JP2004047442A - 有機エレクトロルミネッセンス素子及び表示装置 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】発光がリン光に基づく発光である有機エレクトロルミネッセンス素子において、下記一般式(1)で表される有機化合物を含有することを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。
【化1】
〔式中、X1乃至X8、及びR1乃至R20は各々水素原子又は置換基を表し、各々異なっていても同一でも良く、X1、X2、X5及びX6のうち少なくとも一つは置換基を表す。〕
【選択図】 なし
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、有機エレクトロルミネッセンス素子および表示装置に関するものであり、詳しくは、発光効率、色純度、寿命に優れた有機エレクトロルミネッセンス素子及びその有機エレクトロルミネッセンス素子を有する表示装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
有機エレクトロルミネッセンス素子(以下、有機EL素子と略記することもある)は、蛍光性有機化合物からなる単数または複数の薄膜、陰極、陽極等を有し、薄膜を陰極と陽極で挟持した構成である。
【0003】
陰極と陽極に電界を印加すると、陰極から注入した電子と陽極から注入した正孔が結合して励起子(エキシトン)が生成される。生成されたエキシトンが失活する際に光の放出(蛍光・リン光)が起きて有機EL素子が発光する。
【0004】
通常、有機物は絶縁体であるが有機層の膜厚を非常に薄くすることにより電流注入が可能となり有機ELとして駆動することが可能となり、10V以下の低電圧で駆動することが可能となり、高効率な発光を得ることが可能なため将来のディスプレーとして注目を浴びている。
【0005】
特許第3093796号では、スチルベン誘導体、ジスチリルアリーレン誘導体又はトリススチリルアリーレン誘導体に、微量の蛍光体をドープし、発光輝度の向上、素子の長寿命化を達成する方法が提案されている。
【0006】
また、8−ヒドロキシキノリンアルミニウム錯体をホスト化合物として、これに微量の蛍光体をドープした有機発光層を有する素子(特開昭63−264692号公報)、8−ヒドロキシキノリンアルミニウム錯体をホスト化合物として、これにキナクリドン系色素をドープした有機発光層を有する素子(特開平3−255190号公報)等が知られている。
【0007】
以上のように、励起一重項からの発光を用いる場合、一重項励起子と三重項励起子の生成比が1:3であるため、発光性励起種の生成確率が25%であることと、光の取り出し効率が約20%であるため、外部取り出し量子効率(ηext)の限界は5%とされている。ところが、プリンストン大より、励起三重項からのリン光発光を用いる有機EL素子の報告(M.A.Baldo et al.,nature、395巻、151〜154ページ(1998年))がなされて以来、室温でリン光を示す材料の研究が活発になってきている(例えば、特許文献1、非特許文献1参照。)。励起三重項を使用すると、内部量子効率の上限が100%となるため、励起一重項の場合に比べて原理的に発光効率が4倍となり、冷陰極管とほぼ同等の性能が得られ照明用にも応用可能であり注目されている。
【0008】
特に最近においては、従来の有機ELの効率を遙かにしのぐリン光発光有機EL素子がS.R.Forrestらにより見いだされている(例えば、非特許文献2参照。)。
【0009】
更に、最近においてはC.Adachiらが報告しているように、60lm/Wにもおよぶ視感度効率を出すまでに及び、この様な素子はディスプレーへの応用もさながら、照明への応用も期待される(例えば、非特許文献3参照。)。
【0010】
しかし、リン光発光素子に用いられる有機材料としては未だ限られたもののみの報告しかなく、それらを用いた素子の効率、寿命についてはまだまだであり、新しい材料の開発が求められている。
【0011】
【特許文献1】
米国特許第6,097,147号明細書
【0012】
【非特許文献1】
M.A.Baldo et al.,nature、403巻、17号、750〜753ページ(2000年)
【0013】
【非特許文献2】
Appl.Phys.Lett.(1999),75(1),4〜6
【0014】
【非特許文献3】
J.Appl.Phys.,90,5048(2001)
【0015】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、リン光発光有機エレクトロルミネッセンス素子の発光効率及び発光寿命の改良を目的になされたものであり、高発光効率で、かつ発光寿命が長い有機エレクトロルミネッセンス素子、およびそれを用いた低消費電力、高輝度な表示装置を提供するものである。
【0016】
【課題を解決するための手段】
本発明の上記課題は、以下の構成により達成される。
【0017】
1.発光がリン光に基づく発光である有機エレクトロルミネッセンス素子において、前記一般式(1)で表される有機化合物を含有することを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。
【0018】
2.前記一般式(1)が、前記一般式(2)で表されることを特徴とする前記1項記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【0019】
3.前記一般式(1)が、前記一般式(3)で表されることを特徴とする前記1項記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【0020】
4.前記一般式(1)が、前記一般式(4)で表されることを特徴とする前記1項記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【0021】
5.発光がリン光に基づく発光である有機エレクトロルミネッセンス素子において、前記一般式(5)で表される有機化合物を含有することを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。
【0022】
6.正孔輸送層と発光層を有し、該正孔輸送層が前記一般式(1)〜(5)で表される有機化合物から選ばれる少なくとも1種を含有することを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。
