JP2005028372A - 溶接材料及び鋼構造物用溶接継手 - Google Patents
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Abstract
【課題】溶接割れを発生することなく溶接継手の疲労強度の向上と溶接金属の靭性の向上とを両立する溶接材料の提供。
【解決手段】鋼材を溶接して製造する鋼構造物用溶接継手に用いる溶接材料をフラックス入りワイヤとし、この溶接材料を形成する溶着金属の組成を、Cが0.20質量%以下、Crが6.0〜21.0質量%、Niが4.0〜20.0質量%、Siが5.0質量%以下、Mnが10.0質量%以下、Pが0.020質量%以下、Sが0.010質量%以下、Moが4.0質量%以下、Nbが3.0質量%以下、Caが0.5質量%以下とし、残部をFeおよび不可避的含有成分とする。
【選択図】 なし
【解決手段】鋼材を溶接して製造する鋼構造物用溶接継手に用いる溶接材料をフラックス入りワイヤとし、この溶接材料を形成する溶着金属の組成を、Cが0.20質量%以下、Crが6.0〜21.0質量%、Niが4.0〜20.0質量%、Siが5.0質量%以下、Mnが10.0質量%以下、Pが0.020質量%以下、Sが0.010質量%以下、Moが4.0質量%以下、Nbが3.0質量%以下、Caが0.5質量%以下とし、残部をFeおよび不可避的含有成分とする。
【選択図】 なし
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、例えば、船舶、橋梁、貯槽、建設機械等の大型鋼構造物に用いるにあたり好適な溶接材料及び鋼構造物用溶接継手に係る。
【0002】
【従来の技術】
船舶、橋梁、貯槽、及び建設機械等においては、大型化とそれに伴う軽量化の目的から溶接して使用される鋼材の高強度化が求められている。鋼材が高強度化することによって使用する鋼材を少なくすることができ、構造物を軽量化することができる。これら構造物に使用される鋼材としては、引張強度レベルが400〜590MPaの低合金鋼材が一般に用いられている。
【0003】
ところが、鋼材の引張強度が増加しても溶接継手の疲労強度が鋼材の引張強度ほどには向上しないといわれている。この原因としては、溶接継手の溶接部に生じる引張残留応力が大きいことが挙げられる。
従来ある溶接継手の疲労強度を向上させる溶接方法として、例えば、以下の方法がある。
【0004】
この溶接方法では、溶接継手の溶接部分の溶接金属が、溶接後に冷却される過程において、溶接金属中でマルテンサイト変態を起こさせ、溶接継手が使用される温度(例えば、室温)において溶接金属の体積が、マルテンサイト変態の開始時の体積よりも膨張している状態とし、溶接材料として溶接ワイヤを使用し、溶接材料をなす鉄合金は冷却時におけるマルテンサイト変態開始温度(Ms点)を250℃未満170℃以上と低温化させたものである(例えば、特許文献1を参照)。このような溶接方法及び溶接材料を用いることにより、溶接継手の溶接金属に生じた引張残留応力を低減し、あるいは引張残留応力に代えて圧縮残留応力を与え、溶接施工後の研削等の特別な後処理を行うことなく溶接継手の疲労強度を向上させている。
【0005】
なお、溶接金属とは、溶接継手の鋼材が接合されている部分において、溶着金属と鋼材の成分が混じり合っている部分の金属のことをいい、溶着金属とは、溶接行程と同じ熱履歴を受けながらも、鋼材との希釈を受けずに固化した金属のことをいう。
また、溶接材料として、被覆アーク溶接棒、フラックスの被覆がなく芯線をなす鋼が剥き出しとなっているソリッドワイヤ、円筒状鋼の円筒内にフラックスが充填されているフラックス入りワイヤがある。
【0006】
【特許文献1】
特開平11−138290号公報
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記した従来ある溶接材料にあっては、溶接継手の疲労強度が向上するものの、ビード形状が従来の汎用材に劣り、疲労強度を向上させるという効果を充分に引き出せていないという問題点があり、また、溶接金属の靭性が必ずしも高くないという問題点があった。これは、溶接材料のMs点の低温化を実現するために添加した合金元素によりビード形状及び靭性の劣化を引き起こすためである。
【0008】
また、被溶接鋼板や溶接材料が有する水分によっては溶接金属に割れが生じる場合がある。
本発明は上述の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、溶接継手の疲労強度の一層の向上と溶接金属の靭性の向上とをともに可能とする鋼構造物用溶接継手及び溶接材料を提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明は、その課題を解決するために以下のような構成をとる。請求項1の発明に係る溶接材料は、低合金鋼材を溶接して製造する鋼構造物用溶接継手に利用するフラックス入りワイヤからなる溶接材料であって、この溶接材料により形成される溶着金属が、0.20質量%以下のC、6.0〜21.0質量%のCr、4.0〜20.0質量%のNi、5.0質量%以下のSi、10.0質量%以下のMn、0.020質量%以下のP、及び、0.010質量%以下のSを含有し、前記溶着金属の残部がFeおよび不可避的含有成分からなる。
【0010】
本発明者らが、本溶接材料を用いて鋼材を溶接して製造した鋼構造物用溶接継手について検討した結果、次のような知見を得た。すなわち、フラックス入りワイヤにCr,Niを含有させて、溶接金属のオーステナイト相の安定度を高め、マルテンサイト変態が起こる温度を低下させ、溶接金属組織をマルテンサイト、あるいは、マルテンサイトとオーステナイトとの混合組織とすることにより、なおかつ、フラックス入りワイヤに含まれるフラックスがビード止端部を覆うこと、溶接アークが安定なことにより、ビード止端部形状がソリッドワイヤや被覆アーク溶接棒を使用した場合に比べ、極めて滑らかになることにより、この溶接材料を用いて製造した溶接継手の疲労強度が著しく向上することを見出したのである。
【0011】
また、溶着金属の化学組成をある一定範囲の化学組成とすることにより、溶接継手の疲労強度が向上し、同時に溶接金属の靭性及び耐低温割れ性が向上することを見出したのである。溶着金属の組成が一定範囲組成となるフラックス入りワイヤからなる溶接材料を製造するには、ワイヤ部分の組成とフラックス部分の組成の、適切な組合せを実験的に決定することにより達成できる。これらの知見により溶接継手の総合的な性能を高めることができる。
【0012】
請求項1の発明に係る溶接材料(第1の発明)は、本発明者らがこれらの知見にさらなる検討を加え完成したものである。
Cは、溶接金属において、マルテンサイトの硬さを増加させ、溶接硬化性を増大させ、低温割れを助長するとともに、溶接金属の靭性を劣化させる元素である。したがって、溶接材料に含まれるCの含有量をできるだけ低減させて、溶接材料に由来する溶接金属中のCの含有量をできるだけ低減することが好ましい。靭性劣化を防止する観点から、溶着金属中のCの含有量を0.20質量%以下とすることが好ましく、Cの含有量を0.12質量%以下とするとより好ましい。
【0013】
Crは、溶接金属におけるMs点を効果的に低下させる元素である。溶接継手を製造した後、溶接金属を溶接継手の使用温度(例えば、−20〜100℃の範囲)まで冷却し、溶接継手の使用温度における溶接金属の体積が溶接金属のMs点における体積よりも膨張した状態とすると、この体積膨張分によって溶接金属に生じる引張残留応力を低減させることができる。しかし、Ms点が高すぎると、溶接継手の使用温度における溶接金属の体積が溶接金属のMs点における体積よりも収縮した状態となり、溶接金属に生じる引張残留応力を吸収できない。したがって、溶接金属のMs点を360℃以下にすることが好ましい。溶接金属のMs点は溶接金属の化学組成と密接な関係があり、本願の化学組成範囲では後述の経験式(1)により表現できることを確認している。Crを21.0質量%を超えて添加すると、溶接金属中にフェライトが大量に生成するという不具合を生じ、あるいは、フェライトの生成を抑制するためにオーステナイト安定化元素を添加するとMs点が下がりすぎるなどの不具合が生じる。
【0014】
Crの含有量を6.0質量%以上とすることで、Ms点調整が容易となるが、Crの含有量を6.0質量%未満とすると、後述のNi以外の元素を用いて溶接金属の靭性を劣化させずにMs点を効果的に低下させることが困難となる。
Niは溶接金属の積層欠陥エネルギーを高め、マルテンサイト及びオーステナイト中の転位密度を効果的に低下させて、靭性を高めるのに有効な元素である。Ni存在下、特にマルテンサイト及びオーステナイトが共存すると、この溶接金属を有する溶接継手に大きな変形や高速の変形が生じても、オーステナイトがこれらの変形を受け持ち、高い靭性が溶接継手に付与される。溶接材料の溶着金属のNiの含有量が4.0質量%未満だと、溶接金属において残留オーステナイトが生成しにくく、後のマルテンサイト変態による膨張効果が得られない。なお、後述するように、残留オーステナイト量は70体積%を超えると、かえってマルテンサイト変態膨張による疲労強度の向上効果が失われるので、残留オーステナイト量は5〜50体積%が好適範囲である。この好適範囲を有する溶接継手を形成させるには、Niの含有量を12.0質量%以上とするとよい。また、溶接材料の溶着金属中のNiの含有量が20.0質量%を超えると、Ms点が低下しすぎてマルテンサイト変態膨張による効果が得られなくなるばかりでなく、Ni自体が高価であり、経済的に好ましくない。
【0015】
