JP2004076146A - 被膜密着性に優れた方向性電磁鋼板およびその製造方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】C:0.0050%以下、Si:2.0 〜8.0 %およびMn:0.005 〜3.0 %を含み、かつAl≦100 ppm 、N≦50 ppm、S≦50 ppm、Se≦50 ppmに抑制した組成になるフォルステライト被膜付き方向性電磁鋼板であって、鋼板の表面から板厚中心にわたる成分分析において、SrおよびMgの濃度変化がピークを呈し、表面から上記SrおよびMgのピーク位置までの距離をそれぞれt(Sr), t(Mg)としたとき、これらがt(Sr)≧t(Mg)の関係を満足するように調整する。
【選択図】 図1
Description
【発明の属する技術分野】
この発明は、変圧器その他の電気機器の鉄心などに用いて好適な、被膜密着性に優れた方向性電磁鋼板およびその製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
方向性電磁鋼板の製造に際しては、インヒビターと呼ばれる析出物を使用して、最終仕上焼鈍中にゴス方位粒と呼ばれる{110}<001>方位粒を優先的に二次再結晶させることが、一般的な技術として使用されている。
例えば、インヒビターとしてAlN、MnSを使用する方法(特許文献1参照)やインヒビターとしてMnS,MnSeを使用する方法(特許文献2参照)については、すでに工業的に実用化されている。
その他、インヒビターとしてCuSeとBNを添加する技術(特許文献3参照)やTi,Zr,Vの窒化物を使用する方法(特許文献4参照)も知られている。
【0003】
これらのインヒビターを用いる方法は、安定して二次再結晶粒を発達させるのに有用な方法であるが、析出物を微細に分散させなければならないので、熱延前のスラブ加熱を1300℃以上の高温で行うことが必要とされる。
しかしながら、スラブの高温加熱は、加熱を実現する上で設備コストが嵩むだけでなく、熱延時に生成するスケール量も増大するため歩留りが低下し、また設備のメンテナンスが煩雑になる等の問題がある。
【0004】
一方、インヒビターを使用しないで方向性電磁鋼板を製造する方法も種々提案されている。これらの技術に共通していることは、表面エネルギーを駆動力として{110}面を優先的に成長させることを意図していることである。
表面エネルギー差を有効に利用するためには、表面の寄与を大きくするために板厚を薄くすることが必然的に要求される。
例えば、鋼板の板厚を0.2mm 以下に抑制する技術(特許文献5参照)や板厚を0.15mm以下に制限する技術(特許文献6参照)が知られている。
しかしながら、現在使用されている方向性電磁鋼板の板厚は0.20mm以上がほとんどであるため、上記したような表面エネルギーを利用する方法で通常の方向性電磁鋼板を製造することは難しい。
【0005】
また、表面エネルギーを使用するためには、表面酸化物の生成を抑制した状態で高温の最終仕上焼鈍を行わなければならない。
例えば、1180℃以上の温度で、雰囲気として、真空中または不活性ガスまたは水素ガスまたは水素ガスと窒素ガスの混合ガスを用いて焼鈍する方法が提案されている(特許文献5参照)。
また、 950〜1100℃の温度で、不活性ガス雰囲気または水素ガス雰囲気または水素ガスと不活性ガスの混合雰囲気中で焼鈍を行い、特にかような焼鈍を減圧下で行うことを推奨している技術もある(特許文献6参照)。
その他、1000〜1300℃の温度で、酸素分圧が0.5 Pa以下の非酸化性雰囲気または真空中にて最終仕上焼鈍を行う技術も提案されている(特許文献7参照)。
【0006】
