JP2004107138A - 水素ガス生成装置 - Google Patents
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Abstract
【課題】水素使用装置からの廃熱を利用してシステム全体のエネルギー効率を向上できると共に、小型、軽量でかつ高純度の水素ガス生成量を向上させた水素ガス生成装置を提供する。
【解決手段】内壁に触媒が設けられた筒状体12および触媒にデカリンを供給する供給孔を有する管状の供給装置を備えた複数の脱水素反応器5aが筒状体12の外側から前記触媒を加熱する加熱媒体7を介在させて設けられ、加熱触媒上でデカリンを脱水素反応させて得た水素ガスを分離手段で分離する水素ガス生成装置である。
【選択図】 図2
【解決手段】内壁に触媒が設けられた筒状体12および触媒にデカリンを供給する供給孔を有する管状の供給装置を備えた複数の脱水素反応器5aが筒状体12の外側から前記触媒を加熱する加熱媒体7を介在させて設けられ、加熱触媒上でデカリンを脱水素反応させて得た水素ガスを分離手段で分離する水素ガス生成装置である。
【選択図】 図2
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、水素ガス生成装置に係り、特に、電気自動車や水素エンジン車等の車両に搭載可能で、かつ車両に搭載された燃料電池や水素エンジンに水素ガスを供給することができる水素ガス生成装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来の電気自動車は、車両の駆動力を得るための電源としての燃料電池、およびこの燃料電池を用いて発電を行なうための燃料である水素または水素を生成するための原燃料を搭載している。また、水素エンジンを搭載した水素エンジン車も同様に燃料源として水素、又は水素を生成するための原燃料を搭載している。
【0003】
水素を搭載する電気自動車や水素エンジン車では、水素ガスを圧縮して高圧に若しくは液状にして充填したボンベ、または水素を吸蔵する水素吸蔵合金や水素吸着材料により水素を搭載している。一方、原燃料を搭載する電気自動車では、原燃料としてのメタノールまたはガソリン等の炭化水素と、この原燃料を水蒸気改質して水素リッチガスを生成する水素生成装置とを搭載している。
【0004】
しかしながら、車両に水素を搭載する場合、高圧タンクに圧縮した状態で搭載すると、高圧タンクは大きいわりに壁厚が厚く内容積を大きくできないために水素充填量が少ない。液体水素として搭載する場合は、気化ロスがあるほか、液化に多大なエネルギーを要するため総合的なエネルギー効率の点で望ましくない。また、水素吸蔵合金や水素吸着材料では、電気自動車や水素エンジン車に必要とされる水素貯蔵密度が不充分であり、また水素の吸蔵や吸着等を制御するのが非常に困難である。また更に、水素を高圧化、液化したり、吸蔵するのに設備を別途整備する必要もある。
【0005】
一方、原燃料を搭載する電気自動車や水素エンジン車は、水素を搭載する水素エンジン車に比較して、1回の燃料補給で走行可能な距離が長いという利点を有しており、炭化水素系の原燃料は水素ガスに比較して輸送等の取り扱いが容易であるという利点も有している。また、水素は燃焼しても空中の酸素と結合して水となるだけで公害の心配がない。また更に、水素を燃焼させた場合、単位量あたりガソリンの数倍の熱を放出するため、その熱量を利用することが可能である。
【0006】
炭化水素系燃料の1つであるデカリン(デカヒドロナフタレン)は、常温では殆ど蒸気圧がゼロ(沸点が200℃近傍)で取り扱いし易いことから、原燃料としての使用の可能性が期待されている。
【0007】
デカリンの脱水素化方法としては、デカリンをコバルト、ロジウム、イリジウム、鉄、テルニウム、ニッケル、および白金の中から選ばれる少なくとも1種の遷移金属を含有する遷移金属錯体の存在下で光照射し、デカリンから水素を離脱させる方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。また、有機リン化合物のロジウム錯体の存在下、または有機リン化合物とロジウム化合物との存在下に、デカリンに光照射することによりデカリンから水素を製造する方法が知られている(例えば、特許文献2参照)。
【0008】
【特許文献1】
特公平3−9091号公報
【特許文献2】
特公平5−18761号公報
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、特に燃料電池や水素エンジンに供給する水素ガスは、供給する水素ガス中の水素濃度が高いことが要求され、上記従来の脱水素化による水素生成方法を電気自動車の燃料電池や水素エンジン等の水素使用装置に適用しようとすると、反応転化率が低く、脱水素化によって生じた脱水素生成物や未反応の炭化水素系燃料が混在するために、水素使用装置に供給しても水素分圧が低いことから高性能が得られ難いという問題があった。
【0010】
また、車載する場合には、装置全体が大きすぎたり重量がありすぎると、現実には車両などの狭い場所への搭載は困難となる。
【0011】
本発明は、上記に鑑み成されたもので、小型、軽量化が可能で、単位体積当りの脱水素反応効率を高めて高純度水素ガスの生成量を向上させることでき、水素エンジン等の水素使用装置からの廃熱の利用によってシステム全体のエネルギー効率をも向上させることができる水素ガス生成装置を提供することを目的とする。
【0012】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、本発明の水素ガス生成装置は、内壁に触媒が設けられた筒状体、及び該筒状体の内部に配置され、前記触媒に炭化水素系燃料を供給する供給孔を有する管状の供給装置を備え、供給された炭化水素系燃料を前記触媒上で脱水素反応させる脱水素反応器、並びに前記触媒を筒状体の外側から加熱する加熱媒体を備えた反応手段と、炭化水素系燃料の脱水素反応によって生じた水素ガスを分離する分離手段と、を含んで構成したものである。
【0013】
本明細書中において、炭化水素系燃料は、脱水素反応により水素を発生し得る化合物を含む燃料であり、脂環式炭化水素、脂肪族炭化水素等を含む燃料が含まれる。脂環式炭化水素には、例えば、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ジメチルシクロヘキサン、1,3,5−トリメチルシクロヘキサン等の単環式化合物、デカリン、メチルデカリン、テトラリン(テトラヒドロナフタレン)等の二環式化合物、テトラデカヒドロアントラセン等の三環式化合物、等が含まれる。脂肪族炭化水素には、2−プロパノ−ル、メタノール、エタノール等が含まれる。特に、デカリン、メチルデカリン、テトラリン、メチルテトラリンを含む燃料が好ましく、デカリンからなる燃料またはデカリンを主成分とする燃料がより好ましい。
【0014】
炭化水素系燃料から生成される脱水素生成物は、炭化水素系燃料を脱水素反応して水素を放出した後の反応生成物であり、例えば、デカリン、またはシクロヘキサンの場合には、水素と共に主として生成される、ナフタレン(若しくはテトラリン)、またはベンゼンが各々相当する。
【0015】
前記炭化水素系燃料を脱水素反応させると、水素ガスと共に、水素の放出により不飽和結合を持つ脱水素生成物が反応生成物として生成される。例えば、デカリンからなる燃料またはデカリンを主成分とする燃料を用いた場合には、デカリンの脱水素反応により、水素ガスと共に脱水素生成物としてナフタレンが生成される。そして、該脱水素生成物であるナフタレンを水素添加により水素化反応させたときには、ナフタレンの水素化物であるデカリンおよび/またはテトラリンが再生される。
【0016】
本発明では、反応手段を構成する個々の脱水素反応器内において、供給装置から噴射等により供給された炭化水素系燃料が内壁に設けられた加熱触媒上に供給されると、熱せられた触媒で脱水素を起こして水素ガスと脱水素生成物とを発生した後、分離手段で高純度の水素ガスとして分離される。分離された水素ガスは燃料電池や水素エンジン等の水素使用装置に供給される。
【0017】
このとき、反応手段を構成する脱水素反応器の筒状体内壁に設けられた触媒は、筒状体とその外側で接触する加熱媒体による熱が筒状体を通じて触媒に伝達されることによって加熱される。したがって、筒状体としては、金属物質などの熱伝導性に優れた材質で構成されるのが有効である。また、触媒反応性の点からは表面積の大きい多孔性物質(多孔性炭素)で構成されるのが望ましい。
【0018】
筒状体は、両端が開口し、断面が円形、楕円形、矩形、方形など任意の形状からなる中空体であり、開口する少なくとも一方を閉塞したり、あるいは開口端の一方若しくは両方が閉口した筒状容器を用いてもよい。中でも特に、円筒体や柱状容器が好ましい。例えば、一体成形構造のモノリス担体や、金属担体、多孔性炭素担体、セラミックス担体等の担体などで構成でき、内表面積の大きい形状のものでもよい。
【0019】
このような筒形状に触媒を設けることによって、従来の平面上に触媒を担持させる場合と比し、小型にできかつ単位体積における表面積を大きく確保することができるため、小型化と同時に水素生成量をも向上させることができる。すなわち、内表面積を大きくとれることから、装置全体における単位体積当りの水素生成効率が高められ、水素生成量(生成速度)をより向上させることができる。しかも、車載には不向きであった反応容器体積をも縮小することができる。
【0020】
筒状体は、触媒金属微粒子(触媒)を直接担持する担持体として機能させることができるが、筒状体の内壁に直接触媒を担持するのではなく、触媒金属微粒子が多孔性炭素担体等の担体に予め担持されてなる触媒を筒状体の内壁に沿って設けるようにしてもよい。但し、触媒と担体との密着性が高いほど熱伝導性が良く好ましい。筒状体をモノリス担体とする場合には、一体成形構造の担体の表面に触媒機能を持つ活性成分(触媒金属微粒子)を分散して付着、担持させたモノリス触媒として構成することができる。
【0021】
触媒を筒状体の内壁に設ける方法としては、コーティング法が好適であり、例えばPt/活性炭繊維を触媒とする場合、活性炭繊維及びPtの混合物を筒状体の内壁にそのままコーティングして固定する方法、Ptが担持された活性炭スラリーを調製しこれを吸引、スプレー噴射してコーティング(塗布)、乾燥し、窒素雰囲気中で焼成して筒状体内壁面にコートする方法、等が挙げられる。触媒の詳細については後述する。
【0022】
筒状体の内部に配置される管状の供給装置は、例えば、長尺の管形状の表面に触媒上に炭化水素系燃料を供給する供給孔を有して構成され、その長手方向が筒状体の内壁に対して略平行となるように配置される。供給装置は、筒状体内壁の触媒全面に均一に供給可能な長さとするのが望ましい。管断面の形状は、円形、楕円形、矩形、方形など任意の形状に構成できる。供給装置としては、例えば、管形状のインジェクタ(吹き付け器)などが好適であり、供給装置制御用のドライバを接続して個々の脱水素反応器ごとに噴射量を適宜コントロールすることができる。
【0023】
炭化水素系燃料は、湾曲する触媒面上に均一に液膜状態となるように供給されるのが望ましく、供給孔はその湾曲触媒面全面に液膜状態を効率よく形成し得る態様で設けられる。例えば、管中心から放射状に噴射可能なように管の任意位置に供給孔を設けることができる。また、供給孔の個数、孔径は、触媒の表面積や供給装置から触媒までの距離などに応じて適宜決定することができる。炭化水素系燃料を触媒上に液膜状態となるように供給することによって、反応転化率が高められ、脱水素反応による水素ガスを効率良く生成することができる。
【0024】
また、脱水素反応器の外側、すなわち筒状体の外側には触媒を筒状体の外側から加熱するための加熱媒体が設けられる。加熱媒体は、筒状体を加熱できればいずれの形態でもよいが、液状物が特に好ましい。液状物である加熱媒体としては、沸点400℃以上のものが適当であり、特にシリコーンオイル等が好ましい。
【0025】
反応手段は、複数の脱水素反応器を実装することが、装置における単位体積当りの水素生成効率を高める点で効果的である。この場合、例えば反応手段を構成するタンク(容器)内に複数の脱水素反応器を互いに略平行に(即ち束状に)固定配置することによって実装することができる。そして、複数の脱水素反応器の間隙に加熱媒体を介在させることによって、単一の媒体を介して複数の脱水素反応器の全てを同時にかつ均一に加熱することができる。反応手段は、例えば反応タンク(容器)として構成でき、脱水素反応器の形状や配置等に応じて、円柱状、角柱状、球状等の任意の中空形状にすることができる。
【0026】
特に液状の加熱媒体を用いて各脱水素反応器内部の触媒を加熱する場合、液状の加熱媒体が複数の脱水素反応器の間隙を循環する加熱循環系と、冷却水を循環させて前記加熱循環系の加熱媒体の液温を調節する冷却水循環系とを更に設けることができる。これにより、触媒温度が所定温度より低いときには加熱媒体を昇温し、逆に高いときには風冷された冷却水を循環させて降温して加熱媒体の液温を調節し、所望の温度範囲に制御しながら触媒を加熱することができる。このとき、脱水素を行なう触媒の加熱に利用される熱は、水素エンジンなどの水素使用装置自体の発熱で得た熱量を熱伝達して利用することができる。そのため、別途触媒を加熱するための手段が不要であり、システム全体の熱効率およびエネルギー資源のトータル効率を高めることができる。
