JP5723234B2 - 溶接熱影響部の靭性に優れた厚鋼板 - Google Patents

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Description

本発明は、主に高層建造物に適用される厚鋼板に関し、より詳しくは、大入熱後の熱影響部(以下、HAZとも述べる。)の強度および靭性に優れた厚鋼板に関するものである。
近年、建造物の高層化、大型化に伴い、使用される鋼材の高強度化、厚肉化が求められつつあり、引張り強度80キロを超えるような高強度厚鋼板において、50mm以上の板厚の厚鋼板の溶接が不可避となっている。以上のような実情もあり、溶接施工効率向上を目的とした大入熱溶接が求められている。
しかしながら、大入熱溶接時のHAZは、加熱によって高温のオーステナイト(γ)領域に長時間保持された後、徐冷されるため、加熱時におけるγ粒の成長、冷却過程における粗大フェライト(α)粒の生成に代表されるような組織の粗大化がもたらされやすく、それが大入熱溶接時のHAZ靭性低下の原因となっている。また、高強度化は一般に靭性を低下させるため、厚鋼板の強度と、大入熱溶接時におけるHAZの靭性(以下、HAZ靭性とも述べる。)とを、安定して高い水準に保つ技術を開発することが必要課題となっている。
HAZ靭性を確保するための手段としては、酸化物、窒化物、硫化物等の介在物粒子によるγ粒成長ピン止め、介在物粒子を起点とする粒内α生成による組織の微細化に関する技術等が提案されている。こうした技術の提案例として、特許文献1や特許文献2に記載の技術があり、鋼材中に微細なTi含有窒化物をγ粒成長ピン止め粒子として分散析出させることで、大入熱溶接時のHAZで生じるオーステナイト粒の粗大化を抑制し、HAZ靭性の劣化を抑えることが開示されている。しかしながら、Ti含有窒化物は、溶接入熱を増大させると消失しやすく、安定したHAZ靭性が得られないという課題があり、近年の溶接入熱増大に対応することはできない。
すなわち、特許文献1、特許文献2に記載の技術ともに想定する入熱量が低レベルにとどまっている。また、特許文献1には溶接構造用鋼の具体的な引張り強度は明記されていないものの、添加されている合金元素濃度から推定すると、引張り強度は80キロクラスに達していない比較的低いレベルにとどまっているものと考えられる。
これに対し、特許文献3〜6では、高温で安定な酸化物系介在物をγ粒成長ピン止め粒子として利用する技術が提案されている。しかしながら、酸化物系介在物はTi含有窒化物に比べて数が少なく、十分なピン止め効果を得ることができないため、大入熱溶接に対して対応することが十分にはできず、尚一層の改善が必要である。
すなわち、特許文献3には、REMやZrを含む酸化物を存在させることによって良好なHAZ特性が得られると記載されてはいるものの、想定した入熱は低い水準にとどまっており、必ずしも大入熱溶接で良好なHAZ特性が得られるとはいいえない。また、特許文献4には、特許文献3と同様にREMやZrを含む酸化物を利用する技術が記載されており、HAZ靭性としてシャルピー吸収エネルギーを評価しているものの、材料の信頼性という観点では、平均値のみならずその最小値も高い水準に保障する必要があると考えられる。
更には、特許文献5には、酸化物系介在物とTi含有介在物の両方をγ粒成長ピン止め粒子として利用することで、高いHAZ靭性を得る技術が記載されている。しかしながら、近年の入熱量の増大傾向を考慮すると、Ti含有介在物の利用には限界があり、酸化物系介在物による大入熱でのHAZ靭性向上手段を早急に確立する必要があるということができる。また、発明者らは特許文献6で、微細酸化物系介在物のγ粒成長ピン止め効果を活用した技術を提案しているが、この技術は微細Mn硫化物の再析出抑制を併用した技術であり、溶存酸素量、溶存硫黄量に基づき合金添加量を決定するという煩雑な制御を必要としている。
また、介在物粒子を起点とする粒内ベイナイト(以下、IGBとも述べる。)生成による組織の微細化に関する技術として、発明者らは特許文献7、特許文献8で、介在物組成や介在物形状を制御することで、IGB生成を促進する技術を提案している。しかしながら、これら特許文献7、8で提案されている厚鋼板の強度クラスは50〜60キロクラスと比較的低いレベルにとどまっており、高強度と大入熱溶接時におけるHAZ靭性を両立しているとは言い難い。
更には、高強度厚鋼板では、強度確保のため多量の合金元素が添加されるが、合金元素の濃度の増加はIGB生成の駆動力が働き始める温度(T温度)を下げる傾向にあるため、IGBの生成にとっては不利になる。よって、高強度厚鋼板において、介在物起点のIGB生成を得るためには、よりいっそうIGB生成能に優れる介在物の分散形態とすると共に、合金の成分組成を適切に制御する必要があるといえる。
また、引張り強度60〜80キロクラスの高強度厚鋼板において、介在物起点のIGB生成を得る技術として、特許文献9により、Ti酸化物を活用した技術が提案されている。しかしながら、この特許文献9に記載の技術では、規定のTi酸化物分散形態を得るための製法として、溶製段階で、Ti添加後に静止状態で長時間保持を行うことが提案されており、溶製コストの著しい増大を招くことが想定される。更に、この特許文献9に記載の技術では、HAZ靭性の評価が、シャルピー衝撃エネルギーの平均値を求めることで行われている。しかしながら、安全性の観点からはシャルピー衝撃エネルギーの平均値を求めるだけでは不十分で、シャルピー衝撃エネルギーの最小値で評価することが必要であると考えられる。
特開2001−98340号公報 特開2008−308736号公報 特開2001−20031号公報 特開2007−247005号公報 特開2008−223062号公報 特開2009−179844号公報 特開2010−168644号公報 特開2008−223081号公報 特開2006−124759号公報