このように、表面エネルギーを利用して良好な磁気特性を得ようとすると、最終仕上げ焼鈍の雰囲気は不活性ガスや水素ガスが用いられ、特に推奨される条件として真空とすることが求められるけれども、高温と真空の両立は設備的には極めて難しく、またコスト高ともなる。
【0007】
さらに、表面エネルギーを利用した場合には、原理的には{110}面の選択のみが可能なだけで、圧延方向に<001>方向が揃ったゴス粒の成長が選択されるわけではない。方向性電磁鋼板は、圧延方向に磁化容易軸<001>を揃えてこそ磁気特性が向上するので、{110}面の選択のみでは原理的に良好な磁気特性は得られない。
そのため、表面エネルギーを利用する方法で良好な磁気特性を得ることができる圧延条件や焼鈍条件は極めて限られたものとなり、その結果、得られる磁気特性は不安定とならざるを得ない。
【0008】
また、表面エネルギーを利用する方法では、表面酸化層の形成を抑制して最終仕上焼鈍を行わねばならず、たとえばMgOのような焼鈍分離剤を塗布焼鈍することができないので、最終仕上げ焼鈍後に通常の方向性電磁鋼板と同様な酸化物被膜を形成することはできない。例えば、フォルステライト被膜は、焼鈍分離剤としてMgOを主成分として塗布した時に形成される被膜であるが、この被膜は鋼板表面に張力を与えるだけでなく、その上にさらに塗布焼き付けられるリン酸塩を主体とする絶縁張力コーティングの密着性を確保する機能を担っている。従って、かようなフォルステライト被膜がない場合には鉄損は大幅に劣化する。
【0009】
上述したように、インヒビターを使用する方法では、熱延前の高温スラブ加熱に付随する設備コストや製造コストの増大という問題があり、一方インヒビターを使用せず表面エネルギーを利用する方法では、鋼板板厚が限定される、二次再結晶方位の集積が劣る、表面酸化被膜がないために鉄損が劣るという問題があった。
そこで、上記の問題を解決するものとして、インヒビターを含有しない素材において、ゴス方位を二次再結晶させる技術が提案された(特許文献8参照)。
しかしながら、この方法では、良好なフォルステライト被膜を安定して形成させることが困難なため、被膜密着性に劣るという問題があり、工業的な生産という観点から、その改善が求められていた。
【0010】
特許文献1
特公昭40−15644 号公報(特許請求の範囲)
特許文献2
特公昭51−13469 号公報(特許請求の範囲)
特許文献3
特公昭58−42244 号公報(特許請求の範囲、実施例)
特許文献4
特公昭46−40855 号公報(特許請求の範囲)
特許文献5
特開昭64−55339 号公報(特許請求の範囲)
特許文献6
特開平2−57635 号公報(特許請求の範囲)
特許文献7
特開平7−197126号公報(特許請求の範囲)
特許文献8
特開2000−129356号公報(特許請求の範囲)
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
本発明では、上記の要請に有利に応えるもので、インヒビターを含有しない素材を用いてゴス方位を二次再結晶させる技術において、フォルステライト被膜の密着性を効果的に改善した方向性電磁鋼板を、その有利な製造方法と共に提案することを目的とする。
【0012】
【課題を解決するための手段】
すなわち、この発明の要旨構成は次のとおりである。
1.質量%で、C:0.0050%以下、Si:2.0 〜8.0 %およびMn:0.005 〜3.0 %を含み、かつAl,N, SおよびSe量をそれぞれ、Al≦100 ppm 、N≦50 ppm、S≦50 ppm、Se≦50 ppmに抑制した組成になるフォルステライト被膜付き方向性電磁鋼板であって、鋼板の表面から板厚中心にわたる成分分析において、SrおよびMgの濃度変化がピークを呈し、表面から上記SrおよびMgのピーク位置までの距離をそれぞれt(Sr), t(Mg)とするとき、これらがt(Sr)≧t(Mg)の関係を満足することを特徴とする被膜密着性に優れた方向性電磁鋼板。
