JP2004165096A - 膜電極接合体の製造方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】塩置換率が1〜100%である配向されたフッ素系イオン交換膜から膜電極接合体を製造する方法であって、
1)前記フッ素系イオン交換膜の表面に電極触媒層を形成する工程、及び
2)前記電極触媒層を形成したフッ素系イオン交換膜のイオン交換基の対イオンをプロトンに転化することによって、フッ素系イオン交換膜の塩置換率を0〜99%にする工程、
からなることを特徴とする膜電極接合体の製造方法。
【選択図】 選択図なし。
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、膜電極接合体の製造方法に関するものであり、特に、固体高分子電解質型燃料電池に用いられる膜電極接合体として性能が優れた膜電極接合体の製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
燃料電池は、水素、メタノール等の燃料を電気化学的に酸化することによって電気エネルギーを取り出す一種の発電装置であり、近年、クリーンなエネルギー供給源として注目されている。燃料電池は、用いる電解質の種類によって、リン酸型、溶融炭酸塩型、固体酸化物型、固体高分子電解質型等に分類されるが、このうち、固体高分子電解質型燃料電池は、標準的な作動温度が100℃以下と低く、かつ、エネルギー密度が高いことから、電気自動車等の電源として幅広い応用が期待されている。
【0003】
固体高分子電解質型燃料電池の基本構成は、イオン交換膜とその両面に接合された一対のガス拡散電極からなっており、一方の電極に水素、他方に酸素を供給し、両電極間を外部負荷回路に接続することによって発電を起こすものである。より具体的には、水素側電極でプロトンと電子が生成され、プロトンは、イオン交換膜の内部を移動して酸素側電極に達した後、酸素と反応して水を生成する。一方、水素側電極から導線を伝って流れ出した電子は、外部負荷回路において電気エネルギーが取り出された後、さらに導線を伝って酸素側電極に達し、前記水生成反応の進行に寄与する。
【0004】
イオン交換膜の要求特性としては、第一に、高いイオン伝導性が挙げられるが、プロトンがイオン交換膜の内部を移動する際は、水分子が水和することによって安定化すると考えられるため、イオン伝導性と共に高い含水性と水分散性も重要な要求特性となっている。また、イオン交換膜は、水素と酸素の直接反応を防止するバリアとしての機能を担うため、ガスに対する低透過性が要求される。その他の要求特性としては、燃料電池運転中の強い酸化雰囲気に耐えるための化学的安定性や、更なる薄膜化に耐え得る機械強度を挙げることができる。
【0005】
固体高分子電解質型燃料電池に使用されるイオン交換膜の材質としては、高い化学的安定性を有することからフッ素系イオン交換樹脂が広く用いられており、中でも、主鎖がパーフルオロカーボンで、側鎖末端にスルホン酸基を有するデュポン社製の「ナフィオン(登録商標)」が広く用いられている。こうしたフッ素系イオン交換樹脂は、固体高分子電解質材料として概ねバランスのとれた特性を有するが、当該電池の実用化が進むにつれて、更なる物性の改善が要求されるようになってきた。
【0006】
例えば、高電流密度化や膜内水分均一化を高いレベルで達成すべく、イオン交換膜の薄膜化は、今後、一層、重要性を増すと考えられるが、このためには、イオン交換膜の機械強度を向上させる必要がある。また、膜電極接合体(MEA)を作成する際のハンドリング性や、電池に組み込む際の締め付け圧に対しても強度不足が問題となっている。同様に、長期耐久性改良の観点からも高強度化への要求が高まりつつある。延伸技術は、膜やフィルムの機械強度を向上させるための有効な手段の一つであり、延伸によって高強度のイオン交換膜を得る方法は、下記特許文献1に開示されているが、MEA作成時の熱プレス相当温度に暴露すると配向が緩和して大きな熱収縮が発生し、高強度を維持したままのMEAを得ることができなかった。
【0007】
【特許文献1】
特開昭60−149631号公報
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、高強度の膜電極接合体(MEA)を製造する方法を提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
従来、フッ素系イオン交換膜を延伸配向することにより、機械強度は上昇するが、MEA作成時の熱プレス相当温度に暴露すると配向が緩和して、熱収縮が発生して、強度が低下するという問題があった。本発明者らは、前記課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、塩置換率が1〜100%である配向膜の表面に電極触媒層を形成することにより配向緩和を防ぎ、高強度MEAを作製できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、以下のとおりである。
[1] 塩置換率が1〜100%である配向されたフッ素系イオン交換膜から膜電極接合体を製造する方法であって、
