JP6699221B2 - 試験片の製造方法、試験片および応力腐食割れ試験方法 - Google Patents

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Description

本発明は、応力腐食割れ試験に用いられる試験片の製造方法および試験片に関する。また、その試験片を用いる応力腐食割れ試験方法に関する。
石油および天然ガスを精製するプラントでは、酸性ガス(例えば二酸化炭素または硫化水素)を処理するために、アミンユニットが設けられる。アミンユニットを構成する装置には、アミンコンタクター、アミンアブソーバーおよびアミンリジェネレーターがあり、それらの装置は、圧力容器および配管を備える。圧力容器は、溶接構造物であり、溶接部を有する。
圧力容器には、例えば、引張強さ485MPa級の低合金鋼が焼ならしを施して使用され、より具体的には、ASTM A516−70の圧力容器用炭素鋼板を採用できる。しかし、近年では、容器の大型化や浮体式液化天然ガス設備(FLNG)のニーズにより、さらに高強度かつ溶接性に優れる低合金鋼の適用が求められる。例えば、引張強さ550MPa級の低合金鋼板およびTMCP鋼板の適用が求められる。より具体的には、ASTM A841のグレードAおよびBのクラス2に規定される圧力容器用TMCP型鋼板が該当する。
アミンユニットの圧力容器や配管に使用される鋼材は、アミン環境(腐食環境)に曝されるので、応力腐食割れ(以下、「SCC」ともいう)が発生しやすい。SCCの発生のメカニズムは、例えば、以下の通りである。
(1)アミン環境下で鋼材に引張応力が作用するのに伴い、腐食とすべりによって新生面が生じる。
(2)その新生面が溶解して小さな亀裂となり、さらに亀裂先端で応力が集中して新たな新生面が生じることで、亀裂が成長し割れに至る。
このようなSCCは、溶接部に発生しやすい。これは、溶接部の残留応力がそれ以外の部分と比べて高いからである。圧力容器に使用する鋼を高強度にすると、溶接部の残留応力が上昇するとともに、設計応力(使用時に作用する応力)が上昇する。このため、圧力容器に使用する鋼を高強度にすると、SCCがさらに発生しやすくなる懸念がある。
アミン環境でのSCCを防止する技術には、PWHTがある。アミンユニットを成す圧力容器のPWHTは、例えば、NACE Standard RP0472−2000に規定される。PWHTでは、溶接後に熱処理を施すことにより、溶接部の引張残留応力を緩和し、その結果、SCCを防止できる。しかし、PWHTには、専用の加熱炉または局所加熱装置が必要である。このため、熱処理対象の圧力容器が大型である場合、PWHTの適用が容易でなく、施工コストが増大する。加えて、PWHTでは、加熱された溶接部とその周囲(母材と溶接金属の鋼材)の強度が低下するので、高強度鋼を採用するメリットが減少する。
ところで、近年、溶接部の疲労特性を向上させるために超音波衝撃処理(Ultrasonic Impact Treatment、以下、「UIT」ともいう)をはじめとしたピーニング処理の適用がはじまりつつある。このピーニング処理では、振動するピンで鋼材を打撃することにより、圧縮残留応力を局所的に付与する。このため、溶接部にピーニング処理を施せば、溶接部に圧縮残留応力を付与でき、溶接部以外の部分で強度が変化しない。したがって、ピーニング処理では、PWHTのような強度低下の懸念がない。これらから、SCCの防止対策では、ピーニング処理が有力な候補となるが、実用化には、ピーニング処理によるSCCの防止効果を確認する試験が必要である。
溶接部に限らず、一般的にSCCの特性は、応力腐食割れ試験(以下、「SCC試験」ともいう)によって評価可能である。SCC試験では、使用時の応力状態を模擬するため、治具によって所望の応力を試験片に付与する。その治具とともに試験片を水槽内に収容し、その水槽内を腐食環境とする。この治具について図1を参照しながら説明する。
図1は、3点曲げによる試験片への応力の付与を模式的に示す正面から見た断面図である。図1には、試験片60と、治具30とを示す。治具30は、本体31と、ボルト32とを備える。本体31は、横断面形状がL字状であり、第1の平板部31cと、その第1の平板部31cと垂直な第2の平板部31dとを有する。第1の平板部31cには、2つの円柱状の支持部31aが設けられ、支持部31aは、第2の平板部31dと平行に伸びる。また、第2の平板部31dには、ねじ穴31bが設けられ、そのねじ穴31bには、ボルト32が通される。
このような治具30では、支持部31aと第2の平板部31dの間に試験片60を配置する。その際、試験片60の長手方向の中央とボルト32の先端を略一致させる。この状態で、ボルト32を締め付けると、ボルト32の先端が試験片60に押し付けられ、試験片60に荷重が負荷される。これにより、本体の支持部31aの2点を支点に、試験片60に3点曲げが施され、所望の応力が付与される。
このような治具30は小型にする必要がある。これは、治具を収容する水槽の容量を大きくすると、装置コストや試験コストが増大するからである。しかし、小型の治具の剛性は低いので、試験片の厚さも薄くなる。このため、例えば、NACE Standard TM0177−2005では、応力腐食割れ試験に用いられる試験片の厚さが1.5mm程度である。
