JP2004107492A - 無機物含有ポリ塩化ビニル系樹脂 - Google Patents
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Abstract
【課題】無機物をポリ塩化ビニル樹脂中へ導入する際に、水相への移行を抑制して過剰に使用することなく、樹脂中に分散しやすく、機械的強度や耐熱性などの諸物性が良好で、且つ、簡便な方法で得られるポリ塩化ビニル系樹脂の提供及び該ポリ塩化ビニル系樹脂の製造方法を提供すること。
【解決手段】ラジカル反応性官能基を有するシランカップリング剤(S)で処理されてなる無機物(A)の周囲に、ラジカル重合によって得られる熱可塑性樹脂を主成分とする樹脂(B)が結合してなる樹脂付着無機物と、ポリ塩化ビニルを主成分とする樹脂からなるポリ塩化ビニル系樹脂(C)からなり、上記熱可塑性樹脂とポリ塩化ビニル系樹脂とがグラフト共重合されてなることを特徴とする無機物含有ポリ塩化ビニル系樹脂。
【選択図】 なし
【解決手段】ラジカル反応性官能基を有するシランカップリング剤(S)で処理されてなる無機物(A)の周囲に、ラジカル重合によって得られる熱可塑性樹脂を主成分とする樹脂(B)が結合してなる樹脂付着無機物と、ポリ塩化ビニルを主成分とする樹脂からなるポリ塩化ビニル系樹脂(C)からなり、上記熱可塑性樹脂とポリ塩化ビニル系樹脂とがグラフト共重合されてなることを特徴とする無機物含有ポリ塩化ビニル系樹脂。
【選択図】 なし
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は無機充填剤を含有する塩化ビニル系樹脂組成物に関する。
【0002】
【従来の技術】
ポリ塩化ビニルを炭酸カルシウムなどの無機充填材で強化した樹脂組成物は広く知られている。しかし、これらの強化材はポリ塩化ビニルとの親和性が乏しく、これらを充填すると強化ポリ塩化ビニルの機械的強度や耐熱性は改良されるものの、靭性が低下するという問題がある。しかも、これら無機充填材で強化した樹脂組成物では、充填材を多量に配合しないと機械的強度や耐熱性が向上しないという問題があった。
また、ポリ塩化ビニルとの親和性を向上するために、無機物をシランカップリング処理するという方法は広く知られているが、機械的強度などの向上効果は得られないと言う問題があった。(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
無機物含有ポリ塩化ビニル系樹脂を用いて成形体を作製する際には、通常は、ポリ塩化ビニル系樹脂粉体と共に無機充填剤を混合して塩化ビニル系樹脂組成物を作製した後、成型加工工程を経て製品を得ている。この混合工程の削減、無機物の塩化ビニル系樹脂中への分散性を向上せしめる目的で、ポリ塩化ビニル系樹脂を作製する懸濁重合時に予め無機充填剤を樹脂中に導入させる方法が提案されている。
一例として、ノニオン系界面活性剤を用いて、無機物を樹脂中に導入する方法が提案されている(例えば、特許文献2参照)。しかし、この方法では、無機物によっては使用量よりも樹脂中へ導入される量が少なく、工程削減、物性改善効果に乏しい。また、無機物存在化で塩化ビニル系モノマーを重合し、無機物含有塩化ビニル系樹脂を得る方法が開示されている(例えば、特許文献3参照)。しかし、この方法では、水性媒体中での懸濁重合時に、無機物が水中へ移行してしまう為、物性改善には過剰量の無機物を使用しなければならず、コスト的な短所が見受けられる。又、無機物が単独で沈降してしまう為、重合後に無機物と樹脂との分離工程が必要になる、且つ、樹脂中へ多量に導入させることが困難である等の問題がある。
【0004】
【特許文献1】
特開平8−183863号公報(第1〜第4頁)
【特許文献2】
特開昭60−228505号公報(第1〜第6頁)
【特許文献3】
特開平10−110004号公報(第1〜第4頁)
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記従来技術の課題に鑑みてなされたものであり、無機物をポリ塩化ビニル樹脂中へ導入する際に、水相への移行を抑制して過剰に使用されず、樹脂中に分散しやすく、機械的強度や耐熱性などの諸物性が良好で、且つ、簡便な方法で得られるポリ塩化ビニル系樹脂を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記の課題について検討を重ねた結果、ラジカル反応性官能基を有するシランカップリング剤(以下「反応性シラン剤」と略す)により表面処理した無機物を用い、この無機物がラジカル重合性モノマーを重合してなる熱可塑性樹脂の周囲に結合化されて得られる、無機物表面が熱可塑性樹脂により被覆された樹脂付着無機物を調整したところ、この樹脂付着無機物の共存下で塩化ビニル系モノマーを重合することにより、無機物のポリ塩化ビニル系樹脂中への導入が容易で、且つ、無機物を樹脂に配合させる方法と比較して同じ無機物含有量で諸物性が良好なポリ塩化ビニル系樹脂組成物が得られることを見い出した。
本発明は、このような知見に基づいて、上記目的を達成するためになされたものであり、ラジカル反応性官能基を有するシランカップリング剤(S)で処理されてなる無機物(A)の周囲に、ラジカル重合によって得られる熱可塑性樹脂を主成分とする樹脂(B)が結合してなる樹脂付着無機物と、ポリ塩化ビニルを主成分とする樹脂からなるポリ塩化ビニル系樹脂(C)からなり、上記熱可塑性樹脂とポリ塩化ビニル系樹脂とがグラフト共重合されてなることを特徴とする無機物含有ポリ塩化ビニル系樹脂を提供する。
【0007】
上記のラジカル重合性モノマーとして、ラジカル重合活性の高い汎用モノマーを用いることにより、さらにコスト的に有利な製品を効率よく製造することができる。特に、(メタ)アクリレート等のアクリル系モノマーを用いるとこの効果は顕著である。
【0008】
本発明に使用される無機物は、ポリ塩化ビニル系樹脂の充填剤、物性強化剤として用いられるものであれば特に限定されず、例えば、炭酸カルシウムなどの金属無機酸塩、水酸化カルシウムなどの金属水酸化物、酸化マグネシウムや酸化チタンなどの金属酸化物、バーミキュライト、モンモリロナイト、バイデライト、ノントロナイト、サポナイトなどのスメクタイト族フィロ珪酸塩、白雲母、ソーダ雲母、絹雲母、セラドナイト、金雲母、フッ素金雲母などのマイカ族フィロ珪酸塩、カオリナイトなどのカオリン鉱物、パイロフィライトやタルク、テクト珪酸塩などが挙げられ、好ましくは、層状構造を有する無機物、例えばフィロ珪酸塩等が用いられる。これらは単独または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0009】
本発明では、ラジカル重合性モノマーを重合せしめてなる熱可塑性樹脂が、反応性シラン剤により処理された無機物表面と、反応性シラン剤を介して結合していることが特徴である。
無機物は反応性シラン剤により処理されることにより、ラジカル重合性モノマーとの共重合化が成される。その結果、樹脂付着無機物となり、塩化ビニルまたは塩化ビニルを主成分とする塩化ビニル系モノマーを水性媒体中で、上記樹脂付着無機物の存在下、懸濁重合することで効率よくポリ塩化ビニル系樹脂中に無機物を導入することが可能となり、且つ、無機物を樹脂に配合させる方法と比較して同じ無機物含有量で諸物性が良好なポリ塩化ビニル系樹脂組成物が得られる。
