JP3493533B2 - フラーレン類の分離精製方法 - Google Patents

フラーレン類の分離精製方法

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Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、炭素の同素体であるフ
ラーレン類の分離精製方法に関する。
【0002】
【従来の技術】フラーレン類とは、1985年に発見さ
れた炭素の同素体であり、炭素数60のC60フラーレ
ン、炭素数70のC70フラーレン、それ以上の炭素数の
高次フラーレン等が単離されており、固体潤滑材、光伝
導センサー、触媒、超電導材料等の各種の分野における
利用が期待されている。
【0003】従来のフラーレン類の合成方法は、主とし
て、カーボン電極アーク法により行われており、例えば
Ar、He等の不活性ガス雰囲気の真空装置中でカーボ
ン電極間にアーク放電を生じさせて炭素を蒸発させ、こ
れを急冷することにより、15%程度のフラーレン類を
含有する、いわゆる炭素ススが得られている。この炭素
スス中には、C60フラーレン、C70フラーレン、それ以
上の炭素数の高次フラーレン等が含まれており、これか
ら各フラーレン成分を分離する方法としては、トルエ
ン、二硫化炭素等の有機溶媒を用いて炭素ススからフラ
ーレン類を抽出して、蒸発濃縮した後、再びトルエン、
シクロヘキサン等の溶媒を用いてカラムクロマトグラフ
ィーで分離する方法が一般的である。
【0004】また、カリックスアレーンと称される化合
物を用いて、トルエン中でC60フラーレンとの錯体を形
成して沈殿を生じさせた後、この沈殿物をクロロホルム
中に入れて、錯体を分解させてフラーレンC60を沈澱さ
せ、これを分離回収することによって、C60フラーレン
を単離する方法も知られている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、これら
の従来のフラーレンの分離精製法は、トルエン、二硫化
炭素等の有害な溶剤を用いて湿式で行われており、抽出
と濾過に時間を要し、極めて効率の悪い方法であり、コ
ストが高くなるという欠点がある。また、抽出に用いた
溶剤の回収や抽出後に生じる溶剤を含んだ大量のすすの
処理も問題となる。
【0006】本発明の主な目的は、安全且つ短時間にフ
ラーレンを分離精製することのできる、簡易なフラーレ
ン類の分離精製方法を提供することである。
【0007】
【課題を解決するための手段】本発明者は、上記した如
き目的を達成するために、鋭意研究を行った結果、カー
ボン電極アーク法等の従来公知の方法で得られたフラー
レン含有炭素スス、又はこのフラーレン含有炭素ススか
らのフラーレン類の抽出濃縮物を原料とし、これを真空
蒸着する方法によれば、C60フラーレン含有率の高いフ
ラーレン類を得ることが出来、この際、原料を入れた加
熱用ルツボに微細な開口部を設けた蓋をする場合には、
60フラーレン含有率の非常に高いフラーレン類を容易
に得ることができることを見出し、ここに本発明を完成
するに至った。
【0008】即ち、本発明は、フラーレン含有炭素ス
ス、又はフラーレン含有炭素ススからのフラーレン類の
抽出濃縮物を原料として、真空蒸着することを特徴とす
るフラーレン類の分離精製方法に係る。
【0009】本発明の方法では、原料としては、従来公
知の方法であるカーボン電極アーク法、レーザー蒸発
法、熱分解法などの方法で得られたフラーレン含有炭素
ススを用いることができる。このフラーレン含有炭素ス
スは、フラーレン類を10〜15重量%程度含有してお
り、このフラーレン類は、通常、C60フラーレンを主成
分とし、C60フラーレンの10分の1程度のC70フラー
レンと更に微量の高次フラーレンを含むものである。ま
た、トルエン、二硫化炭素、ベンゼン、キノリン、シク
ロヘキサン等の溶剤を用いて、上記フラーレン含有炭素
ススからフラーレン類を抽出した後、これを蒸発濃縮し
て、フラーレン類を分離取得した、いわゆる抽出フラー
レンを原料として用いることもできる。
【0010】本発明のフラーレン類の分離精製方法は、
上記フラーレン含有炭素スス、又は抽出フラーレンを原
料として真空蒸着する方法であり、これによって原料中
に存在するフラーレン類におけるC60フラーレン/C70
フラーレン比よりも、C60フラーレン含有率の高いフラ
ーレン類を得ることができる。この方法では、特に、フ
ラーレン含有炭素ススを原料とする場合には、抽出等を
行うことなく、炭素スス中に存在するフラーレン類より
もC60フラーレン含有率の高いフラーレン類を、直接炭
素ススから分離取得することができる点で有利である。
