残留応力が付与され、同時に、この表層部に付与された圧縮残留応力とバランスをとる形で、板厚内部では引張り残留応力が作用する状態となる。
脆性き裂の伝播は、残留応力状態の影響を受け、引張り残留応力が作用している領域に伝播しやすい特性を有しており、また、板厚内部でき裂が先行して伝播することが多い。 したがって、溶接ビード部3または鋼板2の熱影響部に沿って伝播してきたき裂が超音波打撃処理部4に達すると、引張り残留応力が作用している板厚内部では該処理部4に沿う方向にき裂の伝播方向が変わり、該処理部4に沿うようにき裂が伸展する。
超音波打撃処理部4における板厚表層部では超音波打撃処理によって圧縮残留応力状態にあり、かつ、該処理により組織が微細化して破壊抵抗が高いため、脆性き裂は伸展せず、図3(b)に示すように、引張り残留応力状態の板厚内部に埋没した形でき裂は進展する。この結果、き裂の伝播の際、き裂先端の応力拡大係数は低下し、き裂を伝播させるドライビングフォースが小さくなるため、き裂が停止しやすくなる。
一方、引張り残留応力状態の板厚内部に埋没した形で進展したき裂は、溶接継手から母材側へ逸れると表裏層部に作用している圧縮残留応力の領域を抜け出すことができるので、母材側へ逸れて伝播することが多く、母材側へ逸れた場合には、き裂は母材で伝播停止することができる。
超音波打撃処理部4は、溶接ビードの両側部において、溶接止端部を含む溶接ビード及び溶接止端部に隣接する熱影響部を含むように、溶接線に沿って所定の長さHにわたって形成し、所定の間隔Lを置いて必要な箇所に形成される。き裂の伝播を母材側に確実に逸らせるためには、超音波打撃処理を溶接継手部の両面にそれぞれ施す必要がある。その際、両面で同じ位置で同じ向きで施すのが好ましい。
前述のような効果を得るためには、打撃処理部の間隔Lを600mm以下とし、打撃処理部4の長さHは板厚以上で、板厚の10倍以下の長さとするのがよい。
本発明によれば、前述のとおり、溶接ビード部3または鋼板2の熱影響部に沿って伝播してきたき裂は超音波打撃処理部4に誘導され、鋼板2母材部側に逸らせて母材部で確実に停止することができる。しかし、溶接ビードの両側に形成される超音波打撃処理部4間の間隔Lが600mmを超えると、上記のように伝播するき裂の長さが600mm以上となり、損傷が生じる可能性が高くなるため好ましくない。また、上記間隔Lが600mmを超えると、き裂が長大となってき裂を停止しにくくなる可能性も高くなる。
これらの理由から、本発明では、溶接ビードの両側に形成される超音波打撃処理部4(凹部)を、溶接ビードに沿って600mm以下の間隔で設けることが好ましい。
溶接継手部全長に超音波打撃処理を施した場合、発生したき裂が溶接金属内に閉じ込められ、母材部に逸れるための起点が形成されないので望ましくない。
超音波打撃処理部を所定の間隔を置いて形成する場合には、非超音波打撃処理部を伝播したき裂は、靭性が向上した超音波打撃処理部で伝播が抑制され、かつ、圧縮残留応力の作用で母材側に逸れて、母材の有する脆性き裂伝播停止性能によって母材部において伝播が停止させる。
超音波打撃処理部4の凹部の深さは、必要な圧縮残留応力を付与するために0.2mm以上必要である。深さの上限は打撃圧力の点から1mm以下が好ましい。
また、凹部は溶接止端部を中心に形成するが、熱影響部側に2〜5mm程度はみ出していてもよい。凹部の幅は、凹部によって残留応力の分布を変化させ、有効な表面改質層を得るためには1mm以上必要である。幅は広いほうが望ましいが、幅が広くなると同様に打撃圧力が上昇するから10mmあれば十分である。
以上の超音波打撃処理は、特許文献4に記載されている装置によって行われる。すなわち、発振機から発振された超音波を、トランスデューサによってその周波数を5〜60kHzに変換し、さらに、ウェーブガイドでその振幅を増幅させて、装置の先端に取り付けられる超音波振動端子5を、例えば、振動数5〜60kHz、出力100w〜5kWで機械的に振動させる。それにより超音波振動端子5前面の打撃部の表面において、平滑性を維持しつつ打撃前の表面に対して打撃痕となる凹部を形成することができる。
その際、上記超音波振動は、その振動数が5kHz以上であるため、ショットピーニング法などの従来技術に比べて表面平滑性を損なわずに十分な圧縮残留応力を付与することができる。また、打撃圧力が周波数に依存するため、5kHz以上で周波数の増加とともにこれらの効果は向上するが、超音波の振動数が60kHzを越えると、非常に高い超音波出力装置を必要とするほか、装置コストの面からも実用的でなく好ましくない。