【0027】
水素ガスを分離する分離手段には、炭化水素系燃料を貯留し、かつ貯留された炭化水素系燃料中に、前記炭化水素系燃料の脱水素反応によって生じた水素ガス及び脱水素生成物が供給されると共に、前記水素ガスを排出する排出口を備えた貯留分離タンクを用いることができる。
【0028】
この貯留分離タンクは、炭化水素系燃料と脱水素生成物とを共に貯留でき、かつ発生する水素ガスをも分離排出できるので、従来のように、水素生成用の燃料を貯留するタンクと反応生成された脱水素生成物を貯留するタンクの両方を必要とせず、またこれらタンクと別に水素ガスを分離する分離手段を併設する必要もなく、単一のタンクに統括することができる。これにより、更なる小型、軽量化が図れる。
【0029】
すなわち、貯留分離タンクには炭化水素系燃料が貯留され、そこから外部に供給され脱水素反応を経た後、再び該貯留分離タンクの炭化水素系燃料中に生成された水素ガス及び脱水素生成物が供給されると、脱水素生成物は炭化水素系燃料中への供給過程で冷却、溶解されながら貯留分離タンクの底部(下方)に沈降、貯留され、水素ガスは燃料に溶解されずに(場合により、水素ガス分離手段を介在させて)排出口から高純度に排出される。この水素ガスは水素使用装置に利用される。
【0030】
この貯留分離タンクには、脱水素生成物の拡散を抑え、かつ水素ガスを透過する分離膜を内部に設けることができる。分離膜を設けることにより、脱水素生成物が炭化水素系燃料中に拡がるのを抑制し、水素生成のために供給される炭化水素系燃料中における含有率を低く抑えることができる。水素生成のために供給される炭化水素系燃料に脱水素生成物が含まれると、相対的に脱水素反応に寄与し水素を放出する化合物(例えばデカリン)の含有比が低下して水素生成効率が低下してしまうが、分離膜を設けることによって、区画された一方の側に脱水素生成物含量の少ない炭化水素系燃料を貯留すると同時に他方の側において脱水素生成物を供給することができ、単一のタンク内で脱水素生成物と分けつつ炭化水素系燃料を貯留することができる。分離膜により区画されると、少なくとも、脱水素生成物を高濃度に含む側から他方の側への脱水素生成物の濃度分布の拡がりを抑え得る程度に仕切ることができる。
【0031】
分離膜は、貯留分離タンクの内部に略水平に設けることができ、分離膜で区画された該分離膜の下方に脱水素生成物を貯留することができる。分離膜を略水平に設けることにより、タンク内部は上下に区画されるので、水素ガスと脱水素生成物の炭化水素系燃料に対する溶解性、比重の違いを利用して、水素ガスを高純度に排出できると同時に、タンク下方において脱水素生成物を貯留することができる。また、常に水平に存在する、燃料の液面や、脱水素生成物含量の少ない炭化水素系燃料の上層部から脱水素生成物含量が多くなる下層部への濃度分布とも対応する点でも有用である。
【0032】
前記分離膜は移動可能に設けると効果的である。タンク内に分離膜を移動可能に設けると、生成された脱水素生成物の量が少ないときには、炭化水素系燃料を貯留する側の容積を大きくして満タンとなる燃料を貯留することができ、徐々に水素ガスの生成に伴って炭化水素系燃料が減少し、逆に脱水素生成物の量が増大したときには、その生成量に応じて脱水素生成物を貯留する側の容積を大きくすることで多量の脱水素生成物を貯留することができる。すなわち、炭化水素系燃料と脱水素生成物の物理的な相対量に応じた分離膜の移動により、タンクの有効利用が図れ、狭い設置場所への設置や装置全体の軽量化を達成することができる。
【0033】
本発明の水素ガス生成装置には、上記の貯留分離タンクを設ける代わりに、炭化水素系燃料を貯留する炭化水素系燃料貯留部と、炭化水素系燃料の脱水素反応により生じ、かつ水素ガスが除去された脱水素生成物を貯留する生成物貯留部とを含む複室貯留タンクを更に設けることができる。
【0034】
この場合、上記の貯留分離タンクを用いた場合のように、単一のタンクに統括することができ、車両などの限られた場所でも設置が可能となり、軽量化も図れる。また、水素ガスが除去された脱水素生成物が貯留されるので、水素ガスを排出する排出口を設ける必要がない。
【0035】
本発明の水素ガス生成装置には、触媒及び触媒を加熱する加熱器を備えると共に、脱水素生成物及び水素ガスが供給され、脱水素生成物を加熱された触媒上で水素化反応させる再生タンクを更に設けることができる。再生タンク内で、脱水素生成物を水素添加によって水素化反応させて再生したときには、脱水素生成物の水素化物である炭化水素に再生される。
【0036】
本発明における再生には、例えば、ナフタレンまたはベンゼンからそれぞれデカリンまたはシクロヘキサンを再生することのほか、二環式若しくは三環式の化合物の場合には、水素化が未完の化合物を再生することも含む。すなわち、例えばナフタレンを再生する場合、デカリンを再生することのほか、テトラリンを再生すること、デカリンと共にテトラリンを再生することをも含む。
【0037】
本発明の水素ガス生成装置は、炭化水素系燃料の脱水素反応を迅速かつ高効率に行なわせて水素密度の高い水素ガスを良好に水素使用装置(例えば燃料電池、水素エンジン)に供給することが可能であり、装置全体の小型化、軽量化が図れると共に、炭化水素系燃料/脱水素生成物の循環系により、クリーンでエネルギー資源の利用効率の高いシステムを構築することができる。
【0038】
【発明の実施の形態】
以下、図面を参照して、本発明の水素ガス生成装置の実施形態を説明する。なお、下記の実施形態において、炭化水素系燃料として、デカリンを主成分とする燃料(以下、単に「デカリン」という。)を用いた場合を中心に説明する。但し、本発明においてはこれら実施形態に制限されるものではない。
【0039】
(第1実施形態)
本発明の水素ガス生成装置の第1実施形態を図1を参照して説明する。本実施形態は、水素ガスを燃料とする水素エンジンが搭載された自動車に本発明の第1実施形態の水素ガス生成装置を搭載し、デカリンを高温触媒の存在下で反応させると、ナフタレンと水素ガスとが生成されるデカリン/ナフタレン反応を利用して、水素ガス分子を吸着貯蔵するのではなく、化学結合で原燃料中に貯蔵するものである。
【0040】
本実施形態は、複数の脱水素反応器を実装し、各脱水素反応器がその間隙を循環するシリコーンオイルによって加熱されるように構成され、水素ガスの分離後に単一の複室貯留タンクを用いてデカリン及び生成ナフタレンを共に貯留するようにしたものである。
【0041】
図1に示すように、本実施形態は、内壁に触媒が設けられた円筒体および該円筒体の内部に配置された供給孔を有するインジェクタ(供給装置)を備え、供給されたデカリンを加熱された触媒上で脱水素反応させるn個の脱水素反応器5a1〜5an、並びに触媒を筒状体の外側から加熱する加熱媒体7を備えた反応手段1と、デカリンの脱水素反応によって生じた水素ガスを分離する分離手段3とを備えている。
【0042】
反応手段1は、円柱状の反応タンク4内にn個の脱水素反応器5a1〜5an(総じて5aと記すことがある。)を備え、反応タンク4内の空隙部に加熱媒体として液状のシリコーンオイル7を充填して構成されている。反応手段1を図2を用いて説明する。図2は、シリコーンオイル7の循環を促す回転羽を更に設けて示したものである。
【0043】
n個の脱水素反応器5a1、5a2、…5anは、図2に示すように、反応タンク4の内壁に沿って互いに略平行となるように並べられて束状に配置されている。各々の脱水素反応器の上部端面には、脱水素反応後の水素ガス含有の混合ガス(水素リッチガス;蒸発して残存する残存デカリンを含んでもよい)を排出するためのバルブ(Va1〜Van)を備えた排出管9の一端が接続され、水素リッチガスを挿通する配管27とそれぞれ連通されている。また、下部端面には、未反応デカリンを排出するためのバルブ(Vb1〜Vbn)を備えた排出管8の一端が接続され、ポンプP6(図1参照)を備えた戻し配管28とそれぞれ連通されている。なお、戻し配管28は、反応タンク4内において複数の排出管8が繋がるように管幅(内容積)が拡くなっている。
【0044】
シリコーンオイル7は、反応タンク4と2点で接続して加熱循環系を構成する、オイル循環ポンプP1を備えた配管33内を挿通して循環し、配管途中にある水素エンジン42の廃熱によって加熱されるようになっている。加熱されたシリコーンオイル7は、脱水素反応器の間隙に介在すると共に徐々に循環されることによって各脱水素反応器と熱交換し、円筒体を通じて熱伝達された熱で脱水素反応器内部の触媒は加熱される。また、反応タンク4の底面側には、回転羽13が設けられており、反応タンク内のシリコーンオイル7の循環を促してタンク内温度を均一に保持できるようになっている。
【0045】
また、加熱循環系の配管33には、図1に示すように、冷却水を循環させてシリコーンオイル7の液温を調節する冷却水循環系として循環冷却器43が設けられており、反応タンク4には温度センサ10が設けられている。これにより、シリコーンオイルの温度が所定温度を超えるときには、風冷した冷却水を循環させることによってオイル温度を冷却し、所定の温度に達しているときには循環を停止するように制御される。
【0046】
複数の脱水素反応器は、図4に示すように、所定の間隙を有してシリコーンオイル7が介在し得るように配置されており、介在するシリコーンオイルが順次循環されて均一に加熱できるようになっている。図4は、図1のA−A’線断面図である。反応タンク内に配置する脱水素反応器の数やその間隙は、所望の脱水素反応が行い得る範囲で水素ガスの必要生成量などに応じて適宜選択することができる。
【0047】
脱水素反応器5a(5a1〜5an)は、図3に示すように、湾曲する内壁面に触媒11が担持された円筒体12と、管状のインジェクタ(供給装置)6とを備えている。円筒体12は、両端が開口する断面円形の金属中空体であり、開口端の両方には閉塞部材17、18が取付けられている。閉塞部材17、18には、それぞれ水素リッチガスを排出するための排出管9、貯留された未反応デカリンを排出するための排出管8が設けられている。
【0048】
触媒11は、図5に示すように、円筒体12の内壁の湾曲面全面に直接担持されており、円筒体12が触媒11を担持する担体(金属担体)の機能を担っている。触媒11としては、Pt、Pt−Ir、Pt−Re、Pt−W等の貴金属系の触媒金属微粒子や、これら触媒金属微粒子と活性炭繊維との混合物を用いることができる。また、前記触媒として、Pt、Pt−Ir、Pt−Re、Pt−W等の貴金属系の金属を用いた炭素担持Pt触媒、炭素担持Pt−Ir複合金属触媒、炭素担持Pt−Re複合金属触媒、炭素担持Pt−W複合金属触媒、又はニッケル系金属を使用した触媒等を内壁に設けることもできる。
【0049】
インジェクタ6は、図3及び図5に示すように、断面円形の管状に構成され、管には触媒11にデカリンを放射状に供給できるように供給孔が複数設けられている。インジェクタ6は、円筒体12の触媒11で取り囲まれた内側に配置されており、複数の供給孔からデカリンを放射状に噴射して、触媒11の全面に均一な液膜状態を形成し得るように構成されている。図5は、図3の反応手段1をB−B’線で切り取ったときの概略断面図である。
【0050】
各脱水素反応器のインジェクタ6は、図1に示すように、デカリンを供給するための供給配管26と接続されており、この供給配管26によって複室貯留タンク2(デカリン貯留部)と連通されている。また、個々のインジェクタには、それぞれ制御用のドライバ(D1〜Dn)が電気的に接続されており、インジェクタからのデカリン噴射量を個々にコントロールできるようになっている。
【0051】
インジェクタからデカリンを供給する場合には、加熱触媒表面が僅かに湿潤した状態、すなわち液膜状態となるように供給することが好ましい。僅かに湿潤した液膜状態では、過熱(デカリンの沸点を越える温度での加熱)・液膜状態での脱水素反応のとき水素ガス生成量は最大になる。これは、デカリンの蒸発速度が、基質液量(デカリンの液量)が少ない程小さくなり、蒸発速度が小さくかつ高温の状態で脱水素反応させることにより転化率が向上するからである。すなわち、蒸発速度は液量・伝熱面積・加熱源と沸点との温度差の各々に比例するので、液体デカリンの量が少なければ蒸発速度が小さくなる。液体デカリンは、加熱触媒上(例えば、200〜350℃)でも液膜状態で存在するので、触媒活性サイトは液相からのデカリンの速やかな吸着により充分に高い被覆度で常時補填される。すなわち、触媒表面上で液膜状態で脱水素反応させることにより、触媒表面上で気体で反応させるよりも優れた反応性が得られる。
【0052】
複数の脱水素反応器は、上部端面に接続された排出管9を介して、逆止弁を備えた配管27によって分離タンク3と連通されており、また、下部端面に接続された排出管8を介して、逆止弁を備えた戻し配管28によって複室貯留タンク2(生成物貯留部)と連通されている。
【0053】
複室貯留タンク2は、隔壁面が略水平となるようにナフタレン非透過性の移動可能な隔壁23を備えて構成され、隔壁23により内部が二つの室に区画されている。区画された一方(図面の隔壁23の下室)には、デカリン22を貯留するデカリン貯留部(炭化水素系燃料貯留部)が、他方(図面の隔壁23の上室)にはナフタレン混合物21を貯留する混合部貯留部(生成物貯留部)が設けられている。
