JP2004131426A - バナバ葉を用いた抗菌剤、その製造方法及び抗菌製品の製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】安全性が高く、加熱を経ても抗菌性を保持する抗菌剤及び抗菌製品を提供する。
【解決手段】抗菌剤は、バナバ葉;150℃以上300℃以下での加熱処理を施したバナバ葉;水性溶媒、親水性溶媒及びアルコールエステル溶媒からなる群より選択される抽出溶媒を用いてバナバ葉又は加熱処理したバナバ葉から抽出されるバナバ葉抽出物;バナバ葉抽出物の水溶液からアルコールエステル溶媒で分配抽出した抽出精製物;又は、抽出溶媒を用いてバナバ葉から抽出して100℃以上210℃以下での加熱処理を施したバナバ葉抽出物、のいずれかを含有する。抗菌剤を添加した製品原料を用いて、100℃以上300℃以下での加熱を含む製造工程によって抗菌製品を製造する。バナバ葉抽出物は水性溶媒、親水性溶媒及びアルコールエステル溶媒から選択される抽出溶媒によってバナバ葉から抽出される。
【選択図】 なし
【解決手段】抗菌剤は、バナバ葉;150℃以上300℃以下での加熱処理を施したバナバ葉;水性溶媒、親水性溶媒及びアルコールエステル溶媒からなる群より選択される抽出溶媒を用いてバナバ葉又は加熱処理したバナバ葉から抽出されるバナバ葉抽出物;バナバ葉抽出物の水溶液からアルコールエステル溶媒で分配抽出した抽出精製物;又は、抽出溶媒を用いてバナバ葉から抽出して100℃以上210℃以下での加熱処理を施したバナバ葉抽出物、のいずれかを含有する。抗菌剤を添加した製品原料を用いて、100℃以上300℃以下での加熱を含む製造工程によって抗菌製品を製造する。バナバ葉抽出物は水性溶媒、親水性溶媒及びアルコールエステル溶媒から選択される抽出溶媒によってバナバ葉から抽出される。
【選択図】 なし
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、天然素材に含まれる成分を有効成分とする抗菌剤、その製造方法及び抗菌製品の製造方法に関し、詳しくは、バナバ葉の含有成分を有効成分とし、加熱工程を伴う製品製造において使用しても抗菌性が著しく劣化することがなく、医薬品、医薬部外品、飲食品、繊維製品、プラスチック製品等の各種製品の製造に広く利用可能な耐熱性の抗菌剤、その製造方法及び抗菌製品の製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
一般に、抗菌剤を大別すると、無機抗菌剤及び有機抗菌剤に分類することができ、有機抗菌剤は、更に、合成抗菌剤と天然抗菌剤とに分類することができる。無機抗菌剤は主に銀系化合物で、抗菌製品に最も多く使用されている。有機抗菌剤には様々な種類があり、合成抗菌剤としては、アルコール化合物、ケトン・アルデヒド化合物、フェノール化合物、塩素化合物、ヨウ素化合物、四級アンモニウム塩、過酸化物、重金属化合物及び抗生物質があり(非特許文献1参照)、天然抗菌剤としては、ワサビ抽出物、孟宗竹抽出物、ヒノキチオール、キトサン等が比較的抗菌性が高いものとして良く知られており、これらは食品成分であるため安全性が高いとされ、食品、医薬品、医薬部外品、工業製品等様々な分野で利用されている。
【0003】
抗菌剤を用いて抗菌繊維・抗菌プラスチック等の抗菌製品を製造する際、抗菌剤は熱に曝されるので、製造・加工時の温度に耐え得る耐熱性を有することが抗菌剤に必要とされる。例えば、プラスチックの成形温度は、ポリプロピレンの場合、190−270℃、ポリスチレンは200−240℃、ABS樹脂は210−240℃であり(非特許文献2参照)、抗菌剤はこのような加工時の温度に耐え得る必要がある。この点に関して、無機抗菌剤は十分な耐熱性を有しており、具体的には、銀系化合物は200〜800℃の温度に耐性がある。しかし、有機抗菌剤は耐熱性が低く、合成抗菌剤の耐熱温度は250℃以下であり、天然抗菌剤に至っては更に低く、例えば茶抽出物の耐熱温度は150℃以下と言われている。
【0004】
【非特許文献1】
西野敦、他共著、「抗菌の科学」、工業調査会、1996
【0005】
【非特許文献2】
高野菊雄著、「これでわかるプラスチック技術」、工業調査会、2000
【0006】
このような状況において、抗生物質耐性菌の出現やアレルギー、化学物質過敏症等の発症の増加に伴い、これらの要因となり得る合成化学物質を避け天然素材を使用して各種製品を製造することが望まれつつあり、抗菌剤についても天然成分による抗菌剤の需要が高まっている。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、従来用いられている天然抗菌剤は、前述したように耐熱性が低く、加熱を伴う製品製造・加工に使用すると、熱により分解・重合等の反応が進行して有効成分が劣化し、抗菌効果が著しく低下する。また、炭化する場合もある。
【0008】
本発明は、この様な従来技術の課題を解決するためになされたもので、抗菌性に優れ、加熱を伴う製品製造・加工に充分対応できる耐熱性を有し健康への安全性の高い天然素材由来の抗菌剤及びこれを用いた抗菌製品を提供することを目的とするものである。
【0009】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、本発明者らは天然の食品成分について鋭意研究を重ねた結果、抗菌性を有する成分がバナバの葉に含まれ、且つ、バナバ葉の成分の抗菌性は加熱を経ても維持されることを見いだし、本発明の抗菌剤、その製造方法及び抗菌製品の製造方法を成すに至った。
【0010】
本発明の一態様によれば、抗菌剤は、下記(1)、(2)及び(3)のうちの少なくとも1つを含有することを要旨とする:(1)バナバ葉;(2)水性溶媒、親水性溶媒及びアルコールエステル溶媒からなる群より選択される抽出溶媒を用いてバナバ葉から抽出されるバナバ葉抽出物;(3)上記バナバ葉抽出物を含有する水溶液からアルコールエステル溶媒で分配抽出される抽出精製物。
【0011】
本発明の他の態様によれば、抗菌剤は、下記(1)、(2)及び(3)のうちの少なくとも1つを含有することを要旨とする:(1)150℃以上300℃以下での加熱処理を施したバナバ葉;(2)水性溶媒、親水性溶媒及びアルコールエステル溶媒からなる群より選択される抽出溶媒を用いてバナバ葉から抽出し、100℃以上210℃以下で加熱処理を施したバナバ葉抽出物;(3)上記バナバ葉抽出物を含有する水溶液からアルコールエステル溶媒で分配抽出される抽出精製物。
【0012】
本発明の一態様によれば、抗菌製品の製造方法は、上記の抗菌剤を添加した製品原料を用いて、100℃以上300℃以下での加熱を含む製造工程によって製品を製造することを要旨とする。
【0013】
また、本発明の一態様によれば、抗菌剤の製造方法は、水性溶媒、親水性溶媒及びアルコールエステル溶媒からなる群より選択される抽出溶媒によってバナバ葉を抽出してバナバ葉抽出物を得る抽出工程を有することを要旨とする。
【0014】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0015】
ミソハギ科サルスベリ属の植物であるオオバナサルスベリ(Lagerstroemia speciosa L.)はバナバと呼ばれており、バナバの葉は、嗜好品として日常的に飲用に供される安全性が確かな植物素材であり、フィリピンでは民間伝承の薬用植物として何百年も前から煎じて飲まれている。又、フィリピン政府は、バナバを医薬用植物に指定しており、抗酸化作用(特開2000−290188号公報)、抗糖尿病作用(特開平5−310587号公報)、コレステロール上昇抑制作用(特開平7−228538号公報)を奏する成分がバナバ葉に含まれていることが知られている。