【0013】
2.上記1において、鋼スラブ中に、さらに質量%で
Ni:0.005 〜1.50%、
Sn:0.01〜0.50%、
Sb:0.005 〜0.50%、
Cu:0.01〜0.50%、
P:0.005 〜0.50%および
Cr:0.01〜1.50%
のうちから選んだ少なくとも一種を含有することを特徴とする被膜密着性に優れた方向性電磁鋼板。
【0014】
3.質量%で、C:0.08%以下、Si:2.0 〜8.0 %およびMn:0.005 〜3.0 %を含み、かつAlを 100 ppm以下、N,SおよびSeをそれぞれ50 ppm以下に抑制した組成になる鋼スラブを、熱間圧延後、必要に応じて熱延板焼鈍を施したのち、1回または中間焼鈍を挟む2回以上の冷間圧延を施し、ついで脱炭焼鈍後、MgOを主体とする焼鈍分離剤を塗布してから、最終仕上焼鈍を施す一連の工程からなる方向性電磁鋼板の製造方法において、
焼鈍分離剤中にSr化合物をSr換算で 0.2〜5.0 mass%含有させると共に、
最終仕上焼鈍工程において、 950℃から1100℃までの平均昇温速度を20℃/h以上、50℃/h以下とし、かつ最高到達温度を1100℃以上、1190℃以下とする
ことを特徴とする被膜密着性に優れた方向性電磁鋼板の製造方法。
【0015】
【発明の実施の形態】
以下、この発明を具体的に説明する。
まず、この発明を由来するに至った実験について説明する。なお、以後、成分に関する「%」表示は特に断らない限り質量%を意味するものとする。
実験1
C:0.06%,Si:3.3 %およびMn:0.03%を含有し、Al,S,SeおよびNをそれぞれ、Al:20 ppm, S:10 ppm, Se:0.1 ppm, N:20 ppmに抑制した鋼スラブを、1100℃に加熱したのち、熱間圧延により板厚:2.2 mmの熱延コイルとし、ついで1000℃, 1分間の熱延板焼鈍後、冷却し、巻取って熱延焼鈍板コイルとしたのち、冷間圧延によって板厚:0.30mmの冷間圧延板とした。ついで、 850℃,2分間の脱炭焼鈍後、MgOを主成分とする焼鈍分離剤を塗布してから、昇温速度:30℃/hで1150℃まで昇温し、この温度で20時間の最終仕上焼鈍に供した。この時、MgO中にSr(OH)2 を種々の範囲(Sr換算で0.05〜10%の範囲)で変化させて添加した。
【0016】
その後、リン酸塩とコロイダルシリカを主成分とする張力被膜処理液を塗布し、800 ℃で焼き付けて張力被膜を被成し、製品板とした。
かくして得られた製品板の磁気特性、被膜密着性および被膜外観について調べた結果を表1に示す。
なお、被膜密着性は、鋼板を丸棒に巻き付けた際に被膜剥離が生じない最小径によって評価した。また、製品板におけるフォルステライト被膜の厚みは約 2.0μm であった。
【0017】
【表1】
【0018】
同表に示したとおり、Sr添加量が0.20%に満たないと、被膜の形成が不十分で、被膜密着性および磁気特性ともに劣っているが、Srを0.20%以上添加すると、被膜密着性が向上する。しかも、この被膜形成の安定化に伴って、磁気特性も良好なレベルに到達した。
しかしながら、Sr添加量が 5.0%超になると点状被膜欠陥を生じた。
【0019】
そこで、発明者らは、これらの実験事実がいかなる機構によって生じるのかを明らかにするために、本実験で得られた製品の被膜を種々の方法で調査した。
その結果、形成された被膜の密着性の良否は、被膜中におけるMgおよびSrの濃度分布と強い相関があることを突き止めた。
図1に、焼鈍分離剤中へのSr添加量が 0.10, 0.20, 3.0および 5.0%の各場合において、製品表面をGDSでスパッタ分析した際の、Mg強度のピーク位置とSr強度のピーク位置について調べた結果を示す。