【0054】
デカリン貯留部の底面側には、デカリン22を供給するためのポンプP2を備えた供給配管26の一端と、デカリン22を分離タンクに供給するためのポンプP7を備えた供給配管29の一端とが接続されている。更に壁面には、バルブを備えた燃料供給管16が設けられている。また、混合物貯留部には、戻し配管28の一端が接続されると共に、供給配管30の一端が接続されて分離タンク3と連通されており、更に壁面にはバルブを備えた排出管15が設けられている。
【0055】
隔壁23は、その壁面の法線方向と略平行(図面の上下方向C)に移動可能に構成されている。ナフタレン混合物がなくデカリンが満タンであるときには、隔壁23は最上部に位置して最大量のデカリンがデカリン貯留部に貯留され、水素ガスの生成、すなわちナフタレン混合物の生成量の増大にしたがって隔壁23は徐々に下方に自動的に移動し、デカリン貯留部の容積が縮小され混合物貯留部の容積が拡大する。これにより、単一のタンクを有効に利用でき、装置をより小型化することができる。
【0056】
隔壁23は、混合物貯留部からデカリン貯留部へのナフタレンの移動を抑え、かつデカリンに対して安定なものであれば、特に制限はなく公知のものの中から適宜選択することができる。例えば、物質非透過性のもの、ナフタレン透過性の低いもの、ナフタレンを除いては透過性のもの等を用いることができる。また、変形し難い板状のものでも伸縮可能な軟性、弾性を有するものでもよい。一つの複室貯留タンク内に複数の隔壁を設けることもできる。
【0057】
具体的な例として、仕切り板や、ナフタレン濃度が低い側から圧がかかったときに開弁し、ナフタレンを高濃度に含む側から圧がかかったときに閉弁される多数の逆止弁が格子状又はランダムに配列された逆止弁膜などが挙げられる。
【0058】
複室貯留タンク2は、反応手段1と連通する供給配管26や分離タンク3と連通する供給配管29、30、その他戻し配管28等にそれぞれ図示しない連結器(ジョイント)を設け、連結器において着脱可能に構成することができる。例えば、簡易にはめ込み、取り外しができる交換タンク(カートリッジタンク)の形態に構成できる。
【0059】
複室貯留タンク2を着脱可能に構成することにより、デカリンから所定量の水素ガスを生成後、複室貯留タンク自体を交換あるいは一旦取外してナフタレン混合物を再生することにより、貯留されたナフタレン混合物を回収、除去でき、車載するなど特定場所に定置しない場合でも簡易かつ継続的な水素の供給が可能となる。
【0060】
また、複室貯留タンク2を着脱可能に構成せず、あるいは着脱可能に構成すると共に、複室貯留タンクの混合物貯留部(図中の上室)のみを着脱可能に構成してもよい。この場合、混合物貯留部は複室貯留タンクに収納可能なカートリッジ式に構成することもでき、また混合物貯留部が複室貯留タンクの一部を構成するように構成することもできる。例えば、隔壁23の上室をはめ込み、取り外しが可能な態様、例えば交換タンク(カートリッジタンク)として構成することができる。この場合も、混合物貯留部(交換タンク)を空のもの(交換タンク)に取り替えることにより継続的な水素生成が可能となる。
【0061】
分離タンク3には、その上部において複室貯留タンク2のデカリン貯留部(下室)に連通する供給配管29の他端で接続された供給装置24が設けられ、壁面に接続された配管27を介して、反応手段1から送られた水素リッチガスにデカリンを噴霧等して供給できるように構成されている。また、分離タンク3の底部側には、ポンプP5を備えた供給配管30の他端が接続され、デカリンに溶解されて底部に貯留されたナフタレン混合物を複室貯留タンクの混合物貯留部に供給できるようになっている。
【0062】
分離タンク3の上部壁面には、分離された水素ガスを挿通するためのポンプとバルブV2とを備えた配管31の一端が接続され、水素ガスの貯留、供給が可能な水素ガス貯留タンク(バッファータンク)40と連通されている。また、分離タンク3の壁面には、タンク中の水素圧を検出するための水素圧センサ25が設けられている。分離タンク3内の水素ガスを加圧または高圧状態にしたり、水素ガス貯留タンク40への圧力を低圧(例えば負圧)にすることで水素排出効率を向上させることができる。
【0063】
水素ガス貯留タンク40は、バルブV1を備えた供給配管32によって水素エンジン42と連通され、水素ガスを供給できるようになっている。そして、供給配管32には、水素エンジンに供給する水素量を制御するための水素流量制御器41が設けられ、水素エンジンの運転状態に応じて適宜コントロールできるように構成されている。エンジン始動時には、脱水素反応器内の触媒温度が低く水素生成できないことから、水素ガス貯留タンク40に貯留された水素が供給される。
【0064】
図6に示すように、上記のデカリン供給装置24、水素流量制御器41、制御用ドライバD1〜Dn、ポンプP1〜P7、バルブV1〜V2、バルブVa1〜Van及びVb1〜Vbn、循環冷却器、水素圧センサ25、並びに温度センサ10の各々は、マイクロコンピュータ等で構成された制御回路50に接続されている。
【0065】
以下、本実施の形態の制御装置による制御ルーチンについて説明する。図7は、イグニッション(IG)スイッチオンで実行されるメインルーチンを示すものであり、IGスイッチがオンされると、まず水素流量制御器41がオンされて水素エンジンが始動し、ステップ102においてオイル循環ポンプP1が駆動し、加熱循環系のシリコーンオイル7が循環する。続いて、ステップ104において反応手段1の反応タンク4中の加熱触媒の温度(オイル温度)Tを取り込み、ステップ106においてオイル温度Tが予め定められた所定温度T0以下か否かを判断し、オイル温度Tが所定温度T0以下の場合には、ステップ108において循環冷却器43をオフし、オイル温度Tが所定温度T0を超えている場合にはステップ110において循環冷却器43をオンする。これにより、反応タンク4内のシリコーンオイル温度、すなわち各脱水素反応器内部の触媒が所定温度になるように制御される。
【0066】
上記の所定温度は、200〜500℃、好ましくは200〜350℃の間の温度、更に好ましくは280℃にすることができる。この理由は、所定温度が200℃未満であると目的とする脱水素反応の高い反応速度、換言すれば水素使用装置の高性能が得られないことがあり、350℃を越えるとカーボンデポジットが生じる可能性を持ち、500℃を越えると実用的でないからである。
【0067】
次のステップ112では、複数の脱水素反応器5a1…5anの各々において、制御用のドライバD1〜Dnにより各インジェクタからの供給量を予め定めた所定量(触媒表面上で液膜が得られる直前の量)から徐々に増加させながらデカリンを供給し、生成した水素リッチガスをバルブ(Va1〜Van)開閉して分離タンク3に送ると共に、次のステップ114において水素圧センサ25で検出された水素圧の値に基づいて水素圧が増加しているか否か、すなわち水素ガス発生量が増加しているか否かを判断する。水素圧が増加している場合にはステップ112に戻って、デカリン供給量を徐々に増加することを繰り返す。これにより、乾燥した触媒上にデカリンが徐々に供給され、触媒表面が徐々に湿潤して行き、デカリンが液膜状態で供給されるので、水素発生量が最大値に近づく。
【0068】
一方、ステップ114において水素圧が低下していると判断されたときは、デカリン供給量が液膜状態より過剰に供給された場合であるので、ステップ116において、低下の程度に応じて全部あるいは一部の制御用のドライバD1〜Dnを制御して個々のインジェクタからのデカリン供給量を徐々に減少させながら供給する。これにより、再び水素発生量が最大値に近づく。ステップ118では、水素圧が低下したか否かを判断し、水素圧が未だ低下しない場合にはステップ116に戻ってデカリン供給量を徐々に減少することを繰り返し、水素圧が低下する場合には、デカリン供給量が液膜状態より少なすぎる状態であるので、ステップ112に戻ってデカリン供給量を徐々に増加して供給することを繰り返す。
【0069】
これにより、デカリンが触媒表面上で常に液膜状態で保持され、水素圧、すなわち水素ガス発生量が最大になるようにデカリンが供給される。水素圧センサは、複数の脱水素反応器の各々に取付けておくこともでき、その場合には、各脱水素反応器内の水素圧に基づいて各々の触媒表面上でデカリンが常に液膜状態で保持されるように供給量を制御し、脱水素反応器ごとにデカリン供給とバルブ(Va1〜Van)の開閉を繰り返すことによって行なえる。
【0070】
本実施形態では、IGスイッチがオンされると水素流量制御器41によって水素ガス貯蔵タンク40から水素エンジン42に水素が供給され水素エンジンが始動する。そして、オイル循環ポンプP1が駆動して反応手段1の反応タンク4内のシリコーンオイル温度が所定の触媒加熱温度にまで達すると、複室貯留タンク2からデカリン22が供給配管26を挿通して反応手段1の脱水素反応器5a1、5a2、…5anに供給される。各脱水素反応器で発生した水素リッチガス(蒸発した残存デカリンを含んでもよい。)は生成ナフタレンと共に排出管9を介して配管27によって分離タンク3に送られる。このとき、循環冷却器43によって触媒温度は所定温度に制御されている。
【0071】
分離タンク3に供給された水素リッチガスは、供給装置24から噴出されるデカリンと接触し、冷却されると共にガス中のナフタレン及び残存デカリンは供給されたデカリンに溶解されて水素ガスと分離される。分離された高純度の水素ガスは、配管31を挿通して水素ガス貯蔵タンク40に供給、貯蔵される。供給、貯蔵された水素ガスは、水素流量制御器41により制御されながら水素ガス貯蔵タンクから水素エンジン等の水素使用装置42に供給される。分離タンクで溶解されたナフタレンは、デカリンと混合したナフタレン混合物として複室貯留タンク2の上室(混合物貯留部)に貯留される。
【0072】
このとき、隔壁23はナフタレン混合物の量が増えるにしたがって上室の容積が拡大する方向(図中の下方)に移動する。そして、ナフタレン混合物が所定量に達すると、バルブ開閉して排出管15からナフタレン混合物が排出、回収され、これに伴い隔壁23は下室の容積が拡大する方向(図中の上方)に移動し、燃料供給管16からデカリンが供給される。このサイクルを繰り返すことにより、高純度の水素ガスを継続的に水素使用装置に供給することができる。なお、水素ガス貯蔵タンクに貯蔵された水素ガスは、水素使用装置に供給するほか、後述の再生タンクにおけるナフタレンの水素化反応に利用することもできる。
【0073】
車両を停止させてイグニッション(IG)スイッチをオフすると、図8の割り込みルーチンが起動され、ステップ132において水素エンジンへの水素供給を制御する水素流量制御器41を停止すると共に、ステップ130においてポンプP7の駆動を停止し供給装置24を停止させてデカリン供給を停止し、更にステップ134においてオイル循環ポンプP1を停止することにより水素ガスの生成を停止させる。また、循環冷却器は作動させたまま、次のステップ136において各脱水素反応器の底部に冷却され貯留された未反応デカリンはバルブを開くと共にポンプP6を駆動して排出管8と繋がる戻し配管28を介して複室貯留タンク2に戻される。なお、循環冷却器43は、反応タンク4内のシリコーンオイルが所定温度以下となったときに停止される。このとき、デカリン供給を停止した後も少量の水素ガスが発生するので、ステップ138において、発生した水素ガスを分離タンク3を経由して水素ガス貯蔵タンク40に貯蔵する。
【0074】
また、デカリンとテトラリンとの混合燃料を用いることにより、デカリンの脱水素反応の前にテトラリンが脱水素反応するので、速やかに水素ガスを発生させることができる。ここで、貯留分離タンク内あるいは貯留分離タンクとは別のタンク内に、デカリンと分離してテトラリンを貯留し、このテトラリンを加熱された触媒上でデカリンの脱水素反応前に脱水素反応させることにより、速やかに多量の水素ガスを発生させることができ、より迅速に水素生成を行なうことができる。
【0075】
(第2実施形態)
本発明の水素ガス生成装置の第2実施形態を図9を参照して説明する。本実施形態は、第1実施形態の複室貯留タンクおよび分離タンクを単一の貯留分離タンクに代え、単一タンクにデカリンおよび生成ナフタレンを共に貯留するようにし、かつ水素ガスをも分離可能としたものである。また、貯留分離タンクには更に再生タンクを接続し、ナフタレンを再生可能なように構成してある。なお、燃料は第1実施形態で使用した燃料を用いることができ、第1実施形態と同様の構成要素には同一の参照符号を付してその詳細な説明を省略する。
【0076】
図9に示すように、本実施形態は、デカリン22を貯留し、かつ貯留されたデカリンにデカリンの脱水素反応により生成された水素ガス及びナフタレンが供給されると共に、排出口から水素ガスを排出する貯留分離タンク60と、再生タンク71とを備えている。
【0077】
