JP2004352537A - 単結晶ダイヤモンド薄膜成長用基板及びその製造方法 - Google Patents

単結晶ダイヤモンド薄膜成長用基板及びその製造方法 Download PDF

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昭義 茶谷原
Naoharu Fujimori
直治 藤森
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Abstract

【課題】本発明は、半導体素子材料等の用途として実用的な、欠陥の少ない単結晶のダイヤモンド薄膜を形成しうる基板及びその製造方法を提供する。さらに、該基板に単結晶のダイヤモンド薄膜を形成する方法をも提供する。
【解決手段】高温に保持した単結晶基板に、適度なイオン電流密度にて炭素イオンをイオン注入することを特徴とする、該単結晶基板におけるイオン注入部位の表面及び/又は表面近傍に、該単結晶基板の結晶とエピタキシャル関係にあるダイヤモンド結晶粒子の層を有する単結晶ダイヤモンド薄膜成長用基板の製造方法等に関する。
【選択図】 なし

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、単結晶ダイヤモンド薄膜成長用基板の製造方法、及び基板を用いた単結晶ダイヤモンド薄膜の形成方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
ダイヤモンドの合成方法には、高温高圧を用いる方法と低圧気相中での合成方法があり、工具等の薄膜状ダイヤモンドのコーティングは、後者の方法で行われている。この低圧合成方法として代表的なものは、熱フィラメント化学気相蒸着(CVD)法、高周波プラズマCVD法、マイクロ波プラズマCVD法などがある。いずれの低圧合成法においても、ダイヤモンド薄膜を成長させるための下地として基板を必要とする。
【0003】
この下地としてダイヤモンド単結晶基板を用い、適当な条件下で成長を行うとダイヤモンドのエピタキシャル成長が可能である。これに対して、下地としてダイヤモンド以外の適当な材料を使用すると、その上に成長するダイヤモンド薄膜は多結晶となる。工具などへのコーティングについては、高硬度などダイヤモンドの機械的な性質を利用するため多結晶でよく、既に実用に供されている。
【0004】
一方、ダイヤモンドは半導体としての優れた材料特性を有しており、ダイヤモンド半導体素子の開発が盛んに行われている。半導体素子材料は、一般に単結晶を使用した方が優れていることから、ダイヤモンド半導体開発においても単結晶のダイヤモンド薄膜が強く望まれている。現在、ダイヤモンド単結晶を基板とし、その上にエピタキシャル成長させたダイヤモンド薄膜が、優れた半導体特性を示すことが明らかとなっている。
【0005】
しかし、半導体素子を製造するためには、ある程度以上の大きさを持つ基板が必要であるため、高価な天然の大型単結晶ダイヤモンドを基板に用いることは極めて非経済的であり、また、人工ダイヤモンドを基板に用いた場合は、最大径8mm程度の大きさが実用上の限界であるため基板に適さないという問題がある。そのため、比較的入手が容易で、かつ単結晶のダイヤモンド薄膜を製造し得る基板が望まれており、商業ベースの半導体素子を実現させるための新たな基板開発が急務となっている。
【0006】
ダイヤモンド低圧合成の研究当初は、入手が容易なシリコンウェハーを基板として用いた成長実験が盛んに行われたが、結果として平坦なシリコンウェハー上にはほとんどダイヤモンドは成長せず、ダイヤモンド微粒子からなる研磨材で処理したシリコンウェハー上にのみ成長することが示された。この現象はシリコンウェハー上に残留した研磨用のダイヤモンド微粒子が種結晶となり、ダイヤモンドが成長するという見方が一般的である。
【0007】
