JP2004139819A - 有機エレクトロルミネッセンス素子および有機エレクトロルミネッセンス素子を有する表示装置 - Google Patents
有機エレクトロルミネッセンス素子および有機エレクトロルミネッセンス素子を有する表示装置 Download PDFInfo
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Abstract
【解決手段】陽極側から順に、第一の正孔輸送層、第二の正孔輸送層、ホスト化合物とりん光性ドーパントを含有する発光層を有し、以下の条件を満たす有機EL素子。(a)第一、第二の正孔輸送材料、発光層のホスト化合物の最低励起三重項エネルギー(T1)をそれぞれT1a、T1b、T1cとした時、T1b>T1c、かつ、T1a<T1c。(b)ホスト化合物、りん光性ドーパントの最低励起三重項エネルギー(T1)をそれぞれT1c、T1dとしたとき、T1c>T1dである。
【選択図】 なし
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、高い発光効率で特に青色発光が可能な有機エレクトロルミネッセンス(EL)素子に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
発光型の電子ディスプレイデバイスとして、エレクトロルミネッセンスディスプレイ(ELD)がある。ELDの構成要素としては、無機エレクトロルミネッセンス素子や有機エレクトロルミネッセンス素子が挙げられる。無機エレクトロルミネッセンス素子は平面型光源として使用されてきたが、発光素子を駆動させるためには交流の高電圧が必要である。有機エレクトロルミネッセンス素子は、発光する化合物を含有する発光層を、陰極と陽極で挟んだ構成を有し、発光層に電子及び正孔を注入して、再結合させることにより励起子(エキシトン)を生成させ、このエキシトンが失活する際の光の放出(蛍光・りん光)を利用して発光する素子であり、数V〜数十V程度の電圧で発光が可能であり、さらに、自己発光型であるために視野角に富み、視認性が高く、薄膜型の完全固体素子であるために省スペース、携帯性等の観点から注目されている。
【0003】
しかしながら、今後の実用化に向けた有機EL素子には、さらなる低消費電力で効率よく高輝度に発光する有機EL素子の開発が望まれており、高輝度、高効率で発光させるために、ホスト化合物に少量の蛍光体をドープした有機発光層を有する素子が、いくつか開発されている。
【0004】
例えば、特許第3093796号では、スチルベン誘導体、ジスチリルアリーレン誘導体又はトリススチリルアリーレン誘導体に、微量の蛍光体をドープし、発光輝度の向上、素子の長寿命化を達成している。
【0005】
また、8−ヒドロキシキノリンアルミニウム錯体をホスト化合物として、これに微量の蛍光体をドープした有機発光層を有する素子(特開昭63−264692号公報)、8−ヒドロキシキノリンアルミニウム錯体をホスト化合物として、これにキナクリドン系色素をドープした有機発光層を有する素子(特開平3−255190号公報)が知られている。以上のように、蛍光量子収率の高い蛍光体をドープすることによって、従来の素子に比べて高い発光輝度を実現している。
【0006】
しかし、上記のドープされる微量の蛍光体からの発光は、励起一重項からの発光であるため、光の取り出し効率が原理的にも低かった。即ち、励起一重項からの発光を用いる場合、一重項励起子と三重項励起子の生成比は1:3であるため、発光性励起種の生成確率が25%であることと、光の取り出し効率が約20%であるため、外部取り出し量子効率(ηext)の限界は5%とされていた。ところが、プリンストン大学から、りん光性化合物をドーパントとして用い、励起三重項からのりん光発光を用いる有機EL素子が報告がされて以来(M.A.Baldo et al.,nature、395巻、151−154ページ(1998年))、室温でりん光を示す材料の研究が活発になってきている(例えば、M.A.Baldo et al.,nature、403巻、17号、750−753ページ(2000年)、米国特許第6,097,147号など)。
【0007】
励起三重項を使用すると、内部量子効率の上限が100%となるため、励起一重項の場合に比べて原理的に発光効率が最大4倍となり、特にフルカラーディスプレイや白色発光素子に応用する場合には高効率に発光する素子の開発が必要であり、これらは冷陰極管とほぼ同等の性能が得られることから照明用にも応用可能であり注目されている。
【0008】
りん光性化合物をドーパントとして用いるときのホストは、りん光性化合物の発光極大波長よりも短波な領域に発光極大波長を有することが必要である他、例えば、Ikaiらは正孔(ホール)輸送性の化合物をりん光性化合物のホストとして用いる検討、また、M.E.Tompsonらによる各種電子輸送性材料をりん光性化合物のホストとして、これらに新規なイリジウム錯体をドープして用いる検討、さらに、Tsutsuiらによるホールブロック層の導入等、素子の構成等についても、様々な検討がされてきたが、発光層、正孔(ホール)輸送層、正孔(ホール)ブロック層、電子輸送層等発光層に隣接する層に用いる有機材料と発光層に用いる有機材料の間に満たすべきいくつかの条件があることが分かってきた。
【0009】
例えば、特許文献1には、有機発光素子を高輝度発光させるための発光材料およびホスト材料の最低励起三重項エネルギー準位よりも、該発光層に隣接する層の有機材料の最低励起三重項エネルギー準位を高く構成することによって、発光層において生成した三重項励起子のエネルギーが発光層に隣接する層を構成する有機材料に移動してしまうことを防ぐことによって高効率の有機発光素子が得られることが開示されている。
【0010】
しかしながら、有機EL素子においては、前記のように種々の構成の素子が提案されており、すべての構成の場合にこのような条件のみで高輝度発光が達成される訳ではない。
【0011】
【特許文献1】
特開2002−100476号公報
【0012】
【発明が解決しようとする課題】
従って、本発明の目的は、複数の正孔輸送層およびホスト化合物とりん光性ドーパントを含有する発光層を有する有機エレクトロルミネッセンス(EL)素子において、高い発光効率で発光が可能な有機EL素子を提供することにある。
【0013】
【課題を解決するための手段】
本発明の上記目的は、以下の手段によって達成される。
【0014】
1.陽極側から順に、第一の正孔輸送層、第二の正孔輸送層、ホスト化合物とりん光性ドーパントを含有する発光層を有する有機エレクトロルミネッセンス素子において、以下の(a)および(b)の条件を満たすことを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。
