JP2004067490A - フラーレン類の製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】特に燃焼法によって得られたフラーレン類の製造方法において、多環状芳香族炭化水素の含有量の少ない高純度のフラーレン類を製造する方法を提供する。
【解決手段】(工程A)フラーレン類及び多環状芳香族炭化水素を含有する煤状物質を不活性ガスの下で加熱し、多環状芳香族炭化水素を昇華して煤状物質から分離する工程と、(工程B)フラーレン類を含む煤状物質を不活性ガスの下で加熱し、フラーレン類を昇華して煤状物質から分離する工程、を有するフラーレン類の製造方法。
【選択図】 図1
【解決手段】(工程A)フラーレン類及び多環状芳香族炭化水素を含有する煤状物質を不活性ガスの下で加熱し、多環状芳香族炭化水素を昇華して煤状物質から分離する工程と、(工程B)フラーレン類を含む煤状物質を不活性ガスの下で加熱し、フラーレン類を昇華して煤状物質から分離する工程、を有するフラーレン類の製造方法。
【選択図】 図1
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は新しい炭素材料であるフラーレン類、中でもC60、C70、C76、C78、C82、C84の分子構造を有するフラーレン類の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
1990年に炭素数60、70、84等の閉殻構造型のカーボンクラスター(球状の巨大分子)という新しいタイプの分子状炭素物質が合成され、注目されている。この特殊な分子構造を有するカーボンクラスターは、フラーレン類とも称され、その分子骨格を構成する炭素数によって、フラーレンC60、同C70、同C84などと呼ばれている(単に、C60、C70、C84等とも呼ばれる)。これらのフラーレン類は、新しい炭素材料であり、また特殊な分子構造から特異な物性を示すことが期待されるので、その性質及び用途開発についての研究が盛んに進められている。フラーレン類は例えば、ダイヤモンドコーティング、電池材料、塗料、断熱材、潤滑材、化粧品などの分野への利用が期待されている。
【0003】
フラーレン類の製造方法としては、(1)グラファイトなど炭素質材料から成る電極を原料としてこの電極間にアーク放電によって原料を蒸発させる方法(アーク放電法)、(2)炭素質原料に高電流を流して原料を蒸発させる方法(抵抗加熱法)、(3)高エネルギー密度のパルスレーザー照射によって炭素質原料を蒸発させる方法(レーザー蒸発法)、(4)ベンゼンなどの有機物を不完全燃焼させる方法(燃焼法)などが知られている。しかし、現状いずれの製造方法でも目的の単一フラーレン、あるいは有益なC60〜C84フラーレン類だけを製造することはできず、C60及びC70を主とする複数のフラーレンとその他多数の炭素化合物との混合物(この燃焼生成物は「煤」と呼ばれることがある)として生成する。煤中のフラーレン類の含有量は、効率的といわれるアーク放電法でも10〜30%程度で、C70:C60の生成比は約0.1である。したがって、高純度のフラーレンを得るためには煤からまずフラーレン類のみを分離する必要がある。
【0004】
燃焼生成物「煤」からのフラーレン類の分離方法として、(1)フラーレン類はベンゼン、トルエン、二硫化炭素等の有機溶媒に溶解し、その他の不純物成分は溶解しにくいという性質を利用して、このような有機溶媒を用いて煤からフラーレン類を抽出する方法(溶媒抽出法)、(2)高真空下で煤を加熱し、フラーレン類を昇華させる方法(昇華法)が知られている。このうち昇華法は、たとえば400℃以上の高温、0.133Pa(10−3Torr)以下の高真空条件を必要とする特殊な分離方法であり、それに比べ溶媒抽出法は操作が容易なため広く用いられている。さらに抽出で得られたフラーレン類(主としてC60とC70の混合物)を含む溶液からの単一フラーレンの分離には、カラムクロマト分離、分別再結晶、フラーレンの包接化などの方法が適用されている。
【0005】
燃焼法によりフラーレンを製造する場合、例えば米国特許第5273729号で示されたように、制御された条件下でトルエン等の有機物を不完全燃焼させると、C60とC70を主とする複数のフラーレン類を含んだ煤状物質が生成するが、典型的には煤状物質中には、通常10〜30重量%程度のフラーレン類と、10ppm〜5重量%の多環状芳香族炭化水素が含まれており、残分はグラファイト構造を持つ炭素及びグラファイト構造を骨格として若干の水素原子を有する高分子の炭化水素やカーボンブラック等である。
