JP2004099422A - フラーレン類の製造方法及びフラーレン類 - Google Patents
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Abstract
【課題】特に燃焼法によって得られたフラーレン類の製造方法において、多環状芳香族炭化水素の含有量の少ない高純度のフラーレン類を製造する方法を提供する。
【解決手段】(工程A)フラーレン類、多環状芳香族炭化水素、及び炭素系高分子成分を含有する煤状物質を、芳香族炭化水素を含む抽出溶媒と混合し、フラーレン類と多環状芳香族炭化水素を溶解した抽出液を得る工程と、(工程B)前記抽出液に、抽出溶媒よりもフラーレン類の溶解度が低い溶媒を加え、フラーレン類を析出させる工程を有することを特徴とするフラーレン類の製造方法。
【選択図】 なし
【解決手段】(工程A)フラーレン類、多環状芳香族炭化水素、及び炭素系高分子成分を含有する煤状物質を、芳香族炭化水素を含む抽出溶媒と混合し、フラーレン類と多環状芳香族炭化水素を溶解した抽出液を得る工程と、(工程B)前記抽出液に、抽出溶媒よりもフラーレン類の溶解度が低い溶媒を加え、フラーレン類を析出させる工程を有することを特徴とするフラーレン類の製造方法。
【選択図】 なし
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は新しい炭素材料であるフラーレン類、中でもC60、C70、C76、C78、C82、C84の分子構造を有するフラーレン類の製造方法及びフラーレン類に関する。
【0002】
【従来の技術】
1990年に炭素数60、70、84等の閉殻構造型のカーボンクラスター(球状の巨大分子)という新しいタイプの分子状炭素物質が合成され、注目されている。この特殊な分子構造を有するカーボンクラスターは、フラーレン類とも称され、その分子骨格を構成する炭素数によって、フラーレンC60、同C70、同C84などと呼ばれている(単に、C60、C70、C84等とも呼ばれる)。これらのフラーレン類は、新しい炭素材料であり、また特殊な分子構造から特異な物性を示すことが期待されるので、その性質及び用途開発についての研究が盛んに進められている。フラーレン類は例えば、ダイヤモンドコーティング、電池材料、塗料、断熱材、潤滑材、化粧品などの分野への利用が期待されている。
【0003】
フラーレン類の製造方法としては、(1)グラファイトなど炭素質材料から成る電極を原料としてこの電極間にアーク放電によって原料を蒸発させる方法(アーク放電法)、(2)炭素質原料に高電流を流して原料を蒸発させる方法(抵抗加熱法)、(3)高エネルギー密度のパルスレーザー照射によって炭素質原料を蒸発させる方法(レーザー蒸発法)、(4)ベンゼンなどの有機物を不完全燃焼させる方法(燃焼法)などが知られている。しかし、現状いずれの製造方法でも目的の単一フラーレン、あるいは有益なC60〜C84フラーレン類だけを製造することはできず、C60及びC70を主とする複数のフラーレンとその他多数の炭素化合物との混合物(この燃焼生成物は「煤」と呼ばれることがある)として生成する。煤中のフラーレン類の含有量は、効率的といわれるアーク放電法でも10〜30%程度で、C70:C60の生成比は約1:10である。したがって、高純度のフラーレンを得るためには煤からまずフラーレン類のみを分離する必要がある。
【0004】
燃焼生成物「煤」からのフラーレン類の分離方法として、(1)フラーレン類はベンゼン、トルエン、二硫化炭素等の有機溶媒に溶解し、その他の不純物成分は溶解しにくいという性質を利用して、このような有機溶媒を用いて煤からフラーレン類を抽出する方法(溶媒抽出法)、(2)高真空下で煤を加熱し、フラーレン類を昇華させる方法(昇華法)が知られている。このうち昇華法は、たとえば400℃以上の高温、圧力0.133Pa(10−3Torr)以下の高真空条件を必要とする特殊な分離方法であり、それに比べ溶媒抽出法は操作が容易なため広く用いられている。さらに抽出で得られたフラーレン類(主としてC60とC70の混合物)を含む溶液からの単一フラーレンの分離には、カラムクロマト分離、分別再結晶、フラーレンの包接化などの方法が適用されている。
【0005】
燃焼法によりフラーレンを製造する場合、例えば米国特許第5273729号で示されたように、制御された条件下でトルエン等の有機物を不完全燃焼させると、C60とC70を主とする複数のフラーレン類を含んだ煤状物質が生成することが知られている。(例えば特許文献1)。但し、この煤状物質中には、通常10〜30重量%程度のフラーレン類と、10ppm〜5重量%の多環状芳香族炭化水素が含まれている。また、残分はグラファイト構造を持つ炭素及びグラファイト構造を骨格として若干の水素原子を有する高分子の炭化水素やカーボンブラック等(以下、「炭素系高分子成分」と称することがある)である。
【0006】
フラーレン類と多環状芳香族炭化水素の溶媒への溶解度を比較すると、通常10倍以上多環状芳香族炭化水素の溶解度が高い。その為、煤状物質から溶媒で抽出すると、フラーレン類のみを選択的に抽出することは困難で、煤状物質中の多環状芳香族炭化水素もほとんど抽出液側へ同時に抽出される。その為、抽出後の液を、濃縮・乾燥もしくは、濃縮して析出した固形分を濾別して乾燥して得られた固体中は、通常0.01〜10%程度多環状芳香族炭化水素を含んだフラーレン類を得ることになる。
【0007】
ベンゾピレンに代表される多環状芳香族炭化水素は、組成的に炭化水素の中でも水素原子の割合が少なくフラーレン類と類似している。従って、フラーレン類に混在している場合にはフラーレンの反応性を阻害したり、フラーレンの固有の性質を遮蔽したりする可能性もある。また、安全上からもこれら多環状芳香族炭化水素は極力減少させる必要があると考えられている。
【特許文献1】
米国特許第5273729号
