JP5268298B2 - アルカリ金属を内包するフラーレンベース材料誘導体 - Google Patents
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Description
前記(A)は、前記(A0)を水洗したのちクロロナフタレン類を溶媒として抽出し、その抽出液から再沈法によって未反応フラーレン類を除去することで得られ、常温での溶解度が、ヘキサンに対して0.1mg/mL未満であって、かつ二硫化炭素に対して2mg/mL以上であることを特徴とするアルカリ金属を内包するフラーレンベース材料誘導体。
(9)前記(A)と結合するアルキリデン基数は8以下である(7)又は(8)記載のアルカリ金属を内包するフラーレンベース材料誘導体。
(10)前記フラーレン類が、C 60 及び/又はC 70 であることを特徴とする(7)又は(9)記載のアルカリ金属を内包するフラーレンベース材料誘導体。
(フラーレン、フラーレンベース材料、フラーレン類、フラーレンクラスター)
「フラーレン」とは、Cn(n=60, 70, 76, 78・・・)で示される中空の炭素クラスター物質であり、例えば、C60やC70を挙げることができる。また、「内包フラーレン」とは、篭状のフラーレン分子の中空部に炭素以外の原子又は分子を閉じ込めた炭素クラスター物質のことである。フラーレン分子(ケージ)の中に閉じ込める原子又は分子を、内包対象原子(分子)と呼び、閉じ込められた原子(分子)を内包原子(分子)と呼ぶ。
内包フラーレンクラスターを合成した分離精製前の材料を「合成物」又は「生成物」と呼ぶ。これに対し、分離精製を行って純度を上げた材料を「分離精製物」又は、単に「精製物」と呼ぶ。
内包フラーレンクラスターは、例えば、プラズマ照射法により合成することが可能である。プラズマ照射法は、真空容器中で内包対象原子からなるイオンを含むプラズマ流を発生させ、発生したプラズマ流とフラーレンオーブンにより発生するフラーレン蒸気を反応させ、堆積基板上に内包フラーレンを生成する方法である。
図20は、プラズマ照射法により内包フラーレンを含む材料を生成する製造装置の具体例の断面図である。製造装置は、管状の真空容器301、真空容器301を排気する真空ポンプ302、プラズマを閉じ込めるための電磁コイル303により構成される。
以下に、内包フラーレンクラスターの分離精製について説明する。
図2は、溶媒抽出による分離精製方法の工程フロー図である。本分離精製方法は、大きく分けて、4つの工程からなる。第一の工程は、プラズマ照射法の合成物から未反応の内包対象原子を除去する工程である。第二の工程は、第一の工程の生成物を溶媒で洗浄し、残渣物中に内包フラーレンクラスターを濃縮する工程である。第三の工程は、第二の工程の生成物を溶液に溶かし、内包フラーレンクラスターを溶媒抽出する工程である。第四の工程は、第三の工程の生成物である溶液を内包フラーレンクラスターの貧溶媒中に滴下し、内包フラーレンクラスターを析出濃縮する工程である。
[第一の工程]水(純水、精製水など)や希塩酸などの酸性溶液を処理液として用意する。処理液に未精製物1を混合し、超音波などで攪拌する。次に、遠心分離、及び/又は、メンブランフィルターによるろ過を行なう。遠心分離は、1分当たりの回転数が2,000回以上で行なうことが好ましい。遠心分離後に沈殿している不溶物を取り出して、残渣物として回収する。ろ過を行なう場合は、フィルターに残った不溶物も、残渣物として回収する。内包対象原子は水系溶媒と化学反応を起こし、水酸化物などの水溶性の物質になる。一方、内包フラーレンをはじめとするフラーレンベース材料は水に対し溶解しにくいので、残渣物を取り出すことにより、未反応の内包対象原子を分離することができる。
図4は、上述の分離精製方法を検討する際に用いた内包率の評価方法の工程フロー図である。内包率は、合成物又は精製物などの評価対象物(以下サンプルと呼ぶ)中における内包フラーレンの重量比として定義される。図4に示す評価方法の、基本的な考え方は次のとおりである。最初にサンプルの重量を測定し、サンプルに含まれる未反応の内包対象原子を除去した後に、内包フラーレンのフラーレンケージを湿式灰化法により分解して内包対象原子を外に出す。次に、ICPなどの元素分析により、内包原子の重量を測定し、サンプル重量との比を計算する。