【0006】
フラーレン類と多環状芳香族炭化水素の溶媒への溶解度を比較すると、通常100倍以上多環状芳香族炭化水素の溶解度が高い。その為、煤状物質から溶媒で抽出すると、フラーレン類のみを選択的に抽出することは困難で、煤状物質中の多環状芳香族炭化水素もほとんど抽出液側へ同時に抽出される。その為、抽出後の液を、濃縮・乾燥もしくは、濃縮して析出した固形分を濾別して乾燥して得られた固体中は、通常0.5〜5%程度多環状芳香族炭化水素を含んだフラーレン類を得ることになる。
【0007】
ベンゾピレンに代表される多環状芳香族炭化水素は、組成的に炭化水素の中でも水素原子の割合が少なくフラーレン類と類似している。従って、フラーレン類に混在している場合にはフラーレンの反応性を阻害したり、フラーレンの固有の性質を遮蔽したりする可能性もある。また、安全上からもこれら多環状芳香族炭化水素は極力減少させる必要があると考えられている。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は係る事情に鑑みてなされたもので、フラーレン類、多環状芳香族炭化水素及び炭素系高分子成分を含有する煤状物質から高純度かつ効率よくフラーレン類を製造できるフラーレン類の製造方法を提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上述したような事情に鑑みて鋭意検討した。その結果、フラーレン類、多環状芳香族炭化水素及び炭素系高分子成分を含む煤状物質の中から、まず、多環状芳香族炭化水素を昇華して除去した後、更に、より高温にてフラーレン類を昇華させることにより効率よくフラーレン類を分離、回収することができることを見いだし本発明に到達した。
【0010】
即ち、本発明の要旨は、(工程A)フラーレン類、多環状芳香族炭化水素及び炭素系高分子成分を含有する煤状物質を不活性ガスの下で加熱し、多環状芳香族炭化水素を昇華して煤状物質から分離する工程と、(工程B)フラーレン類及び炭素系高分子成分を含む煤状物質を不活性ガスの下で加熱し、フラーレン類を昇華して煤状物質から分離する工程、を有するフラーレン類の製造方法に存する。
【0011】
【発明の実施の形態】
本発明の用いられる煤状物質は、フラーレン類及び多環状芳香族炭化水素を含有していれば、いかなる方法によって得られたものであっても良い。フラーレンを大量に生産するには、炭化水素を原料を不完全燃焼させる燃焼法によるもの、または高熱下に炭化水素原料を分解させる熱分解法によるものが好ましく、なかでも燃焼法が好ましい。
【0012】
燃焼法によりフラーレンを製造する場合、圧力条件として1330 〜13300Pa(10〜100Torr)が好ましく、3990〜6650Pa(30〜50Torr)が更に好ましい。温度条件としては800〜2500℃が好ましく、1000〜2000℃が更に好ましい。
フラーレンの原料としては、ベンゼン、トルエン、キシレン、ナフタレン、メチルナフタレン、アントラセン、フェナントレン等の炭素数6〜15の芳香族炭化水素が好適に用いられる。また、原料としては、これらの芳香族炭化水素に併用してヘキサン、ヘプタン、オクタン等の脂肪族炭化水素を用いても良い。
【0013】
燃焼法においては、フラーレンの原料は、同時に熱源としても作用する。即ち、原料炭化水素は酸素と反応して発熱してフラーレンの生成が可能となる温度に上昇させるとともに、原料炭化水素が脱水素されることにより、フラーレン骨格を形成するための炭素ユニットを生成するものと考えられている。炭素ユニットは一定の圧力、温度条件で集合してフラーレン類を形成する。
【0014】
酸素の使用量としては、原料炭化水素の種類によっても若干異なるが、例えば原料炭化水素としてトルエンを用いた場合には、トルエンに対して0.5〜9倍モルが好ましく、1〜5倍モルが更に好ましい。
燃焼法における反応系には、酸素以外に、フラーレンに対して不活性な気体を存在させていても良い。これら不活性気体としては例えば、ヘリウム、ネオン、アルゴン、窒素、二酸化炭素等が挙げられる。
【0015】
燃焼法により得られた煤状物質中には、フラーレン類、多環状芳香族炭化水素が含まれ、それ以外の残部は通常グラファイト構造を持つ炭素、グラファイト構造を骨格として若干の水素原子を有する高分子の炭化水素やカーボンブラック等である。