その後、研磨処理に代わるシリコンウェハーの処理方法が考案された。これは、プラズマを用いるダイヤモンド低圧合成プロセスの初期に、基板であるシリコンウェハーに負のバイアス電圧を印加し、プラズマ中に存在する炭素イオンなどを基板表面に照射する方法である(非特許文献1)。この方法を用いると、単位面積当たりのダイヤモンド核発生率は研磨処理に比べて各段に増加し、連続膜を形成することが可能になったが、依然、多結晶のダイヤモンド薄膜であるため、単結晶膜を製造するという要請には必ずしも応え得るものではない。
【0008】
さらに、シリコンに代わって、単結晶プラチナまたは単結晶イリジウムなどを基板として用いると単結晶ダイヤモンド薄膜が成長することが見出された。これらの高融点金属を基板として用いる場合もシリコンウェハー同様、研磨処理または負のバイアス電圧を印加して核発生密度を増加させる処理が行われている。
【0009】
核発生密度を増加させるため基板に負のバイアス電圧を印加する代わりに、炭素イオン注入を利用する方法が報告されている。例えば、特許文献1には、シリコン基板上にイオン注入して炭化ケイ素(SiC)などの炭化物を中間層として形成し、その上にバイアス印加により核生成サイトを増加させ、その上にダイヤモンドをヘテロエピタキシャル成長させる方法が記載されている。また、例えば、特許文献2には、基板の表面に炭素をイオン注入し表面が炭素含有層の基板を得て、これに熱処理を施してダイヤモンド構造の炭素を析出させ、CVD法でダイヤモンドをエピタキシャル成長させる方法が記載されている。しかし、これらの方法は、イオン注入によりダイヤモンド結晶核を発生させるものではなく、また核発生密度が必ずしも高くないためダイヤモンド薄膜形成時に薄膜中に粒界が発生し、所望の単結晶のダイヤモンド薄膜を形成し難い。
【0010】
上述のように、半導体素子材料等の用途として実用的なダイヤモンド単結晶薄膜を製造するためには、大型化が可能な基板であり、かつ、半導体素子材料として欠陥の少ない単結晶のダイヤモンド薄膜を形成しうる基板が望まれている。
【0011】
【特許文献1】
特開平9−20591号公報
【0012】
【特許文献2】
特開平5−279185号公報
【0013】
【非特許文献1】
S. Yugoら, Appl. Phys. Lett., 58, p.1036 (1991)
【0014】
【発明が解決しようとする課題】
すなわち、本発明は、半導体素子材料等の用途として実用的な、欠陥の少ない単結晶のダイヤモンド薄膜を形成しうる基板及びその製造方法を提供することを目的とする。さらに、該基板に単結晶のダイヤモンド薄膜を形成する方法をも提供することを目的とする。
【0015】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、上記の課題を解決するために鋭意研究を行った結果、高温に保持した単結晶基板に適度なイオン電流密度にて炭素をイオン注入することにより、ダイヤモンド結晶粒子を基板のイオン注入部位全面に導入することができ、該基板をCVD法で処理することにより優れた特性を有する単結晶ダイヤモンド薄膜基板を製造し得ることを見出し、これをさらに発展させて本発明を完成するに至った。
【0016】
すなわち、本発明は、下記に示す、ダイヤモンドのヘテロエピタキシャル成長が可能な基板を提供する方法等に関する。
項1 高温に保持した単結晶基板に、適度なイオン電流密度にて炭素イオンをイオン注入することを特徴とする、該単結晶基板におけるイオン注入部位の表面及び/又は表面近傍に、該単結晶基板の結晶とエピタキシャル関係にあるダイヤモンド結晶微粒子の層を有するダイヤモンド薄膜成長用基板の製造方法。
項2 単結晶基板が炭化ケイ素基板である項1に記載の製造方法。
項3 項1又は2に記載の製造方法により得られるダイヤモンド薄膜成長用基板。