(a)第一の正孔輸送材料、第二の正孔輸送材料、発光層のホスト化合物の最低励起三重項エネルギー(T1)をそれぞれT1a、T1b、T1cとした時、T1b>T1c、かつ、T1a<T1cである。
(b)ホスト化合物、りん光性ドーパントの最低励起三重項エネルギー(T1)をそれぞれT1c、T1dとしたとき、T1c>T1dである。
【0015】
2.りん光性ドーパントの発光極大波長が380nm以上500nm以下であることを特徴とする前記1に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【0016】
3.第一の正孔輸送材料、第二の正孔輸送材料、ホスト化合物とりん光性ドーパントを含有する発光層のホスト化合物のIPをそれぞれIP1、IP2、IP3とした時、IP1<IP2<IP3であることを特徴とする前記1または2に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【0017】
4.0eV<IP3−IP2≦0.5eVであることを特徴とする前記1、2または3に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【0018】
5.0eV<IP3−IP2≦0.3eVであることを特徴とする前記1、2または3に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【0019】
6.第一の正孔輸送材料が前記一般式(1)または(2)で表されることを特徴とする前記1〜5のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【0020】
7.前記1〜6のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子を有する表示装置。
【0021】
以下、本発明について詳述する。
本発明は、複数の正孔輸送層を有する、ホスト化合物とりん光性ドーパントを含有する発光層を有する有機EL素子に関するもので、該正孔輸送材料と発光層のホスト化合物、燐光性ドーパント等の各材料における特性間の関係を最適に調整するものである。
【0022】
本発明の発光素子においては、前記のような正孔輸送層、発光層、そして電子輸送層等の各有機材料を含有する層を一対の電極間に挟持させ、該電極間に電界を印加することで、陰極からは電子、陽極からは正孔(ホール)が発光層中に注入され、これらが発光層中で再結合し発光する。即ち、ホスト化合物とりん光性ドーパントを含有する発光層においては、再結合によって生成した三重項励起子が、基底状態に戻る際に発光する。
【0023】
正孔輸送層は単一の層であってもよいが、通常、電極からの正孔(ホール)の注入や、ホールの輸送性、また、発光層へのホール注入性等を考慮して、正孔輸送層は陽極側から第一の正孔輸送層、第二の正孔輸送層というように複数もうけ、第二の正孔輸送層を発光層と隣接させる構成をとるが発光効率をあげる上で好ましい。ここでは、正孔の電極からの注入を容易にする役割をもつ正孔注入層といわれるものも含め正孔輸送層と呼ぶこととする。
【0024】
前記特許文献1において、述べられているように、発光層に隣接する正孔輸送層、或いは電子輸送層等に用いる有機材料の最低励起三重項エネルギー準位(T1)は発光層に含有されるホスト化合物、りん光性ドーパントよりも高いことが、発光層において生成した三重項励起子のエネルギーが正孔輸送層或いは電子輸送層等の隣接層に移動してしまうことがなく好ましい。また、前記特許文献1においては、例えば、正孔輸送層、正孔注入層或いは電子輸送層、電子注入層等の隣接層が複数層からなる場合において、例えば、正孔輸送層に注目した場合、正孔輸送層を構成するすべての層の最低励起三重項エネルギー準位(T1)が、発光層を構成するりん光性ドーパントのT1準位よりも高いことが好ましい旨記載されている。
【0025】
しかしながら、前記特許文献1において、正孔輸送材料として好ましい最低励起三重項エネルギー準位が発光層を構成する発光材料であるりん光性ドーパントに比べ高い材料は具体的には開示されておらず、また、実際に正孔輸送材料を複数の層で構成した例は開示されていないため、複数の材料で正孔輸送層を構成する材料としてどのような材料をそれぞれ選択すべきか、明確な開示はない。
【0026】
しかしながら、本発明者らは、発光層に直接隣接した正孔輸送層の材料に、最低励起三重項エネルギー準位が発光層を構成するホスト材料に比べ高い正孔輸送材料を用い、かつ、第一の正孔輸送層、第二の正孔輸送層からなる複数の正孔輸送層を発光層に隣接させて有機EL素子を構成する場合、即ち、陽極側から順に、第一の正孔輸送層、第二の正孔輸送層、ホスト化合物とりん光性ドーパントを含有する発光層を有する有機EL素子においては、以下の様に、
(a)第一の正孔輸送層を構成する第一の正孔輸送材料、第二の正孔輸送層を構成する第二の正孔輸送材料、発光層のホスト化合物の最低励起三重項エネルギー(T1)をそれぞれT1a、T1b、T1cとした時、T1b>T1c、かつ、T1a<T1c、であればよい。即ち、すべての正孔輸送材料の最低励起三重項エネルギー準位(T1)が発光層の有機材料(ホスト化合物またはリン光性ドーパント)に比べて高い必要はなく、発光層に隣接した正孔輸送材料の最低励起三重項エネルギー準位(T1b)は発光層のホスト化合物の最低励起三重項エネルギー準位(T1c)よりも高いことが必要であるが、例えば、第一の正孔輸送層を構成する正孔輸送材料の最低励起三重項エネルギー準位(T1a)については、ホスト化合物のそれ(T1c)に比べ低いことが好ましいことを見いだした。
【0027】
更に好ましいのは、第一の正孔輸送層を構成する正孔輸送材料の最低励起三重項エネルギー準位(T1a)がリン光性ドーパントの最低励起三重項エネルギー準位(T1d)に比べ低いことである。
【0028】
生成した三重項励起子のエネルギーが隣接層である正孔輸送層に移動してしまうことがないためには発光層に直接隣接した層の最低励起三重項エネルギー準位(T1)が、発光層を構成するホスト化合物に比べて高ければよく、直接隣接しない第一の正孔輸送材料の最低励起三重項エネルギー準位(T1)は、発光層中のホスト化合物、更にはリン光性ドーパントよりも小さいほうがよい。第一の正孔輸送材料としては、発光層中のホスト化合物はもとより、リン光性ドーパントよりもT1準位が低いものが多く、このため高いものを選択するより選択の幅が広がり、正孔輸送材料としての特性のよいものを選ぶことができる。
【0029】
発光層に直接隣接した層に含まれる有機材料の最低励起三重項エネルギー準位は、発光層中のホスト化合物の最低励起三重項エネルギー準位の1.05倍以上1.38倍以下であるのが好ましい。また、前記有機材料の最低励起三重項エネルギー準位は、68kcal/mol(284.9kJ/mol)以上90kcal/mol(377.1kJ/mol)以下であるのが好ましい。
