JP2004134596A - 導電部の欠陥修正方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】インクジェット方式により微細な配線パターンに対して微小な液滴を塗布する場合でも、空気抵抗による液滴の減速を抑制して十分な着弾精度が得られ、かつ、着弾後瞬時に液滴が乾燥する構成により、着弾した液滴が他の配線等に対して悪影響を及ぼすことがないようにする。
【解決手段】インクジェット方式により、導電性材料を含む液体をノズル24の吐出孔24bから液滴23として吐出し、この液滴23を導電部における欠陥部に付与する。インクジェット装置20は吐出孔24bの径が液滴23の径よりも小さい静電吸引型であり、このインクジェット装置20のノズルから1滴の量が1pl以下の液滴を吐出する。
【選択図】 図1

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、インクジェット方式により導電性材料を含む溶液の液滴を吐出して例えば回路基板における電気的接続不良部を補修する導電部の欠陥修正方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
プリント基板等における配線パターンの形成方法としては、従来、プリント基板全面にスパッタや蒸着などで金属薄膜を形成した後、フォトリソグラフィ法によって不要な部分をエッチングして必要な導電膜パターンを形成する方法が一般的である。
【0003】
これに対して、インクジェット方式により、配線材料を直接プリント基板に塗布し、配線パターンを描画する方法が提案されている。このようなインクジェット方式による配線パターンの形成技術は、フォトリソグラフィ工程に必要なマスクが不要となり、また、大気中での作業が可能となり、プリント基板上の回路の設計変更にも柔軟に対応できるものとして注目されてきた。
【0004】
また、近年のインクジェット装置の発達に伴い、さらに微細な液滴を吐出できる装置が開発され、これにより微細なパターンを描画できるようになってきた。
【0005】
さらに、オンデマンド型ヘッドの発達により、より柔軟な描画が可能となっており、このような技術は、配線の欠陥部分などの局所的な描画への応用が期待されている。
【0006】
このような応用技術に関し、特開昭58−176995号公報には、電気回路パターンを、インク噴射記録ヘッドを用いて作製しかつ修正することが示されている。そこでは、配線パターン作製工程の後、検査工程を行い、回路の電気特性などを用いて回路の欠陥部分を検出する。そして、その後の修正工程で、欠陥部に材料を塗布して、修正を行っている。
【0007】
【特許文献1】
特開昭58−176995号公報(公開日昭和58年10月17日)
【0008】
【特許文献2】
特開2000−127410公報(公開日平成12年05月09日)
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、従来のインクジェット方式による導電部の欠陥修正方法には、以下に述べる問題点を有している。
【0010】
回路基板の配線(導電部)の線幅は、高密度実装の要請からますます細くなっている。また、隣り合う配線の間隔も狭くなってきている。このため、従来のインクジェット装置により、導電性材料を断線部(欠陥部)に塗布した場合、隣の配線まで導電性材料が拡がり、隣同士の配線を短絡させる可能性がある。
【0011】
そこで、インクジェット装置からの導電性材料の液滴の着弾面積を小さくする必要がある。しかしながら、液滴径を小さくしていった場合、空気抵抗の影響が大きくなり、所望の位置に液滴を着弾させることが困難となる。
【0012】
また、液滴は基板着弾後にすぐには乾燥しないため、乾燥する前に液滴が基板上を移動してしまう問題がある。このため、液滴乾燥後に所望しない位置に導電膜が形成され、配線同士を短絡させる危険がある。
【0013】
したがって、本発明は、微細な配線パターン(導電部)に対して微小な液滴を塗布する場合であっても、空気抵抗による液滴の減速を抑制して十分な着弾精度が得られ、かつ、着弾後瞬時に液滴が乾燥する構成により、着弾した液滴が他の配線等に対して悪影響を及ぼすことがない導電部の欠陥修正方法の提供を目的としている。
【0014】
【課題を解決するための手段】
本願発明者等は、ノズルから吐出された液滴の着弾後から乾燥前の液滴の移動量を抑制でき、インクジェット方式による正確な配線の形成を実現するための手法を鋭意研究した。その過程で、導電性材料を含む液体(インク)の液滴径と液体(インク)濃度などのパラメータの組み合わせにより、着弾後瞬時に液滴(インク)が乾燥する領域があることを予測した。さらに、その条件での吐出を可能とするインクジェット方式を見いだした。
【0015】
そして、そのようなインクジェット方式にて液滴の吐出を行うことにより、液滴の着弾後に瞬時に液滴が乾燥して液滴の拡がりを回避し、連続的な液滴付与による導電部の欠陥修正を可能にした。
【0016】
本発明の導電部の欠陥修正方法は、インクジェット方式により、導電性材料を含む液体をノズルの吐出孔から液滴として吐出し、この液滴を導電部における欠陥部に付与する導電部の欠陥修正方法において、前記吐出孔の径が前記液滴の径よりも小さい静電吸引型インクジェット装置を使用し、このインクジェット装置のノズルから1滴の量が1pl以下の液滴を吐出することを特徴としている。
【0017】
上記の構成によれば、ノズルの吐出孔の径が液滴の径よりも小さい静電吸引型インクジェット装置を使用しているので、静電吸引用の電界を生じさせる印加電圧を低い値に抑制しながら、1pl以下の微小な液滴の吐出が可能となる。また、液滴を吐出する際に、液滴に電荷が集中しやすく、液滴周囲の電界強度の変動が小さくなるので、安定した吐出が可能となる。したがって、微細な導電部(配線パターン)に対して、微小な液滴を塗布する場合でも、空気抵抗による減速が抑えられ、十分な着弾精度が得られる。
【0018】
また、ノズルから吐出される液滴の1滴の量が1pl以下であるので、液滴は着弾後瞬時に乾燥する。したがって、液滴は着弾後に移動し難く、正確な位置に液滴による導電層が形成されるので、液滴が拡がって他の導電部に悪影響を及ぼす事態が生じない。
【0019】
上記の導電部の欠陥修正方法は、前記液滴の径が欠陥部を有する導電部の幅よりも小さくなっている構成としてもよい。
【0020】
上記の構成によれば、液滴の径が欠陥部を有する導電部の幅よりも小さくなっているので、欠陥部の形状が複雑であっても、導電性材料を余分に塗布することなく、必要な量だけ塗布することで、欠陥部を適切に補修して十分な接続状態を得ることができる。
【0021】
上記の導電部の欠陥修正方法は、前記欠陥部に2回以上連続して液滴を着弾させることにより欠陥部を修正する構成としてもよい。
