JP4414978B2 - 疲労き裂発生・進展抑止特性に優れた異幅金属板部材およびそれを用いた金属製構造物 - Google Patents
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Description
板面に平行に作用する荷重に対して幅急変部は応力集中部となるため、他の部位より大きな応力が作用する上に、風や波、機械振動などによる繰り返し荷重がかかる場合、異幅金属板部材の疲労強度の向上が極めて重要である。特に、面内ガセット継手のように溶接がなされる場合には、さらに、溶接残留応力が疲労強度を低下させることがよく知られている。幅急変部の疲労強度向上方法としては、グラインディング等応力集中をできるだけ小さくする工夫や熱処理により表層部に圧縮の残留応力を発生させる方法などが考えられる。
しかし、グラインディングは形状を滑らかにすることにより応力集中を低下させるものであり、TIGドレッシングは、溶接ビードの形状をよくするものであるが、いずれも著しく作業効率が悪かった。また、熱処理についても条件が難しいことも多く、そもそも適用できない金属も多数ある。
以上のように、従来の疲労強度の向上技術を、幅急変部を持つ金属板の応力集中部に採用することは可能ではあるが、コストが高いことや作業性が良好でないこと、十分な効果が得られない場合があることなどの問題があった。
(1) 複数の幅を有する板厚tの長尺異幅金属板の、材軸方向応力に対して応力集中部となる幅移行部の狭幅側コーナーから狭幅側の材軸方向にt/4以上3t以下の範囲で、かつ、狭幅側の金属板の幅方向端面からt/4以上3t以下の範囲に囲まれた領域に、面積が0.16t2以上4t2以下の圧痕を有し、該圧痕の板厚方向圧縮歪が0.5%以上25%未満であることを特徴とする疲労き裂発生・進展抑止特性に優れた異幅金属板部材。
(2) 複数の幅を有する板厚tの長尺異幅金属板の、材軸方向応力に対して応力集中部となる幅移行部の狭幅側コーナーから狭幅側の金属板端面を広幅側に延長した基準線の方向にt/4以上3t以下の範囲で、かつ、該基準線から外側に3t以下の範囲に囲まれた領域に、面積が0.16t2以上4t2以下の圧痕を有し、該圧痕の板厚方向圧縮歪が0.5%以上25%未満であることを特徴とする疲労き裂発生・進展抑止特性に優れた異幅金属板部材。
(3) 複数の幅を有する板厚tの長尺異幅金属板の、材軸方向応力に対して応力集中部となる幅移行部の狭幅側コーナーから狭幅側の金属板端面を広幅側に延長した基準線の位置に、金属板の突き合わせ溶接による溶接部を有することを特徴とする(1)または(2)に記載の疲労き裂発生・進展抑止特性に優れた異幅金属板部材。
(4) 前記溶接部より外側の金属板は、前記溶接部より内側の金属板より、高強度であり、かつ、板厚が内側金属板の板厚の95%以上であることを特徴とする(3)に記載の疲労き裂発生・進展抑止特性に優れた異幅金属板部材。
(5) (1)ないし(4)のいずれか1項に記載の疲労特性に優れた異幅金属板部材を有することを特徴とする疲労き裂発生・進展抑止特性に優れた金属製構造物。
まず、(1)に記載の発明は、具体的には、図1に示すような複数の幅を有する板厚tの長尺異幅金属板1の材軸方向応力に対して応力集中部2となる幅移行部の狭幅側コーナーから狭幅側の材軸方向にt/4以上3t以下の範囲で、かつ、狭幅側の金属板の幅方向端面からt/4以上3t以下の範囲に囲まれた領域に、面積が0.16t2以上4t2以下の圧痕3を有し、該圧痕の板厚方向圧縮歪が0.5%以上25%未満であることを特徴とするものである。
また、材軸方向応力に対して応力集中部となる幅移行部の狭幅側コーナー2から狭幅側の材軸方向にt/4以上3t以下の範囲で、かつ、狭幅側の金属板の幅方向端面からt/4以上3t以下の範囲に囲まれた領域に、圧痕3をつけるのは、負荷を与えない状態で応力集中部に圧縮の残留応力が生じる上に、その後負荷を与えても応力集中部に引張応力が発生しにくくするためである。
