JP2004307948A - ステンレス鋼製電気接点材料およびその製造方法 - Google Patents
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Abstract
【目的】耐摩耗性に優れ、はんだ性と接触抵抗安定性を兼ね備え、光沢が優れて美麗な外観を有し、優れた機械的特性,ばね性を有するNiめっきステンレス鋼製電気接点材料を提供する。
【構成】表面粗度がRa:0.20μm以下のオーステナイト系またはマルテンサイト系のステンレス鋼板上にめっき後の表面粗度がRa:0.25μm以下になるような無光沢Niめっきを施した後、鏡面ロールによりオーステナイト系の場合は圧下率10〜70%の、マルテンサイト系の場合は圧下率10〜40%の圧延を施し、圧延後のNiめっき膜厚を0.5〜5μmの範囲で、しかも表面粗度がRa:0.08μm以下に調整する。
【選択図】 なし
【構成】表面粗度がRa:0.20μm以下のオーステナイト系またはマルテンサイト系のステンレス鋼板上にめっき後の表面粗度がRa:0.25μm以下になるような無光沢Niめっきを施した後、鏡面ロールによりオーステナイト系の場合は圧下率10〜70%の、マルテンサイト系の場合は圧下率10〜40%の圧延を施し、圧延後のNiめっき膜厚を0.5〜5μmの範囲で、しかも表面粗度がRa:0.08μm以下に調整する。
【選択図】 なし
Description
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、各種電気・電子機器の電気接点用ばね材やリードフレーム,端子材料等に使用され、強度やばね性に優れ、長期にわたり接触抵抗が低く、はんだ性の経時変化が起こりにくく、さらに接点部分の耐摩耗性に優れたステンレス鋼製電気接点材料およびその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
電気接点材料には、長期にわたり良好な接触信頼性を維持するために接触抵抗安定性,耐摩耗性,ばね性等の他、部品接続のためにはんだ付け性が必要とされている。そのため、従来からリン青銅等の銅合金にSnやNiめっきした材料が一般的に使用されている。しかし、電子機器の小型化や汎用化から、材料の薄膜化や低コスト化が要望されるようになった。このため、銅合金と比べて安価で高強度が得られ、優れたばね性や耐食性を有するステンレス鋼を母材とし、これにSnやNiめっきを施した材料が使用され始めている。
【0003】
Niめっきステンレス鋼板は、耐食性や耐熱性のほか、光沢が高く美麗といった点で、Snめっき材より優れている理由から使用されるケースが多くなっている。原板のステンレス鋼板は、焼鈍材でも相応の強度を有しており、接点材料として使用可能であるが、材料の薄膜化に対応するためには、JIS G4313のばね用ステンレス鋼等、ばね性の高い鋼種が原板に採用されている。
Niめっきは、ステンレス鋼板との密着性を確保するために、あらかじめ陰極効率が低いNiストライクめっきを施した後に上層に必要膜厚の光沢Niめっき層を形成させている。上層のNiめっき層に光沢を付与する方法としては、有機成分による光沢剤を添加した浴の使用、無光沢めっきを施した後にバフ研磨する方法、あるいは無電解めっきを用いる方法等が採用されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
光沢剤を添加しためっき浴を用いてNiめっきする場合、光沢剤の頻繁な補給や濃度管理が難しく、また高価な光沢剤を使用するために製造コストが高くなっている。さらに、長時間高温・高湿雰囲気に曝されると光沢剤成分の分解により接触抵抗が著しく上昇する。
一方、無光沢Niめっきをバフ研磨して光沢を付与する方法では、バフ研磨でNiめっき層が削り取られることから、必要以上のNiめっきを施すことが必要になる。また、バフ研磨中の加熱によりNiめっき層の表面に不動態皮膜が形成され、初期接触抵抗が高くなる。
【0005】
また、無電解Niめっきでは、接触抵抗性は劣るものの、ニッケルの析出速度が極めて遅いため、工業的規模の連続めっきへの適用が難しく、めっき浴が高価で安定性が悪いためにコストが高くなるといった問題があった。
これらの問題を解決する方法として、特開2000−282290に、無光沢Niめっき後に伸び率0.2〜1%のブライト調質圧延を施すことが提案されている。この方法を採用すれば、低コストで光沢性が高く、接触抵抗安定性に優れたNiめっき層を得ることができる。このため、電池缶用や電気接点ばね材,端子材に好適なNiめっきステンレス鋼板が得られる。
【0006】
Niめっきの膜厚は、接点同士の挿抜や接触ON・OFFの繰り返し、あるいは振動などによってめっきが素地まで削られることなく良好な接続信頼性を保証するように、耐摩耗性によって決められる。そのため、通常は膜厚が1〜10μm程度施されたものが採用されている。しかし、低コスト化に対する市場からの要求が依然として高く、また昨今の省資源化に対する社会的関心の高まりや法的規制からも材料使用量を低減し、なおかつ従来と同様な機能性を付与した材料が望まれている。すなわち、Niめっきステンレス鋼板による電気接点材料に関しては、高価なNiを薄膜化することが重要となっている。
【0007】
さらに、電気接点ばね材は、部品接続のためにはんだ付けされる場合があるが、Niめっき材は、経時により表面にNi酸化物からなる不動態皮膜が形成される。このため、Niめっき材のはんだ性は経時により著しく低下する。
この経時劣化を抑える方法としては、従来から経験的に光沢めっきを採用することが良いとされ(逢坂哲彌編「湿式法を利用したエレクトロニクス高機能薄膜作成法」(株)広信社・総合工学出版会 1992年)、有機成分による光沢剤を添加した浴の使用、あるいは無電解めっきを用いる方法などが採用されている。しかしながら、前述のように接触抵抗安定性やコストも点で問題があった。
【0008】