【0011】真空蒸着の条件としては、原料とするフラ
ーレン含有炭素スス、又は抽出フラーレンを蒸着できる
条件であればよく、通常、真空度10-1〜10-5Pa程
度、加熱温度350〜700℃程度の条件で真空蒸着を
行えばよい。
【0012】真空蒸着装置としては、特に限定はなく、
通常の真空蒸着装置を用いることができ、例えば、ルツ
ボを加熱するための加熱ヒーターを設置し、上部に耐熱
性基板等からなる蒸着部を設けた真空容器に排気装置を
接続した構造の真空蒸着装置等を用いることができる。
【0013】本発明方法では、加熱用ルツボとしては、
蓋を有しない上部が解放された構造の通常の加熱用ルツ
ボを用いることができ、この場合にも、原料に含まれる
フラーレン類と比べてC60フラーレン含有率の高いフラ
ーレン類を得ることが可能であるが、特に、直径0.1
mm〜5mm程度の開口部を有する蓋をしたルツボを用
いることが好ましく、0.2mm〜2mm程度の開口部
を有する蓋をしたルツボを用いることがより好ましい。
この様な範囲の開口部を有するルツボを用いることによ
って、原料としたフラーレン含有炭素スス、又は抽出フ
ラーレンに含まれるフラーレン類と比べて、C60フラー
レン含有率が非常に高いフラーレン類を得ることができ
る。本発明方法によれば、加熱用ルツボの開口径を小さ
くするに従って、C60フラーレンの含有率を高くするこ
とができ、蒸着条件と開口径を適切に設定することによ
って、C60フラーレン量が99重量%を上回る高純度の
フラーレンを得ることも可能である。
【0014】また、ルツボの開口径が小さくなると、蒸
着速度が遅くなって、処理効率が低下するので、単一の
開口部を有するルツボに限られず、処理速度を早くする
ために、複数の開口部を有するルツボを用いることもで
きる。このような複数の開口部を有するルツボを用いる
場合には、これと同一の開口径の開口部を1個有するル
ツボを用いる場合と比べて、蒸着物中のC60フラーレン
の割合が低下するが、処理速度を早くすることができる
ので、要求されるフラーレンの純度、処理速度等に応じ
て、適宜、ルツボの開口径、開口部の数等を決めればよ
い。
【0015】また、上記した蒸着処理後、ルツボ中に残
存する未蒸発物中には、C70フラーレン及びそれ以上の
炭素数の高次フラーレンが濃縮されており、蒸着処理を
繰り返すことにより、炭素数70以上の高次フラーレン
を分離することもできる。よって、本発明方法は、高次
フラーレンの分離精製方法としても有用である。
【0016】また、本発明では、加熱用ルツボからの蒸
発物を同一の真空容器内にある第二の加熱用ルツボ中に
ルツボ底部から導入し、この第二の加熱用ルツボを上記
した条件、即ち、真空度10-1〜10-5Pa程度、加熱
温度350〜700℃程度に維持して、第二の加熱用ル
ツボからの蒸発物を蒸着させることによって、加熱用ル
ツボを1個だけ用いた場合と比べて、蒸着物中のC60
ラーレンの純度をより向上させることができる。この場
合には、第一の加熱用ルツボ及び第二の加熱用ルツボ
に、上記したような適度な開口部を有する蓋をすること
によって、C60フラーレン含有率がより高いフラーレン
類を得ることができる。また、加熱用ルツボを2段に接
続する方法だけでなく、加熱用ルツボを3段以上の多段
に接続することも可能であり、この様に多段に接続する
ことによって、蒸着物中のC60フラーレンの純度をより
向上させることも可能である。
【0017】
【発明の効果】本発明のフラーレンの分離精製方法は、
乾式法によってフラーレンを分離精製する方法であり、
従来の有機溶剤を用いる方法と比べて、安全且つ短時間
に処理することができ、大量分離精製法として有効な方
法である。
【0018】
【実施例】以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説
明する。
【0019】実施例1 カーボン電極アーク法で合成したフラーレン含有炭素ス
スを原料として用いた。この炭素ススを下記の条件で高
速液体クロマトグラフィー(HPLC)によりC70フラ
ーレンとC60フラーレンに分離して、両者の比率を求め
たところ、C70フラーレン/C60フラーレン(重量比)
=0.123であった。
【0020】HPLC分析条件 カラム:COSMOSIL(4.6mmφ×150mm) 移動相:トルエン 流速:1.0ml/分 カラム温度:30℃ 検出波長:330nm圧力:37kg/cm 2 高純度黒鉛製の加熱用ルツボ(内径14mmφ、深さ1
5mm)を用い、これに原料のフラーレン含有スス約1
00mgを充填した。このルツボに、直径0.2mm、
0.5mm、1mm又は2mmの開口部を1個有する4
種類の蓋をした各々の場合について、以下の方法で蒸着
を行った。
