JP2004168568A - 水素ガス生成装置 - Google Patents
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Abstract
【課題】水素使用装置からの廃熱を利用してシステム全体のエネルギー効率を向上できると共に、小型、軽量で且つ高純度の水素ガス生成量を向上させた水素ガス生成装置を提供する。
【解決手段】デカリンを脱水素反応させる触媒36を内壁に備えた複数の反応室34a〜34lと前記脱水素反応によって生成した水素ガスを排出する排出口と38を備えた水素反応器22と、反応室34a〜34lの各々に前記炭化水素系燃料を噴射する噴射装置26と、を備え、反応室34a〜34lが、両面に触媒36を備え連通部として貫通孔が穿設されたプレート32a〜32lによって脱水素反応器22の内部を仕切ることで形成された水素ガス生成装置である。
【選択図】 図2
【解決手段】デカリンを脱水素反応させる触媒36を内壁に備えた複数の反応室34a〜34lと前記脱水素反応によって生成した水素ガスを排出する排出口と38を備えた水素反応器22と、反応室34a〜34lの各々に前記炭化水素系燃料を噴射する噴射装置26と、を備え、反応室34a〜34lが、両面に触媒36を備え連通部として貫通孔が穿設されたプレート32a〜32lによって脱水素反応器22の内部を仕切ることで形成された水素ガス生成装置である。
【選択図】 図2
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、水素ガス生成装置に係り、特に、電気自動車や水素エンジン車等の車両に搭載可能で、且つ車両に搭載された燃料電池や水素エンジンに水素ガスを供給することができる水素ガス生成装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来の電気自動車は、車両の駆動力を得るための電源としての燃料電池、およびこの燃料電池を用いて発電を行なうための燃料である水素または水素を生成するための原燃料を搭載している。また、水素エンジンを搭載した水素エンジン車も同様に燃料源として水素、または水素を生成するための原燃料を搭載している。
【0003】
水素を搭載する電気自動車や水素エンジン車では、水素ガスを圧縮して高圧に若しくは液状にして充填したボンベ、または水素を吸蔵する水素吸蔵合金や水素吸着材料により水素を搭載している。一方、原燃料を搭載する電気自動車では、原燃料としてのメタノールまたはガソリン等の炭化水素と、この原燃料を水蒸気改質して水素リッチガスを生成する水素生成装置とを搭載している。
【0004】
しかしながら、車両に水素を搭載する場合、高圧タンクに圧縮した状態で搭載すると、高圧タンクは大きいわりに壁厚が厚く内容積を大きくできず、また、充填圧力に限界があるために水素充填量が少ない。液体水素として搭載する場合は、気化ロスがあるほか、液化に多大なエネルギーを要するため総合的なエネルギー効率の点で望ましくない。また、水素吸蔵合金や水素吸着材料では、電気自動車や水素エンジン車に必要とされる水素貯蔵密度が不充分であり、水素の吸蔵や吸着等を制御するのが非常に困難である。さらに、水素を高圧化、液化したり、吸蔵するのに設備を別途整備する必要もある。
【0005】
一方、原燃料を搭載する電気自動車や水素エンジン車は、水素を搭載する水素エンジン車に比較して、1回の燃料補給で走行可能な距離が長いという利点を有しており、炭化水素系の原燃料は水素ガスに比較して輸送等の取り扱いが容易であるという利点も有している。また、水素は燃焼しても空中の酸素と結合して水となるだけで公害の心配がない。
【0006】
また、炭化水素系燃料の1つであるデカリン(デカヒドロナフタレン)は、常温では殆ど蒸気圧がゼロ(沸点が200℃近傍)で取り扱いし易いことから、原燃料としての使用の可能性が期待されている。
【0007】
デカリンの脱水素化方法としては、デカリンをコバルト、ロジウム、イリジウム、鉄、テルニウム、ニッケル、および白金の中から選ばれる少なくとも1種の遷移金属を含有する遷移金属錯体の存在下で光照射し、デカリンから水素を離脱させる方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。また、有機リン化合物のロジウム錯体の存在下、または有機リン化合物とロジウム化合物との存在下に、デカリンに光照射することによりデカリンから水素を製造する方法が知られている(例えば、特許文献2参照。)。
【0008】
さらに、デカリンを含む液体の水素化芳香族化合物を加熱器で加熱し、脱水素触媒によって脱水素して得られた水素を燃料電池に供給する手段を備えた水素燃料電池供給システムが開示されている(例えば、特許文献3参照。)。このような水素燃料電池供給システムの性能としては、水素化芳香族化合物の水素転化率が大きなウエイトを占める。また、今後の燃料電池の動向からも大量の水素を供給する手法の確立が重要な問題となる。しかし、上記水素燃料電池供給システムは、液体の水素化芳香族化合物を脱水素反応させる際に、反応転化率の効率化は図られていない。
【0009】
【特許文献1】
特公平3−9091号公報
【特許文献2】
特公平5−18761号公報
【特許文献3】
特開2001−110437号公報
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
上述のように、特に燃料電池や水素エンジンに供給する水素ガスは、供給する水素ガス中の水素濃度が高いことが要求され、上記従来の脱水素化による水素生成方法を電気自動車の燃料電池や水素エンジン等の水素使用装置に適用しようとすると、反応転化率が低く、脱水素化によって生じた脱水素生成物や未反応の炭化水素系燃料が混在するために、水素使用装置に供給しても水素分圧が低いことから高性能が得られ難いという問題があった。
【0011】
また、車載する場合には、装置全体が大きすぎたり重量がありすぎると、現実には車両などの狭い場所への搭載は困難となる。
【0012】
本発明は、上記に鑑み成されたもので、小型、軽量化が可能で、単位容積当りの脱水素反応効率を高めて高純度水素ガスの生成量を向上させることができる水素ガス生成装置を提供することを目的とする。
【0013】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の、本発明の水素ガス生成装置は、炭化水素系燃料を脱水素反応させる触媒を内壁に備え且つ相互に連通された複数の反応室と前記脱水素反応によって生成した水素ガスを排出する排出口とを備えた脱水素反応器と、前記複数の反応室の各々に前記炭化水素系燃料を噴射する噴射装置と、を備えて構成される。
【0014】
請求項1に記載の水素ガス生成装置によれば、内壁に上記触媒を備えた複数の反応室を備えた脱水素反応器を用いることで、脱水素反応器内の触媒設置面積を広く確保することができる。これにより、炭化水素系燃料の脱水素反応領域が拡張され、脱水素反応器の単位容積当たりにおける炭化水素系燃料の転化率を向上させることができる。また、上記複数の反応室は、互いに連通されており、脱水素反応によって発生した水素ガスや未反応の炭化水素系燃料等は排出口から排出される。
【0015】
また、上記触媒は、脱水素反応のために加熱される必要があるが、上記触媒は、ヒータや加熱媒体によって脱水素反応器を加熱し、これにより得られた熱を触媒に伝達させることよって加熱することができる。したがって、脱水素反応器としては、アルミ等の金属物質などの熱伝導性に優れた材質で構成されるのが有効である。
【0016】
本明細書中において、炭化水素系燃料とは、脱水素反応により水素を発生し得る化合物を含む燃料であり、脂環式炭化水素、脂肪族炭化水素等を含む燃料が含まれる。脂環式炭化水素には、例えば、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ジメチルシクロヘキサン、1,3,5−トリメチルシクロヘキサン等の単環式化合物、デカリン、メチルデカリン、テトラリン(テトラヒドロナフタレン)等の二環式化合物、テトラデカヒドロアントラセン等の三環式化合物、等が含まれる。脂肪族炭化水素には、2−プロパノ−ル、メタノール、エタノール等が含まれる。特に、デカリン、メチルデカリン、テトラリンを含む燃料が好ましく、デカリンからなる燃料またはデカリンを主成分とする燃料がより好ましい。
【0017】
炭化水素系燃料から生成される脱水素生成物は、炭化水素系燃料を脱水素反応して水素を放出した後の反応生成物であり、例えば、デカリン、またはシクロヘキサンの場合には、水素と共に主として生成される、ナフタレン(若しくはテトラリン)、またはベンゼンが各々相当する。
【0018】
前記炭化水素系燃料を脱水素反応させると、水素ガスと共に、水素の放出により不飽和結合を持つ脱水素生成物が反応生成物として生成される。例えば、デカリンからなる燃料またはデカリンを主成分とする燃料を用いた場合には、デカリンの脱水素反応により、水素ガスと共に脱水素生成物としてナフタレンが生成される。そして、上記脱水素生成物であるナフタレンを水素添加により水素化反応させたときには、ナフタレンの水素化物であるデカリンおよび/またはテトラリンが再生される。
【0019】
尚、本発明における再生には、例えば、ナフタレンまたはベンゼンからそれぞれデカリンまたはシクロヘキサンを再生することのほか、二環式若しくは三環式の化合物の場合には、水素化が未完の化合物を再生することも含む。即ち、例えばナフタレンを再生する場合、デカリンを再生することのほか、テトラリンを再生すること、デカリンと共にテトラリンを再生することをも含む。
【0020】
また、請求項2に記載の水素ガス生成装置は、請求項1に記載の水素ガス生成装置において、前記複数の反応室を、室の内壁となる側の面に前記触媒を備えた複数の仕切部材によって前記脱水素反応器の内部を仕切ることで形成することができる。
【0021】
請求項2に記載の水素ガス生成装置によれば、脱水素反応器内に上記複数の反応室を形成するために触媒を室の内壁となる側の面、例えば両面に備えた仕切部材を用いることで、内壁に触媒を備えた複数の反応室を効率的に形成することができる。
【0022】
請求項3に記載の水素ガス生成装置は、厚み方向に貫通する貫通孔が穿設され且つ室の内壁となる側の面に炭化水素系燃料を脱水素反応させる触媒を備えた複数のプレートによって仕切られて形成された複数の反応室と、前記脱水素反応によって生成した水素ガスを排出する排出口と、を備えた脱水素反応器と、前記プレートの貫通孔の各々を貫通して設けられ、且つ、前記複数の反応室の各々に対応した噴射孔を有し、前記複数の反応室の各々に前記炭化水素系燃料を噴射する噴射装置と、を備えて構成される。
【0023】
請求項3に記載の水素ガス生成装置によれば、厚み方向に貫通する貫通孔が穿設された複数のプレートによって脱水素反応器内を仕切り、複数の反応室を形成することで、内壁に触媒を備えた複数の反応室を効率的に形成することができる。これにより、脱水素反応器内の触媒設置面積を広く確保することができ、炭化水素系燃料の脱水素反応領域が拡張され、脱水素反応器の単位容積当たりにおける炭化水素系燃料の転化率を向上させることができる。
【0024】
また、上記プレートに穿設された貫通孔が反応室同士を相互に連通させるための役割を果たし、脱水素反応によって発生した水素ガスや未反応の炭化水素系燃料等の流通経路を確保することができる。
【0025】
さらに、各反応室に対応した噴射孔を有する噴射装置を前記プレートの貫通孔に貫通させて設置するため、一基の噴射装置で複数の反応室の各々に炭化水素系燃料を噴射することができる。また、噴射装置が上記プレートの貫通孔を貫通して設置されているため、各反応室の内壁に設置された触媒に均一に炭化水素系燃料を噴射しやすい。
【0026】
前記プレートの貫通孔に貫通して設置される噴射装置は、例えば、長尺の管形状の表面に触媒上に炭化水素系燃料を供給する噴射孔を複数有して構成され、その長手方向が脱水素反応器の内壁に対して略平行となるように配置される。供給装置の面の形状は、円形、楕円形、矩形、方形など任意の形状に構成できる。
【0027】
請求項4に記載の水素ガス生成装置は、室の内壁となる側の面に炭化水素系燃料を脱水素反応させる触媒を備え前記炭化水素系燃料の流下方向に傾斜して設けられた複数のプレートによって仕切られて形成され且つ相互に連通された複数の反応室と、前記脱水素反応によって生成した水素ガスを排出する排出口と、を備えた脱水素反応器と、前記反応室の各々に前記炭化水素系燃料を噴射する噴射装置と、を備えて構成される。
【0028】
請求項4に記載の水素ガス生成装置によれば、前記炭化水素系燃料の流下方向に傾斜して脱水素反応器内に設けられた複数のプレートによって脱水素反応器内を仕切り、複数の反応室を形成することで、内壁に触媒を備えた複数の反応室を効率的に形成することができる。これにより、脱水素反応器内の触媒設置面積を広く確保することができ、炭化水素系燃料の脱水素反応領域が拡張され、脱水素反応器の単位容積当たりにおける炭化水素系燃料の転化率を向上させることができる。
【0029】
また、前記複数の反応室の各々は、隣接する反応室と相互に連通されており、脱水素反応によって発生した水素ガスや未反応の炭化水素系燃料等の流通経路が確保され、さらに、上記プレートは上記炭化水素系燃料の流下方向に傾斜しているため、未反応の炭化水素系燃料等が流下しやすい。流下した未反応の炭化水素系燃料等は、脱水素反応器の流下方向側に排出口を設け一定量が貯まったところで排出する構成とすることができる。
【0030】
また、本発明の水素ガス生成装置には分離手段を設けるのが好ましい。前記分離手段は、脱水素反応器から排出された水素ガスと脱水素生成物との混合ガスから高純度の水素ガスを分離させることができ、分離された高純度の水素ガスは上記燃料電池や水素エンジン等に供給される。
【0031】
本発明の水素ガス生成装置は、炭化水素系燃料の脱水素反応を迅速且つ高効率に行なわせて水素密度の高い水素ガスを良好に水素使用装置(例えば燃料電池、水素エンジン)に供給することが可能であり、装置全体の小型化、軽量化が図れると共に、炭化水素系燃料/脱水素生成物の循環系により、クリーンでエネルギー資源の利用効率の高いシステムを構築することができる。
【0032】
【発明の実施の形態】
以下、図面を参照して、本発明の水素ガス生成装置の実施の形態を説明する。尚、下記の実施の形態において、炭化水素系燃料として、デカリンを主成分とする燃料(以下、単に「デカリン」という。)を用いた場合を中心に説明する。但し、本発明においてはこれら実施の形態に制限されるものではない。
【0033】
(第1の実施の形態)
本発明の水素ガス生成装置の第1の実施の形態について図1〜5を参照して説明する。本実施の形態は、水素ガスを燃料とする水素利用装置が搭載された自動車に本発明の第1の実施の形態の水素ガス生成装置を搭載し、デカリンを高温触媒の存在下で反応させナフタレンと水素ガスとを生成するデカリン/ナフタレン反応を利用したものであり、水素ガス分子を吸着貯蔵するのではなく、化学結合で原燃料中に貯蔵するものである。
【0034】
図1は、本発明の第1の実施の形態を示す概略的構成図である。図1において、本発明の水素ガス生成装置は、反応タンク10と、複室貯留タンク12と、分離タンク14と、水素ガス貯蔵タンク16と、加熱装置18と、から構成される。
【0035】
本実施の形態における水素ガス生成装置は、複室貯留タンク12から反応タンク10にデカリンが供給されると、反応タンク10に備えられた脱水素反応器22内でデカリンが脱水素反応を起こし、水素ガスとナフタレンとを含む水素リッチガスを生成する。この際、反応タンク10は、内部に備えられた触媒を加熱するために加熱装置18によって加熱されている。脱水素反応器22内で発生した水素リッチガスは、その後分離タンク14に供給され、分離タンク14内で水素ガスとナフタレンとに分離される。水素ガスとナフタレンとの分離は、主に水素リッチガスにデカリンを噴霧することによっておこなわれる。分離タンク14内で分離された水素ガスは、水素ガス貯蔵タンク16で貯蔵された後、水素利用装置20に供給される。また、分離タンク14において分離されたナフタレンは分離に用いられたデカリンとともに複室貯留タンク12に送られ貯留される。
【0036】
図1において反応タンク10は、脱水素反応器22と、噴射駆動部24と、噴射装置26と、から構成され、複室貯留タンク12に接続された排出管28の一端が脱水素反応器22の底側に接続されている。反応タンク10は、複室貯留タンク12から供給されたデカリンを脱水素反応器22内で脱水素反応させ、脱水素反応によって生成した水素ガスと気相ナフタレンとの混合ガス(水素リッチガス)を排出する。反応タンク10から排出された水素リッチガスは、バルブV2、逆止弁およびポンプP2を備えた供給配管30を通じて分離タンク14に供給される。