(1) 前記フッ素系イオン交換膜の表面に電極触媒層を形成する工程、及び(2) 前記電極触媒層を形成したフッ素系イオン交換膜の塩置換率を、酸との接触によって接触する前の99%以下にする工程、
からなることを特徴とする膜電極接合体の製造方法。
[2] フッ素系イオン交換膜表面に電極触媒を塗布又は噴霧することによって電極触媒層を形成することを特徴とする[1]に記載の膜電極接合体の製造方法。
[3] フッ素系イオン交換膜表面に電極触媒を熱プレスすることによって電極触媒層を形成することを特徴とする[1]に記載の膜電極接合体の製造方法。
【0011】
[4] 下記を含む工程により製造される、塩置換率が1〜100%である配向されたフッ素系イオン交換膜を用いて膜電極接合体を製造することを特徴とする[1]に記載の膜電極接合体の製造方法。
(1) イオン交換基前駆体を有するフッ素系イオン交換樹脂前駆体から、フッ素系イオン交換樹脂前駆体膜を成膜する工程、
(2) フッ素系イオン交換樹脂前駆体膜を配向させる工程、
(3) (2)で得られたフッ素系イオン交換樹脂前駆体膜を、配向状態を維持しながら拘束下で加水分解してフッ素系イオン交換樹脂膜を得る工程、及び
(4) (3)で得られたフッ素系イオン交換樹脂膜をカチオンで置換して、塩置換率が1〜100%のフッ素系イオン交換樹脂膜にする工程。
【0012】
[5] 下記を含む工程により製造される、塩置換率が1〜100%である配向されたフッ素系イオン交換膜を用いて膜電極接合体を製造することを特徴とする[1]に記載の膜電極接合体の製造方法。
(1) イオン交換基前駆体を有するフッ素系イオン交換樹脂前駆体からフッ素系イオン交換樹脂前駆体膜を成膜する工程、
(2) フッ素系イオン交換樹脂前駆体膜を加水分解してフッ素系イオン交換樹脂膜を得る工程、
(3) (2)で得られたフッ素系イオン交換樹脂膜をカチオンで置換して、塩置換率が1〜100%のフッ素系イオン交換樹脂膜にする工程、及び
(4) 前記(2)、又は(2)及び(3)の処理をされた膜を配向させる工程。
[6] [1]〜[5]のいずれか1項に記載の製造方法で製造された膜電極接合体。
[7] [6]に記載の膜電極接合体を備えていることを特徴とする固体高分子電解質型燃料電池。
【0013】
以下、本発明を詳細に説明する。
(配向されたフッ素系イオン交換膜の塩置換率)
本発明の配向されたフッ素系イオン交換膜の塩置換率は1%以上であり、好ましくは5%以上、より好ましくは10%以上、さらに好ましくは15%以上、最も好ましくは20%以上である。塩置換率が1%未満の場合は、α分散温度の温度シフトが小さく、高温において熱収縮が起こりやすく、例えば、膜電極接合体の製造収率が低下する。
【0014】
(膜電極接合体中のフッ素系イオン交換膜の塩置換率)
本発明の膜電極接合体中のフッ素系イオン交換膜の塩置換率は、酸と接触する前の99%以下であり、好ましくは90%以下、より好ましくは80%以下、さらに好ましくは70%以下、最も好ましくは60%である。塩置換率が酸と接触する前の99%より大きい場合では、イオン伝導性が低下し、膜電極接合体におけるイオン交換膜として十分な性能を持たない。
(面配向度)
本発明のフッ素系イオン交換膜の面配向度は0.0005以上であり、好ましくは0.0010以上、より好ましくは0.0015以上、最も好ましくは0.0020以上である。面配向度が0.0005未満では、機械強度が不足し、膜電極接合体におけるイオン交換膜として十分な性能を持たない。
【0015】
(膜厚)
本発明のフッ素系イオン交換膜の膜厚は1μm以上であり、好ましくは5μm以上、より好ましくは8μm以上、最も好ましくは10μm以上である。膜厚が1μm未満の場合は、水素と酸素の直接反応のような不都合が発生しやすく、そして燃料電池製造時の取り扱い時や燃料電池運転中の差圧・歪み等によって膜の損傷等も発生しやすい。一方、膜厚は500μm以下であり、好ましくは150μm以下、より好ましくは100μm以下、最も好ましくは50μm以下である。膜厚が500μmを越えると、イオン透過性が低くなるため、膜電極接合体に用いた場合に、イオン交換膜として十分な性能を発揮することができない。
【0016】
(当量重量)
本発明のフッ素系イオン交換膜の当量重量(EW)は限定されないが、好ましくは400以上、より好ましくは600以上、最も好ましくは700以上である。当量重量が低すぎると強度の低下が起きる場合がある。また、EWは、好ましくは1400以下であり、より好ましくは1200以下、最も好ましくは1000以下である。当量重量が大きくなると未配向膜でも機械強度が向上するが、同時にイオン交換基の密度が低くなるためにイオン伝導性が低下する場合がある。(MEA換算突刺強度)
本発明のMEAの換算突刺強度(乾燥状態での突刺強度を25μmあたりに換算)は限定されないが、好ましくは200g以上、より好ましくは250g以上、最も好ましくは300g以上である。換算突刺強度が200g未満になると、燃料電池運転に際して十分な耐久性が得られない場合がある。
【0017】
次に、本発明の膜電極接合体の製造方法について説明する。
I)塩置換率が1〜100%である配向されたフッ素系イオン交換膜の製造