【0023】
7.発光層がリン光性化合物を含有し、該リン光性化合物が元素の周期律表の第VIII属の金属を中心金属とする錯体系化合物であることを特徴とする前記1乃至6項のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【0024】
8.前記リン光性化合物が、オスミウム、イリジウムまたは白金錯体系化合物であることを特徴とする請求項7記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【0025】
9.前記リン光性化合物の発光極大波長よりも更に長波な領域に蛍光極大波長を有する蛍光性化合物を少なくとも1種含有することを特徴とする前記1乃至8項のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【0026】
10.前記1乃至9項のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子を複数有することを特徴とする表示装置。
【0027】
11.発光極大波長が異なる前記有機エレクトロルミネッセンス素子を同一基板上に2つ以上設けていることを特徴とする前記10項記載の表示装置。
【0028】
本発明者らは、上記課題に鑑みて鋭意検討した結果、特定の構造を有する化合物をリン光発光有機EL素子に用いることで、素子の寿命が長く、発光効率に優れた有機EL素子が得られることを見出した。更に、鋭意検討を進めた結果、N,N,N,N−テトラアリールジアミン構造の中心のビフェニルのフェニル同士の炭素−炭素結合をアリール基のオルト位に置換基を入れることでねじった化合物が良いということを本発明者らは見出した。
【0029】
また、本発明に係る有機化合物を正孔輸送材料として用いると、従来の正孔輸送材料を用いた場合よりも発光効率・寿命が更に向上し、色純度が向上することを見いだした。
【0030】
以下に、本発明を詳細に説明する。
本発明において、蛍光性化合物は光励起により2個の電子スピンが反平行の状態である励起一重項からの発光が観測される化合物のことであり、リン光性化合物は光励起により2個の電子スピンが平行の状態である励起三重項からの発光が観測される化合物である。ここで、本発明に記載のリン光性化合物では、前記蛍光性化合物の励起一重項状態、または、励起三重項状態からのエネルギー移動により、室温(15〜30℃)において励起三重項状態が形成されると考えられている。通常、リン光発光は77°Kの低温でしか観測不能と考えられていたが、近年、室温でリン光発光を観測できる化合物が見出されてからは、多くの化合物がイリジウム錯体系など重金属錯体系化合物を中心に合成検討されている(例えば、S.Lamansky et al.,J.Am.Chem.Soc.,123巻、4304ページ、2001年)。
【0031】
本発明において、蛍光性化合物の蛍光極大波長は、蛍光性化合物をガラス基板上に100nm蒸着したときの蒸着膜の蛍光スペクトルを測定した時の極大値である。
【0032】
本発明において、ドーパントとして組み込むリン光性化合物のリン光発光極大波長は、ホストの蛍光性化合物の蛍光極大波長に比べ、より長波であることが必要である。これによりドーパントとして組み込んだリン光性化合物の励起三重項による発光を利用した有機エレクトロルミネッセンス(EL)素子を得ることができる。従って、素子を構成した状態において電界発光により得られる発光極大波長は、該ホストとして用いた蛍光性化合物の単独での蛍光極大波長(蛍光性化合物をガラス上に100nm蒸着したときの蒸着膜で蛍光スペクトルを測定した時の極大値)よりも長波である。
【0033】
本発明において、ホスト化合物として用いる蛍光性化合物の蛍光極大波長は350〜440nmであることが好ましく、更に好ましいのは390〜410nmである。
【0034】
本発明に係るリン光性化合物は、溶液中のリン光量子収率が25℃において0.001以上であり、好ましくは、0.01以上である。さらに好ましくは、0.1以上である。
【0035】
以下に、励起三重項状態の量子収率φpの測定手段及びその理論について述べる。
【0036】
励起一重項状態から基底状態へは、無輻射遷移と蛍光放出によりそれぞれ速度定数ksn、kfで励起エネルギーを失う。この他に、励起三重項状態への遷移が速度定数、kiscで起き失活する。ここで、励起一重項状態の寿命τsは次式で定義される。
【0037】
τs=(ksn+kf+kisc)−1
また、蛍光の量子収率、φfは次式で定義される。
【0038】
φf= kf・τs
励起三重項状態から基底状態へは無輻射遷移とリン光放出によりそれぞれ、速度定数ktn、kpで失活する。また、励起三重項状態の寿命τtは、次式で定義される。
【0039】
τt=(ktn+kp)−1
τtは10−6〜10−3秒であり、長いものは数秒に及ぶ場合もある。そして、リン光の量子収率φpは、励起三重項状態の生成の量子収率φSTを用いて次式で定義される。
【0040】
φp=φST・kp・τt
上記パラメータは、第4版実験化学講座7の分光IIの398ページ(1992年版、丸善)に記載の方法により測定することができる。上記パラメータ中、リン光性化合物の溶液中でのリン光量子収率は種々の溶媒を用いて測定できるが、本発明においては溶媒としてテトラヒドロフランを用いて測定を行ったものである。
【0041】
本発明でいう置換基の立体パラメータEsとは、Taftによって定義された置換基定数であり、例えば「薬物の構造活性相関 化学の領域 増刊122号 南江堂社刊」に記載されている。特に本発明で言うEs値とは、水素原子を基準としたものであり、すなわちEs(H=0)の値であり、メチル基を基準としたEs(CH3=0)と定義したEs値から1.24差し引いた値を示す。その代表的な値を表1に示す。
【0042】
【表1】
【0043】
次いで、発光層について説明する。
本発明でいう発光層は、広義の意味では、陰極と陽極からなる電極に電流を流した際に発光する層のことを指す。具体的には、陰極と陽極からなる電極に電流を流した際に発光する蛍光性化合物を含有する層のことを指す。通常、エレクトロルミネッセンス素子(EL素子)は、一対の電極の間に発光層を挟持した構造をとる。本発明の有機EL素子は、必要に応じ発光層の他に、正孔輸送層、電子輸送層、陽極バッファー層および陰極バッファー層等を有し、陰極と陽極で挟持された構造をとる。
【0044】
具体的には、
(i)陽極/発光層/陰極
(ii)陽極/正孔輸送層/発光層/陰極