以上、Li@C60を例にとり説明したが、本分離精製方法は、Li@C60以外にも、アルカリ金属Na、K、Rb、Cs、Frを内包するCn(n=60〜82)を含む内包フラーレンクラスターの分離精製に用いることが可能であり、内包率、及び収率の向上に高い効果が得られる。特に、C60およびC70は高次のフラーレンと比較して大量に合成可能な材料であり、原料コストの安いフラーレンである。従来知られていなかったC60およびC70をベース材料とする内包フラーレンクラスターの高効率の分離精製が可能であるという点で、本分離精製方法は工業的価値が極めて高い。また、高次フラーレン(Cn:n≧72)においても、本分離精製方法を用いることにより、従来知られていた分離精製方法と比較してより高純度の内包フラーレンクラスターを生成することが可能になる。
以下に上記の合成法および分離精製プロセスを経て得られる内包フラーレンクラスターを含むフラーレンベース材料の特性について、Li@C60を含む精製物(以降、「本精製物」と称する。)を例として説明する。
本発明の分離精製方法による精製物の中に、仮に、内包フラーレンに結合していない除
去不可能な遊離の空のフラーレンが存在する場合でも、内包率は上限を持つ。
次に、本精製物をKBr粉末に混入して作成したペレットについて赤外吸収スペクトルを測定し、C60についてのデータと比較した。その結果、図6(a)に示されるように、C60に特徴的な4本のピークセット(526,574,1180,1247cm−1)が顕著には測定されず(図6(b)参照)、本精製物にはIRで検出されるほどはC60が含まれていないことが確認された。その一方で、1000cm−1以下の低波数領域に明確な構造が確認され、本精製物が特定構造を失ったポリマー状態にあるのではなく、特定の振動モードを有するような所定の大きさの分子状態にあることが示唆された。
続いて、本精製物の1−クロロナフタレン溶液とC60の1−クロロナフタレン溶液についてNMR測定を行なった。図7はそれらの比較データである。C60の場合は、C60の存在を示す141.9ppmにおける電磁波の吸収ピークが観測されるのに対し、本精製物の場合はC60の存在を示す吸収ピークは観測されない。このことから、本精製物にはNMRで検出されるほどはC60が含まれていないことが確認された。
図8は、内包率の原料供給比依存性を示すグラフである。プラズマ照射法により内包フ
ラーレンを含む物質を合成する場合は、Liイオンの供給量を堆積基板に流れるイオン電流を検出して測定し、フラーレンの供給量をフラーレンオーブンのフラーレン充填量の変化を検出して測定することができる。それぞれの供給量は、例えば、各材料の昇華オーブンの温度を制御して制御することができる。図8は、LiイオンとC60の供給比を0.1から1まで変化させて合成した堆積物を、一定の溶媒抽出条件で抽出した精製物の内包率をプロットしたものである。図から、フラーレンに対するLiの供給比を増やすと、供給比が0.8以下の場合は内包率が増えていくが、供給比が0.8を超えると内包率が8〜11%で飽和することがわかる。
次に、合成条件を一定とし、精製方法を変更して、内包率を測定した。結果を表1に示
す。
また、発明者らは、HPLCによるLi内包フラーレンの精製実験も行った。その結果、HPLCを何度繰り返しても、内包率は上記一定値を大幅に越えることはなかった。
図9は、本精製物の高質量領域(質量数>1000)におけるLDTOF質量分析データである。Li@C60(C60)に対応する質量ピーク31から、Li@C60(C60)n(n=2〜9)に対応する質量ピーク32〜39が検出された。このような高次ピークは本精製物について特徴的であり、C60のみのサンプルでは検出されない。
動的光散乱法により溶液中の本精製物の粒径測定を行った。比較のためC60の粒径の測定も行った。図10は、C60の粒径分布であり、直径が約0.7nmにピークを持つ分布を示す。それに対し、本精製物は直径が4〜6nmにピークを持つ粒径分布を示すことがわかった。さらに、試料を変えて測定を繰り返したところ、本精製物は直径が4〜10nmにピークを持つ粒径分布を示すことが確認された。
図11(a)乃至(d)は、本精製物のTEMによる観察写真である。図11(c)に示すように、本精製物は直径が約9nmの粒子として観察された。
図12は、C60および本精製物の結晶構造のX線分析データを示す図である。C60が結晶構造になっていることを示す複数の強いピークを示すのに対し、本精製物では顕著なピークは計測されない。
