JP2003160318A - フラーレンの製造装置およびフラーレンの製造方法 - Google Patents

フラーレンの製造装置およびフラーレンの製造方法

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Abstract

(57)【要約】 【課題】 フラーレンの製造、及びフラーレンと他の煤
成分の分離を1つの装置内で連続的に行うことができ、
且つ大量のフラーレンを連続的に生産することが出来
る、フラーレンの製造装置およびこれを用いたフラーレ
ンの製造方法を提供する。 【解決手段】 炭素質原料から、フラーレン、多環状芳
香族化合物、及び炭素系高分子成分を含む煤状物質を含
有する気流を生成させるフラーレン生成装置と、煤状物
質を含有する気流から気体状態のフラーレン及び/又は
気体状態の多環状芳香族化合物を分離する分離装置とを
有するフラーレンの製造装置。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】 本発明は、新しい炭素材料
であるフラーレン、中でもC60、C70、C76、C
78、C82、C84の分子構造を有するフラーレンの
製造装置及び製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】 1990年に炭素数60、70、84
等の閉殻構造型のカーボンクラスター(球状の巨大分
子)という新しいタイプの分子状炭素物質が合成され、
注目されている。この特殊な分子構造を有するカーボン
クラスターはフラーレンとも称され、その分子骨格を構
成する炭素数によって、フラーレンC60、同C70
同C84などと呼ばれている(単に、C60、C70
84等とも呼ばれる)。これらフラーレン類(以下、
単に「フラーレン」と言う場合がある。)は新しい炭素
材料であり、また特殊な分子構造から特異な物性を示す
ことが期待されるので、その性質及び用途開発について
の研究が盛んに進められている。フラーレンは例えば、
ダイヤモンドコーティング、電池材料、塗料、断熱材、
潤滑材、医薬品、化粧品などの分野への利用が期待され
ている。具体的には例えば以下に示す(1)〜(4)の
分野において革新的な用途開発が急速に展開されつつあ
る。
【0003】(1)超硬材料への応用:フラーレンを前
駆体とすることで微細結晶粒子をもつ人工ダイヤモンド
の精製が可能なため、付加価値のある耐摩耗材料への利
用が期待されている。 (2)医薬品への応用:C60誘導体等を用いること
で、抗癌剤、エイズ、骨粗鬆症、アルツハイマー治療
薬、造影剤、及びステント材料等の用途としての研究が
進められている。 (3)超伝導材料への応用:フラーレン薄膜に金属カリ
ウムをドープすると、18Kという高い転移温度を持つ
超伝導材料をつくり出すことができることが発見され、
多方面から注目を集めている。 (4)半導体製造への応用:感光性樹脂(レジスト)に
60を混ぜることで、レジスト構造がより一層強化さ
れることを利用し、次世代半導体製造への応用が期待さ
れている。
【0004】フラーレンの製造方法としては、(1)グ
ラファイトなど炭素質材料から成る電極を原料とし、こ
の電極間にアーク放電を生じさせることで原料を蒸発さ
せる方法(アーク放電法)、(2)炭素質原料に高電流
を流して原料を蒸発させる方法(抵抗加熱法)、(3)
高エネルギー密度のパルスレーザー照射によって、炭素
質原料を蒸発させる方法(レーザー蒸発法)、及び
(4)ベンゼンなどの有機物を不完全燃焼させる方法
(燃焼法)などが知られている。
【0005】しかし、現状いずれの製造方法でも目的の
単一フラーレン、あるいは有益なC 60〜C84等のフ
ラーレンだけを製造することはできず、C60及びC
70を主とする複数のフラーレンと、その他多数の炭素
化合物との混合物(この燃焼生成物は「煤状物質」と呼
ばれることがある)を生成してしまう。この煤状物質中
におけるフラーレンの含有量は、効率的といわれるアー
ク放電法でも10〜30%程度である為、高純度のフラ
ーレンを得るには、煤状物質からフラーレンを分離する
必要がある。
【0006】煤状物質からのフラーレンの分離方法とし
ては、例えば溶媒抽出法が知られている。これはフラー
レンがベンゼン、トルエン、二硫化炭素等の有機溶媒に
溶解するのに対し、その他の煤状物質の多くを占める、
いわゆる「煤」である炭素系高分子成分はグラファイト
やアモルファスカーボンに似て有機溶媒に溶解しにく
い、という性質を利用した方法である。また煤状物質か
らフラーレンを分離する別の方法としては、高真空下で
煤状物質を加熱し、フラーレンを昇華させる方法(昇華
法)が知られている。この昇華法は、たとえば400℃
以上の高温、0.133Pa(10−3Torr)以下
の高真空条件を必要とする特殊な分離方法であり、それ
に比べ溶媒抽出法は操作が容易なため広く用いられてい
る。さらに抽出で得られたフラーレンは、主としてC
60とC70のとを含む溶液であり、この溶液から単一
のフラーレンを分離するには、カラムクロマト分離、分
別再結晶等の他に、フラーレンを包接化する方法等が適
用されている。
【0007】その他、煤状物質からのフラーレン分離方
法としては、C60を含有する煤状物質を有機溶媒によ
り抽出して得られた、主としてC60を含む溶液を、活
性炭と接触処理した後、得られた処理液から、有機溶媒
を分離除去することにより、C60を精製する方法があ
る(例えば、特許文献1 参照。)。またフラーレンの
分離精製装置としては、加熱容器、トラップ、減圧装置
を含む、少量・バッチ式の分離精製装置が知られてい
る。具体的には、フラーレンを加熱して昇華させるため
の加熱容器と、該加熱容器に接続されており、昇華した
フラーレンを析出させるためのトラップと、加熱容器及
びトラップの内部を減圧吸引するための減圧装置とを少
なくとも備え、加熱容器、トラップ、減圧装置がこの順
序で配設されているものである(例えば、特許文献2
参照。)。
【0008】
【特許文献1】特開平5−85711号公報
【特許文献2】特開平9−227111号公報
【特許文献3】米国特許第5273729号明細書
【0009】