(原料ポリマー)
本発明で使用されるフッ素系イオン交換樹脂前駆体は、一般式CF2=CF−O(CF2CFXO)n−(CF2)m−Wで表されるフッ化ビニル化合物と、一般式CF2=CFZで表されるフッ化オレフィンとの、少なくとも二元共重合体からなる。ここでXは、F原子又は炭素数1〜3のパーフルオロアルキル基、nは、0〜3の整数、mは、1〜3の整数、Zは、H、Cl、F又は炭素数1〜3のパーフルオロアルキル基である。Wは、加水分解によりCO2H又はSO3Hに転換し得る官能基であり、このような官能基としては、SO2F、SO2Cl、SO2Br、COF、COCl、COBr、CO2CH3、CO2C2H5が、好ましく使用される。
【0018】
このようなフッ素系イオン交換樹脂前駆体は、公知の手段により合成可能なものである。例えば、上記フッ化ビニル化合物をフロン等の溶媒に溶かした後、フッ化オレフィンのガスと反応させ重合する方法(溶液重合)、フッ化ビニル化合物を界面活性剤とともに水中に仕込んで乳化させた後、フッ化オレフィンのガスと反応させ重合する方法(乳化重合)、更には懸濁重合等が用いられる。
【0019】
(成膜工程)
フッ素系イオン交換樹脂前駆体を膜状に成形する方法としては、溶融成形法(Tダイ法、インフレーション法、カレンダー法等)、キャスト法等、成形法として一般的に知られている方法であればいずれも好適に用いることができる。キャスト法としては、フッ素系イオン交換樹脂を適当な溶媒に分散させたもの、及び重合反応液そのものをシート状に成形した後、分散媒を除去する方法を挙げることができる。
【0020】
Tダイ法による溶融成形を行う際の樹脂温度は100℃以上が好ましく、より好ましくは200℃以上である。樹脂の耐熱性を考慮すると、300℃以下が好ましく、より好ましくは280℃以下である。インフレーション法による溶融成形を行う際の樹脂温度は100℃以上が好ましく、より好ましくは160℃以上である。樹脂の耐熱性を考慮すると、300℃以下が好ましく、より好ましくは240℃以下である。
【0021】
これらの方法で溶融成形されたシートは、冷却ロール等を用いることによって溶融温度以下の温度にまで冷却される。前駆体膜の膜厚は、配向工程における膜厚減少を見越した上で最適の膜厚に調整することが好ましい。したがって、延伸して面配向させた際に、面配向度0.0005以上、かつ、膜厚1〜500μmの膜が得られるように、膜厚を調整する。例えば、配向工程で4×4倍延伸を行うとき、配向膜の膜厚を25μmとするためには前駆体膜の膜厚を400μm付近で調整する必要がある。
【0022】
(加水分解工程)
加水分解の方法としては、例えば、特許第2753731号明細書に記載のように、水酸化アルカリ溶液を用いて配向膜のイオン交換基前駆体を、イオン交換基の対イオンが金属塩カチオンであるイオン交換樹脂に変換し、次に、塩酸のような酸性水溶液を用いてイオン交換基の対イオンをプロトン(SO3H又はCOOH)に変換する等の方法を使用することができる。
【0023】
加水分解に際して、イオン交換基前駆体を、イオン交換基の対イオンが金属塩カチオンであるイオン交換樹脂に変換した後、金属塩カチオンの一部をプロトンに置換する。その際に、プロトンへの置換率を調節することによって、一度の加水分解で、塩置換率が1〜100%のイオン交換樹脂膜に変換することができる。また、プロトンへの置換率を調節することによって、加水分解により、一旦、塩置換率が1%未満のイオン交換樹脂膜に変換した後、後のカチオンへ置換する工程でカチオンへの置換率を調節することによって、塩置換率が1〜100%のイオン交換樹脂膜に変換することができる。
【0024】
一般的に、イオン交換膜は、イオン交換樹脂前駆体を膜状に成形した後、高温で加水分解を行うことによって製造される。したがって、本発明において、延伸を行う対象としては「加水分解前のフッ素系イオン交換樹脂前駆体」と「加水分解後のフッ素系イオン交換樹脂」に大別できるが、目的に応じていずれの膜に対しても延伸を行うことができる。
【0025】
(フッ素系イオン交換樹脂前駆体の延伸)
本発明における好ましい延伸の形態の第一は、フッ素系イオン交換樹脂前駆体に対して為されるものである。フッ素系イオン交換樹脂前駆体の延伸において特に重視されるべき点は、延伸終了に伴う配向緩和の防止である。これは次のような理由による。
一般的に、フィルムの延伸温度は粘弾性測定におけるα分散温度を参考にして設定されることが多い。α分散温度とは、ポリマー主鎖が熱運動を開始すると考えられる温度であり、延伸のようにポリマーに対して大きな歪みを与えながら加工する際の指標として、広く用いられている。
【0026】
フッ素系イオン交換樹脂前駆体のα分散温度は室温近辺に存在するため、延伸状態から拘束を外すと急速に収縮して延伸配向を失うことが多かった。本発明者らは、フッ素系イオン交換樹脂前駆体の配向緩和に関して、前駆体に特有な製造工程である加水分解に着目して、α分散温度に依らない延伸固定方法を見出した。すなわち、本発明においては、フッ素系イオン交換樹脂前駆体を延伸した後延伸配向を拘束した状態で加水分解することを特徴とする。