以上のUV、IR、NMRの結果は本精製物中にC60が遊離状態ではほとんど存在しないことを示している。また、IRのデータから本精製物はポリマー状態にあるのではなく、何らかの特定の構造を有する分子として存在していることも示唆された。さらに、LDTOF質量分析データは、Li@C60が一個以上のC60とクラスターを形成したと推定されるフラグメントのピークが検出されたことを示している。
この内包フラーレンクラスターの構造は、X線分析結果からは詳細な情報を得ることができなかったが、C60の結晶構造に基づくと、図13(b)や(c)のようにLi@C60を中心として複数のC60が結合する構造が一例として推測される。
本精製物として得られた内包フラーレンクラスターの溶解特性を表2に示す。内包フラーレンクラスターはフラーレンの良溶媒として知られている二硫化炭素に対する溶解度が低く、1−クロロナフタレンに対して2mg/mLよりやや低い程度の溶解度を有する。
内包フラーレンクラスターは、Li@C60に複数のC60が結合したクラスターだけでなく、プラズマ照射法により合成し、本分離精製方法で精製することにより、より一般的なフラーレンCn(n=60〜82)にLi以外のアルカリ金属Na、K、Rb、Cs、Frを内包する内包フラーレンでも周囲に複数の空のフラーレンを結合したクラスター構造になると考えられる。その場合、Li@C60からなる内包フラーレンクラスターと同様に、溶媒抽出が可能であり、大気中でも安定に存在するなどの優れた性質を持つ。
(フラーレンベース材料誘導体の構造)
本発明にかかるフラーレンベース材料誘導体は、上記の内包フラーレンクラスターを構成するフラーレン類のそれぞれに1〜8個のアルキリデン基が結合したものであり、以下の一般式で示される。
また、「フレロイド」とはメタノフラーレン同様フラーレンベース材料誘導体の一種であり、フラーレン骨格上の隣接する炭素−炭素結合に対してメチレン基が挿入されてアヌレン構造が形成されたものであり、一般式は以下の式(III)で表される。
本発明にかかるフラーレンベース材料誘導体は、アルキリデン基を有する。アルキリデン基は、一般式として以下の式(IV)で表されるように、アルカンの同一の炭素原子から二個の水素原子を除去することにより生成し、遊離原子価が二重結合の一部になる基である。
R1およびR2が独立の場合には、以下のような置換基があげられる。
アルキル基類:好ましくは炭素数1以上で20以下、更に好ましくは炭素数12以下の直鎖又は分岐のアルキル基であり、例えばメチル、エチル、n-プロピル、2-プロピル、n-ブチル、イソブチル、tert-ブチル、n−オクチル基などが挙げられる。
アルキニル基類:好ましくは炭素数2以上20以下、更に好ましくは炭素数12以下のアルキニル基であり、例えばエチニル、プロパルギル基などが挙げられる。 アミノ基類:アミノ基類にはアミノ基にアルキル基や芳香族炭化水素基等の炭化水素基が置換したものも含む。その炭素数は、通常0以上30以下、好ましくは20以下、より好ましくは12以下である。その具体例としては、アミノ基、メチルアミノ基、ジメチルアミノ基、エチルアミノ基、ジエチルアミノ基、フェニルアミノ基、ジフェニルアミノ基、ジベンジルアミノ基、チエニルアミノ基、ジチエニルアミノ基、ピリジルアミノ基、ジピリジルアミノ基等が挙げられる。
ヘテロ環オキシ基:炭素数は、通常1以上、好ましくは2以上、より好ましくは4以上、また、通常10以下、好ましくは8以下、より好ましくは5以下である。その具体例としては、チエニルオキシ基、ピリジルオキシ基等が挙げられる。
ヘテロ環チオ基:炭素数は、通常1以上25以下、好ましくは2以上19以下、より好ましくは5以上12以下である。その具体例は、チエニルチオ基、ピリジルチオ基等が挙げられる。
本発明にかかるアルキリデン基は、R1およびR2が結合して環状構造を有していることが望ましい。アルキリデン基におけるフラーレン類との結合を担う炭素の分子内運動が規制され、外側に突出した構造となりやすいためである。
本願にかかるフラーレンベース材料誘導体はアルキリデン基を有し、このアルキリデン基を生成する化合物としては、窒素分子(N2)や一酸化炭素(CO)などの安定な小分子を熱励起や光励起でα脱離しうる化合物や、アルケン、ケトンなどの安定物質をα脱離しうる化合物のように、カルベンを発生させうる物質を用いる。
α脱離によらないものとして、シクロブタノンやシリルケトンの1,2転位によってオキサカルベンを発生させるものや、共役エンインカルボニル化合物のように環化の過程でカルベンを発生させるものを挙げることができる。
(反応)