また、本発明者等は、特開2000−282290の無光沢めっき後に伸び率0.2〜1%のブライト調質圧延をする方法を実施して、はんだ性の経時変化を調査した結果、有機成分による光沢剤を添加した浴によるNiめっきと同程度の光沢度の高い外観を示しているにも関わらず、はんだ性の経時劣化を抑えるレベルのものではないことがわかった。
【0009】
本発明は、このような問題を解消すべく案出されたものであり、Niめっきの耐摩耗性を向上させ、はんだ性と接触抵抗安定性を兼ね備え、光沢が優れて美麗な外観を有し、優れた機械的特性,ばね性を有するNiめっきステンレス鋼製電気接点材料を経済的に提供することを目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明のステンレス鋼製電気接点材料は、その目的を達成するため、オーステナイト系またはマルテンサイト系のステンレス鋼板表面に0.5〜5μmの膜厚で、しかも表面粗度がRa:0.08μm以下に調整された無光沢Niめっき層を有することを特徴とする。
そして、そのようなステンレス鋼製電気接点材料は、表面粗度がRa:0.20μm以下のオーステナイト系またはマルテンサイト系のステンレス鋼板上にめっき後の表面粗度がRa:0.25μm以下になるような無光沢Niめっきを施した後、鏡面ロールによりオーステナイト系の場合は圧下率10〜70%の、マルテンサイト系の場合は圧下率10〜40%の圧延を施し、圧延後のNiめっき膜厚を0.5〜5μmの範囲で、しかも表面粗度がRa:0.08μm以下に調整する。
無光沢Niめっきを施す前にNiストライクめっきを施すことが好ましい。
【0011】
【作用】
Niめっきのはんだ性は、これまで経験的に光沢めっきが良いとされてきたが、特開2000−282290に開示されている方法で光沢を付与した場合において、はんだ性の経時劣化を抑えるレベルのものではなかった。
本発明者等は、上記特開2000−282290に記載の方法により形成したNiめっきの表面外観とはんだ性との関係について調査した結果、無光沢Niめっきのはんだ性の経時劣化を抑制するためには、凹の部分が残らないレベルまで均一にNiめっきの電析粒がつぶされて平滑化しなければならないことを発見した。
Niめっきのはんだ性は、表面の酸化皮膜と密接に関係する。すなわち、凹の部分や電析粒による微細な凹凸があった場合は、例え外観は光沢を有していても表面積が多いことになる。したがって、表面積が多い分だけ、酸化皮膜を除去するためにエネルギーを要するため、はんだ性が低下するものと考えられる。
【0012】
本発明者等は、電気接点ばね材に要求される接触抵抗安定性に優れた無光沢Niめっきを用い、Niめっきの耐摩耗性,はんだ性,機械的特性に及ぼす素材,めっき条件,鏡面ロールの影響を調査・検討した。
その結果、めっき原板として使用されるステンレス鋼板の表面粗さ,Niめっき種,鏡面ロール圧延後の粗度,圧延率等によって耐摩耗性やはんだ性が変わり、本発明で規定する条件を満足するとき、接触抵抗安定性,耐摩耗性,はんだ性,機械的特性の全ての点で満足できるNiめっきステンレス鋼製電気接点材料が得られることを見出した。
【0013】
【実施の態様】
[めっき原板]
原板に用いるステンレス鋼板は、特に鋼種が限定されるものではないが、Niめっき後にロール圧延して所望の機械的特性,ばね性を付与する必要がある。したがって、準安定オーステナイト系ステンレス鋼であるSUS304,SUS301,SUS631等に代表される、圧延により加工誘起マルテンサイト変態により容易に高強度が得られるものや、マルテンサイト系のステンレス鋼が適している。これらの鋼種の選択にあたっては、強度やばね性の他に、加工性やプレス打抜き性,価格等を考慮して適切なものを使用すればよい。
また、ステンレス鋼板の表面粗さは、Ra:0.20μm以下にする必要がある。表面粗さがRa:0.20μmを超えると、Niめっき後に鏡面ロール圧延を施しても,十分に平滑化できずに凹の部分が残る。そのような部分の残存率が大きいと、はんだ性が経時により劣化しやすくなる。したがって、表面仕上げとしては、BA仕上げ,2B仕上げ等が好適であり、2DR仕上げのような凹凸のあるものは避けるべきである。
【0014】
[Niストライクめっき]
ステンレス鋼板との良好な密着性を得るためには、特開2000−282290に記載しているように、あらかじめ陰極効率が低いNiストライクめっきを0.02μm以上施すことが有効である。膜厚が0.02μmに達しないNiストライクめっき層では、均一なめっきを施すことが困難になり、良好なめっき密着性が得にくくなる。Niストライクめっき膜厚の上限に関しては、特に制約されるものではないが、陰極析出効率の低いめっき浴で形成されているため、析出に時間がかかり、経済的に不利である。したがって、上限としては0.5μm程度にすることが好ましい。
【0015】
[Niめっき]
Niストライクめっき層の上に形成されるNiめっき層は、接触抵抗安定性の観点から無光沢Niめっきを用いなければならないが、その後、鏡面ロール圧延により平滑化する必要から、可能な限り凹凸が少なくなるようなめっきが好ましく、めっき後の表面粗さとしては、Ra:0.25μm以下にすることが好適である。このような粗度が得られるめっきとしては、ワット浴Niめっきや全硫酸塩浴Niめっき等であり、全塩化物浴Niめっきのような針状のめっきが形成され、表面粗度がRa:0.25μmを超えるようなものは、圧延を施してもめっき層を完全に平滑化できず、凹部が残るために適用できない。
また、膜厚は、圧延後に0.5〜5μmの範囲になるように調整する。0.5μmに満たないと耐摩耗性が十分ではなく、5μmを超えると機能は飽和してしまうため経済的に不利となる。
【0016】