【0030】
発光層に直接隣接しない第一の正孔輸送層の最低励起三重項エネルギー準位は発光層中のホスト化合物を基準とすると最低励起三重項エネルギー準位の1.00倍未満0.50倍以上であるのが好ましく、より好ましくは0.90未満0.7以上である。1.00を超えると、正孔輸送層として十分な特性を有する材料の組み合わせを選択する上での制約が大きくなる。
【0031】
発明においては、発光層中のホスト化合物とりん光性ドーパントの関係において、りん光性ドーパントからの発光を用いるため、前記の関係のほか、
(b)ホスト化合物、りん光性ドーパントの最低励起三重項エネルギー(T1)をそれぞれT1c、T1dとしたとき、T1c>T1dであることが必要である。
【0032】
本発明の有機EL素子は、また、りん光性ドーパントを用いた青色領域の発光に用いることが好ましく、りん光性ドーパントの発光極大波長を380nm以上500nm以下とすることにより高い発光効率で青色領域の発光が得られ、フルカラーを構成するために好ましい。
【0033】
第一の正孔輸送層料、第二の正孔輸送層、そして発光層へとホールの移動を容易にするために、第一の正孔輸送材料、第二の正孔輸送材料、ホスト化合物とりん光性ドーパントを含有する発光層のホスト化合物のIPをそれぞれIP1、IP2、IP3とした時、IP1<IP2<IP3であることが好ましい。
【0034】
また、発光層のホスト化合物と第二の正孔輸送材料間は、
0eV<IP3−IP2≦0.5eVという関係があることが好ましく、
さらに、0eV<IP3−IP2≦0.3eVという関係があることが特に好ましい。Ip3がIP2より限度を超え大きくなりすぎると、ホールの輸送性は逆に低下する。
【0035】
尚、イオン化ポテンシャルは光電子分光法で直接測定するか、あるいは電気化学的に測定した酸化電位を基準電極に対して補正しても求めることができる。
【0036】
本発明では、有機化合物のイオン化ポテンシャルは、光電子分光法で直接測定する方法を用いる。具体的には、理研計器社製の低エネルギー電子分光装置「Model AC−1」により測定した値とした。
【0037】
正孔輸送材料として代表的には、以下のものがあげられる。
従来、光導伝材料において、正孔の電荷注入輸送材料として慣用されているものやEL素子の正孔注入層、正孔輸送層に使用される公知のものの中から選択して用いることができる。
【0038】
上記正孔注入材料、正孔輸送材料は、正孔の注入もしくは輸送、電子の障壁性のいずれかを有するものであり、有機物,無機物のいずれであってもよい。この正孔注入材料、正孔輸送材料としては、例えばトリアゾール誘導体,オキサジアゾール誘導体,イミダゾール誘導体,ポリアリールアルカン誘導体,ピラゾリン誘導体及びピラゾロン誘導体,フェニレンジアミン誘導体,アリールアミン誘導体,アミノ置換カルコン誘導体,オキサゾール誘導体,スチリルアントラセン誘導体,フルオレノン誘導体,ヒドラゾン誘導体,スチルベン誘導体,シラザン誘導体,アニリン系共重合体、また、導電性高分子オリゴマー、特にチオフェンオリゴマー(例えば、PEDOT;ポリ(エチレンジオキシチオフェン)・ポリスチレンスルホン酸(BAYER社製、Baytron P))などが挙げられる。正孔注入材料、正孔輸送材料としては、上記のものを使用することができるが、銅フタロシアニン、ポルフィリン化合物、芳香族第三級アミン化合物及びスチリルアミン化合物、特に芳香族第三級アミン化合物を用いることが好ましい。
【0039】
上記芳香族第三級アミン化合物及びスチリルアミン化合物の代表例としては、N,N,N′,N′−テトラフェニル−4,4′−ジアミノフェニル;N,N′−ジフェニル−N,N′−ビス(3−メチルフェニル)−〔1,1′−ビフェニル〕−4,4′−ジアミン(TPD);2,2−ビス(4−ジ−p−トリルアミノフェニル)プロパン;1,1−ビス(4−ジ−p−トリルアミノフェニル)シクロヘキサン;N,N,N′,N′−テトラ−p−トリル−4,4′−ジアミノビフェニル;1,1−ビス(4−ジ−p−トリルアミノフェニル)−4−フェニルシクロヘキサン;ビス(4−ジメチルアミノ−2−メチルフェニル)フェニルメタン;ビス(4−ジ−p−トリルアミノフェニル)フェニルメタン;N,N′−ジフェニル−N,N′−ジ(4−メトキシフェニル)−4,4′−ジアミノビフェニル;N,N,N′,N′−テトラフェニル−4,4′−ジアミノジフェニルエーテル;4,4′−ビス(ジフェニルアミノ)クオードリフェニル;N,N,N−トリ(p−トリル)アミン;4−(ジ−p−トリルアミノ)−4′−〔4−(ジ−p−トリルアミノ)スチリル〕スチルベン;4−N,N−ジフェニルアミノ−(2−ジフェニルビニル)ベンゼン;3−メトキシ−4′−N,N−ジフェニルアミノスチルベンゼン;N−フェニルカルバゾール、さらには、米国特許第5,061,569号明細書に記載されている2個の縮合芳香族環を分子内に有するもの、例えば4,4′−ビス〔N−(1−ナフチル)−N−フェニルアミノ〕ビフェニル(NPD)、特開平4−308688号公報に記載されているトリフェニルアミンユニットが3つスターバースト型に連結された4,4′,4″−トリス〔N−(3−メチルフェニル)−N−フェニルアミノ〕トリフェニルアミン(MTDATA)などが挙げられる。
【0040】
さらにこれらの材料を高分子鎖に導入した、またはこれらの材料を高分子の主鎖とした高分子材料を用いることもできる。
【0041】
また、p型−Si、p型−SiCなどの無機化合物も正孔注入材料、正孔輸送材料として使用することができる。この正孔注入層、正孔輸送層は、上記正孔注入材料、正孔輸送材料を、例えば真空蒸着法、スピンコート法、キャスト法、LB法などの公知の方法により、薄膜化することにより形成することができる。正孔注入層、正孔輸送層の膜厚については特に制限はないが、通常は5nm〜5μm程度である。この正孔注入層、正孔輸送層は、上記材料の一種又は二種以上からなる一層構造であってもよく、同一組成又は異種組成の複数層からなる積層構造であってもよい。
【0042】
さらにこれらの材料を高分子鎖に導入した、またはこれらの材料を高分子の主鎖とした高分子材料を用いることもできる。
【0043】
これらのうち、第一の正孔輸送材料として好ましい、前記の条件を満足するものとして、銅フタロシアニン、チオフェンオリゴマー(例えば、PEDOT/PSS;ポリ(エチレンジオキシチオフェン)・ポリスチレンスルホン酸(BAYER社製、Baytron P))などがあげられるが、前記一般式(1)または(2)で示される化合物がより好ましい。
【0044】
