JP2004107197A - フラーレン類の製造方法及びフラーレン類の分離方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】多環式芳香族炭化水素の含有量の少ない、高純度のフラーレン類を製造する方法を提供する。
【解決手段】以下の工程を有するフラーレン類の製造方法。
(工程A)フラーレン類、多環式芳香族炭化水素、及び炭素系高分子成分を含む混合物を生成する工程、
(工程B)該混合物を、多環式芳香族炭化水素と、フラーレン類及び炭素系高分子成分の混合物とに分離する工程、
(工程C)フラーレン類及び炭素系高分子成分の混合物をフラーレン類と炭素系高分子成分とに分離する工程。
【選択図】 図3
【解決手段】以下の工程を有するフラーレン類の製造方法。
(工程A)フラーレン類、多環式芳香族炭化水素、及び炭素系高分子成分を含む混合物を生成する工程、
(工程B)該混合物を、多環式芳香族炭化水素と、フラーレン類及び炭素系高分子成分の混合物とに分離する工程、
(工程C)フラーレン類及び炭素系高分子成分の混合物をフラーレン類と炭素系高分子成分とに分離する工程。
【選択図】 図3
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は新しい炭素材料であるフラーレン類、中でもC60、C70、C76、C78、C82、C84の分子構造を有するフラーレン類の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
新しい炭素材料であるフラーレンは、特殊な分子構造から特異な物性を示すことが期待され、その性質及び用途開発についての研究が盛んに進められている。フラーレンは、例えば、ダイヤモンドコーティング、電池材料、塗料、断熱材、潤滑材、化粧品等の分野への利用が期待されている。
【0003】
フラーレンの製造方法としては、グラファイト等炭素質材料から成る電極を原料としてこの電極間にアーク放電によって原料を蒸発させる方法(アーク放電法)、炭素質原料に高電流を流して原料を蒸発させる方法(抵抗加熱法)、高エネルギー密度のパルスレーザー照射によって炭素質原料を蒸発させる方法(レーザー蒸発法)、ベンゼン等の有機物を不完全燃焼させる方法(燃焼法)、ベンゼン等の有機物を熱分解させる方法(熱分解法)等が知られている。
【0004】
このうち、燃焼法と熱分解法は、大量にフラーレンを精製することができるという点で有用である。一方、燃焼法や熱分解法等のように原料として炭化水素化合物を用いる方法では、原料が水素原子を有しているために、多環式芳香族炭化水素が副生する。
例えば、燃焼法によりフラーレンを製造する場合、制御された条件下でトルエン等の炭化水素化合物を不完全燃焼させると、C60の分子構造を有するフラーレン及びC70の分子構造を有するフラーレンを主とする複数のフラーレンを含んだ煤状物質が得られるが、この煤状物質中には、通常10〜30重量%程度のフラーレン類と、10ppm〜5重量%の多環式芳香族炭化水素が含まれている。煤状物質中のフラーレン類と多環式芳香族炭化水素の残分は、グラファイト構造を持つ炭素や、グラファイト構造を骨格として若干の水素原子を有する高分子の炭化水素やカーボンブラック等(以下、「炭素系高分子成分」と称することがある)である。
【0005】
この煤状物質に含有されているベンゾピレン等に代表される多環式芳香族炭化水素は、組成的に炭化水素の中でも水素原子の割合が少なくフラーレン類と類似している。従って、フラーレン類に不純物として含有されているとフラーレン類の反応性を阻害したり、フラーレン類の固有の性質を遮蔽したりする可能性もある。またこの様な多環式芳香族炭化水素は毒性が高いので、安全上の観点からもこれら多環式芳香族炭化水素は極力減少させる必要があると考えられている。
【0006】
燃焼法又は熱分解法によってフラーレンと共に多環式芳香族炭化水素が生成することは、従来から知られている(例えば、特許文献1、2参照)。また、フラーレンを精製する方法としては、種々の充填材を用いたカラムによる分離(例えば、特許文献3、4参照)が知られている。
【0007】
【特許文献1】PCT92/20622号公報
【特許文献2】PCT95/06001号公報
【特許文献3】特開平6−32151号公報
【特許文献4】米国特許第5662876号公報
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、燃焼法又は熱分解法によってフラーレン類と共に多環式芳香族炭化水素を生成させた場合、この混合物から、多環式芳香族炭化水素を効率よく除去する工業的、かつ、具体的手段については示されていなかった。またフラーレン類の原料として炭化水素を用いていない場合は、そもそも多環式芳香族炭化水素が生成せず、これを効率よく分離することについては何ら示されていなかった。
【0009】
更に、フラーレンを種々の充填材を用いたカラムによる分離精製する方法は、大量のフラーレン類を製造するためには、適用が困難であった。
本発明は、フラーレン類、多環式芳香族炭化水素、及び炭素系高分子成分の混合物から、生産性が良く、かつ、純度の高いフラーレン類を分離することができるフラーレン類の製造方法を提供することを目的とする。さらに本発明は、大量に、かつ、純度よく生産されるフラーレン類を提供することを目的とする。また更には、多環式芳香族炭化水素を環境中に排出することのない、フラーレン類の製造方法を提供することを目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明者が鋭意検討した結果、以下の工程を有するフラーレンの製造方法を採用することにより、上記の目的を解決することを見いだし、本発明を完成させた。
即ち本発明の要旨は、以下の工程を有するフラーレン類の製造方法に存する。
(工程A)フラーレン、多環式芳香族炭化水素、及び炭素系高分子成分を含む混合物を生成する工程、
(工程B)該混合物を、多環式芳香族炭化水素と、フラーレン及び炭素系高分子成分の混合物とに分離する工程、
(工程C)フラーレン及び炭素系高分子成分の混合物をフラーレンと炭素系高分子成分とに分離する工程。
【0011】
また本発明の別の要旨は、以下の工程を有するフラーレン類の製造方法に存する。
(工程A)フラーレン、多環式芳香族炭化水素、及び炭素系高分子成分を含む混合物を生成する工程、
(工程D)該混合物を、多環式芳香族炭化水素及びフラーレンの混合物、及び炭素系高分子成分とに分離する工程、
(工程E)多環式芳香族炭化水素及びフラーレンの混合物を多環式芳香族炭化水素とフラーレンとに分離する工程。
【0012】
これらの製造方法を用いてフラーレンを製造することによって、純度の高いフラーレンを大量に分離することができる。そしてこれらの製造方法に以下の工程を付すことによって、高濃度でフラーレン類を分離すること及び多環状芳香族炭化水素を環境中に排出しないことを可能とした。
(工程F)工程Bまたは工程Eにて得られた多環式芳香族炭化水素を炭化水素化合物とともに工程Aの原料として再利用する工程。
【0013】
更に本発明の別の要旨は、以下の工程を有するフラーレンの分離方法に存する。
(工程B)フラーレン、多環式芳香族炭化水素、及び炭素系高分子成分を含む混合物を、多環式芳香族炭化水素と、フラーレン及び炭素系高分子成分の混合物とに分離する工程、
(工程C)フラーレン及び炭素系高分子成分の混合物をフラーレンと炭素系高分子成分とに分離する工程。
【0014】
更にまた、本発明の別の要旨は、以下の工程を有するフラーレンの分離方法に存する。
(工程D)フラーレン、多環式芳香族炭化水素、及び炭素系高分子成分を含む混合物を、多環式芳香族炭化水素及びフラーレンの混合物、及び炭素系高分子成分とに分離する工程、
(工程E)多環式芳香族炭化水素及びフラーレンの混合物を多環式芳香族炭化水素とフラーレンとに分離する工程。
【0015】
【発明の実施の形態】
本発明は、フラーレン類を製造又は分離する方法である。このフラーレン類とは、60個以上の炭素原子が球状に結合した球状炭素分子をいい、具体的には、炭素数60、70、76、78、82、84等の分子構造を有する各フラーレンの総称をいう。本発明においては、炭素数60の分子構造を有するフラーレンを「C60」、炭素数70の分子構造を有するフラーレンを「C70」、炭素数76の分子構造を有するフラーレンを「C76」、炭素数78の分子構造を有するフラーレンを「C78」、炭素数82の分子構造を有するフラーレンを「C82」、炭素数84の分子構造を有するフラーレンを「C84」と表記し、これらの各分子構造を有するフラーレン類やこれら2種以上の混合物を「フラーレン類」と表記す。
【0016】
まず、フラーレンを生成する方法(工程A)について説明する。
(工程A)
この発明にかかるフラーレン類は、特に限定されないが、好ましくは炭化水素化合物原料を不完全燃焼させる燃焼法、又は高熱下に炭化水素化合物原料を分解させる熱分解法によって生成される。この燃焼法や熱分解法によっては、フラーレン類だけでなく、このフラーレン類に加え、多環式芳香族炭化水素、及び炭素系高分子成分の混合物、いわゆる煤状物質が得られる。この燃焼法又は熱分解法であれば、該混合物を大量に生産することが可能である。中でも燃焼法によるものは、フラーレン、多環式芳香族炭化水素及び炭素系高分子成分の混合物の内、多環式芳香族炭化水素の生成割合が比較的少なくできるので好ましい。
【0017】
なお本発明における多環式芳香族炭化水素とは、ベンツアントラセン、ベンツピレン等の多環を有する芳香族炭化水素をいう。また炭素系高分子成分とは、グラファイト構造を持つ炭素、グラファイト構造を骨格として若干の水素原子を有する高分子の炭化水素、カーボンブラック等のフラーレンより炭素数の多い炭化水素化合物の集合体をいう。
【0018】
上記の燃焼法又は熱分解法におけるフラーレンの原料としては、ベンゼン、トルエン、キシレン、ナフタレン、メチルナフタレン、アントラセン、フェナントレン等の炭素数6〜20の芳香族炭化水素を用いることが好ましく、中でも炭素数6〜15の芳香族炭化水素を用いることが好ましい。特に、取り扱いの容易さから常温常圧で液体である芳香族炭化水素を用いることが好ましい。また原料としては、これらの芳香族炭化水素に併用してヘキサン、ヘプタン、オクタン等の脂肪族炭化水素を用いても良い。更に、常温常圧で固体の炭化水素を、液体の炭化水素に溶解して用いることもできる。
【0019】
燃焼法によりフラーレンを製造する場合、圧力条件としては1330〜13300Pa(10〜100Torr)が好ましく、3990〜6650Pa(30〜50Torr)が更に好ましい。温度条件としては800〜2500℃が好ましく、1000〜2000℃が更に好ましい。圧力が上記範囲より著しく高いと、フラーレンの生成率が極端に低下する場合があり、逆に著しく低いと製造装置の制約が大きく、工業的な製造が困難となる。また温度が上記範囲から著しく外れると、フラーレンの生成率が極端に低下する。
【0020】
燃焼法においては、フラーレンの原料は、同時に熱源としても作用する。即ち、原料炭化水素は酸素と反応して発熱してフラーレンの生成が可能となる温度に上昇させるとともに、原料炭化水素が脱水素されることにより、フラーレン骨格を形成するための炭素ユニットを生成するものと考えられている。炭素ユニットは一定の圧力、温度条件で集合してフラーレン類を形成する。
【0021】
また、原料の炭化水素から、炭素のみで構成されたフラーレンを生成するため、酸素の使用量としては原料の炭化水素の炭素原子/水素原子の比により若干異なる。例えば原料炭化水素としてトルエンを用いた場合には、トルエンに対して0.5〜9倍モルが好ましく、中でも1〜5倍モルが好ましい。トルエン以外の原料を用いる場合には、原料である炭化水素の炭素原子/水素原子の比を勘案し、用いる酸素の量を適宜調節すればよい。酸素の量が多すぎると、原料の炭化水素が燃焼して二酸化炭素に変換される割合が多くなり、フラーレンの生成率が低下する。また酸素量が少な過ぎると、原料中の水素原子が消費されず、多環式芳香族炭化水素の生成量が多くなる。
【0022】
燃焼法における反応系には、酸素以外に、フラーレンに対して不活性な気体を存在させていても良い。これら不活性気体としては例えば、ヘリウム、ネオン、アルゴン、窒素、二酸化炭素等が挙げられる。
燃焼法によって得られた上記混合物には、フラーレン類が5重量%以上含まれていることが好ましく、10%以上含まれていることが更に好ましく、15%以上含まれていることが特に好ましい。
【0023】
また本発明により製造されるフラーレン類は、フラーレン構造を有していれば炭素数に制限はないが、通常は炭素数60〜84のフラーレン類であり、中でもC60とC70の割合が全フラーレン類中好ましくは50%以上であり、更に好ましくは70%以上であり、特に好ましくは80%以上である。