項4 高温に保持した単結晶基板に、適度なイオン電流密度にて炭素イオンをイオン注入して単結晶基板上にダイヤモンド結晶微粒子の層を形成し、化学気相蒸着(CVD)法により該微粒子からダイヤモンド結晶をヘテロエピタキシャル成長させることを特徴とする単結晶ダイヤモンド薄膜の形成方法。
項5 項3に記載のダイヤモンド薄膜成長用基板又は該基板を研磨した後の基板に、化学気相蒸着(CVD)法によりダイヤモンドをヘテロエピタキシャル成長させることを特徴とする単結晶ダイヤモンド薄膜の形成方法。
項6 項3に記載のダイヤモンド薄膜成長用基板又は該基板を研磨した後の基板に、化学気相蒸着(CVD)法によりダイヤモンドをヘテロエピタキシャル成長させて製造される単結晶ダイヤモンド薄膜を有する基板。
【0017】
【発明の実施の形態】
単結晶ダイヤモンド薄膜成長用基板
ダイヤモンド薄膜成長用基板で用いる基板の材質としては、例えば、シリコン(Si)、炭化ケイ素(SiC)等のシリコン系材料、単結晶プラチナ(Pt)、単結晶イリジウム(Ir)等が挙げられるが、炭化ケイ素が最もダイヤモンド単結晶薄膜の形成に有利である。これは、炭化ケイ素がもともと炭素を含んでいることから、過剰や過小な炭素の状況に置くことができる(すなわち、炭化ケイ素はイオン注入する炭素との親和性が高く注入する炭素イオンの量を広範囲に設定できる)ために、イオン注入中の炭素原子の結晶構造を乱さずにその結晶方位を回りのSiCの結晶方位に揃えることが出来ると考えられるからである。特に3C−SiCと6H−SiCで表される2つの結晶構造の炭化ケイ素は、ダイヤモンドを成長させるためには有利な結晶と考えられる。
【0018】
また、基板は、半導体素子作製に有利な平坦なダイヤモンド薄膜を形成するために、鏡面研磨されたものが好ましく、特に3C−SiCまたは6H−SiCなど鏡面研磨された単結晶炭化ケイ素基板が好適である。
【0019】
ここで、イオン注入とは、注入する炭素イオンを電場で加速し、その運動エネルギーで固体基板の表面に深さ数nm〜数μm程度にイオンを打ち込む方法である。イオン注入は、半導体へのドーピング等に用いられている一般的な装置又はプラズマイオン注入装置を用いて行うことができる。そして、これらのイオン注入装置によれば、基板となる材料の結晶形態を変化させることなくダイヤモンド結晶を埋め込むことが可能である。なお、イオン種としては、12Cが好ましい。
【0020】
また、炭素イオンを基板に注入し炭素をダイヤモンド結晶にするためには、イオン注入温度(単結晶基板の温度)を高温とすることが必要である。このイオン注入温度は、基板の種類によって大きく異なるが、概ね800〜1500℃程度、好ましくは、900〜1100℃程度である。これは、高温でイオン注入すると熱振動により原子拡散が助長され結晶が成長しやすくなるとともに、注入されたイオンの極近傍に瞬間的に高圧状態となり、基板材料中にダイヤモンド結晶が生成されるからである。例えば、基板として炭化ケイ素を用いた場合、イオン注入温度は、通常、800〜1300℃程度であり、この範囲で高温ほど好ましい。より好ましくは、1000〜1200℃程度である。
【0021】
また、イオン注入には、適度なイオン電流密度で行う必要である。具体的には、10μA/cm程度以下、好ましくは、0.001〜1μA/cm程度の低電流であるほど好ましい。通常、注入された炭素は、熱による移動を伴って周囲の結晶構造の影響を受けてダイヤモンドとして成長していく。しかし、高い電流密度で炭素イオン注入すると、注入された炭素がダイヤモンドとして成長している最中に、別の炭素原子がその場所に供給される確率が増加する。その結果としてイオン注入による結晶構造の破壊効果のほうが優位になって結晶が成長できなくなってしまう。イオン注入時に結晶化できなかった炭素はたとえ熱により結晶化しても、まわりの結晶構造の影響を受けずに結晶化していまい安定なグラファイト構造になってしまう。従って、注入した炭素原子がダイヤモンドとして結晶化した後に、別の炭素原子が供給される必要があるので、イオン注入電流は10μA/cm程度以下であることが要求される。高温ほど注入された炭素原子は移動しやすく、はやく結晶成長するので、イオン注入時の温度が高いほどこの閾値は大電流側に移行するものと考えられる。そのため、イオン電流密度を高くする場合はイオン注入温度を高くする必要がある。