前記一般式(1)または(2)において、Ar1、Ar2、Ar3、Ar4、Ar5、Ar6、Ar7、Ar8、または、Ar9はそれぞれアリール基、または置換アリール基を表す。アリール基としては、例えばフェニル基、ナフチル基、フェナンスリル基等の基をあらわし、置換アリール基の置換基としては、例えば、アルキル基(例えばメチル基、エチル基、トリフルオロメチル基、t−ブチル基等)、シクロアルキル基(例えばシクロペンチル基、シクロヘキシル基等)、アラルキル基(例えばベンジル基、2−フェネチル基等)、アリール基(例えばフェニル基、ナフチル基、p−トリル基、フェナンスリル基等)、アルコキシ基(例えばエトキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基等)、アリールオキシ基(例えばフェノキシ基等)、アミノ基、シアノ基、ハロゲン原子(フッ素原子等)等が挙げられる。好ましい置換基は、メチル基、フェニル基、または、アミノ基である。
【0045】
これらの置換基はさらに置換されていてもよい。
これらの化合物の分子量は、熱安定性の観点から500以上が好ましく、さらに好ましくは、600以上である。
【0046】
以下、本発明において一般式(1)または(2)で表される化合物の好ましい具体例を示す。
【0047】
【化2】
【0048】
【化3】
【0049】
【化4】
【0050】
また、第二の正孔輸送材料としては、T1準位が発光層のホスト化合物よりも高い化合物であって、どのような有機材料を用いるかは、ホスト化合物として、また第一の正孔輸送材料として、何を用いるかによっても異なるが、前記の関係を満たすように、従来、光導伝材料において、正孔の電荷注入輸送材料として慣用されているものやEL素子の正孔注入層、正孔輸送層に使用される前記に示した公知のものの中から選択して用いることができるが、ホスト材料に比べて最低励起三重項エネルギー準位が高いものは少ないため、特に好ましいものとして、例えば、特開2002−249469号公報、特願2001−291115号公報等に記載の例えば、N,N′−ジフェニル−N,N′−ビス(トリル)−4,4’−(2,2′−ジメチル)ビフェニレンジアミン、或いはN,N′−ビフェニル−N,N′−ビス(トリル)−4,4′−(2,2,2′,2′−テトラメチル)ビフェニレンジアミン等のテトラアリールビフェニレンジアミン化合物が挙げられる。
【0051】
また、p型−Si、p型−SiCなどの無機化合物も正孔注入材料、正孔輸送材料として使用することができる。この正孔注入層、正孔輸送層は、上記正孔注入材料、正孔輸送材料を、例えば真空蒸着法、スピンコート法、キャスト法、LB法などの公知の方法により、薄膜化することにより形成することができる。正孔注入層も含めた、正孔輸送層の膜厚については特に制限はないが、通常は5nm〜5μm程度である。
【0052】
〈ホスト化合物〉
本発明において、発光層中に、りん光性ドーパントと共に用いられるホスト化合物については、例えば、C.Adachi et al.,Appl.Phys.Lett.,77巻、904頁(2000年)等に詳しく記載されている。
【0053】
また、代表的には、4,4′−N,N′−dicarbazole−biphenyl(CBP)等のカルバゾール誘導体があげられるが、CBP以外のカルバゾール誘導体として、特開2001−257076号公報、同2002−105445号公報等に記載の高分子タイプのカルバゾール誘導体、同2001−313179号公報、同2002−75645号公報、同2002−100476号公報等に特定構造を有するカルバゾール誘導体等があげられる。
【0054】
また、特願2001−372601号に記載のトリアリールボラン化合物、特願2002−82918号に記載のフェニルピリジン誘導体、特願2002−169802号に記載の含ホウ素カルバゾール誘導体、特願2002−182682号に記載のピリミジン誘導体等があげられるが、前記の関係を満たす限りいずれを用いてもよい。
【0055】
本発明の発光層において、ホスト化合物として用いる蛍光性化合物の蛍光極大波長は320nmから440nmであることが好ましく、更に好ましいのは330nm〜410nmである。
【0056】
又、低分子系の有機材料は、分子量が小さいと熱安定性が劣るため、発光輝度が十分ではない場合がある。本発明に用いる燐光性化合物のホストとなる蛍光性化合物は、熱安定性の観点から分子量が600以上であることが好ましく用いられる。
【0057】
本発明においてホスト化合物とは、2種以上の化合物で構成される発光層中において、混合比(質量)の最も多い化合物であり、それ以外の化合物はドーパント化合物という。例えば、発光層を化合物A、化合物Bという2種で構成しその混合比がA:B=10:90であれば化合物Aがドーパント化合物であり、化合物Bがホスト化合物である。更に、発光層を化合物A、化合物B、化合物Cの3種から構成し、その混合比がA:B:C=5:10:85であれば、化合物A、化合物Bがドーパント化合物であり、化合物Cがホスト化合物である。本発明においてはりん光性化合物が、ドーパント化合物の一種である。
【0058】
〈りん光性ドーパント〉
本発明において、りん光性ドーパントは励起三重項からの発光が観測される化合物であり、青領域から、赤の領域まで広く選ぶことができるが、発光極大波長が380nm以上500nm以下の青領域に発光を有するものが特に好ましい。
【0059】
また、発光層中の前記ホスト化合物の最低励起三重項エネルギー準位(T1)はりん光性ドーパントのそれよりも高い必要がある。りん光性ドーパントは、りん光量子収率が、25℃において0.001以上の化合物であり、好ましくは0.01以上、更に好ましくは0.1以上である化合物である。
【0060】
上記りん光量子収率は、第4版実験化学講座7の分光IIの398ページ(1992年版、丸善)に記載の方法により測定できる。溶液中でのりん光量子収率は種々の溶媒を用いて測定できるが、本発明にドーパントして用いられるりん光性化合物とは、任意の溶媒のいずれかにおいて上記りん光量子収率が達成されれば良い。
【0061】
好ましくは、元素の周期律表でVIII属の金属を含有する錯体系化合物であり、さらに好ましくは、イリジウム、オウミウム、または白金錯体系化合物である。
【0062】
以下に、本発明でリン光性ドーパントとして用いられるりん光性化合物であるイリジウム、オウミウム、または白金錯体系化合物の具体例を示すが、これらに限定されるものではない。これらの化合物は、例えば、Inorg.Chem.40巻、1704−1711に記載の方法等により合成できる。
【0063】
【化5】
【0064】
【化6】
【0065】
【化7】
【0066】
