しかしながら、前述した従来の技術には以下に示す問題点がある。前述した従来技術のうち、特許文献1には、溶接構造物の補修を目的として溶接部への超音波衝撃処理の適用技術が開示されているが、溶接部への適用に関して処理部についての詳細な記述は無く、重ね溶接継手についても何ら記載されていない。また、特許文献1に記載の技術では、溶接部各部の超音波衝撃処理順序及び処理幅を規定しておらず、溶接トーチを後ろから追いかけるように溶接部の処理を行っている。これらの理由から、特許文献1に記載の技術では、重ね溶接継手の疲労強度を向上させることはできないという問題点がある。
特許文献2には、超音波エネルギーを振動に変換するトランスデューサーのヘッドに針状の工具を取り付けた装置、及びその装置によるドリル穴への処理方法が開示されているが、前述した特許文献1と同様に重ね溶接継手についての記載は無く、また溶接部各部の超音波衝撃処理順序及び処理幅についても規定されていない。このため、特許文献2に記載の技術には、重ね溶接継手の疲労強度を向上させることはできないという問題点がある。
特許文献3には、主にアーク溶接継手を対象として、金属の止端、HAZ部及び溶接部に対して処理を行い、応力集中を生じにくいように形状を変形させると共に圧縮残留応力を導入する超音波衝撃処理方法が開示されているが、この特許文献3に記載の技術は、溶接部各部の超音波衝撃処理順序お及び処理幅を規定した方法ではないため、重ね溶接継手の疲労強度を向上させることはできないという問題点がある。
特許文献4には、重ね隅肉溶接継手のルート部の金属板表面又は表裏面に、超音波衝撃処理によって形成される圧痕の幅を1〜5mmにした回転体が開示されているが、溶接部各部の超音波衝撃処理の順序についての記述はない。また、特許文献4には、実施例として、厚さが3.2mm又は4.0mmの鋼材の重ね隅肉継手に対して、超音波衝撃処理部分の幅を板厚よりも狭くしたことが記載されているに過ぎないため、重ね溶接継手の疲労強度を向上させることはできないという問題点がある。
特許文献5及び6には、スポット溶接部の両面又は片面から、ナゲット形成部とナゲット周囲の両方又は片方に超音波衝撃処理を施す方法が記載されており、その処理部の板厚減少量を、特許文献5に記載の技術では0.03mm以上、板厚の15%以下と規定しており、特許文献6に記載の技術では0.03mm以上、板厚の30%以下と規定しているが、溶接部各部の超音波衝撃処理の順序及び処理幅に関する記載は無い。また、特許文献5の段落0038及び特許文献6の段落0067には、先端工具の幅に関して、望ましい直径が2.0〜8.0mm、先端曲率半径が10〜100mmとの記載があるのみで、対象とする超音波衝撃処理部分の幅については何ら記載されていない。更に、実施例に関しては、特許文献5には厚さが1.6mmの鋼材、特許文献6には厚さが1.2mmの鋼材のスポット溶接継手について超音波衝撃処理部の板厚減についての記載はあるが、前述したように超音波衝撃処理部分の幅についての記載は無い。このため、これら特許文献5及び6に記載の技術では、重ね溶接継手の疲労強度が十分に向上しないという問題点がある。
特許文献7に記載の技術は、超音波振動端子の中央の位置x1を、板厚t1の重ね溶接継手の溶接止端を原点として−t1≦x1≦t1の範囲内に規定し、かつ超音波振動端子の直径を2〜8mmと規定しているが、この特許文献7には、溶接部各部の超音波衝撃処理順序および処理部の圧痕に相当する処理幅に関する記載は無いため、超音波衝撃処理部の疲労強度が十分に向上しないという問題点がある。
特許文献8に記載の技術は、重ね隅肉継手を対象とし、直径が2〜8mmの超音波振動端子を用いて、その中央の位置を溶接止端から隅肉脚長の1/4〜1/2の距離の範囲内に規定し、続いて隙間の先端の表側および/又は裏側を、その板厚の距離の範囲内に超音波振動端子の中心を位置させて超音波衝撃処理しているが、この処理方法では、重ね隅肉継手で重要な溶接始終端の止端部を超音波衝撃処理していないため、超音波衝撃処理部の疲労強度が十分に向上しないという問題点がある。
本発明は、上述した問題点に鑑みてなされたものであって、金属板の材質及び対象部材の種類によらず、重ね溶接継手の疲労強度を安定して向上させることができる金属重ね溶接継手の疲労強度向上方法を提供することを目的とする。
本発明に係る金属重ね溶接継手の疲労強度向上方法は、複数の金属板からなる重ね溶接継手の溶接部を、少なくとも片面から超音波衝撃処理する疲労強度向上方法であって、前記溶接部の中央部を超音波衝撃処理した後、前記重ね溶接継手部に形成された隙間と溶接金属との境界の直上域を含む領域を、処理する側の金属板の厚さtmmに対して、t〜2tmmの幅で超音波衝撃処理することを特徴とする。
この疲労強度向上方法では、隙間と溶接金属との境界の直上域を含む領域を超音波処理する際に、処理部分の中心が前記境界の直上から溶接金属側にtmm以内の範囲に位置するようにして処理してもよい。