【0022】
また、イオン注入は、通常真空中又は減圧下適切なガスの中で実施される。イオン注入時の圧力は、例えば、1×10−10Pa〜1×10−2Pa程度、ガスとしては例えば、メタン等が挙げられる。
【0023】
イオン注入のイオンエネルギーは、通常、1〜1000keV程度、好ましくは、1〜10keV程度で基板に注入される。イオン注入量(濃度)は、通常、1014〜1022イオン/cm程度、好ましくは、1×1018〜1×1019イオン/cm程度である。イオンエネルギーを、上記の範囲とするのは、ダイヤモンド結晶微粒子(或いは、「ダイヤモンド結晶核」とも呼ぶ)を基板表面或いは表面近傍に形成するためである。イオン注入量はダイヤモンド結晶微粒子の生成量に直接影響し、1×1019イオン/cm程度はダイヤモンド結晶微粒子が層状となるので適当である。
【0024】
以上のようにしてイオン注入で基板の炭化ケイ素結晶中にその結晶方位を同じにしたダイヤモンド結晶微粒子が生成される。ダイヤモンド結晶微粒子の生成は、高速反射電子線回折(RHEED)により確認される。そのダイヤモンド結晶微粒子径は、数nm〜数10nm程度の大きさまで成長する。この微結晶は、イオンの加速エネルギーによって基板表面から10nm〜10000nmの深さの範囲で、微粒子が層状に形成される。具体的には、炭素イオン注入のイオンエネルギーが、10keV未満の場合は、ダイヤモンド結晶微粒子は基板の表面付近に形成され、50〜1000keV程度の場合は、ダイヤモンド結晶微粒子は基板の表面から深さ100nm〜1000nm程度の位置に層状に形成される。
【0025】
イオン注入温度は、上述のように900℃から1100℃の間、特に高いほうが望ましい。ある限界温度以下でのイオン注入では生成する微粒子はグラファイト構造となり、ダイヤモンド成長用基板としては適さない。この限界温度とは、上述のイオン電流密度の閾値と同じ理由で、イオン電流密度を決めた場合にダイヤモンド結晶形成に必要な最低温度のことを意味する。つまり、この限界温度は、イオンビームの電流密度に依存しており、大電流(高ドーズレート)にするほど、ダイヤモンド形成には高温が必要となる。注入電流密度が10μA/cm程度の場合、この限界温度は室温から1000℃の間の値をとる。
【0026】
この様にして得られた表面近傍にダイヤモンド結晶微粒子を有する基板では、その表面に直接ダイヤモンド結晶をエピタキシャル成長させることが出来る。一方で、表面から1000nm以上の深さにダイヤモンド結晶微粒子を有する基板では、表層部分を研磨などの方法で削除して、ダイヤモンド結晶微粒子が表面に現れるようにし、この上にダイヤモンド結晶をエピタキシャル成長させることが出来る。
【0027】
単結晶ダイヤモンド薄膜の形成方法
上記のようにして得られる本発明のダイヤモンド薄膜成長用基板の表面に、ダイヤモンド薄膜を成長させる方法は様々な方法があるが、例えば、ダイヤモンド薄膜の成長には、一般的な化学気相蒸着(CVD)法を用いることができる。例えば、マイクロ波プラズマCVD法、熱フィラメントCVD法、高周波プラズマCVD法、電子支援熱フィラメントCVD法、直流プラズマCVD法、アーク放電プラズマCVD法、プラズマジェット法、燃焼法、熱プラズマ法、レーザアブレーション法等の公知の方法が挙げられる。これらのいずれの方法においても、基板と結晶方位が同じダイヤモンド微結晶を成長させることが出来る。
【0028】