【0022】
上記の構成によれば、液滴は着弾後瞬時に乾燥するので、液滴の複数回の重ね打ちにより導電部の補修を行った場合であっても、後に着弾した液滴が先に着弾した液滴の影響を受け難くなっている。したがって、連続的な液滴の着弾により、例えば隣り合う液滴の一部同士が互いに重なり合った状態となるように液滴による補修層を形成することが可能である。このような補修処理により、修正部での導電部表面の平滑性が十分に得られる。この結果、例えばTFT部の導電部における欠陥部を補修する場合において、TFTの特性に悪影響を及ぼす事態を防止することができる。
【0023】
上記の導電部の欠陥修正方法は、前記液体に含まれる導電性材料の平均粒子径がφ50nm以下である構成としてもよい。
【0024】
上記の構成によれば、ノズルからの液滴の吐出が安定となり、作業効率が向上する。
【0025】
上記の導電部の欠陥修正方法は、導電性材料を含む液体の粘度が20cP以上である構成としてもよい。
【0026】
上記の構成によれば、導電性材料を含む液体として粘度が20cP以上の高粘度の液体を用いているので、複数弾の液滴により導電部の補修を行う場合において、液滴サイズが小さくなることによる液滴の吐出回数の増大を抑制可能となり、作業効率が向上する。
【0027】
上記の導電部の欠陥修正方法において、前記インクジェット装置は、前記導電部の形成に使用されたものである構成としてもよい。
【0028】
上記の構成によれば、導電部の形成工程と導電部の補修工程とを連続的に行うことができるので、インクジェット装置におけるノズルの位置調整などの手間が省け、作業効率が向上する。
【0029】
本発明の回路基板は、上記の何れかの導電部の欠陥修正方法により欠陥部が修正されたものであることを特徴としている。
【0030】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の好適な実施形態について図面を参照して説明する。
まず本実施の形態の導電部の欠陥修正方法に使用されるインクジェット装置の構成を図1に基づいて説明する。
【0031】
図1は、本発明の実施の一形態に係るインクジェット装置20の構造を示した図である。このインクジェット装置20は、インク室21に貯蔵したインク22を吐出するためのノズル24を備えている。このノズル24は、インク室21に対してパッキン25を介して連結されている。これにより、インク室21内のインク22が、ノズル24とインク室21との連結部分から外部に漏れないように封止されている。
【0032】
また、上記ノズル24は、インク室21との連結部とは反対側、すなわちインク22の吐出側となる先端部24aに向かって内径が小さくなるように絞り込まれた形状となっている。上記ノズル24の先端部24aにおけるインク吐出孔24bの径(直径)は、吐出直後のインク22の粒径との関係で設定されている。なお、ノズル24から吐出されたインク22と、インク室21に貯蔵されているインク22とを区別するために、以降、ノズル24から吐出されたインク22を液滴23と称して説明する。このインク吐出孔24bの直径と、吐出直後の液滴23の液滴径との関係についての詳細は、後述する。
【0033】
さらに、上記ノズル24の内部には、インク22に対して静電界を印加するための静電界印加用電極29が設けられている。この静電界印加用電極29は、プロセス制御部30に接続され、このプロセス制御部30によって図示しない駆動回路からの印加電圧による電界強度が制御されるようになっている。この電界強度を制御することで、ノズル24から吐出する液滴23の液滴径が調整される。
【0034】
上記ノズル24のインク吐出孔24bの対向面側には、所定の距離離れた位置に対向電極27が配設されている。この対向電極27は、ノズル24と対向電極27との間に搬送される被記録媒体28の表面を、ノズル24のインク吐出孔24bから吐出される液滴23の帯電電位の逆極性の電位に帯電させるものである。これにより、ノズル24のインク吐出孔24bから吐出した液滴23を、被記録媒体28の表面に安定して着弾させている。
【0035】
このように、液滴23は帯電している必要があるので、ノズル24の少なくとも先端部24aのインク吐出面は絶縁部材で形成されていることが望ましく、かつ微細なノズル径(インク吐出孔24bの径)を形成する必要があるため、本実施の形態では、ノズル24としてガラスのキャピラリーチューブを使用した。
【0036】
上記インク室21には、上記ノズル24の他に、インク22を図示しないインクタンクから供給するためのインク供給路6が接続されている。ここでは、インク室21内およびノズル24内にインク22が満たされた状態で保持されているので、インク22には負圧がかかっている。
【0037】
ここで、インク22がノズル24から液滴23として吐出する際に、インク吐出孔24b近傍に形成されるメニスカス部(メニスカス領域)34の挙動について以下に説明する。図2(a)〜図2(c)は、上記インク吐出孔24b近傍のメニスカス部34の挙動を示すモデル図である。
【0038】
まず、インク22の吐出前の状態においては、図2(a)に示すように、インクには負圧がかかっているので、メニスカス部34として、ノズル24の先端部24a内部に凹の形状でメニスカス34aが形成されている。
【0039】
次に、インク22の吐出を行うため、静電界印加用電極29に印加される電圧がプロセス制御部30によって制御され、該静電界印加用電極29に所定の電圧が印加される。これにより、ノズル24のインク22の表面に電荷が誘導され、インク22には、図2(b)に示すように、メニスカス部34として、該ノズル24の先端部24aのインク吐出孔24b表面すなわち対向電極側(図示せず)に引っ張られたメニスカス34bが形成される。このとき、ノズル24の径が微小であるため、メニスカス34bは当初よりテーラーコーンの形状を形成しながら外側に引っ張られている。
【0040】
続いて、外側に引っ張られたメニスカス34bは、図2(c)に示すように、メニスカス部34として、対向電極側(図示せず)にさらに吐出した形状のメニスカス34cとなり、誘導されたメニスカス34c表面の電荷とノズル24に形成される電場(電界強度)の力がインク22の表面張力に勝ることにより、吐出液滴が形成される。
【0041】
ここで、本実施の形態で使用するノズル24のインク吐出孔24bの径(以下、ノズル径と称する)は、φ5μmとしている。このように、ノズル24のノズル径が微小である場合、従来の様にメニスカス先端部の曲率半径が表面電荷の集中により除々に小さく変化していくことなくほぼ一定と見なすことができる。
【0042】