【0021】図1に示す真空蒸着装置を用い、加熱用ヒ
ーター部分1に加熱用ルツボを置き、ルツボ−基板間距
離160mmとなるようにスライドガラス製の蒸着用基
板2を設置した。
【0022】真空蒸着装置の圧力が10-5Paとなるま
で真空排気した後、ルツボを500℃に加熱して、1時
間蒸着を行い、蒸着用基板2に付着したフラーレン類を
回収した。また、加熱温度を600℃にすること以外は
同様にして蒸着を行い、蒸着用基板2に付着したフラー
レン類を回収した。
【0023】得られたフラーレンを上記と同様の条件で
HPLCで分離し、C70フラーレンとC60フラーレンの
重量比を求めた。使用したルツボの蓋の開口径とC70
ラーレン/C60フラーレン重量比との関係のグラフを図
2に示す。
【0024】図2に示す結果から、ルツボの開口径が小
さくなるに従って、C60フラーレン含有率の高いフラー
レン類が得られることが判る。尚、加熱用ルツボの蓋を
開けて500℃で処理した場合には、C70フラーレン/
60フラーレン(重量比)=0.08のフラーレンが得
られた。
【0025】また、蒸着後のルツボ内の残留物を上記と
同様の条件でHPLCで分離して、C70フラーレンとC
60フラーレンの重量比を求めた。使用したルツボの蓋の
開口径と残留物中のC70フラーレン/C60フラーレン重
量比との関係のグラフを図3に示す。
【0026】図3から明らかな様に、ルツボ中の残留物
では、蒸着前のフラーレン含有炭素ススと比べて、C70
フラーレンの割合の増加が認められた。また、このルツ
ボ残留物のHPLC分析により、原料としたフラーレン
含有炭素ススでは、含有量が非常に少ないために存在が
ほとんど認められなかった炭素数が70を上回る高次フ
ラーレンについて、含有割合の増加が認められた。これ
らの結果から、本発明方法は、炭素数70以上の高次フ
ラーレンの濃縮方法としても有用であることが判る。
【0027】実施例2 実施例1において原料としたフラーレン含有炭素スス
を、ソックスレー抽出器を用いて、トルエンを抽出溶媒
として130℃で環流抽出した後、真空蒸発器(70〜
80mmHg、50〜55℃)により抽出液からトルエ
ンを分離して抽出フラーレンを得た。この抽出フラーレ
ンを原料として用いること以外は、実施例1と同様にし
て真空蒸着を行った。この抽出フラーレンにおけるC70
フラーレンとC60フラーレンの重量比は、C70フラーレ
ン/C60フラーレン(重量比)=0.139であった。
蒸着用基板に付着したフラーレンについて、実施例1と
同様にしてC70フラーレンとC60フラーレンの重量比を
求めた。使用したルツボの蓋の開口径とC70フラーレン
/C60フラーレン重量比との関係のグラフを図2に示
す。この結果から、ルツボの開口径が小さくなるに従っ
て、C60フラーレンの割合の多いフラーレンを得ること
ができ、C60フラーレンの純度が99%以上のものを得
ることも可能であることが判る。
【0028】また、加熱用ルツボに直径0.5mmの開
口部を37個開けた蓋をして、500℃で蒸着した場合
には、C70フラーレン/C60フラーレン(重量比)=
0.07のフラーレン類が得られ、加熱用ルツボの蓋を
開けて500℃で蒸着した場合には、C70フラーレン/
60フラーレン(重量比)=0.115のフラーレンが
得られた。
【0029】また、ルツボ残留物におけるC70フラーレ
ン/C60フラーレン重量比と使用したルツボの蓋の開口
径との関係を実施例1と同様にして求めた結果を図3に
示す。この結果から明らかな様に、蒸着前の抽出フラー
レンと比べて、C70フラーレンの割合の増加が認められ
た。また、このルツボ残留物のHPLC分析により、原
料とした抽出フラーレンでは、含有量が非常に少ないた
めに存在がほとんど認められなかった炭素数が70を上
回る高次フラーレンについて、含有割合の増加が認めら
れた。これらの結果から、本発明方法は、炭素数70以
上の高次フラーレンの濃縮方法としても有用であること
が判る。
【0030】実施例3 実施例2で原料として用いたものと同様の抽出フラーレ
ンを原料とし、図4に示す真空蒸着装置を用いて真空蒸
着を行った。図4の真空蒸着装置では、第一の加熱用ヒ
ーター部3に原料の抽出フラーレンを入れた加熱用ルツ
ボを置き、このルツボに開口部を有する蓋をし、この蓋
の開口部と同一内径を有する黒鉛製の接続用パイプ4で
第二の加熱用ヒーター部5にある加熱用ルツボの底部に
接続し、第二の加熱用ヒーター部のルツボと基板との距
離を160mmとなるようにスライドガラス製の蒸着用
基板6を設置した。
【0031】第一の加熱用ヒーター部3と第二の加熱用
ヒーター部5にある加熱用ルツボには、同一の開口径を
有する蓋をして蒸着を行い、開口径が0.2mm、0.