【0016】
本願発明者らは、バナバ葉の成分の中に抗菌性の成分が含まれており、しかも、バナバ葉の成分は加熱下においても抗菌剤として耐熱性を備えていることを見出した。つまり、本発明の抗菌剤は、バナバ葉の含有成分を有効成分つまり抗菌成分とする。
【0017】
バナバ葉に含まれる抗菌成分は、抽出媒体を用いてバナバ葉から抽出される抽出物に含まれ、本発明の抗菌剤はバナバ葉抽出物によって構成することができる。しかし、抽出せずにバナバ葉そのままの形態でバナバ葉の抗菌成分を利用することも可能であり、その場合には、乾燥したバナバ葉を必要に応じて粒子又は粉末に粉砕して製品の製造に用いるとよい。この場合、抗菌性はバナバ葉粉末表面において発揮されるので、細かく粉砕することが好ましい。
【0018】
バナバ葉の抗菌成分を抽出する場合、抽出媒体としては水性又は親水性(水に可溶)の抽出溶媒、つまり、水又は親水性溶剤を含んだ溶媒を用いることができる。単独又は混合溶媒の形態で使用することができ、例えば、水と親水性溶剤との混合溶媒や複数種の親水性溶剤の混合物であってもよい。親水性溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール等のモノアルコール類;エチレングリコール、グリセリン等のジオール及びポリオール類;アセトン、MEK等の低級脂肪族ケトン類;アセトニトリル等の低級脂肪族ニトリル;DMF;DMSO等、各種極性有機溶剤が挙げられる。抽出温度を上げることによって抽出効率を上げることができ、例えば、水を用いる場合、約50〜100℃、好ましくは80〜90℃の熱水によって良好に抽出できる。複数の異なる溶媒系を用いて繰り返し抽出操作を行ってもよく、例えば、水又は熱水で抽出した後の残渣を更にアルコール等の親水性有機溶剤で抽出し、両抽出物を併せて利用することができる。使用する抽出溶媒の割合がバナバ葉の乾燥重量に対して10〜100倍程度となるようにすることによって好適に抽出が行われる。抽出に際しては、バナバ葉は乾燥し粉砕して用いるのが抽出効率の点から好ましい。
【0019】
あるいは、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル等の脂肪族カルボン酸と脂肪族アルコールとのアルコールエステル溶媒を用いてバナバ葉の抗菌成分を抽出することもできる。このようなアルコールエステルは疎水性であるが、バナバ葉の成分との親和性が高い。
【0020】
水性抽出溶媒を用いた場合、バナバ葉抽出物は水溶性無機物等を含み得る。このようなバナバ葉抽出物は、その水溶液から上述のアルコールエステル溶媒を用いて分配抽出することにより上記のような不純物を除去した抽出精製物を得ることができる。あるいは、吸着剤を用いて精製することもでき、具体的には、バナバ葉抽出物を溶剤に含んだ溶液を吸着剤に接触させて抗菌成分を吸着する。溶剤に応じて順相用吸着剤又は逆相用吸着剤を適宜選択することができ、複数種の吸着剤を組み合わせて用いたり、異なる吸着剤による精製を組み合わせて行ってもよい。順相用吸着剤としてはシリカゲル等が挙げられ、逆相用吸着剤としては、親油性基で修飾したシリカゲル、有機高分子吸着剤等が挙げられる。有機高分子吸着剤として、例えば、ポリビニルポリピロリドン、ポリビニルピロリドン、スチレン−ジビニルベンゼン共重合体、メタクリル酸エステル重合体、架橋デキストランゲル、親水性ビニルポリマー等の合成樹脂による吸着剤が挙げられ、市販品としては、BASF AG社製のダイガバン、三菱化学社製のダイヤイオンHP−10, 20, 21, 30, 40, 50、ダイヤイオンHP1MG, 2MG及びセパビーズSP206, 207, 800, 900、オルガノ社製のアンバーライトHAD−2, 4、住友化学社製のデュオライトSシリーズ、ファルマシア社製のSephadex LH20、東ソー社製のトヨパールHW40等を例示することができる。中でも、三菱化学社製のダイヤイオンHP−20等として市販されるスチレン−ジビニルベンゼン系吸着剤は、高速液体クロマトグラフィのカラム充填剤として用いることにより、バナバ葉抽出物の成分分取を好適に行うことができる。
【0021】
バナバ葉抽出物の吸着剤による精製は、例えば、以下の手順に従って好適に行うことができる。まず、100mmL.D.×450mmLのカラムにスチレン−ジビニルベンゼン系吸着剤を2L充填して、6Lのイオン交換水であらかじめ平衡化する。バナバ葉水抽出物60gを蒸留水3Lに溶解したものをカラムに投入した後、10Lのイオン交換水で洗浄する。更に、6Lのメタノールを通して吸着物を溶出し、溶出液を濃縮して凍結乾燥する。これにより4.8g程度の精製物が得られる。バナバ葉抽出物の精製物はポリフェノールが主成分であり(参照文献:鈴木裕子、林和彦、坂根巌、角田隆巳、日本栄養・食料学会誌、54(3)、131−137(2001))、主に、エラグ酸、エラグ酸誘導体、エラグ酸類似化合物及びリグナン類が含まれる。
【0022】
本願発明者らは、バナバ葉の含有成分に加熱処理を施すと抗菌力が向上することを見出した。つまり、バナバ葉又はバナバ葉抽出物に加熱処理を施すことによって抗菌性がより高い抗菌剤を得ることができる。見方を変えれば、バナバ葉の含有成分は、抗菌剤として耐熱性を有するということである。従って、バナバ葉による抗菌剤を耐熱性を要する製品に適用することによって、熱に曝されても抗菌性を損なわない製品を提供することができ、しかも、抗菌性は増強される。抗菌性が向上する加熱処理の温度は、バナバ葉をオーブンレンジ等で直に加熱処理する場合、約150〜300℃、好ましくは150〜250℃、より好ましくは200〜250℃の範囲であり、この範囲の温度で約1分以上加熱することにより耐熱性の向上が顕著になり、好ましくは約1〜60分、より好ましくは約5〜10分加熱する。バナバ葉抽出物を加熱処理する場合は、バナバ葉の場合より穏やかな加熱条件で耐熱性が向上し、乾熱滅菌装置で加熱する場合、約100〜210℃、好ましくは105〜180℃、より好ましくは110〜150℃の範囲で加熱し、この範囲の温度で約1分以上加熱することにより耐熱性の向上が顕著になり、好ましくは約1〜60分、より好ましくは約5〜30分加熱する。加熱処理の温度が上記範囲を越えると、抗菌成分の分解により抗菌力が損なわれ、変色が生じることによりに製品外観への影響が問題となる。バナバ葉抽出物の場合の温度範囲がバナバ葉の場合よりも低いのは、植物組織繊維等による保護つまり反応抑制の有無によると考えられる。この点に関連して、バナバ葉からの抽出においてオートクレーブ等を用いて抽出物が100℃以上に加熱されるように構成すると、抽出と抽出物の加熱処理とを並行して、又は、連続して行うことができ、作業効率の点で有用である。
【0023】
上記の特徴を考慮すると、製品の製造プロセスに上述の加熱処理の温度範囲に該当する温度での加熱工程(例えば、プラスチック成形品の製造における可塑化又は熱硬化のような成形工程等)が含まれる場合は、バナバ葉の含有成分を製品原料に添加して用いれば、製品の製造プロセス中の加熱工程によって抗菌性を向上させることができる。また、加熱処理を施したバナバ葉及びバナバ葉抽出物は発揮される抗菌性が高いので、耐熱性を必要としない用途においても有用である。
【0024】