溶接部についてSCCの特性を評価する技術は、例えば特開2004−149880号公報(以下、「特許文献1」という)に記載される。特許文献1に記載の試験方法では、試験片の中央にビードオンプレートで溶接部を形成した後、溶接部に超音波衝撃処理を施し、その後、腐食環境に曝す。
特開2004−149880号公報
前述の通り、ピーニング処理がSCCの防止対策に有力な候補となるが、実用化には、ピーニング処理によるSCCの防止効果を確認するための試験が必要である。NACE Standard TM0177−2005等に規定される従来の応力腐食割れ試験は、試験片の厚さが1.5mm程度と薄い。このような試験片にピーニング処理を施すと、ピーニング処理に伴って付与される圧縮残留応力により、試験片が大きく変形して反る(後述の図2A参照)。この場合、治具によって試験片に曲げ変形を付与できたとしても、梁のたわみ計算によって試験片のたわみ量から正確な曲げ応力を算出できない。このため、従来の応力腐食割れ試験は、ピーニング処理によるSCCの防止効果の確認に、不向きである。
特許文献1に記載の試験方法では、試験片の中央にビードオンプレートで溶接部を形成した後、溶接部に超音波衝撃処理を施し、その後、腐食環境に曝す。この試験方法では、試験片に外部から応力を付与しないので、試験片には、内部応力、すなわち溶接等による残留応力のみが作用することになる。このため、例えば、アミンユニットの圧力容器の応力状態を再現した状態で、SCC試験を行うことができない。したがって、ピーニング処理によるSCCの防止効果の確認には、不向きである。
本発明の目的は、ピーニング処理後の変形を抑制でき、所望の応力を付与可能である試験片の製造方法および試験片を提供することである。また、その試験片を用いる応力腐食割れ試験方法を提供することである。
本発明の一実施形態による試験片の製造方法は、応力腐食割れ試験に用いられる試験片の製造方法である。当該製造方法は、長手方向の中間に溶接部を有し、かつ、厚さt1(mm)が下記(1)式を満足する供試材を準備する工程と、前記供試材の片側表面側から前記溶接部にピーニング処理を施す工程と、を含む。
t1≧7.0−0.0028×YS ・・・(1)
ここで、YSは、前記供試材の降伏応力(MPa)である。
前記供試材を準備する工程は、前記供試材を構成する鋼板同士を溶接することによって前記溶接部を形成する工程と、前記溶接部が形成された前記供試材の厚さt1(mm)が前記(1)式を満足するように、前記供試材の片側の第1表面に機械加工を施す工程と、を含むのが好ましい。この場合、前記ピーニング処理は、前記第1表面の反対側の第2表面側から施される。
前記供試材を準備する工程では、前記厚さt1(mm)が、前記(1)式に加え、下記(2)式を満足するのが好ましい。
t1≧18×L2+23×L ・・・(2)
ここで、Lは、試験期間に亘って試験片を腐食環境に曝す場合の試験片の減肉量(mm)である。
前記ピーニング処理は、超音波衝撃処理であるのが好ましい。
本発明の一実施形態による試験片は、応力腐食割れ試験に用いられる試験片である。当該試験片は、長手方向の中間に溶接部を有する。前記試験片の厚さt1(mm)が下記(3)式を満足する。前記試験片の厚さ方向の片側に位置する第1表面は、機械加工面である。前記溶接部は、前記第1表面の反対側の第2表面に打撃痕を有する。
t1≧7.0−0.0028×YS ・・・(3)
ここで、YSは、前記供試材の降伏応力(MPa)である。
本発明の一実施形態による応力腐食割れ試験方法は、上述の試験片の製造方法によって試験片を準備する工程と、前記試験片に応力を付与する工程と、前記応力が付与された前記試験片を腐食環境に曝す工程と、を含む。
前記応力を付与する工程では、ダブルベンドビームによって前記試験片に前記応力を付与するのが好ましい。
「ダブルベンドビーム」とは、後述の図6に示すように、支点となる支持部51aを有する治具50の本体51を2枚の試験片10によって挟んだ状態で、試験片10に4点曲げ変形を施すことにより、2枚の試験片10それぞれに曲げ応力を付与する方式を意味する。このダブルベンドビームで4点曲げ変形を施す際には、試験片10の長手方向において、荷重を負荷する2点(図6ではナット53)の間に2つの支点(図6では支持部51a)が位置し、その2つの支点の間に試験片の溶接部13が位置する。荷重は、試験片10を治具50の本体51に押し付けるように負荷される。
本発明の試験片の製造方法は、厚さt1(mm)が関係式を満足する供試材を準備する。供試材のピーニング処理前の厚さt1(mm)が関係式を満足するため、ピーニング処理後の供試材の反りを抑制でき、得られる供試材をSCC試験の試験片として用いれば、所望の応力を試験片に付与可能である。
本発明の応力腐食割れ試験方法は、上述の試験片の製造方法によって得られた試験片を用いる。このため、所望の応力を試験片に付与した状態で、試験片を腐食環境に曝すことができる。したがって、ピーニング処理によるSCCの防止効果を確認できる。