ステンレス鋼板にNiめっきを施した材料は、接点材料として十分使用できるが、さらに導電性を付与する場合には、Niストライクめっき後にCuめっきを施し、さらにNiめっきを施す方法を採用し機能性を向上させることもできる。この場合のCuめっきは、ポロリン酸銅浴,硫酸銅浴,光沢剤入り硫酸浴等いずれでもよく、目的とする導電性によりCuめっき膜厚を決定すればよい。この場合も、めっき後の表面粗度はRa:0.20μm以下にすることが好ましい。さらに、Cuめっきを厚く施すと、ステンレス鋼板のばね限界値が低下することから、Cuめっき膜厚は、原板板厚に対して20%以内に抑えることが好ましい。
【0017】
[鏡面ロール圧延]
表面に、Niストライクめっき層を形成した後Niめっき層を形成したステンレス鋼板、あるいは、Niストライクめっき層上に導電性を付与する目的でCuめっきを施し、その上にNiめっき層を形成したステンレス鋼板に、JIS R6001による240番以上で鏡面仕上げしたロールを用いて圧延率10%以上の圧延を施すと、めっき層の表面はロールによりつぶされ、Ra:0.08μm以下に平滑化される。有機成分による光沢剤を添加した浴によるNiめっきと同程度まで平滑化される。
図1に、Niめっき種,圧延率等を変えて種々の表面粗さに調整したNiめっきステンレス鋼板について、50℃×60%RH×100hの促進劣化試験後のはんだ濡れ性と表面粗度Raの関係を示す。なお、はんだ濡れ性は後述の実施例で行った〔はんだ濡れ性試験〕と同じ方法で試験したものである。表面粗度Ra:0.08μm以下になれば、ゼロクロスタイムが10秒以下となり、はんだが濡れやすくなっている。しかし、0.08μmを超えると、ゼロクロスタイムが10秒以上要するようになり、はんだが濡れなくなっている。
【0018】
一方、圧延により、Niめっき層は硬質化されるとともに、原板ステンレス鋼も鋼種と圧延率に応じて優れた機械的特性,ばね性を発揮することになる。このような作用は圧延率により大きく影響される。一般的に、機械的特性が高くなるとばね臨界値も上昇するため、材料の薄膜化に対しても有効である。そして、後述する各種実験結果から、オーステナイト系の場合は圧下率10〜70%の範囲で、マルテンサイト系の場合は圧下率10〜40%の範囲で圧延を施すと、伸びを抑えて引張強さを高めることができ、ばね性を必要とする電気接点材料に必要な機械的特性が得られることを確認した。圧延率を必要以上に高くすると、機械的特性としての強度やばね性は向上できるものの、伸びがなくなり加工し難くなる。加工性が高いオーステナイト系の場合は圧延率が70%を超えると、加工性が低いマルテンサイト系の場合は圧延率が40%を超えると、所望の形状の電気接点に成形し難くなる。
【0019】
圧延の際、ロールとして240番よりも小さい仕上げロール、すなわち粗いロールを使用すると、圧延率を大きくしても十分に平滑化することができない。したがって、この場合、接触抵抗安定性や機械的特性,ばね性を付与することは可能であるが、十分なはんだ濡れ性を得ることはできない。
さらに、圧延に当っては、DRYか、WETでは低粘度の圧延油を用いる等、一般的な高光沢が得られる条件で行うことが好ましい。なお、WET圧延の場合は、油分が残ると接点材料として使用できなかったり、接触抵抗を増大させる原因となるので、脱脂・洗浄することが必要となる。
【0020】
このようにして得られたNiめっきステンレス鋼板は、無光沢Niめっきを用いているために接触抵抗安定性に優れているだけでなく、めっき層が硬質化されているために耐摩耗性に優れている。このため、このNiめっきステンレス鋼板を所定形状に加工すれば、耐摩耗性,はんだ性および接触抵抗安定性を兼ね備え、光沢が優れて美麗な外観を有し、優れた機械的特性,ばね性を有するNiめっきステンレス鋼製電気接点を得ることができる。
さらに、機械的強度やばね性を高める目的で、熱処理を施してもよい。熱処理の条件は、鋼種に応じて最適な条件を選択すればよい。例えば、SUS301を原板として使用した場合では、425℃×1h程度の低温で処理するだけで、ばね臨界値が1.5倍程度まで上昇する。この場合、Niめっき層が加熱により酸化され、接触抵抗性やはんだ性が低下しないように、窒素雰囲気や還元雰囲気下で行うことが好ましい。
熱処理のタイミングは、プレス加工後に実施した方が効果的であるが、その限りではない。
【0021】
【実施例】
実施例1:
表面粗さがRa:0.045μmに調整された板厚0.30mmのSUS304ステンレス鋼板およびRa:0.050μmに調整された板厚0.30mmのSUS410ステンレス鋼板をめっき原板として使用し、オルトケイ酸ソーダ:50g/l,浴温:60℃のアルカリ電解浴にめっき原板を浸漬し、電流密度:0.5kA/m2で10秒間陰極電解することにより電解脱脂した。次いで、濃度2%硫酸溶液中に10秒間浸漬して酸洗を施した。
この原板をNiめっき浴に浸漬し、表1に示す条件にて膜厚0.3μmのNiストライクめっきを施した。
次いで、表2に示す条件で、膜厚3μmのNiめっきを施した後、得られたNiめっきステンレス鋼板に、320番手に仕上げた鏡面ロールを用い、圧延率を種々変えて圧延を施した。
【0022】
【0023】
【0024】
圧延を施したNiめっきステンレス鋼板から、JIS 13B試験片を切出して引張試験を行い、引張り強さと破断伸びを測定した。
Niめっきステンレス鋼板の圧延率と上記測定値との関係を図2,3に示す。
原板鋼種の違いはあるものの、圧延率とともに引張り強さが上昇し、優れた機械的特性を有することがわかる。しかし、圧延率が高くなるにつれて、機械的特性としての強度やばね性は向上できるものの、伸びが少なくなっていることがわかる。前述の鏡面ロール圧延の項で説明した事項を裏付けている。
【0025】
実施例2:
実施例1で使用したものと同じSUS304ステンレス鋼板をめっき原板として使用し、実施例1と同じNiストライクめっきを施した。
次いで、表3に示す条件でNiめっき層を形成した。
【0026】
【0027】
得られたNiめっきステンレス鋼板に320番手に仕上げた鏡面ロールを用い、種々変えた圧延率の圧延を施した。
