JP3948284B2 - 方向性電磁鋼板の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、変圧器の鉄心などに使用して好適な磁気特性が安定して優れた方向性電磁鋼板の製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
方向性電磁鋼板の製造に際しては、インヒビターと呼ばれる析出物を使用して、最終仕上げ焼鈍中にゴス方位粒と呼ばれる{110}<001>方位粒を優先的に二次再結晶させることが、一般的な技術として使用されている。
例えば、特公昭40−15644 号公報には、インヒビターとしてAlN,MnSを使用する方法が、また特公昭51−13469 号公報には、インヒビターとしてMnS, MnSeを使用する方法が開示され、いずれも工業的に実用化されている。
これらとは別に、CuSeとBNを添加する技術が特公昭58−42244 号公報に、またTi,Zr,V等の窒化物を使用する方法が特公昭46−40855 号公報に開示されている。
【0003】
これらのインヒビターを用いる方法は、安定して二次再結晶粒を発達させるのに有用な方法であるが、析出物を微細に分散させなければならないので、熱延前のスラブ加熱を1300℃以上の高温で行うことが必要とされる。
しかしながら、スラブの高温加熱は、設備コストが嵩むことの他、熱延時に生成するスケール量も増大することから歩留りが低下し、また設備のメンテナンスが煩雑になる等の問題がある。
【0004】
これに対して、インヒビターを使用しないで方向性電磁鋼板を製造する方法が、特開昭64−55339 号、特開平2−57635 号、特開平7−76732 号および特開平7−197126号各公報に開示されている。これらの技術に共通していることは、表面エネルギーを駆動力として{110}面を優先的に成長させることを意図していることである。
表面エネルギーを有効に利用するためには、表面の寄与を大きくするために板厚を薄くすることが必然的に要求される。例えば、特開昭64−55339 号公報に開示の技術では板厚が 0.2mm以下に、また特開平2−57635 号公報に開示の技術では板厚が0.15mm以下に、それぞれ制限されている。
しかしながら、現在使用されている方向性電磁鋼板の板厚は0.20mm以上がほとんどであるため、上記したような表面エネルギーを利用した方法で通常の方向性電磁鋼板を製造することは難しい。
【0005】
さらに表面エネルギーを利用するためには、表面酸化物の生成を抑制した状態で高温の最終仕上げ焼鈍を行わなければならない。例えば、特開昭64−55339 号公報に開示の技術では、1180℃以上の温度で、しかも最終仕上げ焼鈍の雰囲気として、真空または不活性ガス、あるいは水素ガスまたは水素ガスと窒素ガスの混合ガスを使用することが記載されている。
また、特開平2−57635 号公報に開示の技術では、 950〜1100℃の温度で、不活性ガス雰囲気あるいは水素ガスまたは水素ガスと不活性ガスの混合雰囲気で、しかもこれらを減圧することが推奨されている。
さらに、特開平7−197126号公報に開示の技術では、1000〜1300℃の温度で酸素分圧が0.5 Pa以下の非酸化性雰囲気中または真空中で最終仕上げ焼鈍を行うことが記載されている。
【0006】
このように、表面エネルギーを利用して良好な磁気特性を得ようとすると、最終仕上げ焼鈍の雰囲気は不活性ガスや水素ガスが必要とされ、また推奨される条件として真空とすることが要求されるけれども、高温と真空の両立は設備的には極めて難しく、またコスト高ともなる。
【0007】
さらに、表面エネルギーを利用した場合には、原理的には{110}面の選択のみが可能であるにすぎず、圧延方向に<001>方向が揃ったゴス粒の成長が選択されるわけではない。
方向性電磁鋼板は、圧延方向に磁化容易軸<001>を揃えてこそ磁気特性が向上するので、{110}面の選択のみでは原理的に良好な磁気特性は得られない。そのため、表面エネルギーを利用する方法で良好な磁気特性を得ることができる圧延条件や焼鈍条件は極めて限られたものとなり、その結果、得られる磁気特性は不安定とならざるを得ない。
【0008】