【発明が解決しようとする課題】しかしこれらの分離精
製方法は、いずれもバッチ式であり、少量の煤状物質を
対象とした精製技術である。故に、大量の煤状物質を精
製対象とする工業的規模でのフラーレン製造には不向き
である。またこの煤状物質には、カーボンブラックに代
表される様な、現在、工業的に価値の高い煤である炭素
系高分子成分等が大量に含まれている。よって大量の煤
状物質から、これら炭素系高分子成分をも有効に利用す
るためにも、炭素系高分子成分とフラーレンとを出来る
だけ効率良く分離できる、フラーレンの製造装置及び製
造方法の開発が望まれていた。
【0010】またフラーレンの製造方法においても、フ
ラーレンと共に生成する多環状芳香族化合物が問題とな
っていた。具体的には例えば、制御された温度・圧力条
件下でトルエン等の有機物を不完全燃焼させる方法(燃
焼法)によってフラーレンを製造する場合、C60とC
70を主とする複数のフラーレンを含んだ煤状物質が生
成するが、この煤状物質には、10ppm〜5重量%の
多環状芳香族化合物が含まれていることが知られている
(例えば、特許文献3 参照。)。
【0011】この多環状芳香族化合物は、ベンゾピレン
に代表される様に、芳香族化合物の中でも組成的に水素
原子の割合が少なく、フラーレン類と類似している。従
って、フラーレン類に混在している場合にはフラーレン
の反応性を阻害したり、フラーレンの固有の性質に影響
を与える可能性がある。また一般的にこれら多環状芳香
族化合物は毒物であり、安全性の面から、極力低減する
必要がある。
【0012】しかし、フラーレン類と多環状芳香族化合
物の溶媒への溶解度を比較すると、一般的に多環状芳香
族化合物の溶解度の方が10倍以上高い。その為、煤状
物質を溶媒で抽出すると、フラーレン類のみを選択的に
抽出することは困難で、煤状物質中の多環状芳香族化合
物をも、殆ど抽出液へ同時に抽出してしまう。その為、
この抽出液からフラーレンを固体として得るべく、例え
ば抽出液を濃縮・乾燥したり、抽出液を濃縮して析出し
た固形分を濾別し乾燥して(主としてフラーレンを含
む)固体を得たとしても、この固体中には、通常0.0
1〜10%程度の多環状芳香族化合物が含まれてしまう
という問題がある。本発明は前述した様な事情に鑑みて
なされたものであり、フラーレンの大量製造の際、生成
する大量の煤状物質からフラーレンを効率良く分離回収
する製造装置および製造方法を提供することを目的とす
る。
【0013】
【課題を解決するための手段】一般的に、煤状物質中に
大量の存在する炭素系高分子成分は、一度固体になると
容易に気体状態へ変化しないのに対し、フラーレンは4
00℃以上の温度領域で気体状態へ変化することが知ら
れている。
【0014】本発明者らは、フラーレンの昇華温度が4
00℃以上という比較的低温であることに着目した。そ
して特定のフラーレン製造方法、具体的には炭素質原料
を用いた燃焼法や熱分解法においては、気流中に浮遊し
た状態、つまり煤状物質含有気流として煤状物質が得ら
れ、且つこの気流は、通常、有る程度の高温である為に
フラーレンは気体状態で存在し、且つ炭素系高分子成分
は固体状態にあると考えた。
【0015】そして本発明者らが鋭意検討した結果、こ
の様な特定の方法により得られた煤状物質含有気流から
は、有機溶媒を用いずとも、フラーレンの製造過程で大
量に生ずる、いわゆる煤である炭素系高分子成分を含む
煤状物質から、フラーレンを気体状態で分離できること
を見出した。更に発明者らは、この煤状物質に含まれる
大変有害な多環状芳香族化合物をも、気体状態で分離可
能であることをも見出した。つまり、この多環状芳香族
化合物の昇華温度はフラーレンのそれよりも低いので、
燃焼法や熱分解法において得られた、フラーレン、多環
状芳香族化合物、及び炭素系高分子成分を含む煤状物質
含有気流を、まず多環状芳香族化合物が昇華する温度ま
で加熱して多環状芳香族化合物を気体状態で分離し、つ
いで更に煤状物質含有気流を加熱すること等で、フラー
レンを気体状態で分離出来ることを見出し、本発明を完
成させた。
【0016】即ち本発明の要旨は、炭素質原料から、フ
ラーレン、多環状芳香族化合物、及び炭素系高分子成分
を含む煤状物質を含有する気流を生成させるフラーレン
生成装置と、煤状物質を含有する気流から気体状態のフ
ラーレン及び/又は気体状態の多環状芳香族化合物を分
離する分離装置とを有するフラーレンの製造装置に存す
る。
【0017】また本発明の今ひとつの要旨は、以下の工
程(1)及び工程(2)を有するフラーレンの製造方法
に存する。 工程(1):炭化水素原料を不完全燃焼させるか、又は
炭化水素原料を熱分解することにより、フラーレン、多
環状芳香族化合物フラーレン、多環状芳香族炭化水素、
及び炭素系高分子成分を含む煤状物質含有気流を生成さ
せる工程。 工程(2):工程(1)で得られた、フラーレン、多環
状芳香族化合物、及び炭素系高分子成分を含む煤状物質
含有気流から、フラーレン及び/又は多環状芳香族化合
物を気体状態で分離する工程。
【0018】
【発明の実施の形態】先ず、フラーレンの製造装置につ
いて説明する。
【0019】図1はフラーレン生成装置において燃焼法
を用いた場合の、本発明に係るフラーレン製造装置の一
例の全体概略図である。本発明に係るフラーレン製造装
置は、フラーレン生成装置1、フラーレンとその他の成
分、具体的には多環状芳香族化合物や炭素系高分子成分
とを分離する分離装置3を有する。好ましくは更に、フ
ラーレンを析出させる析出装置5、及び減圧装置4を有
する。フラーレンの生成に燃焼法を用いる場合、フラー
レン生成装置1は、ヘリウム等の不活性ガスを充満さ
せ、内部の圧力を大気圧に対して減圧条件、好ましくは
真空に近い状態とした生成装置1である。該装置の側面
に導入管(図示せず)から導入されたベンゼン等のフラ
ーレン原料炭化水素を酸素と共にフラーレン生成装置1
内に導入する。またフラーレン生成装置1内には、原料
炭化水素を不完全燃焼を起こさせるためのバーナー2を
少なくとも備える。このような構造により、連続的に、
フラーレンを含む煤状物質を含む気流を製造することが
出来る。本発明では、この煤状物質含有気流から、フラ