ここで、CrとNiの関係について改めて記述する。上述のように、Crの含有量が6.0質量%未満であると、後述のNi以外の元素を用いて溶接金属の靭性を劣化させずにMs点を効果的に低下させることが困難であるが、Crの含有量に下限のない場合、Niの含有量を12.0質量%以上かつ20.0質量%未満とすることで、溶接金属の靭性をより高め、かつ溶接継手の疲労特性の向上が可能であることを本発明者らが見出したのである(後述する本願第2の発明)。
【0016】
Siは、溶接金属におけるMs点を低温とするとともに、脱酸材として機能して溶接金属中の酸素量を低減し、溶接金属の靭性を向上させる元素である。溶接材料の溶着金属中のSiの含有量が5.0質量を超えると、この溶接材料を用いて製造した溶接継手の溶接金属において、高温割れが発生しやすく、また、規則格子が形成されてその靭性が著しく劣化する。したがって、溶接材料の溶着金属中のSiの含有量を5.0質量%以下とすることが好ましい。
【0017】
Mnは、溶接金属においてNiと同様にオーステナイト安定化作用を有するが、溶接金属の積層欠陥エネルギーを低くするので、オーステナイトやマルテンサイトの転位密度が高まるという作用を有する。したがって、Niの代わりにMnを用いてMs点を低下させると溶接金属の靭性が劣化する問題がある。したがって、溶着金属のMnの含有量を10.0質量%以下とすることが好ましい。
【0018】
P及びSは、高温下、溶接金属に割れを発生させる原因となる元素である。溶接金属に発生する割れを阻止するために、溶接材料の溶着金属中のP及びSの含有量を抑制する必要がある。溶接材料の溶着金属中のPの含有量を0.020質量%以下とし、Sの含有量を0.010質量%以下とすることにより、高温下、溶接金属に発生する割れを防止できる。また、高温下、溶接金属に発生する割れを完全に排除するためには、溶接材料の溶着金属中のPの含有量を0.010質量%以下とし、Sの含有量を0.005質量%以下とすることが好ましい。
【0019】
なお、溶接材料に、V、Cu、N、希土類元素をそれぞれ0.5質量%以下含有することは許容される。また、溶接材料に含有される他の元素が不可避的に含有成分として存在しても何ら問題は無い。不可避的含有成分とは、いわゆる不純物のほか、例えば溶接材料中に添加されていることにより溶着金属に含有されることとなった成分を指す。
【0020】
また、低合金鋼材とは、船舶、橋梁、貯槽、及び建設機械等の大型構造物において、構造物の軽量化を目的として従来一般に使用されている鋼材であり、Cr,Ni,Mo等が各々3質量%以下添加されており、引張強度レベルが400〜590MPaの鋼材のことをいう。
請求項2の発明に係る溶接材料(第1の発明の好適態様)は、請求項1に記載の溶接材料であって、前記溶接材料により形成される溶着金属が、さらに4.0質量%以下のMo、3.0質量%以下のNb及び0.5質量%以下のCaのうち少なくといずれか一種を含有する。
【0021】
請求項2の発明に係る溶接材料は、本発明者らが、上記知見にさらなる検討を加え完成したものである。そして、本発明者らは、この溶接材料により鋼材を溶接して鋼構造物用溶接継手を製造すると、この溶接継手の使用温度(例えば、−20〜100℃の範囲)において、溶接金属の靭性(シャルピー衝撃特性)が60J以上となることを見出した。
【0022】
Moは、溶接金属の耐食性を向上させるとともに、粒界炭化物を抑制して靭性を向上させる元素である。しかし、溶接材料の溶着金属中のMoの含有量が4.0質量%を超えると、この溶接材料を用いて製造した溶接継手の溶接金属において、靭性が劣化して好ましくない。したがって、溶接金属の耐食性と靭性を向上させる目的で、Moを溶接材料の溶着金属中に含有させる場合、その含有量を4.0質量%以下とすることが好ましい。
【0023】
Nbは、溶接金属におけるMs点を低温とするとともに、粒界炭化物を抑制する元素である。Ms点を溶接継手の使用温度よりもやや高い温度である360℃以下まで低下させ、粒界炭化物を抑制するためには、溶接材料の溶着金属中のNbの含有量を多くすることが好ましい。しかし、溶接材料の溶着金属中のNbの含有量が3.0質量%を超えると、この溶接材料を用いて製造した溶接継手の溶接金属において、溶接金属の靭性が劣化してしまう。したがって、Nbを溶接材料の溶着金属中に含有させる場合、その含有量を3.0質量%以下とすることが好ましい。
【0024】
Caは、溶接金属中でSと結合して析出し、粒界へのSの偏析を抑制する元素である。溶接材料の溶着金属中のCaの含有量が0.5質量%を超えると、この溶接材料を用いて製造した溶接継手の溶接金属において、溶接金属の靭性が劣化するとともに、溶接時にアークの安定性が低下してしまう。したがって、Caを溶接材料の溶着金属中に含有させる場合、その含有量を0.5質量%以下とすることが好ましい。
【0025】
なお、C、Cr、Ni、Si、Mn、P、S、Mo、Nb及びCaの各元素以外については、とくに限定されないが、溶接材料に、V、Cu、希土類元素をそれぞれ0.5質量%以下含有することは許容される。また、これらの元素以外に溶接材料に含有される元素が不可避的に含有されても何ら問題はない。
請求項3の発明に係る溶接材料(本願第2の発明)は、低合金鋼材を溶接して製造する鋼構造物用溶接継手に利用するフラックス入りワイヤからなる溶接材料であって、この溶接材料により形成される溶着金属が、0.20質量%以下のC、21.0質量%以下のCr、12.0〜20.0質量%のNi、5.0質量%以下のSi、10.0質量%以下のMn、0.020質量%以下のP、0.010質量%以下のSを含有し、前記溶着金属の残部がFeおよび不可避的含有成分からなる。
【0026】
請求項4の発明に係る溶接材料(第2の発明の好適態様)は、請求項3に記載の溶接材料であって、前記溶接材料により形成される溶着金属が、4.0質量%以下のMo、3.0質量%以下のNb及び0.5質量%以下のCaのうち少なくといずれか一種を含有する。
溶着金属の組成については本願第1の発明の説明において述べたとおりである。
【0027】
請求項3及び4の発明に係る溶接材料は、上記知見に基づいて、本発明者らが、これらの知見にさらなる検討を加え完成したものである。そして、本発明者らは、この溶接材料により鋼材を溶接して鋼構造物用溶接継手を製造すると、この溶接継手の使用温度を−20℃とした場合に、溶接金属の靭性(シャルピー衝撃特性)が80J以上となることを見出した。
【0028】
請求項5の発明に係る鋼構造物用溶接継手は、溶接金属の組成が次式(1)を満足する。
50≦719−795WC−35.55WSi−13.25WMn−23.7WCr−26.5WNi−23.7WMo−11.85WNb≦360 …(1)
ただし、WC:溶接金属中のCの含有量(質量%)
WSi:溶接金属中のSiの含有量(質量%)
WMn:溶接金属中のMnの含有量(質量%)
WCr:溶接金属中のCrの含有量(質量%)
WNi:溶接金属中のNiの含有量(質量%)
WMo:溶接金属中のMoの含有量(質量%)
WNb:溶接金属中のNbの含有量(質量%)
なお、(1)式中、50の数値はマルテンサイト変態開始温度(Ms点)の下限値が50℃であることを表し、360の数値はマルテンサイト変態開始温度(Ms点)の上限値が360℃であることを表す。
【0029】
請求項5の発明に係る鋼構造物用溶接継手は、上記知見に基づいて、本発明者らが、これらの知見に基づいてさらなる検討を加え完成したものである。なお、(1)式は、本発明者らが見出した経験式である。
溶接継手の溶接部分を形成する溶接金属において、Ms点が50℃〜360℃の間の温度範囲に存在するようにし、このMs点が溶接継手の使用温度(例えば、−20〜100℃の範囲)よりもやや高い温度となるようにすると、溶接継手の使用温度における溶接金属の体積をMs点における溶接金属の体積よりも膨張した状態とすることができ、溶接金属中で引張残留応力の吸収しろを確保できる。溶接金属中のC、Si、Mn、Cr、Ni、Mo及びNbの各含有量をコントロールすることにより、(1)式を満足させると、その溶接金属におけるMs点が50℃〜360℃の間に収まる。
【0030】
なお、溶接材料によって溶接される低合金鋼材として、例えば、490MPa級高張力鋼又は590MPa級高張力鋼を挙げることができる。
また、鋼構造物用溶接継手の形状としては、荷重非伝達型十字溶接継手、角回し溶接等の隅肉溶接継手、突き合わせ溶接継手等の大型鋼構造物に用いられる継手形状を挙げることができる。
【0031】
請求項6の発明に係る鋼構造物用溶接継手は、請求項5に記載の鋼構造物用溶接継手であって、溶接継手の溶接金属中の残留オーステナイト量が70体積%以下である。
請求項6の発明に係る鋼構造物用溶接継手は、上記知見に基づいて、本発明者らが、これらの知見にさらなる検討を加え完成したものである。
【0032】
本発明者らは、溶接継手の溶接部分を形成する溶接金属に適度な割合でオーステナイトを存在せしめると、オーステナイトの水素割れ抑制効果やエネルギー吸収効果により、この溶接金属の靭性、溶接継手の耐低温割れ性及び疲労強度が同時に向上することを見出した。特に、フラックス入りワイヤにおいては、フラックスが酸化物を主体とする場合、従来からの一般的な低水素系の被覆アーク溶接棒よりも水分量が多いことがあり、フラックス入りワイヤを溶接材料として使用するにあたって、耐割れ性を高めておくことは極めて重要である。しかし、溶接金属中の残留オーステナイト量が70体積%を超えると、溶接金属の靭性は向上するものの、マルテンサイト変態膨張量が低下し、溶接継手の疲労強度が低下する。したがって、溶接金属中の残留オーステナイト量を70体積%以下とすることが好ましく、さらに好適な範囲としては5〜50体積%の範囲である。
【0033】
【発明の実施の形態】