また、Niストライクめっき後に、ワットNi浴に有機成分からなる市販の光沢剤(上村工業株式会社製G−1,G−2)を添加した光沢Niめっきを膜厚1μm施しためっき材(試験番号20)、及びワット浴Niめっきを3μm施した後、JIS R6001の320番によりバフ研磨して最終的にめっき膜厚0.8μmにしためっき材(試験番号21)を比較例として用いた。
【0028】
得られた試験材について、接触抵抗性試験,はんだ濡れ性試験および耐摩耗性試験を行った。
〔接触抵抗性試験〕
接触抵抗は、接触抵抗分布測定器(株式会社山崎精機研究所製)を用い、印加電流10mA,接触荷重100gfの条件下で測定した。促進劣化試験では、温度60℃,相対湿度90%RHの恒温恒湿槽に試験片を40日間放置し、促進劣化試験後の接触抵抗を測定した。
そして、接触抵抗が10mΩ以下のものを◎,10〜50mΩのものを○,50mΩを超えるものを×として評価した。
【0029】
〔はんだ濡れ性試験〕
使用はんだ;千住金属株式会社製,PbフリーはんだM31(Sn−3.5Ag−0.75Cu)
フラックス;日本はんだ株式会社製,P5(電子部品用,塩素なし)
試験温度;250℃
めっき直後の試験片およびめっきした試験片を50℃×60%RH×100h放置した試験片について、レスカー製ソルダーチェッカーSAT−5000を使用し、Pbフリーはんだの溶融浴に、サイズ10mm×40mmに裁断したものを浸漬速度2mm/分で深さ2mmまで浸漬し、当該浸漬深さに10秒間保持した。そして、試験片浸漬から濡れの力がゼロをよぎるまでの時間(ゼロクロスタイム)が5秒以内のものを◎,5〜10秒のものを○,10秒を超えるもの(濡れ時間なし)を×としてはんだ濡れ性を評価した。
【0030】
〔耐摩耗性試験〕
試験装置としてスガ試験機株式会社製スガ摩耗試験機NUS−ISO−1を使用し、#500の研磨紙を用いて荷重500gで、JIS H8503に準じて往復運動摩耗試験を行った。
そして、現行の電気接点材料として使用されているNiめっきの下限条件として、ワットNiめっき浴より作製した膜厚1μmの試験片(試験番号22)の摩耗性を評価した結果、上記試験条件では約100回で素地まで達している。そこで、この結果を基準として、100回で素地まで達したものを×,100回でNiめっき層まで到達しなかったものを○,200回でもNiめっき層まで到達しなかったものを◎として耐摩耗性を評価した。
【0031】
評価結果を表4に示す。
本発明にしたがった試験番号1〜8では、無光沢めっきを用いているために接触抵抗は初期値,促進劣化試験後も良好であった。また、はんだ性についても、表面をRa:0.08μm以下まで平滑化しているので、光沢剤添加による光沢Niめっき材(試験番号20)と同等に良好であった。さらに耐摩耗性も良好であった。これらの試料について、電子顕微鏡で表面観察を行ったところ、電析粒はロールにより押し潰されて確認できないレベルにまで平滑化されていた。
【0032】
これに対して、鏡面ロール圧延を施していない試験番号9,15,17,22や、特開2000−282290で開示している圧延率が1%程度のものである試験番号10,16では、無光沢Niめっきを施しているために接触抵抗性は良好である。しかし、表面粗度が大きいために、初期のはんだ性は良好であるものの、表面粗度が大きいために促進劣化試験後のはんだ性は劣っていた。これらの試料について電子顕微鏡で表面観察を行ったところ、電析粒は明らかに確認できるレベルであり、平滑ではなかった。
さらに、圧延率が10%に満たない試験番号11,12,18や、圧延率が10%以上であっても原板の表面粗度が大きい試験番号13、全塩化物浴Niめっきを施したためにめっき後の表面粗度が大きかった試験番号19についても、上記と同様に表面粗度が大きいために促進劣化試験後のはんだ性は劣っていた。これらの試料について電子顕微鏡で表面観察を行ったところ、ロールにより電析粒のかなりの部分は潰されて平滑になってはいるものの、凹の部分も多数存在していた。
【0033】
Niめっき表面の凹の部分が圧延率を上げても消えない理由としては、無光沢Niめっきの硬度はHV200前後と比較的軟質であるが、圧延率とともに表面が硬質化する。すなわち、Niめっき層の伸びが小さくなることを意味する。したがって、本発明にしたがった試験番号1〜8では、めっき原板やNiめっきの表面粗度が小さいために、圧延率が10%程度では凹の部分が残ってしまい、これ以上圧延率を高くしても、Niめっき層は硬質化されて伸びが小さいために凹が無くならないものと考えられる。
また、光沢剤入りのNiめっきを施した試験番号20は、はんだ性は良好であったが、促進劣化試験後の接触抵抗性が劣っていた。またワット浴Niめっきを施したものをバフ研磨した試験番号21は、はんだ性は良好であったものの接触抵抗性が初期値から高くなっていたほか、耐摩耗性も劣っていた。
試験番号14は、圧延後のめっき膜厚が0.2μm程度しかなかったため、耐摩耗性の点で劣っていた。
【0034】
【0035】
【発明の効果】
以上に説明したように、本発明にしたがって製造されたNiめっきステンレス鋼板は、Niめっきの耐摩耗性を向上することができ、優れたはんだ性と接触抵抗安定性を兼ね備え、光沢が優れて美麗は外観を有し、優れた機械的特性やばね性を有している。
このため、本Niめっきステンレス鋼板を所望形状に成形・加工することにより、各種電気・電子機器の電気接点用ばねやリードフレーム、端子として広く使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】Niめっきステンレス鋼板のめっき表面粗度とはんだ濡れ性の関係を示す図
【図2】Niめっきステンレス鋼板に圧延を施した際の、圧延率と引張強さの関係を示す図
【図3】Niめっきステンレス鋼板に圧延を施した際の、圧延率と伸びの関係を示す図
【産業上の利用分野】
本発明は、各種電気・電子機器の電気接点用ばね材やリードフレーム,端子材料等に使用され、強度やばね性に優れ、長期にわたり接触抵抗が低く、はんだ性の経時変化が起こりにくく、さらに接点部分の耐摩耗性に優れたステンレス鋼製電気接点材料およびその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