ーレンを気体状態で分離することで、連続して、且つ大
量のフラーレンを製造する事が出来る。
【0020】フラーレン生成装置1の内部又は下流に
は、フラーレンの分離装置3が設置される。またフラー
レンの生成、及びフラーレンを気体状態で分離するため
には、一般的にフラーレン生成装置1内や、分離装置3
内を減圧状態としておくことが好ましいので、フラーレ
ンの生成装置1、分離装置3の内部圧力を減圧するため
の、減圧装置4を備えることが好ましい。本発明のフラ
ーレンの製造装置では、フラーレンの生成装置からフラ
ーレンを含む煤状物質含有気流が、分離装置3、析出装
置5と流れるが、一般的にこの気流の流れは緩やかなの
で、フラーレンを効率的に得るために、析出装置5に続
いて減圧装置4を配設し、気流を効率的に流すことが好
ましい。
【0021】分離装置3を構成する分離手段としては、
従来公知のフィルター作用を有するものを使用できる。
通常、フラーレンの生成は高温度条件下で行われるの
で、そのようなフラーレンの生成装置1の次ぎに設けら
れる分離装置2に用いるフィルターとしては、耐熱性フ
ィルターを用いる。耐熱フィルターは、400℃以上の
温度で固体として存在する煤成分を捕捉するための目的
で設置され、フラーレンは、昇華して気体状態で存在し
ている温度領域に設置することが重要である。この様な
フィルターとしては例えば、日本ポール社製焼結金属フ
ィルターや富士フィルター社製焼結金属フィルター等が
挙げられる。フィルター目開きの大きさは、フラーレン
を生成させる燃焼条件や煤状物質の性状によって適宜選
択し決定すればよい。フラーレンの昇華温度は真空度に
よっても変化するので、容器内の真空度により、もっと
も効率的にフラーレンを通過させることのできる位置に
該フィルターを設置することが重要である。
【0022】この耐熱フィルターの材質は、300℃以
上の高温に耐えられるものであれば何であってもよく、
セラミック、焼結金属等が好適に用いられる。また、こ
のフィルターによって捕集される炭素系高分子成分が、
連続的に排出される逆洗装置等の回収手段6を備えるこ
とが好ましい。この段階で得られた炭素系高分子成分
は、インクや塗料等の着色剤、タイヤ用カーボンブラッ
ク、または燃料等として有効に活用できるものである。
フラーレン生成装置1、や分離装置3を構成する素材
は、上述の温度、圧力条件に耐えうるものであれば、そ
の材質としては、例えば石英ガラス、ステンレス等の金
属類、セラミックス、ガラス等が挙げられる。
【0023】また分離装置3における分離方法は、バッ
チ式、固定床型、流動層型、連続型等、任意のものを使
用できる。そして分離装置3においては、フラーレン生
成装置1より導入する気流に、不活性ガスを更に添加す
る場合がある。その際には、分離装置に不活性ガスの流
入口及び排出口を設けておき、連続的または間欠的に不
活性ガスを流入及び排出させればよい。また分離装置3
に流入させる不活性ガスの温度を調整して、分離装置3
内の温度を所定の温度に上昇または降下させても良い。
この分離装置3にて、フラーレンと多環状芳香族化合物
とを同時に、気体状態で分離しても良いが、この分離装
置3の前に、分離装置3と同様な、多環状芳香族化合物
を分離するための分離装置を設けても良い。この際、多
環状芳香族化合物とフラーレンとは別個に、気体状態で
分離可能となる。
【0024】分離装置3を通過したフラーレンは、C
60やC70、およびこれ以上の分子量を有する高次フ
ラーレンを含む、いわゆる「粗なフラーレン」である。
これを更にフラーレン分子量に応じて生成するには、こ
れらの昇華温度の差を利用すればよい。C60やC70
などのフラーレンは昇華温度が異なるため、それぞれが
気体状態から固体状態となる温度の位置にそれぞれ分離
領域(図示せず)を設置することでC60とC70を分
離捕集することが可能である。このような、分子量に応
じてフラーレンを分離する分離領域は析出装置5内に設
けるのが好ましい。分離領域としては、先述の分離装置
3と同様なフィルターや、析出領域5内の温度を段階的
に下げ、各フラーレンが析出装置5の内壁面等に順次析
出させてもよい。最終的にはフラーレンの昇華温度以下
の温度になる位置にフィルター等を設置することで、フ
ラーレンを捕集することができる。
【0025】続いて、本発明のフラーレンの製造方法に
ついて述べる。 工程(1) 本発明の工程(1)においては、フラーレンを含む煤状
物質含有気流を得る。この際、フラーレンは原料となる
炭化水素(原料炭化水素)を不完全燃焼させる燃焼法、
または高熱下に原料炭化水素を分解させる熱分解法によ
って製造する。よってフラーレン製造の際には、多環状
芳香族化合物や炭素系高分子成分も同時に生ずるので、
この煤状物質含有気流は、フラーレン、多環状芳香族化
合物、及び炭素系高分子成分を含有する煤状物質を含む
気流(煤状物質含有気流)となる。
【0026】燃焼法はフラーレンの大量生産に向き、ま
たフラーレン合成域における最高温度が1700℃程度
と他の方法と比べて比較的低温であり、またフラーレン
が気相の状態で存在し、フラーレン以外の、特に煤状物
質の多くを占める炭素系高分子成分が固体の状態で存在
している温度領域が特定しやすく、フラーレンの分離を
効率的に行えるので好ましい。燃焼法によりフラーレン
を製造する場合、圧力条件としては大気圧に対して減圧
下で行うのが一般的であり、減圧度は適宜選択すればよ
い。具体的な圧力条件としては1330〜13300P
a(10〜100Torr)が好ましく、更には399
0〜6650Pa(30〜50Torr)が好ましい。
温度条件としては、先述した圧力条件に応じて適宜選択
すればよいが、中でも800〜2500℃が好ましく、
更には1000〜2000℃、特に1200〜1600
℃であることが好ましい。
【0027】フラーレンの原料となる炭化水素として
は、ベンゼン、トルエン、キシレン、ナフタレン、メチ
ルナフタレン、アントラセン、フェナントレン等の炭素
数6〜20の芳香族炭化水素が好適に用いられる。ま
た、原料炭化水素としては、これらの芳香族炭化水素に
併用してヘキサン、ヘプタン、オクタン等の脂肪族炭化
水素を用いても良い。