加熱処理によってバナバ葉及びバナバ葉抽出物の抗菌力が増すことから、バナバ葉又はバナバ葉抽出物の加熱処理によって増加する成分の中に抗菌成分が含まれ、抗菌成分の増加によって抗菌性が向上すると推測される。これに基づき、上述の加熱処理によるバナバ葉抽出物の成分変化を調べると、ポリフェノールの一種でエラグ酸構造を有する化合物であるバロネア酸ジラクトンの含有量が加熱処理によって明らかに増加することが認められる。更に、加熱処理したバナバ葉抽出物についてバロネア酸ジラクトンの含有量と抗菌力との関係を調べると、相関関係が認められる(後述の実施例参照)。バロネア酸ジラクトンは、バナバ葉及び抽出物においては主として配糖体のアグリコンとして存在しており、加熱されるとアグリコンの遊離が進行してバロネア酸ジラクトン(及びそれらの誘導体、類似化合物)が増加すると考えられることから、抗菌成分は、バロネア酸ジラクトン、もしくは、これを含みアグリコンの遊離に従って生じる2種以上の成分であると考えられる。バロネア酸ジラクトン以外でアグリコンの遊離に従って生じると考えられる成分には、バロネア酸ジラクトン誘導体(加水分解や脱水によりバロネア酸ジラクトンを生成する化合物、つまり、水酸基に糖、脂質、アミノ酸、ポリフェノール等が結合した化合物やエステル、塩、配位化合物等)及び類似化合物(基本骨格がバロネア酸ジラクトンと同じである化合物)、アグリコンとして同様にバナバ葉に存在するエラグ酸、その誘導体及びその類似化合物がある。
【0025】
本発明に係る抗菌剤は、製造方法に従って以下のように分類することができる。
【0026】
(A) バナバ葉(1)を、必要に応じて乾燥、粉砕し、そのまま抗菌剤として用いる。
【0027】
(B) 必要に応じて乾燥、粉砕したバナバ葉の含有成分を、熱水等の前述の抽出溶媒を用いて抽出する。濃縮、凍結乾燥等により抽出液から抽出溶媒を除去してバナバ葉抽出物(2)を得る。このバナバ葉抽出物(2)を抗菌剤として用いる。
【0028】
(C) 必要に応じて乾燥、粉砕したバナバ葉を150〜300℃で1〜20分程度加熱処理し、加熱処理後のバナバ葉(1a)を抗菌剤として用いる。乾燥及び粉砕は、加熱処理の後に行ってもよい。
【0029】
(D) 上記(C)における加熱処理後のバナバ葉(1a)を、必要に応じて粉砕し、熱水等の前述の抽出溶媒を用いて抽出する。濃縮、凍結乾燥等により抽出液から抽出溶媒を除去してバナバ葉抽出物(2a)を得る。このバナバ抽出物(2a)を抗菌剤として用いる。
【0030】
(E) 上記(B)のバナバ葉抽出物(2)を100〜205℃で1〜30分程度加熱して加熱処理物(2b)を得る。この加熱処理物(2b)を抗菌剤として用いる。
【0031】
(F) カラムに充填した吸着樹脂をあらかじめイオン交換水で平衡化し、上記バナバ葉抽出物(2)、バナバ葉抽出物(2a)又は加熱処理物(2b)を蒸留水に溶解した水溶液をカラムに通した後、イオン交換水で樹脂を洗浄し、樹脂に吸着した吸着物をメタノール等の親水性溶剤で溶出し、溶出液を濃縮、凍結乾燥して得た精製物(3、3a、3b)を抗菌剤として用いる。
【0032】
(G) 上記バナバ葉抽出物(2)、バナバ葉抽出物(2a)又は加熱処理物(2b)を溶解した水溶液から前述のアルコールエステル溶媒出分配抽出して得た抽出精製物を抗菌剤として用いる。
【0033】
上述のバナバ葉(1a)、バナバ葉抽出物(2a)及び加熱処理物(2b)は、加熱処理を経ているので、バナバ葉(1)及びバナバ葉抽出物(2)よりも抗菌力が高い。従って、上記(F)、(G)の精製においてバナバ葉抽出物(2a)又は加熱処理物(2b)から得られる精製物(3a、3b)は収率及び抗菌性が高くなる。
【0034】
上記のような製造方法によって得られるバナバ葉の成分による抗菌剤は、一般的な製品の製造・加工に用いられる加熱処理によって抗菌効力を損なうことがなく、加熱を経た製品において良好な抗菌性を発揮する。しかも、飲料として用いられる安全性の高い天然成分であるので、医薬品(トローチ、ドリンク剤等)、医薬部外品(デオドラント商品、入浴剤、ドリンク剤、うがい薬等)、食品、プラスチック製品、繊維製品等の製造に用いて優れた抗菌性を備え安全性の高い製品を提供することができる。前述したように、加熱処理を経ていない上記バナバ葉(1)及びバナバ葉抽出物(2)は、プラスチック加工のような加熱工程を経る製品の原料に添加して用いれば、加熱、成形を経ることにより抗菌性が向上し、被熱しても抗菌性が維持される抗菌製品が得られる。
【0035】
また、バナバ葉は飲料として用いられており、前述から解るように、焙煎したバナバ葉自身が抗菌性を有しているので、焙煎したバナバ葉をドリンクにすれば、風味に影響する殺菌工程を簡略化できる。更に、飲食物に用いた場合にも殺菌工程の簡略化により飲食物の風味の低下を防止することができる。
【0036】
バナバ葉の抗菌成分は、葉以外の部位にも存在し得るので、本発明の抗菌剤は、バナバの葉以外の部位、つまり、茎、花、木質部、木皮部、根部等を用いて提供することも可能である。
【0037】
【実施例】
以下、実施例及び比較例により、本発明をさらに詳細に説明する。尚、以下の実施例及び比較例において、特に記載がない場合は、「%」は「重量%」を示すものとする。
【0038】
(実施例1)
バナバ葉(lot.010718 フィリピン製)をロールカッター((株)山益製作所製、山益式製茶仕上げ機械)できざみ、100gを、メッシュサイズ9、14、24、32、42のふるい((株)山益製作所製)を用いて、卓上標準ふるい振とう機(VSS−50形、筒井理化学器械(株)製)にのせて目盛り6で1分間振とうすることにより、粒度をそろえて粒度分布を測定した。粒度分布は図1の通りであった。
【0039】
図1の粒度分布のバナバ葉40gを、アルミホイルを敷いた天板上に均等にのせて、オーブン(オーブンレンジMRO−A1、日立製作所(株)製)の下段において、表1に示す加熱条件A、B又はCで加熱した。
【0040】
上記加熱条件A、B又はCで各々加熱処理したバナバ葉40gに85℃の熱水600mLを加えて5分間攪拌しながらバナバ葉の成分を抽出し、ザル及びふるい(106メッシュ)を用いて大まかに葉を取り除き、更に、ろ紙(GA100、ADVANTEC製)でろ過し、ろ液を濃縮、凍結乾燥してバナバ葉エキスを調製した。同様に、加熱処理をしないバナバ葉のエキスも調製した。
【0041】
得られた凍結乾燥物(バナバ葉エキス)を用いて、下記に示す試験方法に従って黄色ブドウ球菌における最小阻止生育濃度(MIC)を測定した。結果を表2に示す。
【0042】
(比較例1)
緑茶(500〜600円/100g相当)をロールカッター((株)山益製作所製、山益式製茶仕上げ機械)できざみ、100gを、メッシュサイズ9、14、24、32、42のふるい((株)山益製作所製)を用いて、卓上標準ふるい振とう機(VSS−50形、筒井理化学器械(株)製)にのせて目盛り6で1分間振とうすることにより、粒度をそろえて粒度分布を測定した。粒度分布は図1の通りで、実施例1のバナバ葉の粒度分布とほぼ同じであった。
【0043】
図1の粒度分布の緑茶40gを、アルミホイルを敷いた天板上に均等にのせて、オーブン(オーブンレンジMRO−A1、日立製作所(株)製)の下段において、表1に示す加熱条件A、B又はCで加熱した。
【0044】
上記加熱条件A、B又はCで各々加熱処理した緑茶40gに85℃の熱水600mlを加えて5分間攪拌しながら緑茶の成分を抽出し、ザル及びふるい(106メッシュ)を用いて大まかに茶葉を取り除き、更に、ろ紙(GA100、ADVANTEC製)でろ過し、ろ液を濃縮、凍結乾燥して緑茶エキスを調製した。同様に、加熱処理をしない緑茶のエキスも調製した。
【0045】
得られた凍結乾燥物(緑茶エキス)を用いて、黄色ブドウ球菌における最小阻止生育濃度(MIC)を測定した。結果を表2に示す。
【0046】
[MIC試験方法]
