JP2005082461A - フラーレンの精製方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】 フラーレン混合物から、フラーレンC60等の特定のフラーレンを選択的に得て、高純度のフラーレンを精製することができるフラーレンの精製方法を提供する。
【解決手段】 少なくとも2種以上のフラーレンを含むフラーレン混合物及びカリックスアレーンを、フラーレン混合物及びカリックスアレーンが可溶でカリックスアレーンがC60を包接して形成される包接化合物が難溶又は不溶である第1の溶媒と接触させ、C60とカリックスアレーンとの包接化合物を得る第1工程13と、この包接化合物をC60が可溶でカリックスアレーンが難溶又は不溶である第2の溶媒と接触させて、カリックスアレーンとC60の溶液とに分ける第2工程15と、第2工程15で得たC60の溶液を分離剤で処理して不純物を分離する第3工程16とを有する。
【選択図】 図1

Description

本発明は、2種以上のフラーレンを含むフラーレン混合物からC60を得るフラーレンの精製方法に関する。
1990年に炭素数が60、70、84等の閉殻構造型のカーボンクラスター(球状の巨大分子)という新しいタイプの分子状炭素物質が合成され、注目されている。この特殊な分子構造を有するカーボンクラスターは、フラーレンとも称され、その分子骨格を構成する炭素数によって、それぞれフラーレンC60(以下、単にC60という。他のフラーレンも同様)、C70、C84と呼ばれている。これらのフラーレンは、新しい炭素素材であり、特殊な分子構造から特異な物性を示すことが期待され、その性質及び用途の開発について、例えば、医薬品、ガス分離、電池材料、塗料、断熱材、潤滑材、及び化粧品等の広範囲の分野において、研究が盛んに進められている。
ここで、フラーレンの合成方法としては、グラファイト等の炭素質材料からなる電極を原料とし、この電極間のアーク放電によって合成する方法(アーク放電法)、炭素質原料に高電流を流して合成する方法(抵抗加熱法)、高エネルギー密度のパルスレーザー照射によって炭素質原料を加熱する方法(レーザー蒸発法)、ベンゼン、トルエン等の有機物を不完全燃焼させる方法(燃焼法)、ナフタレン等の有機物を熱分解させる方法(熱分解法)等が知られている。しかし、前記したいずれの製造方法においても、単一のフラーレン、例えば、C60のみ、又は、複数、例えば、C60、C70、C84の3つのフラーレンを選択的に製造することはできず、C60及びC70を主とする複数のフラーレン及びその他の炭素化合物との混合物、いわゆる煤状物質として生成される。
このため、煤状物質から特定のフラーレンを分離精製する方法の開発が望まれている。ここで、フラーレンがベンゼン、トルエン、及び二硫化炭素等の溶媒に可溶であり、その他の不純物(例えば、アセナフチレン、フルオレン、フェナントレン、ピレン、ベンゾ[b]フルオレン、ベンゾ[c]フェナントレン、ベンゾ[a]アントラセン、トリフェニレン、及びベンゾピレン等の多環状芳香族炭化水素や、グラファイト構造を有する炭素、グラファイト構造を骨格とする炭化水素、及びカーボンブラック等の炭素系高分子)は、前記溶媒に難溶であることから、煤状物質中からフラーレンを精製する方法として、煤状物質を溶媒に混合し、フラーレンを溶媒に溶解させ、煤状物質中のフラーレンと他の不純物を分離する溶媒抽出法が知られている。
また、炭素数の異なるフラーレンの分離方法としては、例えば、中性アルミナ、活性炭、及び化学修飾したシリカ等を充填剤とする分離カラムを用い、有機塩素系溶剤及び/又は炭化水素系溶剤の溶液を溶離液として、試料中のカーボンクラスターを分離し、分離されたカーボンクラスターを光学的に検出して、分離する方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
また、特許文献2には、フラーレン混合物の溶液中にカリックスアレーンを加えて、特定のフラーレンとカリックスアレーンとの包接化合物(コンプレックス)を形成させた後、この包接化合物を分けて、特定のフラーレンを回収する方法が開示されている。
特開平5−85711号公報 特許2654918号公報
しかしながら、前記従来のフラーレンの精製方法は未だ解決すべき以下のような問題があった。
特許文献1の方法では、充填剤による吸着分離であるので、特定のフラーレンだけを高収率で得ることが困難であった。特許文献2の方法では、C60以外のフラーレンも不純物として包接化され、高純度のC60が得られないという問題があった。
本発明はかかる事情に鑑みてなされたもので、2種以上のフラーレンを含むフラーレン混合物から、フラーレンC60を選択的に得て、高純度のフラーレンC60を高収率で得ることができるフラーレンの精製方法を提供することを目的とする。
前記目的に沿う第1の発明に係るフラーレンの精製方法は、少なくとも2種以上のフラーレンを含むフラーレン混合物からC60を分離するフラーレンの精製方法であって、
前記フラーレン混合物及びカリックスアレーンを、該フラーレン混合物及び該カリックスアレーンが可溶で該カリックスアレーンが該C60を包接して形成される包接化合物が難溶又は不溶である第1の溶媒と接触させて、該C60と該カリックスアレーンとの包接化合物を得る第1工程と、
前記第1工程で得た前記包接化合物を、前記C60が可溶で前記カリックスアレーンが難溶又は不溶である第2の溶媒と接触させて、該C60と該カリックスアレーンとに分け、前記第2の溶媒に溶解した前記C60の溶液を分ける第2工程と、