電気接点材料には、長期にわたり良好な接触信頼性を維持するために接触抵抗安定性,耐摩耗性,ばね性等の他、部品接続のためにはんだ付け性が必要とされている。そのため、従来からリン青銅等の銅合金にSnやNiめっきした材料が一般的に使用されている。しかし、電子機器の小型化や汎用化から、材料の薄膜化や低コスト化が要望されるようになった。このため、銅合金と比べて安価で高強度が得られ、優れたばね性や耐食性を有するステンレス鋼を母材とし、これにSnやNiめっきを施した材料が使用され始めている。
【0003】
Niめっきステンレス鋼板は、耐食性や耐熱性のほか、光沢が高く美麗といった点で、Snめっき材より優れている理由から使用されるケースが多くなっている。原板のステンレス鋼板は、焼鈍材でも相応の強度を有しており、接点材料として使用可能であるが、材料の薄膜化に対応するためには、JIS G4313のばね用ステンレス鋼等、ばね性の高い鋼種が原板に採用されている。
Niめっきは、ステンレス鋼板との密着性を確保するために、あらかじめ陰極効率が低いNiストライクめっきを施した後に上層に必要膜厚の光沢Niめっき層を形成させている。上層のNiめっき層に光沢を付与する方法としては、有機成分による光沢剤を添加した浴の使用、無光沢めっきを施した後にバフ研磨する方法、あるいは無電解めっきを用いる方法等が採用されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
光沢剤を添加しためっき浴を用いてNiめっきする場合、光沢剤の頻繁な補給や濃度管理が難しく、また高価な光沢剤を使用するために製造コストが高くなっている。さらに、長時間高温・高湿雰囲気に曝されると光沢剤成分の分解により接触抵抗が著しく上昇する。
一方、無光沢Niめっきをバフ研磨して光沢を付与する方法では、バフ研磨でNiめっき層が削り取られることから、必要以上のNiめっきを施すことが必要になる。また、バフ研磨中の加熱によりNiめっき層の表面に不動態皮膜が形成され、初期接触抵抗が高くなる。
【0005】
また、無電解Niめっきでは、接触抵抗性は劣るものの、ニッケルの析出速度が極めて遅いため、工業的規模の連続めっきへの適用が難しく、めっき浴が高価で安定性が悪いためにコストが高くなるといった問題があった。
これらの問題を解決する方法として、特開2000−282290に、無光沢Niめっき後に伸び率0.2〜1%のブライト調質圧延を施すことが提案されている。この方法を採用すれば、低コストで光沢性が高く、接触抵抗安定性に優れたNiめっき層を得ることができる。このため、電池缶用や電気接点ばね材,端子材に好適なNiめっきステンレス鋼板が得られる。
【0006】
Niめっきの膜厚は、接点同士の挿抜や接触ON・OFFの繰り返し、あるいは振動などによってめっきが素地まで削られることなく良好な接続信頼性を保証するように、耐摩耗性によって決められる。そのため、通常は膜厚が1〜10μm程度施されたものが採用されている。しかし、低コスト化に対する市場からの要求が依然として高く、また昨今の省資源化に対する社会的関心の高まりや法的規制からも材料使用量を低減し、なおかつ従来と同様な機能性を付与した材料が望まれている。すなわち、Niめっきステンレス鋼板による電気接点材料に関しては、高価なNiを薄膜化することが重要となっている。
【0007】
さらに、電気接点ばね材は、部品接続のためにはんだ付けされる場合があるが、Niめっき材は、経時により表面にNi酸化物からなる不動態皮膜が形成される。このため、Niめっき材のはんだ性は経時により著しく低下する。
この経時劣化を抑える方法としては、従来から経験的に光沢めっきを採用することが良いとされ(逢坂哲彌編「湿式法を利用したエレクトロニクス高機能薄膜作成法」(株)広信社・総合工学出版会 1992年)、有機成分による光沢剤を添加した浴の使用、あるいは無電解めっきを用いる方法などが採用されている。しかしながら、前述のように接触抵抗安定性やコストも点で問題があった。
【0008】
また、本発明者等は、特開2000−282290の無光沢めっき後に伸び率0.2〜1%のブライト調質圧延をする方法を実施して、はんだ性の経時変化を調査した結果、有機成分による光沢剤を添加した浴によるNiめっきと同程度の光沢度の高い外観を示しているにも関わらず、はんだ性の経時劣化を抑えるレベルのものではないことがわかった。
【0009】
本発明は、このような問題を解消すべく案出されたものであり、Niめっきの耐摩耗性を向上させ、はんだ性と接触抵抗安定性を兼ね備え、光沢が優れて美麗な外観を有し、優れた機械的特性,ばね性を有するNiめっきステンレス鋼製電気接点材料を経済的に提供することを目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明のステンレス鋼製電気接点材料は、その目的を達成するため、オーステナイト系またはマルテンサイト系のステンレス鋼板表面に0.5〜5μmの膜厚で、しかも表面粗度がRa:0.08μm以下に調整された無光沢Niめっき層を有することを特徴とする。
そして、そのようなステンレス鋼製電気接点材料は、表面粗度がRa:0.20μm以下のオーステナイト系またはマルテンサイト系のステンレス鋼板上にめっき後の表面粗度がRa:0.25μm以下になるような無光沢Niめっきを施した後、鏡面ロールによりオーステナイト系の場合は圧下率10〜70%の、マルテンサイト系の場合は圧下率10〜40%の圧延を施し、圧延後のNiめっき膜厚を0.5〜5μmの範囲で、しかも表面粗度がRa:0.08μm以下に調整する。
無光沢Niめっきを施す前にNiストライクめっきを施すことが好ましい。
【0011】
【作用】
Niめっきのはんだ性は、これまで経験的に光沢めっきが良いとされてきたが、特開2000−282290に開示されている方法で光沢を付与した場合において、はんだ性の経時劣化を抑えるレベルのものではなかった。
