JP2004059334A - フラーレン類の製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】燃焼法によって製造したフラーレン類であっても、多環状芳香族炭化水素の含有量の少ない高純度のフラーレン類の製造方法を提供する。
【解決手段】(工程A)フラーレン類及び多環状芳香族炭化水素を含有する煤状物質と芳香族炭化水素を含む抽出溶媒とを混合してフラーレン類及び多環状芳香族炭化水素が溶解した抽出液を得る工程、及び(工程B)前記抽出液から得られたフラーレン類及び多環状芳香族炭化水素の混合物を不活性ガスの下で加熱して多環状芳香族炭化水素を昇華して分離する工程とを有するフラーレン類の製造方法。
【選択図】 図3
【解決手段】(工程A)フラーレン類及び多環状芳香族炭化水素を含有する煤状物質と芳香族炭化水素を含む抽出溶媒とを混合してフラーレン類及び多環状芳香族炭化水素が溶解した抽出液を得る工程、及び(工程B)前記抽出液から得られたフラーレン類及び多環状芳香族炭化水素の混合物を不活性ガスの下で加熱して多環状芳香族炭化水素を昇華して分離する工程とを有するフラーレン類の製造方法。
【選択図】 図3
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は新しい炭素材料であるフラーレン類、中でもC60、C70、C76、C78、C82、C84の分子構造を有するフラーレン類の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
1990年に炭素数60、70、84等の閉殻構造型のカーボンクラスター(球状の巨大分子)という新しいタイプの分子状炭素物質が合成され、注目されている。この特殊な分子構造を有するカーボンクラスターは、フラーレン類とも称され、その分子骨格を構成する炭素数によって、フラーレンC60、同C70、同C84などと呼ばれている(単に、C60、C70、C84等とも呼ばれる)。これらのフラーレン類は、新しい炭素材料であり、また特殊な分子構造から特異な物性を示すことが期待されるので、その性質及び用途開発についての研究が盛んに進められている。フラーレン類は例えば、ダイヤモンドコーティング、電池材料、塗料、断熱材、潤滑材、化粧品などの分野への利用が期待されている。
【0003】
フラーレン類の製造方法としては、(1)グラファイトなど炭素質材料から成る電極を原料としてこの電極間にアーク放電によって原料を蒸発させる方法(アーク放電法)、(2)炭素質原料に高電流を流して原料を蒸発させる方法(抵抗加熱法)、(3)高エネルギー密度のパルスレーザー照射によって炭素質原料を蒸発させる方法(レーザー蒸発法)、(4)ベンゼンなどの有機物を不完全燃焼させる方法(燃焼法)などが知られている。しかし、現状いずれの製造方法でも目的の単一フラーレン、あるいは有益なC60〜C84フラーレン類だけを製造することはできず、C60及びC70を主とする複数のフラーレンとその他多数の炭素化合物との混合物(この燃焼生成物は「煤」と呼ばれることがある)として生成する。煤中のフラーレン類の含有量は、効率的といわれるアーク放電法でも10〜30%程度で、C70:C60の生成比は約0.1である。したがって、高純度のフラーレンを得るためには煤からまずフラーレン類のみを分離する必要がある。
【0004】
燃焼生成物「煤」からのフラーレン類の分離方法として、(1)フラーレン類はベンゼン、トルエン、二硫化炭素等の有機溶媒に溶解し、その他の不純物成分は溶解しにくいという性質を利用して、このような有機溶媒を用いて煤からフラーレン類を抽出する方法(溶媒抽出法)、(2)高真空下で煤を加熱し、フラーレン類を昇華させる方法(昇華法)が知られている。このうち昇華法は、たとえば400℃以上の高温、0.133Pa(10−3Torr)以下の高真空条件を必要とする特殊な分離方法であり、それに比べ溶媒抽出法は操作が容易なため広く用いられている。さらに抽出で得られたフラーレン類(主としてC60とC70の混合物)を含む溶液からの単一フラーレンの分離には、カラムクロマト分離、分別再結晶、フラーレンの包接化などの方法が適用されている。
【0005】
燃焼法によりフラーレンを製造する場合、例えば米国特許第5273729号で示されたように、制御された条件下でトルエン等の有機物を不完全燃焼させると、C60とC70を主とする複数のフラーレン類を含んだ煤状物質が生成するが、典型的には煤状物質中には、通常10〜30重量%程度のフラーレン類と、10ppm〜5重量%の多環状芳香族炭化水素が含まれており、残分はグラファイト構造を持つ炭素及びグラファイト構造を骨格として若干の水素原子を有する高分子の炭化水素やカーボンブラック等である。
【0006】
フラーレン類と多環状芳香族炭化水素の溶媒への溶解度を比較すると、通常10倍以上多環状芳香族炭化水素の溶解度が高い。その為、煤状物質から溶媒で抽出すると、フラーレン類のみを選択的に抽出することは困難で、煤状物質中の多環状芳香族炭化水素もほとんど抽出液側へ同時に抽出される。その為、抽出後の液を、濃縮・乾燥もしくは、濃縮して析出した固形分を濾別して乾燥して得られた固体中は、通常0.01〜10%程度多環状芳香族炭化水素を含んだフラーレン類を得ることになる。
【0007】