煤状物質には、フラーレン類が5重量%以上含まれていることが好ましく、10%以上含まれていることが更に好ましく、15%以上含まれていることが特に好ましい。
【0016】
また、本発明により製造されるフラーレン類は、フラーレン構造を有していれば炭素数に制限はないが、通常は炭素数60〜84のフラーレンであり、中でもC60とC70の割合が全フラーレン中好ましくは50%以上であり、更に好ましくは70%以上であり、特に好ましくは80%以上である。
【0017】
(工程A)
本発明の製造方法においては、まず、フラーレン類、多環状芳香族炭化水素及び炭素系高分子成分を含有する煤状物質を不活性ガスの下で加熱して多環状芳香族炭化水素を昇華して煤状物質から分離する工程を実施する。
多環状芳香族化合物を昇華する際の条件としては、圧力は100〜2×105Paが好ましく、1000〜1.4×105Paが更に好ましい。が更に好ましい。常圧では装置が簡単になるメリットがあり、減圧下では多環状芳香族炭化水素の昇華温度が低くなるメリットがある。経済性を考えて、最適な条件で実施すればよい。また温度は、好ましくは100℃以上800℃以下である。昇華温度は圧力によって変化するので適宜選択すればよいが、常圧の場合には、更に200℃以上700℃以下が好ましく、特に300℃以上600℃以下が好ましい。温度が低すぎると多環状芳香族炭化水素の昇華が不十分となり、温度が高すぎるとフラーレン類も昇華し、フラーレン類の回収率が低下する。
【0018】
昇華に用いる装置は、上述の温度/圧力となる昇華条件に耐えうるものであれば、バッチ式、固定床型、流動層型、連続型等特に限定はしない。昇華装置に用いられる材質としては、石英ガラス、ステンレス等の金属類、セラミックス、ガラス等が挙げられる。
昇華に際しては、不活性ガスの存在下に行うが、本発明において不活性ガスとは、昇華の温度/圧力条件でフラーレン類と実質的に反応しない気体を意味する。不活性ガスの種類としては、ヘリウム、ネオン、アルゴン、窒素及びこれらの混合物が挙げられる。フラーレン類の反応を避けるためには、昇華に際して昇華装置中を実質的に不活性ガスにより置換し、昇華装置内の気体中の酸素の含有量として10体積%以下とするのが好ましく、5体積%以下とするのが好ましく、1体積%とするのが特に好ましい。酸素の含有量が多い場合には、フラーレン類の酸化物が生成する場合がある。
【0019】
また、多環状芳香族炭化水素の昇華は、不活性ガス流通下に行うのが好ましい。不活性ガスの流通下に行う方法としては、例えば昇華装置に不活性ガスの流入口及び排出口を設けておき、連続的に不活性ガスを流入及び排出させながら、所定の温度に昇温する。不活性ガスは昇華装置に流入させるに際し余熱しておくこともできる。
【0020】
不活性ガスの流通下に昇華を行う場合の不活性ガスの流通量としては、煤状物質1gに対して好ましくは1〜10000ml/minであり、更に好ましくは5〜5000ml/minである。不活性ガスの流通は連続的であっても間欠的であってもよい。
昇華装置から昇華した多環状芳香族炭化水素は不活性ガスに同伴され、析出装置にて温度が下げられることによって多環状芳香族炭化水素を析出させることが出来る。析出装置は、昇華装置と同一装置内に設けても分離して設けてもも構わないし、バッチ式、または連続式でも構わない。析出した多環状芳香族炭化水素の回収には、機械的に集めて回収しても、溶媒に溶解して回収しても構わない。多環状芳香族炭化水素を析出して回収した後の不活性ガスは、大気に放出するかリサイクル使用する。操作時間は、温度、圧力、ガス流通量によって異なるが、通常10分〜12時間程度である。
【0021】
(工程B)
次に、多環状芳香族炭化水素が分離された煤状物質は、工程Aよりも高温の条件に付すことにより、フラーレンを昇華させて煤状物質から分離する。
【0022】
昇華する際の条件は、常圧もしくは5000Pa程度の減圧下で実施する。常圧では装置が簡単になるメリットがあり、減圧下ではフラーレン類の昇華温度が低くなるメリットがある。経済性を考えて、最適な条件で実施すればよい。窒素又はヘリウム等の不活性ガスを、煤状物質1gに対して1〜10000ml/min 程度で、好ましくは5〜5000ml/min程度流し、フラーレン類を含有する煤状物質を不活性ガス雰囲気下に置換した後、不活性ガス流通下で昇温する。
