JP2004149863A - プレス成形性および光沢度の優れた電池缶用表面処理鋼板およびその製造方法 - Google Patents
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Abstract
【目的】電池缶の製造工程において、連続プレス成形性に優れ、コイニング加工あるいは洗浄工程等での疵の発生が抑制され良好な光沢を呈する電池缶用表面処理鋼板を得る。
【構成】表面粗さがRa0.050μm以下のフェライト系ステンレス鋼板またはオーステナイト系ステンレス鋼板のめっき原板に、膜厚1〜5μmのNiめっき層が形成され、Niめっき層に伸び率0.6〜1.5%のブライト調質圧延が施されたプレス成形性および光沢度の優れた電池缶用表面処理鋼板である。
【選択図】 図2
【構成】表面粗さがRa0.050μm以下のフェライト系ステンレス鋼板またはオーステナイト系ステンレス鋼板のめっき原板に、膜厚1〜5μmのNiめっき層が形成され、Niめっき層に伸び率0.6〜1.5%のブライト調質圧延が施されたプレス成形性および光沢度の優れた電池缶用表面処理鋼板である。
【選択図】 図2
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、リチウムボタン電池缶や電池ケース等に使用されるプレス成形性および光沢度の優れた電池缶用表面処理鋼板およびその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
リチウムボタン電池缶や電池ケース用の素材としては、耐食性及び低接触抵抗に優れるNiめっきステンレス鋼板が使用されており、見栄えを良くするために光沢性のあるNiめっき鋼板が使用されている。
このようなNiめっき鋼板を素材としてプレス成形やコイニングとよばれる加工が施されてリチウムボタン電池缶等が製造されている。
特開2000−282290号公報には、表面粗さがRa0.050μm以下のフェライト系ステンレス鋼板またはオーステナイト系ステンレス鋼板をめっき原板としたNiめっきステンレス鋼板を伸び率0.2〜1%でブライト調圧し、良好な光沢および低接触抵抗を有する経時変化の少ないNiめっきステンレス鋼板の製造方法が開示されている。
また、特開2002−155394号公報には、Niめっき鋼板に圧下率0.1〜5%の調質圧延を施す電池ケース用表面処理鋼板の製造方法が開示されている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、特開2000−282290号公報に開示されている製造範囲で製造される鋼板であっても、Niめっき鋼板の表面光沢度のばらつきや、プレス成形後のコイニング加工や洗浄工程においてNiめっき鋼板の表面に疵が発生する場合があった。さらに電池缶等のプレス成形の際に、連続プレス回数が伸びないといった問題があった。
特開2002−143903号公報には、耐食性や光沢性の向上についての手段は開示されているものの、電池缶等の製造工程における連続プレス成形性やコイニング加工あるいは洗浄工程で発生する疵の問題については触れられていない。
【0004】
本発明は、電池缶等の製造工程において連続プレス成形性に優れ、コイニング加工あるいは洗浄工程での疵の発生が抑制され良好な光沢を呈する電池缶用表面処理鋼板を得ることを目的としている。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明は上記目的を達成するために、表面粗さがRa0.050μm以下のフェライト系ステンレス鋼板またはオーステナイト系ステンレス鋼板のめっき原板に、膜厚1〜5μmのNiめっき層が形成され、Niめっき層に伸び率0.6〜1.5%のブライト調質圧延が施された電池缶用表面処理鋼板を提供する。
【0006】