多環式芳香族炭化水素の生成は、燃焼法における反応メカニズムから避けられないものであるが、その生成量は極力少なくなる方がよい。従って、燃焼法によって得られた煤状物質中の多環式芳香族炭化水素は100ppm〜10000ppmが好ましく、100ppm〜5000ppmが更に好ましく、100ppm〜1000ppmが特に好ましい。
【0024】
上記の方法で得られた混合物からフラーレン類を分離・精製するには、大きく分けて以下の2つの方式がある。即ち、まず第1の分離法として、分子量の低い多環式芳香族炭化水素を除去し、次いで炭素系高分子成分を除去してフラーレン類を得る方法(下記の工程B並びに工程Cによる方法)が挙げられる。また第2の分離法として、分子量の高い炭素系高分子成分を除去し、次いで多環式芳香族炭化水素を除去してフラーレン類を得る方法(下記の工程D並びに工程Eによる方法)がある。
【0025】
次に、フラーレン類、多環式芳香族炭化水素及び炭素系高分子成分の混合物をフラーレン類及び多環状芳香族炭化水素のそれぞれを分離する。
分離の方式としては、まず、フラーレン類、多環式芳香族炭化水素及び炭素系高分子成分の混合物を、フラーレン類及び炭素系高分子成分の混合物と、多環式芳香族炭化水素とに分離し(工程B)、次にフラーレン類及び炭素系高分子成分の混合物を、フラーレン類と炭素系高分子成分とに分離する(工程C)方法と、まずフラーレン類、多環式芳香族炭化水素及び炭素系高分子成分の混合物を、フラーレン類及び多環式芳香族炭化水素の混合物と、炭素系高分子成分とに分離し(工程D)、次にフラーレン類及び多環式芳香族炭化水素の混合物を、フラーレン類と多環式芳香族炭化水素とに分離する(工程E)方法とがある。
【0026】
(工程B)
フラーレン類、多環式芳香族炭化水素、及び炭素系高分子成分の混合物を、フラーレン類及び炭素系高分子成分の混合物と、多環式芳香族炭化水素とに分離する典型的な方法としては特に制限はないが、典型的には多環式芳香族炭化水素を昇華により除去する方法が挙げられる。
フラーレンの分子量はC60で720、C70で840である。多環式芳香族炭化水素は、例えば、ベンズアントラセン(C18H12)で216であり、その他の典型的な多環式芳香族炭化水素もほぼ400以下である。従って、分子量の低い多環式芳香族炭化水素のみを昇華により分離することができる。
【0027】
多環式芳香族化合物を昇華する際の条件としては、圧力は1×10−3〜2×105Paが好ましく、1×10−2〜1.4×105Paが更に好ましい。常圧では装置が簡単になるメリットがあり、減圧下では多環式芳香族炭化水素の昇華温度が低くなるメリットがある。経済性を考えて、最適な条件で実施すればよい。また温度は、好ましくは100℃以上800℃以下である。昇華温度は圧力によって変化するので適宜選択すればよいが、常圧の場合には、更に200℃以上700℃以下が好ましく、特に300℃以上600℃以下が好ましい。温度が低すぎると多環式芳香族炭化水素の昇華が不十分となり、温度が高すぎるとフラーレンも昇華し、フラーレンの回収率が低下する。
【0028】
昇華に用いる装置は、上述の温度/圧力となる昇華条件に耐えうるものであれば、バッチ式、固定床型、流動層型、連続型等特に限定はしない。昇華装置に用いられる材質としては、石英ガラス、ステンレス等の金属類、セラミックス、ガラス等があげられる。
昇華に際しては、不活性ガスの存在下に行うが、この発明において不活性ガスとは、昇華の温度/圧力条件でフラーレンと実質的に反応しない気体を意味する。不活性ガスの種類としては、ヘリウム、ネオン、アルゴン、窒素及びこれらの混合物があげられる。フラーレンの反応を避けるためには、昇華に際して昇華装置中を実質的に不活性ガスにより置換し、昇華装置内の気体中の酸素の含有量として10体積%以下とするのが好ましく、5体積%以下とするのがより好ましく、1体積%とするのが特に好ましい。酸素の含有量が多い場合には、フラーレンの酸化物が生成する場合がある。
【0029】
また、多環式芳香族炭化水素の昇華は、不活性ガス存在下で加熱するのがよく、不活性ガス流通下で行うのが好ましい。不活性ガスの流通下で行う方法としては、例えば昇華装置に不活性ガスの流入口及び排出口を設けておき、連続的に不活性ガスを流入及び排出させながら加熱し、所定の温度に昇温する。また、不活性ガスは昇華装置に流入させるに際し余熱しておくこともできる。
【0030】
不活性ガスの流通下に昇華を行う場合の不活性ガスの流通量としては、上記の混合物1gに対して、好ましくは1〜10000ml/minであり、更に好ましくは5〜5000ml/minである。不活性ガスの流通は連続的であっても間欠的であってもよい。
昇華装置から昇華した多環式芳香族炭化水素は不活性ガスに同伴され、析出装置にて温度が下げられることによって多環式芳香族炭化水素を析出させることができる。析出装置は、昇華装置と同一装置内に設けても分離して設けてもよく、また、バッチ式、又は連続式でもよい。析出した多環式芳香族炭化水素の回収には、機械的に集めて回収しても、溶媒に溶解して回収してもよい。多環式芳香族炭化水素を析出して回収した後の不活性ガスは、大気に放出するか、又はリサイクル使用する。操作時間は、温度、圧力、ガス流通量によって異なるが、通常10分〜12時間程度である。
【0031】
析出・回収の方法は、例えば、冷却した回転ドラムに昇華物を含有するガスを吹き付けて多環式芳香族炭化水素を析出させ、間欠的もしくは連続的にスクレーパーで掻き取って炭化水素に溶解する、もしくは炭化水素で回転ドラムをに付着した多環式芳香族炭化水素を洗い流す方法や、冷却した容器内に多環式芳香族炭化水素を含有するガスを入れ、容器壁面に析出させて炭化水素に溶解する方法、炭化水素のスプレー塔、液中への吹き込み等でガスを冷却して析出する方法、一旦、水のスプレー塔・水中への吹き込み等で冷却して水中に多環式芳香族炭化水素を析出し、そこから炭化水素で多環式芳香族炭化水素を抽出する方法等が考えられる。
【0032】
(工程F)
この様にして得られた多環式芳香族炭化水素は、(工程A)、具体的には燃焼法または熱分解法によるフラーレン類製造の原料として再利用される。また多環式芳香族炭化水素を析出して回収した後の不活性ガスは、大気に放出するかリサイクル使用する。これによって、効率的なフラーレン類の製造が可能となるばかりでなく、毒性の高い多環式芳香族炭化水素を反応系外へ排出することなく、またこの排出の際に要する無毒化設備等が不要となるので、周辺環境への負担軽減がなされるばかりでなく、経済的にも有利なフラーレン類の製造方法となる。尚、この(工程F)は後述する(工程E)にて得られた多環式芳香族炭化水素にも同様に適応できる。
【0033】
(工程C)
工程Bにより得られたフラーレン類と炭素系高分子成分の混合物は、次に、フラーレン類と炭素系高分子成分に分離される。
フラーレン類と炭素系高分子成分とを分離する方法は特に制限はないが、典型的には、フラーレン類及び炭素系高分子成分の混合物と抽出溶媒とを混合してフラーレン類が溶解した抽出液を得る方法(工程C−1)と、フラーレン類及び炭素系高分子成分の混合物を不活性ガス存在下で加熱し、フラーレン類を昇華する方法(工程C−2)が挙げられる。
【0034】
(工程C−1)
工程Cの一実施態様としては、上記の工程Bによって得られたフラーレン類と炭素系高分子成分の混合物から抽出によりフラーレン類を分離・回収する工程が挙げられる。
フラーレン類が一部の芳香族系溶媒等の有機溶媒に可溶であるという性質を利用して、溶媒には実質的に溶解しない炭素系高分子成分と分離することができる。すなわち、抽出液と溶解していない炭素系高分子成分を、抽出液から固液分離することにより、抽出液に溶解しているフラーレン類と、抽出液に溶解していない炭素系高分子成分とを分離することができる。
【0035】
抽出溶媒として用いられる有機溶媒は、フラーレン類の溶解度が低すぎると、抽出効率が低下するので、フラーレン、特にC60の溶解度が、1g/Lのものがよく、5g/L以上のものが好ましく、10g/L以上のものがさらに好ましく、15g/L以上のものが特に好ましい。
このような有機溶媒としては、芳香族炭化水素、ハロゲン化芳香族炭化水素、脂肪族炭化水素、塩素化炭化水素、炭素数6以上のケトン類、炭素数6以上のエステル類、炭素数6以上のエーテル類、二硫化炭素等が挙げられ、これらは単独又はこれらのうち2種以上を任意の割合で用いてもよい。
【0036】
上記芳香族炭化水素とは、分子内に少なくとも1つのベンゼン核を有する炭化水素化合物であり、具体的にはベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、n−プロピルベンゼン、イソプロピルベンゼン、n−ブチルベンゼン、sec−ブチルベンゼン、tert−ブチルベンゼン、1,2,3−トリメチルベンゼン、1,2,4−トリメチルベンゼン、1,3,5−トリメチルベンゼン、1,2,3,4−テトラメチルベンゼン、1,2,3,5−テトラメチルベンゼン、ジエチルベンゼン、シメン等のアルキルベンゼン類、1−メチルナフタレン等のアルキルナフタレン類、テトラリン、シメン等があげられる。これらの内1,2,4−トリメチルベンゼンやテトラリンが好ましい。
【0037】
上記脂肪族炭化水素としては、環式、非環式等、任意の脂肪族炭化水素が使用できる。環式脂肪族炭化水素の例としては、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタン等の単環式脂肪族炭化水素、その誘導体であるメチルシクロペンタン、エチルシクロペンタン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、1,2−ジメチルシクロヘキサン、1,3−ジメチルシクロヘキサン、1,4−ジメチルシクロヘキサン、イソプロピルシクロヘキサン、n−プロピルシクロヘキサン、t−ブチルシクロヘキサン、n−ブチルシクロヘキサン、イソブチルシクロヘキサン、1,2,4−トリメチルシクロヘキサン,1,3,5−トリメチルシクロヘキサン、多環式としてデカリン等があげられる。非環式脂肪族炭化水素の例としては、n−ペンタン、n−ヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタン、イソオクタン、n−ノナン、n−デカン、n−ドデカン、n−テトラデカン等が挙げられる。
【0038】
上記塩素化炭化水素としては、ジクロロメタン、クロロフォルム、四塩化炭素、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン、1,2−ジクロロエタン、1,1,2,2−テトラクロロエタン等が挙げられる。
上記ハロゲン化芳香族炭化水素としては、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、1−クロロナフタレン等が挙げられる。
【0039】
これらの中でも、工業的観点から、これらの抽出溶媒の中でも常温液体で沸点が100〜300℃、中でも120〜250℃のものが好適である。具体的には例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、メチシレン、1−メチルナフタレン、1,2,3,5−テトラメチルベンゼン、1,2,4−トリメチルベンゼン、テトラリン等の芳香族炭化水素などを用いることが好ましく、1種単独としても、あるいは2種以上の混合溶媒としても使用することができる。
【0040】
上記有機溶媒は、フラーレン類を十分に抽出できるだけの量を用いる必要がある。通常、混合物中のフラーレン類の量に対し、5〜400重量倍量、経済性を考えると、40〜200重量倍量程度使用するのが好ましい。抽出は、バッチ式、セミ連続式、連続式、又はそれらの組み合わせ等、形式、装置は特に限定されない。
【0041】
なお、混合物には通常5〜30重量%のフラーレンが含まれているが、抽出効率の観点から、フラーレン類に対して用いる抽出溶媒の量を上記範囲とするのが好ましいことから、抽出操作に先立って、混合物の一部を分析して、混合物中のフラーレン類含有量を測定しておくのが好ましい。
抽出後、炭素系高分子成分が殆ど溶解されていないため、抽出液は、スラリー状となる。このスラリーから未溶解物を濾別等により固液分離する。濾別は、減圧濾過、加圧濾過、重力濾過、フィルター濾過、又はそれらの組み合わせ等、方法、装置は特に限定されない。これらのなかでも、加圧濾過が好ましい。
【0042】
抽出装置としては撹拌混合槽が好適に使用できる。抽出の際、容器内の圧力は特に制限はなく、常圧で実施すればよい。抽出時の温度としては通常−10〜150℃であり、好ましくは5〜80℃であり、更に好ましくは30〜50℃である。これら範囲であれば抽出効率向上の面から好ましいが、抽出効率は温度依存性が小さいのでエネルギーコスト的に常温程度で行うのが有利である。
