JP5002407B2 - すずめっきの耐磨耗性に優れるすずめっき銅又は銅合金条 - Google Patents

すずめっきの耐磨耗性に優れるすずめっき銅又は銅合金条 Download PDF

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Description

本発明は、コネクタ、端子、リレ−、スイッチ等の導電性ばね材として好適な、耐磨耗性に優れたすずめっき条に関する。
自動車用及び民生用の端子、コネクタ、電気電子機器の各種端子、コネクタ、リレー又はスイッチ等には、Snの優れた半田濡れ性、耐食性、電気接続性を生かし、Snめっきを施こされた銅又は銅合金条が使用されている。
Snめっき条は、連続めっきラインにおいて、脱脂及び酸洗の後、電気めっき法により下地めっき層を形成し、次に電気めっき法によりSnめっき層を形成し、最後にリフロー処理を施しSnめっき層を溶融させる工程で製造される。
Snめっき条の下地めっきとしては、Cu下地めっきが一般的であり、耐熱性が求められる用途に対してはCu/Ni二層下地めっきが施されることもある。ここで、Cu/Ni二層下地めっきとは、Cu下地めっき、Ni下地めっき、Snめっきの順に電気めっきを行なった後にリフロー処理を施しためっきであり、リフロー後のめっき皮膜層の構成は表面からSnめっき層、Cu−Snめっき層、Niめっき層、母材となる。この技術の詳細は特許文献1、特許文献2、特許文献3等に開示されている。
特開平6−196349号公報 特開2003−293187号公報 特開2004−68026号公報
従来使用されてきている銅合金のリフローSnめっき条は、繰り返し挿抜したり、嵌合後に振動などで接点部が摺動する条件下で使用される電子部品に要求される耐磨耗性、耐食性、電気接続性を安定して示すことは困難であった。又、銅合金のリフローSnめっき条を高温で長時間保持すると、めっき層が母材より剥離する現象(以下、熱剥離)が生じることが知られている。熱剥離が生じると、更にSnめっき層の耐摩耗性が低下し、Snの優れた半田濡れ性、耐食性、電気接続性を享受することが困難になる。
本発明の目的は、すずめっきの耐磨耗性を改善したすずめっき条を提供することである。
本発明者は、リフローSnめっき条の耐磨耗性を改善する方策を鋭意研究した。その結果、Cu−Sn合金層の厚さ、Cu−Sn合金層中の平均酸素濃度及びCu−Sn合金層の平均結晶粒径を調整することにより、Snめっき条の耐磨耗性を大幅に改善できることを見出した。
本発明は、この発見に基づき成されたものであり、
(1)銅又は銅合金の表面に、Cu、Snの順で電気めっきを施し、その後、リフロー処理を施しためっき条であり、Cu−Sn合金層の厚みが0.8〜2.0μm、Cu−Sn合金層中の平均酸素濃度が0.15〜0.8%、電解研磨によりSめっき層を除去した後に観察されるCu−Sn合金層の平均結晶粒径が1.0〜3.0μmであり、上記Cuの電気めっきは溶存酸素を調整した硫酸銅浴にて行われることを特徴とするリフローSnめっきを施された銅又は銅合金条。
(2)表面から母材にかけて、Snめっき層、Cu−Sn合金層、Cuめっき層の各層でめっき皮膜が構成され、Snめっき層の厚みが0.1〜1.5μm、Cuめっき層の厚みが0〜0.8μmであることを特徴とする上記(1)の銅又は銅合金条。
(3)表面から母材にかけて、Snめっき層、Cu−Sn合金層、Niめっき層の各層でめっき皮膜が構成され、Snめっき層の厚みが0.1〜1.5μm、Niめっき層の厚みが0.1〜0.8μmであることを特徴とする上記(1)の銅又は銅合金条である。

本発明によれば、耐磨耗性を大幅に改善したSnめっき材を提供すること、とりわけ繰り返し挿抜する必要があるコネクタや、嵌合後、振動などで接点部が摺動することにより耐磨耗性が要求されるコネクタ等の電子部品の素材としての使用に好適な、耐磨耗性が改良されたSnめっき材並びに前記Snめっき材を用いた伸銅品及び電子部品を提供することが可能となる。