Staphylococcus aureus(IFO12732)をIFO指定の702寒天培地(ポリペプトン:1%,酵母エキス:0.2%,MgSO4・7H2O:0.1%,pH7.0)に植菌し、35℃で一晩培養して得たコロニーをさらに植え継いで一晩培養し、得られたコロニーを試験菌として用いた。試験菌のコロニーを702液体培地に懸濁し、660nmの波長での吸光度が0.006となるように調整して培養液とした。この培養液9mLに、常法に従って濃度を調節したバナバ葉エキス又葉緑茶エキス1mLを加えて混釈し、感性ディスク用寒天培地(ニッスイ製)に1/10量加えて固化した。24時間後の寒天培地の菌の生育状況によりMICを判定した。
【0047】
【表1】
【表2】
表2から明かなように、緑茶エキスは加熱温度が上昇するに伴って抗菌力が低下してMICが上昇するのに比べて、バナバ葉エキスは、逆に、抗菌力が増加してMICが低下する。
【0048】
(実施例2)
実施例1のバナバ葉エキス及び比較例1の緑茶エキスにおける加熱処理によるエキスの色の変化を調べるために、色差計で明度:L[黒(0)〜白(100)]、色相:a[緑(−60)〜赤(60)]及び彩度:b[青(−60)〜黄(60)]を計測し、加熱処理をしないエキスをコントロールとして、サンプルの測定値:L1,a1,b1及びコントロールの測定値:L0,a0,b0から、下記式に従って色差:ΔEを算出した。結果を表3に示す。尚、ΔEは、数値が大きいほどコントロールに対して色の違いが大きいことを示し、3以上において色の違いが目で判別可能であり、目安となる。
【0049】
ΔE={(L1−L0)2+(a1−a0)2+(b1−b0)2}1/2
【表3】
緑茶エキスのL値が200℃以上の加熱処理によって著しく増加するのに比べて、バナバ葉エキスの場合はさほど増加せず、エキスの色の変化が少ないことが分かる。従って、バナバ葉成分による抗菌剤は、耐熱性を要する製品に使用しても、熱によって外観に与える影響が少ない。
【0050】
(実施例3)
実施例1において加熱処理を行わなかったバナバ葉のエキス及び緑茶抽出物(商品名:テアフラン30A[茶ポリフェノール38%、(−)−エピガロカテキンガレート13%]、(株)伊藤園製)について、各種細菌及びカビに対するMICを測定した。結果を表4に示す。
【0051】
【表4】
緑茶抽出物とバナバ葉エキスのMICを比較すると、Klebsiella pneumoniae(IFO13277)、Escherichia coli(IFO3972)等に対して、加熱処理をしないバナバ葉のエキスの抗菌力は緑茶抽出物より低いが、実施例1のように加熱処理を施せば抽出物の抗菌力は高くなる。
【0052】
(実施例4)
実施例1と同様に、バナバ葉をロールカッターできざみ、バナバ葉200gに85℃の熱水3Lを加えて5分間攪拌しながらバナバ葉の成分を抽出し、ザル及びふるい(106メッシュ)を用いて大まかに葉を取り除き、更に、ろ紙(GA100、ADVANTEC製)でろ過し、ろ液を濃縮、凍結乾燥して、加熱処理をしないバナバ茶のエキスを調製した。
【0053】
得られた凍結乾燥物(バナバ葉エキス)2gをガラスシャーレにとり、乾熱滅菌装置(Drying Sterilizer SG82、yamato製)により表5に示す温度条件D,E,F,G,H,I又はJで加熱処理した。加熱処理後のバナバ葉エキスを用いて、実施例1と同様にして黄色ブドウ球菌に対するMICを測定した。温度条件E,G,I,Jの場合の結果を表6に示す。
【0054】
更に、比較のために、加熱処理を行わない緑茶についても同様に、比較例1の方法に従って緑茶エキスを調製し、表5の温度条件で加熱処理を行い、黄色ブドウ球菌に対するMICを測定した。温度条件E,G,I,Jの場合の結果を表6に示す。
【0055】
【表5】
【表6】
緑茶エキスの場合、加熱処理温度が145℃付近でMIC値が最も低く抗菌力が最大となり、205℃では顕著にMIC値が上昇し抗菌力が低下する。これに対し、バナバ葉エキスの場合、加熱処理温度が145℃付近で抗菌力が最大となるのは同様であるが、205℃では緑茶エキスほどMIC値は上昇はせず抗菌力が比較的維持されている。
【0056】
(実施例5)
実施例4のバナバ葉エキス及び緑茶エキスにおける加熱処理によるエキスの色の変化を調べるために、実施例2と同様に、色差計で明度:L[黒(0)〜白(100)]、色相:a[緑(−60)〜赤(60)]及び彩度:b[青(−60)〜黄(60)]を計測し、加熱処理をしないエキスをコントロールとして、サンプルの測定値:L1,a1,b1及びコントロールの測定値:L0,a0,b0から、前記式に従って色差:ΔEを算出した。結果を表7に示す。
【0057】
【表7】
抽出後のエキスの加熱処理の場合においても、緑茶エキスのL値が200℃以上の加熱処理によって著しく増加するの比べて、バナバ葉エキスの場合のL値の増加は少なく、エキスの色の変化が少ないことが分かる。加熱処理による色の変化は、エキスへの加熱処理の場合よりも抽出前の葉への加熱処理の場合の方が少ない。
【0058】
(実施例6)
実施例1で調製したバナバ葉エキスを高速液体クロマトグラフィにより下記の条件で分析し、エキスに含まれるバロネア酸の量を測定した。得られたバロネア酸の含有量(%)及びMIC値を表8に示す。
【0059】
[分析条件]
カラム: Wakosil−II 5C18HG(φ4.6×250mm)
移動層: 100mMリン酸二水素カリウム(pH2.5、リン酸調整)/アセトニトリル=92/8
流速: 1ml/min
カラム温度:40℃
注入量: 10μL
検出波長: UV254nm
保持時間: 32〜34分
【表8】
バナバの加熱により、エキス中のバロネア酸量が増加し、バロネア酸の増加と共に抗菌性が高くなることが分かる。従って、加熱処理によるバロネア酸の増加がバナバ葉エキスの抗菌力の指標となる。
【0060】
(比較例2)
オーブンを用いて緑茶を150℃、200℃、250℃又は300℃に5分間加熱し、緑茶のカテキン量類の含有量(加熱前の緑茶重量[g]に対する重量[mg])を測定した。測定は、高速液体クロマトグラフィーで下記の条件により行なった。測定結果を図2に示す。図2において、GCはガロカテキン、EGCはエピガロカテキン、Cはカテキン、CAFはカフェイン、ECはエピカテキン、EGCgはエピガロカテキンガレート、GCgはガロカテキンガレート、ECgはエピカテキンガレート、Cgはカテキンガレートを示す。
【0061】
図2からわかるように、緑茶の加熱により、抗菌成分であるカテキン類、特にEGC及びEGCgの量が減少する。カテキン類は、100℃以上になると重合、分解が起こり、前述の表6のように徐々に抗菌性が低下して失われる。
【0062】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明の抗菌剤は、天然成分を用いた安全性の高いものであり、加熱によって抗菌性を損ない難いので、様々な抗菌製品に適用可能であり、その工業的価値は極めて大である。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例1のバナバ葉及び比較例1の緑茶の粒度分布を示す図である。
【図2】加熱による緑茶のカテキン量の変化を示すグラフである。
【発明の属する技術分野】
本発明は、天然素材に含まれる成分を有効成分とする抗菌剤、その製造方法及び抗菌製品の製造方法に関し、詳しくは、バナバ葉の含有成分を有効成分とし、加熱工程を伴う製品製造において使用しても抗菌性が著しく劣化することがなく、医薬品、医薬部外品、飲食品、繊維製品、プラスチック製品等の各種製品の製造に広く利用可能な耐熱性の抗菌剤、その製造方法及び抗菌製品の製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