本発明に係る他の金属重ね溶接継手の疲労強度向上方法は、複数の金属板からなる重ね隅肉溶接継手の溶接部を、超音波衝撃処理する疲労強度向上方法であって、前記継手の重ね合わせ部と反対側の溶接止端部を超音波衝撃処理した後、前記重ね隅肉溶接継手部に形成された隙間と溶接金属との境界の直上域を含む領域を、処理する側の金属板の厚さtmmに対して、t〜2tmmの幅で超音波衝撃処理し、更に、溶接始終端の止端部を超音波衝撃処理することを特徴とする。
本発明に係る他の金属重ね溶接継手の疲労強度向上方法は、複数の金属板からなる重ね隅肉溶接継手の溶接部を、超音波衝撃処理する疲労強度向上方法であって、前記継手の重ね合わせ部と反対側の溶接止端部を超音波衝撃処理した後、溶接始終端の止端部を超音波衝撃処理し、更に、前記重ね隅肉溶接継手部に形成された隙間と溶接金属との境界の直上域を含む領域を、処理する側の金属板の厚さtmmに対して、t〜2tmmの幅で超音波衝撃処理することを特徴とする。
本発明に係る他の金属重ね溶接継手の疲労強度向上方法は、複数の金属板からなる重ね隅肉溶接継手の溶接部を、超音波衝撃処理する疲労強度向上方法であって、前記継手の溶接始終端の止端部を超音波衝撃処理した後、この継手の重ね合わせ部と反対側の溶接止端部を超音波衝撃処理し、更に、前記重ね隅肉溶接継手部に形成された隙間と溶接金属との境界の直上域を含む領域を、処理する側の金属板の厚さtmmに対して、t〜2tmmの幅で超音波衝撃処理することを特徴とする。
これらの金属重ね溶接継手の疲労強度向上方法では、溶接始終端の止端部を超音波衝撃処理する際に、中心軸を含む少なくとも1つの断面における先端半径が1.0〜2.0mmである先端工具を使用することもできる。
本発明によれば、疲労亀裂発生の起点となる重ね溶接継手部又は重ね隅肉溶接継手部に形成される隙間と溶接金属との境界部分における残留応力を、圧縮残留応力にすることができるため、金属板の材質及び対象部材の種類によらず重ね溶接継手の疲労強度を安定して向上させることが可能であり、その工業的意味は大きい。
以下、本発明を実施するための最良の形態について、添付の図面を参照して詳細に説明する。図1(a)はスポット溶接した重ね溶接継手に本発明の疲労強度向上方法を適用した場合の状態を示す平面図であり、図1(b)は図1(a)に示すA−A線による断面図である。また、図2及び図3は本発明の重ね溶接継手の疲労強度向上方法を示す斜視図である。
本発明者は、金属板同士をスポット溶接した重ね溶接継手の疲労強度を向上する方法として、超音波衝撃処理について検討を行った。図4(a)はスポット溶接した重ね溶接継手の疲労亀裂発生位置を示す平面図であり、図4(b)は図4(a)に示すB−B線による断面図である。本発明者は、先ず、重ね溶接継手にせん断荷重が繰返し作用する場合の疲労破壊挙動について詳細に調査した。その結果、図4(a)及び(b)に示すように、スポット溶接した重ね溶接継手の場合、重ね溶接継手部、即ち金属板1aと金属板1bとの重ね合わせ部に形成された隙間3と溶接金属2との境界4から疲労亀裂5が発生し、金属板1a又は溶接金属2を横切るように疲労亀裂5が進展して重ね溶接継手の破壊に至ることが判明した。隙間3の溶接金属2との境界4は非常に鋭く、応力集中の高い領域であり、容易に疲労亀裂5が発生する。また、隙間3に接する溶接金属2は熱収縮により引張の残留応力が発生しているため、隙間3における溶接金属2との境界4も同様に引張残留応力の状態となり、これが疲労強度を低下させる大きな因子であることが判明した。
一方、超音波衝撃処理は先端工具によって処理した金属板の表面に塑性変形を与え、その表面の形状を滑らかにすると共に、表面の残留応力を圧縮にする作用により疲労強度を向上させる効果があるが、重ね溶接継手の疲労亀裂は、重ね溶接継手部に形成された隙間で発生しているため、先端工具によってこのような隙間と溶接金属との境界を直接処理することは困難である。
そこで、本発明者は、超音波衝撃処理と残留応力分布との関係について詳細に調べた。図5は金属板に超音波衝撃処理を施したときの板厚方向における残留応力の分布を示す図である。その結果、図5に示すように、金属板に超音波衝撃処理を施した場合、板厚方向における残留応力には、金属板1の表面11から少し内側の部分に圧縮残留応力の最大値12が存在し、金属板1の表面11から最大値12を示す部分までの距離14は、超音波衝撃処理以前の残留応力分布及び超音波衝撃処理部分の幅wに極めて大きな影響を受けることを見出した。
また、隙間3と溶接金属2との境界4及び溶融境界近傍の部分は、溶接時の凝固収縮により広く引張残留応力が分布しており、この状態で隙間3の溶接金属2との境界4の直上域を超音波衝撃処理すると、この境界4の近傍に圧縮残留応力を付与することが可能である。しかしながら、その領域は極めて限られるため、重ね溶接継手の疲労強度を十分に向上させることができないことが判明した。更に、隙間3と溶接金属2との境界4から発生する疲労亀裂は、溶接金属2内を伝播することが多いため、溶接金属2の残留応力を圧縮応力にすることが重ね溶接継手の疲労強度の更なる向上に必要であることも見出した。