【0020】
なお、Mg強度およびSr強度のピーク位置は、GDS(Glow Discharge Spectrometer)を用いて板厚方向の強度分布を調べることによって測定したが、測定法としては、このGDSのみに限るものではなく、Mg強度やSr強度のピーク位置を評価できる測定法であればSIMS(Secondary Ion Mass Spectroscopy)等の物理分析やその他の化学分析であってもかまわない。
【0021】
同図に示したとおり、被膜密着性の劣るSr:0.10%の添加条件では、Sr強度のピーク位置がMg強度ピーク位置よりも表面に近かったのに対し、被膜密着性が良好であったSr:0.20, 3.0, 5.0%の各添加条件では、Sr強度のピーク位置がMg強度のピーク位置よりも内部に浸透していた。
すなわち、表面からSr強度のピーク位置およびMg強度のピーク位置までの距離をそれぞれt(Sr), t(Mg)とするとき、これらがt(Sr)≧t(Mg)の関係を満足する場合に、良好な被膜密着性が得られることが判明したのである。
【0022】
このように、Sr強度のピーク位置およびMg強度のピーク位置がt(Sr)≧t(Mg)の関係を満足する場合に、被膜密着性が良好となる理由は、まだ明確に解明されたわけではないが、Mg2SiO4 を主とするフォルステライト被膜の下部にSr酸化物が形成されることで、フォルステライト被膜アンカー部の形態が変化し、密着性が改善されたものと考えられる。
【0023】
次に、発明者らは、Sr強度のピーク位置とMg強度のピーク位置までの距離が、t(Sr)≧t(Mg)の関係を満足する、被膜密着性に優れた方向性電磁鋼板を安定して得るための製造条件について検討を行った。
【0024】
実験2
Srの添加量については先の実験で検討を行ったので、今回は、フォルステライト被膜形成反応が顕著に進行する 950〜1200℃の高温域における適正条件について検討した。
先の実験で作製した脱炭焼鈍板に、MgOを主成分とする焼鈍分離剤を塗布し、1150℃,20時間の最終仕上焼鈍に供した。この時、MgO中に Sr(OH)2をSr換算で0.50%添加すると共に、 950〜1100℃の温度域における平均昇温速度を5〜100℃/hの範囲で種々に変化させた。ついで、リン酸塩とコロイダルシリカを主成分とする張力被膜処理液を塗布、焼き付けて、張力被膜を被成し、製品板とした。かくして得られた製品板の被膜密着性、被膜外観およびGDS分析結果を表2に示す。なお、被膜密着性は、丸棒に鋼板を巻き付けた際に被膜の剥離を生じない最小径によって評価した。
【0025】
【表2】
【0026】
同表に示したとおり、平均昇温速度が20〜50℃/hの範囲を満足する場合に、GDS分析結果がt(Sr)≧t(Mg)となり、良好なフォルステライト被膜を形成できることが分かる。
なお、平均昇温速度が20℃未満の場合にt(Sr)<t(Mg)となるのは、Srの地鉄内部への拡散が遅れるため、逆に平均昇温速度が50℃/h超えの場合にt(Sr)<t(Mg)となるのは、Mg2SiO4 の生成反応が急速に進行する結果、やはりSrの地鉄内部への拡散が妨害されるためと考えられる。
【0027】
実験3
同様に、先の実験1で作成した脱炭焼鈍板に、MgOを主成分とする焼鈍分離剤を塗布し、1150℃,20時間の最終仕上焼鈍に供した。この時、MgO中にSr(OH)2をSr換算で0.50%添加し、かつ 950〜1100℃の平均昇温速度を30℃/hにすると共に、最高到達温度を1080〜1220℃の範囲で種々に変化させた。ついで、リン酸塩とコロイダルシリカを主成分とする張力被膜処理液を塗布、焼き付けて、張力被膜を被成し、製品板とした。