引張応力を与えた場合に応力集中部に生じる材軸方向応力が小さい方が疲労き裂発生防止には有効であることから、図2に示した金属板について圧痕の位置を変化させ、表1に示す多数の有限要素法解析を行ない、その結果に基づいて有効な圧痕3の位置と大きさを決定した。なお、図2中のx1は、金属板の狭幅側の幅方向端面から圧痕までの距離、y1は、金属板の幅移行部の狭幅側コーナーから圧痕までの材軸方向の距離である。
引張応力を与えた場合に応力集中部に生じる材軸方向応力が小さい方が疲労き裂発生防止には有効と考えられることから、図8に示した金属板について圧痕の位置を変化させ、表2に示す多数の有限要素法解析を行ない、その結果に基づいて有効な圧痕の位置と大きさを決定した。なお、図中x2は、金属板の狭幅側の幅方向端面を延長する基準線から圧痕までの距離、y2は金属板の幅移行部の狭幅側コーナーから圧痕までの材軸方向の距離である。
(1)に記載の発明と(2)に記載の発明の効果を比較すると、(1)に記載の発明の方が疲労き裂発生防止の効果が大きく、不都合がなければ(2)に記載の発明よりも(1)に記載の発明を適用することが望ましい。また、(1)に記載の発明と(2)に記載の発明は組み合わせて用いることも可能であり、組み合わせた場合、疲労き裂発生防止効果はさらに高まる。さらに、圧縮予ひずみは大きいほど効果が高いが、何らかの理由により、個々の圧痕のひずみ量が低く限定される場合には、(1)に記載の発明と(2)に記載の発明を組み合わせて用いることが特に有効である。
前記基準線の位置に、金属板9と金属板10の突き合わせ溶接による溶接部11を有することとしたのは、該溶接部の端部は応力集中部12となる上に引張の溶接残留応力が生じていることが多いために、本発明の効果が極めて大きいと考えられるためである。
外側の金属板10は、内側の金属板9より、高強度であり、かつ、板厚が内側金属板の板厚の95%以上と限定したのは、外側の金属板10の強度が低い、または、薄い場合には外側の金属板部に圧痕を配置しても、応力集中部に圧縮応力を発生させることが極めて困難であるためである。
(1)に記載の発明に係る疲労特性に優れた異幅金属板部材の実施例について図12、図13を用いて説明する。
本実施例に用いた金属板は、JIS規格G3106のSM490B鋼であり、板厚は12mm、降伏応力は330MPa、引張強さは550MPaであった。
図12は、実施例に用いた試験体13の形状および寸法を示している。図12の矢印は引張負荷の方向を示しており、試験体13に本実施例で与えた負荷は10Hzの正弦波形を持つ繰返し荷重であり、試験体端部において最大応力が150MPa、最小応力が15MPaとした。
また、図12に示した四角印は圧痕14を示しており、圧縮予ひずみの効果を確認するために応力集中部15を基準にいくつかの位置に圧縮予ひずみを与えた試験体を準備した。図13に圧縮処理を行わない場合の試験体の疲労寿命Nf0と処理を行なった場合の疲労寿命Nfの比Nf/Nf0を圧縮予ひずみの位置と圧痕の大きさごとに示す。なお、図12において、x1は金属板の狭幅側の幅方向端面から圧痕までの距離、y1は金属板の幅移行部の狭幅側コーナーから圧痕まで材軸方向の距離を示す。本実施例の範囲内では、圧縮予ひずみが大きいほうが効果も大きいことが分かる。圧縮予ひずみの大きさが小さく、応力集中部15から離れている試験体でも、本発明の範囲内では、その効果が小さくなっているものの疲労寿命の改善が見られた。なお、距離x1がt/4(=3mm)より小さい場合、試験体の取り扱い上、圧縮処理が難しいだけでなく、例え圧縮処理が可能であったとしても、圧痕による塑性域が端部に到達してしまい十分な圧縮ひずみが作用しないことがあり、また、距離x1=0mmの場合、部材の端部の圧痕が、新たな応力集中部となるため有効ではないことから、実験水準には加えなかった。また、距離y1がt/4(=3mm)より小さい場合、応力集中部15に引張の残留応力が発生することがあり、疲労寿命が短くなると考えられるため、この場合も実験水準には加えなかった。