【0023】
置換が十分に実施されないと、フラーレンの酸化物が生成する。昇華を実施する際の不活性ガスは、予熱しても良いし、予熱しなくても良い。昇華に用いる装置は、バッチ式、固定床型、流動層型、連続型等特に限定はしない。
フラーレンを昇華させる際の煤状物質の温度は、通常400℃〜1400℃、好ましくは、600〜1200℃、更に好ましくは800℃〜1100℃である。
用いる材質は、石英ガラス、ステンレス等の金属類、セラミックス、ガラス等特には限定しない。昇華装置から昇華したフラーレン類は不活性ガスに運ばれ、温度を下げて析出する。析出する装置は、昇華装置と同一装置内に設けても分離しても構わないし、バッチ式、または連続式でも構わない。析出したフラーレン類の回収には、機械的に集めて回収しても、溶媒に溶解して回収しても構わない。フラーレン類を析出して回収した後の不活性ガスは、大気に放出するかリサイクル使用する。操作時間は、温度、圧力、ガス流通量によって異なるが、通常10分〜12時間程度である。
上記の工程A及び工程Bは、別々の装置で実施しても良いし、キルンのような機械を用いて、同一の機械で実施しても構わない
【0024】
また、本発明の製造方法により得られたフラーレン類は、通常はC60及びC70を主体とするフラーレン類の混合物であり、単一化合物を得ようとする場合には、本発明の製造方法により得られたフラーレン類をカラムクロマトグラフィー等の方法を用いて、それぞれのフラーレン種に分離することが出来る。
【0025】
【実施例】
次に、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はその要旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
燃焼法によって製造したフラーレン類、多環状芳香族炭化水素及び炭素系高分子成分を含む煤状物質3.16gを図1に示すような石英ガラス製昇華装置に入れ、窒素を250ml/minで30分間室温で流して装置内を置換した。その後、電気炉の温度を500℃まで昇温して、2時間500℃を保った。一旦室温まで徐冷後、上記の固形分の内2.59gを同一仕様の昇華装置に入れ、Heを220ml/minで30分間室温で流して装置内を置換した後、電気炉の温度を1000℃まで昇温して、2時間1000℃を保った。その後、室温まで冷却した。昇華装置内に残っている残査の固形分と、昇華して配管(不活性ガス排出口)に付着した固形分を1,2,4−トリメチルベンゼンで抽出して、それぞれを、島津社製高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いてフラーレン類を、Agilent社製ガスクロマトグラフィー(GC)を用いて多環状芳香族炭化水素を定量した。
その結果、昇華装置内に残っている固形分の組成は、C60が2.53重量%、C70が21.5重量%、残部が高次フラーレン類である。また、多環状芳香族化合物は認められなかった。即ち、多環状芳香族化合物の含有量は測定限界以下であり、多くとも100ppmである。
一方、配管に付着した固形分の組成は、C60が72.7重量%、C70が22.3重量%、残部が高次フラーレン類である。また、多環状芳香族化合物は認められなかった。即ち、多環状芳香族化合物の含有量は測定限界以下であり、多くとも100ppmである。
【0026】
【発明の効果】
本発明により、分離に際して溶媒等を全く使用することなく多環状芳香族炭化水素の含有量の少ない高純度のフラーレン類の製造方法を提供することができる。
更に、カラムクロマト分離、分別再結晶などの従来からの方法を組み合わせることによって、単一フラーレンを従来になく、より効率的に、低コストで製造できることとなった。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の製造方法に用いられる昇華装置の一実施態様の模式図である。
【符号の説明】
1 不活性ガス注入口
2 不活性ガス排出口
3 煤状物質の出し入れ口(蓋と容器がすり合せとなっている)
【発明の属する技術分野】
本発明は新しい炭素材料であるフラーレン類、中でもC60、C70、C76、C78、C82、C84の分子構造を有するフラーレン類の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