本発明者等は、上記特開2000−282290に記載の方法により形成したNiめっきの表面外観とはんだ性との関係について調査した結果、無光沢Niめっきのはんだ性の経時劣化を抑制するためには、凹の部分が残らないレベルまで均一にNiめっきの電析粒がつぶされて平滑化しなければならないことを発見した。
Niめっきのはんだ性は、表面の酸化皮膜と密接に関係する。すなわち、凹の部分や電析粒による微細な凹凸があった場合は、例え外観は光沢を有していても表面積が多いことになる。したがって、表面積が多い分だけ、酸化皮膜を除去するためにエネルギーを要するため、はんだ性が低下するものと考えられる。
【0012】
本発明者等は、電気接点ばね材に要求される接触抵抗安定性に優れた無光沢Niめっきを用い、Niめっきの耐摩耗性,はんだ性,機械的特性に及ぼす素材,めっき条件,鏡面ロールの影響を調査・検討した。
その結果、めっき原板として使用されるステンレス鋼板の表面粗さ,Niめっき種,鏡面ロール圧延後の粗度,圧延率等によって耐摩耗性やはんだ性が変わり、本発明で規定する条件を満足するとき、接触抵抗安定性,耐摩耗性,はんだ性,機械的特性の全ての点で満足できるNiめっきステンレス鋼製電気接点材料が得られることを見出した。
【0013】
【実施の態様】
[めっき原板]
原板に用いるステンレス鋼板は、特に鋼種が限定されるものではないが、Niめっき後にロール圧延して所望の機械的特性,ばね性を付与する必要がある。したがって、準安定オーステナイト系ステンレス鋼であるSUS304,SUS301,SUS631等に代表される、圧延により加工誘起マルテンサイト変態により容易に高強度が得られるものや、マルテンサイト系のステンレス鋼が適している。これらの鋼種の選択にあたっては、強度やばね性の他に、加工性やプレス打抜き性,価格等を考慮して適切なものを使用すればよい。
また、ステンレス鋼板の表面粗さは、Ra:0.20μm以下にする必要がある。表面粗さがRa:0.20μmを超えると、Niめっき後に鏡面ロール圧延を施しても,十分に平滑化できずに凹の部分が残る。そのような部分の残存率が大きいと、はんだ性が経時により劣化しやすくなる。したがって、表面仕上げとしては、BA仕上げ,2B仕上げ等が好適であり、2DR仕上げのような凹凸のあるものは避けるべきである。
【0014】
[Niストライクめっき]
ステンレス鋼板との良好な密着性を得るためには、特開2000−282290に記載しているように、あらかじめ陰極効率が低いNiストライクめっきを0.02μm以上施すことが有効である。膜厚が0.02μmに達しないNiストライクめっき層では、均一なめっきを施すことが困難になり、良好なめっき密着性が得にくくなる。Niストライクめっき膜厚の上限に関しては、特に制約されるものではないが、陰極析出効率の低いめっき浴で形成されているため、析出に時間がかかり、経済的に不利である。したがって、上限としては0.5μm程度にすることが好ましい。
【0015】
[Niめっき]
Niストライクめっき層の上に形成されるNiめっき層は、接触抵抗安定性の観点から無光沢Niめっきを用いなければならないが、その後、鏡面ロール圧延により平滑化する必要から、可能な限り凹凸が少なくなるようなめっきが好ましく、めっき後の表面粗さとしては、Ra:0.25μm以下にすることが好適である。このような粗度が得られるめっきとしては、ワット浴Niめっきや全硫酸塩浴Niめっき等であり、全塩化物浴Niめっきのような針状のめっきが形成され、表面粗度がRa:0.25μmを超えるようなものは、圧延を施してもめっき層を完全に平滑化できず、凹部が残るために適用できない。
また、膜厚は、圧延後に0.5〜5μmの範囲になるように調整する。0.5μmに満たないと耐摩耗性が十分ではなく、5μmを超えると機能は飽和してしまうため経済的に不利となる。
【0016】
ステンレス鋼板にNiめっきを施した材料は、接点材料として十分使用できるが、さらに導電性を付与する場合には、Niストライクめっき後にCuめっきを施し、さらにNiめっきを施す方法を採用し機能性を向上させることもできる。この場合のCuめっきは、ポロリン酸銅浴,硫酸銅浴,光沢剤入り硫酸浴等いずれでもよく、目的とする導電性によりCuめっき膜厚を決定すればよい。この場合も、めっき後の表面粗度はRa:0.20μm以下にすることが好ましい。さらに、Cuめっきを厚く施すと、ステンレス鋼板のばね限界値が低下することから、Cuめっき膜厚は、原板板厚に対して20%以内に抑えることが好ましい。
【0017】
[鏡面ロール圧延]
表面に、Niストライクめっき層を形成した後Niめっき層を形成したステンレス鋼板、あるいは、Niストライクめっき層上に導電性を付与する目的でCuめっきを施し、その上にNiめっき層を形成したステンレス鋼板に、JIS R6001による240番以上で鏡面仕上げしたロールを用いて圧延率10%以上の圧延を施すと、めっき層の表面はロールによりつぶされ、Ra:0.08μm以下に平滑化される。有機成分による光沢剤を添加した浴によるNiめっきと同程度まで平滑化される。
図1に、Niめっき種,圧延率等を変えて種々の表面粗さに調整したNiめっきステンレス鋼板について、50℃×60%RH×100hの促進劣化試験後のはんだ濡れ性と表面粗度Raの関係を示す。なお、はんだ濡れ性は後述の実施例で行った〔はんだ濡れ性試験〕と同じ方法で試験したものである。表面粗度Ra:0.08μm以下になれば、ゼロクロスタイムが10秒以下となり、はんだが濡れやすくなっている。しかし、0.08μmを超えると、ゼロクロスタイムが10秒以上要するようになり、はんだが濡れなくなっている。
【0018】