本発明では、銅合金の表面に電気めっきを施すが、Cu−Sn合金層の厚さ、Cu−Sn合金層の平均酸素濃度、Cu−Sn合金層の平均結晶粒径を本発明の範囲内に調整すれば、Snめっき母材の種類に関わらず、所望の耐磨耗性を得ることが出来る。めっき母材として、例えば、強度及び導電率に優れるCu−Zn−Sn合金、Cu−Ni−Si−Mg合金やCu−Ni−Si−Sn−Zn合金に代表されるコルソン合金、チタン銅などが挙げられる。
本発明に係るSnめっき材の耐磨耗性が向上する理由及び各構成要素の範囲限定の理由を、本発明の実施形態と共に以下に説明する。
(イ)各めっき層の厚さ
(イ−1)Cu下地めっきの場合
母材上に、電気めっきによりCuめっき層及びSnめっき層を順次形成し、その後リフロー処理を行う。このリフロー処理により、めっき層間のCuとSnが反応してCu−Sn合金層が形成される。ここで、Cu−Sn合金層は電解式膜厚計を用いることによりその厚みを測定できる。
リフロー処理後のめっき層構造は、表面側よりSnめっき層、Cu−Sn合金層、Cuめっき層となる。
このめっき層の構造の中で、最も硬い層はCu−Sn合金層で、Cu−Sn合金層の厚さを厚くすることにより、耐磨耗性が向上する。本発明のCu−Sn合金層の厚さは0.8〜2.0μmであり、2.0μmを超えると、曲げ加工時に硬いCu−Sn合金層が割れやすくなり、この割れが起点となり母材まで割れが到達するため曲げ加工性が悪くなる。また、Cu−Sn合金層の厚さが0.8μm未満では、Cu−Sn合金層の厚さが薄く耐磨耗性向上の効果が得られない。より好ましい厚みは0.8〜1.8μm、最も好ましくは1.0〜1.7μmである。
Snめっき層が0.1μm未満になると半田濡れ性が低下し、1.5μmを超えると、めっきされた銅又は銅合金条が加熱された際にめっき層内部に発生する熱応力が高くなり、めっき剥離が促進される。従って、Snめっき層の好ましい範囲は0.1〜1,5μm、より好ましい範囲は0.2〜1.0μm、最も好ましくは、0.6〜1.0μmである。
Cuめっき層の厚みは、リフロー後の状態で0.8μm以下が好ましい。0.8μmを超えると、加熱された際にめっき層内部に発生する熱応力が高くなり、めっき剥離が促進される。より好ましいCuめっき層の厚みは0.4μm以下である。
このCu下地めっきは、リフロー時にCu−Sn合金層形成に消費され消失しても良い。すなわち、リフロー後のCuめっき層厚みの下限値は規制されず、厚みがゼロになってもよい。
それぞれの電気めっき時に、Snめっき層厚みは0.5〜2.0μmの範囲、Cuめっき層厚みは0.1〜1.5μmの範囲で形成されるように適宜調整し、230〜600℃、3〜50秒間の範囲の適当な条件でリフロー処理を行うことにより、上記本発明のめっき構造が得られる。
(イ−2)Cu/Ni下地めっきの場合
母材上に、電気めっきによりNiめっき層、Cuめっき層及びSnめっき層を順次形成し、その後リフロー処理を行う。このリフロー処理により、めっき層間のCuとSnが反応してCu−Sn合金層が形成される。一方Niめっき層は、ほぼ電気めっき上がりの状態(厚み)で残留する。
リフロー処理後のめっき層の構造は、表面側よりSnめっき層、Cu−Sn合金層、Niめっき層となる。
Cu/Ni下地めっきの場合においてもめっき層の構造の中で、最も硬い層はCu−Sn合金層で、Cu−Sn合金層の厚さを厚くすることにより、耐磨耗性が向上し、その厚さもCu下地めっきの場合と同様である。
Snめっき層の厚さに関しては、Cu下地めっきの場合と同様である。