【0043】
また、抽出時間としては1〜60分、好ましくは20〜40分かけて行うとよいが長時間の必要は無く、抽出時間の抽出効率に対する影響は少ないため、適宜選択すればよい。更に必要に応じて、抽出液に超音波等を照射しながら抽出を行うと、抽出時間が短くなるので好ましい。こうして得られた抽出液には、フラーレン類が溶解している。
【0044】
次に、抽出液中のフラーレン類を回収するが、フラーレンの回収手段は特に限定されない。フラーレン類を固体として析出させる方法としては、好ましくは、抽出液中の抽出溶媒を濃縮してフラーレン類を析出させる方法、又は上記有機溶媒に対するよりフラーレン類の溶解度が低い溶媒(後述する有機溶媒E)と抽出液とを混合してフラーレン類を析出させる方法が挙げられる。これらは組み合わせて行ってもよく、即ち、抽出溶媒を一定量まで濃縮した後、貧溶媒と混合してフラーレン類を析出させることもできる。
【0045】
抽出溶媒を濃縮する方法としては、公知のどの様な方法を用いても構わない。例えば、a)溶媒を、常圧もしくは減圧で温度をあげて濃縮する。b)高温に熱した溶媒をスプレードライヤー等を用いて減圧下状態にフラッシュする等の方法があげられる。抽出溶媒を一定量以下に濃縮することによりフラーレン類が析出する。
【0046】
上記濃縮法としては、具体的には減圧による留去、加熱による蒸発及びこれらの組み合わせを用いることができる。濃縮条件としては圧力が好ましくは、50〜6×104Paであり、更に好ましくは1×102〜1.2×104Paであり、温度が好ましくは、−10〜200℃、更に好ましくは10〜150℃である。
【0047】
濃縮の程度によって、抽出液中のフラーレン類が析出することがあってもかまわない。極端に濃縮しすぎるとフラーレン類に不純物が同伴することがあるので、濃縮後の抽出液の量としては、抽出液中のフラーレン類に対して好ましくは5重量倍〜300重量倍であり、更に好ましくは10重量倍〜200重量倍である。
【0048】
濃縮によってフラーレン類が析出した場合には、析出したフラーレン類を濾過により回収することができる。またフラーレン類を濾別した後の抽出液は、上記した貧溶媒を加えることによって更にフラーレン類を析出させることができる。但し、好ましい実施態様としては、多環式芳香族炭化水素の同伴を避けるため、濃縮によってフラーレン類が殆ど析出しないか、析出量として回収すべきフラーレン類全体量の5重量%以下となるように濃縮の程度を調整し、引き続いて貧溶媒を加えてさらにフラーレン類を析出させるものである。
【0049】
貧溶媒と混合してフラーレン類を析出させる方法の場合、貧溶媒の使用量は、先述した抽出溶媒の量に対し、0.1〜50重量倍量、望ましくは、1〜30重量倍量程度である。量が少ないとフラーレン類の析出量が少なくなり、回収できるフラーレン類が減少する。多すぎると釜の容量が大きくなり経済的にロスが発生する。貧溶媒を混合する温度としては、通常−20〜150℃であり、好ましくは−10〜100℃であり、更に好ましくは10〜80℃であり、特に好ましくは30〜60℃である。なお、使用する上記第3有機溶媒又は第4溶媒は、1種のみにかぎられず、2種以上の混合溶媒を用いてもよい。貧溶媒を混合することにより析出したフラーレン類は、濾過により回収することができる。
【0050】
(工程C−2)
工程Cの好ましい一実施態様としては、上記の工程Bによって得られたフラーレン類と炭素系高分子成分の混合物から昇華によりフラーレンを分離・回収する工程があげられる。フラーレン類は、他に反応性の物質が存在しない状態では熱的にかなり安定であるという性質を利用して、実質的に昇華することのない炭素系高分子成分と分離することができる。多環式芳香族炭化水素が分離された、フラーレン類と炭素系高分子成分との混合物は、多環式芳香族炭化水素が昇華する温度よりも高温の条件に付すことにより、フラーレンを昇華させて炭素系高分子成分と分離することができる。
【0051】
昇華する際の圧力条件は、1×10−3Pa以上2×105Pa以下、好ましくは、2×10−3Pa〜常圧程度の範囲である。常圧では装置が簡単になるメリットがあり、減圧下ではフラーレンの昇華温度が低くなるメリットがある。経済性を考えて、最適な条件で実施すればよい。
昇華に際しては、不活性ガスの存在下に行うが、この発明において不活性ガスとは、昇華の温度/圧力条件でフラーレンと実質的に反応しない気体を意味する。不活性ガスの種類としては、ヘリウム、ネオン、アルゴン、窒素及びこれらの混合物があげられる。フラーレンの反応を避けるためには、昇華に際して昇華装置中を実質的に不活性ガスにより置換し、昇華装置内の気体中の酸素の含有量として10体積%以下とするのが好ましく、5体積%以下とするのが好ましく、1体積%とするのが特に好ましい。酸素の含有量が多い場合には、フラーレンの酸化物が生成する場合がある。
【0052】
また、フラーレンの昇華は、不活性ガス存在下で加熱するのがよく、不活性ガス流通下で行うのが好ましい。不活性ガスの流通下で行う方法としては、例えば昇華装置に不活性ガスの流入口及び排出口を設けておき、連続的に不活性ガスを流入及び排出させながら、フラーレンを含有する混合物を不活性ガス雰囲気下に置換した後、加熱し、所定の温度に昇温する。
【0053】
置換が十分に実施されないと、フラーレンの酸化物が生成する。昇華を実施する際の不活性ガスは、予熱しても良いし、予熱しなくても良い。昇華に用いる装置は、バッチ式、固定床型、流動層型、連続型等特に限定はしない。
不活性ガスの流通下に昇華を行う場合の不活性ガスの流通量としては、上記の混合物1gに対して、好ましくは1〜10000ml/minであり、更に好ましくは5〜5000ml/minである。不活性ガスの流通は連続的であっても間欠的であってもよい。
【0054】
フラーレンを昇華させる際の混合物の温度は、通常400℃〜1400℃、好ましくは、600〜1200℃、更に好ましくは800℃〜1100℃である。そしてこの昇華を行う装置の材質は、石英ガラス、ステンレス等の金属類、セラミックス、ガラス等、特には限定しない。昇華装置から昇華したフラーレンは不活性ガスに運ばれ、温度を下げて析出する。析出する装置は、昇華装置と同一装置内に設けても分離しても構わないし、バッチ式、又は連続式でも構わない。析出したフラーレンの回収には、機械的に集めて回収しても、溶媒に溶解して回収しても構わない。フラーレンを析出して回収した後の不活性ガスは、大気に放出するかリサイクル使用する。操作時間は、温度、圧力、ガス流通量によって異なるが、通常10分〜12時間程度である。
【0055】
上記の工程Bの後、本工程(工程C)を行う場合、両工程は、別々の装置で実施しても良いし、キルンのような機械を用いて、同一の機械で実施しても構わない。
次にフラーレン類、多環式芳香族炭化水素、及び炭素系高分子成分の混合物を、フラーレン類及び多環式芳香族炭化水素の混合物と、炭素系高分子成分とに分離する方法について説明する。
【0056】
(工程D)
工程Dは、フラーレン類、多環式芳香族炭化水素、及び炭素系高分子成分を含む混合物から炭素系高分子物質を除去する工程である。
(工程D−1)
工程Dの好ましい一実施態様としては、フラーレン類、多環式芳香族炭化水素、及び炭素系高分子成分を含む混合物から抽出によりフラーレン類と多環式芳香族炭化水素を分離する工程があげられる。
【0057】
炭素系高分子物質は、溶媒に実質的に溶解しないという性質を利用して、まず、フラーレン類と多環式芳香族炭化水素の両方が可溶な溶媒を用いて抽出することにより、炭素系高分子物質と分離することができる。すなわち、抽出液と溶解していない炭素系高分子成分を、抽出液から固液分離することにより、抽出液に溶解しているフラーレン類及び多環式芳香族炭化水素と、抽出液に溶解していない炭素系高分子成分とを分離することができる。
【0058】
このとき使用できる抽出溶媒としては、上記工程C−1で用いた有機溶媒を用いることができ、また、抽出条件、抽出装置等の抽出操作、抽出液の分離、抽出液中のフラーレン類及び多環式芳香族炭素の回収法等にかかる要件等は、上記工程C−1と同様の要件を採用することができる。
【0059】
(工程D−2)
工程Dの、別の好ましい一実施態様として、フラーレン類、多環式芳香族炭化水素、及び炭素系高分子成分を含む混合物から、昇華により、フラーレン類と多環式芳香族炭化水素を分離する工程があげられる。
炭素系高分子物質が昇華しにくいという性質を利用して、まず、フラーレン類と多環式芳香族炭化水素の両方が昇華する温度及び圧力条件で昇華を行うことにより、炭素系高分子物質と分離することができる。
フラーレン類が昇華する条件においては多環式芳香族炭化水素も昇華するので、この工程D−2は、前述の工程C−2に記載と同様の昇華条件を採用することができる。
【0060】
(工程E)
工程Eは、工程Dによって分離されたフラーレン類と多環式芳香族炭化水素の混合物から、フラーレン類と多環式芳香族炭化水素を分離する工程である。具体的には、多環式芳香族炭化水素を昇華により除去し、フラーレン類を回収する工程(工程E−1)、工程D−1によって分離されたフラーレン類と多環式芳香族炭化水素の混合物を溶解した抽出液に、他の抽出液を加えてフラーレン類を析出して回収する工程(工程E−2)、及び工程D−1によって分離されたフラーレンと多環式芳香族炭化水素の混合物を溶解した抽出液から、フラーレンを晶析して回収する工程(工程E−3)が用いられる。
【0061】
(工程E−1)
工程Eの好ましい一実施態様としては、上記の工程D−1又は工程D−2によって得られたフラーレン類と環式芳香族炭化水素の混合物から環式芳香族炭化水素のみを昇華し、フラーレン類を分離・回収する工程があげられる。
多環式芳香族炭化水素がフラーレン類よりも分子量が小さく昇華し易いという性質を利用して、実質的に多環式芳香族炭化水素のみが昇華する温度及び圧力条件に付すことによりこれらを分離することができる。
【0062】
なお、上記工程D−1によって得られたフラーレン類と炭素系高分子成分の混合物は、工程D−1に記載の有機溶媒に溶解されている。この場合は、例えば、上記工程C−1における抽出溶媒の濃縮操作によって、フラーレン類と環式芳香族炭化水素の混合物の固形分を回収したり、上記有機溶媒を蒸発除去することによって、フラーレン類と環式芳香族炭化水素の混合物の固形分を回収したりすることによって、本工程に供与することが可能となる。
【0063】
多環式芳香族炭化水素を昇華するこの工程E−1の条件は、前述の工程Bに記載と同様の昇華条件を採用することができる。
【0064】
(工程E−2)
工程Eの別の好ましい一実施態様としては、上記の工程D−1によって得られたフラーレン類と多環式芳香族炭化水素の混合物を溶解した抽出液(以下、「D−1抽出液」と称する。)に、フラーレン類が溶け難く多環式芳香族炭化水素が溶け易い溶媒を加えて混合し、多環式芳香族炭化水素を溶解させ、一方、フラーレン類の溶解量を少なくすることによってフラーレン類を固体として析出させこれらを分離する工程があげられる。
【0065】
この方法は、フラーレン類と多環式芳香族炭化水素の溶媒に対する溶解度の違いによりこれらを分離することができる。
このとき使用される溶媒としては、下記に示す有機溶媒(以下、「有機溶媒E」または「有機溶媒E’」ということがある。)が挙げられる。上記D−1抽出液に有機溶媒Eや有機溶媒E’を加える方法としては、上記D−1抽出液に直接、有機溶媒Eや有機溶媒E’を加える方法、上記D−1抽出液中の抽出溶媒を一定量まで濃縮してから有機溶媒Eや有機溶媒E’を加える方法、上記D−1抽出液中の抽出溶媒を蒸発させて、固形分を析出させ、次いで有機溶媒Eや有機溶媒E’を加える方法等が挙げられる。上記D−1抽出液中の抽出溶媒を濃縮する方法としては、常圧もしくは減圧で温度をあげて濃縮する等、公知の方法があげられる。
【0066】
なお、これらのうち、前2者の場合ついては、本工程によりフラーレン類を分離・回収することができる。また、後1者の方法については、後述する工程E−3と同様の方法を適用することにより、フラーレン類を分離・回収することができる。
上記D−1抽出液を濃縮する方法としては、具体的には減圧による留去、加熱による蒸発及びこれらの組み合わせを用いることができる。濃縮条件としては圧力が好ましくは50〜6×104Paであり、更に好ましくは1×102〜1.2×104Paであり、温度が好ましくは、−10〜200℃、更に好ましくは10〜150℃である。
【0067】