(iii)陽極/発光層/電子輸送層/陰極
(iv)陽極/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/陰極
(v)陽極/陽極バッファー層/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/陰極バッファー層/陰極などで示される構造がある。
【0045】
本発明においては、上記発光層、正孔注入層、電子注入層、正孔阻止層、陰極バッファー層または陽極バッファー層の少なくとも1つの層内に、本発明に係る有機化合物の少なくとも1種が存在するものであり、好ましくは正孔輸送層に含有される。
【0046】
発光層を形成する方法としては、例えば、蒸着法、スピンコート法、キャスト法、LB法などの公知の方法により薄膜を形成する方法があるが、特に、分子堆積膜であることが好ましい。ここでいう分子堆積膜とは、上記化合物の気相状態から沈着され形成された薄膜や、該化合物の溶融状態又は液相状態から固体化され形成された膜のことである。通常、この分子堆積膜はLB法により形成された薄膜(分子累積膜)と、凝集構造、高次構造の相違やそれに起因する機能的な相違により区別することができる。
【0047】
また、この発光層は、特開昭57−51781号に記載されているように、樹脂などの結着材と共に発光材料として上記化合物を溶剤に溶かして溶液としたのち、これをスピンコート法などにより塗布して薄膜形成することにより得ることができる。
【0048】
このようにして形成された発光層の膜厚については、特に制限はなく、状況に応じて適宜選択することができるが、通常は5nm〜5μmの範囲である。
【0049】
ここで、本発明に係るリン光性化合物は、具体的には、重金属錯体系化合物であり、好ましくは元素の周期律表の第VIII属の金属を中心金属とする錯体系化合物であり、さらに好ましくは、オスミウム、イリジウムまたは白金錯体系化合物である。
【0050】
これらのリン光性化合物としては、前記のようにリン光量子収率が、25℃において0.001以上である他、前記ホストとなる蛍光性化合物の蛍光極大波長よりも長いリン光発光極大波長を有するものであり、これにより、例えば、ホストとなる蛍光性化合物の発光極大波長より長波のリン光性化合物をもちいてリン光性化合物の発光、即ち三重項状態を利用した、ホスト化合物の蛍光極大波長よりも長波において電界発光するEL素子を得ることができる。従って、用いられるリン光性化合物のリン光発光極大波長としては特に制限されるものではなく、原理的には、中心金属、配位子、配位子の置換基等を選択することで得られる発光波長を変化させることができる。
【0051】
例えば、350nm〜440nmの領域に蛍光極大波長を有する蛍光性化合物をホスト化合物として用い、例えば、緑の領域にリン光をもったイリジウム錯体を用いることで、緑領域に電界発光する有機EL素子を得ることができる。
【0052】
以下に、本発明で用いられるリン光性化合物の具体例を示すが、これらに限定されるものではない。これらの化合物は、例えば、Inorg.Chem.40巻の1704〜1711ページに記載の方法等により合成できる。
【0053】
【化6】
【0054】
【化7】
【0055】
【化8】
【0056】
【化9】
【0057】
また、別の形態では、ホスト化合物としての蛍光性化合物(A)とリン光性化合物の他に、リン光性化合物からの発光の極大波長よりも長波な領域に、蛍光極大波長を有するもう一つの蛍光性化合物(B)を少なくとも1種含有する場合もある。この場合、蛍光性化合物(A)とリン光性化合物からのエネルギー移動で、有機EL素子としての電界発光は蛍光性化合物(B)からの発光が得られる。蛍光性化合物(B)として好ましいのは、溶液状態で蛍光量子収率が高いものである。ここで、蛍光量子収率は10%以上、特に30%以上が好ましい。具体的には、クマリン系色素、ピラン系色素、シアニン系色素、クロコニウム系色素、スクアリウム系色素、オキソベンツアントラセン系色素、フルオレセイン系色素、ローダミン系色素、ピリリウム系色素、ペリレン系色素、スチルベン系色素、ポリチオフェン系色素、または、希土類錯体系蛍光体などが挙げられる。
【0058】
次いで、本発明に係る一般式(1)〜(5)で表される化合物について詳しく説明する。
【0059】
一般式(1)〜(5)で表される化合物は、ガラス転移温度(Tg)が高いことから、有機エレクトロルミネッセンス素子の材料としての熱安定性も十分にあり、Tgとしては100度以上であることが好ましい。
【0060】
前記一般式(1)において、X1乃至X8、及びR1乃至R20は各々水素原子又は置換基を表し、各々異なっていても同一でも良く、X1、X2、X5及びX6のうち少なくとも1つは置換基を表す。X1乃至X8、及びR1乃至R20が置換基を表す場合、その置換として好ましくは、アルキル基(例えば、メチル基、エチル基、イソプロピル基、ヒドロキシエチル基、メトキシメチル基、トリフルオロメチル基、パーフルオロプロピル基、パーフルオロ−n−ブチル基、パーフルオロ−t−ブチル基、t−ブチル基等)、シクロアルキル基(例えば、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等)、アラルキル基(例えば、ベンジル基、2−フェネチル基等)、アリール基(例えば、フェニル基、ナフチル基、p−トリル基、p−クロロフェニル基等)、アルコキシ基(例えば、メトキシ基、エトキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基等)、アリールオキシ基(例えば、フェノキシ基等)、アリールアミノ基(例えば、ジフェニルアミノ基等)等が挙げられる。これらの基はさらに置換されていてもよく、置換基としては、例えば、ハロゲン原子、水素原子、トリフルオロメチル基、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルキルチオ基、ジアルキルアミノ基、ジベンジルアミノ基、ジアリールアミノ基等が挙げられる。
【0061】
前記一般式(2)において、X1乃至X8、及びR1乃至R20は各々水素原子又は置換基を表し、各々異なっていても同一でも良く、X1、X2、X5及びX6のうち少なくとも2つは置換基を表す。置換基としては、上述の一般式(1)で置換基の例として記載したものと同じものが挙げられる。
【0062】
前記一般式(3)において、X1乃至X8、及びR1乃至R20は各々水素原子又は置換基を表し、各々異なっていても同一でも良く、X1、X2、X5及びX6のうち少なくとも3つは置換基を表す。置換基としては、上述の一般式(1)で置換基の例として記載したものと同じものが挙げられる。