Niめっき層の厚みは0.1〜0.8μmが好ましい。Niめっき層の厚みが0.1μm未満ではめっきの耐食性や耐熱性が低下する。Niめっき層の厚みが0.8μmを超えると、加熱された際にめっき層内部に発生する熱応力が高くなり、めっき剥離が促進される。より好ましいNiめっき層の厚みは0.1〜0.3μmである。
それぞれの電気めっき時に、Snめっき層厚みは0.5〜2.0μmの範囲、Cuめっき層厚みは0.1〜0.4μm、Niめっき層厚みは0.1〜0.8μmの範囲で形成されるように適宜調整し、230〜600℃、3〜50秒間の範囲のなかの適当な条件でリフロー処理を行うことにより、上記本発明のめっき構造が得られる。
(ロ)Cu−Sn合金層中の平均酸素濃度
本発明のCu−Sn合金層中の平均酸素濃度が0.15〜0.8%である。ここで、本明細書中の酸素濃度単位は質量%で表す。一般的に酸化物は、純金属に比べ硬い。よって、Cu−Sn合金層中の平均酸素濃度を高くするとCu−Sn合金層はより酸化物を含むこととなり硬くなる。すなわち、Cu−Sn合金層中の平均酸素濃度が0.15%未満ではCu−Sn合金層が硬くならず耐磨耗性が向上しない。一方、Cu−Sn合金層中の平均酸素濃度が0.8%を超えると、Cu−Sn合金層が靭性を失いもろくなるため耐磨耗性が悪化する。
本発明のCu−Sn合金層の平均酸素濃度は、GDS(グロー放電発光分光分析装置)により、リフロー後のSnめっき材のSn、Cu、Ni、Oの深さ方向の濃度プロファイルから下記の手順で求められる。
(a−1)Cu下地でCuめっき層が残存している場合、濃度プロファイル中の母材よりCu濃度が高い層はCuめっき層から構成されるCu下地めっき層であり、この層から表層に向かうに従いCu濃度が低下し、あるところでゼロとなる。このCu濃度が低下し始める点からゼロに至る点までの区間に相当する範囲の酸素濃度の平均値を求めて平均酸素濃度とした。Cu濃度が低下し始める点は、母材のCu濃度プロファイルと同じ値となる点とした。
(a−2)Cu下地でCuめっき層が残存していない場合、濃度プロファイル中の母材から表層に向かうに従いCu濃度が低下し、あるところでゼロとなる。このCu濃度が低下し始める点からゼロに至る点までの区間に相当する範囲の酸素濃度の平均値を求めて平均酸素濃度とする。
(b)Cu/Ni下地の場合、濃度プロファイル中の母材から表層に向かうに従いNi濃度が急激に高くなる部分はNiめっき層から構成されるNi下地めっき層であり、この層から表層に向かうに従いNi濃度が急激に低下し、Cu濃度が急激に増加する。次にCu濃度は低下し、あるところでゼロとなる。このCu濃度が低下し始める点からゼロに至る点までの区間に相当する範囲の酸素濃度の平均値を求めて平均酸素濃度とする。
このCu−Sn合金層中の酸素濃度の調整方法について以下に説明する。
一般的に銅めっきは硫酸銅浴でめっきされる。めっき浴の組成は、例えば硫酸銅=100〜300g/l、硫酸50g/lであり、この硫酸中に酸化銅を添加することによって建浴される。この建浴時の溶存酸素濃度をコントロールすることにより、Cu−Sn合金層中の平均酸素濃度を調整することが出来る。具体的には硫酸に対する酸化銅の添加量を飽和量以上にしたり、銅添加及びエアバブルを併用したりする手段が採用できる。
Snめっき浴中の酸素濃度を同じような方法で調整し、Cu−Sn合金層中の酸素濃度をコントロールする方法も考えられるが、この場合、Cu−Sn合金層中に取り込まれない酸素が、Snめっき層中に残存し、これが原因でSn酸化物が生成し半田濡れ性や接触抵抗が低下するおそれがある。
(ハ)Cu−Sn合金層の平均結晶粒径
金属の結晶粒径が微細化するほど硬さが上昇するため、耐磨耗性が向上する。本発明では、電解式膜厚計を使用して電解研磨によりSnめっき層を除去した後に観察されるCu−Sn合金層の結晶粒径は、1.0〜3.0μm、好ましくは1.2〜2.8μmであり、更に好ましくは1.6〜2.2μmである。一方、1.0μm未満ではCu−Sn合金層が硬くなりすぎて、曲げ加工時に母材や各めっき層よりも先に割れが入り、これが起点となり母材までも割れてしまうため好ましくない。Cu−Sn合金層の結晶粒径が3.0μmを超えると、硬さが充分でなく耐摩耗性に劣り、曲げ加工性にも劣る。