一般に、抗菌剤を大別すると、無機抗菌剤及び有機抗菌剤に分類することができ、有機抗菌剤は、更に、合成抗菌剤と天然抗菌剤とに分類することができる。無機抗菌剤は主に銀系化合物で、抗菌製品に最も多く使用されている。有機抗菌剤には様々な種類があり、合成抗菌剤としては、アルコール化合物、ケトン・アルデヒド化合物、フェノール化合物、塩素化合物、ヨウ素化合物、四級アンモニウム塩、過酸化物、重金属化合物及び抗生物質があり(非特許文献1参照)、天然抗菌剤としては、ワサビ抽出物、孟宗竹抽出物、ヒノキチオール、キトサン等が比較的抗菌性が高いものとして良く知られており、これらは食品成分であるため安全性が高いとされ、食品、医薬品、医薬部外品、工業製品等様々な分野で利用されている。
【0003】
抗菌剤を用いて抗菌繊維・抗菌プラスチック等の抗菌製品を製造する際、抗菌剤は熱に曝されるので、製造・加工時の温度に耐え得る耐熱性を有することが抗菌剤に必要とされる。例えば、プラスチックの成形温度は、ポリプロピレンの場合、190−270℃、ポリスチレンは200−240℃、ABS樹脂は210−240℃であり(非特許文献2参照)、抗菌剤はこのような加工時の温度に耐え得る必要がある。この点に関して、無機抗菌剤は十分な耐熱性を有しており、具体的には、銀系化合物は200〜800℃の温度に耐性がある。しかし、有機抗菌剤は耐熱性が低く、合成抗菌剤の耐熱温度は250℃以下であり、天然抗菌剤に至っては更に低く、例えば茶抽出物の耐熱温度は150℃以下と言われている。
【0004】
【非特許文献1】
西野敦、他共著、「抗菌の科学」、工業調査会、1996
【0005】
【非特許文献2】
高野菊雄著、「これでわかるプラスチック技術」、工業調査会、2000
【0006】
このような状況において、抗生物質耐性菌の出現やアレルギー、化学物質過敏症等の発症の増加に伴い、これらの要因となり得る合成化学物質を避け天然素材を使用して各種製品を製造することが望まれつつあり、抗菌剤についても天然成分による抗菌剤の需要が高まっている。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、従来用いられている天然抗菌剤は、前述したように耐熱性が低く、加熱を伴う製品製造・加工に使用すると、熱により分解・重合等の反応が進行して有効成分が劣化し、抗菌効果が著しく低下する。また、炭化する場合もある。
【0008】
本発明は、この様な従来技術の課題を解決するためになされたもので、抗菌性に優れ、加熱を伴う製品製造・加工に充分対応できる耐熱性を有し健康への安全性の高い天然素材由来の抗菌剤及びこれを用いた抗菌製品を提供することを目的とするものである。
【0009】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、本発明者らは天然の食品成分について鋭意研究を重ねた結果、抗菌性を有する成分がバナバの葉に含まれ、且つ、バナバ葉の成分の抗菌性は加熱を経ても維持されることを見いだし、本発明の抗菌剤、その製造方法及び抗菌製品の製造方法を成すに至った。
【0010】
本発明の一態様によれば、抗菌剤は、下記(1)、(2)及び(3)のうちの少なくとも1つを含有することを要旨とする:(1)バナバ葉;(2)水性溶媒、親水性溶媒及びアルコールエステル溶媒からなる群より選択される抽出溶媒を用いてバナバ葉から抽出されるバナバ葉抽出物;(3)上記バナバ葉抽出物を含有する水溶液からアルコールエステル溶媒で分配抽出される抽出精製物。
【0011】
本発明の他の態様によれば、抗菌剤は、下記(1)、(2)及び(3)のうちの少なくとも1つを含有することを要旨とする:(1)150℃以上300℃以下での加熱処理を施したバナバ葉;(2)水性溶媒、親水性溶媒及びアルコールエステル溶媒からなる群より選択される抽出溶媒を用いてバナバ葉から抽出し、100℃以上210℃以下で加熱処理を施したバナバ葉抽出物;(3)上記バナバ葉抽出物を含有する水溶液からアルコールエステル溶媒で分配抽出される抽出精製物。
【0012】
本発明の一態様によれば、抗菌製品の製造方法は、上記の抗菌剤を添加した製品原料を用いて、100℃以上300℃以下での加熱を含む製造工程によって製品を製造することを要旨とする。
【0013】
また、本発明の一態様によれば、抗菌剤の製造方法は、水性溶媒、親水性溶媒及びアルコールエステル溶媒からなる群より選択される抽出溶媒によってバナバ葉を抽出してバナバ葉抽出物を得る抽出工程を有することを要旨とする。
【0014】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0015】
ミソハギ科サルスベリ属の植物であるオオバナサルスベリ(Lagerstroemia speciosa L.)はバナバと呼ばれており、バナバの葉は、嗜好品として日常的に飲用に供される安全性が確かな植物素材であり、フィリピンでは民間伝承の薬用植物として何百年も前から煎じて飲まれている。又、フィリピン政府は、バナバを医薬用植物に指定しており、抗酸化作用(特開2000−290188号公報)、抗糖尿病作用(特開平5−310587号公報)、コレステロール上昇抑制作用(特開平7−228538号公報)を奏する成分がバナバ葉に含まれていることが知られている。
【0016】
本願発明者らは、バナバ葉の成分の中に抗菌性の成分が含まれており、しかも、バナバ葉の成分は加熱下においても抗菌剤として耐熱性を備えていることを見出した。つまり、本発明の抗菌剤は、バナバ葉の含有成分を有効成分つまり抗菌成分とする。
【0017】
バナバ葉に含まれる抗菌成分は、抽出媒体を用いてバナバ葉から抽出される抽出物に含まれ、本発明の抗菌剤はバナバ葉抽出物によって構成することができる。しかし、抽出せずにバナバ葉そのままの形態でバナバ葉の抗菌成分を利用することも可能であり、その場合には、乾燥したバナバ葉を必要に応じて粒子又は粉末に粉砕して製品の製造に用いるとよい。この場合、抗菌性はバナバ葉粉末表面において発揮されるので、細かく粉砕することが好ましい。
【0018】
バナバ葉の抗菌成分を抽出する場合、抽出媒体としては水性又は親水性(水に可溶)の抽出溶媒、つまり、水又は親水性溶剤を含んだ溶媒を用いることができる。単独又は混合溶媒の形態で使用することができ、例えば、水と親水性溶剤との混合溶媒や複数種の親水性溶剤の混合物であってもよい。親水性溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール等のモノアルコール類;エチレングリコール、グリセリン等のジオール及びポリオール類;アセトン、MEK等の低級脂肪族ケトン類;アセトニトリル等の低級脂肪族ニトリル;DMF;DMSO等、各種極性有機溶剤が挙げられる。抽出温度を上げることによって抽出効率を上げることができ、例えば、水を用いる場合、約50〜100℃、好ましくは80〜90℃の熱水によって良好に抽出できる。複数の異なる溶媒系を用いて繰り返し抽出操作を行ってもよく、例えば、水又は熱水で抽出した後の残渣を更にアルコール等の親水性有機溶剤で抽出し、両抽出物を併せて利用することができる。使用する抽出溶媒の割合がバナバ葉の乾燥重量に対して10〜100倍程度となるようにすることによって好適に抽出が行われる。抽出に際しては、バナバ葉は乾燥し粉砕して用いるのが抽出効率の点から好ましい。
【0019】
あるいは、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル等の脂肪族カルボン酸と脂肪族アルコールとのアルコールエステル溶媒を用いてバナバ葉の抗菌成分を抽出することもできる。このようなアルコールエステルは疎水性であるが、バナバ葉の成分との親和性が高い。
【0020】