本発明は、上記従来の実情を鑑みてなされたもので、引張り強度80キロクラスの高強度鋼板において、大入熱溶接を行った際の、HAZ靭性の最小値、更には平均値を向上させることができる溶接熱影響部の靭性に優れた厚鋼板を提供することを課題とするものである。
請求項1記載の発明は、質量%で、C:0.03〜0.12%、Si:0.02〜0.50%、Mn:1.4〜3.0%、P:0.03%以下(0%を含まない)、S:0.015%以下(0%を含まない)、Al:0.07%以下(0%を含む)、Cr:0.5〜2.0%、Ti:0.010〜0.080%、REM:0.0003〜0.02%、Zr:0.0003〜0.02%、Ca:0.0005〜0.010%、N:0.002〜0.020%を含有し、残部が鉄および不可避的不純物である厚鋼板であって、D=62×[Mn]+27×[Ni]+111×[Cr]という式から求められるD値が、238<D<388を満足すると共に、酸素を除く構成元素が、質量%で、10%<Ti、Al<20%、5%<Ca<40%、5%<REM<50%、5%<Zr<40%である酸化物を含有し、且つ、前記酸化物のうち、円相当径が2μm未満の酸化物が300個/mm以上、円相当径が2μm以上5μm未満の酸化物が30〜70個/mm、円相当径が5μm以上の酸化物が30個/mm未満存在することを特徴とする溶接熱影響部の靭性に優れた厚鋼板である。
但し、上式で[ ]は各元素の含有量(質量%)を示す。
尚、上記記載を含め、本発明で説明する円相当径とは、酸化物等の大きさに着目して、その面積が等しくなるように想定した円の直径を求めたもので、透過型電子顕微鏡(TEM)や走査型電子顕微鏡(SEM)で観察することで求めることができる。
請求項2記載の発明は、酸素を除く構成元素が、質量%で、10%<Ti、Al<20%、8%<Ca<40%、5%<REM<50%、5%<Zr<40%であって、且つ、10%<REM+Zr<70%を満足し、更には、TiとCaの質量比が1超1.4未満である酸化物のうち、円相当径が2μm未満の酸化物が300個/mm以上存在することを特徴とする請求項1記載の溶接熱影響部の靭性に優れた厚鋼板である。
請求項3記載の発明は、更に、円相当径が0.05μm未満のTi含有窒化物を5.0×10個/mm以上含有することを特徴とする請求項1または2に記載の溶接熱影響部の靭性に優れた厚鋼板である。
請求項4記載の発明は、更に、質量%で、Ni:0.05〜2.0%、Cu:0.05〜2.0%、Mo:0.05〜2.0%よりなる群から選ばれる1種以上を含有することを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の溶接熱影響部の靭性に優れた厚鋼板である。
請求項5記載の発明は、更に、質量%で、Nb:0.002〜0.10%および/またはV:0.002〜0.10%を含有することを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の溶接熱影響部の靭性に優れた厚鋼板である。
請求項6記載の発明は、更に、質量%で、B:0.0003〜0.005%を含有することを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の溶接熱影響部の靭性に優れた厚鋼板である。
本発明によると、引張り強度80キロクラスの高強度鋼板において、小〜中入熱溶接は勿論のこと、大入熱溶接を行った場合であっても、HAZ靭性の最小値、また平均値を向上させることができ、優れたHAZ靭性とすることができる。
まず、発明者らは、粒内ベイナイト(IGB)の生成能に優れた酸化物形態を見出すことを目的として検討を行った。既に、発明者らは、前記特許文献7において、界面エネルギーの観点からIGB生成に有利な酸化物組成を見出しているが、それに加えて、酸化物サイズがIGB生成に及ぼす影響を調査した。
従来からは、酸化物の粗大化は一律にHAZ靭性に悪影響を及ぼすと考えられていた。しかしながら、この調査の結果、酸化物の粗大化はIGB生成を促進する作用があり、且つ、HAZ靭性を評価する温度が上昇するにつれ、許容される酸化物サイズが大きくなることを見出した。そのうえで、建築用厚鋼板で主に必要とされる0℃でのHAZ靭性に対しては、特に円相当径が2μm以上の酸化物のうち、円相当径が2μm以上5μm未満の酸化物を所定数分散させ、且つ、5μm以上の酸化物の個数を一定個数未満に抑えることで、優れたHAZ靭性が得られることを明らかにした。
また、一般には、強度確保のための合金元素の添加は、IGB生成の駆動力が働き始める温度(T温度)を下げる傾向にあるため、IGB生成に対して不利になると考えられる。これに対し、発明者らは、T温度と実際にIGB生成が始まる温度(TIGB温度)との差に着目し、合金元素を適正なバランスに基づき制御して添加することで、たとえT温度が低くても十分なIGB生成が得られることを見出した。すなわち、合金元素をD値に基づき制御することで、T温度の低下が最小限に抑えられると共に、IGBと競合する粒界ベイナイトの生成を抑制され、T温度とTIGB温度の差が拡大することで、IGB生成能の駆動力が増加し、十分なIGB生成が得られる。
以上のように、酸化物組成およびサイズの制御に加えて、合金元素のバランス制御を実施することで、引張り強度80キロクラスの高強度鋼板において、大入熱溶接を行った際のHAZ靭性の最小値を向上させることが可能となる。以上説明したような知見を基に、本発明を完成したものであるが、各構成要件を規定した理由は下記に示す通りである。尚、本明細書で記載している引張り強度80キロクラスの高強度鋼板とは、具体的には引張り強度が780MPaを超える高強度鋼板のことを示す。