【0028】燃焼法において用いる原料炭化水素は、同
時に熱源としても作用する。即ちこの原料炭化水素は酸
素と反応して発熱してフラーレンの生成が可能となる温
度に上昇させるとともに、原料炭化水素が脱水素される
ことにより、フラーレン骨格を形成するための炭素ユニ
ットを生成するものと考えられている。炭素ユニットは
一定の圧力、温度条件で集合してフラーレン類を形成す
る。
【0029】また燃焼における燃料と空気の割合も適宜
選択すればよいが、導入空気量が理論燃焼するために必
要な燃料と投入する燃料の比は、通常、常温、常圧での
体積比において1:2〜1:4、更には1:2〜1:
2.5であることが好ましい。燃焼法に於いて用いる酸
素の使用量としては、原料炭化水素の種類によっても若
干異なるが、例えば原料炭化水素としてトルエンを用い
た場合には、トルエンに対して0.5〜9倍モルが好ま
しく、1〜5倍モルが更に好ましい。燃焼法における反
応系には、酸素以外に、フラーレンに対して不活性ガス
を存在させていても良い。本発明において不活性ガスと
は、フラーレン類と実質的に反応しない気体を意味す
る。不活性ガスの種類としては、ヘリウム、ネオン、ア
ルゴン、窒素及びこれらの混合物が挙げられる。
【0030】燃焼法により得られた煤状物質中には、フ
ラーレン及び多環状芳香族炭化水素が含まれる。これら
以外の残部は、通常、グラファイト構造を持つ炭素グラ
ファイト構造を骨格として若干の水素原子を有する、高
分子の炭化水素やカーボンブラック等(炭素系高分子成
分)である。工程(1)にて得られる煤状物質には、フ
ラーレン類が5重量%以上含まれていることが好まし
く、更には10%以上、特に15%以上含まれているこ
とが特に好ましい。また、本発明により製造されるフラ
ーレン類は、フラーレン構造を有していれば炭素数に制
限はないが、通常は炭素数60〜84のフラーレンであ
り、中でもC60とC70の割合が全フラーレン中にお
いて50%以上であることが好ましく、更には70%以
上、特に80%以上であることが好ましい。
【0031】工程(1)で得られる煤状物質含有気流
は、通常、速度が緩やかで、300℃以上の温度を有す
るものである。この気流をそのまま次の工程(2)へ供
しても良いし、例えば先述の不活性ガス流を供給して気
流速度を上昇させ、工程(2)での効率を高めても良い
し、又必要に応じてこの煤状物質含有気流を加熱しても
良い。この際、煤状物質含有気流の温度は、フラーレン
及び/又は多環状芳香族化合物が気体で存在できる温度
以上であればよく、具体的には400℃以上であること
が好ましい。また煤状物質含有気流の温度が高すぎると
フラーレン製造装置への負荷が大きく、温度上昇に見合
う効果の増加が少なくなるので、2000℃以下、中で
も1500℃以下であることが好ましい。尚、本発明に
於ける多環状芳香族化合物とは、少なくとも一つ以上の
芳香環を有し、2環以上が縮合している芳香族化合物を
示す。多環状芳香族化合物の具体例としては、ナフタレ
ン、アントラセン、フェナントレン、ペンゾピレン等が
挙げられる。
【0032】(工程2)工程(2)では、先述の工程
(1)で得られた、フラーレン、多環状芳香族化合物及
び炭素系高分子成分を含む煤状物質含有気流から、フラ
ーレン及び/又は多環状芳香族化合物を気体状態で分離
する。分離の方式としては、以下の(工程2−1)、
(工程2−2)が挙げられる。 (工程2−1)まず、煤状物質含有気流から、気体状態
で多環状芳香族化合物を分離する。次にフラーレンと炭
素系高分子成分との混合物から、フラーレンを分離する
方法。 (工程2−2)まず気体状態のフラーレンと気体状態の
多環状芳香族化合物を、炭素系高分子成分等の煤状物質
に含まれる他の物質と分離し、次にフラーレンと多環状
芳香族化合物との混合物から、フラーレンを分離する方
法。これらの工程について説明する。
【0033】(工程2−1)この工程では、煤状物質含
有気流から、気体状態で多環状芳香族化合物を分離す
る。この際の分離条件としては、多環状芳香族化合物が
気体状態で存在できれば、任意の温度、圧力条件を適宜
選択すればよく、経済性を考えて、最適な条件で実施す
ればよい。一般的に圧力は100〜2×10Paが好
ましく、更には1000〜1.4×10Paであるこ
と好ましい。常圧では装置が簡単になるメリットがあ
り、減圧下では分離条件温度が低くても多環状芳香族化
合物が気体状態で存在するので分離が可能であり、経済
的メリットがある。
【0034】また分離条件温度は、圧力にもよるが、好
ましくは100℃以上600以下である。多環状芳香族
化合物が気体状態で存在できる温度は、当然、圧力によ
って変化するので、分離条件温度は適宜選択すればよ
い。分離条件温度が常圧の場合には、更に200℃以上
600℃以下が好ましく、特に300℃以上550℃以
下が好ましい。温度が低すぎると多環状芳香族炭化水素
が固体として析出する場合があり、逆に温度が高すぎる
とフラーレンも気体状態となるので多環状芳香族化合物
とともに分離されてしまい、フラーレンの回収率が低下
する場合がある。
【0035】多環状芳香族化合物の分離に際しては、工
程(1)で得られた煤状物質含有気流をそのまま用いて
も良いが、先述のような不活性ガスを、更に添加しても
良い。これら不活性ガスとフラーレンとの反応を避ける
ためには、分離装置内を実質的に不活性ガスにより置換
し、不活性ガス流通下で多環状芳香族化合物の分離を行
うことが好ましい。中でも分離装置内における気体中の
酸素含有量を10体積%以下とするのが好ましく、更に
は5体積%以下、特に1体積%とするのが好ましい。酸
素含有量が多いとフラーレンの酸化物が生成する場合が
あり、フラーレンの収率が低下する場合がある。
【0036】多環状芳香族化合物の分離にの際、不活性
ガスの流通量としては、フラーレン及び多環状芳香族炭
化水素を含む煤状物質1gに対して、工程(1)から持
ち込まれる不活性ガス量との合計が、1〜10000m
l/minであることが好ましく、更には5〜5000
ml/minであることが好ましい。不活性ガスの流通
は連続的であっても間欠的であってもよい。分離装置で
分離された多環状芳香族化合物は、気流に同伴されて、