【0063】
前記一般式(4)において、X1乃至X8、及びR1乃至R20は各々水素原子又は置換基を表し、各々異なっていても同一でも良く、X1、X2、X5及びX6は置換基を表す。置換基としては、上述の一般式(1)で置換基の例として記載したものと同じものが挙げられる。
【0064】
前記一般式(5)において、X1乃至X8、及びR1乃至R20は各々水素原子又は置換基を表し、各々異なっていても同一でも良く、X1、X2、X5及びX6のそれぞれの立体パラメータEsX1、EsX2、EsX5及びEsX6の合計値(EsX1+EsX2+EsX5+EsX6)が−2.5以下である。
【0065】
前記一般式(1)〜(5)で示される化合物の合成法は特に限定されない。例えば、芳香族アミンと芳香族沃素化物との銅触媒を用いるウルマン反応によっておこなうことができる。また、トリフェニルアミンのハロゲン化物どうしを、ニッケル、パラジウム触媒を用いてカップリング反応させてもおこなうことができる。たとえば、臭化物をグリニヤール試薬とし、別の臭化物とニッケル触媒(Ni(dpp)Cl2等)を用いてカップリングすることができる。また、臭化物をアルキルリチウム試薬を用いてリチウム化した後、ほう酸に誘導したものと、別の臭化物をパラジウム触媒(Pd(PPh3)4等)を用いてカップリングすることができる。また、臭化物を亜鉛を還元剤として、ニッケル触媒を用いてカップリングすることができる。
【0066】
また、これらの有機化合物を有機EL素子の正孔輸送層として用いる場合、その純度が発光特性に影響を与えるため、合成後、再沈精製、昇華精製等の純化をすることが望ましい。
【0067】
以下に、本発明に係る一般式(1)〜(5)で表される有機化合物の具体例を示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0068】
【化10】
【0069】
【化11】
【0070】
【化12】
【0071】
【化13】
【0072】
【化14】
【0073】
【化15】
【0074】
【化16】
【0075】
【化17】
【0076】
【化18】
【0077】
【化19】
【0078】
【化20】
【0079】
【化21】
【0080】
【化22】
【0081】
次に、正孔注入層、正孔輸送層、電子注入層、電子輸送層等発光層と組み合わせてEL素子を構成するその他の層について説明する。
【0082】
正孔注入層、正孔輸送層は、陽極より注入された正孔を発光層に伝達する機能を有し、この正孔注入層、正孔輸送層を陽極と発光層の間に介在させることにより、より低い電界で多くの正孔が発光層に注入され、そのうえ、発光層に陰極、電子注入層又は電子輸送層より注入された電子は、発光層と正孔注入層もしくは正孔輸送層の界面に存在する電子の障壁により、発光層内の界面に累積され発光効率が向上するなど発光性能の優れた素子となる。この正孔注入層、正孔輸送層の材料(以下、正孔注入材料、正孔輸送材料という)については、前記の陽極より注入された正孔を発光層に伝達する機能を有する性質をもつものであれば特に制限はなく、従来、光導伝材料において、正孔の電荷注入輸送材料として慣用されているものやEL素子の正孔注入層、正孔輸送層に使用される公知のものの中から任意のものを選択して用いることができる。
【0083】
上記正孔注入材料、正孔輸送材料は、正孔の注入もしくは輸送、電子の障壁性のいずれかを有するものであり、有機物、無機物のいずれであってもよい。この正孔注入材料、正孔輸送材料としては、例えば、トリアゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、イミダゾール誘導体、ポリアリールアルカン誘導体、ピラゾリン誘導体及びピラゾロン誘導体、フェニレンジアミン誘導体、アリールアミン誘導体、アミノ置換カルコン誘導体、オキサゾール誘導体、スチリルアントラセン誘導体、フルオレノン誘導体、ヒドラゾン誘導体、スチルベン誘導体、シラザン誘導体、アニリン系共重合体、また、導電性高分子オリゴマー、特にチオフェンオリゴマーなどが挙げられる。正孔注入材料、正孔輸送材料としては、上記のものを使用することができるが、ポルフィリン化合物、芳香族第三級アミン化合物及びスチリルアミン化合物、特に芳香族第三級アミン化合物を用いることが好ましい。
【0084】
上記芳香族第三級アミン化合物及びスチリルアミン化合物の代表例としては、N,N,N′,N′−テトラフェニル−4,4′−ジアミノフェニル、N,N′−ジフェニル−N,N′−ビス(3−メチルフェニル)−〔1,1′−ビフェニル〕−4,4′−ジアミン(TPD)、2,2−ビス(4−ジ−p−トリルアミノフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−ジ−p−トリルアミノフェニル)シクロヘキサン、N,N,N′,N′−テトラ−p−トリル−4,4′−ジアミノビフェニル、1,1−ビス(4−ジ−p−トリルアミノフェニル)−4−フェニルシクロヘキサン、ビス(4−ジメチルアミノ−2−メチルフェニル)フェニルメタン、ビス(4−ジ−p−トリルアミノフェニル)フェニルメタン、N,N′−ジフェニル−N,N′−ジ(4−メトキシフェニル)−4,4′−ジアミノビフェニル、N,N,N′,N′−テトラフェニル−4,4′−ジアミノジフェニルエーテル、4,4′−ビス(ジフェニルアミノ)クオードリフェニル、N,N,N−トリ(p−トリル)アミン、4−(ジ−p−トリルアミノ)−4′−〔4−(ジ−p−トリルアミノ)スチリル〕スチルベン、4−N,N−ジフェニルアミノ−(2−ジフェニルビニル)ベンゼン、3−メトキシ−4′−N,N−ジフェニルアミノスチルベンゼン、N−フェニルカルバゾール、さらには、米国特許第5,061,569号明細書に記載されている2個の縮合芳香族環を分子内に有するもの、例えば、4,4′−ビス〔N−(1−ナフチル)−N−フェニルアミノ〕ビフェニル(NPD)、特開平4−308688号公報に記載されているトリフェニルアミンユニットが3つスターバースト型に連結された4,4′,4″−トリス〔N−(3−メチルフェニル)−N−フェニルアミノ〕トリフェニルアミン(MTDATA)などが挙げられる。
【0085】
更に、これらの材料を高分子鎖に導入した、またはこれらの材料を高分子の主鎖とした高分子材料を用いることもできる。
【0086】
