JP2004091250A - ダイヤモンド薄膜の形成方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】これまで、レーザーアブレーション法によるダイヤモンド膜の結晶粒径は平均100nm位が限界であり、結晶粒径をそれ以上に大きくする方法や、大きさを任意に制御する方法が無かった。また、結晶成分の割合が少なく、膜表面の平坦性がなかった。
【構成要件】基板温度を400℃〜650℃の範囲とし、反応チャンバ内を実質的に酸素からなる雰囲気として成膜中のグラファイト成分であるsp2結合成分を酸素により選択的に除去することによりダイヤモンド膜を基板上に堆積する方法において、レーザーパルス毎の堆積粒子の過飽和状態が緩和されてしまう前に次のレーザーパルスの堆積粒子の過飽和状態が形成されるように、ターゲットに照射するレーザーの繰り返し周波数が0.1Hz〜50Hzの範囲において、繰り返し周波数の値とフルーエンス値の設定によって膜の平均結晶粒径を10nmから10μmの範囲内の所望の値にする。
【選択図】 図8

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、物理気相成長法の一つであるレーザーアブレーション法でダイヤモンド薄膜を形成する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
ダイヤモンドは、極めて硬く、耐摩耗性、優れた透光性、高い化学的安定性、などの特長を有することから、さまざまな産業分野への応用が期待されている。これらの優れた性質はsp3結合に起因する。ダイヤモンドは高温高圧相であり旧来の方法では形成困難であったが、近年プラズマCVD法などの化学気相成長法を用いて盛んに研究され、CVD法により比較的容易にダイヤモンド薄膜を形成できるようになった。その一方で、スパッタリング法やイオンビーム蒸着法などの物理気相成長法でも形成が試みられたが、うまくいかずほとんど研究されていないのが現状である。
【0003】
グラファイトをターゲットとしてレーザーアブレーション法によりエキシマレーザまたはYAGレーザを用いて1010W/cm程度のパワー密度でレーザー照射することによりダイヤモンド状カーボン(DLC)薄膜を形成する方法が知られている(特開平4−238897号公報)。また、このようなレーザーアブレーション法による高品質のDLC薄膜の形成方法において、レーザーエネルギー密度を成膜下限領域に保つ方法が知られている(特開平10−87395号公報)。
【0004】
レーザーアブレーション法を用いて、ダイヤモンドの微結晶を含むアモルファスカーボン薄膜が450℃付近の低い基板温度で得られることが1995年にM.C.Poloらによって報告された(M. C. Polo, J. Cifre, G. Sanchez, R. Aguiar, M. Varela and J. Esteve, Appl. Phys. Lett., Vol.67, pp.485−487 (1995))。レーザーアブレーション法でダイヤモンド膜を形成する方法では、結晶のサイズが非常に小さく、また結晶成分の含まれる割合が少なく、この点を改良するために堆積される被膜にX線を照射する方法(特開平11−135004号公報)や多価イオンビームを照射する方法(特開平11−130589号公報)が工夫されている。
【0005】
特開平11−246299号公報には、実質的に酸素からなるガス雰囲気中で、レーザーアブレーション法により基板温度を低減してダイヤモンド膜を合成する方法が開示されている。この方法により、雰囲気ガス中の酸素ガス圧は50乃至1000mTorr、基板温度は300〜600℃、ターゲットと基板との間の距離は10乃至100mmの間とし、レーザーのエネルギー密度をターゲット表面換算で1乃至10J/cmの範囲でエピタキシャル成長によるダイヤモンド膜を合成できたことが開示されている。また、サファイヤ、酸化マグネシウム、石英、又は白金を基板材料として用いて、その材料の単結晶((111)面又は(0001)面を基板として使用すると、粒界がない(111)単結晶ダイヤモンド膜を合成できることが記載されている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