結晶粒径の調整方法
Cu−Sn合金層は、Snめっき後のリフロー処理によって成長する。リフロー処理時の降温速度が速いほど結晶粒の成長が抑えられ、Cu−Sn合金層の結晶粒径が小さくなる。通常リフロー処理はSnの融点以上の温度である、温度400〜700℃の炉内に3〜60秒間保持し、その後水冷する。このときの冷却速度を50〜150℃/secの範囲に調整することにより、所定のCu−Sn合金層の平均結晶粒径1.0〜3.0μmが得られる。
以上、本発明に係るSnめっき材について説明してきたが、本発明に係るSnめっき材はとりわけ耐磨耗性が要求されるコネクタ、端子、ピン、リレー、リードフレーム、リード端子及びスイッチ等の電子部品用Snめっき材として好適に使用である。
本発明で「耐磨耗性に優れた」とは、一定の負荷をかけてSnめっき材を摺動させた後の摩耗により生じた深さが浅いことをいい、具体的には下記記載の耐磨耗性試験において摺動痕の深さが3μm以下を示す特性を有することをいう。
以下に本発明に係るSnめっき材の製造例及びその特性試験の結果を示すが、これらは本発明及びその利点をより良く理解するために提供するのであり、本発明が限定されることを意図するものではない。
オス端子材として強度及び導電率に優れる、Cu−Zn−Sn合金をめっき母材として使用した実施例を下記に示す。
市販の電気銅をアノードとして、硝酸銅浴中で電解を行い、カソードに高純度銅を析出させた。この高純度銅中のP、As、Sb、Bi、Ca、Mg及びS濃度は、いずれも1質量ppm未満であった。以下、この高純度銅を下記インゴット製造材料に用いた。
高周波誘導炉を用い、内径60mm、深さ200mmの黒鉛るつぼ中で2kgの高純度銅を溶解した。溶湯表面を木炭片で覆った後、3%のZn及び0.2%のSnを添加し、溶湯温度を1200℃に調整した。
その後、溶湯を金型に鋳込み、幅60mm、厚み30mmのインゴットを製造し、以下の工程で、Cu下地リフローSnめっき母材及びCu/Ni下地リフローSnめっき母材に加工した。
(工程1)900℃で3時間加熱した後、厚さ8mmまで熱間圧延する。
(工程2)熱間圧延板表面の酸化スケールをグラインダーで研削、除去する。
(工程3)板厚1.5mmまで冷間圧延する。
(工程4)再結晶焼鈍として400℃で30分間加熱する。
(工程5)10質量%硫酸−1質量%過酸化水素溶液による酸洗及び#1200エメリー紙による機械研磨を順次行ない、表面酸化膜を除去する。
(工程6)板厚0.43mmまで圧延する。
(工程7)再結晶焼鈍として400℃で30分間加熱する。
(工程8)10質量%硫酸−1質量%過酸化水素溶液による酸洗を行ない、表面酸化膜を除去する。
(工程9)板厚0.3mmまで圧延する。
(工程10)アルカリ水溶液中で試料をカソードとして電解脱脂を行う。
(工程11)10質量%硫酸水溶液を用いて酸洗する。
(工程12)次の条件でNi下地めっきを施す(Cu/Ni下地の場合のみ)。
・めっき浴組成:硫酸ニッケル250g/L、塩化ニッケル45g/L、ホウ酸30g/L。
・めっき浴温度:50℃。
・電流密度:5A/dm2
・Niめっき厚みは、電着時間により調整。
(工程13)次の条件でCu下地めっきを施す。
・めっき浴組成:硫酸銅200g/L、硫酸60g/L、酸化銅5〜105g/L(Cu下地浴中の溶存酸素濃度は、酸化銅の添加量により調整)。
・めっき浴温度:25℃。
・電流密度:5A/dm2
・Cuめっき厚みは、電着時間により調整。
・上記溶存酸素濃度は、溶解銅量を測定し、残存酸化銅量から逆算して求めた。
(工程14)次の条件でSnめっきを施す。
