JP5394849B2 - 溶接熱影響部の靭性に優れた厚鋼板 - Google Patents

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Description

本発明は、橋梁や高層建造物、船舶などの溶接構造物に適用される厚鋼板に関し、特に大入熱溶接後の熱影響部(以下、単に「HAZ」と呼ぶことがある)の靭性に優れた厚鋼板に関するものである。
近年、上記各種溶接構造物の大型化に伴い、板厚が50mm以上である厚鋼板の溶接が不可避となっている。このため、あらゆる分野において、溶接施工効率の改善という観点から、50kJ/mm以上の大入熱溶接が指向される状況である。
しかしながら、大入熱溶接を行うと、HAZが高温のオーステナイト(γ)領域に長時間保持された後、徐冷されるので、加熱時のγ粒成長、冷却過程での粗大フェライト(α)粒生成に代表されるような組織粗大化がもたらされ易くなり、その部分の靭性が劣化しやすいという問題がある。こうしたことから、大入熱溶接においてHAZにおける靭性(以下、「HAZ靭性」と呼ぶことがある)を安定して高い水準に保つ技術が必要とされている。
HAZ靭性を確保するための主な手段としては、酸化物、窒化物、硫化物等の介在物粒子によるγ粒成長ピン止め(以下、「γピン止め」と略記する)、介在物粒子を起点とする粒内α生成による組織微細化等が提案されている。こうした技術の代表例としては、例えば特許文献1〜3に示されるように、鋼材中に微細なTi含有窒化物をγピン止め粒子として分散析出させることで、大入熱溶接を行なったときのHAZで生じるオーステナイト粒の粗大化を抑制し、HAZ靭性の劣化を抑えた技術が提案されている。しかしながらこれらの技術では、近年の溶接入熱量増大に対して、Ti含有窒化物が消失してしまい、安定したHAZ靭性が得られなくなっている。
これに対し、高温で安定な酸化物系介在物をピン止め粒子として利用する技術が提案されている(例えば特許文献4〜6)。しかしながら、酸化物系介在物はTi含有窒化物に比べ数が少なく、十分なピン止め効果が得られないため、入熱量が50kJ/mmに達するような大入熱溶接に対しては、なおいっそうの工夫が必要である。即ち、上記特許文献4および5の技術では、Ti−REM−Ca−Al系酸化物や、REMやZrを含む酸化物を存在させることによって良好なHAZ靭性が得られるとは言うものの、想定した入熱量は低い水準にとどまっており、50kJ/mm以上の大入熱溶接で良好なHAZ靭性が得られているとはいえない。また特許文献6の技術では、上記特許文献5と同様に、REMやZrを含む酸化物を利用するものであるが、HAZ靭性としてシャルピー吸収エネルギーの平均値を評価しているものの、材料の信頼性という観点では、平均値のみならず最小値も高い水準に保障する必要がある。
一方、特許文献7は、酸化物系介在物とTi含有窒化物の両方をピン止め粒子として利用することで、高いHAZ靭性が得る技術が示されているものの、近年の入熱量増大傾向を考慮すると、Ti含有窒化物の利用には限界があり、酸化物系介在物による大入熱でのHAZ靭性向上手段を早急に確立する必要がある。
酸化物系介在物を粒内α起点として作用させる技術としては、TiやREMを含む複合酸化物とMnSを利用した技術(例えば特許文献7)が提案されている他、発明者らは介在物形状を制御することで、粒内α生成を促進する技術を提示している(例えば特許文献9)。これらの技術では、粒内α生成に対し、(粒内α/介在物)界面エネルギーの低い介在物が有効との前提で構築されているものである。しかしながら、粒内α生成に際しては、(粒内α/γ)界面エネルギーの寄与も大きく、単に(粒内α/介在物)界面エネルギーを低下させるだけでは、十分な粒内α生成を得ることが出来ないため、大入熱HAZ靭性を十分保障するに至っていない。即ち、特許文献8の技術では、そもそも想定する入熱量が小さく、特許文献9の技術においても、シャルピー吸収エネルギーの平均値こそ高いものの、最小値は十分な水準に達していないのが現状である。
特開2001−98340号公報 特開2004−218010号公報 特開昭61−253344号公報 特開2001−20031号公報 特開2007−100213号公報 特開2007−247005号公報 特開2008−223062号公報 特開平7−252586号公報 特開2008−223081号公報