多数の炭化物として、ベンゾピレンに代表される多環状芳香族炭化水素がある。多環状芳香族炭化水素は、構造的に炭化水素の中でも水素原子の割合が少なく、構造的にもフラーレン類と類似しており、従って、フラーレン類に混在している場合にはフラーレンの反応性を阻害したり、フラーレンの固有の性質を遮蔽したりする可能性もある。また、安全上からもこれら多環状芳香族炭化水素は極力減少させる必要があると考えられている。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は係る事情に鑑みてなされたもので、フラーレン類及び多環状芳香族炭化水素を含有する煤状物質から高純度かつ効率よくフラーレン類を製造できるフラーレン類の製造方法を提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上述したような事情に鑑みて鋭意検討した。その結果、フラーレン類に溶解性の高い特定の溶媒である抽出溶媒と、フラーレン類に溶解性が低く多環状芳香族炭化水素に溶解度の高い特定の溶媒を組み合わせて用いることにより、フラーレン類及び多環状芳香族炭化水素を含む煤状物質中から高濃度でフラーレン類を分離することが可能であることを見出し本発明に到達した。
【0010】
即ち、本発明の要旨は(工程A)フラーレン類及び多環状芳香族炭化水素を含有する煤状物質と芳香族炭化水素を含む抽出溶媒とを混合してフラーレン類及び多環状芳香族炭化水素が溶解した抽出液を得る工程、及び(工程B)前記抽出液から得られたフラーレン類及び多環状芳香族炭化水素の混合物を不活性ガスの下で加熱して多環状芳香族炭化水素を昇華して分離する工程とを有するフラーレン類の製造方法に存する。
【0011】
本発明の別の要旨は、上記の工程Aの後、且つ工程Bの前に、(工程C)該抽出溶媒を濃縮してフラーレン類及び多環状芳香族炭化水素を析出する工程、又は(工程D)抽出溶媒に対するよりフラーレン類の溶解度が低い溶媒を加え析出するフラーレン類及び多環状芳香族炭化水素を回収する工程のいずれかを有するフラーレン類の製造方法に存する。
【0012】
【発明の実施の形態】
本発明の用いられる煤状物質は、フラーレン類及び多環状芳香族炭化水素を含有していれば、いかなる方法によって得られたものであっても良い。フラーレンを大量に生産するには、炭化水素を原料を不完全燃焼させる燃焼法によるもの、または高熱下に炭化水素原料を分解させる熱分解法によるものが好ましく、なかでも燃焼法が好ましい。
【0013】
燃焼法によりフラーレンを製造する場合、圧力条件としては1330〜13300Pa(10〜100Torr)が好ましく、3990〜6650Pa(30〜50Torr)が更に好ましい。温度条件としては800〜2500℃が好ましく、1000〜2000℃が更に好ましい。
フラーレンの原料としては、ベンゼン、トルエン、キシレン、ナフタレン、メチルナフタレン、アントラセン、フェナントレン等の炭素数6〜15の芳香族炭化水素が好適に用いられる。また、原料としては、これらの芳香族炭化水素に併用してヘキサン、ヘプタン、オクタン等の脂肪族炭化水素を用いても良い。
【0014】
燃焼法においては、フラーレンの原料は、同時に熱源としても作用する。即ち、原料炭化水素は酸素と反応して発熱してフラーレンの生成が可能となる温度に上昇させるとともに、原料炭化水素が脱水素されることにより、フラーレン骨格を形成するための炭素ユニットを生成するものと考えられている。炭素ユニットは一定の圧力、温度条件で集合してフラーレン類を形成する。
【0015】
酸素の使用量としては、原料炭化水素の種類によっても若干異なるが、例えば原料炭化水素としてトルエンを用いた場合には、トルエンに対して0.5〜9倍モルが好ましく、1〜5倍モルが更に好ましい。
燃焼法における反応系には、酸素以外に、フラーレンに対して不活性な気体を存在させていても良い。これら不活性気体としては例えば、ヘリウム、ネオン、アルゴン、窒素、二酸化炭素等が挙げられる。
【0016】
燃焼法により得られた煤状物質中には、フラーレン類、多環状芳香族炭化水素が含まれ、それ以外の残部は通常グラファイト構造を持つ炭素、グラファイト構造を骨格として若干の水素原子を有する高分子の炭化水素やカーボンブラック等である。
煤状物質には、フラーレン類が5重量%以上含まれていることが好ましく、10%以上含まれていることが更に好ましく、15%以上含まれていることが特に好ましい。
また、本発明により製造されるフラーレン類は、フラーレン構造を有していれば炭素数に制限はないが、通常は炭素数60〜84のフラーレンであり、中でもC60とC70の割合が全フラーレン中好ましくは50%以上であり、更に好ましくは70%以上であり、特に好ましくは80%以上である。
【0017】
(工程A)
本発明の製造方法においては、まず、フラーレン類及び多環状芳香族炭化水素を含有する煤状物質を、芳香族炭化水素を含む抽出溶媒と混合し、フラーレン類と多環状芳香族炭化水素を溶解した抽出液を得る工程Aを実施する。
芳香族炭化水素としては、分子内に少なくとも1つのベンゼン核を有する炭化水素化合物であり、具体的にはベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、n−プロピルベンゼン、イソプロピルベンゼン、n−ブチルベンゼン、sec−ブチルベンゼン、tert−ブチルベンゼン、1,2,3−トリメチルベンゼン、1,2,4−トリメチルベンゼン、1,3,5−トリメチルベンゼン、1,2,3,4−テトラメチルベンゼン、1,2,3,5−テトラメチルベンゼン、ジエチルベンゼン、シメン等のアルキルベンゼン類、1−メチルナフタレン等のアルキルナフタレン類、テトラリン等が挙げられる。これらの内1,2,4−トリメチルベンゼン及びテトラリンが好ましい。
【0018】