濃縮の程度によって、抽出液中のフラーレンが析出することがあってもかまわない。極端に濃縮しすぎるとフラーレン類に不純物が同伴することがあるので、濃縮後の抽出液の量としては、抽出液中のフラーレン類に対して好ましくは5重量倍〜300重量倍であり、更に好ましくは10重量倍〜200重量倍である。濃縮によって、フラーレン類が析出した場合には、析出したフラーレン類を濾過により回収することができる。またフラーレン類を濾別した後の抽出液は、先述の有機溶媒Eを加えることによって更にフラーレン類を析出させることができる。
【0068】
但し、好ましい実施態様としては、多環式芳香族炭化水素の同伴を避けるため、濃縮によってフラーレン類が殆ど析出しないか、析出量として回収すべきフラーレン類全体量の5重量%以下となるように濃縮の程度を調整し、引き続いて先述の有機溶媒Eや有機溶媒E’を加えてさらにフラーレン類を析出させるものである。
【0069】
上記した有機溶媒Eや有機溶媒E’としては、以下に示す具体例の範囲内であれば、特に限定されるものではないが、工程D−1抽出液中の抽出溶媒として使用した有機溶媒の種類にあわせて選択するのが好ましい。すなわち、有機溶媒Eや有機溶媒E’の溶解度が、上記D−1抽出液中の抽出溶媒として使用した有機溶媒の溶解度の1/1000倍以下のものが好ましい。両者の溶解度差が上記条件より小さいと、この工程で使用される有機溶媒Eや有機溶媒E’の使用量が増大し、プロセス上、不利となる。
【0070】
上記有機溶媒Eとしては、C60の溶解度が500mg/L以下、好ましくは100mg/L以下、より好ましくは10mg/L以下である有機溶媒があげられる。この有機溶媒Eを用いることにより、上記混合物中の多環式芳香族炭化水素が溶解した抽出液を得ることができる。この抽出液と溶解していないフラーレン類及び炭素系高分子成分の混合物とを固液分離することにより、フラーレン類及び炭素系高分子成分の混合物が得られる。
【0071】
上記有機溶媒Eとしては、アルコール類、ケトン類、エーテル類、アミド類等があげられる。これらの中でも、炭素数1〜4のアルコール類、炭素数3〜5のケトン類、又は炭素数3〜5のエーテル類が好ましく、更には炭素数が1〜4のアルコール類が好ましい。これらアルコール類の中でも炭素数が3以下のアルコール類を用いることが好ましい。具体的には、メタノール、エタノール、プロパノール、エチレングリコール、グリセリン、等の炭素数1〜4のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン等の炭素数3〜5のケトン類、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、ジオキサン等の炭素数2〜5のエーテル類、N,N−ジメチルホルムアミド等の炭素数3〜5のアミド類及びこれらを含む混合溶媒があげられる。これらの内、アルコール類が好ましく、なかでも2−プロパノール(イソプロピルアルコール)が特に好ましい。なお、これらの有機溶媒は、1種単独としても、あるいは2種以上の混合物としても使用することができる。
【0072】
有機溶媒Eの使用量としては、上記D−1抽出液中の抽出溶媒の量に対し、0.1〜50重量倍量、好ましくは1〜30重量倍量、より好ましくは1〜10倍重量倍量、特に好ましくは、3〜7倍重量倍量である。量が少ないと、フラーレン類の析出量が少なくなり、回収できるフラーレン類が減少する。多すぎると、釜の容量が大きくなり経済的にロスが発生する。第3有機溶媒を混合する温度としては、通常−20〜150℃であり、好ましくは−10〜100℃であり、更に好ましくは10〜80℃であり、特に好ましくは30〜60℃である。
【0073】
また、添加速度は特に限定されないが、徐々に添加するのが好ましく、具体的には20〜200mL/min程度の速度で添加することが好ましい。
ところで、この工程E−2においては、上記有機溶媒Eのかわりに、多環式芳香族炭化水素の溶解度が100g/L以上、更に好ましくは、300g/L以上であり、かつ、フラーレン類の溶解度が1g/L以下、更に好ましくは0.5g/L以下の有機溶媒E’を用いることができる。
【0074】
この有機溶媒E’としては、具体的には例えば炭素数4以下のスルホキシド系溶媒、炭素数4以下のアミド系溶媒、炭素数4以下のエーテル系溶媒、炭素数4以下のアルコール系溶媒等の親水性有機溶媒があげられる。中でも、水に対する溶解度が20g/L以上または水と無限溶解する溶媒が好ましい。そして、特に好ましくはジメチルスルホキシドを含むものである。
【0075】
また、これら溶媒は水と混合して用いることが好ましく、とりわけジメチルスルホキシドと水との混合溶媒が好ましい。
上記有機溶媒E’の使用量としては、上記D−1抽出液中の抽出溶媒の量に対し、0.01〜10重量倍量が好ましく、0.1〜1重量倍量がより好ましい。親水性有機溶媒と水とを併用する場合において、その割合は、上記D−1抽出液中の抽出溶媒と二液相を形成するように適宜選択する。具体的には例えばジメチルスルホキシドと水との混合溶媒を用いる場合、ジメチルスルホキシドと水との割合(重量比)としては、1:1〜1:50が好ましく、1:10〜1:40が更に好ましい。
【0076】
抽出温度としては、−20〜100℃、望ましくは、−10〜50℃程度である。抽出操作は、バッチ式・連続式でも構わず、装置は特に限定しない。
上記D−1抽出液に有機溶媒E’を混合すると、2液相を形成し、多環式芳香族炭化水素の一部が有機溶媒E’側へ抽出される。有機溶媒E’側へのフラーレン類の溶解度は極めて小さいため、上記D−1抽出液中の抽出溶媒と有機溶媒E’とを分離した後、上記D−1抽出液中の抽出溶媒を除去すると、多環式芳香族炭化水素の濃度が減少したフラーレン類を得ることができる。
【0077】
上記有機溶媒Eまたは有機溶媒E’を添加した後、必要に応じて、C60等のフラーレンの種晶を加えてもよい。これにより、フラーレン類の析出量を増加させることができる。
また上記有機溶媒Eまたは有機溶媒E’を添加した後、必要に応じて、多環式芳香族炭化水素を含む溶液を必要に応じて静置してもよい。静置時間は1〜30分、好ましくは5〜15分である。静置によって、この析出物の分別(例えば濾別)が効率的に行えるので好ましい。静置時間が短すぎると析出物の沈澱が不十分となり、この析出物の分別の際に、時間を要することがある。また逆に長すぎると、本発明のフラーレン類の製造方法プロセス全体に要する時間が長くなる。
【0078】
静置後に行う析出物の分別手段は、特に限定されるものではなく、遠心分離によって析出物を分別した後に濾別する方法、遠心分離だけを行う方法、また濾過だけ行う方法のいずれでもよく、分別方法は適宜選択すればよい。
上記の方法で回収されたフラーレン類は、不純物を除くために上述の有機溶媒Eまたは有機溶媒E’を用いて洗浄することが好ましい。洗浄に用いる溶媒の量は、好ましくは固体の量に対して1〜1000重量倍、更に好ましくは3〜300重量倍である。洗浄時の温度は好ましくは−20〜150℃、更に好ましくは−10〜100℃である。
【0079】
(工程E−3)
工程Eの別の好ましい一実施態様としては、上記の工程D−1によって得られたフラーレン類と多環式芳香族炭化水素の混合物を溶解した抽出液(D−1抽出液)からフラーレン類を晶析して、フラーレンを回収・分離する工程があげられる。
【0080】
晶析する方法としては、D−1抽出液を加熱しながら濃縮し、飽和状態にした後、冷却する方法があげられる。このとき、このD−1抽出液にC60等のフラーレンを種晶として加えると、晶析がより生じやすく好ましい。
さらに、上記D−1抽出液中に炭素系高分子成分が少量でも混入していると、上記晶析操作で析出するので、上記晶析操作を行う前に、上記D−1抽出液に上記の有機溶媒Eまたは有機溶媒E’を、フラーレン類が析出しない程度に加え、炭素系高分子成分を析出させて除去しておくことが好ましい。このとき、炭素系高分子成分の除去後、加えた有機溶媒Eまたは有機溶媒E’を留去させ、その後に上記晶析処理した方が、好ましい。
【0081】
上記晶析操作によって析出したフラーレン類の分別手段は、特に限定されるものではなく、遠心分離によって析出物を分別した後に濾別する方法、遠心分離だけを行う方法、また濾過だけ行う方法のいずれでもよく、分別方法は適宜選択すればよい。なお、晶析後のD−1抽出液中には、多環式芳香族炭化水素が残存する。
【0082】
【実施例】
次に、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
(燃焼法によるフラーレンの製造)
トルエンを加熱し、トルエンと純酸素とを1:3のモル比で気相下で混合し、5.32kPaで不完全燃焼させて煤状物質を得た。
この煤状物質の組成は、フラーレン類が20重量%、多環式芳香族炭化水素が200ppmであり、残部が炭素系高分子成分であった。
【0083】
(多環式芳香族炭化水素の分離)
燃焼法で製造した上記の煤状物質1gを図1、2に示すような、昇華装置(高さ65cm、幅45cm)に入れ、窒素を100ml/minで30分間室温で流して装置内を置換した。その後、電気炉(マッフル炉)の温度を500℃まで昇温して、2時間500℃を保った。系外に出てきた多環式芳香族炭化水素をトルエン10gに溶解し分析するとトルエン中の多環式芳香族炭化水素濃度は20ppmであった。
【0084】
(フラーレンの分離)
多環式芳香族炭化水素が除かれた煤状物質に、トリメチルベンゼンを加えて抽出し、不溶成分である炭素系高分子成分を濾別した後、トリメチルベンゼンを留去する事により、純度の高いフラーレン類を得ることができる。
(多環式芳香族炭化水素の再利用)
この多環状芳香族炭化水素を溶解したトルエン10gを新しいトルエン100gに希釈して、上述の燃焼法と同様に、トルエンと純酸素とを1:3のモル比で混合して不完全燃焼することによりフラーレン類を含んだ煤状物質を得ることが出来る。
【0085】
【発明の効果】
本発明のフラーレン類の製造方法は、フラーレン類、多環式芳香族炭化水素、及び炭素系高分子成分を含む混合物、とりわけ炭化水素化合物を原料として燃焼法又は熱分解法により得られた煤状物質から、効率的にフラーレン類を製造することが出来る。さらに、この煤状物質から分離した多環式芳香族炭化水素を、この燃焼法又は熱分解法によるフラーレン類の原料としてリサイクルすることによって、多環式芳香族炭化水素の蓄積なしに高純度のフラーレン類を製造することができる。
【0086】
更に、カラムクロマト分離、分別再結晶などの従来からの方法を組み合わせることによって、単一フラーレンを従来になく、より効率的に、低コストで製造できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に用いられる昇華装置の一実施態様の上面図である。
【図2】本発明に用いられる昇華装置の一実施態様の上面図である。
【図3】実施例で行われた昇華の概略図である。
【符号の説明】
1 不活性ガス注入口
2 不活性ガス排出口
3 煤状物質の出し入れ口
4 トラップ(ドライアイスにより冷却)
5 フラーレンを含んだ煤状物質
【発明の属する技術分野】
本発明は新しい炭素材料であるフラーレン類、中でもC60、C70、C76、C78、C82、C84の分子構造を有するフラーレン類の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
新しい炭素材料であるフラーレンは、特殊な分子構造から特異な物性を示すことが期待され、その性質及び用途開発についての研究が盛んに進められている。フラーレンは、例えば、ダイヤモンドコーティング、電池材料、塗料、断熱材、潤滑材、化粧品等の分野への利用が期待されている。
【0003】
フラーレンの製造方法としては、グラファイト等炭素質材料から成る電極を原料としてこの電極間にアーク放電によって原料を蒸発させる方法(アーク放電法)、炭素質原料に高電流を流して原料を蒸発させる方法(抵抗加熱法)、高エネルギー密度のパルスレーザー照射によって炭素質原料を蒸発させる方法(レーザー蒸発法)、ベンゼン等の有機物を不完全燃焼させる方法(燃焼法)、ベンゼン等の有機物を熱分解させる方法(熱分解法)等が知られている。
【0004】
このうち、燃焼法と熱分解法は、大量にフラーレンを精製することができるという点で有用である。一方、燃焼法や熱分解法等のように原料として炭化水素化合物を用いる方法では、原料が水素原子を有しているために、多環式芳香族炭化水素が副生する。
例えば、燃焼法によりフラーレンを製造する場合、制御された条件下でトルエン等の炭化水素化合物を不完全燃焼させると、C60の分子構造を有するフラーレン及びC70の分子構造を有するフラーレンを主とする複数のフラーレンを含んだ煤状物質が得られるが、この煤状物質中には、通常10〜30重量%程度のフラーレン類と、10ppm〜5重量%の多環式芳香族炭化水素が含まれている。煤状物質中のフラーレン類と多環式芳香族炭化水素の残分は、グラファイト構造を持つ炭素や、グラファイト構造を骨格として若干の水素原子を有する高分子の炭化水素やカーボンブラック等(以下、「炭素系高分子成分」と称することがある)である。