前記第2工程で得た第2の溶媒に溶解した前記C60の溶液を、分離剤(分離材)で処理して該C60の溶液中の不純物を分離し、不純物を除いたC60を有する溶液を得る第3工程とを有する。
これによって、分離剤によって、不純物を除去でき、精製されるC60の純度を上げることができる。また、第2の溶媒中では、包接化合物がC60とカリックスアレーンとに分けられ、カリックスアレーンが沈殿するので、C60を有する溶液から第2の溶媒を除去して得たC60中にはカリックスアレーンの混入が少なくなり、高純度の特定のC60を得ることができる。
ここで、フラーレン混合物とは、例えば、C60、C70、C76、C78、C82、C84、C90及びC96等のいずれか2種以上のフラーレンを含む混合物である。また、フラーレン混合物は、アーク放電法、抵抗加熱法、レーザー蒸発法、燃焼法、及び熱分解法等によって製造される煤状物質に含まれ、中でも燃焼法は煤状物質を大量に生産することができるので好ましい。また、フラーレン混合物としては、燃焼法等によって製造した煤状物質、燃焼法等によって製造した煤状物質を不活性ガス下で圧力100〜2×105 Pa、温度100〜800℃に加熱して、この煤状物質中の多環状芳香族炭化水素を昇華させ、有機溶媒に可溶な多環状芳香族炭化水素を除去した煤状物質、及びこれらの煤状物質を有機溶媒に溶解させて煤状物質中の多環状芳香族炭化水素や炭素系高分子を除去したフラーレン混合物を用いてもよい。
ここで、フラーレン混合物として、多環状芳香族炭化水素や炭素系高分子を除去した前記フラーレン混合物を用いる場合、このフラーレン混合物を製造する際に使用する有機溶媒としては、フラーレンが可溶である溶媒、例えば芳香族炭化水素、脂肪族炭化水素、塩素化炭化水素等があり、それらは環式、非環式いずれでもよく、また、これらの溶媒を単独又は2種類以上を任意の割合で用いてもよい。
芳香族炭化水素としては、分子内に少なくとも1つのベンゼン核を有する炭化水素化合物であり、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、n−プロピルベンゼン、イソプロピルベンゼン、n−ブチルベンゼン、sec−ブチルベンゼン、tert−ブチルベンゼン、1,2,3−トリメチルベンゼン、1,2,4−トリメチルベンゼン、1,3,5−トリメチルベンゼン、1,2,3,4−テトラメチルベンゼン、1,2,3,5−テトラメチルベンゼン、ジエチルベンゼン、シメン等のアルキルベンゼン類、1−メチルナフタレン、2−メチルナフタレン等のアルキルナフタレン類、テトラリン等がある。
また、脂肪族炭化水素は、環式、非環式のいずれも使用できる。環式脂肪族炭化水素としては、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタン等の単環式脂肪族炭化水素、また、その誘導体であるメチルシクロペンタン、エチルシクロペンタン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、1,2−ジメチルシクロヘキサン、1,3−ジメチルシクロヘキサン、1,4−ジメチルシクロヘキサン、イソプロピルシクロヘキサン、n−プロピルシクロヘキサン、tert−ブチルシクロヘキサン、n−ブチルシクロヘキサン、イソブチルシクロヘキサン、1,2,4−トリメチルシクロヘキサン、1,3,5−トリメチルシクロヘキサンがあり、多環式脂肪族炭化水素としては、デカリン等がある。非環式脂肪族炭化水素としては、n−ペンタン、n−ヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタン、イソオクタン、n−ノナン、n−デカン、n−ドデカン、n−テトラデカン等がある。
更に、塩素化炭化水素としては、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン、1,2−ジクロロエタン、1,1,2,2−テトラクロロエタン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、1−クロロナフタレン等がある。
また、第1の溶媒として、炭素数6以上のケトン、炭素数6以上のエステル類、炭素数6以上のエーテル類、及び二硫化炭素等を使用してもよい。
第1の溶媒としては、トルエン又はベンゼンの1又は2から選ぶのが好ましい。特に、化学工業生産において、毒性、揮発性、及び引火性が低いトルエンが好ましい。
第2の溶媒としては、15〜50℃におけるC60の溶解度が高い、例えば25℃におけるC60の溶解度が10g/L以上のジアルキルベンゼン類、トリアルキルベンゼン類、テトラアルキルベンゼン類、及びアルキルナフタレン類のいずれか1又は2以上から選ぶことができる。特に、トリアルキルベンゼン類及びテトラリン、特に1,2,4−トリメチルベンゼンが、フラーレンの溶解度が高く、カリックスアレーンの溶解度が非常に低いので好ましい。
ここで、ジアルキルベンゼン類としては、キシレン、ジエチルベンゼン、1−メチル−4−エチルベンゼン、シメン、及びテトラリンがある。また、トリアルキルベンゼン類としては、1,2,3−トリメチルベンゼン、1,2,4−トリメチルベンゼン、1,3,5−トリメチルベンゼン、1,2,3−トリエチルベンゼン、1,2,4−トリエチルベンゼン、1,3,5−トリエチルベンゼンがある。また、テトラアルキルベンゼン類としては1,2,3,4−テトラメチルベンゼン、1,2,3,5−テトラメチルベンゼンがある。更に、アルキルナフタレン類としては、1−メチルナフタレン、2−メチルナフタレン等がある。