またさらに、表面エネルギーを利用する方法では、表面酸化層の形成を抑制して最終仕上げ焼鈍を行わねばならず、たとえばMgO のような焼鈍分離剤を塗布焼鈍することができないので、最終仕上げ焼鈍後に通常の方向性電磁鋼板と同様な酸化物被膜を形成することはできない。例えば、フォルステライト被膜は、焼鈍分離剤としてMgO を主成分として塗布した時に形成される被膜であるが、この被膜は鋼板表面に張力を与えるだけでなく、その上にさらに塗布焼き付けられるリン酸塩を主体とする絶縁張力コーティングの密着性を確保する機能を担っている。従って、かようなフォルステライト被膜がない場合には鉄損は大幅に劣化する。
【0009】
ところで、発明者らも、既にインヒビター成分を含有しない素材において、ゴス方位結晶粒を二次再結晶により発達させる技術を開発し、特開2000−129356号号公報において開示した。
しかしながら、インヒビターを用いず、集合組織制御のみで二次再結晶を発現させることから、従来にもまして、一次粒径分布や集合組織の均一性が重要になってきた。
また、スラブの高温加熱を行わないので、従来用いられてきた1300℃付近のα相単相域での高温再結晶を利用できないことから、組織的にも不均一になり易く、また二次再結晶が場所によって不均一になり易いために、製品磁気特性が安定して得られないという問題があった。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記の実状に鑑み開発されたもので、インヒビターを使用しない方向性電磁鋼板の製造技術において、熱延組織に起因した磁気特性の不安定性を有利に解消して、安定して良好な磁気特性を得ることができる、方向性電磁鋼板の新規な製造方法を提案することを目的とする。
【0011】
【課題を解決するための手段】
すなわち、本発明の要旨構成は次のとおりである。
1.質量%で、C:0.08%以下, Si:2.0 〜6.5 %およびMn:0.005 〜3.0 %を含み、Alを 100 ppm未満、N, S, Seをそれぞれ 50ppm以下に低減した溶鋼を用いて製造した鋼スラブを、熱間圧延し、必要に応じて熱延板焼鈍を行ったのち、1回または中間焼鈍を挟む2回以上の冷間圧延を行い、ついで脱炭焼鈍後、焼鈍分離剤を塗布してから、最終仕上げ焼鈍を施す一連の工程からなる方向性電磁鋼板の製造方法において、
熱間粗圧延に先立つスラブ加熱温度を1280℃以下とし、1050℃以上の温度で、圧下率:30%以上のパスを少なくとも1回含む累積圧下率:70%以上の粗圧延を行った後、仕上げ圧延を施し、引き続き仕上げ圧延後の冷却速度を平均:20℃/s以上としてコイル状に巻き取り、熱延板表面にマグネタイトの存在比率が 50 %以上の酸化物を形成することを特徴とする方向性電磁鋼板の製造方法。
【0012】
2.鋼スラブが、さらに、質量%で、Ni:0.005 〜1.50%、Sn:0.01〜0.50%、Sb:0.005 〜0.50%、Cu:0.01〜1.50%、P:0.005 〜0.50%およびCr:0.01〜1.50%のうちから選んだ1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
【0013】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を具体的に説明する。
まず、本発明を由来するに至った実験結果について説明する。なお、成分に関する「%」表示は特に断らない限り質量%(mass%)を意味する。
C:0.04%、Si: 3.5%、Mn:0.06%、P: 0.005%、S:0.002 %、Al:0.005 %、Ti:0.0006%、O:0.002 %、N:0.0025%、Sb:0.0020%、Cu:0.05%およびCr:0.04%を含有する組成になる鋼スラブを、連続鋳造し、ついでガス加熱炉にて1150℃で2h 加熱したのち、表1に示す種々の条件で熱間圧延を施して、2.5 mm厚の熱延板とした。
ついで、これらの熱延板を、900 ℃の窒素雰囲気中にて1分間加熱した後、35℃/sの速度で急冷した。その後、冷間圧延により0.34mmの最終板厚に仕上げた。ついで、水素:65 vol%、窒素:35 vol%、露点:65℃の雰囲気中にて 850℃,120 秒の脱炭焼鈍を行った後、MgO を主成分とする焼鈍分離剤を塗布してから、最終仕上げ焼鈍を行った。この最終仕上げ焼鈍は、15℃/hの昇温速度で、750 ℃までは窒素雰囲気中、それ以降は水素雰囲気中で1150℃まで加熱し、1150℃に5h保定したのち、Ar雰囲気中で冷却する条件で行った。
