JP2004161501A - フラーレン類の製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】フラーレン類、多環状芳香族炭化水素、及び炭素系高分子成分の混合物から、系外に多環状芳香族炭化水素を排出することなくフラーレンを単離する。
【解決手段】(工程A)炭化水素化合物を原料として、燃焼法又は熱分解法によりフラーレン類、多環状芳香族炭化水素及び炭素系高分子成分の混合物を生成する工程、(工程B)少なくともフラーレン類と多環状芳香族炭化水素を含む混合物を不活性ガスの下で加熱して多環状芳香族炭化水素を昇華して分離する工程、及び(工程C)工程Bで得られた多環状芳香族炭化水素を工程Bの昇華に必要な熱原料として再利用する工程とを含むフラーレン類の製造方法。
【選択図】 なし
【解決手段】(工程A)炭化水素化合物を原料として、燃焼法又は熱分解法によりフラーレン類、多環状芳香族炭化水素及び炭素系高分子成分の混合物を生成する工程、(工程B)少なくともフラーレン類と多環状芳香族炭化水素を含む混合物を不活性ガスの下で加熱して多環状芳香族炭化水素を昇華して分離する工程、及び(工程C)工程Bで得られた多環状芳香族炭化水素を工程Bの昇華に必要な熱原料として再利用する工程とを含むフラーレン類の製造方法。
【選択図】 なし
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は新しい炭素材料であるフラーレン類、中でもC60、C70、C76、C78、C82、C84の分子構造を有するフラーレン類の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
1990年に炭素数60、70、84等の閉殻構造型のカーボンクラスター(球状の巨大分子)という新しいタイプの分子状炭素物質が合成され、注目されている。この特殊な分子構造を有するカーボンクラスターは、フラーレン類とも称され、その分子骨格を構成する炭素数によって、フラーレンC60、同C70、同C84などと呼ばれている(単に、C60、C70、C84等とも呼ばれる)。これらのフラーレン類は、新しい炭素材料であり、また特殊な分子構造から特異な物性を示すことが期待されるので、その性質及び用途開発についての研究が盛んに進められている。フラーレン類は例えば、ダイヤモンドコーティング、電池材料、塗料、断熱材、潤滑材、化粧品などの分野への利用が期待されている。
【0003】
フラーレン類の製造方法としては、(1)グラファイトなど炭素質材料から成る電極を原料としてこの電極間にアーク放電によって原料を蒸発させる方法(アーク放電法)、(2)炭素質原料に高電流を流して原料を蒸発させる方法(抵抗加熱法)、(3)高エネルギー密度のパルスレーザー照射によって炭素質原料を蒸発させる方法(レーザー蒸発法)、(4)ベンゼンなどの有機物を不完全燃焼させる方法(燃焼法)、(5)ベンゼンなどの有機物を熱分解させる方法(熱分解法)などが知られている。
【0004】
このうち、燃焼法と熱分解法は、大量にフラーレンを精製することができるという点で有用である。
燃焼法によりフラーレンを製造する場合、制御された条件下でトルエン等の有機物を不完全燃焼させると、C60とC70を主とする複数のフラーレン類を含んだ煤状物質が生成する(例えば、特許文献1参照)。典型的には煤状物質中には、通常10〜30重量%程度のフラーレン類と、10ppm〜5重量%の多環状芳香族炭化水素が含まれている。また、残分はグラファイト構造を持つ炭素及びグラファイト構造を骨格として若干の水素原子を有する高分子の炭化水素やカーボンブラック等(以下、「炭素系高分子成分」と称することがある)である。
【0005】
煤状物質に混入するベンゾピレンに代表される多環状芳香族炭化水素は、組成的に炭化水素の中でも水素原子の割合が少なくフラーレン類と類似している。従って、フラーレン類に混在している場合にはフラーレンの反応性を阻害したり、フラーレンの固有の性質を遮蔽したりする可能性もある。また、安全上からもこれら多環状芳香族炭化水素は極力減少させる必要があると考えられている。
【0006】
【特許文献1】
米国特許第5273729号
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は係る事情に鑑みてなされたもので、フラーレン類及び多環状芳香族炭化水素を含有する煤状物質から高純度かつ効率よくフラーレン類を製造でき、且つ多環状芳香族炭化水素を環境中に排出することのないフラーレン類の製造方法を提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上述したような事情に鑑みて鋭意検討した。その結果、燃焼法または熱分解法によりフラーレン類を製造する方法において、特定の方法により煤状物質からフラーレン類と多環状芳香族炭化水素を分離し、さらに、この多環状芳香族炭化水素を熱原料として再利用することにより、高濃度でフラーレン類を分離すること及び多環状芳香族炭化水素を環境中に排出しないことが可能であることを見出し本発明に到達した。
【0009】
即ち、本発明の要旨は、(工程A)炭化水素化合物を原料として、燃焼法又は熱分解法によりフラーレン類、多環状芳香族炭化水素及び炭素系高分子成分の混合物を生成する工程、(工程B)少なくともフラーレン類と多環状芳香族炭化水素を含む混合物を不活性ガスの下で加熱して多環状芳香族炭化水素を昇華して分離する工程、及び(工程C)工程Bで得られた多環状芳香族炭化水素を工程Bの昇華に必要な熱原料として再利用する工程とを含むフラーレン類の製造方法に存する。
【0010】
【発明の実施の形態】
(工程A)
本発明に用いられる煤状物質は、炭化水素化合物原料を不完全燃焼させる燃焼法、または高熱下に炭化水素化合物原料を分解させる熱分解法によって得られるものである。なかでも燃焼法が好ましい。