かくして得られた製品板の被膜密着性、被膜外観およびGDS分析結果を表3に示す。なお、被膜密着性は丸棒に鋼板を巻き付けた際に被膜の剥離を生じない最小径によって評価した。
【0028】
【表3】
【0029】
同表に示したとおり、最高到達温度が1100℃以上になると、GDS分析結果がt(Sr)≧t(Mg)となって、良好なフォルステライト被膜を形成できることが分かる。
なお、最高到達温度が1100℃未満の場合にt(Sr)<t(Mg)となるのは、Srの地鉄内部への拡散が遅れるためと考えられる。一方、最高到達温度が1190℃を超えると、被膜形成過多による点状被膜欠陥が生じた。
【0030】
本発明において、インヒビター成分を含まない鋼において二次再結晶が発現する理由は必ずしも明らかではないが、以下のように考えている。
さて、発明者らは、ゴス方位粒が二次再結晶する理由について鋭意研究を重ねた結果、一次再結晶組織における方位差角が20〜45°である粒界が重要な役割を果たしていることを発見し、Acta Material 45巻(1997)1285頁に報告した。
【0031】
方向性電磁鋼板の二次再結晶直前の状態である一次再結晶組織を解析し、様々な結晶方位を持つ各々の結晶粒周囲の粒界について、粒界方位差角が20〜45°である粒界の全体に対する割合(%)について調査した結果を、図2に示す。同図において、結晶方位空間はオイラー角(Φ1 ,Φ,Φ2 )のΦ2 =45°断面を用いて表示しており、ゴス方位など主な方位を模式的に表示してある。
同図によれば、方位差角が20〜45°である粒界の各方位粒に対する存在頻度は、ゴス方位が最も高いことが分かる。
【0032】
方位差角が20〜45°の粒界は、C. G. Dunnらによる実験データ(AIME Transaction 188巻(1949)368 頁)によれば、高エネルギー粒界である。この高エネルギー粒界は粒界内の自由空間が大きく乱雑な構造をしている。粒界拡散は粒界を通じて原子が移動する過程であるので、粒界中の自由空間の大きい、高エネルギー粒界の方が粒界拡散は速い。
二次再結晶は、インヒビターと呼ばれる析出物の拡散律速による成長に伴って発現することが知られている。高エネルギー粒界上の析出物は、仕上焼鈍中に優先的に粗大化が進行するので、優先的にピン止めがはずれて粒界移動を開始し、ゴス粒が成長する機構を示した。
【0033】
発明者らは、この研究をさらに発展させて、ゴス方位粒の二次再結晶の本質的要因は、一次再結晶組織中の高エネルギー粒界の分布状態にあり、インヒビターの役割は、高エネルギー粒界と他の粒界の移動速度差を生じさせることにあることを見い出した。
従って、この理論に従えば、インヒビターを用いなくとも、粒界の移動速度差を生じさせることができれば、二次再結晶させることが可能となる。
【0034】
さて、鋼中に存在する不純物元素は、粒界とくに高エネルギー粒界に偏析し易いため、不純物元素を多く含む場合には、高エネルギー粒界と他の粒界の移動速度に差がなくなっているものと考えられる。
この点、素材の高純度化によって、上記したような不純物元素の影響を排除することができれば、高エネルギー粒界の構造に依存する本来的な移動速度差が顕在化して、ゴス方位粒の二次再結晶が可能になるものと考えられる。
【0035】
さらに、粒界移動速度差を利用して安定した二次再結晶を可能とするためには、一次再結晶組織をできる限り均一な粒径分布に保つことが肝要である。というのは、均一な粒径分布が保たれている場合には、ゴス方位粒以外の結晶粒は粒界移動速度の小さい低エネルギー粒界の頻度が大きいため、粒成長が抑制されている状態、いわゆるTexture Inhibition効果の発揮により、粒界移動速度が大きい高エネルギー粒界の頻度が最大であるゴス方位粒の選択的粒成長としての二次再結晶が進行するからである。