ダイヤモンド薄膜の生成は、核発生と膜成長からなる。ダイヤモンド薄膜の研究はこれまでCVD法がほとんどであり、膜成長条件はすでに明らかにされ、現在はヘテロ成長を実現するために核発生条件が盛んに研究されている。
【0007】
物理気相成長法の中でレーザーアブレーション法は、近年、酸化物や化合物半導体などの様々な材料に適用され、高品質な膜が低温で得られることで注目を集めている。この形成法のユニークな特徴としては、▲1▼高エネルギー粒子付着であるために他の形成法に比べて低温成長が可能、▲2▼準安定相や非平衡相が生成しやすい、▲3▼高純度膜の作成が可能、▲4▼ターゲットからの組成ずれが少ない、▲5▼装置が単純、などが挙げられる。このうち、▲1▼、▲2▼、▲3▼の特徴はダイヤモンドの形成に極めて有効であると考えられるが、その試みはほとんどなされなかった。
【0008】
本発明者らは、これまでのレーザーアブレーション法の研究で、基板にダイヤモンドを用いて膜形成を行いホモ成長させることに成功し、成長条件を明らかにした。ダイヤモンドが成長する基板温度は400〜650℃と化学気相成長法に比べて150〜400℃低く、膜中に水素などの不純物が残留しないために、低温で、しかも高純度のダイヤモンド薄膜を形成できる利点がある。低温で成長できる結果、CVDに比べて、融点の低い基板材料にも膜堆積が可能となる。
【0009】
しかし、今までの生成膜は、ダイヤモンド結晶粒のサイズが平均100nm位が限界であり、結晶粒径をそれ以上に大きくする方法や、結晶粒径の大きさを任意に制御する方法が無かった。また、今までの方法で得られるものは、DLC中に島状で析出したダイヤモンド結晶粒であり、結晶成分の割合が少なかった。さらに、膜表面の平坦性がなく、凸凹面であった。
【0010】
将来、ダイヤモンド薄膜の半導体材料としての応用を考えた場合に、伝導電子は結晶粒の境界で散乱されるので、移動度を稼ぐためにできるだけ大きな結晶粒径の膜を形成する必要がある。また、結晶粒径が大きいほど透光性がよくなる。さらに、コーティング材としてのダイヤモンド薄膜の応用を考えた場合には、膜表面が平坦なほど摩擦係数は小さくなる。そこで、レーザーアブレーション法によるダイヤモンド薄膜の形成方法において、結晶粒径の更なる増大および膜表面の平坦性の改善が課題となっていた。
【0011】
また、レーザーアブレーション法を用いたダイヤモンド薄膜の形成では、雰囲気ガスに水素や酸素を用いて、グラファイト成分を選択的にエッチングしながらダイヤモンド成分のみを基板上に堆積していくことになるので堆積速度は非常に遅い。したがって、堆積速度のさらなる改善も望まれている。
【0012】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、上述の堆積される被膜にX線を照射する方法(特開平11−135004号公報)や多価イオンビームを照射する方法(特開平11−130589号公報)などのように、堆積される被膜に対する特別の手段を付加しないで、レーザーアブレーション法のレーザー照射条件により堆積したままの被膜の結晶粒径を数nmのナノオーダーから10μm程度の従来全く達成されていなかった大きさまで任意に制御できるとともに、極めて平滑なダイヤモンド膜を得ることができ、さらには、ダイヤモンド100%のダイヤモンド単相膜を成膜できることを見出した。
【0013】
