JP4379620B2 - 溶接熱影響部の靱性に優れた溶接構造用鋼材およびその製造方法 - Google Patents
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ただし、(1)式の元素記号はその元素の含有量(質量%)を示す。
(1)化学組成
C:0.01〜0.2%
Cは、母材および溶接部の強度と靭性を確保するため0.01%以上含有させる。しかし、Cが多すぎると母材およびHAZの靭性を低下させるとともに溶接性を劣化させるため、その上限を0.2%とする。
Siは、予備脱酸のために鋼に添加され、また母材の強度確保に有効である。これらの効果を得るために、その含有量を0.03%以上とする。しかし、Siが多すぎると溶接性およびHAZ靭性が劣化するため、上限を0.5%とする。より良好なHAZ靭性を得るためにはSiを0.3%以下にするのが一層望ましい。
Mnは、母材およびHAZ部の強度と靭性の確保に不可欠であり、その含有量の下限を0.5%とする。しかし、Mnが多すぎるとHAZ靭性の劣化や、スラブの中心偏析助長による溶接性劣化などが起こるため、上限を2.0%とする。
Pは、本発明の鋼材においては不純物であり、0.02%以下とする。Pの低減は、スラブ中心偏析の軽減を通じて母材およびHAZの靱性等の機械的性質を改善し、さらにはHAZの粒界破壊を抑制する。
Sは、鋼中に不純物として存在し、多すぎると中心偏析を助長したり、延伸したMnSが多量に生成したりするため、母材およびHAZの靭性等の機械的性質が劣化する。また、後述するCaとの親和力が大きく、CaSを生成するため、適正な複合酸化物の生成を阻害する。従って、Sは0.01%以下とする。より好ましいのは0.001%未満、最も好ましいのは0.0004%未満である。
Alは、本発明鋼材において脱酸剤として重要な元素の一つである。この作用を確保するために、Alは0.005%を超える量で含有させる。Alを溶鋼に添加した場合、脱酸材として作用しAl2O3を生成する。Al2O3は溶鋼中にてクラスターを形成し、圧延を施した場合にはこれらのクラスターが分離し、点列状につらなって鋼材中に存在することとなる。この場合、点状につらなったAlはシャルピー試験時の亀裂の発生起点となり、母材の靭性を劣化させる。また、Al2O3は安定な酸化物であるため溶接によっても変化せず、最終的にHAZに残留するため、HAZ靭性をも劣化させる。
Tiは、鋼中でTiNとして析出し、HAZ部でのオーステナイトの粗大化を抑制し、かつフェライト変態の核となって靭性を向上させる。この効果を得るには、0.0005%以上含有させる必要がある。一方、含有量が過多になると、固溶Tiが増加し、HAZ靭性が低下する。そのため、0.02%以下とする。
Caは、本発明鋼材において最も重要な元素であり、介在物の球状化を達成するためにはAlおよびO(酸素)とともに厳密に制御する必要がある。Caは、脱酸剤として作用するとともに、鋼中にCaO・Al2O3系介在物を形成するためにも必要な元素である。したがって、0.0003%以上含有させる。しかし、Caを大量に添加すると鋼の清浄性を低下させ、母材およびHAZの靭性を劣化させる。このため、その含有量は0.02%以下とする。
Nは、TiNの析出に極めて重要な元素であり、0.001%未満ではTiNの析出量が不足し、溶接後の冷却時に有害なTi炭化物が生成するため、0.001%を下限とした。より好ましいのは0.004%を超える含有量、最も好ましいのは0.006%を超える含有量である。一方、固溶Nの増大はHAZ靭性の劣化を招くので、0.009%を上限とした。
Oは、Caとならんで本発明鋼材において最も重要な元素であり、介在物の球状化のみならず、分散個数や介在物粒径とも直接的に関わるため、その含有量は厳密に制御されなければならない。本発明の鋼材においては、0.0025%を超える過剰なOは、粗大な酸化物を形成するとともに、介在物個数を必要以上に増加させ、母材の清浄性を劣化させるため靭性に悪影響を及ぼす。よって、Oの許容上限を0.0025%とした。一方、本発明の鋼材においては、Oは少ないほど好ましいので、下限値を設ける必要はないが、Oの低減には工業的に限界があり、通常は少なくとも0.0010%は含まれる。
溶鋼中で生成されるCaO・Al2O3系介在物において、CaOとAl2O3がほぼ1:1で共存した場合、CaO・Al2O3系介在物の融点は溶鋼温度以下に低下し液化する。この時、CaO・Al2O3系介在物には表面張力が作用し球状となる。この作用を利用してCaO・Al2O3系介在物を球状化させるには、Ca/Oを0.50〜1.30とする必要がある。
Bは、焼入性を高めて母材やHAZの機械的性質を向上させる。この効果を得るには、0.0003%以上含有することが好ましい。しかし、Bの含有量が0.002%を超えるとHAZ靭性や溶接性が劣化する。よって上限を0.002%とする。
Nbは、母材組織の微細化に有効な元素であり、母材の機械的性質を向上させる。この効果を得るには、0.0040%以上含有することが好ましい。しかし、0.05%を超えると母材およびHAZの靭性が劣化する。よって上限を0.05%とする。