図1は、3点曲げによる試験片への応力の付与を模式的に示す正面から見た断面図である。 図2Aは、厚さが5mmである場合にピーニング処理後の試験片の形状について解析した結果を模式的に示す正面図である。 図2Bは、厚さが10mmである場合にピーニング処理後の試験片の形状について解析した結果を模式的に示す正面図である。 図3は、供試材の降伏応力と反り防止限界厚さの関係を示す図である。 図4Aは、本実施形態の試験片の製造方法による手順例における溶接前の状態を模式的に示す正面図である。 図4Bは、本実施形態の試験片の製造方法による手順例における溶接後の状態を模式的に示す正面図である。 図4Cは、本実施形態の試験片の製造方法による手順例における機械加工後、かつピーニング処理前の状態を模式的に示す正面図である。 図4Dは、本実施形態の試験片の製造方法による手順例におけるピーニング処理後の状態を模式的に示す正面図である。 図5Aは、本実施形態の試験片の構成例を模式的に示す上面図である。 図5Bは、図5Aに示す試験片の正面図である。 図6は、ダブルベンドビームによる試験片への応力の付与を模式的に示す正面図である。 図7は、ダブルベンドビームにおいて本体の中央に切り欠きがある治具を用いる場合を模式的に示す正面図である。 図8は、試験片の減肉量と試験片の厚みによるSCCの発生状況の変化を示す図である。
[ピーニング処理後の変形]
溶接部へのピーニング処理では、例えば、振動するピンを溶接部の止端に押し当てながら、その止端に沿って移動させることにより、表面を打撃する。これに伴って表面が深さ0.1〜0.7mm程度で凹み、表層(例えば深さ数mm程度の範囲)に圧縮残留応力が発生する。圧縮残留応力と釣り合うように、表層より深い部分に、引張残留応力が発生する。このような残留応力分布であるので、試験片の厚さが薄いと、試験片が大きく変形して反る(後述の図2A参照)。また、試験片は、ピーニング処理での打撃によっても変形するので、この変形によっても反りが助長される。
このように反った試験片は、治具によって試験片に曲げ変形を付与できたとしても、試験片のたわみ量から正確な曲げ応力を算出できない。このため、所望の応力を試験片に付与するには、ピーニング処理後に試験片が変形して反ることなく、真っ直ぐである必要がある。
そこで、ピーニング処理による反りについて、有限要素法(FEM)による解析を行った。本解析は、後述の図5Aおよび図5Bに示す試験片を対象とした。図5Aは上面図、図5Bは正面図である。試験片10は、第1の鋼板11および第2の鋼板12からなり、それらは溶接されている。また、片側の第1表面10aは、試験片10を所望の厚さとするため、機械加工が施されている。反対側の第2表面10bは、機械加工が施されることなく、溶接ままである。このため、溶接部13において、第2表面10bは溶接ビード13bによって盛り上がり、第1表面10aは平面状である。この第2表面10b側から、ピーニング処理が溶接部13の2箇所の止端にそれぞれ施され、その打撃痕13aが溶接部13の止端に沿ってそれぞれ形成されている。
このような試験片10を、打撃痕13aを除いてモデル化し、四角形平面ひずみ要素で分割した。解析には汎用FEMソフトウェアであるABAQUSを用いた。解析は、大変形を考慮した動的陽解法による二次元弾塑性解析で行った。
解析において、実際のピーニング処理を模擬した境界条件を与え、ピーニング処理に用いられるピンによる打撃痕13aを試験片10に形成した。すなわち、溶接ままの第2表面10b側から、後述の図4Cに示すようなピン70のモデルを溶接部13の2箇所の止端に順に押し込んだ。その際、機械加工が施された第1表面10aは、剛体壁と接触させ、その変位を拘束し、ピン70のモデルは剛体とした。ピン70のモデルによる押し込みの終了後、第1表面10aの変位の拘束を解除し、試験片(モデル)の反りを測定した。試験片の寸法は、長さa1を250mm、厚さt1を変化させた。これにより、試験片の厚さがピーニング処理後の反りに及ぼす影響を調査した。
第1の鋼板、第2の鋼板および溶接部は、いずれも同じ材質に設定した。材質は、アミンユニットで使用される低合金鋼を模擬するように設定した。その際、5水準の降伏応力YS(MPa)を設定し、応力−ひずみ曲線は、それぞれの降伏応力YSにn乗硬化則をあてはめることで決定した。ヤング率は2.06×105MPa、ポアソン比は0.3とした。
図2Aおよび図2Bは、ピーニング処理後の試験片の形状について解析した結果を模式的に示す正面図である。そのうちの図2Aは厚さが薄い(t1=5mm)場合、図2Bは厚さが厚い(t1=10mm)場合をそれぞれ示す。なお、図2Aおよび図2Bには、試験片が反り上がる方向(紙面で上方向)の変位の分布を白から黒までの明暗で示す。黒の部分の変位が最も小さく、白に近づくのに伴って変位が大きくなる。
厚さが5mmである場合、図2Aに示す輪郭形状から明らかなように、試験片10は、溶接部の止端(打撃痕13a)で折れ曲がり、溶接ビード13bの両側の鋼板は、ほとんど変形することなく、直線形状を維持する。このため、反り量b1は、試験片10の厚さが厚くなるのに応じて線形に減少し、ある程度の厚さを超えると、図2Bのように、無視できるほど小さくなった。ここで、反り量b1は、第1表面10aの長手方向の一端が接触する状態で試験片10を平面に載置した場合、その平面から第1表面10aの長手方向の他端までの距離b1を意味する。また、ある程度の厚さを超えると、反り量b1が無視できるほど小さくなるのは、ある程度の厚さの弾性場が溶接部の止端の表層より深い部分に存在すれば、表層で生じた塑性変形による変位が、その弾性場で拘束されるからである。
そこで、5水準の降伏応力YS(MPa)ごとに、厚さが薄い範囲(反り量が変化する範囲)における試験片の厚さと反り量の関係から1次関数の近似式を得て、計算上、反りが生じない(反り量が0となる)厚さを求めた。以下では、計算上、反りが生じない限界厚さを、「反り防止限界厚さ」ともいう。