このような方法によって延伸固定が達成できる理由は明らかではないが、加水分解によって生成するフッ素系イオン交換樹脂のα分散温度は、前駆体よりもはるかに高く、120℃近辺に存在すると考えられているので、延伸配向を維持しながら加水分解を行うことによってその進行と共に配向膜のα分散温度が上昇する過程で主鎖の熱運動が減少し、延伸固定を達成できたのではないかと考えられる。こうした延伸固定の方法を、本発明においては、「ケン化固定」、と呼称する。
【0027】
ケン化固定が達成できる理由としては、さらに次のように考えることもできる。フッ素系イオン交換樹脂前駆体を加水分解すると多量の水を吸水するようになるが、こうした水は樹脂内部に均一に存在するのではなく、微視的な水滴を形成しつつ局所的に存在すると考えられている。このような水滴はクラスターと呼ばれ、小角X線回折や透過型電子顕微鏡によって具体的に観察することができる。1つのクラスターには複数の側鎖末端が含まれると予想されるが、フッ素系イオン交換樹脂前駆体を延伸した後、拘束を維持した状態でクラスターを形成させると、これらの側鎖末端どうしが互いに水を介して結びつく一種の架橋点として機能することが期待できる。すなわち、α分散温度の上昇に加えて、延伸配向後に形成されるクラスターが疑似架橋点として機能することにより、ケン化固定がより良好に機能するものと考えられる。
一方、ケン化固定を施さない配向膜は、拘束を解いた時、及び高温のケン化液に触れた時、において延伸配向が大きく開放されるため、強い延伸配向を維持できずに未配向膜と同程度にまで機械強度が低下する。
【0028】
(フッ素系イオン交換樹脂の延伸)
本発明における好ましい延伸の形態の第二は、フッ素系イオン交換樹脂に対して為されるものである。前記のように、フッ素系イオン交換樹脂のα分散温度は120℃近辺に存在すると考えられるために、冷却による延伸固定が容易であり、拘束を解いたあとも高い機械強度を維持することができる。特に、このような配向膜は、ケン化固定のような特殊な処理を必要としないために、一般的な延伸技術を適用することができ、燃料電池用イオン交換膜の生産性向上の観点から好ましい。すなわち、本発明においては、その好ましい延伸の形態の第二として、フッ素系イオン交換樹脂前駆体を加水分解した後に延伸することを特徴とする。
【0029】
(配向工程)
上記のとおり、延伸配向させる対象としては、「加水分解前のフッ素系イオン交換樹脂前駆体」と「加水分解後のフッ素系イオン交換樹脂」に大別できる。いずれの膜に対しても、フィルムの延伸方法として一般的に知られている方法であれば好適に用いることができるが、このうちテンターによる横1軸延伸、テンター及び縦延伸ロールによる逐次2軸延伸、同時2軸テンターによる同時2軸延伸及びインフレーション製膜装置によるブロー延伸がより好ましく、同時2軸延伸及びブロー延伸が最も好ましい。
【0030】
本発明における延伸とは、延伸応力の発生を伴う伸長を意味しており、延伸応力の発生を伴わない伸長は、拡幅、と呼称される。例えば、加水分解工程の前に配向工程を実施しない場合は、加水分解に伴う吸水によって膜が水平方向に大きく膨潤するが、この変化に追従して膜を伸長する場合は、拡幅、と考えることができる。
延伸は、膜の面配向度(ΔP)が0.0005以上、かつ、膜厚が1〜500μmとなるように、延伸倍率、延伸温度等の条件を適宜選定して行う。
【0031】
延伸倍率は、面積倍率で、下限は、好ましくは1.1倍以上、より好ましくは2倍以上、最も好ましくは4倍以上、上限は、好ましくは50倍以下、より好ましくは16倍以下、最も好ましくは9倍以下である。このうち、横方向(機械方向に対して直角な方向)の延伸倍率は、下限が、好ましくは1.1倍以上、より好ましくは1.5倍以上、最も好ましくは2倍以上、上限は、好ましくは50倍以下、より好ましくは9倍以下、最も好ましくは3倍以下である。
【0032】
延伸温度は、前駆体膜の溶融温度以下であり、下限は、好ましくは(α分散温度−100℃)以上、より好ましくは(α分散温度−80℃)以上、最も好ましくは(α分散温度−50℃)以上、上限は、好ましくは(α分散温度+100℃)以下、より好ましくは(α分散温度+80℃)以下、最も好ましくは(α分散温度+50℃)以下である。
【0033】
(塩置換工程)
ここでいう塩置換とは、フッ素系イオン交換樹脂前駆体膜の加水分解により、イオン交換基の対イオンが金属塩カチオンであるイオン交換樹脂に変換した後、金属塩カチオンの一部をプロトンに置換して、塩置換率が1%未満のイオン交換樹脂膜を製造した後に、残留するプロトンに対して行う処理である。この塩置換によって、塩置換率が1〜100%のフッ素系イオン交換膜が製造される。
【0034】
本発明で使用されるカチオンの種類としては、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属、遷移金属イオン等、イオン交換基の対イオンがプロトンのときに示すα分散温度より、高温にシフトするカチオンであればどのような種類でも用いることができる。α分散温度の温度シフトは、置換するカチオンの種類や量によって制御することができる。特に、イオン価数が大きいほどその効果が大きい。塩置換率に関しては、その塩置換率が大きいほどα分散温度の温度シフトが大きくなる。したがって、多価イオンで、かつ、高い塩置換率であるほど良好な熱寸法安定性改善を達成できるために好ましい。