・めっき浴組成:酸化第1錫41g/L、フェノールスルホン酸268g/L、界面活性剤5g/L。
・めっき浴温度:50℃。
・電流密度:9A/dm2
・Snめっき厚みは、電着時間により調整。
(工程15)リフロー処理として、温度を400℃、雰囲気ガスを窒素(酸素1vol%以下)に調整した加熱炉中に、試料を10秒間挿入した。その後、水冷やシャワーリング等を適宜採用して冷却速度を変えて、Cu−Sn合金層の結晶粒径を調整した。
このように作製した試料について、次の評価を行った。
(a)電解式膜厚計によるめっき厚測定
CT−1型電解式膜厚計(株式会社電測製)を用い、リフロー後の試料に対し、JIS H8501に従い、Snめっき層、Cu−Sn合金層、Cu/Ni下地めっき層の場合はNiめっき層の厚みを測定した。測定条件は下記の通りである。
電解液
(1)Snめっき層およびCu−Sn合金層:コクール社製電解液 R−50
(2)Niめっき層:コクール社製電解液 R−54
Cu下地Snめっきの場合、電解液R−50で電解を行うと、始めSnめっき層を電解してCu−Sn合金層の手前で電解がとまり、ここでの装置の表示値がSnめっき層厚となる。ついで再度電解をスタートさせて次に装置が止まるまでの間にCu−Sn合金層が電解され、終了時点での表示値がCu−Sn合金層の厚みに相当する。
Cu/Ni下地めっき層の場合のNiめっき層の厚みは、はじめに電解液R−50を使用して上記のようにSnめっき層およびCu−Sn合金層の厚みを測定した後、スポイトで電解液R−50を吸い取りだし、純水で入念に水洗いしてから電解液R−54に交換し、Niめっき層の厚みを測定する。
(b)めっき層断面観察によるCuめっき層厚の測定
上記電解式膜厚計では銅合金上のCuめっき厚を測定できないことから、めっき層の断面をSEMで観察することによりCuめっき層の厚さを求めた。
圧延方向に対して平行方向の断面が観察できるように試料を樹脂埋めし、観察面を機械研磨にて鏡面に仕上げた後、SEMにて倍率2000倍で反射電子像、母材成分とめっき成分(本発明ではCu、Zn、Sn)の特性X線像を撮影する。反射電子像では各めっき層、本発明のCu下地Snめっきの場合はめっき表層からSnめっき層、Cu−Sn合金層、Cuめっき層、母材の順に色調のコントラストがつく。また、特性X線像では、Snめっき層はSnのみ、Cu−Sn合金層はSnとCu、母材はCu、Zn、Snが検出されることから、Cuのみが検出されている層がCuめっき層であることがわかる。よって、反射電子像で、特性X線像ではCuのみが検出されている他とは色調のコントラストが異なる層の厚みを測ることによりCuめっき層の厚みを求めることが出来る。厚みは反射電子像上で任意に5箇所の厚みを測定しその平均値をCuめっき層厚とする。
ただし、この方法では電解式膜厚法に比べ極狭い範囲の厚みしか求めることが出来ない。そこで、この観察を10断面行い、その平均値をCuめっき厚とした。
(c)GDSによる平均酸素濃度測定
リフロー後の試料をアセトン中で超音波脱脂した後、GDS(グロー放電発光分光分析装置)により、Sn、Cu、Ni、Oの深さ方向の濃度プロファイルを求めた。測定条件は次の通りである。
・装置:JOBIN YBON社製 JY5000RF−PSS型
・Current Method Program:CNBinteel−12aa−0。
・モード:定常電圧=40W。
・Ar圧:775Pa。
・電流値:40mA(700V)。
・フラッシュ時間:20秒。
・予備加熱時間:2秒。
・測定(分析)時間=30秒、Sampling Time=0.020sec/point。
GDSによる代表的な濃度プロファイルとして後述する実施例2の発明例27(Cu下地めっき)のデータを図1に示す。Cu下地めっき層のCu濃度が低下し始めてから0に至るまでの区間の酸素濃度の平均値を求めて平均酸素濃度とした。