本発明の電池缶用表面処理鋼板は、表面粗さがRa0.050μm以下のフェライト系ステンレス鋼板を原板として、陰極析出効率15〜30%のNiめっき浴等使用して膜厚0.02〜0.25μmのNiストライクめっき層を鋼板表面に形成し、次いで陰極析出効率90%以上のNiめっき浴等を使用して膜厚1〜5μmのNiめっき層を形成して、表面光沢度400以上としたNiめっきステンレス鋼板に伸び率0.6〜1.5%のブライト調質圧延を施して製造することができる。
【0007】
また、本発明の電池缶用表面処理鋼板は、表面粗さがRa0.050μm以下のオーステナイト系ステンレス鋼板を原板として、陰極析出効率15〜65%のNiめっき浴等を使用して膜厚0.02〜0.25μmのNiストライクめっき層を鋼板表面に形成し、次いで陰極析出効率90%以上のNiめっき浴等を使用して膜厚1〜5μmのNiめっき層を形成して、表面光沢度400以上としたNiめっきステンレス鋼板に伸び率0.6〜1.5%のブライト調質圧延を施して製造することができる。
【0008】
なお、本発明では、Niめっき浴として全硫酸塩浴を用いてめっきすることが好ましい。
【0009】
【発明の実施の形態】
発明者らは、電池缶等の製造工程において、Niめっき鋼板のプレス成形の際の連続プレス成形性の劣化やプレス成形後のコイニング加工および洗浄工程の際にNiめっき鋼板の表面に発生する疵の原因を詳細に調査した結果、鋼板表面より極微量ずつ剥離しためっき金属がプレス金型やポンチ部材に突起状に蓄積されることに起因していることを突き止めた。
このようなNiめっき鋼板表面からのめっき金属の剥離は、めっき層の硬さが軟質な場合に顕著に認められた。
プレス金型やポンチ部材等の表面に金属粉やめっき金属等の異物が堆積した状態でプレス成形やコイニング加工を行うと、素材であるNiめっき鋼板に疵が発生し易くなるのでプレス金型やポンチ等の研磨が必要となるが、本発明の電池缶用表面処理鋼板を素材とした場合には、労力と時間を要するプレス金型やポンチ等の研磨頻度を低減することが可能となる。
【0010】
また、本発明者らは、電池缶に要求される光沢性、接触抵抗等に及ぼす素材、めっき条件、ブライト調質圧延等の影響を調査検討した結果、めっき原板として使用されるステンレス鋼板の表面粗さ、陰極析出効率及びブライト調質圧延時の伸び率等によりめっき層の光沢度、接触抵抗及びプレス成形性等が変動することを知見した。
とくに本発明で規定する適切なブライト調質圧延を施すことで、Niめっき鋼板をプレス成形する際の連続プレス成形性やプレス成形後のコイニング加工および洗浄工程の際に発生する疵が抑制されることを見出した。
【0011】
[めっき原板の表面粗さ]
Niめっき用原板として使用されるステンレス鋼板の表面粗さが大きいと、Niストライクめっきを施しても十分に平滑化されず、Niストライクめっき層の上に形成されるNiめっき層の電析粒が大きくなる。その結果、光沢性のあるNiめっき層が得られない。
Niストライクめっきによる平滑化作用は、フェライト系及びオーステナイト系ステンレス鋼板共に表面粗さがRa0.050μm以下にすることにより達成され、Ra0.050μmを超える表面粗さでは、ストライクめっき及び本めっきの膜厚や陰極析出効率を変化させても良好な光沢が得られない。
【0012】
[Niストライクめっき]
フェライト系ステンレス鋼板でNiめっき層の表面に光沢性を付与するためには、ストライクめっき浴の陰極析出効率を15〜30%に調整することが必要である。
15%未満の陰極析出効率では、ステンレス鋼板表面における水素の還元反応が激しくなり、角状結晶としてNiストライクめっき層が電解析出し、めっき膜厚,電流密度等のめっき条件を変化させても十分な平滑化作用が得られない。そのため、Niストライクめっき層の上に形成される厚膜Niめっき層は、Niストライクめっき層の電析形態に影響され、光沢性に劣る白味がかった表面を呈する。
逆に陰極析出効率が30%を超えると、ステンレス鋼板表面における水素の還元反応による活性化が弱まり、鋼板に対するNiストライクめっき層の密着性が低下する。
【0013】