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は係る事情に鑑みてなされたもので、フラーレン類、多環状芳香族炭化水素及び炭素系高分子成分を含有する煤状物質から高純度かつ効率よくフラーレン類を製造できるフラーレン類の製造方法、及び経済性に優れた燃焼法により得られるフラーレン類において、多環状芳香族炭化水素の含有量を極めて低く抑えたフラーレン類を提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上述したような事情に鑑みて鋭意検討した。その結果、フラーレン類に溶解性の高い特定の溶媒である抽出溶媒と、フラーレン類に溶解性が低く多環状芳香族炭化水素に溶解度の高い特定の溶媒を組み合わせて用いることにより、フラーレン類、多環状芳香族炭化水素及び炭素系高分子成分を含む煤状物質中から、とりわけ燃焼法により得られた煤状物質中から高濃度で、そて多環状芳香族炭化水素の含有量を極めて低くしてフラーレン類を分離することが可能であることを見出し本発明に到達した。
【0010】
即ち、本発明の要旨は、(工程A)フラーレン類、多環状芳香族炭化水素、及び炭素系高分子成分を含有する煤状物質を、芳香族炭化水素を含む抽出溶媒と混合し、フラーレン類と多環状芳香族炭化水素を溶解した抽出液を得る工程と、(工程B)前記抽出液に、抽出溶媒よりもフラーレン類の溶解度が低い溶媒を加え、フラーレン類を析出させる工程を有することを特徴とするフラーレン類の製造方法に存する。また本発明のいま一つの要旨は、燃焼法により得られるフラーレン類組成物であって、多環状芳香族炭化水素含有量が1000ppm以下であるフラーレン類に存する。
【0011】
【発明の実施の形態】
まず、本発明のフラーレン類の製造方法について説明する。
本発明の用いられる煤状物質は、フラーレン類、多環状芳香族炭化水素及び炭素系高分子成分を含有していれば、いかなる方法によって得られたものであっても良い。フラーレンを大量に生産するには、炭化水素を原料として不完全燃焼させる燃焼法によるもの、または高熱下に炭化水素原料を分解させる熱分解法によるものが好ましく、なかでも燃焼法が好ましい。
【0012】
燃焼法によりフラーレンを製造する場合、圧力条件として1330 〜13300Pa(10〜100Torr)が好ましく、3990〜6650Pa(30〜50Torr)が更に好ましい。温度条件としては800〜2500℃が好ましく、1000〜2000℃が更に好ましい。
フラーレンの原料としては、ベンゼン、トルエン、キシレン、ナフタレン、メチルナフタレン、アントラセン、フェナントレン等の炭素数6〜15の芳香族炭化水素が好適に用いられる。また、原料としては、これらの芳香族炭化水素に併用してヘキサン、ヘプタン、オクタン等の脂肪族炭化水素を用いても良い。
【0013】
燃焼法においては、フラーレンの原料は、同時に熱源としても作用する。即ち、原料炭化水素は酸素と反応して発熱してフラーレンの生成が可能となる温度に上昇させるとともに、原料炭化水素が脱水素されることにより、フラーレン骨格を形成するための炭素ユニットを生成するものと考えられている。炭素ユニットは一定の圧力、温度条件で集合してフラーレン類を形成する。
【0014】
酸素の使用量としては、原料炭化水素の種類によっても若干異なるが、例えば原料炭化水素としてトルエンを用いた場合には、トルエンに対して0.5〜9倍モルが好ましく、1〜5倍モルが更に好ましい。
燃焼法における反応系には、酸素以外に、フラーレンに対して不活性な気体を存在させていても良い。これら不活性気体としては例えば、ヘリウム、ネオン、アルゴン、窒素、二酸化炭素等が挙げられる。
【0015】
燃焼法により得られた煤状物質中には、フラーレン類及び多環状芳香族炭化水素及びが含まれ、それ以外の残部は通常グラファイト構造を持つ炭素グラファイト構造を骨格として若干の水素原子を有する高分子の炭化水素やカーボンブラック等の炭素系高分子成分である。
煤状物質には、フラーレン類が5重量%以上含まれていることが好ましく、10%以上含まれていることが更に好ましく、15%以上含まれていることが特に好ましい。
また、本発明により製造されるフラーレン類は、フラーレン構造を有していれば炭素数に制限はないが、通常は炭素数60〜84のフラーレンであり、中でもC60とC70の割合が全フラーレン中好ましくは50%以上であり、更に好ましくは70%以上であり、特に好ましくは80%以上である。
【0016】
(工程A)
本発明の製造方法においては、まず、フラーレン類、多環状芳香族炭化水素及び炭素系高分子成分を含有する煤状物質を、芳香族炭化水素を含む抽出溶媒と混合し、フラーレン類と多環状芳香族炭化水素を溶解した抽出液を得る工程Aを実施する。炭素系高分子成分は抽出溶媒に実質的に溶解しない。
抽出溶媒に用いられる芳香族炭化水素としては、分子内に少なくとも1つのベンゼン核を有する炭化水素化合物であり、具体的にはベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、n−プロピルベンゼン、イソプロピルベンゼン、n−ブチルベンゼン、sec−ブチルベンゼン、tert−ブチルベンゼン、1,2,3−トリメチルベンゼン、1,2,4−トリメチルベンゼン、1,3,5−トリメチルベンゼン、1,2,3,4−テトラメチルベンゼン、1,2,3,5−テトラメチルベンゼン、ジエチルベンゼン、シメン等のアルキルベンゼン類、1−メチルナフタレン等のアルキルナフタレン類、テトラリン等が挙げられる。これらの内1,2,4−トリメチルベンゼン及びテトラリンが好ましい。
【0017】
抽出溶媒には、芳香族炭化水素の他に、更に脂肪族炭化水素や塩素化炭化水素等の有機溶媒を、単独又はこれらのうち2種以上を任意の割合で用いてもよい。脂肪族炭化水素としては、環式、非環式等、任意の脂肪族炭化水素が使用できる。環式脂肪族炭化水素の例としては、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタンなどの単環式脂肪族炭化水素、その誘導体であるメチルシクロペンタン、エチルシクロペンタン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、1,2−ジメチルシクロヘキサン、1,3−ジメチルシクロヘキサン、1,4−ジメチルシクロヘキサン、イソプロピルシクロヘキサン、n−プロ
ピルシクロヘキサン、t−ブチルシクロヘキサン、n−ブチルシクロヘキサン、イソブチルシクロヘキサン、1,2,4−トリメチルシクロヘキサン,1,3,5−トリメチルシクロヘキサン、多環式としてデカリンなどが挙げられる。非環式脂肪族炭化水素の例としては、n−ペンタン、n−ヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタン、イソオクタン、n−ノナン、n−デカン、n−ドデカン、n−テトラデカンなどが挙げられる。