例えば析出装置にて温度が下げられることによって、固
体の多環状芳香族化合物として回収すればよい。この析
出装置は、分離装置と同一装置内に設けても、また別の
装置として設けてもよい。この多環状芳香族化合物の回
収は、バッチ式または連続式のいずれでもよい。析出し
た多環状芳香族化合物の回収は、そのまま固体として、
又は溶媒に溶解して回収してもよい。
【0037】多環状芳香族化合物の析出、回収の方法
は、従来公知の、気体状態物質を固化させて回収する技
術を用いればよい。例えば、冷却した回転ドラムに気体
状態の多環状芳香族化合物を含有するガスを接触させて
多環状芳香族化合物を析出させ、間欠的もしくは連続的
にスクレーパーで掻き取り回収する方法が挙げられる。
また、回転ドラムをに付着した多環状芳香族炭化水素を
有機溶媒により溶解し除去・回収してもよい。また別の
方法としては、気体状態の多環状芳香族化合物を、水又
は有機溶媒のスプレーゾーンを通過させるか、又は気体
状態の多環状芳香族化合を含むガスを、水又は有機溶媒
中へ吹き込むことでガスを冷却し、多環状芳香族化合物
を析出(あるいは有機溶媒に溶解させて)回収する方法
が挙げられる。この際、水中に多環状芳香族化合物を析
出させて回収した際には、さらに有機溶媒で多環状芳香
族化合物を抽出すればよい。
【0038】工程(2−1)で多環状芳香族化合物を分
離した後、フラーレンと炭素系高分子成分の混合物から
フラーレンを分離する。フラーレンと炭素系高分子成分
とを分離する方法は特に制限はないが、例えばフラーレ
ンと炭素系高分子成分を含む煤状混合物を抽出溶媒と混
合して、フラーレンが溶解した抽出液を得る方法(工程
2−1−1)と、フラーレン及び炭素系高分子成分を含
む煤状混合物を、不活性ガス等の存在下で加熱し、フラ
ーレンを昇華分離する方法(工程2−1−2)が挙げら
れる。
【0039】(工程2−1−1)フラーレンを溶解した
抽出液を得る場合の抽出溶媒としては、好ましくは芳香
族炭化水素を含む溶媒が用いられる。芳香族炭化水素と
しては、分子内に少なくとも1つのベンゼン核を有する
炭化水素化合物であり、具体的にはベンゼン、トルエ
ン、キシレン、エチルベンゼン、n−プロピルベンゼ
ン、イソプロピルベンゼン、n−ブチルベンゼン、se
c−ブチルベンゼン、tert−ブチルベンゼン、1,
2,3−トリメチルベンゼン、1,2,4−トリメチル
ベンゼン、1,3,5−トリメチルベンゼン、1,2,
3,4−テトラメチルベンゼン、1,2,3,5−テト
ラメチルベンゼン、ジエチルベンゼン、シメン等のアル
キルベンゼン類、1−メチルナフタレン等のアルキルナ
フタレン類、テトラリン等が挙げられる。これらの内
1,2,3−トリメチルベンゼン、1,2,4−トリメ
チルベンゼン及びテトラリンが好ましい。
【0040】抽出溶媒としては上述した芳香族炭化水素
の他に、更に脂肪族炭化水素や塩素化炭化水素等の有機
溶媒を、単独又はこれらのうち2種以上を任意の割合で
用いてもよい。脂肪族炭化水素としては、環式、非環式
等、任意の脂肪族炭化水素が使用できる。環式脂肪族炭
化水素の例としては、単環式、多環式のものが挙げら
れ、例えば単環式ではシクロペンタン、シクロヘキサ
ン、シクロヘプタン、シクロオクタンなどが挙げられ
る。また単環式脂肪族炭化水素の誘導体であるメチルシ
クロペンタン、エチルシクロペンタン、メチルシクロヘ
キサン、エチルシクロヘキサン、1,2−ジメチルシク
ロヘキサン、1,3−ジメチルシクロヘキサン、1,4
−ジメチルシクロヘキサン、イソプロピルシクロヘキサ
ン、n−プロピルシクロヘキサン、t−ブチルシクロヘ
キサン、n−ブチルシクロヘキサン、イソブチルシクロ
ヘキサン、1,2,4−トリメチルシクロヘキサン、
1,3,5−トリメチルシクロヘキサン等も挙げられ
る。多環式としては、デカリンなどが挙げられる。非環
式脂肪族炭化水素の例としては、n−ペンタン、n−ヘ
キサン、n−ヘプタン、n−オクタン、イソオクタン、
n−ノナン、n−デカン、n−ドデカン、n−テトラデ
カンなどが挙げられる。
【0041】塩素化炭化水素としては、ジクロロメタ
ン、クロロフォルム、四塩化炭素、トリクロロエチレ
ン、テトラクロロエチレン、1,2−ジクロロエタン、
1,1,2,2−テトラクロロエタン、クロロベンゼ
ン、ジクロロベンゼン、1−クロロナフタレンなどが挙
げられる。その他、炭素数6以上のケトン、炭素数6以
上のエステル類、炭素数6以上のエーテル類、二硫化炭
素等を用いても良い。
【0042】抽出溶媒におけるフラーレンの溶解度が低
すぎるとフラーレンの抽出効率が低下するので、フラー
レンの溶解度としてはは5g/リットル以上であること
が好ましく、更には10g/リットル以上、特に15g
/リットル以上であることが好ましい。また、工業的観
点から、これらの抽出溶媒の中でも常温液体で沸点が1
00〜300℃、中でも120〜250℃のものが好適
である。
【0043】抽出溶媒は、フラーレンを十分に抽出でき
るだけの量を用いる必要がある。通常、煤状混合物中の
フラーレン含有量に対し、5〜400重量倍量、経済性
を考えると、40〜200重量倍量程度使用するのが好
ましい。抽出は、バッチ式、セミ連続式、連続式、又は
それらの組み合わせ等、形式、装置は特に限定されな
い。なお、煤状混合物には通常5〜30重量%のフラー
レンが含まれているが、抽出効率の観点から、フラーレ
ンに対して用いる抽出溶媒の量を上述した範囲とするの
が好ましいことから、抽出操作に先立って、煤状物質の
一部を分析して、煤状物質中のフラーレン含有量を測定
しておくのが好ましい。
【0044】抽出装置としては撹拌混合槽が好適に使用
できる。抽出の際、容器内の圧力は特に制限はなく、常
圧で実施すればよい。抽出時の温度としては通常−10
〜150℃であり、好ましくは5〜80℃であり、更に
好ましくは30〜50℃である。これら範囲であれば抽
出効率向上の面から好ましいが、抽出効率は温度依存性
が小さいのでエネルギーコスト的に常温程度で行うのが
有利である。抽出工程においては、更に必要に応じて、
抽出液に超音波等を照射しながら抽出を行うと、抽出時
間が短くなるので好ましい。