(円相当径が2μm未満の酸化物が300個/mm以上)
酸化物の円相当径を2μm未満とすることで、IGB生成の促進によってHAZ靭性を促進することができる。酸化物の円相当径が2μm以上であると、HAZ高温加熱における液状化が十分に進行せず、IGBの生成量が減少し、HAZ靭性が低下する。また、酸化物の組成が、10%<Ti、Al<20%、5%<Ca<40%、5%<REM<50%、5%<Zr<40%という範囲から外れると、HAZにおける液状化→結晶化過程が進行せず、IGB生成が促進されなくなる。また、円相当径が2μm未満の酸化物が300個/mmより少ないと、IGB生成の起点が不足するため、やはりIGBの生成量が減少し、十分なHAZ靭性が得られなくなる。
(円相当径が2μm以上5μm未満の酸化物が30〜70個/mm
円相当径が2μm以上5μm未満の酸化物は、前記した規定の組成を有する円相当径が2μm未満の酸化物に比べてIGBの生成能が高いため、30個/mm以上分散させることで、引張り強度80キロクラスの高強度鋼板においても、HAZ組織の微細化に著しい効果がある。一方で、個数密度が70個/mmを超えると、脆性破壊起点としての悪影響が顕在化するため、70個/mm以下に制御する必要がある。
(円相当径が5μm以上の酸化物が30個/mm未満)
円相当径が5μm以上の酸化物は、脆性破壊起点としてのHAZ靭性に大きな悪影響を及ぼすため、30個/mm未満に制御する必要がある。
(製造方法)
上記した要件を満足する本発明の厚鋼板、特に、酸素を除く構成元素が、質量%で、10%<Ti、Al<20%、5%<Ca<40%、5%<REM<50%、5%<Zr<40%である酸化物を含有し、且つ、その酸化物のうち、円相当径が2μm未満の酸化物が300個/mm以上、円相当径が2μm以上5μm未満の酸化物が30〜70個/mm、円相当径が5μm以上の酸化物が30個/mm未満、夫々存在する厚鋼板を製造するためには、以下の製造要件を満足するようにして、厚鋼板を製造する必要がある。
その製造要件は、溶製時において、Mn、Siを用いた脱酸により溶鋼中の溶存酸素量を、質量%で、0.002〜0.01%とした後、Al→Ti→(REM、Zr)→Caの順に、Ti添加からCa添加までの時間t1が3〜20分となるようにして制御しつつ、各元素を添加し、Ca添加から鋳込み開始までの時間t2(分)を、ta(分)<t2(分)<tb(分)を満足する範囲に保ち、且つ、鋳造時における1500〜1450℃の温度範囲での冷却時間t3を300秒以内とすることである。また、この際、Ti、REM、Zrの添加量は、[Ti]/([REM]+[Zr])で求められる値を0.8以上11.8未満としなければならない。尚、前式で[ ]は各元素の溶鋼への添加量(質量%)を示す。これらの製造要件の規定理由については、以下の欄で詳しく説明する。
尚、先に示したta(分)とtb(分)は、以下の計算式から求めることができる。
ta=4−10×[Ca]/([Ti]+2[Al]+5[REM]+2[Zr]+0.01)
tb=25−40×[Ca]/([Ti]+2[Al]+5[REM]+2[Zr]+0.01)
但し、[Ca]、[Ti]、[Al]、[REM]、および[Zr]は、夫々Ca、Ti、Al、REM、およびZrの溶鋼への添加量(質量%)を示す。
また、酸素を除く構成元素が、質量%で、10%<Ti、Al<20%、8%<Ca<40%、5%<REM<50%、5%<Zr<40%であって、且つ、10%<REM+Zr<70%を満足し、更には、TiとCaの質量比が1超1.4未満である酸化物のうち、円相当径が2μm未満の酸化物が300個/mm以上という条件を確保するためには、Caの添加量[Ca]を、以下の計算式に基づいて求められるA≦[Ca]≦Bの範囲に制御すれば良い。尚、以下の計算式に基づいて求められるAおよびBの値は、実験によって求められたものである。
A=2.25×[Of]
B=[Of]×[Ti]/(0.25×[REM]+0.12×[Zr])
但し、[Of]はCa添加前の溶存酸素量(質量%)、[Ti]、[REM]、および[Zr]は、夫々Ti、REM、およびZrの溶鋼への添加量(質量%)を示す。
すなわち、Ca添加量[Ca]がA値より少ないと、添加したCaの大部分がCa単体の酸化物として消費されるため、IGB生成の起点となる酸化物(構成元素が上記の要件を満足する酸化物)が十分に得られなくなる。また、Ca添加量[Ca]がB値を超えると、酸化物中のTi/Ca比が1を下回るようになるため、IGB生成の起点となる酸化物を必要数確保できなくなる。
・Al添加前の溶鋼中の溶存酸素量:0.002〜0.01%
Al添加前の溶鋼中の溶存酸素量が0.002%より低い場合は、IGB生成の起点となる適切な組成を有する酸化物系介在物を必要量確保できなくなる。また、溶存酸素量が0.01%より高い場合は、円相当径が2μm以上の粗大介在物が増加し、HAZ靭性を劣化させてしまう。
・溶製時において、Al→Ti→(REM、Zr)→Caの順に添加
この添加順序以外の順序で各元素を添加すると、IGB生成の起点となる適切な組成を有する酸化物系介在物を必要数確保できなくなる。特に、Caは脱酸力が極めて強いため、TiやAlに先立って添加すると、TiやAlと結びつく酸素が全てなくなってしまうことになる。
・Ti添加からCa添加までの時間t1が3〜20分
Ti添加からCa添加までの時間t1が3分よりも短くなると、Ca添加に先立つ酸化物の反応が十分に進行せず、IGB生成の起点となる適切な組成を有する酸化物系介在物を必要数確保できなくなる。また、この時間t1が20分より長くなると、Ca添加に先立つ酸化物の反応が過剰に進行し、IGB生成の起点となる適切な組成を有する酸化物系介在物を必要数確保できなくなる。
