JP5223684B2 - 高クロムフェライト系ステンレス鋼材の溶接方法 - Google Patents

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Description

本発明は、高クロムフェライト系ステンレス鋼材のティグ溶接に関するものである。
耐食性に優れるステンレス鋼として、18%Cr−8%Ni組成のSUS304(日本工業規格 JIS G 4305)が、各種電気製品をはじめとして、器物や厨房機器、建築材、自動車部品などの分野において広く使用されている。しかしながら、Niは貴重な資源であるため、Niや同じく貴重な資源であるMoを添加せずに耐食性を向上させた高クロムフェライト系ステンレス鋼が使用され始めている(例えば特許文献1)。
この高クロムフェライト系ステンレス鋼は、その使用に際して溶接加工が施される場合が多い。溶接法としては、特に板厚が薄い板材やパイプ、型材ではティグ溶接(TIG溶接)が用いられる。ティグ溶接を行う場合、表側のみならず裏側もアルゴンガスによるガスシールドを行うことが推奨されているが、形状や作業性の観点から裏側のガスシールドを行わずにティグ溶接を行わざるを得ない場合も多い。
しかしながら、高クロムフェライト系ステンレス鋼に対し、溶加材として一般的なオーステナイト系ステンレス鋼(例えばSUS308L)を用い、裏側のガスシールドなしでティグ溶接を行った場合、不純物である炭素や窒素が溶接金属部分の粒界にクロム炭化物やクロム窒化物として生成・成長し、粒界近傍のクロムが欠乏して耐食性が損なわれることがあった。かような現象は鋭敏化と呼ばれ、ステンレス鋼の溶接における重要な問題である。
特開2007−77496号公報
上述したとおり、高クロムフェライト系ステンレス鋼材を、裏側ガスシールドなしでティグ溶接した場合、鋭敏化により溶着金属部分の耐食性を損なわれる場合があった。
この傾向は板厚が薄いほど顕著になり、その解決が望まれていた。
本発明は、上記の実情に鑑み開発されたもので、板厚が薄い高クロムフェライト系ステンレス鋼材を、裏側ガスシールドなしでティグ溶接した場合であっても、鋭敏化を伴わず、溶着金属部分においても優れた耐食性を確保することができる高クロムフェライト系ステンレス鋼材の溶接方法を提案することを目的とする。
さて、発明者らは、上記の問題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、高クロムフェライト系ステンレス鋼材の溶接に際し、溶加材として、適量のNbを含有させたオーステナイト系ステンレス鋼を用いれば、裏側ガスシールドがない場合であっても鋭敏化を回避して、溶接金属部分の耐食性が有利に向上することの知見を得た。
本発明は、上記の知見に立脚するものである。
すなわち、本発明の要旨構成は次のとおりである。
1.質量%で、
C:0.03%以下、
N:0.03%以下で、かつ
(C+N):0.05%以下、
Si:1.0%以下、
Mn:0.5%以下、
Al:0.2%以下、
Cr:20〜23%、
Ni:1.0%以下、
Ti:4×(C+N)%以上 0.4%以下、
P:0.04%以下および
S:0.01%以下
を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、板厚が1.2mm以下の高クロムフェライト系ステンレス鋼材を、裏側のガスシールドなしでティグ溶接するに当たり、溶加材として、質量%で、
C:0.03%以下、
Si:1.0%以下、
Mn:2.5%以下、
Cr:18〜24%、
Ni:9〜20%、
Nb:0.3〜1.0%、
N:0.08%以下、
P:0.04%以下および
S:0.04%以下
を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなるニオブ含有オーステナイト系ステンレス鋼ワイヤを使用することを特徴とする高クロムフェライト系ステンレス鋼材のティグ溶接方法。
2.前記高クロムフェライト系ステンレス鋼材が、質量%でさらに、
Cu:0.3〜0.8%
を含有することを特徴とする請求項1に記載の高クロムフェライト系ステンレス鋼材のティグ溶接方法。
3.前記高クロムフェライト系ステンレス鋼材が、質量%でさらに、
Nb:0.15%以下
を含有することを特徴とする請求項1または2に記載の高クロムフェライト系ステンレス鋼材のティグ溶接方法。
本発明によれば、板厚が薄い高クロムフェライト系ステンレス鋼材を、裏側ガスシールドなしでティグ溶接する場合であっても、鋭敏化の発生なしに、耐食性に優れた溶着金属部分を得ることができる。
以下、本発明を具体的に説明する。