【0005】
この煤状物質に含有されているベンゾピレン等に代表される多環式芳香族炭化水素は、組成的に炭化水素の中でも水素原子の割合が少なくフラーレン類と類似している。従って、フラーレン類に不純物として含有されているとフラーレン類の反応性を阻害したり、フラーレン類の固有の性質を遮蔽したりする可能性もある。またこの様な多環式芳香族炭化水素は毒性が高いので、安全上の観点からもこれら多環式芳香族炭化水素は極力減少させる必要があると考えられている。
【0006】
燃焼法又は熱分解法によってフラーレンと共に多環式芳香族炭化水素が生成することは、従来から知られている(例えば、特許文献1、2参照)。また、フラーレンを精製する方法としては、種々の充填材を用いたカラムによる分離(例えば、特許文献3、4参照)が知られている。
【0007】
【特許文献1】PCT92/20622号公報
【特許文献2】PCT95/06001号公報
【特許文献3】特開平6−32151号公報
【特許文献4】米国特許第5662876号公報
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、燃焼法又は熱分解法によってフラーレン類と共に多環式芳香族炭化水素を生成させた場合、この混合物から、多環式芳香族炭化水素を効率よく除去する工業的、かつ、具体的手段については示されていなかった。またフラーレン類の原料として炭化水素を用いていない場合は、そもそも多環式芳香族炭化水素が生成せず、これを効率よく分離することについては何ら示されていなかった。
【0009】
更に、フラーレンを種々の充填材を用いたカラムによる分離精製する方法は、大量のフラーレン類を製造するためには、適用が困難であった。
本発明は、フラーレン類、多環式芳香族炭化水素、及び炭素系高分子成分の混合物から、生産性が良く、かつ、純度の高いフラーレン類を分離することができるフラーレン類の製造方法を提供することを目的とする。さらに本発明は、大量に、かつ、純度よく生産されるフラーレン類を提供することを目的とする。また更には、多環式芳香族炭化水素を環境中に排出することのない、フラーレン類の製造方法を提供することを目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明者が鋭意検討した結果、以下の工程を有するフラーレンの製造方法を採用することにより、上記の目的を解決することを見いだし、本発明を完成させた。
即ち本発明の要旨は、以下の工程を有するフラーレン類の製造方法に存する。
(工程A)フラーレン、多環式芳香族炭化水素、及び炭素系高分子成分を含む混合物を生成する工程、
(工程B)該混合物を、多環式芳香族炭化水素と、フラーレン及び炭素系高分子成分の混合物とに分離する工程、
(工程C)フラーレン及び炭素系高分子成分の混合物をフラーレンと炭素系高分子成分とに分離する工程。
【0011】
また本発明の別の要旨は、以下の工程を有するフラーレン類の製造方法に存する。
(工程A)フラーレン、多環式芳香族炭化水素、及び炭素系高分子成分を含む混合物を生成する工程、
(工程D)該混合物を、多環式芳香族炭化水素及びフラーレンの混合物、及び炭素系高分子成分とに分離する工程、
(工程E)多環式芳香族炭化水素及びフラーレンの混合物を多環式芳香族炭化水素とフラーレンとに分離する工程。
【0012】
これらの製造方法を用いてフラーレンを製造することによって、純度の高いフラーレンを大量に分離することができる。そしてこれらの製造方法に以下の工程を付すことによって、高濃度でフラーレン類を分離すること及び多環状芳香族炭化水素を環境中に排出しないことを可能とした。
(工程F)工程Bまたは工程Eにて得られた多環式芳香族炭化水素を炭化水素化合物とともに工程Aの原料として再利用する工程。
【0013】
更に本発明の別の要旨は、以下の工程を有するフラーレンの分離方法に存する。
(工程B)フラーレン、多環式芳香族炭化水素、及び炭素系高分子成分を含む混合物を、多環式芳香族炭化水素と、フラーレン及び炭素系高分子成分の混合物とに分離する工程、
(工程C)フラーレン及び炭素系高分子成分の混合物をフラーレンと炭素系高分子成分とに分離する工程。
【0014】
更にまた、本発明の別の要旨は、以下の工程を有するフラーレンの分離方法に存する。
(工程D)フラーレン、多環式芳香族炭化水素、及び炭素系高分子成分を含む混合物を、多環式芳香族炭化水素及びフラーレンの混合物、及び炭素系高分子成分とに分離する工程、
(工程E)多環式芳香族炭化水素及びフラーレンの混合物を多環式芳香族炭化水素とフラーレンとに分離する工程。
【0015】
【発明の実施の形態】
本発明は、フラーレン類を製造又は分離する方法である。このフラーレン類とは、60個以上の炭素原子が球状に結合した球状炭素分子をいい、具体的には、炭素数60、70、76、78、82、84等の分子構造を有する各フラーレンの総称をいう。本発明においては、炭素数60の分子構造を有するフラーレンを「C60」、炭素数70の分子構造を有するフラーレンを「C70」、炭素数76の分子構造を有するフラーレンを「C76」、炭素数78の分子構造を有するフラーレンを「C78」、炭素数82の分子構造を有するフラーレンを「C82」、炭素数84の分子構造を有するフラーレンを「C84」と表記し、これらの各分子構造を有するフラーレン類やこれら2種以上の混合物を「フラーレン類」と表記す。
【0016】
まず、フラーレンを生成する方法(工程A)について説明する。
(工程A)
この発明にかかるフラーレン類は、特に限定されないが、好ましくは炭化水素化合物原料を不完全燃焼させる燃焼法、又は高熱下に炭化水素化合物原料を分解させる熱分解法によって生成される。この燃焼法や熱分解法によっては、フラーレン類だけでなく、このフラーレン類に加え、多環式芳香族炭化水素、及び炭素系高分子成分の混合物、いわゆる煤状物質が得られる。この燃焼法又は熱分解法であれば、該混合物を大量に生産することが可能である。中でも燃焼法によるものは、フラーレン、多環式芳香族炭化水素及び炭素系高分子成分の混合物の内、多環式芳香族炭化水素の生成割合が比較的少なくできるので好ましい。
【0017】
なお本発明における多環式芳香族炭化水素とは、ベンツアントラセン、ベンツピレン等の多環を有する芳香族炭化水素をいう。また炭素系高分子成分とは、グラファイト構造を持つ炭素、グラファイト構造を骨格として若干の水素原子を有する高分子の炭化水素、カーボンブラック等のフラーレンより炭素数の多い炭化水素化合物の集合体をいう。
【0018】
上記の燃焼法又は熱分解法におけるフラーレンの原料としては、ベンゼン、トルエン、キシレン、ナフタレン、メチルナフタレン、アントラセン、フェナントレン等の炭素数6〜20の芳香族炭化水素を用いることが好ましく、中でも炭素数6〜15の芳香族炭化水素を用いることが好ましい。特に、取り扱いの容易さから常温常圧で液体である芳香族炭化水素を用いることが好ましい。また原料としては、これらの芳香族炭化水素に併用してヘキサン、ヘプタン、オクタン等の脂肪族炭化水素を用いても良い。更に、常温常圧で固体の炭化水素を、液体の炭化水素に溶解して用いることもできる。
【0019】
燃焼法によりフラーレンを製造する場合、圧力条件としては1330〜13300Pa(10〜100Torr)が好ましく、3990〜6650Pa(30〜50Torr)が更に好ましい。温度条件としては800〜2500℃が好ましく、1000〜2000℃が更に好ましい。圧力が上記範囲より著しく高いと、フラーレンの生成率が極端に低下する場合があり、逆に著しく低いと製造装置の制約が大きく、工業的な製造が困難となる。また温度が上記範囲から著しく外れると、フラーレンの生成率が極端に低下する。
【0020】
燃焼法においては、フラーレンの原料は、同時に熱源としても作用する。即ち、原料炭化水素は酸素と反応して発熱してフラーレンの生成が可能となる温度に上昇させるとともに、原料炭化水素が脱水素されることにより、フラーレン骨格を形成するための炭素ユニットを生成するものと考えられている。炭素ユニットは一定の圧力、温度条件で集合してフラーレン類を形成する。
【0021】
また、原料の炭化水素から、炭素のみで構成されたフラーレンを生成するため、酸素の使用量としては原料の炭化水素の炭素原子/水素原子の比により若干異なる。例えば原料炭化水素としてトルエンを用いた場合には、トルエンに対して0.5〜9倍モルが好ましく、中でも1〜5倍モルが好ましい。トルエン以外の原料を用いる場合には、原料である炭化水素の炭素原子/水素原子の比を勘案し、用いる酸素の量を適宜調節すればよい。酸素の量が多すぎると、原料の炭化水素が燃焼して二酸化炭素に変換される割合が多くなり、フラーレンの生成率が低下する。また酸素量が少な過ぎると、原料中の水素原子が消費されず、多環式芳香族炭化水素の生成量が多くなる。
【0022】
燃焼法における反応系には、酸素以外に、フラーレンに対して不活性な気体を存在させていても良い。これら不活性気体としては例えば、ヘリウム、ネオン、アルゴン、窒素、二酸化炭素等が挙げられる。
燃焼法によって得られた上記混合物には、フラーレン類が5重量%以上含まれていることが好ましく、10%以上含まれていることが更に好ましく、15%以上含まれていることが特に好ましい。
【0023】
また本発明により製造されるフラーレン類は、フラーレン構造を有していれば炭素数に制限はないが、通常は炭素数60〜84のフラーレン類であり、中でもC60とC70の割合が全フラーレン類中好ましくは50%以上であり、更に好ましくは70%以上であり、特に好ましくは80%以上である。
多環式芳香族炭化水素の生成は、燃焼法における反応メカニズムから避けられないものであるが、その生成量は極力少なくなる方がよい。従って、燃焼法によって得られた煤状物質中の多環式芳香族炭化水素は100ppm〜10000ppmが好ましく、100ppm〜5000ppmが更に好ましく、100ppm〜1000ppmが特に好ましい。
【0024】
上記の方法で得られた混合物からフラーレン類を分離・精製するには、大きく分けて以下の2つの方式がある。即ち、まず第1の分離法として、分子量の低い多環式芳香族炭化水素を除去し、次いで炭素系高分子成分を除去してフラーレン類を得る方法(下記の工程B並びに工程Cによる方法)が挙げられる。また第2の分離法として、分子量の高い炭素系高分子成分を除去し、次いで多環式芳香族炭化水素を除去してフラーレン類を得る方法(下記の工程D並びに工程Eによる方法)がある。
【0025】
次に、フラーレン類、多環式芳香族炭化水素及び炭素系高分子成分の混合物をフラーレン類及び多環状芳香族炭化水素のそれぞれを分離する。
分離の方式としては、まず、フラーレン類、多環式芳香族炭化水素及び炭素系高分子成分の混合物を、フラーレン類及び炭素系高分子成分の混合物と、多環式芳香族炭化水素とに分離し(工程B)、次にフラーレン類及び炭素系高分子成分の混合物を、フラーレン類と炭素系高分子成分とに分離する(工程C)方法と、まずフラーレン類、多環式芳香族炭化水素及び炭素系高分子成分の混合物を、フラーレン類及び多環式芳香族炭化水素の混合物と、炭素系高分子成分とに分離し(工程D)、次にフラーレン類及び多環式芳香族炭化水素の混合物を、フラーレン類と多環式芳香族炭化水素とに分離する(工程E)方法とがある。
【0026】
(工程B)
フラーレン類、多環式芳香族炭化水素、及び炭素系高分子成分の混合物を、フラーレン類及び炭素系高分子成分の混合物と、多環式芳香族炭化水素とに分離する典型的な方法としては特に制限はないが、典型的には多環式芳香族炭化水素を昇華により除去する方法が挙げられる。
フラーレンの分子量はC60で720、C70で840である。多環式芳香族炭化水素は、例えば、ベンズアントラセン(C18H12)で216であり、その他の典型的な多環式芳香族炭化水素もほぼ400以下である。従って、分子量の低い多環式芳香族炭化水素のみを昇華により分離することができる。
【0027】
多環式芳香族化合物を昇華する際の条件としては、圧力は1×10−3〜2×105Paが好ましく、1×10−2〜1.4×105Paが更に好ましい。常圧では装置が簡単になるメリットがあり、減圧下では多環式芳香族炭化水素の昇華温度が低くなるメリットがある。経済性を考えて、最適な条件で実施すればよい。また温度は、好ましくは100℃以上800℃以下である。昇華温度は圧力によって変化するので適宜選択すればよいが、常圧の場合には、更に200℃以上700℃以下が好ましく、特に300℃以上600℃以下が好ましい。温度が低すぎると多環式芳香族炭化水素の昇華が不十分となり、温度が高すぎるとフラーレンも昇華し、フラーレンの回収率が低下する。