本願における基本的な技術思想を以下に示す。
本願における基本的な3つの技術思想を以下に示す。
(a)変態膨張による応力低減効果: 溶接継手の使用温度より少し高い温度範囲で溶接金属をマルテンサイト変態させ、その変態膨張を利用して熱収縮により生じる溶接引張残留応力を低減し、さらには圧縮残留応力を付与する。
(b)Niによる靭性向上効果: Niは溶接金属の靭性の向上に必要な合金組成である。また、Niによる靭性向上効果は、特にCrの含有量を抑制した場合に発揮される。さらに、特にマルテンサイトとオーステナイトが共存する場合において、大変形および高速変形を受ける場合にオーステナイトがその変形を受け持ち、高靭性を与える。
(c)フラックス入りワイヤによるビード止端部形状改善効果: フラックス入りワイヤに含まれるフラックスがビード止端部を覆うこと、及び、アークが安定なことにより、ビード止端部形状がソリッドワイヤや被覆アーク溶接棒を使用した場合に比べ、極めて滑らかになることにより、この溶接材料を用いて製造した溶接継手の疲労強度が著しく向上する。
【0034】
上記の効果を総合的に利用することにより、継手の総合的性能を著しく高め、疲労強度、靭性、耐低温割れ性に優れた高性能継手を得ることが本発明の骨子である。
本発明に係る鋼構造物用溶接継手は、被溶接材である鋼材同士を本発明に係るフラックス入りワイヤを使用して溶接することにより製造される。フラックス入りワイヤに含まれるフラックスと安定なアークにより極めて滑らかなビード止端部形状を得て、溶接止端部の応力集中係数を低下させることにより、変態膨張により生じる溶接継手の疲労強度の向上効果が著しく高まる。フラックス入りワイヤ中に含まれる酸化物は、溶接アークの安定に寄与し、溶融金属の揺動を抑制する。さらには、酸化物がスラグを形成し、溶接止端部に付着し、溶融金属の揺動を抑制して、ビード止端部形状を滑らかに保ち、応力集中係数を低下させることに寄与する。
【0035】
本願における第1の発明に係る溶接材料は、鋼材を溶接して製造する鋼構造物用溶接継手に利用する溶接材料で、溶着金属組成がC:0.20質量%以下、Cr:6.0〜21.0質量%、Ni:4.0〜20.0質量%、Si:5.0質量%以下、Mn:10.0質量%以下、P:0.020質量%以下、S:0.010質量%以下を含み、あるいはさらにMoを4.0質量%以下、Nbを3.0質量%以下およびCaを0.5質量%以下のうち一種又は二種以上を含有し、残部がFeおよび不可避的含有成分からなる組成を有することを特徴とするフラックス入りワイヤからなる溶接材料である。
【0036】
このフラックス入りワイヤが使われる鋼構造物用溶接継手においては、Ni及びCrの含有量を限定している。これは、上述の効果(a)、(b)及び(c)による溶接継手の疲労強度の向上と溶接金属の高靭性化を達成させるためである。
ここで、溶接継手の使用温度における値であるが、通常の使用温度を考慮して100℃以下、−20℃以上において、溶着金属の靭性(シャルピー吸収エネルギー)を60J以上とすることが好ましい。
【0037】
上記に示した溶接材料の化学組成の中でも特に低温靭性の確保を要求された場合(例えば,−20℃以上において、溶着金属のシャルピー吸収エネルギーが80J以上)には,溶接材料を請求項1に係る溶接材料とし,かつこの溶接材料のNiの含有量を12.0〜20.0質量%とすることがさらに好ましい。
本願における第2の発明に係る溶接材料は、鋼材を溶接して製造する鋼構造物用溶接継手に利用する溶接材料で、溶着金属組成がC:0.20質量%以下、Cr:21.0質量%以下、Ni:12.0〜20.0質量%、Si:5.0質量%以下、Mn:10.0質量%以下、P:0.020質量%以下、S:0.010質量%以下を含み、あるいはさらにMoを4.0質量%以下、Nbを3.0質量%以下およびCaを0.5質量%以下のうち一種又は二種以上を含有し、残部がFeおよび不可避的含有成分からなる組成を有することを特徴とするフラックス入りワイヤからなる溶接材料である。
【0038】
これにより、溶接継手に優れた疲労強度を与え,かつ溶接金属の靭性を向上させることができる。
一方,マルテンサイト変態開始温度を360℃以下50℃以上とした本発明の溶接金属を有する溶接継手は、温度−伸び曲線、すなわち熱膨張曲線が使用温度においてマルテンサイト変態の開始時よりやや膨張状態の伸びとなる。本発明の溶接継手における溶接金属の冷却過程における温度−伸び曲線の一例を図1に示す。なお、図1はディラトメーターにより測定した溶接金属の温度と伸びの変化の割合を示したもので、図1において伸びが増加するということは溶接金属の体積が膨張することを示し、長さ変化の割合が減少するということは体積が収縮することを示す。
【0039】
図1において、本発明の溶接金属(太い実線)は、冷却過程においてマルテンサイト変態を生じ、そのマルテンサイト変態による膨張で、使用温度においてマルテンサイト変態開始時に比べやや膨張状態となるものである。このような溶接金属とすることにより、冷却時の収縮による溶接継手に残留する引張応力を緩和するか、あるいは圧縮応力が溶接継手に残留することとなる。溶接継手に残留する引張応力を緩和するか、あるいは圧縮応力が溶接継手に残留するようにすれば、疲労強度が向上し、低温割れは抑制される。これにNi添加による高靭性効果を加えることにより、溶接金属の靭性向上と溶接継手の疲労強度の向上が得られるのである。
【0040】
一方、本発明の範囲を外れる溶接金属(細い実線、従来例の溶接金属)では、Ms点が高く、マルテンサイト変態による膨張が少ないため、使用温度においては、変態後の冷却で収縮した状態となる。すなわち、疲労強度の向上は期待できない。
なお、本発明における溶接金属の温度−伸び曲線は、通常の熱膨張による伸びの温度変化を連続的に測定して得られる。
【0041】
次に、本願における第3の発明に係る溶接継手は、鋼材を溶接して製造する鋼構造物用溶接継手において、溶接継手の溶接金属組成が(1)式を満足することを特徴とする鋼構造物用溶接継手である。
50≦719−795WC−35.55WSi−13.25WMn−23.7WCr−26.5WNi−23.7WMo−11.85WNb≦360 …(1)
ただし、WC:溶接金属中のCの含有量(質量%)
WSi:溶接金属中のSiの含有量(質量%)
WMn:溶接金属中のMnの含有量(質量%)
WCr:溶接金属中のCrの含有量(質量%)
WNi:溶接金属中のNiの含有量(質量%)
WMo:溶接金属中のMoの含有量(質量%)
WNb:溶接金属中のNbの含有量(質量%)
なお、(1)式中の各元素のうち、溶接金属に含有されない元素がある場合には、その元素量を0として(1)式を計算するものとする。
【0042】
ここで、(1)式の不等号で挟まれた部分である「719−795WC−35.55WSi−13.25WMn−23.7WCr−26.5WNi−23.7WMo−11.85WNb」は、溶接金属の冷却時のマルテンサイト変態開始温度Ms点を℃単位で現した場合の経験式であり、この(1)式の意味は、溶接金属の含有成分から推定される溶接金属の冷却時のMs点が50℃以上360℃以下となることである。すなわち、第3の発明に係る鋼構造物用溶接継手は、第1の発明に係る溶接材料における溶接金属のMs点の限定範囲を(1)式に置き換えたものである。
【0043】
第1の発明及び第2の発明の組成は以下に説明する組成とする。なお、第1の発明及び第2の発明の組成は、相違点がCr及びNiの組成のみであるので、以下ではCr及びNi以外は共通の実施形態として記す。
ここで、Cは、マルテンサイトの硬さを増加し、溶接硬化性を増大し、溶接金属の靭性を劣化させ、低温割れを助長する元素であるため、できるだけその含有量を低減することが好ましく、溶接金属の靭性を確保し、低温割れを防止する観点から溶接材料のCの含有量は0.20質量%以下、好ましくは0.12質量%以下とする。
【0044】
第1の発明のCrは、マルテンサイト変態開始温度を低下させる元素であるため、Crの含有量を6.0質量%以上とする。Crの含有量が6.0質量%未満では、Ni以外の元素を用いて溶接金属の靭性を劣化させずにMs点を効果的に低下させることが困難である。溶接材料に高価なNiを多量に添加あうることは、経済性の観点から問題がある。一方、Crの含有量が21.0質量%を超えると、溶接金属中にフェライトが大量に生成する、あるいはフェライトの生成を抑制するためにオーステナイト安定化元素を添加するとMs点が下がりすぎるなどの不具合が生じる。このようなことから、溶接材料のCrの含有量を6.0〜21.0質量%とする。
【0045】
第1の発明のNiは溶接金属の積層欠陥エネルギーを高め、マルテンサイト及びオーステナイト中の転位密度を効果的に低下させて、靭性を高めるのに有効な元素である。Ni存在下、特にマルテンサイト及びオーステナイトが共存すると、この溶接金属を有する溶接継手に大きな変形や高速の変形が生じても、オーステナイトがこれらの変形を受け持ち、高い靭性が溶接継手に付与される。溶接材料の溶着金属のNiの含有量が4.0質量%未満だと、溶接金属においてオーステナイトが生成しにくく、後のマルテンサイト変態による膨張効果が得られない。また、溶接材料の溶着金属中のNiの含有量が20.0質量%を超えると、Ms点が低下しすぎてマルテンサイト変態膨張による効果が得られなくなるばかりでなく、Ni自体が高価であり、経済的に好ましくない。
【0046】
また、第1の発明において、特に低温靭性を要求された場合(例えば,−20℃以上において、溶着金属のシャルピー吸収エネルギーが80J以上)には,溶接材料を請求項1に係る溶接材料とし,かつこの溶接材料のNiの含有量を12.0〜20.0質量%とすることがさらに好ましい。