まず、本発明において、被溶接材である高クロムフェライト系ステンレス鋼材および溶加材であるオーステナイト系ステンレス鋼ワイヤの成分組成を前記の範囲に限定した理由について説明する。なお、成分に関する「%」表示は特に断らない限り質量%を意味するものとする。
・高クロムフェライト系ステンレス鋼材組成
C:0.03%以下、N:0.03%以下で、かつ(C+N):0.05%以下
CおよびNの含有量が高いと、溶接部で鋭敏化が起こり耐食性が低下する。そこで、本発明では、後述する溶加材組成を加味した上で、良好な耐食性を得るために、CおよびN含有量については、C:0.03%以下、N:0.03%以下で、かつ(C+N):0.05%以下を満足する範囲に限定した。
Si:1.0%以下
Siは、脱酸剤として有用な元素であるが、多量に添加すると加工性の低下を招くため、Si量は1.0%以下に限定した。
Mn:0.5%以下
Mnは、脱酸作用を有するものの、鋼中で硫酸化物を形成して耐食性を低下させるため、本発明では添加量は低い方が望ましく、製造時の経済性を考慮して0.5%以下とした。
Al:0.2%以下
Alは、脱酸剤として有効な成分であるが、過剰添加はAl系の非金属介在物の増加により、表面傷を招くだけでなく、加工性を低下させることから、0.1%以下とした。
Cr:20〜23%
Crは、耐食性の改善に有効な成分であり、SUS304相当の優れた耐食性を得るためには20%以上の添加を必要とするが、23%を超えての多量に添加すると熱延板の靭性を低下させて熱延板焼鈍を困難にするので、Crは20〜23%の範囲に限定した。
Ni:1.0%以下
Niは、Cu添加による熱間加工性低下を抑制する効果があるが、高価な元素であることに加え、1.0%を超えて添加してもその効果は飽和するので、1.0%以下とした。
Ti:4×(C+N)%以上 0.4%以下
Tiは、溶接部の鋭敏化を防止するためには、4×(C+N)%以上の添加が必要であるが、0.4%を超えて過剰に添加されると熱延板の靭性を悪化させるので、Tiは4×(C+N)%以上 0.4%以下の範囲に限定した。
P:0.04%以下
Pは、熱間加工性の点からは少ない方が望ましいので、本発明では0.04%以下に抑制するものとした。
S:0.01%以下
Sは、熱間加工性および耐食性の点からは少ない方が望ましいので、本発明では0.01%以下に抑制するものとした。
以上、被溶接材である高クロムフェライト系ステンレス鋼材の基本成分について説明したが、本発明では、その他にも必要に応じて、以下に述べる元素を適宜含有させることができる。
Cu:0.3〜0.8%
Cuは、耐候性を向上させるだけでなく、隙間腐食を低減する上で有効な元素である。そのためには、少なくとも0.3%のCu添加を必要とするが、0.8%を超えて多量に添加すると熱間加工性の低下を招くので、Cuは0.3〜0.8%の範囲で含有させるものとした。
Nb:0.15%以下
Nbは、溶接部の鋭敏化を防ぐのに有効に寄与するが、0.15%を超えて添加すると鋼材が硬くなり、加工性が低下するので、Nbは0.15%以下で含有させるものとした。
また、本発明では、上記の好適成分組成になる鋼材でも、特に板厚が1.2mm以下の薄鋼材を対象とする。
ステンレス鋼材の板厚:1.2mm以下
裏側のガスシールドなしでティグ溶接を行うと、裏面の溶融状態の溶接金属部分に大気中の窒素が侵入・溶解する。板厚が1.2mm以下になると、溶接金属(溶着金属)の体積に対して溶接金属裏側(裏波、裏ビード)の面積の比率が大きくなり、溶接金属中に侵入・溶解する窒素濃度が上昇するため、鋭敏化が起こる。これに対し、板厚が1.5mm程度の場合は、裏側のガスシールドがなくても、溶接金属(溶着金属)の体積に対して溶接金属裏側(裏波、裏ビード)の面積の比率が小さく、溶接金属中に侵入・溶解する窒素濃度が低いので、鋭敏化の問題は起こらない。
本発明は、板厚が1.2mm以下の鋼材で懸念される鋭敏化を防ぐために開発されたものである。本発明によれば、板厚が1.0mm以下でも、さらには0.8mm以下でも鋭敏化が起こらず、耐食性の良好な溶接金属部分を得ることができる。
次に、溶接時に用いる溶加材の成分組成範囲について説明する。
・ニオブ含有オーステナイト系ステンレス鋼ワイヤ
C:0.03%以下、N:0.08%以下
CおよびNの含有量が高いと、溶接部で鋭敏化が起こり、耐食性が低下する。そこで、本発明では、良好な耐食性を得るために、C:0.03%以下、N:0.08%以下に限定した。
Si:1.0%以下
Siは、脱酸剤として必要な元素であるが、多量に添加すると加工性を害するため、1.0%以下とした。
Mn:2.5%以下
Mnは、Ni添加時に混入するが、鋼中で硫化物を形成し溶接部の耐食性を低下させるため混入量は低い方が望ましく、本発明では、製造時の経済性を考慮して2.5%以下とした。
Cr:18〜24%