抽出溶媒には、芳香族炭化水素の他に、更に脂肪族炭化水素や塩素化炭化水素等の有機溶媒を、単独又はこれらのうち2種以上を任意の割合で用いてもよい。脂肪族炭化水素としては、環式、非環式等、任意の脂肪族炭化水素が使用できる。環式脂肪族炭化水素の例としては、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタンなどの単環式脂肪族炭化水素、その誘導体であるメチルシクロペンタン、エチルシクロペンタン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、1,2−ジメチルシクロヘキサン、1,3−ジメチルシクロヘキサン、1,4−ジメチルシクロヘキサン、イソプロピルシクロヘキサン、n−プロピルシクロヘキサン、t−ブチルシクロヘキサン、n−ブチルシクロヘキサン、イソブチルシクロヘキサン、1,2,4−トリメチルシクロヘキサン,1,3,5−トリメチルシクロヘキサン、多環式としてデカリンなどが挙げられる。非環式脂肪族炭化水素の例としては、n−ペンタン、n−ヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタン、イソオクタン、n−ノナン、n−デカン、n−ドデカン、n−テトラデカンなどが挙げられる。
【0019】
塩素化炭化水素としては、ジクロロメタン、クロロフォルム、四塩化炭素、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン、1,2−ジクロロエタン、1,1,2,2−テトラクロロエタン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、1−クロロナフタレンなどが挙げられる。
その他、炭素数6以上のケトン、炭素数6以上のエステル類、炭素数6以上のエーテル類、二硫化炭素等が挙げられる。
【0020】
抽出溶媒としてはフラーレンの溶解度が低すぎると、抽出効率が低下するので、フラーレンの溶解度としては好ましくは5g/L以上、更に好ましくは10g/L以上、特に好ましくは15g/L以上である。また、工業的観点から、これらの抽出溶媒の中でも常温液体で沸点が100〜300℃、中でも120〜250℃のものが好適である。
【0021】
抽出溶媒は、フラーレン類を十分に抽出できるだけの量を用いる必要がある。通常、煤状物質中のフラーレン類の量に対し、5〜400重量倍量、経済性を考えると、40〜200重量倍量程度使用するのが好ましい。抽出は、バッチ式、セミ連続式、連続式、又はそれらの組み合わせ等、形式、装置は特に限定されない。
なお、煤状物質には通常5〜30重量%のフラーレン類が含まれているが、抽出効率の観点から、フラーレン類に対して用いる抽出溶媒の量を上記範囲とするのが好ましいことから、抽出操作に先立って、煤状物質の一部を分析して、煤状物質中のフラーレン含有量を測定しておくのが好ましい。
【0022】
抽出後、スラリーから未溶解物を濾別する。濾別は、減圧濾過、加圧濾過、重力濾過、フィルター濾過、又はそれらの組み合わせ等、方法、装置は特に限定されない。中で、加圧濾過が好ましい。
抽出装置としては撹拌混合槽が好適に使用できる。抽出の際、容器内の圧力は特に制限はなく、常圧で実施すればよい。抽出時の温度としては通常−10〜150℃であり、好ましくは5〜80℃であり、更に好ましくは30〜50℃である。これら範囲であれば抽出効率向上の面から好ましいが、抽出効率は温度依存性が小さいのでエネルギーコスト的に常温程度で行うのが有利である。
抽出工程においては、更に必要に応じて、抽出液に超音波等を照射しながら抽出を行うと、抽出時間が短くなるので好ましい。
【0023】
こうして得られた抽出液には、フラーレン類及び多環状芳香族炭化水素が溶解している。抽出液から粗フラーレンを得るにはどの様な方法を用いても構わない。例えば、以下の工程Cや工程Dのような方法を用いることができる。
(工程C)該抽出溶媒を濃縮してフラーレン類及び多環状芳香族炭化水素を析出する工程。
抽出液を濃縮するには、例えば常圧もしくは減圧で温度をあげて濃縮したり、高温に熱した抽出液をスプレードライヤー等を用いて減圧下状態にフラッシュすることが挙げられる。
【0024】
(工程D)抽出溶媒に対するよりフラーレン類の溶解度が低い溶媒を加え析出するフラーレン類及び多環状芳香族炭化水素を回収する工程。
抽出液にメタノールやエタノール(アルコール類)、アセトン(ケトン類)、テトラヒドロフラン(エーテル類)、N,N−ジメチルフォルムアミド(アミト゛類)等の抽出溶媒よりもフラーレン類に対する溶解度の低い溶媒(以下、貧溶媒と称することがある)を添加して粗フラーレン類を析出させる方法が挙げられる。
【0025】
貧溶媒を加えてフラーレン類を析出される場合、加える液は、1つもしくは2つ以上の混合溶液でも構わない。加える溶液の量は、抽出溶媒の量に対し、0.1〜50重量倍量、望ましくは、1〜30重量倍量程度である。量が少ないと、フラーレン類の析出量が少なくなり、回収できるフラーレン類が減少する。多すぎると、釜の容量が大きくなり経済的にロスが発生する。混合する温度は、−20〜150℃、望ましくは、−10〜100℃程度である。
これらの方法は組み合わせて用いても良い。
【0026】
(工程B)
次に、煤状物質が分離されたフラーレン類と多環状芳香族炭化水素の混合物は、一定の温度条件に付すことにより、多環状芳香族炭化水素を昇華させフラーレンと分離する。
【0027】
多環状芳香族化合物を昇華する際の条件としては、圧力は100〜2×105Paが好ましく、1000〜1.4×105Paが更に好ましい。常圧では装置が簡単になるメリットがあり、減圧下では多環状芳香族炭化水素の昇華温度が低くなるメリットがある。経済性を考えて、最適な条件で実施すればよい。また温度は、好ましくは100℃以上800℃以下である。昇華温度は圧力によって変化するので適宜選択すればよいが、常圧の場合には、更に200℃以上700℃以下が好ましく、特に300℃以上600℃以下が好ましい。温度が低すぎると多環状芳香族炭化水素の昇華が不十分となり、温度が高すぎるとフラーレン類も昇華し、フラーレン類の回収率が低下する。
【0028】
昇華に用いる装置は、上述の温度/圧力となる昇華条件に耐えうるものであれば、バッチ式、固定床型、流動層型、連続型等特に限定はしない。昇華装置に用いられる材質としては、石英ガラス、ステンレス等の金属類、セラミックス、ガラス等が挙げられる。