第2の発明のCrは、Ms点を低下させる元素であるため、21.0質量%以下の範囲で含有させる。一方、Crの含有量が21.0質量%を超えると、溶接金属中にフェライトが大量に生成する。あるいはフェライトの生成を抑制するためにオーステナイト安定化元素を添加するとMs点が下がりすぎるなどの不具合が生じる。このようなことから、溶接材料のCrは21.0質量%以下とする。
【0047】
第2の発明のNiは溶接金属の積層欠陥エネルギーを高め、マルテンサイト及びオーステナイト中の転位密度を効果的に低下させて靭性を高めるのに有効な元素である。Ni存在下、特にマルテンサイト及びオーステナイトが共存すると、この溶接金属を有する溶接継手に大きな変形や高速の変形が生じても、オーステナイトがこれらの変形を受け持ち、高い靭性が溶接継手に付与される。
【0048】
溶接材料の溶着金属中のNiの含有量が20.0質量%を超えると、Ms点が低下しすぎてマルテンサイト変態膨張による効果が得られなくなるばかりでなく、Ni自体が高価であり、経済的に好ましくない。
P,Sは、高温において発生する割れを阻止するために含有量を抑制する必要があり、Pの含有量を0.020質量%以下、Sの含有量を0.010質量%以下に限定する。割れを完全に阻止するためにはPの含有量を0.010質量%以下、Sの含有量を0.005質量%以下とすることが望ましい。
【0049】
Siは、Ms点を低下させる作用を有し、また脱酸材として機能するため溶接金属の酸素量を低減し、靭性を向上させるのに有効である。しかし、Siの含有量が5.0質量%を超えると、高温割れが発生しやすく、また、規則格子を形成して靭性を著しく劣化させる。
さらに、Mnは溶接金属においてNiと同様オーステナイト安定化作用を有するが、溶接金属の積層欠陥エネルギーを低めるので、オーステナイトやマルテンサイトの転位密度が高まる作用を有する。したがって、Niの代わりにMnを用いてMs点を低下させると溶接金属の靭性が劣化する問題がある。従って溶着金属のMnの含有量を10.0質量%以下にすることが好ましい。
【0050】
第1及び第2の発明における溶接材料の組成は、溶着金属の組成が前記溶接材料の組成に加えて、Moを4.0質量%以下、Nbを3.0質量%以下、及びCaを0.5質量%以下のうち一種又は二種以上含有していてもよい。
Moは溶接金属の耐食性を向上させ、かつ粒界炭化物の析出を抑制して溶接金属の靭性を高める目的で添加することができるが、溶接金属にMoを4.0質量%を超えて含有させると溶接金属の靭性が劣化する。このため、溶接材料のMoの含有量を4.0質量%以下とすることが好ましい。
【0051】
また、NbはMoと同様オーステナイト粒内に炭化物を生成し、粒界のCr炭化物の生成を抑制する効果があり、溶接金属の靭性の向上に効果がある。しかし、溶接金属にNbを3.0質量%を超えて含有させると、固溶Nbが増加し、溶接金属の靭性が劣化する。このため、溶接材料のNbの含有量を3.0質量%以下とすることが好ましい。
【0052】
CaはSと結合して析出することにより、粒界へのSの偏析を抑制する効果がある。しかし、Caの添加量が0.5質量%を超えると、溶接時のアークが極めて不安定になり、ビード外観不良や溶接欠陥を発生させるので溶接材料のCaの含有量を0.5質量%以下とすることが好ましい。
なお、上記した元素以外については、とくに限定されないが、溶接材料に、V、Cu、N、希土類元素をそれぞれ0.5質量%以下を不可避的含有成分として含有しても何ら問題は無い。不可避的含有成分とは、いわゆる不純物のほか、例えば溶接材料中に添加されていることにより溶着金属に含有されることとなった成分を指す。また、上記した元素以外に被溶接材、溶接材料に含有される元素が不可避的に含有されても何ら問題はない。
【0053】
本発明の鋼構造物用溶接継手においては、被溶接材として、低合金鋼材を用いるとよい。中でも、極厚490Mpa級高張力鋼材あるいは590Mpa級高張力鋼材を溶接した場合に好適である。しかし、本発明に用いられるこれら低合金鋼材の種類については、特に限定されず、通常公知のいずれの鋼材も適用可能である。
次に、本願における第4の発明に係る鋼構造物用溶接継手は,溶接金属中の残留オーステナイト量が70体積%未満の鋼構造物用溶接継手である。
【0054】
本発明者らは、溶接継手の溶接部分を形成する溶接金属に適度な割合でオーステナイトを存在せしめると、オーステナイトの水素割れ抑制効果やエネルギー吸収効果により、この溶接金属の靭性、継手の耐低温割れ性および疲労強度が同時に向上することを見出した。特に、フラックス入りワイヤにおいては、フラックスが酸化物を主体とする場合、一般的な低水素系の被覆アーク溶接棒よりも水分量が多いことがあり、フラックス入りワイヤを適用するに置いて、耐割れ性を高めておくことは極めて重要である。しかし、溶接金属中の残留オーステナイトが70体積%を超えると、溶接金属の靭性は向上するものの、マルテンサイト変態膨張量が低下し、溶接継手の疲労強度が低下する。従って、溶接金属中の残留オーステナイト量を70体積%以下にすることが好ましく、さらに好適な範囲としては5〜50体積%の範囲である。残留オーステナイト量の測定は、X線回折強度により定量するとよい。
【0055】
また、本発明の鋼構造物用溶接継手において、用いられるフラックス入りワイヤは、前記被溶接材に適合した溶接条件で、前記の組成の溶接金属を形成できる組成を有するものであれば、通常公知の材料のいずれもが適用可能であり、特に限定されない。後に実施例についてフラックスコアードワイヤの成分系が述べられているが,これはフラックス組成を制限するものではない。前記の組成の溶接金属が形成できるように、溶接条件により被溶接材からの希釈等を考慮して適宜選択すればよい。
【0056】
本発明の鋼構造物用溶接継手では、被溶接材に応じて、溶接材料の組成及び溶接条件を調整して、前記の組成の溶接金属を形成する。また、継手形状は、荷重非伝達型十字溶接継手、角回し溶接などの隅肉溶接継手、突き合わせ溶接継手など、船舶、海洋構造物、ペントストック、橋梁、貯槽、建設機械等の大型鋼構造物に用いられる継手形状がいずれも好適である。
(実施例)
表1に引張強度500MPa級の低合金鋼材である被溶接鋼板の化学組成および板厚を,表2に溶接材料を用いJIS Z3184に基づいた全溶着金属の化学組成を示す。
【0057】
【表1】
【0058】
【表2】
【0059】
フラックス入りワイヤ(溶接材料)についてはワイヤ径を1.2mmφとし,スラグ系およびメタル系のフラックス入りワイヤ(FCW:Flux Cored Wire)とした。スラグ系フラックス入りワイヤに包含させるフラックスの質量比率は外皮に対して20質量%で、フラックスは主成分をTiO2とするチタニア系とした。フラックスの成分構成はTiO2:40質量%、SiO2:20質量%、Fe粉:20質量%で、不純物としてSi、Mnアルカリ金属酸化物を含む。また、メタル系フラックス入りワイヤのフラックス質量比率は同じく外皮に対して20質量%で、フラックスの成分構成はFe粉65質量%、フェロシリコン、フェロマンガンがあわせて30質量%で、残部TiO2とアルカリ金属酸化物とした。なお,各フラックスについては前記の組成以外でも同様の効果が得られることを確認済みである。比較例として,1種類のみソリッドワイヤを準備した。これらを用いて角回し溶接継手(角回し),荷重非伝達型十字溶接継手(十字)および突合せ溶接継手(突合せ)を作成した。一方、板厚12mmの記号Bの母材にルートギャップ6mm、開先角度60度のV開先を施し、溶接入熱17kJ/cmにより4パス溶接とした。溶接条件は,全て250A−28V−20cm/minとした。
表1,表2の組合せにより作製した溶接継手における溶接金属特性(化学組成など)を表3に示す。
【0060】
【表3】
【0061】
各溶接継手については,継手疲労試験によりS−N曲線を採取し,200万回疲労強度を導出した。さらに,各溶接継手について,溶接部の止端半径を3点測定し,平均値を導出した。溶接金属のシャルピー試験を実施した。2mmVノッチを溶接金属中央に施し、0℃におけるシャルピー吸収エネルギーを3本測定し、その平均値を算出し、靭性を評価した。詳細はJIS Z2242に準拠した。溶接継手の疲労強度,溶接継手止端部の止端半径および溶着金属のシャルピー値を表4に示す。
【0062】
【表4】
【0063】
発明例については,200万回疲労強度200MPa以上およびシャルピー吸収エネルギー76J以上と良好な値が得られているのに対し,比較例においては200万回疲労強度およびシャルピー吸収エネルギーの両方あるいは一方に低い値が見られ,本発明の目的である「溶接継手の疲労強度と溶接金属の靭性の向上」を達成できていない。また,フラックス入りワイヤを用いた溶接継手における止端半径は,ソリッドワイヤを用いたものより大きく,フラックス入りワイヤによりビード形状の改善が達成された。
【0064】
【発明の効果】
本発明は、上記のような溶接材料及び鋼構造物用溶接継手であるので、溶接継手の疲労強度の向上と溶接金属の靭性の向上とをともに可能とする鋼構造物用溶接継手及び溶接材料を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】溶接継手における溶接金属の温度と体積変化(伸び)の関係を示すグラフである。
【発明の属する技術分野】
本発明は、例えば、船舶、橋梁、貯槽、建設機械等の大型鋼構造物に用いるにあたり好適な溶接材料及び鋼構造物用溶接継手に係る。
【0002】
【従来の技術】
船舶、橋梁、貯槽、及び建設機械等においては、大型化とそれに伴う軽量化の目的から溶接して使用される鋼材の高強度化が求められている。鋼材が高強度化することによって使用する鋼材を少なくすることができ、構造物を軽量化することができる。これら構造物に使用される鋼材としては、引張強度レベルが400〜590MPaの低合金鋼材が一般に用いられている。