また、別の形態では、ホスト化合物とドーパントとして用いられるりん光性化合物の他に、りん光性化合物からの発光の極大波長よりも長波な領域に、蛍光極大波長を有する蛍光性化合物を少なくとも1種含有する場合もある。この場合、ホスト化合物とりん光性化合物からのエネルギー移動で、有機EL素子としての電界発光は蛍光性化合物から得られる。蛍光性化合物として好ましいのは、溶液状態で蛍光量子収率が高いものである。ここで、蛍光量子収率は10%以上、特に30%以上が好ましい。具体的には、クマリン系色素,ピラン系色素,シアニン系色素,クロコニウム系色素,スクアリリウム系色素,オキソベンツアントラセン系色素,フルオレセイン系色素,ローダミン系色素,ピリリウム系色素,ペリレン系色素,スチルベン系色素,ポリチオフェン系色素、または、希土類錯体系蛍光体などが挙げられる。
【0067】
ここでの蛍光量子収率も、前記第4版実験化学講座7の分光IIの362ページ(1992年版、丸善)に記載の方法により測定することが出来、本発明においては、テトラヒドロフラン中で測定する。
【0068】
〈有機EL素子の構成〉
ここで有機EL素子の構成について説明する。
【0069】
以下、エレクトロルミネッセンス素子(EL素子)について説明する。
EL素子における発光層は、広義の意味では、陰極と陽極からなる電極に電流を流した際に発光する層のことを指す。具体的には、陰極と陽極からなる電極に電流を流した際に発光する蛍光性化合物またはりん光性化合物を含有する層のことを指す。通常、エレクトロルミネッセンス素子(EL素子)は一対の電極の間に発光層を挟持した構造をとる。本発明の有機EL素子は、必要に応じ発光層の他に、正孔輸送層、電子輸送層、陽極バッファー層および陰極バッファー層等を有し、陰極と陽極で挟持された構造をとる。
【0070】
具体的には、
(i)陽極/発光層/陰極
(ii)陽極/正孔輸送層/発光層/陰極
(iii)陽極/発光層/電子輸送層/陰極
(iv)陽極/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/陰極
(v)陽極/陽極バッファー層/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/陰極バッファー層/陰極などで示される構造があり、本発明においては、(ii)、(iv)、(v)等の構成をとり、正孔輸送層が第一正孔輸送層および第二正孔輸送層と複数層構成を有するものである。
【0071】
上記化合物を用いて発光層を形成する方法としては、例えば蒸着法、スピンコート法、キャスト法、LB法などの公知の方法により上記薄膜を形成する方法があるが、特に分子堆積膜であることが好ましい。ここで、分子堆積膜とは、上記ホスト化合物またはりん光性ドーパントとして用いられる化合物の気相状態から沈着され形成された薄膜や、該化合物の溶融状態又は液相状態から固体化され形成された膜のことである。通常、この分子堆積膜はLB法により形成された薄膜(分子累積膜)と、凝集構造、高次構造の相違やそれに起因する機能的な相違により区別することができる。
【0072】
また、この発光層は、特開昭57−51781号に記載されているように、樹脂などの結着材と共に発光材料として上記ホスト化合物またはりん光性ドーパントを溶剤に溶かして溶液としたのち、これをスピンコート法などにより塗布して薄膜形成することにより得ることができる。
【0073】
このようにして形成された発光層の膜厚については特に制限はなく、状況に応じて適宜選択することができるが、通常は5nm〜5μmの範囲である。
【0074】
ここで、本発明に記載のりん光性ドーパント化合物は、具体的には、前述のように、重金属錯体系化合物であり、好ましくは元素の周期律表でVIII属の金属を中心金属とする錯体系化合物であり、さらに好ましくは、オスミウム、イリジウムまたは白金錯体系化合物である。
【0075】
これらのりん光性化合物としては、前記のようにりん光量子収率が、25℃において0.001以上である他、前記ホストとなる蛍光性化合物の蛍光極大波長よりも長いりん光発光極大波長を有するものであり、これにより、例えば、ホストとなる蛍光性化合物の発光極大波長より長波のりん光性化合物をもちいてりん光性化合物の発光、即ち三重項状態を利用した、ホスト化合物の蛍光極大波長よりも長波において電界発光するEL素子を得ることができる。従って、用いられるりん光性化合物のりん光発光極大波長としては特に制限されるものではなく、原理的には、中心金属、配位子、配位子の置換基等を選択することで得られる発光波長を変化させることができる。
【0076】
例えば、320nm〜440nmの領域に蛍光極大波長を有する蛍光性化合物をホスト化合物として用い、例えば、緑或いは赤の領域にりん光をもったイリジウム錯体を用いる事で緑領域或いは赤の領域に電界発光する有機EL素子を得ることが出来る。
【0077】
また、別の形態では、前記のように、ホスト化合物としての蛍光性化合物Aとりん光性化合物の他に、りん光性化合物からの発光の極大波長よりも長波な領域に、蛍光極大波長を有するもう一つの蛍光性化合物Bを少なくとも1種含有する場合もあり、蛍光性化合物Aとりん光性化合物からのエネルギー移動で、有機EL素子としての電界発光は蛍光性化合物Bからの発光を得ることも出来る。
【0078】
本明細書の蛍光性化合物が発光する色は、「新編色彩科学ハンドブック」(日本色彩学会編、東京大学出版会、1985)の108頁の図4.16において、分光放射輝度計CS−1000(ミノルタ製)で測定した結果をCIE色度座標に当てはめたときの色で決定される。
【0079】
ホスト化合物の分子量は600〜2000であることが好ましく、この分子量範囲にあると、Tg(ガラス転移温度)が上昇し、熱安定性が向上し、素子寿命が改善される。より好ましくは分子量が800〜2000である。又、Tgは100度以上であることが好ましい。又、この範囲内の分子量であると発光層を真空蒸着法により容易に作製することができ、有機EL素子の製造が容易になる。さらに、有機EL素子中における蛍光性化合物の熱安定性もよくなる。
【0080】
次に正孔注入層(広い意味での正孔輸送層であり、本発明において第一の正孔輸送層であってよい)、正孔輸送層、電子注入層、電子輸送層等発光層と組み合わせてEL素子を構成するその他の層について説明する。
【0081】
前記正孔注入層、正孔輸送層は、陽極より注入された正孔を発光層に伝達する機能を有し、この正孔注入層、正孔輸送層を陽極と発光層の間に介在させることにより、より低い電界で多くの正孔が発光層に注入され、そのうえ、発光層に陰極、電子注入層又は電子輸送層より注入された電子は、発光層と正孔注入層もしくは正孔輸送層の界面に存在する電子の障壁により、発光層内の界面に累積され発光効率が向上するなど発光性能の優れた素子となる。この正孔注入層、正孔輸送層の材料(以下、正孔注入材料、正孔輸送材料という)については、前記示したもののなかから選択される。
【0082】
さらに、必要に応じて用いられる電子輸送層は、陰極より注入された電子を発光層に伝達する機能を有していればよく、その材料としては従来公知の化合物の中から任意のものを選択して用いることができる。
【0083】