上記の内包フラーレンクラスターのアルキリデン基付加体であるフラーレンベース材料誘導体の合成は、熱反応または光反応にて行う。内包フラーレンクラスターとアルキリデン基生成化合物との当量比は、付加するアルキリデン基数に応じて調整する。たとえば、付加数を少なくする場合には、当量比(内包フラーレンクラスターを構成するフラーレン類のモル数/アルキリデン生成化合物のモル数)を1以下にすればよく、付加数を多くする場合には5以上にすればよい。付加数が多いほど溶解特性は改善されるので、好ましい当量比は10以上、特に好ましくは30以上である。ただし、未反応のアルキリデン基生成化合物が多すぎると経済的損失が多くなり、またアルキリデン基生成物同士の反応生成物量が増えてしまうことから、当量比は100以下とすることが望ましい。なお、いずれの場合であっても、反応生成物には複数種類の付加数の誘導体が得られる。
熱反応にてアルキリデン基を付加させる場合には、窒素などの不活性気体を導入しつつ溶媒の沸点以下の温度で反応させることが望ましい。たとえば、1−クロロナフタレンを溶媒とする場合にはその沸点が259℃であるから100〜200℃程度とし、テトラリンを溶媒とする場合にはその沸点が207℃であるから70〜150℃程度とすることが望ましい。また、光反応が同時に進行することで反応性に変化が現れたり副反応が増加したりして収率に影響を及ぼす場合には、遮光下で反応させることが好ましい。
得られた反応生成物から、未反応のアルキリデン基生成化合物および内包フラーレンクラスターを除去するために、以下のプロセスを行う。
なお、この溶媒を留去した反応生成物に対して、LCやHPLCを用いたさらなる分離精製を行って未反応物の含有率をさらに低下させてもよい。
以降、反応生成物を精製して得られるフラーレンベース材料誘導体の性質について説明する。
本発明にかかるフラーレンベース材料誘導体は、内包フラーレンクラスターに比べて溶解特性が向上している。
フラーレン(例としてC60)の液中の紫外−可視光吸収特性は、図5に示されるように、500−600nmに吸収領域を有する一方で、650nmより長波長では吸収が少なくなり、700nm以降はほとんど吸収しない。これに対し、内包フラーレンクラスターは前述のように450−500nmにおける吸収率の落ち込みがなく、700−800nmにも吸収を有し、吸収帯域の広い太陽電池などへの応用が期待される。しかしながら、沸点が高い溶媒にしか溶解しないため、工業的な利用範囲に制限があった。
Liを内包した内包フラーレンクラスターの製造に、円筒形状のステンレス製容器の周囲に電磁コイルを配置した構造の、図20に示す構成の製造装置を用いた。使用原料であるLiは、アルドリッチ製の同位体に関し未精製のLiを用い、また、使用原料であるC60は、フロンティアカーボン製のC60を用いた。
図15は、1−クロロナフタレン(図中では「CN」と略記する。)を用いた内包フラーレンクラスターの溶媒抽出の実施例のフロー図である。Li内包フラーレンクラスターをプラズマ照射法で合成し、水処理を行った成膜物221を準備した。成膜物には、内包フラーレンクラスターのみならず、未反応の空のフラーレンが含まれているが、未反応のLiは水洗処理によって除去されている。
1−クロロナフタレンを溶媒として内包フラーレンクラスターのUV測定(島津製作所株式会社製 multispec1500)を行なったところ、図5に示されるように、フラーレンC60に特徴的な500〜600nmの吸収は認められず、400nmから長波長側にかけてなだらかに減衰する吸収スペクトルが得られた。
溶媒抽出物230の粉末を混合させたKBrペレットについて赤外吸収スペクトル(株式会社堀場製作所製 FT−730)を測定したところ、図6(a)に示されるように、空のフラーレンC60に特徴的な526、574、1180、1427cm−1の4本のピークのセットは顕著には観測されなかった。このデータより、溶媒抽出物230には空のフラーレンが有意な量では存在しないことが確認された。したがって、以降の説明では溶媒抽出物230を「内包フラーレンクラスター」と称する。
上記のプロセスで得た内包フラーレンクラスターについて、ICP発光分光分析装置(サーモエレクトロン社(旧ジャーレルアッシュ社)製 IRIS−AP)を用いてリチウムの定量分析を行なった。その結果、リチウムの比率は0.052質量%であった。
2−アダマンタノンジアジリンは下記の論文記載の方法より合成した。
Qing Ye et al. J. Org. Chem. 2002, 67, 9288−9294.