具体的には、例えば、図2に示すように、基板表面のほぼ全面を覆うようにダイヤモンド結晶核が均一に分布している場合、即ち、基板表面の被覆率が高い(高密度)場合については、それぞれの結晶核からダイヤモンド結晶が同じ結晶配向で成長(エピタキシャル成長)し、結晶が成長するに従い各成長結晶同士でコアレッセンスが生じて、最終的に単結晶のダイヤモンド薄膜が形成される。従って、本発明によれば、極めて大面積にわたるダイヤモンド単結晶を得ることが出来る。しかも、基板上に形成される単結晶ダイヤモンド薄膜の表面は、高い平滑性を有している。
【0029】
なお、本明細書において、「単結晶」とは、1つの結晶径が10〜100ミクロン以上の結晶を意味し、半導体素子材料として好適な薄膜を形成し得る程度の結晶であればよい。これに対し、多結晶は、その結晶粒界において電子または正孔が再結合してしまったり、結晶粒界を伝って単なる抵抗体のように電流が流れて、半導体としての性質を示さず素子を作製できない。または作製できたとしても、リーク電流の著しく多く、電子または正孔の移動度の低い素子になるため半導体素子材料としては適さない。
【0030】
上述したイオン注入方法及びダイヤモンド薄膜の製造方法の具体例を、図1及び図2を用いて詳細に説明する。
【0031】
基板として3C−SiCまたは6H−SiCなど鏡面研磨された単結晶炭化ケイ素基板を用意する。基板を通常の方法で清浄化した後、真空排気した真空槽の中で炭素イオンビームを照射することによってイオン注入を行う。イオン注入を行うとき基板は加熱試料台に圧接する等して900℃から1100℃に加熱しておく。イオン注入は半導体へのドーピングに用いられている一般的な装置またはプラズマイオン注入装置を用いて行うことができる。図1に示すように1×1018イオン/cmの炭素イオン注入によって、10keV以下のイオンエネルギーでは炭化ケイ素基板の表面に、それ以上の高イオンエネルギーでは炭化ケイ素基板の表面付近にダイヤモンド結晶微粒子が生成する。生成した微粒子は基板の炭化ケイ素とエピタキシャル関係にある。高イオンエネルギーでイオン注入した場合は、化学的エッチングまたは研磨によって表面に残留する炭化ケイ素を除去して、注入で生成したダイヤモンド微粒子を表面に露出させる。
【0032】
この点、従来のイオン注入は、結晶核を生成するための「起点(下地)」を形成するために用いられており、イオン注入に続いて別途、バイアス印加(特許文献1)、熱処理(特許文献2)等の核生成プロセスが必要である。したがって、従来技術ではイオン注入後の基板表面はダイヤモンド結晶微粒子で覆われていない点で、本発明とは明確に相違する。
【0033】
本発明では、イオン注入後又はイオン注入後のイオン通過層の除去後において、基板表面はダイヤモンド結晶微粒子で覆われている。イオン注入で作製したダイヤモンド結晶微粒子の基板における発生密度は、例えば、図2のように高密度のものが好ましい。ただし、このダイヤモンド結晶微粒子による基板被覆率は、イオン注入量によって変化させることはできる。したがって本件のイオン注入によって作製した基板はそのままダイヤモンド薄膜成長用基板として用いることができる。
【0034】
このように作製した基板を、ダイヤモンド薄膜成長用基板として用い、その上にダイヤモンド薄膜を成長させる。上記のダイヤモンド結晶核を基点にして単結晶のダイヤモンド連続膜が形成される。炭化ケイ素中に生成したダイヤモンド結晶微粒子は基板の単結晶炭化ケイ素とエピタキシャル関係にあるので、ダイヤモンド結晶微粒子を種結晶として成長したダイヤモンド薄膜も基板に対してヘテロエピタキシャル関係にある。ダイヤモンド薄膜の成長には、一般的なマイクロ波CVD法、熱フィラメント法などを用いることができる。
【0035】
【実施例】
次に、実施例をあげて本発明をさらに詳細に説明する。但し、本発明は、その要旨を逸脱しない限り以下の実施例に限定されるものではない。
【0036】
実施例1
