JP3861779B2 - フラーレン類の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は新しい炭素材料であるフラーレン類、中でもC60、C70、C76、C78、C82、C84の分子構造を有するフラーレン類の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
1990年に炭素数60、70、84等の閉殻構造型のカーボンクラスター(球状の巨大分子)という新しいタイプの分子状炭素物質が合成され、注目されている。この特殊な分子構造を有するカーボンクラスターは、フラーレン類とも称され、その分子骨格を構成する炭素数によって、フラーレンC60、同C70、同C84などと呼ばれている(単に、C60、C70、C84等とも呼ばれる)。これらのフラーレン類は、新しい炭素材料であり、また特殊な分子構造から特異な物性を示すことが期待されるので、その性質及び用途開発についての研究が盛んに進められている。フラーレン類は例えば、ダイヤモンドコーティング、電池材料、塗料、断熱材、潤滑材、化粧品などの分野への利用が期待されている。
【0003】
フラーレン類の製造方法としては、(1)グラファイトなど炭素質材料から成る電極を原料としてこの電極間にアーク放電によって原料を蒸発させる方法(アーク放電法)、(2)炭素質原料に高電流を流して原料を蒸発させる方法(抵抗加熱法)、(3)高エネルギー密度のパルスレーザー照射によって炭素質原料を蒸発させる方法(レーザー蒸発法)、(4)ベンゼンなどの有機物を不完全燃焼させる方法(燃焼法)、(5)ベンゼンなどの有機物を熱分解させる方法(熱分解法)などが知られている。
【0004】
このうち、燃焼法と熱分解法は、大量にフラーレンを精製することができるという点で有用である。
燃焼法によりフラーレンを製造する場合、例えば米国特許第5273729号で示されたように、制御された条件下でトルエン等の有機物を不完全燃焼させると、C60とC70を主とする複数のフラーレン類を含んだ煤状物質が生成するが、典型的には煤状物質中には、通常10〜30重量%程度のフラーレン類と、10ppm〜5重量%の多環状芳香族炭化水素が含まれている。また、残分はグラファイト構造を持つ炭素及びグラファイト構造を骨格として若干の水素原子を有する高分子の炭化水素やカーボンブラック等(以下、「炭素系高分子成分」と称することがある)である。
【0005】
煤状物質に混入するベンゾピレンに代表される多環状芳香族炭化水素は、組成的に炭化水素の中でも水素原子の割合が少なくフラーレン類と類似している。従って、フラーレン類に混在している場合にはフラーレンの反応性を阻害したり、フラーレンの固有の性質を遮蔽したりする可能性もある。また、安全上からもこれら多環状芳香族炭化水素は極力減少させる必要があると考えられている。
フラーレン類を単離する方法としては、特定の充填材を用いたカラムによる分離(例えば、特許文献1、2参照)等が知られているが、これらの技術は大量のフラーレンを製造するには適用が困難であり、また、多環状芳香族炭化水素を効率よく分離することについては何ら示されていない。
【0006】
【特許文献1】
特開平6−32151号公報
【特許文献2】
米国特許第5662876号公報
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、フラーレン類、多環状芳香族炭化水素及び炭素系高分子成分の混合物から、生産性良く且つ純度の高いフラーレン類を分離することができるフラーレン類の製造方法を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上述したような事情に鑑みて鋭意検討した。その結果、フラーレン類の溶解性の高い特定の溶媒である抽出溶媒と、フラーレン類の溶解性が低く多環状芳香族炭化水素の溶解度の高い特定の溶媒を組み合わせて用いることにより、フラーレン類及び多環状芳香族炭化水素の混合物から高濃度でフラーレン類を分離する方法を見いだした。
【0009】