一方、圧延により、Niめっき層は硬質化されるとともに、原板ステンレス鋼も鋼種と圧延率に応じて優れた機械的特性,ばね性を発揮することになる。このような作用は圧延率により大きく影響される。一般的に、機械的特性が高くなるとばね臨界値も上昇するため、材料の薄膜化に対しても有効である。そして、後述する各種実験結果から、オーステナイト系の場合は圧下率10〜70%の範囲で、マルテンサイト系の場合は圧下率10〜40%の範囲で圧延を施すと、伸びを抑えて引張強さを高めることができ、ばね性を必要とする電気接点材料に必要な機械的特性が得られることを確認した。圧延率を必要以上に高くすると、機械的特性としての強度やばね性は向上できるものの、伸びがなくなり加工し難くなる。加工性が高いオーステナイト系の場合は圧延率が70%を超えると、加工性が低いマルテンサイト系の場合は圧延率が40%を超えると、所望の形状の電気接点に成形し難くなる。
【0019】
圧延の際、ロールとして240番よりも小さい仕上げロール、すなわち粗いロールを使用すると、圧延率を大きくしても十分に平滑化することができない。したがって、この場合、接触抵抗安定性や機械的特性,ばね性を付与することは可能であるが、十分なはんだ濡れ性を得ることはできない。
さらに、圧延に当っては、DRYか、WETでは低粘度の圧延油を用いる等、一般的な高光沢が得られる条件で行うことが好ましい。なお、WET圧延の場合は、油分が残ると接点材料として使用できなかったり、接触抵抗を増大させる原因となるので、脱脂・洗浄することが必要となる。
【0020】
このようにして得られたNiめっきステンレス鋼板は、無光沢Niめっきを用いているために接触抵抗安定性に優れているだけでなく、めっき層が硬質化されているために耐摩耗性に優れている。このため、このNiめっきステンレス鋼板を所定形状に加工すれば、耐摩耗性,はんだ性および接触抵抗安定性を兼ね備え、光沢が優れて美麗な外観を有し、優れた機械的特性,ばね性を有するNiめっきステンレス鋼製電気接点を得ることができる。
さらに、機械的強度やばね性を高める目的で、熱処理を施してもよい。熱処理の条件は、鋼種に応じて最適な条件を選択すればよい。例えば、SUS301を原板として使用した場合では、425℃×1h程度の低温で処理するだけで、ばね臨界値が1.5倍程度まで上昇する。この場合、Niめっき層が加熱により酸化され、接触抵抗性やはんだ性が低下しないように、窒素雰囲気や還元雰囲気下で行うことが好ましい。
熱処理のタイミングは、プレス加工後に実施した方が効果的であるが、その限りではない。
【0021】
【実施例】
実施例1:
表面粗さがRa:0.045μmに調整された板厚0.30mmのSUS304ステンレス鋼板およびRa:0.050μmに調整された板厚0.30mmのSUS410ステンレス鋼板をめっき原板として使用し、オルトケイ酸ソーダ:50g/l,浴温:60℃のアルカリ電解浴にめっき原板を浸漬し、電流密度:0.5kA/m2で10秒間陰極電解することにより電解脱脂した。次いで、濃度2%硫酸溶液中に10秒間浸漬して酸洗を施した。
この原板をNiめっき浴に浸漬し、表1に示す条件にて膜厚0.3μmのNiストライクめっきを施した。
次いで、表2に示す条件で、膜厚3μmのNiめっきを施した後、得られたNiめっきステンレス鋼板に、320番手に仕上げた鏡面ロールを用い、圧延率を種々変えて圧延を施した。
【0022】
【0023】
【0024】
圧延を施したNiめっきステンレス鋼板から、JIS 13B試験片を切出して引張試験を行い、引張り強さと破断伸びを測定した。
Niめっきステンレス鋼板の圧延率と上記測定値との関係を図2,3に示す。
原板鋼種の違いはあるものの、圧延率とともに引張り強さが上昇し、優れた機械的特性を有することがわかる。しかし、圧延率が高くなるにつれて、機械的特性としての強度やばね性は向上できるものの、伸びが少なくなっていることがわかる。前述の鏡面ロール圧延の項で説明した事項を裏付けている。
【0025】
実施例2:
実施例1で使用したものと同じSUS304ステンレス鋼板をめっき原板として使用し、実施例1と同じNiストライクめっきを施した。
次いで、表3に示す条件でNiめっき層を形成した。
【0026】
【0027】
得られたNiめっきステンレス鋼板に320番手に仕上げた鏡面ロールを用い、種々変えた圧延率の圧延を施した。
また、Niストライクめっき後に、ワットNi浴に有機成分からなる市販の光沢剤(上村工業株式会社製G−1,G−2)を添加した光沢Niめっきを膜厚1μm施しためっき材(試験番号20)、及びワット浴Niめっきを3μm施した後、JIS R6001の320番によりバフ研磨して最終的にめっき膜厚0.8μmにしためっき材(試験番号21)を比較例として用いた。
【0028】
得られた試験材について、接触抵抗性試験,はんだ濡れ性試験および耐摩耗性試験を行った。
〔接触抵抗性試験〕
接触抵抗は、接触抵抗分布測定器(株式会社山崎精機研究所製)を用い、印加電流10mA,接触荷重100gfの条件下で測定した。促進劣化試験では、温度60℃,相対湿度90%RHの恒温恒湿槽に試験片を40日間放置し、促進劣化試験後の接触抵抗を測定した。
そして、接触抵抗が10mΩ以下のものを◎,10〜50mΩのものを○,50mΩを超えるものを×として評価した。
【0029】
〔はんだ濡れ性試験〕
使用はんだ;千住金属株式会社製,PbフリーはんだM31(Sn−3.5Ag−0.75Cu)
フラックス;日本はんだ株式会社製,P5(電子部品用,塩素なし)
試験温度;250℃
めっき直後の試験片およびめっきした試験片を50℃×60%RH×100h放置した試験片について、レスカー製ソルダーチェッカーSAT−5000を使用し、Pbフリーはんだの溶融浴に、サイズ10mm×40mmに裁断したものを浸漬速度2mm/分で深さ2mmまで浸漬し、当該浸漬深さに10秒間保持した。そして、試験片浸漬から濡れの力がゼロをよぎるまでの時間(ゼロクロスタイム)が5秒以内のものを◎,5〜10秒のものを○,10秒を超えるもの(濡れ時間なし)を×としてはんだ濡れ性を評価した。
【0030】
〔耐摩耗性試験〕
試験装置としてスガ試験機株式会社製スガ摩耗試験機NUS−ISO−1を使用し、#500の研磨紙を用いて荷重500gで、JIS H8503に準じて往復運動摩耗試験を行った。