1990年に炭素数60、70、84等の閉殻構造型のカーボンクラスター(球状の巨大分子)という新しいタイプの分子状炭素物質が合成され、注目されている。この特殊な分子構造を有するカーボンクラスターは、フラーレン類とも称され、その分子骨格を構成する炭素数によって、フラーレンC60、同C70、同C84などと呼ばれている(単に、C60、C70、C84等とも呼ばれる)。これらのフラーレン類は、新しい炭素材料であり、また特殊な分子構造から特異な物性を示すことが期待されるので、その性質及び用途開発についての研究が盛んに進められている。フラーレン類は例えば、ダイヤモンドコーティング、電池材料、塗料、断熱材、潤滑材、化粧品などの分野への利用が期待されている。
【0003】
フラーレン類の製造方法としては、(1)グラファイトなど炭素質材料から成る電極を原料としてこの電極間にアーク放電によって原料を蒸発させる方法(アーク放電法)、(2)炭素質原料に高電流を流して原料を蒸発させる方法(抵抗加熱法)、(3)高エネルギー密度のパルスレーザー照射によって炭素質原料を蒸発させる方法(レーザー蒸発法)、(4)ベンゼンなどの有機物を不完全燃焼させる方法(燃焼法)などが知られている。しかし、現状いずれの製造方法でも目的の単一フラーレン、あるいは有益なC60〜C84フラーレン類だけを製造することはできず、C60及びC70を主とする複数のフラーレンとその他多数の炭素化合物との混合物(この燃焼生成物は「煤」と呼ばれることがある)として生成する。煤中のフラーレン類の含有量は、効率的といわれるアーク放電法でも10〜30%程度で、C70:C60の生成比は約0.1である。したがって、高純度のフラーレンを得るためには煤からまずフラーレン類のみを分離する必要がある。
【0004】
燃焼生成物「煤」からのフラーレン類の分離方法として、(1)フラーレン類はベンゼン、トルエン、二硫化炭素等の有機溶媒に溶解し、その他の不純物成分は溶解しにくいという性質を利用して、このような有機溶媒を用いて煤からフラーレン類を抽出する方法(溶媒抽出法)、(2)高真空下で煤を加熱し、フラーレン類を昇華させる方法(昇華法)が知られている。このうち昇華法は、たとえば400℃以上の高温、0.133Pa(10−3Torr)以下の高真空条件を必要とする特殊な分離方法であり、それに比べ溶媒抽出法は操作が容易なため広く用いられている。さらに抽出で得られたフラーレン類(主としてC60とC70の混合物)を含む溶液からの単一フラーレンの分離には、カラムクロマト分離、分別再結晶、フラーレンの包接化などの方法が適用されている。
【0005】
燃焼法によりフラーレンを製造する場合、例えば米国特許第5273729号で示されたように、制御された条件下でトルエン等の有機物を不完全燃焼させると、C60とC70を主とする複数のフラーレン類を含んだ煤状物質が生成するが、典型的には煤状物質中には、通常10〜30重量%程度のフラーレン類と、10ppm〜5重量%の多環状芳香族炭化水素が含まれており、残分はグラファイト構造を持つ炭素及びグラファイト構造を骨格として若干の水素原子を有する高分子の炭化水素やカーボンブラック等である。
【0006】
フラーレン類と多環状芳香族炭化水素の溶媒への溶解度を比較すると、通常100倍以上多環状芳香族炭化水素の溶解度が高い。その為、煤状物質から溶媒で抽出すると、フラーレン類のみを選択的に抽出することは困難で、煤状物質中の多環状芳香族炭化水素もほとんど抽出液側へ同時に抽出される。その為、抽出後の液を、濃縮・乾燥もしくは、濃縮して析出した固形分を濾別して乾燥して得られた固体中は、通常0.5〜5%程度多環状芳香族炭化水素を含んだフラーレン類を得ることになる。
【0007】
ベンゾピレンに代表される多環状芳香族炭化水素は、組成的に炭化水素の中でも水素原子の割合が少なくフラーレン類と類似している。従って、フラーレン類に混在している場合にはフラーレンの反応性を阻害したり、フラーレンの固有の性質を遮蔽したりする可能性もある。また、安全上からもこれら多環状芳香族炭化水素は極力減少させる必要があると考えられている。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は係る事情に鑑みてなされたもので、フラーレン類、多環状芳香族炭化水素及び炭素系高分子成分を含有する煤状物質から高純度かつ効率よくフラーレン類を製造できるフラーレン類の製造方法を提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上述したような事情に鑑みて鋭意検討した。その結果、フラーレン類、多環状芳香族炭化水素及び炭素系高分子成分を含む煤状物質の中から、まず、多環状芳香族炭化水素を昇華して除去した後、更に、より高温にてフラーレン類を昇華させることにより効率よくフラーレン類を分離、回収することができることを見いだし本発明に到達した。
