JP5055758B2 - ステンレス鋼の溶接継手 - Google Patents

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Description

本発明はフェライト系およびマルテンサイト系ステンレス鋼の溶接継手に関し、特に薄肉材の継手疲労強度に優れ、車両や船舶に好適なものに関する。
近年、構造部材の高性能化のため、ステンレス鋼の適用範囲が拡大している。ステンレス鋼は耐食性に優れ、腐食磨耗が減少するため、部材の軽量化が可能であるが、溶接継手の疲労強度が母材に対して低下する。
溶接継手の疲労強度を向上させる方法は1.溶接止端部の形状を、応力集中が生じないように改善する方法(例えば、特許文献1)、2.溶接金属に圧縮残留応力が働くように溶接金属の組織を改善する方法(例えば、特許文献2)に大別される。
特許文献1は、隅肉溶接継手の疲労特性強度向上方法に関し、溶接止端部をロータリーカッターにより応力集中が低減するように僅かに研削することが記載されている。
特許文献2は、溶接方法および溶接材料に関し、溶接により生成する溶接金属を、溶接後の冷却過程でマルテンサイト変態させ、室温において該マルテンサイト変態の開始時よりも膨張させる。
通常、溶接金属には常温において引張応力が作用し、亀裂が発生しやすいが、特許文献2記載の方法によれば、溶接金属に圧縮応力が作用するようになり亀裂の発生が抑制される。
特開平5−69128号公報 特開平11−138290号公報
ところで、ステンレス鋼を用いた構造体は薄肉材をTIG溶接して、製造されることが多いが、特許文献2記載の方法は、母材の板厚が8mm以下と薄い場合は溶接金属直下の溶接金属を拘束する母材の厚さが不十分となり、溶接金属の膨張による反力である圧縮応力の発生が不十分となり、疲労強度を高める効果が減少する。
特許文献1記載の方法は、止端部における応力集中の緩和に有効であるが、研削工程が追加されるため、生産能率が低下し、生産コストも上昇する。
そこで、本発明は、疲労強度に優れる、板厚が8mm程度、好ましくは4mm以下のフェライト系ステンレス鋼やマルテンサイト系ステンレス鋼の溶接継手を提供することを目的とする。
本発明の課題は以下の手段により達成可能である。
1.フェライト系またはマルテンサイト系ステンレス鋼の溶接継手であって、前記フェライト系またはマルテンサイト系ステンレス鋼は板厚が8mm以下で、前記溶接継手は重ね隅肉継手で、前記重ね隅肉継手におけるビードが、断面形状においてビード端部が下方に向かって凸状をなし、ビード止端部より溶接金属側に0.3mm以上離れた位置に最小曲率半径を有する滑らかな曲線で構成され、前記ビード止端部は止端半径0.5mm以上で、溶接金属中の未変態オーステナイト率が室温において5〜85%であることを特徴とする引張強さが680MPa以下の、フェライト系またはマルテンサイト系ステンレス鋼の溶接継手。
本発明によれば、常温で存在する未変態オーステナイトの応力誘起変態を利用するので、薄肉のフェライト系やマルテンサイト系ステンレス鋼を用いた車両や船舶等における溶接継手の疲労強度を向上させることが可能で産業上極めて有用である。
以下、本発明を実施例を用いて詳細に説明する。
本発明は、フェライト系またはマルテンサイト系ステンレス鋼をアーク溶接する際、溶接金属中の未変態オーステナイト率を溶接後、室温まで冷却された時点において特定範囲に規定し、且つ止端部における止端半径の大きさを規定する。
また、フェライト系またはマルテンサイト系ステンレス鋼で特定の強度を有する材料に適用対象を限定する
溶接金属中の未変態オーステナイト率:5〜85%
フェライト系またはマルテンサイト系ステンレス鋼の溶接継手の場合、溶接金属が準安定オーステナイト状態で最も継手疲労強度が改善されるため、溶接金属中の未変態オーステナイト率を溶接後、室温まで冷却された時点において5〜85%とする。
5%未満では、継手疲労強度の改善効果が得られず、一方、85%を超えてもその効果が低下するため、5〜85%とする。
オーステナイト比率が85%を超えると継手への負荷によりオーステナイト中にミクロな塑性変形が生じ、疲労亀裂が発生しやすくなるためと推定される。
常温で、未変態オーステナイトが残留した溶接金属に疲労破壊の原因となる繰り返し応力(負荷応力)が付与されると、未変態オーステナイトは応力誘起変態によりマルテンサイトを生じて、溶接金属が膨張するので引張応力が緩和され、疲労亀裂の発生を抑制する。
溶接後の冷却により常温までにマルテンサイト変態が完了する場合は、溶接金属の応力集中部に作用する継手引張応力の低減は期待できない。