【0011】
燃焼法によりフラーレンを製造する場合、圧力条件としては1330〜13300Pa(10〜100Torr)が好ましく、3990〜6650Pa(30〜50Torr)が更に好ましい。温度条件としては800〜2500℃が好ましく、1000〜2000℃が更に好ましい。
フラーレンの原料としては、ベンゼン、トルエン、キシレン、ナフタレン、メチルナフタレン、アントラセン、フェナントレン等の炭素数6〜20の芳香族炭化水素が好適に用いられる。また、原料としては、これらの芳香族炭化水素に併用してヘキサン、ヘプタン、オクタン等の脂肪族炭化水素を用いても良い。
【0012】
燃焼法においては、フラーレンの原料は、同時に熱源としても作用する。即ち、原料炭化水素は酸素と反応して発熱してフラーレンの生成が可能となる温度に上昇させるとともに、原料炭化水素が脱水素されることにより、フラーレン骨格を形成するための炭素ユニットを生成するものと考えられている。炭素ユニットは一定の圧力、温度条件で集合してフラーレン類を形成する。
【0013】
酸素の使用量としては、原料炭化水素の種類によっても若干異なるが、例えば原料炭化水素としてトルエンを用いた場合には、トルエンに対して0.5〜9倍モルが好ましく、1〜5倍モルが更に好ましい。
燃焼法における反応系には、酸素以外に、フラーレンに対して不活性な気体を存在させていても良い。これら不活性気体としては例えば、ヘリウム、ネオン、アルゴン、窒素、二酸化炭素等が挙げられる。
【0014】
燃焼法により得られた煤状物質中には、フラーレン類及び多環状芳香族炭化水素及びが含まれ、それ以外の残部は通常炭素グラファイト構造を骨格として若干の水素原子を有する高分子の炭化水素やカーボンブラック等の炭素系高分子成分である。
煤状物質には、フラーレン類が5重量%以上含まれていることが好ましく、10%以上含まれていることが更に好ましく、15%以上含まれていることが特に好ましい。
また、本発明により製造されるフラーレン類は、フラーレン構造を有していれば炭素数に制限はないが、通常は炭素数60〜84のフラーレンであり、中でもC60とC70の割合が全フラーレン中好ましくは50%以上であり、更に好ましくは70%以上であり、特に好ましくは80%以上である。
【0015】
(工程B)
次に、上記の燃焼法又は熱分解法によって得られた、少なくともフラーレン類、及び炭素系高分子成分の混合物を、不活性ガスの下で加熱して多環状芳香族炭化水素を昇華して煤状物質から分離する工程を実施する。
燃焼法又は熱分解法によって得られるフラーレン類は、通常、多環状芳香族化合物と炭素系高分子成分の生成を伴うが、これら3種の混合物から最終的にフラーレンを得るには、フラーレン類、多環状芳香族炭化水素、及び炭素系高分子成分から、炭素系高分子成分を最初に分離する方法と、多環状芳香族炭化水素を最初に分離する方法とがある。
【0016】
工程Bは、多環状芳香族炭化水素を昇華することにより分離する工程であるが、工程Bの後に炭素系高分子成分を分離する工程(工程D)を実施しても良いし、工程Bの前に炭素系高分子成分を分離する工程(工程E)を実施しても良い。
【0017】
工程Bにおいて、多環状芳香族化合物を昇華する際の条件としては、圧力は100〜2×105Paが好ましく、1000〜1.4×105Paが更に好ましい。が更に好ましい。常圧では装置が簡単になるメリットがあり、減圧下では多環状芳香族炭化水素の昇華温度が低くなるメリットがある。経済性を考えて、最適な条件で実施すればよい。また温度は、好ましくは100℃以上800℃以下である。昇華温度は圧力によって変化するので適宜選択すればよいが、常圧の場合には、更に200℃以上700℃以下が好ましく、特に300℃以上600℃以下が好ましい。温度が低すぎると多環状芳香族炭化水素の昇華が不十分となり、温度が高すぎるとフラーレン類も昇華し、フラーレン類の回収率が低下する。
【0018】
昇華に用いる装置は、上述の温度/圧力となる昇華条件に耐えうるものであれば、バッチ式、固定床型、流動層型、連続型等特に限定はしない。昇華装置に用いられる材質としては、石英ガラス、ステンレス等の金属類、セラミックス、ガラス等が挙げられる。
昇華に際しては、不活性ガスの存在下に行うが、本発明において不活性ガスとは、昇華の温度/圧力条件でフラーレン類と実質的に反応しない気体を意味する。不活性ガスの種類としては、ヘリウム、ネオン、アルゴン、窒素及びこれらの混合物が挙げられる。フラーレン類の反応を避けるためには、昇華に際して昇華装置中を実質的に不活性ガスにより置換し、昇華装置内の気体中の酸素の含有量として10体積%以下とするのが好ましく、5体積%以下とするのが好ましく、1体積%とするのが特に好ましい。酸素の含有量が多い場合には、フラーレン類の酸化物が生成する場合がある。
【0019】
また、多環状芳香族炭化水素の昇華は、不活性ガス流通下に行うのが好ましい。不活性ガスの流通下に行う方法としては、例えば昇華装置に不活性ガスの流入口及び排出口を設けておき、連続的に不活性ガスを流入及び排出させながら、所定の温度に昇温する。不活性ガスは昇華装置に流入させるに際し余熱しておくこともできる。
【0020】
不活性ガスの流通下に昇華を行う場合の不活性ガスの流通量としては、煤状物質1gに対して好ましくは1〜10000ml/minであり、更に好ましくは5〜5000ml/minである。不活性ガスの流通は連続的であっても間欠的であってもよい。
昇華装置から昇華した多環状芳香族炭化水素は不活性ガスに同伴され、析出装置にて温度が下げられることによって多環状芳香族炭化水素を析出させることが出来る。析出装置は、昇華装置と同一装置内に設けても分離して設けてもも構わないし、バッチ式、または連続式でも構わない。析出した多環状芳香族炭化水素の回収には、機械的に集めて回収しても、溶媒に溶解して回収しても構わない。