【0010】
本発明における反応性シラン剤は、ラジカル反応性官能基を有するシランカップリング剤であれば良く、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン等のビニルトリアルコキシシラン、p−スチリルトリメトキシシラン等のp−スチリルトリアルコキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルトリエトキシシラン等のγ−(メタ)アクリロキシプロピルトリアルコキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン等のγ−(メタ)アクリロキシプロピルメチルトリアルコキシシラン、ビニルトリクロロシラン等が挙げられ、これらは単独または2種以上を組み合わせて用いることができる。反応性シラン剤は特に限定されないが、取り扱いの簡便さを鑑み、末端アルコキシ含有シランカップリング剤が望ましい。
【0011】
上記反応性シラン剤を用いた無機物への処理方法は、特に限定されることはなく、公知の方法で行うことが出来る。また、無機物に対する反応性シラン剤の使用量も特に限定されることはない。
【0012】
無機物と熱可塑性樹脂からなる樹脂付着無機物の形状については、個々の無機物粒子表面が樹脂層により被覆された形状、単独無機物粒子よりも小さな樹脂粒子により個々の無機物もしくは複数個の粒子が覆われた形状、熱可塑性樹脂による樹脂壁が一層以上形成されてなる樹脂粒子中に無機物が個々に若しくは複数個内包されてなる粒子形状等が挙げられるが、これらは特に限定されるものではない。
【0013】
本発明では、無機物の周囲に結合化されるものとして、ラジカル重合によって合成可能な熱可塑性樹脂を用いることが特徴であり、上記熱可塑性樹脂として、ポリ(メタ)アクリレート、ポリスチレン誘導体、又はポリ酢酸ビニル誘導体等のラジカル重合活性の高いモノマーから合成される汎用樹脂が好適に用いられ、特に好ましくは、ポリ(メタ)アクリレート等が用いられる。これらは単独あるいは共重合体として使用される。
【0014】
上記ラジカル重合性モノマーとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、クミル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート等のアルキル(メタ)アクリレート、スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、p−クロロスチレン等のスチレン誘導体、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等の不飽和ニトリル、無水マレイン酸、塩化ビニリデン、マレイミド誘導体等が挙げられ、これらは単独または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0015】
上記のラジカル重合性モノマーには、熱可塑性樹脂の機械的強度を改善する事で、ラジカル重合可能な多官能性モノマーが添加されてもよい。上記多官能性モノマーとしては、特に限定はされないが、例えば、ジ(メタ)アクリレートとしては、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート等が挙げられ、トリ(メタ)アクリレートとしては、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリストールトリ(メタ)アクリレート等が挙げられる。また、その他の多官能性モノマーとしては、ペンタエリストールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリストールヘキサ(メタ)アクリレート、ジアリルフタレート、ジアリルフマレート等のジもしくはトリアリル化合物、ジビニルベンゼン、ブタジエン等のジビニル化合物等が挙げられ、これらは単独または2種類以上を組み合わせて用いることができる。
多官能性モノマーは、多く使用すると機械的強度が大きく向上し、結果として、塩化ビニル系樹脂中への導入を抑制してしまうので、多く使用しない、もしくは、使用しないことが望ましい。
【0016】
上記無機物の周囲に、ラジカル重合によって得られる熱可塑性樹脂が結合化されてなる樹脂付着無機物を作製する際の反応性シラン剤により処理された無機物(以下「シラン処理無機物」と略す)とラジカル重合性モノマーとの比は、シラン処理無機物1〜75重量%とラジカル重合性モノマー25〜99重量%であることが好ましい。シラン処理無機物量が75重量%を超え、ラジカル重合性モノマーが25重量%未満になると、無機物に付着する樹脂量が少なくなり、無機物に樹脂を結合化させてポリ塩化ビニル樹脂への導入を容易にすると共に物性を向上させるという本発明の効果が認められ難くなってしまう。
【0017】
本発明の樹脂付着無機物は、水性媒体中における懸濁重合により作製する方法、もしくは、乳化重合により作製する方法の二通りに大別されるが、特に限定されるものではない。
【0018】
水性媒体中における懸濁重合方法により作製される樹脂付着無機物は、例えば、先ずラジカル重合性モノマーとシラン処理無機物及び重合開始剤を混合し、その後、分散剤を含む水中にその混合物を乳化懸濁し、油滴中のモノマーをラジカル重合することによって得られる。この時、シラン処理無機物は予めモノマーと混合しておくことにより、水中に乳化懸濁されたとき及び重合中においても、無機物はモノマー油滴中に存在することとなる。その結果、シランカップリング剤中の反応基とラジカル反応性モノマーとが共重合化され、生成した熱可塑性樹脂が無機物を被覆した樹脂付着無機物が、水懸濁重合という設備的にも簡便な重合形態で作成することができる。
【0019】
上記懸濁重合方法には、モノマー添加法の違いから一括重合法、エマルジョン添加法の二つに大別され、特に限定されるものではない。
【0020】
懸濁重合時の一括重合法とは、例えば、まず、シラン処理無機物とラジカル重合性モノマー、及び重合開始剤を予め混合しモノマー・無機物混合体を調製する。一方、ジャケット付重合反応槽内にイオン交換水、分散剤を入れ、重合槽内部を減圧して酸素除去を行った後、窒素にて大気圧まで圧力を戻し、窒素雰囲気下において、上記モノマー・無機物混合体を一括して重合槽内へ添加する。撹拌翼によって、モノマー・無機物混合体を乳化懸濁した後、槽内をジャケットにより所定の温度に昇温して重合する方法である。また、モノマー・無機物混合体は分散剤及び仕込水の一部と予め混合乳化され、重合槽へ添加されても良い。
【0021】
懸濁重合時のエマルジョン添加法とは、例えば、まず、上記モノマー・無機物混合体を、分散剤とイオン交換水中に添加し、撹拌により充分乳化することにより予め乳化モノマー・無機物混合体溶液を調製する。次いでジャケット付重合反応槽内にイオン交換水を入れ、重合槽内部を減圧して酸素除去を行った後、窒素にて大気圧まで圧力を戻し、窒素雰囲気下において、槽内をジャケットにより所定の温度にした後、上記モノマー・無機物混合体溶液を一括添加、あるいは一定量ずつ滴下することにより重合する方法である。
【0022】