この電子輸送層に用いられる材料(以下、電子輸送材料という)の例としては、ニトロ置換フルオレン誘導体、ジフェニルキノン誘導体、チオピランジオキシド誘導体、ナフタレンペリレンなどの複素環テトラカルボン酸無水物、カルボジイミド、フレオレニリデンメタン誘導体、アントラキノジメタン及びアントロン誘導体、オキサジアゾール誘導体などが挙げられる。さらに、上記オキサジアゾール誘導体において、オキサジアゾール環の酸素原子を硫黄原子に置換したチアジアゾール誘導体、電子吸引基として知られているキノキサリン環を有するキノキサリン誘導体も、電子輸送材料として用いることができる。
【0084】
さらにこれらの材料を高分子鎖に導入した、またはこれらの材料を高分子の主鎖とした高分子材料を用いることもできる。
【0085】
また、8−キノリノール誘導体の金属錯体、例えばトリス(8−キノリノール)アルミニウム(Alq)、トリス(5,7−ジクロロ−8−キノリノール)アルミニウム、トリス(5,7−ジブロモ−8−キノリノール)アルミニウム、トリス(2−メチル−8−キノリノール)アルミニウム、トリス(5−メチル−8−キノリノール)アルミニウム、ビス(8−キノリノール)亜鉛(Znq)など、及びこれらの金属錯体の中心金属がIn、Mg、Cu、Ca、Sn、Ga又はPbに置き替わった金属錯体も、電子輸送材料として用いることができる。その他、メタルフリー若しくはメタルフタロシアニン、又はそれらの末端がアルキル基やスルホン酸基などで置換されているものも、電子輸送材料として好ましく用いることができる。また、発光層の材料として用いられるジスチリルピラジン誘導体も、電子輸送材料として用いることができるし、正孔注入層、正孔輸送層と同様に、n型−Si、n型−SiCなどの無機半導体も電子輸送材料として用いることができる。
【0086】
この電子輸送層についても、上記化合物を、例えば真空蒸着法、スピンコート法、キャスト法、LB法などの公知の薄膜形成法により製膜して形成することができる。電子輸送層としての膜厚は、特に制限はないが、通常は5nm〜5μmの範囲で選ばれる。この電子輸送層は、これらの電子輸送材料一種又は二種以上からなる一層構造であってもよいし、あるいは、同一組成又は異種組成の複数層からなる積層構造であってもよい。
【0087】
又、本発明においては、ホスト化合物としてもちいられる蛍光性化合物は発光層のみに限定することはなく、発光層に隣接した正孔輸送層、または電子輸送層に前記りん光性化合物のホスト化合物となる蛍光性化合物と同じ領域に蛍光極大波長を有する蛍光性化合物を少なくとも1種含有させてもよく、それにより更にEL素子の発光効率を高めることができる。これらの正孔輸送層や電子輸送層に含有される蛍光性化合物としては、発光層に含有されるものと同様に蛍光極大波長が320nmから440nm、更に好ましくは330nm〜410nmの範囲にある蛍光性化合物が用いられる。
【0088】
本発明の有機EL素子に好ましく用いられる基板は、ガラス、プラスチックなどの種類には特に限定はなく、また、透明のものであれば特に制限はない。本発明のエレクトロルミネッセンス素子に好ましく用いられる基板としては例えばガラス、石英、光透過性プラスチックフィルムを挙げることができる。
【0089】
光透過性プラスチックフィルムとしては、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンスルフィド、ポリアリレート、ポリイミド、ポリカーボネート(PC)、セルローストリアセテート(TAC)、セルロースアセテートプロピオネート(CAP)等からなるフィルム等が挙げられる。
【0090】
次に、該有機EL素子を作製する好適な例を説明する。例として、前記の陽極/第一の正孔輸送層/第二の正孔輸送層/発光層/電子輸送層/電子注入層/陰極からなるEL素子の作製法について説明する。
【0091】
まず適当な基板上に、所望の電極用物質、例えば陽極用物質からなる薄膜を、1μm以下、好ましくは10〜200nmの範囲の膜厚になるように、蒸着やスパッタリングなどの方法により形成させて陽極を作製する。次に、この上に素子材料である第一の正孔輸送層、第二の正孔輸送層、発光層、電子輸送層/電子注入層からなる薄膜を形成させる。
【0092】
さらに、陽極と発光層または第一の正孔輸送層の間、および、陰極と発光層または電子注入層との間にはバッファー層(電極界面層)を存在させてもよい。
【0093】
バッファー層とは、駆動電圧低下や発光効率向上のために電極と有機層間に設けられる層のことで、「有機EL素子とその工業化最前線(1998年11月30日エヌ・ティー・エス社発行)」の第2編第2章「電極材料」(第123頁〜第166頁)に詳細に記載されている。
【0094】
例えば、陰極バッファー層は、特開平6−325871号、同9−17574号、同10−74586号等にもその詳細が記載されており、具体的にはストロンチウムやアルミニウム等に代表される金属バッファー層、フッ化リチウムに代表されるアルカリ金属化合物バッファー層、フッ化マグネシウムに代表されるアルカリ土類金属化合物バッファー層、酸化アルミニウム、酸化リチウムに代表される酸化物バッファー層等が挙げられる。
【0095】
上記バッファー層はごく薄い膜であることが望ましく、素材にもよるが、その膜厚は0.1〜100nmの範囲が好ましい。
【0096】
さらに上記基本構成層の他に必要に応じてその他の機能を有する層を積層してもよく、例えば特開平11−204258号、同11−204359号、および「有機EL素子とその工業化最前線(1998年11月30日エヌ・ティー・エス社発行)」の第237頁等に記載されているホールブロック(正孔阻止)層などのような機能層を有していても良い。
【0097】
次に有機EL素子の電極について説明する。有機EL素子の電極は、陰極と陽極からなる。
【0098】
この有機EL素子における陽極としては、仕事関数の大きい(4eV以上)金属、合金、電気伝導性化合物及びこれらの混合物を電極物質とするものが好ましく用いられる。このような電極物質の具体例としてはAuなどの金属、CuI、インジウムチンオキシド(ITO)、SnO2、ZnOなどの導電性透明材料が挙げられる。
【0099】
上記陽極は、蒸着やスパッタリングなどの方法により、これらの電極物質の薄膜を形成させ、フォトリソグラフィー法で所望の形状のパターンを形成してもよく、あるいはパターン精度をあまり必要としない場合は(100μm以上程度)、上記電極物質の蒸着やスパッタリング時に所望の形状のマスクを介してパターンを形成してもよい。この陽極より発光を取り出す場合には、透過率を10%より大きくすることが望ましく、また、陽極としてのシート抵抗は数百Ω/□以下が好ましい。さらに膜厚は材料にもよるが、通常10nm〜1μm、好ましくは10nm〜200nmの範囲で選ばれる。
【0100】