かくして得られた方向性電磁鋼板の磁気特性について調べた結果を、表1に併記する。
【0014】
【表1】
【0015】
表1の結果から、ある特定の条件で処理した場合に磁気特性が向上することが明らかとなった。
すなわち、1050℃以上の温度で、圧下率:30%以上のパスを少なくとも1回含む累積圧下率:70%以上の粗圧延を行ったのち、仕上げ圧延を施し、仕上げ圧延後に急冷した場合である。
ここに、上記のような処理を施した場合に磁気特性が向上した理由については、1050℃以上の高温域において大きな圧下を加えることで、熱延時の組織が均一微細化されたことによるものと考えられる。すなわち、1050〜1200℃付近は、他の温度域とは異なり、α相とγ相が生成するため、かような2相状態で高圧下を加えることにより、スラブの柱状晶等の粗い組織を破壊することができたものと考えられる。
【0016】
これを検証するために、さらに鋭意検討した結果を、図1に示す。
同図によれば、1パス当たりの圧下率および累積圧下率が共に有効に作用し、圧下率が30%以上のパスを少なくとも1回行い、かつ累積圧下率が70%以上となった場合に、熱延板の再結晶率が増加し、組織の均一化が図られたことが明らかである。
【0017】
引き続く1050℃以下の仕上げ圧延では、2相域の温度外になってくるため、板厚を減らすことを目的とした圧延が行われ、その後急冷する。
ここに、仕上げ圧延終了後の冷却速度が重要な理由は、以下のように考えられる。すなわち、仕上げ圧延終了までの歪みを加えている間は、鋼中に転位等の欠陥が多く存在することによりCの拡散速度は高くなり、従ってCは鋼中で均一に分布し固溶しているが、仕上げ圧延終了後は新たな歪みが加わらないため、Cは付近の結晶粒界にセメンタイトとして析出しようし、粒界に析出したセメンタイトは、組織の不均一性を助長する。
【0018】
そこで、製品磁気特性の、熱延仕上げ圧延後の冷却速度に対する依存性を調査するため、この冷却速度を変更する実験を行った。その結果を図2に示す。
同図の結果より、仕上げ圧延後の平均冷却速度を20℃/s以上とした場合に、磁気特性が向上することが明らかとなった。
すなわち、20℃/s以上の速度で冷却すると、粒界に析出するセメンタイトの量が減り、熱延板の組織的な不均一性が減少する。
【0019】
また、熱延板表面に形成される酸化物層が主にマグネタイト(Fe3O4) となることによって、最表層からの過度の脱炭を防止できる。
通常、熱延後の鋼板表面に形成される酸化物層はFeO が主体であるが、このFeO は FeO+C→Fe+COの反応が起こり易く、地鉄中のCを不均一に脱炭してしまうと考えられる。これら不均一な脱炭は、引き続き行われる熱延板焼鈍や冷間圧延での組織形成に非常に不利に作用すると考えられる。このため、マグネタイトを主体とした酸化物層を形成させることが有用なわけである。
熱延時にこれらの処理を組み合わせて行うことにより、熱延組織の均一性が向上し、ひいては製品磁気特性の安定性が増す。
【0020】
【作用】
本発明において、インヒビター成分を含まない鋼において二次再結晶が発現する理由は必ずしも明らかではないが、以下のように考えている。
発明者らは、ゴス方位粒が二次再結晶する理由について鋭意研究を重ねた結果、一次再結晶組織における方位差角が20〜45°である粒界が重要な役割を果たしていることを発見し、Acta Material 45巻(1997)1285頁に報告した。
【0021】
方向性電磁鋼板の二次再結晶直前の状態である一次再結晶組織を解析し、様々な結晶方位を持つ各々の結晶粒周囲の粒界について、粒界方位差角が20〜45°である粒界の全体に対する割合(%)について調査した結果を、図3に示す。同図において、結晶方位空間はオイラー角(Φ1 、Φ、Φ2 )のΦ2 =45°断面を用いて表示しており、ゴス方位など主な方位を模式的に表示してある。
同図によれば、方位差角が20〜45°である粒界の各方位粒に対する存在頻度は、ゴス方位が最も高いことが分かる。
【0022】
方位差角が20〜45°の粒界は、C. G. Dunnらによる実験データ(AIME Transaction 188巻(1949)368 頁)によれば、高エネルギー粒界である。この高エネルギー粒界は粒界内の自由空間が大きく乱雑な構造をしている。粒界拡散は粒界を通じて原子が移動する過程であるので、粒界中の自由空間の大きい、高エネルギー粒界の方が粒界拡散は速い。