水性媒体中における乳化重合方法により作製される樹脂付着無機物は、例えば、先ずシラン処理無機物を水中に添加、攪拌する事で膨潤若しくは懸濁状態とした後に、重合開始剤とラジカル重合性モノマー及び分散剤とを添加し、モノマーをラジカル重合する事によって得られる。この時、シラン処理無機物は予め水中に分散させておく事により、ラジカル重合性モノマーとシランカップリング剤中の反応基とが共重合化される。その結果、無機物の周囲に樹脂が生成・付着する事となり、樹脂付着無機物が水媒体の乳化重合という設備的にも簡便な重合形態で作成する事が出来る。
【0023】
上記乳化重合法には、モノマー添加の違いからモノマー添加法、エマルジョン添加法の二つに大別され、特に限定されるものではない。
【0024】
乳化重合時のモノマー添加法とは、例えば、まず、シラン処理無機物をジャケット付重合反応槽内にイオン交換水と共に添加し、攪拌翼によって、シラン処理無機物を膨潤若しくは懸濁状態とする。更に、重合槽内部を減圧して酸素除去を行った後、窒素にて大気圧まで圧力を戻し、窒素雰囲気下において、分散剤と重合開始剤を重合槽に添加し、槽内をジャケットにより所定の温度に昇温して、ラジカル重合性モノマーを重合槽内へ一括添加、あるいは一定量ずつ滴下する事により重合する方法である。
【0025】
乳化重合時のエマルジョン添加法とは、例えば、まず、上記モノマー添加法と同様の操作により重合槽内を所定の温度に昇温した後、ラジカル重合性モノマーを分散剤及び仕込水の一部と予め混合乳化したものを、重合槽へ一括添加、あるいは一定量ずつ滴下する事により重合する方法である。
【0026】
上記分散剤は、懸濁重合方法では上記樹脂付着無機物を得る段階でシラン処理無機物とモノマーの混合乳化懸濁液の分散安定性を向上させ、重合を効率的に行う目的で添加される。また、乳化重合方法では上記ラジカル重合性モノマーを重合してなる樹脂の分散安定性を向上させ、均一に樹脂が付着した無機物を効率的に得る目的で添加される。例えば、アニオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤、部分ケン化ポリ酢酸ビニル、セルロース系分散剤、ゼラチン等が挙げられ、特に好ましくはアニオン系界面活性剤であり、具体的には、例えば、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステルアンモニウム塩等が挙げられる。
【0027】
上記懸濁重合方法での重合開始剤としては、油溶性のフリーラジカルを発生する化合物、例えば、ベンゾイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、ジブチルパーオキシジカーボネート、α−クミルパーオキシネオデカノエート等の有機系過酸化物、アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ系開始剤及びレドックス開始剤等が挙げられる。
【0028】
上記乳化重合方法での重合開始剤としては、水溶性のフリーラジカルを発生する化合物、例えば、過酸化水素、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム等の無機系過酸化物、4,4’−アゾビス−4−シアノバレリックアシッド等のアゾ系開始剤及びレドックス開始剤等が挙げられる。
また、上記懸濁重合方法及び乳化重合方法の何れの場合でも、必要に応じてpH調整剤、酸化防止剤等が添加されてもよい。
【0029】
重合の結果得られる樹脂付着無機物を含むスラリー中の無機物と樹脂とを合わせた固形分濃度は、特に限定されるものではないが、生産性、重合反応の安定性を鑑みて、10〜50重量%が好ましい。
上記スラリー中の樹脂付着無機物の平均粒子径は特に限定されないが、使用方法により好ましい粒子径が異なり、例えば、スラリーとして用いる場合は、大きくなると樹脂付着無機物と水の分離が起こりやすくなるため、30μm以下が適当である。一方、樹脂付着無機物を乾燥し、粉体として使用する場合は、乾燥工程の操作性等より10〜3000μmが適当である。
【0030】
上記塩化ビニルを主成分とする塩化ビニル系モノマーとは、塩化ビニルモノマー単体、若しくは、50重量%以上の塩化ビニルと塩化ビニルと共重合可能な他のモノマーとの混合物である。
塩化ビニルと共重合可能な他のモノマーとしては、例えば、酢酸ビニルなどのアルキルビニルエステル類;エチレン、プロピレンなどのα−モノオレフィン類;メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、オクチルアクリレートなどのアルキル(メタ)アクリレート類;アルキルビニルエーテル類;マレイミド類;塩化ビニリデン、スチレン誘導体等が挙げられ、これらの少なくとも1種が使用される。
【0031】
上記ポリ塩化ビニル系樹脂は、一般に、加熱・冷却の為のジャケット及び攪拌装置を備えた重合器中にて、以下の一連の操作を行い、バッチ式の水懸濁重合方法により製造される。
一般に行われているバッチ式水懸濁重合方法とは、重合器中に先ず水性媒体及び分散剤を仕込み、次に重合開始剤を仕込み、続いて重合器内を真空脱気した後に塩化ビニル系モノマーとを仕込み、昇温して重合反応を開始し、反応熱が出てきた時点から重合器ジャケットに冷却水を通して重合温度を維持した後、未反応モノマーを回収して、塩化ビニル系樹脂を得る方法であるが、この方法に限定されるものではない。
【0032】
本発明に関わるポリ塩化ビニル系樹脂は、上記バッチ式水懸濁重合時に樹脂付着無機物を共存させることが特徴で、重合器中に添加される時期としては、水性媒体の添加前から重合反応が開始された後の未反応モノマーを回収する段階までであればいつでもよく、特に、重合器内が高圧状態となる前の段階に添加するのが設備的に簡便となる為、望ましい。
また、共存させる樹脂付着無機物量は、必要な物性に応じて適宜決定されて良いが、生成されるポリ塩化ビニル系樹脂と同等量以下が望ましく、それ以上では、用いた無機物量の樹脂中への導入が不十分になる。
【0033】
上記ポリ塩化ビニル系樹脂の水懸濁重合時に使用される重合開始剤としては、先述した懸濁重合方法に使用される重合開始剤と同様のものが挙げられ、これらの少なくとも1種が使用される。
【0034】
上記ポリ塩化ビニル系樹脂の水懸濁重合時に使用される分散剤としては、特に限定されず、例えば、部分ケン化ポリビニルアルコール;メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース,ヒドロキシプロピルメチルセルロース、等の水溶性セルロース、ポリアクリル酸,ゼラチン,ポリエチレンオキサイド、等の水溶性高分子;ソルビタンモノラウレート,ソルビタンモノステアレート,グリセリントリステアレート、等の油溶性乳化剤;ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート,ポリオキシエチレングリセリンオレート、ラウリン酸ナトリウム等の水溶性乳化剤などが挙げられ、これらは単独または2種類以上を組み合わせて用いることができる。
さらに、一般の重合で適宜用いられる重合調整剤、連鎖移動剤、pH調整剤、ゲル化改良剤、帯電防止剤及び重合スケール付着防止剤等が添加されてもよい。
【0035】