昇華に際しては、不活性ガスの存在下に行うが、本発明において不活性ガスとは、昇華の温度/圧力条件でフラーレン類と実質的に反応しない気体を意味する。不活性ガスの種類としては、ヘリウム、ネオン、アルゴン、窒素及びこれらの混合物が挙げられる。フラーレン類の反応を避けるためには、昇華に際して昇華装置中を実質的に不活性ガスにより置換し、昇華装置内の気体中の酸素の含有量として10体積%以下とするのが好ましく、5体積%以下とするのが好ましく、1体積%とするのが特に好ましい。酸素の含有量が多い場合には、フラーレン類の酸化物が生成する場合がある。
【0029】
また、多環状芳香族炭化水素の昇華は、不活性ガス流通下に行うのが好ましい。不活性ガスの流通下に行う方法としては、例えば昇華装置に不活性ガスの流入口及び排出口を設けておき、連続的に不活性ガスを流入及び排出させながら、所定の温度に昇温する。不活性ガスは昇華装置に流入させるに際し余熱しておくこともできる。
【0030】
不活性ガスの流通下に昇華を行う場合の不活性ガスの流通量としては、フラーレン類及び多環状芳香族炭化水素を含む煤状物質1gに対して好ましくは1〜10000ml/minであり、更に好ましくは5〜5000ml/minである。不活性ガスの流通は連続的であっても間欠的であってもよい。
【0031】
昇華装置から昇華した多環状芳香族炭化水素は不活性ガスに同伴され、析出装置にて温度が下げられることによって多環状芳香族炭化水素を析出させることが出来る。析出装置は、昇華装置と同一装置内に設けても分離して設けてもも構わないし、バッチ式、または連続式でも構わない。析出した多環状芳香族炭化水素の回収には、機械的に集めて回収しても、溶媒に溶解して回収しても構わない。多環状芳香族炭化水素を析出して回収した後の不活性ガスは、大気に放出するかリサイクル使用する。操作時間は、温度、圧力、ガス流通量によって異なるが、通常10分〜12時間程度である。
【0032】
また、本発明の製造方法により得られたフラーレン類は、通常はC60及びC70を主体とするフラーレン類の混合物であり、単一化合物を得ようとする場合には、本発明の製造方法により得られたフラーレン類をカラムクロマトグラフィー等の方法を用いて、それぞれのフラーレン種に分離することが出来る。
【0033】
【実施例】
次に、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
(比較例)
燃焼法で製造したフラーレン類、多環状芳香族炭化水素及び煤状物質の混合物/206.1gに、1,2,4−トリメチルベンゼン/1838gを添加して、攪拌しながら超音波洗浄機に30分浸した。上記スラリーを、0.55μmのメンブランフィルターを用い加圧濾過した。その濾液をBuch社製エバポレーターを用い、89℃、30torrの条件で乾固するまで濃縮した。
【0034】
その後、真空乾燥機を用いて、80℃、6Torrの条件下で7時間乾燥して比較サンプル(Blank)を得た。その固形分を島津社製高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いてフラーレン類を、Agilent社製ガスクロマトグラフィー(GC)を用いて多環状芳香族炭化水素を定量した。
その結果、比較サンプル中には、多環状芳香族化合物が8800ppm含まれていた。
【0035】
(実施例1)
比較例で製造した、比較サンプル(Blank)を図1及び2に示すようなSUS304製昇華装置(高さ65cm、幅45cm)を用い、以下に示す条件で多環状芳香族炭化水素の昇華を行った。
比較サンプル1.118gを昇華装置に入れ、500ml/minの流量の窒素を30分間流通した。その後、窒素流量を114ml/minにし、図3に示すように昇華装置全体を電気炉(マッフル炉)に入れ、500℃まで昇温後2時間保った。その後、室温まで下げた後、昇華装置内に残存している固形分を島津社製HPLCを用いてフラーレン類を、Agilent社製GCを用いて多環状芳香族炭化水素を定量した。
この結果、実施例1で得られたサンプル中には多環状芳香族化合物は認められなかった。即ち、多環状芳香族化合物の含有量は測定限界以下であり、多くとも100ppmである。
【0036】
【発明の効果】
本発明により、燃焼法によって製造したフラーレン類であっても、多環状芳香族炭化水素の含有量の少ない高純度のフラーレン類の製造方法を提供することが出来る。
更に、カラムクロマト分離、分別再結晶などの従来からの方法を組み合わせることによって、単一フラーレンを従来になく、より効率的に、低コストで製造できることとなった。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明で用いられる昇華装置の一実施態様の上面図である。
【図2】本発明で用いられる昇華装置の一実施態様の側面図である。
【図3】実施例1で行なわれた昇華の概略図である。
【符号の説明】
1 不活性ガス注入口
2 不活性ガス排出口
3 煤状物質の出し入れ口
4 トラップ(ドライアイスにより冷却)
5 フラーレン類を含んだ煤状物質
【発明の属する技術分野】
本発明は新しい炭素材料であるフラーレン類、中でもC60、C70、C76、C78、C82、C84の分子構造を有するフラーレン類の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