したがって、インクの物性値が一定であれば、液滴分離時の表面張力は、電圧印加による吐出状態ではほぼ一定であり、また集中可能な表面電荷の量もインクの表面張力を超える値、すなわちレイリー分裂値以下であることから最大量は一義的に定義される。
【0043】
なお、ノズル径が微小であるため電界強度は、メニスカス部のごく近傍のみ非常に強い値となり、このように極小領域での高い電場での放電破壊強度は非常に高い値となるため、問題とならない。
【0044】
本実施の形態にかかるインクジェット装置20において使用されるインクとしては、純水を含め染料系インクおよび微粒子を含有したインクを使用することができる。ここで、微粒子を含有したインクとしては、ノズル部が従来より非常に小さいため含有する微粒子の粒径も小さくする必要があり、一般的にノズル径の1/20から1/100程度であれば目詰まりが発生しにくい。
【0045】
このため、本実施の形態で使用するノズル1のノズル径を、例えばφ5μmとすると、該ノズル径に対応するインクの微粒子径は50nm以下となる。
【0046】
この場合、インクの微粒子径は、従来使用されていた最小微粒子径φ100nmよりももっと小さいものとなる。このため、特開2000−127410に示された微粒子を含むインクを吐出する原理のように、微粒子の帯電による移動によってメニスカス部の電荷を集中させ、集中した微粒子相互の静電反発力により吐出する方法では、インク中の帯電微粒子の移動速度が低下してしまい吐出の応答速度および記録速度が遅くなってしまう。
【0047】
これに対して、本実施の形態のインクジェット装置20においては、帯電した微粒子相互の静電反発力を用いるのではなく、微粒子を含まないインクの場合と同様にメニスカス表面の電荷により吐出を行う。この場合、インク中の微粒子の電荷の影響がメニスカス表面の電荷に影響することによる吐出不安定を解消するために、インク中の微粒子の電荷量がメニスカス表面の電荷に比べはるかに小さい値となる形状が望ましい。
【0048】
これは、インク中の微粒子の単位質量当たりの電荷量が10μC/g以下であれば、該微粒子同士の静電反発力および応答速度が小さくなり、またインク微粒子の質量を小さくすること、すなわちインク微粒子の径を小さくすることによりインク中の微粒子の総電荷量を減少できる。
【0049】
以下の表1に、インク中の平均微粒子径をφ3nmからφ50nmとした場合の吐出安定性を示す。
【0050】
【表1】
Figure 2004134596
【0051】
表1中の記号は、各ノズルの吐出安定性を示しており、×:目詰まり等での不吐出あり、△:連続吐出にて吐出不安定、○:安定吐出である。
【0052】
表1から、微粒子径としてはφ30nm以下が好ましいことが分かった。特に微粒子径φ10nm以下になるとインク中の微粒子1個の帯電量はインク吐出における電荷としての影響がほぼ無視できるとともに、電荷による移動速度も非常に遅くなり微粒子のメニスカス中心への集中も発生しない。また、ノズル径がφ3μm以下では、メニスカス部の電界集中により極端に最大電界強度が高くなり、微粒子1個毎の静電力も大きくなるためφ10nm以下の微粒子を含んだインクを用いることが好ましい。但し、微粒子径がφ1nm以下になると、微粒子の凝集および濃度の不均一の発生が大きくなるため、微粒子径は、φ1nmからφ10nmの範囲が好ましい。しかし、ノズル径がφ1μm以上では、平均粒子径φ50nmでも、使用可能な吐出状態であった。
【0053】
インクジェット装置(サブミクロンヘッド)20を使用している本実施の形態においては、平均粒径がφ3nmからφ7nmの間の銀の微粒子を含んだペーストを使用しており、該微粒子には凝集防止のコーティングを施している。
【0054】
ここで、ノズル24のノズル径と電界強度との関係について、図3(a)(b)〜図8(a)(b)を参照しながら以下に説明する。図3(a)(b)から図8(a)(b)に対応して、ノズル径をφ0.2μm(図3)、φ0.4μm(図4)、φ1μm(図5)、φ8μm(図6)、φ20μm(図7)および参考として従来にて使用されているノズル径φ50μm(図8)の場合の電界強度分布を示す。
【0055】
ここで、各図において、ノズル中心位置とは、ノズル24のインク吐出孔24bにおけるインク吐出面の中心位置を示す。また、各々の図の(a)は、ノズルと対向電極との距離が2000μmに設定されたときの電界強度分布を示し、(b)は、ノズルと対向電極との距離が100μmに設定されたときの電界強度分布を示す。なお、印加電圧は、各条件とも200Vと一定にした。図中の分布線は、電界強度が1×10V/mから1×10V/mまでの範囲を示している。
【0056】
以下の表2に、各条件下での最大電界強度を示す。
【0057】
【表2】
Figure 2004134596
【0058】
図3(a)(b)〜図8(a)(b)から、ノズル径がφ20μm(図7(a)(b))以上だと電界強度分布は広い面積に広がっていることが分かった。また、表2から、ノズルと対向電極の距離が電界強度に影響していることも分かった。
【0059】
これらのことから、ノズル径がφ8μm(図6(a)(b))以下であると電界強度は集中するとともに、対向電極の距離の変動が電界強度分布にほとんど影響することがなくなる。したがって、ノズル径がφ8μm以下であれば、対向電極の位置精度および被記録媒体の材料特性のバラツキや厚さバラツキの影響を受けずに安定した吐出が可能となる。
【0060】
次に、上記ノズル24のノズル径とメニスカス部34の最大電界強度と強電界領域の関係を図9に示す。
【0061】
図9に示すグラフから、ノズル径がφ4μm以下になると、電界集中が極端に大きくなり最大電界強度を高くすることができるのが分かった。これによって、インクの初期吐出速度を大きくすることができるので、インク(液滴)の飛翔安定性が増すとともに、メニスカス部での電荷の移動速度が増すため吐出応答性が向上する。
【0062】
続いて、吐出したインク22の液滴23における帯電可能な最大電荷量について、以下に説明する。液滴23に帯電可能な電荷量は、液滴23のレイリー分裂を考慮した以下の(1)式で示される。
【0063】
q=8×π×(ε0×γ×r   (1)
ここで、qはレイリー限界を与える電荷量、ε0は真空の誘電率、γはインクの表面張力、rはインク液滴の半径である。
【0064】
上記(1)式で求められる電荷量qがレイリー限界値に近い程、同じ電界強度でも静電力が強く、吐出の安定性が向上するが、レイリー限界値に近すぎると、逆にノズル24のインク吐出孔24bでインク22の霧散が発生してしまい、吐出安定性に欠けてしまう。
【0065】
ここで、ノズルのノズル径とメニスカス部で吐出する液滴が飛翔を開始する吐出開始電圧、該初期吐出液滴のレイリー限界での電圧値および吐出開始電圧とレイリー限界電圧値の比との関係を示すグラフを図10に示す。