そして、現行の電気接点材料として使用されているNiめっきの下限条件として、ワットNiめっき浴より作製した膜厚1μmの試験片(試験番号22)の摩耗性を評価した結果、上記試験条件では約100回で素地まで達している。そこで、この結果を基準として、100回で素地まで達したものを×,100回でNiめっき層まで到達しなかったものを○,200回でもNiめっき層まで到達しなかったものを◎として耐摩耗性を評価した。
【0031】
評価結果を表4に示す。
本発明にしたがった試験番号1〜8では、無光沢めっきを用いているために接触抵抗は初期値,促進劣化試験後も良好であった。また、はんだ性についても、表面をRa:0.08μm以下まで平滑化しているので、光沢剤添加による光沢Niめっき材(試験番号20)と同等に良好であった。さらに耐摩耗性も良好であった。これらの試料について、電子顕微鏡で表面観察を行ったところ、電析粒はロールにより押し潰されて確認できないレベルにまで平滑化されていた。
【0032】
これに対して、鏡面ロール圧延を施していない試験番号9,15,17,22や、特開2000−282290で開示している圧延率が1%程度のものである試験番号10,16では、無光沢Niめっきを施しているために接触抵抗性は良好である。しかし、表面粗度が大きいために、初期のはんだ性は良好であるものの、表面粗度が大きいために促進劣化試験後のはんだ性は劣っていた。これらの試料について電子顕微鏡で表面観察を行ったところ、電析粒は明らかに確認できるレベルであり、平滑ではなかった。
さらに、圧延率が10%に満たない試験番号11,12,18や、圧延率が10%以上であっても原板の表面粗度が大きい試験番号13、全塩化物浴Niめっきを施したためにめっき後の表面粗度が大きかった試験番号19についても、上記と同様に表面粗度が大きいために促進劣化試験後のはんだ性は劣っていた。これらの試料について電子顕微鏡で表面観察を行ったところ、ロールにより電析粒のかなりの部分は潰されて平滑になってはいるものの、凹の部分も多数存在していた。
【0033】
Niめっき表面の凹の部分が圧延率を上げても消えない理由としては、無光沢Niめっきの硬度はHV200前後と比較的軟質であるが、圧延率とともに表面が硬質化する。すなわち、Niめっき層の伸びが小さくなることを意味する。したがって、本発明にしたがった試験番号1〜8では、めっき原板やNiめっきの表面粗度が小さいために、圧延率が10%程度では凹の部分が残ってしまい、これ以上圧延率を高くしても、Niめっき層は硬質化されて伸びが小さいために凹が無くならないものと考えられる。
また、光沢剤入りのNiめっきを施した試験番号20は、はんだ性は良好であったが、促進劣化試験後の接触抵抗性が劣っていた。またワット浴Niめっきを施したものをバフ研磨した試験番号21は、はんだ性は良好であったものの接触抵抗性が初期値から高くなっていたほか、耐摩耗性も劣っていた。
試験番号14は、圧延後のめっき膜厚が0.2μm程度しかなかったため、耐摩耗性の点で劣っていた。
【0034】
【0035】
【発明の効果】
以上に説明したように、本発明にしたがって製造されたNiめっきステンレス鋼板は、Niめっきの耐摩耗性を向上することができ、優れたはんだ性と接触抵抗安定性を兼ね備え、光沢が優れて美麗は外観を有し、優れた機械的特性やばね性を有している。
このため、本Niめっきステンレス鋼板を所望形状に成形・加工することにより、各種電気・電子機器の電気接点用ばねやリードフレーム、端子として広く使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】Niめっきステンレス鋼板のめっき表面粗度とはんだ濡れ性の関係を示す図
【図2】Niめっきステンレス鋼板に圧延を施した際の、圧延率と引張強さの関係を示す図
【図3】Niめっきステンレス鋼板に圧延を施した際の、圧延率と伸びの関係を示す図
Claims (4)
- オーステナイト系またはマルテンサイト系のステンレス鋼板表面に0.5〜5μmの膜厚で、しかも表面粗度がRa:0.08μm以下に調整された無光沢Niめっき層を有することを特徴とするステンレス鋼製電気接点材料。
- 表面粗度がRa:0.20μm以下のオーステナイト系ステンレス鋼板上にめっき後の表面粗度がRa:0.25μm以下になるような無光沢Niめっきを施した後、鏡面ロールにより圧下率10〜70%の圧延を施し、圧延後のNiめっき膜厚を0.5〜5μmの範囲で、しかも表面粗度がRa:0.08μm以下に調整することを特徴とするステンレス鋼製電気接点材料の製造方法。
- 表面粗度がRa:0.20μm以下のマルテンサイト系ステンレス鋼板上にめっき後の表面粗度がRa:0.25μm以下になるような無光沢Niめっきを施した後、鏡面ロールにより圧下率10〜40%の圧延を施し、圧延後のNiめっき膜厚を0.5〜5μmの範囲で、しかも表面粗度がRa:0.08μm以下に調整することを特徴とするステンレス鋼製電気接点材料の製造方法。
- 無光沢Niめっきを施す前にNiストライクめっきを施す請求項2又は3に記載のステンレス鋼製電気接点材料の製造方法。
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WO2007094177A1 (en) * | 2006-02-15 | 2007-08-23 | Nippon Steel Materials Co., Ltd. | Stainless steel substrate with conductive metal layer, hard disk suspension material and hard disk suspension manufactured by using the material |
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-
2003
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