JP2007245225A - ステンレス鋼の溶接方法及びステンレス鋼用溶接ワイヤ - Google Patents

ステンレス鋼の溶接方法及びステンレス鋼用溶接ワイヤ Download PDF

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Abstract

【課題】ステンレス溶接において、アークが安定し、ポロシティ、溶接部の割れが発生しない、溶接方法及び溶接ワイヤを提供する。
【解決手段】ステンレス鋼を窒素混合シールドガスを用いてアーク溶接するに当り、ワイヤ成分としてCr、Mo、Al、Vの各成分を含有する溶接用ワイヤを使用し、これらのワイヤの配合成分がC:0.018wt%以下、Si:0.60〜1.30wt%、Mn:0.35〜1.00wt%、Mo:1.5〜3.0wt%、P:0.030wt%以下、S:0.030wt%以下、Cr:22.0〜30.0wt%、Al:0.03〜0.1wt%、V:0.05〜0.35wt%、残りFeであるもの。
【選択図】図1

Description

本発明は、ステンレス鋼の溶接方法及びそれに使用する溶接ワイヤに関し、特に、シールドガスとして窒素ガスを含む窒素混合ガスを使用するステンレス鋼の溶接方法及び窒素混合ガスをシールドガスとして使用するステンレス鋼溶接に使用する溶接ワイヤに関する。
自動車の排気系はエンジンに近い側から、排気マニホールド、フロントパイプ、フレキシブルパイプ、触媒コンバータ、センターパイプ、マフラー、テールパイプから成り立っている。融点の二分の一以上を高温とした場合、これらの排気系部品のうち、排気マニホールドから触媒コンバータまでのものが高温部品といえる。特に排気マニホールドはエンジンに最も近接した部品であり、排気ガス温度が900℃を超える場合もあることから、その特性として、耐酸化性、高温強度、熱疲労特性などが要求される。さらに、このような排気マニホールドは複雑な形状に加工されることもあり、成形性に優れることも必要である。
従来、排気マニホールドは、FCD400等の球状黒鉛鋳鉄や耐熱性を高めた高シリコン球状黒鉛鋳鉄が使用されてきたが、各種法規制への対応のため、又、エンジン性能の向上とともに、排ガス温度が上昇し、部品重量の軽減ニーズなどからステンレス鋼が使用されるケースが多くなってきた。
他方、排気系での使用に適したステンレス鋼としては、オーステナイト系とフェライト系とがある。オーステナイト系ステンレス鋼は高温の強さに優れるが、酸化スケールが剥離しやすいため、耐酸化性はフェライト系ステンレス鋼に劣ること、オーステナイト系の熱膨張係数がフェライト系の1.6倍程度大きく、自動車の性能に悪影響を及ぼしやすいことなどの問題がある。
こうした背景から、高温部材には主としてフェライト系ステンレス鋼が使用されているが、オーステナイト系ステンレス鋼に比べてアーク溶接性が悪く、組織的に相変態がないため、高温で粗大化した結晶粒がそのまま常温まで持ち込まれる結果、脆化しやすく、割れを発生しやすいという欠点があった。
そこで、フェライト系ステンレス鋼を溶接するに当り、ArガスをベースとしOガス:1〜10vol%とNガス:2〜30vol%を混合した混合ガスをシールドガスとして使用し、C:0.015wt%以下、Si::0.9〜1.5wt%、Mn::1.0wt%、P:0.030wt%、S:0.010wt%、Cr:15.0〜25wt%、Ti:0.01〜1.50wt%、残りFeのフェライト系ステンレス鋼溶接ワイヤを用いるものが提案されている。(特許文献1)
特開2001−71145号
ところが、前述した従来のものでも、溶接部をJIS Z 3122で規定されている「突き合わせ溶接継手の曲げ試験方法」に準拠して曲げ試験を行うと、溶接部に割れが発生するうえ、溶接時のアークの安定、及びスパッタの発生を同時に解決することはできないという問題があった。
本発明はこのような点に着目し、ステンレス溶接において、アークが安定し、ポロシティ、溶接部の割れが発生しない、溶接方法及び溶接ワイヤを提供することを目的とする。