・Ca添加から鋳込み開始までの時間t2(分)が、ta(分)<t2(分)<tb(分)を満足する時間
Ca添加から鋳込み開始までの時間t2は、酸化物の生成状況に影響を及ぼす要件であり(Caが他の酸化物から酸素を奪って酸化物を形成する時間)、この時間t2がta(分)以下になると、Ca添加後の酸化物反応が十分に進行せず、IGB生成の起点となる適切な組成を有する酸化物系介在物を必要数確保できなくなる。また、この時間t2がtb(分)以上になると、Ca添加後の酸化物の反応が過剰に進行し、IGB生成の起点となる適切な組成を有する酸化物系介在物を必要数確保できなくなる。尚、taとtbを求める式は、各元素の酸化物へのなり易さを考慮し、実験によって求められたものである。
・鋳造時の1500〜1450℃における冷却時間t3を300秒以内
鋳造時の1500〜1450℃における冷却時間t3が300秒を超えると、円相当径で5μm以上の粗大な酸化物系介在物の生成量が増加し、HAZ靭性が劣化することになる。
・Ti、REM、Zrの添加量:[Ti]/([REM]+[Zr])で求められる値を0.8以上11.8未満
[Ti]/([REM]+[Zr])で求められる値が0.8を下回ると、弱脱酸元素であるTiに比べ、強脱酸元素であるREM、Zrの添加量が多くなる。このような添加量であると、溶鋼中のフリー酸素濃度が低下し、続くCa添加時における酸化物成長速度が低下するため、円相当径が2μm以上5μm未満の酸化物を30個/mm以上確保することができなくなる。一方、[Ti]/([REM]+[Zr])で求められる値が11.8以上になると、逆に円相当径が2μm以上5μm未満の酸化物が70個/mmを超えてしまう。
尚、本発明の厚鋼板を製造するに当たっては、以上説明した溶製〜鋳造段階における要件以外の製造方法については特に限定されないが、得られた鋳片を加熱した後、熱間圧延を行い、焼入れを施したうえで、更に、オーステナイト・フェライト二相域に再加熱し、焼入れ焼戻し処理を行うことが推奨される。
(Ti含有窒化物を5.0×10個/mm以上)
また、発明者らは、前記酸化物の制御に加えて、厚鋼板に微細なTi含有窒化物を適切な個数以上含有させることで、HAZ熱サイクル中のオーステナイト粒粗大化をピン止めにより抑制し、HAZ組織を微細化することで靭性向上に寄与できること、特にHAZ靭性の平均値を向上させることができることを見出した。
尚、本発明で定義するTi含有窒化物には、TiNは勿論のこと、TiNのTiの一部、具体的にはTiに代えて原子比で50%以下の元素を他の窒化物形成元素(Nb、Zr、V等)で置換したものも含まれる。
このTi含有窒化物は前記酸化物と比較すると非常に微細であり、溶接による入熱前は鋼材内に非常に数多く微細分散させておくことが可能であるため、たとえ入熱量が100kJ/mm以上となるような大入熱溶接によりTi含有窒化物の多くが消失したとしても、まだ十分な数のTi含有窒化物を残存させることが可能である。このように、大入熱溶接後にもまだ十分な数のTi含有窒化物を残存させることができるので、HAZのオーステナイト粒粗大化のピン止め作用を有効に発揮させることができる。
更に確実にHAZ靭性を確保するためには、円相当径が0.05μm未満のTi含有窒化物を5.0×10個/mm以上含有させることが好ましい。Ti含有窒化物の円相当径が0.05μm以上になると、HAZのオーステナイト粒粗大化のピン止め作用が低下してしまう。また、円相当径が0.05μm未満のTi含有窒化物の個数密度が5.0×10個/mmを下回ると、オーステナイト粒粗大化のピン止め作用を有効に発揮させることができない。より好ましくは8.0×10個以上である。
尚、本発明では、鋼材内に導入する微細なTi含有窒化物の円相当径の下限については特に規定しないが、測定を行う透過型電子顕微鏡(TEM)の測定限界から、実際の円相当径の下限は0.01μm程度であるということができる。
(製造方法)
上記した要件を満足する本発明の厚鋼板、即ち、円相当径が0.05μm未満のTi含有窒化物を5.0×10個/mm以上含有する厚鋼板を製造するためには、前記した製造要件に加えて、以下の製造要件を満足するようにして、厚鋼板を製造する必要がある。
その製造要件は、圧延前の加熱温度を1050〜1200℃とすることと、900℃以上の圧下率を40%以上とすることである。これらの製造要件の規定理由を、以下の欄で詳しく説明する。
・圧延前の加熱温度を1050〜1200℃
圧延前の加熱温度が1050℃を下回ると、十分な個数のTi含有窒化物が析出しない。一方、圧延前の加熱温度が1200℃を上回ると、Ti含有窒化物の粗大化が進行し、所定のサイズを有する粒子が十分に得られなくなる。
・900℃以上の圧下率を40%以上
Ti含有窒化物は、圧延中にも歪誘起で析出する。900℃以上での圧下率が40%を下回ると、歪量が不足し、所定の分散を得られなくなる。また、900℃未満では、Ti拡散が十分に進行しなくなるため、たとえ圧下率が確保されていても、同様に所定の分散を得られなくなる。
(化学成分組成)
次に、本発明の厚鋼板における化学成分組成について説明する。本発明の厚鋼板は、酸化物、Ti含有窒化物の分散状態等が適切であっても、夫々の化学成分(元素)の含有量が適正範囲内でなければ、母材(厚鋼板)の特性とHAZを良好にすることができない。従って、本発明の厚鋼板では、夫々の化学成分の含有量が、以下に説明する範囲内にあることも要件とする。これらの化学成分のうち、酸化物を構成するAl、Ca、Ti等の含有量は、その作用効果から明らかなように、酸化物を構成する量を含めたものである。尚、下記の化学成分の含有量(%)は全て質量%を示す。
C:0.03〜0.12%