【0018】
塩素化炭化水素としては、ジクロロメタン、クロロフォルム、四塩化炭素、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン、1,2−ジクロロエタン、1,1,2,2−テトラクロロエタン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、1−クロロナフタレンなどが挙げられる。
その他、炭素数6以上のケトン、炭素数6以上のエステル類、炭素数6以上のエーテル類、二硫化炭素等が挙げられる。
【0019】
抽出溶媒としてはフラーレンの溶解度が低すぎると、抽出効率が低下するので、フラーレンの溶解度としては好ましくは5g/L以上、更に好ましくは10g/L以上、特に好ましくは15g/L以上である。また、工業的観点から、これらの抽出溶媒の中でも常温液体で沸点が100〜300℃、中でも120〜250℃のものが好適である。
【0020】
抽出溶媒は、フラーレン類を十分に抽出できるだけの量を用いる必要がある。通常、煤状物質中のフラーレン類の量に対し、5〜400重量倍量、経済性を考えると、40〜200重量倍量程度使用するのが好ましい。抽出は、バッチ式、セミ連続式、連続式、又はそれらの組み合わせ等、形式、装置は特に限定されない。
なお、煤状物質には通常5〜30重量%のフラーレン類が含まれているが、抽出効率の観点から、フラーレン類に対して用いる抽出溶媒の量を上記範囲とするのが好ましいことから、抽出操作に先立って、煤状物質の一部を分析して、煤状物質中のフラーレン含有量を測定しておくのが好ましい。
【0021】
抽出後、スラリーから未溶解物を濾別する。濾別は、減圧濾過、加圧濾過、重力濾過、フィルター濾過、又はそれらの組み合わせ等、方法、装置は特に限定されない。中で、加圧濾過が好ましい。
抽出装置としては撹拌混合槽が好適に使用できる。抽出の際、容器内の圧力は特に制限はなく、常圧で実施すればよい。抽出時の温度としては通常−10〜150℃であり、好ましくは5〜80℃であり、更に好ましくは30〜50℃である。これら範囲であれば抽出効率向上の面から好ましいが、抽出効率は温度依存性が小さいのでエネルギーコスト的に常温程度で行うのが有利である。
抽出工程においては、更に必要に応じて、抽出液に超音波等を照射しながら抽出を行うと、抽出時間が短くなるので好ましい。
こうして得られた抽出液には、フラーレン類及び多環状芳香族炭化水素が溶解している。
【0022】
(工程B)
次に、上記工程Aに続いて、抽出液に、抽出溶媒よりフラーレン類の溶解度が低い溶媒を加え、フラーレン類を析出させる工程Bを行う。
抽出溶媒よりフラーレン類の溶解度が低い溶媒(以下、貧溶媒と称することがある)とは、具体的には メタノール、エタノール、プロパノール、エチレングリコール、グリセリン、等の炭素数1〜4のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン等の炭素数3〜5のケトン類、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、ジオキサン等の炭素数2〜5のエーテル類、N,N−ジメチルホルムアミド等の炭素数3〜5のアミド類及びこれらを含む混合溶媒が挙げられる。これらの内、アルコール類が好ましく、なかでも2−プロパノール(イソプロピルアルコール)が特に好ましい。
【0023】
これら貧溶媒のフラーレンC60の溶解度としては、1g/L以下であることが好ましく、100mg/L以下であることが更に好ましく、50mg/L以下であることが特に好ましい。
貧溶媒の使用量としては、抽出溶媒の量に対し、0.1〜50重量倍量、望ましくは、1〜30重量倍量程度である。量が少ないと、フラーレン類の析出量が少なくなり、回収できるフラーレン類が減少する。多すぎると、釜の容量が大きくなり経済的にロスが発生する。貧溶媒を混合する温度としては、通常−20〜150℃であり、好ましくは−10〜100℃であり、更に好ましくは10〜80℃であり、特に好ましくは30〜60℃である。
貧溶媒を混合することにより析出したフラーレンは、濾過により回収することができる。
【0024】
(工程C)
本発明の製造方法では、上記工程Aと工程Bとの間に抽出液を濃縮する工程Cを有することが好ましい。
工程Cにおいては抽出液の濃縮が行われるが、具体的には減圧による留去、加熱による蒸発及びこれらの組み合わせを用いることができる。濃縮条件としては圧力が好ましくは0.05kPa〜60kPaであり、更に好ましくは0.1kPa〜12kPAであり、温度が好ましくは、−10〜200℃、更に好ましくは10〜150℃である。
【0025】
濃縮の程度によって、抽出液中のフラーレン類が析出することがあってもかまわない。極端に濃縮しすぎるとフラーレンに不純物が同伴することがあるので、濃縮後の抽出液の量としては、抽出液中のフラーレン類に対して好ましくは5重量倍〜300重量倍であり、更に好ましくは10重量倍〜200重量倍である。濃縮によって、フラーレンが析出した場合には、析出したフラーレンを濾過により回収することができる。またフラーレンを濾別した後の抽出液は、貧溶媒を加えることによって更にフラーレン類を析出させることができる。
但し、好ましい実施態様としては、多環状芳香族炭化水素の同伴を避けるため、濃縮によってフラーレンが殆ど析出しないか、析出量として回収すべきフラーレン全体量の5重量%以下となるように濃縮の程度を調整し、引き続いて貧溶媒を加えてさらにフラーレン類を析出させるものである。
【0026】
(工程D)
上記工程B及び工程Cにより回収されたフラーレン類は、不純物を除くために上述の貧溶媒を用いて洗浄することが好ましい。洗浄に用いる溶媒の量は、好ましくは固体の量に対して1〜1000重量倍、更に好ましくは3〜300重量倍である。洗浄時の温度は好ましくは−20〜150℃、更に好ましくは−10〜100℃である。
【0027】
また、本発明の製造方法により得られたフラーレン類は、通常はC60及びC70を主体とするフラーレン類の混合物であり、単一化合物を得ようとする場合には、本発明の製造方法により得られたフラーレン類をカラムクロマトグラフィー等の方法を用いて、それぞれのフラーレン種に分離することが出来る。
