JP5394849B2 - 溶接熱影響部の靭性に優れた厚鋼板 - Google Patents
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Description
円相当直径で2μm未満の酸化物は、粒内α促進によってHAZ靭性を向上させるために必要である。円相当直径で2μm以上の酸化物では、HAZ高温加熱における液体化が十分進行せず、粒内α生成量が減少し、HAZ靭性が却って低下する。また、酸化物の組成が上記した所定の範囲を外れると、HAZにおける液体化→結晶化過程が進行せず、粒内αが促進されなくなる。また、円相当直径で2μm未満の酸化物の個数が1mm2当り300個(300個/mm2)より少ないと、粒内α生成の起点が不足するため、やはり粒内α生成量が減少し、十分なHAZ靭性が得られなくなる。
上記の組成を満足する酸化物のうち、円相当直径で2μm以上の酸化物は、脆性破壊を助長し、HAZ靭性を劣化させるので、できるだけ少ない方がよい。こうした観点から本発明では、円相当直径で2μm以上の酸化物は、1mm2当り100個以下(100個/mm2以下)と規定した。
tb=25−40×[Ca]/([Ti]+2[Al]+5[REM]+2[Zr]+0.01) …(2)
但し、[Ca],[Ti],[Al],[REM]および[Zr]は、夫々Ca,Ti,Al,REMおよびZrの溶鋼への添加量(質量%)を示す。
A=2.25×[Of]
B=[Of]×[Ti]/(0.25×[REM]+0.12×[Zr])
但し、[Of]はCa添加前の溶存酸素量(質量%)、[Ti],[REM]および[Zr]は、夫々Ti,REMおよびZrの溶鋼への添加量(質量%)を示す。
上記の添加順以外の順で各元素を添加すると、粒内α生成起点となる適切な組成を有する酸化物介在物が必要量確保できなくなる。特に、Caは脱酸力が極めて強いため、TiやAlに先立って添加すると、TiやAlと結びつく酸素が全てなくなってしまうことになる。
Ti添加からCa添加までの時間t1は3分よりも短くなると、Ca添加に先立つ酸化物の反応が十分進行せず、粒内α生成起点となる、適切な組成を有する酸化物系介在物が必要数得られなくなる。また、この時間t1が20分よりも長くなると、Ca添加に先立つ酸化物の反応が過剰に進行し、粒内α生成起点となる、適切な組成を有する酸化物系介在物が必要数得られなくなる。
Ca添加から鋳込みまでの時間t2は、酸化物の生成状況に影響を及ぼす要件であり(Caが他の酸化物から酸素を奪って酸化物を形成する時間)、この時間がta(分)以下になると、Ca添加後の酸化物反応が十分進行せず、粒内α生成起点となる、適切な組成を有する酸化物系介在物が必要数得られなくなる。また、時間t2がtb(分)以上になると、Ca添加後の酸化物の反応が過剰に進行し、粒内α生成起点となる、適切な組成を有する酸化物系介在物が必要数得られなくなる。尚、上記(1)式および(2)式は、各元素の酸化物へのなり易さを考慮し、実験に基づいて求められたものである。
鋳造時の1500〜1450℃における冷却時間t3が300秒を超えると、円相当直径で2μm以上の粗大な酸化物系介在物の生成量が増加し、HAZ靭性が劣化することになる。
Cは、鋼板の強度を確保するために欠くことのできない元素である。C含有量が0.03%未満では、鋼板の強度が確保できない。好ましくは0.04%以上である。しかしながら、C含有量が過剰になると、硬質な島状マルテンサイト(MA)が多く生成して母材の靭性劣化を招くことになる。従ってC含有量は0.12%以下(好ましくは0.10%以下)に抑える必要がある。
Siは、固溶強化によって鋼板の強度を確保するのに有用な元素であるが、過剰に含有されると、硬質な島状マルテンサイト(MA)が多く生成して母材の靭性劣化を招くことになる。従ってSi含有量は、少なくとも0.25%以下に抑える必要がある。好ましくは、0.18%以下である。
Mnは、鋼板の強度を確保する上で有用な元素であり、こうした効果を有効に発揮させるには、1.0%以上含有させる必要がある。好ましくは1.4%以上である。しかし、2.0%を超えて過剰に含有させるとHAZの強度が上昇し過ぎて靭性が劣化するので、Mn含有量は2.0%以下とする。好ましくは1.8%以下である。
不純物元素であるPは、粒界破壊を起こし易く靭性に悪影響を及ぼすので、その量はできるだけ少ないことが好ましい。母材およびHAZの靭性を確保するという観点からして、P含有量は0.03%以下に抑制する必要があり、好ましくは0.02%以下とする。しかし、工業的に、鋼中のPを0%にすることは困難である。