同様に後述する実施例2の発明例39(Cu/Ni下地めっき)のデータを図2に示す。母材から表層に向かうに従いCu濃度が急激に増加してから低下し、あるところでゼロとなる。このCu濃度が低下し始める点からゼロに至る点までの区間の酸素濃度の平均値を求めて平均酸素濃度とした。
(d)Cu−Sn合金層の平均結晶粒径
CT−1型電解式膜厚計(株式会社電測製)を用い、リフロー後の試料に対し電解研磨を実施してSnめっき層を除去した。電解式膜厚計に試料をセットし、電解を始めるとSnめっき層を溶解し、その後合金層の手前で電解がとまる。このようにしてSnめっき層を除去した後の表面をFE−SEMで倍率3000倍に拡大して写真に取り、次にJISで規定する切断法(JISH0501)により、写真上に200mmの線分を試料の板幅方向に対して平行な線5本及び直角な線5本の合計10本をそれぞれ25mmの間隔で引き、前記線分で切られる結晶粒数nを数え、〔200mm×10/(n×1000)〕の式から求めた。観察した視野数は、各試料に対してランダムに選定した3視野について観察し、その平均値を平均結晶粒径とした。
(e)耐磨耗性試験
板厚0.2mmの黄銅−Snめっき材を準備した。Snめっきは電着時の厚みがそれぞれSn=1.2μm、Cu=0.6μmのリフローSnめっき材である。この黄銅−Snめっき材に対し、高さ2mm、半径0.6mmの張り出し(エンボス)加工を行い、半球状の突起を施した端子を作成する。この端子と本発明のSnめっき材を図3に示すように配置し、端子に荷重300gを負荷しながら、速度5mm/secの速さで本発明のSnめっき材を150回往復させる。摺動後の本発明Snめっき材の外観を観察するとともに、摺動部の最大深さ(μm)を表面粗さ計(株式会社小坂研究所製、サーフコーダーSE1600)を用いて測定した。
(f)曲げ試験
試験片の長手方向が圧延方向と平行となるように、幅10mm、長さ30mmの短冊形状の試験片を作製した。次にこの試験片に対して、曲げ半径=0.3mmで180°曲げを行い、その後密着させた。密着後の曲げ部の割れの有無を光学顕微鏡で確認した。試験は測定数3で実施し、一つでも割れが観察された場合を不可(×)、割れが観察されなかった場合を良(○)とした。
(実施例1)
Snめっき材の耐磨耗性に対するCu−Sn合金層の厚さの影響を調べるため、リフロー処理後のSnめっき厚を0.60〜1.00μm、Cu−Sn合金層の平均結晶粒径を2.5μm、Cu−Sn合金層中の平均酸素濃度を0.3%に調整したCu下地Snめっき材及びCu/Ni下地Snめっき材をそれぞれ準備した。ここで、電着時のCuめっき厚及びリフロー処理温度を変えることによりCu−Sn合金層の厚さを変化させた。作製した試料の曲げ性及び耐磨耗性を評価した結果を、Cu下地の場合(a)は表1、Cu/Ni下地(b)の場合は表2に示す。
(a)Cu下地の場合
発明例1〜8ではCu下地めっき厚及びリフロー温度を調整して、Cu−Sn合金層の厚さを本発明の範囲内である0.80〜2.00にしている。その結果、磨耗試験後の摺動痕の深さは3μm以下で、また外観を観察しても母材の露出は認められず、耐磨耗性は良好であった。
比較例9及び10は、Cu−Sn合金層の厚さを減らした例である。Cu−Sn合金層の厚さが0.80μm未満であると、磨耗試験後の摺動痕の深さが3μm以上を超えて深くなり、また、その外観には母材の露出が認められた。従って、Cu−Sn合金層の厚さが薄いと耐磨耗性が悪化することがわかる。
比較例11及び12は、Cu−Sn合金層の厚さを厚くした例である。Cu−Sn合金層の厚さが2.00μmを超えると、磨耗試験後の摺動痕の深さは3μm以下で問題ないが、曲げで割れが発生した。Cu−Sn合金層の厚さを厚くすると曲げ性が悪くなることがわかる。
(b)Cu/Ni下地の場合