図3は、降伏応力と反り防止限界厚さの関係を示す図である。図3から、反り防止限界厚さ(計算上、反りが生じない厚さ)は、降伏応力YSが増加するのに応じ、ほぼ線形に減少することが明らかになった。そこで、本発明者らは、前述の(1)式を満足すれば、ピーニング処理後の試験片の反りを抑制でき、所望の応力を試験片に付与可能であることを知見した。
[ピーニング処理による残留応力]
前述の通り、ピーニング処理をSCCの防止対策として実用化するには、ピーニング処理によるSCCの防止効果を確認するための試験が必要である。ピーニング処理によるSCCの防止効果は、圧縮残留応力の付与によって発揮される。このため、SCC試験で試験片を腐食環境に曝している間に、圧縮残留応力が付与された部分が消失しない条件とするのが好ましい。
そこで、前述のFEM解析の結果から、圧縮残留応力が発生している部分(以下、「残留応力の発生領域」ともいう)の深さと試験片の厚さの関係式を求めた。その関係式を用い、SCC試験で腐食環境に曝す期間における減肉量(mm)と、ピーニング処理で導入した残留応力が維持可能な試験片の限界厚さ(mm)の関係を導出し、前記(2)式を知見した。さらに、後述の実施例に示す試験を行い、前記(2)式を満足すれば、ピーニング処理で導入した圧縮残留応力が維持されることを確認した。
本発明は、上述の知見に基づいて完成したものである。以下に、本発明の試験片の製造方法、試験片および応力腐食割れ試験方法の一実施形態ついて、図面を参照しながら説明する。
[試験片の製造方法]
図4A〜図4Dは、本実施形態の試験片の製造方法による手順例を模式的に示す正面図である。そのうちの図4Aは溶接前、図4Bは溶接後、図4Cは機械加工後、図4Dはピーニング処理後をそれぞれ示す。
本実施形態の試験片の製造方法では、先ず、図4Cに示すような供試材20を準備する。この供試材20は、長手方向の中間(図4Cでは中央)に溶接部23を有し、かつ、厚さt1(mm)が下記(1)式を満足する。
t1≧7.0−0.0028×YS ・・・(1)
ここで、YSは、供試材20の降伏応力(MPa)である。
供試材20は、例えば、第1の鋼板21の端部と第2の鋼板22の端部を突合せ溶接することによって得る(図4Aおよび図4B参照)。供試材20の形状は、例えば、短冊状である。供試材20に使用する第1の鋼板21および第2の鋼板22について、板厚t0および材質は、例えば、模擬する溶接構造物(例えばアミンユニットの圧力容器)に用いられる鋼板の板厚および材質に基づいて設定すればよい。また、開先形状や溶接方法といった溶接条件も、模擬する溶接構造物(例えばアミンユニットの圧力容器)の溶接条件に基づいて設定すればよい。
使用する第1の鋼板21および第2の鋼板22の厚さt0は、通常、厚いので、供試材20に所望の応力を付与することが難しい。この場合、例えば、鋼板同士を溶接することによって溶接部23を形成し(図4Aおよび図4B参照)、その溶接部23が形成された供試材20の片側の第1表面20aに機械加工を施し、供試材20の厚さを薄くする(図4C参照)。これにより、ピーニング処理前の供試材の厚さt1(mm)が下記(1)式を満足する。機械加工は、例えば、切削加工によって行うことができ、切削加工に他の加工(例えば研削加工)を組み合わせて行ってもよい。
続いて、供試材の溶接部23にピーニング処理を施す。ピーニング処理は、片側の表面20b側から行う。本手順例では、第1表面20aの反対側の第2表面20b側から、機械加工後の供試材の溶接部23にピーニング処理を施す。溶接部23にピーニング処理を施すのは、ピーニング処理によるSCCの防止効果を確認するためである。ピーニング処理では、例えば、第2表面20b側から振動するピン70を溶接部の止端23c(図4C参照)に押し当てながら、その止端23cに沿って移動させる。このようにしてピン70で表面を打撃する処理を、溶接部の両方の止端23cに順に施せばよい。これにより、溶接部の止端に打撃痕23aが形成される(図4D参照)。その際、ピン70で打撃された部分およびその周辺が凹み、圧縮残留応力が発生する。打撃痕23aの深さは、例えば、0.1〜0.7mm程度である。
本実施形態の試験片の製造方法では、ピーニング処理前の供試材の厚さt1(mm)が前記(1)式を満足する。すなわち、ピーニング処理前の供試材20の厚さt1が前述の反り防止限界厚さ以上である。このため、ピーニング処理後の供試材20の反りを抑制でき、得られる供試材20をSCC試験の試験片として用いれば、所望の応力を付与可能である。したがって、所望の応力を試験片に付与した状態で、SCC試験を行うことができ、ピーニング処理によるSCCの防止効果を確認できる。
前記(1)式において、供試材の降伏応力YSには、供試材を構成する鋼板の降伏応力を用いることができる。鋼板の降伏応力は、例えば、規格に準拠する鋼板を用いる場合であれば、その規格で規定される降伏応力を用いてもよい。規格で規定される降伏応力は、そのグレードの最小値であり、実際の降伏応力よりも低い。このため、実際に引張試験を行い、その測定値を用いてもよい。降伏応力の実測値を用いる形態は、機械加工前の供試材の厚さが薄い等の理由により、機械加工後の供試材の厚さが反り防止限界厚さに近い場合に好適である。
厚さt1が前記(1)式を満足する供試材20は、図4A〜図4Cの手順に限らず、他の手順によって準備してもよい。第1の鋼板21および第2の鋼板22の厚さが応力を付与可能な程度の厚さである場合、機械加工を省略し、鋼板同士を溶接することによって供試材20を準備してもよい。また、供試材20の準備では、第1の鋼板21および第2の鋼板22にそれぞれ機械加工を施すことによって応力を付与可能な厚さに調整した後、鋼板同士を溶接してもよい。