Sは、MnSを形成して母材の靭性を劣化させる不純物であり、その量はできるだけ少ないことが好ましい。母材靭性を確保するという観点からして、S含有量は0.015%以下に抑制する必要があり、好ましくは0.010%以下とする。しかし、工業的に、鋼中のSを0%にすることは困難である。
前述のごとく、TiやCa(および必要によって含有されるREM,Zr)の添加に先立ち添加することによって、粒内α生成に有効な酸化物を形成する上で有用な元素である。こうした効果を発揮させるためには、その含有量は0.005%以上とする必要があるが、その含有量が過剰になると粗大酸化物が生成して母材およびHAZの靭性が劣化するので、0.05%以下に抑える必要がある。Al含有量の好ましい下限は0.010%であり、好ましい上限は0.04%である。
Tiは、Alの添加後、(REM,Zr,)やCaの添加に先立ち、添加することによって、粒内α生成に有効な酸化物を形成してHAZ靭性の向上に寄与する元素である。こうした効果を有効に発揮させるには、Tiは0.010%以上含有させることが必要であり、好ましくは0.012%以上とする。しかし過剰に含有すると、粗大な酸化物が多く生成してHAZ靭性を劣化させるため、0.080%以下に抑えるべきである。好ましくは0.060%以下とするのがよい。
Caは、Ti(およびREM,Zr)を添加した後、3〜20分後に添加することによって、粒内α生成に有効な酸化物を形成してHAZ靭性の向上に寄与する元素である。こうした効果を有効に発揮させるには、Caは0.0005%以上含有させる必要がある。好ましくは0.0008%以上である。しかしCa含有量が過剰になると、粗大な酸化物が生成して母材およびHAZの靭性が劣化するため、0.010%以下とする必要がある。好ましくは0.008%以下である。
Nは、高温で溶け残る窒化物(Ti含有窒化物)を形成することによって、母材およびHAZの靭性を確保する上で有用な元素である。N含有量を0.002%以上(好ましくは0.003%以上)とすることによって、所定のTi含有窒化物を確保することができる。しかしN含有量が過剰になると、固溶N量が増大して歪時効によって母材およびHAZの靭性が劣化する。従ってNは0.020%以下に抑える必要があり、好ましくは0.018%以下とする。
REM(希土類元素)およびZrは、Tiの添加の後Caの添加に先立って添加することによって、粒内α生成に有効な酸化物を形成することで、HAZ靭性の向上に寄与する元素である。こうした効果は、その含有量が増加するにつれて増大するが、こうした効果を有効に発揮させるには、いずれも0.0001%以上含有させることが好ましい(より好ましくは0.0005%以上)。しかし過剰に含有させると、酸化物が粗大になって母材およびHAZの靭性を劣化させるため、いずれも0.02%以下に抑えるべきである。好ましくは0.015%以下とする。尚、本発明において、REM(希土類元素)とは、ランタノイド元素(LaからLnまでの15元素)およびSc(スカンジウム)とY(イットリウム)を含む意味である。
Ni,Cu,CrおよびMoは、いずれも鋼板の高強度化に有効な元素であり、その効果はその含有量が増加するにつれて増大するが、こうした効果を有効に発揮させるには、いずれも0.05%以上含有させることが好ましい。より好ましくは0.10%以上である。しかしこれらの元素の含有量が過剰になると、強度の過大な上昇を招き、母材およびHAZの靭性が劣化するため、いずれも1.5%以下に抑えることが好ましい。より好ましくは1.2%以下である。
NbおよびVは、炭窒化物として析出し、γ粒粗大化を抑制することで母材靭性を良好にするのに有効に作用する元素である。こうした効果は、その含有量が増加するにつれて増大するが、こうした効果を有効に発揮させるには、いずれも0.002%以上含有させることが好ましい。しかしながらこれらの元素の含有量が過剰になると、HAZ組織の粗大化を招き、HAZ靭性が劣化するため、Nbで0.10%以下(好ましくは0.08%以下)、Vで0.1%以下(好ましくは0.08%以下)とする必要がある。
Bは、粗大な粒界αの生成を抑制することで、母材およびHAZの靭性を向上させるのに有効な元素である。こうした効果は、その含有量が増加するにつれて増大するが、こうした効果を有効に発揮させるには、0.0010%以上含有させることが好ましい(より好ましくは0.0015%以上)。しかし、B含有量が過剰になると、オーステナイト粒界でのBNの析出を招き、母材およびHAZの靭性が劣化するので、0.005%以下とすることが好ましい。より好ましくは0.004%以下とするのがよい。