Vは、主に焼戻し時の炭窒化物析出により母材の強度を向上させる。その含有量が0.005%未満では上記の効果が得られない。一方、0.1%を超えると母材の性能向上効果が飽和し、靱性劣化を招く。
Cuを含有させると、母材およびHAZの靭性を劣化させずに強度を上昇させることができる。これらの効果を確実に得るには、Cuは0.1%以上の含有量とすることが好ましい。しかし1.5%を超えると、鋼の焼入性を過度に高め、HAZ靱性を損なう傾向が強くなる。したがって、1.5%を超えて含有させるべきではない。
Niは、適正量を添加することによって、溶接性およびHAZ靱性に悪影響を及ぼすこともなく、母材の強度および靱性を向上させる。含有量を0.1%以上とすると焼入性向上効果も得られるので、0.1%以上とすることが望ましい。特に、Cuを添加する場合は圧延時のひび割れ(Cuチェッキング)を防止するために、0.1%以上のNiを含有させる必要がある。Ni含有量が6%を超えると構造用鋼材として極めて高価になって経済性を失うので、添加する場合、Ni含有量は6%以下に限定する。
Crは、適正量を添加することによって、焼入性を高めるのに有用である。Crのこのような効果を積極的に利用しようとする場合、0.05%以上の含有量とするのがよい。一方、1%を超えて含有させると、他の成分の含有量の条件を満足させても、HAZ靭性が劣化する。
Moは、母材の強度と靱性を向上させる効果がある。しかし、含有量が0.05%未満ではこの効果が小さいので、0.05%以上含有させるのが望ましい。一方、0.8%を超えると、特にHAZの硬度が高まり靱性が損なわれる。
(2)介在物の分布形態
(2)−1.CaO・Al2O3系介在物
本発明に係る溶接熱影響部の靭性に優れた溶接構造用鋼材では、その組織に粒径が0.5〜5μmのCaO・Al2O3系介在物が分散していることが必要である。なお、介在物が非円形であるときは、その長径を介在物の粒径とする。
粒径0.5μm以上でアスペクト比が5以上のAl2O3またはCaOは、5×10個/mm2以下であることが望ましい。
本発明の製造方法は、その製鋼段階に特徴を有する。すなわち、溶鋼中のAlが0.005%を超えて0.08%となるようにAlを添加して脱酸した後、Tiを添加し、さらに脱ガス装置、例えばRH装置で15分以上処理した後、溶鋼温度を1600±70℃に保った状態でCaを添加する。この溶鋼温度は、1600℃±50℃であるのがより望ましく、1600±20℃であることがさらに望ましい。なお、このCa添加の前にあらかじめ溶鋼の成分調整を行っておくのが望ましい。
Claims (6)
- 質量%で、C:0.01〜0.2%、Si:0.03〜0.5%、Mn:0.5〜2.0%、P:0.02%以下、S:0.01%以下、Al:0.005%を超えて0.08%まで、Ti:0.0005〜0.02%、Ca:0.0003〜0.02%、N:0.001〜0.009%およびO(酸素):0.0025%以下を含有し、残部はFe及び不純物からなり、下記の(1)式を満足するとともに、粒径0.5〜5μmのCaO・Al2O3系介在物が分散していることを特徴とする溶接熱影響部の靭性に優れた溶接構造用鋼材。
0.50≦Ca/O≦1.30 ・・・・・(1)
ただし、(1)式の元素記号はその元素の含有量(質量%)を示す。 - 粒径0.5〜5μmのCaO・Al2O3系介在物のアスペクト比が1〜1.9であることを特徴とする請求項1に記載の溶接熱影響部の靭性に優れた溶接構造用鋼材。ただし、アスペクト比とは、鋼材の圧延方向に平行な断面で観察される介在物の長径を短径で除した値である。
- 粒径が0.5μmを超え、かつアスペクト比が5を超えるAl2O3が5×10個/mm2以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の溶接熱影響部靭性に優れた溶接構造用鋼材。
- 粒径が0.5μmを超え、かつアスペクト比が5を超えるCaOが5×10個/mm2以下であることを特徴とする請求項1から3までのいずれかに記載の溶接熱影響部靭性に優れた溶接構造用鋼材。
- Feの一部に代えて、質量%で、B:0.002%以下、Nb:0.05%以下、V:0.1%以下、Cu:1.5%以下、Ni:6%以下、Cr:1%以下およびMo:0.8%以下のなかから選んだ1種以上を含有することを特徴とする請求項1から4までのいずれかに記載の溶接熱影響部靭性に優れた溶接構造用鋼材。
- 溶鋼中のAlが0.005%を超えて0.08%までの範囲となるようにAlを添加して脱酸した後、Tiを添加し、さらに脱ガス装置で15分以上処理した後、溶鋼温度を1600±70℃に保った状態でCaを添加し、鋳造し、圧延することを特徴とする請求項1から5までのいずれかに記載の溶接熱影響部靭性に優れた溶接構造用鋼材の製造方法。
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