【0028】
昇華に用いる装置は、上述の温度/圧力となる昇華条件に耐えうるものであれば、バッチ式、固定床型、流動層型、連続型等特に限定はしない。昇華装置に用いられる材質としては、石英ガラス、ステンレス等の金属類、セラミックス、ガラス等があげられる。
昇華に際しては、不活性ガスの存在下に行うが、この発明において不活性ガスとは、昇華の温度/圧力条件でフラーレンと実質的に反応しない気体を意味する。不活性ガスの種類としては、ヘリウム、ネオン、アルゴン、窒素及びこれらの混合物があげられる。フラーレンの反応を避けるためには、昇華に際して昇華装置中を実質的に不活性ガスにより置換し、昇華装置内の気体中の酸素の含有量として10体積%以下とするのが好ましく、5体積%以下とするのがより好ましく、1体積%とするのが特に好ましい。酸素の含有量が多い場合には、フラーレンの酸化物が生成する場合がある。
【0029】
また、多環式芳香族炭化水素の昇華は、不活性ガス存在下で加熱するのがよく、不活性ガス流通下で行うのが好ましい。不活性ガスの流通下で行う方法としては、例えば昇華装置に不活性ガスの流入口及び排出口を設けておき、連続的に不活性ガスを流入及び排出させながら加熱し、所定の温度に昇温する。また、不活性ガスは昇華装置に流入させるに際し余熱しておくこともできる。
【0030】
不活性ガスの流通下に昇華を行う場合の不活性ガスの流通量としては、上記の混合物1gに対して、好ましくは1〜10000ml/minであり、更に好ましくは5〜5000ml/minである。不活性ガスの流通は連続的であっても間欠的であってもよい。
昇華装置から昇華した多環式芳香族炭化水素は不活性ガスに同伴され、析出装置にて温度が下げられることによって多環式芳香族炭化水素を析出させることができる。析出装置は、昇華装置と同一装置内に設けても分離して設けてもよく、また、バッチ式、又は連続式でもよい。析出した多環式芳香族炭化水素の回収には、機械的に集めて回収しても、溶媒に溶解して回収してもよい。多環式芳香族炭化水素を析出して回収した後の不活性ガスは、大気に放出するか、又はリサイクル使用する。操作時間は、温度、圧力、ガス流通量によって異なるが、通常10分〜12時間程度である。
【0031】
析出・回収の方法は、例えば、冷却した回転ドラムに昇華物を含有するガスを吹き付けて多環式芳香族炭化水素を析出させ、間欠的もしくは連続的にスクレーパーで掻き取って炭化水素に溶解する、もしくは炭化水素で回転ドラムをに付着した多環式芳香族炭化水素を洗い流す方法や、冷却した容器内に多環式芳香族炭化水素を含有するガスを入れ、容器壁面に析出させて炭化水素に溶解する方法、炭化水素のスプレー塔、液中への吹き込み等でガスを冷却して析出する方法、一旦、水のスプレー塔・水中への吹き込み等で冷却して水中に多環式芳香族炭化水素を析出し、そこから炭化水素で多環式芳香族炭化水素を抽出する方法等が考えられる。
【0032】
(工程F)
この様にして得られた多環式芳香族炭化水素は、(工程A)、具体的には燃焼法または熱分解法によるフラーレン類製造の原料として再利用される。また多環式芳香族炭化水素を析出して回収した後の不活性ガスは、大気に放出するかリサイクル使用する。これによって、効率的なフラーレン類の製造が可能となるばかりでなく、毒性の高い多環式芳香族炭化水素を反応系外へ排出することなく、またこの排出の際に要する無毒化設備等が不要となるので、周辺環境への負担軽減がなされるばかりでなく、経済的にも有利なフラーレン類の製造方法となる。尚、この(工程F)は後述する(工程E)にて得られた多環式芳香族炭化水素にも同様に適応できる。
【0033】
(工程C)
工程Bにより得られたフラーレン類と炭素系高分子成分の混合物は、次に、フラーレン類と炭素系高分子成分に分離される。
フラーレン類と炭素系高分子成分とを分離する方法は特に制限はないが、典型的には、フラーレン類及び炭素系高分子成分の混合物と抽出溶媒とを混合してフラーレン類が溶解した抽出液を得る方法(工程C−1)と、フラーレン類及び炭素系高分子成分の混合物を不活性ガス存在下で加熱し、フラーレン類を昇華する方法(工程C−2)が挙げられる。
【0034】
(工程C−1)
工程Cの一実施態様としては、上記の工程Bによって得られたフラーレン類と炭素系高分子成分の混合物から抽出によりフラーレン類を分離・回収する工程が挙げられる。
フラーレン類が一部の芳香族系溶媒等の有機溶媒に可溶であるという性質を利用して、溶媒には実質的に溶解しない炭素系高分子成分と分離することができる。すなわち、抽出液と溶解していない炭素系高分子成分を、抽出液から固液分離することにより、抽出液に溶解しているフラーレン類と、抽出液に溶解していない炭素系高分子成分とを分離することができる。
【0035】
抽出溶媒として用いられる有機溶媒は、フラーレン類の溶解度が低すぎると、抽出効率が低下するので、フラーレン、特にC60の溶解度が、1g/Lのものがよく、5g/L以上のものが好ましく、10g/L以上のものがさらに好ましく、15g/L以上のものが特に好ましい。
このような有機溶媒としては、芳香族炭化水素、ハロゲン化芳香族炭化水素、脂肪族炭化水素、塩素化炭化水素、炭素数6以上のケトン類、炭素数6以上のエステル類、炭素数6以上のエーテル類、二硫化炭素等が挙げられ、これらは単独又はこれらのうち2種以上を任意の割合で用いてもよい。
【0036】
上記芳香族炭化水素とは、分子内に少なくとも1つのベンゼン核を有する炭化水素化合物であり、具体的にはベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、n−プロピルベンゼン、イソプロピルベンゼン、n−ブチルベンゼン、sec−ブチルベンゼン、tert−ブチルベンゼン、1,2,3−トリメチルベンゼン、1,2,4−トリメチルベンゼン、1,3,5−トリメチルベンゼン、1,2,3,4−テトラメチルベンゼン、1,2,3,5−テトラメチルベンゼン、ジエチルベンゼン、シメン等のアルキルベンゼン類、1−メチルナフタレン等のアルキルナフタレン類、テトラリン、シメン等があげられる。これらの内1,2,4−トリメチルベンゼンやテトラリンが好ましい。
【0037】
上記脂肪族炭化水素としては、環式、非環式等、任意の脂肪族炭化水素が使用できる。環式脂肪族炭化水素の例としては、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタン等の単環式脂肪族炭化水素、その誘導体であるメチルシクロペンタン、エチルシクロペンタン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、1,2−ジメチルシクロヘキサン、1,3−ジメチルシクロヘキサン、1,4−ジメチルシクロヘキサン、イソプロピルシクロヘキサン、n−プロピルシクロヘキサン、t−ブチルシクロヘキサン、n−ブチルシクロヘキサン、イソブチルシクロヘキサン、1,2,4−トリメチルシクロヘキサン,1,3,5−トリメチルシクロヘキサン、多環式としてデカリン等があげられる。非環式脂肪族炭化水素の例としては、n−ペンタン、n−ヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタン、イソオクタン、n−ノナン、n−デカン、n−ドデカン、n−テトラデカン等が挙げられる。
【0038】
上記塩素化炭化水素としては、ジクロロメタン、クロロフォルム、四塩化炭素、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン、1,2−ジクロロエタン、1,1,2,2−テトラクロロエタン等が挙げられる。
上記ハロゲン化芳香族炭化水素としては、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、1−クロロナフタレン等が挙げられる。
【0039】
これらの中でも、工業的観点から、これらの抽出溶媒の中でも常温液体で沸点が100〜300℃、中でも120〜250℃のものが好適である。具体的には例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、メチシレン、1−メチルナフタレン、1,2,3,5−テトラメチルベンゼン、1,2,4−トリメチルベンゼン、テトラリン等の芳香族炭化水素などを用いることが好ましく、1種単独としても、あるいは2種以上の混合溶媒としても使用することができる。
【0040】
上記有機溶媒は、フラーレン類を十分に抽出できるだけの量を用いる必要がある。通常、混合物中のフラーレン類の量に対し、5〜400重量倍量、経済性を考えると、40〜200重量倍量程度使用するのが好ましい。抽出は、バッチ式、セミ連続式、連続式、又はそれらの組み合わせ等、形式、装置は特に限定されない。
【0041】
なお、混合物には通常5〜30重量%のフラーレンが含まれているが、抽出効率の観点から、フラーレン類に対して用いる抽出溶媒の量を上記範囲とするのが好ましいことから、抽出操作に先立って、混合物の一部を分析して、混合物中のフラーレン類含有量を測定しておくのが好ましい。
抽出後、炭素系高分子成分が殆ど溶解されていないため、抽出液は、スラリー状となる。このスラリーから未溶解物を濾別等により固液分離する。濾別は、減圧濾過、加圧濾過、重力濾過、フィルター濾過、又はそれらの組み合わせ等、方法、装置は特に限定されない。これらのなかでも、加圧濾過が好ましい。
【0042】
抽出装置としては撹拌混合槽が好適に使用できる。抽出の際、容器内の圧力は特に制限はなく、常圧で実施すればよい。抽出時の温度としては通常−10〜150℃であり、好ましくは5〜80℃であり、更に好ましくは30〜50℃である。これら範囲であれば抽出効率向上の面から好ましいが、抽出効率は温度依存性が小さいのでエネルギーコスト的に常温程度で行うのが有利である。
【0043】
また、抽出時間としては1〜60分、好ましくは20〜40分かけて行うとよいが長時間の必要は無く、抽出時間の抽出効率に対する影響は少ないため、適宜選択すればよい。更に必要に応じて、抽出液に超音波等を照射しながら抽出を行うと、抽出時間が短くなるので好ましい。こうして得られた抽出液には、フラーレン類が溶解している。
【0044】
次に、抽出液中のフラーレン類を回収するが、フラーレンの回収手段は特に限定されない。フラーレン類を固体として析出させる方法としては、好ましくは、抽出液中の抽出溶媒を濃縮してフラーレン類を析出させる方法、又は上記有機溶媒に対するよりフラーレン類の溶解度が低い溶媒(後述する有機溶媒E)と抽出液とを混合してフラーレン類を析出させる方法が挙げられる。これらは組み合わせて行ってもよく、即ち、抽出溶媒を一定量まで濃縮した後、貧溶媒と混合してフラーレン類を析出させることもできる。
【0045】
抽出溶媒を濃縮する方法としては、公知のどの様な方法を用いても構わない。例えば、a)溶媒を、常圧もしくは減圧で温度をあげて濃縮する。b)高温に熱した溶媒をスプレードライヤー等を用いて減圧下状態にフラッシュする等の方法があげられる。抽出溶媒を一定量以下に濃縮することによりフラーレン類が析出する。
【0046】
上記濃縮法としては、具体的には減圧による留去、加熱による蒸発及びこれらの組み合わせを用いることができる。濃縮条件としては圧力が好ましくは、50〜6×104Paであり、更に好ましくは1×102〜1.2×104Paであり、温度が好ましくは、−10〜200℃、更に好ましくは10〜150℃である。
【0047】
濃縮の程度によって、抽出液中のフラーレン類が析出することがあってもかまわない。極端に濃縮しすぎるとフラーレン類に不純物が同伴することがあるので、濃縮後の抽出液の量としては、抽出液中のフラーレン類に対して好ましくは5重量倍〜300重量倍であり、更に好ましくは10重量倍〜200重量倍である。
【0048】
濃縮によってフラーレン類が析出した場合には、析出したフラーレン類を濾過により回収することができる。またフラーレン類を濾別した後の抽出液は、上記した貧溶媒を加えることによって更にフラーレン類を析出させることができる。但し、好ましい実施態様としては、多環式芳香族炭化水素の同伴を避けるため、濃縮によってフラーレン類が殆ど析出しないか、析出量として回収すべきフラーレン類全体量の5重量%以下となるように濃縮の程度を調整し、引き続いて貧溶媒を加えてさらにフラーレン類を析出させるものである。
【0049】
貧溶媒と混合してフラーレン類を析出させる方法の場合、貧溶媒の使用量は、先述した抽出溶媒の量に対し、0.1〜50重量倍量、望ましくは、1〜30重量倍量程度である。量が少ないとフラーレン類の析出量が少なくなり、回収できるフラーレン類が減少する。多すぎると釜の容量が大きくなり経済的にロスが発生する。貧溶媒を混合する温度としては、通常−20〜150℃であり、好ましくは−10〜100℃であり、更に好ましくは10〜80℃であり、特に好ましくは30〜60℃である。なお、使用する上記第3有機溶媒又は第4溶媒は、1種のみにかぎられず、2種以上の混合溶媒を用いてもよい。貧溶媒を混合することにより析出したフラーレン類は、濾過により回収することができる。