上述した知見より、本発明に係る重ね溶接継手の疲労強度向上方法においては、先ず、図2に示すように、溶接部の中央部分、例えばスポット溶接及びレーザー溶接による重ね溶接継手の場合は、溶接金属2の中央部10aに対して超音波衝撃処理を行い、この部分に圧縮残留応力を発生させる。その後、図1及び図3に示すように、重ね溶接継手部に形成された隙間3と溶接金属2との境界4の直上域10bを超音波衝撃処理する。これにより、この境界4の近傍から溶接金属2の中央部にかけた広い範囲に圧縮残留応力を分布させることができるため、疲労強度が大幅に向上する。なお、本発明の重ね溶接継手の疲労強度向上方法において、隙間3と溶接金属2との境界4の直上域10bを処理するとは、超音波衝撃処理部分が、隙間3と溶接金属2とが接する位置の直上の部分を含むことを意味する。
ここで、溶接金属2の中央部10aを超音波衝撃処理することにより生じる圧縮残留応力は、、隙間3と溶接金属2との境界4の直上域10bを超音波衝撃処理する際に影響を受けるため、その絶対値が若干低下する。しかしながら、前述したように、疲労亀裂は隙間3と溶接金属2との境界4から発生するため、重ね溶接継手の疲労強度に対しては、隙間3と溶接金属2との境界4における圧縮残留応力が最大である場合に最も大きく向上し、溶接金属2の中央部10aにおける圧縮残留応力の低下はほとんど影響はない。従って、疲労強度を更に向上させるためには、先ず、溶接金属2の中央部10aを超音波衝撃処理し、その後、隙間3と溶接金属2との境界4の直上域10bを超音波衝撃処理することが有効である。一方、本発明者は、隙間3と溶接金属2との境界4の直上域10bを超音波衝撃処理した後、溶接金属2の中央部10aの超音波衝撃処理した場合、疲労強度向上効果はわずかなものになることを知見した。
また、本発明の重ね溶接継手の疲労強度向上方法においては、金属板1a,1bの厚さをtmmとしたとき、隙間3と溶接金属2との境界4の直上域10bを超音波衝撃処理する際の処理幅w(mm)を下記数式(1)で表される範囲内とする。本発明者は、隙間3と溶接金属2との境界4の残留応力分布に影響を及ぼす他の因子として、超音波衝撃処理の幅wと圧縮残留応力の最大値12の位置について検討し、処理幅wが大きければ大きい程、圧縮残留応力が最大値12を示す位置が表面から遠くなることを知見した。そして、この知見をもとに、圧縮残留応力が最大値12を示す位置が隙間3と溶接金属2との境界4になるように処理幅wを制御したところ、この境界4及びその近傍に大きな圧縮残留応力を付与することが可能となり、重ね溶接継手の疲労強度を飛躍的に向上させることができることを発見した。
ここで、超音波衝撃処理の幅wがtmm未満の場合、圧縮残留応力が最大値12を示す位置が隙間3よりも表面11に近くなり、隙間3と溶接金属2との境界4における圧縮残留応力が大幅に低下する。その結果、疲労強度の大幅な向上は見込めない。一方、超音波衝撃処理の幅wが2tmmを超えると、圧縮残留応力が最大値12を示す位置が隙間3よりも深くなるだけでなく、重ね継手の厚さ方向における全領域にわたって残留応力が分布するため、圧縮残留応力の絶対値が小さくなり、やはり疲労強度の大幅な向上は望めない。また、上記数式(1)を満たす処理幅の本発明の超音波衝撃処理方法は、重ね隅肉継手の片面から処理することで疲労強度向上効果が得られるが、両面から処理を行うことにより、隙間3と溶接金属2との境界4における圧縮残留応力をより確実なものにでき、片面から処理した場合以上の疲労強度向上が期待できる。
なお、本発明の金属重ね溶接継手の疲労強度向上方法における「処理幅」とは、連続的にある方向に沿って超音波衝撃処理が施される場合、1つの先端工具が処理する幅、即ち、塑性変形によって生じる圧痕の幅を意味し、複数の先端工具が付属している場合の全体の幅、及び1つの先端工具の処理方向に沿った処理長さとは異なる。また、前述した特許文献7及び8で規定している「溶接止端を原点とした先端工具の中心位置の移動範囲」とも異なる。
また、本発明の重ね溶接継手の疲労強度向上方法は、同じ厚さの2枚の金属板を重ね溶接した継手に限定されるものではない。例えば、板厚が異なる2枚の金属板を重ね溶接した継手の場合には、裏面側の金属板の板厚は残留応力の分布及び疲労強度の向上にはさほど影響を及ぼさないため、超音波衝撃処理を施す側の金属板の板厚をtmmとし、上記(1)式を満足する処理幅wで超音波衝撃処理する。これにより、溶接継手の疲労強度を顕著に向上させることができる。同様に、3枚以上の金属板を重ね溶接した継手の場合にも、超音波衝撃処理を施す側の金属の板厚から、上記(1)式を満足する処理幅wを設定することにより、溶接継手の疲労強度を向上させることができる。