機械加工を省略する形態、および、機械加工後に溶接を行う形態では、試験片10の溶接部13が、後述の図7に示すように、第1表面10aおよび第2表面10bのいずれにも余盛りを有する。後述の図6および図7に示すダブルベンドビームによって試験片に応力を付与する場合、溶接部13の余盛りと、治具の本体51とが接触し、正確な4点曲げができなくなるおそれがある。これを防止するため、図4A〜図4Cのように、鋼板同士を溶接して溶接部23を形成した後、溶接部23が形成された供試材の厚さt1(mm)が前記(1)式を満足するように、供試材20の第1表面20aに機械加工を施すのが好ましい。この機械加工に伴い、溶接部23の余盛りが除去され、さらには第1の鋼板21、第2の鋼板22およびビード23bの一部が除去され、第1表面20aは平面となる。
溶接部23へのピーニング処理は、前述の通り、片側表面20b側から行う。機械加工を省略する形態および機械加工後に溶接を行なう形態では、ピーニング処理をいずれの側から行うかは、曲げ拘束された試験片の表面応力の正負に基づいて設定できる。例えば、後述の図7のように、ダブルベントビームによる4点曲げ拘束を与える試験片であれば、引張応力となる表面10b側からのみピーニング処理を行う。
ピーニング処理前の供試材の厚さt1(mm)は、前記(1)式に加え、下記(2)式を満足するのが好ましい。下記(2)式を満足することにより、後述の図8でC1の上側に分布する条件となる。この場合、後述の実施例で明らかにするように、SCC試験で腐食環境に曝している間に、圧縮残留応力が付与された部分が消失することなく、残存する。このため、腐食環境に曝す間、ピーニング処理によるSCCの防止効果が継続して発揮される。したがって、ピーニング処理によるSCCの防止効果を有効に確認できる。
t1≧18×L2+23×L ・・・(2)
ここで、Lは、試験期間に亘って試験片を腐食環境に曝す場合の試験片の減肉量(mm)である。
ピーニング処理前の供試材の厚さt1(mm)は、前記(2)式に代え、下記()式を満足するのがより好ましい。換言すると、前記(1)式に加え、下記()式を満足するのがより好ましい。下記()式を満足することにより、後述の図8でC2の上側に分布する条件となる。この場合、SCC試験で腐食環境に曝している間、圧縮残留応力が付与された部分が、より確実に残存する。このため、ピーニング処理によるSCCの防止効果をより有効に確認できる。
t1≧8.9×e1.7L−1.7 ・・・(
ここで、eは、自然対数の底である。
前記(2)式および()式における試験片の減肉量Lは、試験片の表裏面(第1表面および第2表面)が腐食環境に曝された場合の試験片の厚さの減少量を意味する。後述の実施例のように、試験片の片側の表面を腐食環境に曝し、反対側の表面に耐食被膜を形成する場合であれば、腐食環境に曝す前後の厚さの差を2倍することにより、減肉量Lを算出する。
試験片の減肉量Lは、各種資料や過去の実験結果等に基づいて適宜決定してもよい。より正確な試験を行う観点では、予備試験を行い、その測定値を用いるのが好ましい。圧力容器用炭素鋼板をリーンアミン環境に1年間に亘って曝す場合、減肉量Lは、緩やかな腐食条件では0.1mm未満であり、厳しい腐食条件では0.5mm以上となる。リーンアミン環境は、硫化水素濃度が比較的低いアミン環境の総称である。また、アミンの種類としては、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、ジグリコールアミン、ジイソプロパノールアミン、メチルジエタノールアミン、および、トリエタノールアミン等がある。
試験片の厚さt1が厚くなりすぎると、治具の剛性の制約等により、SCC試験で試験片に付与可能な応力が低下する。より具体的には、後述の図6に示すようなダブルベンドビームにより、25mmを越える厚さt1の試験片を強制的に曲げ、溶接部1のうちの第2表面10bの近傍に、大きな(例えば降伏応力YS相当の)引張応力を与えようとすると、試験片10の曲げ変形を支えるボルト52に作用する引張応力が高くなりすぎて、ボルト52が破断するおそれがある。あるいは、ボルト52の引張応力を下げるために、試験片10の長さa1を長くすると、試験片自体の重量が大きくなりすぎて持ち運びが困難となり、また試験片を収容する水槽を巨大にする必要があり、実用上、好ましくない。
このため、試験片の厚さt1は、25mm以下とするのが好ましい。換言すると、溶接部を有する供試材を準備する際に、前記供試材の厚さt1を25mm以下とするのが好ましい。
本発明において、ピーニング処理では、60Hz以上の高周波数で振動するピンによって打撃する。このピーニング処理には、20kHz以上で振動するピンによって打撃するUIT(超音波衝撃処理)を含むものとする。また、ピーニング処理には、UIT以外に、例えば、「Ultrasonic Peening」、「High−Frequency Impact Treatment」、「Pneumatic Impact Treatment」および「Portable Pneumatic needle Peening」(以下、「PPP」ともいう)などの高速処理法を採用できる。