【0035】
塩置換の方法としては、フッ素系イオン交換膜を、置換するカチオンを所定の濃度含む塩水溶液に浸漬、又は塩水溶液を塗布若しくは噴霧することによって行うことができる。
塩水溶液の濃度は、以下のような方法で調整することができる。例えば、対イオンをn価のカチオン、塩置換率をX%に塩置換すると仮定して説明する。まず、対イオンがプロトンのフッ素系イオン交換膜の乾燥重量W(g)を測定する。次に、このフッ素系イオン交換膜の当量重量EW(g/eq)を測定する。これらより下記の式を用いて置換基量A(mol)を求める。
A=W/EW
【0036】
この置換基量Aが、このフッ素系イオン交換膜がもつ全イオン交換基量である。塩置換率X%とは、全イオン交換基のX%の対イオンがプロトン以外の一種類以上のカチオンで置換され、残りの(100−X)%の対イオンがプロトンであることを意味する。対イオンをn価のカチオン、塩置換率をX%に塩置換するときに必要なカチオン塩の重量C(g)は、下記の式を用いて求める。
C=A×X/100×D/n
D:カチオン塩の分子量(g/mol)
【0037】
カチオン塩Cを500mlの水に溶解させて、塩水溶液の濃度を調整する。このようして作成した塩水溶液に、イオン交換基の対イオンがプロトンのフッ素系イオン交換膜を浸漬させることで、塩置換を行うことができる。浸漬温度は、多くの場合は室温であれば十分に置換することができ、塩置換時間を短縮したい場合は塩水溶液を加熱してもよい。浸漬時間は塩水溶液の濃度、浸漬温度に依存するが、概ね1分間〜12時間の範囲で好適に塩置換を実施することができる。塩置換が終了した後、膜をよく水洗し、乾燥させる。
上記と同様な方法で、イオン交換基の対イオンがプロトン及びそれ以外のカチオンからなるフッ素イオン交換膜を所定の濃度の酸性水溶液に浸漬させることによっても塩置換したイオン交換膜を得ることができる。
【0038】
II)電極触媒層の形成方法
本発明において、塩置換率が1〜100%である配向されたフッ素系イオン交換膜表面に電極触媒層を形成することは、次の点で有用である。
対イオンがプロトンであるフッ素系イオン交換膜は吸水性が高いために、電極ペーストを塗布することにより膜が膨潤して皺が発生し、均一に電極を塗布することが困難な場合があった。対イオンをカチオンで塩置換することにより吸水性が低下するために膜の膨潤が抑えられ、均一に電極ペーストを塗布できる可能性がある。また、このように、直接、電極ペーストをフッ素系イオン交換膜に塗布することにより、膜と電極の密着性が向上するとともに、均一な電極触媒層を効率的に形成できる可能性がある。さらには、対イオンがプロトンの場合、α分散温度が120〜140℃付近にあり、その温度は電極触媒乾燥温度又は電極触媒を熱転写する温度にあたる。その熱により配向の緩和がおこり、熱寸法安定性に乏しいため、MEAの作成が困難であった。しかし、対イオンをカチオンで塩置換することにより、α分散温度は高温にシフトし、良好な熱寸法安定性を示すため、歩留りよくMEAを作成できると考えることができる。また、より高温で処理できるため、膜と電極の密着性の向上が期待できる。
【0039】
フッ素系イオン交換膜を固体高分子電解質型燃料電池に用いる場合、アノードとカソード2種類の電極が膜の両側に接合されたMEAとして使用される。
電極触媒は、触媒金属の微粒子とこれを担持した導電剤からなり、必要に応じて撥水剤が含まれる。電極に使用される触媒としては、水素の酸化反応及び酸素による還元反応を促進する金属であれば限定されず、白金、金、銀、パラジウム、イリジウム、ロジウム、ルテニウム、鉄、コバルト、ニッケル、クロム、タングステン、マンガン、バナジウム又はそれらの合金が挙げられる。これらの中では、主として白金が用いられる。導電剤としては、電子伝導性物質であればいずれでもよく、例えば、各種金属や炭素材料を挙げることができる。炭素材料としては、例えば、ファーネスブラック、チャンネルブラック、アセチレンブラック等のカーボンブラック、活性炭、黒鉛等が挙げられ、これらを単独又は混合して使用される。
【0040】
撥水剤としては、撥水性を有する含フッ素樹脂が好ましく、耐熱性及び耐酸化性に優れたものがより好ましい。例えば、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体を挙げることができる。
前記電極とフッ素系イオン交換膜よりMEAを作成するには、次のような方法が行われる。フッ素系イオン交換樹脂をアルコールと水の混合溶液に溶解したものに、電極物質となる白金担持カーボンを分散させてペースト状にする。これをフッ素系イオン交換膜に一定量、直接、スクリーン印刷機を使用して塗布する。この他に、電極ペーストを塗布する方法としては、ダイコータを用いる方法等を用いることができる。電極ペーストを塗布した後、通常は120℃以上、好ましくは160℃以上、より好ましくは180℃以上で乾燥させて、電極触媒層を形成する。
【0041】