【0028】
次に、本発明のフラーレン類について説明する。
本発明のフラーレン類は、燃焼法により得られたフラーレン類であって、多環状芳香族炭化水素の含有量が1000ppm以下であることを特徴とする。この多環状芳香族炭化水素の含有量は、中でも800ppm以下、更には、300ppm以下、特に100ppm以下であることが好ましい。この様な多環状芳香族炭化水素の含有量が低くなるほど、フラーレン類の安全性が高まるばかりでなく、フラーレン類自体の性能も向上するので好ましい。また例えばフラーレンを様々な官能基により修飾を行う際に効果的に修飾体を得られ、そしてC60とC70から各々を単離する際に単離プロセスへの負荷が低減するなどの効果も期待できる。
【0029】
また本発明の、燃焼法により得られるフラーレン類においては、C60からC120等の各種有用フラーレン類を対象とするが、これらフラーレン類においても比較的構成炭素数の少ないもの、具体的にはC60〜C84、中でもC60とC70の合計量が60重量%以上、中でも70重量%以上、特に80重量%以上であることが好ましい。
更に本発明の、燃焼法により得られるフラーレン類においては、フラーレン類に占めるC60の割合が高い方が好ましく、中でも60重量%、更には70重量%以上、特に80重量%以上であることが好ましい。
【0030】
このC60とC70は、フラーレン類においても比較的安定なものであるので、コーティング、電池材料、断熱材、潤滑剤、化粧品等の用途など、産業上、極めて有用なものである。本発明の、燃焼法により得られるフラーレン類においては、これらのフラーレン類の含有量が高いことは、これらフラーレン類の性能を効果的に発揮させることが出来るので好ましい。
本発明の、燃焼法により得られるフラーレン類の製造方法としては、例えば、燃焼法によって得られた煤状物質を、少なくとも、先述した工程(A)及び(B)を経ることで、効率的に且つ、高収率で、多環状芳香族炭化水素の含有率を極めて低く抑えた、本発明のフラーレン類を製造することが出来るので好ましい。各工程においては、先述した様に、各工程に於ける好ましい条件下で処理を行うことが好ましい。
【0031】
【実施例】
次に、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
(参考例)
燃焼法で製造した煤状物質/50.8g、1,2,4−トリメチルベンゼン(TMB)/446gを室温で1L三角フラスコで混合し、超音波洗浄機に30分浸し、マグネチックスターラーで30分攪拌後、再び、超音波洗浄機に30分浸した。上記スラリーを、ADVANTEC社製 直径142mm、PTFE製、0.5μmのメンブランフィルターを用い、同社製、加圧濾過装置を用い、窒素にて圧力2kgGで加圧濾過した。その、濾液をBuich社製エバポレーターを用いて、90℃、20Torrで濃縮・晶析・乾固して、固形分4.81g(Blank)を得た。
【0032】
(実施例1)
燃焼法で製造した煤状物質/75gとTMB/1500ccを室温で2L三角フラスコで混合し、超音波洗浄機に30分浸した。上記スラリーを、ADVANTEC社製 直径142mm、PTFE製、0.5μmのメンブランフィルターを用い、同社製、加圧濾過装置を用い、窒素にて圧力2kgGで加圧濾過した。その濾液のうち、118gを30gまでBuich社製エバポレーターを用いて、90℃、20Torrで濃縮した。上記液を500ccセパラブルフラスコに入れ、回転翼にて攪拌した。50℃に昇温した後、温度を保ちながらTHF125gをポンプで60分かけて添加した。添加後10分間保持した。溶液はスラリー状態になっていた。このスラリーを、ADVANTEC社製 直径47mm、PTFE製、0.5μmのメンブランフィルターを用い減圧濾過し、濾過終了後、THF50ccをさらに振りかけ洗浄した。濾別した固形分を、減圧乾燥機を用い、100℃、5Torr以下の条件下で乾燥した。こうして得られたフラーレン類を「Sample1」とする。
【0033】
(実施例2)
燃焼法で製造した煤状物質/75gとTMB/1500ccを室温で2L
三角フラスコで混合し、超音波洗浄機に30分浸した。上記スラリーを、ADVANTEC社製 直径142mm、PTFE製、0.5μmのメンブランフィルターを用い、同社製、加圧濾過装置を用い、窒素にて圧力2kgGで加圧濾過した。その濾液のうち、130gを、Buich社製エバポレーターを用いて、90℃、20Torrで濃縮・析出乾燥した。この固形物とTHF156gを200cc三角フラスコに入れ、50℃で70分間マグネチックスターラーで攪拌した。溶液はスラリー状態になっていた。このスラリーを、ADVANTEC社製直径47mm、PTFE製、0.5μmのメンブランフィルターを用い減圧濾過し、濾過終了後、THF30ccをさらに振りかけ洗浄した。濾別した固形分を、減圧乾燥機を用い、100℃、5Torr以下の条件下で乾燥した。こうして得られたフラーレン類を「Sample2」とする。
なお、フラーレン類の分析は、液体クロマトグラフィーを用い、多環状芳香族炭化水素の分析は、ガスクロマトグラフィーを用いて実施した。
【0034】
【表1】
【0035】
【発明の効果】
本発明においては、そのフラーレンの製造方法を用いることによって、特に燃焼法で製造した煤状物質に対し、特定の溶媒で抽出後、抽出液にそのまま、あるいは、抽出液を濃縮後、又は、抽出液を濃縮して固形物を析出したのち、フラーレン類に対し貧溶媒で多環状芳香族炭化水素に対し良溶媒である別の溶媒を加えて濾別することで、多環状芳香族炭化水素の含有量の少ない高純度のフラーレン類の製造ができる。
更に、本発明にカラムクロマト分離、分別再結晶などの従来からの方法を組み合わせることによって、単一フラーレンを従来になく、より効率的に、低コストで製造できる。
【発明の属する技術分野】
本発明は新しい炭素材料であるフラーレン類、中でもC60、C70、C76、C78、C82、C84の分子構造を有するフラーレン類の製造方法及びフラーレン類に関する。
【0002】
【従来の技術】