上述の目的を達成するために、請求項1に記載した本発明は、ステンレス鋼を窒素混合シールドガスを用いてアーク溶接するに際し、ワイヤ成分としてCr、Mo、Al、Vの各成分を含有する溶接用ワイヤを使用し、これらのワイヤ成分がシールドガス中の窒素を金属格子内に固溶させ、溶接金属格子の一部をオーステナイト化させることを特徴とする。
また、請求項2に記載の発明は、窒素混合シールドガスを用いてステンレス鋼をアーク溶接する溶接用ワイヤであって、その配合成分がC:0.018wt%以下、Si:0.60〜1.30wt%、Mn0.35〜1.00wt%、Mo1.5〜3.0wt%、P0.030wt%以下、S:0.030wt%以下、Cr:22.0〜30.0wt%、Al:0.03〜0.1wt%、V:0.05〜0.35wt%、残りがFeであることを特徴としている。なお、このFeの配合比率には不可避的に混入している不純物の分も含んでいる。
本発明は、シールドガスとして、窒素混合ガスを使用するとともに、溶接ワイヤとしてCr、Mo、Al、Vの各成分を含むものを使用することにより、窒素ガスの混合量を増加させてもブローホールが発生することがなく、窒素が鋼中に固溶して、窒化物をほとんど形成せず、溶接金属の組織がフェライト単相から、オーステナイト−フェライト混合組織になり、組織が微細化してフェライト単相金属に比べ、耐割れ性が飛躍的に向上して、アークが安定するとともに、ポロシティ、溶接部の割れが発生しない溶接技術を提供することができる。
すなわち、シールドガス中の窒素濃度を変化させることにより、溶接金属中のフェライトとオーステナイトとの組織割合を任意に変えることができるので、いろいろあるステンレス溶接母材と同等の組織に調整することが可能となり、その結果として、フェライト単相の欠陥である脆化、耐割れ性の問題を解決することができる。
オーステナイト系ステンレス鋼母材にも適用できるので、高温部品から低温部品まで自動車排気系全体を1種類の溶接ワイヤ及び1種類のシールドガスで溶接することができ、従来のように部位に応じて溶接ワイヤの種類及びシールドガスの種類を交換する必要がなくなる。
また、オーステナイト組織の特徴である「良好な耐食性」、「高い衝撃特性」、「非磁性」、「低温割れレス」、フェライト組織の特徴である「少ない膨張収縮」、「優れた加工性」、「耐酸化性」、「耐熱疲労」、窒素の特徴である「静的強度の向上」などの利点を得ることができる。
自動車排気系高温部品が対象となるフェライト系ステンレス鋼(SUS430)を溶接するに当り、シールドガスとして、Nガスを15vol%、COガスを1vol%、残りArガスの組成からなる窒素混合シールドガスを使用し、種々の成分を混入割合を変化させた溶接ワイヤを使用して、消耗電極式ガスシールドアーク溶接により、ガス流量:20リットル/min、電流:15A、溶接速度:50cm/min、突き合わせ溶接で溶接した。
その溶接結果の判定を表1に示す。
Figure 2007245225
この結果、フェライト系ステンレス鋼の溶接に関しては、C:0.01wt%、Si:0.9wt%、Mn:0.35wt%、Cr:25wt%、Mo:2wt%、Al:0.04wt%、V:0.2wt%、残りFe(不可避的不純物を含む)を含んだ溶接棒が総合評価として、良好であった。
そこで、上記配合成分をすこしずつ変化させた溶接ワイヤを作成して、上記と同様の溶接条件で溶接した。その溶接結果の判定を表2に示す。
Figure 2007245225
この結果、フェライト系ステンレス鋼の溶接に関しては、C:0.01wt%、Si:0.9wt%、Mn:0.35wt%、Cr:25wt%、Mo:2wt%、Al:0.04wt%、V:0.2wt%、残りFe(不可避的不純物を含む)を含んだ溶接棒が総合評価として、良好であった。
さらに、C:0.01wt%、Si:0.9wt%、Mn:0.35wt%、Cr:25wt%、Mo:2wt%、Al:0.04wt%、V:0.2wt%、残りFe(不可避的不純物を含む)を含んだ溶接棒を使用してステンレス鋼の溶接を行う場合でのシールドガスの影響を調べるために、シールドガスの組成を変化させ、上記と同様の溶接条件で溶接した。その溶接結果の判定を表3に示す。