1990年に炭素数60、70、84等の閉殻構造型のカーボンクラスター(球状の巨大分子)という新しいタイプの分子状炭素物質が合成され、注目されている。この特殊な分子構造を有するカーボンクラスターは、フラーレン類とも称され、その分子骨格を構成する炭素数によって、フラーレンC60、同C70、同C84などと呼ばれている(単に、C60、C70、C84等とも呼ばれる)。これらのフラーレン類は、新しい炭素材料であり、また特殊な分子構造から特異な物性を示すことが期待されるので、その性質及び用途開発についての研究が盛んに進められている。フラーレン類は例えば、ダイヤモンドコーティング、電池材料、塗料、断熱材、潤滑材、化粧品などの分野への利用が期待されている。
【0003】
フラーレン類の製造方法としては、(1)グラファイトなど炭素質材料から成る電極を原料としてこの電極間にアーク放電によって原料を蒸発させる方法(アーク放電法)、(2)炭素質原料に高電流を流して原料を蒸発させる方法(抵抗加熱法)、(3)高エネルギー密度のパルスレーザー照射によって炭素質原料を蒸発させる方法(レーザー蒸発法)、(4)ベンゼンなどの有機物を不完全燃焼させる方法(燃焼法)などが知られている。しかし、現状いずれの製造方法でも目的の単一フラーレン、あるいは有益なC60〜C84フラーレン類だけを製造することはできず、C60及びC70を主とする複数のフラーレンとその他多数の炭素化合物との混合物(この燃焼生成物は「煤」と呼ばれることがある)として生成する。煤中のフラーレン類の含有量は、効率的といわれるアーク放電法でも10〜30%程度で、C70:C60の生成比は約0.1である。したがって、高純度のフラーレンを得るためには煤からまずフラーレン類のみを分離する必要がある。
【0004】
燃焼生成物「煤」からのフラーレン類の分離方法として、(1)フラーレン類はベンゼン、トルエン、二硫化炭素等の有機溶媒に溶解し、その他の不純物成分は溶解しにくいという性質を利用して、このような有機溶媒を用いて煤からフラーレン類を抽出する方法(溶媒抽出法)、(2)高真空下で煤を加熱し、フラーレン類を昇華させる方法(昇華法)が知られている。このうち昇華法は、たとえば400℃以上の高温、0.133Pa(10−3Torr)以下の高真空条件を必要とする特殊な分離方法であり、それに比べ溶媒抽出法は操作が容易なため広く用いられている。さらに抽出で得られたフラーレン類(主としてC60とC70の混合物)を含む溶液からの単一フラーレンの分離には、カラムクロマト分離、分別再結晶、フラーレンの包接化などの方法が適用されている。
【0005】
燃焼法によりフラーレンを製造する場合、例えば米国特許第5273729号で示されたように、制御された条件下でトルエン等の有機物を不完全燃焼させると、C60とC70を主とする複数のフラーレン類を含んだ煤状物質が生成するが、典型的には煤状物質中には、通常10〜30重量%程度のフラーレン類と、10ppm〜5重量%の多環状芳香族炭化水素が含まれており、残分はグラファイト構造を持つ炭素及びグラファイト構造を骨格として若干の水素原子を有する高分子の炭化水素やカーボンブラック等である。
【0006】
フラーレン類と多環状芳香族炭化水素の溶媒への溶解度を比較すると、通常10倍以上多環状芳香族炭化水素の溶解度が高い。その為、煤状物質から溶媒で抽出すると、フラーレン類のみを選択的に抽出することは困難で、煤状物質中の多環状芳香族炭化水素もほとんど抽出液側へ同時に抽出される。その為、抽出後の液を、濃縮・乾燥もしくは、濃縮して析出した固形分を濾別して乾燥して得られた固体中は、通常0.01〜10%程度多環状芳香族炭化水素を含んだフラーレン類を得ることになる。
【0007】
多数の炭化物として、ベンゾピレンに代表される多環状芳香族炭化水素がある。多環状芳香族炭化水素は、構造的に炭化水素の中でも水素原子の割合が少なく、構造的にもフラーレン類と類似しており、従って、フラーレン類に混在している場合にはフラーレンの反応性を阻害したり、フラーレンの固有の性質を遮蔽したりする可能性もある。また、安全上からもこれら多環状芳香族炭化水素は極力減少させる必要があると考えられている。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は係る事情に鑑みてなされたもので、フラーレン類及び多環状芳香族炭化水素を含有する煤状物質から高純度かつ効率よくフラーレン類を製造できるフラーレン類の製造方法を提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上述したような事情に鑑みて鋭意検討した。その結果、フラーレン類に溶解性の高い特定の溶媒である抽出溶媒と、フラーレン類に溶解性が低く多環状芳香族炭化水素に溶解度の高い特定の溶媒を組み合わせて用いることにより、フラーレン類及び多環状芳香族炭化水素を含む煤状物質中から高濃度でフラーレン類を分離することが可能であることを見出し本発明に到達した。
【0010】
即ち、本発明の要旨は(工程A)フラーレン類及び多環状芳香族炭化水素を含有する煤状物質と芳香族炭化水素を含む抽出溶媒とを混合してフラーレン類及び多環状芳香族炭化水素が溶解した抽出液を得る工程、及び(工程B)前記抽出液から得られたフラーレン類及び多環状芳香族炭化水素の混合物を不活性ガスの下で加熱して多環状芳香族炭化水素を昇華して分離する工程とを有するフラーレン類の製造方法に存する。
【0011】
本発明の別の要旨は、上記の工程Aの後、且つ工程Bの前に、(工程C)該抽出溶媒を濃縮してフラーレン類及び多環状芳香族炭化水素を析出する工程、又は(工程D)抽出溶媒に対するよりフラーレン類の溶解度が低い溶媒を加え析出するフラーレン類及び多環状芳香族炭化水素を回収する工程のいずれかを有するフラーレン類の製造方法に存する。
【0012】
【発明の実施の形態】
本発明の用いられる煤状物質は、フラーレン類及び多環状芳香族炭化水素を含有していれば、いかなる方法によって得られたものであっても良い。フラーレンを大量に生産するには、炭化水素を原料を不完全燃焼させる燃焼法によるもの、または高熱下に炭化水素原料を分解させる熱分解法によるものが好ましく、なかでも燃焼法が好ましい。