【0021】
(工程D)
工程Aに引き続き工程Bを行った場合、フラーレン類と炭素系高分子成分との混合物が得られるので、フラーレン類と炭素系高分子成分との混合物からフラーレン類を分離する。
その方式は特に限定されないが、典型的には、(工程D1)フラーレン類及び炭素系高分子成分の混合物と抽出溶媒とを混合してフラーレン類が溶解した抽出液を得る方法と、(工程D2)フラーレン類及び炭素系高分子成分の混合物を不活性ガスの下で加熱し、フラーレン類を昇華する方法とがある。
工程D1では、抽出液中に炭素系高分子成分は殆ど溶解していないので、これを濾過等により分離し、抽出液中の溶媒を留去することによってフラーレン類を単離する事が出来る。
また、工程D2では、炭素系高分子成分は殆ど昇華しないのでフラーレン類を単離する事が出来る。
【0022】
工程D1において、用いられる抽出溶媒としては、芳香族炭化水素が好ましく、具体的には、分子内に少なくとも1つのベンゼン核を有する炭化水素化合物であり、具体的にはベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、n−プロピルベンゼン、イソプロピルベンゼン、n−ブチルベンゼン、sec−ブチルベンゼン、tert−ブチルベンゼン、1,2,3−トリメチルベンゼン、1,2,4−トリメチルベンゼン、1,3,5−トリメチルベンゼン、1,2,3,4−テトラメチルベンゼン、1,2,3,5−テトラメチルベンゼン、ジエチルベンゼン、シメン等のアルキルベンゼン類、1−メチルナフタレン等のアルキルナフタレン類、テトラリン等が挙げられる。これらの内1,2,4−トリメチルベンゼン及びテトラリンが好ましい。
【0023】
抽出溶媒には、芳香族炭化水素の他に、更に脂肪族炭化水素や塩素化炭化水素等の有機溶媒を、単独又はこれらのうち2種以上を任意の割合で用いてもよい。脂肪族炭化水素としては、環式、非環式等、任意の脂肪族炭化水素が使用できる。環式脂肪族炭化水素の例としては、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタンなどの単環式脂肪族炭化水素、その誘導体であるメチルシクロペンタン、エチルシクロペンタン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、1,2−ジメチルシクロヘキサン、1,3−ジメチルシクロヘキサン、1,4−ジメチルシクロヘキサン、イソプロピルシクロヘキサン、n−プロピルシクロヘキサン、t−ブチルシクロヘキサン、n−ブチルシクロヘキサン、イソブチルシクロヘキサン、1,2,4−トリメチルシクロヘキサン,1,3,5−トリメチルシクロヘキサン、多環式としてデカリンなどが挙げられる。非環式脂肪族炭化水素の例としては、n−ペンタン、n−ヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタン、イソオクタン、n−ノナン、n−デカン、n−ドデカン、n−テトラデカンなどが挙げられる。
【0024】
塩素化炭化水素としては、ジクロロメタン、クロロフォルム、四塩化炭素、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン、1,2−ジクロロエタン、1,1,2,2−テトラクロロエタン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、1−クロロナフタレンなどが挙げられる。
その他、炭素数6以上のケトン、炭素数6以上のエステル類、炭素数6以上のエーテル類、二硫化炭素等が挙げられる。
【0025】
抽出溶媒としてはフラーレンの溶解度が低すぎると、抽出効率が低下するので、フラーレンの溶解度としては好ましくは5g/L以上、更に好ましくは10g/L以上、特に好ましくは15g/L以上である。また、工業的観点から、これらの抽出溶媒の中でも常温液体で沸点が100〜300℃、中でも120〜250℃のものが好適である。
【0026】
抽出溶媒は、フラーレン類を十分に抽出できるだけの量を用いる必要がある。通常、煤状物質中のフラーレン類の量に対し、5〜400重量倍量、経済性を考えると、40〜200重量倍量程度使用するのが好ましい。抽出は、バッチ式、セミ連続式、連続式、又はそれらの組み合わせ等、形式、装置は特に限定されない。
なお、煤状物質には通常5〜30重量%のフラーレン類が含まれているが、抽出効率の観点から、フラーレン類に対して用いる抽出溶媒の量を上記範囲とするのが好ましいことから、抽出操作に先立って、煤状物質の一部を分析して、煤状物質中のフラーレン含有量を測定しておくのが好ましい。
【0027】
抽出後、スラリーから未溶解物を濾別する。濾別は、減圧濾過、加圧濾過、重力濾過、フィルター濾過、又はそれらの組み合わせ等、方法、装置は特に限定されない。中で、加圧濾過が好ましい。
抽出装置としては撹拌混合槽が好適に使用できる。抽出の際、容器内の圧力は特に制限はなく、常圧で実施すればよい。抽出時の温度としては通常−10〜150℃であり、好ましくは5〜80℃であり、更に好ましくは30〜50℃である。これら範囲であれば抽出効率向上の面から好ましいが、抽出効率は温度依存性が小さいのでエネルギーコスト的に常温程度で行うのが有利である。
抽出工程においては、更に必要に応じて、抽出液に超音波等を照射しながら抽出を行うと、抽出時間が短くなるので好ましい。
【0028】
工程D2において、昇華する際の条件は、常圧もしくは5000Pa程度の減圧下で実施する。常圧では装置が簡単になるメリットがあり、減圧下ではフラーレン類の昇華温度が低くなるメリットがある。経済性を考えて、最適な条件で実施すればよい。窒素又はヘリウム等の不活性ガスを、煤状物質1gに対して1〜10000ml/min 程度で、好ましくは5〜5000ml/min程度流し、フラーレン類を含有する煤状物質を不活性ガス雰囲気下に置換した後、不活性ガス流通下で昇温する。