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであって、その目的は、大入熱溶接を行った場合であっても、HAZ靭性の平均値は勿論のこと、その最小値をも向上させることができる厚鋼板を提供することにある。
上記課題を解決することのできた本発明に係る厚鋼板とは、C:0.03〜0.12%(「質量%」の意味、化学成分については以下同じ)、Si:0.25%以下(0%を含む)、Mn:1.0〜2.0%、P:0.03%以下(0%を含まない)、S:0.015%以下(0%を含まない)、Al:0.005〜0.05%、Ti:0.010〜0.080%、Ca:0.0005〜0.010%およびN:0.002〜0.020%を夫々含有し、且つ酸素を除いた構成元素が質量%にして10<Ti,5<Al<20,5<Ca<40である酸化物で、円相当直径が2μm未満のものが1mm2当り300個以上存在すると共に、円相当直径が2μm以上のものが1mm2当り100個以下である点に要旨を有する。
尚、上記「円相当直径」とは、酸化物の大きさに着目して、その面積が等しくなる様に想定した円の直径を求めたもので、透過型電子顕微鏡(TEM)や走査型電子顕微鏡(SEM)の観察面上で認められる酸化物のものである。
本発明の厚鋼板には、必要によって更に、(a)REM:0.0001〜0.02%および/またはZr:0.0001〜0.02%、(b)Ni:1.5%以下(0%を含まない)、Cu:1.5%以下(0%を含まない)、Cr:1.5%以下(0%を含まない)およびMo:1.5%以下(0%を含まない)よりなる群から選ばれる1種以上の元素、(c)Nb:0.10%以下(0%を含まない)および/またはV:0.1%以下(0%を含まない)、(d)B:0.005%以下(0%を含まない)、等を含有させることも有用であり、こうした元素を含有することでその種類に応じて厚鋼板の特性が更に改善されることになる。
上記の添加元素のうち、REM:0.0001〜0.02%および/またはZr:0.0001〜0.02%を含有させた場合には、前記酸化物における酸素を除いた構成元素が質量%にして10<Ti,5<Al<20,5<Ca<40の他、5<REM<50および/または5<Zr<40を満足するものとなり、より粒内α生成を促進することになり、HAZ靭性を更に向上させることになる。
また、REM:0.0001〜0.02%および/またはZr:0.0001〜0.02%を含有する場合には、酸素を除いた構成元素が質量%にして10<Ti,5<Al<20,8<Ca<40の他、5<REM<50および/または5<Zr<40を満足し、且つ10<REM+Zr<70および1<Ti/Ca<1.4を満足する酸化物についてもその個数を測定したとき、円相当直径が2μm未満のものが1mm2当り300個以上存在させることによって、粒内α生成を更に促進することになり、HAZ靭性をより一層向上できるものとなるので好ましい。
本発明で対象とする酸化物は、上記のように、酸化物における酸素を除いたTi,Al,Ca等の構成元素(必要によってREMやZrを含む)が所定の範囲内にあることが必要であるが、これらの割合(質量%)は上記の範囲を満足しておれば良く、これらの元素だけで必ずしも100%にならずとも良いものである。例えば、酸化物中にSiやMnを含むことも許容できる。また、本発明で対象とする酸化物は、一般的に上記の各元素を含む複合酸化物の形態をとるものである。
本発明によれば、鋼板の化学成分組成を適切な範囲内に収めると共に、所定の化学成分を有する酸化物をその大きさに応じて適切に分散させることによって、溶接熱影響部(HAZ)の靭性改善を図った厚鋼板が実現でき、こうした厚鋼板は、橋梁や高層建造物、船舶などの溶接構造物に適用するものとして極めて有用である。
本発明者らは、酸化物系介在物の分散によって良好なHAZ靭性を確保するために、様々な角度から検討した。酸化物系介在物の分散に関して、これまでの技術では、(粒内α/介在物)界面エネルギーの低い介在物が有効との前提で構築されてきたのであるが、粒内α生成に際しては、(粒内α/γ)界面エネルギーの寄与も大きいものと考えられた。そこで、本発明者らは、(粒内α/介在物)界面エネルギーだけでなく、(粒内α/γ)界面エネルギーをも低減できるような酸化物系介在物の組成について検討を重ねた。
