JP2008213018A - 耐き裂発生伝播特性に優れた溶接継手、溶接構造体及び耐き裂発生伝播特性の向上方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】鋼板の突合せ溶接継手において、溶接ビード3の両側に、超音波打撃処理による凹部4が、溶接止端部及びそれに隣接する溶接熱影響部を含む幅で、溶接ビードに沿って鋼板の板厚以上の長さにわたって形成することにより耐き裂発生伝播特性に優れた溶接継手や溶接構造体を得る。
【選択図】図1
Description
しかし、このグラインダーを用いた方法は、削る作業に多大な労力を要するとともに、削り過ぎによって板厚やのど厚が減退し、それによる疲労強度の低下がかえって生じるなどの問題がある。
また、構造上の制約から、主応力方向に対して直角に近い方向に沿って溶接部を形成さる場合もあり、この場合も同様にき裂が伝播する危険性が高い。
このため、通常の溶接材料を用いて溶接された溶接継手部において、たとえ脆性き裂が発生したとしても、脆性き裂の伝播方向を、脆性き裂伝播停止特性の低い溶接ビードに沿う溶接熱影響部から速やかに母材側に逸らして、脆性き裂伝播停止特性の高い部位へ誘導することにより、溶接継手部での脆性き裂の伝播を阻止する手段の開発が望まれている。
特許文献1は、溶接止端部の近傍を、超音波振動をしながら打撃して止端部を塑性変形させることにより溶接部の疲労強度を向上させるものであり、特許文献2は、突合せ溶接継手の一部をガウジングなどにより除去した後、除去した部分を補修溶接することにより、突合せ溶接部に比べて高い靭性を有する補修溶接部を形成するものであり、さらに、特許文献3は、き裂の初期伝播方向に沿った溶接ビード沿いに、圧縮予ひずみ部を溶接ビードの両側のほぼ線対称位置に一対以上配設して、溶接部近傍の内部応力の分布を調整するものである。
特許文献2、3の手段は、通常の溶接施工方法で溶接された溶接継手部に対し、後処理により脆性き裂の伝播を阻止する性能を向上させるものであり、上記問題を解決するものであるが、特許文献1の技術では、ガウジング及び補修溶接の2工程が必要であり、各工程も作業者の熟練を必要とし、かつ処理時間が長い問題がある。また、特許文献2の技術では、き裂が母材側に逸れる際の起点が溶接ビードに形成できないため、負荷の大きさによっては、母材側に逸れない場合が生じるなどの問題がある。
そして、そのような課題を達成できる溶接継手や溶接構造体を提供すること、及び、そのような溶接継手を得るための耐き裂発生伝播特性の向上方法を提供することを目的とする。
(2)前記超音波打撃処理による凹部が、溶接ビードに沿って600mm以下の間隔で複数形成されていることを特徴とする上記(1)に記載の溶接継手。
(3)鋼板を突合せ溶接した溶接継手部を有する溶接構造体であって、前記溶接継手部の少なくともき裂が発生し伝播する可能性のある溶接継手部を、上記(1)または(2)に記載の溶接継手としたことを特徴とする耐き裂発生伝播特性に優れた溶接構造体。
(4)前記鋼板の脆性き裂伝播停止性能がKca値で4000N/mm1.5以上であり、板厚が50mm以下であることを特徴とする上記(3)に記載の溶接構造体。
(5)前記鋼板の脆性き裂伝播停止性能がKca値で5000N/mm1.5以上であり、板厚が50mm超であることを特徴とする上記(3)に記載の溶接構造体。
(6)突合せ溶接継手に対し、溶接ビード止端部及びそれに隣接する溶接熱影響部を含む幅で、溶接ビードに沿って鋼板の板厚以上の長さにわたって超音波打撃処理を施すことを特徴とする突合せ溶接継手における耐き裂発生伝播特性の向上方法。
(7)前記超音波打撃処理を、溶接ビードに沿って600mm以下の間隔で複数施したことを特徴とする上記(6)に記載の溶接継手における耐き裂発生伝播特性の向上方法。
本発明では、疲労き裂が発生し、脆性き裂が伝播する可能性のある突合せ溶接継手において、脆性き裂を停止させる領域近傍の溶接継手部に対し、その両面あるいは片面に超音波打撃処理を施す。
図1に溶接ビード3に施す超音波打撃処理の付与の一例を示し、図2に超音波打撃処理の概要を示す。
このため、溶接継手部が繰り返し荷重を受けても、溶接継手からの疲労き裂の発生を遅らせることができる。
表裏の鋼板あるいは溶接部の表面に超音波打撃処理を実施することにより、図3(a)に示すように、該処理による塑性変形を受けて超音波打撃処理部4及びその近傍に隣接する表層に、板厚方向での深さが数ミリにおよぶ圧縮残留応力が付与され、同時に、この表層部に付与された圧縮残留応力とバランスをとる形で、板厚内部では引張り残留応力が作用する状態となる。
一方、引張り残留応力状態の板厚内部に埋没した形で進展したき裂は、溶接継手から母材側へ逸れると表裏層部に作用している圧縮残留応力の領域を抜け出すことができるので、母材側へ逸れて伝播することが多く、母材側へ逸れた場合には、き裂は母材で伝播停止することができる。
本発明によれば、前述のとおり、溶接ビード部3または鋼板2の熱影響部に沿って伝播してきたき裂は超音波打撃処理部4に誘導され、鋼板2母材部側に逸らせて母材部で確実に停止することができる。しかし、溶接ビードの両側に形成される超音波打撃処理部4間の間隔Lが600mmを超えると、上記のように伝播するき裂の長さが600mm以上となり、損傷が生じる可能性が高くなるため好ましくない。また、上記間隔Lが600mmを超えると、き裂が長大となってき裂を停止しにくくなる可能性も高くなる。