ピーニング処理の周波数を60Hz以上とするのは、60Hz以上であれば、単位時間あたりの打撃回数を確保でき、溶接部に効率的にピーニング処理を施すことができるためである。より効率的に処理を施す観点から、ピーニング処理は、UITによって行うのが好ましい。UITの処理装置では、周波数の上限は特に制限はなく、機器の仕様に応じて適宜決めればよく、上限の一例として50kHzとしてもよい。
ピーニング処理を施せる限り、ピンの駆動方式に特に制限はない。例えば、磁歪振動子またはピエゾ圧電素子を用いてピンを振動させてもよい。また、空気圧や電動で振動を発生させる各種ハンマー機構を用いてもよい。
[試験片]
図5Aおよび図5Bは、本実施形態の試験片の構成例を示す模式図である。そのうちの図5Aは上面図、図5Bは正面図である。
本実施形態の試験片10は、応力腐食割れ(SCC)試験に用いられる試験片である。その試験片10は、長手方向の中間(例えば中央)に溶接部13を有する。その溶接部13により、第1の鋼板11の長手方向の一端と第2の鋼板12の長手方向の一端が突合わされた状態で接合されている。試験片の厚さt1(mm)は前記(1)式を満足する。また、試験片10の片側の第1表面10aは、機械加工面であり、溶接部13は、第1表面10aの反対側の第2表面10bに打撃痕13aを有する。打撃痕13aは、ピーニング処理でのピンでの打撃によって形成され、例えば深さ0.1〜0.7mm程度で凹む。打撃痕13aの近傍には、圧縮残留応力が存在する。このような試験片10は、前記図4A〜図4Dに示す手順例によって得ることができる。
本実施形態の試験片10は、試験片の厚さt1(mm)が前記(1)式を満足し、すなわち、試験片10の厚さが前述の反り防止限界厚さ以上である。このため、ピーニング処理による試験片10の反りが抑制されており、SCC試験の際に所望の応力を試験片10に付与可能である。
[応力腐食割れ試験方法]
本実施形態の応力腐食割れ試験方法は、前述の本実施形態の製造方法によって試験片を製造する工程と、その試験片に応力を付与する工程と、その応力が付与された試験片を腐食環境に曝す工程と、を含む。このような本実施形態の応力腐食割れ試験方法では、試験片の厚さt1(mm)が前記(1)式を満足する。すなわち、試験片の厚さが前述の反り防止限界厚さ以上である。このため、ピーニング処理による試験片の反りが抑制されており、所望の応力を試験片に付与可能である。したがって、所望の応力を試験片に付与した状態で、SCC試験を行うことができ、ピーニング処理によるSCCの防止効果を確認できる。
試験片への応力の付与は、従来と同様に、3点曲げまたは4点曲げを試験片に施すことによって行うことができる。例えば、前述の図1に示す治具によって試験片に曲げ応力を付与できる。試験片への応力の付与では、ダブルベンドビームを採用するのが好ましい。
図6は、ダブルベンドビームによる試験片への応力の付与を模式的に示す正面図である。ダブルベンドビームに用いられる治具50は、ブロック状の本体51と、ねじ棒52と、ナット53と、球面座金54とを備える。ダブルベンドビームでは、貫通穴が、試験片10の長手方向の一端と溶接部13の間、および、他端と溶接部13の間にそれぞれ開けられる。
ダブルベンドビームでは、第1表面10aが互いに向き合う状態で2枚の試験片10を配置し、2枚の試験片10で本体51を挟む。本体51には、試験片10の第1表面10aと向き合う面に、所定の間隔を設けて支持部51aが設けられる。2つの支持部51aは、試験片10の長手方向において、試験片の2つの貫通穴の間に位置する。
また、ダブルベンドビームでは、ねじ棒52は2枚の試験片10の貫通穴に順に通され、ねじ棒52の両端から球面座金54を介在させた状態でナット53が締め付けられる。このように構成されたねじ棒52、球面座金54およびナット53は、試験片10の溶接部13の両側に位置する貫通穴にそれぞれ配置される。溶接部13の両側に位置するナット53をそれぞれ締め付けると、試験片10の貫通穴の周辺に荷重が負荷される。この荷重により、試験片10の第1表面10aが本体51の支持部51aに押し付けられる。2つの貫通穴の内側に位置する2つの支持部51aが支点となり、2枚の試験片それぞれに4点曲げが施される。その際、試験片の溶接部13は、試験片10の長手方向において、2つの支点の間(図6では中央)に配置される。
このようなダブルベンドビームによれば、治具を大型化(厚肉化)することなく、治具の剛性を確保できる。このため、試験片および治具を収容する水槽が大型化するのを抑制でき、設備コストおよび試験コストを削減できる。
本実施形態の応力腐食割れ試験方法は、前記図4A〜図4Dに示す手順例によって得られる試験片10に限らず、機械加工を省略して得られる試験片、または、機械加工後に溶接することによって得られる試験片を用いてもよい。これらの場合、ダブルベンドビームによって曲げ変形を拘束すると、溶接ビードの余盛りと、治具の本体51とが接触するおそれがある。このため、治具の本体51に切り欠きを設けるのが好ましい。
図7は、ダブルベンドビームにおいて本体の中央に切り欠きがある治具を用いる場合を模式的に示す正面図である。図7の試験片10は、前記図6の試験片10と異なる。具体的には、試験片の第1表面10aが機械加工面でなく、試験片の第1表面10aおよび第2表面10bのいずれもが溶接ままである。この場合、試験片の第1表面10aが治具の本体51側に配置されるが、その第1表面10aからも溶接部13の余盛りが突出する。図7の治具50は、前記図6の治具と基本構成が同じであるが、本体51が長手方向の中央に凹状の切り欠き51bを有する点で異なる。これにより、第1表面10aから突出する溶接部13の余盛りが本体51と接触するのを防止できる。