1990年に炭素数60、70、84等の閉殻構造型のカーボンクラスター(球状の巨大分子)という新しいタイプの分子状炭素物質が合成され、注目されている。この特殊な分子構造を有するカーボンクラスターは、フラーレン類とも称され、その分子骨格を構成する炭素数によって、フラーレンC60、同C70、同C84などと呼ばれている(単に、C60、C70、C84等とも呼ばれる)。これらのフラーレン類は、新しい炭素材料であり、また特殊な分子構造から特異な物性を示すことが期待されるので、その性質及び用途開発についての研究が盛んに進められている。フラーレン類は例えば、ダイヤモンドコーティング、電池材料、塗料、断熱材、潤滑材、化粧品などの分野への利用が期待されている。
【0003】
フラーレン類の製造方法としては、(1)グラファイトなど炭素質材料から成る電極を原料としてこの電極間にアーク放電によって原料を蒸発させる方法(アーク放電法)、(2)炭素質原料に高電流を流して原料を蒸発させる方法(抵抗加熱法)、(3)高エネルギー密度のパルスレーザー照射によって炭素質原料を蒸発させる方法(レーザー蒸発法)、(4)ベンゼンなどの有機物を不完全燃焼させる方法(燃焼法)などが知られている。しかし、現状いずれの製造方法でも目的の単一フラーレン、あるいは有益なC60〜C84フラーレン類だけを製造することはできず、C60及びC70を主とする複数のフラーレンとその他多数の炭素化合物との混合物(この燃焼生成物は「煤」と呼ばれることがある)として生成する。煤中のフラーレン類の含有量は、効率的といわれるアーク放電法でも10〜30%程度で、C70:C60の生成比は約1:10である。したがって、高純度のフラーレンを得るためには煤からまずフラーレン類のみを分離する必要がある。
【0004】
燃焼生成物「煤」からのフラーレン類の分離方法として、(1)フラーレン類はベンゼン、トルエン、二硫化炭素等の有機溶媒に溶解し、その他の不純物成分は溶解しにくいという性質を利用して、このような有機溶媒を用いて煤からフラーレン類を抽出する方法(溶媒抽出法)、(2)高真空下で煤を加熱し、フラーレン類を昇華させる方法(昇華法)が知られている。このうち昇華法は、たとえば400℃以上の高温、圧力0.133Pa(10−3Torr)以下の高真空条件を必要とする特殊な分離方法であり、それに比べ溶媒抽出法は操作が容易なため広く用いられている。さらに抽出で得られたフラーレン類(主としてC60とC70の混合物)を含む溶液からの単一フラーレンの分離には、カラムクロマト分離、分別再結晶、フラーレンの包接化などの方法が適用されている。
【0005】
燃焼法によりフラーレンを製造する場合、例えば米国特許第5273729号で示されたように、制御された条件下でトルエン等の有機物を不完全燃焼させると、C60とC70を主とする複数のフラーレン類を含んだ煤状物質が生成することが知られている。(例えば特許文献1)。但し、この煤状物質中には、通常10〜30重量%程度のフラーレン類と、10ppm〜5重量%の多環状芳香族炭化水素が含まれている。また、残分はグラファイト構造を持つ炭素及びグラファイト構造を骨格として若干の水素原子を有する高分子の炭化水素やカーボンブラック等(以下、「炭素系高分子成分」と称することがある)である。
【0006】
フラーレン類と多環状芳香族炭化水素の溶媒への溶解度を比較すると、通常10倍以上多環状芳香族炭化水素の溶解度が高い。その為、煤状物質から溶媒で抽出すると、フラーレン類のみを選択的に抽出することは困難で、煤状物質中の多環状芳香族炭化水素もほとんど抽出液側へ同時に抽出される。その為、抽出後の液を、濃縮・乾燥もしくは、濃縮して析出した固形分を濾別して乾燥して得られた固体中は、通常0.01〜10%程度多環状芳香族炭化水素を含んだフラーレン類を得ることになる。
【0007】
ベンゾピレンに代表される多環状芳香族炭化水素は、組成的に炭化水素の中でも水素原子の割合が少なくフラーレン類と類似している。従って、フラーレン類に混在している場合にはフラーレンの反応性を阻害したり、フラーレンの固有の性質を遮蔽したりする可能性もある。また、安全上からもこれら多環状芳香族炭化水素は極力減少させる必要があると考えられている。
【特許文献1】
米国特許第5273729号
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は係る事情に鑑みてなされたもので、フラーレン類、多環状芳香族炭化水素及び炭素系高分子成分を含有する煤状物質から高純度かつ効率よくフラーレン類を製造できるフラーレン類の製造方法、及び経済性に優れた燃焼法により得られるフラーレン類において、多環状芳香族炭化水素の含有量を極めて低く抑えたフラーレン類を提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上述したような事情に鑑みて鋭意検討した。その結果、フラーレン類に溶解性の高い特定の溶媒である抽出溶媒と、フラーレン類に溶解性が低く多環状芳香族炭化水素に溶解度の高い特定の溶媒を組み合わせて用いることにより、フラーレン類、多環状芳香族炭化水素及び炭素系高分子成分を含む煤状物質中から、とりわけ燃焼法により得られた煤状物質中から高濃度で、そて多環状芳香族炭化水素の含有量を極めて低くしてフラーレン類を分離することが可能であることを見出し本発明に到達した。
【0010】
即ち、本発明の要旨は、(工程A)フラーレン類、多環状芳香族炭化水素、及び炭素系高分子成分を含有する煤状物質を、芳香族炭化水素を含む抽出溶媒と混合し、フラーレン類と多環状芳香族炭化水素を溶解した抽出液を得る工程と、(工程B)前記抽出液に、抽出溶媒よりもフラーレン類の溶解度が低い溶媒を加え、フラーレン類を析出させる工程を有することを特徴とするフラーレン類の製造方法に存する。また本発明のいま一つの要旨は、燃焼法により得られるフラーレン類組成物であって、多環状芳香族炭化水素含有量が1000ppm以下であるフラーレン類に存する。
【0011】
【発明の実施の形態】
まず、本発明のフラーレン類の製造方法について説明する。
本発明の用いられる煤状物質は、フラーレン類、多環状芳香族炭化水素及び炭素系高分子成分を含有していれば、いかなる方法によって得られたものであっても良い。フラーレンを大量に生産するには、炭化水素を原料として不完全燃焼させる燃焼法によるもの、または高熱下に炭化水素原料を分解させる熱分解法によるものが好ましく、なかでも燃焼法が好ましい。
【0012】
燃焼法によりフラーレンを製造する場合、圧力条件として1330 〜13300Pa(10〜100Torr)が好ましく、3990〜6650Pa(30〜50Torr)が更に好ましい。温度条件としては800〜2500℃が好ましく、1000〜2000℃が更に好ましい。