発明例13〜20ではCu下地めっきの場合と同様にCu−Sn合金層の厚さを本発明の範囲内である0.80〜2.00μmにしているため、磨耗試験後の摺動痕の深さは3μm以下で、また外観を観察しても母材の露出は認められず、耐磨耗性は良好であった。
比較例21及び22は、Cu−Sn合金層の厚さを減らした例である。Cu−Sn合金層の厚さが0.80μm未満であると、磨耗試験後の摺動痕の深さが3μm以上を超えて深くなり、また、その外観には母材が認められる。Cu−Sn合金層の厚さが薄いと耐磨耗性が悪化することがわかる。
比較例23及び24は、Cu−Sn合金層の厚さを厚くした例である。Cu−Sn合金層の厚さが2.00μmを超えると、磨耗試験後の摺動痕の深さは3μm以下で問題ないが、曲げで割れが発生した。Cu−Sn合金層の厚さを厚くすると曲げ性が悪くなることがわかる。
(実施例2)
Snめっき材の耐磨耗性に対するCu−Sn合金層中の酸素濃度の影響を調べるため、リフロー処理後のSnめっき厚を0.60〜1.00μm、Cu−Sn合金層の厚さを0.90〜2.00μm、Cu−Sn合金層の平均結晶粒径を2.5μmに調整したCu下地Snめっき材及びCu/Ni下地Snめっき材をそれぞれ準備した。ここで、Cuめっき浴建浴時に硫酸に添加する酸化銅の割合を変えることにより、Cu−Sn合金層中の平均酸素濃度を変化させた。このようにして作製した試料について曲げ性及び耐磨耗性を評価した結果を、Cu下地(a)の場合は表3、Cu/Ni下地(b)の場合は表4に示す。
(a)Cu下地の場合
発明例25〜32では銅めっき浴建浴時の硫酸に対する酸化銅の添加量を調整することによりCu−Sn合金層中の平均酸素濃度を発明の範囲内である0.15〜0.8%に調整している。その結果、磨耗試験後の摺動痕の深さは3μm以下で、また外観を観察しても母材の露出は認められず、耐磨耗性は良好であった。
比較例33及び34は、Cu−Sn合金層中の平均酸素濃度を減らした例である。Cu−Sn合金層中の平均酸素濃度が0.15%未満であると、Cu−Sn合金層が軟らかくなり、磨耗試験後の摺動痕の深さが3μm以上を超えて深くなる。また、その摺動部外観には母材の露出が認められ、Cu−Sn合金層中の平均酸素濃度が低いと耐磨耗性が悪化することがわかる。
比較例35及び36は、Cu−Sn合金層中の平均酸素濃度を高くした例である。Cu−Sn合金層中の平均酸素濃度が0.8%を超えると、磨耗試験後の摺動痕の深さが3μm以上を超えて深くなり、また、その外観には母材の露出が認められた。従って、Cu−Sn合金層中の平均酸素濃度が高いと耐磨耗性が悪化することがわかる。
(b)Cu/Ni下地の場合
発明例37〜44ではCu下地めっきの場合と同様にCu−Sn合金層中の平均酸素濃度を発明の範囲内0.15〜0.8%にしているため、磨耗試験後の摺動痕の深さは3μm以下で、また外観を観察しても母材の露出は認められず、耐磨耗性は良好であった。
比較例45及び46は、Cu−Sn合金層中の平均酸素濃度を減らした例である。Cu−Sn合金層中の平均酸素濃度が0.15%未満であると、磨耗試験後の摺動痕の深さが3μm以上を超えて深くなり、また、その外観には母材の露出が認められる。従って、Cu−Sn合金層中の平均酸素濃度が低いと耐磨耗性が悪化することがわかる。
比較例47及び48は、Cu−Sn合金層中の平均酸素濃度を高くした例である。Cu−Sn合金層中の平均酸素濃度が0.8%を超えると、磨耗試験後の摺動痕の深さが3μm以上を超えて深くなり、また、その外観には母材の露出が認められる。従って、Cu−Sn合金層中の平均酸素濃度が高いと耐磨耗性が悪化することがわかる。
(実施例3)
Snめっき材の耐磨耗性に対するCu−Sn合金層の平均結晶粒径の影響を調べるため、リフロー処理後の純Snめっき厚を0.6〜1.0μm、Cu−Sn合金層の厚さを0.8〜2.0μm、Cu−Sn合金層中の平均酸素濃度を0.5%に調整したCu下地Snめっき材及びCu/Ni下地Snめっき材をそれぞれ準備した。ここで、リフロー処理後の冷却速度(℃/秒)を変化させることによりCu−Sn合金層の結晶粒径を変化させた。作製した曲げ性及び耐磨耗性を評価した結果を表5及び表6に示す。