【0045】こうして得られた抽出液には、フラーレン
が溶解しており、また、多環芳香族化合物は前の工程
(工程(2−1))にて既に除去されているので、抽出
液から用いた有機溶媒等を留去すること等により、高純
度のフラーレンを得ることが出来る。尚、フラーレンを
抽出した後に残ったスラリーには、工業状有用な炭素系
高分子成分が含まれている。よってこのスラリーから、
未溶解物を濾別し、再利用することが可能である。濾別
は、減圧濾過、加圧濾過、重力濾過、フィルター濾過、
又はそれらの組み合わせ等、方法、装置は特に限定され
ないが、中でも加圧濾過が好ましい。
【0046】(工程2−1−2)多環状芳香族化合物が
分離された、フラーレンと炭素系高分子成分を含む煤状
混合物は、多環状芳香族化合物を気体状態で分離した際
の温度よりも、高温条件下に付すことにより、フラーレ
ンを気体状態で煤状混合物から分離できる。一般的に、
多環状芳香族化合物を分離した後、フラーレンは固体と
なっているので、煤状混合物を加熱することでフラーレ
ンを昇華し分離できる。
【0047】昇華する際の条件は、常圧もしくは500
0Pa程度の減圧下で実施する。常圧では装置が簡単に
なるメリットがあり、減圧下ではフラーレンの昇華温度
が低くなるメリットがある。経済性を考えて、最適な条
件で実施すればよい。窒素又はヘリウム等の不活性ガス
を、煤状混合物1gに対し、前の工程から持ち込まれる
不活性ガス量との合計が1〜10000ml/min
程度、好ましくは5〜5000ml/min程度である
ことが好ましい。不活性ガスの流通は連続的であっても
間欠的であってもよい。
【0048】置換が十分に実施されないと、フラーレン
の酸化物が生成する場合がある。昇華を実施する際の不
活性ガスは、予熱しても良いし、予熱しなくても良い。
昇華に用いる装置は、バッチ式、固定床型、流動層型、
連続型等特に限定はしない。この工程では、煤状混合物
又はこれを含む気流から、気体状態でフラーレンを分離
する。この際の分離条件としては、フラーレンが気体状
態で存在できれば、任意の温度、圧力条件を適宜選択す
ればよく、経済性を考えて、最適な条件で実施すればよ
い。一般的に圧力は5000Pa程度の減圧下で行うの
が好ましい。常圧では装置が簡単になるメリットがあ
り、減圧下では分離条件温度が低くてもフラーレンが気
体状態で存在するので分離が可能であり、経済的メリッ
トがある。
【0049】また分離条件温度は、圧力にもよるが、通
常400℃〜1400℃、更には600〜1200℃、
特に800℃〜1100℃であることが好ましい。フラ
ーレンが気体状態で存在できる温度は、当然、圧力によ
って変化するので、分離条件温度は適宜選択すればよ
い。温度が低すぎるとフラーレンが充分気体状態となら
ないので収率が低下する場合があり、逆に温度が高すぎ
ると経済的に不利になるばかりか、僅かな酸素が存在し
ている場合などは、この酸素がフラーレンと反応してし
まい、酸化物となってしまい、フラーレンの収率が低下
する場合がある。
【0050】(工程2−2)次に、気体状態のフラーレ
ンと、気体状態の多環状芳香族化合物を、炭素系高分子
成分等の煤状物質に含まれる他の物質と分離し、次にフ
ラーレンと多環状芳香族化合物との混合物から、フラー
レンを分離する方法について説明する。この工程(2−
2)では、工程(1)で得られた、フラーレン、多環状
芳香族化合物、及び炭素系高分子成分を含む煤状物質含
有気流を、先述の工程(2−1−2)の条件下に付すこ
とで、フラーレンと多環状芳香族化合物とを、この煤状
物質含有気流から気体状態で分離することが出来る。こ
の際の分離条件は、先述の工程(2−1−2)と同様で
ある。この様にして分離された、気体状態の、フラーレ
ンと多環状芳香族化合物は、一般的にこれらを冷却して
固体状又は液体状の混合物とする。ついで、例えば以下
に示す工程(2−2−1)、工程(2−2−2)及び工
程(2−2−3)の様な方法によって、フラーレンと多
環状芳香族化合物とを分離すればよい。
【0051】工程(2−2−1) 工程(2−2)を経て、気体状態で得られたフラーレン
及び多環状芳香族化合物を、冷却してこれらの固体状又
は液体状混合物とし、この混合物を加熱して多環状芳香
族化合物を気体状態で分離する工程。 工程(2−2−2) 工程(2−2)を経て気体状態で得られたフラーレン及
び多環状芳香族化合物を冷却し、多環状芳香族化合物を
気体状態としたまま、フラーレンを固体として分離する
工程。 工程(2−2−3) 工程(2−2)を経て、気体状態で得られたフラーレン
及び多環状芳香族化合物を、冷却してこれらの固体状又
は液体状混合物とし、この混合物から、フラーレンの溶
解度が低く、且つ多環状芳香族化合物の溶解度の高い有
機溶媒によって多環状芳香族化合物を抽出し、分離する
工程。これら各工程について説明する。
【0052】工程(2−2−1) 工程(2−2−1)においては、気体状態で得られたフ
ラーレン及び多環状芳香族化合物(気体)を、冷却して
これらの固体状又は液体状混合物とする。そしてこの混
合物を加熱し、フラーレンと多環状芳香族化合物を分離
する。この分離の条件としては、フラーレンと多環状芳
香族化合物とを気体状態で分離できれば、任意の温度、
圧力をとることができる。例えば先述の工程(2−1)
における、煤状物質含有気流から気体状態で多環状芳香
族化合物を分離する際と同様の温度、圧力条件下で、フ
ラーレンと多環状芳香族化合物とを気体状態で分離すれ
ばよい。この際の温度、圧力条件は、経済性を考えて、
最適な条件で実施すればよい。中でも、先述の工程(2
−1)における、煤状物質含有気流から気体状態で多環
状芳香族化合物を分離する際と同様の温度、圧力条件に
おける好ましい範囲とすることが、この工程(2−2−
1)においても好ましい。
【0053】工程(2−2−2) 工程(2−2−2)においては、気体状態で得られたフ
ラーレン及び多環状芳香族化合物(気体)を、多環状芳
香族化合物だけが気体状態となるように、つまりフラー
レンが固体状又は液体状となり、気体状態の多環状芳香
族化合物と分離できる状態にまで冷却し、フラーレンと
多環状芳香族化合物とを分離する。この分離の条件とし