また、第1工程と第2工程の間には、C60以外のフラーレン類を包接したカリックスアレーンの包接化合物を除去して、C60の純度を向上させる高純度化工程を設けることができる。高純度化工程では、第1工程で生成した包接化合物を、C60、C70及びカリックスアレーンが可溶で包接化合物が難溶又は不溶である溶媒、つまり、前記した第1の溶媒に挙げられる溶媒であるトルエン、ベンゼン等を加えて、50℃を超えてかつ高純度化工程で使用した溶媒の沸点未満の温度で加熱し、包接化合物をC60とカリックスアレーンとに分けた後、15℃以上かつ50℃以下(例えば、常温)まで冷却して、再び包接化合物を生成させ、この包接化合物を濾過分離して、包接化合物を高純度化することができる。なお、高純度化工程は、2回以上繰り返すこともできる。
また、高純度化工程は、温度、時間について特に制限がなく、また包接化合物とを混合する際の装置や方法も任意である。例えば、包接化合物と溶媒とを混合した後に、100℃以上の温度に加熱しながら0.5〜5時間撹拌した後、10〜30℃の温度まで冷却して0.5〜30時間撹拌する。これによって、濾過性がよく、且つC60の純度の高い包接化合物を形成することができる。高純度化工程は、常圧ですることができる。また、装置は通常の撹拌槽を用いることができ、特に回分方式で混合することが好ましい。高純度化工程の終点、つまり、包接化合物の生成反応の終点は、溶液中のC60の濃度をHPLC等で分析することにより確認できる。
第3工程において使用される分離剤としては、活性炭、コークス、無煙炭、化学修飾を施したシリカゲル、チタニア、及び、酸化セリウム等があり、これらの分離剤を単独又は2種類以上を任意の割合で混合して用いてもよい。この中でも活性炭が好ましい。
なお、第2の溶媒に溶解したC60の溶液は、回分接触、濾過接触、及びカラム充填接触等のいずれの方法で分離剤と接触させてもよい。
なお、第3工程において使用される分離剤として、例えば、活性炭は、炭素数70を超えるフラーレンを分離可能であって、直径2nm以下の細孔の積算ポアボリュームを0.3cm3 /g以上とし、比表面積を1600m2 /g以上とし、粒径30μm以上の粒子を40重量%以下とし、更に、水酸化カリウムで賦活処理されているものが好ましい。
ここで、直径2nm以下の細孔の積算ポアボリュームが0.3cm3 /g以上、好ましくは0.4cm3 /g以上、更に好ましくは0.5cm3 /g以上である活性炭は、C60に対する吸着力が弱く、高次フラーレンに対する吸着力が比較的高く、C70に対する吸着力はその中間である。したがって、C60は実質的に活性炭には吸着せず抽出溶媒と共に溶出し、次いでC70が溶出される。これによって、高次フラーレンとC60及びC70とを分離する、即ち、C60と不純物(微量のC70及び炭素数70を超える高次フラーレンを含む)とを分離することができる。なお、活性炭は、直径2nm以下の細孔の積算ポアボリュームが0.3cm3 /g以下であると、高次フラーレンに対する吸着能力が低くなる。また、直径2nm以下の細孔の積算ポアボリュームの活性炭の上限は、通常10cm3 /gである。
また、比表面積が1600m2 /g以上、好ましくは2000m2 /g以上、更に好ましくは2500m2 /g以上である活性炭は、フラーレンの処理能力が高く、比表面積が1600m2 /g未満であると、処理能力が低いので活性炭処理の回数を多くしなければならない。また、粒径30μm以上の粒子が40重量%以下、好ましくは30重量%以下、更に好ましくは25%以下である活性炭は、粒径の大きな活性炭が多くなるため扱い易く、フラーレン混合物を処理する操作が容易になる。更に、水酸化カリウムで賦活処理された場合は、フラーレンを吸着し易くなる。
第2の発明に係るフラーレンの精製方法は、第1の発明に係るフラーレンの精製方法において、前記第2工程で得た前記C60の溶液から、前記第2の溶媒を除去して、該C60を固体として得ることができる。ここで、C60を得る方法としては、一般的な固体析出の方法でよく、乾燥による固化、溶媒による溶解度差を利用した析出、温度差による溶解度差を利用した析出等が挙げられ、これらの方法を組み合わせて利用することもできる。
第3の発明に係るフラーレンの精製方法は、第1及び第2の発明に係るフラーレンの精製方法において、前記カリックスアレーンは、式(1)で表され、しかも、Rは炭素数1〜10の炭化水素基であり、nは3〜10、好ましくは6〜10、更に好ましくは8〜10の整数であるのが好ましい。
Figure 2005082461
これによって、フラーレンC60を包接して、包接化合物を形成することができる。ここで、Rは、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基(secondary-buthyl)、tert−ブチル基(tertiary-buthyl )、ヘキシル基、オクチル基等であり、好ましくはエチル基、iso−プロピル基、及びtert−ブチル基である。また、C60を包接する場合には、その選択性の高さからtert−ブチル基が最も好ましい。ここで、C60は、nが6〜10のカリックスアレーンで包接され、包接化合物を形成する。
特に、C60を選択的に包接するカリックスアレーンとしては、nが8であり、Rがtert−ブチル基であるtert−ブチルカリックス[8]アレーン(tertiary-buthyl-calix[8]arene 。以下、単に「カリックス[8]アレーン」という)が知られ、内径約0.9nmの空孔を有し、直径がおよそ0.7nmであるC60を包接可能となっている。なお、炭素数が70を超える高次フラーレン(以下、総称して「高次フラーレン」という)は外径が大きく、カリックス[8]アレーンの空孔に入らないので包接され難い。