貯留分離タンク60は、内部に密閉してデカリン22を貯留可能に構成され、貯留分離タンク60の上部壁面には、デカリン22を供給するためのバルブを備えた燃料供給管16と、未反応デカリンを回収する戻し配管28とが設けられており、また、水素ガス貯蔵タンク40に水素を挿通するためのポンプP4とバルブV2とを備えた配管31の一端が接続されて排出口が形成されている。デカリン22は、貯留分離タンク60の上方に空隙を有する範囲で燃料供給管16から供給できるようになっており、反応手段1で生成された水素ガスは、配管31を介して水素ガス貯蔵タンク40に供給、貯留された後、供給配管32を挿通して水素エンジン42に供給できるようになっている(図1参照)。また、貯留分離タンク60の上部壁面には水素圧を検出する水素圧センサ25が取り付けられており、底部には貯留されたナフタレン62を排出するためのバルブを備えた排出管15が設けられている。
【0078】
貯留分離タンク60の底面側の側壁には、反応手段1と繋がる配管27がデカリン22中にその他端が位置するように設けられ、反応手段の各脱水素反応器と連通されている。液中となる配管27の他端からは、反応手段1で生成された水素ガス及び気相ナフタレンの混合ガス(水素リッチガス;蒸発して残存する残存デカリンを含んでもよい)を液中において供給可能なようになっている。
【0079】
分離膜61は、貯留分離タンク60の内部にデカリン22の液面と略水平に備えられ、浮上する水素ガス63を透過し、ナフタレン62のデカリン内での拡散を抑えて分離膜61の下方に貯留することができる。貯留分離タンク60の内部において、水平面と略平行に配置された分離膜61は、ナフタレン含量の少ないデカリンの上層部からナフタレン含量の多い下層部に移る濃度分布とも略平行に位置し、分離膜61の下方で供給される水素ガスは分離膜の膜面を一様に通過できる。特に、液中の配管27の出口周辺でナフタレン量が不均一になると局部的に粘度上昇等を来すことがあるため、水素ガスの液中での移動速度を損なわないようにすることが望ましい。
【0080】
分離膜61は、その膜面の法線方向(図9中の矢印方向D)と略平行に移動可能に構成することができる。分離膜の移動は、貯留分離タンク内部の区画された領域の容積を可逆的に変えることができることが望ましく、生成ナフタレン量に合わせて任意に変えることができる。
【0081】
貯留分離タンク60における分離膜61の位置関係としては、ナフタレンがなくデカリンが満タンであるときには分離膜61はナフタレン供給側、すなわち最下部に位置し、分離膜の下側の容積を小さくでき、このとき最大量のデカリンが貯留される。そして、水素の生成、すなわちナフタレン量の増大に応じて分離膜は徐々に上方に移動し、逆にナフタレン供給側の容積は拡大される。これにより、ナフタレンの拡散を抑止しながら単一のタンクを有効に利用でき、装置をより小型化することができる。
【0082】
分離膜は、水素ガスを透過できると共に、デカリン中でのナフタレンの拡散を抑制し、かつデカリンに対して安定なものであれば、特に制限はなく公知のものの中から適宜選択することができる。例えば、水素透過性でかつ水素ガス以外は物質非透過性(若しくはナフタレン低透過性)のもの、ナフタレンを除いては透過性のものが使用できる。また、分離膜は、変形し難い板状のものでも伸縮可能な軟性、弾性を有するものでもよい。一つの貯留分離タンク内に複数の分離膜を設けることもできる。
【0083】
具体的な例として、メッシュ状のフィルタ膜や、ナフタレンを高濃度に含む側から水素ガスが透過するときに開弁され、かつ逆側から圧がかかった場合に閉弁される多数の逆止弁が格子状又はランダムに配列された逆止弁膜などが挙げられ、材質は樹脂材、金属材、シリコーン材、ゴム材など適宜選択できる。
【0084】
分離膜61の膜面の上方には、ナフタレン含有比の低いデカリン22を、デカリンの脱水素反応を行なう反応手段1(脱水素反応器5a)に供給するための供給配管26の他端が取り付けられ、個々の脱水素反応器と連通されている。この他端を分離膜61の膜面近傍から上方に配置することにより、ナフタレン含量比の低いデカリンを供給することができ、水素生成効率を高めることができる。
【0085】
貯留分離タンクには、反応手段1と連通する供給配管26、27や戻し配管28、水素ガス貯蔵タンク40と連通する配管31、その他後述の再生タンクと連通する配管などにそれぞれ図示しない連結器(ジョイント)を備えて、連結器において着脱可能に構成することができる。例えば、簡易にはめ込み、取り外しができる交換タンク(カートリッジタンク)の形態に構成できる。
【0086】
貯留分離タンク60を着脱可能に構成することにより、デカリンから所定量の水素ガスを生成後、貯留分離タンク自体を交換あるいは一旦取外してナフタレンを再生することにより、貯留された生成ナフタレンを回収、除去でき、車載するなど特定場所に定置しない場合でも簡易かつ継続的な水素の供給が可能となる。
【0087】
また、第1実施形態と同様に、貯留分離タンク60を着脱可能に構成せず、あるいは着脱可能に構成すると共に、貯留分離タンク60のナフタレンが高濃度に貯留された分離膜61の下方の部分のみを着脱可能に構成してもよい。この場合、ナフタレンが貯留された部分は、貯留分離タンクに収納可能なカートリッジ式に構成することもでき、また、この部分が貯留分離タンクの一部を構成するように設けることもできる。ナフタレンを高濃度に含む部分(交換タンク)を、デカリンで満たされたもの(交換タンク)に取り替えることにより水素生成を継続的に行なうことが可能となる。
【0088】
再生タンク71は、ナフタレンと水素ガスとを加熱触媒を用いて水素化反応させてデカリンおよび/またはテトラリンを生成させるものであり、貯留分離タンク60と接続して車両内に搭載することができる。
【0089】
再生タンク71は、バルブV3及びポンプP8を備えた供給配管77を介して貯留分離タンク60の底面側で、またバルブV4及びポンプP9を備えた供給配管76を介して貯留分離タンク60の上面側で、それぞれ連通されている。これにより、貯留分離タンク60内のナフタレンは供給配管77を挿通して再生タンクに供給できるようになっており、生成されたデカリン及びテトラリンは供給配管76を介して貯留分離タンク60に供給される。
【0090】
再生タンク71の底面側には、触媒74及び触媒74を加熱するヒータ75で構成され、かつ発熱及び吸熱を起こさせる触媒反応器が設けられている。触媒74の水素化反応を行なう側は、多孔性炭素担体に触媒金属微粒子を担持して構成されている。触媒としては、上記で説明した炭素担持Pt触媒、炭素担持Pt−Ir複合金属触媒、炭素担持Pt−Re複合金属触媒、炭素担持Pt−W複合金属触媒、又はニッケル系金属を使用した触媒等を使用することができる。触媒74の近傍には、触媒表面の温度を検出する温度センサ73が取付けられている。
【0091】
また、再生タンク71には、ガソリンスタンド等の車両外部に設けられた水素ボンベや水の電気分解装置等の設備から水素ガスを供給するための水素ガス供給管72が取り付けられている。水の電気分解により生成した水素ガスなどを供給するようにすれば、クリーンなシステムを構築することができる。
【0092】
本実施形態では、貯留分離タンク60に燃料供給管16を介してデカリン22が供給されると、デカリン22は供給配管26を挿通して反応手段1に送られる。個々の脱水素反応器の乾燥した触媒上にデカリンが徐々に供給され、触媒表面が徐々に湿潤してデカリンが液膜状態で供給されると、水素圧、すなわち水素発生量が最大値に近づく。
【0093】
生成されたナフタレンを含む水素リッチガスは、ポンプP3により逆止弁を介して配管27を挿通して貯留分離タンク60のデカリン22中に供給される。貯留分離タンク60では、水素ガス63はデカリン22中を浮上する一方、気相で存在していたナフタレン及び残存デカリンはデカリン22中へ供給される過程で冷却され、残存デカリンは凝縮して液化し、ナフタレンは凝析して沈降する。これにより、水素ガスはナフタレン及び残存デカリンと分離され、タンク上部の空隙において高純度に分離される。分離された水素ガスは水素ガス貯蔵タンクに供給される。このとき、貯留分離タンク60内の水素ガスを加圧または高圧状態にしたり、水素ガス貯蔵タンクへの圧力を低圧(例えば負圧)にすることで水素排出効率を向上させることができる。
【0094】
なお、生成ナフタレンからのデカリンの再生は航空燃料として公知の安定した技術を使用することができる。これにより、安全で環境に優しく、高純度の水素ガスを発生することができる。
【0095】
一方、車両を停止させる場合には、第1実施形態の場合と同様にして、水素ガスの生成を停止すると共に、各脱水素反応器の底部に冷却され貯留された未反応デカリンをポンプP6を駆動させて排出管8と繋がる戻し配管28を介して貯留分離タンク60に戻し、さらにデカリン供給を停止した後に発生した少量の水素ガスを貯留分離タンク60を経由して水素ガス貯蔵タンク40に貯蔵する。このとき、循環冷却器43は、反応タンク4内のシリコーンオイルが所定温度以下となったときに停止される。
【0096】
また、再生タンク71では、ヒータ75のオン/オフにより、触媒74の温度が所定温度になるように制御される。この所定温度は、150〜200℃の間の温度、好ましくは150℃近傍の温度を採用することができる。バルブV3を開いてポンプP8を駆動し、供給配管77を介してナフタレンと未反応デカリンとの混合液を再生タンク71に供給する。また、これと同時に、ガソリンスタンド等に設けられている水素ボンベまたは水の電気分解装置から得られる水素ガスを再生タンクに供給し、所定温度に制御された触媒74上でナフタレン水素化反応を行ってデカリンを再生し、バルブV4を開いてポンプP9を駆動し、供給配管76を挿通して再生デカリンを貯留分離タンク60に回収する。このとき、再生タンク71内の水素ガスは、加圧または高圧にするのが好ましい。
【0097】
なお、簡易かつ速やかにナフタレンの水素化を行う場合には、水素ガスを加圧せずに、触媒温度を上記より低温にしてテトラリンを生成させ、それを貯留分離タンクに供給するようにしてもよい。
【0098】
上記では、再生タンク71を車両に搭載する例について説明したが、再生タンクをガソリンスタンド等に設置し、ガソリンスタンド等で水を電気分解して得られる水素を供給してデカリンを再生するようにしてもよい。
【0099】
上述した実施形態では、水素生成用の燃料としてデカリンを用いた例を中心に説明したが、既述のデカリン以外の炭化水素系燃料を用いた場合においても同様である。また、水素使用装置についても、特に車載の水素エンジンを例に説明したが、本発明は水素エンジン以外の車載燃料電池などの水素使用装置に適用することもできる。
【0100】
また、上記実施形態では、加熱媒体を加熱する熱源として水素エンジン等の水素使用装置の廃熱を利用する例を説明したが、デカリン等の有機ハイドライドやナフタレン等の脱水素生成物などの有機物を空気と混合して燃焼させたときの燃焼熱や取り出した水素の燃焼熱を熱源として構成することもできる。
【0101】
【発明の効果】
本発明によれば、小型、軽量化が可能で、単位体積当りの脱水素反応効率を高めて高純度水素ガスの生成量を向上させることでき、水素エンジン等の水素使用装置からの廃熱の利用によってシステム全体のエネルギー効率をも向上させることができる水素ガス生成装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1実施形態を示す概略構成図である。
【図2】反応手段の概略構成例を拡大して示す斜視図である。
【図3】反応手段を構成する脱水素反応器の一例を拡大して示す斜視図である。
【図4】図2のA−A’線断面図である。
【図5】図3のB−B’線断面図である。
【図6】本発明の第1実施形態の制御回路を示すブロック図である。
【図7】本発明の第1実施形態のメインルーチンを示す流れ図である。
【図8】本発明の第1実施形態をイグニッションスイッチオフで割り込まれる割り込みルーチンを示す流れ図である。
【図9】本発明の第2実施形態の一部を示す概略構成図である。
【符号の説明】
1…反応手段
2…複室貯留タンク
3…分離タンク
5a(5a1、5a2…5an)…脱水素反応器
6…インジェクタ(供給装置)
7…シリコーンオイル(加熱媒体)
11…触媒
12…円筒体(筒状体)
23…隔壁
40…水素ガス貯蔵タンク
42…水素エンジン(水素使用装置)
60…貯留分離タンク
61…分離膜
71…再生タンク
【発明の属する技術分野】
本発明は、水素ガス生成装置に係り、特に、電気自動車や水素エンジン車等の車両に搭載可能で、かつ車両に搭載された燃料電池や水素エンジンに水素ガスを供給することができる水素ガス生成装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来の電気自動車は、車両の駆動力を得るための電源としての燃料電池、およびこの燃料電池を用いて発電を行なうための燃料である水素または水素を生成するための原燃料を搭載している。また、水素エンジンを搭載した水素エンジン車も同様に燃料源として水素、又は水素を生成するための原燃料を搭載している。
【0003】
水素を搭載する電気自動車や水素エンジン車では、水素ガスを圧縮して高圧に若しくは液状にして充填したボンベ、または水素を吸蔵する水素吸蔵合金や水素吸着材料により水素を搭載している。一方、原燃料を搭載する電気自動車では、原燃料としてのメタノールまたはガソリン等の炭化水素と、この原燃料を水蒸気改質して水素リッチガスを生成する水素生成装置とを搭載している。