フラーレンの原料としては、ベンゼン、トルエン、キシレン、ナフタレン、メチルナフタレン、アントラセン、フェナントレン等の炭素数6〜15の芳香族炭化水素が好適に用いられる。また、原料としては、これらの芳香族炭化水素に併用してヘキサン、ヘプタン、オクタン等の脂肪族炭化水素を用いても良い。
【0013】
燃焼法においては、フラーレンの原料は、同時に熱源としても作用する。即ち、原料炭化水素は酸素と反応して発熱してフラーレンの生成が可能となる温度に上昇させるとともに、原料炭化水素が脱水素されることにより、フラーレン骨格を形成するための炭素ユニットを生成するものと考えられている。炭素ユニットは一定の圧力、温度条件で集合してフラーレン類を形成する。
【0014】
酸素の使用量としては、原料炭化水素の種類によっても若干異なるが、例えば原料炭化水素としてトルエンを用いた場合には、トルエンに対して0.5〜9倍モルが好ましく、1〜5倍モルが更に好ましい。
燃焼法における反応系には、酸素以外に、フラーレンに対して不活性な気体を存在させていても良い。これら不活性気体としては例えば、ヘリウム、ネオン、アルゴン、窒素、二酸化炭素等が挙げられる。
【0015】
燃焼法により得られた煤状物質中には、フラーレン類及び多環状芳香族炭化水素及びが含まれ、それ以外の残部は通常グラファイト構造を持つ炭素グラファイト構造を骨格として若干の水素原子を有する高分子の炭化水素やカーボンブラック等の炭素系高分子成分である。
煤状物質には、フラーレン類が5重量%以上含まれていることが好ましく、10%以上含まれていることが更に好ましく、15%以上含まれていることが特に好ましい。
また、本発明により製造されるフラーレン類は、フラーレン構造を有していれば炭素数に制限はないが、通常は炭素数60〜84のフラーレンであり、中でもC60とC70の割合が全フラーレン中好ましくは50%以上であり、更に好ましくは70%以上であり、特に好ましくは80%以上である。
【0016】
(工程A)
本発明の製造方法においては、まず、フラーレン類、多環状芳香族炭化水素及び炭素系高分子成分を含有する煤状物質を、芳香族炭化水素を含む抽出溶媒と混合し、フラーレン類と多環状芳香族炭化水素を溶解した抽出液を得る工程Aを実施する。炭素系高分子成分は抽出溶媒に実質的に溶解しない。
抽出溶媒に用いられる芳香族炭化水素としては、分子内に少なくとも1つのベンゼン核を有する炭化水素化合物であり、具体的にはベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、n−プロピルベンゼン、イソプロピルベンゼン、n−ブチルベンゼン、sec−ブチルベンゼン、tert−ブチルベンゼン、1,2,3−トリメチルベンゼン、1,2,4−トリメチルベンゼン、1,3,5−トリメチルベンゼン、1,2,3,4−テトラメチルベンゼン、1,2,3,5−テトラメチルベンゼン、ジエチルベンゼン、シメン等のアルキルベンゼン類、1−メチルナフタレン等のアルキルナフタレン類、テトラリン等が挙げられる。これらの内1,2,4−トリメチルベンゼン及びテトラリンが好ましい。
【0017】
抽出溶媒には、芳香族炭化水素の他に、更に脂肪族炭化水素や塩素化炭化水素等の有機溶媒を、単独又はこれらのうち2種以上を任意の割合で用いてもよい。脂肪族炭化水素としては、環式、非環式等、任意の脂肪族炭化水素が使用できる。環式脂肪族炭化水素の例としては、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタンなどの単環式脂肪族炭化水素、その誘導体であるメチルシクロペンタン、エチルシクロペンタン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、1,2−ジメチルシクロヘキサン、1,3−ジメチルシクロヘキサン、1,4−ジメチルシクロヘキサン、イソプロピルシクロヘキサン、n−プロ
ピルシクロヘキサン、t−ブチルシクロヘキサン、n−ブチルシクロヘキサン、イソブチルシクロヘキサン、1,2,4−トリメチルシクロヘキサン,1,3,5−トリメチルシクロヘキサン、多環式としてデカリンなどが挙げられる。非環式脂肪族炭化水素の例としては、n−ペンタン、n−ヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタン、イソオクタン、n−ノナン、n−デカン、n−ドデカン、n−テトラデカンなどが挙げられる。
【0018】
塩素化炭化水素としては、ジクロロメタン、クロロフォルム、四塩化炭素、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン、1,2−ジクロロエタン、1,1,2,2−テトラクロロエタン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、1−クロロナフタレンなどが挙げられる。
その他、炭素数6以上のケトン、炭素数6以上のエステル類、炭素数6以上のエーテル類、二硫化炭素等が挙げられる。
【0019】
抽出溶媒としてはフラーレンの溶解度が低すぎると、抽出効率が低下するので、フラーレンの溶解度としては好ましくは5g/L以上、更に好ましくは10g/L以上、特に好ましくは15g/L以上である。また、工業的観点から、これらの抽出溶媒の中でも常温液体で沸点が100〜300℃、中でも120〜250℃のものが好適である。
【0020】
抽出溶媒は、フラーレン類を十分に抽出できるだけの量を用いる必要がある。通常、煤状物質中のフラーレン類の量に対し、5〜400重量倍量、経済性を考えると、40〜200重量倍量程度使用するのが好ましい。抽出は、バッチ式、セミ連続式、連続式、又はそれらの組み合わせ等、形式、装置は特に限定されない。
なお、煤状物質には通常5〜30重量%のフラーレン類が含まれているが、抽出効率の観点から、フラーレン類に対して用いる抽出溶媒の量を上記範囲とするのが好ましいことから、抽出操作に先立って、煤状物質の一部を分析して、煤状物質中のフラーレン含有量を測定しておくのが好ましい。
【0021】
抽出後、スラリーから未溶解物を濾別する。濾別は、減圧濾過、加圧濾過、重力濾過、フィルター濾過、又はそれらの組み合わせ等、方法、装置は特に限定されない。中で、加圧濾過が好ましい。