その結果、酸素を除いた構成元素が質量%にして10<Ti,5<Al<20,5<Ca<40である酸化物(所定量のREMやZrを含有する場合には、更に5<REM<50および/または5<Zr<40を満足する)では、HAZの高温加熱において液体化し、その後の冷却過程で結晶化するような挙動を示すものとなり、こうした酸化物では(粒内α/介在物)界面エネルギーだけでなく、(粒内α/γ)界面エネルギーをも低減できるものとなり、粒内α生成がより一層促進されることを見出した。
そして、上記のような酸化物のうち、円相当直径が2μm未満のものが1mm2当り300個以上存在すると共に、円相当直径が2μm以上のものが1mm2当り100個以下であるようにすれば、シャルピー吸収エネルギーの平均値および最小値共に高い水準を示し、優れたHAZ靭性が得られることを見出した。
また、所定量のREMやZrを含有する場合においては、酸素を除いた構成元素が質量%にして10<Ti,5<Al<20,8<Ca<40の他、5<REM<50および/または5<Zr<40を満足し、且つ10<REM+Zr<70および1<Ti/Ca<1.4を満足する酸化物は、HAZの高温加熱において液体化すると共に、その後の冷却過程で粒内α生成に有利な結晶構造を有して結晶化するため、(粒内α/γ)界面エネルギーの低減に加え、一層低い(粒内α/介在物)界面エネルギーが実現されるものとなり、粒内α生成が極めて活発に促進されることも見出した。そして、上記のような酸化物であって、円相当直径が2μm未満のものが1mm2当り300個以上存在するようにすれば、一層優れたHAZ靭性が得られることを見出した。尚、上記REM+Zrの値は、REMまたはZrのいずれか単独で含んだ場合の値を超える範囲では、必然的に両方を含むものことになるが、それより少ない場合には、REMまたはZrの単独あるいは複合で含むことを許容するものである。
前記のような知見を基に、本発明者らは本発明を完成したものであるが、各構成要件を規定した理由は下記の通りである。
[円相当直径が2μm未満の酸化物の個数が1mm2当り300個以上]
円相当直径で2μm未満の酸化物は、粒内α促進によってHAZ靭性を向上させるために必要である。円相当直径で2μm以上の酸化物では、HAZ高温加熱における液体化が十分進行せず、粒内α生成量が減少し、HAZ靭性が却って低下する。また、酸化物の組成が上記した所定の範囲を外れると、HAZにおける液体化→結晶化過程が進行せず、粒内αが促進されなくなる。また、円相当直径で2μm未満の酸化物の個数が1mm2当り300個(300個/mm2)より少ないと、粒内α生成の起点が不足するため、やはり粒内α生成量が減少し、十分なHAZ靭性が得られなくなる。
[円相当直径が2μm以上の酸化物の個数が1mm2当り100個以下]
上記の組成を満足する酸化物のうち、円相当直径で2μm以上の酸化物は、脆性破壊を助長し、HAZ靭性を劣化させるので、できるだけ少ない方がよい。こうした観点から本発明では、円相当直径で2μm以上の酸化物は、1mm2当り100個以下(100個/mm2以下)と規定した。
上記のような酸化物の分散状態を実現するには、溶製時においてMn,Siを用いた脱酸により溶鋼中の溶存酸素量を0.002〜0.01%とした後、Al→Ti→(REM,Zr→)Caの順に、Ti添加からCa添加までの時間t1が3〜20分となるように制御しつつ、各元素を添加し、且つCa添加から鋳込み開始までの時間t2(分)を、各添加量から求められるta(分)、tb(分)を用い[下記(1)式、(2)式]、ta(分)<t2(分)<tb(分)の要件を満足すると共に、鋳造時における1500〜1450℃の温度範囲での冷却時間t3を300秒以内とすれば良い。各要件の規定理由は次の通りである。
ta=4−10×[Ca]/([Ti]+2[Al]+5[REM]+2[Zr]+0.01) …(1)
tb=25−40×[Ca]/([Ti]+2[Al]+5[REM]+2[Zr]+0.01) …(2)
但し、[Ca],[Ti],[Al],[REM]および[Zr]は、夫々Ca,Ti,Al,REMおよびZrの溶鋼への添加量(質量%)を示す。