ては、フラーレンが固体状又は液体状となり、且つ多環
状芳香族化合物が気体状態で存在できれば、任意の温
度、圧力をとることができる。例えば先述の工程(2−
1)における、煤状物質含有気流から気体状態で多環状
芳香族化合物を分離する際と同様の温度、圧力条件下
で、フラーレンを固体状又は液体状として、多環状芳香
族化合物を分離すればよい。この際の温度、圧力条件
は、経済性を考えて、最適な条件で実施すればよい。中
でも、先述の工程(2−1)における、煤状物質含有気
流から気体状態で多環状芳香族化合物を分離する際と同
様の温度、圧力条件における好ましい範囲とすること
が、この工程(2−2−2)においても好ましい。
【0054】工程(2−2−3) この工程(2−2−3)では、フラーレン及び多環状芳
香族化合物を含む固体状又は液体状混合物から、フラー
レンの溶解度が低く、且つ多環状芳香族化合物の溶解度
の高い有機溶媒を抽出溶媒として用い、多環状芳香族化
合物を抽出する工程である。この抽出溶媒、つまりフラ
ーレン類の溶解度が低い溶媒(以下、貧溶媒と称するこ
とがある)の具体例としてはメタノール、エタノール、
プロパノール、エチレングリコール、グリセリン等の炭
素数1〜4のアルコール類;アセトン、メチルエチルケ
トン等の炭素数3〜5のケトン類;テトラヒドロフラ
ン、ジエチルエーテル、ジオキサン等の炭素数2〜5の
エーテル類;N,N−ジメチルホルムアミド等の炭素数
3〜5のアミド類及びこれらを含む混合溶媒が挙げられ
る。これらの内、アルコール類が好ましく、なかでも炭
素数3以下のものが好ましく、特に2−プロパノール
(イソプロピルアルコール)が好ましい。
【0055】これら貧溶媒のフラーレンC60の溶解度
としては、1g/リットル以下であることが好ましく、
更には100mg/リットル以下、特に50mg/L以
下であることが好ましい。貧溶媒は直接、先述の固体状
又は液体状混合物と接触させても良いが、一般的には、
この混合物を一旦、フラーレン及び多環状芳香族化合物
の双方が高い溶解性を示す有機溶媒に溶解して溶液と
し、これに貧溶媒を添加してフラーレンを析出させる。
【0056】この際の貧溶媒の使用量は、この溶液調整
に用いた有機溶媒量に対し、0.1〜50重量倍量、中
でも1〜30重量倍量程度であることが好ましい。貧溶
媒の量が少ないと、フラーレンの析出量が少なくなり、
回収できるフラーレンが減少する。多すぎると、これら
の操作を行う容器容量が大きくなり、経済的にロスが発
生する。貧溶媒を混合する温度としては、通常、−20
〜150℃であり、中でも−10〜100℃、更には1
0〜80℃、特に30〜60℃であることが好ましい。
貧溶媒を混合することにより析出したフラーレンは、濾
過等により回収すればよい。一方、多環状芳香族炭化水
素の殆どは析出せずに溶媒中に溶解しているので、フラ
ーレン類を取り除いた後の溶液は、その溶媒を留去する
こと等により多環状芳香族化合物を固体として回収する
ことが出来る。
【0057】
【実施例】以下に実施例を示し、本発明を更に具体的に
説明するが、本発明の要旨を超えない限り、本発明は以
下の実施例に限定されるものではない。
【0058】
【実施例1】トルエンを原料として燃焼法により得られ
た煤状物質3.8mgを、熱重量測定装置(セイコー社
製 TG−DTA6300)を用い、乾燥窒素ガス10
0cc/min中で、室温より20℃毎分にて1150
℃まで加熱し、重量の変化を測定した。得られた結果を
図2に示す。図2において、左縦軸は、重量3.8mg
に対する減量率を、右縦軸は原料率の変化率を、横軸は
加熱温度を示す。図2に示した、重量減少を示すグラ
フ、及び重量変化率を示すグラフから明らかな通り、温
度が100℃以上となると重量が徐々に減少し、400
℃付近から重量減少が加速されていることが判る。そし
て500℃以上の高温領域に於いて煤状物質の重量が急
激に減少する。これはフラーレンの昇華温度が400〜
800℃である事を考慮すると、煤状物質中の多量のフ
ラーレンが昇華することで、煤状物質の急激な重量減が
生じたことが判る。
【0059】。更に、四重極形質量分析装置(日本電子
製オートマスAM2−15型)を用い、煤状物質を加熱
した際に発生したガス成分の定性分析を以下の条件で行
った。結果を図3に示す。 測定法 :EI法 ファーネス部温度 :290℃ トランスファーチューブ温度 :285℃ GCオーブン温度 :285℃ インターフェース温度 :285℃ イオン化室温度 :260℃ フォトマル電圧 :450V イオン化電圧 :70eV イオン化電流 :300μA マスレンジ :10〜400amu スキャンスピード :1000msec
【0060】図3において、縦軸はイオンスペクトルの
相対強度を、横軸は加熱温度を示す。図3より、煤状物
質を加熱して発生したガス中には、ベンゼン(分子量7
8)、トルエン(分子量92)、キシレン(分子量10
6)等の芳香族化合物や、ナフタレン(分子量12
8)、アントラセン(分子量178)等の多環状芳香族
化合物の存在を示すピークが、フラーレンの昇華温度よ
り低い温度範囲に於いて確認された。これによって、ベ
ンゼン等の芳香族化合物はもちろん、多環状芳香族化合
物も気体状態で分離できることが判る。以上の実施例に
より、燃焼法によって得られた、フラーレン、多環状芳
香族化合物、及び炭素系高分子成分を含む煤状物質か
ら、フラーレン及び/又は多環状芳香族化合物を気体状
態で分離出来る。よってこのような煤状物質を含有する
気流から、フラーレン及び/又は多環状芳香族化合物
を、連続的に、気体状態で分離することが可能であり、
そしてこの煤状物質を含む気流から、連続的にフラーレ
ンを分離可能であることが判る。
【0061】
【発明の効果】以上説明した本発明によれば、フラーレ
ンの製造、フラーレンと他の煤成分の分離を1つの装置
内で連続的に行うことができ、且つ大量のフラーレンを
連続的に生産することが可能となる。次世代を担う新材
料、新素材として多方面から注目されているフラーレン
を工業的規模で製造した場合、同時に大量の生成される
煤状物質とフラーレンを効率良く分離、回収することが