(a)Cu下地の場合
発明例49〜56ではリフロー処理後の冷却速度を調整することによりCu−Sn合金層の平均結晶粒径を発明の範囲内である1.0〜3.0μmに調整している。その結果、磨耗試験後の摺動痕の深さは3μm以下で、また外観を観察しても母材の露出は認められず、耐磨耗性は良好であった。
比較例57及び58は、Cu−Sn合金層の平均結晶粒径を小さくした例である。Cu−Sn合金層の平均結晶粒径が1.0μmより小さくなると、磨耗試験後の摺動痕の深さが3μm以下で耐磨耗性は良いが、曲げ試験後の曲げ部に割れが発生した。Cu−Sn合金層の平均結晶粒径を小さくすると曲げ性が悪化することがわかる。
比較例59及び60は、Cu−Sn合金層の平均結晶粒径を大きくした例である。Cu−Sn合金層の平均結晶粒径が3.0μmより大きくなると、磨耗試験後の摺動痕の深さが3μm以上を超えて深くなり、また、その外観には母材の露出が認められた。また、同時に曲げ性も悪化しており、Cu−Sn合金層の平均結晶粒径が大きいと耐磨耗性および曲げ性が悪化することがわかる。
(b)Cu/Ni下地の場合
発明例61〜68ではCu下地めっきの場合と同様にCu−Sn合金層の平均結晶粒径を発明の範囲内1.0〜3.0μmにしているため、磨耗試験後の摺動痕の深さは3μm以下で、また外観を観察しても母材の露出は認められず、耐磨耗性は良好であった。
比較例69及び70は、Cu−Sn合金層の平均結晶粒径を小さくした例である。Cu−Sn合金層の平均結晶粒径が1.0μmより小さくなると、磨耗試験後の摺動痕の深さが3μm以下で耐磨耗性は良いが、曲げ試験後の曲げ部に割れが発生した。Cu−Sn合金層の平均結晶粒径を小さくすると曲げ性が悪化することがわかる。
比較例71及び72は、Cu−Sn合金層の平均結晶粒径を大きくした例である。Cu−Sn合金層の平均平均結晶粒径が3.0μmを超えると、磨耗試験後の摺動痕の深さが3μm以上を超えて深くなり、また、その外観には母材の露出が認められた。また、同時に曲げ性も悪化しており、Cu−Sn合金層の平均結晶粒径が大きいと耐磨耗性および曲げ性が悪化することがわかる。
実施例2の発明例27のCu下地めっきのGDSによる銅の濃度プロファイルデータを示した図である。 実施例2の発明例39のNi/Cu下地めっきのGDSによる銅の濃度プロファイルデータを示した図である。 めっき耐磨耗性試験の説明図である。

Claims (3)

  1. 銅又は銅合金の表面に、Cu、Snの順で電気めっきを施し、その後、リフロー処理を施しためっき条であり、Cu−Sn合金層の厚みが0.8〜2.0μm、Cu−Sn合金層中の平均酸素濃度が0.15〜0.8%、電解研磨によりSnめっき層を除去した後に観察されるCu−Sn合金層の平均結晶粒径が1.0〜3.0μmであり、上記Cuの電気めっきは溶存酸素を調整した硫酸銅浴にて行われることを特徴とするリフローSnめっきを施された銅又は銅合金条。
  2. 表面から母材にかけて、Snめっき層、Cu−Sn合金層、Cuめっき層の各層でめっき皮膜が構成され、Snめっき層の厚みが0.1〜1.5μm、Cuめっき層の厚みが0〜0.8μmであることを特徴とする請求項1に記載の銅又は銅合金条。
  3. 表面から母材にかけて、Snめっき層、Cu−Sn合金層、Niめっき層の各層でめっき皮膜が構成され、Snめっき層の厚みが0.1〜1.5μm、Niめっき層の厚みが0.1〜0.8μmであることを特徴とする請求項1に記載の銅又は銅合金条。
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