【0029】
置換が十分に実施されないと、フラーレンの酸化物が生成する。昇華を実施する際の不活性ガスは、予熱しても良いし、予熱しなくても良い。昇華に用いる装置は、バッチ式、固定床型、流動層型、連続型等特に限定はしない。
フラーレンを昇華させる際の温度は、通常400℃〜1400℃、好ましくは、600〜1200℃、更に好ましくは800℃〜1100℃である。
【0030】
用いる昇華装置の材質は、石英ガラス、ステンレス等の金属類、セラミックス、ガラス等特には限定しない。昇華装置から昇華したフラーレン類は不活性ガスに運ばれ、温度を下げて析出する。析出する装置は、昇華装置と同一装置内に設けても分離しても構わないし、バッチ式、または連続式でも構わない。析出したフラーレン類の回収には、機械的に集めて回収しても、溶媒に溶解して回収しても構わない。フラーレン類を析出して回収した後の不活性ガスは、大気に放出するかリサイクル使用する。操作時間は、温度、圧力、ガス流通量によって異なるが、通常10分〜12時間程度である。
【0031】
(工程E)
工程Aに引き続き工程Eを行い、後工程Bを行ってもフラーレン類を単離する事が出来る。工程Eは、フラーレン類、多環状芳香族炭化水素及び炭素系高分子物質の混合物から炭素系高分子物質を分離する工程である。
その方式は特に限定されないが、典型的には、(工程E1)フラーレン類、多環状芳香族炭化水素及び炭素系高分子成分の混合物と抽出溶媒とを混合してフラーレン類及び多環状芳香族炭化水素が溶解した抽出液を得る方法が挙げられる。抽出液中に炭素系高分子成分は殆ど溶解していないので、これを濾過等により分離し、抽出液中の溶媒を留去することによってフラーレン類と多環状芳香族炭化水素の混合物が得られる。この混合物を工程Bに付すことによって、多環状芳香族炭化水素を昇華分離し、フラーレン類を単離する事が出来る。
工程Eにおいて好ましく用いられる抽出溶媒は、上述の工程D1で用いられる溶媒と同様である。
【0032】
(工程C)
工程Bで得られた多環状芳香族炭化水素を工程Bの昇華に必要な熱原料として再利用される。
従って、本発明に用いられる昇華装置は、昇華熱の熱源として少なくとも一部は燃焼熱を利用するものである。
上記工程Bにおいて回収された多環状芳香族炭化水素は、昇華装置内で燃焼される。燃焼は、好ましくは他の有機溶媒に溶解し、若しくはガスと混合して行うのが好ましい。用いられるガス及び溶媒としては例えば、メタン、エタン、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン等の脂肪族炭化水素、ベンゼン、トルエン、キシレン、トリメチルベンゼン、テトラリン等の芳香族炭化水素が挙げられる。
【0033】
また、昇華装置の熱源としては、燃焼熱以外も例えば電気を併用して用いることを妨げるものではないが、好ましくは、全て燃焼熱を熱源として用いるものである。
工程Bで分離された多環状芳香族炭化水素は、昇華の熱原料として用いられるので、エネルギーのロスが抑えられると共に、多環状芳香族化合物が本発明の製造法の系外に排出されることがない。
【0034】
【実施例】
次に、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はその要旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
新しいトルエンを加熱し、純酸素と、トルエン/酸素=1/3のモル比で気相下で混合し、5.32kPaで不完全燃焼してフラーレンを含む煤状物質を製造した。
得られた煤状物質の組成は以下通りであった。
フラーレン類 20重量%
多環状芳香族炭化水素 200ppm
その他は炭素系高分子物質
【0035】
上記の燃焼法で製造した煤状物質1gを電気炉(昇華装置)に入れ、窒素を100mL/minで30分間室温で流して装置内を置換した。その後、電気炉の温度を500℃まで昇温して、2時間500℃を保ち、系外に出たきた多環状芳香族炭化水素を得た。
昇華装置の内部にはフラーレン類と炭素系高分子物質の混合物が残ったので、これに1,2,4−トリメチルベンゼン20mLを加え攪拌した後不溶分を濾別し、1,2,4−トリメチルベンゼンを減圧下で留去したところ、多環状芳香族化合物の含有量が測定限界以下(多くとも100ppm)のフラーレン類を得た。
【0036】
得られた多環状芳香族炭化水素は、水素と空気を混合したガス中で連続的に燃焼すると、出ガス中には多環状芳香族炭化水素は検出されなかった。なお、この燃焼熱は昇華装置の熱原料として用いることが出来る。
【0037】
【発明の効果】
本発明により、多環状芳香族炭化水素を含有するフラーレン類から多環状芳香族炭化水素を容易に分離することが出来、しかも、系外に多環状芳香族炭化水素を排出することなくフラーレンを単離する事が出来る。
更に、カラムクロマト分離、分別再結晶などの従来からの方法を組み合わせることによって、単一フラーレンを従来になく、より効率的に、低コストで製造できることとなった。
【発明の属する技術分野】
本発明は新しい炭素材料であるフラーレン類、中でもC60、C70、C76、C78、C82、C84の分子構造を有するフラーレン類の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