ダブルベンドビームを採用する場合、対となる2枚の試験片は、溶接部にピーニング処理が施された試験片と、溶接部にピーニング処理が施されていない試験片とで構成するのが好ましい。この場合、溶接部にピーニング処理が施されていない試験片でSCCの発生を確認しながら、溶接部にピーニング処理が施された試験片でSCCの防止効果を確認できる。このため、SCCの防止効果を、効率よくかつ確実に確認できる。
腐食環境は、前述のアミン環境またはリーンアミン環境に限らず、塩化物、硝酸塩または炭酸塩などの各種の腐食環境としてもよい。
本発明の効果を確認するため、試験片を作製し、その試験片を用いてSCC試験を行った。
[試験片の作製]
前記図4A〜図4Dに示す手順で供試材20を作製し、その供試材20を試験片として用いた。各試験例(試験No.1〜6)では、第1の鋼板21および第2の鋼板22には同一の鋼板を用いた。具体的には、引張強さTSが485〜550MPa級の溶接構造用圧力容器用鋼板を用いた。第1の鋼板21および第2の鋼板22の寸法は、厚さ40mm、幅250mm、長さ250mmとした。
このような第1の鋼板の一端と第2の鋼板の一端を被覆アーク溶接によって突き合わせ溶接し、長さが約500mmである突合わせ溶接継手を得た。この突合せ溶接継手は、図4Bの供試材20に相当する。その際、開先形状は角度60°のX開先とし、ビード幅は25mm程度とした。突合わせ溶接継手の第1表面に機械加工を施し、所望の厚さとした。機械加工の際に、突合わせ溶接継手の外周も切削した。このようにして突合わせ溶接継ぎ手から図4Cに示すような供試材20を得た。機械加工は、切削加工によって行った。各試験例で機械加工後の供試材20の厚さt1を5〜25mmで変化させた。また、いずれの試験例でも、機械加工後の供試材20の長さa1は250mm、幅w1(図5A参照)は25mmとした。
いずれの試験例でも、ピーニング処理では、振動するピン70を溶接部23の止端に押し当てながら、溶接部23の止端に沿って移動させ、両方の止端23cのそれぞれをピン70で打撃した。ピーニング処理は、UITまたはPPPによって行った。UITでは、振動する磁歪振動子を用いて周波数27kHzでピン70を振動させた。PPPでは、空気圧で振動を発生させるハンマー機構によって周波数60Hzでピン70を振動させた。いずれのケースでも、ピン70は、直径が3mm、先端の曲率半径も3mmのものを用いた。
[SCC試験]
いずれの試験例でも、上述の手順によって得られた試験片に、前記図6に示すダブルベンドビームによって所望の曲げ応力を付与した。ダブルベンドビームにおいて、対となる2枚の試験片10のうち、一方の試験片は、上述の手順によって得られた試験片とし、他方の試験片は、ピーニング処理を省略し、それ以外の条件はピーニング処理を施した試験片と同じとした。たわみ量を測定しながらナット53を締め込むことにより、試験片10の第2表面10bの応力を所望の応力にした。
所望の応力を付与した後、溶接部(止端および打撃痕を含む)が露出する状態を維持しながら、その他の部分に耐食被覆塗料を塗布した。耐食被覆塗料が塗布された試験片を水槽内の試験溶液に浸漬することにより、試験片を腐食環境に曝した。
腐食環境:CO2ガスを飽和させたリーンアミン環境
試験溶液:モノエタノールアミンを20質量%含む水溶液
溶液温度:70〜80℃
試験期間:3ヶ月〜12ヶ月
各試験例では、定電位制御と自然腐食との2種類の腐食環境を設定した。定電位制御では、試験片を活性溶解域と不動態域の遷移電位領域にアノード分極させ、その電位を維持した。自然腐食では、浸漬電位のままとした。
表1に、各試験例について、試験片の厚さt1、第1および第2の鋼板の降伏応力YS、ピーニング処理の種類並びに(1)式の右辺(7.0−0.0028×YS)による反り防止限界厚さをそれぞれ示す。また、表1に、SCC試験において、付与した応力(表面応力)、腐食条件および試験期間をそれぞれ示す。
[評価基準]
ピーニング処理後の試験片の反りおよびSCC試験後の溶接部の割れについて評価を行った。その結果を、表1に併せて示す。表1の「試験片の反りの評価」欄における記号の意味は、以下の通りである。
○(良):試験片の反り量が0.2mm以下であったことを示す。
×(不可):試験片の反り量が0.2mmを超えたことを示す。
表1の「SCCの評価」欄における記号の意味は、以下の通りである。
○(良):2枚の試験片のうち、ピーニング処理を施した試験片では割れの発生がなく、ピーニング処理を施さなかった試験片では割れが発生したことを示す。
×(不可):2枚の試験片のいずれでも割れが発生したことを示す。
また、SCC試験後に試験片の溶接部の厚さを測定した。SCC試験後の厚さと、SCC試験前に測定した厚さを用いて試験片の減肉量Lを算出した。その試験片の減肉量Lを用い、前記(2)式の右辺(18×L2+23×L)により、ピーニング処理で導入した残留応力を維持可能な試験片の限界厚さを求めた。以下では、残留応力を維持可能な試験片の限界厚さを「残留応力の維持限界厚さ」ともいう。各試験例における試験片の減肉量Lおよび残留応力の維持限界厚さを表1に併せて示す。
[試験結果]
試験No.5では、機械加工後かつピーニング処理前の供試材の厚さ(試験片の厚さ)を反り防止限界厚さ未満とし、その結果、ピーニング処理後に反りが発生した。このため、ダブルベンドビームにより所望の表面応力を付与することができなかったので、SCC試験を中止した。
