JP6459556B2 - 建築用低降伏比鋼板およびその製造方法 - Google Patents

建築用低降伏比鋼板およびその製造方法 Download PDF

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本発明は、建築用低降伏比鋼板およびその製造方法に関する。
建築用鋼板には、弾性設計(許容応力度設計)から、1981年6月に施行された新耐震設計基準に基づく終局耐力設計への移行に伴い、低降伏比化が求められている。鋼板の低降伏比化を達成するため、一般に、鋼の金属組織を二相(Dual phase)化する方法、すなわち、降伏を支配する軟質相(通常、フェライト)と引張強度を確保するための硬質相(パーライト、ベイナイトおよびマルテンサイトなど)とを形成する方法が広く用いられている。例えば、特許文献1に開示されている低降伏比高張力鋼の製造方法では、熱間圧延および焼入れを行った後の鋼を、フェライトおよびオーステナイトの二相域温度に再加熱する。そして、再加熱後の鋼を、空冷以上の冷却速度で冷却した後、焼戻し処理を行う。
一方、近年では、建築構造物の構成部材(例えば、4面BOX柱)を製造する際に、超大入熱溶接が利用されている。このため、溶接熱影響部(以下、HAZともいう。)の靭性向上に対する要求が厳しくなっている。すなわち、上記構成部材として用いられる建築用鋼板においては、鋼板(母材)の低降伏比化だけではなく、HAZの高靭性化も求められている。
特開平3−219012号公報
化学組成の観点からは、C含有量を低くすれば、溶接性の向上とともにHAZの高靭性化が可能になる。しかしながら、その一方でC含有量を高くすることによって、二相組織化が容易になるだけでなく、硬質相をより硬化させることができる。これにより、鋼板の低降伏比化が容易になる。言い換えると、HAZの高靭性化のためにC含有量を低くすると鋼板の低降伏比化が難しくなり、鋼板の低降伏比化のためにC含有量を高くするとHAZの靭性が劣化する。このため、C含有量を調整するだけでは、鋼板の低降伏比化およびHAZの高靭性化の両立は難しい。
本発明は、上述の問題を解決するためになされたものであり、降伏比が低く、かつ溶接熱影響部の高靭性化が可能な建築用低降伏比鋼板およびその製造方法を提供することを目的とする。
本発明者らは、上記課題を解決するために研究を重ねた結果、次の(a)〜(f)の知見を得た。
(a)鋼板(母材)の低降伏比化およびHAZの高靭性化を両立させるためには、C含有量を適切な範囲に制限することが好ましい。具体的には、C含有量を0.08〜0.12%の範囲に制限する。しかし、C含有量を上記の範囲に制限するだけでは、鋼板の低降伏比化およびHAZの高靭性化が十分に達成できない。
(b)HAZの靭性には、鋼中の介在物が大きく影響する。具体的には、鋼中のTiNは、HAZの靭性を向上させる効果を有する。しかし、固溶Tiが増加すると、HAZの靭性が低下する。このため、Nを含有させてTiを固定する必要がある。ただし、NもTiと同様に、固溶Nとして鋼中に存在すると、HAZの靭性低下を招く。
(c)Alは、脱酸剤として作用し、Al23として鋼中に存在する。しかし、Al23は、鋼板(母材)およびHAZの靭性を低下させる。Al23はCaによって無害化できるので、鋼中にCaを含有させることによって鋼板およびHAZの靭性低下を抑制できる。
(d)鋼板の低降伏比化のためには組織制御が重要であり、フェライトを十分に生成させる必要がある。このためには、圧延完了後の冷却時に鋼板に焼きが入り過ぎないようにして、ベイナイトおよびマルテンサイトの生成を抑制することが重要である。具体的には、ベイナイトおよびマルテンサイトの生成を抑制する成分設計をする、すなわち焼入れ促進元素であるCu、NiおよびMoの含有量を制限する必要がある。
(e)製造方法の観点からは、未再結晶域で圧延を行ってフェライト生成核を増加させるとともに、冷却速度を遅くして焼きが入り過ぎないようにすることによって、鋼板の降伏比を低くできる。なお、比較的低温である未再結晶域で圧延を行うことによって、圧延完了後、冷却開始までの間の待ち時間をなくす、または短くできるという効果も得られる。
(f)ただし、降伏比は、フェライトの生成量だけでなく、結晶粒の大きさにも影響される。板厚が大きい場合には結晶粒が大きくなるのでフェライトの生成量が少なくても低降伏比を実現しやすい。一方、板厚が小さい場合には結晶粒が小さくなるので、フェライトの生成量が少なければ低降伏比を実現できない。
本発明は上記知見に基づいてなされたものであり、下記の建築用低降伏比鋼板およびその製造方法を要旨とする。
(1)板厚が16〜100mmの鋼板の化学組成が、質量%で、
C:0.08〜0.12%、
Si:0.03〜0.50%、
Mn:1.00〜2.00%、
P:0.020%以下、
S:0.0100%以下、
Al:0.005%を超えて0.080%以下、
Ti:0.0005〜0.020%、
Cr:0.10〜0.50%、
Nb:0.005〜0.100%、
Ca:0.0003〜0.0200%、
N:0.0010〜0.0090%、
O:0.0025%以下、
Cu:0.05%以下、
Ni:0.10%以下、
Mo:0.05%以下、
V:0〜0.100%、
B:0〜0.0020%、
残部:Feおよび不純物であり、
CaおよびOが下記の(i)式を満足し、
鋼板中に粒径が0.5〜5.0μmのCaO・Al23系介在物が分散し、
前記粒径が0.5〜5.0μmの介在物のアスペクト比の平均値が1.9以下であり、
鋼板の金属組織が、フェライトとフェライトよりも硬い硬質相とからなり、
板厚が16mm以上25mm未満の場合には、金属組織において、結晶粒のアスペクト比が3未満のフェライトの面積率が下記の(ii)式を満足し、