1990年に炭素数60、70、84等の閉殻構造型のカーボンクラスター(球状の巨大分子)という新しいタイプの分子状炭素物質が合成され、注目されている。この特殊な分子構造を有するカーボンクラスターは、フラーレン類とも称され、その分子骨格を構成する炭素数によって、フラーレンC60、同C70、同C84などと呼ばれている(単に、C60、C70、C84等とも呼ばれる)。これらのフラーレン類は、新しい炭素材料であり、また特殊な分子構造から特異な物性を示すことが期待されるので、その性質及び用途開発についての研究が盛んに進められている。フラーレン類は例えば、ダイヤモンドコーティング、電池材料、塗料、断熱材、潤滑材、化粧品などの分野への利用が期待されている。
【0003】
フラーレン類の製造方法としては、(1)グラファイトなど炭素質材料から成る電極を原料としてこの電極間にアーク放電によって原料を蒸発させる方法(アーク放電法)、(2)炭素質原料に高電流を流して原料を蒸発させる方法(抵抗加熱法)、(3)高エネルギー密度のパルスレーザー照射によって炭素質原料を蒸発させる方法(レーザー蒸発法)、(4)ベンゼンなどの有機物を不完全燃焼させる方法(燃焼法)、(5)ベンゼンなどの有機物を熱分解させる方法(熱分解法)などが知られている。
【0004】
このうち、燃焼法と熱分解法は、大量にフラーレンを精製することができるという点で有用である。
燃焼法によりフラーレンを製造する場合、制御された条件下でトルエン等の有機物を不完全燃焼させると、C60とC70を主とする複数のフラーレン類を含んだ煤状物質が生成する(例えば、特許文献1参照)。典型的には煤状物質中には、通常10〜30重量%程度のフラーレン類と、10ppm〜5重量%の多環状芳香族炭化水素が含まれている。また、残分はグラファイト構造を持つ炭素及びグラファイト構造を骨格として若干の水素原子を有する高分子の炭化水素やカーボンブラック等(以下、「炭素系高分子成分」と称することがある)である。
【0005】
煤状物質に混入するベンゾピレンに代表される多環状芳香族炭化水素は、組成的に炭化水素の中でも水素原子の割合が少なくフラーレン類と類似している。従って、フラーレン類に混在している場合にはフラーレンの反応性を阻害したり、フラーレンの固有の性質を遮蔽したりする可能性もある。また、安全上からもこれら多環状芳香族炭化水素は極力減少させる必要があると考えられている。
【0006】
【特許文献1】
米国特許第5273729号
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は係る事情に鑑みてなされたもので、フラーレン類及び多環状芳香族炭化水素を含有する煤状物質から高純度かつ効率よくフラーレン類を製造でき、且つ多環状芳香族炭化水素を環境中に排出することのないフラーレン類の製造方法を提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上述したような事情に鑑みて鋭意検討した。その結果、燃焼法または熱分解法によりフラーレン類を製造する方法において、特定の方法により煤状物質からフラーレン類と多環状芳香族炭化水素を分離し、さらに、この多環状芳香族炭化水素を熱原料として再利用することにより、高濃度でフラーレン類を分離すること及び多環状芳香族炭化水素を環境中に排出しないことが可能であることを見出し本発明に到達した。
【0009】
即ち、本発明の要旨は、(工程A)炭化水素化合物を原料として、燃焼法又は熱分解法によりフラーレン類、多環状芳香族炭化水素及び炭素系高分子成分の混合物を生成する工程、(工程B)少なくともフラーレン類と多環状芳香族炭化水素を含む混合物を不活性ガスの下で加熱して多環状芳香族炭化水素を昇華して分離する工程、及び(工程C)工程Bで得られた多環状芳香族炭化水素を工程Bの昇華に必要な熱原料として再利用する工程とを含むフラーレン類の製造方法に存する。
【0010】
【発明の実施の形態】
(工程A)
本発明に用いられる煤状物質は、炭化水素化合物原料を不完全燃焼させる燃焼法、または高熱下に炭化水素化合物原料を分解させる熱分解法によって得られるものである。なかでも燃焼法が好ましい。
【0011】
燃焼法によりフラーレンを製造する場合、圧力条件としては1330〜13300Pa(10〜100Torr)が好ましく、3990〜6650Pa(30〜50Torr)が更に好ましい。温度条件としては800〜2500℃が好ましく、1000〜2000℃が更に好ましい。
フラーレンの原料としては、ベンゼン、トルエン、キシレン、ナフタレン、メチルナフタレン、アントラセン、フェナントレン等の炭素数6〜20の芳香族炭化水素が好適に用いられる。また、原料としては、これらの芳香族炭化水素に併用してヘキサン、ヘプタン、オクタン等の脂肪族炭化水素を用いても良い。
【0012】
燃焼法においては、フラーレンの原料は、同時に熱源としても作用する。即ち、原料炭化水素は酸素と反応して発熱してフラーレンの生成が可能となる温度に上昇させるとともに、原料炭化水素が脱水素されることにより、フラーレン骨格を形成するための炭素ユニットを生成するものと考えられている。炭素ユニットは一定の圧力、温度条件で集合してフラーレン類を形成する。
【0013】
酸素の使用量としては、原料炭化水素の種類によっても若干異なるが、例えば原料炭化水素としてトルエンを用いた場合には、トルエンに対して0.5〜9倍モルが好ましく、1〜5倍モルが更に好ましい。
燃焼法における反応系には、酸素以外に、フラーレンに対して不活性な気体を存在させていても良い。これら不活性気体としては例えば、ヘリウム、ネオン、アルゴン、窒素、二酸化炭素等が挙げられる。
【0014】
燃焼法により得られた煤状物質中には、フラーレン類及び多環状芳香族炭化水素及びが含まれ、それ以外の残部は通常炭素グラファイト構造を骨格として若干の水素原子を有する高分子の炭化水素やカーボンブラック等の炭素系高分子成分である。
煤状物質には、フラーレン類が5重量%以上含まれていることが好ましく、10%以上含まれていることが更に好ましく、15%以上含まれていることが特に好ましい。