前記以外のMEAの製作方法としては、次のような方法が行われる。フッ素系イオン交換樹脂をアルコールと水の混合溶液に溶解したものに電極物質となる白金担持カーボンを分散させてペースト状にする。これをポリテトラフルオロエチレン(PTFE)シートに一定量塗布して乾燥させる。電極ペーストをPTFEシートに塗布する方法としては、スクリーン印刷機やダイコータを用いる方法等を用いることができる。次に、PTFEシートの塗布面を向かい合わせにして、その間にフッ素系イオン交換膜を挟み込み、熱プレスにより接合して、電極触媒層を形成する。熱プレス温度は、フッ素系イオン交換膜の種類によるが、通常は100℃以上であり、好ましくは130℃以上、より好ましくは150℃以上である。
この他の方法として、上記のようにペースト状にした電極触媒を通常のスプレー等を用いてフッ素系イオン交換膜に直接噴霧して触媒層を形成する方法等も用いることができる。噴霧時間と噴霧量を調節することで均一な電極触媒層を形成することができる。
【0042】
III)酸との接触
燃料電池用途として使用するには、電解質であるフッ素系イオン交換膜がプロトン伝導性を有する必要性がある。そのために、本発明では、酸との接触によって、フッ素系イオン交換膜の塩置換率を接触する前の99%以下にする。電極触媒とフッ素系イオン交換膜を接合した後に酸と接触させることによって、電極接合時に受ける熱履歴による膜の含水率及びイオン伝導性の低下を回復させることができる。
【0043】
酸と接触させる方法としては、塩酸のような酸性水溶液に浸漬又は酸性水溶液を噴霧する公知の方法を使用することができる。使用する酸性水溶液の濃度は、イオン伝導性の低下状況、浸漬温度、浸漬時間等にも依存するが、例えば、0.0001〜5規定の酸性水溶液を好適に用いることができる。浸漬温度は多くの場合は室温であれば十分に転化することができ、浸漬時間を短縮する場合は、酸性水溶液を加温してもよい。浸漬時間は、酸性水溶液の濃度及び浸漬温度に依存するが、概ね1分間〜16時間の範囲で好適に実施することができる。
【0044】
燃料電池運転の際に、膜の内部を移動するプロトンが酸として機能することによって置換したカチオンが洗い流され、より高いイオン伝導性を発現させる方法等も用いることができる。
このようにして製造された膜電極接合体を用いて燃料電池を製造する方法を説明する。
固体高分子電解質型燃料電池は、MEA、集電体、燃料電池フレーム、ガス供給装置等より構成される。このうち、集電体(バイポーラプレート)は、表面等にガス流路を有するグラファイト製又は金属製のフランジのことであり、電子を外部負荷回路へ伝達する他に、水素や酸素をMEA表面に供給する流路としての機能を持っている。こうした集電体の間にMEAを挿入して複数積み重ねることにより、燃料電池を作成することができる。
【0045】
燃料電池の運転は、一方の電極に水素を、他方の電極に酸素又は空気を供給することによって行われる。燃料電池の作動温度は、高温であるほど触媒活性が上がるために好ましいが、通常は水分管理が容易な50℃〜100℃で運転させることが多い。一方、本発明のような補強されたイオン交換膜は、高温高湿強度の改善によって100℃〜150℃で作動できる場合がある。酸素や水素の供給圧力は、高いほど燃料電池出力が高まるため好ましいが、膜の破損等によって両者が接触する確率も増加するため適当な圧力範囲に調整することが好ましい。
【0046】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明は実施例に制限されるものではない。
本発明において用いられる特性の評価方法は次の通りである。
(イ)塩置換率
イオン交換膜およそ2〜10cm2を、25℃、飽和NaCl水溶液30mlに浸漬し、攪拌しながら30分間放置した後、飽和NaCl水溶液中のプロトンをフェノールフタレインを指示薬として0.01N水酸化ナトリウム水溶液を用いて中和滴定する。このとき、中和に要した水酸化ナトリウムの物質量をM2(mmol)とする。
【0047】
次に、中和滴定後のイオン交換膜を25℃、2Nの塩酸50mlに30分間以上浸漬し、イオン交換基の対イオンをプロトンにする。このイオン交換膜を25℃、飽和NaCl水溶液30mlに浸漬し、攪拌しながら30分間放置した後、飽和NaCl水溶液中のプロトンをフェノールフタレインを指示薬として0.01N水酸化ナトリウム水溶液を用いて中和滴定する。このとき、中和に要した水酸化ナトリウムの物質量をM1(mmol)とする。これらより、下記式を用いて塩置換率S(%)を求める。
S=(M1−M2)/M1×100
【0048】
この他の方法としては、飽和NaCl水溶液に浸漬して溶出させたイオンを誘導結合型プラズマ(ICP)により定量する方法や、プロトン核磁気共鳴(H−NMR)分析を用いて、イオン交換膜と2Nの塩酸50mlに30分間以上浸漬させてイオン交換基の対イオンをプロトンにしたイオン交換膜のH含量を求めて定量する方法も用いることができる。
【0049】
(ロ)膜厚
イオン交換膜を23℃、65%の恒温室で1時間以上放置した後、膜厚計(東洋精機製作所:B−1)を用いて測定する。
(ハ)当量重量