【0004】
しかしながら、車両に水素を搭載する場合、高圧タンクに圧縮した状態で搭載すると、高圧タンクは大きいわりに壁厚が厚く内容積を大きくできないために水素充填量が少ない。液体水素として搭載する場合は、気化ロスがあるほか、液化に多大なエネルギーを要するため総合的なエネルギー効率の点で望ましくない。また、水素吸蔵合金や水素吸着材料では、電気自動車や水素エンジン車に必要とされる水素貯蔵密度が不充分であり、また水素の吸蔵や吸着等を制御するのが非常に困難である。また更に、水素を高圧化、液化したり、吸蔵するのに設備を別途整備する必要もある。
【0005】
一方、原燃料を搭載する電気自動車や水素エンジン車は、水素を搭載する水素エンジン車に比較して、1回の燃料補給で走行可能な距離が長いという利点を有しており、炭化水素系の原燃料は水素ガスに比較して輸送等の取り扱いが容易であるという利点も有している。また、水素は燃焼しても空中の酸素と結合して水となるだけで公害の心配がない。また更に、水素を燃焼させた場合、単位量あたりガソリンの数倍の熱を放出するため、その熱量を利用することが可能である。
【0006】
炭化水素系燃料の1つであるデカリン(デカヒドロナフタレン)は、常温では殆ど蒸気圧がゼロ(沸点が200℃近傍)で取り扱いし易いことから、原燃料としての使用の可能性が期待されている。
【0007】
デカリンの脱水素化方法としては、デカリンをコバルト、ロジウム、イリジウム、鉄、テルニウム、ニッケル、および白金の中から選ばれる少なくとも1種の遷移金属を含有する遷移金属錯体の存在下で光照射し、デカリンから水素を離脱させる方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。また、有機リン化合物のロジウム錯体の存在下、または有機リン化合物とロジウム化合物との存在下に、デカリンに光照射することによりデカリンから水素を製造する方法が知られている(例えば、特許文献2参照)。
【0008】
【特許文献1】
特公平3−9091号公報
【特許文献2】
特公平5−18761号公報
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、特に燃料電池や水素エンジンに供給する水素ガスは、供給する水素ガス中の水素濃度が高いことが要求され、上記従来の脱水素化による水素生成方法を電気自動車の燃料電池や水素エンジン等の水素使用装置に適用しようとすると、反応転化率が低く、脱水素化によって生じた脱水素生成物や未反応の炭化水素系燃料が混在するために、水素使用装置に供給しても水素分圧が低いことから高性能が得られ難いという問題があった。
【0010】
また、車載する場合には、装置全体が大きすぎたり重量がありすぎると、現実には車両などの狭い場所への搭載は困難となる。
【0011】
本発明は、上記に鑑み成されたもので、小型、軽量化が可能で、単位体積当りの脱水素反応効率を高めて高純度水素ガスの生成量を向上させることでき、水素エンジン等の水素使用装置からの廃熱の利用によってシステム全体のエネルギー効率をも向上させることができる水素ガス生成装置を提供することを目的とする。
【0012】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、本発明の水素ガス生成装置は、内壁に触媒が設けられた筒状体、及び該筒状体の内部に配置され、前記触媒に炭化水素系燃料を供給する供給孔を有する管状の供給装置を備え、供給された炭化水素系燃料を前記触媒上で脱水素反応させる脱水素反応器、並びに前記触媒を筒状体の外側から加熱する加熱媒体を備えた反応手段と、炭化水素系燃料の脱水素反応によって生じた水素ガスを分離する分離手段と、を含んで構成したものである。
【0013】
本明細書中において、炭化水素系燃料は、脱水素反応により水素を発生し得る化合物を含む燃料であり、脂環式炭化水素、脂肪族炭化水素等を含む燃料が含まれる。脂環式炭化水素には、例えば、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ジメチルシクロヘキサン、1,3,5−トリメチルシクロヘキサン等の単環式化合物、デカリン、メチルデカリン、テトラリン(テトラヒドロナフタレン)等の二環式化合物、テトラデカヒドロアントラセン等の三環式化合物、等が含まれる。脂肪族炭化水素には、2−プロパノ−ル、メタノール、エタノール等が含まれる。特に、デカリン、メチルデカリン、テトラリン、メチルテトラリンを含む燃料が好ましく、デカリンからなる燃料またはデカリンを主成分とする燃料がより好ましい。
【0014】
炭化水素系燃料から生成される脱水素生成物は、炭化水素系燃料を脱水素反応して水素を放出した後の反応生成物であり、例えば、デカリン、またはシクロヘキサンの場合には、水素と共に主として生成される、ナフタレン(若しくはテトラリン)、またはベンゼンが各々相当する。
【0015】
前記炭化水素系燃料を脱水素反応させると、水素ガスと共に、水素の放出により不飽和結合を持つ脱水素生成物が反応生成物として生成される。例えば、デカリンからなる燃料またはデカリンを主成分とする燃料を用いた場合には、デカリンの脱水素反応により、水素ガスと共に脱水素生成物としてナフタレンが生成される。そして、該脱水素生成物であるナフタレンを水素添加により水素化反応させたときには、ナフタレンの水素化物であるデカリンおよび/またはテトラリンが再生される。
【0016】
本発明では、反応手段を構成する個々の脱水素反応器内において、供給装置から噴射等により供給された炭化水素系燃料が内壁に設けられた加熱触媒上に供給されると、熱せられた触媒で脱水素を起こして水素ガスと脱水素生成物とを発生した後、分離手段で高純度の水素ガスとして分離される。分離された水素ガスは燃料電池や水素エンジン等の水素使用装置に供給される。
【0017】
このとき、反応手段を構成する脱水素反応器の筒状体内壁に設けられた触媒は、筒状体とその外側で接触する加熱媒体による熱が筒状体を通じて触媒に伝達されることによって加熱される。したがって、筒状体としては、金属物質などの熱伝導性に優れた材質で構成されるのが有効である。また、触媒反応性の点からは表面積の大きい多孔性物質(多孔性炭素)で構成されるのが望ましい。
【0018】
筒状体は、両端が開口し、断面が円形、楕円形、矩形、方形など任意の形状からなる中空体であり、開口する少なくとも一方を閉塞したり、あるいは開口端の一方若しくは両方が閉口した筒状容器を用いてもよい。中でも特に、円筒体や柱状容器が好ましい。例えば、一体成形構造のモノリス担体や、金属担体、多孔性炭素担体、セラミックス担体等の担体などで構成でき、内表面積の大きい形状のものでもよい。
【0019】
このような筒形状に触媒を設けることによって、従来の平面上に触媒を担持させる場合と比し、小型にできかつ単位体積における表面積を大きく確保することができるため、小型化と同時に水素生成量をも向上させることができる。すなわち、内表面積を大きくとれることから、装置全体における単位体積当りの水素生成効率が高められ、水素生成量(生成速度)をより向上させることができる。しかも、車載には不向きであった反応容器体積をも縮小することができる。
【0020】
筒状体は、触媒金属微粒子(触媒)を直接担持する担持体として機能させることができるが、筒状体の内壁に直接触媒を担持するのではなく、触媒金属微粒子が多孔性炭素担体等の担体に予め担持されてなる触媒を筒状体の内壁に沿って設けるようにしてもよい。但し、触媒と担体との密着性が高いほど熱伝導性が良く好ましい。筒状体をモノリス担体とする場合には、一体成形構造の担体の表面に触媒機能を持つ活性成分(触媒金属微粒子)を分散して付着、担持させたモノリス触媒として構成することができる。
【0021】
触媒を筒状体の内壁に設ける方法としては、コーティング法が好適であり、例えばPt/活性炭繊維を触媒とする場合、活性炭繊維及びPtの混合物を筒状体の内壁にそのままコーティングして固定する方法、Ptが担持された活性炭スラリーを調製しこれを吸引、スプレー噴射してコーティング(塗布)、乾燥し、窒素雰囲気中で焼成して筒状体内壁面にコートする方法、等が挙げられる。触媒の詳細については後述する。
【0022】
筒状体の内部に配置される管状の供給装置は、例えば、長尺の管形状の表面に触媒上に炭化水素系燃料を供給する供給孔を有して構成され、その長手方向が筒状体の内壁に対して略平行となるように配置される。供給装置は、筒状体内壁の触媒全面に均一に供給可能な長さとするのが望ましい。管断面の形状は、円形、楕円形、矩形、方形など任意の形状に構成できる。供給装置としては、例えば、管形状のインジェクタ(吹き付け器)などが好適であり、供給装置制御用のドライバを接続して個々の脱水素反応器ごとに噴射量を適宜コントロールすることができる。
【0023】
炭化水素系燃料は、湾曲する触媒面上に均一に液膜状態となるように供給されるのが望ましく、供給孔はその湾曲触媒面全面に液膜状態を効率よく形成し得る態様で設けられる。例えば、管中心から放射状に噴射可能なように管の任意位置に供給孔を設けることができる。また、供給孔の個数、孔径は、触媒の表面積や供給装置から触媒までの距離などに応じて適宜決定することができる。炭化水素系燃料を触媒上に液膜状態となるように供給することによって、反応転化率が高められ、脱水素反応による水素ガスを効率良く生成することができる。
【0024】
また、脱水素反応器の外側、すなわち筒状体の外側には触媒を筒状体の外側から加熱するための加熱媒体が設けられる。加熱媒体は、筒状体を加熱できればいずれの形態でもよいが、液状物が特に好ましい。液状物である加熱媒体としては、沸点400℃以上のものが適当であり、特にシリコーンオイル等が好ましい。
【0025】
反応手段は、複数の脱水素反応器を実装することが、装置における単位体積当りの水素生成効率を高める点で効果的である。この場合、例えば反応手段を構成するタンク(容器)内に複数の脱水素反応器を互いに略平行に(即ち束状に)固定配置することによって実装することができる。そして、複数の脱水素反応器の間隙に加熱媒体を介在させることによって、単一の媒体を介して複数の脱水素反応器の全てを同時にかつ均一に加熱することができる。反応手段は、例えば反応タンク(容器)として構成でき、脱水素反応器の形状や配置等に応じて、円柱状、角柱状、球状等の任意の中空形状にすることができる。
【0026】
特に液状の加熱媒体を用いて各脱水素反応器内部の触媒を加熱する場合、液状の加熱媒体が複数の脱水素反応器の間隙を循環する加熱循環系と、冷却水を循環させて前記加熱循環系の加熱媒体の液温を調節する冷却水循環系とを更に設けることができる。これにより、触媒温度が所定温度より低いときには加熱媒体を昇温し、逆に高いときには風冷された冷却水を循環させて降温して加熱媒体の液温を調節し、所望の温度範囲に制御しながら触媒を加熱することができる。このとき、脱水素を行なう触媒の加熱に利用される熱は、水素エンジンなどの水素使用装置自体の発熱で得た熱量を熱伝達して利用することができる。そのため、別途触媒を加熱するための手段が不要であり、システム全体の熱効率およびエネルギー資源のトータル効率を高めることができる。
【0027】
水素ガスを分離する分離手段には、炭化水素系燃料を貯留し、かつ貯留された炭化水素系燃料中に、前記炭化水素系燃料の脱水素反応によって生じた水素ガス及び脱水素生成物が供給されると共に、前記水素ガスを排出する排出口を備えた貯留分離タンクを用いることができる。
【0028】
この貯留分離タンクは、炭化水素系燃料と脱水素生成物とを共に貯留でき、かつ発生する水素ガスをも分離排出できるので、従来のように、水素生成用の燃料を貯留するタンクと反応生成された脱水素生成物を貯留するタンクの両方を必要とせず、またこれらタンクと別に水素ガスを分離する分離手段を併設する必要もなく、単一のタンクに統括することができる。これにより、更なる小型、軽量化が図れる。
【0029】
すなわち、貯留分離タンクには炭化水素系燃料が貯留され、そこから外部に供給され脱水素反応を経た後、再び該貯留分離タンクの炭化水素系燃料中に生成された水素ガス及び脱水素生成物が供給されると、脱水素生成物は炭化水素系燃料中への供給過程で冷却、溶解されながら貯留分離タンクの底部(下方)に沈降、貯留され、水素ガスは燃料に溶解されずに(場合により、水素ガス分離手段を介在させて)排出口から高純度に排出される。この水素ガスは水素使用装置に利用される。
【0030】
この貯留分離タンクには、脱水素生成物の拡散を抑え、かつ水素ガスを透過する分離膜を内部に設けることができる。分離膜を設けることにより、脱水素生成物が炭化水素系燃料中に拡がるのを抑制し、水素生成のために供給される炭化水素系燃料中における含有率を低く抑えることができる。水素生成のために供給される炭化水素系燃料に脱水素生成物が含まれると、相対的に脱水素反応に寄与し水素を放出する化合物(例えばデカリン)の含有比が低下して水素生成効率が低下してしまうが、分離膜を設けることによって、区画された一方の側に脱水素生成物含量の少ない炭化水素系燃料を貯留すると同時に他方の側において脱水素生成物を供給することができ、単一のタンク内で脱水素生成物と分けつつ炭化水素系燃料を貯留することができる。分離膜により区画されると、少なくとも、脱水素生成物を高濃度に含む側から他方の側への脱水素生成物の濃度分布の拡がりを抑え得る程度に仕切ることができる。