上記のポリ塩化ビニル系樹脂の水懸濁重合時の重合温度としては公知の重合温度であればよく、特に限定されるものではない。また、重合器についても、形状、構造において、特に制限はなく、従来公知の重合器が使用される。
【0036】
【実施例】
以下、本発明の実施例について説明するが、下記の例に限定されるものではない。
表1〜表5に示した配合組成に基づいて、下記の手順でシラン処理無機物及び樹脂付着無機物を作成し、塩化ビニルモノマーと共に水懸濁重合を行い各種ポリ塩化ビニル系樹脂組成物を得た。
【0037】
〔ラジカル反応性官能基を持ったシランカップリング剤による無機物への処理〕
シラン処理無機物A〜F
表1に示した組成に基づいて、所定量の無機物とイオン交換水とを添加し、攪拌を行って3重量%の無機物分散水溶液を調整した。攪拌を続けながら所定量のシランカップリング剤を添加した後、90分間攪拌を行い無機物スラリーを得た。スラリーを130℃にて乾燥し、シラン処理無機物を得た。
〔樹脂付着無機物の作製〕
実施例1〜11、比較例5〜14(懸濁重合方法)
表2及び表3に示した組成に基づいて、所定量のシラン処理無機物もしくは未処理無機物、ラジカル重合性モノマーと、2,2−アゾビスイソブチロニトリル(シラン処理無機物とモノマーの重量和に対し0.5重量%)を混合、撹拌した。ついでイオン交換水(シラン処理無機物とモノマーの重量和に対し200重量%:全使用量の80%)に分散剤としてドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(シラン処理無機物とモノマーの重量和に対し3.0重量%)を添加し、この中に先のモノマー、無機物混合体を添加し、撹拌して乳化モノマー液を調製した。一方、重合器に残りのイオン交換水(シラン処理無機物とモノマーの重量和に対し50重量%)を入れ、攪拌を開始した。重合器内を減圧して容器内の脱酸素をおこなった後、窒素により圧力を大気圧まで戻して、内部を窒素雰囲気とした後、上記乳化モノマー液を一括に添加した。重合槽を80℃まで昇温して、重合を開始した。30分で重合を終了し、その後1時間の熟成期間を経た後、重合槽を室温まで冷却した。固形分濃度約30重量%、平均粒径約10μmの樹脂付着無機物を含むスラリーを得た。
【0038】
実施例12〜22、比較例15〜24(乳化重合方法)
表4及び表5に示した組成に基づいて、所定量のモノマーとイオン交換水(シラン処理無機物とモノマーの重量和に対し50重量%:全使用量の20%)、分散剤としてドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(シラン処理無機物とモノマーの重量和に対し3.0重量%)を混合、撹拌して乳化モノマー液を調製した。一方、重合器に残りのイオン交換水(シラン処理無機物とモノマーの重量和に対し200重量%)と所定量のシラン処理無機物を入れ、攪拌を開始した。重合器内を減圧して容器内の脱酸素をおこなった後、窒素により圧力を大気圧まで戻して、内部を窒素雰囲気とした後、重合槽を80℃まで昇温した。重合槽に過硫酸アンモニウム(モノマーの重量に対して0.5重量%)を添加した後、上記乳化モノマー液を重合槽に滴下し重合を開始した。モノマー滴下は90分間掛けて行い、その後1時間の熟成期間を経た後、重合槽を室温まで冷却した。固形分濃度約30重量%、平均粒径約10μmの樹脂付着無機物を含むスラリーを得た。
【0039】
実施例23、比較例25(乳化重合方法)
表4及び表5に記載の2種のモノマー(メチルメタクリレート、n−ブチルアクリレート)毎にイオン交換水(シラン処理無機物もしくは未処理無機物とモノマーの重量和に対し25重量%:全使用量の10%)、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(シラン処理無機物とモノマーの重量和に対し3.0重量%)を混合、撹拌して2種類の乳化モノマー液を調製した。
一方、重合器に残りのイオン交換水(シラン処理無機物もしくは未処理無機物とモノマーの重量和に対し200重量%)と所定量のシラン処理無機物もしくは未処理無機物を入れ、攪拌を開始した。重合器内を減圧して容器内の脱酸素をおこなった後、窒素により圧力を大気圧まで戻して、内部を窒素雰囲気とした後、重合槽を80℃まで昇温した。重合槽に過硫酸アンモニウム(総モノマーの重量に対して0.5重量%)を添加した後、上記乳化モノマー液の一方(メチルメタクリレートの乳化液)を重合槽に滴下し重合を開始した。モノマー滴下は45分間掛けて行った。その後、他方の乳化モノマー液(n−ブチルアクリレートの乳化液)を重合槽に45分間掛けて滴下し、その後1時間の熟成期間を経た後、重合槽を室温まで冷却した。固形分濃度約30重量%、平均粒径約10μmの樹脂付着無機物を含むスラリーを得た。
【0040】
〔塩化ビニル系樹脂組成物の作製〕
実施例1〜23、比較例1〜25
内容積20リットルでジャケットを備えたステンレス製重合器を脱気した後、脱イオン水9.5kg、部分ケン化ポリ酢酸ビニル(ケン化72モル%平均重合度800)4.2g、ヒドロキシポロピルメチルセルロース1g、上記樹脂付着無機物を含むスラリーを所定量、塩化ビニルモノマー7.2kg、重合開始剤ジ−2−エチルヘキシルパーオキシジカーボネート2gを仕込んだ。重合器内温を57℃に昇温して、重合反応を開始させた。その後、重合器の圧力が0.2MPa低下した時点で未反応塩化ビニルモノマーを回収し、脱水乾燥してポリ塩化ビニル系樹脂組成物を得た。
【0041】
〔ポリ塩化ビニル系樹脂組成物成型サンプルの作製〕
乾燥済みポリ塩化ビニル系樹脂100重量部に、有機錫系安定剤(三共有機合成社製、商品名「ONZ−6F」)1重量部、滑剤(三井化学社製、商品名「Hiwax2203A」)0.5重量部を攪拌混合し、ポリ塩化ビニル系樹脂コンパウンドを得た。尚、比較例2、6、16においては、更に表1に示す未処理無機物を同時に混合した。
得られたコンパウンドを6インチロ−ル成型機で190℃×3分間混練した後、厚さ1mmのシ−トとし、これをプレス成型機(圧力200℃予熱3分−加圧4分:圧力4.9MPa)によって、ポリ塩化ビニル系樹脂組成物成型サンプルを得た。
【0042】
〔評価〕
得られた各ポリ塩化ビニル系樹脂組成物及び塩化ビニル系樹脂組成物成型サンプルついて、下記の評価を行った。結果を表2〜表5に示す。
(無機物量)
乾燥させた各種ポリ塩化ビニル系樹脂組成物及びポリ塩化ビニル系樹脂組成物成型サンプルをるつぼ中にて強熱し、1000℃下で有機分を完全に焼却後、残った灰分より、各樹脂組成物中及び成型サンプル中の無機物量を算出した。
(引張強度)
上記成型品サンプルを用い、プラスチックの引張試験方法(JIS K 7113)に則り23℃にて、1号形試験片で引張試験を行い、引張強度を求めた。
(ビカット軟化温度)
上記成型品サンプルを用い、プラスチックの方法(JIS K 7206)に則り、10N加重、昇温速度50℃/hrにて測定した。
(線膨張率)
上記成型品サンプルを用い、プラスチックの線膨張試験方法(JIS K 7197)に則り、測定温度23℃〜70℃で、昇温速度5℃/minで線膨張率を測定した。
【0043】
【表1】
【0044】
【表2】
【0045】
【表3】
【0046】
【表4】
【0047】
【表5】
【0048】
【発明の効果】