材料として用いた2−アダマンタノンは15.8gであり、得られた2−アダマンタノンジアジリンは10.6gであった。したがって、収率は58%であった。
温度計を設置し、内部に磁気攪拌子を備えたガラス製100mLのシュレンクフラスコの内部を窒素置換して、上記の内包フラーレンクラスター99.1mg(内包フラーレンクラスター換算で7.43μmol、フラーレン類分子換算で137μmol)および上記の製造方法で製造した2−アダマンタノンジアジリン998mg(6.16mmol、内包フラーレンクラスターに対する当量比は829、フラーレン類あたりでの当量比は44.8)を入れ、1−クロロナフタレン(東京化成工業株式会社製)45mL(330mmol)を加えて攪拌し、褐色溶液とした。
得られた褐色粉末について、レーザーTOFMS(飛行時間型質量分析器、島津製作所株式会社製 LDI−TOF−MS axima CFR plus)による測定を行なったところ、リチウム原子内包フラーレンC60−アダマンチリデン基付加体の1、2、3、4、5、6、7、8付加体にそれぞれ相当するピーク(m/Z=861、995、1129、1263、1397、1531、1665、1799)が観測された(図16参照)。ピーク強度としては、1付加体から4付加体にかけて順次ピーク強度が増加し、4付加体によるピークが最も強く、5付加体のピーク強度は4付加体の70−90%であった。その後、6付加体以降は急激に強度が低くなり、8付加体になるとノイズとの差異が少なくなり、9付加体以降はピークとして認識することができなかった。上記の製造方法で合成を複数回行い熱反応生成物としての褐色粉末を得たが、この傾向はいずれのロットでもほぼ同様であった。
また、赤外吸収スペクトルを測定したところ、図17に示されるように、2846および2904cm−1にアダマンチリデン基に特徴的なC−H結合の吸収が認められた。原料の2−アダマンタノンジアジリンはヘキサン洗浄によって除去されているため、この吸収の存在によってアダマンチリデン基がフラーレンクラスターに付加していることが確認された。
二硫化炭素を溶媒として1H−NMR測定(Burker社製 AVANCE−600 1H NMR 600MHz、外部標準:D2O)を行なったところ、2−アダマンタノンジアジリンに由来するピークは観測されず、図18に示されるように、1.08,1.45,1.92,2.06,2.14,2.69,3.64ppmに鋭いピークが、1.3−3.0ppmにブロードなピークが観察された。また、2−アダマンタノンジアジリンに由来するピーク(0.77,1.98,2.02,2.22,2.25ppm)は検出されず、未反応物がほとんど残留していないことが確認された。
二硫化炭素を溶媒としてUV測定を行なったところ、図19に示されるように、フラーレンC60に特徴的な400〜500nmの吸収曲線パターンは認められず、400nmから長波長側にかけてなだらかに減衰する吸収波形が得られた。
ICP発光分光分析装置を用いてリチウムを含む元素分析を行なった。その結果、リチウムの比率は0.027〜0.030%(平均値は0.028%)であった。
上記の分子量を用いると、収率は65.4%(100.7mg/25000g・mol−1/6.16μmol)であった。
温度計を設置し、内部に磁気攪拌子を備えたガラス製100mLのシュレンクフラスコ内に、内部を窒素置換した状態で、フラーレンC60(分子量720、フロンティアカーボン株式会社製)99.8mg(138μmol)および前述の製造方法で製造した2−アダマンタノンジアジリン998mg(6.16mmol、フラーレンC60に対する当量比は44.4)を入れ、1−クロロナフタレン(東京化成工業株式会社製)45mLを加えて攪拌し、褐色溶液とした。
得られた褐色粉末について、レーザーTOFMSによる測定を行なったところ、フラーレンC60−アダマンチリデン基付加体の1、2、3、4、5、6、7、8付加体にそれぞれ相当するピーク(m/Z=854、988、1122、1256、1390、1524、1658、1792)が観測された。ピーク強度としては、リチウム原子内包フラーレンC60による実施例と同様、1付加体から5付加体にかけて順次ピーク強度が増加し、6付加体のピーク強度が5付加体よりもやや低く、7付加体以降は急激に強度が低くなる傾向を示した。