二次再結晶は、インヒビターと呼ばれる析出物の拡散律速による成長に伴って発現することが知られている。高エネルギー粒界上の析出物は、仕上げ焼鈍中に優先的に粗大化が進行するので、優先的にピン止めがはずれて粒界移動を開始し、ゴス粒が成長する機構を示した。
【0023】
発明者らは、この研究をさらに発展させて、ゴス方位粒の二次再結晶の本質的要因は、一次再結晶組織中の高エネルギー粒界の分布状態にあり、インヒビターの役割は、高エネルギー粒界と他の粒界の移動速度差を生じさせることにあることを見い出した。
従って、この理論に従えば、インヒビターを用いなくとも、粒界の移動速度差を生じさせることができれば、二次再結晶させることが可能となる。
【0024】
さて、鋼中に存在する不純物元素は、粒界とくに高エネルギー粒界に偏析し易いため、不純物元素を多く含む場合には、高エネルギー粒界と他の粒界の移動速度に差がなくなっているものと考えられる。
この点、素材の高純度化によって、上記したような不純物元素の影響を排除することができれば、高エネルギー粒界の構造に依存する本来的な移動速度差が顕在化して、ゴス方位粒の二次再結晶が可能になるものと考えられる。
【0025】
さらに、粒界移動速度差を利用して安定した二次再結晶を可能とするためには、一次再結晶組織をできる限り均一な粒径分布に保つことが肝要である。というのは、均一な粒径分布が保たれている場合には、ゴス方位粒以外の結晶粒は粒界移動速度の小さい低エネルギー粒界の頻度が大きいため、粒成長が抑制されている状態、いわゆるTexture Inhibition効果の発揮により、粒界移動速度が大きい高エネルギー粒界の頻度が最大であるゴス方位粒の選択的粒成長としての二次再結晶が進行するからである。
これに対し、粒径分布が一様でない場合には、隣接する結晶粒同士の粒径差を駆動力とする正常粒成長が起こるため、粒界移動速度差と異なる要因で成長する結晶粒が選択されるために、Texture Inhibition効果が発揮されずに、ゴス方位粒の選択的粒成長が起こらなくなる。
【0026】
ところが、工業生産の上では、インヒビター成分を完全に除去することは実用上困難なので、不可避的に含有されてしまうが、熱延加熱温度が高い場合には、加熱後に固溶した微量不純物としてのインヒビター成分が熱延時に不均一に微細析出する結果、粒界移動が局所的に抑制されて粒径分布が極めて不均一になり、二次再結晶の発達が阻害される。そのためインヒビター成分を低減することが第一であるが、不可避的に混入する微量のインヒビター成分の微細析出を回避して無害化するためには、熱延前の加熱温度を圧延可能な範囲で、できる限り低めに抑えることが有効である。
【0027】
次に、本発明において、素材であるスラブの成分組成を前記の範囲に限定した理由について説明する。なお、成分に関する「%」表示は特に断らない限り質量%(mass%)を意味する。
C:0.08%以下
C量が0.08%を超えると、磁気時効の起こらない 50ppm以下まで低減することが困難になるので、Cは0.08%以下に制限した。
Si:2.0 〜6.5 %
Siは、鋼の電気抵抗を高めて鉄損の低減に有効に寄与するが、含有量が 2.0%に満たないと十分な鉄損低減効果が得られず、一方 6.5%を超えると高温で全てα相となり、(α+γ)の2相域とすることができないので、Si量は 2.0〜6.5 %の範囲に限定した。
Mn:0.005 〜3.0 %
Mnは、熱間加工性を改善するために有用な元素であるが、含有量が 0.005%未満ではその添加効果に乏しく、一方 3.0%を超えると磁束密度の低下を招くので、Mn量は 0.005〜3.0 %の範囲とする。
【0028】
Al:100 ppm 未満、N, S, Seはそれぞれ 50ppm以下
また、不純物元素であるAlは 100 ppm未満、N, S, Seについても 50ppm以下、好ましくは 30ppm以下に低減することが、良好に二次再結晶させる上で不可欠である。その他、窒化物形成元素であるTi, Nb, B, Ta, V等についても、それぞれ 50ppm以下に低減することが鉄損の劣化を防止し、良好な加工性を確保する上で有効である。
【0029】
以上、必須成分および抑制成分について説明したが、本発明では、その他にも以下に述べる元素を適宜含有させることができる。