また、本発明により製造されるフラーレン類は、フラーレン構造を有していれば炭素数に制限はないが、通常は炭素数60〜84のフラーレンであり、中でもC60とC70の割合が全フラーレン中好ましくは50%以上であり、更に好ましくは70%以上であり、特に好ましくは80%以上である。
【0015】
(工程B)
次に、上記の燃焼法又は熱分解法によって得られた、少なくともフラーレン類、及び炭素系高分子成分の混合物を、不活性ガスの下で加熱して多環状芳香族炭化水素を昇華して煤状物質から分離する工程を実施する。
燃焼法又は熱分解法によって得られるフラーレン類は、通常、多環状芳香族化合物と炭素系高分子成分の生成を伴うが、これら3種の混合物から最終的にフラーレンを得るには、フラーレン類、多環状芳香族炭化水素、及び炭素系高分子成分から、炭素系高分子成分を最初に分離する方法と、多環状芳香族炭化水素を最初に分離する方法とがある。
【0016】
工程Bは、多環状芳香族炭化水素を昇華することにより分離する工程であるが、工程Bの後に炭素系高分子成分を分離する工程(工程D)を実施しても良いし、工程Bの前に炭素系高分子成分を分離する工程(工程E)を実施しても良い。
【0017】
工程Bにおいて、多環状芳香族化合物を昇華する際の条件としては、圧力は100〜2×105Paが好ましく、1000〜1.4×105Paが更に好ましい。が更に好ましい。常圧では装置が簡単になるメリットがあり、減圧下では多環状芳香族炭化水素の昇華温度が低くなるメリットがある。経済性を考えて、最適な条件で実施すればよい。また温度は、好ましくは100℃以上800℃以下である。昇華温度は圧力によって変化するので適宜選択すればよいが、常圧の場合には、更に200℃以上700℃以下が好ましく、特に300℃以上600℃以下が好ましい。温度が低すぎると多環状芳香族炭化水素の昇華が不十分となり、温度が高すぎるとフラーレン類も昇華し、フラーレン類の回収率が低下する。
【0018】
昇華に用いる装置は、上述の温度/圧力となる昇華条件に耐えうるものであれば、バッチ式、固定床型、流動層型、連続型等特に限定はしない。昇華装置に用いられる材質としては、石英ガラス、ステンレス等の金属類、セラミックス、ガラス等が挙げられる。
昇華に際しては、不活性ガスの存在下に行うが、本発明において不活性ガスとは、昇華の温度/圧力条件でフラーレン類と実質的に反応しない気体を意味する。不活性ガスの種類としては、ヘリウム、ネオン、アルゴン、窒素及びこれらの混合物が挙げられる。フラーレン類の反応を避けるためには、昇華に際して昇華装置中を実質的に不活性ガスにより置換し、昇華装置内の気体中の酸素の含有量として10体積%以下とするのが好ましく、5体積%以下とするのが好ましく、1体積%とするのが特に好ましい。酸素の含有量が多い場合には、フラーレン類の酸化物が生成する場合がある。
【0019】
また、多環状芳香族炭化水素の昇華は、不活性ガス流通下に行うのが好ましい。不活性ガスの流通下に行う方法としては、例えば昇華装置に不活性ガスの流入口及び排出口を設けておき、連続的に不活性ガスを流入及び排出させながら、所定の温度に昇温する。不活性ガスは昇華装置に流入させるに際し余熱しておくこともできる。
【0020】
不活性ガスの流通下に昇華を行う場合の不活性ガスの流通量としては、煤状物質1gに対して好ましくは1〜10000ml/minであり、更に好ましくは5〜5000ml/minである。不活性ガスの流通は連続的であっても間欠的であってもよい。
昇華装置から昇華した多環状芳香族炭化水素は不活性ガスに同伴され、析出装置にて温度が下げられることによって多環状芳香族炭化水素を析出させることが出来る。析出装置は、昇華装置と同一装置内に設けても分離して設けてもも構わないし、バッチ式、または連続式でも構わない。析出した多環状芳香族炭化水素の回収には、機械的に集めて回収しても、溶媒に溶解して回収しても構わない。
【0021】
(工程D)
工程Aに引き続き工程Bを行った場合、フラーレン類と炭素系高分子成分との混合物が得られるので、フラーレン類と炭素系高分子成分との混合物からフラーレン類を分離する。
その方式は特に限定されないが、典型的には、(工程D1)フラーレン類及び炭素系高分子成分の混合物と抽出溶媒とを混合してフラーレン類が溶解した抽出液を得る方法と、(工程D2)フラーレン類及び炭素系高分子成分の混合物を不活性ガスの下で加熱し、フラーレン類を昇華する方法とがある。
工程D1では、抽出液中に炭素系高分子成分は殆ど溶解していないので、これを濾過等により分離し、抽出液中の溶媒を留去することによってフラーレン類を単離する事が出来る。
また、工程D2では、炭素系高分子成分は殆ど昇華しないのでフラーレン類を単離する事が出来る。
【0022】
工程D1において、用いられる抽出溶媒としては、芳香族炭化水素が好ましく、具体的には、分子内に少なくとも1つのベンゼン核を有する炭化水素化合物であり、具体的にはベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、n−プロピルベンゼン、イソプロピルベンゼン、n−ブチルベンゼン、sec−ブチルベンゼン、tert−ブチルベンゼン、1,2,3−トリメチルベンゼン、1,2,4−トリメチルベンゼン、1,3,5−トリメチルベンゼン、1,2,3,4−テトラメチルベンゼン、1,2,3,5−テトラメチルベンゼン、ジエチルベンゼン、シメン等のアルキルベンゼン類、1−メチルナフタレン等のアルキルナフタレン類、テトラリン等が挙げられる。これらの内1,2,4−トリメチルベンゼン及びテトラリンが好ましい。
【0023】