更に、本発明の金属重ね溶接継手の疲労強度向上方法においては、超音波衝撃処理された部分の中心が、隙間3と溶接金属2との境界4の直上よりも溶接金属2側にtmm以内の範囲に位置していることが好ましい。図6及び図7は隙間3と溶接金属2との境界4と超音波衝撃処理部分との関係を示す図である。本発明者は、隙間3と溶接金属2との境界4の直上域10bを超音波衝撃処理する際の先端工具7の中心位置について詳細に検討した。その結果、図7に示すように、板厚がtmmである2枚の金属板1a,1bにおける隙間3と溶接金属2との境界4の直上17よりも、溶接金属2側にtmm以内の範囲に超音波衝撃処理部分の中心、即ち、先端工具8の中心軸が位置していると、重ね溶接継手の疲労強度向上により効果的であることを見出した。
これは、重ね溶接継手の溶接金属2が、熱影響部及び母材部(金属板1a,1b)よりも硬いため、先端工具8の中心軸が隙間3と溶接金属2との境界4の直上17又は、図6に示すように直上17よりも母材(金属板1a)側にある場合には、溶接金属2よりも熱影響部の変形が大きくなり、隙間3との境界4近傍の溶接金属2の変形が相対的に小さくなることがあり、そうすると、溶接金属2の圧縮残留応力の絶対値もさほど大きくならないためである。また、超音波衝撃処理部分の中心軸の位置が、隙間3と溶接金属2との境界4の直上17から溶接金属2側にtmmよりも更に溶接金属2の中心側の場合、隙間3との境界4近傍の溶接金属2の塑性変形が小さくなり、圧縮残留応力が小さくなることがある。これに対して、図7に示すように、先端工具8の中心軸の位置を、隙間3と溶接金属2との境界4の直上17よりも、溶接金属2側にtmm以内の範囲にすると、溶接金属2の変形を促進し、十分な絶対値の圧縮残留応力を発生させることができ、ひいては大きな疲労強度向上効果をもたらすことができる。
次に、本発明に係る他の重ね溶接継手の疲労強度向上方法として、重ね隅肉溶接継手の疲労強度を向上させる方法について説明する。図8(a)は重ね隅肉溶接継手に本発明の疲労強度向上方法を適用した場合の状態を示す平面図であり、図8(b)は図8(a)に示すC−C線による断面図である。重ね隅肉溶接継手の場合は、重ね隅肉溶接継手部、即ち2枚の金属板の重ね合わせ部に形成される隙間3と溶接金属2との境界4、重ね合わせ部と反対側の溶接止端部10c及び溶接始終端における止端部10dの3箇所が疲労亀裂発生の起点となる。そこで、本発明者は、これらの位置の処理順序と圧縮残留応力の分布と疲労強度との関係を検討したところ、図8(a)及び(b)に示すように、これら3箇所を超音波衝撃処理処理する際に、少なくとも隙間3と溶接金属2との境界4の直上域10bを、重ね合わせ部と反対側の止端部10cよりも後に処理すると、隙間3と溶接金属2との境界4、溶接止端部10c及び溶接始終端2aの止端部10dにおける圧縮残留応力のバランスを最適な状態にすることができ、継手の疲労強度のさらなる向上に効果的であることが判明した。
図9〜図11は重ね隅肉溶接継手の疲労強度を向上させる第1の方法をその工程順に示す斜視図である。重ね隅肉溶接継手の疲労強度を向上させる場合は、例えば、先ず、図9に示すように、重ね合わせ部と反対側の溶接止端部10cを超音波衝撃処理した後、図10に示すように、重ね隅肉溶接継手部、即ち2枚の金属板1a,1bの重ね合わせ部に形成された隙間3と溶接金属2との境界4の直上域10bを超音波衝撃処理し、更に、図11に示すように、金属板1a,1bにおける溶接始終端2aの止端部10dを超音波衝撃処理する。
図12〜図14は重ね隅肉溶接継手の疲労強度を向上させる第2の方法をその工程順に示す斜視図である。図12に示すように、重ね合わせ部と反対側の溶接止端部10cを超音波衝撃処理した後、図13に示すように、2枚の金属板1a,1bにおける溶接始終端2aの止端部10dを超音波衝撃処理し、更に、図14に示すように、重ね隅肉溶接継手部、即ち金属板1a,1bの重ね合わせ部に形成された隙間3と溶接金属2との境界4の直上域10bを超音波衝撃処理してもよい。
図15〜図17は重ね隅肉溶接継手の疲労強度を向上させる第3の方法をその工程順に示す斜視図である。図15に示すように、溶接始終端2aの止端部10dを超音波衝撃処理した後、図16に示すように、重ね合わせ部と反対側の溶接止端部10cを超音波衝撃処理し、更に、図17に示すように、重ね隅肉溶接継手部、即ち金属板1a,1bの重ね合わせ部に形成された隙間3と溶接金属2との境界4の直上域10bを超音波衝撃処理することもできる。
上述した3通りの方法は、いずれも重ね隅肉溶接継手の疲労強度のさらなる向上に効果がある。そして、これらの方法を適用することにより、重ね隅肉継手の溶接止端部10c及び溶接始終端2aの止端部10dは、圧縮残留応力が付与されると共に止端形状が滑らかに改善される。これらの効果に加えて、隙間3と溶接金属2との境界4に最も大きな圧縮残留応力が付与される効果により、溶接継手における疲労亀裂の発生を抑制し、疲労強度を大きく向上させることが可能となる。