各鋼板の表面から深さt/4(t:板厚)の位置(最も代表的な位置)から試験片を切り出し(試験片の軸心がt/4の位置を通るように採取)、圧延方向および板厚方向に平行な断面を、Carl Zeiss社製の電界放射式走査電子顕微鏡「SUPRA35(商品名)」(以下、「FE−SEM」と呼ぶ)を用いて観察し、観察倍率:5000倍、観察視野:0.0024μm2、観察箇所20箇所の条件で観察した。そして画像解析によって、その視野中の各酸化物の面積を測定し、この面積から各酸化物の円相当直径を算出した。尚、各酸化物が上記の組成を満足するものであることは、EDX(エネルギー分散型X線検出器)によって判別した。そして、円相当直径が2μm未満となる酸化物の個数(N1)を、1mm2当りに換算して求めた。
各鋼板の表面から深さt/4(t:板厚)の位置から試験片を切り出し(試験片の軸心がt/4の位置を通るように採取)、圧延方向および板厚方向に平行な断面を、上記FE−SEMを用いて観察し、観察倍率:1000倍、観察視野:0.06μm2、観察箇所20箇所の条件で観察した。そして画像解析によって、その視野中の各酸化物の面積を測定し、この面積から各酸化物の円相当直径を算出した。尚、各酸化物が上記の組成を満足するものであることは、EDX(エネルギー分散型X線検出器)によって判別した。そして、円相当直径が2μm以上となる酸化物の個数(N2)を、1mm2当りに換算して求めた。
各鋼板から、溶接継手用試験片を採取し、V開先加工を施した後、入熱量:50kJ/mmにてエレクトロガスアーク溶接を実施した。これら試験片から、各鋼板の表面から深さt/4(t:板厚)の位置の溶融線(ボンド)近傍のHAZに切欠きを加工したシャルピー衝撃試験片(JIS Z 2201の4号試験片)を採取し、−40℃でシャルピー衝撃試験を行い、吸収エネルギー(vE-40)を測定した。このとき3本の試験片について吸収エネルギー(vE-40)を測定し、その平均値と最小値を求めた。そして、vE-40の平均値が180Jを超えるもの、最小値で120Jを超えるものをHAZ靭性に優れると評価した。
Claims (6)
- C:0.03〜0.12%(「質量%」の意味、化学成分については以下同じ)、Si:0.25%以下(0%を含む)、Mn:1.0〜2.0%、P:0.03%以下(0%を含まない)、S:0.015%以下(0%を含まない)、Al:0.005〜0.05%、Ti:0.010〜0.080%、Ca:0.0005〜0.010%およびN:0.002〜0.020%を夫々含有するとともに残部は鉄および不可避的不純物であり、且つ酸素を除いた構成元素が質量%にして10<Ti,5<Al<20,5<Ca<40である酸化物で、円相当直径が2μm未満のものが1mm2当り300個以上存在すると共に、円相当直径が2μm以上のものが1mm2当り100個以下であることを特徴とする溶接熱影響部の靭性に優れた厚鋼板。
- C:0.03〜0.12%、Si:0.25%以下(0%を含む)、Mn:1.0〜2.0%、P:0.03%以下(0%を含まない)、S:0.015%以下(0%を含まない)、Al:0.005〜0.05%、Ti:0.010〜0.080%、Ca:0.0005〜0.010%およびN:0.002〜0.020%を夫々含有する他、REM:0.0001〜0.02%および/またはZr:0.0001〜0.02%を含有するとともに残部は鉄および不可避的不純物であり、且つ酸素を除いた構成元素が質量%にして10<Ti,5<Al<20,5<Ca<40の他、5<REM<50および/または5<Zr<40を満足する酸化物で、円相当直径が2μm未満のものが1mm2当り300個以上存在すると共に、円相当直径が2μm以上のものが1mm2当り100個以下であることを特徴とする溶接熱影響部の靭性に優れた厚鋼板。
- 酸素を除いた構成元素が質量%にして10<Ti,5<Al<20,8<Ca<40の他、5<REM<50および/または5<Zr<40を満足し、且つ10<REM+Zr<70および1<Ti/Ca<1.4を満足する酸化物についてもその個数を測定したとき、円相当直径が2μm未満のものが1mm2当り300個以上存在するものである請求
項2に記載の厚鋼板。 - 更に、Ni:1.5%以下(0%を含まない)、Cu:1.5%以下(0%を含まない)、Cr:1.5%以下(0%を含まない)およびMo:1.5%以下(0%を含まない)よりなる群から選ばれる1種以上の元素を含むものである請求項1〜3のいずれかに記載の厚鋼板。
- 更に、Nb:0.10%以下(0%を含まない)および/またはV:0.1%以下(0%を含まない)を含むものである請求項1〜4のいずれかに記載の厚鋼板。
- 更に、B:0.005%以下(0%を含まない)を含むものである請求項1〜5のいずれかに記載の厚鋼板。
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