【0037】
図1において脱水素反応器22は、円柱状であり、その内部が複数の反応室に区画されている。脱水素反応器22内の各反応室の内壁にはデカリンを脱水素反応させるための触媒が設けられている。噴射装置26によって各反応室にデカリンが噴射されると、デカリンが触媒上で脱水素反応し、水素ガスとナフタレンとを生成する。脱水素反応器は22の材質としては、触媒に熱を伝えやすいようにアルミ等の熱伝導性の高いものが用いられる。
【0038】
図2および3を用いて脱水素反応器22について説明する。図2は、第1の実施の形態における脱水素反応器の概略的断面図である。図2において、脱水素反応器22は、厚み方向に貫通孔が穿設されたプレート32a〜32kと、プレート32a〜32kによって仕切られた反応室34a〜34lと、反応室34a〜34lの内壁に設けられた触媒36と、ガス排出口38と、未反応デカリン排出口40と、から構成され、その中心部にはプレート32a〜32kの貫通孔を貫通するように、噴射装置26が備えられている。噴射装置26には、反応室34a〜34lにデカリンを噴射するための複数の噴射孔42が設けられている。
【0039】
プレート32a〜32kはドーナツ状の円盤型プレートであり、その中心に貫通孔が穿設されている。プレート32a〜32kの外径は脱水素反応器22内に固定できるように適宜決定される。また、噴射装置26を反応室の中心に設置するためだけではなく、脱水素反応によって生成した水素リッチガスや未反応デカリンの流通経路を確保するための各反応室の連通手段としても機能させるため、貫通孔の直径(プレート32a〜32kの内径)は、その周縁と噴射装置26との間にある程度の間隙ができるように決定される。
【0040】
また、プレート32a〜32kの両面には触媒36が設けられており、各プレートが反応室34a〜34lの内壁の一部を担う役割を果たす。触媒36は脱水素反応の際に加熱されている必要があるため、脱水素反応器22と同様にプレート32a〜32kの材質にはアルミ等の熱を伝えやすい材質が用いられる。また、プレート32a〜32kは、未反応のデカリン等が流下しやすいようにその中心(貫通孔)に向かって傾斜しているすり鉢状であってもよい。
【0041】
脱水素反応器22の内壁には触媒36が設けられており、プレート32a〜32kとともに反応室34a〜34lの内壁を形成している。反応室34a〜34lの各反応室は、隣接する反応室とプレート32a〜32kの貫通孔によって連通しており、その中心に備えられた噴射装置26からデカリンを供給され、内壁に備えられた触媒36上で水素リッチガスを発生させる。
【0042】
反応室34a〜34lの内壁に備えられた触媒36上に噴射装置26からデカリンを供給する際、デカリンは加熱された触媒36の表面が僅かに湿潤した状態、すなわち液膜状態となるように供給されることが好ましい。僅かに湿潤した液膜状態では、過熱(デカリンの沸点を越える温度での加熱)・液膜状態での脱水素反応のとき水素ガス生成量は最大になる。これは、デカリンの蒸発速度が、基質液量(デカリンの液量)が少ない程小さくなり、蒸発速度が小さく且つ高温の状態で脱水素反応させることにより転化率が向上するからである。すなわち、蒸発速度は液量・伝熱面積・加熱源と沸点との温度差の各々に比例するので、液体デカリンの量が少なければ蒸発速度が小さくなる。液体デカリンは、加熱された触媒36上(例えば、200〜350℃)でも液膜状態で存在するので、触媒活性サイトは液相からのデカリンの速やかな吸着により充分に高い被覆度で常時補填される。すなわち、触媒36の表面上でデカリンを液膜状態で脱水素反応させると、触媒36の表面上でデカリンを気体で反応させた場合よりも優れた反応性が得られる。
【0043】
反応室34a〜34lの内壁に備えられる触媒36としては、触媒金属として、Pt、Pt−Ir、Pt−Re、Pt−W等の貴金属系の金属を用いた炭素担持Pt触媒、炭素担持Pt−Ir複合金属触媒、炭素担持Pt−Re複合金属触媒、または炭素担持Pt−W複合金属触媒、またはニッケル系金属を使用することができる。
【0044】
脱水素反応器22の内壁およびプレート32a〜32kの表面に触媒36を設けるには、例えば、脱水素反応器22の内壁に触媒金属微粒子(触媒)を直接担持させ、脱水素反応器22を担持体として機能させたり、または、触媒金属微粒子が多孔性炭素担体等の担体に予め担持されてなる触媒を脱水素反応器22の内壁に沿って設けるようにしてもよい。但し、触媒と担体との密着性が高いほど熱伝導性が良く好ましい。脱水素反応器22をモノリス担体とする場合には、一体成形構造の担体の表面に触媒機能を持つ活性成分(触媒金属微粒子)を分散して付着、担持させたモノリス触媒として構成することもできる。
【0045】
脱水素反応器22の内壁およびプレート32a〜32kの表面に触媒36を設ける方法としては、コーティング法が好適であり、例えばPt/活性炭繊維を触媒とする場合、活性炭繊維及びPtの混合物を脱水素反応器22の内壁にそのままコーティングして固定する方法、Pt含有の活性炭スラリーを調製しこれを吸引、スプレー噴射してコーティング(塗布)、乾燥し、窒素雰囲気中で焼成して筒状体内壁面にコートする方法、等が挙げられる。
【0046】
ガス排出口38は、脱水素反応器22の上方に設けられており、反応室34a〜34lで発生した水素リッチガスを排出する。ガス排出口38には、分離タンク14に接続された供給配管30の一端が接続されており(図1参照)、反応室34a〜34lで発生した水素リッチガスを分離タンク14に供給できるようになっている。脱水素反応器22の上端側(図2における反応室34aの内壁)には水素圧センサ39が備えられており、脱水素反応器22内の水素リッチガスの圧力を検知することができる。水素圧センサ39が水素リッチガスの圧力が一定まで増加したことを検知するとバルブV2が開き、ガス排出口38から排出された水素リッチガスがポンプP2によって分離タンク14に供給される(図1参照)。
【0047】
反応室34a〜34lにおいて生じる未反応のデカリンは、各貫通孔を通じて脱水素反応器22の底面にまで移動する。未反応デカリン排出口40は、各反応室から流下してきた未反応デカリンを排出するために脱水素反応器22の底面に設けられる。未反応デカリン排出口40には、バルブV3を備えた排出管28が連結されており、排出した未反応デカリンを複室貯留タンク12の生成物貯留部74に供給できるようになっている。図2において脱水素反応器22の最底面側に位置する反応室32lの壁面には、未反応デカリン液量センサ44が備えられており、未反応デカリンが一定量に達すると、バルブV3の電磁弁を開き未反応デカリンを排出できるように制御されている。
【0048】
次に、噴射装置26について図2〜4を用いて説明する。図3は、脱水素反応器22の図2におけるA−A’線断面図である。また、図4は、噴射装置26の図2におけるB−B’線断面図である。図2に示すように噴射装置26は、反応室34a〜34lの各々にデカリンを供給できるように、複数の噴射孔42が設けられている。噴射孔42は、デカリンが反応室内の触媒上で均一に液膜状態になるように、反応室内の触媒36の表面積や噴射装置26から触媒36までの距離(反応室の内壁までの距離)などを考慮し、その個数や孔径を適宜決定することができる。図2においては、反応室34a〜34lの各々に対応して各プレート間の中心あたりに噴射孔42が位置するように構成されている。また、本実施の形態においては脱水素反応器22が円柱状であるため、一つの反応室に対して前後左右の4方向にデカリンを噴射できるよう、一つの反応室に対し4方向に噴射孔42が設けられている。さらに、噴射孔42から噴射されるデカリンの噴射形状は、噴射孔の適正化等によって反応室に設けられた触媒上でデカリンが液膜状態になるように適宜決定される。
【0049】
本実施の形態において噴射装置26は、図2および3に示すように長尺の円筒状であり、プレート32a〜32kの各貫通孔を通過し、その下端が脱水素反応器22の底面とプレート32kとの中心あたりに位置するように備えられている。脱水素反応器22と噴射装置26との接続部は水素リッチガスが漏れないようにOリング50でシールされている。また、図3に示すように、噴射装置26は、外側部材26aと内側部材26bとからなる二重構造を有しており、外側部材26aの往復運動することによって噴射孔42からデカリンを噴射することができる。
【0050】
噴射装置26のデカリン噴射機構について説明する。図4(A)に示すように外側部材26aには複数の噴射孔42aが設けられており、内側部材26bには複数の噴射孔42bが設けられている。噴射装置26は、内部にデカリン46が高圧で供給されており、固定された内側部材26bに沿って上下に往復運動できるように構成されている。デカリン46は、ポンプP1(図1参照)によって噴射装置26に設けられた全ての噴射孔からデカリンが適正に噴射できる圧にまで昇圧され、噴射装置26内に保たれている。噴射装置26の内部を高圧に保つことによって、噴射装置26の下端側に設けられた噴射孔42からのみ噴射し上端側の噴射孔42からデカリンが噴射されない事態を回避することができる。また、噴射装置26の上端側(紙面上方側)に設けられる噴射孔42の孔径を小さくし、下端側(紙面下方側)に設けられる噴射孔42の孔径を大きくすることで、全方向に一様にデカリンを噴射することができる。
【0051】
図4(A)に示すように、外側部材26aの噴射孔42aと内側部材26bの噴射孔42bとの位置が一致していない時には、デカリンは噴射されず噴射装置26内に保たれている。噴射孔42bの周辺にはデカリンの漏れを防ぐために、漏れ防止用シール48が備えられている。外側部材26aの往復運動によって、外側部材26aが図4(A)に示す矢印の方向(紙面上方)にスライドすると、図4(B)に示すように、噴射孔42aと噴射孔42bとの位置が一致し、高圧で供給されているデカリンが噴射孔42aから反応室の触媒に向かって噴射される。さらに外側部材26aの往復運動によって、外側部材26aが図4(B)に示す矢印の方向(紙面下方)にスライドすると、噴射孔42aと噴射孔42bとの位置が再びずれ、デカリンの噴射が停止される。このように、外側部材26aが往復運動を繰り返すことによって噴射装置26は、デカリンを反応室の触媒上で液膜状態になるように間欠噴射することができる。
【0052】
次に、噴射装置26の外側部材26aを往復運動させる噴射駆動部24について図5を用いて説明する。図5は、第1の実施の形態における噴射駆動部を示す概略図である。図5に示すように噴射駆動部24は脱水素反応器22の外壁上部に設けられ、カムシャフト52に固定されたカム54と、噴射装置26の外側部材26aに固定された固定部材56と、脱水素反応器22の外壁上部と固定部材56とに狭持されたスプリング58と、で構成され、外側部材26aがカム駆動によって内燃機関の吸排気バルブのように往復運動できるようになっている。この際、噴射装置26の内側部材26bは固定部材62によって固定されている。カムシャフトが回転すると、カム54の駆動が外側部材26aの頭頂部60を介して伝わり、外側部材26aを上下に往復運動させることできる。尚、本発明において外側部材26aを往復運動させる噴射駆動部24の構造はこれに限定されるものではなく、例えば、電動式に往復させてもよい。また、往復運動は上下運動に限られず、周方向へのものであってもよい。
【0053】
次に加熱装置18、複室貯留タンク12、分離タンク14、水素ガス貯蔵タンク16等について図1を用いて説明する。加熱装置18は、装置内を循環するシリコーンオイルによって反応タンク10を加熱するように構成される。反応タンク10は、脱水素反応器22内に備えられた触媒を加熱するために、脱水素反応器22が加熱装置18内のシリコーンオイルで直接加熱されるように設置される。
【0054】
図1において加熱装置18は、オイル循環ポンプP3を備えた配管64と2箇所で連結されており、加熱装置18内のシリコーンオイルが配管64内を挿通して循環し、配管途中にある水素利用装置20の廃熱によって加熱されるようになっている。加熱されたシリコーンオイルは、反応タンク10の近辺に滞在すると共に徐々に循環されることによって反応タンク10と熱交換し、脱水素反応器22の外壁を通じて伝達される熱で脱水素反応器22内部の触媒を加熱する。また、加熱装置18の底面側には、図示を省略する回転羽が設けられており、加熱装置18内のシリコーンオイルの循環を促して加熱装置内の温度を均一に保持できるようになっている。
【0055】
また、配管64には、図1に示すように、冷却水を循環させてシリコーンオイルの液温を調節する循環冷却器66が設けられており、さらに加熱装置18には温度センサ68が備えられている。これにより、シリコーンオイルの温度が所定温度を超えたときには、風冷した冷却水を循環させることによってオイル温度を冷却し、所定の温度に達しているときには冷却水の循環を停止するように制御される。
【0056】
複室貯留タンク12は、隔壁面が略水平となるようにナフタレン非透過性の移動可能な隔壁70を備えて構成され、隔壁70により内部が二つの室に区画されている。区画された一方(図面の隔壁70の下室)には、デカリンを貯留するデカリン貯留部72(炭化水素系燃料貯留部)が、他方(図面の隔壁70の上室)にはナフタレン混合物を貯留する混合物貯留部74(生成物貯留部)が設けられている。
【0057】
デカリン貯留部72の底面側には、デカリンを反応タンク10に供給するためのポンプP1およびバルブV1を備えた供給配管76の一端と、デカリンを分離タンク14に供給するためのポンプP5とバルブV6とを備えた供給配管78の一端とが接続されている。更にデカリン貯留部72の壁面には、バルブを備えた燃料供給管80が備えられている。また、混合物貯留部74には、排出管28の一端が接続されると共に、ポンプP6を備えた供給配管84の一端が接続され分離タンク14と連通されており、更に壁面にはバルブを備えた排出管82が設けられている。
【0058】
隔壁70は、その壁面の法線方向と略平行(図面の上下方向C)に移動可能に構成されている。ナフタレン混合物がなくデカリンが満タンであるときには、隔壁70は最上部に位置して最大量のデカリンがデカリン貯留部72に貯留され、水素ガスの生成、すなわちナフタレン混合物の生成量の増大にしたがって隔壁70は徐々に下方に自動的に移動し、デカリン貯留部72の容積が縮小され混合物貯留部74の容積が拡大する。これにより、単一のタンクを有効に利用でき、装置をより小型化することができる。
【0059】
隔壁70は、混合物貯留部74からデカリン貯留部72へのナフタレンの移動を抑え、且つデカリンに対して安定なものであれば、特に制限はなく公知のものの中から適宜選択することができる。例えば、物質非透過性のもの、ナフタレン透過性の低いもの、ナフタレンを除いては透過性のもの等を用いることができる。また、変形し難い板状のものでも伸縮可能な軟性、弾性を有するものでもよい。一つの複室貯留タンク12内に複数の分離膜を設けることもできる。
【0060】
具体的な例として、仕切り板や、ナフタレン濃度が低い側から圧がかかったときに開弁し、ナフタレンを高濃度に含む側から圧がかかったときに閉弁される多数の逆止弁が格子状又はランダムに配列された逆止弁膜などが挙げられる。
【0061】
複室貯留タンク12は、反応タンク10と連通する供給配管76や分離タンク14と連通する供給配管78、84、その他排出管28等にそれぞれ図示しない連結器(ジョイント)を設け、連結器において着脱可能に構成することができる。例えば、簡易にはめ込み、取り外しができる交換タンク(カートリッジタンク)の形態に構成できる。
【0062】
複室貯留タンク12を着脱可能に構成することにより、デカリンから所定量の水素ガスを生成後、複室貯留タンク自体を交換あるいは一旦取外してナフタレン混合物を再生することにより、貯留されたナフタレン混合物を回収、除去でき、車載するなど特定場所に定置しない場合でも簡易且つ継続的な水素の供給が可能となる。
【0063】
また、複室貯留タンク12を着脱可能に構成せず、あるいは着脱可能に構成すると共に、複室貯留タンクの混合物貯留部74のみを着脱可能に構成してもよい。この場合、混合物貯留部74は複室貯留タンク12に収納可能なカートリッジ式に構成することもでき、また混合物貯留部74が複室貯留タンク12の一部を構成するように構成することもできる。例えば、隔壁70の上室をはめ込み、取り外しが可能な態様、例えば交換タンク(カートリッジタンク)として構成することができる。この場合も、混合物貯留部(交換タンク)を空のもの(交換タンク)に取り替えることにより継続的な水素生成が可能となる。