【0031】
分離膜は、貯留分離タンクの内部に略水平に設けることができ、分離膜で区画された該分離膜の下方に脱水素生成物を貯留することができる。分離膜を略水平に設けることにより、タンク内部は上下に区画されるので、水素ガスと脱水素生成物の炭化水素系燃料に対する溶解性、比重の違いを利用して、水素ガスを高純度に排出できると同時に、タンク下方において脱水素生成物を貯留することができる。また、常に水平に存在する、燃料の液面や、脱水素生成物含量の少ない炭化水素系燃料の上層部から脱水素生成物含量が多くなる下層部への濃度分布とも対応する点でも有用である。
【0032】
前記分離膜は移動可能に設けると効果的である。タンク内に分離膜を移動可能に設けると、生成された脱水素生成物の量が少ないときには、炭化水素系燃料を貯留する側の容積を大きくして満タンとなる燃料を貯留することができ、徐々に水素ガスの生成に伴って炭化水素系燃料が減少し、逆に脱水素生成物の量が増大したときには、その生成量に応じて脱水素生成物を貯留する側の容積を大きくすることで多量の脱水素生成物を貯留することができる。すなわち、炭化水素系燃料と脱水素生成物の物理的な相対量に応じた分離膜の移動により、タンクの有効利用が図れ、狭い設置場所への設置や装置全体の軽量化を達成することができる。
【0033】
本発明の水素ガス生成装置には、上記の貯留分離タンクを設ける代わりに、炭化水素系燃料を貯留する炭化水素系燃料貯留部と、炭化水素系燃料の脱水素反応により生じ、かつ水素ガスが除去された脱水素生成物を貯留する生成物貯留部とを含む複室貯留タンクを更に設けることができる。
【0034】
この場合、上記の貯留分離タンクを用いた場合のように、単一のタンクに統括することができ、車両などの限られた場所でも設置が可能となり、軽量化も図れる。また、水素ガスが除去された脱水素生成物が貯留されるので、水素ガスを排出する排出口を設ける必要がない。
【0035】
本発明の水素ガス生成装置には、触媒及び触媒を加熱する加熱器を備えると共に、脱水素生成物及び水素ガスが供給され、脱水素生成物を加熱された触媒上で水素化反応させる再生タンクを更に設けることができる。再生タンク内で、脱水素生成物を水素添加によって水素化反応させて再生したときには、脱水素生成物の水素化物である炭化水素に再生される。
【0036】
本発明における再生には、例えば、ナフタレンまたはベンゼンからそれぞれデカリンまたはシクロヘキサンを再生することのほか、二環式若しくは三環式の化合物の場合には、水素化が未完の化合物を再生することも含む。すなわち、例えばナフタレンを再生する場合、デカリンを再生することのほか、テトラリンを再生すること、デカリンと共にテトラリンを再生することをも含む。
【0037】
本発明の水素ガス生成装置は、炭化水素系燃料の脱水素反応を迅速かつ高効率に行なわせて水素密度の高い水素ガスを良好に水素使用装置(例えば燃料電池、水素エンジン)に供給することが可能であり、装置全体の小型化、軽量化が図れると共に、炭化水素系燃料/脱水素生成物の循環系により、クリーンでエネルギー資源の利用効率の高いシステムを構築することができる。
【0038】
【発明の実施の形態】
以下、図面を参照して、本発明の水素ガス生成装置の実施形態を説明する。なお、下記の実施形態において、炭化水素系燃料として、デカリンを主成分とする燃料(以下、単に「デカリン」という。)を用いた場合を中心に説明する。但し、本発明においてはこれら実施形態に制限されるものではない。
【0039】
(第1実施形態)
本発明の水素ガス生成装置の第1実施形態を図1を参照して説明する。本実施形態は、水素ガスを燃料とする水素エンジンが搭載された自動車に本発明の第1実施形態の水素ガス生成装置を搭載し、デカリンを高温触媒の存在下で反応させると、ナフタレンと水素ガスとが生成されるデカリン/ナフタレン反応を利用して、水素ガス分子を吸着貯蔵するのではなく、化学結合で原燃料中に貯蔵するものである。
【0040】
本実施形態は、複数の脱水素反応器を実装し、各脱水素反応器がその間隙を循環するシリコーンオイルによって加熱されるように構成され、水素ガスの分離後に単一の複室貯留タンクを用いてデカリン及び生成ナフタレンを共に貯留するようにしたものである。
【0041】
図1に示すように、本実施形態は、内壁に触媒が設けられた円筒体および該円筒体の内部に配置された供給孔を有するインジェクタ(供給装置)を備え、供給されたデカリンを加熱された触媒上で脱水素反応させるn個の脱水素反応器5a1〜5an、並びに触媒を筒状体の外側から加熱する加熱媒体7を備えた反応手段1と、デカリンの脱水素反応によって生じた水素ガスを分離する分離手段3とを備えている。
【0042】
反応手段1は、円柱状の反応タンク4内にn個の脱水素反応器5a1〜5an(総じて5aと記すことがある。)を備え、反応タンク4内の空隙部に加熱媒体として液状のシリコーンオイル7を充填して構成されている。反応手段1を図2を用いて説明する。図2は、シリコーンオイル7の循環を促す回転羽を更に設けて示したものである。
【0043】
n個の脱水素反応器5a1、5a2、…5anは、図2に示すように、反応タンク4の内壁に沿って互いに略平行となるように並べられて束状に配置されている。各々の脱水素反応器の上部端面には、脱水素反応後の水素ガス含有の混合ガス(水素リッチガス;蒸発して残存する残存デカリンを含んでもよい)を排出するためのバルブ(Va1〜Van)を備えた排出管9の一端が接続され、水素リッチガスを挿通する配管27とそれぞれ連通されている。また、下部端面には、未反応デカリンを排出するためのバルブ(Vb1〜Vbn)を備えた排出管8の一端が接続され、ポンプP6(図1参照)を備えた戻し配管28とそれぞれ連通されている。なお、戻し配管28は、反応タンク4内において複数の排出管8が繋がるように管幅(内容積)が拡くなっている。
【0044】
シリコーンオイル7は、反応タンク4と2点で接続して加熱循環系を構成する、オイル循環ポンプP1を備えた配管33内を挿通して循環し、配管途中にある水素エンジン42の廃熱によって加熱されるようになっている。加熱されたシリコーンオイル7は、脱水素反応器の間隙に介在すると共に徐々に循環されることによって各脱水素反応器と熱交換し、円筒体を通じて熱伝達された熱で脱水素反応器内部の触媒は加熱される。また、反応タンク4の底面側には、回転羽13が設けられており、反応タンク内のシリコーンオイル7の循環を促してタンク内温度を均一に保持できるようになっている。
【0045】
また、加熱循環系の配管33には、図1に示すように、冷却水を循環させてシリコーンオイル7の液温を調節する冷却水循環系として循環冷却器43が設けられており、反応タンク4には温度センサ10が設けられている。これにより、シリコーンオイルの温度が所定温度を超えるときには、風冷した冷却水を循環させることによってオイル温度を冷却し、所定の温度に達しているときには循環を停止するように制御される。
【0046】
複数の脱水素反応器は、図4に示すように、所定の間隙を有してシリコーンオイル7が介在し得るように配置されており、介在するシリコーンオイルが順次循環されて均一に加熱できるようになっている。図4は、図1のA−A’線断面図である。反応タンク内に配置する脱水素反応器の数やその間隙は、所望の脱水素反応が行い得る範囲で水素ガスの必要生成量などに応じて適宜選択することができる。
【0047】
脱水素反応器5a(5a1〜5an)は、図3に示すように、湾曲する内壁面に触媒11が担持された円筒体12と、管状のインジェクタ(供給装置)6とを備えている。円筒体12は、両端が開口する断面円形の金属中空体であり、開口端の両方には閉塞部材17、18が取付けられている。閉塞部材17、18には、それぞれ水素リッチガスを排出するための排出管9、貯留された未反応デカリンを排出するための排出管8が設けられている。
【0048】
触媒11は、図5に示すように、円筒体12の内壁の湾曲面全面に直接担持されており、円筒体12が触媒11を担持する担体(金属担体)の機能を担っている。触媒11としては、Pt、Pt−Ir、Pt−Re、Pt−W等の貴金属系の触媒金属微粒子や、これら触媒金属微粒子と活性炭繊維との混合物を用いることができる。また、前記触媒として、Pt、Pt−Ir、Pt−Re、Pt−W等の貴金属系の金属を用いた炭素担持Pt触媒、炭素担持Pt−Ir複合金属触媒、炭素担持Pt−Re複合金属触媒、炭素担持Pt−W複合金属触媒、又はニッケル系金属を使用した触媒等を内壁に設けることもできる。
【0049】
インジェクタ6は、図3及び図5に示すように、断面円形の管状に構成され、管には触媒11にデカリンを放射状に供給できるように供給孔が複数設けられている。インジェクタ6は、円筒体12の触媒11で取り囲まれた内側に配置されており、複数の供給孔からデカリンを放射状に噴射して、触媒11の全面に均一な液膜状態を形成し得るように構成されている。図5は、図3の反応手段1をB−B’線で切り取ったときの概略断面図である。
【0050】
各脱水素反応器のインジェクタ6は、図1に示すように、デカリンを供給するための供給配管26と接続されており、この供給配管26によって複室貯留タンク2(デカリン貯留部)と連通されている。また、個々のインジェクタには、それぞれ制御用のドライバ(D1〜Dn)が電気的に接続されており、インジェクタからのデカリン噴射量を個々にコントロールできるようになっている。
【0051】
インジェクタからデカリンを供給する場合には、加熱触媒表面が僅かに湿潤した状態、すなわち液膜状態となるように供給することが好ましい。僅かに湿潤した液膜状態では、過熱(デカリンの沸点を越える温度での加熱)・液膜状態での脱水素反応のとき水素ガス生成量は最大になる。これは、デカリンの蒸発速度が、基質液量(デカリンの液量)が少ない程小さくなり、蒸発速度が小さくかつ高温の状態で脱水素反応させることにより転化率が向上するからである。すなわち、蒸発速度は液量・伝熱面積・加熱源と沸点との温度差の各々に比例するので、液体デカリンの量が少なければ蒸発速度が小さくなる。液体デカリンは、加熱触媒上(例えば、200〜350℃)でも液膜状態で存在するので、触媒活性サイトは液相からのデカリンの速やかな吸着により充分に高い被覆度で常時補填される。すなわち、触媒表面上で液膜状態で脱水素反応させることにより、触媒表面上で気体で反応させるよりも優れた反応性が得られる。
【0052】
複数の脱水素反応器は、上部端面に接続された排出管9を介して、逆止弁を備えた配管27によって分離タンク3と連通されており、また、下部端面に接続された排出管8を介して、逆止弁を備えた戻し配管28によって複室貯留タンク2(生成物貯留部)と連通されている。
【0053】
複室貯留タンク2は、隔壁面が略水平となるようにナフタレン非透過性の移動可能な隔壁23を備えて構成され、隔壁23により内部が二つの室に区画されている。区画された一方(図面の隔壁23の下室)には、デカリン22を貯留するデカリン貯留部(炭化水素系燃料貯留部)が、他方(図面の隔壁23の上室)にはナフタレン混合物21を貯留する混合部貯留部(生成物貯留部)が設けられている。
【0054】
デカリン貯留部の底面側には、デカリン22を供給するためのポンプP2を備えた供給配管26の一端と、デカリン22を分離タンクに供給するためのポンプP7を備えた供給配管29の一端とが接続されている。更に壁面には、バルブを備えた燃料供給管16が設けられている。また、混合物貯留部には、戻し配管28の一端が接続されると共に、供給配管30の一端が接続されて分離タンク3と連通されており、更に壁面にはバルブを備えた排出管15が設けられている。
【0055】
隔壁23は、その壁面の法線方向と略平行(図面の上下方向C)に移動可能に構成されている。ナフタレン混合物がなくデカリンが満タンであるときには、隔壁23は最上部に位置して最大量のデカリンがデカリン貯留部に貯留され、水素ガスの生成、すなわちナフタレン混合物の生成量の増大にしたがって隔壁23は徐々に下方に自動的に移動し、デカリン貯留部の容積が縮小され混合物貯留部の容積が拡大する。これにより、単一のタンクを有効に利用でき、装置をより小型化することができる。
【0056】
隔壁23は、混合物貯留部からデカリン貯留部へのナフタレンの移動を抑え、かつデカリンに対して安定なものであれば、特に制限はなく公知のものの中から適宜選択することができる。例えば、物質非透過性のもの、ナフタレン透過性の低いもの、ナフタレンを除いては透過性のもの等を用いることができる。また、変形し難い板状のものでも伸縮可能な軟性、弾性を有するものでもよい。一つの複室貯留タンク内に複数の隔壁を設けることもできる。
【0057】
具体的な例として、仕切り板や、ナフタレン濃度が低い側から圧がかかったときに開弁し、ナフタレンを高濃度に含む側から圧がかかったときに閉弁される多数の逆止弁が格子状又はランダムに配列された逆止弁膜などが挙げられる。
【0058】
複室貯留タンク2は、反応手段1と連通する供給配管26や分離タンク3と連通する供給配管29、30、その他戻し配管28等にそれぞれ図示しない連結器(ジョイント)を設け、連結器において着脱可能に構成することができる。例えば、簡易にはめ込み、取り外しができる交換タンク(カートリッジタンク)の形態に構成できる。