これに対し、粒径分布が一様でない場合には、隣接する結晶粒同士の粒径差を駆動力とする正常粒成長が起こり、粒界移動速度差と異なる要因で成長する結晶粒が選択されるために、Texture Inhibition効果が発揮されずに、ゴス方位粒の選択的粒成長が起こらなくなる。
【0036】
ところが、工業生産の上では、インヒビター成分を完全に除去することは実用上困難なので、不可避的に含有されてしまうが、熱延加熱温度が高い場合には、加熱後に固溶した微量不純物としてのインヒビター成分が熱延時に不均一に微細析出する結果、粒界移動が局所的に抑制されて粒径分布が極めて不均一になり、二次再結晶の発達が阻害される。そのためインヒビター成分を低減することが第一であるが、不可避的に混入する微量のインヒビター成分の微細析出を回避して無害化するためには、熱延前の加熱温度を圧延可能な範囲で、できる限り低めに抑えることが有効である。
【0037】
次に、本発明において、素材であるスラブの成分組成を前記の範囲に限定した理由について説明する。
C:0.08%以下
C量が0.08%を超えると、製品板において、磁気時効の起こらない0.0050%(50 ppm)以下まで低減することが困難になるので、Cは0.08%以下に制限した。なお、C量が0.02%に満たないと、一次再結晶組織の劣化によって磁気特性の劣化が生じるおそれがあるので、Cは0.02%以上含有させることが好ましい。
Si:2.0 〜8.0 %
Siは、鋼の電気抵抗を高めて鉄損の低減に有効に寄与するが、含有量が 2.0%に満たないと十分な鉄損低減効果が得られず、一方 8.0%を超えると加工性が著しく劣化して冷間圧延が困難になるので、Si量は 2.0〜8.0 %の範囲に限定した。
Mn:0.005 〜3.0 %
Mnは、熱間加工性を改善するために有用な元素であるが、含有量が 0.005%未満ではその添加効果に乏しく、一方 3.0%を超えると磁束密度の低下を招くので、Mn量は 0.005〜3.0 %の範囲とする。
【0038】
Al:100 ppm 未満、N, S, Seはそれぞれ 50ppm以下
また、インヒビター形成元素であるAlは 100 ppm未満、またN, S, Seについてもそれぞれ 50ppm以下、好ましくは 30ppm以下に低減することが、良好に二次再結晶させる上で不可欠である。
その他、窒化物形成元素であるTi, Nb, B, TaおよびV等についても、それぞれ 50ppm以下に低減することが鉄損の劣化を防止し、良好な加工性を確保する上で有効である。
【0039】
以上、基本成分および抑制成分について説明したが、本発明では、その他にも以下に述べる元素を適宜含有させることができる。
Ni:0.005 〜1.50%、Sn:0.01〜0.50%、Sb:0.005 〜0.50%、Cu:0.01〜0.50%、P:0.005 〜0.50%、Cr:0.01〜1.50%のうちから選んだ少なくとも1種
Niは、熱延板組織を改善して磁気特性を向上させる有用元素である。しかしながら、含有量が 0.005%未満では磁気特性の向上量が小さく、一方1.50%を超えると二次再結晶が不安定になり磁気特性が劣化するので、Ni量は 0.005〜1.50%とした。
また、Sn,Sb,Cu, P, Crはそれぞれ、鉄損の向上に有用な元素であるが、いずれも上記範囲の下限値に満たないと鉄損の向上効果が小さく、一方上限量を超えると二次再結晶粒の発達が阻害されるので、それぞれSn:0.01〜0.50%,Sb:0.005 〜0.50%,Cu:0.01〜0.50%,P:0.005 〜0.50%,Cr:0.01〜1.5 %の範囲で含有させる。
【0040】
次に、本発明の製造工程について説明する。
上記の好適成分組成に調整した溶鋼を、転炉、電気炉などを用いる公知の方法で精錬し、必要があれば真空処理などを施したのち、通常の造塊法や連続鋳造法を用いてスラブを製造する。また、直接鋳造法を用いて 100mm以下の厚さの薄鋳片を直接製造してもよい。