図18は重ね隅肉溶接継手の溶接始終端の止端部10dへの超音波処理と、重ね合わせ部と反対側の溶接止端部10cへの超音波衝撃処理とを連続的に行う方法を示す斜視図である。図18に示すように、この重ね溶接継手の疲労強度向上方法においては、重ね合わせ部と反対側の溶接止端部10cへの超音波衝撃処理と、溶接始終端2aの止端部10dへの超音波衝撃処理とを、同じ先端工具8を使用して連続的に行っても差し支えない。
また、本発明者は、溶接始終端2aの止端部10dを超音波衝撃処理する際の先端工具の形状について検討した。図19〜図21は本発明の他の疲労強度向上方法において、溶接始終端2aの止端部10dを超音波衝撃処理する際に使用する先端工具の形状を示す図である。検討の結果、本発明者は、図19に示すように、中心軸xを含む少なくとも1つの断面における先端半径rが1.0〜2.0mmである先端工具7aを使用することにより、溶接継手の疲労強度向上効果をより高られることを見出した。なお、先端半径rが2.0mmよりも大きい先端工具を使用すると、溶接始終端2aの止端部10dを処理する際に、先端工具が金属板1a,1bに接触し、金属板1a,1bと溶接金属2とが交差する三重点の付近の処理ができなくなることがある。一方、先端半径rが1.0mmよりも小さい先端工具では、金属板1a,1bに接触して金属板1a,1bと溶接金属2とが交差する三重点の付近の処理は可能であるが、止端半径がさほど大きくならないため、応力集中が高い状態のままとなって疲労強度の向上がさほど期待できないことがある。このため、先端工具7としては、中心軸xを含む少なくとも1つの断面における先端半径rが1.0〜2.0mmの範囲のものを使用することが好ましい。また、その形状は特に限定されるものではなく、図20に示すような全体が軸対称形の先端工具7bを使用してもよく、図21に示すような扁平な形状の先端工具7cを使用することもできる。
更に、本発明の重ね隅肉溶接継手の疲労強度向上方法においては、溶接始終端2aの止端部10d以外の部分を処理する際の先端工具の形状について特に規定していないが、その先端は曲面又は平面からなる凸形状であり、先端凸部の高さは小さい方が好ましく、この先端凸部の高さが1mm以下のものがより好ましい。工具先端の形状は、1つの曲率半径で形成される半球状の先端であっても、複数の曲率半径からなる球殻状のものであっても差し支え無い。また、本発明においては、先端工具の幅の絶対値についても規定していないが、この先端工具の幅及び断面積が大きいと、金属板に十分な塑性変形を与えるために大きな出力の装置を必要とし、操作性及び可搬性に支障をきたすことがある。一方、先端工具の幅が小さいと、塑性変形を与える幅及び断面積も小さくなり、表面の曲率半径が小さくなるため、応力集中がさほど下がらず、十分な疲労強度向上効果が得られないことがある。従って、これらの実用的な観点から、先端工具の幅は1〜10mmとすることが好ましい。
更にまた、先端工具の材質についても特に規定するものではなく、金属板に塑性加工を与えるのに十分な硬度を有する材質のものであればよく、例えば工具鋼及びセラミックス等でも差し支え無い。
なお、重ね隅肉溶接継手の隙間3と溶接金属2との境界4の直上域10bを超音波衝撃処理する際の処理幅wの範囲は、前述した重ね溶接継手の隙間3と溶接金属2の境界4の直上域10bを処理する際の処理幅wの範囲と同様である。
図22(a)はスポット溶接以外の方法で溶接した重ね溶接継手に本発明の疲労強度向上方法を適用した場合の状態を示す平面図であり、(b)は(a)に示すE−E線による断面図である。本発明の重ね溶接継手の疲労強度向上方法は、重ね溶接継手の溶接方法を特に限定するものではなく、図1に示すスポット溶接以外にも、プロジェクション溶接等の各種抵抗溶接、又は、図22(a)及び(b)に示すようなレーザー溶接、電子ビーム溶接等の各種ビーム溶接、アーク溶接、拡散溶接、摩擦溶接及び摩擦攪拌溶接等で溶接されたものであっても本発明の処理方法を適用して、疲労強度を向上させることができる。また、スポット溶接等の抵抗溶接では、いわゆる散りが発生した場合、重ね溶接継手の疲労強度が低下することが知られているが、散りが発生した場合でも本発明の方法を用いることで、高い疲労強度を得ることができる。
更に、重ね隅肉溶接継手の形態についても特に限定するものではなく、図8(a)及び(b)に示すようなアーク溶接による重ね隅肉継手以外にも、裏当て金付きの溶接継手に対しても適用可能である。
更にまた、本発明の重ね溶接継手の疲労強度向上方法は、図4(a)及び(b)に示すような重ね溶接継手に対して引張せん断応力が発生する方向6に荷重がかかる場合に限定されるものではなく、金属板1a,1bに対して垂直な方向、即ち溶接部を引き剥がす方向に荷重がかかる場合、及びこれらの荷重が混合する場合においても溶接継手の疲労強度向上に有効である。