【0003】
ところが、鋼材の引張強度が増加しても溶接継手の疲労強度が鋼材の引張強度ほどには向上しないといわれている。この原因としては、溶接継手の溶接部に生じる引張残留応力が大きいことが挙げられる。
従来ある溶接継手の疲労強度を向上させる溶接方法として、例えば、以下の方法がある。
【0004】
この溶接方法では、溶接継手の溶接部分の溶接金属が、溶接後に冷却される過程において、溶接金属中でマルテンサイト変態を起こさせ、溶接継手が使用される温度(例えば、室温)において溶接金属の体積が、マルテンサイト変態の開始時の体積よりも膨張している状態とし、溶接材料として溶接ワイヤを使用し、溶接材料をなす鉄合金は冷却時におけるマルテンサイト変態開始温度(Ms点)を250℃未満170℃以上と低温化させたものである(例えば、特許文献1を参照)。このような溶接方法及び溶接材料を用いることにより、溶接継手の溶接金属に生じた引張残留応力を低減し、あるいは引張残留応力に代えて圧縮残留応力を与え、溶接施工後の研削等の特別な後処理を行うことなく溶接継手の疲労強度を向上させている。
【0005】
なお、溶接金属とは、溶接継手の鋼材が接合されている部分において、溶着金属と鋼材の成分が混じり合っている部分の金属のことをいい、溶着金属とは、溶接行程と同じ熱履歴を受けながらも、鋼材との希釈を受けずに固化した金属のことをいう。
また、溶接材料として、被覆アーク溶接棒、フラックスの被覆がなく芯線をなす鋼が剥き出しとなっているソリッドワイヤ、円筒状鋼の円筒内にフラックスが充填されているフラックス入りワイヤがある。
【0006】
【特許文献1】
特開平11−138290号公報
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記した従来ある溶接材料にあっては、溶接継手の疲労強度が向上するものの、ビード形状が従来の汎用材に劣り、疲労強度を向上させるという効果を充分に引き出せていないという問題点があり、また、溶接金属の靭性が必ずしも高くないという問題点があった。これは、溶接材料のMs点の低温化を実現するために添加した合金元素によりビード形状及び靭性の劣化を引き起こすためである。
【0008】
また、被溶接鋼板や溶接材料が有する水分によっては溶接金属に割れが生じる場合がある。
本発明は上述の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、溶接継手の疲労強度の一層の向上と溶接金属の靭性の向上とをともに可能とする鋼構造物用溶接継手及び溶接材料を提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明は、その課題を解決するために以下のような構成をとる。請求項1の発明に係る溶接材料は、低合金鋼材を溶接して製造する鋼構造物用溶接継手に利用するフラックス入りワイヤからなる溶接材料であって、この溶接材料により形成される溶着金属が、0.20質量%以下のC、6.0〜21.0質量%のCr、4.0〜20.0質量%のNi、5.0質量%以下のSi、10.0質量%以下のMn、0.020質量%以下のP、及び、0.010質量%以下のSを含有し、前記溶着金属の残部がFeおよび不可避的含有成分からなる。
【0010】
本発明者らが、本溶接材料を用いて鋼材を溶接して製造した鋼構造物用溶接継手について検討した結果、次のような知見を得た。すなわち、フラックス入りワイヤにCr,Niを含有させて、溶接金属のオーステナイト相の安定度を高め、マルテンサイト変態が起こる温度を低下させ、溶接金属組織をマルテンサイト、あるいは、マルテンサイトとオーステナイトとの混合組織とすることにより、なおかつ、フラックス入りワイヤに含まれるフラックスがビード止端部を覆うこと、溶接アークが安定なことにより、ビード止端部形状がソリッドワイヤや被覆アーク溶接棒を使用した場合に比べ、極めて滑らかになることにより、この溶接材料を用いて製造した溶接継手の疲労強度が著しく向上することを見出したのである。
【0011】
また、溶着金属の化学組成をある一定範囲の化学組成とすることにより、溶接継手の疲労強度が向上し、同時に溶接金属の靭性及び耐低温割れ性が向上することを見出したのである。溶着金属の組成が一定範囲組成となるフラックス入りワイヤからなる溶接材料を製造するには、ワイヤ部分の組成とフラックス部分の組成の、適切な組合せを実験的に決定することにより達成できる。これらの知見により溶接継手の総合的な性能を高めることができる。
【0012】
請求項1の発明に係る溶接材料(第1の発明)は、本発明者らがこれらの知見にさらなる検討を加え完成したものである。
Cは、溶接金属において、マルテンサイトの硬さを増加させ、溶接硬化性を増大させ、低温割れを助長するとともに、溶接金属の靭性を劣化させる元素である。したがって、溶接材料に含まれるCの含有量をできるだけ低減させて、溶接材料に由来する溶接金属中のCの含有量をできるだけ低減することが好ましい。靭性劣化を防止する観点から、溶着金属中のCの含有量を0.20質量%以下とすることが好ましく、Cの含有量を0.12質量%以下とするとより好ましい。
【0013】
Crは、溶接金属におけるMs点を効果的に低下させる元素である。溶接継手を製造した後、溶接金属を溶接継手の使用温度(例えば、−20〜100℃の範囲)まで冷却し、溶接継手の使用温度における溶接金属の体積が溶接金属のMs点における体積よりも膨張した状態とすると、この体積膨張分によって溶接金属に生じる引張残留応力を低減させることができる。しかし、Ms点が高すぎると、溶接継手の使用温度における溶接金属の体積が溶接金属のMs点における体積よりも収縮した状態となり、溶接金属に生じる引張残留応力を吸収できない。したがって、溶接金属のMs点を360℃以下にすることが好ましい。溶接金属のMs点は溶接金属の化学組成と密接な関係があり、本願の化学組成範囲では後述の経験式(1)により表現できることを確認している。Crを21.0質量%を超えて添加すると、溶接金属中にフェライトが大量に生成するという不具合を生じ、あるいは、フェライトの生成を抑制するためにオーステナイト安定化元素を添加するとMs点が下がりすぎるなどの不具合が生じる。
【0014】
Crの含有量を6.0質量%以上とすることで、Ms点調整が容易となるが、Crの含有量を6.0質量%未満とすると、後述のNi以外の元素を用いて溶接金属の靭性を劣化させずにMs点を効果的に低下させることが困難となる。
Niは溶接金属の積層欠陥エネルギーを高め、マルテンサイト及びオーステナイト中の転位密度を効果的に低下させて、靭性を高めるのに有効な元素である。Ni存在下、特にマルテンサイト及びオーステナイトが共存すると、この溶接金属を有する溶接継手に大きな変形や高速の変形が生じても、オーステナイトがこれらの変形を受け持ち、高い靭性が溶接継手に付与される。溶接材料の溶着金属のNiの含有量が4.0質量%未満だと、溶接金属において残留オーステナイトが生成しにくく、後のマルテンサイト変態による膨張効果が得られない。なお、後述するように、残留オーステナイト量は70体積%を超えると、かえってマルテンサイト変態膨張による疲労強度の向上効果が失われるので、残留オーステナイト量は5〜50体積%が好適範囲である。この好適範囲を有する溶接継手を形成させるには、Niの含有量を12.0質量%以上とするとよい。また、溶接材料の溶着金属中のNiの含有量が20.0質量%を超えると、Ms点が低下しすぎてマルテンサイト変態膨張による効果が得られなくなるばかりでなく、Ni自体が高価であり、経済的に好ましくない。
【0015】
ここで、CrとNiの関係について改めて記述する。上述のように、Crの含有量が6.0質量%未満であると、後述のNi以外の元素を用いて溶接金属の靭性を劣化させずにMs点を効果的に低下させることが困難であるが、Crの含有量に下限のない場合、Niの含有量を12.0質量%以上かつ20.0質量%未満とすることで、溶接金属の靭性をより高め、かつ溶接継手の疲労特性の向上が可能であることを本発明者らが見出したのである(後述する本願第2の発明)。
【0016】
Siは、溶接金属におけるMs点を低温とするとともに、脱酸材として機能して溶接金属中の酸素量を低減し、溶接金属の靭性を向上させる元素である。溶接材料の溶着金属中のSiの含有量が5.0質量を超えると、この溶接材料を用いて製造した溶接継手の溶接金属において、高温割れが発生しやすく、また、規則格子が形成されてその靭性が著しく劣化する。したがって、溶接材料の溶着金属中のSiの含有量を5.0質量%以下とすることが好ましい。
【0017】
Mnは、溶接金属においてNiと同様にオーステナイト安定化作用を有するが、溶接金属の積層欠陥エネルギーを低くするので、オーステナイトやマルテンサイトの転位密度が高まるという作用を有する。したがって、Niの代わりにMnを用いてMs点を低下させると溶接金属の靭性が劣化する問題がある。したがって、溶着金属のMnの含有量を10.0質量%以下とすることが好ましい。
【0018】
P及びSは、高温下、溶接金属に割れを発生させる原因となる元素である。溶接金属に発生する割れを阻止するために、溶接材料の溶着金属中のP及びSの含有量を抑制する必要がある。溶接材料の溶着金属中のPの含有量を0.020質量%以下とし、Sの含有量を0.010質量%以下とすることにより、高温下、溶接金属に発生する割れを防止できる。また、高温下、溶接金属に発生する割れを完全に排除するためには、溶接材料の溶着金属中のPの含有量を0.010質量%以下とし、Sの含有量を0.005質量%以下とすることが好ましい。