板厚が25mm以上100mm以下の場合には、金属組織において、結晶粒のアスペクト比が3未満のフェライトの面積率が下記の(iii)式を満足し、
引張強度が550MPa以上で、かつ降伏比が80%以下である、建築用低降伏比鋼板。
0.50≦Ca/O≦1.30 ・・・(i)
100≧ASF≧355×exp(−0.085×t) ・・・(ii)
240×exp(−0.035×t)≧ASF≧355×exp(−0.085×t) ・・・(iii)
ただし、(i)式において、CaおよびOはそれぞれの元素の質量%での含有量を示し、(ii)式および(iii)式において、ASFはアスペクト比が3未満のフェライトの面積率(%)を示し、tは板厚(mm)を示す。
(2)前記化学組成が、質量%で、
V:0.050〜0.100%、および
B:0.0003〜0.0020%
から選択された1種以上を含有する、上記(1)の建築用低降伏比鋼板。
(3)引張強度が550MPa以上で降伏比が80%以下の建築用低降伏比鋼板を製造する方法であって、
化学組成が、質量%で、
C:0.08〜0.12%、
Si:0.03〜0.50%、
Mn:1.00〜2.00%、
P:0.020%以下、
S:0.0100%以下、
Al:0.005%を超えて0.080%以下、
Ti:0.0005〜0.020%、
Cr:0.10〜0.50%、
Nb:0.005〜0.100%、
Ca:0.0003〜0.0200%、
N:0.0010〜0.0090%、
O:0.0025%以下、
Cu:0.05%以下、
Ni:0.10%以下、
Mo:0.05%以下、
V:0〜0.100%、
B:0〜0.0020%、
残部:Feおよび不純物であり、
CaおよびOが下記の(i)式を満足し、
粒径が0.5〜5.0μmのCaO・Al23系介在物が分散し、
前記粒径が0.5〜5.0μmの介在物のアスペクト比の平均値が1.9以下であるスラブを1050〜1200℃に加熱する加熱工程、
前記加熱後のスラブを圧延仕上げ温度が750〜830℃となるように圧延して圧延材を得る圧延工程、および
前記圧延材を5〜20℃/sの平均冷却速度で300℃以下まで冷却する冷却工程を備え、
前記圧延工程における圧延完了から前記冷却工程における冷却開始までの時間が30s以下である、建築用低降伏比鋼板の製造方法。
0.50≦Ca/O≦1.30 ・・・(i)
ただし、(i)式において、CaおよびOはそれぞれの元素の質量%での含有量を示す。
(4)前記冷却工程の後に、450℃以下で焼戻しを行う焼戻し工程をさらに備える、上記(3)の建築用低降伏比鋼板の製造方法。
(5)前記スラブの化学組成が、質量%で、
V:0.05〜0.100%、および
B:0.0003〜0.0020%
から選択された1種以上を含有する、上記(3)または(4)の建築用低降伏比鋼板の製造方法。
本発明によれば、降伏比が低く、かつ溶接熱影響部の高靭性化が可能な建築用低降伏比鋼板が得られる。
以下、本発明に係る建築用低降伏比鋼板(以下、単に鋼板ともいう。)およびその製造方法について詳しく説明する。なお、本発明に係る鋼板は、建築用の鋼板であり、引張強度が十分に高く、かつ降伏比が十分に低いものである。また、本発明に係る鋼板は、建築用として適した厚みを有している。具体的には、本発明に係る鋼板は、550MPa以上の引張強度を有し、かつ降伏比が80%以下のものとする。また、本発明に係る鋼板の厚みは、16〜100mmとする。以下の説明において、母材およびHAZとは、本発明に係る鋼板からなる溶接構造物における母材およびHAZを意味する。
1.建築用低降伏比鋼板およびその製造に用いるスラブの化学組成
まず、本発明に係る建築用低降伏比鋼板および本発明に係る製造方法において用いるスラブの化学組成について説明する。以下の説明において、各元素の含有量を示す「%」は「質量%」を意味する。
C:0.08〜0.12%
建築用に用いられる鋼材では、上述のように母材の低降伏比およびHAZの高靭性化が求められる。そこで、本発明では、C含有量を制限する。C含有量が0.08%未満では降伏比が高くなり、C含有量が0.12%を超えるとHAZの靭性が劣化する。したがって、C含有量は0.08〜0.12%とする。C含有量の好ましい下限は0.09%であり、好ましい上限は0.11%である。
Si:0.03〜0.50%
Siは、予備脱酸および強度向上のために含有される。これらの効果を得るためには、Si含有量を0.03%以上とする必要がある。しかし、Si含有量が0.50%を超えると、溶接性およびHAZの靭性が劣化する。したがって、Si含有量は0.03%〜0.50%とする。上述の効果をより確実に得るためには、Si含有量を0.10%以上にすることが好ましい。HAZの靭性を十分に確保するためには、Si含有量を0.30%以下にすることが好ましい。
Mn:1.00〜2.00%
Mnは、母材およびHAZの強度および靭性の確保に不可欠な元素である。上記の効果を得るためには、Mn含有量を1.00%以上とする必要がある。一方、Mn含有量が2.00%を超えると、HAZの靭性が劣化するとともに、スラブの中心偏析を助長して溶接性が劣化する。このため、Mn含有量は1.00〜2.00%とする。Mn含有量の好ましい下限は1.20%であり、好ましい上限は1.70%である。
P:0.020%以下
Pは、鋼中に不純物として存在する。P含有量が0.020%を超えると、スラブの中心偏析を助長して母材およびHAZの靭性等の機械的性質を劣化させ、さらにHAZの粒界破壊を招くおそれがある。したがって、P含有量は0.020%以下とする。
S:0.0100%以下
Sは、鋼中に不純物として存在する。S含有量が0.0100%を超えると、スラブの中心偏析を助長したり、延伸したMnSを多量に生成したりする。これにより、母材およびHAZの靭性等の機械的性質が劣化する。また、後述するCaとの親和力が大きく、CaSを生成するため、適正な複合酸化物の生成を阻害する。したがって、S含有量は0.0100%以下とする。S含有量は、0.0050%未満であることが好ましく、0.0010%未満であることがより好ましい。