これに対し、試験No.1〜4および6では、機械加工後の供試材の厚さを反り防止限界厚さ以上とし、すなわち、前記(1)式を満足させた。その結果、ピーニング処理後に反りが発生することなく、良好であった。このため、ダブルベンドビームにより所望の表面応力を付与することができ、その状態でSCC試験を行えた。したがって、前記(1)式を満足することにより、ピーニング処理後の変形を抑制でき、SCC試験において所望の応力を付与できることが確認できた。
図8は、試験片の減肉量と試験片の厚みによるSCCの発生状況の変化を示す図である。図8には、試験No.1〜4および6の結果を示し、記号の意味は、表1の「SCCの評価」欄と同じである。
表1および図8より、試験No.6では、機械加工後の供試材の厚さ(試験片の厚さ)を残留応力の維持限界厚さ未満とし、換言すると、図8のC1の下側に分布する条件とした。その結果、ピーニング処理を施した試験片にSCCが発生した。これは、腐食環境下でピーニング処理による残留応力が消失し、ピーニング処理によるSCCの防止効果が失われたからである。
これに対し、試験No.1〜4では、機械加工後の供試材の厚さを残留応力の維持限界厚さ以上とした。すなわち、前記(2)式を満足させ、図8のC1の上側に分布する条件とした。その結果、ピーニング処理を施した試験片にSCCが発生することなく、ピーニング処理によるSCCの防止効果を確認できた。このため、前記(2)式を満足すれば、SCC試験で、ピーニング処理による残留応力が維持され、ピーニング処理によるSCCの防止効果を保持できることが確認できた。
本発明の試験片の製造方法、試験片および応力腐食割れ試験方法によれば、所望の応力を試験片に付与した状態で、試験片を腐食環境に曝すことができる。このため、試験によってピーニング処理によるSCCの防止効果を確認することが可能となり、SCC防止対策としてピーニング処理を普及させるのに大きく寄与できる。
10:試験片、 10a:第1表面、 10b:第2表面、 11:第1の鋼板、
12:第2の鋼板、 13:溶接部、 13a:打撃痕、 13b:ビード、
20:供試材、 20a:第1表面、 20b:第2表面、 21:第1の鋼板、
22:第2の鋼板、 23:溶接部、 23a:打撃痕、 23b:ビード、
23c:止端、 30:第1治具、 31:本体、 31a:支持部、
31b:ねじ穴、 31c:第1の平板部、 31d:第2の平板部、
32:ボルト、 50:第2治具、 51:本体、 51a:支持部、
51b:切り欠き、 52:ねじ棒、 53:ナット、 54:球面座金、
60:試験片、 70:ピン

Claims (7)

  1. 応力腐食割れ試験に用いられる試験片の製造方法であって、
    当該製造方法は、
    長手方向の中間に溶接部を有し、かつ、厚さt1(mm)が下記(1)式を満足する供試材を準備する工程と、
    前記供試材の片側表面から前記溶接部にピーニング処理を施す工程と、を含む、試験片の製造方法。
    t1≧7.0−0.0028×YS ・・・(1)
    ここで、YSは、前記供試材の降伏応力(MPa)である。
  2. 請求項1に記載の試験片の製造方法であって、
    前記供試材を準備する工程は、前記供試材を構成する鋼板同士を溶接することによって前記溶接部を形成する工程と、前記溶接部が形成された前記供試材の厚さt1(mm)が前記(1)式を満足するように、前記供試材の片側の第1表面に機械加工を施す工程と、を含み、
    前記ピーニング処理が、前記第1表面の反対側の第2表面側から施される、試験片の製造方法。
  3. 請求項1または2に記載の試験片の製造方法であって、
    前記供試材を準備する工程では、前記厚さt1(mm)が、前記(1)式に加え、下記(2)式を満足する、試験片の製造方法。
    t1≧18×L+23×L ・・・(2)
    ここで、Lは、試験期間に亘って試験片を腐食環境に曝す場合の試験片の減肉量(mm)である。
  4. 請求項1〜3のいずれかに記載の試験片の製造方法であって、
    前記ピーニング処理は、超音波衝撃処理である、試験片の製造方法。
  5. 応力腐食割れ試験に用いられる試験片であって、
    当該試験片は、長手方向の中間に溶接部を有し、
    前記試験片の厚さt1(mm)が下記(3)式を満足し、
    前記試験片の厚さ方向の片側に位置する第1表面は、機械加工面であり、
    前記溶接部は、前記第1表面の反対側の第2表面に打撃痕を有する、試験片。
    t1≧7.0−0.0028×YS ・・・(3)
    ここで、YSは、前記試験片を構成する鋼板の降伏応力(MPa)である。
  6. 応力腐食割れ試験方法であって、
    当該試験方法は、
    請求項1〜4のいずれか1項に記載の製造方法によって試験片を製造する工程と、
    前記試験片に応力を付与する工程と、
    前記応力が付与された前記試験片を腐食環境に曝す工程と、を含む、応力腐食割れ試験方法。
  7. 請求項6に記載の応力腐食割れ試験方法であって、
    前記応力を付与する工程では、ダブルベンドビームによって前記試験片に前記応力を付与する、応力腐食割れ試験方法。
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