【0019】
なお、溶接材料に、V、Cu、N、希土類元素をそれぞれ0.5質量%以下含有することは許容される。また、溶接材料に含有される他の元素が不可避的に含有成分として存在しても何ら問題は無い。不可避的含有成分とは、いわゆる不純物のほか、例えば溶接材料中に添加されていることにより溶着金属に含有されることとなった成分を指す。
【0020】
また、低合金鋼材とは、船舶、橋梁、貯槽、及び建設機械等の大型構造物において、構造物の軽量化を目的として従来一般に使用されている鋼材であり、Cr,Ni,Mo等が各々3質量%以下添加されており、引張強度レベルが400〜590MPaの鋼材のことをいう。
請求項2の発明に係る溶接材料(第1の発明の好適態様)は、請求項1に記載の溶接材料であって、前記溶接材料により形成される溶着金属が、さらに4.0質量%以下のMo、3.0質量%以下のNb及び0.5質量%以下のCaのうち少なくといずれか一種を含有する。
【0021】
請求項2の発明に係る溶接材料は、本発明者らが、上記知見にさらなる検討を加え完成したものである。そして、本発明者らは、この溶接材料により鋼材を溶接して鋼構造物用溶接継手を製造すると、この溶接継手の使用温度(例えば、−20〜100℃の範囲)において、溶接金属の靭性(シャルピー衝撃特性)が60J以上となることを見出した。
【0022】
Moは、溶接金属の耐食性を向上させるとともに、粒界炭化物を抑制して靭性を向上させる元素である。しかし、溶接材料の溶着金属中のMoの含有量が4.0質量%を超えると、この溶接材料を用いて製造した溶接継手の溶接金属において、靭性が劣化して好ましくない。したがって、溶接金属の耐食性と靭性を向上させる目的で、Moを溶接材料の溶着金属中に含有させる場合、その含有量を4.0質量%以下とすることが好ましい。
【0023】
Nbは、溶接金属におけるMs点を低温とするとともに、粒界炭化物を抑制する元素である。Ms点を溶接継手の使用温度よりもやや高い温度である360℃以下まで低下させ、粒界炭化物を抑制するためには、溶接材料の溶着金属中のNbの含有量を多くすることが好ましい。しかし、溶接材料の溶着金属中のNbの含有量が3.0質量%を超えると、この溶接材料を用いて製造した溶接継手の溶接金属において、溶接金属の靭性が劣化してしまう。したがって、Nbを溶接材料の溶着金属中に含有させる場合、その含有量を3.0質量%以下とすることが好ましい。
【0024】
Caは、溶接金属中でSと結合して析出し、粒界へのSの偏析を抑制する元素である。溶接材料の溶着金属中のCaの含有量が0.5質量%を超えると、この溶接材料を用いて製造した溶接継手の溶接金属において、溶接金属の靭性が劣化するとともに、溶接時にアークの安定性が低下してしまう。したがって、Caを溶接材料の溶着金属中に含有させる場合、その含有量を0.5質量%以下とすることが好ましい。
【0025】
なお、C、Cr、Ni、Si、Mn、P、S、Mo、Nb及びCaの各元素以外については、とくに限定されないが、溶接材料に、V、Cu、希土類元素をそれぞれ0.5質量%以下含有することは許容される。また、これらの元素以外に溶接材料に含有される元素が不可避的に含有されても何ら問題はない。
請求項3の発明に係る溶接材料(本願第2の発明)は、低合金鋼材を溶接して製造する鋼構造物用溶接継手に利用するフラックス入りワイヤからなる溶接材料であって、この溶接材料により形成される溶着金属が、0.20質量%以下のC、21.0質量%以下のCr、12.0〜20.0質量%のNi、5.0質量%以下のSi、10.0質量%以下のMn、0.020質量%以下のP、0.010質量%以下のSを含有し、前記溶着金属の残部がFeおよび不可避的含有成分からなる。
【0026】
請求項4の発明に係る溶接材料(第2の発明の好適態様)は、請求項3に記載の溶接材料であって、前記溶接材料により形成される溶着金属が、4.0質量%以下のMo、3.0質量%以下のNb及び0.5質量%以下のCaのうち少なくといずれか一種を含有する。
溶着金属の組成については本願第1の発明の説明において述べたとおりである。
【0027】
請求項3及び4の発明に係る溶接材料は、上記知見に基づいて、本発明者らが、これらの知見にさらなる検討を加え完成したものである。そして、本発明者らは、この溶接材料により鋼材を溶接して鋼構造物用溶接継手を製造すると、この溶接継手の使用温度を−20℃とした場合に、溶接金属の靭性(シャルピー衝撃特性)が80J以上となることを見出した。
【0028】
請求項5の発明に係る鋼構造物用溶接継手は、溶接金属の組成が次式(1)を満足する。
50≦719−795WC−35.55WSi−13.25WMn−23.7WCr−26.5WNi−23.7WMo−11.85WNb≦360 …(1)
ただし、WC:溶接金属中のCの含有量(質量%)
WSi:溶接金属中のSiの含有量(質量%)
WMn:溶接金属中のMnの含有量(質量%)
WCr:溶接金属中のCrの含有量(質量%)
WNi:溶接金属中のNiの含有量(質量%)
WMo:溶接金属中のMoの含有量(質量%)
WNb:溶接金属中のNbの含有量(質量%)
なお、(1)式中、50の数値はマルテンサイト変態開始温度(Ms点)の下限値が50℃であることを表し、360の数値はマルテンサイト変態開始温度(Ms点)の上限値が360℃であることを表す。
【0029】
請求項5の発明に係る鋼構造物用溶接継手は、上記知見に基づいて、本発明者らが、これらの知見に基づいてさらなる検討を加え完成したものである。なお、(1)式は、本発明者らが見出した経験式である。
溶接継手の溶接部分を形成する溶接金属において、Ms点が50℃〜360℃の間の温度範囲に存在するようにし、このMs点が溶接継手の使用温度(例えば、−20〜100℃の範囲)よりもやや高い温度となるようにすると、溶接継手の使用温度における溶接金属の体積をMs点における溶接金属の体積よりも膨張した状態とすることができ、溶接金属中で引張残留応力の吸収しろを確保できる。溶接金属中のC、Si、Mn、Cr、Ni、Mo及びNbの各含有量をコントロールすることにより、(1)式を満足させると、その溶接金属におけるMs点が50℃〜360℃の間に収まる。
【0030】
なお、溶接材料によって溶接される低合金鋼材として、例えば、490MPa級高張力鋼又は590MPa級高張力鋼を挙げることができる。
また、鋼構造物用溶接継手の形状としては、荷重非伝達型十字溶接継手、角回し溶接等の隅肉溶接継手、突き合わせ溶接継手等の大型鋼構造物に用いられる継手形状を挙げることができる。
【0031】
請求項6の発明に係る鋼構造物用溶接継手は、請求項5に記載の鋼構造物用溶接継手であって、溶接継手の溶接金属中の残留オーステナイト量が70体積%以下である。
請求項6の発明に係る鋼構造物用溶接継手は、上記知見に基づいて、本発明者らが、これらの知見にさらなる検討を加え完成したものである。
【0032】
本発明者らは、溶接継手の溶接部分を形成する溶接金属に適度な割合でオーステナイトを存在せしめると、オーステナイトの水素割れ抑制効果やエネルギー吸収効果により、この溶接金属の靭性、溶接継手の耐低温割れ性及び疲労強度が同時に向上することを見出した。特に、フラックス入りワイヤにおいては、フラックスが酸化物を主体とする場合、従来からの一般的な低水素系の被覆アーク溶接棒よりも水分量が多いことがあり、フラックス入りワイヤを溶接材料として使用するにあたって、耐割れ性を高めておくことは極めて重要である。しかし、溶接金属中の残留オーステナイト量が70体積%を超えると、溶接金属の靭性は向上するものの、マルテンサイト変態膨張量が低下し、溶接継手の疲労強度が低下する。したがって、溶接金属中の残留オーステナイト量を70体積%以下とすることが好ましく、さらに好適な範囲としては5〜50体積%の範囲である。
【0033】
【発明の実施の形態】
本願における基本的な技術思想を以下に示す。
本願における基本的な3つの技術思想を以下に示す。
(a)変態膨張による応力低減効果: 溶接継手の使用温度より少し高い温度範囲で溶接金属をマルテンサイト変態させ、その変態膨張を利用して熱収縮により生じる溶接引張残留応力を低減し、さらには圧縮残留応力を付与する。
(b)Niによる靭性向上効果: Niは溶接金属の靭性の向上に必要な合金組成である。また、Niによる靭性向上効果は、特にCrの含有量を抑制した場合に発揮される。さらに、特にマルテンサイトとオーステナイトが共存する場合において、大変形および高速変形を受ける場合にオーステナイトがその変形を受け持ち、高靭性を与える。
(c)フラックス入りワイヤによるビード止端部形状改善効果: フラックス入りワイヤに含まれるフラックスがビード止端部を覆うこと、及び、アークが安定なことにより、ビード止端部形状がソリッドワイヤや被覆アーク溶接棒を使用した場合に比べ、極めて滑らかになることにより、この溶接材料を用いて製造した溶接継手の疲労強度が著しく向上する。
【0034】
上記の効果を総合的に利用することにより、継手の総合的性能を著しく高め、疲労強度、靭性、耐低温割れ性に優れた高性能継手を得ることが本発明の骨子である。
本発明に係る鋼構造物用溶接継手は、被溶接材である鋼材同士を本発明に係るフラックス入りワイヤを使用して溶接することにより製造される。フラックス入りワイヤに含まれるフラックスと安定なアークにより極めて滑らかなビード止端部形状を得て、溶接止端部の応力集中係数を低下させることにより、変態膨張により生じる溶接継手の疲労強度の向上効果が著しく高まる。フラックス入りワイヤ中に含まれる酸化物は、溶接アークの安定に寄与し、溶融金属の揺動を抑制する。さらには、酸化物がスラグを形成し、溶接止端部に付着し、溶融金属の揺動を抑制して、ビード止端部形状を滑らかに保ち、応力集中係数を低下させることに寄与する。