しかし、マルテンサイト変態が完了せず、常温で未変態オーステナイトが残留する場合には、継手部に作用する繰り返し応力によりマルテンサイト変態が誘起されるため、疲労亀裂の発生を効果的に抑制することが可能である。
溶接ビード断面形状
図3は溶接ビードの断面形状を模式的に説明する図で、図において1は溶接ビード、1aは止端部、1bはビード端部、2、3は重ね隅肉継手を構成する母材、4は止端接円、5はビード端部1bにおける最小曲率半径の部分を示す円、dは止端半径、lは止端部1aから最小曲率半径までの距離を示す。
本発明において、溶接ビード断面形状(溶接線と直交する横断面)は、ビード端部1bが下方に向かって凸状をなし、ビード止端部1aより距離lが0.3mm以上の位置に最小曲率半径5を有する部分を有する滑らかな曲線で構成され、前記ビード止端部1aでの止端半径dを0.5mm以上とする。
図1に本発明に係る溶接ビード断面形状を模式的に示し、図2に比較のため、ビード端部が上方に凸状のものを示す。
このような形状とした場合、疲労亀裂の発生位置が溶接金属となり、疲労特性が向上する。尚、ビード端部は下方に向かって凸状とするが、止端部においてアンダーカットを形成しないように母材の上方から止端部にかけて滑らかな曲線を描く形状とする。
また、ビード形状は電極角度や溶接材料を適宜選定し調整することが可能で、一例として図4に電極角度が止端半径に及ぼす影響を示す。本例は板厚2mmの鋼板に200A−21Vの電流−電圧で、溶接速度を120cm/minとして溶接を実施した場合で、所定のビード形状とするため電極角度は35°以上とする。
フェライト系またはマルテンサイト系ステンレス鋼の強度:680MPa以下
母材の強度が680MPaを超えると、溶融線近傍の熱影響部と母材の硬さの大きくなりすぎ、負荷応力が熱影響部である止端部に集中し、止端部の形状を規定した効果が低減するため、母材の強度は680MPa以下とする。
表1に示す化学成分と強度を有するステンレス鋼を用いて、MIG溶接により重ね隅肉溶接継手を製作した。溶接条件は溶接電流180〜250A,溶接電圧19〜24V、溶接速度80〜130cm/minとし、表2に示す組成の溶接ワイヤ(ワイヤ径1.2mm)を用いた。シールドガスはAr−2%O混合ガスまたはAr−CO混合ガスにおいてCOを2〜25%とした。
表3に疲労試験結果を示す。疲労試験はシェンク式の曲げ試験を完全片振りの条件で実施した。溶接金属中の未変態オーステナイト率が5〜85%、止端半径0.5mm以上の溶接ビード断面形状を有し、且つ母材の強度が680MPa以下の継手の場合、上記規定のいずれかが外れる継手に対し、疲労強度に優れている。
上述したように、本発明は溶接金属に繰り返し負荷される負荷応力で未変態オーステナイトを誘起変態させ、疲労亀裂の発生を抑制させるもので、継手構造によらず疲労強度改善効果が得られるため、継手の形式は規定しない。
また、本発明は溶着金属の組成が溶接材料で調整できる溶融溶接(アーク溶接)であれば良く、溶接法は特に規定しない。溶接においては、溶接材料、溶接条件として上記規定を満足するものを予め、試験溶接を実施し、選定しておく。止端半径が溶接条件の調整により得られない場合は、適宜研削する。
尚、本発明においてステンレス鋼をオーステナイト系とした場合、溶接金属中の未変態オーステナイト率を5〜85%とするために溶接金属の化学組成を母材より卑とせざるを得ず、溶接金属の耐食性が劣化するため、ステンレス鋼の最大の利点を生かせなくなり、工業的に十分な価値が得られない。
Figure 0005055758
Figure 0005055758
Figure 0005055758
本発明例 比較例 ビード形状の各部の名称を説明する図。 止端半径に及ぼす溶接条件の影響を示す図。
符号の説明
1 ビード
2、3 母材
4 止端接円
5 ビード端部における最小曲率半径の部分を示す円
d 止端半径
l 止端部から最小曲率半径までの距離
1a ビード止端部
1b ビード端部

Claims (1)

  1. フェライト系またはマルテンサイト系ステンレス鋼の溶接継手であって、前記フェライト系またはマルテンサイト系ステンレス鋼は板厚が8mm以下で、前記溶接継手は重ね隅肉継手で、前記重ね隅肉継手におけるビードが、断面形状においてビード端部が下方に向かって凸状をなし、ビード止端部より溶接金属側に0.3mm以上離れた位置に最小曲率半径を有する滑らかな曲線で構成され、前記ビード止端部は止端半径0.5mm以上で、溶接金属中の未変態オーステナイト率が室温において5〜85%であることを特徴とする引張強さが680MPa以下の、フェライト系またはマルテンサイト系ステンレス鋼の溶接継手。
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