また、オーステナイト系ステンレス鋼板でNiめっき層の表面に光沢性を付与するためには、ストライクめっき浴の陰極析出効率を15〜65%の範囲に調整する。 陰極析出効率が15%未満では、フェライト系ステンレス鋼と同様に十分な平滑化作用が得られず、65%を超える陰極析出効率では、鋼板に対するNiストライクめっき層の密着性が低下する。
Niストライクめっき層は、0.02〜0.25μm(好ましくは0.05〜0.15μm)の膜厚でステンレス鋼板表面に形成される。
膜厚が0.02μmに達しないNiストライクめっき層では、均一なめっきを施すことが困難になり良好なめっき密着性が得られない。しかし、Niストライクめっき層は陰極析出効率の低いめっき浴で形成されるため、0.25μmを超える膜厚になるとNiストライクめっき面の角状電析物が粗大化し易いので、粗大化した角状電析物がNiストライクめっき層の上に形成されるNiめっき層に悪影響を及ぼし、白味を帯び光沢度の低いめっき面が形成される原因となる。
【0014】
[Niめっき]
Niストライクめっき層の上に形成されるNiめっき層は、全硫酸塩からなるめっき浴等を用いて90%以上の陰極析出効率で形成される。
陰極析出効率が90%を下回ると電析粒が角状結晶になり、めっき面の光沢度が400未満となり、その後のブライト調質圧延で光沢性を付与するのが困難となる。
また、陰極析出効率の低いめっき浴を用いたNiめっき層の形成は、工業的規模で連続めっきする際の生産性を低下させることにもなる。
Niめっき層は、過酷な環境においても低接触抵抗を維持するために1μm以上の膜厚で形成することが好ましい。1μm未満の膜厚では酸化による影響が大きくなり、過酷な環境に曝される雰囲気で長時間使用すると接触抵抗が上昇する。また、5μmを超える厚めっきは、高価なNiを多量に消費することから経済的でない。
【0015】
[ブライト調質圧延]
本発明で規定する膜厚のNiストライクめっき層を鋼板表面に形成し、その上にNiめっき層を形成した鋼板のめっき層表面は400以上の光沢度を呈する。このNiめっきステンレス鋼板に320番手以上の仕上げロールを用いた軽伸び率0.6〜1.5%のブライト調質圧延を施すと、光沢剤を添加しためっき浴で得られる光沢Niめっきステンレス鋼板の表面光沢度である1000以上のレベルの光沢度が得られ、ことときNiめっき層硬度はHv320〜380の範囲に調整される。
めっき層表面の光沢度が400未満のNiめっきステンレス鋼にブライト調質圧延を施して光沢Niめっきレベルの光沢度を得ることは困難であり、高伸び率でブライト調質圧延を施してしまうとめっき鋼板の機械的特性(0.2%耐力や伸び)が劣化してしまう。
【0016】
ブライト調質圧延時の伸び率が0.6%未満では、目標とする光沢度やめっき層の硬さが得られず、連続プレス成形の回数を重ねていくうちに鋼板よりめっき金属が極微量ずつ剥離することになる。
また、伸び率が1.5%を超えると、目標とする光沢度やめっき層の硬さが得られる場合もあるが、効果が飽和する傾向にあり、めっき鋼板の機械的特性(0.2%耐力や伸び)が劣化する方向にあるためプレス成形性はかえって下降するようになる。
【0017】
[実施例]
表面粗さRa0.046μmのSUS430ステンレス鋼板及びRa0.043μmのSUS304ステンレス鋼板をめっき原板とし、陰極析出効率がSUS430では約30%,SUS304では約60%の全硫酸塩めっき浴で電流密度0.5kA/m2 ,めっき膜厚0.2μmのストライクめっきを施した。
同じく全硫酸塩からなる析出効率90%以上のめっき浴を用い、ストライクめっき層上に電流密度1.0kA/m2 で膜厚3μmのNiめっき層を形成した。得られたNiめっき鋼板の表面光沢度は520であった。
これらNiめっき鋼板のめっき層表面に光沢性を付与するため320番手仕上げロールを用いてブライト調質圧延の伸び率を変化させた。
【0018】
その結果、圧延後のめっき層表面の光沢度を1000以上とするためには、ブライト調質圧延の伸び率を0.2%以上にする必要があることがわかった。