また、所定量のREMやZrを含有する場合においては、酸素を除いた構成元素が質量%にして10<Ti,5<Al<20,8<Ca<40の他、5<REM<50および/または5<Zr<40を満足し、且つ10<REM+Zr<70および1<Ti/Ca<1.4を満足する酸化物で、円相当直径が2μm未満である酸化物を300個/mm2以上確保するためには、Ca添加量[Ca]を、下記式に基づいて求められるA≦[Ca]≦Bの範囲に制御すればよい。尚、下記で規定されるAおよびBの値は、実験によって求められたものである。
A=2.25×[Of]
B=[Of]×[Ti]/(0.25×[REM]+0.12×[Zr])
但し、[Of]はCa添加前の溶存酸素量(質量%)、[Ti],[REM]および[Zr]は、夫々Ti,REMおよびZrの溶鋼への添加量(質量%)を示す。
即ち、Ca添加量[Ca]がA値より少ないと、添加したCaの大部分がCa単体の酸化物として消費されるため、粒内α生成の起点となる酸化物(構成元素が上記の要件を満足する酸化物)が十分に得られなくなる。また、Ca添加量[Ca]がB値を超えると、酸化物中のTi/Ca比が1を下回るようになるため、やはり上記のような酸化物が必要数確保できなくなる。
[溶製時においてAl→Ti→(REM,Zr)→Caの順に添加]
上記の添加順以外の順で各元素を添加すると、粒内α生成起点となる適切な組成を有する酸化物介在物が必要量確保できなくなる。特に、Caは脱酸力が極めて強いため、TiやAlに先立って添加すると、TiやAlと結びつく酸素が全てなくなってしまうことになる。
[Ti添加からCa添加までの時間t1が3〜20分]
Ti添加からCa添加までの時間t1は3分よりも短くなると、Ca添加に先立つ酸化物の反応が十分進行せず、粒内α生成起点となる、適切な組成を有する酸化物系介在物が必要数得られなくなる。また、この時間t1が20分よりも長くなると、Ca添加に先立つ酸化物の反応が過剰に進行し、粒内α生成起点となる、適切な組成を有する酸化物系介在物が必要数得られなくなる。
[Ca添加から鋳込み開始までの時間t2(分)を、ta(分)<t2(分)<tb(分)の要件を満足する時間]
Ca添加から鋳込みまでの時間t2は、酸化物の生成状況に影響を及ぼす要件であり(Caが他の酸化物から酸素を奪って酸化物を形成する時間)、この時間がta(分)以下になると、Ca添加後の酸化物反応が十分進行せず、粒内α生成起点となる、適切な組成を有する酸化物系介在物が必要数得られなくなる。また、時間t2がtb(分)以上になると、Ca添加後の酸化物の反応が過剰に進行し、粒内α生成起点となる、適切な組成を有する酸化物系介在物が必要数得られなくなる。尚、上記(1)式および(2)式は、各元素の酸化物へのなり易さを考慮し、実験に基づいて求められたものである。
[鋳造時の1500〜1450℃における冷却時間t3を300秒以内]
鋳造時の1500〜1450℃における冷却時間t3が300秒を超えると、円相当直径で2μm以上の粗大な酸化物系介在物の生成量が増加し、HAZ靭性が劣化することになる。
次に、本発明の厚鋼板(母材)における化学成分組成について説明する。本発明の厚鋼板は、酸化物の分散状態が適切であっても、夫々の化学成分(元素)の含有量が適正範囲内になければ、母材の特性とHAZを良好にすることはできない。従って、本発明の厚鋼板では、夫々の化学成分の量が、以下に記載するような適正範囲内にあることも必要である。尚、これらの成分のうち、酸化物を形成する元素(例えば、Al,Ca,Ti等)の含有量は、その作用効果から明らかなように、酸化物を構成する量を含めたものである。
[C:0.03〜0.12%]
Cは、鋼板の強度を確保するために欠くことのできない元素である。C含有量が0.03%未満では、鋼板の強度が確保できない。好ましくは0.04%以上である。しかしながら、C含有量が過剰になると、硬質な島状マルテンサイト(MA)が多く生成して母材の靭性劣化を招くことになる。従ってC含有量は0.12%以下(好ましくは0.10%以下)に抑える必要がある。
[Si:0.25%以下(0%を含む)]