【0050】
(工程C−2)
工程Cの好ましい一実施態様としては、上記の工程Bによって得られたフラーレン類と炭素系高分子成分の混合物から昇華によりフラーレンを分離・回収する工程があげられる。フラーレン類は、他に反応性の物質が存在しない状態では熱的にかなり安定であるという性質を利用して、実質的に昇華することのない炭素系高分子成分と分離することができる。多環式芳香族炭化水素が分離された、フラーレン類と炭素系高分子成分との混合物は、多環式芳香族炭化水素が昇華する温度よりも高温の条件に付すことにより、フラーレンを昇華させて炭素系高分子成分と分離することができる。
【0051】
昇華する際の圧力条件は、1×10−3Pa以上2×105Pa以下、好ましくは、2×10−3Pa〜常圧程度の範囲である。常圧では装置が簡単になるメリットがあり、減圧下ではフラーレンの昇華温度が低くなるメリットがある。経済性を考えて、最適な条件で実施すればよい。
昇華に際しては、不活性ガスの存在下に行うが、この発明において不活性ガスとは、昇華の温度/圧力条件でフラーレンと実質的に反応しない気体を意味する。不活性ガスの種類としては、ヘリウム、ネオン、アルゴン、窒素及びこれらの混合物があげられる。フラーレンの反応を避けるためには、昇華に際して昇華装置中を実質的に不活性ガスにより置換し、昇華装置内の気体中の酸素の含有量として10体積%以下とするのが好ましく、5体積%以下とするのが好ましく、1体積%とするのが特に好ましい。酸素の含有量が多い場合には、フラーレンの酸化物が生成する場合がある。
【0052】
また、フラーレンの昇華は、不活性ガス存在下で加熱するのがよく、不活性ガス流通下で行うのが好ましい。不活性ガスの流通下で行う方法としては、例えば昇華装置に不活性ガスの流入口及び排出口を設けておき、連続的に不活性ガスを流入及び排出させながら、フラーレンを含有する混合物を不活性ガス雰囲気下に置換した後、加熱し、所定の温度に昇温する。
【0053】
置換が十分に実施されないと、フラーレンの酸化物が生成する。昇華を実施する際の不活性ガスは、予熱しても良いし、予熱しなくても良い。昇華に用いる装置は、バッチ式、固定床型、流動層型、連続型等特に限定はしない。
不活性ガスの流通下に昇華を行う場合の不活性ガスの流通量としては、上記の混合物1gに対して、好ましくは1〜10000ml/minであり、更に好ましくは5〜5000ml/minである。不活性ガスの流通は連続的であっても間欠的であってもよい。
【0054】
フラーレンを昇華させる際の混合物の温度は、通常400℃〜1400℃、好ましくは、600〜1200℃、更に好ましくは800℃〜1100℃である。そしてこの昇華を行う装置の材質は、石英ガラス、ステンレス等の金属類、セラミックス、ガラス等、特には限定しない。昇華装置から昇華したフラーレンは不活性ガスに運ばれ、温度を下げて析出する。析出する装置は、昇華装置と同一装置内に設けても分離しても構わないし、バッチ式、又は連続式でも構わない。析出したフラーレンの回収には、機械的に集めて回収しても、溶媒に溶解して回収しても構わない。フラーレンを析出して回収した後の不活性ガスは、大気に放出するかリサイクル使用する。操作時間は、温度、圧力、ガス流通量によって異なるが、通常10分〜12時間程度である。
【0055】
上記の工程Bの後、本工程(工程C)を行う場合、両工程は、別々の装置で実施しても良いし、キルンのような機械を用いて、同一の機械で実施しても構わない。
次にフラーレン類、多環式芳香族炭化水素、及び炭素系高分子成分の混合物を、フラーレン類及び多環式芳香族炭化水素の混合物と、炭素系高分子成分とに分離する方法について説明する。
【0056】
(工程D)
工程Dは、フラーレン類、多環式芳香族炭化水素、及び炭素系高分子成分を含む混合物から炭素系高分子物質を除去する工程である。
(工程D−1)
工程Dの好ましい一実施態様としては、フラーレン類、多環式芳香族炭化水素、及び炭素系高分子成分を含む混合物から抽出によりフラーレン類と多環式芳香族炭化水素を分離する工程があげられる。
【0057】
炭素系高分子物質は、溶媒に実質的に溶解しないという性質を利用して、まず、フラーレン類と多環式芳香族炭化水素の両方が可溶な溶媒を用いて抽出することにより、炭素系高分子物質と分離することができる。すなわち、抽出液と溶解していない炭素系高分子成分を、抽出液から固液分離することにより、抽出液に溶解しているフラーレン類及び多環式芳香族炭化水素と、抽出液に溶解していない炭素系高分子成分とを分離することができる。
【0058】
このとき使用できる抽出溶媒としては、上記工程C−1で用いた有機溶媒を用いることができ、また、抽出条件、抽出装置等の抽出操作、抽出液の分離、抽出液中のフラーレン類及び多環式芳香族炭素の回収法等にかかる要件等は、上記工程C−1と同様の要件を採用することができる。
【0059】
(工程D−2)
工程Dの、別の好ましい一実施態様として、フラーレン類、多環式芳香族炭化水素、及び炭素系高分子成分を含む混合物から、昇華により、フラーレン類と多環式芳香族炭化水素を分離する工程があげられる。
炭素系高分子物質が昇華しにくいという性質を利用して、まず、フラーレン類と多環式芳香族炭化水素の両方が昇華する温度及び圧力条件で昇華を行うことにより、炭素系高分子物質と分離することができる。
フラーレン類が昇華する条件においては多環式芳香族炭化水素も昇華するので、この工程D−2は、前述の工程C−2に記載と同様の昇華条件を採用することができる。
【0060】
(工程E)
工程Eは、工程Dによって分離されたフラーレン類と多環式芳香族炭化水素の混合物から、フラーレン類と多環式芳香族炭化水素を分離する工程である。具体的には、多環式芳香族炭化水素を昇華により除去し、フラーレン類を回収する工程(工程E−1)、工程D−1によって分離されたフラーレン類と多環式芳香族炭化水素の混合物を溶解した抽出液に、他の抽出液を加えてフラーレン類を析出して回収する工程(工程E−2)、及び工程D−1によって分離されたフラーレンと多環式芳香族炭化水素の混合物を溶解した抽出液から、フラーレンを晶析して回収する工程(工程E−3)が用いられる。
【0061】
(工程E−1)
工程Eの好ましい一実施態様としては、上記の工程D−1又は工程D−2によって得られたフラーレン類と環式芳香族炭化水素の混合物から環式芳香族炭化水素のみを昇華し、フラーレン類を分離・回収する工程があげられる。
多環式芳香族炭化水素がフラーレン類よりも分子量が小さく昇華し易いという性質を利用して、実質的に多環式芳香族炭化水素のみが昇華する温度及び圧力条件に付すことによりこれらを分離することができる。
【0062】
なお、上記工程D−1によって得られたフラーレン類と炭素系高分子成分の混合物は、工程D−1に記載の有機溶媒に溶解されている。この場合は、例えば、上記工程C−1における抽出溶媒の濃縮操作によって、フラーレン類と環式芳香族炭化水素の混合物の固形分を回収したり、上記有機溶媒を蒸発除去することによって、フラーレン類と環式芳香族炭化水素の混合物の固形分を回収したりすることによって、本工程に供与することが可能となる。
【0063】
多環式芳香族炭化水素を昇華するこの工程E−1の条件は、前述の工程Bに記載と同様の昇華条件を採用することができる。
【0064】
(工程E−2)
工程Eの別の好ましい一実施態様としては、上記の工程D−1によって得られたフラーレン類と多環式芳香族炭化水素の混合物を溶解した抽出液(以下、「D−1抽出液」と称する。)に、フラーレン類が溶け難く多環式芳香族炭化水素が溶け易い溶媒を加えて混合し、多環式芳香族炭化水素を溶解させ、一方、フラーレン類の溶解量を少なくすることによってフラーレン類を固体として析出させこれらを分離する工程があげられる。
【0065】
この方法は、フラーレン類と多環式芳香族炭化水素の溶媒に対する溶解度の違いによりこれらを分離することができる。
このとき使用される溶媒としては、下記に示す有機溶媒(以下、「有機溶媒E」または「有機溶媒E’」ということがある。)が挙げられる。上記D−1抽出液に有機溶媒Eや有機溶媒E’を加える方法としては、上記D−1抽出液に直接、有機溶媒Eや有機溶媒E’を加える方法、上記D−1抽出液中の抽出溶媒を一定量まで濃縮してから有機溶媒Eや有機溶媒E’を加える方法、上記D−1抽出液中の抽出溶媒を蒸発させて、固形分を析出させ、次いで有機溶媒Eや有機溶媒E’を加える方法等が挙げられる。上記D−1抽出液中の抽出溶媒を濃縮する方法としては、常圧もしくは減圧で温度をあげて濃縮する等、公知の方法があげられる。
【0066】
なお、これらのうち、前2者の場合ついては、本工程によりフラーレン類を分離・回収することができる。また、後1者の方法については、後述する工程E−3と同様の方法を適用することにより、フラーレン類を分離・回収することができる。
上記D−1抽出液を濃縮する方法としては、具体的には減圧による留去、加熱による蒸発及びこれらの組み合わせを用いることができる。濃縮条件としては圧力が好ましくは50〜6×104Paであり、更に好ましくは1×102〜1.2×104Paであり、温度が好ましくは、−10〜200℃、更に好ましくは10〜150℃である。
【0067】
濃縮の程度によって、抽出液中のフラーレンが析出することがあってもかまわない。極端に濃縮しすぎるとフラーレン類に不純物が同伴することがあるので、濃縮後の抽出液の量としては、抽出液中のフラーレン類に対して好ましくは5重量倍〜300重量倍であり、更に好ましくは10重量倍〜200重量倍である。濃縮によって、フラーレン類が析出した場合には、析出したフラーレン類を濾過により回収することができる。またフラーレン類を濾別した後の抽出液は、先述の有機溶媒Eを加えることによって更にフラーレン類を析出させることができる。
【0068】
但し、好ましい実施態様としては、多環式芳香族炭化水素の同伴を避けるため、濃縮によってフラーレン類が殆ど析出しないか、析出量として回収すべきフラーレン類全体量の5重量%以下となるように濃縮の程度を調整し、引き続いて先述の有機溶媒Eや有機溶媒E’を加えてさらにフラーレン類を析出させるものである。
【0069】
上記した有機溶媒Eや有機溶媒E’としては、以下に示す具体例の範囲内であれば、特に限定されるものではないが、工程D−1抽出液中の抽出溶媒として使用した有機溶媒の種類にあわせて選択するのが好ましい。すなわち、有機溶媒Eや有機溶媒E’の溶解度が、上記D−1抽出液中の抽出溶媒として使用した有機溶媒の溶解度の1/1000倍以下のものが好ましい。両者の溶解度差が上記条件より小さいと、この工程で使用される有機溶媒Eや有機溶媒E’の使用量が増大し、プロセス上、不利となる。
【0070】
上記有機溶媒Eとしては、C60の溶解度が500mg/L以下、好ましくは100mg/L以下、より好ましくは10mg/L以下である有機溶媒があげられる。この有機溶媒Eを用いることにより、上記混合物中の多環式芳香族炭化水素が溶解した抽出液を得ることができる。この抽出液と溶解していないフラーレン類及び炭素系高分子成分の混合物とを固液分離することにより、フラーレン類及び炭素系高分子成分の混合物が得られる。
【0071】
上記有機溶媒Eとしては、アルコール類、ケトン類、エーテル類、アミド類等があげられる。これらの中でも、炭素数1〜4のアルコール類、炭素数3〜5のケトン類、又は炭素数3〜5のエーテル類が好ましく、更には炭素数が1〜4のアルコール類が好ましい。これらアルコール類の中でも炭素数が3以下のアルコール類を用いることが好ましい。具体的には、メタノール、エタノール、プロパノール、エチレングリコール、グリセリン、等の炭素数1〜4のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン等の炭素数3〜5のケトン類、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、ジオキサン等の炭素数2〜5のエーテル類、N,N−ジメチルホルムアミド等の炭素数3〜5のアミド類及びこれらを含む混合溶媒があげられる。これらの内、アルコール類が好ましく、なかでも2−プロパノール(イソプロピルアルコール)が特に好ましい。なお、これらの有機溶媒は、1種単独としても、あるいは2種以上の混合物としても使用することができる。
【0072】