【0064】
分離タンク14には、その上部において複室貯留タンク12のデカリン貯留部72(下室)に連通する供給配管78の他端で接続された供給装置86が設けられ、壁面に接続された供給配管30を介して反応タンク10から送られてくる水素リッチガスにデカリンを噴霧等して水素ガスを分離できるように構成されている。また、分離タンク14の底部側には、ポンプP6を備えた供給配管84の他端が接続され、デカリンに溶解されて底部に貯留されたナフタレン混合物を複室貯留タンク12の混合物貯留部74に供給できるようになっている。
【0065】
分離タンク14の上部壁面には、分離した水素ガスを挿通するためのポンプP7とバルブV4とを備えた供給配管88の一端が接続され、水素ガスの貯留、供給が可能な水素ガス貯蔵タンク(バッファータンク)16と連通されている。なお、分離タンク14内の水素ガスを加圧または高圧状態にしたり、水素ガス貯蔵タンク16への圧力を低圧(例えば負圧)にすることで水素排出効率を向上させることができる。
【0066】
水素ガス貯蔵タンク16は、バルブV5を備えた供給配管90によって水素利用装置20と連通され、水素ガスを供給できるようになっている。そして、供給配管90には、水素利用装置20に供給する水素量を制御するための水素流量制御器92が設けられ、水素利用装置20の運転状態に応じて適宜コントロールできるように構成されている。エンジン始動時には、脱水素反応器22内の触媒温度が低く水素を生成できないことから、水素ガス貯蔵タンク16にあらかじめ貯留された水素が水素利用装置20に供給される。
【0067】
また、水素ガス貯蔵タンク16には、タンク中の水素圧を検出するための水素圧センサ89が設けられており、水素ガス貯蔵タンク16内の水素圧が予め定められた値を超えた場合には、デカリンの供給を停止または減少させて、水素ガスの供給を停止または減少させる。水素利用装置20としては、水素を燃料として発電する燃料電池や、水素を燃料として発動する水素エンジン等が挙げられる。
【0068】
次に第1の実施の形態における本発明の水素生成装置の各制御について図6〜9を用いて説明する。図6は、本発明の第1の実施の形態の制御回路を示すブロック図である。図6に示すように、上述の噴射駆動部24、水素流量制御器92、ポンプP1〜P7、バルブV1〜V6、循環冷却器66、水素圧センサ39,88、未反応デカリン液量センサ44並びに温度センサ68の各々は、マイクロコンピュータ等で構成された制御回路部94に接続されている。
【0069】
以下、本実施の形態の制御装置による制御ルーチンについて説明する。図7は、イグニッション(IG)スイッチオンで実行されるメインルーチンを示すものである。制御回路部94は、IGスイッチがオンされるまで待機し(ステップS100否定)、IGスイッチがオンされたと判断すると、まず水素流量制御器92がオンされて水素を水素利用装置20に供給し水素利用装置20を始動させる(ステップS100肯定)。続けて、オイル循環ポンプP3を駆動し、加熱装置18のシリコーンオイルを循環させ、反応タンク10を加熱する(ステップS101)。
【0070】
次いで、噴射駆動部24を駆動し、供給量を予め定めた所定量(触媒表面上で液膜が得られる直前の量)から徐々に増加させながらデカリンを噴射装置26によって脱水素反応器22内の触媒に供給する(ステップS102)。制御回路部94は、水素圧センサ39によって検出された水素圧P1と予め定められた水素圧P0とを比較して、水素圧P1が水素圧P0以上であるか否かを判断し(ステップS103)、水素圧P1が水素圧P0未満であると判断した場合(ステップS103否定)は、ステップS102に戻りデカリンを徐々に増加させながら供給する。これにより、乾燥した触媒上にデカリンが徐々に供給され、触媒表面が徐々に湿潤して行き、デカリンが液膜状態で供給されるので、水素発生量が最大値に近づく。
【0071】
制御回路部94は、水素圧P1が水素圧P0以上であると判断した場合(ステップS103肯定)、デカリンが噴射装置26から予め定められた所定の量(触媒表面上で液膜を得るために最適な量)で供給されるように噴射駆動部24を制御する(ステップS104)。これにより、デカリンが触媒表面上で常に液膜状態で保持され、水素圧、すなわち水素ガス発生量が最大になるようにデカリンが供給される。また、デカリンの供給量が過剰になり水素発生量が低下した場合には、デカリン供給量を徐々に低下させてデカリンが常に液膜状態で保持されるように制御する。
【0072】
次いで、制御回路部94は、再び脱水素反応器22内の水素圧P1が所定の水素圧P2に達しているか否かを判断し(ステップS105)、水素圧P1が所定の水素圧P2に達していないと判断した場合(ステップS105否定)には、ステップS104に戻り、デカリンの供給を繰り返す。
【0073】
一方、制御回路部94が、水素圧P1が所定の水素圧P2に到達したと判断した場合(ステップS105肯定)には、バルブV2を開き水素リッチガスを分離タンク14に供給し、その後ステップS104に戻り同様の処理が繰り返される。
【0074】
本実施の形態では、IGスイッチがオンされると水素流量制御器92によって水素ガス貯蔵タンク16から水素利用装置20に水素が供給され水素エンジンが始動する。そして、オイル循環ポンプP3が駆動して加熱装置18内のシリコーンオイル温度が所定の触媒加熱温度にまで達すると、複室貯留タンク12からデカリンが供給配管76を挿通して反応タンク10の脱水素反応器22に供給される。脱水素反応器22で発生した水素リッチガス供給配管30を介して分離タンク14に送られる。このとき、循環冷却器66によって触媒温度は所定温度に制御されている。
【0075】
分離タンク14に供給された水素リッチガスは、供給装置86から噴出されるデカリンと接触し、冷却されると共にガス中のナフタレン及び残存デカリンは供給されたデカリンに溶解されて水素ガスと分離される。分離された高純度の水素ガスは、供給配管88を挿通して水素ガス貯蔵タンク16に供給、貯蔵される。供給、貯蔵された水素ガスは、水素流量制御器92により制御されながら水素ガス貯蔵タンク16から水素エンジン等の水素使用装置20に供給される。分離タンク14で溶解されたナフタレンは、デカリンと混合したナフタレン混合物として複室貯留タンク12の上室(混合物貯留部74)に貯留される。このとき、隔壁70はナフタレン混合物の量が増えるにしたがって上室の容積が拡大する方向(図中の下方)に移動する。そして、ナフタレン混合物が所定量に達すると、バルブ開閉して排出管82からナフタレン混合物が排出、回収され、これに伴い隔壁70は下室の容積が拡大する方向(図中の上方)に移動し、燃料供給管80からデカリンが供給される。このサイクルを繰り返すことにより、高純度の水素ガスを継続的に水素使用装置に供給することができる。なお、水素ガス貯蔵タンクに貯蔵された水素ガスは、水素使用装置に供給するほか、後述の再生タンクにおけるナフタレンの水素化反応に利用することもできる。
【0076】
次に、加熱装置18内におけるシリコーンオイルの温度制御について説明する。図8は、イグニッション(IG)スイッチオンで実行される加熱装置18内におけるシリコーンオイルの温度制御ルーチンを示すものである。制御回路部94は、IGスイッチがオンされるまで待機し(ステップS200否定)、IGスイッチがオンされたと判断すると、まず水素流量制御器92がオンされて水素を水素利用装置20に供給し水素利用装置20を始動させる(ステップS200肯定)。続けて、オイル循環ポンプP3を駆動し、加熱装置18のシリコーンオイルを循環させ、反応タンク10を加熱する(ステップS201)。ある程度のシリコーンオイルを循環させた後、制御回路部94は加熱装置18内のシリコーンオイルの温度Tを温度センサ68によって取り込み(ステップS202)、オイル温度Tが予め定められた所定温度T0以下であるか否かを判断する(ステップS203)。
【0077】
制御回路部94がシリコーンオイルの温度Tが所定温度T0以下であると判断した場合(ステップS203否定)には、ある程度シリコーンオイルを循環させた後、再びステップS202に戻り同様の処理を繰り返す。制御回路部94がシリコーンオイルの温度Tが所定温度T0を超えていると判断した場合(ステップS203肯定)には、ステップS204において循環冷却器66をオンし冷却水を循環させシリコーンオイルの冷却を開始する。
【0078】
制御回路部94は、循環冷却器66をオンした後、再び加熱装置18内のシリコーンオイルの温度Tを温度センサ68によって取り込み(ステップS205)、オイル温度Tが予め定められた所定温度T0以下であるか否かを判断する(ステップS206)。制御回路部94がシリコーンオイルの温度Tが所定温度T0を超えていると判断した場合(ステップS206否定)には、ある程度冷却水を循環させた後、再びステップS205に戻り同様の処理を繰り返す。
【0079】
制御回路部94がシリコーンオイルの温度Tが所定温度T0未満であると判断した場合(ステップS206肯定)には、ステップS207において循環冷却器66をオフし冷却水を循環を停止させ、ステップS201に戻り同様の処理を繰り返す。
【0080】
これにより、加熱装置18内のシリコーンオイル温度、すなわち脱水素反応器22内部の触媒が所定温度になるように制御される。この所定温度は、200〜500℃、好ましくは200〜350℃の間の温度、更に好ましくは280℃にすることができる。この理由は、所定温度が200℃未満であると目的とする脱水素反応の高い反応速度、換言すれば水素使用装置の高性能が得られないことがあり、350℃を越えるとカーボンデポジットが生じる可能性を持ち、500℃を越えると実用的でないからである。
【0081】
また、車両を停止させてイグニッション(IG)スイッチをオフすると、図9の割り込みルーチンが起動され、ポンプP1およびポンプP5の駆動停止し、噴射駆動部24および供給装置86を停止させてデカリンの供給を停止すると共に(ステップS301)、水素利用装置20への水素供給を制御する水素流量制御器92を停止し(ステップS302)、オイル循環ポンプP3を停止することによって水素ガスの生成を停止させる(ステップS303)。
【0082】
また、循環冷却器66は作動させたまま、脱水素反応器22の底部に貯留された未反応デカリンを、バルブV3を開くと共にポンプP4を駆動して排出管28を介して複室貯留タンク12に送液する(ステップS304)。なお、循環冷却器66は、加熱装置18内のシリコーンオイルが所定温度以下となったときに停止される。このとき、デカリン供給を停止した後も少量の水素ガスが発生するので、発生した水素ガスを分離タンク14を経由して水素ガス貯蔵タンク16に貯蔵する(ステップS305)。
【0083】
また、デカリンとテトラリンとの混合燃料を用いることにより、デカリンの脱水素反応の前にテトラリンが脱水素反応するので、速やかに水素ガスを発生させることができる。ここで、複室貯留タンク内あるいは複室貯留タンクとは別のタンク内に、デカリンと分離してテトラリンを貯留し、このテトラリンを加熱された触媒上でデカリンの脱水素反応前に脱水素反応させることにより、速やかに多量の水素ガスを発生させることができ、より迅速に水素生成を行なうことができる。
【0084】
(第2の実施の形態)
本発明の水素ガス生成装置の第2の実施の形態について図10〜13を参照して説明する。本実施の形態における反応タンクは第1の実施の形態における反応タンクと転用可能であり、第2の実施の形態における反応タンク以外の装置等については説明を省略する。
【0085】
図10は、第2の実施の形態における反応タンクの概略的断面図である。図10において、反応タンク150は、脱水素反応器152と、噴射装置154a〜154cと、からなり、脱水素反応器152の底側には、バルブV3を備え複室貯留タンク12に接続される排出管28(図1参照)の一端が接続されている。さらに、脱水素反応器152の上側には、バルブV2、逆止弁およびポンプP2を備えた供給配管30(図1参照)の一端が接続されており、反応タンク150内で生成した水素リッチガスを分離タンク14(図1参照)に排出できるようになっている。
【0086】
また、脱水素反応器152は、円柱状であり、その材質としては、触媒に熱を伝えやすいようにアルミ等の熱伝導性の高いものが用いられる。図10において脱水素反応器152は、プレート156a〜156dと、プレート156a〜156dによって仕切られた反応室158a〜158cと、反応室158a〜158cの内壁に設けられた触媒160と、ガス排出口162と、未反応デカリン排出口164と、から構成され、反応室158a〜158cには、各々一基ずつの噴射装置が備えられている。噴射装置154a〜154cの先端には複数の噴射孔が設けられたノズル166a〜166cがそれぞれ備えられている。
【0087】
プレート156a〜156dは平板状の切り欠け部を有する円盤型プレートであり、デカリンの流下方向に傾斜して脱水素反応器152内に設けられている。プレート156a〜156dの傾斜角αとは、デカリンの流下方向(矢印D1)と垂直な直線D2と、例えばプレート156bと、がなす角である。プレート156a〜156dの傾斜角αとしては、例えば20〜30°が好ましい。プレート156a〜156dの外径は、脱水素反応器152内に固定できるように適宜決定される。また、プレート156a〜156dは、図11に示すように脱水素反応によって生成した水素リッチガスや未反応デカリンの流通経路を確保するために切り欠け部168を有する。尚、切り欠け部168は、プレート156a〜156d各々のデカリンの流下方向側(下端側)に設けられる。
【0088】
プレート156b,156cの両面、およびプレート156a,156dの反応室の内壁になる側の面には触媒160が設けられており、各プレートが反応室158a〜158cの内壁の一部を担う役割を果たす。触媒160は脱水素反応の際に加熱されている必要があるため、脱水素反応器152と同様にプレート156a〜156dの材質にはアルミ等の熱を伝えやすい材質が用いられる。
【0089】
脱水素反応器152の内壁には触媒160が設けられており、プレート156a〜156dとともに反応室158a〜158cの内壁を形成している。反応室158a〜158cの各反応室は、隣接する反応室とプレート156a〜156dの切り欠け部によって連通しており、各々の壁面に備えられた噴射装置154a〜154cからデカリンを供給され、内壁に備えられた触媒160上で水素リッチガスを発生させる。
【0090】
反応室158a〜158cの内壁に備えられた触媒160上に噴射装置154a〜154cからデカリンを供給する際、デカリンは第1の実施の形態と同様に液膜状態になるように供給される。また、反応室158a〜158cの内壁に備えられる触媒160としては、第1の実施の形態で説明したものと同様のものが挙げられる。
【0091】
また、触媒160が設けられる脱水素反応器152の内壁およびプレート156a〜156dの壁面は、図12に示すように突起を設けることができる。このように触媒設置面の表面を突起状とすることで、触媒160の設置面の表面積が増加し、水素発生量を増加させることができる。さらに、図10に示すように脱水素反応器152は、複数の反応器をテーパネジ構造の接合部170によって接合して形成することができる。
【0092】
ガス排出口162は、脱水素反応器152の上方に設けられており、反応室158a〜158cで発生した水素リッチガスを排出する。ガス排出口162には、分離タンク14に接続された供給配管30の一端が接続されており(図1参照)、反応室158a〜158cで発生した水素リッチガスを分離タンク14に供給できるようになっている。脱水素反応器152の上端側には水素圧センサ172が備えられており、脱水素反応器152内の水素リッチガスの圧力を検知することができる。水素圧センサ172が水素リッチガスの圧力が一定まで増加したことを検知するとバルブV2が開き、ガス排出口162から排出された水素リッチガスがポンプP2によって分離タンク14に供給される(図1参照)。
【0093】
反応室158a〜158cにおいて生じる未反応のデカリンは、各切りかけ部168を通じて脱水素反応器152の底面にまで移動する。未反応デカリン排出口164は、各反応室から流下してきた未反応デカリンを排出するために脱水素反応器152の底面に設けられる。未反応デカリン排出口164には、バルブV3を備えた排出管28が連結されており、排出した未反応デカリンを複室貯留タンク12の生成物貯留部74に供給できるようになっている(図1参照)。脱水素反応器152の最底面側の壁面には、未反応デカリン液量センサ174が備えられており、未反応デカリンが一定量に達すると、バルブV3の電磁弁を開き未反応デカリンを排出できるように制御されている。