Ni:0.005 〜1.50%、Sn:0.01〜0.50%、Sb:0.005 〜0.50%、Cu:0.01〜1.50%、P:0.005 〜0.50%、Cr:0.01〜1.50%のうちから選んだ少なくとも1種 Niは、熱延板組織を改善して磁気特性を向上させる有用元素である。しかしながら、含有量が 0.005%未満では磁気特性の向上量が小さく、一方1.50%を超えると二次再結晶が不安定になり磁気特性が劣化するので、Ni量は 0.005〜1.50%とした。
また、Sn,Sb,Cu, P, Crはそれぞれ、鉄損の向上に有用な元素であるが、いずれも上記範囲の下限値に満たないと鉄損の向上効果が小さく、一方上限量を超えると二次再結晶粒の発達が阻害されるので、それぞれSn:0.01〜0.50%,Sb:0.005 〜0.50%,Cu:0.01〜1.50%,P:0.005 〜0.50%,Cr:0.01〜1.5 %の範囲で含有させる。
【0030】
次に、本発明の製造工程について説明する。
上記の好適成分組成に調整した溶鋼を、転炉、電気炉などを用いる公知の方法で精錬し、必要があれば真空処理などを施したのち、通常の造塊法や連続鋳造法を用いてスラブを製造する。また、直接鋳造法を用いて 100mm以下の厚さの薄鋳片を直接製造してもよい。
スラブは、通常の方法で加熱して熱間圧延するが、鋳造後、加熱せずに直ちに熱延に供してもよい。また、薄鋳片の場合には、熱間圧延を行っても良いし、熱間圧延を省略してそのまま以後の工程に進めてもよい。
熱間圧延前のスラブ加熱温度は1280℃以下に抑えることが、スラブ加熱中に生成する酸化物層量を低減する上で重要である。また、結晶組織の微細化および不可避的に混入するインヒビター成分の弊害を無害化して、均一な整粒一次再結晶組織を実現する意味でもスラブ加熱温度の低温化が望ましい。
【0031】
ついで、熱間圧延を施すが、この熱間圧延条件が、本発明の骨子である。すなわち、特に熱間粗圧延を、1050℃以上の温度で、圧下率:30%以上のパスを少なくとも1回含む累積圧下率:70%以上の圧延とすることが重要である。この理由は、1050〜1200℃の(α+γ)2相域で十分に圧延することによって、スラブ段階での結晶組織を破壊し、結晶組織を十分に微細化するためである。
【0032】
引き続いて仕上げ圧延を施し、仕上げ圧延後、前述したように、20℃/s以上の速度で冷却し、コイル状に巻き取ることにより、セメンタイトの粒界析出を抑制すると共に、熱延板表面にマグネタイトを形成させる。
ここに、マグネタイトを主体とした酸化物層を形成させるためには、仕上げ圧延終了後の冷却速度を高めることが肝要で、高温で生成する酸化物層の除去をかねて水冷を強化することが望ましい。また、低温で巻き取ることが重要であり、巻き取り温度は 600℃以下とすることが好ましい。さらに、コイルはできるだけタイトに巻き取り、大気に曝されないようにすることも重要である。以上の処理を、効果的に組み合わせることにより、マグネタイトを主体とした酸化物層を形成させることができる。
ここで、マグネタイトを主体とする酸化物層とは、X線回折により測定される、熱延板表面の全酸化物に対するマグネタイトの存在比率が50%以上であることを意味する。
【0033】
ついで、必要に応じて熱延板焼鈍を施す。ゴス組織を製品板において高度に発達させるためには、熱延板焼鈍温度は 800〜1100℃の範囲が好適である。というのは、熱延板焼鈍温度が 800℃未満では熱延でのバンド組織が残留し、整粒の一次再結晶組織を実現することが困難になる結果、二次再結晶の発達が阻害され、一方熱延板焼鈍温度が1100℃を超えると、不可避的に混入するインヒビター成分が固溶し冷却時に不均一に再析出するために、整粒一次再結晶組繊を実現することが困難となり、やはり二次再結晶の発達が阻害されるからである。また、熱延板焼鈍温度が1100℃を超えると、熱延板焼鈍後の粒径が粗大化しすぎることも、整粒の一次再結晶組織を実現する上で極めて不利である。
【0034】
熱延板焼鈍後、1回または中間焼鈍を挟む2回以上の冷間圧延を施したのち、脱炭焼鈍を施して、Cを磁気時効の起こらない 50ppm以下好ましくは 30ppm以下まで低減する。
上記の冷間圧延において、圧延温度を 100〜250 ℃に上昇させて圧延を行うことや、冷間圧延の途中で 100〜250 ℃の範囲での時効処理を1回または複数回行うことが、ゴス組織を発達させる上で有効である。