光沢度が目標範囲となる条件下で、ブライト調質圧延の伸び率を0.4%としたときのめっき層硬さは図1に示すようにビッカース硬さ(Hv)で297であり、このNiめっき鋼板を使用して電池缶にプレス成形したところ、図2に示すように表面に疵が発生するまでの連続プレス回数が5000回以下という少ない回数ですでにめっき鋼板の表面に疵が発生しているのが確認された。
【0019】
一方、ブライト調質圧延の伸び率を0.9%としたときのめっき層硬さは図1よりビッカース硬さ(Hv)で365であり、このNiめっき鋼板を使用して電池缶にプレス成形したところ、図2に示すように表面に疵が発生するまでの連続プレス回数は30000回程度まで大幅に上昇しており、疵の発生が大幅に抑制されたことがわかる。
また、ブライト調質圧延の伸び率を1.5%としたときのめっき層硬さは図1よりビッカース硬さ(Hv)で373であり、このNiめっき鋼板を使用して電池缶にプレス成形したところ、図2に示すように表面に疵が発生するまでの連続プレス回数は35000回程度までさらに上昇しており、疵の発生がさらに抑制されたことがわかる。
しかし、ブライト調質圧延率の上昇による疵発生の抑制効果は飽和傾向にあり、ブライト調質圧延の伸び率0.9%の結果に比べて改善の割合が小さくなっていた。
【0020】
【発明の効果】
以上に説明したように、ブライト調質圧延の伸び率を適切な範囲とし、めっき層の硬さを調整した本発明の電池缶用表面処理鋼板は、連続プレス成形性に優れ、コイニング加工あるいは洗浄工程で生じていた疵の発生が抑制され良好な光沢性を有している。プレス金型やポンチ部材の手入れ研磨等の頻度も低減できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】ブライト調質圧延の伸び率とめっき層硬度の関係を示した図
【図2】めっき層硬度と連続プレス回数の関係を示した図
【発明の属する技術分野】
本発明は、リチウムボタン電池缶や電池ケース等に使用されるプレス成形性および光沢度の優れた電池缶用表面処理鋼板およびその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
リチウムボタン電池缶や電池ケース用の素材としては、耐食性及び低接触抵抗に優れるNiめっきステンレス鋼板が使用されており、見栄えを良くするために光沢性のあるNiめっき鋼板が使用されている。
このようなNiめっき鋼板を素材としてプレス成形やコイニングとよばれる加工が施されてリチウムボタン電池缶等が製造されている。
特開2000−282290号公報には、表面粗さがRa0.050μm以下のフェライト系ステンレス鋼板またはオーステナイト系ステンレス鋼板をめっき原板としたNiめっきステンレス鋼板を伸び率0.2〜1%でブライト調圧し、良好な光沢および低接触抵抗を有する経時変化の少ないNiめっきステンレス鋼板の製造方法が開示されている。
また、特開2002−155394号公報には、Niめっき鋼板に圧下率0.1〜5%の調質圧延を施す電池ケース用表面処理鋼板の製造方法が開示されている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、特開2000−282290号公報に開示されている製造範囲で製造される鋼板であっても、Niめっき鋼板の表面光沢度のばらつきや、プレス成形後のコイニング加工や洗浄工程においてNiめっき鋼板の表面に疵が発生する場合があった。さらに電池缶等のプレス成形の際に、連続プレス回数が伸びないといった問題があった。
特開2002−143903号公報には、耐食性や光沢性の向上についての手段は開示されているものの、電池缶等の製造工程における連続プレス成形性やコイニング加工あるいは洗浄工程で発生する疵の問題については触れられていない。
【0004】
本発明は、電池缶等の製造工程において連続プレス成形性に優れ、コイニング加工あるいは洗浄工程での疵の発生が抑制され良好な光沢を呈する電池缶用表面処理鋼板を得ることを目的としている。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明は上記目的を達成するために、表面粗さがRa0.050μm以下のフェライト系ステンレス鋼板またはオーステナイト系ステンレス鋼板のめっき原板に、膜厚1〜5μmのNiめっき層が形成され、Niめっき層に伸び率0.6〜1.5%のブライト調質圧延が施された電池缶用表面処理鋼板を提供する。