Siは、固溶強化によって鋼板の強度を確保するのに有用な元素であるが、過剰に含有されると、硬質な島状マルテンサイト(MA)が多く生成して母材の靭性劣化を招くことになる。従ってSi含有量は、少なくとも0.25%以下に抑える必要がある。好ましくは、0.18%以下である。
[Mn:1.0〜2.0%]
Mnは、鋼板の強度を確保する上で有用な元素であり、こうした効果を有効に発揮させるには、1.0%以上含有させる必要がある。好ましくは1.4%以上である。しかし、2.0%を超えて過剰に含有させるとHAZの強度が上昇し過ぎて靭性が劣化するので、Mn含有量は2.0%以下とする。好ましくは1.8%以下である。
[P:0.03%以下(0%を含まない)]
不純物元素であるPは、粒界破壊を起こし易く靭性に悪影響を及ぼすので、その量はできるだけ少ないことが好ましい。母材およびHAZの靭性を確保するという観点からして、P含有量は0.03%以下に抑制する必要があり、好ましくは0.02%以下とする。しかし、工業的に、鋼中のPを0%にすることは困難である。
[S:0.015%以下(0%を含まない)]
Sは、MnSを形成して母材の靭性を劣化させる不純物であり、その量はできるだけ少ないことが好ましい。母材靭性を確保するという観点からして、S含有量は0.015%以下に抑制する必要があり、好ましくは0.010%以下とする。しかし、工業的に、鋼中のSを0%にすることは困難である。
[Al:0.005〜0.05%]
前述のごとく、TiやCa(および必要によって含有されるREM,Zr)の添加に先立ち添加することによって、粒内α生成に有効な酸化物を形成する上で有用な元素である。こうした効果を発揮させるためには、その含有量は0.005%以上とする必要があるが、その含有量が過剰になると粗大酸化物が生成して母材およびHAZの靭性が劣化するので、0.05%以下に抑える必要がある。Al含有量の好ましい下限は0.010%であり、好ましい上限は0.04%である。
[Ti:0.010〜0.080%]
Tiは、Alの添加後、(REM,Zr,)やCaの添加に先立ち、添加することによって、粒内α生成に有効な酸化物を形成してHAZ靭性の向上に寄与する元素である。こうした効果を有効に発揮させるには、Tiは0.010%以上含有させることが必要であり、好ましくは0.012%以上とする。しかし過剰に含有すると、粗大な酸化物が多く生成してHAZ靭性を劣化させるため、0.080%以下に抑えるべきである。好ましくは0.060%以下とするのがよい。
[Ca:0.0005〜0.010%]
Caは、Ti(およびREM,Zr)を添加した後、3〜20分後に添加することによって、粒内α生成に有効な酸化物を形成してHAZ靭性の向上に寄与する元素である。こうした効果を有効に発揮させるには、Caは0.0005%以上含有させる必要がある。好ましくは0.0008%以上である。しかしCa含有量が過剰になると、粗大な酸化物が生成して母材およびHAZの靭性が劣化するため、0.010%以下とする必要がある。好ましくは0.008%以下である。
[N:0.002〜0.020%]
Nは、高温で溶け残る窒化物(Ti含有窒化物)を形成することによって、母材およびHAZの靭性を確保する上で有用な元素である。N含有量を0.002%以上(好ましくは0.003%以上)とすることによって、所定のTi含有窒化物を確保することができる。しかしN含有量が過剰になると、固溶N量が増大して歪時効によって母材およびHAZの靭性が劣化する。従ってNは0.020%以下に抑える必要があり、好ましくは0.018%以下とする。
本発明で規定する含有元素は上記の通りであって、残部は鉄および不可避的不純物であり、該不可避的不純物として、原料、資材、製造設備等の状況によって持ち込まれる元素(例えば、Sn,As,Pb等)の混入が許容され得る。また、更に下記元素を積極的に含有させることも有効であり、含有される成分の種類に応じて鋼板の特性が更に改善される。
[REM:0.0001〜0.02%および/またはZr:0.0001〜0.02%]
