JP5065597B2 - フラーレンベース材料の製造装置、及び、製造方法 - Google Patents
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フラーレンベース材料、例えば、内包フラーレンは、フラーレンに、アルカリ金属などの内包対象原子を内包した炭素クラスターで、エレクトロニクス、医療などへの応用が期待される材料である。内包フラーレンの製造方法としては、レーザー蒸発法、アーク放電法、イオン注入法、プラズマ照射法などの方法がある。
フラーレンは一般に無極性溶媒(トルエン、ベンゼンなど)に可溶であり、極性溶媒(水、アルコールなど)に不溶性か難溶性を示す。一方、内包フラーレン、例えば、Li@C60はトルエンに対し難溶性を示す。内包フラーレンの生成物を粉末状にし、トルエンに混合攪拌した後、フィルターで濾過すると、生成物に含まれる空のフラーレンの多くがトルエンに溶解し、トルエンに溶けにくいLi@C60がフィルター内に残渣物として残るので、Li@C60を精製することができる。
液体クロマトグラフィーは、有機化学の分野で頻繁に使用される分離精製方法である。液体クロマトグラフィー(オープンカラム液体クロマトグラフィー又は高速液体クロマトグラフィー(HPLC))では、分離対象物質を溶媒(移動層)と共にカラム(固定相)の中を移動させる。分離対象物質と不純物で、固液界面でのカラムとの相互作用の違いにより溶出時間が異なる性質を利用して、分離対象物質と不純物を分離する。(非特許文献1)
(2)直流電圧を電極に印加して電気泳動を行うことにより、イオン性のフラーレンベース材料を高い効率で分離精製できる。
(3)交流電圧を電極に印加して電気泳動を行うことにより、分極性のフラーレンベース材料を高い効率で分離精製できる。
(4)電気泳動の前にフラーレンベース材料を入れた泳動液を超音波振動で攪拌することにより、フラーレンベース材料が泳動液中に均一に分散するので、電極上に集積するフラーレンベース材料が増え、フラーレンベース材料の回収効率が向上する。
(5)電気泳動と同時に泳動液を超音波振動で攪拌し続けることにより、電気泳動中のフラーレンベース材料の沈殿を防止でき、フラーレンベース材料の回収効率が向上する。
(6)電気泳動の前に水又は酸による処理などの前処理を行い、未反応の反応対象原子を除去することにより、不要なイオンがフラーレンベース材料と同時に電極上に集積することを防止できる。
(7)フラーレンベース材料を泳動液に分散して電気泳動により該フラーレンベース材料を分離精製できるので、溶媒に溶けにくいLi@C60、Li@C70、C59N、又はC58BNなどエレクトロニクスや医療分野での応用が期待される工業材料の効率的な製造が可能になる。
(8)C60、C70又はこれらの混合フラーレンは、他の高次フラーレンと比較して入手が容易でかつ安価である。
本明細書中で、「フラーレン」とは、Cn(n=60, 70, 76, 78・・・)で示される中空の炭素クラスター物質であり、例えば、C60やC70を挙げることができる。また、「フラーレンベース材料」とは、フラーレンをベースにして製造した材料のことであり、内包フラーレン、ヘテロフラーレン、化学修飾フラーレン、フラーレン重合体、フラーレンポリマーを含むものとする。
「内包フラーレン」とは、篭状のフラーレン分子の中空部に原子が一個又は複数個閉じ込められたフラーレンのことであり、フラーレンに内包される原子としては、Li、Naなどのアルカリ金属、Ca、Srなどのアルカリ土類金属、Fe、Coなどの遷移金属、Fなどのハロゲン元素が挙げられる。
「ヘテロフラーレン」とは、フラーレン分子を構成する一つ又は複数の炭素原子を炭素以外の原子で置き換えたフラーレンのことであり、炭素原子を置換する原子としては、窒素、ボロンが挙げられる。
「反応対象原子」とは、フラーレンと反応してフラーレンベース材料を生成する原料となる原子のことであり、例えば、内包フラーレンにおける内包対象原子、ヘテロフラーレンにおける置換原子が該当する。
また、原料となるフラーレンとして、混合フラーレンを用いることも可能である。「混合フラーレン」とは、種類の異なる複数のフラーレンが混合した炭素クラスター物質のことである。抵抗加熱法やアーク放電法でフラーレンを製造する場合、生成されたフラーレンの中で、重量比にして、70〜85%がC60、10〜15%がC70、残りがC76、C78、C84などの高次フラーレンとなる。燃焼法によるフラーレンの製造においても、C60、C70の重量比は高次フラーレンよりも大きい。従って、C60、C70は、他の高次フラーレンと比較して入手が容易でかつ安価である。また、C60とC70からなる混合フラーレンも、フロンティアカーボンなどから市販されており、容易に入手してフラーレンベース材料の製造に利用することができる。