【0013】
燃焼法によりフラーレンを製造する場合、圧力条件としては1330〜13300Pa(10〜100Torr)が好ましく、3990〜6650Pa(30〜50Torr)が更に好ましい。温度条件としては800〜2500℃が好ましく、1000〜2000℃が更に好ましい。
フラーレンの原料としては、ベンゼン、トルエン、キシレン、ナフタレン、メチルナフタレン、アントラセン、フェナントレン等の炭素数6〜15の芳香族炭化水素が好適に用いられる。また、原料としては、これらの芳香族炭化水素に併用してヘキサン、ヘプタン、オクタン等の脂肪族炭化水素を用いても良い。
【0014】
燃焼法においては、フラーレンの原料は、同時に熱源としても作用する。即ち、原料炭化水素は酸素と反応して発熱してフラーレンの生成が可能となる温度に上昇させるとともに、原料炭化水素が脱水素されることにより、フラーレン骨格を形成するための炭素ユニットを生成するものと考えられている。炭素ユニットは一定の圧力、温度条件で集合してフラーレン類を形成する。
【0015】
酸素の使用量としては、原料炭化水素の種類によっても若干異なるが、例えば原料炭化水素としてトルエンを用いた場合には、トルエンに対して0.5〜9倍モルが好ましく、1〜5倍モルが更に好ましい。
燃焼法における反応系には、酸素以外に、フラーレンに対して不活性な気体を存在させていても良い。これら不活性気体としては例えば、ヘリウム、ネオン、アルゴン、窒素、二酸化炭素等が挙げられる。
【0016】
燃焼法により得られた煤状物質中には、フラーレン類、多環状芳香族炭化水素が含まれ、それ以外の残部は通常グラファイト構造を持つ炭素、グラファイト構造を骨格として若干の水素原子を有する高分子の炭化水素やカーボンブラック等である。
煤状物質には、フラーレン類が5重量%以上含まれていることが好ましく、10%以上含まれていることが更に好ましく、15%以上含まれていることが特に好ましい。
また、本発明により製造されるフラーレン類は、フラーレン構造を有していれば炭素数に制限はないが、通常は炭素数60〜84のフラーレンであり、中でもC60とC70の割合が全フラーレン中好ましくは50%以上であり、更に好ましくは70%以上であり、特に好ましくは80%以上である。
【0017】
(工程A)
本発明の製造方法においては、まず、フラーレン類及び多環状芳香族炭化水素を含有する煤状物質を、芳香族炭化水素を含む抽出溶媒と混合し、フラーレン類と多環状芳香族炭化水素を溶解した抽出液を得る工程Aを実施する。
芳香族炭化水素としては、分子内に少なくとも1つのベンゼン核を有する炭化水素化合物であり、具体的にはベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、n−プロピルベンゼン、イソプロピルベンゼン、n−ブチルベンゼン、sec−ブチルベンゼン、tert−ブチルベンゼン、1,2,3−トリメチルベンゼン、1,2,4−トリメチルベンゼン、1,3,5−トリメチルベンゼン、1,2,3,4−テトラメチルベンゼン、1,2,3,5−テトラメチルベンゼン、ジエチルベンゼン、シメン等のアルキルベンゼン類、1−メチルナフタレン等のアルキルナフタレン類、テトラリン等が挙げられる。これらの内1,2,4−トリメチルベンゼン及びテトラリンが好ましい。
【0018】
抽出溶媒には、芳香族炭化水素の他に、更に脂肪族炭化水素や塩素化炭化水素等の有機溶媒を、単独又はこれらのうち2種以上を任意の割合で用いてもよい。脂肪族炭化水素としては、環式、非環式等、任意の脂肪族炭化水素が使用できる。環式脂肪族炭化水素の例としては、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタンなどの単環式脂肪族炭化水素、その誘導体であるメチルシクロペンタン、エチルシクロペンタン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、1,2−ジメチルシクロヘキサン、1,3−ジメチルシクロヘキサン、1,4−ジメチルシクロヘキサン、イソプロピルシクロヘキサン、n−プロピルシクロヘキサン、t−ブチルシクロヘキサン、n−ブチルシクロヘキサン、イソブチルシクロヘキサン、1,2,4−トリメチルシクロヘキサン,1,3,5−トリメチルシクロヘキサン、多環式としてデカリンなどが挙げられる。非環式脂肪族炭化水素の例としては、n−ペンタン、n−ヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタン、イソオクタン、n−ノナン、n−デカン、n−ドデカン、n−テトラデカンなどが挙げられる。
【0019】
塩素化炭化水素としては、ジクロロメタン、クロロフォルム、四塩化炭素、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン、1,2−ジクロロエタン、1,1,2,2−テトラクロロエタン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、1−クロロナフタレンなどが挙げられる。
その他、炭素数6以上のケトン、炭素数6以上のエステル類、炭素数6以上のエーテル類、二硫化炭素等が挙げられる。
【0020】
抽出溶媒としてはフラーレンの溶解度が低すぎると、抽出効率が低下するので、フラーレンの溶解度としては好ましくは5g/L以上、更に好ましくは10g/L以上、特に好ましくは15g/L以上である。また、工業的観点から、これらの抽出溶媒の中でも常温液体で沸点が100〜300℃、中でも120〜250℃のものが好適である。
【0021】