本発明のポリ塩化ビニル系樹脂組成物は、ラジカル反応性官能基を持ったシランカップリング剤により表面処理された無機物を用い、且つ、ラジカル重合によって得られる熱可塑性樹脂によって前記無機物の周囲に樹脂が結合化され、表面が被覆された樹脂付着無機物とされているので、一般的な塩化ビニルの水性懸濁重合時に添加するだけで塩化ビニル樹脂中への導入が容易で、且つ、配合時と比較して同無機物含有量で諸物性が良好な塩化ビニル系樹脂組成物が得られ、設備的にも簡便な方法で安価に生産し得る。
【発明の属する技術分野】
本発明は無機充填剤を含有する塩化ビニル系樹脂組成物に関する。
【0002】
【従来の技術】
ポリ塩化ビニルを炭酸カルシウムなどの無機充填材で強化した樹脂組成物は広く知られている。しかし、これらの強化材はポリ塩化ビニルとの親和性が乏しく、これらを充填すると強化ポリ塩化ビニルの機械的強度や耐熱性は改良されるものの、靭性が低下するという問題がある。しかも、これら無機充填材で強化した樹脂組成物では、充填材を多量に配合しないと機械的強度や耐熱性が向上しないという問題があった。
また、ポリ塩化ビニルとの親和性を向上するために、無機物をシランカップリング処理するという方法は広く知られているが、機械的強度などの向上効果は得られないと言う問題があった。(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
無機物含有ポリ塩化ビニル系樹脂を用いて成形体を作製する際には、通常は、ポリ塩化ビニル系樹脂粉体と共に無機充填剤を混合して塩化ビニル系樹脂組成物を作製した後、成型加工工程を経て製品を得ている。この混合工程の削減、無機物の塩化ビニル系樹脂中への分散性を向上せしめる目的で、ポリ塩化ビニル系樹脂を作製する懸濁重合時に予め無機充填剤を樹脂中に導入させる方法が提案されている。
一例として、ノニオン系界面活性剤を用いて、無機物を樹脂中に導入する方法が提案されている(例えば、特許文献2参照)。しかし、この方法では、無機物によっては使用量よりも樹脂中へ導入される量が少なく、工程削減、物性改善効果に乏しい。また、無機物存在化で塩化ビニル系モノマーを重合し、無機物含有塩化ビニル系樹脂を得る方法が開示されている(例えば、特許文献3参照)。しかし、この方法では、水性媒体中での懸濁重合時に、無機物が水中へ移行してしまう為、物性改善には過剰量の無機物を使用しなければならず、コスト的な短所が見受けられる。又、無機物が単独で沈降してしまう為、重合後に無機物と樹脂との分離工程が必要になる、且つ、樹脂中へ多量に導入させることが困難である等の問題がある。
【0004】
【特許文献1】
特開平8−183863号公報(第1〜第4頁)
【特許文献2】
特開昭60−228505号公報(第1〜第6頁)
【特許文献3】
特開平10−110004号公報(第1〜第4頁)
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記従来技術の課題に鑑みてなされたものであり、無機物をポリ塩化ビニル樹脂中へ導入する際に、水相への移行を抑制して過剰に使用されず、樹脂中に分散しやすく、機械的強度や耐熱性などの諸物性が良好で、且つ、簡便な方法で得られるポリ塩化ビニル系樹脂を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記の課題について検討を重ねた結果、ラジカル反応性官能基を有するシランカップリング剤(以下「反応性シラン剤」と略す)により表面処理した無機物を用い、この無機物がラジカル重合性モノマーを重合してなる熱可塑性樹脂の周囲に結合化されて得られる、無機物表面が熱可塑性樹脂により被覆された樹脂付着無機物を調整したところ、この樹脂付着無機物の共存下で塩化ビニル系モノマーを重合することにより、無機物のポリ塩化ビニル系樹脂中への導入が容易で、且つ、無機物を樹脂に配合させる方法と比較して同じ無機物含有量で諸物性が良好なポリ塩化ビニル系樹脂組成物が得られることを見い出した。
本発明は、このような知見に基づいて、上記目的を達成するためになされたものであり、ラジカル反応性官能基を有するシランカップリング剤(S)で処理されてなる無機物(A)の周囲に、ラジカル重合によって得られる熱可塑性樹脂を主成分とする樹脂(B)が結合してなる樹脂付着無機物と、ポリ塩化ビニルを主成分とする樹脂からなるポリ塩化ビニル系樹脂(C)からなり、上記熱可塑性樹脂とポリ塩化ビニル系樹脂とがグラフト共重合されてなることを特徴とする無機物含有ポリ塩化ビニル系樹脂を提供する。
【0007】
上記のラジカル重合性モノマーとして、ラジカル重合活性の高い汎用モノマーを用いることにより、さらにコスト的に有利な製品を効率よく製造することができる。特に、(メタ)アクリレート等のアクリル系モノマーを用いるとこの効果は顕著である。
【0008】
本発明に使用される無機物は、ポリ塩化ビニル系樹脂の充填剤、物性強化剤として用いられるものであれば特に限定されず、例えば、炭酸カルシウムなどの金属無機酸塩、水酸化カルシウムなどの金属水酸化物、酸化マグネシウムや酸化チタンなどの金属酸化物、バーミキュライト、モンモリロナイト、バイデライト、ノントロナイト、サポナイトなどのスメクタイト族フィロ珪酸塩、白雲母、ソーダ雲母、絹雲母、セラドナイト、金雲母、フッ素金雲母などのマイカ族フィロ珪酸塩、カオリナイトなどのカオリン鉱物、パイロフィライトやタルク、テクト珪酸塩などが挙げられ、好ましくは、層状構造を有する無機物、例えばフィロ珪酸塩等が用いられる。これらは単独または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0009】
本発明では、ラジカル重合性モノマーを重合せしめてなる熱可塑性樹脂が、反応性シラン剤により処理された無機物表面と、反応性シラン剤を介して結合していることが特徴である。
無機物は反応性シラン剤により処理されることにより、ラジカル重合性モノマーとの共重合化が成される。その結果、樹脂付着無機物となり、塩化ビニルまたは塩化ビニルを主成分とする塩化ビニル系モノマーを水性媒体中で、上記樹脂付着無機物の存在下、懸濁重合することで効率よくポリ塩化ビニル系樹脂中に無機物を導入することが可能となり、且つ、無機物を樹脂に配合させる方法と比較して同じ無機物含有量で諸物性が良好なポリ塩化ビニル系樹脂組成物が得られる。
【0010】
本発明における反応性シラン剤は、ラジカル反応性官能基を有するシランカップリング剤であれば良く、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン等のビニルトリアルコキシシラン、p−スチリルトリメトキシシラン等のp−スチリルトリアルコキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルトリエトキシシラン等のγ−(メタ)アクリロキシプロピルトリアルコキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン等のγ−(メタ)アクリロキシプロピルメチルトリアルコキシシラン、ビニルトリクロロシラン等が挙げられ、これらは単独または2種以上を組み合わせて用いることができる。反応性シラン剤は特に限定されないが、取り扱いの簡便さを鑑み、末端アルコキシ含有シランカップリング剤が望ましい。
【0011】