出来る。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係るフラーレン合成分離装置の一例の
全体概略断面図。
【図2】煤状物質を加熱した際の重量減少を示した図。
【図3】煤状物質を加熱した際に発生したガスの定性分
析結果を示す図。
【符号の説明】
1:フラーレン生成装置 2:バーナー 3:分離装置 4:減圧装置 5:析出装置 6:回収装置
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (72)発明者 有川 峯幸 福岡県北九州市八幡西区黒崎城石1番1号 三菱化学株式会社内 Fターム(参考) 4G146 AA08 BA12 BC02 BC03 BC27 BC38A BC38B CA11 DA02 DA03 DA08 DA27 DA28

Claims (15)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 炭素質原料から、フラーレン、多環状芳
    香族化合物、及び炭素系高分子成分を含む煤状物質を含
    有する気流を生成させるフラーレン生成装置と、煤状物
    質を含有する気流から気体状態のフラーレン及び/又は
    気体状態の多環状芳香族化合物を分離する分離装置とを
    有するフラーレンの製造装置。
  2. 【請求項2】 更に、生成装置及び分離装置を減圧する
    ための減圧装置を有し、フラーレン生成装置、分離装
    置、減圧装置がこの順に接続されていることを特徴とす
    る請求項1記載のフラーレンの製造装置。
  3. 【請求項3】 更に、分離装置を通過した気体状態のフ
    ラーレンを析出させる析出装置を有し、フラーレン生成
    装置、分離装置、析出装置がこの順に接続され、減圧装
    置が析出装置の前又は後に設けられたことを特徴とする
    請求項1又は2に記載のフラーレンの製造装置。
  4. 【請求項4】 析出装置中にさらに、分子量に応じてフ
    ラーレンを分離する分離領域を設けたことを特徴とする
    請求項1乃至3のいずれかに記載のフラーレンの製造装
    置。
  5. 【請求項5】 分離装置が、煤状物質に含まれる気体状
    態のフラーレン及び/又は気体状態の多環状芳香族化合
    物を通過させるフィルターを有し、該フィルターの耐熱
    温度が300℃以上であることを特徴とする請求項1乃
    至4のいずれかに記載のフラーレンの製造装置。
  6. 【請求項6】 フラーレン生成装置におけるフラーレン
    の生成方法が、炭化水素原料を不完全燃焼させる燃焼法
    か、又は炭化水素原料を熱分解する熱分解法であること
    を特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載のフラー
    レンの製造装置。
  7. 【請求項7】 分離装置が、煤状物質含有気流から分離
    された炭素系高分子成分を回収する回収手段を有するこ
    とを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載のフラ
    ーレンの製造装置。
  8. 【請求項8】 以下の工程(1)及び工程(2)を有す
    るフラーレンの製造方法。 工程(1):炭化水素原料を不完全燃焼させるか、又は
    炭化水素原料を熱分解することにより、フラーレン、多
    環状芳香族化合物、及び炭素系高分子成分を含む煤状物
    質含有気流を生成させる工程。 工程(2):工程(1)で得られた、フラーレン、多環
    状芳香族化合物、及び炭素系高分子成分を含む煤状物質
    含有気流から、フラーレン及び/又は多環状芳香族化合
    物を気体状態で分離する工程。
  9. 【請求項9】 工程(2)において多環状芳香族化合物
    を気体状態で分離し、次いで得られた、フラーレン及び
    炭素系高分子成分を含む煤状物質から、フラーレンを分
    離することを特徴とする請求項8に記載のフラーレンの
    製造方法。
  10. 【請求項10】 工程(1)で得られた400〜150
    0℃の煤状物質含有気流を、工程(2)で用いることを
    特徴とする請求項8または9に記載の製造方法。
  11. 【請求項11】 工程(2)にて多環状芳香族化合物を
    分離し得られた、フラーレン及び炭素系高分子成分を含
    む煤状物質から、芳香族炭化水素化合物を含む溶媒によ
    りフラーレンを抽出し分離する工程を有することを特徴
    とする請求項9又は10に記載のフラーレンの製造方
    法。
  12. 【請求項12】 工程(2)にて多環状芳香族化合物を
    分離し得られた、フラーレン及び炭素系高分子成分を含
    む煤状物質含有気流から、フラーレンを気体状態で分離
    する工程を有することを特徴とする請求項9又は10に
    記載のフラーレンの製造方法。
  13. 【請求項13】 工程(2)を経て気体状態で得られた
    フラーレン及び多環状芳香族化合物を、冷却してこれら
    の固体状又は液体状混合物とし、この混合物から、フラ
    ーレンの溶解度が低く、且つ多環状芳香族化合物の溶解
    度の高い有機溶媒によって多環状芳香族化合物を抽出し
    分離する工程を有することを特徴とする請求項8に記載
    のフラーレンの製造方法。
  14. 【請求項14】 工程(2)を経て気体状態で得られた
    フラーレン及び多環状芳香族化合物を、冷却してこれら
    の固体状又は液体状混合物とし、この混合物を加熱して
    多環状芳香族化合物を気体状態で分離する工程を有する
    ことを特徴とする請求項8に記載のフラーレンの製造方
    法。
  15. 【請求項15】 工程(2)を経て気体状態で得られた
    フラーレン及び多環状芳香族化合物を冷却し、多環状芳
    香族化合物を気体状態としたまま、フラーレンを固体と
    して分離する工程を有することを特徴とする請求項8に
    記載のフラーレンの製造方法。
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