イオン交換基の対イオンがプロトンのイオン交換膜およそ2〜10cm2を25℃、飽和NaCl水溶液30mlに浸漬し、攪拌しながら30分間放置した後、飽和NaCl水溶液中のプロトンをフェノールフタレインを指示薬として0.01N水酸化ナトリウム水溶液を用いて中和滴定する。中和後、得られたイオン交換基の対イオンがナトリウムイオンのイオン交換膜を純水ですすいだ後、真空乾燥して秤量する。中和に要した水酸化ナトリウムの物質量をM(mmol)、イオン交換基の対イオンがナトリウムイオンのイオン交換膜の重量をW(mg)とし、下記式より当量重量EW(g/eq)を求める。
EW=(W/M)−22
【0050】
(ニ)メルトインデックス
JIS K−7210に基づき、温度270℃、荷重2.16kgで測定したフッ素系イオン交換樹脂前駆体のメルトインデックスをMI(g/10分)とする。
(ホ)実延伸倍率
延伸前前駆体膜の膜厚Tbと換算突刺強度測定時の膜厚Taから、下記式を用いて実延伸倍率を求める。
実延伸倍率=(Tb/Ta)0.5
【0051】
(ヘ)面配向度
イオン交換膜を23℃、65%の恒温室で12時間以上放置した後、王子計測機器社製の自動複屈折計KOBRA−21ADHを用い、それぞれ3方向の屈折率を測定する。
nα:フィルムの主配向方向の屈折率
nβ:フィルムの主配向方向と直角な方向の屈折率
nγ:フィルムの厚み方向の屈折率
これらより、下記式を用いて面配向度ΔPを求める。
ΔP=(nα+nβ)/2−nγ
【0052】
(ト)MEA換算突刺強度
MEAを23℃、65%の恒温室で12時間以上放置した後、ハンディー圧縮試験器(カトーテック社製:KES−G5)を用いて針先端の曲率半径0.5mm、突刺速度2mm/secの条件で突刺試験を行い、最大突刺荷重を突刺強度(g)とした。また、突刺強度に25(μm)/MEA厚(μm)を乗じることによってMEA換算突刺強度(g/25μm)とする。
【0053】
【実施例1】
(イオン交換樹脂前駆体に対する延伸、塗布)
一般式CF2=CF−O(CF2CFXO)n−(CF2)m−Wで表されるフッ化ビニル化合物と、一般式CF2=CFZで表されるフッ化オレフィンとの共重合体(但し、Xは、CF3、nは1、mは2、ZはF、WはSO2 Fである。)からなるフッ素系イオン交換樹脂前駆体(EW:950、MI:20)を、Tダイ法を用いて成膜し、厚さ110μmの前駆体膜とした。この前駆体膜を簡易式小型延伸機を用いて、延伸温度25℃で1.9×1.9倍に同時二軸延伸し、配向膜とした。延伸後、簡易式小型延伸機に拘束したままの状態で配向膜を95℃に加温した加水分解浴(DMSO:KOH:水=5:30:65)に15分間浸漬し、イオン交換基の対イオンがカリウムイオンで100%塩置換されたフッ素系イオン交換膜を得た。
【0054】
これを充分に水洗したあと、膜を乾燥させた。乾燥膜を拘束から外して、片面にイオン交換基の対イオンがプロトンであるフッ素系イオン交換樹脂を水とアルコールの混合溶液に溶解したものに白金担持カーボンを分散させてペースト状にしたものを直接スクリーン印刷で塗布し、180℃、1時間加熱乾燥させた。同様に、もう片方の面にもペースト状の電極触媒を塗布乾燥させたあと、1M硫酸中で15分煮沸することによりイオン交換基の対イオンをプロトンに転化した。これを充分に水洗したあと、乾燥させ、厚さ60.7μmのMEAを得た。得られたMEAについて諸特性試験を行った。その結果を表1に示す。
【0055】
【実施例2】
(イオン交換樹脂前駆体に対する延伸、熱プレス)
実施例1と同様の方法を用いて、2.0×2.0倍に同時二軸延伸したイオン交換基の対イオンがカリウムイオンで100%塩置換されたフッ素系イオン交換膜を得た。次に、イオン交換基の対イオンがプロトンであるフッ素系イオン交換樹脂をアルコールと水の混合溶液に溶解したものに、電極物質となる白金担持カーボンを分散させてペースト状にした。これをPTFEシートに一定量塗布して乾燥させ、PTFEシートの塗布面を向かい合わせにしてその間にフッ素系イオン交換膜を挟み込み、熱プレスにより180℃で接合した。次いで、これを1M硫酸中で15分煮沸することによってイオン交換基の対イオンをプロトンに転化した。これを充分に水洗したあと、乾燥させ、厚さ67.0μmのMEAを得た。得られたMEAの諸特性の測定結果を表1に示す。
【0056】
【実施例3】
(イオン交換樹脂に対する延伸、熱プレス)
実施例1で述べたフッ化ビニル化合物とフッ化オレフィンとの共重合体(但し、XはCF3、nは1、mは2、ZはF、WはSO2Fである。)からなるフッ素系イオン交換樹脂前駆体(EW:950、MI:20)を、Tダイ法を用いて成膜し、厚さ110μmの前駆体膜とした。この前駆体膜を95℃に加温した加水分解浴(DMSO:KOH:水=5:30:65)に1時間浸漬し、イオン交換基の対イオンがカリウムイオンのフッ素系イオン交換膜を得た。これを充分に水洗した後、65℃に加温した2Nの塩酸浴に16時間以上浸漬し、イオン交換基の対イオンがプロトンのフッ素系イオン交換膜を得た。これを充分に水洗した後、膜を乾燥した。乾燥膜を簡易式小型延伸機を用いて延伸温度125℃で2.0×2.0倍に同時二軸延伸し配向膜とした。延伸冷却後、簡易式小型延伸機より取り外した後、配向膜を、25℃、塩化カルシウム水溶液に5分間以上浸漬し、イオン交換基の対イオンがカルシウムイオンで100%塩置換されたフッ素系イオン交換膜を得た。この膜を充分に水洗した後、乾燥した。次に、イオン交換基の対イオンがプロトンであるフッ素系イオン交換樹脂をアルコールと水の混合溶液に溶解したものに、電極物質となる白金担持カーボンを分散させてペースト状にした。これをPTFEシートに一定量塗布して乾燥させ、このPTFEシートの塗布面を向かい合わせにして、その間にフッ素系イオン交換膜を挟み込み、熱プレスにより180℃で接合した。次いで、これを1M硫酸中で15分煮沸することによりイオン交換基の対イオンをプロトンに転化した。これを充分に水洗したあと、乾燥させ、厚さ66.0μmのMEAを得た。得られたMEAの諸特性の測定結果を表1に示す。