【0010】
即ち、本発明の要旨は、(工程A)フラーレン類、多環状芳香族炭化水素及び炭素系高分子成分を含有する煤状物質を不活性ガスの下で加熱し、多環状芳香族炭化水素を昇華して煤状物質から分離する工程と、(工程B)フラーレン類及び炭素系高分子成分を含む煤状物質を不活性ガスの下で加熱し、フラーレン類を昇華して煤状物質から分離する工程、を有するフラーレン類の製造方法に存する。
【0011】
【発明の実施の形態】
本発明の用いられる煤状物質は、フラーレン類及び多環状芳香族炭化水素を含有していれば、いかなる方法によって得られたものであっても良い。フラーレンを大量に生産するには、炭化水素を原料を不完全燃焼させる燃焼法によるもの、または高熱下に炭化水素原料を分解させる熱分解法によるものが好ましく、なかでも燃焼法が好ましい。
【0012】
燃焼法によりフラーレンを製造する場合、圧力条件として1330 〜13300Pa(10〜100Torr)が好ましく、3990〜6650Pa(30〜50Torr)が更に好ましい。温度条件としては800〜2500℃が好ましく、1000〜2000℃が更に好ましい。
フラーレンの原料としては、ベンゼン、トルエン、キシレン、ナフタレン、メチルナフタレン、アントラセン、フェナントレン等の炭素数6〜15の芳香族炭化水素が好適に用いられる。また、原料としては、これらの芳香族炭化水素に併用してヘキサン、ヘプタン、オクタン等の脂肪族炭化水素を用いても良い。
【0013】
燃焼法においては、フラーレンの原料は、同時に熱源としても作用する。即ち、原料炭化水素は酸素と反応して発熱してフラーレンの生成が可能となる温度に上昇させるとともに、原料炭化水素が脱水素されることにより、フラーレン骨格を形成するための炭素ユニットを生成するものと考えられている。炭素ユニットは一定の圧力、温度条件で集合してフラーレン類を形成する。
【0014】
酸素の使用量としては、原料炭化水素の種類によっても若干異なるが、例えば原料炭化水素としてトルエンを用いた場合には、トルエンに対して0.5〜9倍モルが好ましく、1〜5倍モルが更に好ましい。
燃焼法における反応系には、酸素以外に、フラーレンに対して不活性な気体を存在させていても良い。これら不活性気体としては例えば、ヘリウム、ネオン、アルゴン、窒素、二酸化炭素等が挙げられる。
【0015】
燃焼法により得られた煤状物質中には、フラーレン類、多環状芳香族炭化水素が含まれ、それ以外の残部は通常グラファイト構造を持つ炭素、グラファイト構造を骨格として若干の水素原子を有する高分子の炭化水素やカーボンブラック等である。
煤状物質には、フラーレン類が5重量%以上含まれていることが好ましく、10%以上含まれていることが更に好ましく、15%以上含まれていることが特に好ましい。
【0016】
また、本発明により製造されるフラーレン類は、フラーレン構造を有していれば炭素数に制限はないが、通常は炭素数60〜84のフラーレンであり、中でもC60とC70の割合が全フラーレン中好ましくは50%以上であり、更に好ましくは70%以上であり、特に好ましくは80%以上である。
【0017】
(工程A)
本発明の製造方法においては、まず、フラーレン類、多環状芳香族炭化水素及び炭素系高分子成分を含有する煤状物質を不活性ガスの下で加熱して多環状芳香族炭化水素を昇華して煤状物質から分離する工程を実施する。
多環状芳香族化合物を昇華する際の条件としては、圧力は100〜2×105Paが好ましく、1000〜1.4×105Paが更に好ましい。が更に好ましい。常圧では装置が簡単になるメリットがあり、減圧下では多環状芳香族炭化水素の昇華温度が低くなるメリットがある。経済性を考えて、最適な条件で実施すればよい。また温度は、好ましくは100℃以上800℃以下である。昇華温度は圧力によって変化するので適宜選択すればよいが、常圧の場合には、更に200℃以上700℃以下が好ましく、特に300℃以上600℃以下が好ましい。温度が低すぎると多環状芳香族炭化水素の昇華が不十分となり、温度が高すぎるとフラーレン類も昇華し、フラーレン類の回収率が低下する。