上記反応性シラン剤を用いた無機物への処理方法は、特に限定されることはなく、公知の方法で行うことが出来る。また、無機物に対する反応性シラン剤の使用量も特に限定されることはない。
【0012】
無機物と熱可塑性樹脂からなる樹脂付着無機物の形状については、個々の無機物粒子表面が樹脂層により被覆された形状、単独無機物粒子よりも小さな樹脂粒子により個々の無機物もしくは複数個の粒子が覆われた形状、熱可塑性樹脂による樹脂壁が一層以上形成されてなる樹脂粒子中に無機物が個々に若しくは複数個内包されてなる粒子形状等が挙げられるが、これらは特に限定されるものではない。
【0013】
本発明では、無機物の周囲に結合化されるものとして、ラジカル重合によって合成可能な熱可塑性樹脂を用いることが特徴であり、上記熱可塑性樹脂として、ポリ(メタ)アクリレート、ポリスチレン誘導体、又はポリ酢酸ビニル誘導体等のラジカル重合活性の高いモノマーから合成される汎用樹脂が好適に用いられ、特に好ましくは、ポリ(メタ)アクリレート等が用いられる。これらは単独あるいは共重合体として使用される。
【0014】
上記ラジカル重合性モノマーとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、クミル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート等のアルキル(メタ)アクリレート、スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、p−クロロスチレン等のスチレン誘導体、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等の不飽和ニトリル、無水マレイン酸、塩化ビニリデン、マレイミド誘導体等が挙げられ、これらは単独または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0015】
上記のラジカル重合性モノマーには、熱可塑性樹脂の機械的強度を改善する事で、ラジカル重合可能な多官能性モノマーが添加されてもよい。上記多官能性モノマーとしては、特に限定はされないが、例えば、ジ(メタ)アクリレートとしては、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート等が挙げられ、トリ(メタ)アクリレートとしては、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリストールトリ(メタ)アクリレート等が挙げられる。また、その他の多官能性モノマーとしては、ペンタエリストールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリストールヘキサ(メタ)アクリレート、ジアリルフタレート、ジアリルフマレート等のジもしくはトリアリル化合物、ジビニルベンゼン、ブタジエン等のジビニル化合物等が挙げられ、これらは単独または2種類以上を組み合わせて用いることができる。
多官能性モノマーは、多く使用すると機械的強度が大きく向上し、結果として、塩化ビニル系樹脂中への導入を抑制してしまうので、多く使用しない、もしくは、使用しないことが望ましい。
【0016】
上記無機物の周囲に、ラジカル重合によって得られる熱可塑性樹脂が結合化されてなる樹脂付着無機物を作製する際の反応性シラン剤により処理された無機物(以下「シラン処理無機物」と略す)とラジカル重合性モノマーとの比は、シラン処理無機物1〜75重量%とラジカル重合性モノマー25〜99重量%であることが好ましい。シラン処理無機物量が75重量%を超え、ラジカル重合性モノマーが25重量%未満になると、無機物に付着する樹脂量が少なくなり、無機物に樹脂を結合化させてポリ塩化ビニル樹脂への導入を容易にすると共に物性を向上させるという本発明の効果が認められ難くなってしまう。
【0017】
本発明の樹脂付着無機物は、水性媒体中における懸濁重合により作製する方法、もしくは、乳化重合により作製する方法の二通りに大別されるが、特に限定されるものではない。
【0018】
水性媒体中における懸濁重合方法により作製される樹脂付着無機物は、例えば、先ずラジカル重合性モノマーとシラン処理無機物及び重合開始剤を混合し、その後、分散剤を含む水中にその混合物を乳化懸濁し、油滴中のモノマーをラジカル重合することによって得られる。この時、シラン処理無機物は予めモノマーと混合しておくことにより、水中に乳化懸濁されたとき及び重合中においても、無機物はモノマー油滴中に存在することとなる。その結果、シランカップリング剤中の反応基とラジカル反応性モノマーとが共重合化され、生成した熱可塑性樹脂が無機物を被覆した樹脂付着無機物が、水懸濁重合という設備的にも簡便な重合形態で作成することができる。
【0019】
上記懸濁重合方法には、モノマー添加法の違いから一括重合法、エマルジョン添加法の二つに大別され、特に限定されるものではない。
【0020】
懸濁重合時の一括重合法とは、例えば、まず、シラン処理無機物とラジカル重合性モノマー、及び重合開始剤を予め混合しモノマー・無機物混合体を調製する。一方、ジャケット付重合反応槽内にイオン交換水、分散剤を入れ、重合槽内部を減圧して酸素除去を行った後、窒素にて大気圧まで圧力を戻し、窒素雰囲気下において、上記モノマー・無機物混合体を一括して重合槽内へ添加する。撹拌翼によって、モノマー・無機物混合体を乳化懸濁した後、槽内をジャケットにより所定の温度に昇温して重合する方法である。また、モノマー・無機物混合体は分散剤及び仕込水の一部と予め混合乳化され、重合槽へ添加されても良い。
【0021】
懸濁重合時のエマルジョン添加法とは、例えば、まず、上記モノマー・無機物混合体を、分散剤とイオン交換水中に添加し、撹拌により充分乳化することにより予め乳化モノマー・無機物混合体溶液を調製する。次いでジャケット付重合反応槽内にイオン交換水を入れ、重合槽内部を減圧して酸素除去を行った後、窒素にて大気圧まで圧力を戻し、窒素雰囲気下において、槽内をジャケットにより所定の温度にした後、上記モノマー・無機物混合体溶液を一括添加、あるいは一定量ずつ滴下することにより重合する方法である。
【0022】
水性媒体中における乳化重合方法により作製される樹脂付着無機物は、例えば、先ずシラン処理無機物を水中に添加、攪拌する事で膨潤若しくは懸濁状態とした後に、重合開始剤とラジカル重合性モノマー及び分散剤とを添加し、モノマーをラジカル重合する事によって得られる。この時、シラン処理無機物は予め水中に分散させておく事により、ラジカル重合性モノマーとシランカップリング剤中の反応基とが共重合化される。その結果、無機物の周囲に樹脂が生成・付着する事となり、樹脂付着無機物が水媒体の乳化重合という設備的にも簡便な重合形態で作成する事が出来る。
【0023】
上記乳化重合法には、モノマー添加の違いからモノマー添加法、エマルジョン添加法の二つに大別され、特に限定されるものではない。
【0024】
乳化重合時のモノマー添加法とは、例えば、まず、シラン処理無機物をジャケット付重合反応槽内にイオン交換水と共に添加し、攪拌翼によって、シラン処理無機物を膨潤若しくは懸濁状態とする。更に、重合槽内部を減圧して酸素除去を行った後、窒素にて大気圧まで圧力を戻し、窒素雰囲気下において、分散剤と重合開始剤を重合槽に添加し、槽内をジャケットにより所定の温度に昇温して、ラジカル重合性モノマーを重合槽内へ一括添加、あるいは一定量ずつ滴下する事により重合する方法である。