また、赤外吸収スペクトルを測定したところ、2846および2904cm−1にアダマンチリデン基に特徴的なC−H結合の吸収があり、アダマンチリデン基の存在が認められた。一方、一方、空のフラーレンC60に特徴的な526、574、1180、1427cm−1の4本のピークのセットは顕著には観測されなかった。
二硫化炭素を溶媒として1H−NMR測定を行なったところ、1.88,2.02,2.11,2.67,3.52ppmに鋭いピークが、1.3−3.0ppmにはブロードなピークが観測された。
二硫化炭素を溶媒としてUV測定を行なったところ、図19に示されるようにフラーレンC60に特徴的な450〜550nmの吸収特性に関連すると認められる吸収が認められた。また、700nm以降の吸収は極めて少なく、この点も内包フラーレンクラスターを出発物質とした誘導体と異なる結果となった。
質量分析結果では5付加体がもっとも強いピークを示したことから、5付加体が100%であると仮定すると、収率は66.6%(128.3mg/1390g・mol−1/138μmol)であった。
12 空のフラーレン
13、14、21 内包フラーレンクラスター
31、32、33、34、35、36、37、38、39 クラスターの質量ピーク
301 真空容器
302 真空ポンプ
303 電磁コイル
304 アルカリ金属オーブン
305 アルカリ金属蒸気導入管
306 ホットプレート
307 プラズマ流
308 フラーレンオーブン
309 フラーレン蒸気導入管
310 堆積基板
311 堆積膜
312 基板バイアス電源
Claims (10)
- 上記式(I)のRがアダマンチリデン基、ノルボルニリデン基、クアドリシクラニリデン基、ビシクロオクタンイリデン基の中から選択された基であることを特徴とする請求項1記載のアルカリ金属を内包するフラーレンベース材料誘導体。
- 上記式(I)のAFが、アルカリ金属原子内包フラーレン類を一個以上含むフラーレン類のクラスターである内包フラーレンクラスターを表し、前記フラーレン類がC 60 及び/又はC 70 であることを特徴とする請求項2記載のアルカリ金属を内包するフラーレンベース材料誘導体。
- 上記式(I)のAFは、常温における溶解度が、二硫化炭素に対して1mg/mL未満、かつ1−クロロナフタレンに対して1mg/mL以上である請求項1乃至3のいずれか1項記載のアルカリ金属を内包するフラーレンベース材料誘導体。
- 常温での溶解度が、ヘキサンに対して0.1mg/mL未満、かつ二硫化炭素に対して2mg/mL以上である請求項1乃至4のいずれか1項記載のアルカリ金属を内包するフラーレンベース材料誘導体。
- 上記式(I)のAFは、アルカリ金属イオンを含むプラズマをフラーレン類に照射して得られる生成物を水洗したのち、クロロナフタレン類を溶媒とする抽出液から再沈法によって未反応フラーレン類を除去して得られる組成物である請求項1乃至5のいずれか1項記載のアルカリ金属を内包するフラーレンベース材料誘導体。
- アルカリ金属イオンを含むプラズマをフラーレン類に照射して得られる生成物(A0)に基づくアルカリ金属内包フラーレン類を含む組成物(A)がアルキリデン基と結合してなり、前記アルキリデン基が架橋環構造を有し、前記アルキリデン基において前記(A)と結合する炭素に隣接する炭素は架橋環構造の橋頭をなすアルカリ金属を内包するフラーレンベース材料誘導体であって、
前記(A)は、前記(A0)を水洗したのちクロロナフタレン類を溶媒として抽出し、その抽出液から再沈法によって未反応フラーレン類を除去することで得られ、常温での溶解度が、ヘキサンに対して0.1mg/mL未満であって、かつ二硫化炭素に対して2mg/mL以上であることを特徴とするアルカリ金属を内包するフラーレンベース材料誘導体。 - 前記アルキリデン基が、アダマンチリデン基、ノルボルニリデン基、クアドリシクラニリデン基、ビシクロオクタンイリデン基の中から選択された基であることを特徴とする請求項7記載のアルカリ金属を内包するフラーレンベース材料誘導体。
- 前記(A)と結合するアルキリデン基数は8以下である請求項7または8のいずれか1項記載のアルカリ金属を内包するフラーレンベース材料誘導体。
- 前記フラーレン類が、C 60 及び/又はC 70 であることを特徴とする請求項7乃至9のいずれか1項記載のアルカリ金属を内包するフラーレンベース材料誘導体。
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