即ち本発明の要旨は、(工程A)フラーレン類、多環状芳香族炭化水素及び炭素系高分子成分の混合物を、芳香族炭化水素を含む抽出溶媒(溶媒A)と混合し、フラーレン類と多環状芳香族炭化水素を溶解した抽出液を得る工程と、(工程B)前記抽出液に、溶媒Aと二液相を形成しかつフラーレン類より多環状芳香族炭化水素の溶解度が大きい溶媒(溶媒B)を混合し、多環状芳香族炭化水素を溶媒B側に抽出する工程、を有し、溶媒Bが炭素数4以下のスルホキシド系溶媒又は炭素数4以下のアミド系溶媒を含むことを特徴とするフラーレン類の製造方法に存する。
【0010】
【発明の実施の形態】
本発明に用いられるフラーレン類、多環状芳香族炭化水素及び炭素系高分子成分の混合物を得る方法は特に限定されないが、好ましくは炭化水素化合物原料を不完全燃焼させる燃焼法、または高熱下に炭化水素化合物原料を分解させる熱分解法によって得られるものである。中でも燃焼法によるものが好ましい。
【0011】
燃焼法によりフラーレン類を製造する場合、圧力条件としては1330〜13300Pa(10〜100Torr)が好ましく、3990〜6650Pa(30〜50Torr)が更に好ましい。温度条件としては800〜2500℃が好ましく、1000〜2000℃が更に好しい。
フラーレンの原料としては、ベンゼン、トルエン、キシレン、ナフタレン、メチルナフタレン、アントラセン、フェナントレン等の炭素数6〜20の芳香族炭化水素が好適に用いられる。また、原料としては、これらの芳香族炭化水素に併用してヘキサン、ヘプタン、オクタン等の脂肪族炭化水素を用いても良い。
【0012】
燃焼法においては、フラーレンの原料は、同時に熱源としても作用する。即ち、原料炭化水素は酸素と反応して発熱してフラーレンの生成が可能となる温度に上昇させるとともに、原料炭化水素が脱水素されることにより、フラーレン骨格を形成するための炭素ユニットを生成するものと考えられている。炭素ユニットは一定の圧力、温度条件で集合してフラーレン類を形成する。
【0013】
酸素の使用量としては、原料炭化水素の種類によっても若干異なるが、例えば原料炭化水素としてトルエンを用いた場合には、トルエンに対して0.5〜9倍モルが好ましく、1〜5倍モルが更に好ましい。
燃焼法における反応系には、酸素以外に、フラーレンに対して不活性な気体を存在させていても良い。これら不活性気体としては例えば、ヘリウム、ネオン、アルゴン、窒素、二酸化炭素等が挙げられる。
【0014】
燃焼法により得られた煤状物質中には、フラーレン類及び多環状芳香族炭化水素及びが含まれ、それ以外の残部は通常グラファイト構造を骨格として若干の水素原子を有する高分子の炭化水素やカーボンブラック等の炭素系高分子成分である。
煤状物質には、フラーレン類が5重量%以上含まれていることが好ましく、10%以上含まれていることが更に好ましく、15%以上含まれていることが特に好ましい。
また、本発明により製造されるフラーレン類は、フラーレン構造を有していれば炭素数に制限はないが、通常は炭素数60〜84のフラーレンであり、中でもC60とC70の割合が全フラーレン中好ましくは50%以上であり、更に好ましくは70%以上であり、特に好ましくは80%以上である。
【0015】
次に、フラーレン類、多環状芳香族炭化水素及び炭素系高分子成分の混合物を工程A及び工程Bに付すことによりフラーレンが単離される。
(工程A)
まず、芳香族炭化水素を含む抽出溶媒(溶媒A)と混合し、フラーレン類と多環状芳香族炭化水素を溶解した抽出液を得る。
溶媒Aとして用いられる芳香族炭化水素としては、分子内に少なくとも1つのベンゼン核を有する炭化水素化合物が好ましく、具体的にはベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、n−プロピルベンゼン、イソプロピルベンゼン、n−ブチルベンゼン、sec−ブチルベンゼン、tert−ブチルベンゼン、1,2,3−トリメチルベンゼン、1,2,4−トリメチルベンゼン、1,3,5−トリメチルベンゼン、1,2,3,4−テトラメチルベンゼン、1,2,3,5−テトラメチルベンゼン、ジエチルベンゼン、シメン等のアルキルベンゼン類、1−メチルナフタレン等のアルキルナフタレン類、テトラリン等が挙げられる。これらの内1,2,4−トリメチルベンゼン及びテトラリンが好ましい。
【0016】
溶媒Aには、芳香族炭化水素の他に、更に脂肪族炭化水素や塩素化炭化水素等の有機溶媒を、単独又はこれらのうち2種以上を任意の割合で用いてもよい。但し、後述の溶媒Bと二液相を形成することが必要であるので、芳香族炭化水素以外の溶媒を併用する場合には、二液層を形成するように適宜選択する。