Al:0.005%を超えて0.080%以下
Alは、脱酸剤として作用する重要な元素の一つである。Al含有量が0.005%以下では、脱酸作用が不十分となり、Tiの酸化物が生成される。この場合、後述するTiNを十分に生成できず、HAZの靭性を十分に向上できない。一方、Al含有量が0.080%を超えると、鋼中に固溶するAlが増加する。この場合、溶接後の冷却過程において、残留オーステナイトからのセメンタイトの析出が抑制され、島状マルテンサイトが増加する。これにより、母材およびHAZの靭性が低下する。したがって、Al含有量は、0.005%を超えて0.080%以下とする。Alは、0.020%を超えて含有させることが好ましい。Al含有量の好ましい上限は、0.060%である。
なお、Alを溶鋼に含有させた場合、脱酸材として作用してAl23を生成する。Al23は溶鋼中においてクラスターを形成する。上記クラスターは圧延時に分離し、分離したクラスターが鋼板中において点列状に連なって存在する場合がある。この場合、点列状に連なって存在する上記クラスターが亀裂の発生起点となり、母材の靭性が劣化する。また、Al23は安定な酸化物であるため溶接によっても変化せず、最終的にHAZに残留する。このため、HAZの靭性も劣化する。この点について、本発明では、後述するようにCaを含有させるので、鋼中にCaO・Al23系介在物が生成される。これにより、上述のクラスターが亀裂の発生起点となることを防止できる。したがって、本発明では、Alを0.005%を超えて含有させることができる。
Ti:0.0005〜0.020%
Tiは、鋼中でTiNとして析出し、HAZにおけるオーステナイト粒の粗大化を抑制し、かつフェライト変態の核となって靭性を向上させる。この効果を得るには、Tiを0.0005%以上含有させる必要がある。一方、Ti含有量が0.020%を超えると、固溶Tiが増加し、HAZの靭性が低下する。そのため、Ti含有量は0.0005〜0.020%とする。Ti含有量の好ましい下限は0.0010%であり、好ましい上限は0.015%である。
Cr:0.10〜0.50%
Crは、鋼板の焼入性を高める効果を有する。この効果を得るには、Crを0.10%以上含有させる必要がある。一方、Cr含有量が0.50%を超えると、HAZの靭性が劣化する。したがって、Cr含有量は0.10〜0.50%とする。Cr含有量の好ましい下限は0.15%であり、好ましい上限は0.40%である。
Nb:0.005〜0.100%
Nbは、母材の組織を微細化することによって、母材の機械的性質を向上させる効果を有する。この効果を得るには、Nbを0.005%以上含有させる必要がある。一方、Nb含有量が0.100%を超えると、母材およびHAZの靭性が劣化する。したがって、Nb含有量は0.005〜0.100%とする。Nb含有量の好ましい下限は0.010%であり、好ましい上限は0.080%である。
Ca:0.0003〜0.0200%
Caは、本発明の鋼板において最も重要な元素の一つである。Caは、脱酸剤として作用するとともに、鋼中にCaO・Al23系介在物を形成するために必要な元素である。本発明では、AlおよびO(酸素)とともにCaの含有量を厳密に制御することによって、介在物の球状化を促進させることができる。これにより、上記介在物およびその周辺の組織への応力集中を緩和でき、母材およびHAZの靭性を向上させることができる。これらの効果を得るには、Caを0.0003%以上含有させる必要がある。一方、Ca含有量が0.0200%を超えると、鋼の清浄性が低下し、母材およびHAZの靭性が劣化する。したがって、Ca含有量は0.0003〜0.0200%とする。Ca含有量の好ましい下限は0.0010%であり、好ましい上限は0.0150%である。
N:0.0010〜0.0090%
Nは、本発明において極めて重要な元素である。Nは、TiNを析出させて、溶接後の冷却時に粒内フェライト生成を促進し、HAZ靭性を向上させる効果を有する。この効果を得るには、Nを0.0010%以上含有させる必要がある。一方、N含有量が0.0090%を超えると、固溶Nが増大し、HAZの靭性が劣化する。したがって、N含有量は0.0010〜0.0090%とする。Nは、0.0040%を超えて含有させることが好ましく、0.0060%を超えて含有させることがより好ましい。N含有量の好ましい上限は0.0080%である。
O(酸素):0.0025%以下
Oは、Caと同様に本発明において最も重要な元素の一つである。Oは、介在物の球状化のみならず、介在物の個数(分散状態)および粒径にも影響する。O含有量が、0.0025%を超えると、粗大な酸化物が形成されるとともに、介在物の個数が必要以上に増加して母材の清浄性が劣化する。これにより、母材の靭性が劣化する。したがって、O含有量は、0.0025%以下とする。なお、一般に、Oは少ないほど好ましいので、下限値を設ける必要はないが、Oの低減には工業的に限界がある。したがって、コスト低減の観点から、O含有量を0.0010%以上とすることが好ましい。
上述の元素のうちCaおよびOの含有量は、さらに下記のように制限する。
Ca/O:0.50〜1.30