抽出溶媒には、芳香族炭化水素の他に、更に脂肪族炭化水素や塩素化炭化水素等の有機溶媒を、単独又はこれらのうち2種以上を任意の割合で用いてもよい。脂肪族炭化水素としては、環式、非環式等、任意の脂肪族炭化水素が使用できる。環式脂肪族炭化水素の例としては、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタンなどの単環式脂肪族炭化水素、その誘導体であるメチルシクロペンタン、エチルシクロペンタン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、1,2−ジメチルシクロヘキサン、1,3−ジメチルシクロヘキサン、1,4−ジメチルシクロヘキサン、イソプロピルシクロヘキサン、n−プロピルシクロヘキサン、t−ブチルシクロヘキサン、n−ブチルシクロヘキサン、イソブチルシクロヘキサン、1,2,4−トリメチルシクロヘキサン,1,3,5−トリメチルシクロヘキサン、多環式としてデカリンなどが挙げられる。非環式脂肪族炭化水素の例としては、n−ペンタン、n−ヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタン、イソオクタン、n−ノナン、n−デカン、n−ドデカン、n−テトラデカンなどが挙げられる。
【0024】
塩素化炭化水素としては、ジクロロメタン、クロロフォルム、四塩化炭素、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン、1,2−ジクロロエタン、1,1,2,2−テトラクロロエタン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、1−クロロナフタレンなどが挙げられる。
その他、炭素数6以上のケトン、炭素数6以上のエステル類、炭素数6以上のエーテル類、二硫化炭素等が挙げられる。
【0025】
抽出溶媒としてはフラーレンの溶解度が低すぎると、抽出効率が低下するので、フラーレンの溶解度としては好ましくは5g/L以上、更に好ましくは10g/L以上、特に好ましくは15g/L以上である。また、工業的観点から、これらの抽出溶媒の中でも常温液体で沸点が100〜300℃、中でも120〜250℃のものが好適である。
【0026】
抽出溶媒は、フラーレン類を十分に抽出できるだけの量を用いる必要がある。通常、煤状物質中のフラーレン類の量に対し、5〜400重量倍量、経済性を考えると、40〜200重量倍量程度使用するのが好ましい。抽出は、バッチ式、セミ連続式、連続式、又はそれらの組み合わせ等、形式、装置は特に限定されない。
なお、煤状物質には通常5〜30重量%のフラーレン類が含まれているが、抽出効率の観点から、フラーレン類に対して用いる抽出溶媒の量を上記範囲とするのが好ましいことから、抽出操作に先立って、煤状物質の一部を分析して、煤状物質中のフラーレン含有量を測定しておくのが好ましい。
【0027】
抽出後、スラリーから未溶解物を濾別する。濾別は、減圧濾過、加圧濾過、重力濾過、フィルター濾過、又はそれらの組み合わせ等、方法、装置は特に限定されない。中で、加圧濾過が好ましい。
抽出装置としては撹拌混合槽が好適に使用できる。抽出の際、容器内の圧力は特に制限はなく、常圧で実施すればよい。抽出時の温度としては通常−10〜150℃であり、好ましくは5〜80℃であり、更に好ましくは30〜50℃である。これら範囲であれば抽出効率向上の面から好ましいが、抽出効率は温度依存性が小さいのでエネルギーコスト的に常温程度で行うのが有利である。
抽出工程においては、更に必要に応じて、抽出液に超音波等を照射しながら抽出を行うと、抽出時間が短くなるので好ましい。
【0028】
工程D2において、昇華する際の条件は、常圧もしくは5000Pa程度の減圧下で実施する。常圧では装置が簡単になるメリットがあり、減圧下ではフラーレン類の昇華温度が低くなるメリットがある。経済性を考えて、最適な条件で実施すればよい。窒素又はヘリウム等の不活性ガスを、煤状物質1gに対して1〜10000ml/min 程度で、好ましくは5〜5000ml/min程度流し、フラーレン類を含有する煤状物質を不活性ガス雰囲気下に置換した後、不活性ガス流通下で昇温する。
【0029】
置換が十分に実施されないと、フラーレンの酸化物が生成する。昇華を実施する際の不活性ガスは、予熱しても良いし、予熱しなくても良い。昇華に用いる装置は、バッチ式、固定床型、流動層型、連続型等特に限定はしない。
フラーレンを昇華させる際の温度は、通常400℃〜1400℃、好ましくは、600〜1200℃、更に好ましくは800℃〜1100℃である。
【0030】
用いる昇華装置の材質は、石英ガラス、ステンレス等の金属類、セラミックス、ガラス等特には限定しない。昇華装置から昇華したフラーレン類は不活性ガスに運ばれ、温度を下げて析出する。析出する装置は、昇華装置と同一装置内に設けても分離しても構わないし、バッチ式、または連続式でも構わない。析出したフラーレン類の回収には、機械的に集めて回収しても、溶媒に溶解して回収しても構わない。フラーレン類を析出して回収した後の不活性ガスは、大気に放出するかリサイクル使用する。操作時間は、温度、圧力、ガス流通量によって異なるが、通常10分〜12時間程度である。
【0031】
(工程E)
工程Aに引き続き工程Eを行い、後工程Bを行ってもフラーレン類を単離する事が出来る。工程Eは、フラーレン類、多環状芳香族炭化水素及び炭素系高分子物質の混合物から炭素系高分子物質を分離する工程である。
その方式は特に限定されないが、典型的には、(工程E1)フラーレン類、多環状芳香族炭化水素及び炭素系高分子成分の混合物と抽出溶媒とを混合してフラーレン類及び多環状芳香族炭化水素が溶解した抽出液を得る方法が挙げられる。抽出液中に炭素系高分子成分は殆ど溶解していないので、これを濾過等により分離し、抽出液中の溶媒を留去することによってフラーレン類と多環状芳香族炭化水素の混合物が得られる。この混合物を工程Bに付すことによって、多環状芳香族炭化水素を昇華分離し、フラーレン類を単離する事が出来る。