【0018】
昇華に用いる装置は、上述の温度/圧力となる昇華条件に耐えうるものであれば、バッチ式、固定床型、流動層型、連続型等特に限定はしない。昇華装置に用いられる材質としては、石英ガラス、ステンレス等の金属類、セラミックス、ガラス等が挙げられる。
昇華に際しては、不活性ガスの存在下に行うが、本発明において不活性ガスとは、昇華の温度/圧力条件でフラーレン類と実質的に反応しない気体を意味する。不活性ガスの種類としては、ヘリウム、ネオン、アルゴン、窒素及びこれらの混合物が挙げられる。フラーレン類の反応を避けるためには、昇華に際して昇華装置中を実質的に不活性ガスにより置換し、昇華装置内の気体中の酸素の含有量として10体積%以下とするのが好ましく、5体積%以下とするのが好ましく、1体積%とするのが特に好ましい。酸素の含有量が多い場合には、フラーレン類の酸化物が生成する場合がある。
【0019】
また、多環状芳香族炭化水素の昇華は、不活性ガス流通下に行うのが好ましい。不活性ガスの流通下に行う方法としては、例えば昇華装置に不活性ガスの流入口及び排出口を設けておき、連続的に不活性ガスを流入及び排出させながら、所定の温度に昇温する。不活性ガスは昇華装置に流入させるに際し余熱しておくこともできる。
【0020】
不活性ガスの流通下に昇華を行う場合の不活性ガスの流通量としては、煤状物質1gに対して好ましくは1〜10000ml/minであり、更に好ましくは5〜5000ml/minである。不活性ガスの流通は連続的であっても間欠的であってもよい。
昇華装置から昇華した多環状芳香族炭化水素は不活性ガスに同伴され、析出装置にて温度が下げられることによって多環状芳香族炭化水素を析出させることが出来る。析出装置は、昇華装置と同一装置内に設けても分離して設けてもも構わないし、バッチ式、または連続式でも構わない。析出した多環状芳香族炭化水素の回収には、機械的に集めて回収しても、溶媒に溶解して回収しても構わない。多環状芳香族炭化水素を析出して回収した後の不活性ガスは、大気に放出するかリサイクル使用する。操作時間は、温度、圧力、ガス流通量によって異なるが、通常10分〜12時間程度である。
【0021】
(工程B)
次に、多環状芳香族炭化水素が分離された煤状物質は、工程Aよりも高温の条件に付すことにより、フラーレンを昇華させて煤状物質から分離する。
【0022】
昇華する際の条件は、常圧もしくは5000Pa程度の減圧下で実施する。常圧では装置が簡単になるメリットがあり、減圧下ではフラーレン類の昇華温度が低くなるメリットがある。経済性を考えて、最適な条件で実施すればよい。窒素又はヘリウム等の不活性ガスを、煤状物質1gに対して1〜10000ml/min 程度で、好ましくは5〜5000ml/min程度流し、フラーレン類を含有する煤状物質を不活性ガス雰囲気下に置換した後、不活性ガス流通下で昇温する。
【0023】
置換が十分に実施されないと、フラーレンの酸化物が生成する。昇華を実施する際の不活性ガスは、予熱しても良いし、予熱しなくても良い。昇華に用いる装置は、バッチ式、固定床型、流動層型、連続型等特に限定はしない。
フラーレンを昇華させる際の煤状物質の温度は、通常400℃〜1400℃、好ましくは、600〜1200℃、更に好ましくは800℃〜1100℃である。
用いる材質は、石英ガラス、ステンレス等の金属類、セラミックス、ガラス等特には限定しない。昇華装置から昇華したフラーレン類は不活性ガスに運ばれ、温度を下げて析出する。析出する装置は、昇華装置と同一装置内に設けても分離しても構わないし、バッチ式、または連続式でも構わない。析出したフラーレン類の回収には、機械的に集めて回収しても、溶媒に溶解して回収しても構わない。フラーレン類を析出して回収した後の不活性ガスは、大気に放出するかリサイクル使用する。操作時間は、温度、圧力、ガス流通量によって異なるが、通常10分〜12時間程度である。
上記の工程A及び工程Bは、別々の装置で実施しても良いし、キルンのような機械を用いて、同一の機械で実施しても構わない
【0024】
また、本発明の製造方法により得られたフラーレン類は、通常はC60及びC70を主体とするフラーレン類の混合物であり、単一化合物を得ようとする場合には、本発明の製造方法により得られたフラーレン類をカラムクロマトグラフィー等の方法を用いて、それぞれのフラーレン種に分離することが出来る。
【0025】