水性抽出溶媒を用いた場合、バナバ葉抽出物は水溶性無機物等を含み得る。このようなバナバ葉抽出物は、その水溶液から上述のアルコールエステル溶媒を用いて分配抽出することにより上記のような不純物を除去した抽出精製物を得ることができる。あるいは、吸着剤を用いて精製することもでき、具体的には、バナバ葉抽出物を溶剤に含んだ溶液を吸着剤に接触させて抗菌成分を吸着する。溶剤に応じて順相用吸着剤又は逆相用吸着剤を適宜選択することができ、複数種の吸着剤を組み合わせて用いたり、異なる吸着剤による精製を組み合わせて行ってもよい。順相用吸着剤としてはシリカゲル等が挙げられ、逆相用吸着剤としては、親油性基で修飾したシリカゲル、有機高分子吸着剤等が挙げられる。有機高分子吸着剤として、例えば、ポリビニルポリピロリドン、ポリビニルピロリドン、スチレン−ジビニルベンゼン共重合体、メタクリル酸エステル重合体、架橋デキストランゲル、親水性ビニルポリマー等の合成樹脂による吸着剤が挙げられ、市販品としては、BASF AG社製のダイガバン、三菱化学社製のダイヤイオンHP−10, 20, 21, 30, 40, 50、ダイヤイオンHP1MG, 2MG及びセパビーズSP206, 207, 800, 900、オルガノ社製のアンバーライトHAD−2, 4、住友化学社製のデュオライトSシリーズ、ファルマシア社製のSephadex LH20、東ソー社製のトヨパールHW40等を例示することができる。中でも、三菱化学社製のダイヤイオンHP−20等として市販されるスチレン−ジビニルベンゼン系吸着剤は、高速液体クロマトグラフィのカラム充填剤として用いることにより、バナバ葉抽出物の成分分取を好適に行うことができる。
【0021】
バナバ葉抽出物の吸着剤による精製は、例えば、以下の手順に従って好適に行うことができる。まず、100mmL.D.×450mmLのカラムにスチレン−ジビニルベンゼン系吸着剤を2L充填して、6Lのイオン交換水であらかじめ平衡化する。バナバ葉水抽出物60gを蒸留水3Lに溶解したものをカラムに投入した後、10Lのイオン交換水で洗浄する。更に、6Lのメタノールを通して吸着物を溶出し、溶出液を濃縮して凍結乾燥する。これにより4.8g程度の精製物が得られる。バナバ葉抽出物の精製物はポリフェノールが主成分であり(参照文献:鈴木裕子、林和彦、坂根巌、角田隆巳、日本栄養・食料学会誌、54(3)、131−137(2001))、主に、エラグ酸、エラグ酸誘導体、エラグ酸類似化合物及びリグナン類が含まれる。
【0022】
本願発明者らは、バナバ葉の含有成分に加熱処理を施すと抗菌力が向上することを見出した。つまり、バナバ葉又はバナバ葉抽出物に加熱処理を施すことによって抗菌性がより高い抗菌剤を得ることができる。見方を変えれば、バナバ葉の含有成分は、抗菌剤として耐熱性を有するということである。従って、バナバ葉による抗菌剤を耐熱性を要する製品に適用することによって、熱に曝されても抗菌性を損なわない製品を提供することができ、しかも、抗菌性は増強される。抗菌性が向上する加熱処理の温度は、バナバ葉をオーブンレンジ等で直に加熱処理する場合、約150〜300℃、好ましくは150〜250℃、より好ましくは200〜250℃の範囲であり、この範囲の温度で約1分以上加熱することにより耐熱性の向上が顕著になり、好ましくは約1〜60分、より好ましくは約5〜10分加熱する。バナバ葉抽出物を加熱処理する場合は、バナバ葉の場合より穏やかな加熱条件で耐熱性が向上し、乾熱滅菌装置で加熱する場合、約100〜210℃、好ましくは105〜180℃、より好ましくは110〜150℃の範囲で加熱し、この範囲の温度で約1分以上加熱することにより耐熱性の向上が顕著になり、好ましくは約1〜60分、より好ましくは約5〜30分加熱する。加熱処理の温度が上記範囲を越えると、抗菌成分の分解により抗菌力が損なわれ、変色が生じることによりに製品外観への影響が問題となる。バナバ葉抽出物の場合の温度範囲がバナバ葉の場合よりも低いのは、植物組織繊維等による保護つまり反応抑制の有無によると考えられる。この点に関連して、バナバ葉からの抽出においてオートクレーブ等を用いて抽出物が100℃以上に加熱されるように構成すると、抽出と抽出物の加熱処理とを並行して、又は、連続して行うことができ、作業効率の点で有用である。
【0023】
上記の特徴を考慮すると、製品の製造プロセスに上述の加熱処理の温度範囲に該当する温度での加熱工程(例えば、プラスチック成形品の製造における可塑化又は熱硬化のような成形工程等)が含まれる場合は、バナバ葉の含有成分を製品原料に添加して用いれば、製品の製造プロセス中の加熱工程によって抗菌性を向上させることができる。また、加熱処理を施したバナバ葉及びバナバ葉抽出物は発揮される抗菌性が高いので、耐熱性を必要としない用途においても有用である。
【0024】
加熱処理によってバナバ葉及びバナバ葉抽出物の抗菌力が増すことから、バナバ葉又はバナバ葉抽出物の加熱処理によって増加する成分の中に抗菌成分が含まれ、抗菌成分の増加によって抗菌性が向上すると推測される。これに基づき、上述の加熱処理によるバナバ葉抽出物の成分変化を調べると、ポリフェノールの一種でエラグ酸構造を有する化合物であるバロネア酸ジラクトンの含有量が加熱処理によって明らかに増加することが認められる。更に、加熱処理したバナバ葉抽出物についてバロネア酸ジラクトンの含有量と抗菌力との関係を調べると、相関関係が認められる(後述の実施例参照)。バロネア酸ジラクトンは、バナバ葉及び抽出物においては主として配糖体のアグリコンとして存在しており、加熱されるとアグリコンの遊離が進行してバロネア酸ジラクトン(及びそれらの誘導体、類似化合物)が増加すると考えられることから、抗菌成分は、バロネア酸ジラクトン、もしくは、これを含みアグリコンの遊離に従って生じる2種以上の成分であると考えられる。バロネア酸ジラクトン以外でアグリコンの遊離に従って生じると考えられる成分には、バロネア酸ジラクトン誘導体(加水分解や脱水によりバロネア酸ジラクトンを生成する化合物、つまり、水酸基に糖、脂質、アミノ酸、ポリフェノール等が結合した化合物やエステル、塩、配位化合物等)及び類似化合物(基本骨格がバロネア酸ジラクトンと同じである化合物)、アグリコンとして同様にバナバ葉に存在するエラグ酸、その誘導体及びその類似化合物がある。
【0025】
本発明に係る抗菌剤は、製造方法に従って以下のように分類することができる。
【0026】
(A) バナバ葉(1)を、必要に応じて乾燥、粉砕し、そのまま抗菌剤として用いる。
【0027】
(B) 必要に応じて乾燥、粉砕したバナバ葉の含有成分を、熱水等の前述の抽出溶媒を用いて抽出する。濃縮、凍結乾燥等により抽出液から抽出溶媒を除去してバナバ葉抽出物(2)を得る。このバナバ葉抽出物(2)を抗菌剤として用いる。
【0028】
(C) 必要に応じて乾燥、粉砕したバナバ葉を150〜300℃で1〜20分程度加熱処理し、加熱処理後のバナバ葉(1a)を抗菌剤として用いる。乾燥及び粉砕は、加熱処理の後に行ってもよい。
【0029】
(D) 上記(C)における加熱処理後のバナバ葉(1a)を、必要に応じて粉砕し、熱水等の前述の抽出溶媒を用いて抽出する。濃縮、凍結乾燥等により抽出液から抽出溶媒を除去してバナバ葉抽出物(2a)を得る。このバナバ抽出物(2a)を抗菌剤として用いる。
【0030】
(E) 上記(B)のバナバ葉抽出物(2)を100〜205℃で1〜30分程度加熱して加熱処理物(2b)を得る。この加熱処理物(2b)を抗菌剤として用いる。
【0031】
(F) カラムに充填した吸着樹脂をあらかじめイオン交換水で平衡化し、上記バナバ葉抽出物(2)、バナバ葉抽出物(2a)又は加熱処理物(2b)を蒸留水に溶解した水溶液をカラムに通した後、イオン交換水で樹脂を洗浄し、樹脂に吸着した吸着物をメタノール等の親水性溶剤で溶出し、溶出液を濃縮、凍結乾燥して得た精製物(3、3a、3b)を抗菌剤として用いる。
【0032】