また、p型−Si、p型−SiCなどの無機化合物も正孔注入材料、正孔輸送材料として使用することができる。この正孔注入層、正孔輸送層は、上記正孔注入材料、正孔輸送材料を、例えば、真空蒸着法、スピンコート法、キャスト法、LB法などの公知の方法により、薄膜化することにより形成することができる。正孔注入層、正孔輸送層の膜厚については、特に制限はないが、通常は5nm〜5μm程度である。この正孔注入層、正孔輸送層は、上記材料の一種又は二種以上からなる一層構造であってもよく、同一組成又は異種組成の複数層からなる積層構造であってもよい。
【0087】
さらに、必要に応じて用いられる電子輸送層は、陰極より注入された電子を発光層に伝達する機能を有していればよく、その材料としては従来公知の化合物の中から任意のものを選択して用いることができる。
【0088】
この電子輸送層に用いられる材料(以下、電子輸送材料という)の例としては、ニトロ置換フルオレン誘導体、ジフェニルキノン誘導体、チオピランジオキシド誘導体、ナフタレンペリレンなどの複素環テトラカルボン酸無水物、カルボジイミド、フレオレニリデンメタン誘導体、アントラキノジメタン及びアントロン誘導体、オキサジアゾール誘導体などが挙げられる。さらに、上記オキサジアゾール誘導体において、オキサジアゾール環の酸素原子を硫黄原子に置換したチアジアゾール誘導体、電子吸引基として知られているキノキサリン環を有するキノキサリン誘導体も、電子輸送材料として用いることができる。
【0089】
更に、これらの材料を高分子鎖に導入した、またはこれらの材料を高分子の主鎖とした高分子材料を用いることもできる。
【0090】
また、8−キノリノール誘導体の金属錯体、例えば、トリス(8−キノリノール)アルミニウム(Alq)、トリス(5,7−ジクロロ−8−キノリノール)アルミニウム、トリス(5,7−ジブロモ−8−キノリノール)アルミニウム、トリス(2−メチル−8−キノリノール)アルミニウム、トリス(5−メチル−8−キノリノール)アルミニウム、ビス(8−キノリノール)亜鉛(Znq)など、及びこれらの金属錯体の中心金属がIn、Mg、Cu、Ca、Sn、Ga又はPbに置き替わった金属錯体も、電子輸送材料として用いることができる。その他、メタルフリー若しくはメタルフタロシアニン、又はそれらの末端がアルキル基やスルホン酸基などで置換されているものも、電子輸送材料として好ましく用いることができる。また、発光層の材料として例示したジスチリルピラジン誘導体も、電子輸送材料として用いることができるし、正孔注入層、正孔輸送層と同様に、n型−Si、n型−SiCなどの無機半導体も電子輸送材料として用いることができる。
【0091】
この電子輸送層は、上記化合物を、例えば真空蒸着法、スピンコート法、キャスト法、LB法などの公知の薄膜形成法により製膜して形成することができる。電子輸送層としての膜厚は、特に制限はないが、通常は5nm〜5μmの範囲で選ばれる。この電子輸送層は、これらの電子輸送材料一種又は二種以上からなる一層構造であってもよいし、あるいは、同一組成又は異種組成の複数層からなる積層構造であってもよい。
【0092】
又、本発明においては、蛍光性化合物は発光層のみに限定することはなく、発光層に隣接した正孔輸送層、または電子輸送層に前記リン光性化合物のホスト化合物となる蛍光性化合物と同じ領域に蛍光極大波長を有する蛍光性化合物を少なくとも1種含有させてもよく、それにより更にEL素子の発光効率を高めることができる。これらの正孔輸送層や電子輸送層に含有される蛍光性化合物としては、発光層に含有されるものと同様に蛍光極大波長が350〜440nm、更に好ましくは390〜410nmの範囲にある蛍光性化合物が用いられる。
【0093】
本発明の有機EL素子に好ましく用いられる基盤は、ガラス、プラスチックなどの種類には特に限定はなく、また、透明のものであれば特に制限はない。本発明のエレクトロルミネッセンス素子に好ましく用いられる基盤としては、例えば、ガラス、石英、光透過性プラスチックフィルムを挙げることができる。
【0094】
光透過性プラスチックフィルムとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンスルフィド、ポリアリレート、ポリイミド、ポリカーボネート(PC)、セルローストリアセテート(TAC)、セルロースアセテートプロピオネート(CAP)等からなるフィルム等が挙げられる。
【0095】
次に、本発明の有機EL素子を作製する好適な例を以下に示す。例として、前記の陽極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/電子注入層/陰極からなる有機EL素子の作製法について説明する。
【0096】
まず適当な基板上に、所望の電極用物質、例えば、陽極用物質からなる薄膜を、1μm以下、好ましくは10〜200nmの範囲の膜厚になるように、蒸着やスパッタリングなどの方法により形成させて陽極を作製する。次に、この上に素子材料である正孔注入層、正孔輸送層、発光層、電子輸送層/電子注入層からなる薄膜を形成させる。
【0097】
さらに、陽極と発光層または正孔注入層の間、および、陰極と発光層または電子注入層との間にはバッファー層(電極界面層)を存在させてもよい。
【0098】
バッファー層とは、駆動電圧低下や発光効率向上のために電極と有機層間に設けられる層のことで、「有機EL素子とその工業化最前線(1998年11月30日エヌ・ティー・エス社発行)」の第2編第2章「電極材料」(123〜166ページ)にその詳細に記載されており、陽極バッファー層と陰極バッファー層とがある。
【0099】
陽極バッファー層は、特開平9−45479号、同9−260062号、同8−288069号等にもその詳細が記載されており、具体例として、銅フタロシアニンに代表されるフタロシアニンバッファー層、酸化バナジウムに代表される酸化物バッファー層、アモルファスカーボンバッファー層、ポリアニリン(エメラルディン)やポリチオフェン等の導電性高分子を用いた高分子バッファー層等が挙げられる。
【0100】
陰極バッファー層は、特開平6−325871号、同9−17574号、同10−74586号等にもその詳細が記載されており、具体的にはストロンチウムやアルミニウム等に代表される金属バッファー層、フッ化リチウムに代表されるアルカリ金属化合物バッファー層、フッ化マグネシウムに代表されるアルカリ土類金属化合物バッファー層、酸化アルミニウム、酸化リチウムに代表される酸化物バッファー層等が挙げられる。
【0101】
上記バッファー層はごく薄い膜であることが望ましく、素材にもよるが、その膜厚は0.1〜100nmの範囲が好ましい。