第1〜第3の発明に係るフラーレンの精製方法においては、少なくとも2種以上のフラーレンを含むフラーレン混合物及びカリックスアレーンを、フラーレン混合物及びカリックスアレーンが可溶でカリックスアレーンがC60を包接して形成される包接化合物が難溶又は不溶である第1の溶媒と接触させて、C60とカリックスアレーンとの包接化合物を得る第1工程と、第1工程で得た包接化合物を、C60が可溶でカリックスアレーンが難溶又は不溶である第2の溶媒と接触させて、C60とカリックスアレーンとに分け、第2の溶媒に溶解したC60の溶液を分ける第2工程と、第2工程で得た第2の溶媒に溶解したC60の溶液を、分離剤で処理してC60の溶液中の不純物を分離し、C60からなる溶液を得る第3工程とを有するので、第2の溶媒中では、包接化合物がC60とカリックスアレーンとに分けられ、カリックスアレーンが沈殿するので、第2の溶媒から溶媒を除去して得たC60中にはカリックスアレーンの混入が少なくなり、高純度の特定のC60を得ることができる。
特に、第2の発明に係るフラーレンの精製方法においては、第2工程で得たC60の溶液から、第2の溶媒を除去するので、C60を固体として得ることができる
第3の発明に係るフラーレンの精製方法においては、カリックスアレーンは、式(1)において、Rは炭素数1〜10の炭化水素基であり、nは3〜10の整数であるので、フラーレンC60を包接して、包接化合物を形成することができる。
続いて、添付した図面を参照しつつ、本発明を具体化した実施の形態につき説明し、本発明の理解に供する。
ここで、図1は本発明の一実施の形態に係るフラーレンの精製方法の説明図、図2は同精製方法に適用されるフラーレン精製装置の説明図である。
図1に示すように、本発明の一実施の形態に係るフラーレンの精製方法10は、C60、C70、C76、C78、C82、C84、C90及びC96等のフラーレンのいずれか2種以上を含むフラーレン混合物中のC60を、前記した式(1)(Rは炭素数1〜10の炭化水素基であり、nは3〜10の整数)で表されるカリックスアレーンの一例であって、nが8であり、Rがtert−ブチル基であるtert−ブチルカリックス[8]アレ−ン(以下、単にカリックス[8]アレーンという)と接触させ、C60とカリックス[8]アレーンとの包接化合物を生成させ、包接化合物のC60と炭素数が70以上のフラーレンとを分離した後、この包接化合物をC60とカリックス[8]アレーンとに分け、更に、分離剤の一例である活性炭で処理してC60中の不純物を分離して、高純度のC60を得る方法である。
アーク放電法、抵抗加熱法、レーザー蒸発法、燃焼法、及び熱分解法等のいずれかの方法によって製造され、2種以上のフラーレンを含む煤状物質A中にはフラーレンの他に、アセナフチレン、フルオレン、フェナントレン、ピレン、ベンゾ[b]フルオレン、ベンゾ[c]フェナントレン、ベンゾ[a]アントラセン、トリフェニレン、及びベンゾピレン等の多環状芳香族炭化水素と、グラファイト構造を有する炭素、グラファイト構造を骨格とする炭化水素、及びカーボンブラック等の炭素系高分子とが含まれている。
(昇華除去工程11)
まず、煤状物質Aを不活性ガス、例えば窒素ガス下で圧力100〜2×105 Pa、好ましくは1000〜1.4×105 Pa、温度100〜800℃、好ましくは200〜700℃、更に好ましくは300〜600℃に加熱して、煤状物質A中の多環状芳香族炭化水素を昇華させ、有機溶媒に可溶な多環状芳香族炭化水素を除去した煤状物質(以下、煤状物質Bという)を製造する。ここで、圧力は常圧(1.013×105 Pa)では、簡単な装置で昇華を行うことができ、減圧下では多環状芳香族炭化水素の昇華温度が低くなり、加熱温度を下げることができる。また、加熱温度は、200℃未満では多環状芳香族炭化水素の昇華が不十分であり、800℃を超えると煤状物質A中のフラーレンも昇華して、収率が低下する。
(溶媒抽出工程12)
次に、昇華除去工程11で得られた煤状物質Bをフラーレンが可溶である溶媒、例えば、トルエンと混合し、トルエンにフラーレンを溶解すると共に、トルエンに難溶な炭素系高分子を沈殿させ、この沈殿を濾過等によって炭素系高分子を除去し、実質的にフラーレンからなるフラーレン混合物(mixture fullerenes、以下、フラーレン混合物という)を製造する。
(包接化工程(第1工程)13)
次に、フラーレン混合物の固体は、フラーレン及びカリックスアレーンが可溶でフラーレン及びカリックスアレーンとの包接化合物が難溶又は不溶である第1の溶媒、例えば、トルエン中で、カリックス[8]アレーンと接触される。カリックス[8]アレーンは、C60を包接して、包接化合物を生成する。この生成した包接化合物は、トルエンには難溶であるので沈殿する。包接化合物の生成反応は、数時間、例えば、1〜8時間で終了し、この生成反応の終点は、高速液体クロマトグラフィ(HPLC)によって、溶媒中のC60の濃度を測定することで確認できる。通常、包接化合物の生成反応は、時間の経過と共に直線的に進行する。沈殿した包接化合物は、濾過、遠心分離等によって第1の溶媒から分離する。なお、包接化工程13で得られる濾液には、炭素数が60を超える、例えば、C70、C76、C78、C82、C84、C90及びC96等のフラーレンが含まれている。
ここで、第1の溶媒(トルエン)は、少なくともフラーレン及びカリックス[8]アレーンが全て溶解する量が必要であり、1gのC60に対しては1〜10L、1gのカリックス[8]アレーンに対しては0.5〜5Lが好ましい。また、カリックス[8]アレーンは、C60との包接化合物の形成の当量(等モル)以上が必要である。カリックス[8]アレ−ンは、C60と等モルで包接化合物を形成し、C60に対して1〜10倍のモル量、好ましくは1.5〜3倍のモル量を与えるとよい。