一方、陰極としては、仕事関数の小さい(4eV以下)金属(電子注入性金属と称する)、合金、電気伝導性化合物及びこれらの混合物を電極物質とするものが用いられる。このような電極物質の具体例としては、ナトリウム、ナトリウム−カリウム合金、マグネシウム、リチウム、マグネシウム/銅混合物、マグネシウム/銀混合物、マグネシウム/アルミニウム混合物、マグネシウム/インジウム混合物、アルミニウム/酸化アルミニウム(Al2O3)混合物、インジウム、リチウム/アルミニウム混合物、希土類金属などが挙げられる。これらの中で、電子注入性及び酸化などに対する耐久性の点から、電子注入性金属とこれより仕事関数の値が大きく安定な金属である第二金属との混合物、例えばマグネシウム/銀混合物、マグネシウム/アルミニウム混合物、マグネシウム/インジウム混合物、アルミニウム/酸化アルミニウム(Al2O3)混合物、リチウム/アルミニウム混合物などが好適である。上記陰極は、これらの電極物質を蒸着やスパッタリングなどの方法により、薄膜を形成させることにより、作製することができる。また、陰極としてのシート抵抗は数百Ω/□以下が好ましく、膜厚は通常10nm〜1μm、好ましくは50〜200nmの範囲で選ばれる。なお、発光を透過させるため、有機EL素子の陽極又は陰極のいずれか一方が、透明又は半透明であれば発光効率が向上するので好都合である。
【0101】
次に有機EL素子の作製方法について説明する。
薄膜化の方法としては、前記の如くスピンコート法、キャスト法、蒸着法などがあるが、均質な膜が得られやすく、かつピンホールが生成しにくいなどの点から、真空蒸着法が好ましい。薄膜化に、真空蒸着法を採用する場合、その蒸着条件は、使用する化合物の種類、分子堆積膜の目的とする結晶構造、会合構造などにより異なるが、一般にボート加熱温度50〜450℃、真空度10−6〜10−3Pa、蒸着速度0.01〜50nm/秒、基板温度−50〜300℃、膜厚5nm〜5μmの範囲で適宜選ぶことが望ましい。
【0102】
前記の様に、適当な基板上に、所望の電極用物質、例えば陽極用物質からなる薄膜を、1μm以下、好ましくは10〜200nmの範囲の膜厚になるように、蒸着やスパッタリングなどの方法により形成させて陽極を作製した後、該陽極上に前記の通り正孔注入層、正孔輸送層、発光層、電子輸送層/電子注入層からなる各層薄膜を形成させた後、その上に陰極用物質からなる薄膜を1μm以下、好ましくは50〜200nmの範囲の膜厚になるように、例えば蒸着やスパッタリングなどの方法により形成させ、陰極を設けることにより、所望の有機EL素子が得られる。この有機EL素子の作製は、一回の真空引きで一貫してこの様に正孔注入層から陰極まで作製するのが好ましいが、作製順序を逆にして、陰極、電子注入層、発光層、正孔注入層、陽極の順に作製することも可能である。このようにして得られた有機EL素子に、直流電圧を印加する場合には、陽極を+、陰極を−の極性として電圧5〜40V程度を印加すると、発光が観測できる。また、逆の極性で電圧を印加しても電流は流れずに発光は全く生じない。さらに、交流電圧を印加する場合には、陽極が+、陰極が−の状態になったときのみ発光する。なお、印加する交流の波形は任意でよい。
【0103】
【実施例】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明の態様はこれに限定されない。
【0104】
比較例1
陽極としてガラス上にITOを150nm製膜した基板(NHテクノグラス社製:NA−45)にパターニングを行った後、このITO透明電極を設けた透明支持基板をイソプロピルアルコールで超音波洗浄し、乾燥窒素ガスで乾燥し、UVオゾン洗浄を5分間行った。この透明支持基板を、市販の真空蒸着装置の基板ホルダーに固定した。
【0105】
真空槽を4×10−4Paまで減圧した後、ITO上に正孔輸送層としてα−NPDを50nmの厚さに蒸着した。さらに、CBPとIr−11の蒸着速度が17:1になるように調節し、36nmの厚さに蒸着し発光層を設けた。
【0106】
次いで、化合物Aを24nmの厚さに蒸着し電子輸送層を設けた。さらに、フッ化リチウムを1nm蒸着し、さらにその上に陰極としてアルミニウムを100nm積層し、比較用有機EL素子OLED1−1を作製した。
【0107】
この素子からは、Ir−11からの青色の発光が得られた。
比較例2〜4
正孔輸送材料を表1の第一の正孔輸送材料に記載の化合物、発光層のホスト化合物に表1記載の化合物を使用した以外は、比較例1と同様にしてOLED1−2からOLED1−4を作製した。
【0108】
比較例5
陽極としてガラス上にITOを150nm製膜した基板(NHテクノグラス社製:NA−45)にパターニングを行った後、このITO透明電極を設けた透明支持基板をイソプロピルアルコールで超音波洗浄し、乾燥窒素ガスで乾燥し、UVオゾン洗浄を5分間行った。この透明支持基板を、市販の真空蒸着装置の基板ホルダーに固定した。
【0109】
真空槽を4×10−4Paまで減圧した後、ITO上に正孔輸送層として銅フタロシアニン(CuPc)を25nmの厚さに蒸着した。次に、α−NPDを25nmの厚さに蒸着した。さらに、CBPとIr−11の蒸着速度が17:1になるように調節し、35nmの厚さに蒸着し発光層を設けた。
【0110】
次いで、BCを10nmの厚さに蒸着し正孔ブロック層を設けた。更に、Alq3を膜厚40nmの厚さに蒸着し電子輸送層を設けた。さらに、フッ化リチウムを1nm蒸着し、さらにその上に陰極としてアルミニウムを100nm積層し、比較用有機EL素子OLED1−5を作製した。
【0111】
この素子からは、Ir−11からの青色の発光が得られた。
実施例1
陽極としてガラス上にITOを150nm製膜した基板(NHテクノグラス社製:NA−45)にパターニングを行った後、このITO透明電極を設けた透明支持基板をイソプロピルアルコールで超音波洗浄し、乾燥窒素ガスで乾燥し、UVオゾン洗浄を5分間行った。この透明支持基板を、市販の真空蒸着装置の基板ホルダーに固定した。
【0112】
真空槽を4×10−4Paまで減圧した後、ITO上に第一の正孔輸送層としてα−NPDを25nmの厚さに蒸着した。次に、第二の正孔輸送層としてm−MTDATXAを25nmの厚さに蒸着した。さらに、CBPとIr−11の蒸着速度が17:1になるように調節し、35nmの厚さに蒸着し発光層を設けた。
【0113】
次いで、BCを10nmの厚さに蒸着し正孔ブロック層を設けた。更に、Alq3を膜厚40nmの厚さに蒸着し電子輸送層を設けた。さらに、フッ化リチウムを1nm蒸着し、さらにその上に陰極としてアルミニウムを100nm積層し、有機EL素子OLED1−6を作製した。
【0114】
この素子からは、Ir−11からの青色の発光が得られた。
実施例2〜7
第一、第二の正孔輸送材料、発光層のホスト化合物に表1記載の化合物を使用した以外は、実施例1と同様にしてOLED1−7からOLED1−12を作製した。