【0035】
本願における第1の発明に係る溶接材料は、鋼材を溶接して製造する鋼構造物用溶接継手に利用する溶接材料で、溶着金属組成がC:0.20質量%以下、Cr:6.0〜21.0質量%、Ni:4.0〜20.0質量%、Si:5.0質量%以下、Mn:10.0質量%以下、P:0.020質量%以下、S:0.010質量%以下を含み、あるいはさらにMoを4.0質量%以下、Nbを3.0質量%以下およびCaを0.5質量%以下のうち一種又は二種以上を含有し、残部がFeおよび不可避的含有成分からなる組成を有することを特徴とするフラックス入りワイヤからなる溶接材料である。
【0036】
このフラックス入りワイヤが使われる鋼構造物用溶接継手においては、Ni及びCrの含有量を限定している。これは、上述の効果(a)、(b)及び(c)による溶接継手の疲労強度の向上と溶接金属の高靭性化を達成させるためである。
ここで、溶接継手の使用温度における値であるが、通常の使用温度を考慮して100℃以下、−20℃以上において、溶着金属の靭性(シャルピー吸収エネルギー)を60J以上とすることが好ましい。
【0037】
上記に示した溶接材料の化学組成の中でも特に低温靭性の確保を要求された場合(例えば,−20℃以上において、溶着金属のシャルピー吸収エネルギーが80J以上)には,溶接材料を請求項1に係る溶接材料とし,かつこの溶接材料のNiの含有量を12.0〜20.0質量%とすることがさらに好ましい。
本願における第2の発明に係る溶接材料は、鋼材を溶接して製造する鋼構造物用溶接継手に利用する溶接材料で、溶着金属組成がC:0.20質量%以下、Cr:21.0質量%以下、Ni:12.0〜20.0質量%、Si:5.0質量%以下、Mn:10.0質量%以下、P:0.020質量%以下、S:0.010質量%以下を含み、あるいはさらにMoを4.0質量%以下、Nbを3.0質量%以下およびCaを0.5質量%以下のうち一種又は二種以上を含有し、残部がFeおよび不可避的含有成分からなる組成を有することを特徴とするフラックス入りワイヤからなる溶接材料である。
【0038】
これにより、溶接継手に優れた疲労強度を与え,かつ溶接金属の靭性を向上させることができる。
一方,マルテンサイト変態開始温度を360℃以下50℃以上とした本発明の溶接金属を有する溶接継手は、温度−伸び曲線、すなわち熱膨張曲線が使用温度においてマルテンサイト変態の開始時よりやや膨張状態の伸びとなる。本発明の溶接継手における溶接金属の冷却過程における温度−伸び曲線の一例を図1に示す。なお、図1はディラトメーターにより測定した溶接金属の温度と伸びの変化の割合を示したもので、図1において伸びが増加するということは溶接金属の体積が膨張することを示し、長さ変化の割合が減少するということは体積が収縮することを示す。
【0039】
図1において、本発明の溶接金属(太い実線)は、冷却過程においてマルテンサイト変態を生じ、そのマルテンサイト変態による膨張で、使用温度においてマルテンサイト変態開始時に比べやや膨張状態となるものである。このような溶接金属とすることにより、冷却時の収縮による溶接継手に残留する引張応力を緩和するか、あるいは圧縮応力が溶接継手に残留することとなる。溶接継手に残留する引張応力を緩和するか、あるいは圧縮応力が溶接継手に残留するようにすれば、疲労強度が向上し、低温割れは抑制される。これにNi添加による高靭性効果を加えることにより、溶接金属の靭性向上と溶接継手の疲労強度の向上が得られるのである。
【0040】
一方、本発明の範囲を外れる溶接金属(細い実線、従来例の溶接金属)では、Ms点が高く、マルテンサイト変態による膨張が少ないため、使用温度においては、変態後の冷却で収縮した状態となる。すなわち、疲労強度の向上は期待できない。
なお、本発明における溶接金属の温度−伸び曲線は、通常の熱膨張による伸びの温度変化を連続的に測定して得られる。
【0041】
次に、本願における第3の発明に係る溶接継手は、鋼材を溶接して製造する鋼構造物用溶接継手において、溶接継手の溶接金属組成が(1)式を満足することを特徴とする鋼構造物用溶接継手である。
50≦719−795WC−35.55WSi−13.25WMn−23.7WCr−26.5WNi−23.7WMo−11.85WNb≦360 …(1)
ただし、WC:溶接金属中のCの含有量(質量%)
WSi:溶接金属中のSiの含有量(質量%)
WMn:溶接金属中のMnの含有量(質量%)
WCr:溶接金属中のCrの含有量(質量%)
WNi:溶接金属中のNiの含有量(質量%)
WMo:溶接金属中のMoの含有量(質量%)
WNb:溶接金属中のNbの含有量(質量%)
なお、(1)式中の各元素のうち、溶接金属に含有されない元素がある場合には、その元素量を0として(1)式を計算するものとする。
【0042】
ここで、(1)式の不等号で挟まれた部分である「719−795WC−35.55WSi−13.25WMn−23.7WCr−26.5WNi−23.7WMo−11.85WNb」は、溶接金属の冷却時のマルテンサイト変態開始温度Ms点を℃単位で現した場合の経験式であり、この(1)式の意味は、溶接金属の含有成分から推定される溶接金属の冷却時のMs点が50℃以上360℃以下となることである。すなわち、第3の発明に係る鋼構造物用溶接継手は、第1の発明に係る溶接材料における溶接金属のMs点の限定範囲を(1)式に置き換えたものである。
【0043】
第1の発明及び第2の発明の組成は以下に説明する組成とする。なお、第1の発明及び第2の発明の組成は、相違点がCr及びNiの組成のみであるので、以下ではCr及びNi以外は共通の実施形態として記す。
ここで、Cは、マルテンサイトの硬さを増加し、溶接硬化性を増大し、溶接金属の靭性を劣化させ、低温割れを助長する元素であるため、できるだけその含有量を低減することが好ましく、溶接金属の靭性を確保し、低温割れを防止する観点から溶接材料のCの含有量は0.20質量%以下、好ましくは0.12質量%以下とする。
【0044】
第1の発明のCrは、マルテンサイト変態開始温度を低下させる元素であるため、Crの含有量を6.0質量%以上とする。Crの含有量が6.0質量%未満では、Ni以外の元素を用いて溶接金属の靭性を劣化させずにMs点を効果的に低下させることが困難である。溶接材料に高価なNiを多量に添加あうることは、経済性の観点から問題がある。一方、Crの含有量が21.0質量%を超えると、溶接金属中にフェライトが大量に生成する、あるいはフェライトの生成を抑制するためにオーステナイト安定化元素を添加するとMs点が下がりすぎるなどの不具合が生じる。このようなことから、溶接材料のCrの含有量を6.0〜21.0質量%とする。
【0045】
第1の発明のNiは溶接金属の積層欠陥エネルギーを高め、マルテンサイト及びオーステナイト中の転位密度を効果的に低下させて、靭性を高めるのに有効な元素である。Ni存在下、特にマルテンサイト及びオーステナイトが共存すると、この溶接金属を有する溶接継手に大きな変形や高速の変形が生じても、オーステナイトがこれらの変形を受け持ち、高い靭性が溶接継手に付与される。溶接材料の溶着金属のNiの含有量が4.0質量%未満だと、溶接金属においてオーステナイトが生成しにくく、後のマルテンサイト変態による膨張効果が得られない。また、溶接材料の溶着金属中のNiの含有量が20.0質量%を超えると、Ms点が低下しすぎてマルテンサイト変態膨張による効果が得られなくなるばかりでなく、Ni自体が高価であり、経済的に好ましくない。
【0046】
また、第1の発明において、特に低温靭性を要求された場合(例えば,−20℃以上において、溶着金属のシャルピー吸収エネルギーが80J以上)には,溶接材料を請求項1に係る溶接材料とし,かつこの溶接材料のNiの含有量を12.0〜20.0質量%とすることがさらに好ましい。
第2の発明のCrは、Ms点を低下させる元素であるため、21.0質量%以下の範囲で含有させる。一方、Crの含有量が21.0質量%を超えると、溶接金属中にフェライトが大量に生成する。あるいはフェライトの生成を抑制するためにオーステナイト安定化元素を添加するとMs点が下がりすぎるなどの不具合が生じる。このようなことから、溶接材料のCrは21.0質量%以下とする。
【0047】
第2の発明のNiは溶接金属の積層欠陥エネルギーを高め、マルテンサイト及びオーステナイト中の転位密度を効果的に低下させて靭性を高めるのに有効な元素である。Ni存在下、特にマルテンサイト及びオーステナイトが共存すると、この溶接金属を有する溶接継手に大きな変形や高速の変形が生じても、オーステナイトがこれらの変形を受け持ち、高い靭性が溶接継手に付与される。
【0048】
溶接材料の溶着金属中のNiの含有量が20.0質量%を超えると、Ms点が低下しすぎてマルテンサイト変態膨張による効果が得られなくなるばかりでなく、Ni自体が高価であり、経済的に好ましくない。
P,Sは、高温において発生する割れを阻止するために含有量を抑制する必要があり、Pの含有量を0.020質量%以下、Sの含有量を0.010質量%以下に限定する。割れを完全に阻止するためにはPの含有量を0.010質量%以下、Sの含有量を0.005質量%以下とすることが望ましい。
【0049】
Siは、Ms点を低下させる作用を有し、また脱酸材として機能するため溶接金属の酸素量を低減し、靭性を向上させるのに有効である。しかし、Siの含有量が5.0質量%を超えると、高温割れが発生しやすく、また、規則格子を形成して靭性を著しく劣化させる。
さらに、Mnは溶接金属においてNiと同様オーステナイト安定化作用を有するが、溶接金属の積層欠陥エネルギーを低めるので、オーステナイトやマルテンサイトの転位密度が高まる作用を有する。したがって、Niの代わりにMnを用いてMs点を低下させると溶接金属の靭性が劣化する問題がある。従って溶着金属のMnの含有量を10.0質量%以下にすることが好ましい。