すなわち、本発明は、(1)基板温度を400℃〜650℃の範囲とし、反応チャンバ内を実質的に酸素からなる雰囲気として成膜中のグラファイト成分であるsp2結合成分を酸素により選択的に除去することによりダイヤモンド薄膜を基板上に堆積する、ダイヤモンド薄膜のレーザーアブレーション法による形成方法において、
レーザーパルス毎の堆積粒子の過飽和状態が緩和されてしまう前に次のレーザーパルスの堆積粒子の過飽和状態が形成されるように、ターゲットに照射するレーザーの繰り返し周波数が0.1Hz〜50Hzの範囲において、繰り返し周波数の値とフルーエンス値の設定によって基板に堆積するダイヤモンド膜の平均結晶粒径を10nmから10μmの範囲内の所望の値にすることを特徴とするダイヤモンド薄膜のである。
【0014】
また、本発明は、(2)フルーエンスが4J/cm以上であることを特徴とする上記(1)記載のダイヤモンド薄膜の形成方法である。
また、本発明は、(3)堆積したダイヤモンド薄膜の平均結晶粒径が1μm以上であることを特徴とする上記(1)記載のダイヤモンド薄膜の形成方法である。また、本発明は、(4)触針法により測定したダイヤモンド薄膜の平均表面粗さが20nm以下であることを特徴とする上記(3)記載のダイヤモンド薄膜の形成方法である。
また、本発明は、(5)堆積したダイヤモンド薄膜が微結晶であることを特徴とする上記(1)記載のダイヤモンド薄膜の形成方法である。
また、本発明は、(6)膜堆積速度が50nm/min以上であることを特徴とする上記(1)ないし(5)のいずれかに記載のダイヤモンド薄膜の形成方法である。また、本発明は、(7)基板温度を550℃〜600℃の範囲とすることによりアモルファスカーボンやダイヤモンド状カーボン(DLC)を含まないダイヤモンド単相の膜を堆積することを特徴とする上記(1)ないし(6)のいずれかに記載のダイヤモンド薄膜の形成方法である。
【0015】
レーザーアブレーション法を用いた従来の報告では、ダイヤモンドの結晶粒径は高々100 nmの微結晶膜であったが、本発明の方法によれば、高フルーエンス、高周波数により1μmを超える結晶粒とすることができるので、従来の化学気相成長法(CVD)法と同じレベルを実現でき、例えば、フィールドエミッション材料(冷陰極)として優れた特性がもたらされ、多結晶半導体としては十分なキャリア移動度を期待できる。また、結晶粒径を変化させることで、透光性などの特性制御が可能となる。
【0016】
また、低周波数、低フルーエンスによりナノ微結晶膜、すなわち、100nm以下の微結晶膜を結晶粒径を制御して堆積させることで、シリコンやZnOと同様に光学バンドギャップの制御、発光現象などの新たな量子効果による新規物性を期待できる。
【0017】
さらに、50Hzでは10nmの平坦性を実現できており、ダイヤモンド膜としては極めて良好である。コーティング材として利用した場合には摩擦の小さい滑らかな表面を実現できる。また、コーティング材としては、母材と効率よく接触が得られるようになるため付着強度が増し、かつダイヤモンドの硬さをコーティング材として十分に発揮できる。
【0018】
【作用】
図1は、本発明者が見出したレーザーアブレーション法における特定のレーザー照射条件によるダイヤモンド膜の成長概念を説明する模式図である。図1の横軸方向は時間を示しており、パルス間隔時間t=1/(繰り返し周波数)となる。
図1の(a)に示すように、ターゲットにレーザーを照射した場合の最初のレーザーパルスを図の左側とし次のレーザーパルスを図の右側とする。図1の(a)において、縦軸方向は単位時間当たりのフルーエンスであるイラディエンス(W/cm)を示している。レーザーアブレーション法ではレーザーパルスごとに基板表面にダイヤモンド膜が成長していく。レーザーパルスの間隔は10Hzで100ms、50Hzでも20nsであり、用いられるレーザのパルス幅が約30nsのとき、図1の(b)に示すように、ダイヤモンドの結晶成長は実際に膜が堆積する1 ms以内に終了する。したがって、これまで、パルスごとの膜堆積は互いに独立であると考えられ、繰り返し周波数が膜成長に影響を及ぼすとは予想されていなかった。