超音波打撃端子5としては、先端が滑らかな曲線状のピンが用いられ、先端部の幅は、凹部の幅に対応する1〜10mm程度のものが使用される。
以上のような超音波衝撃処理は、一回一回の打撃のエネルギーは小さいが、1秒間に非常に多数の打撃を与えることができ、それによって大きなエネルギーを一度に与えた場合と同じような効果を得ることができる。さらに、一回一回の打撃力が小さいために、機器に生じる反動や作業者に伝わる反動が著しく小さく、かつ、作業が簡単で高速に実施できるため、施工性の面で非常に有利である。
特に、超音波衝撃処理は、溶接継手の形成後の後処理として実施し、脆性き裂伝播停止特性についての性能向上を図れるため、溶接には通常の施工方法をそのまま適用でき、また、大入熱溶接などの適用範囲を拡大することもできる。さらに、既存の溶接構造物に対しても、脆性き裂伝播停止特性についての性能向上を効果的に図れることができる。
なお、溶接後すぐに超音波打撃処理を施す場合は、突合せ溶接継手の温度が300℃以下の状態で行うことが好ましい。溶接継手の温度が300℃以上では、超音波振動端子による打撃時に、溶接金属および鋼板の降伏応力が低くなっているため好ましくない。
本発明では、溶接ビード部または鋼板の熱影響部に沿って伝播する脆性き裂を母材側へ逸らせる方法を駆使し、かつ、溶接構造体に脆性破壊伝播停止特性(アレスト性能)の高い鋼板を使うことを組み合わせることで、溶接構造物の脆性破壊をより小規模で食い止めることが重要である。
突合せ溶接継手を形成する鋼板の板厚が50mm以下である場合には、アレスト性能がKca値で4000N/mm1.5以上であれば脆性き裂の伝播を停止できることが、造船研究協会・SR193委員会の報告書などで公表されている。
しかし、板厚が50mm超である場合には、Kca値で4000N/mm1.5程度の性能では脆性き裂の伝播を停止できないことを、8000トン超大型破壊試験機を用いた実験により本発明者らは確認している。本発明者らは、板厚60mm、70mmの鋼板を用いて脆性き裂伝播試験を実施し、鋼板を使用する温度で、600m/秒以上の高速で伝播中の脆性き裂を停止するためには、Kca値で5000N/mm1.5以上の性能が必要であることがわかった。
したがって、板厚が50mm以下の溶接構造体では、Kca値で4000N/mm1.5以上の鋼板を母材として用い、上記で説明した超音波打撃処理を溶接継手部に施すことにより、また、板厚が50mm超の溶接構造体では、Kca値で5000N/mm1.5以上の鋼板を母材として用い、上記で説明した超音波打撃処理を溶接継手部に施すことにより、それぞれの溶接構造体において、脆性き裂が溶接継手部に発生し、溶接ビードに沿って溶接熱影響部を伝播してきても、それを母材側に逸らし、母材によって確実に停止することができる。
本発明で対象とする突合せ溶接継手は、特にその種類を限定するものではない。溶接継手を形成するに当たり採用された、溶接姿勢、入熱量、パス数、溶接方法など特に限定されるものではない。
以下、本発明の実施例を説明するが、実施例で採用した条件は、本発明の実施可能性及び効果を確認するための一条件例であり、本発明は、この例に限定されるものではない。
図4に示す2500mmの長さの溶接継手における表面側2箇所、裏面側2箇所の合計4箇所に超音波打撃処理部4を設けた試験片を作成し、8000トン大型破壊試験機を用いて、脆性破壊試験を行った。
試験片の端部近傍に、溶接継手の溶融線FLと切り欠き先端部が一致するように窓枠状に楔を入れる空間を設け、溶接ビード部に沿う切り欠き先端部から超音波打撃処理部までの距離Lと超音波打撃処理部間の距離Lを同じ距離とした。
試験片の切り欠き先端部は、脆性き裂が発生しやすいようにー50℃以下の低温に冷却し、切り欠き先端から超音波打撃処理部、及び該処理部の下側では、−10℃一定となるよう温度制御した。
脆性破壊試験では、試験片の公称応力を鋼板降伏点の1/2になるよう設定し、楔に衝撃荷重をあたえ、切り欠き先端部から脆性き裂を強制的に発生させ、その伝播挙動を観察した。
表1に超音波打撃処理条件及び脆性破壊試験結果を示す。