また、包接化合物の形成時の温度は、15℃以上かつ50℃以下が好ましく、15℃未満では包接化反応が促進されず、50℃を超えると包接化合物が分離する。また、包接化合物の形成時の圧力は、常圧で行うことができる。なお、包接化工程13は、通常の撹拌槽によって行うことができる。
なお、フラーレンの精製方法10では、溶媒抽出工程12及び包接化工程13では、トルエンを使用したが、溶媒抽出工程12において、フラーレンが可溶でカリックス[8]アレーンが難溶又は不溶である溶媒、例えば、1,2,4−トリメチルベンゼン(1,2,4-trimethylbenzene。以下、単にTMBという)を使用することもできる。しかしながら、この場合には、溶媒抽出工程12と包接化工程13との間に、TMBを除去する工程が必要が必要となる。
(高純度化工程14)
更に、包接化工程13で分離した包接化合物を、C60及びカリックス[8]アレーンが可溶で、しかも、これらの包接化合物が難溶である溶媒、例えば、前記した第1の溶媒であるトルエンに加え、50℃を超えてかつ使用した溶媒の沸点以下に加熱し、包接化合物をC60とカリックス[8]アレーンとに分け、分けられたC60とカリックス[8]アレーンとをトルエンに溶解させる。この際に、トルエンに不溶な沈殿物は、濾過等によって除去することもできる。この後、15℃以上かつ50℃以下まで冷却して、再びC60とカリックス[8]アレーンとを包接させ、この沈殿した包接化合物を濾過、遠心分離等によって分離する。これによって、包接化工程13で分離した包接化合物中に含まれるC60以外のフラーレン類を包接した包接化合物、及び不純物を除去し、C60の純度を上げることができる。なお、高純度化工程14は、省略してもよい。
(分解工程(第2工程)15)
更に、高純度化工程14で分離した包接化合物を、C60が可溶でカリックス[8]アレーンが難溶又は不溶である第2の溶媒、例えば、TMBに加え、包接化合物をC60とカリックス[8]アレーンとに分けると共に、C60をTMBに溶解させ、カリックスアレーンを沈殿させる。また、分けられたカリックス[8]アレーンの沈殿は濾過、遠心分離等によって除去する。ここで、TMBは、C60の溶解度が15g/Lと高く、更にカリックス[8]アレーンの溶解度が0.02g/Lと非常に低いので、C60とカリックス[8]アレーンとに分け易い。ここで、TMBは、カリックス[8]アレーン1gに対して、30mL程度必要である。
また、分解工程15は、温度が10〜150℃、圧力が5×104 〜2×105 Pa、例えば、常圧で行うことができる。ここで、分解工程15で使用する装置としては、通常の撹拌槽を用いることができる。包接化合物の分離は、数時間、例えば1〜8時間程度で終了し、溶媒中のC60の濃度をHPLCで測定して、分離の終点を確認できる。通常、包接化合物の分離は、時間の経過と共に直線的に進行する。このカリックス[8]アレーンは、乾燥して溶媒を除去した後、再度、包接化工程13で使用することができる。なお、分解工程15は、脱包接化工程ともいわれる。
(高次フラーレン除去工程(第3工程)16)
分解工程15で得られたC60の溶解した第2の溶媒を、炭素数70を超える高次フラーレンが分離可能である分離剤、例えば、活性炭を充填したカラム内に通して、C60の溶液中の不純物(微量のC70及び炭素数70を超える高次フラーレンを含む)を分離し、C60からなる溶液を得る。なお、この活性炭は、直径2nm以下の細孔の積算ポアボリュームを0.3cm3 /g以上とし、比表面積を1600m2 /g以上とし、粒径30μm以上の粒子を40重量%以下とし、更に、水酸化カリウムで賦活処理されている。
(単離工程17)
分解工程15で分離されたC60のTMB溶液から溶媒を除去して、固体としてC60を得る。また、TMBに、メタノール、イソプロピルアルコール等のアルコールや、ケトン類、エーテル類等のC60に対して溶解度の低い貧溶媒を添加して、晶析して固体としてもよい。更に、TMBからC60を濃縮晶析することによって、より高濃度のC60を得ることができる。この際のTMBの使用量は、1gのC60に対して、10〜1000mL、好ましくは30〜100mLである。
なお、フラーレンの精製方法10において、昇華除去工程11は省略することもでき、煤状物質Aを溶媒抽出工程12で使用してもよい。しかしながら、この場合には、溶媒抽出工程12において、煤状物質A中の炭素系高分子を除去できるが、有機溶媒に可溶な多環状芳香族炭化水素を除去することができない。ここで、C60に対して溶解度の低い、かつ、多環状芳香族炭化水素に対して溶解度の高い貧溶媒、例えば、メタノール、イソプロピルアルコール等のアルコールや、ケトン類、エーテル類等を添加して、C60を固体として晶析し、多環状芳香族炭化水素を除去してもよい。
次に、図1及び図2を参照して、フラーレンの精製方法10を適用したフラーレン精製装置(以下、精製装置という)20について説明する。
精製装置20は、昇華除去工程11によって得られたC60、C70、C76、C78、C82、C84、C90及びC96等のフラーレンのいずれか2種以上を含む煤状物質Aから多環状芳香族炭化水素を除去した煤状物質B(図中、sootで示す)を入れる抽出槽21を有している。また、フラーレンが可溶であるトルエンを貯留するトルエンタンク22を有し、貯留されたトルエンは抽出槽21に供給される。