【0019】
しかし、本発明者らは、レーザーアブレーション法でダイヤモンドが成長するメカニズムが、図1の(c)に示すように、基板表面のカーボン粒子が過飽和になることで高温高圧の状態が擬似的に実現されダイヤモンドが成長し、この過飽和状態が、予想に反して、パルス間隔のオーダーの長い時間にわたって次第に緩和されていくことを見出した。この現象に着目し、パルス間隔を短くして過飽和状態の緩和が完全に終了する前に次の膜堆積を行うことで、基板に堆積した粒子の活性化度を維持することが可能となる。
【0020】
繰り返し周波数を大きくした場合、堆積粒子の過飽和状態が消滅する前に次の過飽和状態が形成され、レーザーパルスごとの結晶成長プロセスにオーバーラップが生じることになり、基板表面に堆積される粒子が基板表面方向に高い移動性を有するようになる。その結果、膜面方向に結晶が成長し、オーバーラップの度合いが大きいほど結晶粒径が大きくなり。かつ表面凹凸は小さくなる。
一方、繰り返し周波数が小さい場合は、レーザーごとの膜堆積がほぼ独立となり基板到達粒子の表面移動距離が小さくなってしまう。その結果、島状に膜が成長してしまい、結晶粒子は大きくならず、表面荒さが大きくなる。
【0021】
過飽和に高エネルギーなカーボン粒子を基板に供給することが高温高圧を擬似的に実現する条件となり、堆積粒子の活性化度は照射レーザーエネルギー密度(フルーエンス)が大きいほど大きくなり、繰り返し周波数が一定の場合、上記のオーバーラップの度合いはより大きくない、結晶粒径が大きくなる。
【0022】
【発明の実施の形態】
本発明の方法は、上記の特開平11−246299号公報に開示されている方法と同様に、実質的に酸素からなるガス雰囲気下でグラファイト、アモルファスカーボン、又はダイヤモンドを含有するターゲットに対して、レーザーアブレーションを行って前記ターゲットから炭素を飛散させ、サファイヤ、酸化マグネシウム、石英、又は白金の単結晶からなる基板上にダイヤモンド膜を合成する方法である。
【0023】
図2は、本発明の方法で用いるダイヤモンド薄膜形成装置の一例を上から見た概略図である。反応チャンバ1の内部にレンズ2により集光したレーザー光3をターゲットホルダー4に設置したターゲット5に照射して、ターゲット5から発生する炭素粒子を基板ホルダー7に設置した基板8に付着させる。ターゲットホルダー4と基板ホルダー7はそれぞれ回転軸41,71で回転させる。反応チャンバ1内には雰囲気ガスである酸素ガスをパイプ9と開閉弁10を用いて供給する。
【0024】
上記特開平11−246299号公報の開示や本発明者らが今まで行ってきたDLC薄膜形成の研究で、雰囲気ガスに酸素を用いることによって、グラファイト成分、すなわちsp2結合成分を選択的に除去できることが分かっている。
この選択的なエッチング効果は、酸素がグラファイト成分すなわちsp2結合成分をsp3結合成分に比べて高い割合でエッチングすることにより実現される。酸素圧力を適切な値に設定すればsp3結合成分の高い割合の膜を基板に堆積可能である。
【0025】
この場合、反応チャンバ内の酸素圧力が10 Torr以上では、酸素のエッチング効果が強すぎてsp2結合、sp3結合成分ともにエッチングされてしまい膜は全く堆積しない。一方、10 Torr付近の酸素圧力では、酸素のグラファイト成分のエッチング効果が不十分のために、どの基板温度においてもダイヤモンドの生成に関わらずアモルファスカーボンが残留する。
【0026】
基板温度が400〜650℃の範囲で、アモルファスカーボンを出来るだけ残留させないためには、基板温度を550〜600℃とする必要があり、膜が堆積しなくなる直前の酸素圧力、例えば、ターゲットと基板間距離が20mmの場合には、酸素圧力5×10 Torr以上10 Torr未満にてダイヤモンド薄膜の形成を行う必要がある。この酸素圧力時の膜堆積速度は、約5〜10nm/minである。ダイヤモンド薄膜の成長はターゲット基板間距離約15〜30mmの範囲が好適であり、ターゲット基板間距離が大きくなれば、最適酸素圧力は低圧側に、堆積速度は小さくなる。