【0025】
乳化重合時のエマルジョン添加法とは、例えば、まず、上記モノマー添加法と同様の操作により重合槽内を所定の温度に昇温した後、ラジカル重合性モノマーを分散剤及び仕込水の一部と予め混合乳化したものを、重合槽へ一括添加、あるいは一定量ずつ滴下する事により重合する方法である。
【0026】
上記分散剤は、懸濁重合方法では上記樹脂付着無機物を得る段階でシラン処理無機物とモノマーの混合乳化懸濁液の分散安定性を向上させ、重合を効率的に行う目的で添加される。また、乳化重合方法では上記ラジカル重合性モノマーを重合してなる樹脂の分散安定性を向上させ、均一に樹脂が付着した無機物を効率的に得る目的で添加される。例えば、アニオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤、部分ケン化ポリ酢酸ビニル、セルロース系分散剤、ゼラチン等が挙げられ、特に好ましくはアニオン系界面活性剤であり、具体的には、例えば、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステルアンモニウム塩等が挙げられる。
【0027】
上記懸濁重合方法での重合開始剤としては、油溶性のフリーラジカルを発生する化合物、例えば、ベンゾイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、ジブチルパーオキシジカーボネート、α−クミルパーオキシネオデカノエート等の有機系過酸化物、アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ系開始剤及びレドックス開始剤等が挙げられる。
【0028】
上記乳化重合方法での重合開始剤としては、水溶性のフリーラジカルを発生する化合物、例えば、過酸化水素、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム等の無機系過酸化物、4,4’−アゾビス−4−シアノバレリックアシッド等のアゾ系開始剤及びレドックス開始剤等が挙げられる。
また、上記懸濁重合方法及び乳化重合方法の何れの場合でも、必要に応じてpH調整剤、酸化防止剤等が添加されてもよい。
【0029】
重合の結果得られる樹脂付着無機物を含むスラリー中の無機物と樹脂とを合わせた固形分濃度は、特に限定されるものではないが、生産性、重合反応の安定性を鑑みて、10〜50重量%が好ましい。
上記スラリー中の樹脂付着無機物の平均粒子径は特に限定されないが、使用方法により好ましい粒子径が異なり、例えば、スラリーとして用いる場合は、大きくなると樹脂付着無機物と水の分離が起こりやすくなるため、30μm以下が適当である。一方、樹脂付着無機物を乾燥し、粉体として使用する場合は、乾燥工程の操作性等より10〜3000μmが適当である。
【0030】
上記塩化ビニルを主成分とする塩化ビニル系モノマーとは、塩化ビニルモノマー単体、若しくは、50重量%以上の塩化ビニルと塩化ビニルと共重合可能な他のモノマーとの混合物である。
塩化ビニルと共重合可能な他のモノマーとしては、例えば、酢酸ビニルなどのアルキルビニルエステル類;エチレン、プロピレンなどのα−モノオレフィン類;メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、オクチルアクリレートなどのアルキル(メタ)アクリレート類;アルキルビニルエーテル類;マレイミド類;塩化ビニリデン、スチレン誘導体等が挙げられ、これらの少なくとも1種が使用される。
【0031】
上記ポリ塩化ビニル系樹脂は、一般に、加熱・冷却の為のジャケット及び攪拌装置を備えた重合器中にて、以下の一連の操作を行い、バッチ式の水懸濁重合方法により製造される。
一般に行われているバッチ式水懸濁重合方法とは、重合器中に先ず水性媒体及び分散剤を仕込み、次に重合開始剤を仕込み、続いて重合器内を真空脱気した後に塩化ビニル系モノマーとを仕込み、昇温して重合反応を開始し、反応熱が出てきた時点から重合器ジャケットに冷却水を通して重合温度を維持した後、未反応モノマーを回収して、塩化ビニル系樹脂を得る方法であるが、この方法に限定されるものではない。
【0032】
本発明に関わるポリ塩化ビニル系樹脂は、上記バッチ式水懸濁重合時に樹脂付着無機物を共存させることが特徴で、重合器中に添加される時期としては、水性媒体の添加前から重合反応が開始された後の未反応モノマーを回収する段階までであればいつでもよく、特に、重合器内が高圧状態となる前の段階に添加するのが設備的に簡便となる為、望ましい。
また、共存させる樹脂付着無機物量は、必要な物性に応じて適宜決定されて良いが、生成されるポリ塩化ビニル系樹脂と同等量以下が望ましく、それ以上では、用いた無機物量の樹脂中への導入が不十分になる。
【0033】
上記ポリ塩化ビニル系樹脂の水懸濁重合時に使用される重合開始剤としては、先述した懸濁重合方法に使用される重合開始剤と同様のものが挙げられ、これらの少なくとも1種が使用される。
【0034】
上記ポリ塩化ビニル系樹脂の水懸濁重合時に使用される分散剤としては、特に限定されず、例えば、部分ケン化ポリビニルアルコール;メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース,ヒドロキシプロピルメチルセルロース、等の水溶性セルロース、ポリアクリル酸,ゼラチン,ポリエチレンオキサイド、等の水溶性高分子;ソルビタンモノラウレート,ソルビタンモノステアレート,グリセリントリステアレート、等の油溶性乳化剤;ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート,ポリオキシエチレングリセリンオレート、ラウリン酸ナトリウム等の水溶性乳化剤などが挙げられ、これらは単独または2種類以上を組み合わせて用いることができる。
さらに、一般の重合で適宜用いられる重合調整剤、連鎖移動剤、pH調整剤、ゲル化改良剤、帯電防止剤及び重合スケール付着防止剤等が添加されてもよい。
【0035】
上記のポリ塩化ビニル系樹脂の水懸濁重合時の重合温度としては公知の重合温度であればよく、特に限定されるものではない。また、重合器についても、形状、構造において、特に制限はなく、従来公知の重合器が使用される。
【0036】
【実施例】
以下、本発明の実施例について説明するが、下記の例に限定されるものではない。
表1〜表5に示した配合組成に基づいて、下記の手順でシラン処理無機物及び樹脂付着無機物を作成し、塩化ビニルモノマーと共に水懸濁重合を行い各種ポリ塩化ビニル系樹脂組成物を得た。
【0037】
〔ラジカル反応性官能基を持ったシランカップリング剤による無機物への処理〕
シラン処理無機物A〜F
表1に示した組成に基づいて、所定量の無機物とイオン交換水とを添加し、攪拌を行って3重量%の無機物分散水溶液を調整した。攪拌を続けながら所定量のシランカップリング剤を添加した後、90分間攪拌を行い無機物スラリーを得た。スラリーを130℃にて乾燥し、シラン処理無機物を得た。
〔樹脂付着無機物の作製〕
実施例1〜11、比較例5〜14(懸濁重合方法)