5mm、1mm又は2mmの開口部を1個有する4種類
の蓋をした場合について実験を行った。
【0032】真空蒸着装置の圧力は、10-5Paとし、
第一の加熱用ヒーター部3と第二の加熱用ヒーター部5
にある加熱用ルツボの温度は同一温度とし、500℃及
び600℃の2種類の加熱温度で1時間蒸着を行った。
【0033】蒸着用基板に付着したフラーレンについ
て、実施例1と同様にしてC70フラーレンとC60フラー
レンの重量比を求めた。使用したルツボの蓋の開口径と
70フラーレン/C60フラーレン重量比との関係のグラ
フを図5に示す。
【0034】この結果から、ルツボの開口径が小さくな
るに従って、C60フラーレンの割合の多いフラーレンを
得ることができることが判る。特に、実施例2におけ
る、加熱用ルツボを1個用いた場合の結果と比較するこ
とによって、ルツボを多段に接続して処理する方法によ
れば、一段処理の場合と比べてC60フラーレンをより高
純度化することが出来、この方法はフラーレンを効率よ
く分離精製する方法として有用であることが判る。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例1で用いた真空蒸着装置の一例の概略
図。
【図2】蒸着物中のC70フラーレン/C60フラーレン重
量比とルツボ開口径との関係を示すグラフ。
【図3】ルツボ残留物中のC70フラーレン/C60フラー
レン重量比とルツボ開口径との関係を示すグラフ。
【図4】実施例3で用いた真空蒸着装置の一例の概略
図。
【図5】実施例3における蒸着物中のC70フラーレン/
60フラーレン重量比とルツボ開口径との関係を示すグ
ラフ。
【符号の説明】
1 加熱用ヒーター部 2 蒸着用基板 3 第一の加熱用ヒーター部 4 接続パイプ 5 第二の加熱用ヒーター部 6 蒸着用基板。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (72)発明者 夏川 一輝 大阪府堺市赤坂台5丁28−5 (72)発明者 後藤 繁雄 兵庫県姫路市飾磨区中島3001番地 第一 燃料工業株式会社内 (72)発明者 西田 勝美 兵庫県姫路市飾磨区中島3001番地 第一 燃料工業株式会社内 (56)参考文献 特開 平5−116922(JP,A) 特開 平5−254989(JP,A) Kingsuk MUKHOPADH YAY et al,Fulleren s C60 from camphor − A novel approac h,CURRENT SCIENCE, 1994年10月25日,Vol.67, No. 8,p.602−604 (58)調査した分野(Int.Cl.7,DB名) C01B 31/02 101 JICSTファイル(JOIS)

Claims (1)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】フラーレン含有炭素スス、又はフラーレン
    含有炭素ススからのフラーレン類の抽出濃縮物を原料と
    して、直径0.2〜2mmの開口部を有する蓋をした加
    熱用ルツボ中に原料を入れて真空蒸着することを特徴と
    するフラーレン類の分離精製方法。
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US6896864B2 (en) 2001-07-10 2005-05-24 Battelle Memorial Institute Spatial localization of dispersed single walled carbon nanotubes into useful structures
WO2003076335A1 (en) * 2002-03-13 2003-09-18 Mitsubishi Chemical Corporation Process for production of fullerenes and method for separation thereof

Non-Patent Citations (1)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Title
Kingsuk MUKHOPADHYAY et al,Fullerens C60 from camphor − A novel approach,CURRENT SCIENCE,1994年10月25日,Vol.67, No.8,p.602−604

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