抽出溶媒は、フラーレン類を十分に抽出できるだけの量を用いる必要がある。通常、煤状物質中のフラーレン類の量に対し、5〜400重量倍量、経済性を考えると、40〜200重量倍量程度使用するのが好ましい。抽出は、バッチ式、セミ連続式、連続式、又はそれらの組み合わせ等、形式、装置は特に限定されない。
なお、煤状物質には通常5〜30重量%のフラーレン類が含まれているが、抽出効率の観点から、フラーレン類に対して用いる抽出溶媒の量を上記範囲とするのが好ましいことから、抽出操作に先立って、煤状物質の一部を分析して、煤状物質中のフラーレン含有量を測定しておくのが好ましい。
【0022】
抽出後、スラリーから未溶解物を濾別する。濾別は、減圧濾過、加圧濾過、重力濾過、フィルター濾過、又はそれらの組み合わせ等、方法、装置は特に限定されない。中で、加圧濾過が好ましい。
抽出装置としては撹拌混合槽が好適に使用できる。抽出の際、容器内の圧力は特に制限はなく、常圧で実施すればよい。抽出時の温度としては通常−10〜150℃であり、好ましくは5〜80℃であり、更に好ましくは30〜50℃である。これら範囲であれば抽出効率向上の面から好ましいが、抽出効率は温度依存性が小さいのでエネルギーコスト的に常温程度で行うのが有利である。
抽出工程においては、更に必要に応じて、抽出液に超音波等を照射しながら抽出を行うと、抽出時間が短くなるので好ましい。
【0023】
こうして得られた抽出液には、フラーレン類及び多環状芳香族炭化水素が溶解している。抽出液から粗フラーレンを得るにはどの様な方法を用いても構わない。例えば、以下の工程Cや工程Dのような方法を用いることができる。
(工程C)該抽出溶媒を濃縮してフラーレン類及び多環状芳香族炭化水素を析出する工程。
抽出液を濃縮するには、例えば常圧もしくは減圧で温度をあげて濃縮したり、高温に熱した抽出液をスプレードライヤー等を用いて減圧下状態にフラッシュすることが挙げられる。
【0024】
(工程D)抽出溶媒に対するよりフラーレン類の溶解度が低い溶媒を加え析出するフラーレン類及び多環状芳香族炭化水素を回収する工程。
抽出液にメタノールやエタノール(アルコール類)、アセトン(ケトン類)、テトラヒドロフラン(エーテル類)、N,N−ジメチルフォルムアミド(アミト゛類)等の抽出溶媒よりもフラーレン類に対する溶解度の低い溶媒(以下、貧溶媒と称することがある)を添加して粗フラーレン類を析出させる方法が挙げられる。
【0025】
貧溶媒を加えてフラーレン類を析出される場合、加える液は、1つもしくは2つ以上の混合溶液でも構わない。加える溶液の量は、抽出溶媒の量に対し、0.1〜50重量倍量、望ましくは、1〜30重量倍量程度である。量が少ないと、フラーレン類の析出量が少なくなり、回収できるフラーレン類が減少する。多すぎると、釜の容量が大きくなり経済的にロスが発生する。混合する温度は、−20〜150℃、望ましくは、−10〜100℃程度である。
これらの方法は組み合わせて用いても良い。
【0026】
(工程B)
次に、煤状物質が分離されたフラーレン類と多環状芳香族炭化水素の混合物は、一定の温度条件に付すことにより、多環状芳香族炭化水素を昇華させフラーレンと分離する。
【0027】
多環状芳香族化合物を昇華する際の条件としては、圧力は100〜2×105Paが好ましく、1000〜1.4×105Paが更に好ましい。常圧では装置が簡単になるメリットがあり、減圧下では多環状芳香族炭化水素の昇華温度が低くなるメリットがある。経済性を考えて、最適な条件で実施すればよい。また温度は、好ましくは100℃以上800℃以下である。昇華温度は圧力によって変化するので適宜選択すればよいが、常圧の場合には、更に200℃以上700℃以下が好ましく、特に300℃以上600℃以下が好ましい。温度が低すぎると多環状芳香族炭化水素の昇華が不十分となり、温度が高すぎるとフラーレン類も昇華し、フラーレン類の回収率が低下する。
【0028】
昇華に用いる装置は、上述の温度/圧力となる昇華条件に耐えうるものであれば、バッチ式、固定床型、流動層型、連続型等特に限定はしない。昇華装置に用いられる材質としては、石英ガラス、ステンレス等の金属類、セラミックス、ガラス等が挙げられる。
昇華に際しては、不活性ガスの存在下に行うが、本発明において不活性ガスとは、昇華の温度/圧力条件でフラーレン類と実質的に反応しない気体を意味する。不活性ガスの種類としては、ヘリウム、ネオン、アルゴン、窒素及びこれらの混合物が挙げられる。フラーレン類の反応を避けるためには、昇華に際して昇華装置中を実質的に不活性ガスにより置換し、昇華装置内の気体中の酸素の含有量として10体積%以下とするのが好ましく、5体積%以下とするのが好ましく、1体積%とするのが特に好ましい。酸素の含有量が多い場合には、フラーレン類の酸化物が生成する場合がある。
【0029】
また、多環状芳香族炭化水素の昇華は、不活性ガス流通下に行うのが好ましい。不活性ガスの流通下に行う方法としては、例えば昇華装置に不活性ガスの流入口及び排出口を設けておき、連続的に不活性ガスを流入及び排出させながら、所定の温度に昇温する。不活性ガスは昇華装置に流入させるに際し余熱しておくこともできる。
【0030】
不活性ガスの流通下に昇華を行う場合の不活性ガスの流通量としては、フラーレン類及び多環状芳香族炭化水素を含む煤状物質1gに対して好ましくは1〜10000ml/minであり、更に好ましくは5〜5000ml/minである。不活性ガスの流通は連続的であっても間欠的であってもよい。
【0031】
昇華装置から昇華した多環状芳香族炭化水素は不活性ガスに同伴され、析出装置にて温度が下げられることによって多環状芳香族炭化水素を析出させることが出来る。析出装置は、昇華装置と同一装置内に設けても分離して設けてもも構わないし、バッチ式、または連続式でも構わない。析出した多環状芳香族炭化水素の回収には、機械的に集めて回収しても、溶媒に溶解して回収しても構わない。多環状芳香族炭化水素を析出して回収した後の不活性ガスは、大気に放出するかリサイクル使用する。操作時間は、温度、圧力、ガス流通量によって異なるが、通常10分〜12時間程度である。