【0094】
次に、噴射装置154a〜154cについて説明する。図10に示すように噴射装置154a〜154cは、反応室158a〜158cの各々にデカリンを供給できるように壁面に備えられ、図13(A)に示すように複数の噴射孔176を有するノズルが先端に備えられている。噴射装置154a〜154cには、その内部に図13(B)の断面図に示すように噴射孔176と連結するニードル178が備えられており、噴射装置154a〜154cは先端に備えられたノズルから放射状にデカリンを噴射することができる。
【0095】
ノズルに設けられる噴射孔176の個数や孔径は、反応室内の触媒160の表面積やノズル166a〜166cから触媒160までの距離(反応室の内壁までの距離)などを考慮し、適宜決定することができる。さらに、噴射孔176から噴射されるデカリンの噴射形状は、噴射孔の適正化等によって反応室に設けられた触媒上でデカリンが液膜状態になるように適宜決定される。
【0096】
噴射装置154a〜154cは、各プレート間に位置するように脱水素反応器152の壁面に備えられており、各々が対応する反応室の内壁全面にデカリンを噴射できるようになっている。また、各噴射装置の上側と下側とに位置する各プレートは、各噴射装置のノズルが備えられている方向に向かって内側に傾斜するように配置される。このように噴射装置154a〜154cおよびプレート156a〜156dを配置することで、反応室158a〜158cの内壁に均一な液膜状態になるようデカリンが供給されるようにすることができる。
【0097】
本実施の形態における反応タンクを用いると、効率的に水素ガスを生成できるのみでなく、各反応室に対応した噴射装置が備えられていることから、デカリンの供給量を調整しやすい。尚、図10においては、各反応室に対し一基の噴射装置が備えられているが、これに限定されず、各反応室に対して二基以上の噴射装置が備えられていてもよい。
【0098】
(第3の実施の形態)
本発明の水素ガス生成装置の第3の実施の形態について図14を参照して説明する。本実施の形態は、第1の実施の形態の複室貯留タンクおよび分離タンクを単一の貯留分離タンクに代え、単一タンクにデカリンおよび生成ナフタレンを共に貯留するようにし、且つ水素ガスをも分離可能としたものである。また、貯留分離タンクには更に再生タンクを接続し、ナフタレンを再生可能なように構成してある。尚、燃料は第1の実施の形態で使用した燃料を用いることができ、第1の実施の形態と同様の構成要素には同一の参照符号を付してその詳細な説明を省略する。
【0099】
図14に示すように、本実施の形態は、デカリンを貯留し、且つ貯留されたデカリンにデカリンの脱水素反応により生成された水素ガス及びナフタレンが供給されると共に、排出口から水素ガスを排出する貯留分離タンク180と、再生タンク186とを備えている。
【0100】
貯留分離タンク180は、内部に密閉してデカリン181を貯留可能に構成され、貯留分離タンク180の上部壁面には、デカリン181を供給するためのバルブを備えた燃料供給管80と、未反応デカリンを回収する排出管28とが設けられており、また、水素ガス貯蔵タンク16に水素を挿通するためのポンプP7とバルブV4とを備えた供給配管88の一端が接続されて排出口が形成されている。デカリン181は、貯留分離タンク180の上方に空隙を有する範囲で燃料供給管80から供給できるようになっており、反応タンク10で生成された水素ガスは、供給配管88を介して水素ガス貯蔵タンク16に供給、貯留された後、供給配管90を挿通して水素利用装置20に供給できるようになっている(図1参照)。また、貯留分離タンク180の底部には貯留されたナフタレン183を排出するためのバルブを備えた排出管82が設けられている。
【0101】
貯留分離タンク180の底面側の側壁には、反応タンク10と繋がる供給配管30がデカリン181中にその他端が位置するように設けられ、反応タンク10の脱水素反応器22と連通されている。液中となる供給配管30の他端からは、反応タンク10で生成された水素ガス及び気相ナフタレンの混合ガス(水素リッチガス;蒸発して残存する残存デカリンを含んでもよい)を液中において供給可能なようになっている。
【0102】
分離膜182は、貯留分離タンク180の内部にデカリン181の液面と略水平に備えられ、浮上する水素ガス184を透過し、ナフタレン183のデカリン内での拡散を抑えて分離膜182の下方に貯留することができる。貯留分離タンク180の内部において、水平面と略平行に配置された分離膜182は、ナフタレン含量の少ないデカリンの上層部からナフタレン含量の多い下層部に移る濃度分布とも略平行に位置し、分離膜182の下方で供給される水素ガス184は分離膜182の膜面を一様に通過できる。特に、供給配管30の出口周辺でナフタレン量が不均一になると局部的に粘度上昇等を来すことがあるため、水素ガスの液中での移動速度を損なわないようにすることが望ましい。
【0103】
分離膜182は、その膜面の法線方向(図14中の矢印方向F)と略平行に移動可能に構成することができる。分離膜の移動は、貯留分離タンク内部の区画された領域の容積を可逆的に変えることができることが望ましく、生成ナフタレン量に合わせて任意に変えることができる。
【0104】
貯留分離タンク180における分離膜182の位置関係としては、ナフタレンがなくデカリンが満タンであるときには分離膜182はナフタレン供給側、すなわち最下部に位置し、分離膜の下側の容積を小さくでき、このとき最大量のデカリンが貯留される。そして、水素の生成、すなわちナフタレン量の増大に応じて分離膜は徐々に上方に移動し、逆にナフタレン供給側の容積は拡大される。これにより、ナフタレンの拡散を抑止しながら単一のタンクを有効に利用でき、装置をより小型化することができる。
【0105】
分離膜182は、水素ガスを透過できると共に、デカリン中でのナフタレンの拡散を抑制し、且つデカリンに対して安定なものであれば、特に制限はなく公知のものの中から適宜選択することができる。例えば、水素透過性で且つ水素ガス以外は物質非透過性(若しくはナフタレン低透過性)のもの、ナフタレンを除いては透過性のものが使用できる。また、分離膜は、変形し難い板状のものでも伸縮可能な軟性、弾性を有するものでもよい。一つの貯留分離タンク内に複数の分離膜を設けることもできる。
【0106】
具体的な例として、メッシュ状のフィルタ膜や、ナフタレンを高濃度に含む側から水素ガスが透過するときに開弁され、且つ逆側から圧がか且つた場合に閉弁される多数の逆止弁が格子状又はランダムに配列された逆止弁膜などが挙げられ、材質は樹脂材、金属材、シリコーン材、ゴム材など適宜選択できる。
【0107】
分離膜182の膜面の上方には、ナフタレン含有比の低いデカリン181を、デカリンの脱水素反応を行なう脱水素反応器22に供給するための供給配管76の他端が取り付けられている。この他端を分離膜182の膜面近傍から上方に配置することにより、ナフタレン含量比の低いデカリンを供給することができ、水素生成効率を高めることができる。
【0108】
貯留分離タンク180には、反応タンク10と連通する供給配管30、76や排出管28、水素ガス貯蔵タンク16と連通する供給配管88、その他後述の再生タンク186と連通する配管などにそれぞれ図示しない連結器(ジョイント)を備えて、連結器において着脱可能に構成することができる。例えば、簡易にはめ込み、取り外しができる交換タンク(カートリッジタンク)の形態に構成できる。
【0109】
貯留分離タンク180を着脱可能に構成することにより、デカリンから所定量の水素ガスを生成後、貯留分離タンク自体を交換あるいは一旦取外してナフタレンを再生することにより、貯留された生成ナフタレンを回収、除去でき、車載するなど特定場所に定置しない場合でも簡易且つ継続的な水素の供給が可能となる。
【0110】
また、第1の実施の形態と同様に、貯留分離タンク180を着脱可能に構成せず、あるいは着脱可能に構成すると共に、貯留分離タンク180のナフタレンが高濃度に貯留された分離膜182の下方の部分のみを着脱可能に構成してもよい。この場合、ナフタレンが貯留された部分は、貯留分離タンク180に収納可能なカートリッジ式に構成することもでき、また、この部分が貯留分離タンクの一部を構成するように設けることもできる。ナフタレンを高濃度に含む部分(交換タンク)を、デカリンで満たされたもの(交換タンク)に取り替えることにより水素生成を継続的に行なうことが可能となる。
【0111】
再生タンク186は、ナフタレンと水素ガスとを加熱触媒を用いて水素化反応させてデカリンおよび/またはテトラリンを生成させるものであり、貯留分離タンク180と接続して車両内に搭載することができる。
【0112】
再生タンク186は、バルブV7及びポンプP8を備えた供給配管188を介して貯留分離タンク180の底面側で、またバルブV8及びポンプP9を備えた供給配管190を介して貯留分離タンク180の上面側で、それぞれ連通されている。これにより、貯留分離タンク180内のナフタレンは供給配管188を挿通して再生タンクに供給できるようになっており、生成されたデカリン及びテトラリンは供給配管190を介して貯留分離タンク180に供給される。
【0113】
再生タンク186の底面側には、触媒192及び触媒192を加熱するヒータ194で構成され、且つ発熱及び吸熱を起こさせる触媒反応器が設けられている。触媒192の水素化反応を行なう側は、多孔性炭素担体に触媒金属微粒子を担持して構成されている。触媒としては、上記で説明した炭素担持Pt触媒、炭素担持Pt−Ir複合金属触媒、炭素担持Pt−Re複合金属触媒、炭素担持Pt−W複合金属触媒、又はニッケル系金属を使用した触媒等を使用することができる。触媒192の近傍には、触媒表面の温度を検出する温度センサ196が取付けられている。
【0114】
また、再生タンク186には、ガソリンスタンド等の車両外部に設けられた水素ボンベや水の電気分解装置等の設備から水素ガスを供給するための水素ガス供給管198が取り付けられている。水の電気分解により生成した水素ガスなどを供給するようにすれば、クリーンなシステムを構築することができる。
【0115】
本実施の形態では、貯留分離タンク180に燃料供給管80を介してデカリン181が供給されると、デカリン181は供給配管76を挿通して反応タンク10に送られる。脱水素反応器22の乾燥した触媒上にデカリンが徐々に供給され、触媒表面が徐々に湿潤してデカリンが液膜状態で供給されると、水素圧、即ち水素発生量が最大値に近づく。
【0116】
生成されたナフタレンを含む水素リッチガスは、ポンプP2により逆止弁を介して供給配管30を挿通して貯留分離タンク180のデカリン181中に供給される。貯留分離タンク180では、水素ガス184はデカリン181中を浮上する一方、気相で存在していたナフタレン及び残存デカリンはデカリン181中へ供給される過程で冷却され、残存デカリンは凝縮して液化し、ナフタレンは凝析して沈降する。これにより、水素ガスはナフタレン及び残存デカリンと分離され、タンク上部の空隙において高純度に分離される。分離された水素ガスは水素ガス貯蔵タンク16に供給される。このとき、貯留分離タンク180内の水素ガスを加圧または高圧状態にしたり、水素ガス貯蔵タンクへの圧力を低圧(例えば負圧)にすることで水素排出効率を向上させることができる。
【0117】
なお、生成ナフタレンからのデカリンの再生は航空燃料として公知の安定した技術を使用することができる。これにより、安全で環境に優しく、高純度の水素ガスを発生することができる。
【0118】
一方、車両を停止させる場合には、第1の実施の形態の場合と同様にして、水素ガスの生成を停止すると共に、脱水素反応器22の底部に冷却され貯留された未反応デカリンをポンプP4を駆動させて排出管28を介して貯留分離タンク180に戻し、さらにデカリン供給を停止した後に発生した少量の水素ガスを貯留分離タンク180を経由して水素ガス貯蔵タンク16に貯蔵する。このとき、循環冷却器66は、加熱装置18内のシリコーンオイルが所定温度以下となったときに停止される。
【0119】
また、再生タンク186では、ヒータ194のオン/オフにより、触媒192の温度が所定温度になるように制御される。この所定温度は、150〜200℃の間の温度、好ましくは150℃近傍の温度を採用することができる。バルブV7を開いてポンプP8を駆動し、供給配管188を介してナフタレンと未反応デカリンとの混合液を再生タンク186に供給する。また、これと同時に、ガソリンスタンド等に設けられている水素ボンベまたは水の電気分解装置から得られる水素ガスを再生タンク186に供給し、所定温度に制御された触媒192上でナフタレン水素化反応を行ってデカリンを再生し、バルブV8を開いてポンプP9を駆動し、供給配管190を挿通して再生デカリンを貯留分離タンク180に回収する。このとき、再生タンク186内の水素ガスは、加圧または高圧にするのが好ましい。
【0120】
尚、簡易且つ速やかにナフタレンの水素化を行う場合には、水素ガスを加圧せずに、触媒温度を上記より低温にしてテトラリンを生成させ、それを貯留分離タンクに供給するようにしてもよい。
【0121】
上記では、再生タンク186を車両に搭載する例について説明したが、再生タンクをガソリンスタンド等に設置し、ガソリンスタンド等で水を電気分解して得られる水素を供給してデカリンを再生するようにしてもよい。
【0122】
上述した実施の形態では、水素生成用の燃料としてデカリンを用いた例を中心に説明したが、既述のデカリン以外の炭化水素系燃料を用いた場合においても同様である。また、水素使用装置についても、特に車載の水素エンジンを例に説明したが、本発明は水素エンジン以外の車載燃料電池などの水素使用装置に適用することもできる。
【0123】
また、上記実施の形態では、加熱媒体を加熱する熱源として水素エンジン等の水素使用装置の廃熱を利用する例を説明したが、デカリン等の有機ハイドライドやナフタレン等の脱水素生成物などの有機物を空気と混合して燃焼させたときの燃焼熱や取り出した水素の燃焼熱を熱源として構成することもできる。
【0124】
【発明の効果】
本発明によれば、小型、軽量化が可能で、単位容積当りの脱水素反応効率を高めて高純度水素ガスの生成量を向上させることできる水素ガス生成装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1の実施の形態を示す概略的構成図である。
【図2】第1の実施の形態における脱水素反応器の概略的断面図である。
【図3】図2のA−A’線断面図である。
【図4】図2のB−B’線断面図である。
【図5】第1の実施の形態にける噴射駆動部を示す概略図である。
【図6】本発明の第1の実施の形態の制御回路を示すブロック図である。
【図7】本発明の第1の実施の形態のメインルーチンを示す流れ図である。
【図8】本発明の第1の実施の形態における加熱装置の処理の手順を示す流れ図である。
【図9】本発明の第1の実施の形態をイグニッションスイッチオフで割り込まれる割り込みルーチンを示す流れ図である。
【図10】第2の実施の形態における反応タンクの概略的断面図である。
【図11】図10のEE’断面図である。
【図12】第2の実施の形態におけるプレートの一部を示す概略的断面図である。
【図13】第2の実施の形態における噴射装置を示す概略図である。
【図14】本発明の第3の実施の形態の一部を示す概略構成図である。
【符号の説明】
10,150 反応タンク
12 複室貯留タンク
14 分離タンク
16 水素ガス貯蔵タンク
18 加熱装置
20 水素使用装置
22,152 脱水素反応器
24 噴射駆動部
26,154a〜154c 噴射装置
34a〜34k,158a〜158c 反応室
36,160 触媒
38,162 ガス排出口
【発明の属する技術分野】
本発明は、水素ガス生成装置に係り、特に、電気自動車や水素エンジン車等の車両に搭載可能で、且つ車両に搭載された燃料電池や水素エンジンに水素ガスを供給することができる水素ガス生成装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来の電気自動車は、車両の駆動力を得るための電源としての燃料電池、およびこの燃料電池を用いて発電を行なうための燃料である水素または水素を生成するための原燃料を搭載している。また、水素エンジンを搭載した水素エンジン車も同様に燃料源として水素、または水素を生成するための原燃料を搭載している。