イオン注入装置において、イオン注入槽の加熱試料台に単結晶SiC基板を固定し、真空排気後、エネルギー30keV、電流8μA、炭素イオンビームを加熱試料台上の単結晶基板に照射した。注入面積は4cmであった。注入中の基板温度は試料台に埋め込まれた熱電対にて測定し、1000℃であった。注入電流から注入時間22.5時間にて注入量は1×1018イオン/cmと見積もられる。注入した基板は注入後、試料台加熱を停止することによって冷却され室温近くまで冷却したのち取り出した。
【0037】
基板表面に生成したダイヤモンド微粒子の結晶性や結晶方位を確認するため、高速反射電子線回折RHEED((株)エイコー・エンジニアリング社製)を用いて加速電圧20kV、電子電流50μAの条件で評価を行った。基板である単結晶SiCの回折スポットのともにダイヤモンド微粒子からの回折スポットが観察できる。これらの回折パターンからSiC基板と生成したダイヤモンド微粒子はエピタキシャル関係にあることが分かる。
【0038】
イオン注入で作製した基板を用いて、その上にダイヤモンド成長を試み、作製した基板がヘテロエピタキシャル成長用として使用できることを確認した。図2に使用した一般的なダイヤモンド成長の概略図を示す。成長条件は、ガス:水素ガス希釈のメタンガス0.5%、流量100SCCM、圧力40Pa、基板温度930℃、マイクロ波電力300W、成長時間70時間であった。形成したダイヤモンド薄膜は厚さ25μm、成長速度は0.35μm/hrである。ダイヤモンド薄膜のRHEEDにより観察したところ、ダイヤモンドと3C−SiCの回折スポットが確認された。従って成長したダイヤモンド薄膜は単結晶であり、しかも3C−SiCとエピタキシャル関係にあることが分かった。
【0039】
【発明の効果】
本発明によれば、現状で2インチ径以上が入手できる単結晶炭化ケイ素を基板として電子素子用のダイヤモンド単結晶薄膜を作製できる。
【0040】
本発明において、大面積ダイヤモンド単結晶薄膜を作製できるので、ダイヤモンド半導体素子の製造が現実のものとなり、ダイヤモンドを材料とする大電力・高周波電子素子、高温半導体素子、耐環境電子素子の製造が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】イオン注入による単結晶ダイヤモンド薄膜成長用基板の作製図である。
【図2】結晶核発生基板上における単結晶ダイヤモンド薄膜成長の過程を示す図である。

Claims (6)

  1. 高温に保持した単結晶基板に、適度なイオン電流密度にて炭素イオンをイオン注入することを特徴とする、該単結晶基板におけるイオン注入部位の表面及び/又は表面近傍に、該単結晶基板の結晶とエピタキシャル関係にあるダイヤモンド結晶微粒子の層を有する単結晶ダイヤモンド薄膜成長用基板の製造方法。
  2. 単結晶基板が炭化ケイ素基板である請求項1に記載の製造方法。
  3. 請求項1又は2に記載の製造方法により得られる単結晶ダイヤモンド薄膜成長用基板。
  4. 高温に保持した単結晶基板に、適度なイオン電流密度にて炭素イオンをイオン注入して単結晶基板上にダイヤモンド結晶微粒子の層を形成し、化学気相蒸着(CVD)法により該微粒子からダイヤモンド結晶をヘテロエピタキシャル成長させることを特徴とする単結晶ダイヤモンド薄膜の形成方法。
  5. 請求項3に記載の単結晶ダイヤモンド薄膜成長用基板又は該基板を研磨した後の基板に、化学気相蒸着(CVD)法によりダイヤモンドをヘテロエピタキシャル成長させることを特徴とする単結晶ダイヤモンド薄膜の形成方法。
  6. 請求項3に記載の単結晶ダイヤモンド薄膜成長用基板又は該基板を研磨した後の基板に、化学気相蒸着(CVD)法によりダイヤモンドをヘテロエピタキシャル成長させて製造される単結晶ダイヤモンド薄膜を有する基板。
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