スラブは、通常の方法で加熱して熱間圧延するが、鋳造後、加熱せずに直ちに熱延に供してもよい。また、薄鋳片の場合には、熱間圧延を行っても良いし、熱間圧延を省略してそのまま以後の工程に進めてもよい。
熱間圧延前のスラブ加熱温度は1250℃以下に抑えることが、熱延時に生成するスケール量を低減する上で特に望ましい。また、結晶組織の微細化および不可避的に混入するインヒビター成分の弊害を無害化して、均一な整粒一次再結晶組織を実現する意味でもスラブ加熱温度の低温化が望ましい。
【0041】
ついで、必要に応じて熱延板焼鈍を施す。ゴス組織を製品板において高度に発達させるためには、熱延板焼鈍温度は 800〜1100℃の範囲が好適である。というのは、熱延板焼鈍温度が 800℃未満では熱延でのバンド組織が残留し、整粒の一次再結晶組織を実現することが困難になる結果、二次再結晶の発達が阻害され、一方熱延板焼鈍温度が1100℃を超えると、不可避的に混入するインヒビター成分が固溶し冷却時に不均一に再析出するために、整粒一次再結晶組繊を実現することが困難となり、やはり二次再結晶の発達が阻害されるからである。また、熱延板焼鈍温度が1100℃を超えると、熱延板焼鈍後の粒径が粗大化しすぎることも、整粒の一次再結晶組織を実現する上で極めて不利である。
【0042】
熱延板焼鈍後、1回または中間焼鈍を挟む2回以上の冷間圧延を施したのち、脱炭焼鈍を施して、Cを磁気時効の起こらない 50ppm以下好ましくは 30ppm以下まで低減する。
上記の冷間圧延において、圧延温度を 100〜250 ℃に上昇させて圧延を行うことや、冷間圧延の途中で 100〜250 ℃の範囲での時効処理を1回または複数回行うことが、ゴス組織を発達させる上で有効である。
また、最終冷延後の脱炭焼鈍は、湿潤雰囲気を使用して 700〜1000℃の温度で行うことが好適である。なお、脱炭焼鈍後に浸珪法によってにSi量を増加させる技術を併用してもよい。
【0043】
その後、MgOを主成分とする焼鈍分離剤を塗布してから、最終仕上焼鈍を施すことにより二次再結晶組織を発達させると共にフォルステライト被膜を形成させる。
この際、MgO中にSr化合物をSr換算で 0.2〜5.0 mass%含有させることが重要である。というのは、Sr量が上記の範囲から逸脱すると、密着性の良好な被膜が形成されず、ひいては良好な磁気特性も得られないからである。
また、 950〜1100℃の温度域における平均昇温速度を20℃/h以上、50℃/h以下とすることも重要である。というのは、平均昇温速度が上記の範囲を外れると、Sr強度のピーク位置およびMg強度のピーク位置がt(Sr)≧t(Mg)の関係を満足せず、良好な被膜密着性ひいては良好な磁気特性が得られないからである。
さらに、最高到達温度を1100℃以上、1190℃以下とすることも重要である。というのは、最高到達温度が上記の範囲を外れると、やはり良好な被膜密着性ひいては良好な磁気特性が得られないからである。
なお、最終仕上焼鈍は、二次再結晶発現のために 800℃以上の温度で行う必要があるが、800 ℃までの加熱速度は、磁気特性に大きな影響を与えないので任意の条件でよい。
【0044】
その後、平坦化焼鈍を施して形状を矯正する。
ついで、上記の平坦化焼鈍後、鉄損の改善を目的として、鋼板表面に張力を付与する絶縁コーティングを施すことが有利である。
さらに、公知の磁区細分化技術を適用できることはいうまでもない。
【0045】
【実施例】