【0006】
本発明の電池缶用表面処理鋼板は、表面粗さがRa0.050μm以下のフェライト系ステンレス鋼板を原板として、陰極析出効率15〜30%のNiめっき浴等使用して膜厚0.02〜0.25μmのNiストライクめっき層を鋼板表面に形成し、次いで陰極析出効率90%以上のNiめっき浴等を使用して膜厚1〜5μmのNiめっき層を形成して、表面光沢度400以上としたNiめっきステンレス鋼板に伸び率0.6〜1.5%のブライト調質圧延を施して製造することができる。
【0007】
また、本発明の電池缶用表面処理鋼板は、表面粗さがRa0.050μm以下のオーステナイト系ステンレス鋼板を原板として、陰極析出効率15〜65%のNiめっき浴等を使用して膜厚0.02〜0.25μmのNiストライクめっき層を鋼板表面に形成し、次いで陰極析出効率90%以上のNiめっき浴等を使用して膜厚1〜5μmのNiめっき層を形成して、表面光沢度400以上としたNiめっきステンレス鋼板に伸び率0.6〜1.5%のブライト調質圧延を施して製造することができる。
【0008】
なお、本発明では、Niめっき浴として全硫酸塩浴を用いてめっきすることが好ましい。
【0009】
【発明の実施の形態】
発明者らは、電池缶等の製造工程において、Niめっき鋼板のプレス成形の際の連続プレス成形性の劣化やプレス成形後のコイニング加工および洗浄工程の際にNiめっき鋼板の表面に発生する疵の原因を詳細に調査した結果、鋼板表面より極微量ずつ剥離しためっき金属がプレス金型やポンチ部材に突起状に蓄積されることに起因していることを突き止めた。
このようなNiめっき鋼板表面からのめっき金属の剥離は、めっき層の硬さが軟質な場合に顕著に認められた。
プレス金型やポンチ部材等の表面に金属粉やめっき金属等の異物が堆積した状態でプレス成形やコイニング加工を行うと、素材であるNiめっき鋼板に疵が発生し易くなるのでプレス金型やポンチ等の研磨が必要となるが、本発明の電池缶用表面処理鋼板を素材とした場合には、労力と時間を要するプレス金型やポンチ等の研磨頻度を低減することが可能となる。
【0010】
また、本発明者らは、電池缶に要求される光沢性、接触抵抗等に及ぼす素材、めっき条件、ブライト調質圧延等の影響を調査検討した結果、めっき原板として使用されるステンレス鋼板の表面粗さ、陰極析出効率及びブライト調質圧延時の伸び率等によりめっき層の光沢度、接触抵抗及びプレス成形性等が変動することを知見した。
とくに本発明で規定する適切なブライト調質圧延を施すことで、Niめっき鋼板をプレス成形する際の連続プレス成形性やプレス成形後のコイニング加工および洗浄工程の際に発生する疵が抑制されることを見出した。
【0011】
[めっき原板の表面粗さ]
Niめっき用原板として使用されるステンレス鋼板の表面粗さが大きいと、Niストライクめっきを施しても十分に平滑化されず、Niストライクめっき層の上に形成されるNiめっき層の電析粒が大きくなる。その結果、光沢性のあるNiめっき層が得られない。
Niストライクめっきによる平滑化作用は、フェライト系及びオーステナイト系ステンレス鋼板共に表面粗さがRa0.050μm以下にすることにより達成され、Ra0.050μmを超える表面粗さでは、ストライクめっき及び本めっきの膜厚や陰極析出効率を変化させても良好な光沢が得られない。
【0012】
[Niストライクめっき]
フェライト系ステンレス鋼板でNiめっき層の表面に光沢性を付与するためには、ストライクめっき浴の陰極析出効率を15〜30%に調整することが必要である。
15%未満の陰極析出効率では、ステンレス鋼板表面における水素の還元反応が激しくなり、角状結晶としてNiストライクめっき層が電解析出し、めっき膜厚,電流密度等のめっき条件を変化させても十分な平滑化作用が得られない。そのため、Niストライクめっき層の上に形成される厚膜Niめっき層は、Niストライクめっき層の電析形態に影響され、光沢性に劣る白味がかった表面を呈する。