溶鋼中で生成されるCaO・Al23系介在物において、CaOとAl23とがほぼ1:1で共存した場合、CaO・Al23系介在物の融点は溶鋼温度以下となる。これにより、CaO・Al23系介在物が液化する。この時、CaO・Al23系介在物には、表面張力が作用する。これによって、CaO・Al23系介在物が球状になる。すなわち、上記介在物のアスペクト比(長径/短径)を1に近づけることができる。しかし、「Ca/O」の値が0.50未満であると、Al23がCaOよりも多くなり過ぎる。また、「Ca/O」の値が1.30を超えると、CaOがAl23よりも多くなり過ぎる。これらの場合、CaO・Al23系介在物の融点が溶鋼温度を超え、CaO・Al23系介在物の球状化が困難になる。したがって、上述の表面張力の作用を利用してCaO・Al23系介在物を球状化させるには、「Ca/O」の値を0.50〜1.30とする必要がある。球状化の促進の観点から、「Ca/O」の値の好ましい下限は0.63であり、好ましい上限は1.13である。
Cu:0.05%以下
Cuは、鋼中に不純物として存在する。一方で、Cuは、焼入性の向上に寄与する効果を有する。Cu含有量が0.05%を超えると、鋼板の焼入性が過度に高くなり、HAZの靭性が劣化する。したがって、不純物として含有する場合でも、Cu含有量の上限は0.05%に制限する。
Ni:0.10%以下
Niは、鋼中に不純物として存在する。一方で、Niは、焼入性の向上に寄与する効果を有する。Ni含有量が0.10%を超えると、鋼の焼入性が過度に高くなり、HAZの靭性が劣化する。したがって、不純物として含有する場合でも、Ni含有量の上限は0.10%に制限する。
Mo:0.05%以下
Moは、鋼中に不純物として存在する。一方で、Moは、焼入性の向上に寄与する効果を有する。Mo含有量が0.05%を超えると、鋼の焼入性が過度に高くなり、HAZの靭性が劣化する。したがって、不純物として含有する場合でも、Mo含有量の上限は0.05%に制限する。
本発明に係る鋼板には、上記の元素のほか、必要に応じて、下記に示すVおよびBのうちから選んだ1種以上を含有させることができる。
V:0〜0.100%
Vは、主に焼戻し時に炭窒化物を析出させることによって母材の強度を向上させる。しかし、V含有量が0.100%を超えると、母材の靭性が劣化する。したがって、含有させる場合のV含有量は0.100%以下とする。上記の効果を確実に得るには、Vを0.050%以上含有させることが好ましい。
B:0〜0.0020%
Bは、焼入性を高めて母材およびHAZの機械的性質を向上させる。しかし、B含有量が0.0020%を超えると、母材およびHAZの靭性が劣化する。したがって、含有させる場合のB含有量は0.0020%以下とする。上記の効果を確実に得るには、Bを0.0003%以上含有させることが好ましい。
本発明に係る鋼板および本発明に係る製造方法において用いるスラブは、上記の元素を含有し、残部はFeおよび不純物からなる。「不純物」とは、鋼を工業的に製造する際に、鉱石、スクラップ等の原料その他の要因により混入する成分を意味する。
2.CaO・Al23系介在物の分散状態(単位面積当たりの個数)
本発明に係る鋼板においては、粒径が0.5〜5.0μmのCaO・Al23系介在物が分散して存在している必要がある。そのため、同様に、上記鋼板の製造に用いられるスラブ中においても、粒径が0.5〜5.0μmのCaO・Al23系介在物が分散して存在していることが好ましい。なお、介在物が非円形であるときは、その長径を介在物の粒径とする。
スラブは、後述するように、加熱工程、圧延工程、および冷却工程(焼入工程)を経て鋼板となるが、これらの工程を経ても、CaO・Al23系介在物の分散状態に影響はない。このため、スラブと当該スラブから製造された鋼板との間で、介在物が靭性に及ぼす影響にはなんら変化はない。
本発明では、上述のように「Ca/O」の値を調整することによって、CaO・Al23系介在物を球状のものとする。ここで、粒径が0.5μm未満のCaO・Al23系介在物は、破壊起点となる確率が低く、HAZの靭性に大きな影響を与えない。したがって、本発明では、粒径が0.5μm未満の上記介在物に関しては、その個数および形状について問題としない。
一方、粒径が0.5〜5.0μmのCaO・Al23系介在物が多量に存在すると、鋼板の清浄性が劣化し、靭性が劣化する。また、粒径が0.5〜5.0μmのCaO・Al23系介在物が少な過ぎると、鋼中のOが、当該介在物以外に、Siおよび/またはTiと酸化物を形成する。これにより、CaO・Al23系介在物の球状化が困難となる。上述したように、工業的には鋼中のOを完全に取り除くことは困難であり、鋼中には、例えば0.0010%程度のOが含まれる。このため、鋼中にCaO・Al23系介在物を適度に生成させ、Siおよび/またはTiの酸化物を生成させないことが重要である。そこで、本発明では、上述のように、スラブおよび鋼板中に、粒径が0.5〜5.0μmのCaO・Al23系介在物を分散して存在させる。スラブおよび鋼板中に存在する粒径が0.5〜5.0μmのCaO・Al23系介在物の分散状態は、1×10〜1×104個/mm2であることが好ましい。
粒径が5.0μmを超えるCaO・Al23系介在物が多数分散している場合は、介在物の球状化が達成されていたとしても、当該介在物が破壊起点となる場合がある。この場合、特にHAZにおける靭性のバラツキが大きくなる。このため、スラブおよび鋼板中に存在するCaO・Al23系介在物のうち、粒径が5.0μmを超える介在物の分散状態は、1×10個/mm2未満であることが好ましい。なお、粒径が5.0μmを超えるCaO・Al23系介在物であっても、粒径が10μm以下であり、分散状態が1×10個/mm2未満であれば、靭性のバラツキに大きく影響しない。したがって、粒径が5.0μmを超えて10μm以下のCaO・Al23系介在物の分散状態が1×10個/mm2未満であることがより好ましい。また、スラブおよび鋼板中に存在するCaO・Al23系介在物の粒径は、10μm以下であることがより好ましい。