工程Eにおいて好ましく用いられる抽出溶媒は、上述の工程D1で用いられる溶媒と同様である。
【0032】
(工程C)
工程Bで得られた多環状芳香族炭化水素を工程Bの昇華に必要な熱原料として再利用される。
従って、本発明に用いられる昇華装置は、昇華熱の熱源として少なくとも一部は燃焼熱を利用するものである。
上記工程Bにおいて回収された多環状芳香族炭化水素は、昇華装置内で燃焼される。燃焼は、好ましくは他の有機溶媒に溶解し、若しくはガスと混合して行うのが好ましい。用いられるガス及び溶媒としては例えば、メタン、エタン、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン等の脂肪族炭化水素、ベンゼン、トルエン、キシレン、トリメチルベンゼン、テトラリン等の芳香族炭化水素が挙げられる。
【0033】
また、昇華装置の熱源としては、燃焼熱以外も例えば電気を併用して用いることを妨げるものではないが、好ましくは、全て燃焼熱を熱源として用いるものである。
工程Bで分離された多環状芳香族炭化水素は、昇華の熱原料として用いられるので、エネルギーのロスが抑えられると共に、多環状芳香族化合物が本発明の製造法の系外に排出されることがない。
【0034】
【実施例】
次に、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はその要旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
新しいトルエンを加熱し、純酸素と、トルエン/酸素=1/3のモル比で気相下で混合し、5.32kPaで不完全燃焼してフラーレンを含む煤状物質を製造した。
得られた煤状物質の組成は以下通りであった。
フラーレン類 20重量%
多環状芳香族炭化水素 200ppm
その他は炭素系高分子物質
【0035】
上記の燃焼法で製造した煤状物質1gを電気炉(昇華装置)に入れ、窒素を100mL/minで30分間室温で流して装置内を置換した。その後、電気炉の温度を500℃まで昇温して、2時間500℃を保ち、系外に出たきた多環状芳香族炭化水素を得た。
昇華装置の内部にはフラーレン類と炭素系高分子物質の混合物が残ったので、これに1,2,4−トリメチルベンゼン20mLを加え攪拌した後不溶分を濾別し、1,2,4−トリメチルベンゼンを減圧下で留去したところ、多環状芳香族化合物の含有量が測定限界以下(多くとも100ppm)のフラーレン類を得た。
【0036】
得られた多環状芳香族炭化水素は、水素と空気を混合したガス中で連続的に燃焼すると、出ガス中には多環状芳香族炭化水素は検出されなかった。なお、この燃焼熱は昇華装置の熱原料として用いることが出来る。
【0037】
【発明の効果】
本発明により、多環状芳香族炭化水素を含有するフラーレン類から多環状芳香族炭化水素を容易に分離することが出来、しかも、系外に多環状芳香族炭化水素を排出することなくフラーレンを単離する事が出来る。
更に、カラムクロマト分離、分別再結晶などの従来からの方法を組み合わせることによって、単一フラーレンを従来になく、より効率的に、低コストで製造できることとなった。
Claims (12)
- (工程A)炭化水素化合物を原料として、燃焼法又は熱分解法によりフラーレン類、多環状芳香族炭化水素及び炭素系高分子成分の混合物を生成する工程、
(工程B)少なくともフラーレン類と多環状芳香族炭化水素を含む混合物を不活性ガスの下で加熱して多環状芳香族炭化水素を昇華して分離する工程、
及び(工程C)工程Bで得られた多環状芳香族炭化水素を工程Bの昇華に必要な熱原料として再利用する工程とを含むフラーレン類の製造方法。 - 不活性ガスの流通下に多環状芳香族炭化水素を昇華することを特徴とする請求項1に記載のフラーレン類の製造方法。
- 不活性ガスが、窒素、ヘリウム、ネオン、又はアルゴンであることを特徴とする請求項1又は2に記載のフラーレン類の製造方法。
- 多環状芳香族炭化水素を昇華する際の温度が100℃以上800℃以下であり、圧力が100Pa以上2×105Pa以下であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載のフラーレン類の製造方法。
- 多環状芳香族炭化水素を昇華する際の圧力が常圧である請求項4に記載のフラーレン類の製造方法。
- 工程Bの後に、(工程D)フラーレン類及び炭素系高分子成分の混合物からフラーレン類を分離する工程を有する請求項1乃至5の何れかに記載のフラーレン類の製造方法。
- 工程Dが、(工程D1)フラーレン類及び炭素系高分子成分の混合物と抽出溶媒とを混合してフラーレン類が溶解した抽出液を得るものである請求項6記載のフラーレンの製造方法。
- 工程Dが、(工程D2)フラーレン類及び炭素系高分子成分の混合物を不活性ガスの下で加熱し、フラーレン類を昇華するものである請求項6に記載のフラーレン類の製造方法。
- 工程Bの前に、(工程E)フラーレン類、多環状芳香族炭化水素及び炭素系高分子成分の混合物から炭素系高分子成分を分離する工程を有する請求項1乃至5の何れかに記載のフラーレンの製造方法。
- 工程Eが、フラーレン類、多環状芳香族炭化水素及び炭素系高分子成分の混合物と抽出溶媒とを混合してフラーレン類及び多環状芳香族化合物が溶解した抽出液を得るものである請求項9に記載のフラーレン類の製造方法。
- 工程Aにおいて、原料の炭化水素化合物が、炭素数6〜15の芳香族炭化水素化合物である請求項1乃至10のいずれかに記載のフラーレン類の製造方法。
- 工程Cにおいて、多環状芳香族炭化水素を炭素数6〜15の炭化水素化合物に溶解し、該溶液を昇華に必要な熱の原料として用いることを特徴とする請求項1乃至11のいずれかに記載のフラーレン類の製造方法。
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