抽出装置としては撹拌混合槽が好適に使用できる。抽出の際、容器内の圧力は特に制限はなく、常圧で実施すればよい。抽出時の温度としては通常−10〜150℃であり、好ましくは5〜80℃であり、更に好ましくは30〜50℃である。これら範囲であれば抽出効率向上の面から好ましいが、抽出効率は温度依存性が小さいのでエネルギーコスト的に常温程度で行うのが有利である。
抽出工程においては、更に必要に応じて、抽出液に超音波等を照射しながら抽出を行うと、抽出時間が短くなるので好ましい。
こうして得られた抽出液には、フラーレン類及び多環状芳香族炭化水素が溶解している。
【0022】
(工程B)
次に、上記工程Aに続いて、抽出液に、抽出溶媒よりフラーレン類の溶解度が低い溶媒を加え、フラーレン類を析出させる工程Bを行う。
抽出溶媒よりフラーレン類の溶解度が低い溶媒(以下、貧溶媒と称することがある)とは、具体的には メタノール、エタノール、プロパノール、エチレングリコール、グリセリン、等の炭素数1〜4のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン等の炭素数3〜5のケトン類、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、ジオキサン等の炭素数2〜5のエーテル類、N,N−ジメチルホルムアミド等の炭素数3〜5のアミド類及びこれらを含む混合溶媒が挙げられる。これらの内、アルコール類が好ましく、なかでも2−プロパノール(イソプロピルアルコール)が特に好ましい。
【0023】
これら貧溶媒のフラーレンC60の溶解度としては、1g/L以下であることが好ましく、100mg/L以下であることが更に好ましく、50mg/L以下であることが特に好ましい。
貧溶媒の使用量としては、抽出溶媒の量に対し、0.1〜50重量倍量、望ましくは、1〜30重量倍量程度である。量が少ないと、フラーレン類の析出量が少なくなり、回収できるフラーレン類が減少する。多すぎると、釜の容量が大きくなり経済的にロスが発生する。貧溶媒を混合する温度としては、通常−20〜150℃であり、好ましくは−10〜100℃であり、更に好ましくは10〜80℃であり、特に好ましくは30〜60℃である。
貧溶媒を混合することにより析出したフラーレンは、濾過により回収することができる。
【0024】
(工程C)
本発明の製造方法では、上記工程Aと工程Bとの間に抽出液を濃縮する工程Cを有することが好ましい。
工程Cにおいては抽出液の濃縮が行われるが、具体的には減圧による留去、加熱による蒸発及びこれらの組み合わせを用いることができる。濃縮条件としては圧力が好ましくは0.05kPa〜60kPaであり、更に好ましくは0.1kPa〜12kPAであり、温度が好ましくは、−10〜200℃、更に好ましくは10〜150℃である。
【0025】
濃縮の程度によって、抽出液中のフラーレン類が析出することがあってもかまわない。極端に濃縮しすぎるとフラーレンに不純物が同伴することがあるので、濃縮後の抽出液の量としては、抽出液中のフラーレン類に対して好ましくは5重量倍〜300重量倍であり、更に好ましくは10重量倍〜200重量倍である。濃縮によって、フラーレンが析出した場合には、析出したフラーレンを濾過により回収することができる。またフラーレンを濾別した後の抽出液は、貧溶媒を加えることによって更にフラーレン類を析出させることができる。
但し、好ましい実施態様としては、多環状芳香族炭化水素の同伴を避けるため、濃縮によってフラーレンが殆ど析出しないか、析出量として回収すべきフラーレン全体量の5重量%以下となるように濃縮の程度を調整し、引き続いて貧溶媒を加えてさらにフラーレン類を析出させるものである。
【0026】
(工程D)
上記工程B及び工程Cにより回収されたフラーレン類は、不純物を除くために上述の貧溶媒を用いて洗浄することが好ましい。洗浄に用いる溶媒の量は、好ましくは固体の量に対して1〜1000重量倍、更に好ましくは3〜300重量倍である。洗浄時の温度は好ましくは−20〜150℃、更に好ましくは−10〜100℃である。
【0027】
また、本発明の製造方法により得られたフラーレン類は、通常はC60及びC70を主体とするフラーレン類の混合物であり、単一化合物を得ようとする場合には、本発明の製造方法により得られたフラーレン類をカラムクロマトグラフィー等の方法を用いて、それぞれのフラーレン種に分離することが出来る。
【0028】
次に、本発明のフラーレン類について説明する。
本発明のフラーレン類は、燃焼法により得られたフラーレン類であって、多環状芳香族炭化水素の含有量が1000ppm以下であることを特徴とする。この多環状芳香族炭化水素の含有量は、中でも800ppm以下、更には、300ppm以下、特に100ppm以下であることが好ましい。この様な多環状芳香族炭化水素の含有量が低くなるほど、フラーレン類の安全性が高まるばかりでなく、フラーレン類自体の性能も向上するので好ましい。また例えばフラーレンを様々な官能基により修飾を行う際に効果的に修飾体を得られ、そしてC60とC70から各々を単離する際に単離プロセスへの負荷が低減するなどの効果も期待できる。
【0029】
また本発明の、燃焼法により得られるフラーレン類においては、C60からC120等の各種有用フラーレン類を対象とするが、これらフラーレン類においても比較的構成炭素数の少ないもの、具体的にはC60〜C84、中でもC60とC70の合計量が60重量%以上、中でも70重量%以上、特に80重量%以上であることが好ましい。
更に本発明の、燃焼法により得られるフラーレン類においては、フラーレン類に占めるC60の割合が高い方が好ましく、中でも60重量%、更には70重量%以上、特に80重量%以上であることが好ましい。
【0030】
このC60とC70は、フラーレン類においても比較的安定なものであるので、コーティング、電池材料、断熱材、潤滑剤、化粧品等の用途など、産業上、極めて有用なものである。本発明の、燃焼法により得られるフラーレン類においては、これらのフラーレン類の含有量が高いことは、これらフラーレン類の性能を効果的に発揮させることが出来るので好ましい。