【0066】
図10に示すグラフから、ノズル径がφ0.2μmからφ4μmの範囲において、吐出開始電圧とレイリー限界電圧値の比が0.6を超え、液滴の帯電効率が良い結果となっており、該範囲において安定した吐出が行えることが分かった。
【0067】
例えば、図11に示すノズル径とメニスカス部の強電界(1×10V/m以上)の領域の関係で表されるグラフでは、ノズル径がφ0.2μm以下になると電界集中の領域が極端に狭くなることが示されている。このことから、吐出する液滴は、加速するためのエネルギを十分に受ける事ができず飛翔安定性が悪くなることを示す。よって、ノズル径はφ0.2μmより大きく設定する必要がある。
【0068】
次に、上記構成のインクジェット装置20を実際に駆動する場合の印加電圧、すなわち液滴の吐出開始電圧以上の電圧で最適な電圧値を変動した場合の最大電界強度から誘導されるメニスカス部の初期吐出液滴を一定とした場合の該液滴の電荷量と、液滴の表面張力からくるレイリー限界値との関係を図12のグラフに示す。
【0069】
図12に示すグラフにおいて、A点は上記液滴の電荷量と液滴の表面張力からくるレイリー限界値との交点であり、インクへの印加電圧が、A点より高い電圧であれば、初期吐出液滴にはほぼレイリー限界に近い最大電荷量が形成されており、A点より低い電圧であればレイリー限界以下でかつ吐出に必要な電荷量が形成されていることを示している。
【0070】
ここで、吐出液滴の運動方程式にのみ着目すると、強電界かつ最大電荷量の吐出エネルギとして最適な条件での飛翔が行われるため、印加電圧としてはA点より高い電圧が好ましい。
【0071】
ところで、図13に、環境湿度を50%とした場合のインク(ここでは純水)の初期吐出液滴径と乾燥時間(液滴の溶剤が全て蒸発してしまう時間)との関係を示す。このグラフから、初期吐出液滴径が小さい場合には、蒸発によるインクの液滴径の変化が非常に早く、飛翔中の短い時間においても乾燥が進んでしまうことが分かる。
【0072】
このため、初期吐出時に最大電荷量が液滴に形成されていると乾燥による液滴径の減少すなわち電荷が形成されている液滴の表面積が減少することにより、インクの飛翔中にレイリー分裂が発生し、過分の電荷を放出する際に電荷は液滴の一部を引き連れて放出されるため、蒸発以上の飛翔液滴の減少が発生することなる。
【0073】
従って、着弾時の液滴径のバラツキおよび着弾精度が悪化するとともに、ノズルと被記録媒体中に分裂したミストが浮遊することになり、被記録媒体を汚染することになる。このため、安定した吐出ドットの形成を考慮すると、初期吐出液滴に誘導される電荷量をレイリー限界に相当する電荷量よりもある程度小さくする必要がある。この場合、該電荷量をレイリー限界値に相当する電荷量の95%程度では、着弾ドット径のバラツキの精度が向上できず、結果的として90%以下にすることが好ましい。
【0074】
具体的な数値としては、ノズル孔径を針電極の先端形状と見なした場合のメニスカスの最大電界強度による初期吐出液滴径のレイリー限界を算出し、該算出値以下の範囲とすることにより着弾時の液滴のバラツキを抑えることができた。これは、吐出液滴が分離する直前の表面積が吐出直後の液滴に比べ小さく、かつ電荷の移動時間のタイムラグにより、実際の初期吐出液滴に誘導される電荷量が、上記計算により求められる電荷量より小さくなっているためと考えられる。
【0075】
このような条件であれば、飛翔時のレイリー分裂を防げると共にメニスカス部での吐出液滴の分離時に電荷量が多いことによるミスト化等の安定吐出を軽減する事ができる。
【0076】
なお、帯電した液滴は、蒸気圧が減少して蒸発しにくくなる。これは、以下の(2)式から分かる。
【0077】
RTρ/M×log(P/P0)=2γ/r−q/(8πr)  (2)
ここで、Rは気体定数、Mは分子量、Tは温度、ρは液体の体積密度、Pは液滴での蒸気圧、P0は液面が平面のときの蒸気圧、γはインクの表面張力、rはインク液滴の半径である。
【0078】
上記の(2)式に示されるように、帯電した液滴は、該液滴の帯電量により蒸気圧が減少するもので、帯電量が少なすぎると蒸発の緩和に影響が少ないため、レイリー限界に相当する電界強度および電圧値の60%以上が好ましい結果となった。この結果は、上記と同様にノズル孔径を針電極の先端形状と見なした場合のメニスカスの最大電界強度による初期吐出液滴径のレイリー限界を算出し、該算出値の0.8倍以上の範囲を示すことと同じである。
【0079】
特に、図13に示すように、初期吐出液滴径がφ5μm以下になると乾燥時間は極端に短くなり蒸発の影響を受けやすくなるため、初期吐出液滴の電荷量を低く抑えることは蒸発を抑える観点からより効果があることが分かる。なお、図13に示す乾燥時間と初期吐出液滴径との関係を求める場合の周囲湿度は50%とした。
【0080】
また、吐出液滴の乾燥を考慮すると、被記録媒体までの液体の吐出時間を短くする必要がある。
【0081】
ここで、吐出液滴がメニスカス部より分離してノズルより被記録媒体に着弾するまでの平均飛翔速度を5m/s、10m/s、20m/s、30m/s、40m/s、50m/sとして、吐出の安定性と着弾ドットの位置精度を比較し、以下の表3に示す。
【0082】
【表3】
Figure 2004134596
【0083】
表3中の吐出安定性の記号において、×:ほとんど吐出せず、△:連続吐出にて不吐出あり、○:不吐出なしを示しており、着弾精度の記号においては、×:着弾ズレ>着弾ドット径、△:着弾ズレ>着弾ドット径×0.5、○:着弾ズレ<着弾ドット径×0.5、◎:着弾ズレ<着弾ドット径×0.2を示している。
【0084】
上記の表3から分かるように、平均飛翔速度5m/sでは、着弾精度が悪く、吐出安定性も悪くなる。特に、ノズル径がφ1μm以下では、吐出速度が遅いと液滴にかかる空気抵抗の要因が大きくかつ蒸発によるドット径の更なる微少化により、着弾できない場合があった。逆に、平均飛翔速度50m/sでは、印加電圧を高くする必要があるため、メニスカス部での電界強度が非常に強くなり、吐出液滴のミスト化が頻繁に発生してしまい、安定した吐出が難しいことが分かった。
【0085】
以上のことから、吐出液滴がメニスカス部より分離して被記録媒体に着弾するまでの平均飛翔速度は10m/sから40m/sの間が好ましいことが分かった。
【0086】
ところで、図13では、周囲湿度として50%とした場合の、初期吐出液滴径と乾燥時間との関係を示したが、図14では、初期吐出液滴径がφ0.5μmでノズルと被記録媒体の距離を0.2mmとした場合の周囲湿度と乾燥時間の関係を示す。
【0087】