更にまた、本発明の適用対象とする金属板は特に限定されるものではなく、鉄及びその合金、アルミニウム及びその合金、チタニウム及びその合金、マグネシウム及びその合金等からなる金属板を重ね溶接した継手であれば、溶接部を含む部材の形状が板状、管状、形材及び複雑な形状の部材であってもよく、いずれの場合においても、本発明の方法を適用することが可能である。
なお、本発明の重ね溶接継手の疲労強度向上方法においては、超音波衝撃処理する際に付与する超音波は20〜32kHz、ピン振幅は25〜35μmとし、塑性変形量(変形深さ)は20〜30μmとすることが好ましい。
以下、本発明の実施例及び本発明の範囲から外れる比較例を挙げて、本発明の効果について具体的に説明する。先ず、本発明の実施例1について説明する。本実施例においては、下記表1に示す板厚tが1.2mm又は1.6mmで、引張強度が290MPa級又は780MPa級の鋼板を使用し、夫々同鋼種及び同板厚の組み合わせで重ね合わせてスポット溶接し、重ね溶接継手を製作した。その際の溶接条件は、1.2mm厚の290MPa級鋼板の場合は、加圧力を2.94kN、電流を7.0kAとし、1.2mm厚の780MPa級鋼板の場合は、加圧力を4.83kN、電流を6.3kAとし、電極先端径、溶接時間及び保持時間については、いずれの鋼板も夫々5.5mm、280ms及び100msとした。また、1.6mm厚の290MPa級鋼板の場合は、加圧力を3.92kN、電流を8.2kAとし、1.6mm厚の780MPa級鋼板の場合は、加圧力を6.44kN、電流を7.5kAとし、電極先端径、溶接時間及び保持時間は、いずれの鋼板も夫々6.5mm、360ms及び140msとした。
次に、上述した方法で製作した各溶接継手に対して、本発明の方法による超音波衝撃処理を施した後、その疲労強度を評価した。また、比較のために、本発明の範囲から外れる処理順序及び処理幅で超音波衝撃処理を施した試験片、並びに超音波衝撃処理を施さない試験片を製作し、実施例の試験片と同様の方法で疲労強度を評価した。その際、超音波衝撃処理は、幅が2〜6mmで先端形状が球状、凸部の高さが0.1〜0.8mmの先端工具を使用し、いずれも1パスで表裏面について処理を行った。超音波衝撃処理した試験片を、JIS規格 Z3138に規定されているスポット溶接の疲れ試験方法に基づき、せん断方向に載荷する疲労試験を行った。疲労試験条件は、応力比(=最小荷重/最大荷重)を0.05とする片振り荷重制御疲労試験とし、室温下で大気中で行った。そして、荷重の制御が困難となる寿命を破断寿命とし、破断寿命が200万回となる荷重範囲を疲労強度として、各試験片での評価結果を比較した。各試験片への処理条件及び得られた疲労試験結果を上記表1に併せて示す。なお、上記表1における下線は、本発明の範囲外であることを示す。また、上記表1に示す処理部分及び順序は、溶接部中央を処理した後で隙間と溶接金属との境界の直上域を処理した場合を「A」、隙間と溶接金属との境界の直上域を処理した後で溶接部中央を処理した場合を「B」、隙間と溶接金属との境界の直上域のみを処理した場合を「C」とした。更に、上記表1に示す処理位置は、隙間と溶接金属との境界の直上域を処理した際の先端工具の中心の位置である。
上記表1に示すように、No.1〜No.5は、1.2mm厚の290MPa級鋼板を使用した実施例の溶接継手である。これら実施例No.1〜No.5の継手は、同じ金属板を使用し、処理部分及び処理順序が本発明の範囲外である比較例No.21及びNo.22の継手、並びに処理部分の幅が本発明の範囲外である比較例No.23及びNo.24の継手に比べて、疲労強度が約30%向上していた。また、同じ金属板を使用し、超音波衝撃処理を施さなかった比較例No.37の継手と比べると50%近く疲労強度が向上していた。これら実施例No.1〜No.5の継手のうち、実施例No.3の継手は、隙間と溶接金属との境界の直上域の超音波衝撃処理において、先端工具の中心が境界の直上から溶接金属側に1.2mm(板厚t=1.2mm)以内であったため、特に高い疲労強度を示していた。
No.6〜No.10は、1.2mm厚の780MPa級鋼板を使用した実施例の溶接継手である。これら実施例No.6〜No.10の継手は、同じ金属板を使用し、処理部分及び処理順序が本発明の範囲外である比較例No.25及びNo.26の継手、並びに処理部分の幅が本発明の範囲外である比較例No.27及びNo.28の継手に比べて、約30%の疲労強度向上効果が認められた。また、同じ金属板を使用し、超音波衝撃処理を施さなかった比較例No.38の継手と比べると、50%近く疲労強度が向上していた。これら実施例No.6〜No.10の継手のうち、実施例No.8の継手は、隙間と溶接金属との境界の直上域の超音波衝撃処理において、先端工具の中心が境界の直上から溶接金属側に1.2mm(板厚t=1.2mm)以内にあったため、特に高い疲労強度を示していた。