REM(希土類元素)およびZrは、Tiの添加の後Caの添加に先立って添加することによって、粒内α生成に有効な酸化物を形成することで、HAZ靭性の向上に寄与する元素である。こうした効果は、その含有量が増加するにつれて増大するが、こうした効果を有効に発揮させるには、いずれも0.0001%以上含有させることが好ましい(より好ましくは0.0005%以上)。しかし過剰に含有させると、酸化物が粗大になって母材およびHAZの靭性を劣化させるため、いずれも0.02%以下に抑えるべきである。好ましくは0.015%以下とする。尚、本発明において、REM(希土類元素)とは、ランタノイド元素(LaからLnまでの15元素)およびSc(スカンジウム)とY(イットリウム)を含む意味である。
[Ni:1.5%以下(0%を含まない)、Cu:1.5%以下(0%を含まない)、Cr:1.5%以下(0%を含まない)およびMo:1.5%以下(0%を含まない)よりなる群から選ばれる1種以上]
Ni,Cu,CrおよびMoは、いずれも鋼板の高強度化に有効な元素であり、その効果はその含有量が増加するにつれて増大するが、こうした効果を有効に発揮させるには、いずれも0.05%以上含有させることが好ましい。より好ましくは0.10%以上である。しかしこれらの元素の含有量が過剰になると、強度の過大な上昇を招き、母材およびHAZの靭性が劣化するため、いずれも1.5%以下に抑えることが好ましい。より好ましくは1.2%以下である。
[Nb:0.10%以下(0%を含まない)および/またはV:0.1%以下(0%を含まない)]
NbおよびVは、炭窒化物として析出し、γ粒粗大化を抑制することで母材靭性を良好にするのに有効に作用する元素である。こうした効果は、その含有量が増加するにつれて増大するが、こうした効果を有効に発揮させるには、いずれも0.002%以上含有させることが好ましい。しかしながらこれらの元素の含有量が過剰になると、HAZ組織の粗大化を招き、HAZ靭性が劣化するため、Nbで0.10%以下(好ましくは0.08%以下)、Vで0.1%以下(好ましくは0.08%以下)とする必要がある。
[B:0.005%以下(0%を含まない)]
Bは、粗大な粒界αの生成を抑制することで、母材およびHAZの靭性を向上させるのに有効な元素である。こうした効果は、その含有量が増加するにつれて増大するが、こうした効果を有効に発揮させるには、0.0010%以上含有させることが好ましい(より好ましくは0.0015%以上)。しかし、B含有量が過剰になると、オーステナイト粒界でのBNの析出を招き、母材およびHAZの靭性が劣化するので、0.005%以下とすることが好ましい。より好ましくは0.004%以下とするのがよい。
本発明は厚鋼板に関するものであり、該分野において厚鋼板とは、JISで定義されるように、一般に板厚が3.0mm以上であるものを指す。但し、本発明の厚鋼板は、板厚が50mm以上となるような鋼板に対して、入熱量が50kJ/mm以上の大入熱溶接を行っても良好なHAZ靭性を示すものであるので、この様な厚みのある鋼板へ適用することは好ましい態様であるが、本発明の鋼板の厚みは50mm以上のものに限定されず、それ未満となるような鋼板への適用を排除するものではない。
こうして得られる本発明の厚鋼板は、例えば橋梁や高層建造物、船舶などの構造物の材料として使用でき、小〜中入熱溶接はもとより大入熱溶接においても、溶接熱影響部の靭性劣化を防ぐことができる。
以下、本発明を実施例によって更に詳細に説明するが、下記実施例は本発明を限定する性質のものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更して実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に含まれる。
下記表1、2に示す各種組成の鋼を、真空溶解炉(VIF:150kg)にて下記表3、4に示した条件(溶鋼中の溶存酸素量、Al,Ti,Caの添加順、Ti添加からCa添加までの時間t1、Ca添加から鋳込みまでの時間t2)を制御しつつ溶製し、この溶鋼を鋳造時(1500〜1450℃の温度範囲)における冷却時間t3を制御しつつ冷却して鋳片(断面形状:150mm×250mm)とした後、熱間圧延を行い、板厚:80mmの熱間圧延板とした。尚、表1において、REMはLaを50%程度とCeを25%程度含有するミッシュメタルの形態で添加した。また表1中「−」は元素を添加していないことを示している。また、表3、4において、Al,Ti,(REM,Zr)およびCaの添加順は、Al→Ti→(REM,Zr)→Caのときを「○」、それ以外の順序のときを「×」とした。また、Ca添加から鋳込み開始までの時間t2(分)については、ta(分)<t2(分)<tb(分)の要件を満足するものを「○」、この要件を満足しないものを「×」で示した。