脂肪族炭化水素としては、環式、非環式等、任意の脂肪族炭化水素が使用できる。環式脂肪族炭化水素の例としては、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタンなどの単環式脂肪族炭化水素、その誘導体であるメチルシクロペンタン、エチルシクロペンタン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、1,2−ジメチルシクロヘキサン、1,3−ジメチルシクロヘキサン、1,4−ジメチルシクロヘキサン、イソプロピルシクロヘキサン、n−プロピルシクロヘキサン、t−ブチルシクロヘキサン、n−ブチルシクロヘキサン、イソブチルシクロヘキサン、1,2,4−トリメチルシクロヘキサン,1,3,5−トリメチルシクロヘキサン、多環式としてデカリンなどが挙げられる。非環式脂肪族炭化水素の例としては、n−ペンタン、n−ヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタン、イソオクタン、n−ノナン、n−デカン、n−ドデカン、n−テトラデカンなどが挙げられる。
【0017】
塩素化炭化水素としては、ジクロロメタン、クロロフォルム、四塩化炭素、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン、1,2−ジクロロエタン、1,1,2,2−テトラクロロエタン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、1−クロロナフタレンなどが挙げられる。
その他、炭素数6以上のケトン、炭素数6以上のエステル類、炭素数6以上のエーテル類、二硫化炭素等が挙げられる。
【0018】
工程Aにおいては、フラーレン類、多環状芳香族炭化水素及び炭素系高分子成分の混合物のうち、フラーレン類と多環状芳香族炭化水素が溶媒Aに溶解される。一方、炭素系高分子成分は溶媒Aには殆ど溶解しないので抽出液はスラリー状となる。
【0019】
溶媒Aはフラーレン類を十分に抽出できるだけの量を用いる必要がある。溶媒Aの用いられる量としては、通常、フラーレン類の量に対し、5〜400重量倍量、経済性を考えると、40〜200重量倍量程度使用する。抽出は、バッチ式・セミ連続式・連続式、又はそれらの組み合わせ等、形式・装置は特に限定されない。抽出後、スラリーから未溶解物を濾別する。濾別は、減圧濾過・加圧濾過・重力濾過・フィルター濾過、又はそれらの組み合わせ等、方法・装置は特に限定されない。
【0020】
(工程B)
次に、前記抽出液に、溶媒Aと二液相を形成しかつフラーレン類より多環状芳香族炭化水素の溶解度が大きい溶媒(溶媒B)を混合して、攪拌することにより、多環状芳香族化合物を溶媒B側に抽出する。
溶媒Bの多環状芳香族炭化水素の溶解度としては、好ましくは100g/L以上であり、更に好ましくは、300g/L以上である。また、溶媒Bのフラーレンの溶解度としては、好ましくは1g/L以下であり、更に好ましくは 0.5g/L以下である。
【0021】
溶媒Bとしては、具体的には例えば炭素数4以下のスルホキシド系溶媒、炭素数4以下のアミド系溶媒、炭素数4以下のエーテル系溶媒、炭素数4以下のアルコール系溶媒等の親水性有機溶媒が挙げられる。中でも、水に対する溶解度が20g/L以上または水と無限溶解する溶媒が好ましい。
特に好ましくはジメチルスルホキシドを含むものである。 また、これら溶媒は水と混合して用いることが好ましく、とりわけジメチルスルホキシドと水との混合溶媒が好ましい。
【0022】
溶媒Bの使用量としては、溶媒Aの量に対し、0.01〜10重量倍量、望ましくは、0.1〜1重量倍量程度である。親水性有機溶媒と水とを併用する場合において、その割合は、抽出液と二液相を形成するように適宜選択する。具体的には例えばジメチルスルホキシドと水との混合溶媒を用いる場合、ジメチルスルホキシドと水との割合(重量比)としては、1:1〜1:50が好ましく、1:10〜1:40が更に好ましい。
工程Bを実施する温度としては、−20〜100℃、望ましくは、−10〜50℃程度である。抽出操作は、バッチ式・連続式でも構わず、装置は特に限定しない。
【0023】