【0003】
水素を搭載する電気自動車や水素エンジン車では、水素ガスを圧縮して高圧に若しくは液状にして充填したボンベ、または水素を吸蔵する水素吸蔵合金や水素吸着材料により水素を搭載している。一方、原燃料を搭載する電気自動車では、原燃料としてのメタノールまたはガソリン等の炭化水素と、この原燃料を水蒸気改質して水素リッチガスを生成する水素生成装置とを搭載している。
【0004】
しかしながら、車両に水素を搭載する場合、高圧タンクに圧縮した状態で搭載すると、高圧タンクは大きいわりに壁厚が厚く内容積を大きくできず、また、充填圧力に限界があるために水素充填量が少ない。液体水素として搭載する場合は、気化ロスがあるほか、液化に多大なエネルギーを要するため総合的なエネルギー効率の点で望ましくない。また、水素吸蔵合金や水素吸着材料では、電気自動車や水素エンジン車に必要とされる水素貯蔵密度が不充分であり、水素の吸蔵や吸着等を制御するのが非常に困難である。さらに、水素を高圧化、液化したり、吸蔵するのに設備を別途整備する必要もある。
【0005】
一方、原燃料を搭載する電気自動車や水素エンジン車は、水素を搭載する水素エンジン車に比較して、1回の燃料補給で走行可能な距離が長いという利点を有しており、炭化水素系の原燃料は水素ガスに比較して輸送等の取り扱いが容易であるという利点も有している。また、水素は燃焼しても空中の酸素と結合して水となるだけで公害の心配がない。
【0006】
また、炭化水素系燃料の1つであるデカリン(デカヒドロナフタレン)は、常温では殆ど蒸気圧がゼロ(沸点が200℃近傍)で取り扱いし易いことから、原燃料としての使用の可能性が期待されている。
【0007】
デカリンの脱水素化方法としては、デカリンをコバルト、ロジウム、イリジウム、鉄、テルニウム、ニッケル、および白金の中から選ばれる少なくとも1種の遷移金属を含有する遷移金属錯体の存在下で光照射し、デカリンから水素を離脱させる方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。また、有機リン化合物のロジウム錯体の存在下、または有機リン化合物とロジウム化合物との存在下に、デカリンに光照射することによりデカリンから水素を製造する方法が知られている(例えば、特許文献2参照。)。
【0008】
さらに、デカリンを含む液体の水素化芳香族化合物を加熱器で加熱し、脱水素触媒によって脱水素して得られた水素を燃料電池に供給する手段を備えた水素燃料電池供給システムが開示されている(例えば、特許文献3参照。)。このような水素燃料電池供給システムの性能としては、水素化芳香族化合物の水素転化率が大きなウエイトを占める。また、今後の燃料電池の動向からも大量の水素を供給する手法の確立が重要な問題となる。しかし、上記水素燃料電池供給システムは、液体の水素化芳香族化合物を脱水素反応させる際に、反応転化率の効率化は図られていない。
【0009】
【特許文献1】
特公平3−9091号公報
【特許文献2】
特公平5−18761号公報
【特許文献3】
特開2001−110437号公報
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
上述のように、特に燃料電池や水素エンジンに供給する水素ガスは、供給する水素ガス中の水素濃度が高いことが要求され、上記従来の脱水素化による水素生成方法を電気自動車の燃料電池や水素エンジン等の水素使用装置に適用しようとすると、反応転化率が低く、脱水素化によって生じた脱水素生成物や未反応の炭化水素系燃料が混在するために、水素使用装置に供給しても水素分圧が低いことから高性能が得られ難いという問題があった。
【0011】
また、車載する場合には、装置全体が大きすぎたり重量がありすぎると、現実には車両などの狭い場所への搭載は困難となる。
【0012】
本発明は、上記に鑑み成されたもので、小型、軽量化が可能で、単位容積当りの脱水素反応効率を高めて高純度水素ガスの生成量を向上させることができる水素ガス生成装置を提供することを目的とする。
【0013】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の、本発明の水素ガス生成装置は、炭化水素系燃料を脱水素反応させる触媒を内壁に備え且つ相互に連通された複数の反応室と前記脱水素反応によって生成した水素ガスを排出する排出口とを備えた脱水素反応器と、前記複数の反応室の各々に前記炭化水素系燃料を噴射する噴射装置と、を備えて構成される。
【0014】
請求項1に記載の水素ガス生成装置によれば、内壁に上記触媒を備えた複数の反応室を備えた脱水素反応器を用いることで、脱水素反応器内の触媒設置面積を広く確保することができる。これにより、炭化水素系燃料の脱水素反応領域が拡張され、脱水素反応器の単位容積当たりにおける炭化水素系燃料の転化率を向上させることができる。また、上記複数の反応室は、互いに連通されており、脱水素反応によって発生した水素ガスや未反応の炭化水素系燃料等は排出口から排出される。
【0015】
また、上記触媒は、脱水素反応のために加熱される必要があるが、上記触媒は、ヒータや加熱媒体によって脱水素反応器を加熱し、これにより得られた熱を触媒に伝達させることよって加熱することができる。したがって、脱水素反応器としては、アルミ等の金属物質などの熱伝導性に優れた材質で構成されるのが有効である。
【0016】
本明細書中において、炭化水素系燃料とは、脱水素反応により水素を発生し得る化合物を含む燃料であり、脂環式炭化水素、脂肪族炭化水素等を含む燃料が含まれる。脂環式炭化水素には、例えば、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ジメチルシクロヘキサン、1,3,5−トリメチルシクロヘキサン等の単環式化合物、デカリン、メチルデカリン、テトラリン(テトラヒドロナフタレン)等の二環式化合物、テトラデカヒドロアントラセン等の三環式化合物、等が含まれる。脂肪族炭化水素には、2−プロパノ−ル、メタノール、エタノール等が含まれる。特に、デカリン、メチルデカリン、テトラリンを含む燃料が好ましく、デカリンからなる燃料またはデカリンを主成分とする燃料がより好ましい。
【0017】
炭化水素系燃料から生成される脱水素生成物は、炭化水素系燃料を脱水素反応して水素を放出した後の反応生成物であり、例えば、デカリン、またはシクロヘキサンの場合には、水素と共に主として生成される、ナフタレン(若しくはテトラリン)、またはベンゼンが各々相当する。
【0018】
前記炭化水素系燃料を脱水素反応させると、水素ガスと共に、水素の放出により不飽和結合を持つ脱水素生成物が反応生成物として生成される。例えば、デカリンからなる燃料またはデカリンを主成分とする燃料を用いた場合には、デカリンの脱水素反応により、水素ガスと共に脱水素生成物としてナフタレンが生成される。そして、上記脱水素生成物であるナフタレンを水素添加により水素化反応させたときには、ナフタレンの水素化物であるデカリンおよび/またはテトラリンが再生される。
【0019】
尚、本発明における再生には、例えば、ナフタレンまたはベンゼンからそれぞれデカリンまたはシクロヘキサンを再生することのほか、二環式若しくは三環式の化合物の場合には、水素化が未完の化合物を再生することも含む。即ち、例えばナフタレンを再生する場合、デカリンを再生することのほか、テトラリンを再生すること、デカリンと共にテトラリンを再生することをも含む。
【0020】
また、請求項2に記載の水素ガス生成装置は、請求項1に記載の水素ガス生成装置において、前記複数の反応室を、室の内壁となる側の面に前記触媒を備えた複数の仕切部材によって前記脱水素反応器の内部を仕切ることで形成することができる。
【0021】
請求項2に記載の水素ガス生成装置によれば、脱水素反応器内に上記複数の反応室を形成するために触媒を室の内壁となる側の面、例えば両面に備えた仕切部材を用いることで、内壁に触媒を備えた複数の反応室を効率的に形成することができる。
【0022】
請求項3に記載の水素ガス生成装置は、厚み方向に貫通する貫通孔が穿設され且つ室の内壁となる側の面に炭化水素系燃料を脱水素反応させる触媒を備えた複数のプレートによって仕切られて形成された複数の反応室と、前記脱水素反応によって生成した水素ガスを排出する排出口と、を備えた脱水素反応器と、前記プレートの貫通孔の各々を貫通して設けられ、且つ、前記複数の反応室の各々に対応した噴射孔を有し、前記複数の反応室の各々に前記炭化水素系燃料を噴射する噴射装置と、を備えて構成される。
【0023】
請求項3に記載の水素ガス生成装置によれば、厚み方向に貫通する貫通孔が穿設された複数のプレートによって脱水素反応器内を仕切り、複数の反応室を形成することで、内壁に触媒を備えた複数の反応室を効率的に形成することができる。これにより、脱水素反応器内の触媒設置面積を広く確保することができ、炭化水素系燃料の脱水素反応領域が拡張され、脱水素反応器の単位容積当たりにおける炭化水素系燃料の転化率を向上させることができる。
【0024】
また、上記プレートに穿設された貫通孔が反応室同士を相互に連通させるための役割を果たし、脱水素反応によって発生した水素ガスや未反応の炭化水素系燃料等の流通経路を確保することができる。
【0025】
さらに、各反応室に対応した噴射孔を有する噴射装置を前記プレートの貫通孔に貫通させて設置するため、一基の噴射装置で複数の反応室の各々に炭化水素系燃料を噴射することができる。また、噴射装置が上記プレートの貫通孔を貫通して設置されているため、各反応室の内壁に設置された触媒に均一に炭化水素系燃料を噴射しやすい。
【0026】
前記プレートの貫通孔に貫通して設置される噴射装置は、例えば、長尺の管形状の表面に触媒上に炭化水素系燃料を供給する噴射孔を複数有して構成され、その長手方向が脱水素反応器の内壁に対して略平行となるように配置される。供給装置の面の形状は、円形、楕円形、矩形、方形など任意の形状に構成できる。
【0027】
請求項4に記載の水素ガス生成装置は、室の内壁となる側の面に炭化水素系燃料を脱水素反応させる触媒を備え前記炭化水素系燃料の流下方向に傾斜して設けられた複数のプレートによって仕切られて形成され且つ相互に連通された複数の反応室と、前記脱水素反応によって生成した水素ガスを排出する排出口と、を備えた脱水素反応器と、前記反応室の各々に前記炭化水素系燃料を噴射する噴射装置と、を備えて構成される。
【0028】
請求項4に記載の水素ガス生成装置によれば、前記炭化水素系燃料の流下方向に傾斜して脱水素反応器内に設けられた複数のプレートによって脱水素反応器内を仕切り、複数の反応室を形成することで、内壁に触媒を備えた複数の反応室を効率的に形成することができる。これにより、脱水素反応器内の触媒設置面積を広く確保することができ、炭化水素系燃料の脱水素反応領域が拡張され、脱水素反応器の単位容積当たりにおける炭化水素系燃料の転化率を向上させることができる。
【0029】
また、前記複数の反応室の各々は、隣接する反応室と相互に連通されており、脱水素反応によって発生した水素ガスや未反応の炭化水素系燃料等の流通経路が確保され、さらに、上記プレートは上記炭化水素系燃料の流下方向に傾斜しているため、未反応の炭化水素系燃料等が流下しやすい。流下した未反応の炭化水素系燃料等は、脱水素反応器の流下方向側に排出口を設け一定量が貯まったところで排出する構成とすることができる。
【0030】
また、本発明の水素ガス生成装置には分離手段を設けるのが好ましい。前記分離手段は、脱水素反応器から排出された水素ガスと脱水素生成物との混合ガスから高純度の水素ガスを分離させることができ、分離された高純度の水素ガスは上記燃料電池や水素エンジン等に供給される。
【0031】
本発明の水素ガス生成装置は、炭化水素系燃料の脱水素反応を迅速且つ高効率に行なわせて水素密度の高い水素ガスを良好に水素使用装置(例えば燃料電池、水素エンジン)に供給することが可能であり、装置全体の小型化、軽量化が図れると共に、炭化水素系燃料/脱水素生成物の循環系により、クリーンでエネルギー資源の利用効率の高いシステムを構築することができる。
【0032】
【発明の実施の形態】
以下、図面を参照して、本発明の水素ガス生成装置の実施の形態を説明する。尚、下記の実施の形態において、炭化水素系燃料として、デカリンを主成分とする燃料(以下、単に「デカリン」という。)を用いた場合を中心に説明する。但し、本発明においてはこれら実施の形態に制限されるものではない。
【0033】
(第1の実施の形態)
本発明の水素ガス生成装置の第1の実施の形態について図1〜5を参照して説明する。本実施の形態は、水素ガスを燃料とする水素利用装置が搭載された自動車に本発明の第1の実施の形態の水素ガス生成装置を搭載し、デカリンを高温触媒の存在下で反応させナフタレンと水素ガスとを生成するデカリン/ナフタレン反応を利用したものであり、水素ガス分子を吸着貯蔵するのではなく、化学結合で原燃料中に貯蔵するものである。
【0034】
図1は、本発明の第1の実施の形態を示す概略的構成図である。図1において、本発明の水素ガス生成装置は、反応タンク10と、複室貯留タンク12と、分離タンク14と、水素ガス貯蔵タンク16と、加熱装置18と、から構成される。
【0035】
本実施の形態における水素ガス生成装置は、複室貯留タンク12から反応タンク10にデカリンが供給されると、反応タンク10に備えられた脱水素反応器22内でデカリンが脱水素反応を起こし、水素ガスとナフタレンとを含む水素リッチガスを生成する。この際、反応タンク10は、内部に備えられた触媒を加熱するために加熱装置18によって加熱されている。脱水素反応器22内で発生した水素リッチガスは、その後分離タンク14に供給され、分離タンク14内で水素ガスとナフタレンとに分離される。水素ガスとナフタレンとの分離は、主に水素リッチガスにデカリンを噴霧することによっておこなわれる。分離タンク14内で分離された水素ガスは、水素ガス貯蔵タンク16で貯蔵された後、水素利用装置20に供給される。また、分離タンク14において分離されたナフタレンは分離に用いられたデカリンとともに複室貯留タンク12に送られ貯留される。
【0036】
図1において反応タンク10は、脱水素反応器22と、噴射駆動部24と、噴射装置26と、から構成され、複室貯留タンク12に接続された排出管28の一端が脱水素反応器22の底側に接続されている。反応タンク10は、複室貯留タンク12から供給されたデカリンを脱水素反応器22内で脱水素反応させ、脱水素反応によって生成した水素ガスと気相ナフタレンとの混合ガス(水素リッチガス)を排出する。反応タンク10から排出された水素リッチガスは、バルブV2、逆止弁およびポンプP2を備えた供給配管30を通じて分離タンク14に供給される。
【0037】
図1において脱水素反応器22は、円柱状であり、その内部が複数の反応室に区画されている。脱水素反応器22内の各反応室の内壁にはデカリンを脱水素反応させるための触媒が設けられている。噴射装置26によって各反応室にデカリンが噴射されると、デカリンが触媒上で脱水素反応し、水素ガスとナフタレンとを生成する。脱水素反応器は22の材質としては、触媒に熱を伝えやすいようにアルミ等の熱伝導性の高いものが用いられる。
【0038】
図2および3を用いて脱水素反応器22について説明する。図2は、第1の実施の形態における脱水素反応器の概略的断面図である。図2において、脱水素反応器22は、厚み方向に貫通孔が穿設されたプレート32a〜32kと、プレート32a〜32kによって仕切られた反応室34a〜34lと、反応室34a〜34lの内壁に設けられた触媒36と、ガス排出口38と、未反応デカリン排出口40と、から構成され、その中心部にはプレート32a〜32kの貫通孔を貫通するように、噴射装置26が備えられている。噴射装置26には、反応室34a〜34lにデカリンを噴射するための複数の噴射孔42が設けられている。
【0039】
プレート32a〜32kはドーナツ状の円盤型プレートであり、その中心に貫通孔が穿設されている。プレート32a〜32kの外径は脱水素反応器22内に固定できるように適宜決定される。また、噴射装置26を反応室の中心に設置するためだけではなく、脱水素反応によって生成した水素リッチガスや未反応デカリンの流通経路を確保するための各反応室の連通手段としても機能させるため、貫通孔の直径(プレート32a〜32kの内径)は、その周縁と噴射装置26との間にある程度の間隙ができるように決定される。
【0040】
また、プレート32a〜32kの両面には触媒36が設けられており、各プレートが反応室34a〜34lの内壁の一部を担う役割を果たす。触媒36は脱水素反応の際に加熱されている必要があるため、脱水素反応器22と同様にプレート32a〜32kの材質にはアルミ等の熱を伝えやすい材質が用いられる。また、プレート32a〜32kは、未反応のデカリン等が流下しやすいようにその中心(貫通孔)に向かって傾斜しているすり鉢状であってもよい。