Cは、鋼板の強度を確保するための必須元素である。Cの含有量が0.03%より低い場合は、必要な強度を確保できなくなる。一方で、Cの含有量が過剰になると、硬質な島状マルテンサイト(MA)が多く生成して母材の靭性劣化を招くことになる。従って、Cの含有量は0.12%以下とする必要がある。Cの含有量の好ましい下限は0.04%、好ましい上限は0.10%である。
Si:0.02〜0.50%
Siは、鋼板の強度を確保するための有効な元素である。また、Ti活量を上昇させる作用があり、少量の添加はHAZ靭性の向上に有効なTiNの微細分散を促進する。しかしながら、過剰に添加すると、硬質な島状マルテンサイト(MA)が多く生成してHAZ靭性に悪影響を及ぼす。従って、Siの含有量は0.02〜0.50%とする。好ましい下限は0.05%、より好ましい下限は0.10%、更に好ましい下限は0.20%であり、好ましい上限は0.40%、より好ましい上限は0.30%である。
Mn:1.4〜3.0%
Mnは、鋼板の強度を確保するのに有用な元素であり、こうした効果を有効に発揮させるには1.4%以上含有させる必要がある。しかし、3.0%を超えて過剰に含有させるとHAZの強度が上昇しすぎてHAZ靭性に悪影響を及ぼすので、Mnの含有量は1.4〜3.0%とする。好ましい下限は1.5%、より好ましい下限は1.6%、更に好ましい下限は1.8%であり、好ましい上限は2.8%、より好ましい上限は2.5%である。
P:0.03%以下(0%を含まない)
Pは、粒界破壊を起こし易く靭性に悪影響を及ぼす不純物元素であるので、その含有量はできるだけ少ないことが好ましい。母材およびHAZの靭性を確保するという観点からして、Pの含有量は0.03%以下に抑制する必要があり、好ましくは0.02%以下とする。しかし、工業的に鋼中のPを0%にすることは困難である。
S:0.015%以下(0%を含まない)
Sは、Mn硫化物を形成して母材の靭性を劣化させる元素であるので、その含有量はできるだけ少ないことが好ましい。母材の靭性を確保するという観点からして、Sの含有量は0.015%以下に抑制する必要があり、好ましくは0.010%以下とする。しかし、工業的に鋼中のSを0%にすることは困難である。
Al:0.07%%以下(0%を含む)
Alは、Ti、Ca、REM、Zrに先立ち添加することによって、IGBの生成に有効な酸化物を形成する上で有用な元素である。しかしながら、その含有量が過剰であると粗大酸化物が生成して母材およびHAZの靭性が劣化するので、0.07%以下に抑える必要がある。Alの含有量の好ましい下限は0.005%、より好ましい0.01%であり、好ましい上限は0.06%、より好ましい上限は0.04%である。
Cr:0.5〜2.0%
Crは、鋼板の強度確保に有効な元素であり、強度確保のため0.5%以上添加する必要がある。しかし、過剰に添加すると、HAZ強度の過大な上昇を招き、HAZの靭性に悪影響を及ぼすため、2.0%以下に抑える必要がある。Crの含有量の好ましい下限は0.6%、より好ましい0.7%であり、好ましい上限は1.8%、より好ましい上限は1.6%である。
Ti:0.010〜0.080%
Tiは、Alの添加後、Ca、REMやZrに先立ち添加することによって、IGBの生成に有効な酸化物を形成してHAZ靭性の向上に寄与する元素である。こうした効果を有効に発揮させるためには、0.010%以上含有させる必要がある。しかしながら、その含有量が過剰であると粗大酸化物が多く生成してHAZ靭性を劣化させるので、0.080%以下に抑える必要がある。Tiの含有量の好ましい下限は0.012%、好ましい上限は0.060%である。
REM(希土類元素):0.0003〜0.02%
REM(希土類元素)は、Tiの添加後、Caの添加に先立って添加することで、IGBの生成に有効な酸化物を形成し、HAZ靭性の向上に寄与する元素である。こうした効果は、それらの含有量が増加するにつれて増大するが、こうした効果を有効に発揮させるためには、0.0003%以上含有させる必要がある。しかし、過剰に含有させると、酸化物が粗大になって母材およびHAZの靭性を劣化させるため、0.02%以下に抑えるべきである。REMの含有量の好ましい下限は0.0005%、好ましい上限は0.015%である。
Zr:0.0003〜0.02%
Zrは、REMと同様にTiの添加後、Caの添加に先立って添加することで、IGBの生成に有効な酸化物を形成し、HAZ靭性の向上に寄与する元素である。こうした効果は、それらの含有量が増加するにつれて増大するが、こうした効果を有効に発揮させるためには、0.0003%以上含有させる必要がある。しかし、過剰に含有させると、酸化物が粗大になって母材およびHAZの靭性を劣化させるため、0.02%以下に抑えるべきである。Zrの含有量の好ましい下限は0.0005%、好ましい上限は0.015%である。
Ca:0.0005〜0.010%
Caは、Ti、REM、Zrの添加後、3〜20分後に添加することによって、IGBの生成に有効な酸化物を形成してHAZ靭性の向上に寄与する元素である。こうした効果を有効に発揮させるためには、0.0005%以上含有させる必要がある。しかしながら、その含有量が過剰であると粗大酸化物が生成して母材およびHAZの靭性が劣化するので0.010%以下に抑える必要がある。Caの含有量の好ましい下限は0.0008%、好ましい上限は0.008%である。
N:0.002〜0.020%
Nは、高温で溶け残る窒化物(Ti含有窒化物)を形成することによって、母材およびHAZの靭性を確保する上で有用な元素である。その含有量を0.002%以上とすることで、所望のTi含有窒化物を確保することができる。しかし、その含有量が過剰になると、固溶N量が増大して歪時効によって母材およびHAZの靭性が劣化するので0.020%以下に抑える必要がある。Nの含有量の好ましい下限は0.003%、好ましい上限は0.018%である。