【0027】
基板温度が400℃では、黒色の膜が生成する。ラマンスペクトルで、図3(b)に示すように、GピークとDピークが観測されることから、典型的なアモルファスカーボンが生成していることが分かる。SEM観察では、図3(a)に示すように、1 μm以下の微結晶の析出がみられる。より高い温度で作製した膜の結果との整合性から、これらの微結晶はダイヤモンドと考えられる。
【0028】
基板温度が450℃では、図4(a)に示すように、アモルファスカーボン中に直径1μm〜10μmの粒が観測される。図4(b)に示す析出粒子の外側部分のラマンスペクトルと、図4(c)に示す析出粒子のラマンスペクトルの測定から、膜はGピークとDピークを示すことからアモルファスカーボン、粒は1332 cm−1に鋭いピークを示すことからダイヤモンドであることが分かる。
【0029】
基板温度が550℃では、図5(a)に示すように、生成膜は直径1μm〜2μm前後の正方形の結晶粒からなることが分かる。ラマンスペクトル測定からこれらの結晶粒は、図5(b)にに示すように、1332 cm−1にピークを示すことからダイヤモンドであることが分かる。結晶粒の膜上面から見たみた形がどれもほぼ正方形であることから、膜の深さ方向に(100)配向していると考えられる。したがって、ダイヤモンド(100)基板に対して深さ方向のみの一軸配向エピタキシャル成長膜になっていると思われる。
【0030】
基板温度が650℃になると、SEM写真では600℃の場合と明白な違いはみられないが、図6(b)に示す結晶粒境界付近のラマンスペクトルと、図6(c)に示す結晶粒中心部分のラマンスペクトルの測定から、図6(b)のラマンスペクトルにおいて、ダイヤモンド結晶粒間で、GピークとDピークがダイヤモンドのラマンピークに加えて観測されるようになることから、ダイヤモンド結晶粒の間に、アモルファスカーボンが生成し始めていることが分かる。
【0031】
上記のとおり、基板温度が400〜650℃の範囲で、ダイヤモンド膜を堆積できるが、基板温度を550〜600℃とすることによりアモルファスカーボンやDLCを含まない、ダイヤモンド単相の膜を成長できる。
【0032】
基板温度を400〜650℃の範囲として、繰り返し周波数が0.1Hz〜50Hzの範囲において、繰り返し周波数の値及びフルーエンス値と基板に堆積するダイヤモンド膜の平均結晶粒径との関係を予め知り得るので、その関係に基づいて平均結晶粒径を10nmから10μmの範囲内の所望の値にすることができる。なお、本明細書において、平均結晶粒径は走査型電子顕微鏡を用いた観察により測定した膜面方向の結晶粒径の平均値である。結晶粒径を大きくするには、レーザーパルスの繰り返し周波数を高めてパルス間の間隔を出来るだけ狭めることにより、過飽和状態を出来るだけ緩和させないようにするか、フルーエンスを高めることにより過飽和に粒子を供給すればよい。
【0033】
レーザーパルスの繰り返し周波数の増加に伴い、さらに、表面凹凸が大幅に改善される。すなわち、レーザーパルスの繰り返し周波数の増加に伴い、膜表面凹凸は小さくなる。繰り返し周波数が5Hz以下では40nm以上の表面凹凸が生じるが、50Hzでは15nmまで改善される。
【0034】
繰り返し周波数が0.1Hz未満の場合は、膜堆積速度が1nm/min以下と極めて小さくなり実用的ではない。一方、50Hz以上では、フルーエンスを4J/cm以上に設定することが困難となる。フルーエンス 4J/cm未満では膜が堆積せず、不適である。一方、30J/cm以上の高いフルーエンスは、レーザーへの負担が大きくなるので好ましくない。
【0035】