Figure 2007245225
この結果、ステンレス鋼溶接時のシールドガスの組成としては、Nガス7〜30vol%、COガス1〜3vol%、残りArガスのシールドガスが総合評価として、良好であった。
また、溶接後の溶接金属部、溶接ワイヤ及び母材(SUS430)の化学組成は表4に示すとおりであった。
Figure 2007245225
以上の結果、自動車排気系高温部品が対象となるフェライト系ステンレス鋼(SUS430)を溶接する場合には、シールドガスとして、Nガスを10〜30vol%、COガスを1〜3vol%、残りArガスの組成からなる窒素混合シールドガスを使用し、溶接棒として、C:0.018wt%以下、Si:0.60〜1.30wt%、Mn:0.35〜1.00wt%、Cr:22.0〜30wt%、Mo:1.5〜3.0wt%、Al:0.03〜0.1wt%、V:0.05〜0.35wt%、残りFe(不可避的不純物を含む)を含んだ溶接棒を使用した場合に、溶接部の脆化、割れの発生防止、スパッタ量の低減、アークの安定が図れることがわかった。
ここで、Cを0.018wt%以下としたのは、Cは溶接部の強度を向上させるのに最も必要な元素であるから含有させるものであるが、成分濃度が0.018wt%を超すと包晶反応により、固くて脆いマルテンサイトが生成される可能性があること、フェライト系ステンレス鋼の宿命的欠点とも言える機械的性質及び耐食性の劣化を少しでも低減するにはCの量を多くできないこと、製造性などを考慮して、上限を0.018wt%とした。
Siについては、Siは鋼の製造時に添加する脱酸材であるとともに、強度確保のために必要な元素であり、溶接作業性の観点からは、0.60wt%未満ではビード形状が凸型となり、溶接評価としては満足されるものではなかった。また、1.30wt%を超すと、アークが安定せず、溶融池に乱れが観察され、溶接評価として満足できなかった。そこで、Siについての含有量は、0.60〜1.30wt%とした。
Mnについては、MnもSiと同様に鋼の製造時に添加する脱酸材であるとともに、強度確保のために必要な元素である。そして、このMnの含有量が0.35wt%未満ではスラグの形成が不十分であり、ビード形成性に悪影響を及ぼした。また、Mnの含有量が1.00wt%を超すと耐食性の劣化、高度の上昇に伴う脆化、切削性の劣化などがあるので、その含有量を0.35〜1.0wt%とした。
Moについては、Moは窒素を鋼の中に固溶させる元素の1つである。このMoの含有量が1.5wt%未満では溶接金属内に微小な気孔が生じた。また、含有量が3.0wt%を超すと窒化物による硬度の上昇に伴う脆化、切削性の劣化などがあるので、その含有量を1.5〜3.0wt%とする。
Pについては、Pは溶接ビードをフラットにする働きがあるが、耐溶接割れ性及び溶接部の靭性を著しく低下させるので、製造時のコストも考慮して0.030wt%以下とする。
Sについては、SはPと同様に溶接ビードをフラットにする働きがあるが、耐溶接割れ性及び溶接部の靭性を著しく低下させるので、固溶度も考慮して0.018wt%以下とする。
Crについては、Crは耐食性及び耐酸化性を確保するために欠かせない元素である。Crの増加とともに窒素の固溶度は増加するが、22.0wt%未満では窒素雰囲気下での溶接金属組織のオーステナイト化が不安定であり、溶接電流、溶接電圧などの施工条件の変動次第で望むオーステナイト、フェライト混合組織を得られない場合も出てくる。一方Crが30.0wt%を超すとスピノーダル分解が影響して、溶接ワイヤの製造が困難になるので、その含有量は22.0〜30wt%とする。なお、含有量の上限を27.0wt%とすることが望ましい。
Alについては、Alは窒素との親和力が強いため、固溶体を生成しなかった窒素が存在しても窒化物として固定することが可能で、効果的にブローホールの発生を抑えることができるが、その効果は含有量が0.03wt%未満では発揮しない。一方、含有量が0.1wt%を超すと、ビード形成性の劣化やスパッタの増加がみられアークが不安定になるのでその含有量を0.03〜0.1wt%とする。