本発明の、燃焼法により得られるフラーレン類の製造方法としては、例えば、燃焼法によって得られた煤状物質を、少なくとも、先述した工程(A)及び(B)を経ることで、効率的に且つ、高収率で、多環状芳香族炭化水素の含有率を極めて低く抑えた、本発明のフラーレン類を製造することが出来るので好ましい。各工程においては、先述した様に、各工程に於ける好ましい条件下で処理を行うことが好ましい。
【0031】
【実施例】
次に、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
(参考例)
燃焼法で製造した煤状物質/50.8g、1,2,4−トリメチルベンゼン(TMB)/446gを室温で1L三角フラスコで混合し、超音波洗浄機に30分浸し、マグネチックスターラーで30分攪拌後、再び、超音波洗浄機に30分浸した。上記スラリーを、ADVANTEC社製 直径142mm、PTFE製、0.5μmのメンブランフィルターを用い、同社製、加圧濾過装置を用い、窒素にて圧力2kgGで加圧濾過した。その、濾液をBuich社製エバポレーターを用いて、90℃、20Torrで濃縮・晶析・乾固して、固形分4.81g(Blank)を得た。
【0032】
(実施例1)
燃焼法で製造した煤状物質/75gとTMB/1500ccを室温で2L三角フラスコで混合し、超音波洗浄機に30分浸した。上記スラリーを、ADVANTEC社製 直径142mm、PTFE製、0.5μmのメンブランフィルターを用い、同社製、加圧濾過装置を用い、窒素にて圧力2kgGで加圧濾過した。その濾液のうち、118gを30gまでBuich社製エバポレーターを用いて、90℃、20Torrで濃縮した。上記液を500ccセパラブルフラスコに入れ、回転翼にて攪拌した。50℃に昇温した後、温度を保ちながらTHF125gをポンプで60分かけて添加した。添加後10分間保持した。溶液はスラリー状態になっていた。このスラリーを、ADVANTEC社製 直径47mm、PTFE製、0.5μmのメンブランフィルターを用い減圧濾過し、濾過終了後、THF50ccをさらに振りかけ洗浄した。濾別した固形分を、減圧乾燥機を用い、100℃、5Torr以下の条件下で乾燥した。こうして得られたフラーレン類を「Sample1」とする。
【0033】
(実施例2)
燃焼法で製造した煤状物質/75gとTMB/1500ccを室温で2L
三角フラスコで混合し、超音波洗浄機に30分浸した。上記スラリーを、ADVANTEC社製 直径142mm、PTFE製、0.5μmのメンブランフィルターを用い、同社製、加圧濾過装置を用い、窒素にて圧力2kgGで加圧濾過した。その濾液のうち、130gを、Buich社製エバポレーターを用いて、90℃、20Torrで濃縮・析出乾燥した。この固形物とTHF156gを200cc三角フラスコに入れ、50℃で70分間マグネチックスターラーで攪拌した。溶液はスラリー状態になっていた。このスラリーを、ADVANTEC社製直径47mm、PTFE製、0.5μmのメンブランフィルターを用い減圧濾過し、濾過終了後、THF30ccをさらに振りかけ洗浄した。濾別した固形分を、減圧乾燥機を用い、100℃、5Torr以下の条件下で乾燥した。こうして得られたフラーレン類を「Sample2」とする。
なお、フラーレン類の分析は、液体クロマトグラフィーを用い、多環状芳香族炭化水素の分析は、ガスクロマトグラフィーを用いて実施した。
【0034】
【表1】
【0035】
【発明の効果】
本発明においては、そのフラーレンの製造方法を用いることによって、特に燃焼法で製造した煤状物質に対し、特定の溶媒で抽出後、抽出液にそのまま、あるいは、抽出液を濃縮後、又は、抽出液を濃縮して固形物を析出したのち、フラーレン類に対し貧溶媒で多環状芳香族炭化水素に対し良溶媒である別の溶媒を加えて濾別することで、多環状芳香族炭化水素の含有量の少ない高純度のフラーレン類の製造ができる。
更に、本発明にカラムクロマト分離、分別再結晶などの従来からの方法を組み合わせることによって、単一フラーレンを従来になく、より効率的に、低コストで製造できる。
Claims (11)
- (工程A)フラーレン類、多環状芳香族炭化水素、及び炭素系高分子成分を含有する煤状物質を、芳香族炭化水素を含む抽出溶媒と混合し、フラーレン類と多環状芳香族炭化水素を溶解した抽出液を得る工程と、(工程B)前記抽出液に、抽出溶媒よりもフラーレン類の溶解度が低い溶媒を加え、フラーレン類を析出させる工程を有することを特徴とするフラーレン類の製造方法。
- 工程Aの後、且つ工程Bの前に、抽出液の濃縮を行う工程(工程C)を有する請求項1に記載のフラーレン類の製造方法。
- 抽出溶媒が、1,2,4−トリメチルベンゼン又はテトラリンを含む請求項1又は2に記載のフラーレン類の製造方法。
- 抽出溶媒よりフラーレン類の溶解度が低い溶媒が、アルコール類、ケトン類、エーテル類、アミド類を含む請求項1乃至3のいずれかに記載のフラーレン類の製造方法。
- 抽出溶媒を煤状物質中のフラーレン類の量に対し、5〜400重量倍量用いることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載のフラーレン類の製造方法。
- 抽出溶媒よりフラーレン類の溶解度が低い溶媒を、抽出溶媒に対し0.1〜50重量倍量用いることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載のフラーレン類の製造方法。
- フラーレン類がC60,C70,C76,C78,C82,C84のいずれか1又は2以上を主体とすることを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載のフラーレン類の製造方法。
- フラーレン類中、C60及びC70の合計量が70重量%以上である請求項7に記載のフラーレン類の製造方法。
- フラーレン類、多環状芳香族炭化水素及び炭素系高分子成分を含有する煤状物質が、炭化水素化合物の燃焼及び/又は熱分解によって得られたものであることを特徴とする請求項1乃至8のいずれかに記載のフラーレン類の製造方法。
- 炭化水素化合物の燃焼及び/又は熱分解によって得られるフラーレン類であって、多環状芳香族炭化水素含有量が1000ppm以下であるフラーレン類。
- C60及びC70の合計量が70重量%以上であることを特徴とする請求項10に記載のフラーレン類。
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