レーザーアブレーション法においては、(膜堆積速度)=(1パルスあたりの膜堆積量)×(レーザーパルスの繰り返し周波数)となるので、繰り返し周波数の増加により、膜堆積速度を50nm/min以上に高めることが出来る。この膜堆積速度はCVDの最高速度にほぼ匹敵する。
さらに、ターゲットから放出される粒子の量はフルーエンスにほぼ比例することから、フルーエンスの増加は膜堆積速度を改善する効果もある。
【0036】
【実施例】
以下に、レーザーパルスの繰り返し周波数とフルーエンスを変えた場合のダイヤモンドの結晶粒径および膜の平滑性を具体的実施例ににより説明する。
実施例1〜4
ArFエキシマレーザー(λ=193nm)を集光して入射角45°でターゲット表面に約2mmで照射し、25mm離れて対向するダイヤモンド(100)基板に膜形成を行った。膜形成前に基板をアセトンで超音波洗浄し、その後チャンバー内で400℃以上で約2時間のベーキングを行った。ターゲットにはグラファイト(99.99%)を用いた。チャンバー内は油拡散ポンプを用いて10 Torr以下まで排気し、酸素を流入することで70mTorrの圧力下で膜形成を行った。
【0037】
基板温度は550℃、レーザーエネルギー出力200mJ、フルーエンスは5J/cmとした。各実施例において繰り返し周波数のみを異なるものとし、他は同じ条件とした。実施例1は5Hz、実施例2は10Hz、実施例3は20Hz、実施例4は50Hzとし、他の条件は同じとした。
【0038】
図7(a)〜(d)に、それぞれ各実施例で形成したダイヤモンド薄膜のSEM写真を示す。レーザーパルスの繰り返し周波数を変化させることで、生成するダイヤモンド結晶の直径が大幅に変化した。50Hzで形成した膜のダイヤモンドの結晶粒径は、明らかに5Hzの場合に比べて大きくなっていることが分かる。
【0039】
図8に、SEM写真から見積もったダイヤモンドの結晶粒径の繰り返し周波数に対する変化を示す。繰り返し周波数の増加とともに生成するダイヤモンドの結晶粒径は大きくなることが分かる。
【0040】
表面粗さ計(触針式表面形状測定器 Dektak 8(日本真空))により、繰り返し周波数に対する表面凹凸の変化を調べた。図9は、レーザーパルスの繰り返し周波数を変えたときの表面粗さの変化である。繰り返し周波数の増加に伴い、5Hzの場合45nmだった表面凹凸が、50Hzでは15nmと大幅に改善されることが分かった。
【0041】
実施例5〜9
各実施例においてフルーエンスのみを異なるものとし、他は実施例2と同じ条件とした。フルーエンスはレーザーパルスのエネルギー出力を50mJから500mJと変化させて、実施例5は5J/cm、実施例6は10J/cm、実施例7は15J/cm、実施例8は20J/cm、実施例9は25J/cmとした。
【0042】
生成膜の膜表面を走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて、膜構造をラマン分光測定装置を用いて調べた。図10に、各実施例のダイヤモンド結晶の粒径の変化を示す。フルーエンスの増加とともにダイヤモンドの結晶粒径は増加することが分かる。
【0043】
【発明の効果】
本発明の方法によれば、堆積される被膜に対する特別の手段を付加しないで、レーザーアブレーション法のレーザー照射条件により堆積したままの被膜の結晶粒径を数nmのナノオーダーから10μm程度の従来全く達成されていなかった大きさまで任意に制御できるとともに、極めて平滑なダイヤモンド膜を得ることができ、さらには、ダイヤモンド100%のダイヤモンド単相膜を成膜できる。
特に、レーザーパルスの繰り返し周波数を高めることで、ダイヤモンドの成長のための堆積粒子の過飽和状態の緩和を抑制でき、その結果大きなダイヤモンド結晶粒からなり、かつ表面凹凸の少ないダイヤモンド薄膜を成長可能である。
また、フルーエンスを高めることで堆積粒子の高い過飽和状態を実現し、大きな結晶粒径を持つダイヤモンドを成長することが出来る。