【0041】
脱水素反応器22の内壁には触媒36が設けられており、プレート32a〜32kとともに反応室34a〜34lの内壁を形成している。反応室34a〜34lの各反応室は、隣接する反応室とプレート32a〜32kの貫通孔によって連通しており、その中心に備えられた噴射装置26からデカリンを供給され、内壁に備えられた触媒36上で水素リッチガスを発生させる。
【0042】
反応室34a〜34lの内壁に備えられた触媒36上に噴射装置26からデカリンを供給する際、デカリンは加熱された触媒36の表面が僅かに湿潤した状態、すなわち液膜状態となるように供給されることが好ましい。僅かに湿潤した液膜状態では、過熱(デカリンの沸点を越える温度での加熱)・液膜状態での脱水素反応のとき水素ガス生成量は最大になる。これは、デカリンの蒸発速度が、基質液量(デカリンの液量)が少ない程小さくなり、蒸発速度が小さく且つ高温の状態で脱水素反応させることにより転化率が向上するからである。すなわち、蒸発速度は液量・伝熱面積・加熱源と沸点との温度差の各々に比例するので、液体デカリンの量が少なければ蒸発速度が小さくなる。液体デカリンは、加熱された触媒36上(例えば、200〜350℃)でも液膜状態で存在するので、触媒活性サイトは液相からのデカリンの速やかな吸着により充分に高い被覆度で常時補填される。すなわち、触媒36の表面上でデカリンを液膜状態で脱水素反応させると、触媒36の表面上でデカリンを気体で反応させた場合よりも優れた反応性が得られる。
【0043】
反応室34a〜34lの内壁に備えられる触媒36としては、触媒金属として、Pt、Pt−Ir、Pt−Re、Pt−W等の貴金属系の金属を用いた炭素担持Pt触媒、炭素担持Pt−Ir複合金属触媒、炭素担持Pt−Re複合金属触媒、または炭素担持Pt−W複合金属触媒、またはニッケル系金属を使用することができる。
【0044】
脱水素反応器22の内壁およびプレート32a〜32kの表面に触媒36を設けるには、例えば、脱水素反応器22の内壁に触媒金属微粒子(触媒)を直接担持させ、脱水素反応器22を担持体として機能させたり、または、触媒金属微粒子が多孔性炭素担体等の担体に予め担持されてなる触媒を脱水素反応器22の内壁に沿って設けるようにしてもよい。但し、触媒と担体との密着性が高いほど熱伝導性が良く好ましい。脱水素反応器22をモノリス担体とする場合には、一体成形構造の担体の表面に触媒機能を持つ活性成分(触媒金属微粒子)を分散して付着、担持させたモノリス触媒として構成することもできる。
【0045】
脱水素反応器22の内壁およびプレート32a〜32kの表面に触媒36を設ける方法としては、コーティング法が好適であり、例えばPt/活性炭繊維を触媒とする場合、活性炭繊維及びPtの混合物を脱水素反応器22の内壁にそのままコーティングして固定する方法、Pt含有の活性炭スラリーを調製しこれを吸引、スプレー噴射してコーティング(塗布)、乾燥し、窒素雰囲気中で焼成して筒状体内壁面にコートする方法、等が挙げられる。
【0046】
ガス排出口38は、脱水素反応器22の上方に設けられており、反応室34a〜34lで発生した水素リッチガスを排出する。ガス排出口38には、分離タンク14に接続された供給配管30の一端が接続されており(図1参照)、反応室34a〜34lで発生した水素リッチガスを分離タンク14に供給できるようになっている。脱水素反応器22の上端側(図2における反応室34aの内壁)には水素圧センサ39が備えられており、脱水素反応器22内の水素リッチガスの圧力を検知することができる。水素圧センサ39が水素リッチガスの圧力が一定まで増加したことを検知するとバルブV2が開き、ガス排出口38から排出された水素リッチガスがポンプP2によって分離タンク14に供給される(図1参照)。
【0047】
反応室34a〜34lにおいて生じる未反応のデカリンは、各貫通孔を通じて脱水素反応器22の底面にまで移動する。未反応デカリン排出口40は、各反応室から流下してきた未反応デカリンを排出するために脱水素反応器22の底面に設けられる。未反応デカリン排出口40には、バルブV3を備えた排出管28が連結されており、排出した未反応デカリンを複室貯留タンク12の生成物貯留部74に供給できるようになっている。図2において脱水素反応器22の最底面側に位置する反応室32lの壁面には、未反応デカリン液量センサ44が備えられており、未反応デカリンが一定量に達すると、バルブV3の電磁弁を開き未反応デカリンを排出できるように制御されている。
【0048】
次に、噴射装置26について図2〜4を用いて説明する。図3は、脱水素反応器22の図2におけるA−A’線断面図である。また、図4は、噴射装置26の図2におけるB−B’線断面図である。図2に示すように噴射装置26は、反応室34a〜34lの各々にデカリンを供給できるように、複数の噴射孔42が設けられている。噴射孔42は、デカリンが反応室内の触媒上で均一に液膜状態になるように、反応室内の触媒36の表面積や噴射装置26から触媒36までの距離(反応室の内壁までの距離)などを考慮し、その個数や孔径を適宜決定することができる。図2においては、反応室34a〜34lの各々に対応して各プレート間の中心あたりに噴射孔42が位置するように構成されている。また、本実施の形態においては脱水素反応器22が円柱状であるため、一つの反応室に対して前後左右の4方向にデカリンを噴射できるよう、一つの反応室に対し4方向に噴射孔42が設けられている。さらに、噴射孔42から噴射されるデカリンの噴射形状は、噴射孔の適正化等によって反応室に設けられた触媒上でデカリンが液膜状態になるように適宜決定される。
【0049】
本実施の形態において噴射装置26は、図2および3に示すように長尺の円筒状であり、プレート32a〜32kの各貫通孔を通過し、その下端が脱水素反応器22の底面とプレート32kとの中心あたりに位置するように備えられている。脱水素反応器22と噴射装置26との接続部は水素リッチガスが漏れないようにOリング50でシールされている。また、図3に示すように、噴射装置26は、外側部材26aと内側部材26bとからなる二重構造を有しており、外側部材26aの往復運動することによって噴射孔42からデカリンを噴射することができる。
【0050】
噴射装置26のデカリン噴射機構について説明する。図4(A)に示すように外側部材26aには複数の噴射孔42aが設けられており、内側部材26bには複数の噴射孔42bが設けられている。噴射装置26は、内部にデカリン46が高圧で供給されており、固定された内側部材26bに沿って上下に往復運動できるように構成されている。デカリン46は、ポンプP1(図1参照)によって噴射装置26に設けられた全ての噴射孔からデカリンが適正に噴射できる圧にまで昇圧され、噴射装置26内に保たれている。噴射装置26の内部を高圧に保つことによって、噴射装置26の下端側に設けられた噴射孔42からのみ噴射し上端側の噴射孔42からデカリンが噴射されない事態を回避することができる。また、噴射装置26の上端側(紙面上方側)に設けられる噴射孔42の孔径を小さくし、下端側(紙面下方側)に設けられる噴射孔42の孔径を大きくすることで、全方向に一様にデカリンを噴射することができる。
【0051】
図4(A)に示すように、外側部材26aの噴射孔42aと内側部材26bの噴射孔42bとの位置が一致していない時には、デカリンは噴射されず噴射装置26内に保たれている。噴射孔42bの周辺にはデカリンの漏れを防ぐために、漏れ防止用シール48が備えられている。外側部材26aの往復運動によって、外側部材26aが図4(A)に示す矢印の方向(紙面上方)にスライドすると、図4(B)に示すように、噴射孔42aと噴射孔42bとの位置が一致し、高圧で供給されているデカリンが噴射孔42aから反応室の触媒に向かって噴射される。さらに外側部材26aの往復運動によって、外側部材26aが図4(B)に示す矢印の方向(紙面下方)にスライドすると、噴射孔42aと噴射孔42bとの位置が再びずれ、デカリンの噴射が停止される。このように、外側部材26aが往復運動を繰り返すことによって噴射装置26は、デカリンを反応室の触媒上で液膜状態になるように間欠噴射することができる。
【0052】
次に、噴射装置26の外側部材26aを往復運動させる噴射駆動部24について図5を用いて説明する。図5は、第1の実施の形態における噴射駆動部を示す概略図である。図5に示すように噴射駆動部24は脱水素反応器22の外壁上部に設けられ、カムシャフト52に固定されたカム54と、噴射装置26の外側部材26aに固定された固定部材56と、脱水素反応器22の外壁上部と固定部材56とに狭持されたスプリング58と、で構成され、外側部材26aがカム駆動によって内燃機関の吸排気バルブのように往復運動できるようになっている。この際、噴射装置26の内側部材26bは固定部材62によって固定されている。カムシャフトが回転すると、カム54の駆動が外側部材26aの頭頂部60を介して伝わり、外側部材26aを上下に往復運動させることできる。尚、本発明において外側部材26aを往復運動させる噴射駆動部24の構造はこれに限定されるものではなく、例えば、電動式に往復させてもよい。また、往復運動は上下運動に限られず、周方向へのものであってもよい。
【0053】
次に加熱装置18、複室貯留タンク12、分離タンク14、水素ガス貯蔵タンク16等について図1を用いて説明する。加熱装置18は、装置内を循環するシリコーンオイルによって反応タンク10を加熱するように構成される。反応タンク10は、脱水素反応器22内に備えられた触媒を加熱するために、脱水素反応器22が加熱装置18内のシリコーンオイルで直接加熱されるように設置される。
【0054】
図1において加熱装置18は、オイル循環ポンプP3を備えた配管64と2箇所で連結されており、加熱装置18内のシリコーンオイルが配管64内を挿通して循環し、配管途中にある水素利用装置20の廃熱によって加熱されるようになっている。加熱されたシリコーンオイルは、反応タンク10の近辺に滞在すると共に徐々に循環されることによって反応タンク10と熱交換し、脱水素反応器22の外壁を通じて伝達される熱で脱水素反応器22内部の触媒を加熱する。また、加熱装置18の底面側には、図示を省略する回転羽が設けられており、加熱装置18内のシリコーンオイルの循環を促して加熱装置内の温度を均一に保持できるようになっている。
【0055】
また、配管64には、図1に示すように、冷却水を循環させてシリコーンオイルの液温を調節する循環冷却器66が設けられており、さらに加熱装置18には温度センサ68が備えられている。これにより、シリコーンオイルの温度が所定温度を超えたときには、風冷した冷却水を循環させることによってオイル温度を冷却し、所定の温度に達しているときには冷却水の循環を停止するように制御される。
【0056】
複室貯留タンク12は、隔壁面が略水平となるようにナフタレン非透過性の移動可能な隔壁70を備えて構成され、隔壁70により内部が二つの室に区画されている。区画された一方(図面の隔壁70の下室)には、デカリンを貯留するデカリン貯留部72(炭化水素系燃料貯留部)が、他方(図面の隔壁70の上室)にはナフタレン混合物を貯留する混合物貯留部74(生成物貯留部)が設けられている。
【0057】
デカリン貯留部72の底面側には、デカリンを反応タンク10に供給するためのポンプP1およびバルブV1を備えた供給配管76の一端と、デカリンを分離タンク14に供給するためのポンプP5とバルブV6とを備えた供給配管78の一端とが接続されている。更にデカリン貯留部72の壁面には、バルブを備えた燃料供給管80が備えられている。また、混合物貯留部74には、排出管28の一端が接続されると共に、ポンプP6を備えた供給配管84の一端が接続され分離タンク14と連通されており、更に壁面にはバルブを備えた排出管82が設けられている。
【0058】
隔壁70は、その壁面の法線方向と略平行(図面の上下方向C)に移動可能に構成されている。ナフタレン混合物がなくデカリンが満タンであるときには、隔壁70は最上部に位置して最大量のデカリンがデカリン貯留部72に貯留され、水素ガスの生成、すなわちナフタレン混合物の生成量の増大にしたがって隔壁70は徐々に下方に自動的に移動し、デカリン貯留部72の容積が縮小され混合物貯留部74の容積が拡大する。これにより、単一のタンクを有効に利用でき、装置をより小型化することができる。
【0059】
隔壁70は、混合物貯留部74からデカリン貯留部72へのナフタレンの移動を抑え、且つデカリンに対して安定なものであれば、特に制限はなく公知のものの中から適宜選択することができる。例えば、物質非透過性のもの、ナフタレン透過性の低いもの、ナフタレンを除いては透過性のもの等を用いることができる。また、変形し難い板状のものでも伸縮可能な軟性、弾性を有するものでもよい。一つの複室貯留タンク12内に複数の分離膜を設けることもできる。
【0060】
具体的な例として、仕切り板や、ナフタレン濃度が低い側から圧がかかったときに開弁し、ナフタレンを高濃度に含む側から圧がかかったときに閉弁される多数の逆止弁が格子状又はランダムに配列された逆止弁膜などが挙げられる。
【0061】
複室貯留タンク12は、反応タンク10と連通する供給配管76や分離タンク14と連通する供給配管78、84、その他排出管28等にそれぞれ図示しない連結器(ジョイント)を設け、連結器において着脱可能に構成することができる。例えば、簡易にはめ込み、取り外しができる交換タンク(カートリッジタンク)の形態に構成できる。
【0062】
複室貯留タンク12を着脱可能に構成することにより、デカリンから所定量の水素ガスを生成後、複室貯留タンク自体を交換あるいは一旦取外してナフタレン混合物を再生することにより、貯留されたナフタレン混合物を回収、除去でき、車載するなど特定場所に定置しない場合でも簡易且つ継続的な水素の供給が可能となる。
【0063】
また、複室貯留タンク12を着脱可能に構成せず、あるいは着脱可能に構成すると共に、複室貯留タンクの混合物貯留部74のみを着脱可能に構成してもよい。この場合、混合物貯留部74は複室貯留タンク12に収納可能なカートリッジ式に構成することもでき、また混合物貯留部74が複室貯留タンク12の一部を構成するように構成することもできる。例えば、隔壁70の上室をはめ込み、取り外しが可能な態様、例えば交換タンク(カートリッジタンク)として構成することができる。この場合も、混合物貯留部(交換タンク)を空のもの(交換タンク)に取り替えることにより継続的な水素生成が可能となる。
【0064】
分離タンク14には、その上部において複室貯留タンク12のデカリン貯留部72(下室)に連通する供給配管78の他端で接続された供給装置86が設けられ、壁面に接続された供給配管30を介して反応タンク10から送られてくる水素リッチガスにデカリンを噴霧等して水素ガスを分離できるように構成されている。また、分離タンク14の底部側には、ポンプP6を備えた供給配管84の他端が接続され、デカリンに溶解されて底部に貯留されたナフタレン混合物を複室貯留タンク12の混合物貯留部74に供給できるようになっている。
【0065】
分離タンク14の上部壁面には、分離した水素ガスを挿通するためのポンプP7とバルブV4とを備えた供給配管88の一端が接続され、水素ガスの貯留、供給が可能な水素ガス貯蔵タンク(バッファータンク)16と連通されている。なお、分離タンク14内の水素ガスを加圧または高圧状態にしたり、水素ガス貯蔵タンク16への圧力を低圧(例えば負圧)にすることで水素排出効率を向上させることができる。
【0066】
水素ガス貯蔵タンク16は、バルブV5を備えた供給配管90によって水素利用装置20と連通され、水素ガスを供給できるようになっている。そして、供給配管90には、水素利用装置20に供給する水素量を制御するための水素流量制御器92が設けられ、水素利用装置20の運転状態に応じて適宜コントロールできるように構成されている。エンジン始動時には、脱水素反応器22内の触媒温度が低く水素を生成できないことから、水素ガス貯蔵タンク16にあらかじめ貯留された水素が水素利用装置20に供給される。
【0067】
また、水素ガス貯蔵タンク16には、タンク中の水素圧を検出するための水素圧センサ89が設けられており、水素ガス貯蔵タンク16内の水素圧が予め定められた値を超えた場合には、デカリンの供給を停止または減少させて、水素ガスの供給を停止または減少させる。水素利用装置20としては、水素を燃料として発電する燃料電池や、水素を燃料として発動する水素エンジン等が挙げられる。
【0068】