(G) 上記バナバ葉抽出物(2)、バナバ葉抽出物(2a)又は加熱処理物(2b)を溶解した水溶液から前述のアルコールエステル溶媒出分配抽出して得た抽出精製物を抗菌剤として用いる。
【0033】
上述のバナバ葉(1a)、バナバ葉抽出物(2a)及び加熱処理物(2b)は、加熱処理を経ているので、バナバ葉(1)及びバナバ葉抽出物(2)よりも抗菌力が高い。従って、上記(F)、(G)の精製においてバナバ葉抽出物(2a)又は加熱処理物(2b)から得られる精製物(3a、3b)は収率及び抗菌性が高くなる。
【0034】
上記のような製造方法によって得られるバナバ葉の成分による抗菌剤は、一般的な製品の製造・加工に用いられる加熱処理によって抗菌効力を損なうことがなく、加熱を経た製品において良好な抗菌性を発揮する。しかも、飲料として用いられる安全性の高い天然成分であるので、医薬品(トローチ、ドリンク剤等)、医薬部外品(デオドラント商品、入浴剤、ドリンク剤、うがい薬等)、食品、プラスチック製品、繊維製品等の製造に用いて優れた抗菌性を備え安全性の高い製品を提供することができる。前述したように、加熱処理を経ていない上記バナバ葉(1)及びバナバ葉抽出物(2)は、プラスチック加工のような加熱工程を経る製品の原料に添加して用いれば、加熱、成形を経ることにより抗菌性が向上し、被熱しても抗菌性が維持される抗菌製品が得られる。
【0035】
また、バナバ葉は飲料として用いられており、前述から解るように、焙煎したバナバ葉自身が抗菌性を有しているので、焙煎したバナバ葉をドリンクにすれば、風味に影響する殺菌工程を簡略化できる。更に、飲食物に用いた場合にも殺菌工程の簡略化により飲食物の風味の低下を防止することができる。
【0036】
バナバ葉の抗菌成分は、葉以外の部位にも存在し得るので、本発明の抗菌剤は、バナバの葉以外の部位、つまり、茎、花、木質部、木皮部、根部等を用いて提供することも可能である。
【0037】
【実施例】
以下、実施例及び比較例により、本発明をさらに詳細に説明する。尚、以下の実施例及び比較例において、特に記載がない場合は、「%」は「重量%」を示すものとする。
【0038】
(実施例1)
バナバ葉(lot.010718 フィリピン製)をロールカッター((株)山益製作所製、山益式製茶仕上げ機械)できざみ、100gを、メッシュサイズ9、14、24、32、42のふるい((株)山益製作所製)を用いて、卓上標準ふるい振とう機(VSS−50形、筒井理化学器械(株)製)にのせて目盛り6で1分間振とうすることにより、粒度をそろえて粒度分布を測定した。粒度分布は図1の通りであった。
【0039】
図1の粒度分布のバナバ葉40gを、アルミホイルを敷いた天板上に均等にのせて、オーブン(オーブンレンジMRO−A1、日立製作所(株)製)の下段において、表1に示す加熱条件A、B又はCで加熱した。
【0040】
上記加熱条件A、B又はCで各々加熱処理したバナバ葉40gに85℃の熱水600mLを加えて5分間攪拌しながらバナバ葉の成分を抽出し、ザル及びふるい(106メッシュ)を用いて大まかに葉を取り除き、更に、ろ紙(GA100、ADVANTEC製)でろ過し、ろ液を濃縮、凍結乾燥してバナバ葉エキスを調製した。同様に、加熱処理をしないバナバ葉のエキスも調製した。
【0041】
得られた凍結乾燥物(バナバ葉エキス)を用いて、下記に示す試験方法に従って黄色ブドウ球菌における最小阻止生育濃度(MIC)を測定した。結果を表2に示す。
【0042】
(比較例1)
緑茶(500〜600円/100g相当)をロールカッター((株)山益製作所製、山益式製茶仕上げ機械)できざみ、100gを、メッシュサイズ9、14、24、32、42のふるい((株)山益製作所製)を用いて、卓上標準ふるい振とう機(VSS−50形、筒井理化学器械(株)製)にのせて目盛り6で1分間振とうすることにより、粒度をそろえて粒度分布を測定した。粒度分布は図1の通りで、実施例1のバナバ葉の粒度分布とほぼ同じであった。
【0043】
図1の粒度分布の緑茶40gを、アルミホイルを敷いた天板上に均等にのせて、オーブン(オーブンレンジMRO−A1、日立製作所(株)製)の下段において、表1に示す加熱条件A、B又はCで加熱した。
【0044】
上記加熱条件A、B又はCで各々加熱処理した緑茶40gに85℃の熱水600mlを加えて5分間攪拌しながら緑茶の成分を抽出し、ザル及びふるい(106メッシュ)を用いて大まかに茶葉を取り除き、更に、ろ紙(GA100、ADVANTEC製)でろ過し、ろ液を濃縮、凍結乾燥して緑茶エキスを調製した。同様に、加熱処理をしない緑茶のエキスも調製した。
【0045】
得られた凍結乾燥物(緑茶エキス)を用いて、黄色ブドウ球菌における最小阻止生育濃度(MIC)を測定した。結果を表2に示す。
【0046】
[MIC試験方法]
Staphylococcus aureus(IFO12732)をIFO指定の702寒天培地(ポリペプトン:1%,酵母エキス:0.2%,MgSO4・7H2O:0.1%,pH7.0)に植菌し、35℃で一晩培養して得たコロニーをさらに植え継いで一晩培養し、得られたコロニーを試験菌として用いた。試験菌のコロニーを702液体培地に懸濁し、660nmの波長での吸光度が0.006となるように調整して培養液とした。この培養液9mLに、常法に従って濃度を調節したバナバ葉エキス又葉緑茶エキス1mLを加えて混釈し、感性ディスク用寒天培地(ニッスイ製)に1/10量加えて固化した。24時間後の寒天培地の菌の生育状況によりMICを判定した。
【0047】
【表1】
【表2】
表2から明かなように、緑茶エキスは加熱温度が上昇するに伴って抗菌力が低下してMICが上昇するのに比べて、バナバ葉エキスは、逆に、抗菌力が増加してMICが低下する。
【0048】
(実施例2)
実施例1のバナバ葉エキス及び比較例1の緑茶エキスにおける加熱処理によるエキスの色の変化を調べるために、色差計で明度:L[黒(0)〜白(100)]、色相:a[緑(−60)〜赤(60)]及び彩度:b[青(−60)〜黄(60)]を計測し、加熱処理をしないエキスをコントロールとして、サンプルの測定値:L1,a1,b1及びコントロールの測定値:L0,a0,b0から、下記式に従って色差:ΔEを算出した。結果を表3に示す。尚、ΔEは、数値が大きいほどコントロールに対して色の違いが大きいことを示し、3以上において色の違いが目で判別可能であり、目安となる。
【0049】
ΔE={(L1−L0)2+(a1−a0)2+(b1−b0)2}1/2
【表3】
緑茶エキスのL値が200℃以上の加熱処理によって著しく増加するのに比べて、バナバ葉エキスの場合はさほど増加せず、エキスの色の変化が少ないことが分かる。従って、バナバ葉成分による抗菌剤は、耐熱性を要する製品に使用しても、熱によって外観に与える影響が少ない。
【0050】
(実施例3)
実施例1において加熱処理を行わなかったバナバ葉のエキス及び緑茶抽出物(商品名:テアフラン30A[茶ポリフェノール38%、(−)−エピガロカテキンガレート13%]、(株)伊藤園製)について、各種細菌及びカビに対するMICを測定した。結果を表4に示す。
【0051】
【表4】
緑茶抽出物とバナバ葉エキスのMICを比較すると、Klebsiella pneumoniae(IFO13277)、Escherichia coli(IFO3972)等に対して、加熱処理をしないバナバ葉のエキスの抗菌力は緑茶抽出物より低いが、実施例1のように加熱処理を施せば抽出物の抗菌力は高くなる。
【0052】
(実施例4)
実施例1と同様に、バナバ葉をロールカッターできざみ、バナバ葉200gに85℃の熱水3Lを加えて5分間攪拌しながらバナバ葉の成分を抽出し、ザル及びふるい(106メッシュ)を用いて大まかに葉を取り除き、更に、ろ紙(GA100、ADVANTEC製)でろ過し、ろ液を濃縮、凍結乾燥して、加熱処理をしないバナバ茶のエキスを調製した。