さらに、ダイヤモンド薄膜成長の課題となっている膜堆積速度を、レーザーパルスの繰り返し周波数とフルーエンスを高めることで、大幅に増加させることが出来る。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、本発明者が見出したレーザーアブレーション法によるダイヤモンド膜の成長概念を説明する模式図である。
【図2】図2は、本発明の方法を実施するためのダイヤモンド薄膜形成装置の概略図である。
【図3】図3は、酸素圧力50mTorr、基板温度400℃で成長したアモルファスカーボン薄膜のSEM像を示す図面代用写真(a)と、ラマンスペクトルを示すグラフ(b)である。
【図4】図4は、 酸素圧力50mTorr、基板温度450℃で成長したダイヤモンドとアモルファスカーボン混相膜のSEM像を示す図面代用写真(a)と、析出粒子の外側部分のラマンスペクトルを示すグラフ(b)、析出粒子のラマンスペクトルを示すグラフ(c)である。
【図5】図5は、 酸素圧力50mTorr、基板温度550℃で成長したダイヤモンド薄膜の(a)SEM像を示す図面代用写真(a)と、(b)ラマンスペクトルを示すグラフ(b)である。
【図6】図6は、酸素圧力50mTorr、基板温度650℃で成長したダイヤモンド薄膜の(a)SEM像を示す図面代用写真(a)と、結晶粒境界付近のラマンスペクトルを示すグラフ(b)、結晶粒中心部分のラマンスペクトルを示すグラフ(c)である。
【図7】図7(a)〜(d)は、それぞれ実施例1〜4で形成したダイヤモンド薄膜のSEM像を示す図面代用写真である。
【図8】図8は、実施例1〜4で形成したダイヤモンド薄膜の平均結晶粒径を示すグラフである。
【図9】図9は、実施例1〜4で形成したダイヤモンド薄膜の表面粗さを示すグラフである。
【図10】図10は、実施例5〜9で形成したダイヤモンド薄膜の平均結晶粒径を示すグラフである。

Claims (7)

  1. 基板温度を400℃〜650℃の範囲とし、反応チャンバ内を実質的に酸素からなる雰囲気として成膜中のグラファイト成分であるsp2結合成分を酸素により選択的に除去することによりダイヤモンド薄膜を基板上に堆積する、ダイヤモンド薄膜のレーザーアブレーション法による形成方法において、
    レーザーパルス毎の堆積粒子の過飽和状態が緩和されてしまう前に次のレーザーパルスの堆積粒子の過飽和状態が形成されるように、ターゲットに照射するレーザーの繰り返し周波数が0.1Hz〜50Hzの範囲において、繰り返し周波数の値とフルーエンス値の設定によって基板に堆積するダイヤモンド膜の平均結晶粒径を10nmから10μmの範囲内の所望の値にすることを特徴とするダイヤモンド薄膜の形成方法。
  2. フルーエンスが4J/cm以上であることを特徴とする請求項1記載のダイヤモンド薄膜の形成方法。
  3. 堆積したダイヤモンド薄膜の平均結晶粒径が1μm以上であることを特徴とする請求項1記載のダイヤモンド薄膜の形成方法。
  4. 触針法により測定したダイヤモンド薄膜の平均表面粗さが20nm以下であることを特徴とする請求項3記載のダイヤモンド薄膜の形成方法。
  5. 堆積したダイヤモンド薄膜が微結晶であることを特徴とする請求項1記載のダイヤモンド薄膜の形成方法。
  6. 膜堆積速度が50nm/min以上であることを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載のダイヤモンド薄膜の形成方法。
  7. 基板温度を550℃〜600℃の範囲とすることによりアモルファスカーボンやダイヤモンド状カーボン(DLC)を含まないダイヤモンド単相の膜を堆積することを特徴とする請求項1ないし6のいずれかに記載のダイヤモンド薄膜の形成方法。
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