次に第1の実施の形態における本発明の水素生成装置の各制御について図6〜9を用いて説明する。図6は、本発明の第1の実施の形態の制御回路を示すブロック図である。図6に示すように、上述の噴射駆動部24、水素流量制御器92、ポンプP1〜P7、バルブV1〜V6、循環冷却器66、水素圧センサ39,88、未反応デカリン液量センサ44並びに温度センサ68の各々は、マイクロコンピュータ等で構成された制御回路部94に接続されている。
【0069】
以下、本実施の形態の制御装置による制御ルーチンについて説明する。図7は、イグニッション(IG)スイッチオンで実行されるメインルーチンを示すものである。制御回路部94は、IGスイッチがオンされるまで待機し(ステップS100否定)、IGスイッチがオンされたと判断すると、まず水素流量制御器92がオンされて水素を水素利用装置20に供給し水素利用装置20を始動させる(ステップS100肯定)。続けて、オイル循環ポンプP3を駆動し、加熱装置18のシリコーンオイルを循環させ、反応タンク10を加熱する(ステップS101)。
【0070】
次いで、噴射駆動部24を駆動し、供給量を予め定めた所定量(触媒表面上で液膜が得られる直前の量)から徐々に増加させながらデカリンを噴射装置26によって脱水素反応器22内の触媒に供給する(ステップS102)。制御回路部94は、水素圧センサ39によって検出された水素圧P1と予め定められた水素圧P0とを比較して、水素圧P1が水素圧P0以上であるか否かを判断し(ステップS103)、水素圧P1が水素圧P0未満であると判断した場合(ステップS103否定)は、ステップS102に戻りデカリンを徐々に増加させながら供給する。これにより、乾燥した触媒上にデカリンが徐々に供給され、触媒表面が徐々に湿潤して行き、デカリンが液膜状態で供給されるので、水素発生量が最大値に近づく。
【0071】
制御回路部94は、水素圧P1が水素圧P0以上であると判断した場合(ステップS103肯定)、デカリンが噴射装置26から予め定められた所定の量(触媒表面上で液膜を得るために最適な量)で供給されるように噴射駆動部24を制御する(ステップS104)。これにより、デカリンが触媒表面上で常に液膜状態で保持され、水素圧、すなわち水素ガス発生量が最大になるようにデカリンが供給される。また、デカリンの供給量が過剰になり水素発生量が低下した場合には、デカリン供給量を徐々に低下させてデカリンが常に液膜状態で保持されるように制御する。
【0072】
次いで、制御回路部94は、再び脱水素反応器22内の水素圧P1が所定の水素圧P2に達しているか否かを判断し(ステップS105)、水素圧P1が所定の水素圧P2に達していないと判断した場合(ステップS105否定)には、ステップS104に戻り、デカリンの供給を繰り返す。
【0073】
一方、制御回路部94が、水素圧P1が所定の水素圧P2に到達したと判断した場合(ステップS105肯定)には、バルブV2を開き水素リッチガスを分離タンク14に供給し、その後ステップS104に戻り同様の処理が繰り返される。
【0074】
本実施の形態では、IGスイッチがオンされると水素流量制御器92によって水素ガス貯蔵タンク16から水素利用装置20に水素が供給され水素エンジンが始動する。そして、オイル循環ポンプP3が駆動して加熱装置18内のシリコーンオイル温度が所定の触媒加熱温度にまで達すると、複室貯留タンク12からデカリンが供給配管76を挿通して反応タンク10の脱水素反応器22に供給される。脱水素反応器22で発生した水素リッチガス供給配管30を介して分離タンク14に送られる。このとき、循環冷却器66によって触媒温度は所定温度に制御されている。
【0075】
分離タンク14に供給された水素リッチガスは、供給装置86から噴出されるデカリンと接触し、冷却されると共にガス中のナフタレン及び残存デカリンは供給されたデカリンに溶解されて水素ガスと分離される。分離された高純度の水素ガスは、供給配管88を挿通して水素ガス貯蔵タンク16に供給、貯蔵される。供給、貯蔵された水素ガスは、水素流量制御器92により制御されながら水素ガス貯蔵タンク16から水素エンジン等の水素使用装置20に供給される。分離タンク14で溶解されたナフタレンは、デカリンと混合したナフタレン混合物として複室貯留タンク12の上室(混合物貯留部74)に貯留される。このとき、隔壁70はナフタレン混合物の量が増えるにしたがって上室の容積が拡大する方向(図中の下方)に移動する。そして、ナフタレン混合物が所定量に達すると、バルブ開閉して排出管82からナフタレン混合物が排出、回収され、これに伴い隔壁70は下室の容積が拡大する方向(図中の上方)に移動し、燃料供給管80からデカリンが供給される。このサイクルを繰り返すことにより、高純度の水素ガスを継続的に水素使用装置に供給することができる。なお、水素ガス貯蔵タンクに貯蔵された水素ガスは、水素使用装置に供給するほか、後述の再生タンクにおけるナフタレンの水素化反応に利用することもできる。
【0076】
次に、加熱装置18内におけるシリコーンオイルの温度制御について説明する。図8は、イグニッション(IG)スイッチオンで実行される加熱装置18内におけるシリコーンオイルの温度制御ルーチンを示すものである。制御回路部94は、IGスイッチがオンされるまで待機し(ステップS200否定)、IGスイッチがオンされたと判断すると、まず水素流量制御器92がオンされて水素を水素利用装置20に供給し水素利用装置20を始動させる(ステップS200肯定)。続けて、オイル循環ポンプP3を駆動し、加熱装置18のシリコーンオイルを循環させ、反応タンク10を加熱する(ステップS201)。ある程度のシリコーンオイルを循環させた後、制御回路部94は加熱装置18内のシリコーンオイルの温度Tを温度センサ68によって取り込み(ステップS202)、オイル温度Tが予め定められた所定温度T0以下であるか否かを判断する(ステップS203)。
【0077】
制御回路部94がシリコーンオイルの温度Tが所定温度T0以下であると判断した場合(ステップS203否定)には、ある程度シリコーンオイルを循環させた後、再びステップS202に戻り同様の処理を繰り返す。制御回路部94がシリコーンオイルの温度Tが所定温度T0を超えていると判断した場合(ステップS203肯定)には、ステップS204において循環冷却器66をオンし冷却水を循環させシリコーンオイルの冷却を開始する。
【0078】
制御回路部94は、循環冷却器66をオンした後、再び加熱装置18内のシリコーンオイルの温度Tを温度センサ68によって取り込み(ステップS205)、オイル温度Tが予め定められた所定温度T0以下であるか否かを判断する(ステップS206)。制御回路部94がシリコーンオイルの温度Tが所定温度T0を超えていると判断した場合(ステップS206否定)には、ある程度冷却水を循環させた後、再びステップS205に戻り同様の処理を繰り返す。
【0079】
制御回路部94がシリコーンオイルの温度Tが所定温度T0未満であると判断した場合(ステップS206肯定)には、ステップS207において循環冷却器66をオフし冷却水を循環を停止させ、ステップS201に戻り同様の処理を繰り返す。
【0080】
これにより、加熱装置18内のシリコーンオイル温度、すなわち脱水素反応器22内部の触媒が所定温度になるように制御される。この所定温度は、200〜500℃、好ましくは200〜350℃の間の温度、更に好ましくは280℃にすることができる。この理由は、所定温度が200℃未満であると目的とする脱水素反応の高い反応速度、換言すれば水素使用装置の高性能が得られないことがあり、350℃を越えるとカーボンデポジットが生じる可能性を持ち、500℃を越えると実用的でないからである。
【0081】
また、車両を停止させてイグニッション(IG)スイッチをオフすると、図9の割り込みルーチンが起動され、ポンプP1およびポンプP5の駆動停止し、噴射駆動部24および供給装置86を停止させてデカリンの供給を停止すると共に(ステップS301)、水素利用装置20への水素供給を制御する水素流量制御器92を停止し(ステップS302)、オイル循環ポンプP3を停止することによって水素ガスの生成を停止させる(ステップS303)。
【0082】
また、循環冷却器66は作動させたまま、脱水素反応器22の底部に貯留された未反応デカリンを、バルブV3を開くと共にポンプP4を駆動して排出管28を介して複室貯留タンク12に送液する(ステップS304)。なお、循環冷却器66は、加熱装置18内のシリコーンオイルが所定温度以下となったときに停止される。このとき、デカリン供給を停止した後も少量の水素ガスが発生するので、発生した水素ガスを分離タンク14を経由して水素ガス貯蔵タンク16に貯蔵する(ステップS305)。
【0083】
また、デカリンとテトラリンとの混合燃料を用いることにより、デカリンの脱水素反応の前にテトラリンが脱水素反応するので、速やかに水素ガスを発生させることができる。ここで、複室貯留タンク内あるいは複室貯留タンクとは別のタンク内に、デカリンと分離してテトラリンを貯留し、このテトラリンを加熱された触媒上でデカリンの脱水素反応前に脱水素反応させることにより、速やかに多量の水素ガスを発生させることができ、より迅速に水素生成を行なうことができる。
【0084】
(第2の実施の形態)
本発明の水素ガス生成装置の第2の実施の形態について図10〜13を参照して説明する。本実施の形態における反応タンクは第1の実施の形態における反応タンクと転用可能であり、第2の実施の形態における反応タンク以外の装置等については説明を省略する。
【0085】
図10は、第2の実施の形態における反応タンクの概略的断面図である。図10において、反応タンク150は、脱水素反応器152と、噴射装置154a〜154cと、からなり、脱水素反応器152の底側には、バルブV3を備え複室貯留タンク12に接続される排出管28(図1参照)の一端が接続されている。さらに、脱水素反応器152の上側には、バルブV2、逆止弁およびポンプP2を備えた供給配管30(図1参照)の一端が接続されており、反応タンク150内で生成した水素リッチガスを分離タンク14(図1参照)に排出できるようになっている。
【0086】
また、脱水素反応器152は、円柱状であり、その材質としては、触媒に熱を伝えやすいようにアルミ等の熱伝導性の高いものが用いられる。図10において脱水素反応器152は、プレート156a〜156dと、プレート156a〜156dによって仕切られた反応室158a〜158cと、反応室158a〜158cの内壁に設けられた触媒160と、ガス排出口162と、未反応デカリン排出口164と、から構成され、反応室158a〜158cには、各々一基ずつの噴射装置が備えられている。噴射装置154a〜154cの先端には複数の噴射孔が設けられたノズル166a〜166cがそれぞれ備えられている。
【0087】
プレート156a〜156dは平板状の切り欠け部を有する円盤型プレートであり、デカリンの流下方向に傾斜して脱水素反応器152内に設けられている。プレート156a〜156dの傾斜角αとは、デカリンの流下方向(矢印D1)と垂直な直線D2と、例えばプレート156bと、がなす角である。プレート156a〜156dの傾斜角αとしては、例えば20〜30°が好ましい。プレート156a〜156dの外径は、脱水素反応器152内に固定できるように適宜決定される。また、プレート156a〜156dは、図11に示すように脱水素反応によって生成した水素リッチガスや未反応デカリンの流通経路を確保するために切り欠け部168を有する。尚、切り欠け部168は、プレート156a〜156d各々のデカリンの流下方向側(下端側)に設けられる。
【0088】
プレート156b,156cの両面、およびプレート156a,156dの反応室の内壁になる側の面には触媒160が設けられており、各プレートが反応室158a〜158cの内壁の一部を担う役割を果たす。触媒160は脱水素反応の際に加熱されている必要があるため、脱水素反応器152と同様にプレート156a〜156dの材質にはアルミ等の熱を伝えやすい材質が用いられる。
【0089】
脱水素反応器152の内壁には触媒160が設けられており、プレート156a〜156dとともに反応室158a〜158cの内壁を形成している。反応室158a〜158cの各反応室は、隣接する反応室とプレート156a〜156dの切り欠け部によって連通しており、各々の壁面に備えられた噴射装置154a〜154cからデカリンを供給され、内壁に備えられた触媒160上で水素リッチガスを発生させる。
【0090】
反応室158a〜158cの内壁に備えられた触媒160上に噴射装置154a〜154cからデカリンを供給する際、デカリンは第1の実施の形態と同様に液膜状態になるように供給される。また、反応室158a〜158cの内壁に備えられる触媒160としては、第1の実施の形態で説明したものと同様のものが挙げられる。
【0091】
また、触媒160が設けられる脱水素反応器152の内壁およびプレート156a〜156dの壁面は、図12に示すように突起を設けることができる。このように触媒設置面の表面を突起状とすることで、触媒160の設置面の表面積が増加し、水素発生量を増加させることができる。さらに、図10に示すように脱水素反応器152は、複数の反応器をテーパネジ構造の接合部170によって接合して形成することができる。
【0092】
ガス排出口162は、脱水素反応器152の上方に設けられており、反応室158a〜158cで発生した水素リッチガスを排出する。ガス排出口162には、分離タンク14に接続された供給配管30の一端が接続されており(図1参照)、反応室158a〜158cで発生した水素リッチガスを分離タンク14に供給できるようになっている。脱水素反応器152の上端側には水素圧センサ172が備えられており、脱水素反応器152内の水素リッチガスの圧力を検知することができる。水素圧センサ172が水素リッチガスの圧力が一定まで増加したことを検知するとバルブV2が開き、ガス排出口162から排出された水素リッチガスがポンプP2によって分離タンク14に供給される(図1参照)。
【0093】
反応室158a〜158cにおいて生じる未反応のデカリンは、各切りかけ部168を通じて脱水素反応器152の底面にまで移動する。未反応デカリン排出口164は、各反応室から流下してきた未反応デカリンを排出するために脱水素反応器152の底面に設けられる。未反応デカリン排出口164には、バルブV3を備えた排出管28が連結されており、排出した未反応デカリンを複室貯留タンク12の生成物貯留部74に供給できるようになっている(図1参照)。脱水素反応器152の最底面側の壁面には、未反応デカリン液量センサ174が備えられており、未反応デカリンが一定量に達すると、バルブV3の電磁弁を開き未反応デカリンを排出できるように制御されている。
【0094】
次に、噴射装置154a〜154cについて説明する。図10に示すように噴射装置154a〜154cは、反応室158a〜158cの各々にデカリンを供給できるように壁面に備えられ、図13(A)に示すように複数の噴射孔176を有するノズルが先端に備えられている。噴射装置154a〜154cには、その内部に図13(B)の断面図に示すように噴射孔176と連結するニードル178が備えられており、噴射装置154a〜154cは先端に備えられたノズルから放射状にデカリンを噴射することができる。
【0095】
ノズルに設けられる噴射孔176の個数や孔径は、反応室内の触媒160の表面積やノズル166a〜166cから触媒160までの距離(反応室の内壁までの距離)などを考慮し、適宜決定することができる。さらに、噴射孔176から噴射されるデカリンの噴射形状は、噴射孔の適正化等によって反応室に設けられた触媒上でデカリンが液膜状態になるように適宜決定される。
【0096】
噴射装置154a〜154cは、各プレート間に位置するように脱水素反応器152の壁面に備えられており、各々が対応する反応室の内壁全面にデカリンを噴射できるようになっている。また、各噴射装置の上側と下側とに位置する各プレートは、各噴射装置のノズルが備えられている方向に向かって内側に傾斜するように配置される。このように噴射装置154a〜154cおよびプレート156a〜156dを配置することで、反応室158a〜158cの内壁に均一な液膜状態になるようデカリンが供給されるようにすることができる。
【0097】
本実施の形態における反応タンクを用いると、効率的に水素ガスを生成できるのみでなく、各反応室に対応した噴射装置が備えられていることから、デカリンの供給量を調整しやすい。尚、図10においては、各反応室に対し一基の噴射装置が備えられているが、これに限定されず、各反応室に対して二基以上の噴射装置が備えられていてもよい。
【0098】
(第3の実施の形態)