【0115】
比較例6
第一、第二の正孔輸送材料、発光層のホスト化合物を表1に示す化合物に変更した以外は、実施例1と同様にしてOLED1−13を作製した。
【0116】
上記で使用した化合物の構造を以下に示す。
【0117】
【化8】
【0118】
【化9】
【0119】
(有機EL素子の評価)
得られた有機EL素子について以下のように評価を行った。
【0120】
(1)発光輝度
有機EL素子OLED1−1では、発光層のドーパントであるIr−11からの青色発光が得られた。発光の極大波長は、475nmであり、T1dは64kcal/mol(267.9kJ/mol)であった。OLED1−1の温度23度、乾燥窒素ガス雰囲気下で2.5mA/cm2の電流を供給した時の発光輝度(cd/m2)を測定した。
【0121】
各有機EL素子について、発光輝度を有機EL素子OLED1−1を100とした時の相対値で表した。発光輝度はCS−1000(ミノルタ製)を用いて測定した。結果を表1に示す。
【0122】
(2)駆動電圧
駆動電圧は、輝度が50[cd/m2]となった場合のOLED1−1の駆動電圧を0(V)としたときのそれぞれの同輝度となったときの相対値で表した。
【0123】
(3)最低励起三重項エネルギー準位(T1)の測定
各材料のT1はそれぞれのりん光スペクトルから求めた。りん光スペクトルの短波長側の立ち上がり波長からT1準位を求めた。
【0124】
(4)イオン化ポテンシャル(IP)測定
イオン化ポテンシャル(IP)については、光電子分光法で直接測定する方法を用いた。具体的には、理研計器社製の低エネルギー電子分光装置「ModelAC−1」により測定した値とした。表1に各有機EL素子および用いられた材料、そのT1(T1a、T1b,T1c)、IP(IP1〜IP3)、各素子により得られた発光輝度、駆動電圧の評価結果を示した。
【0125】
【表1】
【0126】
表1より、二つの正孔輸送層を有し、(A)T1b>T1c、かつ、T1a<T1c、(B)りん光性ドーパントの発光極大波長が500nm以下であり、かつ、ホスト化合物のT1の方がりん光性ドーパントのT1よりも高い。というA、B二つの条件を満たす本発明の素子構成は、比較に比べて高輝度であり、駆動電圧も低下することが分かった。
【0127】
また、OLED1−6,8,12の比較から第二の正孔輸送層から発光層への正孔の注入障壁の差であるIP3−IP2の値が0eVより大きく0.5eV以下である場合がより高輝度、低駆動電圧であり、0eVより大きく0.3eV以下である場合にさらにその効果が大きくなることが分かった。
【0128】
実施例8〜13、実施例14〜19
実施例2〜7において、りん光性ドーパントをIr−11からIr−9またはIr−1に代えた以外は、OLED1−7からOLED1−12と同様にして有機EL素子OLED−R1〜R6(実施例8〜13)、OLED−G1〜G6(実施例14〜19)をそれぞれ作製した。りん光性ドーパントとしてIr−9を使用したOLED−R1〜R6からは高輝度な赤色発光、Ir−1を使用したOLED−G1〜G6からは高輝度な緑色の発光が得られた。
【0129】
本発明の素子構成にすることにより、発光層のホスト化合物は、青、緑、赤とも共通の材料が使用できる。
【0130】
実施例20
実施例3〜19で作製したそれぞれOLED1−9(青色発光)、OLED−R3(赤色発光)、OLED−G3(緑色発光)有機EL素子を同一基板上に並置し、図1に示すアクティブマトリクス方式フルカラー表示装置を作製した。
【0131】
図1には作製したフルカラー表示装置の表示部Aの模式図のみを示した。即ち同一基板上に、複数の走査線5及びデータ線6を含む配線部と、並置した複数の画素3(発光の色が赤領域の画素、緑領域の画素、青領域の画素等)とを有し、配線部の走査線5及び複数のデータ線6は、それぞれ導電材料からなり、走査線5とデータ線6を格子状に直交して、直交する位置で画素3に接続している(詳細は図示せず)。前記複数画素3は、それぞれの発光色に対応した有機EL素子、アクティブ素子であるスイッチングトランジスタと駆動トランジスタそれぞれが設けられたアクティブマトリクス方式で駆動されており、走査線5から走査信号が印加されると、データ線6から画像データ信号を受け取り、受け取った画像データに応じて発光する。この様に各赤、緑、青の画素を適宜、並置することによって、フルカラー表示が可能となる。
【0132】
該フルカラー表示装置を駆動することにより、輝度の高い鮮明なフルカラー動画表示が得られた。
【0133】
【発明の効果】
高い発光効率を有する有機EL素子が得られた。
【図面の簡単な説明】
【図1】作製したフルカラー表示装置の表示部の模式図。
【符号の説明】
A 表示部
3 画素
5 走査線
6 データ線
Claims (7)
- 陽極側から順に、第一の正孔輸送層、第二の正孔輸送層、ホスト化合物とりん光性ドーパントを含有する発光層を有する有機エレクトロルミネッセンス素子において、以下の(a)および(b)の条件を満たすことを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。
(a)第一の正孔輸送材料、第二の正孔輸送材料、発光層のホスト化合物の最低励起三重項エネルギー(T1)をそれぞれT1a、T1b、T1cとした時、T1b>T1c、かつ、T1a<T1cである。
(b)ホスト化合物、りん光性ドーパントの最低励起三重項エネルギー(T1)をそれぞれT1c、T1dとしたとき、T1c>T1dである。 - りん光性ドーパントの発光極大波長が380nm以上500nm以下であることを特徴とする請求項1に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
- 第一の正孔輸送材料、第二の正孔輸送材料、ホスト化合物とりん光性ドーパントを含有する発光層のホスト化合物のIPをそれぞれIP1、IP2、IP3とした時、IP1<IP2<IP3であることを特徴とする請求項1または2に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
- 0eV<IP3−IP2≦0.5eVであることを特徴とする請求項1、2または3に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
- 0eV<IP3−IP2≦0.3eVであることを特徴とする請求項1、2または3に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
- 請求項1〜6のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子を有する表示装置。
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