ここで、溶媒抽出工程12では、トルエンタンク22から供給されたトルエンと煤状物質Bとを抽出槽21内で混合し、煤状物質B中に含まれる2種以上のフラーレンをトルエンに溶解させ、煤状物質B中の炭素系高分子を沈殿させる。この沈殿は、抽出槽21の下流側に設けられた固液分離装置23で濾過される。固液分離装置23によって分離された液体(トルエン)には、実質的にフラーレンのみからなるフラーレン混合物(図中、MFで表す)が溶解している。
また、精製装置20は、C60を包接するカリックス[8]アレーンを貯留するカリックスアレーンタンク24を有している。更に精製装置20は、カリックスアレーンタンク24に貯留されたカリックス[8]アレーンと、固液分離装置23によって分離された実質的にフラーレンのみからなるフラーレン混合物のトルエン溶液が供給される包接化槽25を有している。また、フラーレン及びカリックスアレーンが可溶でフラーレン及びカリックスアレーンとの包接化合物が難溶又は不溶な第1の溶媒、例えば、トルエンは、トルエンタンク22から包接化槽25に供給される。
ここで、包接化工程13において、包接化槽25には、固液分離装置23から実質的にフラーレンのみからなるフラーレン混合物が、またカリックスアレーンタンク24からカリックス[8]アレーンが、更にトルエンタンク22からトルエンが供給され、フラーレン混合物中のC60とカリックス[8]アレーンとが包接化合物となり沈殿する。この包接化合物の沈殿は、包接化槽25の下流に設けられた固液分離装置26で濾過される。ここで、濾液は炭素数が60を超えるフラーレン、例えば、C70、C76、C78、C82、C84、C90及びC96等が溶解したトルエン(図中、TOLで表す)であり、固液分離装置26の下流に設けられた乾燥機27によって、トルエンを蒸発して除去し、C70、C76、C78、C82、C84、C90及びC96等の混合した固体を得ることができる。また、乾燥機27によって蒸発したトルエンは、冷却して液体とし、再びトルエンタンク22に戻して再利用される。
また、精製装置20は、包接化槽25内を50℃を超えてトルエンの沸点(110℃)以下に加熱できる図示しない加熱装置が設けられている。包接化工程13において、固液分離装置26で濾過する前に、この加熱装置によって、包接化槽25内で沈殿している包接化合物を含むトルエン溶液を、50℃を超えてトルエンの沸点(110℃)以下、例えば、100℃に加熱して、包接化合物をC60とカリックス[8]アレーンとに分けることができる。この分けられたC60及びカリックス[8]アレーンは、トルエンに再び溶解する。
しかる後、包接化槽25内を15℃以上かつ50℃以下まで冷却して、この溶液中のC60とカリックス[8]アレーンとを再び包接させ包接化合物の沈殿を生成させる。この包接化合物の沈殿を固液分離装置26で濾過によって分離することにより、包接化合物中に含まれる不純物を除去し、C60の純度を上げることができる(高純度化工程14)。なお、包接化工程13で生成した包接化合物の沈殿を固液分離装置26で分離した後に、この沈殿を再び包接化槽25に戻し、更にトルエンタンク22からトルエンを供給して、加熱装置で加熱した後、冷却して高純度化を行うこともできる。
精製装置20は、固液分離装置26で分離した包接化合物を入れ、C60が可溶でカリックス[8]アレーンが難溶である第2の溶媒の一例であるTMBを貯留するTMBタンク28からTMBが供給される分解槽29を有している。分解工程15において、分解槽29中では、包接化合物はC60とカリックス[8]アレーンとに分けられ、分けられたC60はTMBに溶解し、また、分けられたカリックス[8]アレーンは沈殿する。分解槽29の下流側には、固液分離装置30が設けられ、濾過によってカリックス[8]アレーンの沈殿が除去される。また、固液分離装置30で濾過された固体のカリックス[8]アレーンは、カリックスアレーンタンク24に戻して再利用できる。
また、固液分離装置30の下流には、高次フラーレン除去工程16で使用する高次処理カラム31が設けられている。高次処理カラム31は、直径2nm以下の細孔の積算ポアボリュームが0.3cm3 /g以上で、比表面積が1600m2 /g以上で、粒径30μm以上の粒子が40重量%以下であり、更に、水酸化カリウムで賦活処理されて、C60の溶液中の不純物(微量のC70及び炭素数70を超える高次フラーレンを含む)を分離可能である活性炭(分離剤)が充填されている。
ここで、C60の溶解した第2の溶媒(TMB)は、TMBと共に高次処理カラム31に供給される。活性炭には、フラーレン混合物中の不純物が吸着し、C60がTMBと共に溶出する。これによって、純度の高いC60を得ることができる。更に、高次処理カラム31の下流には、濾液中のTMBを蒸発させる乾燥機32が設けられ、TMBを蒸発させて除去し、C60の固体を得る(単離工程17)。なお、乾燥機32で蒸発したTMBは、冷却して液体とし、再びTMBタンク28に戻して再利用することができる。
燃焼法で製造した煤状物質A75gを不活性ガス、例えば窒素ガスを流通しながら、常圧〔1.013×105 Pa〕で400℃に加熱して、煤状物質A中の多環状芳香族炭化水素を昇華して、煤状物質Bを得た。この昇華除去工程に用いる装置(以下、昇華装置という)は、窒素ガスを連続的に供給する石英ガラス製の連続型の装置である。なお、昇華装置は、昇華条件に耐え得るものであればよく、バッチ式、固定床型、流動層型、及び連続型等のいずれでもよく、材質は、石英ガラス、ステンレス等の金属類、セラミックス、及びガラス等がある。用いる不活性ガスは、昇華除去工程において、フラーレンと実質的に反応しない気体であり、ヘリウム、ネオン、アルゴン、窒素、及びこれらの混合物が使用される。