CaO・Al23系介在物の分散状態は、以下の方法で定量的に測定することができる。すなわち、鋼材(スラブおよび鋼板)の圧延方向に対し平行な断面から(好ましくはその断面の中心部から)、観察用試料を作製する。この観察用試料を走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて800〜2000倍の倍率で少なくとも10mm2以上の面積を観察し、CaO・Al23系介在物の数を数え、単位面積当たりの個数に換算すればよい。
3.CaO・Al23系介在物の形状
本発明においては、スラブおよび鋼板中に存在する粒径が0.5〜5.0μmのCaO・Al23系介在物のアスペクト比(長径/短径)の平均値を1.9以下にする。介在物が球状化し、アスペクト比が1.9以下の場合、鋼板に衝撃が加わった際に、介在物およびその周辺組織への応力集中を緩和できる。これにより、靭性が向上するとともに、靭性のバラツキが小さくなる。一方、アスペクト比が1.9を超えるCaO・Al23系介在物は、鋼板に衝撃が加わった際に、応力集中源となりやすい。この場合、当該介在物から亀裂が発生し、靭性が著しく低下するとともに、靭性のバラツキが大きくなる。なお、介在物の粒径およびアスペクト比は、上述の観察用試料を走査型電子顕微鏡を用いて観察することによって求めることができる。
上述したように、「Ca/O」の値が0.50〜1.30であれば、CaO・Al23系介在物は、溶鋼中で球状化する。このような介在物は、圧延によって破砕および延伸されることがないため、そのアスペクト比は1に近い値となる。しかし、「Ca/O」の値が0.50未満の場合、または1.30を超える場合、CaO・Al23系介在物は溶鋼中で完全に球状化しない。そして、CaO・Al23系介在物の一部が圧延中に破砕されて点列状に連なった形状となり、鋼板に衝撃が加わった際に応力集中源となる。これにより、靭性が低下する。なお、点列状に連なった介在物は、一つの延伸した介在物と見なしてアスペクト比を測定する。
4.鋼板の金属組織
本発明に係る鋼板の金属組織は、フェライトからなる軟質相とフェライトよりも硬質の組織からなる硬質相とによって構成される複相組織である。本発明の鋼板では、軟質なフェライトによって降伏応力を低くできる。また、硬質相によって、鋼板の引張強度を高くできる。これらの結果、鋼板の低降伏比化を実現できる。
ここで、鋼板の厚さが小さい場合には、金属組織が細粒化しやすく、降伏応力を低くすることが難しい。このため、金属組織において軟質なフェライトの面積率を高くする必要がある。ただし、加工されて伸長したフェライトは硬化する。具体的には、フェライト組織の結晶粒のアスペクト比が3以上になると、鋼板の降伏強度が高くなる。それにより、鋼板の低降伏比化が難しくなる。したがって、硬化していない軟質なフェライト、具体的には、結晶粒のアスペクト比が3未満のフェライト(以下、特定フェライトという。)を確保することが重要である。一方、鋼板の厚さが大きい場合には、引張強度を高くするために、一定量の硬質相を確保することが重要となる。
以上のことを考慮して、本発明では、金属組織中における特定フェライトの面積率を、鋼板の厚さに応じて下記の(A)および(B)に示すように規定する。なお、本発明において硬質相とは、フェライト以外の組織のことを意味する。硬質相は、パーライト、ベイナイト、およびマルテンサイトのうちの少なくとも一つの組織を含む。下記のように特定フェライトの面積率を規定することによって、鋼板の引張強度を550MPa以上にでき、かつ降伏比を80%以下にできる。なお、特定フェライトの面積率は、上述の観察用試料を走査型電子顕微鏡を用いて観察することによって求めることができる。下記の(A)および(B)に示した規定は、鋼板の厚さおよびフェライトの面積率が異なる種々の試験片を用いた実験により求めたものである。
(A)鋼板の厚さt(mm)が16mm以上25mm未満の場合
100≧金属組織における特定フェライトの面積率(%)≧355×exp(−0.085×t)
(B)鋼板の厚さt(mm)が25mm以上100mm以下の場合
240×exp(−0.035×t)≧金属組織における特定フェライトの面積率(%)≧355×exp(−0.085×t)
5.製造方法
本発明に係る鋼板は、例えば、以下の方法により製造することができるが、この方法には限定されない。
(5−1)スラブの製造
本発明に係る鋼板の製造に用いるスラブは、以下のようにして製造できる。まず、溶鋼中のAl含有量が0.005%を超えて0.08%以下となるようにAlを含有させて脱酸した後、Tiを含有させる。さらに、脱ガス装置(例えばRH装置)で15分以上の脱ガス処理をした後、溶鋼温度を1600±70℃に保った状態でCaを含有させる。Caを含有させるときの溶鋼温度は、1600℃±50℃であることがより望ましく、1600±20℃であることがさらに望ましい。なお、Caを含有させる前に、Ca以外の元素の含有量が上述した化学組成の範囲内になるように、あらかじめ溶鋼の成分調整を行っておくことが望ましい。
最初に含有させるAlは、脱酸力が強いため、溶鋼中の固溶酸素と結合し、Al23を生成する。Alの次に含有させるTiはAlよりも脱酸力が低い。このため、Tiは酸化物を生成せず、TiNを生成する。これにより、HAZの靭性が改善される。
RH法等によって15分以上の脱ガス処理をすることにより、粗大なAl23介在物を浮上分離させることができる。その後、溶鋼中にCaを含有させることによって、Al23介在物の一部が還元され、CaO・Al23系介在物が形成される。このとき、溶鋼の温度を1600±70℃に制御することによりCaO・Al23系介在物の液化が促進される。これにより、表面張力が作用し、上記介在物が球状化する。なお、上記介在物の球状化には、Ca、AlおよびOの含有量を前述の含有量となるように制御することが必要である。
上記のように溶製した鋼を鋳造することによって、スラブを得ることができる。このスラブ中に存在するCaO・Al23系介在物は、上述した分散状態で分散しかつ上述した形状を有する。