【0032】
また、本発明の製造方法により得られたフラーレン類は、通常はC60及びC70を主体とするフラーレン類の混合物であり、単一化合物を得ようとする場合には、本発明の製造方法により得られたフラーレン類をカラムクロマトグラフィー等の方法を用いて、それぞれのフラーレン種に分離することが出来る。
【0033】
【実施例】
次に、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
(比較例)
燃焼法で製造したフラーレン類、多環状芳香族炭化水素及び煤状物質の混合物/206.1gに、1,2,4−トリメチルベンゼン/1838gを添加して、攪拌しながら超音波洗浄機に30分浸した。上記スラリーを、0.55μmのメンブランフィルターを用い加圧濾過した。その濾液をBuch社製エバポレーターを用い、89℃、30torrの条件で乾固するまで濃縮した。
【0034】
その後、真空乾燥機を用いて、80℃、6Torrの条件下で7時間乾燥して比較サンプル(Blank)を得た。その固形分を島津社製高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いてフラーレン類を、Agilent社製ガスクロマトグラフィー(GC)を用いて多環状芳香族炭化水素を定量した。
その結果、比較サンプル中には、多環状芳香族化合物が8800ppm含まれていた。
【0035】
(実施例1)
比較例で製造した、比較サンプル(Blank)を図1及び2に示すようなSUS304製昇華装置(高さ65cm、幅45cm)を用い、以下に示す条件で多環状芳香族炭化水素の昇華を行った。
比較サンプル1.118gを昇華装置に入れ、500ml/minの流量の窒素を30分間流通した。その後、窒素流量を114ml/minにし、図3に示すように昇華装置全体を電気炉(マッフル炉)に入れ、500℃まで昇温後2時間保った。その後、室温まで下げた後、昇華装置内に残存している固形分を島津社製HPLCを用いてフラーレン類を、Agilent社製GCを用いて多環状芳香族炭化水素を定量した。
この結果、実施例1で得られたサンプル中には多環状芳香族化合物は認められなかった。即ち、多環状芳香族化合物の含有量は測定限界以下であり、多くとも100ppmである。
【0036】
【発明の効果】
本発明により、燃焼法によって製造したフラーレン類であっても、多環状芳香族炭化水素の含有量の少ない高純度のフラーレン類の製造方法を提供することが出来る。
更に、カラムクロマト分離、分別再結晶などの従来からの方法を組み合わせることによって、単一フラーレンを従来になく、より効率的に、低コストで製造できることとなった。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明で用いられる昇華装置の一実施態様の上面図である。
【図2】本発明で用いられる昇華装置の一実施態様の側面図である。
【図3】実施例1で行なわれた昇華の概略図である。
【符号の説明】
1 不活性ガス注入口
2 不活性ガス排出口
3 煤状物質の出し入れ口
4 トラップ(ドライアイスにより冷却)
5 フラーレン類を含んだ煤状物質
Claims (11)
- (工程A)フラーレン類及び多環状芳香族炭化水素を含有する煤状物質と芳香族炭化水素を含む抽出溶媒とを混合してフラーレン類及び多環状芳香族炭化水素が溶解した抽出液を得る工程、及び(工程B)前記抽出液から得られたフラーレン類及び多環状芳香族炭化水素の混合物を不活性ガスの下で加熱して多環状芳香族炭化水素を昇華して分離する工程とを有するフラーレン類の製造方法。
- 工程Aの後、且つ工程Bの前に、(工程C)該抽出溶媒を濃縮してフラーレン類及び多環状芳香族炭化水素を析出する工程、又は(工程D)抽出溶媒に対するよりフラーレン類の溶解度が低い溶媒を加え析出するフラーレン類及び多環状芳香族炭化水素を回収する工程のいずれかを有する請求項1に記載のフラーレン類の製造方法。
- 工程Bにおいて、不活性ガスの流通下に多環芳香族化合物を昇華することを特徴とする請求項1又は2に記載のフラーレン類の製造方法。
- 不活性ガスが、窒素、ヘリウム、ネオン、又はアルゴンである請求項1乃至3のいずれかに記載のフラーレン類の製造方法。
- 多環状芳香族炭化水素を昇華する際の温度が、100℃以上600℃以下であり、圧力が100Pa以上2×105Pa以下である請求項1乃至4のいずれかに記載のフラーレン類の製造方法。
- 多環状芳香族炭化水素を昇華する際の圧力が常圧である請求項5に記載のフラーレン類の製造方法。
- 工程Aにおいて、抽出溶媒が、1,2,4−トリメチルベンゼン又はテトラリンである請求項1乃至5のいずれかに記載のフラーレン類の製造方法。
- 工程Dにおいて、抽出溶媒に対するよりフラーレン類の溶解度が低い溶媒が、アルコール類、ケトン類、エーテル類又はアミド類から選ばれるいずれか1種又は2種以上である請求項1乃至7のいずれかに記載のフラーレン類の製造方法。
- 抽出溶媒を煤状物質中のフラーレン類の量に対し、5〜400重量倍量用いることを特徴とする請求項1乃至7のいずれかに記載のフラーレン類の製造方法。
- 抽出溶媒に対するよりフラーレン類の溶解度が低い溶媒を、抽出溶媒の量に対し、0.1〜50重量倍量用いることを特徴とする請求項1乃至8のいずれかに記載のフラーレン類の製造方法。
- フラーレン類及び多環状芳香族炭化水素を含有する煤状物質が、炭化水素化合物の燃焼及び/又は熱分解によって得られたものであることを特徴とする請求項1乃至10のいずれかに記載のフラーレン類の製造方法。
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