さらに、原料となるフラーレンには、酸化フラーレンを含むものとする。酸化フラーレンは、フラーレンをプラズマ処理し、例えば内包フラーレンなどのフラーレンベース材料を製造するときに大量に合成される副生成物であり、これを再利用して、産業上より価値の高いフラーレンベース材料を製造することが可能である。
「空のフラーレン」とは、フラーレン分子を構成する原子が全て炭素原子から構成されており、フラーレン分子の中空部に原子が内包されていないフラーレンのことである。
「モノマー」とは、重合体の構成単位となる分子で、他の分子と重合していない分子(単量体)のことである。例えば、フラーレンC60、内包フラーレンLi@ C60はモノマーである。
「ダイマー」とは、2個のモノマーが重合又は結合した分子であり、(C60)2、(Li@ C60)2、(C60)-( Li@ C60)はダイマーである。
「トリマー」とは、3個のモノマーが重合又は結合した分子であり、(C60)3、(Li@ C60)3、(C60) (Li@ C60)2、(C60)2 (Li@ C60)はトリマーである。
「精製物」とは、精製を行い、純度を向上したフラーレンベース材料のことを言う。純度が100%でない場合も含め、精製物と言う。
本発明に係るフラーレンベース材料は、例えば、真空容器中で加熱した熱電離プレートに対し反応対象原子蒸気を噴射してプラズマ流を発生させ、発生したプラズマ流をプラズマ流の下流に配置した堆積基板に照射し、フラーレンベース材料を堆積させる方法により製造可能である。
図4に示す装置で生成した堆積膜を堆積基板から剥離し、すりつぶして粉末状にする。堆積膜は、フラーレンベース材料以外に空のフラーレン、未反応の反応対象原子などの不純物を含む。反応対象原子として、特に、アルカリ金属又はアルカリ土類金属を用いた場合は、泳動液中でイオン化したときに、フラーレンベース材料及び反応対象原子はいずれも正イオンになりやすい。従って、本発明に係る電気泳動を用いた精製を行う前に、予め、水又は酸による処理を行い、未反応の反応対象原子を除去しておくのが好ましい。反応対象原子は水又は酸に溶解しやすいのに対し、フラーレンベース材料は水又は酸に溶解しにくいので、水又は酸による処理を行うことにより反応対象原子を選択的に除去することができる。予め反応対象原子を除去しておくことにより、電気泳動による分離精製工程において、電極上で回収されるフラーレンベース材料の純度を向上することが可能になる。
図1は、本発明のフラーレンベース材料を分離精製する精製装置の断面図である。
精製装置は、容器1、容器1に取り付けた超音波振動用の圧電体5、圧電体5を駆動する電源6、容器1内に対向して配置した2個の電極3、4、電極3、4に直流又は交流電圧を印加する電源9により構成される。精製は、容器1に泳動液2を入れて、泳動液2の中にフラーレンベース材料生成物の粉末7、8を入れる。超音波振動で泳動液2を攪拌して、泳動液2中に粉末を構成するフラーレンベース材料分子7と空のフラーレンなどの不純物8を分散させる。電極3、4間に直流電圧又は交流電圧を印加して、電気泳動を行う。電気泳動中には、超音波振動を停止してもよいし、振動を続けてもよい。
泳動液としてはフラーレンベース材料生成物を構成するカーボン物質混合物を分散でき、カーボン物質混合物がその液中で電気泳動する溶媒であれば何でも利用できる。該溶媒としては、水性溶媒や有機溶媒又はそれらの混合溶媒が利用でき、例えば、水、酸性溶液、アルカリ性溶液、アルコール、エーテル、石油エーテル、ベンゼン、酢酸エチル、クロロホルム等公知の溶媒が利用できる。より具体的には、イソプロピルアルコール(IPA)、アセトニトリル、エチルアルコール、アセトン、トルエン等の汎用の有機溶媒が利用できる。
図2(a)乃至(c)は、直流電気泳動によりフラーレンベース材料を精製する本発明の製造方法に係る工程順断面図である。
図3(a)乃至(c)は、交流電気泳動によりフラーレンベース材料を精製する本発明の製造方法に係る工程順断面図である。