【0102】
さらに、上記基本構成層の他に必要に応じてその他の機能を有する層を積層してもよく、例えば、特開平11−204258号、同11−204359号、および「有機EL素子とその工業化最前線(1998年11月30日エヌ・ティー・エス社発行)」の237ページ等に記載されている正孔阻止(ホールブロック)層などのような機能層を有していても良い。
【0103】
バッファー層は、陰極バッファー層または陽極バッファー層の少なくとも何れか1つの層内に本発明の化合物の少なくとも1種が存在して、発光層として機能してもよい。
【0104】
次に、有機EL素子の電極について説明する。
有機EL素子の電極は、陰極と陽極からなる。この有機EL素子における陽極としては、仕事関数の大きい(4eV以上)金属、合金、電気伝導性化合物及びこれらの混合物を電極物質とするものが好ましく用いられる。このような電極物質の具体例としてはAuなどの金属、CuI、インジウムチンオキシド(ITO)、SnO2、ZnOなどの導電性透明材料が挙げられる。
【0105】
上記陽極は、蒸着やスパッタリングなどの方法により、これらの電極物質の薄膜を形成させ、フォトリソグラフィー法で所望の形状のパターンを形成してもよく、あるいはパターン精度をあまり必要としない場合は(100μm以上程度)、上記電極物質の蒸着やスパッタリング時に所望の形状のマスクを介してパターンを形成してもよい。この陽極より発光を取り出す場合には、透過率を10%より大きくすることが望ましく、また、陽極としてのシート抵抗は数百Ω/□以下が好ましい。さらに膜厚は材料にもよるが、通常10nm〜1μm、好ましくは10〜200nmの範囲で選ばれる。
【0106】
一方、陰極としては、仕事関数の小さい(4eV以下)金属(電子注入性金属と称する)、合金、電気伝導性化合物及びこれらの混合物を電極物質とするものが用いられる。このような電極物質の具体例としては、ナトリウム、ナトリウム−カリウム合金、マグネシウム、リチウム、マグネシウム/銅混合物、マグネシウム/銀混合物、マグネシウム/アルミニウム混合物、マグネシウム/インジウム混合物、アルミニウム/酸化アルミニウム(Al2O3)混合物、インジウム、リチウム/アルミニウム混合物、希土類金属などが挙げられる。これらの中で、電子注入性及び酸化などに対する耐久性の点から、電子注入性金属とこれより仕事関数の値が大きく安定な金属である第二金属との混合物、例えば、マグネシウム/銀混合物、マグネシウム/アルミニウム混合物、マグネシウム/インジウム混合物、アルミニウム/酸化アルミニウム(Al2O3)混合物、リチウム/アルミニウム混合物などが好適である。上記陰極は、これらの電極物質を蒸着やスパッタリングなどの方法により、薄膜を形成させることにより、作製することができる。また、陰極としてのシート抵抗は数百Ω/□以下が好ましく、膜厚は通常10nm〜1μm、好ましくは50〜200nmの範囲で選ばれる。なお、発光を透過させるため、有機EL素子の陽極又は陰極のいずれか一方が、透明又は半透明であれば発光効率が向上するので好都合である。
【0107】
次に、有機EL素子の作製方法について説明する。
薄膜化の方法としては、前記の如くスピンコート法、キャスト法、蒸着法などがあるが、均質な膜が得られやすく、かつピンホールが生成しにくいなどの点から、真空蒸着法が好ましい。薄膜化に、真空蒸着法を採用する場合、その蒸着条件は、使用する化合物の種類、分子堆積膜の目的とする結晶構造、会合構造などにより異なるが、一般にボート加熱温度50〜450℃、真空度10−6〜10−3Pa、蒸着速度0.01〜50nm/秒、基板温度−50〜300℃、膜厚5nm〜5μmの範囲で適宜選ぶことが望ましい。
【0108】
前記の様に、適当な基板上に、所望の電極用物質、例えば陽極用物質からなる薄膜を、1μm以下、好ましくは10〜200nmの範囲の膜厚になるように、蒸着やスパッタリングなどの方法により形成させて陽極を作製した後、該陽極上に前記の通り正孔注入層、正孔輸送層、発光層、電子輸送層/電子注入層からなる各層薄膜を形成させた後、その上に陰極用物質からなる薄膜を1μm以下、好ましくは50〜200nmの範囲の膜厚になるように、例えば、蒸着やスパッタリングなどの方法により形成させ、陰極を設けることにより、所望の有機EL素子が得られる。この有機EL素子の作製は、一回の真空引きで一貫してこの様に正孔注入層から陰極まで作製するのが好ましいが、作製順序を逆にして、陰極、電子注入層、発光層、正孔注入層、陽極の順に作製することも可能である。このようにして得られた有機EL素子に、直流電圧を印加する場合には、陽極を+、陰極を−の極性として電圧5〜40V程度を印加すると、発光が観測できる。また、逆の極性で電圧を印加しても電流は流れずに発光は全く生じない。さらに、交流電圧を印加する場合には、陽極が+、陰極が−の状態になったときのみ発光する。なお、印加する交流の波形は任意でよい。
【0109】
【実施例】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明の態様はこれに限定されない。
【0110】
実施例1
《有機EL素子の作製》
陽極として100mm×100mm×1.1mmのガラス基板上にITO(インジウムチンオキシド)を150nm成膜した基板(NHテクノグラス社製NA−45)にパターニングを行った後、このITO透明電極を設けた透明支持基板をイソプロピルアルコールで超音波洗浄し、乾燥窒素ガスで乾燥し、UVオゾン洗浄を5分間行なった。
【0111】
この透明支持基板を、市販の真空蒸着装置の基板ホルダーに固定し、一方、モリブデン製抵抗加熱ボートに、α−NPDを200mg入れ、別のモリブデン製抵抗加熱ボートにCBPを200mg入れ、別のモリブデン製抵抗加熱ボートにバソキュプロイン(BC)を200mg入れ、別のモリブデン製抵抗加熱ボートに例示化合物Ir−1(リン光性化合物)を100mg入れ、さらに別のモリブデン製抵抗加熱ボートにAlq3を200mg入れ、真空蒸着装置に取付けた。次いで、真空槽を4×10−4Paまで減圧した後、α−NPDの入った前記加熱ボートに通電して、220℃まで加熱し、蒸着速度0.1nm/secで透明支持基板に蒸着し、膜厚45nmの正孔輸送層を設けた。さらに、ホスト化合物としてのCBPとドーパント化合物としてのIr−1の入った前記加熱ボートに通電して220℃まで加熱し、それぞれ蒸着速度0.1nm/sec、0.01nm/secで前記正孔輸送層上に共蒸着して膜厚20nmの発光層を設けた。なお、蒸着時の基板温度は室温であった。さらに、BCの入った前記加熱ボートに通電して250℃まで加熱し、蒸着速度0.1nm/secで前記発光層の上に蒸着して膜厚10nmの正孔阻止の役割も兼ねた電子輸送層を設けた。その上に、さらに、Alq3の入った前記加熱ボートに通電して250℃まで加熱し、蒸着速度0.1nm/secで前記電子輸送層の上に蒸着して更に膜厚40nmの電子輸送層を設けた。なお、蒸着時の基板温度は室温であった。