Vについては、Vは窒素との親和力が強く、適量添加はブローホール防止になるため、固溶体を生成しなかった窒素が存在しても、窒化物として固定することが可能で、効果的にブローホールの発生を抑えることができる。しかし、その効果は0.05wt%未満では発揮しない。一方、0.35wt%を超すとビード形成性の劣化、スパッタの増加の他、金属間化合物を生成し、硬くて脆い組織となるので、その含有量を0.05〜0.35wt%とする。
また、前述のように上記実施形態でのシールドガスの組成としては、Nガス7〜30vol%、COガス1〜3vol%、残りArガスが良好としたが、COガスはアークを安定させるのに必要なガスであるが、1vol%未満ではアークが不安定でブローホールが発生しやすいし、3vol%を超すと溶接金属の酸化が著しくなるので、その配合範囲は1〜3vol%とする。Nガスは、低い温度では不活性ガスであるが、高温になると活性になるといわれており、溶接時におけるブローホール生成の原因になるといわれている。しかし、この現象はCrが存在しない状態での状況であり、本発明者らは上述した通り、溶接ワイヤ中のCrを増加するほどNを固溶すること、Al及びVの添加でNの固定効果も作用して、溶接時のブローホールが発生しないという知見を得た。これにより、窒素固溶による溶接金属の改質効果を考慮して、Nの混合比を7vol%以上、好ましくは10vol%以上とした。
一方、溶接ロッド中のCr量が33wt%を超すとスピノーダル分解が生じワイヤ加工性が著しく低下する。これにより、溶接ワイヤに添加するCrの量は30wt%が上限となり、このCr添加量を7〜30wt%に設定した溶接ワイヤを使用して、Nの混合比を増やした場合、N量が30vol%を超えると微細なポロシティが発生した。したがって、本発明にかかる溶接ワイヤを使用する場合のシールドガスでのNガス量は30vol%が上限となる。
また、溶接金属部分のX線回析図を図1に示す。
上記の実施形態では、フェライト系ステンレス鋼(SUS430)を溶接する場合について説明したが、自動車用排気系低温部品で主として使用されるオーステナイト系ステンレスにも本発明は適用することができる。なぜなら、本発明にかかる溶接用ワイヤ及びそのワイヤを使用した溶接方法で形成される金属組織は、上述したようにオーステナイトフェライト混合組織であり、母材となるオーステナイト系ステンレス鋼と同じ組織系を含んでいるからである。
又、一部の特殊車両において耐食性を求められる部分には二相系ステンレス鋼が使用されるが、この二相系ステンレス鋼にも本発明を適用することができる。なぜならば、本発明にかかる溶接用ワイヤ及びそのワイヤを使用した溶接方法で形成される金属組織は、上述したようにオーステナイトフェライト混合組織であり、母材となる二相系ステンレス鋼と同じ組織系を含んでいるからである
本発明は、ステンレス鋼の溶接、特に薄板の溶接に適している。
溶接金属部のX線解析図である。

Claims (2)

  1. ステンレス鋼を窒素混合シールドガスを用いてアーク溶接するに際し、ワイヤ成分としてCr、Mo、Al、Vの各成分を含有する溶接用ワイヤを使用し、これらのワイヤ成分がシールドガス中の窒素を金属格子内に固溶させ、溶接金属格子の一部をオーステナイト化させることを特徴とするステンレス鋼の溶接方法。
  2. 窒素混合シールドガスを用いてステンレス鋼をアーク溶接する溶接用ワイヤであって、その配合成分がC:0.018wt%以下、Si:0.60〜1.30wt%、Mn:0.35〜1.00wt%、Mo:1.5〜3.0wt%、P:0.030wt%以下、S:0.030wt%以下、Cr:22.0〜30.0wt%、Al:0.03〜0.1wt%、V:0.05〜0.35wt%、残りはFeであることを特徴とするステンレス鋼用溶接ワイヤ。

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