また、表3、4においては、Ca添加量[Ca]の制御に関して([Ca]の欄)、前記したA≦[Ca]≦Bの関係を満足するものを「○」、満足しないものを「×」として示した。尚、[Ca]の欄において、上記式に関与しないもの(即ち、REMおよびZrのいずれも含有しないもの)は、「−」で示した。
Figure 0005394849
Figure 0005394849
Figure 0005394849
Figure 0005394849
上記のようにして製造した各鋼板について、下記の要領で各種大きさの酸化物(酸化物系介在物)の個数密度、HAZ靭性を測定した。これらの結果を、下記表5、6に示す。
[円相当直径で2μm未満の酸化物の個数密度の測定]
各鋼板の表面から深さt/4(t:板厚)の位置(最も代表的な位置)から試験片を切り出し(試験片の軸心がt/4の位置を通るように採取)、圧延方向および板厚方向に平行な断面を、Carl Zeiss社製の電界放射式走査電子顕微鏡「SUPRA35(商品名)」(以下、「FE−SEM」と呼ぶ)を用いて観察し、観察倍率:5000倍、観察視野:0.0024μm2、観察箇所20箇所の条件で観察した。そして画像解析によって、その視野中の各酸化物の面積を測定し、この面積から各酸化物の円相当直径を算出した。尚、各酸化物が上記の組成を満足するものであることは、EDX(エネルギー分散型X線検出器)によって判別した。そして、円相当直径が2μm未満となる酸化物の個数(N1)を、1mm2当りに換算して求めた。
このとき測定した酸化物のうちで、所定量のREMやZrを含有し、酸素を除いた構成元素が質量%にして10<Ti,5<Al<20,8<Ca<40の他、5<REM<50および/または5<Zr<40を満足し、且つ10<REM+Zr<70および1<Ti/Ca<1.4を満足する酸化物で、円相当直径が2μm未満である酸化物の個数を、1mm2当りに換算して求めた値をN3として示した(このN3値と、所定量のREMやZrを含有するもので、酸素を除いた構成元素が質量%にして10<Ti,5<Al<20,5<Ca<40の他、5<REM<50および/または5<Zr<40だけを満足するものの個数を足し合せた値がN1である)。但し、円相当直径が0.2μm以下となる酸化物については、EDXの信頼性が十分でないため、解析から除外した。
[円相当直径で2μm以上の酸化物の個数密度の測定]
各鋼板の表面から深さt/4(t:板厚)の位置から試験片を切り出し(試験片の軸心がt/4の位置を通るように採取)、圧延方向および板厚方向に平行な断面を、上記FE−SEMを用いて観察し、観察倍率:1000倍、観察視野:0.06μm2、観察箇所20箇所の条件で観察した。そして画像解析によって、その視野中の各酸化物の面積を測定し、この面積から各酸化物の円相当直径を算出した。尚、各酸化物が上記の組成を満足するものであることは、EDX(エネルギー分散型X線検出器)によって判別した。そして、円相当直径が2μm以上となる酸化物の個数(N2)を、1mm2当りに換算して求めた。
[HAZ靭性の評価]
各鋼板から、溶接継手用試験片を採取し、V開先加工を施した後、入熱量:50kJ/mmにてエレクトロガスアーク溶接を実施した。これら試験片から、各鋼板の表面から深さt/4(t:板厚)の位置の溶融線(ボンド)近傍のHAZに切欠きを加工したシャルピー衝撃試験片(JIS Z 2201の4号試験片)を採取し、−40℃でシャルピー衝撃試験を行い、吸収エネルギー(vE-40)を測定した。このとき3本の試験片について吸収エネルギー(vE-40)を測定し、その平均値と最小値を求めた。そして、vE-40の平均値が180Jを超えるもの、最小値で120Jを超えるものをHAZ靭性に優れると評価した。
また、入熱量を60kJ/mmにする以外は、上記と同様の条件にてエレクトロガスアーク溶接を実施し、得られた試験片から、上記と同様にして、−40℃でシャルピー衝撃試験を行った。このとき3本の試験片について吸収エネルギー(vE-40)を測定し、その平均値を求めた。そして、vE-40の平均値が120Jを超えるものをHAZ靭性に優れると評価した。