昇華除去工程において、昇華装置内に酸素が存在していると、フラーレンと酸素が反応するので、この装置内の酸素の含有量は、10体積%以下、好ましくは5体積%以下、更に好ましくは1体積%以下にする。酸素の含有量が10体積%を超えるとフラーレンの酸化物が生成し易くなる。なお、窒素ガスは、400℃に加熱して昇華装置に供給し、その流通量は、煤状物質1gに対して、1〜10000mL/min、好ましくは5〜5000mL/minで行う。また、窒素ガスの流通は間欠的であってもよい。
多環状芳香族炭化水素が除去された煤状物質Bとトルエン3000mLとを25℃(室温)で2Lの三角フラスコ内で混合し、超音波洗浄機に30分間浸漬した。ここで、トルエンに溶解しない炭素系高分子は沈殿となる。これをメンブランフィルタ(アドバンテック社、ポリテトラフルオロエチレン(polytetrafluoroethylene 、PTFE)製、直径142mm、厚さ5μm。以下、同じ)を用い、窒素で2kgGの圧力をかけて加圧濾過し、炭素系高分子を除去した。
更に、この濾液中の2610gを1305gまでエバポレータにより、90℃、20Torrで濃縮した。この濃縮液を2000mLのセパラブルフラスコに入れ、回転翼にて撹拌した。濃縮液の温度が50℃まで昇温した後、温度を保ちながらテトラハイドロフラン(THF)125gを60分間で徐々に添加した。THF添加後、10分間保持した。溶液はスラリー状となり、これをメンブランフィルタを用いて、減圧濾過を行った。
更に、濾別した固形分を減圧乾燥機によって、100℃、5Torr以下で乾燥し、実質的にフラーレンのみからなるフラーレン混合物を得た。このフラーレン混合物は、C60が62.0、C70が23.0重量%、その他の高次フラーレンが15.0重量%で、フラーレンの純度が91.9重量%であった。また、このフラーレン混合物には、多環状芳香族炭化水素が微量、289重量ppm(0.0289重量%)含まれていた。ここで、フラーレンの分析は高速液体クロマトグラフィ(HPLC)で行い、多環状芳香族炭化水素の分析は、ガスクロマトグラフィで行った。
撹拌機と冷却用のジムロートコンデンサーを備えた容量2000mLのガラス製セパラブルフラスコにフラーレン混合物10g(C60を6.2g(0.0086mol)含む)とtert−ブチルカリックス[8]アレ−ン14.51g(0.0112mol)を入れ、更に、トルエン1000mLを加えて、110℃に加熱しながら、2時間撹拌した。その後、20℃に冷却して3時間撹拌した。
撹拌停止後、主にカリックス[8]アレーンがC60を包接して生成した包接化合物を含む黒色の沈殿を生じ、この沈殿をガラスフィルタで濾過し、再び、この沈殿を同様のセパラブルフラスコに入れ、これにトルエン1000mLを加え、2時間撹拌した。その後、生じた黒色の沈殿をガラスフィルタで濾過し、28.6gの生成物を得た。この生成物(以下、包接化合物Aという)は、C60を18.6重量%、C70を1.6重量%、及びカリックス[8]アレーンを36.0重量%含有していた。
更に、得られた包接化合物Aの28.6gを、2Lのセパラブルフラスコに入れ、トルエン2000mLを加えて加熱し、110℃で2時間撹拌した。その後、フラスコを冷却して20℃で2時間撹拌した。この溶液をガラスフィルタで濾過して27.5gの包接化合物Bを得た。更に、27.5gの包接化合物Bを2Lのセパラブルフラスコに入れ、トルエン2000mLを加えて加熱し、110℃で2時間撹拌した。その後、フラスコを冷却して20℃で2時間撹拌し、ガラスフィルタで濾過して27.0gの包接化合物Cを得た。なお、包接化合物Aを包接化合物Bとし、包接化合物Bを包接化合物Cとする高純度化を2回行っている(高純度化工程14)。
更に、得られた包接化合物C27gを、撹拌機と冷却用のジムロートコンデンサーを備えた容量500mLのガラス製セパラブルフラスコに入れ、TMB(第2の溶媒)350mLを加え、100℃で2時間撹拌した後、20℃に冷却して3時間撹拌し、包接化合物CをC60とカリックス[8]アレーンとに分離した(分解工程15)。この溶液をガラスフィルタで濾過して、C60の溶解したTMBとカリックス[8]アレーンを分離した。C60の溶解したTMBの溶液(以下、C60TMB溶液という)は、309g製造できた。
HPLCによる分析の結果、C60TMB溶液中には、C60が4.96g含有していた。なお、フラーレン混合物10g中のC60、つまり、6.2gに対し、収率は80.0重量%である。また、C60TMB溶液中に含有されるフラーレン混合物に対して、C60は96.0重量%であった。つまり、このC60TMB溶液中にはフラーレン混合物が5.17g(C70が1.5重量%、高次フラーレンが0.7重量%)含有している。
ここで、煤状物質Aから包接化合物Cを得る操作を繰り返し行い、C60TMB溶液を10.4kg得た。このフラーレン混合物C60TMB溶液を、分離剤の一例である活性炭(関西熱化学社製、粉末状活性炭、商品名MAXSORB MSC30 、直径2nm以下の細孔の積算ポアボリューム0.55cm3 /g、比表面積3250m2 /g、粒径30μm以上13重量%、水酸化カリウム賦活)を充填した高次処理カラム内に通して、C60TMB溶液中の不純物(微量のC70及び炭素数70を超える高次フラーレンを含む)を除去し、高純度のC60を得た。
この高次処理カラムは、内径28mm、長さ100mmのSUS304製のカラム本体の底部フランジ部に目皿を入れ、目皿の上に直径28mm、孔径0.2μmのPTFE製のメンブランフィルタを配置し、カラム本体に取付けてネジで固定し、更に、カラム本体の上部フランジ部を取り外し、活性炭17gをカラム本体内にTMBと共に充填して作成した。なお、カラム本体内の活性炭の層高は98mm、活性炭の体積は60cm3 であった。