(2)に記載の発明に係る疲労き裂発生・進展抑止特性に優れた異幅金属板部材の実施例について図14、図15を用いて説明する。
本実施例に用いた金属板は、JIS規格G3106のSM490B鋼であり、板厚は12mm、降伏応力は330MPa、引張強さは550MPaであった。
図14は、実施例に用いた試験体16の形状および寸法を示している。図14の矢印は引張負荷の方向を示しており、試験体16に本実施例で与えた負荷は10Hzの正弦波形を持つ繰返し荷重であり、試験体端部において最大応力が150MPa、最小応力が15MPaとした。
また、図14に示した四角印は圧痕17を示しており、圧縮予ひずみの効果を確認するために応力集中部18を基準にいくつかの位置に圧縮予ひずみを与えた試験体を準備した。図15に処理を行わない場合の試験体の疲労寿命Nf0と処理を行なった場合の疲労寿命Nfの比Nf/Nf0を圧縮予ひずみの位置と圧痕の大きさごとに示す。なお、図14において、x2は金属板の狭幅側の幅方向端面を延長する基準線から圧痕までの距離、y2は金属板の幅移行部の狭幅側コーナーから圧痕までの材軸方向の距離である。本実施例の範囲内では、圧縮予ひずみが大きいほうが効果も大きいことが分かる。圧縮予ひずみの大きさが小さく、応力集中部18から離れている試験体でも、本発明の範囲内では、その効果が小さくなっているものの疲労寿命の改善が見られた。なお、距離x2が0mmより小さい場合、応力集中部18に引張の残留応力が発生することがあり、疲労寿命が短くなると考えられるため、実験は行わなかった。また、距離y2がt/4(=3mm)より小さい場合、試験体の取り扱い上、圧縮処理が難しいだけでなく、例え圧縮処理が可能であったとしても、圧痕による塑性域が端部に到達してしまい十分な圧縮ひずみが作用しないことがあり、また、y2=0mmの場合、部材の端部の圧痕が、新たな応力集中部となるため有効ではないことから、実験水準には加えなかった。
(3)に記載の発明に係る、突き合わせ溶接による溶接部を有する疲労き裂発生・進展抑止特性に優れた異幅金属板部材の実施例を図16、図17を用いて説明する。
本実施例に用いた試験体の金属板19および金属板20は共にJIS規格G3106のSM490B鋼であり、板厚は12mm、降伏応力は330MPa、引張強さは550MPaであった。また、溶接金属21の降伏応力は325MPa、引張強さは560MPaでありほぼ鋼板と同等であった。
図16は、実施例に用いた試験体22の形状および寸法を示している。図16の矢印は引張負荷の方向を示しており、試験体22に本実施例で与えた負荷は10Hzの正弦波形を持つ繰返し荷重であり、試験体端部において最大応力が150MPa、最小応力が15MPaとした。
本実施例に用いた溶接は、JIS規格Z3312のYGW11の1.2mm径のソリッドワイヤを用いて、予熱を室温、入熱を1.7kJ/cmとするCO2溶接を行った。また、図16に示した四角印は圧痕23を示しており、圧縮予ひずみの効果を確認するために応力集中部24を基準にいくつかの位置に圧縮予ひずみを与えた試験体を準備した。
図17に処理を行わない場合の試験体の疲労寿命Nf0と処理を行なった場合の疲労寿命Nfの比Nf/Nf0を圧縮予ひずみの位置と圧痕の大きさごとに示す。なお、図16において、x3は、金属板の狭幅側の幅方向端面から圧痕までの距離、y3は金属板の幅移行部の狭幅側コーナーから圧痕までの材軸方向の距離を示す。本実施例の範囲内では、圧縮予ひずみの大きいほうが効果も大きいことが分かる。圧縮予ひずみの大きさが小さく、応力集中部24から離れている試験体でも、本発明の範囲内ではその効果が小さくなっているものの疲労寿命が延長した。
(4)に記載の発明に係る、突き合わせ溶接による溶接部を有する疲労き裂発生・進展抑止特性に優れた異幅金属板部材であって、溶接によって取り付けた金属板25と金属板26の板厚や強度が異なる場合の実施例を表3および図18を用いて説明する。