抽出液に溶媒Bを混合すると、2液相を形成し、多環状芳香族炭化水素の一部が溶媒B側へ抽出される。溶媒B側へのフラーレン類の溶解度は極めて小さいため、溶媒Aと溶媒Bを分離した後、溶媒Aを除去すると、多環状芳香族炭化水素の濃度が減少したフラーレン類を得ることができる。
【0024】
【実施例】
次に、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はその要旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
(参考例1)
燃焼法で製造した煤状物質(フラーレン類、多環状芳香族炭化水素及び炭素系高分子成分の混合物)6.0gと1,2,4−トリメチルベンゼン100mLを室温下200mLの三角フラスコで混合し、超音波洗浄機に30分浸し、マグネチックスターラーで30分攪拌後、再び、超音波洗浄機に30分浸した。上記抽出液(スラリー)を、ADVANTEC社製 直径142mm、PTFE製、0.5μmのメンブランフィルターを用い、同社製、加圧濾過装置を用い、窒素にて圧力2kgGで加圧濾過し、濾液を分析した。
【0025】
(実施例1)
参考例1と同様にして得られた濾液66.4gに室温下ジメチルスルホキシド50mLと水5mLを加え、200mLの分液ロート中で10分攪拌し、静置後、油層(1,2,4−トリメチルベンゼン相)と水層(ジメチルスルホキシドと水との混合相)に分液して分析した。
なお、多環状芳香族炭化水素の分析は、ガスクロマトグラフィーを用いて実施し、その量は上記参考例の抽出液中の多環状芳香族炭化水素の量を100パーセントとして面積%で計算した。
【0026】
(実施例2)
実施例1と同様の操作を行って得た油層に、再度、室温下ジメチルスルホキシド50mLと水5mLを加え、200mLの分液ロートで10分攪拌し、静置後、油層(1,2,4−トリメチルベンゼン相)と水層(ジメチルスルホキシドと水との混合相)に分液して分析した。
【0027】
【表1】
【0028】
表1に示した如く、溶媒B側へ多環状芳香族炭化水素を抽出することにより、フラーレン類中の多環状芳香族炭化水素の含有量を低減できる。また、溶媒Bによる抽出操作を繰り返し行うことにより、更に多環状芳香族炭化水素の含有量を低減することができる。
【0029】
【発明の効果】
本発明により、燃焼法で製造したフラーレン類であっても、簡便な操作により多環状芳香族炭化水素の含有量の少ない高純度のフラーレン類の製造する方法を提供することが出来る、
更に、カラムクロマト分離、分別再結晶などの従来からの方法を組み合わせることによって、単一フラーレンを従来になく、より効率的に、低コストで製造できることとなった。
Claims (8)
- (工程A)フラーレン類、多環状芳香族炭化水素及び炭素系高分子成分の混合物を、芳香族炭化水素を含む抽出溶媒(溶媒A)と混合し、フラーレン類と多環状芳香族炭化水素を溶解した抽出液を得る工程と、(工程B)前記抽出液に、溶媒Aと二液相を形成しかつフラーレン類より多環状芳香族炭化水素の溶解度が大きい溶媒(溶媒B)を混合し、多環状芳香族炭化水素を溶媒B側に抽出する工程、を有し、溶媒Bが炭素数4以下のスルホキシド系溶媒又は炭素数4以下のアミド系溶媒を含むことを特徴とするフラーレン類の製造方法。
- 溶媒Bが水との混合溶媒である請求項1に記載のフラーレン類の製造方法。
- 溶媒Bの使用量が、溶媒Aの量に対し、0.01〜10重量倍量であることを特徴とする請求項1又は2に記載のフラーレン類の製造方法。
- 溶媒Bが炭素数4以下のスルホキシド系溶媒を含む請求項1乃至3の何れかに記載のフラーレン類の製造方法。
- 溶媒Aが1,2,4−トリメチルベンゼン又はテトラリンを含む請求項1乃至4の何れかに記載のフラーレン類の製造方法。
- フラーレン類がC60,C70,C76,C78,C82,C84のいずれか1又は2以上を主体とすることを特徴とする請求項1乃至5の何れかに記載のフラーレン類の製造方法。
- フラーレン類、多環状芳香族炭化水素及び炭素系高分子成分の混合物が、炭化水素化合物の燃焼及び/又は熱分解によって得られたものであることを特徴とする請求項1乃至6の何れかに記載のフラーレン類の製造方法。
- (工程B)を連続的に又は繰り返し行うことを特徴とする請求項1乃至7の何れかに記載のフラーレン類の製造方法。
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