図14に示すグラフから、周囲湿度が60%以下では該乾燥速度の数値は大きく変動しないことが分かった。しかしながら、周囲湿度が70%を超えるとインクの蒸発を極端に抑える事が可能であり、周囲湿度を70%以上とする場合には、上記条件等の影響は低いものとなり、特に周囲湿度を95%以上に設定すると乾燥の影響をほぼ無視する事ができ、本発明のインクジェット記録装置の設計条件の自由度を広くかつ適用範囲を広げる事が可能であることが分かった。
【0088】
ここで、ノズル径をφ1μmおよびφ3μmとして、初期吐出液滴径を変動した場合の吐出安定性および吐出ドット径バラツキ(着弾バラツキ)を以下の表4に示す。なお、ノズルによる初期吐出径は、印加電圧値を変動することにより制御可能であり、又印加する電圧パルスのパルス幅を調整する事によっても制御可能であり、ここでは、同一ノズル径での電界強度の影響を排除するため、前記パルス幅を変動させて初期吐出径を調整している。
【0089】
【表4】
Figure 2004134596
【0090】
表4中の吐出安定性の記号において、×:ほとんど吐出せず、△:10分間連続吐出にて不吐出あり、○:10分間連続吐出にて不吐出なし、◎:30分間連続吐出にて不吐出なしを示しており、バラツキの記号においては、△:着弾ドットのバラツキ>着弾ドット径×0.2、○:着弾ドットのバラツキ≦着弾ドット径×0.2、◎:着弾ドットのバラツキ≦着弾ドット径×0.1を示している。
【0091】
表4から、ノズル径に対し1.5倍〜3倍程度において吐出の安定性が良く、特に1.5倍〜2倍において着弾ドット径のバラツキが極端に抑えられることが分かった。これは、メニスカス部から引き出されるインク形状を液柱と見なした場合、該液柱の表面積が該液柱の体積分の球の表面積より大きくなる条件での液滴分離が最も安定するためと考えられる。
【0092】
上記の構成によれば、インクの吐出直後の液滴量が1pl以下の微少なインク液滴を吐出する静電吸引型インクジェット記録装置において、ノズル24のインク吐出孔24bの直径を、インクの吐出直後の液滴直径よりも小さくすることによりノズル24のメニスカス部34に吐出のための電界を集中させることができるので、インクを吐出するのに必要な印加電圧を大幅に下げることができ、個々に分離、吐出する液滴の径のバラツキを小さく安定した吐出を実現可能とした。
【0093】
また、従来必要とされていたバイアス電圧の印加が不要となり、駆動電圧を正負交互に印加する事が可能となり、被記録媒体の表面電位の増加による着弾精度への影響を軽減する事ができた。
【0094】
また、ノズルの孔の直径をφ8μm以下の範囲とすることによりノズルのメニスカス部に電界を集中させることができると共に、対向電極の位置精度および被記録媒体の材料特性のバラツキや厚さバラツキの影響を受けずに安定した吐出が可能となった。
【0095】
特に、ノズル24のインク吐出孔24bの直径をφ0.4μm以上φ4μm以下の範囲とすることにより、電界集中が極端に大きくなる。このように、最大電界強度を高くすることが、インクの初期吐出速度を大きくすることになるので、飛翔安定性が増すとともに、メニスカス部での電荷の移動速度が増すため吐出応答性が向上すると共に、レイリー分裂の影響による着弾ドット径のバラツキを抑える事ができる。
【0096】
更に、ノズル24からのインクの吐出直後の液滴直径を、ノズル24のインク吐出孔24bの直径の1.5倍から3倍以下の範囲とすることにより、吐出の安定性が向上でき、特にインクの吐出直後の液滴直径を該ノズル径の1.5倍から2倍以下の範囲とすることにより吐出ドット径のバラツキを極端に抑えることができる。
【0097】
本実施の形態では、上述のように、インク室21内のインクに負圧が印加された例について説明したが、インクに正圧が印加された場合でも構わない。インク室21内のインクに正圧を印加するには、例えば、図15に示すように、インク供給路6の図示しないインクタンク側にポンプ32を設け、該ポンプ32を用いてインク室21内のインクに正圧を印加することが考えられる。この場合、インク室21からのインク吐出のタイミングに合わせて駆動させるようにプロセス制御部33を用いて上記ポンプ32を駆動制御すればよい。このように、インク室21内のインクに正圧を印加するようにすれば、メニスカス部の凸形状を静電力で形成する手間が省け、印加電圧の低減および応答速度の向上を図り得る。
【0098】
なお、本実施の形態では、説明の簡単化のため単一ノズルを備えたインクジェット装置20について説明を行なったが、これに限定されるものではなく、隣接ノズルでの電界強度の影響を考慮した設計を行えば、複数のノズルを有するマルチヘッドを備えたインクジェット装置にも適用可能である。
【0099】
更に、本実施の形態では、図1および図15に示すように、対向電極27を常に設けたインクジェット装置20について説明したが、表2から分かるように、対向電極27とノズル24のインク吐出孔24bとの間の距離(ギャップ)は、被記録媒体とノズル間の電界強度にほとんど影響せず、該被記録媒体とノズル間の距離が近く、被記録媒体の表面電位が安定しているならば対向電極は不要となる。
【0100】
本願発明者等は、図16に示すように、従来方法において、静電吸引の過程において形成されるノズル部41のテーラーコーン形状の流体のメニスカス42の液滴吐出直前の先端部曲率44とほぼ同等サイズのノズル径になるように、流体吐出孔側が絞り込まれたノズル43を使用することにより、広範囲に必要であった電場の形成を狭くでき、かつメニスカスでの電荷の移動量を少なくできることを見出した。
【0101】
本願発明者等は、上記の原理を利用して、さらに、ノズル先端部の流体吐出孔の直径を、吐出直後の流体の液滴径よりも小さく設定することで、電荷の集中領域とメニスカス領域とをほぼ同じにできることを見出した。
【0102】
次に、導電部の欠陥修正正に使用する場合の、本実施の形態のインクジェット装置20の特徴について説明する。
【0103】
第1に、インクジェット装置20では、静電印加用電極29と対向電極27との間に生じた電界により、帯電した液滴23に力を与えている。このため、液滴23は、微小液滴であるために飛翔中の空気抵抗の影響が大きくなっても、大きく減速することはなく、着弾精度(被記録媒体28上での着弾位置制度)が向上する。
【0104】
第2に、インクジェット装置20では、高粘度のインクであっても液滴23として吐出が可能である。実際に70cPのインクの吐出が実現している。高粘度のインクを吐出できるため、インクの濃度を高くできる。
【0105】
一般にインク粘度は、メニスカス部34の成長率に反比例し、高粘度ではメニスカス部34が十分成長できず、液滴の吐出ができない。しかしながら、本インクジェット装置20では、メニスカス部34の成長率がインクの粘度に依存せず、表面張力と帯電量に依存する。したがって、インクの溶媒に対して、その最大溶解度まで溶質材料を溶解させても、インクの吐出が可能である。