Liを内包した内包フラーレンの製造に、円筒形状のステンレス製容器の周囲に電磁コイルを配置した構造の、図4に示す構成の製造装置を用いた。使用原料であるLiは、アルドリッチ製の同位体に関し未精製のLiを用い、また、使用原料であるC60は、フロンティアカーボン製のC60を用いた。真空容器31を真空度4.2×10-5Paに排気し、電磁コイル33により、磁場強度0.2Tの磁界を発生させた。内包原子昇華オーブン36に固体状のLiを充填し、480℃の温度に加熱してLiを昇華させ、Li ガスを発生させた。発生したLi ガスを500℃に加熱したガス導入管37を通して導入し、2500℃に加熱した熱電離プレート35に噴射した。Li蒸気が熱電離プレート35表面で電離し、Liの正イオンと電子からなるプラズマ流が発生した。さらに、発生したプラズマ流に、フラーレンオーブン38で610℃に加熱、昇華させたC60蒸気を導入した。プラズマ流と接触する堆積基板40に+10Vのバイアス電圧を印加し、堆積基板40表面に内包フラーレンを含む薄膜を堆積した。約1時間の堆積を行い、厚さ0.9μmの薄膜が堆積した。
堆積基板上に堆積した薄膜を堆積基板から剥離して、粉末状にした内包フラーレン生成物(約5mg)を、500mlの希塩酸に混合し、超音波攪拌を10分間おこなった。攪拌後、常温で1時間静置し、メンブレンフィルターで濾過し、フィルターに残った残渣物を回収した。回収した残渣物を乾燥させ、すりつぶして生成物の粉末を約4mg得た。
希塩酸処理により、フラーレンに内包されなかったLiを除去した生成物の粉末を、図1に示す精製装置を用いて、AC電気泳動法により分離精製し、高純度のLi内包フラーレンを回収した。
精製装置の電極を泳動液から取り出して乾燥させ、電極上に堆積した茶褐色の物質を剥離し、物質Aとして回収した。また、泳動液をメンブレンフィルターで濾過して、フィルターに残った黒褐色の残渣物を乾燥させ、物質Bとして回収した。回収した物質Aと物質Bに対しレーザー脱離質量分析により組成分析を行った。物質Aでは、質量数727のピークが質量数720のピークに対し、相対強度95:5の割合で現れた。質量数727のピークはLi@C60に対応し、質量数720のピークはC60に対応するので、精製装置により純度95%のLi内包フラーレンが精製できたことが確認された。一方、物質Bでは、質量数727のピークが質量数720のピークに対し、相対強度10:90の割合で現れた。物質Bの中に含まれるLi内包フラーレンの量が少ないことが確認でき、本発明に係る精製方法によりLi内包フラーレンを効率的に回収できることが確認できた。
2、11、21 有機溶媒
3、4、12、13、22、23 電極
5、16、26 圧電体
6 超音波駆動用電源
7、14、24 内包フラーレン
8、15、25 空のフラーレン
9 分離精製用電源
31 真空容器
32 真空ポンプ
33 電磁コイル
34 加熱フィラメント
35 熱電離プレート
36 反応対象原子昇華オーブン
37 反応対象原子蒸気導入管
38 フラーレン昇華オーブン
39 再昇華用円筒
40 堆積基板
41 バイアス電圧印加電源
Claims (10)
- 泳動液を入れる容器と、前記泳動液の攪拌手段と、前記容器内で互いに向き合う位置に配置された複数の電極と、前記電極間に電圧を印加する電源とを有し、前記泳動液中に分散させたフラーレンベース材料を含む物質から電気泳動によりフラーレンベース材料を分離精製することを特徴とするフラーレンベース材料の製造装置。
- 前記電極間に印加する前記電圧が、直流電圧又は交流電圧であることを特徴とする請求項1記載のフラーレンベース材料の製造装置。
- 前記攪拌手段が超音波振動を発生する圧電体であることを特徴とする請求項1又は2のいずれか1項記載のフラーレンベース材料の製造装置。
- 泳動液の攪拌により前記泳動液中にフラーレンベース材料を含む物質を分散させ、同時に、前記泳動液中で複数の電極間に電圧を印加する電気泳動によりフラーレンベース材料を分離精製することを特徴とするフラーレンベース材料の製造方法。
- 超音波振動により前記泳動液を攪拌することを特徴とする請求項4記載のフラーレンベース材料の製造方法。
- 前記電気泳動の前に、前記フラーレンベース材料を含む物質から未反応の反応対象原子を除去する前処理を行うことを特徴とする請求項4又は5のいずれか1項記載のフラーレンベース材料の製造方法。
- 前記前処理が、水又は酸による処理であることを特徴とする請求項6記載のフラーレンベース材料の製造方法。
- 前記フラーレンベース材料が、内包フラーレン又はヘテロフラーレンであることを特徴とする請求項4乃至7のいずれか1項記載のフラーレンベース材料の製造方法。
- 前記フラーレンベース材料の原料となるフラーレンが、C 60 、C 70 又はこれらの混合フラーレンであることを特徴とする請求項8記載のフラーレンベース材料の製造方法。
- 前記フラーレンベース材料が、Li@C 60 、Li@C 70 、C 59 N、又はC 58 BNであることを特徴とする請求項9記載のフラーレンベース材料の製造方法。
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