以上が本発明で規定する必須の含有元素であって、残部は鉄および不可避的不純物である。不可避的不純物としては、原料、資材、製造設備等の状況によって持ち込まれるSn、As、Pb等の元素の混入が許容される。また、更に以下に示す元素を積極的に含有させることも有効であり、含有される化学成分(元素)の種類によって厚鋼板の特性が更に改善される。
Ni:0.05〜2.0%、Cu::0.05〜2.0%、Mo:0.05〜2.0%よりなる群から選ばれる1種以上
Ni、Cu、およびMoは、いずれもが鋼板の高強度化に有効な元素であり、その効果はそれらの含有量が増加するにつれて増大する。こうした効果を有効に発揮させるためには、いずれも0.05%以上含有させることが好ましい。しかし、それらを過剰に含有させると、強度の過大な上昇を招き、HAZ靭性に悪影響を及ぼすため、いずれも2.0%以下に抑えることが好ましい。これらの元素の含有量のより好ましい下限はいずれもが0.1%、更に好ましい下限はいずれもが0.15%であり、より好ましい上限はいずれもが1.8%、更に好ましい上限はいずれもが1.6%である。
Nb:0.002〜0.10%および/またはV:0.002〜0.10%
NbおよびVは、炭窒化物として析出し、γ粒の粗大化を抑制することで、母材靭性を良好にするのに有効な元素である。その効果はそれらの含有量が増加するにつれて増大するが、こうした効果を有効に発揮させるためには、いずれも0.002%以上含有させることが好ましい。しかし、それらを過剰に含有させると、HAZ組織の粗大化を招き、HAZ靭性を劣化させるため、いずれも0.10%以下に抑えることが好ましい。それらの含有量のより好ましい下限はいずれもが0.005%、より好ましい上限はいずれもが0.08%である。
B:0.0003〜0.005%
Bは、粗大なIGBの生成を抑制することで、母材およびHAZの靭性を向上させるのに有効な元素である。その効果はその含有量が増加するにつれて増大するが、こうした効果を有効に発揮させるためには、0.0003%以上含有させることが好ましい。しかし、その含有量が過剰になると、オーステナイト粒界でのBN析出を招き、母材およびHAZの靭性を劣化させるため、0.003%以下に抑えることが好ましい。Bの含有量のより好ましい下限は0.0005%、更に好ましい下限は0.0010%、最も好ましい下限は0.0015%であって、より好ましい上限は0.004%である。
(D値)
以上の化学成分組成を満足した上で、本発明の厚鋼板は、D=62×[Mn]+27×[Ni]+111×[Cr]という式から求められるD値が、238<D<388を満足する必要がある(但し、前式で[ ]は各元素の含有量(質量%)を示す。)。このD値が238より低いと、酸化物起点のIGB生成が十分に得られなくなりHAZ靭性が低下してしまう。一方、D値が388より大きいと、HAZの強度が過大に上昇しHAZ靭性を確保できなくなる。
本発明は厚鋼板に関する発明であるが、一般に厚鋼板とは、JISで定義されるように、板厚が3.0mm以上の鋼板のことを示す。一方、本発明の厚鋼板は、50mm以上の板厚の厚鋼板の溶接を対象として発明されたものであり、対象とする鋼板は、板厚が50mm以上の鋼板であるということができると思われるが、これらは単に好ましい態様に過ぎず、本発明を50mm未満の板厚の厚鋼板へ適用することを排除するものではない。
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、本発明の趣旨に適合し得る範囲で適宜変更を加えて実施することも可能であり、それらは何れも本発明の技術的範囲に含まれる。
(実施例1)
実施例1では、まず、表1および表2に示す各成分組成(尚、Al,Ti,REM,Zr,Caについては添加後の質量%を記載している。)の鋼を、真空溶解炉(VIF:150kg)によって溶製した後、その溶鋼を用いて鋳片(断面形状:150mm×250mm)を鋳造し、更にその鋳片を用いて熱間圧延を行うことで、板厚50mmの熱間圧延板を得た。
この熱間圧延板(厚鋼板)を製造するにあたり、制御した各条件を表3および表4に示す。その条件は、Al添加前の溶鋼中の溶存酸素量[O]、Al,Ti,REM,Zr,Caの添加順序、[Ti]/([REM]+[Zr])、Ti添加からCa添加までの時間t1、Ca添加から鋳込み開始までの時間t2、鋳造時の1500〜1450℃における冷却時間t3、Ca添加量[Ca]である。
尚、表1および表2において、REMは、質量%で、Ceを50%程度とLaを25%程度含有するミッシュメタルの形態で添加した。また、表1および表2で、「−」は該当元素を添加していないことを示す。
また、表1および表2において、Al,Ti,REM,Zr,Caの添加順序は、Al→Ti→(REM,Zr)→Caの順序のときを「○」、それ以外の順序のときを「×」で示す。また、Ca添加から鋳込み開始までの時間t2については、前記したta(分)<t2(分)<tb(分)を満足するものを「○」、満足しないものを「×」で示す。
また、Ca添加量[Ca]に関しては、前記したA≦[Ca]≦Bの関係を満足するものを「○」、満足しないものを「×」で示した。
以上の要件で製造した各熱間圧延板(厚鋼板)を用いて、各種大きさの酸化物(酸化物系介在物)の個数密度、HAZ靭性(最小値)、引張り強度を測定により求め出した。これらの測定結果を表3および表4に示す。
Figure 0005723234
Figure 0005723234
Figure 0005723234
Figure 0005723234
(円相当径が2μm未満の酸化物の個数密度の測定)