(5−2)鋼板の製造
上記のようにして得たスラブを、1050〜1200℃に加熱する(加熱工程)。加熱したスラブを、圧延仕上げ温度が750〜830℃となるように圧延し、所定の厚さの圧延材を得る(圧延工程)。その後、圧延材を5〜20℃/sの平均冷却速度で300℃以下まで冷却する(冷却工程)。これにより、本発明に係る鋼板が得られる。なお、圧延完了から冷却開始までの時間は、30s以下とする。
上記のようにスラブを1050℃以上に加熱することによって、鋼中のNbが固溶し、鋼板の強度および靭性を十分に確保することができる。一方、スラブの加熱温度が1200℃を超えると燃料コストが嵩むだけでなく、鋼表面に発生するスケールの量も多くなり歩留まりが低下し、生産効率が低下する。したがって、本発明に係る鋼板の製造方法では、スラブの加熱温度を1050〜1200℃とする。なお、スラブの加熱温度が低いほどスラブの変形抵抗は大きくなるが、仕上げ圧延を750〜830℃で行い、かつ圧延完了から冷却開始までの待ち時間を短くするという観点からは、スラブの加熱温度を1050〜1100℃にすることが好ましい。
圧延工程において、圧延開始温度、圧下量、および累積圧下率は特に制限されない。しかし、圧延仕上げ温度を750℃未満とすると、鋼の変形抵抗が大きくなり過ぎる。一方、圧延仕上げ温度が830℃を超えると、低降伏比鋼板として、上述したような適切な金属組織を得ることができない。したがって、圧延仕上げ温度は、750〜830℃とする。これにより、オーステナイト粒が微細化し、フェライト生成核が増加する。その結果、フェライトの生成を促進することができる。この場合、仕上げ圧延後にすぐに冷却を行っても(すなわち、仕上げ圧延後に一定時間放置しなくても)、フェライト(軟質相)および硬質相からなる上述の複相組織を得ることができる。より確実に母材の降伏比を低くするためには、仕上げ圧延のパスを含む最後の2パスを、750〜830℃で圧延することが好ましい。圧延仕上げ温度の好ましい下限は770℃であり、好ましい上限は820℃である。
仕上げ圧延の完了から冷却開始までの時間が30sを超えると、フェライトが再結晶して粗粒となり、鋼板の靭性が劣化する。このため、本発明に係る製造方法では、仕上げ圧延の完了から冷却開始までの時間を30s以下とする。生産効率を考えれば、冷却開始までの時間は短いことが好ましい。そのため、仕上げ圧延の完了から冷却開始までの時間は、20s以下が好ましく、10s以下がより好ましい。なお、仕上げ圧延後は放冷により自然に鋼板の温度は低下するが、30s放冷した場合でも、鋼板の温度低下は高々70℃程度である。よって、実際の鋼板の製造では、冷却開始温度は、例えば680〜825℃程度となる。
冷却工程において、平均冷却速度が5℃/s未満である場合には、硬質相が十分に得られない。一方、平均冷却速度が20℃/sを超える場合には、金属組織において硬質相の面積率が高くなり過ぎる。したがって、本発明に係る製造方法では、冷却工程における平均冷却速度を5〜20℃/sとする。平均冷却速度の好ましい下限は7℃/sであり、好ましい上限は18℃/sである。
冷却工程において、冷却停止温度が300℃を超えると、硬質相が十分に得られない。したがって、本発明に係る製造方法では、冷却工程において、鋼板(圧延材)を300℃以下まで冷却する。なお、冷却工程では、例えば、水などの冷却媒体を用いて鋼板の全体を均一に冷却する。
以上の工程を経てスラブから鋼板を製造することによって、鋼板の金属組織を、フェライトからなる軟質相とフェライトよりも硬質の組織からなる硬質相とによって構成される複相組織にすることができる。なお、上述の冷却工程の後に、焼戻しを行ってもよい(焼戻し工程)。焼戻しを行うことによって、鋼板の強度および靭性のバランスを調整でき、板厚方向の機械的性質を均一にすることができる。なお、焼戻しの温度が450℃を超える場合には、硬質相が軟化する。したがって、焼戻しは、450℃以下で行うことが好ましい。焼戻し温度の下限については特に制限はないが、焼戻しの効果を十分に得るためには、350℃以上で焼戻しをすることが好ましい。
以下、実施例によって本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
下記の表1に示す化学組成を有する鋼種A〜Nおよびa〜nを溶製し、これらの鋼種A〜Nおよびa〜nから下記の表2に示すスラブ1〜35を製造した。表2に、スラブ1〜35の製造工程におけるCa添加時の溶鋼温度とともに、CaO・Al23系介在物の粒径、個数およびアスペクト比を示す。
Figure 0006459556
Figure 0006459556
次に、スラブ1〜35から、下記の表3に示す製造条件で、板厚が16〜100mmの鋼板1〜35を製造した。表4に鋼板1〜35のCaO・Al23系介在物の粒径、個数およびアスペクト比を示すとともに、金属組織における特定フェライト(結晶粒のアスペクト比が3未満のフェライト)および硬質相の面積率を示す。また、各鋼板1〜35から、引張試験用の試験片およびHAZの靭性を評価するための試験片を採取した。具体的には、板厚t(表3参照)が32mm以下の場合は、鋼板の圧延方向に直交する方向に採取した全厚のJIS5号板状試験片を引張試験片として用いた。一方、板厚tが32mmを超える場合は、鋼板の圧延方向に直交する方向にかつ鋼板の1/4厚から採取したJIS4号の丸棒試験片を引張試験片として用いた。靭性評価用の試験片は、各鋼板1〜35の一部を表3に示す入熱量で溶接した後、フュージョンラインから採取した。採取した試験片を用いて、0℃でシャルピー衝撃試験を行った。なお、靭性は試験によってバラツキが生じやすいので、靭性評価用の試験片は、各鋼板1〜35について3本ずつ採取した。引張試験の結果(降伏応力、引張強度、および降伏比)およびシャルピー衝撃試験の結果(各試験片の吸収エネルギー)を表4に示す。本実施例では、シャルピー衝撃試験において、3本全ての試験片の吸収エネルギーが70J以上であった鋼板を、HAZの靭性を十分に向上できたと判断した。