【0057】
【比較例1】
(未配向膜、熱プレス)
実施例1と同様のフッ素系イオン交換樹脂前駆体(EW:950、MI:20)をTダイ法を用いて成膜し、未配向の状態で加水分解を行なうことによってイオン交換基の対イオンがプロトンのフッ素系イオン交換膜を得た。次に、イオン交換基の対イオンがプロトンであるフッ素系イオン交換樹脂をアルコールと水の混合溶液に溶解したものに電極物質となる白金担持カーボンを分散させてペースト状にした。これをPTFEシートに一定量塗布して乾燥させ、PTFEシートの塗布面を向かい合わせにしてその間にフッ素系イオン交換膜を挟み込み、熱プレスにより180℃で接合した。得られたMEAの諸特性の測定結果を表2に示す。
【0058】
【比較例2】
(イオン交換樹脂前駆体に対する延伸、塩置換率0%、熱プレス)
実施例1と同様の方法を用いて2.0×2.0倍に同時二軸延伸したイオン交換基の対イオンがカリウムイオンで100%塩置換されたフッ素系イオン交換膜を得た。これをよく水洗した後、65℃に加温した2Nの塩酸浴に15分間浸漬し、イオン交換基の対イオンがプロトンのフッ素系イオン交換膜を得た。これを充分に水洗した後、膜を乾燥した。乾燥膜を拘束から外して、イオン交換基の対イオンがプロトンであるフッ素系イオン交換樹脂をアルコールと水の混合溶液に溶解したものに電極物質となる白金担持カーボンを分散させてペースト状にした。これをPTFEシートに一定量塗布して乾燥させ、PTFEシートの塗布面を向かい合わせにしてその間にフッ素系イオン交換膜を挟み込み、熱プレスにより180℃で接合した。得られたMEAの諸特性の測定結果を表2に示す。なお、表中の「−」は未測定を意味する。
【0059】
【表1】
【0060】
【表2】
【0061】
【発明の効果】
本発明の膜電極接合体は、機械強度に優れ、長期耐久性の向上を満足させることができるものであり、産業上極めて有用である。また強度が高いため、ハンドリング性が良好であり、燃料電池組み込み時における歩留まり向上に対して効果が著しい。
Claims (7)
- 塩置換率が1〜100%である配向されたフッ素系イオン交換膜から膜電極接合体を製造する方法であって、
(1) 前記フッ素系イオン交換膜の表面に電極触媒層を形成する工程、及び
(2) 前記電極触媒層を形成したフッ素系イオン交換膜の塩置換率を、酸との接触によって接触する前の99%以下にする工程、
からなることを特徴とする膜電極接合体の製造方法。 - フッ素系イオン交換膜表面に電極触媒を塗布又は噴霧することによって電極触媒層を形成することを特徴とする請求項1記載の膜電極接合体の製造方法。
- フッ素系イオン交換膜表面に電極触媒を熱プレスすることによって電極触媒層を形成することを特徴とする請求項1記載の膜電極接合体の製造方法。
- 下記を含む工程により製造される、塩置換率が1〜100%である配向されたフッ素系イオン交換膜を用いて膜電極接合体を製造することを特徴とする請求項1記載の膜電極接合体の製造方法。
(1) イオン交換基前駆体を有するフッ素系イオン交換樹脂前駆体から、フッ素系イオン交換樹脂前駆体膜を成膜する工程、
(2) フッ素系イオン交換樹脂前駆体膜を配向させる工程、
(3) (2)で得られたフッ素系イオン交換樹脂前駆体膜を、配向状態を維持しながら拘束下で加水分解してフッ素系イオン交換樹脂膜を得る工程、及び
(4) (3)で得られたフッ素系イオン交換樹脂膜をカチオンで置換して、塩置換率が1〜100%のフッ素系イオン交換樹脂膜にする工程。 - 下記を含む工程により製造される、塩置換率が1〜100%である配向されたフッ素系イオン交換膜を用いて膜電極接合体を製造することを特徴とする請求項1記載の膜電極接合体の製造方法。
(1) イオン交換基前駆体を有するフッ素系イオン交換樹脂前駆体からフッ素系イオン交換樹脂前駆体膜を成膜する工程、
(2) フッ素系イオン交換樹脂前駆体膜を加水分解してフッ素系イオン交換樹脂膜を得る工程、
(3) (2)で得られたフッ素系イオン交換樹脂膜をカチオンで置換して、塩置換率が1〜100%のフッ素系イオン交換樹脂膜にする工程、及び
(4) 前記(2)、又は(2)及び(3)の処理をされた膜を配向させる工程。 - 請求項1〜5のいずれか1項に記載の製造方法で製造された膜電極接合体。
- 請求項6記載の膜電極接合体を備えていることを特徴とする固体高分子電解質型燃料電池。
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