本実施例に用いた金属板25は、JIS規格G3106のSM490B鋼であり、その板厚は12mm、降伏応力は330MPa、引張強さは550MPaであった。また、金属板26としては、JIS規格G3106のSM400B鋼またはSM490B鋼である、表3に示す強度、板厚(t4)の異なる鋼板を5種類準備した。そのうちの板厚は9mmから12mmであり、その強度レベルは、降伏応力250MPa、引張強さ480MPaの低めのものから、降伏応力330MPa、引張強さ550MPaの高めのものまでであった。また、溶接金属27の降伏応力は325MPa、引張強さは560MPaでありほぼ鋼板と同等であった。
図18は実施例に用いた試験体29の形状および寸法を示している。図18の矢印は引張負荷の方向を示しており、試験体29に本実施例で与えた負荷は10Hzの正弦波形を持つ繰返し荷重であり、試験体端部において最大応力が150MPa、最小応力が15MPaとした。
また、図18に示した四角印は10mm四方の圧痕28を示しており、金属板26の厚みと強度の効果を確認するために圧痕位置を固定し、疲労試験を行った。表3に、その疲労試験結果を示す。金属板26の強度の低い試験片D10−1と強度が同じでも板厚の薄いD10−5については圧痕の効果が見られなかった。また、金属板26の厚みがわずかに薄い試験片D10−4は、効果はあるもののやや少なくなっていた。
2 応力集中部
3 狭幅側圧痕
4 長尺異幅金属板
5 ポンチ
6 長尺異幅金属板
7 応力集中部
8 広幅側圧痕
9 金属板
10 金属板
11 突き合わせ溶接部
12 応力集中部
13 実施例1の試験体
14 実施例1の圧痕
15 実施例1の応力集中部
16 実施例2の試験体
17 実施例2の圧痕
18 実施例2の応力集中部
19 実施例3の試験体金属板
20 実施例3の試験体金属板
21 実施例3の溶接金属
22 実施例3の試験体全体
23 実施例3の圧痕
24 実施例3の応力集中部
25 実施例4の試験体金属板
26 実施例4の試験体金属板
27 実施例4の溶接金属
28 実施例4の圧痕
29 実施例4の試験体全体
Claims (5)
- 複数の幅を有する板厚tの長尺異幅金属板の、材軸方向応力に対して応力集中部となる幅移行部の狭幅側コーナーから狭幅側の材軸方向にt/4以上3t以下の範囲で、かつ、狭幅側の金属板の幅方向端面からt/4以上3t以下の範囲に囲まれた領域に、面積が0.16t2以上4t2以下の圧痕を有し、該圧痕の板厚方向圧縮歪が0.5%以上25%未満であることを特徴とする、疲労き裂発生・進展抑止特性に優れた異幅金属板部材。
- 複数の幅を有する板厚tの長尺異幅金属板の、材軸方向応力に対して応力集中部となる幅移行部の狭幅側コーナーから狭幅側の金属板端面を広幅側に延長した基準線の方向にt/4以上3t以下の範囲で、かつ、該基準線から外側に3t以下の範囲に囲まれた領域に、面積が0.16t2以上4t2以下の圧痕を有し、該圧痕の板厚方向圧縮歪が0.5%以上25%未満であることを特徴とする、疲労き裂発生・進展抑止特性に優れた異幅金属板部材。
- 複数の幅を有する板厚tの長尺異幅金属板の、材軸方向応力に対して応力集中部となる幅移行部の狭幅側コーナーから狭幅側の金属板端面を広幅側に延長した基準線の位置に、金属板の突き合わせ溶接による溶接部を有することを特徴とする、請求項1または2に記載の疲労き裂発生・進展抑止特性に優れた異幅金属板部材。
- 前記溶接部より外側の金属板は、前記溶接部より内側の金属板より、高強度であり、かつ、板厚が内側金属板の板厚の95%以上であることを特徴とする、請求項3に記載の疲労き裂発生・進展抑止特性に優れた異幅金属板部材。
- 請求項1ないし4のいずれか1項に記載の疲労特性に優れた異幅金属板部材を有することを特徴とする、疲労き裂発生・進展抑止特性に優れた金属製構造物。
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