Figure 0006459556
Figure 0006459556
表4から明らかなように、本発明例の鋼板1〜17では、550MPa以上の引張強度および80%以下の降伏比を実現しつつ、HAZの靭性も十分に向上できた。
一方、比較例の鋼板18では、降伏比が80%を超えていた。この要因としては、圧延仕上げ温度(表3参照)が830℃を超えており、特定フェライト(表4参照)を十分に確保できなかったことが考えられる。
比較例の鋼板19では、降伏比が80%を超えていた。この要因としては、圧延後の平均冷却速度(表3参照)が20℃/sを超えており、硬質相の面積率が高くなって特定フェライト(表4参照)を十分に確保できなかったことが考えられる。
比較例の鋼板20では、引張強度が550MPa未満であった。この要因としては、圧延仕上げ温度が750℃未満であり、特定フェライト(表4参照)の面積率が高くなり過ぎたことが考えられる。
比較例の鋼板21では、引張強度が550MPa未満であった。この要因としては、圧延後の平均冷却速度(表3参照)が5℃/s未満であり、硬質相を十分に確保できず、特定フェライトの面積率が高くなり過ぎたことが考えられる。
比較例の鋼板22では、HAZの高靭性化を実現できなかった。この要因としては、鋼中のC含有量(表1参照)が0.22%であり、本発明の要件(0.08〜0.12%)を満たしていなかったことが考えられる。
比較例の鋼板23では、HAZの高靭性化を実現できなかった。この要因としては、鋼中のSi含有量(表1参照)が0.59%であり、本発明の要件(0.03〜0.50%)を満たしていなかったこと、およびスラブ中に存在する粒径が0.5〜5.0μmのCaO・Al23系介在物のアスペクト比の平均値(表2参照)が2.5であり、本発明の要件(1.9以下)を満たしていなかったことが考えられる。
比較例の鋼板24では、HAZの高靭性化を実現できなかった。この要因としては、鋼中のMn含有量(表1参照)が2.21%であり、本発明の要件(1.00〜2.00%)を満たしていなかったことが考えられる。
比較例の鋼板25では、HAZの高靭性化を実現できなかった。この要因としては、鋼中のTi含有量(表1参照)が0.022%であり、本発明の要件(0.0005〜0.020%)を満たしていなかったことが考えられる。
比較例の鋼板26では、HAZの高靭性化を実現できなかった。この要因としては、鋼中のAl含有量(表1参照)が0.092%であり、本発明の要件(0.005%を超えて0.080%以下)を満たしていなかったことが考えられる。
比較例の鋼板27では、HAZの高靭性化を実現できなかった。この要因としては、鋼中のN含有量(表1参照)が0.0105%であり、本発明の要件(0.0010〜0.0090%)を満たしていなかったことが考えられる。
比較例の鋼板28では、引張強度が550MPa未満であった。この要因としては、平均冷却速度が(表3参照)が4℃/sであり、本発明の製造方法の要件(5〜20℃/s)を満たしておらず特定フェライトの面積率が高くなったことが考えられる。さらに、鋼板28では、HAZの高靭性化を実現できなかった。この要因としては、鋼中のO含有量(表1参照)が0.0040%であり、本発明の要件(0.0025%以下)を満たしておらず、「Ca/O」の値(表1参照)も0.28であり、本発明の要件(0.50〜1.30)を満たしておらず、さらにスラブ中に存在する粒径が0.5〜5.0μmのCaO・Al23系介在物のアスペクト比の平均値(表2参照)が3.2であり、本発明の要件(1.9以下)を満たしていなかったことが考えられる。
比較例の鋼板29では、HAZの高靭性化を実現できなかった。この要因としては、鋼中のCa含有量(表1参照)が0.0205%であり、本発明の要件(0.0003〜0.0200%)を満たしておらず、「Ca/O」の値(表1参照)も15.77であり、本発明の要件(0.50〜1.30)を満たしておらず、さらにスラブ中に存在する粒径が0.5〜5.0μmのCaO・Al23系介在物のアスペクト比の平均値(表2参照)が5.1であり、本発明の要件(1.9以下)を満たしていなかったことが考えられる。
比較例の鋼板30では、HAZの高靭性化を実現できなかった。この要因としては、スラブ中に存在する粒径が0.5〜5.0μmのCaO・Al23系介在物のアスペクト比の平均値(表2参照)が3.4であり、本発明の要件(1.9以下)を満たしていなかったことが考えられる。
比較例の鋼板31では、HAZの高靭性化を実現できなかった。この要因としては、スラブ中に存在する粒径が0.5〜5.0μmのCaO・Al23系介在物のアスペクト比の平均値(表2参照)が2.1であり、本発明の要件(1.9以下)を満たしていなかったことが考えられる。
比較例の鋼板32では、HAZの高靭性化を実現できなかった。この要因としては、鋼中のMn含有量(表1参照)が0.98%であり、本発明の要件(1.00〜2.00%)を満たしていなかったことが考えられる。
比較例の鋼板33では、引張強度が550MPa未満であった。また、HAZの高靭性化を実現できなかった。この要因としては、圧延完了後、冷却開始までの時間(表3参照)が34sであり、本発明の製造方法の要件(30s以下)を満たしていなかったことが考えられる。
比較例の鋼板34では、HAZの高靭性化を実現できなかった。この要因としては、「Ca/O」の値(表1参照)が1.62であり、本発明の要件(0.50〜1.30)を満たしていなかったことが考えられる。