各厚鋼板の表面から深さt/4(t:板厚)の位置から試験片を切り出し(試験片の軸心がt/4の位置を通るように採取)、圧延方向および板厚方向に平行な断面を、Carl Zeiss社製の電界放射式走査型電子顕微鏡「SUPRA35(商品名)」(以下、FE−SEMと呼ぶ)を用いて観察した。その観察条件は、倍率:5000倍、観察視野:0.0024μm、観察箇所:20箇所とした。画像解析によって、この観察視野中の各酸化物の面積を測定し、その面積から各酸化物の円相当径を算出した。尚、各酸化物が上記した成分組成を満足するものであることは、EDX(エネルギー分散型X線検出器)によって確認した。そして、円相当径が2μm未満となる酸化物の個数(N1)を1mm相当の個数密度に換算して求めた。但し、円相当径が0.2μm以下となる酸化物については、EDXの信頼性が十分でないため、解析から除外した。
また、測定した酸化物のうちで、酸素を除く構成元素が、質量%で、10%<Ti、Al<20%、8%<Ca<40%、5%<REM<50%、5%<Zr<40%であって、且つ、10%<REM+Zr<70%を満足し、更には、TiとCaの質量比が1超1.4未満である酸化物のうち、円相当径が2μm未満の酸化物の個数(NA)を1mm相当の個数密度に換算して求めた。
(円相当径が2μm以上5μm未満の酸化物の個数密度の測定)
各厚鋼板の表面から深さt/4(t:板厚)の位置から試験片を切り出し(試験片の軸心がt/4の位置を通るように採取)、圧延方向および板厚方向に平行な断面を、FE−SEMを用いて観察した。その観察条件は、倍率:1000倍、観察視野:0.06μm、観察箇所:20箇所とした。画像解析によって、この観察視野中の各酸化物の面積を測定し、その面積から各酸化物の円相当径を算出した。尚、各酸化物が上記した成分組成を満足するものであることは、EDX(エネルギー分散型X線検出器)によって確認した。そして、円相当径が2μm以上5μm未満となる酸化物の個数(N2)を1mm相当の個数密度に換算して求めた。
(円相当径が5μm以上の酸化物の個数密度の測定)
各厚鋼板の表面から深さt/4(t:板厚)の位置から試験片を切り出し(試験片の軸心がt/4の位置を通るように採取)、圧延方向および板厚方向に平行な断面を、FE−SEMを用いて観察した。その観察条件は、倍率:1000倍、観察視野:0.06μm、観察箇所:20箇所とした。画像解析によって、この観察視野中の各酸化物の面積を測定し、その面積から各酸化物の円相当径を算出した。尚、各酸化物が上記した成分組成を満足するものであることは、EDX(エネルギー分散型X線検出器)によって確認した。そして、円相当径が5μm以上となる酸化物の個数(N3)を1mm相当の個数密度に換算して求めた。
(HAZ靭性の評価)
各厚鋼板の表面から深さt/4(t:板厚)の位置から、12.5×32×55mmの試験片を切り出し、1400℃で5秒間保持した後、800℃〜500℃の冷却時間が200秒となるように速度を制御して冷却した。これは、角継ぎ手サブマージアーク溶接(入熱量:50kJ/mm)を模擬した熱サイクルである。これら試験片から、シャルピー衝撃試験片(JIS Z 2202のVノッチ試験片)を3本ずつ採取し、0℃でシャルピー衝撃試験を行い、吸収エネルギーvEを測定した。これら各3本ずつのシャルピー衝撃試験測定結果から、最小の吸収エネルギーvE(min)が70Jを超えるものを、HAZ靭性に優れると評価した。
(引張り強度の評価)
各厚鋼板の表面から深さt/4(t:板厚)の位置から、圧延方向に直角にJIS Z 2201の4号試験片を採取し、JIS Z 2241の引張り試験を実施して、引張り強度TSを求めた。TS>780MPaを満たすものを強度に優れると評価した。
No.1〜32は、本発明の要件を満足する発明例であり、化学成分組成、酸化物の分散等が適切になされており、HAZ靭性並びに強度が優れていることが分かる。すなわち、No.1〜32は、大入熱後のHAZの強度および靭性に優れた厚鋼板であるということができる。
尚、一般的に、HAZ靭性と引張り強度は負の相関を示す傾向がある。本発明の要件を満足する発明例の中で、引張り強度が810〜820MPaであったNo.2、6、32を比較すると、酸化物個数NAが請求項2記載の要件を満たさなかったNo.6のみがE(min)が110kJを下回っている。
これに対し、No.33〜64は、本発明の要件のうちいずれかの要件を満足しない比較例であり、HAZ靭性、強度の少なくとも一方で、評価基準を満足していないことが分かる。
(実施例2)
実施例2では、実施例1のNo.1、6、26、並びにそれらと略同様の成分組成(表5に示す。尚、Al,Ti,REM,Zr,Caについては添加後の質量%を記載している。)の鋼を、真空溶解炉(VIF:150kg)によって溶製した後、その溶鋼を用いて鋳片(断面形状:150mm×250mm)を鋳造し、更にその鋳片を用いて表6に示す要領で熱間圧延を行うことで、板厚50mmの熱間圧延板を得た。
この熱間圧延板(厚鋼板)を製造するにあたり、制御した各条件を表6に示す。その条件は、Al添加前の溶鋼中の溶存酸素量[O]、Al,Ti,REM,Zr,Caの添加順序、[Ti]/([REM]+[Zr])、Ti添加からCa添加までの時間t1、Ca添加から鋳込み開始までの時間t2、鋳造時の1500〜1450℃における冷却時間t3に加えて、Ca添加量[Ca]、圧延前の加熱温度、900℃以上での圧下率である。
尚、表5において、REMは、実施例1と同様に、質量%で、Ceを50%程度とLaを25%程度含有するミッシュメタルの形態で添加した。また、表5で、「−」は該当元素を添加していないことを示す。
また、表6において、Al,Ti,REM,Zr,Caの添加順序は、Al→Ti→(REM,Zr)→Caの順序のときを「○」、それ以外の順序のときを「×」で示す。また、Ca添加から鋳込み開始までの時間t2については、前記したta(分)<t2(分)<tb(分)を満足するものを「○」、満足しないものを「×」で示す。