Figure 0005394849
Figure 0005394849
これらの結果から、次のように考察できる(尚、下記No.は、表1〜6の鋼No.を示す)。No.1〜30は、本発明で規定する要件を満足する例であり、化学成分組成、酸化物の分散が適切になされており、HAZ靭性(平均値および最小値)が良好な鋼板が得られていることが分かる。特に、所定量のREMやZrを含有し、酸素を除いた構成元素が質量%にして10<Ti,5<Al<20,8<Ca<40の他、5<REM<50および/または5<Zr<40を満足し、且つ10<REM+Zr<70および1<Ti/Ca<1.4を満足する酸化物で、円相当直径が2μm未満である酸化物の個数(N3)が、300個/mm2以上であるものは(No.6〜8,14,15,22,23,25,26)、入熱量を60kJ/mmにした場合のHAZ靭性(平均値)においても良好な鋼板が得られていることが分かる。
これに対して、No.31〜55のものでは、本発明で規定するいずれかの要件を外れる例であり、吸収エネルギー(vE-40)の平均値および最小値の少なくともいずれかが低下していることが分かる。
尚、No.1とNo.31の夫々について、酸化物から生成した粒内αと旧αとの結晶方位を調べたところ、No.1では、(粒内α/γ)界面エネルギーが低い特定の方位関係が成立していることが確認できた。

Claims (6)

  1. C:0.03〜0.12%(「質量%」の意味、化学成分については以下同じ)、Si:0.25%以下(0%を含む)、Mn:1.0〜2.0%、P:0.03%以下(0%を含まない)、S:0.015%以下(0%を含まない)、Al:0.005〜0.05%、Ti:0.010〜0.080%、Ca:0.0005〜0.010%およびN:0.002〜0.020%を夫々含有するとともに残部は鉄および不可避的不純物であり、且つ酸素を除いた構成元素が質量%にして10<Ti,5<Al<20,5<Ca<40である酸化物で、円相当直径が2μm未満のものが1mm2当り300個以上存在すると共に、円相当直径が2μm以上のものが1mm2当り100個以下であることを特徴とする溶接熱影響部の靭性に優れた厚鋼板。
  2. C:0.03〜0.12%、Si:0.25%以下(0%を含む)、Mn:1.0〜2.0%、P:0.03%以下(0%を含まない)、S:0.015%以下(0%を含まない)、Al:0.005〜0.05%、Ti:0.010〜0.080%、Ca:0.0005〜0.010%およびN:0.002〜0.020%を夫々含有する他、REM:0.0001〜0.02%および/またはZr:0.0001〜0.02%を含有するとともに残部は鉄および不可避的不純物であり、且つ酸素を除いた構成元素が質量%にして10<Ti,5<Al<20,5<Ca<40の他、5<REM<50および/または5<Zr<40を満足する酸化物で、円相当直径が2μm未満のものが1mm2当り300個以上存在すると共に、円相当直径が2μm以上のものが1mm2当り100個以下であることを特徴とする溶接熱影響部の靭性に優れた厚鋼板。
  3. 酸素を除いた構成元素が質量%にして10<Ti,5<Al<20,8<Ca<40の他、5<REM<50および/または5<Zr<40を満足し、且つ10<REM+Zr<70および1<Ti/Ca<1.4を満足する酸化物についてもその個数を測定したとき、円相当直径が2μm未満のものが1mm2当り300個以上存在するものである請求
    項2に記載の厚鋼板。
  4. 更に、Ni:1.5%以下(0%を含まない)、Cu:1.5%以下(0%を含まない)、Cr:1.5%以下(0%を含まない)およびMo:1.5%以下(0%を含まない)よりなる群から選ばれる1種以上の元素を含むものである請求項1〜3のいずれかに記載の厚鋼板。
  5. 更に、Nb:0.10%以下(0%を含まない)および/またはV:0.1%以下(0%を含まない)を含むものである請求項1〜4のいずれかに記載の厚鋼板。
  6. 更に、B:0.005%以下(0%を含まない)を含むものである請求項1〜5のいずれかに記載の厚鋼板。
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