本発明の水素ガス生成装置の第3の実施の形態について図14を参照して説明する。本実施の形態は、第1の実施の形態の複室貯留タンクおよび分離タンクを単一の貯留分離タンクに代え、単一タンクにデカリンおよび生成ナフタレンを共に貯留するようにし、且つ水素ガスをも分離可能としたものである。また、貯留分離タンクには更に再生タンクを接続し、ナフタレンを再生可能なように構成してある。尚、燃料は第1の実施の形態で使用した燃料を用いることができ、第1の実施の形態と同様の構成要素には同一の参照符号を付してその詳細な説明を省略する。
【0099】
図14に示すように、本実施の形態は、デカリンを貯留し、且つ貯留されたデカリンにデカリンの脱水素反応により生成された水素ガス及びナフタレンが供給されると共に、排出口から水素ガスを排出する貯留分離タンク180と、再生タンク186とを備えている。
【0100】
貯留分離タンク180は、内部に密閉してデカリン181を貯留可能に構成され、貯留分離タンク180の上部壁面には、デカリン181を供給するためのバルブを備えた燃料供給管80と、未反応デカリンを回収する排出管28とが設けられており、また、水素ガス貯蔵タンク16に水素を挿通するためのポンプP7とバルブV4とを備えた供給配管88の一端が接続されて排出口が形成されている。デカリン181は、貯留分離タンク180の上方に空隙を有する範囲で燃料供給管80から供給できるようになっており、反応タンク10で生成された水素ガスは、供給配管88を介して水素ガス貯蔵タンク16に供給、貯留された後、供給配管90を挿通して水素利用装置20に供給できるようになっている(図1参照)。また、貯留分離タンク180の底部には貯留されたナフタレン183を排出するためのバルブを備えた排出管82が設けられている。
【0101】
貯留分離タンク180の底面側の側壁には、反応タンク10と繋がる供給配管30がデカリン181中にその他端が位置するように設けられ、反応タンク10の脱水素反応器22と連通されている。液中となる供給配管30の他端からは、反応タンク10で生成された水素ガス及び気相ナフタレンの混合ガス(水素リッチガス;蒸発して残存する残存デカリンを含んでもよい)を液中において供給可能なようになっている。
【0102】
分離膜182は、貯留分離タンク180の内部にデカリン181の液面と略水平に備えられ、浮上する水素ガス184を透過し、ナフタレン183のデカリン内での拡散を抑えて分離膜182の下方に貯留することができる。貯留分離タンク180の内部において、水平面と略平行に配置された分離膜182は、ナフタレン含量の少ないデカリンの上層部からナフタレン含量の多い下層部に移る濃度分布とも略平行に位置し、分離膜182の下方で供給される水素ガス184は分離膜182の膜面を一様に通過できる。特に、供給配管30の出口周辺でナフタレン量が不均一になると局部的に粘度上昇等を来すことがあるため、水素ガスの液中での移動速度を損なわないようにすることが望ましい。
【0103】
分離膜182は、その膜面の法線方向(図14中の矢印方向F)と略平行に移動可能に構成することができる。分離膜の移動は、貯留分離タンク内部の区画された領域の容積を可逆的に変えることができることが望ましく、生成ナフタレン量に合わせて任意に変えることができる。
【0104】
貯留分離タンク180における分離膜182の位置関係としては、ナフタレンがなくデカリンが満タンであるときには分離膜182はナフタレン供給側、すなわち最下部に位置し、分離膜の下側の容積を小さくでき、このとき最大量のデカリンが貯留される。そして、水素の生成、すなわちナフタレン量の増大に応じて分離膜は徐々に上方に移動し、逆にナフタレン供給側の容積は拡大される。これにより、ナフタレンの拡散を抑止しながら単一のタンクを有効に利用でき、装置をより小型化することができる。
【0105】
分離膜182は、水素ガスを透過できると共に、デカリン中でのナフタレンの拡散を抑制し、且つデカリンに対して安定なものであれば、特に制限はなく公知のものの中から適宜選択することができる。例えば、水素透過性で且つ水素ガス以外は物質非透過性(若しくはナフタレン低透過性)のもの、ナフタレンを除いては透過性のものが使用できる。また、分離膜は、変形し難い板状のものでも伸縮可能な軟性、弾性を有するものでもよい。一つの貯留分離タンク内に複数の分離膜を設けることもできる。
【0106】
具体的な例として、メッシュ状のフィルタ膜や、ナフタレンを高濃度に含む側から水素ガスが透過するときに開弁され、且つ逆側から圧がか且つた場合に閉弁される多数の逆止弁が格子状又はランダムに配列された逆止弁膜などが挙げられ、材質は樹脂材、金属材、シリコーン材、ゴム材など適宜選択できる。
【0107】
分離膜182の膜面の上方には、ナフタレン含有比の低いデカリン181を、デカリンの脱水素反応を行なう脱水素反応器22に供給するための供給配管76の他端が取り付けられている。この他端を分離膜182の膜面近傍から上方に配置することにより、ナフタレン含量比の低いデカリンを供給することができ、水素生成効率を高めることができる。
【0108】
貯留分離タンク180には、反応タンク10と連通する供給配管30、76や排出管28、水素ガス貯蔵タンク16と連通する供給配管88、その他後述の再生タンク186と連通する配管などにそれぞれ図示しない連結器(ジョイント)を備えて、連結器において着脱可能に構成することができる。例えば、簡易にはめ込み、取り外しができる交換タンク(カートリッジタンク)の形態に構成できる。
【0109】
貯留分離タンク180を着脱可能に構成することにより、デカリンから所定量の水素ガスを生成後、貯留分離タンク自体を交換あるいは一旦取外してナフタレンを再生することにより、貯留された生成ナフタレンを回収、除去でき、車載するなど特定場所に定置しない場合でも簡易且つ継続的な水素の供給が可能となる。
【0110】
また、第1の実施の形態と同様に、貯留分離タンク180を着脱可能に構成せず、あるいは着脱可能に構成すると共に、貯留分離タンク180のナフタレンが高濃度に貯留された分離膜182の下方の部分のみを着脱可能に構成してもよい。この場合、ナフタレンが貯留された部分は、貯留分離タンク180に収納可能なカートリッジ式に構成することもでき、また、この部分が貯留分離タンクの一部を構成するように設けることもできる。ナフタレンを高濃度に含む部分(交換タンク)を、デカリンで満たされたもの(交換タンク)に取り替えることにより水素生成を継続的に行なうことが可能となる。
【0111】
再生タンク186は、ナフタレンと水素ガスとを加熱触媒を用いて水素化反応させてデカリンおよび/またはテトラリンを生成させるものであり、貯留分離タンク180と接続して車両内に搭載することができる。
【0112】
再生タンク186は、バルブV7及びポンプP8を備えた供給配管188を介して貯留分離タンク180の底面側で、またバルブV8及びポンプP9を備えた供給配管190を介して貯留分離タンク180の上面側で、それぞれ連通されている。これにより、貯留分離タンク180内のナフタレンは供給配管188を挿通して再生タンクに供給できるようになっており、生成されたデカリン及びテトラリンは供給配管190を介して貯留分離タンク180に供給される。
【0113】
再生タンク186の底面側には、触媒192及び触媒192を加熱するヒータ194で構成され、且つ発熱及び吸熱を起こさせる触媒反応器が設けられている。触媒192の水素化反応を行なう側は、多孔性炭素担体に触媒金属微粒子を担持して構成されている。触媒としては、上記で説明した炭素担持Pt触媒、炭素担持Pt−Ir複合金属触媒、炭素担持Pt−Re複合金属触媒、炭素担持Pt−W複合金属触媒、又はニッケル系金属を使用した触媒等を使用することができる。触媒192の近傍には、触媒表面の温度を検出する温度センサ196が取付けられている。
【0114】
また、再生タンク186には、ガソリンスタンド等の車両外部に設けられた水素ボンベや水の電気分解装置等の設備から水素ガスを供給するための水素ガス供給管198が取り付けられている。水の電気分解により生成した水素ガスなどを供給するようにすれば、クリーンなシステムを構築することができる。
【0115】
本実施の形態では、貯留分離タンク180に燃料供給管80を介してデカリン181が供給されると、デカリン181は供給配管76を挿通して反応タンク10に送られる。脱水素反応器22の乾燥した触媒上にデカリンが徐々に供給され、触媒表面が徐々に湿潤してデカリンが液膜状態で供給されると、水素圧、即ち水素発生量が最大値に近づく。
【0116】
生成されたナフタレンを含む水素リッチガスは、ポンプP2により逆止弁を介して供給配管30を挿通して貯留分離タンク180のデカリン181中に供給される。貯留分離タンク180では、水素ガス184はデカリン181中を浮上する一方、気相で存在していたナフタレン及び残存デカリンはデカリン181中へ供給される過程で冷却され、残存デカリンは凝縮して液化し、ナフタレンは凝析して沈降する。これにより、水素ガスはナフタレン及び残存デカリンと分離され、タンク上部の空隙において高純度に分離される。分離された水素ガスは水素ガス貯蔵タンク16に供給される。このとき、貯留分離タンク180内の水素ガスを加圧または高圧状態にしたり、水素ガス貯蔵タンクへの圧力を低圧(例えば負圧)にすることで水素排出効率を向上させることができる。
【0117】
なお、生成ナフタレンからのデカリンの再生は航空燃料として公知の安定した技術を使用することができる。これにより、安全で環境に優しく、高純度の水素ガスを発生することができる。
【0118】
一方、車両を停止させる場合には、第1の実施の形態の場合と同様にして、水素ガスの生成を停止すると共に、脱水素反応器22の底部に冷却され貯留された未反応デカリンをポンプP4を駆動させて排出管28を介して貯留分離タンク180に戻し、さらにデカリン供給を停止した後に発生した少量の水素ガスを貯留分離タンク180を経由して水素ガス貯蔵タンク16に貯蔵する。このとき、循環冷却器66は、加熱装置18内のシリコーンオイルが所定温度以下となったときに停止される。
【0119】
また、再生タンク186では、ヒータ194のオン/オフにより、触媒192の温度が所定温度になるように制御される。この所定温度は、150〜200℃の間の温度、好ましくは150℃近傍の温度を採用することができる。バルブV7を開いてポンプP8を駆動し、供給配管188を介してナフタレンと未反応デカリンとの混合液を再生タンク186に供給する。また、これと同時に、ガソリンスタンド等に設けられている水素ボンベまたは水の電気分解装置から得られる水素ガスを再生タンク186に供給し、所定温度に制御された触媒192上でナフタレン水素化反応を行ってデカリンを再生し、バルブV8を開いてポンプP9を駆動し、供給配管190を挿通して再生デカリンを貯留分離タンク180に回収する。このとき、再生タンク186内の水素ガスは、加圧または高圧にするのが好ましい。
【0120】
尚、簡易且つ速やかにナフタレンの水素化を行う場合には、水素ガスを加圧せずに、触媒温度を上記より低温にしてテトラリンを生成させ、それを貯留分離タンクに供給するようにしてもよい。
【0121】
上記では、再生タンク186を車両に搭載する例について説明したが、再生タンクをガソリンスタンド等に設置し、ガソリンスタンド等で水を電気分解して得られる水素を供給してデカリンを再生するようにしてもよい。
【0122】
上述した実施の形態では、水素生成用の燃料としてデカリンを用いた例を中心に説明したが、既述のデカリン以外の炭化水素系燃料を用いた場合においても同様である。また、水素使用装置についても、特に車載の水素エンジンを例に説明したが、本発明は水素エンジン以外の車載燃料電池などの水素使用装置に適用することもできる。
【0123】
また、上記実施の形態では、加熱媒体を加熱する熱源として水素エンジン等の水素使用装置の廃熱を利用する例を説明したが、デカリン等の有機ハイドライドやナフタレン等の脱水素生成物などの有機物を空気と混合して燃焼させたときの燃焼熱や取り出した水素の燃焼熱を熱源として構成することもできる。
【0124】
【発明の効果】
本発明によれば、小型、軽量化が可能で、単位容積当りの脱水素反応効率を高めて高純度水素ガスの生成量を向上させることできる水素ガス生成装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1の実施の形態を示す概略的構成図である。
【図2】第1の実施の形態における脱水素反応器の概略的断面図である。
【図3】図2のA−A’線断面図である。
【図4】図2のB−B’線断面図である。
【図5】第1の実施の形態にける噴射駆動部を示す概略図である。
【図6】本発明の第1の実施の形態の制御回路を示すブロック図である。
【図7】本発明の第1の実施の形態のメインルーチンを示す流れ図である。
【図8】本発明の第1の実施の形態における加熱装置の処理の手順を示す流れ図である。
【図9】本発明の第1の実施の形態をイグニッションスイッチオフで割り込まれる割り込みルーチンを示す流れ図である。
【図10】第2の実施の形態における反応タンクの概略的断面図である。
【図11】図10のEE’断面図である。
【図12】第2の実施の形態におけるプレートの一部を示す概略的断面図である。
【図13】第2の実施の形態における噴射装置を示す概略図である。
【図14】本発明の第3の実施の形態の一部を示す概略構成図である。
【符号の説明】
10,150 反応タンク
12 複室貯留タンク
14 分離タンク
16 水素ガス貯蔵タンク
18 加熱装置
20 水素使用装置
22,152 脱水素反応器
24 噴射駆動部
26,154a〜154c 噴射装置
34a〜34k,158a〜158c 反応室
36,160 触媒
38,162 ガス排出口
Claims (4)
- 炭化水素系燃料を脱水素反応させる触媒を内壁に備え且つ相互に連通された複数の反応室と前記脱水素反応によって生成した水素ガスを排出する排出口とを備えた脱水素反応器と、
前記複数の反応室の各々に前記炭化水素系燃料を噴射する噴射装置と、
を備えた水素ガス生成装置。 - 前記複数の反応室が、室の内壁となる側の面に前記触媒を備えた複数の仕切部材によって前記脱水素反応器の内部を仕切ることで形成された請求項1に記載の水素ガス生成装置。
- 厚み方向に貫通する貫通孔が穿設され且つ室の内壁となる側の面に炭化水素系燃料を脱水素反応させる触媒を備えた複数のプレートによって仕切られて形成された複数の反応室と、前記脱水素反応によって生成した水素ガスを排出する排出口と、を備えた脱水素反応器と、
前記プレートの貫通孔の各々を貫通して設けられ、且つ、前記複数の反応室の各々に対応した噴射孔を有し、前記複数の反応室の各々に前記炭化水素系燃料を噴射する噴射装置と、
を備えた水素ガス生成装置。 - 室の内壁となる側の面に炭化水素系燃料を脱水素反応させる触媒を備え前記炭化水素系燃料の流下方向に傾斜して設けられた複数のプレートによって仕切られて形成され且つ相互に連通された複数の反応室と、前記脱水素反応によって生成した水素ガスを排出する排出口と、を備えた脱水素反応器と、
前記反応室の各々に前記炭化水素系燃料を噴射する噴射装置と、
を備えた水素ガス生成装置。
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Cited By (1)
Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
---|---|---|---|---|
JP2006248814A (ja) * | 2005-03-09 | 2006-09-21 | Hitachi Ltd | 水素供給装置および水素供給方法 |
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2002
- 2002-11-18 JP JP2002333630A patent/JP2004168568A/ja active Pending
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Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
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JP2006248814A (ja) * | 2005-03-09 | 2006-09-21 | Hitachi Ltd | 水素供給装置および水素供給方法 |
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