表1において、溶接方法は、EG(エレクトロガス溶接)、CO2(炭酸ガスアーク溶接)、VEGA−II(2電極揺動式エレクトロガス溶接)、SAW(サブマージアーク溶接)、FAB(フラックスアスベスト裏当片面サブマージアーク溶接)、FCB(フラックス銅裏当片面サブマージアーク溶接)、VEGA(1電極揺動式エレクトロガス溶接)、及びSEG(簡易式エレクトロガス溶接)であり、また、超音波打撃処理において、図1に示されるように、Lは超音波打撃処理部の間隔であり、Hは超音波打撃処理部の長さであり、Zは超音波打撃処理部の凹部の深さである。
また、表1に示された鋼板(鋼種)の化学成分を表2に示し、突合せ溶接に用いた溶接材料の化学成分を表3に示す。
本発明の超音波打撃処理条件を満足した発明例1〜19では、切り欠き先端で発生した脆性き裂が溶接継手に沿ってL(mm)だけ伝播したのち、一部は、該処理部で埋没き裂となってそのまま停止する場合もあったが、多くの場合は、母材側へ逸れてから母材部において停止した。試験結果である伝播距離は,切り欠き先端から測定した脆性き裂の停止位置である。実施例18、19では、母材のアレスト値が低めであったので、停止するまでの伝播距離が長くなっていた。
これに対し、比較例20〜22は超音波打撃処理を施していない例であり,脆性き裂は溶接ビード部3または鋼板2の熱影響部に沿って伝播し試験体は真っ二つになった。比較例23〜25は、超音波打撃処理を実施しているが、本発明の条件を満足していないため、脆性き裂を該処理部で溶接継手から母材側へ十分に逸らすことができず、溶接継手部をそのまま伝播して破断した。
Figure 0005052918
Figure 0005052918
Figure 0005052918
前述したように、本発明によれば、溶接継手の形成後の後処理で疲労き裂の発生特性やき裂伝播停止特性についての性能向上を図れるため、通常の溶接施工方法をそのまま適用できる。また、既に建造された構造物に対して、作業者の熟練を必要としない簡単な手段で、かつ、高速に処理できる手段により溶接継手の前記の性能向上を実現できるので、従来よりも容易な作業負荷で処理することができる。したがって、溶接構造物の建造分野において本発明の利用可能性は大きいものである。
溶接継手部に対する超音波打撃処理を施す態様を説明するための図である。 溶接継手部に施す超音波打撃処理を説明するための図である。 超音波打撃処理によって付与された板厚内部の残留応力の状態と,脆性き裂の伝播挙動を示す模式図である。 脆性き裂伝播挙動を調査するための大型破壊試験片である。
符号の説明
1 突合せ溶接継手部
2 鋼板(母材)
3 溶接ビード
4 超音波振動端子によって打撃された領域に形成された凹部(超音波打撃処理部)
5 超音波振動端子

Claims (5)

  1. 鋼板の突合せ溶接継手において、溶接ビードの両側に、超音波打撃処理による長さHの溝状の凹部が、溶接ビードに沿って、溶接ビードに沿った間隔Lを置いてそれぞれ複数形成されており、該凹部は、0.2mm以上1mm以下の深さと、溶接止端部及びそれに隣接する溶接熱影響部を含む幅で形成されているとともに、鋼板の板厚以上の長さHと、600mm以下の間隔Lで形成されていることを特徴とする耐き裂発生伝播特性に優れた溶接継手。
  2. 鋼板を突合せ溶接した溶接継手部を有する溶接構造体であって、前記溶接継手部の少なくともき裂が発生し伝播する可能性のある溶接継手部を、請求項1に記載の溶接継手としたことを特徴とする耐き裂発生伝播特性に優れた溶接構造体。
  3. 前記鋼板の脆性き裂伝播停止性能がKca値で4000N/mm1.5以上であり、板厚が50mm以下であることを特徴とする請求項2に記載の溶接構造体。
  4. 前記鋼板の脆性き裂伝播停止性能がKca値で5000N/mm1.5以上であり、板厚が50mm超であることを特徴とする請求項2に記載の溶接構造体。
  5. 鋼板の突合せ溶接継手に対し、溶接ビードの両側に、溶接ビードに沿ってそれぞれ超音波打撃処理を施し、該超音波打撃処理によって、溶接止端部及びそれに隣接する溶接熱影響部を含む幅と鋼板の板厚以上の長さHを有し、0.2mm以上1mm以下の深さを有する溝状の凹部を、600mm以下の溶接ビードに沿った間隔Lを置いて、溶接ビードに沿って形成することを特徴とする突合せ溶接継手における耐き裂発生伝播特性の向上方法。
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