これらの理由から、本発明では、溶接ビードの両側に形成される超音波打撃処理部4(凹部)を、溶接ビードに沿って600mm以下の間隔で設けることが好ましい。
超音波打撃処理部を所定の間隔を置いて形成する場合には、非超音波打撃処理部を伝播したき裂は、靭性が向上した超音波打撃処理部で伝播が抑制され、かつ、圧縮残留応力の作用で母材側に逸れて、母材の有する脆性き裂伝播停止性能によって母材部において伝播が停止させる。
また、凹部は溶接止端部を中心に形成するが、熱影響部側に2〜5mm程度はみ出していてもよい。凹部の幅は、凹部によって残留応力の分布を変化させ、有効な表面改質層を得るためには1mm以上必要である。幅は広いほうが望ましいが、幅が広くなると同様に打撃圧力が上昇するから10mmあれば十分である。
超音波打撃端子5としては、先端が滑らかな曲線状のピンが用いられ、先端部の幅は、凹部の幅に対応する1〜10mm程度のものが使用される。
なお、溶接後すぐに超音波打撃処理を施す場合は、突合せ溶接継手の温度が300℃以下の状態で行うことが好ましい。溶接継手の温度が300℃以上では、超音波振動端子による打撃時に、溶接金属および鋼板の降伏応力が低くなっているため好ましくない。
突合せ溶接継手を形成する鋼板の板厚が50mm以下である場合には、アレスト性能がKca値で4000N/mm1.5以上であれば脆性き裂の伝播を停止できることが、造船研究協会・SR193委員会の報告書などで公表されている。
しかし、板厚が50mm超である場合には、Kca値で4000N/mm1.5程度の性能では脆性き裂の伝播を停止できないことを、8000トン超大型破壊試験機を用いた実験により本発明者らは確認している。本発明者らは、板厚60mm、70mmの鋼板を用いて脆性き裂伝播試験を実施し、鋼板を使用する温度で、600m/秒以上の高速で伝播中の脆性き裂を停止するためには、Kca値で5000N/mm1.5以上の性能が必要であることがわかった。
以下、本発明の実施例を説明するが、実施例で採用した条件は、本発明の実施可能性及び効果を確認するための一条件例であり、本発明は、この例に限定されるものではない。
試験片の端部近傍に、溶接継手の溶融線FLと切り欠き先端部が一致するように窓枠状に楔を入れる空間を設け、溶接ビード部に沿う切り欠き先端部から超音波打撃処理部までの距離Lと超音波打撃処理部間の距離Lを同じ距離とした。
脆性破壊試験では、試験片の公称応力を鋼板降伏点の1/2になるよう設定し、楔に衝撃荷重をあたえ、切り欠き先端部から脆性き裂を強制的に発生させ、その伝播挙動を観察した。
表1において、溶接方法は、EG(エレクトロガス溶接)、CO2(炭酸ガスアーク溶接)、VEGA−II(2電極揺動式エレクトロガス溶接)、SAW(サブマージアーク溶接)、FAB(フラックスアスベスト裏当片面サブマージアーク溶接)、FCB(フラックス銅裏当片面サブマージアーク溶接)、VEGA(1電極揺動式エレクトロガス溶接)、及びSEG(簡易式エレクトロガス溶接)であり、また、超音波打撃処理において、図1に示されるように、Lは超音波打撃処理部の間隔であり、Hは超音波打撃処理部の長さであり、Zは超音波打撃処理部の凹部の深さである。
また、表1に示された鋼板(鋼種)の化学成分を表2に示し、突合せ溶接に用いた溶接材料の化学成分を表3に示す。
2 鋼板(母材)
3 溶接ビード
4 超音波振動端子によって打撃された領域に形成された凹部(超音波打撃処理部)
5 超音波振動端子
Claims (7)
- 鋼板の突合せ溶接継手において、溶接ビードの両側に、超音波打撃処理による凹部が、溶接止端部及びそれに隣接する溶接熱影響部を含む幅で、溶接ビードに沿って鋼板の板厚以上の長さにわたって形成されていることを特徴とする耐き裂発生伝播特性に優れた溶接継手。
- 前記超音波打撃処理による凹部が、溶接ビードに沿って600mm以下の間隔で複数形成されていることを特徴とする請求項1に記載の溶接継手。
- 鋼板を突合せ溶接した溶接継手部を有する溶接構造体であって、前記溶接継手部の少なくともき裂が発生し伝播する可能性のある溶接継手部を、請求項1または2に記載の溶接継手としたことを特徴とする耐き裂発生伝播特性に優れた溶接構造体。
- 前記鋼板の脆性き裂伝播停止性能がKca値で4000N/mm1.5以上であり、板厚が50mm以下であることを特徴とする請求項3に記載の溶接構造体。
- 前記鋼板の脆性き裂伝播停止性能がKca値で5000N/mm1.5以上であり、板厚が50mm超であることを特徴とする請求項3に記載の溶接構造体。
- 突合せ溶接継手に対し、溶接ビード止端部及びそれに隣接する溶接熱影響部を含む幅で、溶接ビードに沿って鋼板の板厚以上の長さにわたって超音波打撃処理を施すことを特徴とする突合せ溶接継手における耐き裂発生伝播特性の向上方法。
- 前記超音波打撃処理を、溶接ビードに沿って600mm以下の間隔で複数施したことを特徴とする請求項6に記載の溶接継手における耐き裂発生伝播特性の向上方法。
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