逆に陰極析出効率が30%を超えると、ステンレス鋼板表面における水素の還元反応による活性化が弱まり、鋼板に対するNiストライクめっき層の密着性が低下する。
【0013】
また、オーステナイト系ステンレス鋼板でNiめっき層の表面に光沢性を付与するためには、ストライクめっき浴の陰極析出効率を15〜65%の範囲に調整する。 陰極析出効率が15%未満では、フェライト系ステンレス鋼と同様に十分な平滑化作用が得られず、65%を超える陰極析出効率では、鋼板に対するNiストライクめっき層の密着性が低下する。
Niストライクめっき層は、0.02〜0.25μm(好ましくは0.05〜0.15μm)の膜厚でステンレス鋼板表面に形成される。
膜厚が0.02μmに達しないNiストライクめっき層では、均一なめっきを施すことが困難になり良好なめっき密着性が得られない。しかし、Niストライクめっき層は陰極析出効率の低いめっき浴で形成されるため、0.25μmを超える膜厚になるとNiストライクめっき面の角状電析物が粗大化し易いので、粗大化した角状電析物がNiストライクめっき層の上に形成されるNiめっき層に悪影響を及ぼし、白味を帯び光沢度の低いめっき面が形成される原因となる。
【0014】
[Niめっき]
Niストライクめっき層の上に形成されるNiめっき層は、全硫酸塩からなるめっき浴等を用いて90%以上の陰極析出効率で形成される。
陰極析出効率が90%を下回ると電析粒が角状結晶になり、めっき面の光沢度が400未満となり、その後のブライト調質圧延で光沢性を付与するのが困難となる。
また、陰極析出効率の低いめっき浴を用いたNiめっき層の形成は、工業的規模で連続めっきする際の生産性を低下させることにもなる。
Niめっき層は、過酷な環境においても低接触抵抗を維持するために1μm以上の膜厚で形成することが好ましい。1μm未満の膜厚では酸化による影響が大きくなり、過酷な環境に曝される雰囲気で長時間使用すると接触抵抗が上昇する。また、5μmを超える厚めっきは、高価なNiを多量に消費することから経済的でない。
【0015】
[ブライト調質圧延]
本発明で規定する膜厚のNiストライクめっき層を鋼板表面に形成し、その上にNiめっき層を形成した鋼板のめっき層表面は400以上の光沢度を呈する。このNiめっきステンレス鋼板に320番手以上の仕上げロールを用いた軽伸び率0.6〜1.5%のブライト調質圧延を施すと、光沢剤を添加しためっき浴で得られる光沢Niめっきステンレス鋼板の表面光沢度である1000以上のレベルの光沢度が得られ、ことときNiめっき層硬度はHv320〜380の範囲に調整される。
めっき層表面の光沢度が400未満のNiめっきステンレス鋼にブライト調質圧延を施して光沢Niめっきレベルの光沢度を得ることは困難であり、高伸び率でブライト調質圧延を施してしまうとめっき鋼板の機械的特性(0.2%耐力や伸び)が劣化してしまう。
【0016】
ブライト調質圧延時の伸び率が0.6%未満では、目標とする光沢度やめっき層の硬さが得られず、連続プレス成形の回数を重ねていくうちに鋼板よりめっき金属が極微量ずつ剥離することになる。
また、伸び率が1.5%を超えると、目標とする光沢度やめっき層の硬さが得られる場合もあるが、効果が飽和する傾向にあり、めっき鋼板の機械的特性(0.2%耐力や伸び)が劣化する方向にあるためプレス成形性はかえって下降するようになる。
【0017】
[実施例]
表面粗さRa0.046μmのSUS430ステンレス鋼板及びRa0.043μmのSUS304ステンレス鋼板をめっき原板とし、陰極析出効率がSUS430では約30%,SUS304では約60%の全硫酸塩めっき浴で電流密度0.5kA/m2 ,めっき膜厚0.2μmのストライクめっきを施した。
同じく全硫酸塩からなる析出効率90%以上のめっき浴を用い、ストライクめっき層上に電流密度1.0kA/m2 で膜厚3μmのNiめっき層を形成した。得られたNiめっき鋼板の表面光沢度は520であった。