No.11〜No.15は、1.6mm厚の290MPa級鋼板を使用した実施例の溶接継手である。これら実施例No.11〜No.15の継手は、同じ金属板を使用し、処理部分及び処理順序が本発明の範囲外である比較例No.29及びNo.30の継手、並びに処理部分の幅が本発明の範囲外である比較例No.31及びNo.32の継手に比べて、約30%の疲労強度向上効果が認められた。また、同じ金属板を使用し、超音波衝撃処理を施さなかった比較例No.39の継手と比べると40%近く疲労強度が向上していた。これら実施例No.11〜No.15の継手のうち、実施例No.13の継手は、隙間と溶接金属との境界の直上域の超音波衝撃処理において、先端工具の中心が境界の直上から溶接金属側に1.6mm(板厚t=1.6mm)以内であったため、特に高い疲労強度を示していた。
No.16〜No.20は、1.6mm厚の780MPa級鋼板を使用した実施例の溶接継手である。これら実施例No.16〜No.20の継手は、同じ金属板を使用し、処理部分及び処理順序が本発明の範囲外である比較例No.33及びNo.34の継手、並びに処理部分の幅が本発明の範囲外である比較例No.35及びNo.36の継手に比べて、約40%の疲労強度向上効果が認められた。また、同じ金属板を使用し、超音波衝撃処理を施さなかった比較例No.40の継手と比べると、60%近く疲労強度が向上していた。これら実施例No.16〜No.20の継手のうち、実施例No.18の継手は、隙間と溶接金属との境界の直上域の超音波衝撃処理において、先端工具の中心が境界の直上から溶接金属側に1.6mm(板厚t=1.6mm)以内にあったため、特に高い疲労強度を示していた。
以上の結果から、本発明の疲労強度向上方法は、重ねスポット溶接継手の疲労強度向上に有効であることが確認された。
次に、本発明の実施例2について説明する。図23(a)は本実施例の試験片の形状を示す平面図であり、図23(b)は図23(a)に示すF−F線による断面図である。本実施例においては、下記表2及び表3に示す引張強度レベル及び板厚の熱延鋼板を使用して、図23(a)及び(b)に示す溶接部2を含む試験片(重ね隅肉溶接継手)を製作した。そして、各継手に下記表2及び表3に示す幅の先端工具で超音波衝撃処理を施した後、疲労試験を行った。各継手の溶接には、炭酸ガスアーク溶接を用い、溶接条件は溶接電流を190〜210A、電圧を27V、溶接速度を80cm/分とし、1パスで溶接した。また、比較のために、本発明の範囲から外れる処理順序及び処理幅で超音波衝撃処理を施した試験片、並びに超音波衝撃処理を施さない試験片を製作し、実施例の試験片と同様の方法で疲労強度を評価した。更に、溶接始終端2aの止端部10d以外の部分については、幅が5〜10mmで、先端形状が球状、凸部の高さが0.2〜1.0mmの先端工具を使用して、いずれも1パスで超音波衝撃処理を行った。
疲労試験条件は、応力比(=最小荷重/最大荷重)を0.1とする片振り荷重制御疲労試験とし、室温下で大気中で行った。そして、荷重の制御が困難となる寿命を破断寿命とし、破断寿命が200万回となる荷重範囲を鋼板の断面積(=板厚×試験片幅)で除した値を疲労強度とし、各試験片の評価結果を比較した。各試験片への処理条件及び得られた疲労試験結果を上記表2及び表3に併せて示す。なお、上記表2及び表3における下線は、本発明の範囲外であることを示す。また、上記表2及び表3に示す処理部分及び順序は、重ね合わせ部と反対側の溶接止端部を超音波衝撃処理した後、隙間と溶接金属との境界の直上域を含む領域を処理し、その後、溶接始終端の止端部を処理した場合を「A1」、重ね合わせ部と反対側の溶接止端部を超音波衝撃処理した後、溶接始終端の止端部を処理し、その後、隙間と溶接金属との境界の直上域を処理した場合を「A2」、溶接始終端の止端部を処理した後、重ね合わせ部と反対側の溶接止端部を超音波衝撃処理し、その後、隙間と溶接金属との境界の直上域を含む領域を処理した場合を「A3」、隙間と溶接金属との境界の直上域を処理した後、重ね合わせ部と反対側の溶接止端部を超音波衝撃処理し、その後、溶接始終端の止端部を処理した場合を「B」、重ね合わせ部と反対側の溶接止端部を超音波衝撃処理した後、隙間と溶接金属との境界の直上域のみを処理した場合を「C」とした。更に、上記表2及び表3に示す処理位置は、隙間と溶接金属との境界の直上域を処理した際の先端工具の中心の位置である。