【実施例】
次に、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はその要旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
燃焼法によって製造したフラーレン類、多環状芳香族炭化水素及び炭素系高分子成分を含む煤状物質3.16gを図1に示すような石英ガラス製昇華装置に入れ、窒素を250ml/minで30分間室温で流して装置内を置換した。その後、電気炉の温度を500℃まで昇温して、2時間500℃を保った。一旦室温まで徐冷後、上記の固形分の内2.59gを同一仕様の昇華装置に入れ、Heを220ml/minで30分間室温で流して装置内を置換した後、電気炉の温度を1000℃まで昇温して、2時間1000℃を保った。その後、室温まで冷却した。昇華装置内に残っている残査の固形分と、昇華して配管(不活性ガス排出口)に付着した固形分を1,2,4−トリメチルベンゼンで抽出して、それぞれを、島津社製高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いてフラーレン類を、Agilent社製ガスクロマトグラフィー(GC)を用いて多環状芳香族炭化水素を定量した。
その結果、昇華装置内に残っている固形分の組成は、C60が2.53重量%、C70が21.5重量%、残部が高次フラーレン類である。また、多環状芳香族化合物は認められなかった。即ち、多環状芳香族化合物の含有量は測定限界以下であり、多くとも100ppmである。
一方、配管に付着した固形分の組成は、C60が72.7重量%、C70が22.3重量%、残部が高次フラーレン類である。また、多環状芳香族化合物は認められなかった。即ち、多環状芳香族化合物の含有量は測定限界以下であり、多くとも100ppmである。
【0026】
【発明の効果】
本発明により、分離に際して溶媒等を全く使用することなく多環状芳香族炭化水素の含有量の少ない高純度のフラーレン類の製造方法を提供することができる。
更に、カラムクロマト分離、分別再結晶などの従来からの方法を組み合わせることによって、単一フラーレンを従来になく、より効率的に、低コストで製造できることとなった。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の製造方法に用いられる昇華装置の一実施態様の模式図である。
【符号の説明】
1 不活性ガス注入口
2 不活性ガス排出口
3 煤状物質の出し入れ口(蓋と容器がすり合せとなっている)
Claims (9)
- (工程A)フラーレン類、多環状芳香族炭化水素及び炭素系高分子成分を含有する煤状物質を不活性ガスの下で加熱し、多環状芳香族炭化水素を昇華して煤状物質から分離する工程と、(工程B)フラーレン類及び炭素系高分子成分を含む煤状物質を不活性ガスの下で加熱し、フラーレン類を昇華して煤状物質から分離する工程、を有するフラーレン類の製造方法。
- 工程Aにおいて、不活性ガスの流通下に多環状芳香族炭化水素を昇華することを特徴とする請求項1に記載のフラーレン類の製造方法。
- 工程Bにおいて、不活性ガスの流通下にフラーレン類を昇華することを特徴とする請求項1に記載のフラーレン類の製造方法。
- 不活性ガスが、窒素、ヘリウム、ネオン、又はアルゴンであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載のフラーレン類の製造方法。
- 多環状芳香族炭化水素を昇華する際の圧力が、 100Pa以上2×105Pa以下である請求項1乃至4のいずれかに記載のフラーレン類の製造方法。
- フラーレン類を昇華する際の圧力が、10Pa以上2×105Pa以下である請求項1乃至5のいずれかに記載のフラーレン類の製造方法。
- 多環状芳香族炭化水素を昇華する際の圧力が常圧であり、温度が300℃以上600℃以下である請求項1又は2に記載のフラーレン類の製造方法。
- フラーレン類を昇華する際の圧力が常圧であり、温度が800℃以上1100℃以下である請求項1乃至3のいずれかに記載のフラーレン類の製造方法。
- フラーレン類及び多環状芳香族炭化水素を含有する煤状物質が炭化水素化合物の燃焼及び/又は熱分解によって得られたものであることを特徴とするフラーレン類の製造方法。
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