【0059】
複室貯留タンク2を着脱可能に構成することにより、デカリンから所定量の水素ガスを生成後、複室貯留タンク自体を交換あるいは一旦取外してナフタレン混合物を再生することにより、貯留されたナフタレン混合物を回収、除去でき、車載するなど特定場所に定置しない場合でも簡易かつ継続的な水素の供給が可能となる。
【0060】
また、複室貯留タンク2を着脱可能に構成せず、あるいは着脱可能に構成すると共に、複室貯留タンクの混合物貯留部(図中の上室)のみを着脱可能に構成してもよい。この場合、混合物貯留部は複室貯留タンクに収納可能なカートリッジ式に構成することもでき、また混合物貯留部が複室貯留タンクの一部を構成するように構成することもできる。例えば、隔壁23の上室をはめ込み、取り外しが可能な態様、例えば交換タンク(カートリッジタンク)として構成することができる。この場合も、混合物貯留部(交換タンク)を空のもの(交換タンク)に取り替えることにより継続的な水素生成が可能となる。
【0061】
分離タンク3には、その上部において複室貯留タンク2のデカリン貯留部(下室)に連通する供給配管29の他端で接続された供給装置24が設けられ、壁面に接続された配管27を介して、反応手段1から送られた水素リッチガスにデカリンを噴霧等して供給できるように構成されている。また、分離タンク3の底部側には、ポンプP5を備えた供給配管30の他端が接続され、デカリンに溶解されて底部に貯留されたナフタレン混合物を複室貯留タンクの混合物貯留部に供給できるようになっている。
【0062】
分離タンク3の上部壁面には、分離された水素ガスを挿通するためのポンプとバルブV2とを備えた配管31の一端が接続され、水素ガスの貯留、供給が可能な水素ガス貯留タンク(バッファータンク)40と連通されている。また、分離タンク3の壁面には、タンク中の水素圧を検出するための水素圧センサ25が設けられている。分離タンク3内の水素ガスを加圧または高圧状態にしたり、水素ガス貯留タンク40への圧力を低圧(例えば負圧)にすることで水素排出効率を向上させることができる。
【0063】
水素ガス貯留タンク40は、バルブV1を備えた供給配管32によって水素エンジン42と連通され、水素ガスを供給できるようになっている。そして、供給配管32には、水素エンジンに供給する水素量を制御するための水素流量制御器41が設けられ、水素エンジンの運転状態に応じて適宜コントロールできるように構成されている。エンジン始動時には、脱水素反応器内の触媒温度が低く水素生成できないことから、水素ガス貯留タンク40に貯留された水素が供給される。
【0064】
図6に示すように、上記のデカリン供給装置24、水素流量制御器41、制御用ドライバD1〜Dn、ポンプP1〜P7、バルブV1〜V2、バルブVa1〜Van及びVb1〜Vbn、循環冷却器、水素圧センサ25、並びに温度センサ10の各々は、マイクロコンピュータ等で構成された制御回路50に接続されている。
【0065】
以下、本実施の形態の制御装置による制御ルーチンについて説明する。図7は、イグニッション(IG)スイッチオンで実行されるメインルーチンを示すものであり、IGスイッチがオンされると、まず水素流量制御器41がオンされて水素エンジンが始動し、ステップ102においてオイル循環ポンプP1が駆動し、加熱循環系のシリコーンオイル7が循環する。続いて、ステップ104において反応手段1の反応タンク4中の加熱触媒の温度(オイル温度)Tを取り込み、ステップ106においてオイル温度Tが予め定められた所定温度T0以下か否かを判断し、オイル温度Tが所定温度T0以下の場合には、ステップ108において循環冷却器43をオフし、オイル温度Tが所定温度T0を超えている場合にはステップ110において循環冷却器43をオンする。これにより、反応タンク4内のシリコーンオイル温度、すなわち各脱水素反応器内部の触媒が所定温度になるように制御される。
【0066】
上記の所定温度は、200〜500℃、好ましくは200〜350℃の間の温度、更に好ましくは280℃にすることができる。この理由は、所定温度が200℃未満であると目的とする脱水素反応の高い反応速度、換言すれば水素使用装置の高性能が得られないことがあり、350℃を越えるとカーボンデポジットが生じる可能性を持ち、500℃を越えると実用的でないからである。
【0067】
次のステップ112では、複数の脱水素反応器5a1…5anの各々において、制御用のドライバD1〜Dnにより各インジェクタからの供給量を予め定めた所定量(触媒表面上で液膜が得られる直前の量)から徐々に増加させながらデカリンを供給し、生成した水素リッチガスをバルブ(Va1〜Van)開閉して分離タンク3に送ると共に、次のステップ114において水素圧センサ25で検出された水素圧の値に基づいて水素圧が増加しているか否か、すなわち水素ガス発生量が増加しているか否かを判断する。水素圧が増加している場合にはステップ112に戻って、デカリン供給量を徐々に増加することを繰り返す。これにより、乾燥した触媒上にデカリンが徐々に供給され、触媒表面が徐々に湿潤して行き、デカリンが液膜状態で供給されるので、水素発生量が最大値に近づく。
【0068】
一方、ステップ114において水素圧が低下していると判断されたときは、デカリン供給量が液膜状態より過剰に供給された場合であるので、ステップ116において、低下の程度に応じて全部あるいは一部の制御用のドライバD1〜Dnを制御して個々のインジェクタからのデカリン供給量を徐々に減少させながら供給する。これにより、再び水素発生量が最大値に近づく。ステップ118では、水素圧が低下したか否かを判断し、水素圧が未だ低下しない場合にはステップ116に戻ってデカリン供給量を徐々に減少することを繰り返し、水素圧が低下する場合には、デカリン供給量が液膜状態より少なすぎる状態であるので、ステップ112に戻ってデカリン供給量を徐々に増加して供給することを繰り返す。
【0069】
これにより、デカリンが触媒表面上で常に液膜状態で保持され、水素圧、すなわち水素ガス発生量が最大になるようにデカリンが供給される。水素圧センサは、複数の脱水素反応器の各々に取付けておくこともでき、その場合には、各脱水素反応器内の水素圧に基づいて各々の触媒表面上でデカリンが常に液膜状態で保持されるように供給量を制御し、脱水素反応器ごとにデカリン供給とバルブ(Va1〜Van)の開閉を繰り返すことによって行なえる。
【0070】
本実施形態では、IGスイッチがオンされると水素流量制御器41によって水素ガス貯蔵タンク40から水素エンジン42に水素が供給され水素エンジンが始動する。そして、オイル循環ポンプP1が駆動して反応手段1の反応タンク4内のシリコーンオイル温度が所定の触媒加熱温度にまで達すると、複室貯留タンク2からデカリン22が供給配管26を挿通して反応手段1の脱水素反応器5a1、5a2、…5anに供給される。各脱水素反応器で発生した水素リッチガス(蒸発した残存デカリンを含んでもよい。)は生成ナフタレンと共に排出管9を介して配管27によって分離タンク3に送られる。このとき、循環冷却器43によって触媒温度は所定温度に制御されている。
【0071】
分離タンク3に供給された水素リッチガスは、供給装置24から噴出されるデカリンと接触し、冷却されると共にガス中のナフタレン及び残存デカリンは供給されたデカリンに溶解されて水素ガスと分離される。分離された高純度の水素ガスは、配管31を挿通して水素ガス貯蔵タンク40に供給、貯蔵される。供給、貯蔵された水素ガスは、水素流量制御器41により制御されながら水素ガス貯蔵タンクから水素エンジン等の水素使用装置42に供給される。分離タンクで溶解されたナフタレンは、デカリンと混合したナフタレン混合物として複室貯留タンク2の上室(混合物貯留部)に貯留される。
【0072】
このとき、隔壁23はナフタレン混合物の量が増えるにしたがって上室の容積が拡大する方向(図中の下方)に移動する。そして、ナフタレン混合物が所定量に達すると、バルブ開閉して排出管15からナフタレン混合物が排出、回収され、これに伴い隔壁23は下室の容積が拡大する方向(図中の上方)に移動し、燃料供給管16からデカリンが供給される。このサイクルを繰り返すことにより、高純度の水素ガスを継続的に水素使用装置に供給することができる。なお、水素ガス貯蔵タンクに貯蔵された水素ガスは、水素使用装置に供給するほか、後述の再生タンクにおけるナフタレンの水素化反応に利用することもできる。
【0073】
車両を停止させてイグニッション(IG)スイッチをオフすると、図8の割り込みルーチンが起動され、ステップ132において水素エンジンへの水素供給を制御する水素流量制御器41を停止すると共に、ステップ130においてポンプP7の駆動を停止し供給装置24を停止させてデカリン供給を停止し、更にステップ134においてオイル循環ポンプP1を停止することにより水素ガスの生成を停止させる。また、循環冷却器は作動させたまま、次のステップ136において各脱水素反応器の底部に冷却され貯留された未反応デカリンはバルブを開くと共にポンプP6を駆動して排出管8と繋がる戻し配管28を介して複室貯留タンク2に戻される。なお、循環冷却器43は、反応タンク4内のシリコーンオイルが所定温度以下となったときに停止される。このとき、デカリン供給を停止した後も少量の水素ガスが発生するので、ステップ138において、発生した水素ガスを分離タンク3を経由して水素ガス貯蔵タンク40に貯蔵する。
【0074】
また、デカリンとテトラリンとの混合燃料を用いることにより、デカリンの脱水素反応の前にテトラリンが脱水素反応するので、速やかに水素ガスを発生させることができる。ここで、貯留分離タンク内あるいは貯留分離タンクとは別のタンク内に、デカリンと分離してテトラリンを貯留し、このテトラリンを加熱された触媒上でデカリンの脱水素反応前に脱水素反応させることにより、速やかに多量の水素ガスを発生させることができ、より迅速に水素生成を行なうことができる。
【0075】
(第2実施形態)
本発明の水素ガス生成装置の第2実施形態を図9を参照して説明する。本実施形態は、第1実施形態の複室貯留タンクおよび分離タンクを単一の貯留分離タンクに代え、単一タンクにデカリンおよび生成ナフタレンを共に貯留するようにし、かつ水素ガスをも分離可能としたものである。また、貯留分離タンクには更に再生タンクを接続し、ナフタレンを再生可能なように構成してある。なお、燃料は第1実施形態で使用した燃料を用いることができ、第1実施形態と同様の構成要素には同一の参照符号を付してその詳細な説明を省略する。
【0076】
図9に示すように、本実施形態は、デカリン22を貯留し、かつ貯留されたデカリンにデカリンの脱水素反応により生成された水素ガス及びナフタレンが供給されると共に、排出口から水素ガスを排出する貯留分離タンク60と、再生タンク71とを備えている。
【0077】
貯留分離タンク60は、内部に密閉してデカリン22を貯留可能に構成され、貯留分離タンク60の上部壁面には、デカリン22を供給するためのバルブを備えた燃料供給管16と、未反応デカリンを回収する戻し配管28とが設けられており、また、水素ガス貯蔵タンク40に水素を挿通するためのポンプP4とバルブV2とを備えた配管31の一端が接続されて排出口が形成されている。デカリン22は、貯留分離タンク60の上方に空隙を有する範囲で燃料供給管16から供給できるようになっており、反応手段1で生成された水素ガスは、配管31を介して水素ガス貯蔵タンク40に供給、貯留された後、供給配管32を挿通して水素エンジン42に供給できるようになっている(図1参照)。また、貯留分離タンク60の上部壁面には水素圧を検出する水素圧センサ25が取り付けられており、底部には貯留されたナフタレン62を排出するためのバルブを備えた排出管15が設けられている。
【0078】
貯留分離タンク60の底面側の側壁には、反応手段1と繋がる配管27がデカリン22中にその他端が位置するように設けられ、反応手段の各脱水素反応器と連通されている。液中となる配管27の他端からは、反応手段1で生成された水素ガス及び気相ナフタレンの混合ガス(水素リッチガス;蒸発して残存する残存デカリンを含んでもよい)を液中において供給可能なようになっている。
【0079】
分離膜61は、貯留分離タンク60の内部にデカリン22の液面と略水平に備えられ、浮上する水素ガス63を透過し、ナフタレン62のデカリン内での拡散を抑えて分離膜61の下方に貯留することができる。貯留分離タンク60の内部において、水平面と略平行に配置された分離膜61は、ナフタレン含量の少ないデカリンの上層部からナフタレン含量の多い下層部に移る濃度分布とも略平行に位置し、分離膜61の下方で供給される水素ガスは分離膜の膜面を一様に通過できる。特に、液中の配管27の出口周辺でナフタレン量が不均一になると局部的に粘度上昇等を来すことがあるため、水素ガスの液中での移動速度を損なわないようにすることが望ましい。
【0080】
分離膜61は、その膜面の法線方向(図9中の矢印方向D)と略平行に移動可能に構成することができる。分離膜の移動は、貯留分離タンク内部の区画された領域の容積を可逆的に変えることができることが望ましく、生成ナフタレン量に合わせて任意に変えることができる。
【0081】