【0035】
最終冷延後の脱炭焼鈍は、湿潤雰囲気を使用して 700〜1000℃の温度で行うことが好適である。また、脱炭焼鈍後に浸珪法によってにSi量を増加させる技術を併用してもよい。
その後、焼鈍分離剤を適用して、最終仕上げ焼鈍を施すことにより二次再結晶組織を発達させるとともにフォルステライト被膜を形成させる。最終仕上げ焼鈍は、二次再結晶発現のために 800℃以上で行う必要があるが、800 ℃までの加熱速度は磁気特性に大きな影響を与えないので任意の条件でよい。
【0036】
その後、平坦化焼鈍を施して形状を矯正する。
ついで、上記の平坦化焼鈍後、鉄損の改善を目的として、鋼板表面に張力を付与する絶縁コーティングを施すことが有利である。
さらに、公知の磁区細分化技術を適用できることはいうまでもない。
【0037】
【実施例】
表2に示す成分組成になる鋼スラブを連続鋳造にて製造したのち、各スラブを1150℃で50分加熱後、熱間圧延によって 2.4mm厚の熱延板とした。この時の熱延条件を表3,4に示す。ついで、1080℃,50秒の熱延板焼鈍後、150 ℃の温間圧延によって0.34mmの最終板厚に仕上げた。ついで、水素:50 vol%、窒素:50 vol%、露点:60℃の雰囲気中にて 830℃、120 秒の脱炭焼鈍を施したのち、MgOを主体とする焼鈍分離剤を塗布してから、コイル状に巻き取った。ついで、最終仕上げ焼鈍を、窒素雰囲気中で 850℃まで20℃/hの速度で昇温したのち、850 ℃に50hr保定し、ついで水素雰囲気中で15℃/hの速度で1140℃まで昇温し、1140℃に5h保定する条件で行った。その後、Ar雰囲気に切り替え室温まで冷却した。その後、未反応の焼鈍分離剤を除去したのち、50%コロイダルシリカを含有する張力コーティングを塗布焼き付けて製品板とした。
かくして得られた製品板の磁気特性について調べた結果を表4に併記する。
【0038】
【表2】
【0039】
【表3】
【0040】
【表4】
【0041】
表4に示したとおり、熱間圧延条件が本発明の適正範囲を満足している場合には、磁気特性に優れた製品板が安定して得られている。
【0042】
【発明の効果】
かくして、本発明によれば、インヒビターを使用せずに効果的に二次再結晶を生じさせることができ、その結果、磁気特性が安定して優れた方向性電磁鋼板を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 1050℃以上での1パス当たりの圧下率および累積圧下率が熱延板の再結晶率に及ぼす影響を示した図である。
【図2】 熱延仕上げ圧延後の冷却速度が製品板の磁気特性に及ぼす影響を示した図である。
【図3】 仕上げ焼鈍前における方位差角が20〜45°である粒界の各方位粒に対する存在頻度(%)を示した図である。
Claims (2)
- 質量%で、C:0.08%以下, Si:2.0 〜6.5 %およびMn:0.005 〜3.0 %を含み、Alを 100 ppm未満、N, S, Seをそれぞれ 50ppm以下に低減した溶鋼を用いて製造した鋼スラブを、熱間圧延し、必要に応じて熱延板焼鈍を行ったのち、1回または中間焼鈍を挟む2回以上の冷間圧延を行い、ついで脱炭焼鈍後、焼鈍分離剤を塗布してから、最終仕上げ焼鈍を施す一連の工程からなる方向性電磁鋼板の製造方法において、
熱間粗圧延に先立つスラブ加熱温度を1280℃以下とし、1050℃以上の温度で、圧下率:30%以上のパスを少なくとも1回含む累積圧下率:70%以上の粗圧延を行った後、仕上げ圧延を施し、引き続き仕上げ圧延後の冷却速度を平均:20℃/s以上としてコイル状に巻き取り、熱延板表面にマグネタイトの存在比率が 50 %以上の酸化物を形成することを特徴とする方向性電磁鋼板の製造方法。 - 鋼スラブが、さらに、質量%で、Ni:0.005 〜1.50%、Sn:0.01〜0.50%、Sb:0.005 〜0.50%、Cu:0.01〜1.50%、P:0.005 〜0.50%およびCr:0.01〜1.50%のうちから選んだ1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
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