C:0.05%、Si:2.5 %およびMn:0.5 %を含有し、かつかつAl,N, SおよびSeをそれぞれ、Al:90 ppm, N:15 ppm, S:48 ppm, Se:3 ppmに抑制し、残部はFeおよび不可避的不純物の組成になる連鋳スラブを、1100℃に加熱後、熱間圧延により2.2 mm厚の熱延板とし、ついで1000℃,1分間の熱延板焼鈍を施したのち、冷却し、コイルに巻取ったのち、冷間圧延により板厚:0.30mmの最終冷延板に仕上げた。ついで 850℃,2分の脱炭焼鈍後、MgOを主成分とし Sr(OH)2を種々の範囲で添加した焼鈍分離剤を鋼板表面に塗布したのち、表4の条件で最終仕上焼鈍を施した。その際の最高到達温度は1150℃とした。その後、リン酸塩とコロイダルシリカを主成分とする張力被膜処理液を塗布、焼き付け(800 ℃)て、張力被膜を被成したのち、平坦化焼鈍を施した。
かくして得られた製品板の磁気特性、被膜密着性および被膜外観について調べた結果を、表4に併記する。
【0046】
【表4】
【0047】
同表に示したとおり、本発明に従い得られた製品板はいずれも、被膜密着性および磁気特性に優れ、また被膜外観にも優れていた。
【0048】
【発明の効果】
かくして、この発明によれば、インヒビター成分を含有しない鋼を用いて方向性電磁鋼板を製造する場合に懸念された、フォルステライト被膜の不安定形成を有利に解決して、フォルステライト被膜の被膜密着性ひいては磁気特性に優れた方向性電磁鋼板を安定して得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】焼鈍分離剤中へのSr添加量が 0.10, 0.20, 3.0および 5.0%の各場合において、製品表面をGDSでスパッタ分析した際の、Mg強度のピーク位置とSr強度のピーク位置との関係を比較して示した図である。
【図2】仕上げ焼鈍前における方位差角が20〜45°である粒界の各方位粒に対する存在頻度(%)を示した図である。
Claims (3)
- 質量%で、C:0.0050%以下、Si:2.0 〜8.0 %およびMn:0.005 〜3.0 %を含み、かつAl,N, SおよびSe量をそれぞれ、Al≦100 ppm 、N≦50 ppm、S≦50 ppm、Se≦50 ppmに抑制した組成になるフォルステライト被膜付き方向性電磁鋼板であって、鋼板の表面から板厚中心にわたる成分分析において、SrおよびMgの濃度変化がピークを呈し、表面から上記SrおよびMgのピーク位置までの距離をそれぞれt(Sr), t(Mg)とするとき、これらがt(Sr)≧t(Mg)の関係を満足することを特徴とする被膜密着性に優れた方向性電磁鋼板。
- 請求項1において、鋼スラブ中に、さらに質量%で
Ni:0.005 〜1.50%、
Sn:0.01〜0.50%、
Sb:0.005 〜0.50%、
Cu:0.01〜0.50%、
P:0.005 〜0.50%および
Cr:0.01〜1.50%
のうちから選んだ少なくとも一種を含有することを特徴とする被膜密着性に優れた方向性電磁鋼板。 - 質量%で、C:0.08%以下、Si:2.0 〜8.0 %およびMn:0.005〜3.0 %を含み、かつAlを 100 ppm以下、N,SおよびSeをそれぞれ50 ppm以下に抑制した組成になる鋼スラブを、熱間圧延後、必要に応じて熱延板焼鈍を施したのち、1回または中間焼鈍を挟む2回以上の冷間圧延を施し、ついで脱炭焼鈍後、MgOを主体とする焼鈍分離剤を塗布してから、最終仕上焼鈍を施す一連の工程からなる方向性電磁鋼板の製造方法において、
焼鈍分離剤中にSr化合物をSr換算で 0.2〜5.0 mass%含有させると共に、
最終仕上焼鈍工程において、 950℃から1100℃までの平均昇温速度を20℃/h以上、50℃/h以下とし、かつ最高到達温度を1100℃以上、1190℃以下とする
ことを特徴とする被膜密着性に優れた方向性電磁鋼板の製造方法。
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