C60TMB溶液10.4kgを高次処理カラム内に通し、更にTMB4.4kgで高次処理カラム内の洗浄を行った。微量のC70及び炭素数70を超える高次フラーレンを含む不純物を分離し、純度の高いC60TMB溶液を得た。このC60TMB溶液は、ロータリーエバポレータによって、TMBが除去され、C60の固体72.1gを得た(単離工程17)。C60の固体をHPLCによって分析した結果、C60の収率は99.0重量%であり、純度は99.4重量%であった。また、C70及び高次フラーレンは、実質的に含有されていなかった。なお、総通液時間は700分間で、C60は、0.103g/minの速度で得られた。
(比較例)
フラーレン混合物5.18g(C60が60.0重量%、C70が25.0重量%、その他の高次フラーレンが15.0重量%)をTMB734gに溶解した(フラーレン混合物の濃度は0.7重量%)。このフラーレン混合物のTMB溶液を、分離剤の一例である活性炭(関西熱化学社製、粉末状活性炭、商品名MAXSORB MSC30 、直径2nm以下の細孔の積算ポアボリューム0.55cm3 /g、比表面積3250m2 /g、粒径30μm以上13重量%、水酸化カリウム賦活)を充填した前記した高次処理カラム内に通し、更にTMB3700gを高次処理カラム内に通して洗浄した。得られた液をロータリーエバポレータで蒸発乾固させ、2.5gの黒色の固体を得た。この黒色の固体をHPLCで分析した結果、C60が収率95.0重量%で存在し、その純度は98.0重量%であった。なお、総通液時間は200分間で、C60は、0.01g/minの速度で得られた。
以上の結果から、比較例によるフラーレンの精製方法では、C60以外のフラーレンが除去され難く、高純度のC60が得られなかった。また、活性炭を充填した高次処理カラムでの処理において、実施例では、溶液中にC60以外のフラーレンがほとんど含有されていないので通液速度が速く、比較例では、溶液中にC60以外のフラーレンが多く含有されているので通液速度が遅くなることがわかった。
本発明は、前記した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲での変更は可能であり、例えば、前記したそれぞれの実施の形態や変形例の一部又は全部を組み合わせて本発明のフラーレンの精製方法を構成する場合も本発明の権利範囲に含まれる。
例えば、前記実施の形態のフラーレンの精製方法において、第1の溶媒として、トルエンを用いたが、ベンゼンを用いてもよい。また、第2の溶媒としては、TMBを用いたが、15〜50℃におけるC60の溶解度が高いジアルキルベンゼン類、トリアルキルベンゼン類、テトラアルキルベンゼン類、及びアルキルナフタレン類のいずれか1又は2以上から選ぶことができる。
また、カリックスアレーンとしては、tert−ブチルカリックス[8]アレ−ンを用いたが、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ヘキシル基、オクチル基を有するカリックスアレーンでもよく、その繰り返し単位も、3〜10であればよい。更に、分離剤として、活性炭を用いたが、コークス、無煙炭、化学修飾を施したシリカゲル、チタニア、及び、酸化セリウム等を単独又は2種類以上を任意の割合で混合して用いてもよい。
本発明の一実施の形態に係るフラーレンの精製方法の説明図である。 同精製方法に適用されるフラーレン精製装置の説明図である。
符号の説明
10:フラーレンの精製方法、11:昇華除去工程、12:溶媒抽出工程、13:包接化工程(第1工程)、14:高純度化工程、15:分解工程(第2工程)、16:高次フラーレン除去工程(第3工程)、17:単離工程、20:フラーレン精製装置、21:抽出槽、22:トルエンタンク、23:固液分離装置、24:カリックスアレーンタンク、25:包接化槽、26:固液分離槽、27:乾燥機、28:TMBタンク、29:分解槽、30:固液分離装置、31:高次処理カラム、32:乾燥機

Claims (3)

  1. 少なくとも2種以上のフラーレンを含むフラーレン混合物からC60を分離するフラーレンの精製方法であって、
    前記フラーレン混合物及びカリックスアレーンを、該フラーレン混合物及び該カリックスアレーンが可溶で該カリックスアレーンが該C60を包接して形成される包接化合物が難溶又は不溶である第1の溶媒と接触させて、該C60と該カリックスアレーンとの包接化合物を得る第1工程と、
    前記第1工程で得た前記包接化合物を、前記C60が可溶で前記カリックスアレーンが難溶又は不溶である第2の溶媒と接触させて、該C60と該カリックスアレーンとに分け、前記第2の溶媒に溶解した前記C60の溶液を分ける第2工程と、
    前記第2工程で得た第2の溶媒に溶解した前記C60の溶液を、分離剤で処理して該C60の溶液中の不純物を分離する第3工程とを有することを特徴とするフラーレンの精製方法。
  2. 請求項1記載のフラーレンの精製方法において、前記第2工程で得た前記C60の溶液から、前記第2の溶媒を除去して、該C60を固体として得ることを特徴とするフラーレンの精製方法。
  3. 請求項1及び2のいずれか1項に記載のフラーレンの精製方法において、前記カリックスアレーンは、式(1)で表され、しかも、Rは炭素数1〜10の炭化水素基であり、nは3〜10の整数であることを特徴とするフラーレンの精製方法。
    Figure 2005082461
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