【0050】
第1及び第2の発明における溶接材料の組成は、溶着金属の組成が前記溶接材料の組成に加えて、Moを4.0質量%以下、Nbを3.0質量%以下、及びCaを0.5質量%以下のうち一種又は二種以上含有していてもよい。
Moは溶接金属の耐食性を向上させ、かつ粒界炭化物の析出を抑制して溶接金属の靭性を高める目的で添加することができるが、溶接金属にMoを4.0質量%を超えて含有させると溶接金属の靭性が劣化する。このため、溶接材料のMoの含有量を4.0質量%以下とすることが好ましい。
【0051】
また、NbはMoと同様オーステナイト粒内に炭化物を生成し、粒界のCr炭化物の生成を抑制する効果があり、溶接金属の靭性の向上に効果がある。しかし、溶接金属にNbを3.0質量%を超えて含有させると、固溶Nbが増加し、溶接金属の靭性が劣化する。このため、溶接材料のNbの含有量を3.0質量%以下とすることが好ましい。
【0052】
CaはSと結合して析出することにより、粒界へのSの偏析を抑制する効果がある。しかし、Caの添加量が0.5質量%を超えると、溶接時のアークが極めて不安定になり、ビード外観不良や溶接欠陥を発生させるので溶接材料のCaの含有量を0.5質量%以下とすることが好ましい。
なお、上記した元素以外については、とくに限定されないが、溶接材料に、V、Cu、N、希土類元素をそれぞれ0.5質量%以下を不可避的含有成分として含有しても何ら問題は無い。不可避的含有成分とは、いわゆる不純物のほか、例えば溶接材料中に添加されていることにより溶着金属に含有されることとなった成分を指す。また、上記した元素以外に被溶接材、溶接材料に含有される元素が不可避的に含有されても何ら問題はない。
【0053】
本発明の鋼構造物用溶接継手においては、被溶接材として、低合金鋼材を用いるとよい。中でも、極厚490Mpa級高張力鋼材あるいは590Mpa級高張力鋼材を溶接した場合に好適である。しかし、本発明に用いられるこれら低合金鋼材の種類については、特に限定されず、通常公知のいずれの鋼材も適用可能である。
次に、本願における第4の発明に係る鋼構造物用溶接継手は,溶接金属中の残留オーステナイト量が70体積%未満の鋼構造物用溶接継手である。
【0054】
本発明者らは、溶接継手の溶接部分を形成する溶接金属に適度な割合でオーステナイトを存在せしめると、オーステナイトの水素割れ抑制効果やエネルギー吸収効果により、この溶接金属の靭性、継手の耐低温割れ性および疲労強度が同時に向上することを見出した。特に、フラックス入りワイヤにおいては、フラックスが酸化物を主体とする場合、一般的な低水素系の被覆アーク溶接棒よりも水分量が多いことがあり、フラックス入りワイヤを適用するに置いて、耐割れ性を高めておくことは極めて重要である。しかし、溶接金属中の残留オーステナイトが70体積%を超えると、溶接金属の靭性は向上するものの、マルテンサイト変態膨張量が低下し、溶接継手の疲労強度が低下する。従って、溶接金属中の残留オーステナイト量を70体積%以下にすることが好ましく、さらに好適な範囲としては5〜50体積%の範囲である。残留オーステナイト量の測定は、X線回折強度により定量するとよい。
【0055】
また、本発明の鋼構造物用溶接継手において、用いられるフラックス入りワイヤは、前記被溶接材に適合した溶接条件で、前記の組成の溶接金属を形成できる組成を有するものであれば、通常公知の材料のいずれもが適用可能であり、特に限定されない。後に実施例についてフラックスコアードワイヤの成分系が述べられているが,これはフラックス組成を制限するものではない。前記の組成の溶接金属が形成できるように、溶接条件により被溶接材からの希釈等を考慮して適宜選択すればよい。
【0056】
本発明の鋼構造物用溶接継手では、被溶接材に応じて、溶接材料の組成及び溶接条件を調整して、前記の組成の溶接金属を形成する。また、継手形状は、荷重非伝達型十字溶接継手、角回し溶接などの隅肉溶接継手、突き合わせ溶接継手など、船舶、海洋構造物、ペントストック、橋梁、貯槽、建設機械等の大型鋼構造物に用いられる継手形状がいずれも好適である。
(実施例)
表1に引張強度500MPa級の低合金鋼材である被溶接鋼板の化学組成および板厚を,表2に溶接材料を用いJIS Z3184に基づいた全溶着金属の化学組成を示す。
【0057】
【表1】
【0058】
【表2】
【0059】
フラックス入りワイヤ(溶接材料)についてはワイヤ径を1.2mmφとし,スラグ系およびメタル系のフラックス入りワイヤ(FCW:Flux Cored Wire)とした。スラグ系フラックス入りワイヤに包含させるフラックスの質量比率は外皮に対して20質量%で、フラックスは主成分をTiO2とするチタニア系とした。フラックスの成分構成はTiO2:40質量%、SiO2:20質量%、Fe粉:20質量%で、不純物としてSi、Mnアルカリ金属酸化物を含む。また、メタル系フラックス入りワイヤのフラックス質量比率は同じく外皮に対して20質量%で、フラックスの成分構成はFe粉65質量%、フェロシリコン、フェロマンガンがあわせて30質量%で、残部TiO2とアルカリ金属酸化物とした。なお,各フラックスについては前記の組成以外でも同様の効果が得られることを確認済みである。比較例として,1種類のみソリッドワイヤを準備した。これらを用いて角回し溶接継手(角回し),荷重非伝達型十字溶接継手(十字)および突合せ溶接継手(突合せ)を作成した。一方、板厚12mmの記号Bの母材にルートギャップ6mm、開先角度60度のV開先を施し、溶接入熱17kJ/cmにより4パス溶接とした。溶接条件は,全て250A−28V−20cm/minとした。
表1,表2の組合せにより作製した溶接継手における溶接金属特性(化学組成など)を表3に示す。
【0060】
【表3】
【0061】
各溶接継手については,継手疲労試験によりS−N曲線を採取し,200万回疲労強度を導出した。さらに,各溶接継手について,溶接部の止端半径を3点測定し,平均値を導出した。溶接金属のシャルピー試験を実施した。2mmVノッチを溶接金属中央に施し、0℃におけるシャルピー吸収エネルギーを3本測定し、その平均値を算出し、靭性を評価した。詳細はJIS Z2242に準拠した。溶接継手の疲労強度,溶接継手止端部の止端半径および溶着金属のシャルピー値を表4に示す。
【0062】
【表4】
【0063】
発明例については,200万回疲労強度200MPa以上およびシャルピー吸収エネルギー76J以上と良好な値が得られているのに対し,比較例においては200万回疲労強度およびシャルピー吸収エネルギーの両方あるいは一方に低い値が見られ,本発明の目的である「溶接継手の疲労強度と溶接金属の靭性の向上」を達成できていない。また,フラックス入りワイヤを用いた溶接継手における止端半径は,ソリッドワイヤを用いたものより大きく,フラックス入りワイヤによりビード形状の改善が達成された。
【0064】
【発明の効果】
本発明は、上記のような溶接材料及び鋼構造物用溶接継手であるので、溶接継手の疲労強度の向上と溶接金属の靭性の向上とをともに可能とする鋼構造物用溶接継手及び溶接材料を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】溶接継手における溶接金属の温度と体積変化(伸び)の関係を示すグラフである。
Claims (6)
- 低合金鋼材を溶接して製造する鋼構造物用溶接継手に利用するフラックス入りワイヤからなる溶接材料であって、この溶接材料により形成される溶着金属が、0.20質量%以下のC、6.0〜21.0質量%のCr、4.0〜20.0質量%のNi、5.0質量%以下のSi、10.0質量%以下のMn、0.020質量%以下のP、及び、0.010質量%以下のSを含有し、前記溶着金属の残部がFeおよび不可避的含有成分からなることを特徴とする溶接材料。
- 前記溶接材料により形成される溶着金属が、さらに4.0質量%以下のMo、3.0質量%以下のNb及び0.5質量%以下のCaのうち少なくといずれか一種を含有することを特徴とする請求項1に記載の溶接材料。
- 低合金鋼材を溶接して製造する鋼構造物用溶接継手に利用するフラックス入りワイヤからなる溶接材料であって、この溶接材料により形成される溶着金属が、0.20質量%以下のC、21.0質量%以下のCr、12.0〜20.0質量%のNi、5.0質量%以下のSi、10.0質量%以下のMn、0.020質量%以下のP、0.010質量%以下のSを含有し、前記溶着金属の残部がFeおよび不可避的含有成分からなることを特徴とする溶接材料。
- 前記溶接材料により形成される溶着金属が、さらに4.0質量%以下のMo、3.0質量%以下のNb及び0.5質量%以下のCaのうち少なくといずれか一種を含有することを特徴とする請求項3に記載の溶接材料。
- 鋼構造物用溶接継手であり、溶接金属の組成が次式を満足することを特徴とする鋼構造物用溶接継手。
50≦719−795WC−35.55WSi−13.25WMn−23.7WCr−26.5WNi−23.7WMo−11.85WNb≦360
ただし、WC:溶接金属中のCの含有量(質量%)
WSi:溶接金属中のSiの含有量(質量%)
WMn:溶接金属中のMnの含有量(質量%)
WCr:溶接金属中のCrの含有量(質量%)
WNi:溶接金属中のNiの含有量(質量%)
WMo:溶接金属中のMoの含有量(質量%)
WNb:溶接金属中のNbの含有量(質量%) - 溶接継手の溶接金属中の残留オーステナイト量が70体積%以下であることを特徴とする請求項5に記載の鋼構造物用溶接継手。
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