【0112】
次に、真空槽を開け、電子輸送層の上にステンレス鋼製の長方形穴あきマスクを設置し、一方、モリブデン製抵抗加熱ボートにマグネシウム3gを入れ、タングステン製の蒸着用バスケットに銀を0.5g入れ、再び真空槽を2×10−4Paまで減圧した後、マグネシウム入りのボートに通電して蒸着速度1.5〜2.0nm/secでマグネシウムを蒸着し、この際、同時に銀のバスケットを加熱し、蒸着速度0.1nm/secで銀を蒸着し、前記マグネシウムと銀との混合物からなる対向電極とすることにより、有機EL素子1−1(比較例)を作製した。
【0113】
上記有機EL素子1−1の作製において、正孔輸送層のα−NPD、リン光ドーパントを表2に記載の各化合物に変更し、ホスト化合物とドーパント化合物の蒸着速度の比を変えた以外は全く同じ方法で、有機EL素子1−2〜1−19を作製した。
【0114】
上記で使用した化合物の構造を以下に示す。
【0115】
【化23】
【0116】
《有機EL素子の評価》
これらの各有機EL素子のITO電極を陽極、マグネシウムと銀からなる対向電極として温度23度、乾燥窒素ガス雰囲気下で10V直流電圧印加による連続点灯を行い、点灯開始時の発光輝度から輝度が半減する時間(以下、発光寿命という)及び発光効率(ルーメン/W)を測定し、その結果を表1に示す。ただし、発光寿命及び発光効率は、有機EL素子1−1の発光寿命及び発光効率のそれぞれ100とした相対値で表した。なお、発光輝度はミノルタ製CS−1000を用いて測定した。
【0117】
【表2】
【0118】
表2から明らかなように、本発明に係る有機化合物を発光層に用いた有機エレクトロルミネッセンス素子は、発光効率が高く、発光寿命が長いことから、有機EL素子として非常に有用であることが判明した。
【0119】
また、図1には、有機EL素子1−3と有機EL素子1−6の各エレクトロルミネッセンススペクトルを示す。また、図2には、図1のA領域の拡大図である。
【0120】
α−NPDを正孔輸送層に用いた有機EL素子1−3では、ドーパントの濃度が薄くなると、図1のA領域を拡大した図2に示すように短波長側の発光が立ち上がってくる。これはα−NPDからの発光であると考えられる。
【0121】
一方、本発明の化合物を用いた有機EL素子1−7では、発光スペクトルの波形はほとんど変わらなかった。このことから、従来の正孔輸送材料を用いると、ドーパントの濃度によっては正孔輸送材料の発光があり、色純度が悪くなっていたが、本発明に係る化合物を正孔輸送材料に用いると、ドーパントの濃度の変化によってスペクトルが変化することなく色純度の良い発光が得られ、本発明に係る化合物が、リン光発光有機エレクトロルミネッセンス素子の正孔輸送材料として非常に有用であることが判明した。
【0122】
特に、有機EL素子の製造時に、ドーパントの濃度の細かい調整は困難であり、本発明に係る化合物を用いることで、細かい濃度調整なしに色純度のよい発光が得られるという点で極めて有用であることが分かる。
【0123】
実施例2
実施例1に記載の有機EL素子1−5〜1−19の作製において、陽極(ITO)と正孔輸送層の間に、銅フタロシアニンを10nm積層した以外は同様にして有機EL素子2−1〜2−15を作製した。これらの有機EL素子2−1〜2−15と実施例1で作製した有機EL素子1−1を用いて、ITO電極を陽極、マグネシウムと銀からなる対向電極として温度23度、乾燥窒素ガス雰囲気下で10V直流電圧印加による連続点灯を行い、点灯開始時の発光輝度から輝度が半減する時間(発光寿命)、発光効率(ルーメン/W)を測定し、得られた結果を表3に示す。ただし、発光寿命及び発光効率は、有機EL素子1−1の輝度の半減する時間及び発光効率をそれぞれ100とした相対値で表した。なお、発光輝度はミノルタ製CS−1000を用いて測定した。
【0124】
【表3】
【0125】
表3より明らかなように、本発明の有機EL素子として、陽極と正孔輸送層の間に、銅フタロシアニンを有する層を設けることにより、発光効率、発光寿命共に更なる向上が認められた。
【0126】
実施例3
実施例1に記載の有機EL素子1−5〜1−19の作製において、陰極をアルミニウムに変更し、電子輸送層と陰極の間に陰極バッファー層としてフッ化リチウムを0.5nm積層した以外は同様にして有機EL素子3−1〜3−15を作製した。これらの有機EL素子3−1〜3−15と実施例1で作製した有機EL素子1−1を用いて、ITO電極を陽極、マグネシウムと銀からなる対向電極として温度23度、乾燥窒素ガス雰囲気下で10V直流電圧印加による連続点灯を行い、発光寿命及び発光効率(ルーメン/W)を測定し、得られた結果を表4に示す。但し、発光寿命び発光効率は、有機EL素子1−1の発光寿命及び発光効率をそれぞれ100とした相対値で表した。なお、発光輝度はミノルタ製CS−1000を用いて測定した。
【0127】
【表4】
【0128】
表4より明らかなように、本発明の有機EL素子として、電子輸送層と陰極の間に陰極バッファー層を設けることにより、発光効率として更なる向上が認められた。
【0129】
実施例4
実施例1に記載の有機EL素子1−1、1−8において、リン光性化合物をIr−1からそれぞれPt−3(2,3,7,8,12,13,17,18−オクタエチル−21H−23H−ポルフィンプラチナム(II)(PtOEP);ポルフィリンプロダクツ株式会社製)に変更した以外は、実施例1と同様にして有機エレクトロルミネッセンス素子4−1、4−2を作製した。
【0130】
また、同様に実施例1における有機EL素子1−1、1−8において、リン光性化合物をIr−1からそれぞれPt−2に置き換えた以外は、実施例1と全く同様にして有機エレクトロルミネッセンス素子4−3、4−4を作製した。
【0131】
また、同様に実施例1における有機EL素子1−1、1−8において、リン光性化合物をIr−1からそれぞれIr−11に置き換えた以外は、実施例1と全く同様にして有機エレクトロルミネッセンス素子4−5、4−6を作製した。
【0132】
これらの有機EL素子の発光効率を測定した結果、本発明の化合物を用いた有機エレクトロルミネッセンス素子において、発光効率の改善が確認された。