【0106】
第3に、液滴23の着弾後、瞬時にインクの溶媒分が乾燥することである。液滴23の溶媒分の体積は、液滴径の3乗に比例する。したがって、溶媒分を蒸発させるために必要なエネルギも、液滴径の3乗に比例する。また、(体積)/(表面積)の値が小さいほど、液滴23は蒸発しやすくなると考えられる。このため、液滴が小さいほど早く蒸発させることには有利である。
【0107】
従来のインクジェット装置では、吐出する液滴サイズが大きく、溶媒分が蒸発するのに時間がかかった。また、液滴を微小にしただけでは、十分な飛翔速度が得られず、運動エネルギが熱エネルギに変化した分だけでは、液滴の溶媒分の気化熱に達せず、着弾後瞬時に乾燥という現象が得られなかった。しかしサブミクロンヘッドでは、液滴体積を小さくしながらも、十分な飛翔速度が得られるので、着弾後瞬時に乾燥という現象が得られる。
【0108】
以上の点を確認するために下記の試験を行った。その結果について説明する。表5〜表7は、従来のインクジェット方式であるピエゾ型、サーマル型および液滴径の大きい静電吸引型のインクジェット装置を用いた場合と、本発明の実施に使用するインクジェット装置20、即ち吐出する液滴径が小さい静電吸引型のインクジェット装置を用いた場合との特性を比較したものである。
【0109】
【表5】
Figure 2004134596
【0110】
表5の結果は、液滴23の着弾精度、吐出しやすさ、乾燥速度および着弾回数に対する液滴体積の影響を示したものである。なお、着弾回数とは、所望する面積と厚さを形成するために必要な吐出回数のことであり、生産効率の観点から、少ない方がよいものと評価される。
【0111】
本インクジェット装置20を使用した場合には、液滴体積が0.1plおよび1plの場合にも、着弾精度および吐出しやすさにおいて、使用可能あるいは良好であったのに対し、従来のインクジェット装置では何れの項目においても不可能であった。また、本インクジェット装置20では、乾燥速度において、液滴体積が0.1plおよび1plの場合に良好である。着弾回数において、0.1plの場合に不向き(生産効率が悪い)、1plの場合に適している(生産効率がよい)と言える。
【0112】
【表6】
Figure 2004134596
【0113】
表6の結果は、本インクジェット装置20と従来のインクジェット装置とについて、インクの各粘度に対する適正を示したものである。本インクジェット装置20では高粘度のインクの吐出が可能であった。
【0114】
【表7】
Figure 2004134596
【0115】
表7の結果は、本インクジェット装置20と従来のインクジェット装置とについて、各濃度に対する適正、即ち吐出しやすさと、本インクジェット装置20について各濃度に対する乾燥速度と着弾回数の評価結果を示したものである。
【0116】
表7の結果から、インクの吐出しやすさにおいて、従来のインクジェット装置では、中および高濃度のインクについて吐出不可能であったのに対して、本インクジェット装置20では、低濃度から高濃度のインクについて良好であった。また、本インクジェット装置20では、乾燥速度において、インクが中濃度である場合に可能、高濃度である場合に良好となった。また、生産効率の観点から、高濃度ほど着弾回数が少なくて済み、適していると言える。
【0117】
上記の結果から分かるように、本インクジェット装置20を使用した場合には、乾燥時間が大幅に短縮されることから、先に吐出した液滴が基板上で乾燥し終わるまでの待ち時間を設ける必要がなく、同一箇所に対しての吐出間隔時間を短縮でき、生産効率を向上させることができる。
【0118】
また、高濃度のインクの吐出が可能であることから、1弾の液滴に含まれる溶質材料の割合を大きくできるので、吐出回数を少なくすることが可能となる。
【0119】
また、インクの濃度が高くなると粘度が高くなる(例えば20cP以上)ものの、本インクジェット装置20では、高粘度の液滴を吐出可能であるので、高濃度のインクを吐出することができる。この場合、濃度が高くなると、上述のように、吐出回数を少なくすることが可能となる。
【0120】
次に、本実施の形態において使用する回路基板について図17により説明する。なお、同図は、図18に示す欠陥部修正装置1のモニタに写し出された回路基板10を示す平面図である。
【0121】
回路基板10は、基板11上に導電性の複数の配線パターン(導電部)12が形成されたものであり、隣り合う配線パターン12の間はパターン間領域13となっている。
【0122】
上記の基板11としては、石英基板、ガラス基板などの無機材料基板、およびポリエチレンテレフタレート基板、ポリエーテルサルフォン基板、ポリイミド基板などの樹脂基板が使用可能であるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0123】
配線パターン12は、基板11上に、真空蒸着法あるいはスパッタ法等により例えばAg等の導電性材料を堆積させ、この導電性材料の堆積層を、フォトリソグラフィ技術を用いてパターン化することにより形成されている。導電性材料としては、Agに限るものではなく、AuあるいはCuなどでもよい。また、配線パターン12の形成は、フォトリソグラフィ法に限定されるものではなく、転写法あるいはインクジェット法などでもよい。
【0124】
本実施の形態において、配線パターン12の幅は10μmに設定され、パターン間領域13の幅は5μmに設定されている。また、配線パターン12には断線部(欠陥部)14が生じているものとする。
【0125】
このような回路基板10に対して、従来のインクジェット装置により断線部14に導電性材料を含む液体(導電性材料溶液)の液滴を塗布した場合、液滴の着弾層15がφ30μm以上に拡がり、隣り合う配線パターン12にまで導電膜が形成され、両配線パターン12が短絡してしまうことになる。また、溶媒が乾燥するまでの間に液滴が基板上を移動してしまう。さらに、液滴は径が大きくて多量の導電性材料溶液を含むものであるため、断線部14に複数回に分けて液滴を塗布する場合、前弾が乾燥するまで次弾の吐出を待たなければならず、生産効率が悪いものとなる。本実施の形態の方法によれば、後述するように、このような問題が解決されている。
【0126】
次に、上記の導電性材料溶液について説明する。
本実施の形態において、導電性材料溶液としては、溶質(導電性材料)として平均粒子径30nmのAgを含み、溶媒としてHOを含む溶液を用いた。導電性材料溶液は、濃度を調整し、粘度を20cPにした。なお、溶質(導電性材料)はAgに限るものでなく、Auや、AgOに還元剤を混入したものでもよい。また、溶媒もHOに限るものでなく、アルコールなどでもよい。
【0127】
次に、欠陥部修正装置1について図18により説明する。