比較例の鋼板35では、引張強度が550MPa未満であった。また、HAZの高靭性化を実現できなかった。この要因としては、圧延後の平均冷却速度(表3参照)が5℃/s未満であり、硬質相を十分に確保できなかったことが考えられる。
以上のように、本発明に係る鋼板によれば、550MPa以上の引張強度および80%以下の降伏比を実現しつつ、HAZの靭性も十分に向上できる。また、本発明に係る鋼板の製造方法によれば、仕上げ圧延後、30s以内に圧延材(鋼板)の冷却が開始される。すなわち、従来の製造方法のように、仕上げ圧延後、冷却を開始するまでに、圧延材を一定時間放置する必要がない。これにより、鋼板を効率よく製造できる。
本発明によれば、引張強度が550MPa以上で、降伏比が80%以下で、かつ溶接熱影響部の高靭性化が可能な鋼板が得られる。このような鋼板は、建築用鋼板として好適に利用でき、建築構造物の安全性を高めることができる。

Claims (5)

  1. 板厚が16〜100mmの鋼板の化学組成が、質量%で、
    C:0.08〜0.12%、
    Si:0.03〜0.50%、
    Mn:1.00〜2.00%、
    P:0.020%以下、
    S:0.0100%以下、
    Al:0.005%を超えて0.080%以下、
    Ti:0.0005〜0.020%、
    Cr:0.10〜0.50%、
    Nb:0.005〜0.100%、
    Ca:0.0003〜0.0200%、
    N:0.0010〜0.0090%、
    O:0.0025%以下、
    Cu:0.05%以下、
    Ni:0.10%以下、
    Mo:0.05%以下、
    V:0〜0.100%、
    B:0〜0.0020%、
    残部:Feおよび不純物であり、
    CaおよびOが下記の(i)式を満足し、
    鋼板中に粒径が0.5〜5.0μmのCaO・Al23系介在物が分散し、
    前記粒径が0.5〜5.0μmの介在物のアスペクト比の平均値が1.9以下であり
    前記粒径が5.0μmを超えるCaO・Al 2 3 系介在物が、1×10個/mm 2 未満の分散状態で存在し、
    鋼板の金属組織が、フェライトとフェライトよりも硬い硬質相とからなり、
    板厚が16mm以上25mm未満の場合には、金属組織において、結晶粒のアスペクト比が3未満のフェライトの面積率が下記の(ii)式を満足し、
    板厚が25mm以上100mm以下の場合には、金属組織において、結晶粒のアスペクト比が3未満のフェライトの面積率が下記の(iii)式を満足し、
    引張強度が550MPa以上で、かつ降伏比が80%以下である、建築用低降伏比鋼板。
    0.50≦Ca/O≦1.30 ・・・(i)
    100≧ASF≧355×exp(−0.085×t) ・・・(ii)
    240×exp(−0.035×t)≧ASF≧355×exp(−0.085×t) ・・・(iii)
    ただし、(i)式において、CaおよびOはそれぞれの元素の質量%での含有量を示し、(ii)式および(iii)式において、ASFはアスペクト比が3未満のフェライトの面積率(%)を示し、tは板厚(mm)を示す。
  2. 前記化学組成が、質量%で、
    V:0.050〜0.100%、および
    B:0.0003〜0.0020%
    から選択された1種以上を含有する、請求項1に記載の建築用低降伏比鋼板。
  3. 引張強度が550MPa以上で降伏比が80%以下の建築用低降伏比鋼板を製造する方法であって、
    化学組成が、質量%で、
    C:0.08〜0.12%、
    Si:0.03〜0.50%、
    Mn:1.00〜2.00%、
    P:0.020%以下、
    S:0.0100%以下、
    Al:0.005%を超えて0.080%以下、
    Ti:0.0005〜0.020%、
    Cr:0.10〜0.50%、
    Nb:0.005〜0.100%、
    Ca:0.0003〜0.0200%、
    N:0.0010〜0.0090%、
    O:0.0025%以下、
    Cu:0.05%以下、
    Ni:0.10%以下、
    Mo:0.05%以下、
    V:0〜0.100%、
    B:0〜0.0020%、
    残部:Feおよび不純物であり、
    CaおよびOが下記の(i)式を満足し、
    粒径が0.5〜5.0μmのCaO・Al23系介在物が分散し、
    前記粒径が0.5〜5.0μmの介在物のアスペクト比の平均値が1.9以下であり、
    前記粒径が5.0μmを超えるCaO・Al 2 3 系介在物が、1×10個/mm 2 未満の分散状態で存在するスラブを1050〜1200℃に加熱する加熱工程、
    前記加熱後のスラブを圧延仕上げ温度が750〜830℃となるように圧延して圧延材を得る圧延工程、および
    前記圧延材を5〜20℃/sの平均冷却速度で300℃以下まで冷却する冷却工程を備え、
    前記圧延工程における圧延完了から前記冷却工程における冷却開始までの時間が30s以下である、建築用低降伏比鋼板の製造方法。
    0.50≦Ca/O≦1.30 ・・・(i)
    ただし、(i)式において、CaおよびOはそれぞれの元素の質量%での含有量を示す。
  4. 前記冷却工程の後に、450℃以下で焼戻しを行う焼戻し工程をさらに備える、請求項3に記載の建築用低降伏比鋼板の製造方法。
  5. 前記スラブの化学組成が、質量%で、
    V:0.050〜0.100%、および
    B:0.0003〜0.0020%
    から選択された1種以上を含有する、請求項3または4に記載の建築用低降伏比鋼板の製造方法。
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