【0133】
なお、Pt−3を用いた場合は赤色の発光が得られ、Pt−2、Ir−11を用いた場合は青色の発光が得られた。
【0134】
実施例5
《有機EL素子の作製》
陽極として一方の表面にITOを100nm製膜した透明ガラス基板(ミクロ技術研究所製、表面抵抗30Ω)を、市販の真空蒸着装置の基板ホルダーに固定し、一方、タンタル製抵抗加熱ボートに、α−NPDを200mg入れ、別のタンタル製抵抗加熱ボートにCBPを200mg入れ、別のタンタル製抵抗加熱ボートにBCを200mg入れ、さらに別のタンタル製抵抗加熱ボートにAlq3を200mg入れ、真空蒸着装置に取付けた。
【0135】
次いで、真空槽を4×10−4Paまで減圧した後、α−NPDの入った前記加熱ボートに通電して、膜厚30nmの正孔輸送層を設けた。更に、CBPとIr−1の入った前記加熱ボートに通電して前記正孔輸送層上に共蒸着して、膜厚20nmの発光層を設けた。更に、BCの入った前記加熱ボートに通電して前記発光層上に蒸着して、膜厚10nmの正孔阻止層を設けた。さらにその上にAlq3の入った前記ボートに通電して前記正孔阻止層上に蒸着して膜厚40nmの電子輸送層を設けた。
【0136】
次に、真空槽を開け、電子輸送層の上にステンレス鋼製の長方形穴あきマスクを設置し、一方、タンタル製抵抗加熱ボートにマグネシウム3gを入れ、タングステン製の蒸着用バスケットに銀を0.5g入れ、再び真空槽を2×10−4Paまで減圧した後、マグネシウム入りのボートに通電してマグネシウムを蒸着し、この際、同時に銀のバスケットを加熱し、銀を蒸着し、膜厚110nmにして、前記マグネシウムと銀との混合物から成る対向電極とすることにより、比較の有機EL素子5−1を作製した。
【0137】
次いで、上記有機EL素子5−1の作製において、発光層のホスト材料であるCBPを表5に記載の各化合物に変更した以外は同様にして、有機EL素子5−2〜5−17を作製した。
【0138】
【化24】
【0139】
《有機EL素子の評価》
上記作製した各有機EL素子を、ITO電極を陽極、マグネシウムと銀からなる対向電極を陰極として温度23度、乾燥窒素ガス雰囲気下で11V直流電圧印加による連続点灯を行い、点灯開始時の輝度から輝度の半減する時間(発光寿命)及び発光効率(ルーメン/W)を測定し、得られた結果を表5に示す。ただし、発光寿命及び発光効率は、有機EL素子5−1の発光寿命及び発光効率をそれぞれ100とした相対値で表した。
【0140】
【表5】
【0141】
表5から明らかなように、本発明に係る化合物はリン光発光有機EL素子の発光層のホスト材料として使用しても、高効率で、かつ長寿命の有機EL素子を実現できることが分かる。
【0142】
実施例6
実施例1及び実施例4で作製したそれぞれ赤色、緑色、青色発光の各有機エレクトロルミネッセンス素子を同一基板上に並置し、図3に示すアクティブマトリクス方式フルカラー表示装置を作製した。
【0143】
図3には、作製したフルカラー表示装置の表示部の模式図のみを示した。即ち同一基板上に、複数の走査線5及びデータ線6を含む配線部と、並置した複数の画素3(発光の色が赤領域の画素、緑領域の画素、青領域の画素等)とを有し、配線部の走査線5及び複数のデータ線6は、それぞれ導電材料からなり、走査線5とデータ線6は格子状に直交して、直交する位置で画素3に接続している(詳細は図示せず)。前記複数画素3は、それぞれの発光色に対応した有機EL素子、アクティブ素子であるスイッチングトランジスタと駆動トランジスタそれぞれが設けられたアクティブマトリクス方式で駆動されており、走査線5から走査信号が印加されると、データ線6から画像データ信号を受け取り、受け取った画像データに応じて発光する。この様に各赤、緑、青の画素を適宜、並置することによって、フルカラー表示が可能となる。
【0144】
該フルカラー表示装置を駆動することにより、輝度の高い鮮明なフルカラー動画表示が得られた。
【0145】
実施例7
実施例1における有機EL素子1−8の作製において、発光層をホストであるCBPとドーパント化合物であるIr−9およびIr−15の蒸着速度が100:1:10になるように調節した共蒸着で設けた以外は同様にして、有機EL素子7−1を作製した。
【0146】
この有機EL素子7−1に、10V直流電圧を印加したところ、ほぼ白色の発光が得られた。
【0147】
【発明の効果】
本発明により、高発光効率で、かつ発光寿命が長い有機エレクトロルミネッセンス素子、及びそれを用いた低消費電力で、かつ高輝度な表示装置を提供することができた。
【図面の簡単な説明】
【図1】有機EL素子のエレクトロルミネッセンススペクトルの一例を示すグラフである。
【図2】有機EL素子のエレクトロルミネッセンススペクトルの短波部を拡大したグラフである。
【図3】有機エレクトロルミネッセンス素子を用いた多色表示装置の表示部の一例を示す模式図である。
【符号の説明】
1 ガラス基板
2 配線部
3 画素
5 走査線
6 データ線
101 表示部
Claims (11)
- 正孔輸送層と発光層を有し、該正孔輸送層が前記一般式(1)〜(5)で表される有機化合物から選ばれる少なくとも1種を含有することを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。
- 発光層がリン光性化合物を含有し、該リン光性化合物が元素の周期律表の第VIII属の金属を中心金属とする錯体系化合物であることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
- 前記リン光性化合物が、オスミウム、イリジウムまたは白金錯体系化合物であることを特徴とする請求項7記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
- 前記リン光性化合物の発光極大波長よりも更に長波な領域に蛍光極大波長を有する蛍光性化合物を少なくとも1種含有することを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
- 請求項1乃至9のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子を複数有することを特徴とする表示装置。
- 発光極大波長が異なる前記有機エレクトロルミネッセンス素子を同一基板上に2つ以上設けていることを特徴とする請求項10記載の表示装置。
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