また、Ca添加量[Ca]に関しては、前記したA≦[Ca]≦Bの関係を満足するものを「○」、満足しないものを「×」で示した。
以上の要件で製造した各熱間圧延板(厚鋼板)を用いて、各種大きさの酸化物(酸化物系介在物)の個数密度、円相当径が0.05μm未満のTi含有窒化物の個数密度、HAZ靭性(最小値および平均値)、引張り強度を測定により求め出した。これらの測定結果を表7に示す。
尚、各種大きさの酸化物(酸化物系介在物)の個数密度の測定、引張り強度の評価、並びにHAZ靭性の評価のうち最小値の評価は先に説明した実施例1と同様である。
Figure 0005723234
Figure 0005723234
Figure 0005723234
(円相当径が0.05μm未満のTi含有窒化物の個数密度の測定)
各厚鋼板の表面から深さt/4(t:板厚)の位置から試験片を切り出し(試験片の軸心がt/4の位置を通るように採取)、圧延方向および板厚方向に平行な断面からTEMレプリカ試験片を作製し、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いてその断面を観察した。観察条件は、倍率:15万倍、観察視野:0.66μm×0.78μmで、4視野観察した。そして、EDX(エネルギー分散型X線検出器)によってTi、Nを含む粒子を判別してその粒子をTi含有窒化物とした。更に画像解析によって、この観察視野中のTi含有窒化物の面積を測定し、円相当径に換算して0.05μm未満のTi含有窒化物の個数を計測し、1mm相当の個数密度に換算して求めた。但し、円相当径が0.01μm以下の粒子については、EDXの信頼性が十分でないため、解析から除外した。
(HAZ靭性の評価)
HAZ靭性の評価のうち最小値については実施例1と同一の方法で評価したが、平均値は実施例1と同一の条件で作製された試験片から、シャルピー衝撃試験片(JIS Z 2202のVノッチ試験片)を3本ずつ採取し、−20℃でシャルピー衝撃試験を行い、吸収エネルギーvE−20を測定することで評価した。採取した各3本ずつのシャルピー衝撃試験測定結果より、吸収エネルギーの平均値vE−20(ave)を求め、吸収エネルギーvE−20(ave)が80Jを超えるものを、HAZ靭性に優れると評価した。
No.1A、No.6A、No.26A、No.26Bは、化学成分組成、酸化物の分散、更にはTi含有窒化物の分散が適切になされた請求項3記載の発明例であり、引張り強度並びにHAZ靭性の最小値が優れている上に、HAZ靭性の平均値が80Jを超えており、大入熱後のHAZ靭性並びに強度が更に優れていることが分かる。
これに対し、No.1、No.1B、No.6、No.6B、およびNo.26は、大入熱後のHAZの強度および靭性に優れた厚鋼板であるものの、Ti含有窒化物の分散が請求項3記載の要件を満足しないため、HAZ靭性の平均値は80J以下となった。

Claims (6)

  1. 質量%で、C:0.03〜0.12%、Si:0.02〜0.50%、Mn:1.4〜3.0%、P:0.03%以下(0%を含まない)、S:0.015%以下(0%を含まない)、Al:0.07%以下(0%を含む)、Cr:0.5〜2.0%、Ti:0.010〜0.080%、REM:0.0003〜0.02%、Zr:0.0003〜0.02%、Ca:0.0005〜0.010%、N:0.002〜0.020%を含有し、残部が鉄および不可避的不純物である厚鋼板であって、
    D=62×[Mn]+27×[Ni]+111×[Cr]という式から求められるD値が、238<D<388を満足すると共に、
    酸素を除く構成元素が、質量%で、10%<Ti、Al<20%、5%<Ca<40%、5%<REM<50%、5%<Zr<40%である酸化物を含有し、且つ、前記酸化物のうち、円相当径が2μm未満の酸化物が300個/mm以上、円相当径が2μm以上5μm未満の酸化物が30〜70個/mm、円相当径が5μm以上の酸化物が30個/mm未満存在することを特徴とする溶接熱影響部の靭性に優れた厚鋼板。
    但し、上式で[ ]は各元素の含有量(質量%)を示す。
  2. 酸素を除く構成元素が、質量%で、10%<Ti、Al<20%、8%<Ca<40%、5%<REM<50%、5%<Zr<40%であって、且つ、10%<REM+Zr<70%を満足し、更には、TiとCaの質量比が1超1.4未満である酸化物のうち、円相当径が2μm未満の酸化物が300個/mm以上存在することを特徴とする請求項1記載の溶接熱影響部の靭性に優れた厚鋼板。
  3. 更に、円相当径が0.05μm未満のTi含有窒化物を5.0×10個/mm以上含有することを特徴とする請求項1または2に記載の溶接熱影響部の靭性に優れた厚鋼板。
  4. 更に、質量%で、Ni:0.05〜2.0%、Cu:0.05〜2.0%、Mo:0.05〜2.0%よりなる群から選ばれる1種以上を含有することを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の溶接熱影響部の靭性に優れた厚鋼板。
  5. 更に、質量%で、Nb:0.002〜0.10%および/またはV:0.002〜0.10%を含有することを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の溶接熱影響部の靭性に優れた厚鋼板。
  6. 更に、質量%で、B:0.0003〜0.005%を含有することを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の溶接熱影響部の靭性に優れた厚鋼板。
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