欠陥部修正装置1は、基台2、配線パターン12に欠陥部を有する回路基板10を固定し、X−Y方向に移動可能なX−Yステージ3、上述したインクジェット装置20、回路基板10の表面を観察するCCDカメラ5、CCDカメラ5により撮影された画像を表示するモニタ6、およびインクジェット装置20の動作を制御する制御装置7を備えている。上記のCCDカメラ5およびインクジェット装置20は、保持部4に取り付けられている。
【0128】
CCDカメラ5は、インクジェット装置20から吐出された液滴23の回路基板10上における着弾位置が、モニタ6の画面の略中央に位置するように設置されている。インクジェット装置20のノズル径はφ5μmである。
【0129】
なお、欠陥部修正装置1(インクジェット装置20)では、対向電極27がなくても、回路基板10自身がその役割を持つため、回路基板10への液滴23の吐出(着弾)は可能である。ここでは、インクジェット装置20からのより安定な吐出を行うため、X−Yステージ3を導電性料で形成し、さらにX−Yステージ3をアースに接続し、X−Yステージ3に対向電極の役割を持たせるようにしている。
【0130】
次に、欠陥部修正装置1を使用した回路基板10の配線パターン12における断線部14の修正方法について説明する。
【0131】
まず、回路基板10に対して、配線パターン12における断線部14の有無が検査される。この検査方法としては、目視による観察、顕微鏡による観察、あるいは通電・インピーダンスなどによる電気的な観察など、いずれの方法でもよい。
【0132】
次に、断線部14の存在が確認された回路基板10を欠陥部修正装置1におけるX−Yステージ3上に固定する。
【0133】
次に、断線部14がインクジェット装置20のノズル24におけるインク吐出孔24bの略真下位置に配されるように、X−Yステージ3を移動させる。この場合、CCDカメラ5は、液滴23の着弾位置がモニタ画面の中央部に映し出されるように配置されているので、モニタ6を見ながらX−Yステージ3を移動させ、断線部14をモニタ画面の中央部に移動させる。これにより、断線部14はCCDカメラ5の視野に入り、断線部14とその周辺がモニタ6に映し出される。
【0134】
次に、制御装置7によりインクジェット装置20を作動させ、かつX−Yステージ3を移動させながら、回路基板10の断線部14に導電性材料溶液の液滴23を連続的に塗布する。このときの飛翔中の液滴23のサイズはφ5μmであり、1弾の液滴着弾跡16は、直径φ7.5μmの面積に拡がり、高さが0.15μmとなる。
【0135】
この場合、配線パターン12の線幅10μmに対して、着弾径(液滴着弾跡16の直径φ7.5μm)はそれよりも小さくなる。したがって、液滴23を連続的に塗布する(着弾させる)際には、断線部14に沿って液滴23が滴下されるようにX−Yステージ3を移動させる。
【0136】
液滴23は着弾後瞬時に乾燥するため、連続して塗布した場合であっても、回路基板10上での広がりが抑制される。また、液滴23の塗布では、着弾した隣り合う液滴23(液滴着弾跡16)の一部同士が重なり合うようにする。これにより、断線部14の修正部表面の平滑性が得られる。
【0137】
本実施の形態の導電性材料溶液に含まれるAg粒子は、平均粒径が小さいため、融点より遙かに低い温度にてAg粒子同士の融着が起こる。この結果、低抵抗の配線修正部が形成される。
【0138】
なお、断線部14の修正後には、液滴23の着弾層を加熱し、焼成してもよい。この場合には、レーザなどで局所的な加熱を行なってもよい。
【0139】
また、回路基板10における配線パターン12の材質と欠陥修正材料となる導電性材料の材質とは、同じものであっても異なるものであってもよい。例えば、Cuの配線パターン12に対し、導電性材料としてAgを使用してもよい。また、導電性材料溶液の導電性材料となる金属微粒子に対して、分散剤を混入させてもよい。
【0140】
また、回路基板10の断線部14とインクジェット装置20のノズル24との位置合わせは、X−Yステージ3の移動ではなく、ノズル24の移動(例えばインクジェット装置20の移動)、またはX−Yステージ3およびノズル24両者の移動にて行ってもよい。
【0141】
また、断線部14に着弾させる液滴23の着弾数は、その断線部14の面積に応じて、1弾あるいは複数弾であってもよい。
【0142】
また、TFT基板の形成において、ゲート電極とゲート配線が別々の工程で形成され、それらが接続される場合には、欠陥部修正装置1を使用し、配線と電極との間に生じた電気的接続不良部に導電性材料溶液を塗布してその不良部の補修を行ってもよい。
【0143】
また、以上のような方法による断線部14の修正において、従来のインクジェット装置を使用し、吐出する液滴径を小さくしても、上述したようなインク体積濃度の増加や、十分な飛弾速度が実現できず、その結果として、着弾後瞬時乾燥による重ね打ち作業の効率化は実現できない。
【0144】
【発明の効果】
以上のように、本発明の導電部の欠陥修正方法は、インクジェット方式により、導電性材料を含む液体をノズルの吐出孔から液滴として吐出し、この液滴を導電部における欠陥部に付与する導電部の欠陥修正方法において、前記吐出孔の径が前記液滴の径よりも小さい静電吸引型インクジェット装置を使用し、このインクジェット装置のノズルから1滴の量が1pl以下の液滴を吐出する構成である。
【0145】
上記の構成によれば、ノズルの吐出孔の径が液滴の径よりも小さい静電吸引型インクジェット装置を使用しているので、静電吸引用の電界を生じさせる印加電圧を低い値に抑制しながら、1pl以下の微小な液滴の吐出が可能となる。また、液滴を吐出する際に、液滴に電荷が集中しやすく、液滴周囲の電界強度の変動が小さくなるので、安定した吐出が可能となる。したがって、微細な導電部(配線パターン)に対して、微小な液滴を塗布する場合でも、空気抵抗による減速が抑えられ、十分な着弾精度が得られる。
【0146】
また、ノズルから吐出される液滴の1滴の量が1pl以下であるので、液滴は着弾後瞬時に乾燥する。したがって、液滴は着弾後に移動し難く、正確な位置に液滴による導電層が形成されるので、液滴が拡がって他の導電部に悪影響を及ぼす事態が生じない。
【0147】
上記の導電部の欠陥修正方法は、前記液滴の径が欠陥部を有する導電部の幅よりも小さくなっている構成としてもよい。
【0148】
上記の構成によれば、液滴の径が欠陥部を有する導電部の幅よりも小さくなっているので、欠陥部の形状が複雑であっても、導電性材料を余分に塗布することなく、必要な量だけ塗布することで、欠陥部を適切に補修して十分な接続状態を得ることができる。
【0149】
上記の導電部の欠陥修正方法は、前記欠陥部に2回以上連続して液滴を着弾させることにより欠陥部を修正する構成としてもよい。
【0150】