これらNiめっき鋼板のめっき層表面に光沢性を付与するため320番手仕上げロールを用いてブライト調質圧延の伸び率を変化させた。
【0018】
その結果、圧延後のめっき層表面の光沢度を1000以上とするためには、ブライト調質圧延の伸び率を0.2%以上にする必要があることがわかった。
光沢度が目標範囲となる条件下で、ブライト調質圧延の伸び率を0.4%としたときのめっき層硬さは図1に示すようにビッカース硬さ(Hv)で297であり、このNiめっき鋼板を使用して電池缶にプレス成形したところ、図2に示すように表面に疵が発生するまでの連続プレス回数が5000回以下という少ない回数ですでにめっき鋼板の表面に疵が発生しているのが確認された。
【0019】
一方、ブライト調質圧延の伸び率を0.9%としたときのめっき層硬さは図1よりビッカース硬さ(Hv)で365であり、このNiめっき鋼板を使用して電池缶にプレス成形したところ、図2に示すように表面に疵が発生するまでの連続プレス回数は30000回程度まで大幅に上昇しており、疵の発生が大幅に抑制されたことがわかる。
また、ブライト調質圧延の伸び率を1.5%としたときのめっき層硬さは図1よりビッカース硬さ(Hv)で373であり、このNiめっき鋼板を使用して電池缶にプレス成形したところ、図2に示すように表面に疵が発生するまでの連続プレス回数は35000回程度までさらに上昇しており、疵の発生がさらに抑制されたことがわかる。
しかし、ブライト調質圧延率の上昇による疵発生の抑制効果は飽和傾向にあり、ブライト調質圧延の伸び率0.9%の結果に比べて改善の割合が小さくなっていた。
【0020】
【発明の効果】
以上に説明したように、ブライト調質圧延の伸び率を適切な範囲とし、めっき層の硬さを調整した本発明の電池缶用表面処理鋼板は、連続プレス成形性に優れ、コイニング加工あるいは洗浄工程で生じていた疵の発生が抑制され良好な光沢性を有している。プレス金型やポンチ部材の手入れ研磨等の頻度も低減できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】ブライト調質圧延の伸び率とめっき層硬度の関係を示した図
【図2】めっき層硬度と連続プレス回数の関係を示した図
Claims (4)
- 表面粗さがRa0.050μm以下のフェライト系ステンレス鋼板またはオーステナイト系ステンレス鋼板のめっき原板に、膜厚1〜5μmのNiめっき層が形成され、Niめっき層に伸び率0.6〜1.5%のブライト調質圧延が施されたプレス成形性および光沢度の優れた電池缶用表面処理鋼板。
- 表面粗さがRa0.050μm以下のフェライト系ステンレス鋼板を原板として、膜厚0.02〜0.25μmのNiストライクめっき層を鋼板表面に形成し、次いで膜厚1〜5μmのNiめっき層を形成して表面光沢度400以上としたNiめっきステンレス鋼板に伸び率0.6〜1.5%のブライト調質圧延を施すプレス成形性および光沢度の優れた電池缶用表面処理鋼板の製造方法。
- 表面粗さがRa0.050μm以下のオーステナイト系ステンレス鋼板を原板として、膜厚0.02〜0.25μmのNiストライクめっき層を鋼板表面に形成し、次いで膜厚1〜5μmのNiめっき層を形成して表面光沢度400以上としたNiめっきステンレス鋼板に伸び率0.6〜1.5%のブライト調質圧延を施すプレス成形性および光沢度の優れた電池缶用表面処理鋼板の製造方法。
- 全硫酸塩浴を用いてNiめっきする請求項2または3記載のプレス成形性および光沢度の優れた電池缶用表面処理鋼板の製造方法。
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-
2002
- 2002-10-31 JP JP2002317235A patent/JP2004149863A/ja active Pending
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