有機溶媒Eの使用量としては、上記D−1抽出液中の抽出溶媒の量に対し、0.1〜50重量倍量、好ましくは1〜30重量倍量、より好ましくは1〜10倍重量倍量、特に好ましくは、3〜7倍重量倍量である。量が少ないと、フラーレン類の析出量が少なくなり、回収できるフラーレン類が減少する。多すぎると、釜の容量が大きくなり経済的にロスが発生する。第3有機溶媒を混合する温度としては、通常−20〜150℃であり、好ましくは−10〜100℃であり、更に好ましくは10〜80℃であり、特に好ましくは30〜60℃である。
【0073】
また、添加速度は特に限定されないが、徐々に添加するのが好ましく、具体的には20〜200mL/min程度の速度で添加することが好ましい。
ところで、この工程E−2においては、上記有機溶媒Eのかわりに、多環式芳香族炭化水素の溶解度が100g/L以上、更に好ましくは、300g/L以上であり、かつ、フラーレン類の溶解度が1g/L以下、更に好ましくは0.5g/L以下の有機溶媒E’を用いることができる。
【0074】
この有機溶媒E’としては、具体的には例えば炭素数4以下のスルホキシド系溶媒、炭素数4以下のアミド系溶媒、炭素数4以下のエーテル系溶媒、炭素数4以下のアルコール系溶媒等の親水性有機溶媒があげられる。中でも、水に対する溶解度が20g/L以上または水と無限溶解する溶媒が好ましい。そして、特に好ましくはジメチルスルホキシドを含むものである。
【0075】
また、これら溶媒は水と混合して用いることが好ましく、とりわけジメチルスルホキシドと水との混合溶媒が好ましい。
上記有機溶媒E’の使用量としては、上記D−1抽出液中の抽出溶媒の量に対し、0.01〜10重量倍量が好ましく、0.1〜1重量倍量がより好ましい。親水性有機溶媒と水とを併用する場合において、その割合は、上記D−1抽出液中の抽出溶媒と二液相を形成するように適宜選択する。具体的には例えばジメチルスルホキシドと水との混合溶媒を用いる場合、ジメチルスルホキシドと水との割合(重量比)としては、1:1〜1:50が好ましく、1:10〜1:40が更に好ましい。
【0076】
抽出温度としては、−20〜100℃、望ましくは、−10〜50℃程度である。抽出操作は、バッチ式・連続式でも構わず、装置は特に限定しない。
上記D−1抽出液に有機溶媒E’を混合すると、2液相を形成し、多環式芳香族炭化水素の一部が有機溶媒E’側へ抽出される。有機溶媒E’側へのフラーレン類の溶解度は極めて小さいため、上記D−1抽出液中の抽出溶媒と有機溶媒E’とを分離した後、上記D−1抽出液中の抽出溶媒を除去すると、多環式芳香族炭化水素の濃度が減少したフラーレン類を得ることができる。
【0077】
上記有機溶媒Eまたは有機溶媒E’を添加した後、必要に応じて、C60等のフラーレンの種晶を加えてもよい。これにより、フラーレン類の析出量を増加させることができる。
また上記有機溶媒Eまたは有機溶媒E’を添加した後、必要に応じて、多環式芳香族炭化水素を含む溶液を必要に応じて静置してもよい。静置時間は1〜30分、好ましくは5〜15分である。静置によって、この析出物の分別(例えば濾別)が効率的に行えるので好ましい。静置時間が短すぎると析出物の沈澱が不十分となり、この析出物の分別の際に、時間を要することがある。また逆に長すぎると、本発明のフラーレン類の製造方法プロセス全体に要する時間が長くなる。
【0078】
静置後に行う析出物の分別手段は、特に限定されるものではなく、遠心分離によって析出物を分別した後に濾別する方法、遠心分離だけを行う方法、また濾過だけ行う方法のいずれでもよく、分別方法は適宜選択すればよい。
上記の方法で回収されたフラーレン類は、不純物を除くために上述の有機溶媒Eまたは有機溶媒E’を用いて洗浄することが好ましい。洗浄に用いる溶媒の量は、好ましくは固体の量に対して1〜1000重量倍、更に好ましくは3〜300重量倍である。洗浄時の温度は好ましくは−20〜150℃、更に好ましくは−10〜100℃である。
【0079】
(工程E−3)
工程Eの別の好ましい一実施態様としては、上記の工程D−1によって得られたフラーレン類と多環式芳香族炭化水素の混合物を溶解した抽出液(D−1抽出液)からフラーレン類を晶析して、フラーレンを回収・分離する工程があげられる。
【0080】
晶析する方法としては、D−1抽出液を加熱しながら濃縮し、飽和状態にした後、冷却する方法があげられる。このとき、このD−1抽出液にC60等のフラーレンを種晶として加えると、晶析がより生じやすく好ましい。
さらに、上記D−1抽出液中に炭素系高分子成分が少量でも混入していると、上記晶析操作で析出するので、上記晶析操作を行う前に、上記D−1抽出液に上記の有機溶媒Eまたは有機溶媒E’を、フラーレン類が析出しない程度に加え、炭素系高分子成分を析出させて除去しておくことが好ましい。このとき、炭素系高分子成分の除去後、加えた有機溶媒Eまたは有機溶媒E’を留去させ、その後に上記晶析処理した方が、好ましい。
【0081】
上記晶析操作によって析出したフラーレン類の分別手段は、特に限定されるものではなく、遠心分離によって析出物を分別した後に濾別する方法、遠心分離だけを行う方法、また濾過だけ行う方法のいずれでもよく、分別方法は適宜選択すればよい。なお、晶析後のD−1抽出液中には、多環式芳香族炭化水素が残存する。
【0082】
【実施例】
次に、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
(燃焼法によるフラーレンの製造)
トルエンを加熱し、トルエンと純酸素とを1:3のモル比で気相下で混合し、5.32kPaで不完全燃焼させて煤状物質を得た。
この煤状物質の組成は、フラーレン類が20重量%、多環式芳香族炭化水素が200ppmであり、残部が炭素系高分子成分であった。
【0083】
(多環式芳香族炭化水素の分離)
燃焼法で製造した上記の煤状物質1gを図1、2に示すような、昇華装置(高さ65cm、幅45cm)に入れ、窒素を100ml/minで30分間室温で流して装置内を置換した。その後、電気炉(マッフル炉)の温度を500℃まで昇温して、2時間500℃を保った。系外に出てきた多環式芳香族炭化水素をトルエン10gに溶解し分析するとトルエン中の多環式芳香族炭化水素濃度は20ppmであった。
【0084】
(フラーレンの分離)
多環式芳香族炭化水素が除かれた煤状物質に、トリメチルベンゼンを加えて抽出し、不溶成分である炭素系高分子成分を濾別した後、トリメチルベンゼンを留去する事により、純度の高いフラーレン類を得ることができる。
(多環式芳香族炭化水素の再利用)
この多環状芳香族炭化水素を溶解したトルエン10gを新しいトルエン100gに希釈して、上述の燃焼法と同様に、トルエンと純酸素とを1:3のモル比で混合して不完全燃焼することによりフラーレン類を含んだ煤状物質を得ることが出来る。
【0085】
【発明の効果】
本発明のフラーレン類の製造方法は、フラーレン類、多環式芳香族炭化水素、及び炭素系高分子成分を含む混合物、とりわけ炭化水素化合物を原料として燃焼法又は熱分解法により得られた煤状物質から、効率的にフラーレン類を製造することが出来る。さらに、この煤状物質から分離した多環式芳香族炭化水素を、この燃焼法又は熱分解法によるフラーレン類の原料としてリサイクルすることによって、多環式芳香族炭化水素の蓄積なしに高純度のフラーレン類を製造することができる。
【0086】
更に、カラムクロマト分離、分別再結晶などの従来からの方法を組み合わせることによって、単一フラーレンを従来になく、より効率的に、低コストで製造できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に用いられる昇華装置の一実施態様の上面図である。
【図2】本発明に用いられる昇華装置の一実施態様の上面図である。
【図3】実施例で行われた昇華の概略図である。
【符号の説明】
1 不活性ガス注入口
2 不活性ガス排出口
3 煤状物質の出し入れ口
4 トラップ(ドライアイスにより冷却)
5 フラーレンを含んだ煤状物質
Claims (19)
- 以下の工程を有するフラーレン類の製造方法。
(工程A)フラーレン類、多環式芳香族炭化水素、及び炭素系高分子成分を含む混合物を生成する工程、
(工程B)該混合物を、多環式芳香族炭化水素と、フラーレン類及び炭素系高分子成分の混合物とに分離する工程、
(工程C)フラーレン類及び炭素系高分子成分の混合物をフラーレン類と炭素系高分子成分とに分離する工程。 - 以下の工程を有するフラーレン類の製造方法。
(工程A)フラーレン類、多環式芳香族炭化水素、及び炭素系高分子成分を含む混合物を生成する工程、
(工程D)該混合物を、多環式芳香族炭化水素及びフラーレン類の混合物、及び炭素系高分子成分とに分離する工程、
(工程E)多環式芳香族炭化水素及びフラーレン類の混合物を多環式芳香族炭化水素とフラーレン類とに分離する工程。 - 工程Aが、炭化水素化合物を原料として、燃焼法又は熱分解法により、フラーレン類、多環式芳香族炭化水素、及び炭素系高分子成分を含む混合物を生成する工程であり、更に以下の工程Fを有する請求項1または2に記載のフラーレン類の製造方法。
(工程F)工程Bまたは工程Eにて得られた多環式芳香族炭化水素を炭化水素化合物とともに工程Aの原料として再利用する工程。 - 工程Bが、フラーレン類、多環式芳香族炭化水素、及び炭素系高分子成分を含む混合物を不活性ガス存在下で加熱して多環式芳香族炭化水素を昇華する工程を含むことことを特徴とする請求項1または3に記載のフラーレン類の製造方法。
- 不活性ガスの流通下に多環式芳香族炭化水素を昇華することを特徴とする請求項4に記載のフラーレン類の製造方法。
- 多環式芳香族炭化水素を昇華する際の温度が100℃以上600℃以下であり、圧力が100Pa以上2×105Pa以下であることを特徴とする請求項4または5に記載のフラーレン類の製造方法。
- 工程Cが、フラーレン類及び炭素系高分子成分の混合物と抽出溶媒とを混合してフラーレン類が溶解した抽出液を得る工程であることを特徴とする請求項1、及び3乃至6のいずれかに記載のフラーレン類の製造方法。
- 抽出溶媒が1,2,4−トリメチルベンゼン又はテトラリンを含むことを特徴とする請求項7に記載のフラーレン類の製造方法。
- 工程Cが、フラーレン類及び炭素系高分子成分の混合物を不活性ガス存在下で加熱し、フラーレン類を昇華する工程であることを特徴とする請求項1、3乃至6のいずれかに記載のフラーレン類の製造方法。
- フラーレン類を昇華する際の温度が800℃以上1100℃以下であり、圧力が10Pa以上2×105Pa以下であることを特徴とする請求項9に記載のフラーレン類の製造方法。
- 工程Dが、フラーレン類、多環式芳香族炭化水素、及び炭素系高分子成分の混合物を、芳香族炭化水素を含む抽出溶媒と混合し、フラーレン類と多環式芳香族炭化水素を溶解した抽出液を得る工程であることを特徴とする請求項2または3に記載のフラーレン類の製造方法。
- 抽出溶媒が1,2,4−トリメチルベンゼン又はテトラリンを含むことを特徴とする請求項11に記載のフラーレン類の製造方法。
- 工程Eが、工程Dにて得られた抽出液に、工程Dにて用いた抽出溶媒よりもフラーレン類の溶解度が低い溶媒を加え、フラーレン類を析出させる工程であることを特徴とする請求項11又は12に記載のフラーレン類の製造方法。
- 工程Dにて用いた抽出溶媒よりもフラーレン類の溶解度が低い溶媒が、アルコール類、ケトン類、エーテル類、アミド類を含むことを特徴とする請求項13に記載のフラーレン類の製造方法。
- 工程Aにおいて、原料の炭化水素化合物が炭素数6〜15の芳香族炭化水素化合物であることを特徴とする請求項3乃至14のいずれかに記載のフラーレン類の製造方法。
- 工程Fが、工程B又は工程Eにて得られた多環式芳香族炭化水素を炭化水素化合物に溶解して該多環式芳香族炭化水素を含む炭化水素化合物を工程Aの原料として再利用する工程であることを特徴とする請求項3に記載のフラーレン類の製造方法。
- 多環式芳香族炭化水素を溶解する炭化水素化合物が、炭素数6〜15の芳香族炭化水素化合物であることを特徴とする請求項16に記載のフラーレン類の製造方法。
- 以下の工程を有するフラーレンの分離方法。
(工程B)フラーレン類、多環式芳香族炭化水素、及び炭素系高分子成分を含む混合物を、多環式芳香族炭化水素と、フラーレン類及び炭素系高分子成分の混合物とに分離する工程、
(工程C)フラーレン類及び炭素系高分子成分の混合物をフラーレン類と炭素系高分子成分とに分離する工程。 - 以下の工程を有するフラーレンの分離方法。
(工程D)フラーレン類、多環式芳香族炭化水素、及び炭素系高分子成分を含む混合物を、多環式芳香族炭化水素及びフラーレン類の混合物、及び炭素系高分子成分とに分離する工程、
(工程E)多環式芳香族炭化水素及びフラーレン類の混合物を多環式芳香族炭化水素とフラーレン類とに分離する工程。
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