上記表2及び表3に示すように、No.41〜No.49は、2.3mm厚の440MPa級鋼板を使用した実施例の溶接継手である。これら実施例No.41〜No.49の継手は、同じ金属板を使用し、処理部分及び処理順序が本発明の範囲外である比較例No.77及びNo.78の継手、並びに処理部分の幅が本発明の範囲外である比較例No.79及びNo.80の継手に比べて、疲労強度が約20%向上していた。また、同じ金属板を使用し、超音波衝撃処理を施さなかった比較例No.93の継手と比べると70%近く疲労強度が向上していた。これら実施例No.41〜No.49の継手のうち、溶接始終端2aの止端部10dの処理に際し、先端工具の先端半径rを本発明の範囲内とした実施例No.41、No.42、No.44、No.47、No.49の継手は、先端半径rが本発明の範囲外であった実施例No.43及びNo.45の継手よりも10%程度疲労強度が高かった。また、隙間と溶接金属との境界の直上域の超音波衝撃処理において、先端工具の中心が境界の直上から溶接金属側に2.3mm(板厚t=2.3mm)以内にあった実施例No.46及びNo.48の継手は、特に高い疲労強度を示しており、この2例のうち先端半径rが1.0〜2.0mmの範囲内であった実施例No.46の継手は、最も高い疲労強度を示した。
No.50〜No.58は、2.3mm厚の780MPa級鋼板を使用した実施例の溶接継手である。これら実施例No.50〜No.58の継手は、同じ金属板を使用し、処理部分及び処理順序が本発明の範囲外である比較例No.81及びNo.82の継手、並びに処理部分の幅が本発明の範囲外である比較例No.83及びNo.84の継手に比べて、18%以上の疲労強度向上効果が認められた。また、同じ金属板を使用し、超音波衝撃処理を施さなかった比較例No.94の継手と比べると70%以上疲労強度が向上していた。これら実施例No.50〜No.58の継手のうち、溶接始終端2aの止端部10dの処理に際し、先端工具の先端半径rを本発明の範囲内とした実施例No.50、No.51、No.53、No.56及びNo.58の継手は、先端半径rが本発明の範囲外であった実施例No.52及びNo.54の継手よりも10%程度疲労強度が高かった。また、隙間と溶接金属との境界の直上域の超音波衝撃処理において、先端工具の中心が境界の直上から溶接金属側に2.3mm(板厚t=2.3mm)以内にあった実施例No.55及びNo.57の継手は、特に高い疲労強度を示しており、この2例のうち先端半径rが1.0〜2.0mmの範囲内であった実施例No.55の継手は、最も高い疲労強度を示した。
No.59〜No.67は、3.2mm厚の440MPa級鋼板を使用した実施例の溶接継手である。これら実施例No.59〜No.67の継手は、同じ金属板を使用し、処理部分及び処理順序が本発明の範囲外である比較例No.85及びNo.86の継手、並びに処理部分の幅が本発明の範囲外である比較例No.87及びNo.88の継手に比べて、20%以上の疲労強度向上効果が認められた。また、同じ金属板を使用し、超音波衝撃処理を施さなかった比較例No.95の継手と比べると疲労強度が90%以上向上していた。これら実施例No.59〜No.67の継手のうち、溶接始終端2aの止端部10dの処理に際し、先端工具の先端半径rが本発明の範囲内であった実施例No.59、No.60、No.62、No.65、No.67の継手は、先端半径rが本発明の範囲外であった実施例No.61及びNo.63の継手よりも10%程度疲労強度が高かった。また、隙間と溶接金属との境界の直上域の超音波衝撃処理において、先端工具の中心が境界の直上から溶接金属側に3.2mm(板厚t=3.2mm)以内にあった実施例No.64及びNo.66の継手は、特に高い疲労強度を示しており、この2例のうち先端半径rが1.0〜2.0mmの範囲内であった実施例No.64の継手は、最も高い疲労強度を示した。
No.68〜No.76は、3.2mm厚の780MPa級鋼板を使用した実施例の溶接継手である。これら実施例No.68〜No.76の継手は、同じ金属板を使用し、処理部分及び処理順序が本発明の範囲外である比較例No.89及びNo.90の継手、並びに処理部分の幅が本発明の範囲外である比較例No.91及びNo.92の継手に比べて、35%以上の疲労強度向上効果が認められた。また、同じ金属板を使用し、超音波衝撃処理を施さなかった比較例No.96の継手と比べると、疲労強度は100%以上向上していた。これら実施例No.68〜No.76の継手のうち、溶接始終端2aの止端部10dの処理に際し、先端工具の先端半径rを本発明の範囲内とした実施例No.68、No.69、No.71、No.74及びNo.76の継手は、先端半径rが本発明の範囲外であった実施例No.70及びNo.72の継手よりも10%程度疲労強度が高かった。また、隙間と溶接金属との境界の直上域の超音波衝撃処理において、先端工具の中心を境界の直上から溶接金属側に3.2mm(板厚t=3.2mm)以内とした実施例No.73及びNo.75の継手は、特に高い疲労強度を示しており、この2例のうち先端半径rが1.0〜2.0mmの範囲内であった実施例No.73の継手は、最も高い疲労強度を示した。
上述の如く、本発明の疲労強度向上方法は、重ね隅肉アーク溶接継手においても疲労強度向上に有効であることが確認された。