Crは、耐食性に有効な元素であり、溶接部で母材と同等の耐食性を得るためには18%以上の添加が必要である。しかしながら、含有量が24%を超えると溶解時に炭素や窒素を低減できなくなったり、熱間加工性が低下し製造が難しくなるので、Crは18〜24%の範囲に限定した。
Ni:9〜20%
Niは、組織をオーステナイト化して、溶接時の溶け込み性を良好にするために必要であり、そのためには9%以上の添加が必要である。しかしながら、Niは高価な元素であり、また20%以上添加してもその効果は飽和するため、Niは9〜20%の範囲に限定した。
Nb:0.3〜1.0%
Nbは、本発明において重要な元素であり、溶加材中の炭素や窒素、さらには裏側ガスシールドがないために溶接時に大気中から溶接金属部分に侵入する窒素が、鋭敏化を起こして耐食性を低下させるのを防ぐために、ニオブ炭化物・窒化物として固定して無害化する効果がある。この効果を得るためには、0.3%以上の添加が必要であるが、1.0%を超えて添加すると溶接部に割れが生じやすくなるので、Nbは0.3〜1.0%の範囲で含有させるものとした。
P:0.04%以下
Pは、溶加材の熱間加工性の観点および溶接部の耐食性を確保する観点からは少ない方が望ましいので、0.04%以下に限定した。
S:0.04%以下
Sは、溶加材の熱間加工性と溶接部の耐食性を確保するためには少ないほうが望ましいので、0.04%以下に限定した。
表1に示す成分組成になり、板厚が0.8mmと1.5mmの高クロムフェライト系ステンレス鋼板を、表2に示す成分組成になる溶加材(ワイヤ)を用いて、表3に示す条件でティグ溶接を行った。なお、シールドガスとしてはアルゴンガスを用いた。
溶接後の鋼材に対し、酸洗で溶接焼けを除去したのち、繰り返し塩水噴霧試験を行って耐食性を評価した。繰返し塩水噴霧試験は、5mass%NaCl噴霧(35℃、2h)→乾燥(60℃、4h)→湿潤(40℃、2h)を1サイクルとして、30サイクル行った。
得られた結果を表3に示す。
Figure 0005223684
Figure 0005223684
Figure 0005223684
表3に示したとおり、板厚が0.8mmの鋼板に対し、比較材の溶加材BあるいはCを用いて溶接した場合には、溶接部で発銹し、耐食性が低下した。
これに対し、本発明に従う溶加材Aを用いて溶接した場合には、裏側ガスシールドがなくても良好な耐食性が得られた。
なお、比較例3,4は、板厚が厚ければ裏側ガスシールドがなくても鋭敏化が起こらないこと、また比較例5,6は板厚が薄くても裏側ガスシールドがあれば耐食性の劣化が軽減されることを示している。さらに、比較例7,8,9は、本発明例の溶加材Aを用いれば、裏側ガスシールドがある場合や板厚が厚い場合には、勿論のこと、良好な耐食性が得られることを示している。

Claims (3)

  1. 質量%で、
    C:0.03%以下、
    N:0.03%以下で、かつ
    (C+N):0.05%以下、
    Si:1.0%以下、
    Mn:0.5%以下、
    Al:0.2%以下、
    Cr:20〜23%、
    Ni:1.0%以下、
    Ti:4×(C+N)%以上 0.4%以下、
    P:0.04%以下および
    S:0.01%以下
    を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、板厚が1.2mm以下の高クロムフェライト系ステンレス鋼材を、裏側のガスシールドなしでティグ溶接するに当たり、溶加材として、質量%で、
    C:0.03%以下、
    Si:1.0%以下、
    Mn:2.5%以下、
    Cr:18〜24%、
    Ni:9〜20%、
    Nb:0.3〜1.0%、
    N:0.08%以下、
    P:0.04%以下および
    S:0.04%以下
    を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなるニオブ含有オーステナイト系ステンレス鋼ワイヤを使用することを特徴とする高クロムフェライト系ステンレス鋼材のティグ溶接方法。
  2. 前記高クロムフェライト系ステンレス鋼材が、質量%でさらに、
    Cu:0.3〜0.8%
    を含有することを特徴とする請求項1に記載の高クロムフェライト系ステンレス鋼材のティグ溶接方法。
  3. 前記高クロムフェライト系ステンレス鋼材が、質量%でさらに、
    Nb:0.15%以下
    を含有することを特徴とする請求項1または2に記載の高クロムフェライト系ステンレス鋼材のティグ溶接方法。
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