貯留分離タンク60における分離膜61の位置関係としては、ナフタレンがなくデカリンが満タンであるときには分離膜61はナフタレン供給側、すなわち最下部に位置し、分離膜の下側の容積を小さくでき、このとき最大量のデカリンが貯留される。そして、水素の生成、すなわちナフタレン量の増大に応じて分離膜は徐々に上方に移動し、逆にナフタレン供給側の容積は拡大される。これにより、ナフタレンの拡散を抑止しながら単一のタンクを有効に利用でき、装置をより小型化することができる。
【0082】
分離膜は、水素ガスを透過できると共に、デカリン中でのナフタレンの拡散を抑制し、かつデカリンに対して安定なものであれば、特に制限はなく公知のものの中から適宜選択することができる。例えば、水素透過性でかつ水素ガス以外は物質非透過性(若しくはナフタレン低透過性)のもの、ナフタレンを除いては透過性のものが使用できる。また、分離膜は、変形し難い板状のものでも伸縮可能な軟性、弾性を有するものでもよい。一つの貯留分離タンク内に複数の分離膜を設けることもできる。
【0083】
具体的な例として、メッシュ状のフィルタ膜や、ナフタレンを高濃度に含む側から水素ガスが透過するときに開弁され、かつ逆側から圧がかかった場合に閉弁される多数の逆止弁が格子状又はランダムに配列された逆止弁膜などが挙げられ、材質は樹脂材、金属材、シリコーン材、ゴム材など適宜選択できる。
【0084】
分離膜61の膜面の上方には、ナフタレン含有比の低いデカリン22を、デカリンの脱水素反応を行なう反応手段1(脱水素反応器5a)に供給するための供給配管26の他端が取り付けられ、個々の脱水素反応器と連通されている。この他端を分離膜61の膜面近傍から上方に配置することにより、ナフタレン含量比の低いデカリンを供給することができ、水素生成効率を高めることができる。
【0085】
貯留分離タンクには、反応手段1と連通する供給配管26、27や戻し配管28、水素ガス貯蔵タンク40と連通する配管31、その他後述の再生タンクと連通する配管などにそれぞれ図示しない連結器(ジョイント)を備えて、連結器において着脱可能に構成することができる。例えば、簡易にはめ込み、取り外しができる交換タンク(カートリッジタンク)の形態に構成できる。
【0086】
貯留分離タンク60を着脱可能に構成することにより、デカリンから所定量の水素ガスを生成後、貯留分離タンク自体を交換あるいは一旦取外してナフタレンを再生することにより、貯留された生成ナフタレンを回収、除去でき、車載するなど特定場所に定置しない場合でも簡易かつ継続的な水素の供給が可能となる。
【0087】
また、第1実施形態と同様に、貯留分離タンク60を着脱可能に構成せず、あるいは着脱可能に構成すると共に、貯留分離タンク60のナフタレンが高濃度に貯留された分離膜61の下方の部分のみを着脱可能に構成してもよい。この場合、ナフタレンが貯留された部分は、貯留分離タンクに収納可能なカートリッジ式に構成することもでき、また、この部分が貯留分離タンクの一部を構成するように設けることもできる。ナフタレンを高濃度に含む部分(交換タンク)を、デカリンで満たされたもの(交換タンク)に取り替えることにより水素生成を継続的に行なうことが可能となる。
【0088】
再生タンク71は、ナフタレンと水素ガスとを加熱触媒を用いて水素化反応させてデカリンおよび/またはテトラリンを生成させるものであり、貯留分離タンク60と接続して車両内に搭載することができる。
【0089】
再生タンク71は、バルブV3及びポンプP8を備えた供給配管77を介して貯留分離タンク60の底面側で、またバルブV4及びポンプP9を備えた供給配管76を介して貯留分離タンク60の上面側で、それぞれ連通されている。これにより、貯留分離タンク60内のナフタレンは供給配管77を挿通して再生タンクに供給できるようになっており、生成されたデカリン及びテトラリンは供給配管76を介して貯留分離タンク60に供給される。
【0090】
再生タンク71の底面側には、触媒74及び触媒74を加熱するヒータ75で構成され、かつ発熱及び吸熱を起こさせる触媒反応器が設けられている。触媒74の水素化反応を行なう側は、多孔性炭素担体に触媒金属微粒子を担持して構成されている。触媒としては、上記で説明した炭素担持Pt触媒、炭素担持Pt−Ir複合金属触媒、炭素担持Pt−Re複合金属触媒、炭素担持Pt−W複合金属触媒、又はニッケル系金属を使用した触媒等を使用することができる。触媒74の近傍には、触媒表面の温度を検出する温度センサ73が取付けられている。
【0091】
また、再生タンク71には、ガソリンスタンド等の車両外部に設けられた水素ボンベや水の電気分解装置等の設備から水素ガスを供給するための水素ガス供給管72が取り付けられている。水の電気分解により生成した水素ガスなどを供給するようにすれば、クリーンなシステムを構築することができる。
【0092】
本実施形態では、貯留分離タンク60に燃料供給管16を介してデカリン22が供給されると、デカリン22は供給配管26を挿通して反応手段1に送られる。個々の脱水素反応器の乾燥した触媒上にデカリンが徐々に供給され、触媒表面が徐々に湿潤してデカリンが液膜状態で供給されると、水素圧、すなわち水素発生量が最大値に近づく。
【0093】
生成されたナフタレンを含む水素リッチガスは、ポンプP3により逆止弁を介して配管27を挿通して貯留分離タンク60のデカリン22中に供給される。貯留分離タンク60では、水素ガス63はデカリン22中を浮上する一方、気相で存在していたナフタレン及び残存デカリンはデカリン22中へ供給される過程で冷却され、残存デカリンは凝縮して液化し、ナフタレンは凝析して沈降する。これにより、水素ガスはナフタレン及び残存デカリンと分離され、タンク上部の空隙において高純度に分離される。分離された水素ガスは水素ガス貯蔵タンクに供給される。このとき、貯留分離タンク60内の水素ガスを加圧または高圧状態にしたり、水素ガス貯蔵タンクへの圧力を低圧(例えば負圧)にすることで水素排出効率を向上させることができる。
【0094】
なお、生成ナフタレンからのデカリンの再生は航空燃料として公知の安定した技術を使用することができる。これにより、安全で環境に優しく、高純度の水素ガスを発生することができる。
【0095】
一方、車両を停止させる場合には、第1実施形態の場合と同様にして、水素ガスの生成を停止すると共に、各脱水素反応器の底部に冷却され貯留された未反応デカリンをポンプP6を駆動させて排出管8と繋がる戻し配管28を介して貯留分離タンク60に戻し、さらにデカリン供給を停止した後に発生した少量の水素ガスを貯留分離タンク60を経由して水素ガス貯蔵タンク40に貯蔵する。このとき、循環冷却器43は、反応タンク4内のシリコーンオイルが所定温度以下となったときに停止される。
【0096】
また、再生タンク71では、ヒータ75のオン/オフにより、触媒74の温度が所定温度になるように制御される。この所定温度は、150〜200℃の間の温度、好ましくは150℃近傍の温度を採用することができる。バルブV3を開いてポンプP8を駆動し、供給配管77を介してナフタレンと未反応デカリンとの混合液を再生タンク71に供給する。また、これと同時に、ガソリンスタンド等に設けられている水素ボンベまたは水の電気分解装置から得られる水素ガスを再生タンクに供給し、所定温度に制御された触媒74上でナフタレン水素化反応を行ってデカリンを再生し、バルブV4を開いてポンプP9を駆動し、供給配管76を挿通して再生デカリンを貯留分離タンク60に回収する。このとき、再生タンク71内の水素ガスは、加圧または高圧にするのが好ましい。
【0097】
なお、簡易かつ速やかにナフタレンの水素化を行う場合には、水素ガスを加圧せずに、触媒温度を上記より低温にしてテトラリンを生成させ、それを貯留分離タンクに供給するようにしてもよい。
【0098】
上記では、再生タンク71を車両に搭載する例について説明したが、再生タンクをガソリンスタンド等に設置し、ガソリンスタンド等で水を電気分解して得られる水素を供給してデカリンを再生するようにしてもよい。
【0099】
上述した実施形態では、水素生成用の燃料としてデカリンを用いた例を中心に説明したが、既述のデカリン以外の炭化水素系燃料を用いた場合においても同様である。また、水素使用装置についても、特に車載の水素エンジンを例に説明したが、本発明は水素エンジン以外の車載燃料電池などの水素使用装置に適用することもできる。
【0100】
また、上記実施形態では、加熱媒体を加熱する熱源として水素エンジン等の水素使用装置の廃熱を利用する例を説明したが、デカリン等の有機ハイドライドやナフタレン等の脱水素生成物などの有機物を空気と混合して燃焼させたときの燃焼熱や取り出した水素の燃焼熱を熱源として構成することもできる。
【0101】
【発明の効果】
本発明によれば、小型、軽量化が可能で、単位体積当りの脱水素反応効率を高めて高純度水素ガスの生成量を向上させることでき、水素エンジン等の水素使用装置からの廃熱の利用によってシステム全体のエネルギー効率をも向上させることができる水素ガス生成装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1実施形態を示す概略構成図である。
【図2】反応手段の概略構成例を拡大して示す斜視図である。
【図3】反応手段を構成する脱水素反応器の一例を拡大して示す斜視図である。
【図4】図2のA−A’線断面図である。
【図5】図3のB−B’線断面図である。
【図6】本発明の第1実施形態の制御回路を示すブロック図である。
【図7】本発明の第1実施形態のメインルーチンを示す流れ図である。
【図8】本発明の第1実施形態をイグニッションスイッチオフで割り込まれる割り込みルーチンを示す流れ図である。
【図9】本発明の第2実施形態の一部を示す概略構成図である。
【符号の説明】
1…反応手段
2…複室貯留タンク
3…分離タンク
5a(5a1、5a2…5an)…脱水素反応器
6…インジェクタ(供給装置)
7…シリコーンオイル(加熱媒体)
11…触媒
12…円筒体(筒状体)
23…隔壁
40…水素ガス貯蔵タンク
42…水素エンジン(水素使用装置)
60…貯留分離タンク
61…分離膜
71…再生タンク
Claims (10)
- 内壁に触媒が設けられた筒状体、及び該筒状体の内部に配置され、前記触媒に炭化水素系燃料を供給する供給孔を有する管状の供給装置を備え、供給された炭化水素系燃料を前記触媒上で脱水素反応させる脱水素反応器、並びに前記触媒を筒状体の外側から加熱する加熱媒体を備えた反応手段と、
炭化水素系燃料の脱水素反応によって生じた水素ガスを分離する分離手段と、を含む水素ガス生成装置。 - 筒状体が円筒体である請求項1に記載の水素ガス生成装置。
- 加熱媒体が液状物である請求項1又は2に記載の水素ガス生成装置。
- 前記反応手段に複数の脱水素反応器が実装され、脱水素反応器の間隙に介在された加熱媒体によって各脱水素反応器内部の触媒を加熱するようにした請求項1〜3のいずれか1項に記載の水素ガス生成装置。
- 液状の加熱媒体が複数の脱水素反応器の間隙を循環する加熱循環系と、冷却水を循環させて前記加熱媒体の液温を調節する冷却水循環系とを更に備え、加熱媒体の液温を調節して前記触媒を加熱する請求項4に記載の水素ガス生成装置。
- 前記分離手段が、炭化水素系燃料を貯留し、かつ貯留された炭化水素系燃料中に、前記炭化水素系燃料の脱水素反応によって生じた水素ガス及び脱水素生成物が供給されると共に、前記水素ガスを排出する排出口を備えた貯留分離タンクである請求項1〜5のいずれか1項に記載の水素ガス生成装置。
- 前記貯留分離タンクが、脱水素生成物の拡散を抑え、かつ水素ガスを透過する分離膜を内部に備えた請求項6に記載の水素ガス生成装置。
- 炭化水素系燃料を貯留する炭化水素系燃料貯留部と、炭化水素系燃料の脱水素反応により生じ、かつ水素ガスが除去された脱水素生成物を貯留する生成物貯留部とを含む複室貯留タンクを更に備えた請求項1〜5のいずれか1項に記載の水素ガス生成装置。
- 前記複室貯留タンクが、移動可能な隔壁を備え、該隔壁によって区画された一方の室を炭化水素系燃料貯留部とし、他方の室を生成物貯留部とした請求項8に記載の水素ガス生成装置。
- 触媒及び触媒を加熱する加熱器を備えると共に、脱水素生成物及び水素ガスが供給され、脱水素生成物を加熱された触媒上で水素化反応させる再生タンクを更に含む請求項1〜9のいずれか1項に記載の水素ガス生成装置。
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Legal Events
Date | Code | Title | Description |
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A621 | Written request for application examination |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A621 Effective date: 20050602 |
|
A761 | Written withdrawal of application |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A761 Effective date: 20061220 |