上記の構成によれば、液滴は着弾後瞬時に乾燥するので、液滴の複数回の重ね打ちにより導電部の補修を行った場合であっても、後に着弾した液滴が先に着弾した液滴の影響を受け難くなっている。したがって、連続的な液滴の着弾により、例えば隣り合う液滴の一部同士が互いに重なり合った状態となるように液滴による補修層を形成することが可能である。このような補修処理により、修正部での導電部表面の平滑性が十分に得られる。この結果、例えばTFT部の導電部における欠陥部を補修する場合において、TFTの特性に悪影響を及ぼす事態を防止することができる。
【0151】
上記の導電部の欠陥修正方法は、前記液体に含まれる導電性材料の平均粒子径がφ50nm以下である構成としてもよい。
【0152】
上記の構成によれば、ノズルからの液滴の吐出が安定となり、作業効率が向上する。
【0153】
上記の導電部の欠陥修正方法は、導電性材料を含む液体の粘度が20cP以上である構成としてもよい。
【0154】
上記の構成によれば、導電性材料を含む液体として粘度が20cP以上の高粘度の液体を用いているので、複数弾の液滴により導電部の補修を行う場合において、液滴サイズが小さくなることによる液滴の吐出回数の増大を抑制可能となり、作業効率が向上する。
【0155】
上記の導電部の欠陥修正方法において、前記インクジェット装置は、前記導電部の形成に使用されたものである構成としてもよい。
【0156】
上記の構成によれば、導電部の形成工程と導電部の補修工程とを連続的に行うことができるので、インクジェット装置におけるノズルの位置調整などの手間が省け、作業効率が向上する。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施の一形態においけるインクジェット装置の概略構成を示す断面図である。
【図2】図2(a)は、図1に示したノズルにおける、インクのメニスカスの挙動を示すものであって、インクの吐出前の状態を示す説明図、図2(b)は同ノズルから張り出した状態を示す説明図、図2(c)は同液滴吐出直前の状態を示す説明図である。
【図3】図3(a)は、静電吸引型のインクジェット装置において、ノズル径がφ0.2μmである場合のノズル先端部の電界強度分布を示すグラフであって、ノズルと対向電極との距離が2000μmである場合を示すもの、図3(b)は、同距離が100μmである場合を示すものである。
【図4】図4(a)は、静電吸引型のインクジェット装置において、ノズル径がφ0.4μmである場合のノズル先端部の電界強度分布を示すグラフであって、ノズルと対向電極との距離が2000μmである場合を示すもの、図4(b)は、同距離が100μmである場合を示すものである。
【図5】図5(a)は、静電吸引型のインクジェット装置において、ノズル径がφ1μmである場合のノズル先端部の電界強度分布を示すグラフであって、ノズルと対向電極との距離が2000μmである場合を示すもの、図5(b)は、同距離が100μmである場合を示すものである。
【図6】図6(a)は、静電吸引型のインクジェット装置において、ノズル径がφ8μmである場合のノズル先端部の電界強度分布を示すグラフであって、ノズルと対向電極との距離が2000μmである場合を示すもの、図6(b)は、同距離が100μmである場合を示すものである。
【図7】図7(a)は、静電吸引型のインクジェット装置において、ノズル径がφ20μmである場合のノズル先端部の電界強度分布を示すグラフであって、ノズルと対向電極との距離が2000μmである場合を示すもの、図7(b)は、同距離が100μmである場合を示すものである。
【図8】図8(a)は、静電吸引型のインクジェット装置において、ノズル径がφ50μmである場合のノズル先端部の電界強度分布を示すグラフであって、ノズルと対向電極との距離が2000μmである場合を示すもの、図8(b)は、同距離が100μmである場合を示すものである。
【図9】ノズル径と最大電界強度との関係を示すグラフである。
【図10】ノズル径と各種電圧との関係示すグラフである。
【図11】ノズル径と強電界領域との関係を示すグラフである。
【図12】印加電圧と帯電電荷量との関係を示すグラフである。
【図13】初期吐出液滴径と乾燥時間との関係を示すグラフである。
【図14】周囲湿度と乾燥時間との関係を示すグラフである。
【図15】本発明の実施の他の形態にかかるインクジェット装置の概略構成を示す断面図である。
【図16】本発明の実施の形態にかかるインクジェット装置の原理を説明する図である。
【図17】図18に示した欠陥部修正装置により欠陥部が修正された配線基板を示す平面図である。
【図18】本発明の実施の一形態における欠陥部修正装置の概略の正面図である。
【符号の説明】
1  欠陥部修正装置
2  基台
3  ステージ
5  CCDカメラ
6  モニタ
7  制御装置
10  回路基板
11  基板
12  配線パターン(導電部)
13  パターン間領域
14  断線部(欠陥部)
15  従来のインクジェット装置による液滴着弾跡
16  液滴着弾跡
20  インクジェット装置
23  液滴
24  ノズル
24a 先端部
24b インク吐出孔
27  対向電極
28  記録媒体
29  静電印加用電極
30  プロセス制御部
33  圧力調整器
50  インクジェット装置

Claims (7)

  1. インクジェット方式により、導電性材料を含む液体をノズルの吐出孔から液滴として吐出し、この液滴を導電部における欠陥部に付与する導電部の欠陥修正方法において、
    前記吐出孔の径が前記液滴の径よりも小さい静電吸引型インクジェット装置を使用し、このインクジェット装置のノズルから1滴の量が1pl以下の液滴を吐出することを特徴とする導電部の欠陥修正方法。
  2. 前記液滴の径が欠陥部を有する導電部の幅よりも小さくなっていることを特徴とする請求項1に記載の導電部の欠陥修正方法。
  3. 前記欠陥部に2回以上連続して液滴を着弾させることにより欠陥部を修正することを特徴とする請求項1または2に記載の導電部の欠陥修正方法。
  4. 前記液体に含まれる導電性材料の平均粒子径がφ50nm以下であることを特徴とする請求項1から4の何れか1項に記載の導電部の欠陥修正方法。
  5. 導電性材料を含む液体の粘度が20cP以上であることを特徴とする請求項1から4の何れか1項に記載の導電部の欠陥修正方法。
  6. 前記インクジェット装置は、前記導電部の形成に使用されたものであることを特徴とする請求項1から5の何れか1項に記載の導電部の欠陥修正方法。
  7. 請求項1から6の何れか1項に記載の導電部の欠陥修正方法により欠陥部が修正されたことを特徴とする回路基板。
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