表2及び表3に示した組成に基づいて、所定量のシラン処理無機物もしくは未処理無機物、ラジカル重合性モノマーと、2,2−アゾビスイソブチロニトリル(シラン処理無機物とモノマーの重量和に対し0.5重量%)を混合、撹拌した。ついでイオン交換水(シラン処理無機物とモノマーの重量和に対し200重量%:全使用量の80%)に分散剤としてドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(シラン処理無機物とモノマーの重量和に対し3.0重量%)を添加し、この中に先のモノマー、無機物混合体を添加し、撹拌して乳化モノマー液を調製した。一方、重合器に残りのイオン交換水(シラン処理無機物とモノマーの重量和に対し50重量%)を入れ、攪拌を開始した。重合器内を減圧して容器内の脱酸素をおこなった後、窒素により圧力を大気圧まで戻して、内部を窒素雰囲気とした後、上記乳化モノマー液を一括に添加した。重合槽を80℃まで昇温して、重合を開始した。30分で重合を終了し、その後1時間の熟成期間を経た後、重合槽を室温まで冷却した。固形分濃度約30重量%、平均粒径約10μmの樹脂付着無機物を含むスラリーを得た。
【0038】
実施例12〜22、比較例15〜24(乳化重合方法)
表4及び表5に示した組成に基づいて、所定量のモノマーとイオン交換水(シラン処理無機物とモノマーの重量和に対し50重量%:全使用量の20%)、分散剤としてドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(シラン処理無機物とモノマーの重量和に対し3.0重量%)を混合、撹拌して乳化モノマー液を調製した。一方、重合器に残りのイオン交換水(シラン処理無機物とモノマーの重量和に対し200重量%)と所定量のシラン処理無機物を入れ、攪拌を開始した。重合器内を減圧して容器内の脱酸素をおこなった後、窒素により圧力を大気圧まで戻して、内部を窒素雰囲気とした後、重合槽を80℃まで昇温した。重合槽に過硫酸アンモニウム(モノマーの重量に対して0.5重量%)を添加した後、上記乳化モノマー液を重合槽に滴下し重合を開始した。モノマー滴下は90分間掛けて行い、その後1時間の熟成期間を経た後、重合槽を室温まで冷却した。固形分濃度約30重量%、平均粒径約10μmの樹脂付着無機物を含むスラリーを得た。
【0039】
実施例23、比較例25(乳化重合方法)
表4及び表5に記載の2種のモノマー(メチルメタクリレート、n−ブチルアクリレート)毎にイオン交換水(シラン処理無機物もしくは未処理無機物とモノマーの重量和に対し25重量%:全使用量の10%)、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(シラン処理無機物とモノマーの重量和に対し3.0重量%)を混合、撹拌して2種類の乳化モノマー液を調製した。
一方、重合器に残りのイオン交換水(シラン処理無機物もしくは未処理無機物とモノマーの重量和に対し200重量%)と所定量のシラン処理無機物もしくは未処理無機物を入れ、攪拌を開始した。重合器内を減圧して容器内の脱酸素をおこなった後、窒素により圧力を大気圧まで戻して、内部を窒素雰囲気とした後、重合槽を80℃まで昇温した。重合槽に過硫酸アンモニウム(総モノマーの重量に対して0.5重量%)を添加した後、上記乳化モノマー液の一方(メチルメタクリレートの乳化液)を重合槽に滴下し重合を開始した。モノマー滴下は45分間掛けて行った。その後、他方の乳化モノマー液(n−ブチルアクリレートの乳化液)を重合槽に45分間掛けて滴下し、その後1時間の熟成期間を経た後、重合槽を室温まで冷却した。固形分濃度約30重量%、平均粒径約10μmの樹脂付着無機物を含むスラリーを得た。
【0040】
〔塩化ビニル系樹脂組成物の作製〕
実施例1〜23、比較例1〜25
内容積20リットルでジャケットを備えたステンレス製重合器を脱気した後、脱イオン水9.5kg、部分ケン化ポリ酢酸ビニル(ケン化72モル%平均重合度800)4.2g、ヒドロキシポロピルメチルセルロース1g、上記樹脂付着無機物を含むスラリーを所定量、塩化ビニルモノマー7.2kg、重合開始剤ジ−2−エチルヘキシルパーオキシジカーボネート2gを仕込んだ。重合器内温を57℃に昇温して、重合反応を開始させた。その後、重合器の圧力が0.2MPa低下した時点で未反応塩化ビニルモノマーを回収し、脱水乾燥してポリ塩化ビニル系樹脂組成物を得た。
【0041】
〔ポリ塩化ビニル系樹脂組成物成型サンプルの作製〕
乾燥済みポリ塩化ビニル系樹脂100重量部に、有機錫系安定剤(三共有機合成社製、商品名「ONZ−6F」)1重量部、滑剤(三井化学社製、商品名「Hiwax2203A」)0.5重量部を攪拌混合し、ポリ塩化ビニル系樹脂コンパウンドを得た。尚、比較例2、6、16においては、更に表1に示す未処理無機物を同時に混合した。
得られたコンパウンドを6インチロ−ル成型機で190℃×3分間混練した後、厚さ1mmのシ−トとし、これをプレス成型機(圧力200℃予熱3分−加圧4分:圧力4.9MPa)によって、ポリ塩化ビニル系樹脂組成物成型サンプルを得た。
【0042】
〔評価〕
得られた各ポリ塩化ビニル系樹脂組成物及び塩化ビニル系樹脂組成物成型サンプルついて、下記の評価を行った。結果を表2〜表5に示す。
(無機物量)
乾燥させた各種ポリ塩化ビニル系樹脂組成物及びポリ塩化ビニル系樹脂組成物成型サンプルをるつぼ中にて強熱し、1000℃下で有機分を完全に焼却後、残った灰分より、各樹脂組成物中及び成型サンプル中の無機物量を算出した。
(引張強度)
上記成型品サンプルを用い、プラスチックの引張試験方法(JIS K 7113)に則り23℃にて、1号形試験片で引張試験を行い、引張強度を求めた。
(ビカット軟化温度)
上記成型品サンプルを用い、プラスチックの方法(JIS K 7206)に則り、10N加重、昇温速度50℃/hrにて測定した。
(線膨張率)
上記成型品サンプルを用い、プラスチックの線膨張試験方法(JIS K 7197)に則り、測定温度23℃〜70℃で、昇温速度5℃/minで線膨張率を測定した。
【0043】
【表1】
【0044】
【表2】
【0045】
【表3】
【0046】
【表4】
【0047】
【表5】
【0048】
【発明の効果】
本発明のポリ塩化ビニル系樹脂組成物は、ラジカル反応性官能基を持ったシランカップリング剤により表面処理された無機物を用い、且つ、ラジカル重合によって得られる熱可塑性樹脂によって前記無機物の周囲に樹脂が結合化され、表面が被覆された樹脂付着無機物とされているので、一般的な塩化ビニルの水性懸濁重合時に添加するだけで塩化ビニル樹脂中への導入が容易で、且つ、配合時と比較して同無機物含有量で諸物性が良好な塩化ビニル系樹脂組成物が得られ、設備的にも簡便な方法で安価に生産し得る。
Claims (1)
- ラジカル反応性官能基を有するシランカップリング剤(S)で処理されてなる無機物(A)の周囲に、ラジカル重合によって得られる熱可塑性樹脂を主成分とする樹脂(B)が結合してなる樹脂付着無機物と、ポリ塩化ビニルを主成分とする樹脂からなるポリ塩化ビニル系樹脂(C)からなり、上記熱可塑性樹脂とポリ塩化ビニル系樹脂とがグラフト共重合されてなることを特徴とする無機物含有ポリ塩化ビニル系樹脂。
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