【0053】
得られた凍結乾燥物(バナバ葉エキス)2gをガラスシャーレにとり、乾熱滅菌装置(Drying Sterilizer SG82、yamato製)により表5に示す温度条件D,E,F,G,H,I又はJで加熱処理した。加熱処理後のバナバ葉エキスを用いて、実施例1と同様にして黄色ブドウ球菌に対するMICを測定した。温度条件E,G,I,Jの場合の結果を表6に示す。
【0054】
更に、比較のために、加熱処理を行わない緑茶についても同様に、比較例1の方法に従って緑茶エキスを調製し、表5の温度条件で加熱処理を行い、黄色ブドウ球菌に対するMICを測定した。温度条件E,G,I,Jの場合の結果を表6に示す。
【0055】
【表5】
【表6】
緑茶エキスの場合、加熱処理温度が145℃付近でMIC値が最も低く抗菌力が最大となり、205℃では顕著にMIC値が上昇し抗菌力が低下する。これに対し、バナバ葉エキスの場合、加熱処理温度が145℃付近で抗菌力が最大となるのは同様であるが、205℃では緑茶エキスほどMIC値は上昇はせず抗菌力が比較的維持されている。
【0056】
(実施例5)
実施例4のバナバ葉エキス及び緑茶エキスにおける加熱処理によるエキスの色の変化を調べるために、実施例2と同様に、色差計で明度:L[黒(0)〜白(100)]、色相:a[緑(−60)〜赤(60)]及び彩度:b[青(−60)〜黄(60)]を計測し、加熱処理をしないエキスをコントロールとして、サンプルの測定値:L1,a1,b1及びコントロールの測定値:L0,a0,b0から、前記式に従って色差:ΔEを算出した。結果を表7に示す。
【0057】
【表7】
抽出後のエキスの加熱処理の場合においても、緑茶エキスのL値が200℃以上の加熱処理によって著しく増加するの比べて、バナバ葉エキスの場合のL値の増加は少なく、エキスの色の変化が少ないことが分かる。加熱処理による色の変化は、エキスへの加熱処理の場合よりも抽出前の葉への加熱処理の場合の方が少ない。
【0058】
(実施例6)
実施例1で調製したバナバ葉エキスを高速液体クロマトグラフィにより下記の条件で分析し、エキスに含まれるバロネア酸の量を測定した。得られたバロネア酸の含有量(%)及びMIC値を表8に示す。
【0059】
[分析条件]
カラム: Wakosil−II 5C18HG(φ4.6×250mm)
移動層: 100mMリン酸二水素カリウム(pH2.5、リン酸調整)/アセトニトリル=92/8
流速: 1ml/min
カラム温度:40℃
注入量: 10μL
検出波長: UV254nm
保持時間: 32〜34分
【表8】
バナバの加熱により、エキス中のバロネア酸量が増加し、バロネア酸の増加と共に抗菌性が高くなることが分かる。従って、加熱処理によるバロネア酸の増加がバナバ葉エキスの抗菌力の指標となる。
【0060】
(比較例2)
オーブンを用いて緑茶を150℃、200℃、250℃又は300℃に5分間加熱し、緑茶のカテキン量類の含有量(加熱前の緑茶重量[g]に対する重量[mg])を測定した。測定は、高速液体クロマトグラフィーで下記の条件により行なった。測定結果を図2に示す。図2において、GCはガロカテキン、EGCはエピガロカテキン、Cはカテキン、CAFはカフェイン、ECはエピカテキン、EGCgはエピガロカテキンガレート、GCgはガロカテキンガレート、ECgはエピカテキンガレート、Cgはカテキンガレートを示す。
【0061】
図2からわかるように、緑茶の加熱により、抗菌成分であるカテキン類、特にEGC及びEGCgの量が減少する。カテキン類は、100℃以上になると重合、分解が起こり、前述の表6のように徐々に抗菌性が低下して失われる。
【0062】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明の抗菌剤は、天然成分を用いた安全性の高いものであり、加熱によって抗菌性を損ない難いので、様々な抗菌製品に適用可能であり、その工業的価値は極めて大である。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例1のバナバ葉及び比較例1の緑茶の粒度分布を示す図である。
【図2】加熱による緑茶のカテキン量の変化を示すグラフである。
Claims (8)
- 下記(1)、(2)及び(3)のうちの少なくとも1つを含有する抗菌剤:
(1)バナバ葉;
(2)水性溶媒、親水性溶媒及びアルコールエステル溶媒からなる群より選択される抽出溶媒を用いてバナバ葉から抽出されるバナバ葉抽出物;
(3)上記バナバ葉抽出物を含有する水溶液からアルコールエステル溶媒で分配抽出される抽出精製物。 - 下記(1)、(2)及び(3)のうちの少なくとも1つを含有する抗菌剤:
(1)150℃以上300℃以下での加熱処理を施したバナバ葉;
(2)水性溶媒、親水性溶媒及びアルコールエステル溶媒からなる群より選択される抽出溶媒を用いてバナバ葉から抽出し、100℃以上210℃以下で加熱処理を施したバナバ葉抽出物;
(3)上記バナバ葉抽出物を含有する水溶液からアルコールエステル溶媒で分配抽出される抽出精製物。 - 請求項1に記載の抗菌剤を添加した製品原料を用いて、100℃以上300℃以下での加熱を含む製造工程によって製品を製造することを特徴とする抗菌製品の製造方法。
- 水性溶媒、親水性溶媒及びアルコールエステル溶媒からなる群より選択される抽出溶媒によってバナバ葉を抽出してバナバ葉抽出物を得る抽出工程を有する抗菌剤の製造方法。
- 更に、下記(1)及び(2)のいずれかの工程を有する請求項4記載の抗菌剤の製造方法:
(1)前記バナバ葉を150℃以上300℃以下に加熱する工程;
(2)前記バナバ葉抽出物を100℃以上210℃以下に加熱する工程。 - 更に、下記(a)及び(b)のいずれかの工程を有する請求項4又は5記載の抗菌剤の製造方法:
(a)前記バナバ葉抽出物を含んだ溶液を吸着剤と接触させて該バナバ葉抽出物を精製する工程;
(b)前記バナバ葉抽出物を含んだ水溶液をアルコールエステル溶媒で分配抽出して該バナバ葉抽出物を精製する工程。 - 前記抽出溶媒は、水、エタノール、メタノール、アセトン、イソプロパノール及びアセトニトリルからなる群より選択される少なくとも1種の溶剤を含有する請求項4〜6のいずれかに記載の抗菌剤の製造方法。
- 前記吸着剤は、ポリビニルポリピロリドン、ポリビニルピロリドン、スチレン−ジビニルベンゼン共重合体、メタクリル酸エステル重合体、架橋デキストランゲル、親水性ビニルポリマーからなる群より選ばれる少なくとも1つの樹脂吸着剤であることを特長とする請求項6又は7に記載の抗菌剤の製造方法。
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JP2009527469A (ja) * | 2006-02-10 | 2009-07-30 | デユポン・テイト・アンド・ライル・バイオ・プロダクツ・カンパニー・エルエルシー | バイオマス誘導された抽出物、フレグランス濃縮物、およびオイル用の天然非刺激性溶剤としての生物誘導された1,3−プロパンジオールおよびその共役エステル |
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CN108976697A (zh) * | 2018-06-20 | 2018-12-11 | 邯郸学院 | 一种耐高温的食品保鲜膜及其制备方法 |
-
2002
- 2002-10-10 JP JP2002297741A patent/JP2004131426A/ja active Pending
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